説明

エポキシ樹脂組成物

【課題】硬化後の表面に電着塗装を施すことができ、接着剤としての物性が良好で、粘度および比重が低いエポキシ樹脂組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】エポキシ樹脂(A)、RCl(Rは有機基を意味する。aは1、2または3であり、bは1、2または3であり、a+bは4である。)で示される塩化アンモニウム塩化合物(B)および潜在性硬化剤(C)を主成分として含み、前記エポキシ樹脂(A)100質量部に対して、前記塩化アンモニウム塩化合物(B)を3〜30質量部含む、加熱硬化タイプのエポキシ樹脂組成物によって、上記課題を解決できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエポキシ樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
接着剤を用いて構成した車体等の金属構造物に電着塗装を施した場合、接着剤硬化物の表面が露出した部分には、電着塗装を施すことができない。接着剤は絶縁物だからである。よって、金属構造物における当該部位に錆が生じ易かった。
【0003】
そこで導電性を有する金属等の粉体を添加した接着剤が提案された。例えば特許文献1にはエポキシ樹脂に硬化剤と銀、パラジウム、銅、アルミニウム、鉄、ニッケル等の金属粉末とを加えてなる油面接着性にすぐれるシール用導電性樹脂組成物が記載されている。特許文献2には、塩化ビニル―酢酸ビニル系共重合体とカーボンブラックとからなる導電性接着剤が記載されている。特許文献3には、エポキシ樹脂に、硬化剤と銀粉を混合してなる耐熱性導電性接着剤が記載されている。特許文献4には、銀、銅等の導電性粉体、エポキシ樹脂、アミド系硬化物および尿素系硬化剤を主成分とすることを特徴とする導電性接着剤が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭59−124972号
【特許文献2】特開昭59−81366号
【特許文献3】特開昭59−142270号
【特許文献4】特開昭59−71380号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような導電性の粉体を添加した接着剤を用いて金属構造物を構成すれば、接着剤硬化物の表面に電着塗装を施すことができると考えられる。
しかしながら、当該粉体を多量に含有させる必要があるので、接着剤としての物性が低下し、粘度が上昇し、比重が上昇してしまう。粘度が上昇すると作業性が悪くなり得る。比重が上昇すると得られる金属構造物の重量が高まるので好ましくない。
【0006】
本発明の目的は、硬化後の表面に電着塗装を施すことができ、接着剤としての物性が良好で、粘度および比重が低いエポキシ樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は次の(1)〜(4)である。
(1)エポキシ樹脂(A)、RCl(Rは有機基を意味する。aは1、2または3であり、bは1、2または3であり、a+bは4である。)で示される塩化アンモニウム塩化合物(B)および潜在性硬化剤(C)を主成分として含み、前記エポキシ樹脂(A)100質量部に対して、前記塩化アンモニウム塩化合物(B)を3〜30質量部含む、加熱硬化タイプのエポキシ樹脂組成物。
(2)前記塩化アンモニウム塩化合物(B)の融点が50℃以上である、上記(1)に記載のエポキシ樹脂組成物。
(3)前記塩化アンモニウム塩化合物(B)が、エポキシ基と反応する反応性基を分子中に含む、上記(1)または(2)に記載のエポキシ樹脂組成物。
(4)導電性を備える接着剤である、上記(1)〜(3)のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、硬化後の表面に電着塗装を施すことができ、接着剤としての物性が良好で、粘度および比重が低いエポキシ樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の組成物について説明する。
本発明の組成物は、エポキシ樹脂(A)、RCl(Rは有機基を意味する。aは1、2または3であり、bは1、2または3であり、a+bは4である。)で示される塩化アンモニウム塩化合物(B)および潜在性硬化剤(C)を主成分として含み、前記エポキシ樹脂(A)100質量部に対して、前記塩化アンモニウム塩化合物(B)を3〜30質量部含む、加熱硬化タイプのエポキシ樹脂組成物である。
【0010】
なお、「主成分」とは60質量%以上であることを意味する。すなわち、本発明の組成物におけるエポキシ樹脂(A)、前記塩化アンモニウム塩化合物(B)および潜在性硬化剤(C)の合計含有率は60質量%以上である。この比率は70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましい。
【0011】
エポキシ樹脂(A)について説明する。
本発明の組成物が含有するエポキシ樹脂(A)は、エポキシ基を2個以上有する化合物であれば特に制限されない。
【0012】
例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、臭素化ビスフェノールA型、水添ビスフェノールA型、ビスフェノールS型、ビスフェノールAF型、ビフェニル型のようなビスフェニル基を有するエポキシ化合物、ポリアルキレングリコール型、アルキレングリコール型のエポキシ化合物、ナフタレン環を有するエポキシ化合物、フルオレン基を有するエポキシ化合物等の二官能型のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;フェノールノボラック型、オルソクレゾールノボラック型、トリスヒドロキシフェニルメタン型、テトラフェニロールエタン型のような多官能型のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;ダイマー酸のような合成脂肪酸のグリシジルエステル型エポキシ樹脂;N,N,N′,N′−テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン(TGDDM)、テトラグリシジル−m−キシリレンジアミン、トリグリシジル−p−アミノフェノール、N,N−ジグリシジルアニリンのようなグリシジルアミノ基を有する芳香族エポキシ樹脂;トリシクロデカン環を有するエポキシ化合物(例えば、ジシクロペンタジエンとm−クレゾールのようなクレゾール類またはフェノール類を重合させた後、エピクロルヒドリンを反応させる製造方法によって得られるエポキシ化合物)等が挙げられる。また、例えば、東レ・ファインケミカル社製のフレップ10のようなエポキシ樹脂主鎖に硫黄原子を有するエポキシ樹脂が挙げられる。
【0013】
これらの中でもビスフェノールA型および/またはビスフェノールF型が好ましい。
また、ビスフェノールA型エポキシ樹脂および/またはビスフェノールF型エポキシ樹脂の量は、エポキシ樹脂(A)中、0〜100質量%であるのが好ましく、3〜70質量%であるのがより好ましい。組成物の粘度調整が容易だからである。
なお、本発明においてビスフェノールA型エポキシ樹脂およびビスフェノールF型エポキシ樹脂の含有量は、添加量とする。
【0014】
また、エポキシ樹脂(A)の好ましい態様として、ゴム変性エポキシ樹脂が挙げられる。
ゴム変性エポキシ樹脂はエポキシ基を2個以上有し、骨格がゴムであるエポキシ樹脂であれば特に制限されない。骨格を形成するゴムとしては、例えば、ポリブタジエン、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、カルボキシル基末端NBR(CTBN)が挙げられる。ゴム変性エポキシ樹脂はそれぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
ゴム変性エポキシ樹脂の量は、エポキシ樹脂(A)中、0〜100質量%であるのが好ましく、3〜60質量%であるのがより好ましい。剥離強度と剪断強度とのバランスが良好になるからである。
【0015】
ゴム変性エポキシ樹脂はその製造について特に制限されない。例えば、多量のエポキシ中でゴムとエポキシとを反応させて製造することができる。ゴム変性エポキシ樹脂を製造する際に使用されるエポキシ(例えば、エポキシ樹脂)は特に制限されない。例えば、従来公知のものが挙げられる。
なお、本発明において、ゴム変性エポキシ樹脂の添加量は、製造時に用いる過剰のエポキシ樹脂を含むゴム変性エポキシ樹脂における添加量とする。
【0016】
また、エポキシ樹脂(A)の好ましい態様として、ウレタン変性エポキシ樹脂が挙げられる。
ウレタン変性エポキシ樹脂は、分子中にウレタン結合と2個以上のエポキシ基とを有する樹脂であれば、その構造として特に限定されるものではない。ウレタン結合とエポキシ基とを効率的に1分子中に導入することができる点から、ポリヒドロキシ化合物とポリイソシアネート化合物とを反応させて得られるイソシアネート基を有するウレタン結合含有化合物(X)と、ヒドロキシ基含有エポキシ化合物(Y)とを反応させて得られる樹脂であることが好ましい。
【0017】
ウレタン変性エポキシ樹脂を製造する際に使用されるポリヒドロキシ化合物としては、例えば、ポリプロピレングリコールのようなポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ヒドロキシカルボン酸とアルキレンオキシドの付加物、ポリブタジエンポリオール、ポリオレフィンポリオール等が挙げられる。なかでも、ポリエーテルポリオールを用いると好ましい。
【0018】
ポリヒドロキシ化合物の分子量は、柔軟性と硬化性のバランスに優れる点から、質量平均分子量として300〜5000であるのが好ましく、500〜2000であるのがより好ましい。
【0019】
ウレタン変性エポキシ樹脂を製造する際に使用されるポリイソシアネート化合物は、イソシアネート基を2個以上有する化合物であれば特に制限されない。例えば、脂肪族ポリマーイソシアネート、芳香族ポリイソシアネート、芳香族炭化水素基を有するポリイソシアネート基が挙げられる。なかでも、芳香族ポリイソシアネートが好ましい。芳香族ポリイソシアネートとしては、例えば、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネートが挙げられる。
【0020】
上記の反応により、末端に遊離のイソシアネート基を含有するウレタンプレポリマーが得られる。これに1分子中に少なくとも1個の水酸基を有するエポキシ樹脂(例えばビスフェノールAのジグリシジルエーテル、ビスフェノールFのジグリシジルエーテル、脂肪族多価アルコールのジグリシジルエーテルおよびグリシドールなど)を反応させることでウレタン変性エポキシ樹脂が得られる。
【0021】
ウレタン変性エポキシ樹脂の量は、エポキシ樹脂(A)中、0〜100質量%であるのが好ましく、0〜50質量%であるのがより好ましく、1〜50質量%であるのがより好ましく、2〜50質量%であるのがより好ましく、5〜30質量%であるのがさらに好ましい。硬化物への柔軟性付与と未硬化物の粘度のバランスが良好になるからである。
【0022】
ウレタン変性エポキシ樹脂はその製造について特に制限されない。例えば、多量のエポキシ(例えば、エポキシ樹脂)中でウレタンとエポキシとを反応させて製造することができる。ウレタン変性エポキシ樹脂を製造する際に使用されるエポキシは特に制限されない。例えば、従来公知のものが挙げられる。
なお、本発明において、ウレタン変性エポキシ樹脂の添加量は、製造時に用いる過剰のエポキシ樹脂を含むウレタン変性エポキシ樹脂における添加量とする。
【0023】
塩化アンモニウム塩化合物(B)について説明する。
本発明の組成物が含有する塩化アンモニウム塩化合物(B)は特に限定されず、RClで示されるものであればよい。ここでRは有機基を意味する。aは1、2または3であり、bは1、2または3であり、a+bは4である。
【0024】
塩化アンモニウム塩化合物(B)は、第3級アミンのアンモニウム塩(R3HCl)であるのが好ましい態様の1つとして挙げられる。
塩化アンモニウム塩化合物(B)は、硬化後の表面に電着塗装をより効果的に施すことができ、接着剤としての物性がより良好で、粘度および比重がより適正なものとなるという観点から、次の式(I)で示される構造を備えるものであることが好ましい。
【0025】
【化1】

【0026】
式(I)中、R1、R2およびR3はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
1、R2およびR3は各々有機基(炭化水素基)であれば特に限定されず、炭素数1〜30の分岐していてもよい鎖状脂肪族基、炭素数5〜30の分岐していてもよい環状脂肪族基、炭素数6〜30の分岐していてもよい芳香族基もしくは炭素数7〜30の分岐していてもよいアルキル芳香族基であることが好ましい。また、これらはO、NおよびSからなる群より選択される少なくとも1種のヘテロ原子を含んでいてもよい。
【0027】
また、R1、R2およびR3として好適に例示される炭素数1〜30の分岐していてもよい鎖状脂肪族基としては、具体的に例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、オクチル基、ドデシル基、ステアリル基、イソプロピル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、t−ペンチル基、1−メチルブチル基、1−メチルヘプチル基、2−エチルヘキシル基のような1価の鎖状脂肪族基;メチレン基、エチレン基、1,3−プロピレン基、1,4−ブチレン基、1,8−オクチレン基、1,10−デシレン基、1,12−ドデシレン基のような2価の鎖状脂肪族基;プロパン−1,2,3−トリイル基、ブタン−1,2,4−トリイル基のような3価の鎖状脂肪族基が挙げられる。
また、炭素数5〜30の分岐していてもよい環状脂肪族基としては、具体的には、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基のような1価の環状脂肪族基;シクロペンタン−1,3−ジイル基、シクロヘキサン−1,4−ジイル基のような2価の環状脂肪族基;シクロペンタン−1,3,4−トリイル基、シクロヘキサン−1,3,5−トリイル基のような3価の環状脂肪族基等が挙げられ、
炭素数6〜30の分岐していてもよい芳香族基としては、具体的には、例えば、フェニル基、トリル基(o−、m−、p−)、ジメチルフェニル基、メシチル基のような1価の芳香族基;、1,2−フェニレン基、1,3−フェニレン基、1,4−フェニレン基、2−メチル−1、4−フェニレン基、ビフェニル−4,4′−ジイル基、ジフェニルメタン−4,4′−ジイル基、ジフェニルスルホン−3,3′−ジイル基のような2価の芳香族基;フェニル−1,3,5−トリイル基のような3価の芳香族基、等が挙げられる。
炭素数7〜30の分岐していてもよいアルキル芳香族基としては、具体的には、例えば、3,3′−ジメチルビフェニル−4,4′−ジイル基、3,3′,5,5′−テトラメチルジフェニルメタン−4,4′−ジイル基のような2価のもの等が挙げられる。
【0028】
これらの中でも、R1、R2およびR3の各々は、メチル基またはステアリル基であることが好ましい。また、R1およびR3がステアリル基、R2がメチル基である塩化アンモニウム塩化合物(B)を含む本発明の組成物は、硬化後の本発明の組成物の熱間強度がより高まるので好ましい。
【0029】
また、塩化アンモニウム塩化合物(B)は、硬化後の表面に電着塗装をより効果的に施すことができ、接着剤としての物性がより良好で、粘度および比重がより適正なものとなるという観点から、エポキシ樹脂(A)と反応し得る反応性基を分子中に1個以上含むものであることが好ましい。反応性基としては、水酸基、エポキシ基、カルボキシル基、アミノ基が挙げられ、エポキシ基であることが好ましい。反応性基は式(I)中のR1、R2およびR3のうちの少なくともいずれかに結合することができる。塩化アンモニウム塩化合物(B)が反応性基を有する場合、反応性基が結合することができる、R1、R2、R3は、2価以上の炭化水素基となる。2価以上の炭化水素基は特に制限されない。例えば上記と同義のものが挙げられる。
塩化アンモニウム塩化合物(B)が分子中に反応性基を有すると、硬化後の本発明の組成物に50℃程度の熱が加わっても、強度が低下し難いので好ましい。本発明の組成物は、車体を製造する際に接着剤として用いることができるが、得られた車体の少なくとも一部(例えばエンジン付近部分)は、50℃程度の雰囲気に曝されることが想定される。
【0030】
また、塩化アンモニウム塩化合物(B)は、融点が50℃以上ものであることが好ましく、80℃以上のものであることがより好ましい。硬化後の本発明の組成物に50℃程度の熱が加わっても、強度が低下し難いので好ましい。
【0031】
なお、塩化アンモニウム塩化合物(B)が分子中に反応性基を有するものである場合は、融点が50℃未満であっても、50℃以上の場合と同様の効果を奏するので好ましい。つまり、塩化アンモニウム塩化合物(B)が分子中に反応性基を有するものであり、かつ融点が50℃未満のものであっても、硬化後の本発明の組成物に50℃程度の熱が加わっても強度が低下し難いという効果を奏する。もちろん、分子中に反応性基を有し、かつ融点が50℃以上の塩化アンモニウム塩化合物(B)もより好ましく用いることができる。
【0032】
本発明の組成物は、前記エポキシ樹脂(A)100質量部に対して、前記塩化アンモニウム塩化合物(B)を3〜30質量部含み、5〜25質量部含むことが好ましく、12〜18質量部含むことがより好ましい。接着剤としての物性が良好で、粘度および比重が低い本発明の組成物を得ることができるからである。
【0033】
次に潜在性硬化剤(C)について説明する。
本発明の組成物が含有する潜在性硬化剤(C)は特に限定されず、通常エポキシ樹脂の潜在性硬化剤として用いられるものを用いることができる。例えばジシアンジアミド、4,4'−ジアミノジフェニルスルホン、2−n−ヘプタデシルイミダゾールのようなイミダゾール誘導体、イソフタル酸ジヒドラジド、N,N−ジアルキル尿素誘導体、N,N−ジアルキルチオ尿素誘導体、テトラヒドロ無水フタル酸のような酸無水物、イソホロンジアミン、m−フェニレンジアミン、N−アミノエチルピペラジン、メラミン、グアナミン、三フッ化ホウ素錯化合物、トリスジメチルアミノメチルフェノールなどを用いることができる。これらの中の2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
また、潜在性硬化剤(C)の本発明の組成物中における含有量は特に限定されず、最適な量は硬化剤の種類によって異なる。例えば従来公知である各硬化剤ごとの最適量を好ましく用いることができる。この最適量は、例えば「総説 エポキシ樹脂 基礎編」(エポキシ樹脂技術協会、2003年発行)の第3章に記載されている。
【0035】
本発明の組成物は、上記のエポキシ樹脂(A)、塩化アンモニウム塩化合物(B)および潜在性硬化剤(C)の他に、その用途に応じて、さらに硬化促進剤、無機充填剤、有機もしくは高分子充填剤、難燃剤、帯電防止剤、導電性付与剤、滑剤、摺動性付与剤、界面活性剤、着色剤、接着付与剤等を含有することができる。これらの中の2種類以上を含有してもよい。
【0036】
本発明の組成物の製造方法は特に限定されず、例えば従来公知の方法で製造することができる。例えばエポキシ樹脂(A)、塩化アンモニウム塩化合物(B)、潜在性硬化剤(C)および必要に応じて硬化促進剤等のその他の成分を、室温で均質に混練することで得ることができる。
【実施例】
【0037】
以下に、実施例を示して本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されない。
(実施例および比較例)
エポキシ樹脂(A)としてビスフェノールA型エポキシ樹脂(EP−834、ジャパンエポキシレジン社製)、ウレタン変性エポキシ樹脂(EPU−78−11、ADEKA社製)およびゴム変性エポキシ樹脂(EPR−1309、ADEKA社製)を用いた。
また、塩化アンモニウム塩化合物(B)として塩化アンモニウム塩化合物1〜3を用いた。各々具体的には次の通りである。
・塩化アンモニウム塩化合物1:融点:20℃。式(I)におけるR1、R2およびR3がメチル基である構造を有するもの。
・塩化アンモニウム塩化合物2:融点:60℃。式(I)におけるR1およびR3がステアリル基、R2がメチル基である構造を有するもの。
塩化アンモニウム塩化合物3:融点:20℃。式(I)におけるR1およびR3がメチル基であり、R2がメチレン基の末端にエポキシ基を有する構造を有するもの。
【0038】
また、潜在性硬化剤(C)としてDicy15(ジャパンエポキシレジン社製)、触媒としてDUMU99(保土ヶ谷化学社製)、接着付与剤としてKBM−903(信越化学社製)を用いた。
【0039】
また、比較例では塩化アンモニウム塩化合物(B)の代わりに、鉄粉(JFE社製)、カーボンブラック:N220(新日化社製)、またはNaOH(関東化学社製)を用いた。
実施例および比較例の各々における各成分の添加量(質量部)は第1表の通りである。
【0040】
これらを均一に混練して得た各組成物の粘度を測定した。具体的には得られた各組成物について、BS型粘度計、7号ローターを用いて3rpmで40℃における粘度を測定した。
第1表に測定結果を示す。
【0041】
また、各組成物について、JIS K6850−1999に準じて、引張速度5mm/分でせん強度を測定した。被着材は、軟鋼板(25×100×1.6mm)を2枚を用い、接合部の長さは10mmとした。各組成物は室温から230℃まで昇温後、230℃で1時間保持して硬化させた。接着後の接着剤の厚さは0.1mmだった。
第1表に測定結果を示す。
【0042】
また、各組成物について剥離強度を測定した。具体的には、JIS K 6256に準拠して90°剥離試験を行って測定した。
第1表に測定結果を示す。
【0043】
また、各組成物を塗布したテストピースに電着塗装を行い、その付着性について評価した。電着塗装においては、塗料としてサクセード#80V−15(神東塗料社製)を用い、塗装電圧:200V、通電時間:180s、極間距離:150mmの条件下で行った。そして、形成された電着塗装の厚さを測定した。
第1表に測定結果を示す。第1表には形成された電着塗装の厚さが1.5mm超となったものを「◎◎」1.0〜1.5mmとなったものを「◎」、0.5mm以上1.0mm未満となったものを「○」、0.5mm未満となったものを「×」として示した。
【0044】
【表1】

【0045】
【表2】

【0046】
塩化アンモニウム塩化合物1を用いた実施例1、2、7〜10は、共に好ましい厚さの電着塗装を施すことができた。
また、実施例3、4は、20℃下のみならず50℃下においてもせん断強度が高くなった。これは塩化アンモニウム塩化合物2の融点が60℃と高いためと考えられる。
また、実施例5、6も実施例3,4と同様に、20℃下のみならず50℃下においてもせん断強度が高くなった。これは塩化アンモニウム塩化合物3が反応性基(エポキシ基)を有するためと考えられる。
【0047】
これに対して、塩化アンモニウム塩化合物(B)を用いなかった比較例1およびNaOHを用いた比較例4は、十分な厚さの電着塗装を形成することができなかった。
また、塩化アンモニウム塩化合物(B)の代わりに鉄粉を用いた比較例2およびカーボンブラックを用いた比較例3は、電着塗装を施すことができたものの、粘度が高くなり、せん断強度が低くなり、剥離強度が低くなった。
塩化アンモニウム塩化合物(B)の量がエポキシ樹脂(A)100質量部に対して3質量部未満である比較例5は、十分な厚さの電着塗装を形成することができなかった。
塩化アンモニウム塩化合物(B)の量がエポキシ樹脂(A)100質量部に対して30質量部を超える比較例6は、せん断強度および剥離強度が低くなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂(A)、RCl(Rは有機基を意味する。aは1、2または3であり、bは1、2または3であり、a+bは4である。)で示される塩化アンモニウム塩化合物(B)および潜在性硬化剤(C)を主成分として含み、
前記エポキシ樹脂(A)100質量部に対して、前記塩化アンモニウム塩化合物(B)を3〜30質量部含む、加熱硬化タイプのエポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
前記塩化アンモニウム塩化合物(B)の融点が50℃以上である、請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
前記塩化アンモニウム塩化合物(B)が、エポキシ基と反応する反応性基を分子中に含む、請求項1または2に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
導電性を備える接着剤である、請求項1〜3のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。

【公開番号】特開2011−202098(P2011−202098A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−72599(P2010−72599)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】