説明

エラストマー成形方法及び電子写真用ブレード部材

【課題】良好な剥離性、脱型性を長期に渡って継続する成形型を用いるエラストマー成形方法及び該方法で作製された電子写真用ブレード部材を提供する。
【解決手段】離型層を具えた成形型に、液状エラストマー原料を投入し硬化させるエラストマー成形方法において、前記成形型として、液状硬化型シリコーンを用いて形成された、前記液状エラストマー原料の硬化温度において揮発する成分の含有量が0.5質量%以下である離型層を内壁面上に有する成形型を用いる事を特徴とするエラストマー成形方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は離型層を具えた成形型に液状エラストマー原料を投入し硬化させるエラストマー成形方法及び該成形方法で作製された電子写真用ブレード部材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の電子写真技術の進歩に伴い、粒径が10μm程度の微細なトナーが用いられるようになった。これに伴い、電子写真装置においては、微細なトナー残を感光体上から除去する必要がある。これを実現するために、電子写真装置のクリーニングブレードや現像ブレード用のブレード部材に非常に高い寸法精度が要求されるようになった。
【0003】
現像ブレードは、クリーニングブレードと同じ様な構成で作られるが、その高精度化は必須な技術であり現像剤担持体上に均一なトナー層を形成するには非常に精密な寸法制御技術が必要となる。例えば、現像ブレードのブレード部材の厚みは現像剤担持体との当接圧を決める重要な要因であり、これはトナーのコート量を決めるため、精密な画像を安定して形成するために重要である。従ってこれら部材の製造に用いられるエラストマーシートの厚み精度の高い生産手法の確立は重要な課題であるといえる。
【0004】
このように、電子写真装置に用いられるクリーニングブレードや現像ブレードのブレード部材は高い寸法精度が要求され、さらには、両者共に回転部材との摺擦でその機能を発揮するために、耐磨耗性の高い材料が好まれ、主にポリウレタンが用いられる事が多い。
【0005】
電子写真装置用のクリーニングブレードや現像ブレードのブレード部材のような高精度な厚みが要求されるエラストマーの成形方法としては遠心成型法が一例として挙げられる。遠心成型法の有利な点としては、まずその厚みの高精度化を図ることができることを挙げることができる。この他にも液状エラストマー原料の成形型への投入量で自在に厚みを制御できる事、硬化速度や硬度など処方が違う材料にも同じ装置を用いる事が出来ること、汎用性が高い事等が挙げられる。
【0006】
遠心成型法を用いた高精度かつ離型性を有する成形方法の例としては特許文献1に開示された成形方法を挙げることができる。特許文献1に開示された成形方法は電子写真装置用のベルトを遠心成型法で製造する方法に関する。この部材も厚み精度と生産性の両立は欠かせないものである。特許文献1に記載の成形方法では、遠心成形金型内面に離型層を設けた後、該離型層上に液状材料を用いて無端状膜を遠心成形して無端状ベルトを製造する。
【0007】
遠心成型法によって、一定厚みのエラストマーの成形を行うには機械的なアプローチでは限界がある。成形金型設置の水平の精度、成形金型のフレ等、機械的な精度の悪さがそのまま成型品の厚み精度バラツキになってしまうデメリットがある。
【0008】
これを解消するには非常に精度の高い成型機の設計が必要となり、設備投資やメンテナンスの手間は膨大なものになる。そこで、特許文献1記載の成形方法においては、液状硬化材料を遠心成型機内に投入し、回転する成型機内で硬化させて、まず、離型層を得ている。特許文献1記載の成形方法においては、液状材料を投入する事によって離型層を形成して機械装置内のフレを吸収し、膨大な手間のかかる高精度の設計を必要とする事なくバラツキを抑えることを可能としている。
【0009】
また、これを改良したものとして、成形型内に剥離可能に接合された保持層と、離型層とを有する遠心成形金型を用いたエラストマーの成形方法が特許文献2に開示されている。この方法においては、内周面に、剥離可能に接合された保持層を熱硬化性のエポキシ樹脂を用いて形成し、その上に熱硬化型のポリオルガノシロキサンから形成した剥離層を設けた遠心成形金型が用いられる。このような保持層及び剥離層を設ける事により、エラストマーの効率的な成形方法になっている。特許文献1記載の製造方法と違い、特許文献2に記載の製造方法の様に一度剥離可能な保持層を設ける事によって、得られるエラストマーの表面の水平精度はさらに高いものとなる。これにより、得られたエラストマー成形体は電子写真装置用としてより好ましくなるだけでなく、遠心成形金型を繰り返し使用した後に、保持層を外す簡単な作業によって金属に対して粘着性のある離型層を容易に取り外す事ができ、生産性に優れたものになっている。
【0010】
本発明者等は、これらの製造方法においては、数回の成形加工においては良好な生産性能を示すが、量産を視野に入れてこの製造方法により10日以上の長期に渡り連続して繰り返し生産した場合、次第にその量産加工性が低下することを見出した。つまり、このバッチ生産を数十回、長期間繰り返し続けた場合、エラストマー成形体が変形し、ちぎれ、脱型不良などの問題を起こし、次第に、歩留まりが低下してしまう事が明らかとなった。
【0011】
【特許文献1】特許公開2000−158555号公報
【特許文献2】特許公開2004−025846号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記従来技術の状況に鑑みなされたものであり、良好な剥離性、脱型性を長期に渡って継続する成形型を用いるエラストマー成形方法及び該方法で作製された電子写真用ブレード部材を提供する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題は、離型層を具えた成形型に、液状エラストマー原料を投入し硬化させるエラストマー成形方法において、前記成形型として、液状硬化型シリコーンを用いて形成された、前記液状エラストマー原料の硬化温度において揮発する成分の含有量が0.5質量%以下である離型層を内壁面上に有する成形型を用いる事を特徴とするエラストマー成形方法によって達成される。
また、上記課題は、上記本発明のエラストマー成形方法で作製された電子写真用ブレード部材によって達成される。
【発明の効果】
【0014】
本発明のエラストマー成形方法によれば、簡便な手段によって、成形型からエラストマーを剥離しやすく効率よく脱型することが可能となり、脱型時のちぎれ等の不良を低減することができる。また、成形型を、長期に亘って繰り返し使用でき、安定した生産性を得ることができる。さらに、寸法精度が高く、均一なエラストマーの製造が可能となり、特に、電子写真用のクリーニングブレードや現像ブレード等のブレード部材の生産に対して優位性を発揮する。また、本発明のエラストマー成形方法は、遠心成形法に限定されるものではなく、他の成形方法においても適用することができる。さらに、本発明の成形方法で作製された電子写真用ブレード部材は、電子写真用のクリーニングブレードや現像ブレードに好適に用いられる。
【0015】
本発明のエラストマー成形方法によって成形されたエラストマー成形体は、通常、シート状、無端シート状等の形状を有している。特に、シート状及び無端シート状の形状を有するエラストマー成形体は、電子写真用のブレード部材として好適である。本発明のエラストマー成形方法によって得られた電子写真用ブレード部材は、裁断して、板状保持部材と一体化させてクリーニングブレードや現像ブレードとして用いられる。この時、その厚みの寸法精度は非常に重要な要因になっている。本発明のエラストマー形成方法によれば、要求される寸法精度を有する電子写真用ブレード部材を提供することができる。
【0016】
クリーニングブレードのブレードとして用いられる場合、このブレードは感光ドラム上に転写されずに残存したトナーを掻き落とし、清掃する役割を果す。近年の電子写真技術の進歩に伴って10μm程の微細なトナーになり、しかも粒径トナーも開発され、これを効率良く清掃するには非常に高い厚み寸法の精度が求められる。ここでいう厚み寸法の精度はブレード1本あたりの長手方向の精度が重要である事はもちろんであるが、量産性を鑑みると裁断前のシート状の電子写真用ブレード部材である大判のエラストマー成形体の寸法もバラツキなく、高精度でなくては歩留まりが問題となる。本発明のエラストマー形成方法によれば、このようなクリーニングブレードのブレード部材として要求される寸法精度を有する電子写真用ブレード部材を提供することができる。
【0017】
一方、現像ブレードのブレードとして用いられる場合においても、その役割上、寸法精度の要求特性は高いものである。現像剤担持体と当接して微細なトナー層を形成する機能部材である為に厚みは現像剤担持体との当接圧を決定し、良好な画像形成および画像形成の安定化に重要な要因となる。このような事から精度と任意の厚みへの制御技術は重要である。現像ブレードにおいても、1本内の精度が重要であるのは当然の事、さらには生産時裁断前のシート状の電子写真用ブレード部材である大判のエラストマー成形体の厚み精度も一定である事が生産効率上、重要であるのはクリーニングブレードと同様である。本発明のエラストマー形成方法によれば、このような現像ブレードのブレード部材として要求される寸法精度を有する電子写真用ブレード部材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明のエラストマー成形方法は、離型層を具えた成形型に、液状エラストマー原料を投入し硬化させるエラストマー成形方法である。そして、前記成形型として、液状硬化型シリコーンを用いて形成された、前記液状エラストマー原料の硬化温度において揮発する成分の含有量が0.5質量%以下である離型層を内壁面上に有する成形型を用いる事を特徴とする。また、本発明のエラストマー成形方法においては、前記成形型として、該成形型内壁面に剥離可能に接合された保持層をさらに有する成形型を用いることが好ましい。
【0019】
上記保持層は、液状エラストマー原料の硬化温度以上、一般的には150℃程度の耐熱温度を有する熱硬化性樹脂にて構成されていることが好ましい。特に室温から150℃の範囲にわたってゴム状弾性を示さないようなものであれば、成形型から離型層と共に保持層を除去する際に有利である。このような熱硬化性樹脂としては、例えばポリイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂などを挙げることができる。特に成形型の内壁面との間に適度な密着性を保持し成形型の内壁面と剥離可能に接合することができる熱硬化性エポキシ樹脂が好ましい。
【0020】
上記保持層は0.5〜5.0mmの層厚を有することが好ましい。保持層の層厚を0.5mm以上とすると、保持層の強度が大きく、成形型から保持層を離型層と共に容易に除去することできる。また、保持層の層厚を5mm以下とすると、保持層及び離型層を介して成形型から液状エラストマー原料への熱伝導効率が向上し、速やかに液状エラストマー原料を硬化することができる。
【0021】
上記保持層は、液状の熱硬化性樹脂原料を成形型内に供給し、成形型内壁面に均一な層厚の熱硬化性樹脂原料層を形成しこれを硬化して形成することができる。均一な層厚の熱硬化性樹脂原料層を形成するために、該熱硬化性樹脂原料の粘度は、2Pa・s以下であることが好ましい。また、保持層の層厚の均一性を改善するために、成形型の内壁面上に一層の保持層を形成した後、更に、その空気面側(大気と接している面側をいう。)にもう一層の保持層を設けることが好ましい。例えば、成形型の内壁面に傷が見られるとき、この内壁面上に保持層を形成すると、この傷を転写してしまうことがあるが、このような手順を経る事によりこの不具合が解消され、精度の高い保持層を形成することができる。
【0022】
また、成形型内壁面と保持層との密着性を適度なものとするために予め成形型内壁面に離型剤を塗布してもよい。このような離型剤として、シリコーン系離型剤、フッソ系離型剤又はワックス等を用いることができる。保持層がエポキシ樹脂から構成されたものである場合は、エポキシ樹脂用の離型剤(例えば、信越化学工業(株)製 KS707等)を用いることが好ましい。このように予め離型剤を塗布しておくと、離型層が使用不可能になった時等に該離型層と共に保持層を容易に剥離する事が出来る。これにより、生産性や品質を向上することが可能となる。離型剤は、通常、0.5〜1.0mm程度の層厚で塗布すると効果的である。
【0023】
上記離型層は、液状エラストマー原料の硬化温度以上の耐熱性を有することが好ましく、通常、150℃以上の耐熱性を有することが好ましい。上記離型層の一層当たりの層厚は、通常、0.3mm〜3mmであることが好ましく、0.5mm〜2mmであることがより好ましい。上記離型層の一層当たりの層厚を0.3mm以上とすると、保持層の上に容易に均一な層厚の離型層を形成することができる。また、上記離型層の一層当たりの層厚を3mm以下とすると、複数層の離型層を積層した場合において個々の離型層の密着性が低下して層間剥離を生ずるのを防ぐことができる。また、離型層を複数積層させた場合、通常、離型層全体の層厚は、3mm〜20mmとすることが好ましい。離型層全体の層厚を3mm〜20mmとすると、熱伝導効率がよく、液状エラストマー原料を容易に硬化することができる。また、優れた物性を有する離型層を容易に作製することができる。
【0024】
上記離型層を形成するために用いる液状硬化型シリコーンは、液状で硬化型である。ミラブルタイプは本発明においては不適である。液状硬化型シリコーンを用いると、成形型内に投入し、例えば、静置して又は回転して遠心力を加えながら硬化させる事によって、機械寸法制御では困難なほど安定した肉厚を有するエラストマー成形体を得ることを可能とする離型層を形成できる。液状硬化型シリコーンを用いると、遠心成形法の成形型のみならず、その他の成形方法において使用する成形型においても、優れた寸法安定性を有するエラストマー成形を可能とする成形型が実現される。
【0025】
硬化型シリコーンにはシリコーン樹脂薄膜を焼き付けるタイプや液状の硬化型があり、どちらを用いても良好な離型性を有する離型層を形成することができるが、ある程度の層厚を有する表面性状の優れた離型層を得る為には液状硬化型がより好ましい。
【0026】
さらに液状硬化型シリコーンには1液硬化型、2液硬化型、3液硬化型等のタイプがあるが、いずれにおいても本発明の効果が発揮できる。しかし、1液硬化型は保存、取り扱いが難しく、冷暗所保存が必須となる。本発明におけるような大きな成形型に離型層を形成するときは、大量の液状硬化型シリコーンが必要となる為、量産性を考慮すれば、任意の段取りで反応開始が可能である2液硬化型や3液硬化型がより好ましい。
【0027】
また、2液以上の硬化型シリコーンには、付加硬化型と縮合硬化型の二つのタイプがある。前述のように液状エラストマー原料の硬化温度にて揮発する成分量の含有量が0.5質量%以下である剥離層を形成できればどちらのタイプでも構わない。しかし、成形型の内壁面上の離型層は面精度を発揮する事と、使用が終われば簡単に取り外しが可能であることが必要である。縮合型シリコーンは、形成する離型層の層厚により完全硬化までの時間にバラツキが生じることがある事から付加硬化型を選ぶことがより好ましい。付加硬化型シリコーンは、熱硬化時の反応速度が非常に速く、離型層を設けるべき成形型の壁面全域に均一に行き渡る前に硬化してしまうことがある。このような場合は、適時、付加硬化型シリコーンに反応遅延剤を添加すればよい。本発明に好適に用いることのできる反応遅延剤としては、例えば、制御剤No.6−10(商品名、信越化学工業(株)製)を挙げることができる。
【0028】
本発明における、離型層に含まれる、液状エラストマー原料の硬化温度にて揮発する成分量の含有量は、次のようにして測定することができる。
成形型を用意し、この成形型内に離型層を形成するための液状硬化型シリコーンを流し込む。液状エラストマー原料の硬化温度、時間と同一の温度、時間加熱して硬化して離型層テストピースを作製する。該離型層テストピースの質量を測定し、この時の質量を初期離型層テストピース質量W1とする。次に、この離型層テストピースを、液状エラストマー原料の硬化温度と同一の温度の電気炉内に投入して質量の経時変化を計測する。この離型層テストピースの質量が下げ止まるまで加熱を継続し、質量が下げ止まるまでの時間を求めるとともに、該時間が経過した時点における離型層テストピースの質量を計測する。この時の質量を液状エラストマー原料の硬化温度において揮発される成分が揮発した後の離型層テストピース質量W2とする。そして、下記式により、離型層の液状エラストマー原料の硬化温度において揮発する成分の含有量ΔW(質量%)を求めればよい。
ΔW(質量%)=[(W1−W2)/W1] × 100
【0029】
次に本発明で解決されるべき問題の詳細について説明する。
図1に遠心成形金型の一例の概要を示す模式図を示す。図1に示した遠心成型金型10は、円筒形状をしており、内周に凹型の内壁面(内周面と表すことがある)10aを有している。この成形金型内に液状エラストマー原料を投入して加熱硬化してエラストマー成形体を成形する。
【0030】
図2に該遠心成型金型を用いてエラストマー成形体を形成したときの該金型の内周面末端部分10bの近傍の断面の模式図を示す。該金型の内周面末端部壁面は、遠心成型金型10の内周面10aと、内周面末端部分10bの内壁面から構成されている。そして、該金型の内周面には、剥離可能な保持層11と離型層12が設けられている。これにより水平精度と剥離性、及び生産時の良好な離型性が発現し、エラストマー成形体13が成形され、離型され生産される。
【0031】
保持層11の上に形成された離型層12は主成分がポリジメチルシロキサン構造をもつ事が多い。これは重合によって分子鎖が長くなり、これらが架橋したり、官能基によって修飾されたりして形成されるのが一般的である。液状硬化型シリコーンを用いて離型層を形成する段階においても、高分子の分子鎖の成長反応と環状シロキサン構造を有する環状体の生成反応の両方が起こることが知られている。このように低分子量で揮発性の環状体成分が少なからず混入してしまうのが液状硬化型シリコーンの硬化反応における一般的な特性である。このような低分子量の揮発性成分は市販されている液状硬化型シリコーン中にも残存してしまう。
【0032】
遠心成型金型10の内周面10a上に保持層11を形成し、保持層11の内周面上に離型層12を形成した後に、該遠心成形金型に液状エラストマー原料を投入し硬化させると、図2に示したように、内周面末端部分10bの内壁面まで行き渡った離型層12が形成される。このように離型層12が、内周面末端部分10bの内壁面まで行き渡っていれば問題なくエラストマー成形体13の成形が可能となる。液状エラストマー原料が熱硬化型であれば、遠心成型金型10、保持層11及び離型層12は、成形中、常に、液状エラストマー原料の硬化温度に曝されている事になる。例えば、液状エラストマー原料がポリウレタン系のものであると、硬化温度は、通常、100〜160℃である。エラストマー成形を長期に渡って繰り返せば、この間、離型層12もこの温度に曝されることとなる。これが前述の不具合を起こす原因ではないかと考えられた。
【0033】
液状硬化型シリコーンから形成された離型層が高温に曝されると、低分子量成分(主にはD3〜D10と称される3量体〜10量体の環状シロキサン成分)のみならず、さらに大きな分子量成分も揮発する事が考えられる。これらの揮発性成分は直ぐには揮発せず数日かけて徐々に揮発して、同時に質量減少を起こす。例えば、2液硬化型シリコーンで離型層12を形成しても、液状エラストマー原料の硬化温度に長時間曝されると、徐々に質量減少を起こす。質量減少を起こした離型層は同時に寸法収縮を起こす。従って、2液硬化型シリコーンを用いて形成した離型層12中に液状エラストマー原料の硬化温度において揮発する成分の含有量が多い場合には、その分、寸法収縮も大きいといえる。すると、初期においては図2に示したように内周面末端部分10bまで離型層12が満たされていても、硬化温度に長時間曝されると、低分子量成分が揮発して質量減少を起こす。それに伴って離型層12が寸法収縮を起こし、図3に示す様に微小ながらも離型層12と成形型の内周面末端部分10bとの間に収縮隙間14が発生してしまう事が観察事実として明らかとなった。
【0034】
このような状態の成形型で成形を行うと、図4に示すように、成形型の内周面末端部分10b近傍の収縮隙間に液状エラストマー原料が入り込んで硬化されバリ14aが発生する。
【0035】
これがきっかけとなって図5に示すように、エラストマー成形体13の剥離時に固着したバリ14aが剥離し難い部分となる。これが時として脱型時のエラストマー成形体13の破壊や離型不良の原因となる。このような現象が発生した場合、図6に示すように、収縮隙間14にエラストマー成形体から破断された残存バリ14bが付着する原因ともなる。このような微小な残存バリが存在すると、成形型内周面末端部分10bから離型性が悪くなり、長期に渡って連続してエラストマー成形を行うと離型性、加工性が悪くなり、成形不良の原因となる。
【0036】
このような問題を発生せず長期に渡って良好な加工性、量産性を得る為には図2に示したような状態が液状エラストマー原料の硬化温度にさらされても長期に渡って継続できる事が必要である。すなわち、液状エラストマー原料の硬化温度に長時間さらされても離型層が、図3に示されているような収縮を起こさない事が理想であり、揮発性の低分子量成分が少ないほど加工性に有利であると理解出来る。
【0037】
液状硬化型シリコーンは精製の際にこのような低分子量成分を除去するのが一般的であるが、完全な除去は事実上不可能である。また一方、液状硬化型シリコーンを用いて形成した離型層を成形型内の離型層として用いる場合には常温では揮発しないような分子量成分まで揮発して質量減少や収縮を起こしてしまうと懸念される。
【0038】
そこで本発明者等は鋭意検討の結果、液状硬化型シリコーンを用いて形成された離型層の液状エラストマー原料の硬化温度において揮発する成分の含有量が0.5質量%以下であれば、長期に渡って、良好な離型性を確保できることを突き止めた。
【実施例】
【0039】
次に実施例を挙げて本発明についてさらに説明する。
【0040】
本実施例においては次に記載する方法で調製した液状エラストマー原料を用いた。
ポリウレタンプレポリマーとして、MDI−ポリブチレンアジペート系ポリウレタンプレポリマーである、コロネート4387(商品名、日本ポリウレタン工業(株)製;イソシアネート価 6.2%)を準備した。また、硬化剤として、1,4−ブタンジオールとトリメチロールプロパンを70:30で混合し、ここにTEDA(トリエチレンジアミン)を1000ppm加えたものを準備した。そして、上記ポリウレタンプレポリマーを80℃の電気炉で溶解しきって完全に透明になるまで予熱(およそ8時間)した後、上記硬化剤をイソシアネート基に対する水酸基のモル比が0.95になるように混合し液状エラストマー原料を調製した。
【0041】
本実施例においては、液状硬化型シリコーンを用いて形成された離型層の、液状エラストマー原料の硬化温度において揮発する成分の含有量を次のようにして測定した。
【0042】
50mm×80mm×5mmの寸法の金型を用意した。この金型内に本実施例で用いた各々の液状硬化型シリコーンを流し込み、本実施例で用いた液状エラストマー原料の硬化温度である130℃で1時間加熱して硬化して離型層テストピースを作製した。温度を常温に戻して、該離型層テストピースの質量を測定した。この時の質量を初期離型層テストピース質量W1とした。次に、この離型層テストピースを、本実施例で用いた液状エラストマー原料の硬化温度である、130℃の電気炉内に投入して質量の経時変化を計測した。この離型層テストピースの質量は、およそ10日間で下げ止ることがわかった。そこで、130℃×10日間加熱後の離型層テストピースの質量を本実施例で用いた液状エラストマー原料の硬化温度において揮発される成分が揮発した後の離型層テストピース質量W2とした。下記式により、本実施例で用いた各々の液状硬化型シリコーンを用いて形成した離型層の液状エラストマー原料の硬化温度において揮発する成分の含有量ΔW(質量%)を求めた。
ΔW(質量%)=[(W1−W2)/W1] × 100
【0043】
(実施例1)
径が400mmで奥行きが250mmの成形金型を備えた遠心成形機を準備した。成形金型を130℃に加熱し、エポキシ離型剤(商品名:KS707 信越化学工業(株)製)を塗布した後に、800rpmで回転させた遠心成型機に液状の熱硬化型エポキシ樹脂を流し込んで1時間回転を続け、上記成型金型内壁面上に剥離可能な層厚1mmの保持層を形成した。別途、2液付加硬化型シリコーン(商品名:XE15−C2617AB GE東芝シリコーン(株)製)の2液を攪拌し混合後、1時間の真空脱泡を行ない、離型層形成用の液状硬化型シリコーンを準備した。上記130℃に加熱され800rpmで回転されている保持層を有する成形金型内にこれを投入し、1時間加熱硬化させて、層厚1mmの離型層を形成した。
【0044】
次に130℃の温度を保持した上記成形金型内に、前記液状エラストマー原料を流し込み、50分間加熱して硬化して脱型し、層厚1mmのポリウレタンシートを得た。この後、再び前記液状エラストマー原料を投入して硬化・脱型する作業を繰り返し、連続生産性について評価した。この作業を10日間以上連続的に繰り返し、100shot以上、問題なく脱型できることを確認した。
【0045】
一方、前記方法により測定した、上記2液付加硬化型シリコーン(商品名:XE15−C2617AB GE東芝シリコーン(株)製)を用いて成形した離型層テストピースの、130℃において揮発する成分の含有量は、0.25質量%であった。
【0046】
(実施例2)
2液付加硬化型シリコーンとして、XE15−C2618AB(商品名、GE東芝シリコーン(株)製)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、ポリウレタンシートを得た。作業を、10日間以上連続的に繰り返し、120shot以上問題なく脱型できることを確認した。また、前記方法により測定した本実施例における2液付加硬化型シリコーンを用いて形成した離型層テストピースの130℃において揮発する成分の含有量は、0.19質量%であった。
【0047】
(比較例1)
2液付加硬化型シリコーンとして、CY52−005(商品名、東レ・ダウ・コーニング(株)製)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、ポリウレタンシートを得た。しかしながら、5日目の段階(45shot目)で図5〜6に示したような状態となり、これ以上の成形は不可能であった。また、前記方法により測定した本比較例における2液付加硬化型シリコーンを用いて形成した離型層テストピースの130℃において揮発する成分の含有量は0.52質量%であった。
【0048】
(比較例2)
2液付加硬化型シリコーンとして、TSE3455T(商品名、GE東芝シリコーン(株)製)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、ポリウレタンシートを得た。しかしながら、5日目の段階(43shot目)で図5〜6に示したような状態となり、これ以上の成形は不可能であった。また、前記方法により測定した本比較例の2液付加硬化型シリコーンを用いて形成した離型層テストピースの130℃において揮発する成分の含有量は、0.55質量%であった。
【0049】
【表1】

【0050】
表1に示されているように、実施例1、2の成形方法は充分に連続生産に耐えうるものであったが、比較例1、2の成形方法は連続生産性が低い結果となった。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明における遠心成形金型の一例の模式図である。
【図2】本発明における成形型の一例の内周面末端部近傍の断面模式図である。
【図3】離型層と内周面末端部分との間に収縮隙間が発生した成形型の一例の断面模式図である。
【図4】離型層と成形型内周面末端部分との間の収縮隙間によって発生したエラストマー成形体のバリの一例を示す模式図である。
【図5】離型層と成形型内周面末端部分との間に発生した収縮隙間によって生成したエラストマー成形体のバリにより発生した不具合の一例を示す模式図である。
【図6】離型層と成形型内周面末端部分との間の収縮隙間の残存バリの一例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0052】
10 遠心成形金型
10a 内壁面(内周面)
10b 内周面末端部分
11 保持層
12 離型層
13 エラストマー成型体
14a エラストマー成形体の末端部に形成されたバリ
14b 残存バリ
14 収縮隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
離型層を具えた成形型に、液状エラストマー原料を投入し硬化させるエラストマー成形方法において、前記成形型として、液状硬化型シリコーンを用いて形成された、前記液状エラストマー原料の硬化温度において揮発する成分の含有量が0.5質量%以下である離型層を内壁面上に有する成形型を用いる事を特徴とするエラストマー成形方法。
【請求項2】
前記成形型として、該成形型内壁面に剥離可能に接合された保持層をさらに有する成形型を用いる事を特徴とする請求項1記載のエラストマー成形方法。
【請求項3】
前記液状エラストマー原料が、ポリウレタンプレポリマーを主成分として含むものであることを特徴とする請求項1又は2記載のエラストマー成形方法。
【請求項4】
前記保持層が、熱硬化性エポキシ樹脂を用いて形成された保持層であることを特徴とする請求項2又は3記載のエラストマー成形方法。
【請求項5】
前記成形型が、遠心成形金型であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のエラストマー成形方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載のエラストマー成形方法で作製された電子写真用ブレード部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−80700(P2008−80700A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−264584(P2006−264584)
【出願日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【出願人】(393002634)キヤノン化成株式会社 (640)
【Fターム(参考)】