説明

エレクトロニクス用の印刷用凸版

【課題】表示パネルにおける配線の形成、電極の形成及び絶縁材料や有機EL素子の作製に最適な、線太りの抑制及び印刷物の膜厚均一性の向上が可能な印刷用凸版を提供することを課題とする。
【解決手段】凸版のレリーフの頂面に供給されたインクを被印刷体へ転写する凸版印刷において用いるための凸版であって、該レリーフの厚みが10μm以上500μm以下であり、かつ、該レリーフの頂面に、該レリーフの長辺方向と略平行に連続する複数個の細長形状の窪みを設けたことを特徴とする印刷用凸版を提供する。本発明の印刷用凸版は、線太りを抑制し、印刷物の膜厚均一性を向上させるため、表示パネルにおける配線の形成、電極の形成及び絶縁材料や有機EL素子の作製に最適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロニクス材料を凸版印刷法でパタ−ニングするために使用できる印刷用凸版に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、表示パネルや回路のパターン等のうち微細なサイズのものの形成には、一般的にフォトリソ法が用いられてきた。印刷法は、フォトリソ法と比較して処理速度が速い、プロセスに関わる廃棄物が少ない、材料の利用効率が高い等の利点があるためコスト低減が可能な方法として期待されているが、印刷物の性能の点では要求に応えきれていなかった。そこで、最近では各種印刷法を用いて、エレクトロニクス材料をパターニングする方法の改良が試みられるようになってきた。
【0003】
有機EL素子は、Tang及びVanSlykeによって、Appl.Phys.Lett.,51,p.913(1987)において報告されて以来、活発に研究開発が行なわれている。一般に、有機EL素子は低分子系有機物と高分子系有機物の2つに分けられる。低分子系有機物の製膜方法としては真空蒸着を用いることが一般的である。しかし、蒸着法では、真空中で製膜するために大面積化が難しく、材料の利用効率も十分ではない。
【0004】
一方、高分子系有機物の製造方法としては各種印刷法を用いることができる。各種印刷法としては、凸版印刷法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法、インクジェット法、スプレー法等が挙げられる。これらは大気圧で製膜することが可能であり、蒸着法に比べ大面積化が容易である。また、材料の利用効率も高いためにコスト面で有利である。
【0005】
上記のように、回路パターンや有機EL素子等のエレクトロニクス関連において各種印刷法が検討されてきている。これらエレクトロニクス関連においては、印刷用のインクを塗布する基板としてはガラス基板を用いることが多いため、グラビア印刷法等のように金属製の印刷版等の硬い版を用いる方法は不向きである。また、非画像部にインクが付着すると汚染等の問題が生じる。インクジェット法は、汚染等の問題はないが、印刷スピードに問題があった。
【0006】
凸版印刷法の代表例として、樹脂材料からなる版を使用したフレキソ印刷法がある。図1は凸版印刷法の概略図である。フレキソ印刷法は、版が樹脂製であるため、版の加工が比較的容易であること、版材に柔軟性があるため基板へのダメージ、及び重ね刷り時に於いて先に形成されたパターンへ与えるダメージが低減されること、凸版であるため非画像部にインクが付着しないこと、印刷スピードが速いこと等の特長がある。電子デバイスへの応用を想定した場合は、これらの特長は有利に働く。
【0007】
しかしながら、微細パターンを印刷形成するための手段として、凸版及び凸版印刷法は殆ど使用されていなかった。その主な理由は、線太りや印刷物の膜厚均一性が悪いという問題があり、微細パターンを正確に形成することが難しかったからである。図2は、凸版印刷における転写時の課題を示す図であり、図2(a)は印刷用凸版の断面図、図2(b)はインクを基板へ押し付けた状態を示す断面図、図2(c)は基板へ転写されたインクを示す平面図である。凸版印刷方式においては、図2に示すようなインクの転写を行なう工程で印圧を加えなければならないが、印刷版のレリーフ7と基板1とに挟まれたインク2が、レリーフ先端からその周囲にはみ出してインクのはみだし8を形成し、印刷版の元のパターン10よりも印刷されたパターンの方が大きくなる線太り9が生じる。よって印刷パターンが所定の寸法を維持することが困難になる。
【0008】
更にパターンが高精細になり、パターン間の距離が小さくなると、線太りにより隣のパターンと繋がってしまうという問題が発生する。特に、配線や電極等の導電性パターンを形成する場合、パターンが繋がることはショートを発生させることになり、正常に機能させることができなくなるという問題があった。
【0009】
例えば、マージナル防止のため版の凸部でインクを固めた後、固化したインク成分を、粘着物質を介して基板に転写する方法(例えば特許文献1を参照。)がある。また、版の凸部の周囲に障壁を設ける方法も提案されている(例えば特許文献2を参照。)。更に、版の凸部に窪みを設け、窪みに余剰インクを収容する方法も提案されている(例えば、特許文献3を参照。)。また、版の凸部に多数の窪みを設け、マージナルを抑制し、印刷物の均一性を向上させる方法が提案されている(例えば特許文献4を参照。)。
【0010】
しかし、特許文献1の技術では、電子デバイス等において先に形成されたパターンと後から形成されたパターンとの相互間で、電気的接続を必要とする場合、相互の導通性低下が問題であり、また、絶縁層との積層では界面でのトラップ発生によるデバイス特性への影響の問題がある。更には強度的に脆弱な薄膜の転写に於いては転写時のストレスによって膜中へクラックが入る問題が考えられる。
【0011】
また、特許文献2の技術では、インクの粘度が低い場合、ワークへの押し付けが不均等になり、既にパターンがある場合、段差によって障壁で抑え切れずにインクが流れ出す問題が懸念される。
【0012】
また、特許文献3の技術では、繰り返し印刷を行なう場合、余剰インクを収容するためには窪みにインクが無いという条件を満たす必要があるが、印刷回数が増えるに従い、窪みにもインク残りが生じるおそれがあり、繰り返し印刷の際、効果の持続性低下の問題が懸念される。また特許文献3はレリーフ厚みについて考慮していないため、印刷の耐久性(耐刷性)の低下の問題や、印刷物が微細、特にライン間のスペース幅が狭くなるとその端部の印刷精度の影響が大きくなるという問題を考慮していない。そして特許文献3は、通常のフレキソ印刷における課題であるドットゲインを減少させる効果については述べているが、電子材料分野における課題である細線の線太り抑制効果の課題の提示並びに解決方法について具体的に示していない。
【0013】
更に特許文献4の技術は、レリーフ厚みについて考慮していないため、印刷の耐久性(耐刷性)の低下の問題や、印刷物が微細、特にライン間のスペース幅が狭くなるとその端部の印刷精度の影響が大きくなる(例えば線幅が小さくなった時に印刷物の両端の直線性が悪化する)という問題に関しては具体的に示していない。また、電子材料分野で重要な細線における線太り抑制については具体的に示していない。
【0014】
【特許文献1】特許第3475498号公報
【特許文献2】特開2002−117755号公報
【特許文献3】特開2002−178654号公報
【特許文献4】特開2006−240283号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、上記問題点を解決し、表示パネルにおける配線の形成、電極の形成及び絶縁材料や有機EL素子の作製に最適な、線太りの抑制及び印刷物の膜厚均一性の向上が可能な印刷用凸版を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記のような問題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は以下の通りである。
【0017】
本発明は、凸版のレリーフの頂面に供給されたインクを被印刷体へ転写する凸版印刷において用いるための凸版であって、該レリーフの厚みが10μm以上500μm以下であり、かつ、該レリーフの頂面に、該レリーフの長辺方向と略平行に連続する複数個の細長形状の窪みを設けたことを特徴とする印刷用凸版を提供する。
【0018】
上記印刷用凸版においては、窪み間の距離が、互いに最も近接する窪み同士の周縁の最短距離(A)で定義される場合に1μm以上20μm以下であることが好ましい。
【0019】
また上記窪みの深さが1μm以上30μm以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明の印刷用凸版を用いてパターン形成を行なうことにより、ラインでの線太りが抑制され、パターン形成においてパターン同士が繋がることを防止できる。更に印刷物の膜厚均一性を向上できる。このため、線幅(ライン(L))が狭く、且つ、線間隔(スペース(S))が狭い場合にも高精度な印刷を達成できる。その結果、印刷法による電子デバイス(例えば配線の形成、電極の形成、並びに絶縁材料や機能材料を用いた機能素子及び回路の形成)への応用が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
添付の図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。以下に説明する実施の形態は本発明の構成の例であり、本発明は、以下の実施の形態に制限されるものではない。本発明の効果を奏する限り、種々の形態変更をしてもよい。
【0022】
本発明が提供する印刷用凸版は図1中の版6に対応し、レリーフの頂面に窪みを有する印刷用凸版である。本発明に係る印刷用凸版は、凸版のレリーフの頂面に供給されたインクを被印刷体へ転写する凸版印刷に用いるものであって、レリーフの厚みが10μm以上500μm以下であり、レリーフの頂面に、レリーフの長辺方向と略平行に連続する細長形状の窪みが、レリーフ1つにつき複数個設けられている(以下、本発明において設けられるこの窪みを「微小窪み」ともいう)。レリーフの厚み(図2ではレリーフの厚みHとして示している)とは、頂面が印刷面となる凸部の高さのことである。
【0023】
図3は、レリーフ頂面の微小窪みを設ける一形態を示す平面図である。本実施形態に係る印刷用凸版には、凸版のレリーフの頂面11、つまり、インクがアニロックスロールから転写される部分に微小窪み12が形成されている。ここではレリーフ形状に対応する印刷パターンのラインが直線である場合を示しているが、ラインパターンは曲がっていても、クロスしていてもよい。ラインが曲がっている場合は微小窪みも同様に曲がっており、ラインが交差している場合は、微小窪みも交差している。本発明は任意形状のラインパターンに対応することが可能であり、そのパターン形状に沿って凸版のレリーフ頂面が決定され、それに伴い、ラインパターンの長辺形状に沿って窪みが形成される。
【0024】
窪みの形状は、印刷されるラインパターンの長辺に対応する、レリーフの長辺方向と略平行に連続する細長形状であり、レリーフの長辺方向における一端から他端に向かって連続していればよい。窪みは深さ方向に非貫通の有底形状を有する。また窪みは、レリーフのエッジに掛からないように形成されていることが好ましい。すなわち、窪みの周縁がレリーフを形成する樹脂で囲まれていることが好ましい。この場合、レリーフ端部においては、窪みがレリーフ端部に掛からずにレリーフが本来の形状に沿った縁辺形状を有するため、パターンの再現性が向上する。
【0025】
複数個の窪みは、図3に示したような同一の大きさの窪みとして配列してもよく、大きさを変えて配列してもよい。
【0026】
レリーフの厚みは、窪みを設ける必要性と押し込み量の観点で正確な印刷を行なうため、及び印刷物の汚れ防止のために10μm以上とし、解像性、耐刷性及び耐久性の観点から500μm以下とする。レリーフ厚みが500μmを超えると解像性が悪くなり、精細なパターンの場合は印刷物の膜厚均一性やラインの直線性が悪くなる。またレリーフ厚みが500μm以下であれば、高精細時において、ラインのよれ等の影響を回避し、ラインの再現性を向上させるとともに線太りを抑制することができる。レリーフの厚みは20μm以上400μm以下がより好ましい。
【0027】
本発明によれば、レリーフの頂面に窪みを設けることによって、印刷用凸版を基板に押し付けた時に発生するレリーフ外側へのインクの流れが阻止されるため、線太りの発生を低減させることができる。また、窪みにより、転写したインクの膜厚の調整が可能となるため、印刷物の膜厚の調整が可能となり、また印刷物に良好な膜厚均一性を付与できる。
【0028】
レリーフ上に形成した窪みの深さは、線太りの抑制効果及びパターン再現性の観点から1μm以上30μm以下が好ましい。窪みの深さが1μm未満であると線太りが起きやすい傾向があり、30μmを超えるとインクの出入りが困難になり、パターンの再現性が悪くなる傾向がある。窪みの深さは1μm以上20μm以下がより好ましい。
【0029】
本発明に係る印刷用凸版では、図3で示すように、互いに最も近接する窪み同士の周縁の最短距離(A)(図3中では窪み間距離Aとして示している)で定義される窪み間の距離が1μm以上20μm以下であることが好ましい。上記窪み間の距離をこのような範囲とすることによって、インクのレベリング性が促進され、印刷物の膜厚均一性がより良好になる。上記窪み間の距離は1μm以上14μm以下がより好ましい。
【0030】
窪みの長辺の長さ(ここで、長辺の長さとは、レリーフ長辺に対して平行な方向における窪み最大長さをいう)についてはパターンの長さによって決定されるため特に限定はなく、短辺の長さ(ここで、短辺の長さとは、レリーフ長辺に対して垂直な方向における窪み最大長さをいう)よりも長ければよい。短辺の長さは2μm以上40μm以下が好ましい。短辺の長さが2μm未満である場合には線太り抑制効果が小さい傾向があり、40μmを超える場合には印刷物の膜厚均一性の向上効果が小さい傾向がある。
【0031】
次に本発明の印刷用凸版の製造方法の例について述べる。印刷用凸版へのレリーフパターンの形成方法としては、(1)光により形成する方法、(2)型から複製する方法、(3)彫刻により形成する方法、が挙げられる。
【0032】
(第1の方法:光によりレリーフパターンを形成する方法)
光によりレリーフパターンを形成する方法では感光性樹脂が使用可能であり、次の方法が挙げられる。通常の感光性樹脂を用いた方法で、感光性樹脂をレリーフの形状に合わせ、レリーフ上部の微小窪みに相当しない部分において光を透過しそれ以外の部分では透過しないネガフィルムを準備する。露光前が液状の感光性樹脂を用いる場合、このネガフィルムをガラス板の表面に積層した後、その上に液状の感光性樹脂を塗布し、その表面に透明なベースフィルムを積層し、更にその表面にガラス板を積層する。なお感光性樹脂層の厚みは所定の寸法になるよう設定する。次いでランプを用い、上側のガラス板とベースフィルムを介して感光性樹脂に紫外線を照射すると共に、下側のガラス板とネガフィルムを介して感光性樹脂に紫外線を照射する。画像露光用の照射光源は公知のものを使用可能である。上記液状感光性樹脂からなる層の上面全体から入った光と、ネガフィルムの光を透過する部分を透過した光とが所定量届いた部分が硬化される。硬化後上下のガラス板、ネガフィルムを取り除き、未硬化部分を洗浄除去し、レリーフ形成側に紫外線を照射し硬化を促進し、印刷用凸版とする。
【0033】
別の方法として、レリーフ形成のために、感光性樹脂を硬化可能な波長のレーザー光源を用い、硬化に必要な光量を走査露光しても良い。常温で液状タイプでなく常温で固溶体状の感光性樹脂を用いる場合、感光性樹脂を加熱して所定の厚みに成形したのち、同様に画像露光以降の操作を行なえばよい。
【0034】
更に、上記ではネガタイプの感光性樹脂を使用した際の印刷用凸版の製造方法を説明したが、ポジタイプの感光性樹脂をポジフィルムと共に用いることも可能である。
【0035】
また、フォトマスク上に予め型を作製しておき、窪みの深さをより正確に制御する方法もとれる。例えば、上記ネガフィルム上に微小窪みの深さに相当する膜厚でポジタイプの感光性樹脂を被着し、ネガフィルム側から紫外線を照射し、露光部分を現像処理したものである。これにより、ネガフィルムの遮光部上に微小窪みに対応した微小突起が形成される。このネガフィルム上に形成した型上に、更にネガタイプの感光性樹脂を所望のレリーフ厚みに応じて塗布し、その表面にベースフィルムを積層する。次いでネガフィルム及び型を通して下側(ネガフィルム側)から紫外線を照射し、ネガフィルム及びモールドを取り除き、未硬化部分を洗浄除去することで、ベースフィルム上に微小窪みを有するレリーフを精度良く形成することができる。この際、拡散反射率の比較的高いベースフィルムを使用する場合、入射紫外線がベースフィルム表面で拡散反射し、レリーフ部全体の硬化を促進させることができる。尚、ネガフィルムに型を確実に被着させるために、ネガフィルム表面に紫外線透過性を有する市販の接着剤(ゴム系、ポリエステル系、エポキシ系、アクリル系、ウレタン系、シラン系等)によるコーティング処理を施すこと、ハードコート(アクリル系等)等の各種コーティング材を接着層上に設けること、及びカップリング剤等による表面処理を行なうことができる。
【0036】
(第2の方法:型から複製する方法)
型から複製パターンを作製する方法としては次の方法を挙げることができる。パターン形状に対応した型を作製し、レリーフが樹脂製であることにふさわしい方法で型取りする。方法としては、1)光硬化法、2)熱硬化法、を採用することができる。又は3)加熱した型を樹脂に押し付け、パターンに相当する形状を付与する熱転写法(冷却凝固法ともいう)、でも良い。上記1)には感光性樹脂、上記2)には室温で液体又は固溶体状の熱硬化性樹脂、上記3)には熱可塑性樹脂がそれぞれ使用可能である。型は、採用する加工方法、解像度により公知のものから選択すればよく、例えば金属金型、Si型、石英型、SiC型、Ni電鋳型、樹脂型等が使用可能である。
【0037】
(第3の方法:彫刻により形成する方法)
彫刻により形成する方法としては、次の方法を挙げることができる。架橋されたゴム系材料や、硬化された熱硬化性樹脂、同じく硬化された光硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂等を版材料として使用することが可能である。固体の版材料を彫刻する方法としては、レーザーによる彫刻方式を挙げることができる。現実的には必要とするパターン形状の寸法に応じレーザーを使い分ければよい。炭酸ガスレーザー、YAG3倍波若しくは4倍波レーザー、又はエキシマレーザー等の各種レーザーを解像度や彫刻性に応じて選定して彫刻することができる。この方法を用いれば、レリーフの頂面と溝部の表面自由エネルギーが異なる組み合わせの版も作ることができる。この場合、レリーフ先端層とその下の層とで、異なる材料を積層する、異なる材料を塗布し重ねる、或いは、プラズマ処理を行なう等の各種方法で、レリーフ先端層とその下の層で表面自由エネルギーの異なる組み合わせを作り、レーザーで下の層まで達するよう彫刻する方法を採ることもできる。
【0038】
本発明に係る印刷用凸版を形成する材料としては、上記のように室温で固体、高温で流動性を有する熱可塑性樹脂、及び室温で粘凋又は固溶体状の感光性樹脂又は熱硬化性樹脂を使用でき、それぞれの可塑性又は硬化性の性質を利用して版を成型することができる。樹脂の種類について特に制約は無い。版として使用する形態における力学的物性、例えば硬度、ヤング率、反発弾性、引張強伸度、表面張力、或いは耐溶剤性等の化学的物性が所望する印刷に適するように樹脂を選択及び設計すればよい。また、架橋されたゴム系材料も本発明に係る印刷用凸版を形成する材料であることができる。
【0039】
ネガタイプの感光性樹脂としては、ラジカル重合系、光カチオン重合系、光アニオン重合系又は光二量化反応系等が適用可能である。以下、汎用的なラジカル重合系を例に説明する。
【0040】
ラジカル重合性樹脂組成物の多くが本発明に適用され得るが、その中で代表的なものとしてプレポリマー、モノマー、開始剤及び熱重合禁止剤を配合した組成物が使用可能である。
【0041】
プレポリマーとしては、重合性二重結合を分子中1個以上有し、例えば、不飽和ポリエステル、不飽和ポリウレタン、不飽和ポリアミド、不飽和ポリアクリレート樹脂、不飽和メタクリレート樹脂又はこれらの各種変性物等を少なくとも1種類用いたものを挙げることができる。
【0042】
モノマーは、典型的には重合性二重結合を有するエチレン性不飽和単量体であり、例えば、スチレン、クロロスチレン、ビニルトルエン、ジアリルフタレート、ジアリルイソフタレート、トリアリルシアヌレート、N,N’−メチレンビスアクリルアミド、メタクリルアミド、N−ヒドロキシエチルアクリルアミド、N−ヒドロキシメタクリルアミド、α−アセトアミド、アクリルアミド、アクリル酸、メタクリル酸、α−クロロアクリル酸、パラカルボキシスチレン、2,5−ジヒドロキシスチレン、トリエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート等、及びフォトポリマー懇話会著、「フォトポリマーハンドブック」、(株)工業調査会刊、1989年6月26日、p.31−36記載の材料を用いることができる。
【0043】
開始剤としては、エチレン付加重合性不飽和基を用いて三次元架橋反応を行なうときに反応効率を高めるために用いる公知の光重合開始剤又は熱重合開始剤を用いることができる。光ラジカル重合開始剤としては、ベンゾイン、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾフェノン、ミヒラーケトン、キサントン、チオキサントン、クロロキサントン、アセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、ベンジル、2,2−ジメチル−2−ヒドロキシアセトフェノン、(2−アクリロイルオキシエチル)(4−ベンゾイルベンジル)ジメチル臭化アンモニウム、(4−ベンゾイルベンジル)塩化トリメチルアンモニウム、2−(3−ジメチルアミノ−2−ヒドロキシプロポキシ)−3−,4−ジメチル−9H−チオキサントン−9−オン−メソクロライド,1−フェニル−1,2−プロパンジオン−2−(Oベンゾイル)オキシム、チオフェノール、2−ベンゾチアゾールチオール、2−ベンゾオキサゾールチオール、2−ベンズイミダゾールチオール、ジフェニルスルフィド、デシルフェニルスルフィド、ジ−n−ブチルジスルフィド、ジベンジルスルフィド、ジベンゾイルジスルフィド、ジアセチルジスルフィド、ジビニルジスルフィドジメトキシキサントゲンジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムテトラスルフィド、ベンジルジメチルジチオカーバメイトキノキサリン、1,3−ジオキソラン、N−ラウリルピリジニウム等が例示できる。一方、熱重合開始剤としては、過酸化ベンゾイル、2、2−アゾビスイソブチロニトリル、過硫酸塩−亜硫酸水素ナトリウム等の過酸化物、アゾ化合物、レドックス開始剤といった公知のものが使用できる。
【0044】
本発明に用いる熱重合禁止剤として、ハイドロキノン、モノ第三ブチルハイドロキノン、ベンゾキノン、2,5−ジフェニル−p−ベンゾキノン、ピクリン酸、ジ−p−フルオロフェニルアミン、p−メトキシフェノール、2,6−ジ第三ブチル−p−クレゾール等を挙げることができる。
【0045】
感光性樹脂組成物としては特開昭52−90804号公報、特公昭48−19125号公報、特開昭49−109104号公報、特公昭48−41708号公報等に記載の物が挙げられる。更に、東レリサーチセンター調査研究事業部編、「フォトポリマー技術の新展開」東レリサーチセンター刊、1993年3月10日、p.35〜37、山岡亜夫監修、「フォトポリマーの基礎と応用」シーエムシー出版、2003年3月27日、第4章製版材料とフォトレジスト、や松井真二他監修、「ナノインプリントの開発と応用」、シーエムシー出版刊、2005年8月31日、p.50及びp.151に記載の材料を用いることができる。同p.158及びp.159に記載のフッ素変性したフルオロアルキル基を有するアクリレート、メタクリレートや含フッ素のエポキシ系の感光性樹脂を用いることもできる。
【0046】
また少なくとも未加硫ゴム、重合性二重結合を有する単量体及び重合開始剤からなる光重合性ゴム組成物、いわゆる感光性エラストマーといわれているもの(例えば特開昭51−106501号公報及び特開昭47−37521号公報を参照)、並びに、発インク性とのバランスが必要であるもののジアルキルシリコン系樹脂の使用が可能である。
【0047】
熱可塑性樹脂としては、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、環状ポリオレフィン樹脂(COP)、ポリアミド(PA)、ポリアセタール(POM)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリメチルペンテン(TPX)、変性ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリアリレート(PAR)、ポリサルフォン(PSF)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PSt)、塩化ビニル(PVC)、塩化ビニリデン(PVDC)、アクリロニトリル/スチレン(AS)、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン(ABS)、フッ素系樹脂ではフッ化ビニリデン(PVDF)、テトラフルオロエチレン/ノルボルネン共重合体等のフッ素化ポリオレフィン、含フッ素アクリル樹脂、含フッ素アクリル樹脂、含フッ素ポリイミド樹脂、含フッ素ビニルエーテル樹脂等が挙げられ、これら以外でも熱により加工できるものであれば使用でき、例えば三羽忠広著、「基礎合成樹脂の科学」、技報堂出版(株)、1987年6月15日、p.113−p.397、各論 1.重合型樹脂 2.縮合型樹脂 に記載の熱可塑性樹脂を使用しても良い。
【0048】
熱硬化性樹脂としては、不飽和ポリエステル、不飽和ポリウレタン、不飽和ポリアミド、不飽和ポリアクリレート、不飽和メタクリレートの樹脂又はこれらの各種変性物を少なくとも1種、重合性二重結合を有するエチレン性不飽和単量体、及び熱重合開始剤を含むラジカル重合性樹脂組成物や、エポキシに硬化剤を添加した樹脂組成物、シリコン系のポリジメチルシロキサン系樹脂等を使用しても良い。フッ素系樹脂としては、架橋材や熱によりラジカルの発生する重合開始剤を含むフッ素モノマーや含フッ素オリゴマーを用いた熱硬化性樹脂を使用しても良い。これ以外にも例えば三羽忠広著、「基礎合成樹脂の科学」、技報堂出版(株)、1987年6月15日、p.240−p.397、各論 2.縮合型樹脂 に記載の熱硬化性樹脂を使用しても良い。
【0049】
ゴム系材料としては、天然ゴム、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン、ブチル、エチレンプロピレン、スチレンブタジエン、ポリイソブチレン、スチレンブタジエン、ニトリル、アクリル、エピクロルヒドリン、ウレタン、シリコン、フッ素系ゴムを使用しても良い。
【0050】
以上に記した方法や材料を用いることにより、本発明に係る印刷用凸版を製版することができる。
【0051】
本発明の印刷用凸版は、支持体上に上述のような各種樹脂を用いて版を形成したものであることができる。支持体としては、寸法変化が小さく、版胴に巻きつけて使用する場合が多いという使用態様に適合するように版胴の径に合わせて曲がることが可能であることが好ましい。具体的には、PET基板等のプラスチック基板、アルミ基板、ステンレス(SUS)基板、各種金属基板等が挙げられる。特に寸法変化が小さくさびにくい点でガラス複合プラスチック基板及びSUS基板が好ましい。また、本発明の印刷用凸版は、シート状だけでなく、ロール状のシームレス版でも良い。ロール状の場合には、取り付け時に曲げることは考慮する必要はない。よって、ロールの素材としては特に限定はないが、寸法変化の小さいものが良い。
【0052】
次に、本発明に係る印刷用凸版を用いた印刷に使用できる印刷機の例について説明する。印刷機としては、例えば市販されている図1に示す方式のものを用いることができる。これは一例であり、この方式に限定されるものではない。印刷は以下のようにして行なう。図1に示した方式の印刷機を使用し、凹凸を設けたアニロックスロール3とドクターブレード4が合わさっている上にインク2を供給し、アニロックスロール3が回転することによってインクが計量される。次にアニロックスロール3と版胴5に巻かれた印刷用凸版6とが接触すると、レリーフの先端である頂面にインクが付着する。この状態で印刷用凸版6を基板1に押し付けインクを転写する。
【0053】
上記の実施形態に係る印刷方法は、本発明に係る印刷用凸版を被印刷体(すなわち基板)に押し当てて印刷を行なう工程を含む凸版印刷方法である。上記印刷用凸版を円筒形の版胴の外周面に配置し、該版胴を転動させることによって被印刷体に対して転写を行なう転写工程において、転写時のレリーフと被印刷体との押し込み量が100μm以下となる印圧で印刷することが好ましい。該押し込み量が100μmよりも高くなる印圧の場合、レリーフがつぶれてしまい、窪みの効果が小さくなり、線太りや印刷物の膜厚均一性の低下が生じる場合がある。
【0054】
次に、本発明に係る印刷用凸版を使用して形成される印刷物について述べる。印刷物としては、例えば、有機EL素子、有機薄膜太陽電池、トランジスタ、電極、配線等が挙げられる。
【0055】
印刷物の例としてトランジスタについて説明する。まず基板の上に、ゲート電極及び配線に相当する導電性のパターンを、印刷用凸版を用いて印刷して作製する。導電性パターン形成用のインクとしては金属微粒子を分散させたものや導電性のポリマー等を用いることができる。次に、形成したパターン上の所定の位置に合わせ、トランジスタのゲート絶縁膜に相当するパターンを印刷する。印刷用凸版は絶縁膜のパターンに相当するものに交換しておく。以後パターンを変更するたびに版を変更する。ゲート絶縁膜形成用のインクとしては有機系の材料を溶剤に溶解させたものや無機系の塗布材料、例えばポリシラザン系の材料等が使用可能である。次に所定の位置にソース電極とドレイン電極及びこれらに接続される配線を形成する。次にソース電極とドレイン電極とを跨るように半導体のパターンを形成する。半導体パターン形成用のインクとしては溶剤に可溶なポリチオフェン系誘導体やポリアセン系等の有機半導体が使用可能である。次いで素子を保護するため、これらのパターンを覆うように保護膜パターンを形成する。保護膜の材料としては高分子の樹脂材料等を溶剤に溶解させたものが使用可能である。
【0056】
また、印刷物の別の例として有機EL素子について説明する。有機EL素子はディスプレイや照明用途にて用いられる。有機EL素子は有機物を陽極と陰極とで挟み込んだ構造をとっている。その中で本発明の印刷用凸版を用いる工程としては、電極形成時並びに電極に挟み込まれた有機物、具体的にはホール注入材料や発光材料を塗布する工程が適している。電極形成方法としては、ガラス基板若しくはプラスチック基板に酸化インジウム・スズ(ITO)等の透明電極を所望のパターンにて印刷する。この透明電極を作製する際に本発明に係る印刷用凸版を用いた印刷方法を用いてパターンを作製することができる。また、ITO電極の上のホール注入材料及び/又はホール輸送材料、更にその上の発光材料を形成する場合においても本発明に係る印刷用凸版を用いた印刷方法を使用することができる。
【0057】
ホール注入材料又はホール輸送材料又はこれら両材料の機能を有するホール注入輸送材料の例としては、芳香族アミン系材料、銅フタロシアニン(CuPc)、亜鉛フタロシアニン(ZnPc)等のフタロシアニン系錯体、アニリン系共重合体、ポリフィリン系化合物、イミダゾール誘導体、トリアゾール誘導体、ピラゾリン誘導体、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、スチルベン誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、更にアントラセン、テトラセン、ペンタセン、ヘキサセン等のアセン系化合物等が挙げられる。また、これらのアセン系化合物の誘導体、すなわち、上記アセン系化合物にアルキル基、アルコキシ基、ハロゲン基、ケトン基、エステル基、エーテル基、アミノ基、ヒドロキシ基、ベンジル基、ベンゾイル基、フェニル基、ナフチル基等の置換基を導入した誘導体や、上記アセン系化合物のキノン誘導体等も挙げられる。
【0058】
また、ポリアニリン、ポリビニルアントラセン、ポリカルバゾール、ポリ(N−ビニルカルバゾール)(PVK)、ポリフルオレン、ポリ(エチレンジオキシ)チオフェン/ポリ(スチレンスルフォン酸)(PEDOT/PSS)、チオフェン−フルオレン共重合体、フェニレンエチニレン−チオフェン共重合体、ポリアルキルチオフェン、ポリ(p−フェニレンビニレン)、その他、チオフェン系化合物等の高分子系正孔注入材料又は高分子系正孔輸送材料等も挙げられる。
【0059】
発光材料としては、ポリ(パラ−フェニレンビニレン)、ポリ(チオフェン)、ポリ(フルオレン)又はこれらの誘導体等の高分子系発光材料を挙げることができる。また、トリス(8−ヒドロキシキノリノラト)アルミニウム錯体(Alq3)、ビス(2−メチル−8−キノリノラート)(p−フェニルフェノラート)アルミニウム(III)(BAlq)、ビス(ベンゾキノリノラト)ベリリウム錯体(BeBq2)、フェナントロリン系ユウロピウム錯体(Eu(TTA)3(phn))、ペリレン、クマリン誘導体、キナクリドン、イリジウム錯体(Ir(ppy)3、Firpic、Ir(ppy)2(acac))といった蛍光材料や燐光材料等を挙げることができる。
【0060】
これらは、ホール若しくは電子輸送性又はその両方を有するホスト材料に少量ドープして用いても良い。そのようなホスト材料としては4,4’−ビス(9−カルバゾール)ビフェニル(CBP)、2,7−ジ−9−カルバゾリル−9,9’−スピロビフルレン(spiro−CBP)、ビス(2−メチル−8−キノリノラート)(p−フェニルフェノラート)アルミニウム(III)(BAlq)、ポリ(N−ビニルカルバゾール)(PVK)等が挙げられる。
【0061】
本発明の印刷方法を用いる場合は、上記の各種材料(例えば、ホール注入材料、ホール輸送材料、発光材料、有機半導体材料等)を各種溶媒に分散若しくは溶解させて使用する。その時の溶媒としては、水、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ヘキサノール等のアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類、N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド類、ベンゼン、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、シクロヘキサン、デカヒドロナフタレン(デカリン)、テトラリン等の炭化水素類等が挙げられる。
【実施例】
【0062】
以下に本発明を実施例及び比較例により説明するが、本発明は下記例に制限されるものではない。
【0063】
1)微小窪みを有する印刷用凸版1の製造方法
図4は、石英マスクのライン/スペースの形状と窪みの形状とを示す平面図である。図4のようなライン/スペース(L/S 200μm/400μm、長さ20mm)形状において、光透過部の中に微小窪みに対応する四角形の遮光部を等間隔に有する厚さ2.3mmの石英クロムマスクを用意した。石英クロムマスク表面をUV洗浄装置にて処理した後、窒素雰囲気下でHMDS(1,1,1,3,3,3−Hexamethyldisilazane)(1,1,1,3,3,3−ヘキサメチルジシラザン)の気流処理を20分間行なった。この石英クロムマスク表面にポジ型感光性樹脂をスピンコーターによって乾燥後厚みが10μmになるように塗布、風乾後、110℃、7分加熱処理を行なった。ポジ型感光性樹脂は東京応化社製PMER(P−LA300PM)を用いた。次にオーク社製平行光露光装置を用いて石英クロムマスク側から露光、ディップ現像(現像液P−7G)を行ない、風乾後、更に110℃、5分加熱処理を行なった。この石英クロムマスク上に形成した樹脂モールド上に、離型剤として旭硝子社製サイトップ(CTX−809AP2)の4wt%液をスピンコーターにより乾燥後厚みが0.5μmになるように塗布し、110℃で10分乾燥させた。得られた離型剤処理された樹脂モールド上に、旭化成ケミカルズ社製ネガ型液状感光性樹脂APR−G31(ポリエステル系樹脂)を100μmの厚みになるようにナイフコータ−を用いて塗布した後、塗布上面にベースフィルムとして厚み150μmのステンレスシート(SUS304)をラミネートした。尚、ステンレスシートは信越化学工業社製シランカップリング剤(KBM−503)によって表面処理したものを用いた。露光は石英クロムマスク側からオーク社製平行光露光装置を用いて露光量500mj/cm2(350nmで測定)で行なった。樹脂モールドからベースフィルムを剥離し、0.1wt%炭酸ナトリウム溶液と界面活性剤からなる洗浄液で洗浄し、後露光を行ない、レリーフの頂面に所定の微小窪みを有するL/Sパターンの印刷用凸版1を得た。印刷用凸版1はレリーフ厚みが100μm、線幅が200μmであり、レリーフの頂面に、レリーフ長辺方向と略平行に連続する微小窪みを有し、その微小窪みの長辺の長さが約20mm(但し、窪みの長辺方向両端がレリーフの長辺方向両端からそれぞれ10μm内側に後退していることによって窪み側部がレリーフ構成材料で囲まれている。)、短辺の長さが28μm、微小窪み間の距離Aは10μm、微小窪みの深さが10μmである。図5は、印刷用凸版1の顕微鏡写真を示す図面代用写真である。
【0064】
2)微小窪みを有する印刷用凸版2の製造方法
石英クロムマスクの遮光部の形状が異なる以外は、印刷用凸版1と同様な方法で印刷用凸版2を作製した。印刷用凸版2はレリーフ厚みが100μm、線幅が200μmであり、レリーフの頂面に微小窪みを有し、その微小窪みの長辺の長さが約20mm(但し、窪みの長辺方向両端がレリーフの長辺方向両端からそれぞれ15μm内側に後退していることによって窪み側部がレリーフ構成材料で囲まれている。)、短辺の長さが22μm、微小窪み間の距離Aは15μm、微小窪みの深さが10μmである。図6は、印刷用凸版2の顕微鏡写真を示す図面代用写真である。
【0065】
3)微小窪みを有していない印刷用凸版3の製造方法
旭化成ケミカルズ社製ネガ型液状感光性樹脂APR−G31(ポリエステル系樹脂)を100μmの厚みになるようにナイフコータ−を用いて塗布した後、塗布上面にベースフィルムとして厚み150μmのステンレスシート(SUS304)をラミネートした。尚、ステンレスシートは信越化学工業社製シランカップリング剤(KBM−503)により表面処理したものを用いた。露光は石英クロムマスク側からオーク社製平行光露光装置を用いて500mj/cm2で行なった。樹脂モールドからベースフィルムを剥離し、0.1wt%炭酸ナトリウム溶液と界面活性剤からなる洗浄液で洗浄し、後露光を行ない、100μm厚のレリーフを有するL/Sパターンの微小窪みを有していない印刷用凸版3を得た(L/S 200μm/400μm、長さ20mm)。印刷用凸版3はレリーフ厚みが100μm、線幅が200μmであり、レリーフ頂面に微小窪みがなく、平らな構造をしているベタ版である。図7は、印刷用凸版3の顕微鏡写真を示す図面代用写真である。
【0066】
[実施例1]
印刷用凸版1を用いて、印刷実験を行なった。印刷条件は以下の通りである。すなわち、得られた印刷用凸版を日本電子精機社製精密印刷機の版胴に取り付けた。印刷に用いたインクは、ハリマ化成(株)製の銀インク(NPS−J 金属重量分57%、8.4mPa・S)である。印刷方法としては、アニロックスロール550線/インチを用い、アニロックスロールから印刷用凸版へインキングを行ない、更に印刷用凸版からガラス基板へインクを転写した。ワークへの転写時の印圧は、押し込み量で定義し、押し込み量は定盤の高さで調整した。本実験は、押し込み量70μmで行なった。印刷後のガラス基板は220℃にて30分乾燥させた。評価には光干渉を用いた顕微鏡(Vert Scan2.0/株式会社菱化システム)を使用した。
【0067】
[実施例2]
印刷用凸版2を用いて、印刷実験を行なった。印刷条件としては、得られた印刷版を日本電子精機社製精密印刷機の版胴に取り付けた。印刷に用いたインクは、ハリマ化成(株)製の銀インク(NPS−J 金属重量分57%、8.4mPa・S)である。印刷方法としては、アニロックスロール550線/インチを用い、アニロックスロールから印刷版へインキングを行ない、更に印刷版からガラス基板へインクを転写した。ワークへの転写時の印圧は、押し込み量で定義し、押し込み量は定盤の高さで調整した。本実験では、押し込み量70μmで行なった。印刷後のガラス基板は220℃にて30分乾燥した。評価には光干渉を用いた顕微鏡(Vert Scan2.0/株式会社菱化システム)を使用した。
【0068】
[比較例1]
印刷用凸版3を用いて、印刷実験を行なった。印刷条件としては、得られた印刷版を日本電子精機社製精密印刷機の版胴に取り付けた。印刷に用いたインクは、ハリマ化成(株)製の銀インク(NPS−J 金属重量分57%、8.4mPa・S)である。印刷方法としては、アニロックスロール550線/インチを用い、アニロックスロールから印刷版へインキングを行ない、更に印刷版からガラス基板へインクを転写した。ワークへの転写時の印圧は、押し込み量で定義し、押し込み量は定盤の高さで調整した。本実験では、押し込み量70μmで行なった。印刷後のガラス基板は220℃にて30分乾燥した。評価には光干渉を用いた顕微鏡(Vert Scan2.0/株式会社菱化システム)を使用した。
【0069】
[印刷実験結果まとめ]
図8は実施例1,2及び比較例1の線幅増加率を示す図であり、図9は実施例1,2及び比較例1の(端部の膜厚/中央の膜厚)比を示す図であり、図10は実施例1,2及び比較例1の基板転写後のインク体積を示す図である。図8では縦軸に線幅増加率をとった。線幅増加率とは((印刷物のラインの幅)−(レリーフ頂面のライン幅))/(レリーフ頂面のライン幅)×100(%)である。また、図9では縦軸に(端部の膜厚)/(中央の膜厚)比の値をとった。また、図10では縦軸にインク体積(μm3)をとった。該インク体積は、所定の同一面積の版に対するインクの転写量の値でありここでは絶対値に意味はないが、相対比較は可能である。
【0070】
その結果、実施例1及び2と比較例1とを比較すると、実施例1及び2は比較例1と比べて線幅増加率が低かった。実施例1と実施例2とでは実施例1の方が更に線幅増加率が低かった。また実施例1は(端部の膜厚)/(中央の膜厚)の比が1に近かった。つまり、実施例1では、印刷物の線太りが抑制され、かつ膜厚の均一性が高いことがわかる。また基板へのインク転写量が比較例1と比べて実施例1と実施例2とで多くなっている。よって、本発明によればインク転写量を確保し、かつ線太りを抑制できることがわかる。
上記の結果をまとめると、印刷性能は実施例1>実施例2>比較例1の順番で実施例1が非常に良好であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明が提供する印刷用凸版は、エレクトロニクス材料に関連する微細なパターン作製を凸版印刷法で実施する場合に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】凸版印刷法の概略図である。
【図2】凸版印刷における転写時の課題を示す図である。
【図3】レリーフ頂面の微小窪みを設ける一形態を示す平面図である。
【図4】石英マスクのライン/スペースの形状と窪みの形状とを示す平面図である。
【図5】印刷用凸版1の顕微鏡写真を示す図面代用写真である。
【図6】印刷用凸版2の顕微鏡写真を示す図面代用写真である。
【図7】印刷用凸版3の顕微鏡写真を示す図面代用写真である。
【図8】実施例1,2及び比較例1の線幅増加率を示す図である。
【図9】実施例1,2及び比較例1の(端部の膜厚/中央の膜厚)比を示す図である。
【図10】実施例1,2及び比較例1の基板転写後のインク体積を示す図である。
【符号の説明】
【0073】
1 基板
2 インク
3 アニロックスロール
4 ドクターブレード
5 版胴
6 版
7 レリーフ
8 インクのはみだし
9 線太り
10 元のパターン
11 レリーフの頂面
12 微小窪み
H レリーフの厚み

【特許請求の範囲】
【請求項1】
凸版のレリーフの頂面に供給されたインクを被印刷体へ転写する凸版印刷において用いるための凸版であって、該レリーフの厚みが10μm以上500μm以下であり、かつ、該レリーフの頂面に、該レリーフの長辺方向と略平行に連続する複数個の細長形状の窪みを設けたことを特徴とする印刷用凸版。
【請求項2】
窪み間の距離が、互いに最も近接する窪み同士の周縁の最短距離(A)で定義される場合に1μm以上20μm以下である、請求項1に記載の印刷用凸版。
【請求項3】
前記窪みの深さが1μm以上30μm以下である、請求項1又は2に記載の印刷用凸版。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−137420(P2010−137420A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−314917(P2008−314917)
【出願日】平成20年12月10日(2008.12.10)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【Fターム(参考)】