説明

エンコーダ付転がり軸受

【課題】小型の転がり軸受を構成する外輪9の回転速度を高い信頼性で検出できる構造を実現する。
【解決手段】外輪9の軸方向外端部内周面に、軸方向内側に隣接する部分よりも内径が大きくなった内周面側大径部21を設け、エンコーダ12bの外周縁部をこの内周面側大径部21に内嵌固定する。又、内輪10aの軸方向外端部外周面に、軸方向内側に隣接する部分よりも外径が小さくなった外周面側小径部25を設け、上記エンコーダ12bの内周縁部をこの外周面側小径部25に入り込ませる。これらの構成により、このエンコーダ12bの被検出面の幅寸法を確保し、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明に係るエンコーダ付転がり軸受は、例えばオートバイ、スクータ等の自動二輪車の車輪をフレームに対し回転自在に支持すると共に、この車輪の回転速度を求める為に使用する。
【背景技術】
【0002】
自動車用の走行状態を安定させる為の装置として、アンチロックブレーキシステム(ABS)が広く使用されている。この様なABSは、従来は四輪自動車を中心に普及しているが、近年、自動二輪車にも採用され始めている。周知の様に、ABSの制御には、車輪の回転速度を求める必要がある為、車輪を懸架装置に回転自在に支持する為の車輪支持用転がり軸受ユニットに回転速度検出装置を組み込む事が、従来から広く実施されている。但し、四輪自動車用の回転速度検出装置の構造を、そのまま自動二輪車用に適用する事はできない。この主な理由は、次の(1)(2)の2通りである。
(1) 四輪自動車用の車輪支持用転がり軸受ユニットに比べて自動二輪車用の車輪支持用転がり軸受ユニットは相当に小型である。
(2) 四輪自動車用の車輪支持用転がり軸受ユニットの多くは内輪回転型であるのに対して、自動二輪車用の車輪支持用転がり軸受ユニットの多くは外輪回転型である。
【0003】
図10は、自動二輪車の車輪支持部の構造の1例として、スクータの如き、比較的小型の自動二輪車の前輪を回転自在に支持する部分の構造を示している。この構造では、懸架装置を構成する左右1対のホーク1、1の下端部に1対の支持板2、2を、互いに平行な状態で固定している。そして、これら両支持板2、2同士の間に、支持軸3の両端部を支持固定している。又、この支持軸3の中間部2個所位置に1対の転がり軸受4、4を設置している。具体的には、これら両転がり軸受4、4を構成する内輪を上記支持軸3に外嵌すると共に、内輪間座5a、5b、5cにより、これら両内輪の軸方向位置を規制している。又、上記支持軸3の周囲に円筒状のハブ6を、この支持軸3と同心に配置している。そして、上記両転がり軸受4、4を構成する外輪を、上記ハブ6の内周面両端寄り部分に内嵌固定している。更に、上記ハブ6の外周面にホイール7を支持固定している。
【0004】
一方、自動二輪車にABSを組み込むべく、車輪の回転速度を求める為の回転速度検出装置として従来から、特許文献1に記載された構造が知られている。この特許文献1に記載された構造は、自動二輪車用の回転速度検出装置ではあるが、内輪回転型の車輪支持用転がり軸受ユニットを構成するハブの回転速度を検出する事を意図している。この為に、車輪と共に回転する回転軸の中間部で1対の転がり軸受ユニットの間部分に、外周面を被検出面としたエンコーダを固定している。又、回転しない外輪に支持したセンサの検出部を、このエンコーダの外周面に近接対向させている。この様な構造は、比較的大型の自動二輪車には適用できても、小型の自動二輪車に多い、外輪回転型の車輪支持用転がり軸受ユニットを使用した構造には適用できない。
【0005】
これに対して、特許文献2、3には、転がり軸受ユニットの端部開口を塞ぐシールリングの一部にエンコーダを装着し、この転がり軸受ユニットを構成する回転側軌道輪の回転速度を測定可能とする構造が記載されている。上記特許文献2、3のうちの特許文献2には外輪回転型の構造が、特許文献3には内輪回転型の構造が、それぞれ記載されている。但し、これら特許文献2、3に記載されたエンコーダ付車輪支持用転がり軸受ユニットは、何れも四輪自動車の車輪の回転速度を検出する事を意図したものであって、転がり軸受ユニットが比較的大型である。この為、例えば外輪回転型である上記特許文献2に記載された構造を自動二輪車の車輪の回転速度を検出する場合に使用しても、径方向に関するエンコーダの幅寸法の確保が難しく、この回転速度検出に関する信頼性の確保が難しい等の問題を生じる。
【0006】
特に、上記特許文献2に記載されたエンコーダ付転がり軸受の場合には、エンコーダとシールリップとを、径方向に関して直列に配置している為、外輪の内周面と内輪の外周面との間隔に対する、エンコーダの幅寸法の割合が小さくなる。自動二輪車の車輪支持用転がり軸受ユニットの場合、上記両周面同士の間隔が元々小さい為、上記割合が小さくなると、上記エンコーダの被検出面である軸方向側面の幅寸法の絶対値が相当に小さくなる。この結果、検出部をこの被検出面に対向させたセンサの出力信号の変化が小さくなり、回転速度検出の信頼性確保の面から不利になる。要するに、上記特許文献2、3に記載された構造は、そのまま自動二輪車の車輪の回転速度を検出する為に使用できるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−105158号公報
【特許文献2】特開2005−121669号公報
【特許文献3】特開2005−233923号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述の様な事情に鑑みて、自動二輪車の車輪の回転速度を高い信頼性で検出できるエンコーダ付転がり軸受を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のエンコーダ付転がり軸受は、外輪と、内輪と、複数個の転動体と、エンコーダとを備える。
このうちの外輪は、内周面に外輪軌道を有し、使用時に回転する。
又、上記内輪は、外周面に内輪軌道を有し、使用時にも回転しない。
又、上記各転動体は、この内輪軌道と上記外輪軌道との間に転動自在に設けられている。
又、上記エンコーダは、上記外輪と共に回転するもので、上記転動体と反対側の側面である軸方向外側面の磁気特性を、円周方向に関して交互に変化させている。
更に、上記エンコーダの外周縁部を上記外輪の軸方向外端部に、この外輪との間のシール性を確保した状態で支持固定されており、上記エンコーダ自体の内周縁を上記内輪に対し、全周に亙り摺接若しくは近接対向させている。
【0010】
上述の様な本発明を実施する場合に、例えば請求項2に記載した様に、上記エンコーダとして、芯金と永久磁石とを備えたものを使用する。このうちの芯金は、鋼板、フェライト系或いはマルテンサイト系のステンレス鋼板等の磁性金属板を、全体を円輪状に形成したものとする。そして、上記芯金の外周縁に形成した円筒部を上記外輪の軸方向外端部内周面に、締り嵌めで内嵌固定する。
又、上記永久磁石は、ゴムの如きエラストマー、或いは合成樹脂の如きプラストマー等の高分子材料中に、鉄、フェライト等の磁性粉を分散させて成るもので、軸方向外側面にS極とN極とを、交互に配置する。この様な永久磁石は、上記芯金の軸方向外側面に添設する。
【0011】
或いは、本発明を実施する場合に、例えば請求項3に記載した様に、エンコーダを、燒結材料製で円輪状の永久磁石を含んで構成する。そして、この永久磁石の軸方向外側面にS極とN極とを交互に配置し、且つ、この永久磁石の内周縁を内輪の外周面に、全周に亙り近接対向させる。言い換えれば、この永久磁石の内周縁と内輪の外周面とを摺接させず、これら内周縁と外周面との間にラビリンスシールを設ける。
【0012】
又、本発明を実施する場合に好ましくは、請求項4に記載した様に、外輪の軸方向外端部内周面に、軸方向内側に隣接する部分よりも内径が大きくなった内周面側大径部を設ける。そして、エンコーダの外周縁部を、この内周面側大径部に内嵌固定する。
或いは、請求項5に記載した様に、上記内周面側大径部を省略する代わりに、或いはこの内周面側大径部を設けると共に、内輪の軸方向外端部外周面に、軸方向内側に隣接する部分よりも外径が小さくなった外周面側小径部を設ける。そして、エンコーダの内周縁部をこの外周面側小径部に入り込ませて、この内周縁部と上記軸方向内側に隣接する部分とを軸方向に関して互いに重畳させる。
【発明の効果】
【0013】
上述の様に構成する本発明によれば、例えば自動二輪車の車輪の回転速度を高い信頼性で検出できるエンコーダ付転がり軸受を実現できる。即ち、本発明の場合には、エンコーダの外周縁部を外輪の軸方向外端部に支持固定すると共に、このエンコーダ自体の内周縁を内輪に対し、全周に亙り摺接若しくは近接対向させているので、径方向に関する、このエンコーダの幅寸法を確保できる。この為、検出部をこのエンコーダの被検出面である軸方向側面に対向させたセンサの出力信号の変化を大きくできて、回転速度検出の信頼性を確保し易くなる。
例えば、請求項2、3に示した様な、円輪状の永久磁石を含むエンコーダを使用した場合、このエンコーダの被検出面から出入りする磁束を多くして、上記センサの出力信号の変化を大きくできる。
特に、請求項4、5に記載した構造を採用すれば、径方向に関するエンコーダの幅寸法を、外輪の内周面のうちで内周面側大径部に隣接する部分と、内輪の外周面のうちで外周面側小径部に隣接する部分との間隔よりも大きくできる。この為、上記エンコーダの幅寸法をより大きくして、上記センサの出力信号の変化をより大きくでき、回転速度検出の信頼性をより向上させられる。又、請求項4に記載した構造の場合には、上記効果に加えて、エンコーダの軸方向内側面の外径側端部を内周面側大径部の奥に存在する段部に突き合わせる事で、このエンコーダの軸方向位置を容易且つ確実に規制できる、と言った効果を得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態の第1例を示す部分断面図。
【図2】同第2例を示す部分断面図。
【図3】同第3例を示す部分断面図。
【図4】同第4例を示す部分断面図。
【図5】同第5例を示す部分断面図。
【図6】同第6例を示す部分断面図。
【図7】同第7例を示す部分断面図。
【図8】同第8例を示す部分断面図。
【図9】同第9例を示す部分断面図。
【図10】自動二輪車の車輪の回転支持部の1例を示す断面図。
【図11】本発明の対象となるエンコーダの別例を示す、図1のA部に相当する図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[実施の形態の第1例]
図1は、請求項1、2、4に対応する、本発明の実施の形態の第1例を示している。本例のエンコーダ付転がり軸受8は、外輪9と、内輪10と、複数個の転動体11と、エンコーダ12とを備える。このエンコーダ付転がり軸受8の(内輪10の)内径Rは、例えば12〜25mm程度、同じく(外輪9の)外径Dは35〜50mm程度である。そして、使用時には、例えば前述の図10に示した様に、支持軸3の外周面とハブ6の内周面との間に組み付けて、この支持軸3の周囲にこのハブ6を回転自在に支持する。尚、上記図10の構造に関して本発明を適用する場合には、この図10に示した1対の転がり軸受4、4のうちの一方の転がり軸受のみを、上記エンコーダ付転がり軸受8とする。他方の転がり軸受は、エンコーダを備えない、一般的な転がり軸受とする。
【0016】
上述の様に、例えば上記支持軸3の外周面と上記ハブ6の内周面との間に組み付けられる、上記エンコーダ付転がり軸受8を構成する上記外輪9は、内周面に外輪軌道13を有する。図示の例では、この外輪軌道13を、断面円弧形の深溝型としている。この様な外輪9は、使用時には上記ハブ6に内嵌固定された状態で、このハブ6と共に回転する。
又、上記内輪10は、外周面に内輪軌道14を有する。図示の例では、この内輪軌道14に就いても、深溝型としている。この様な内輪10は、使用時には上記支持軸3に外嵌固定された状態のまま、回転しない。
又、上記各転動体11は、保持器15に保持された状態で、上記外輪軌道13と上記内輪軌道14との間に転動自在に設けられている。図示の例では、上記各転動体11として、玉を使用している。
【0017】
又、上記エンコーダ12は、それぞれが円輪状である、芯金16と永久磁石17とを一体的に結合固定して成る。このうちの芯金16は、鋼板、フェライト系或いはマルテンサイト系のステンレス鋼板等の磁性金属板製で、円輪部18の外周縁部を軸方向外側(上記各転動体11を設置した空間と反対側で、図1の左側)に向け直角に折り曲げる事により円筒部19を形成し、断面L字形で全体を円輪状に形成している。
尚、上記エンコーダ12を構成する芯金16は、上記図1に示した構造に限らず、外輪9の端部内周面に嵌合する為の円筒部19と、永久磁石17を保持する為の円輪部18とを備えた構造であれば良い。例えば図11に示す様に、上記エンコーダ12を構成する芯金16を、円輪部18の外周縁部と円筒部19との間に、断面クランク形の係止部32を設けた構成とする事もできる。この様な構成を採用した場合には、上記円筒部19と上記外輪9の端部内周面とを直接(上記永久磁石17を介さずに)嵌合させて、上記係止部32とこの外輪9の内周面との間でこの永久磁石17の径方向位置を規制できる為、回転速度検出に関する検出精度の向上を図れる。
【0018】
一方、上記永久磁石17は、ゴムの如きエラストマー、或いは合成樹脂の如きプラストマー等の高分子材料中に、鉄、フェライト等の磁性粉を分散させて成る。この様な永久磁石17は、この磁性粉を含有した上記高分子材料を金型のキャビティ内に送り込む、射出成形により造るが、この射出成形時に、上記芯金16をこのキャビティ内にセットしておく。又、この芯金16のうちで上記永久磁石17と当接する面には、予めプライマ(接着剤)を塗布しておく。従って、この永久磁石17と上記芯金16とは、この永久磁石17の射出成形と同時に接合固定される。この永久磁石17は、軸方向に着磁すると共に、着磁方向を、円周方向に関して交互に且つ等間隔に異ならせている。従って、被検出面である、上記永久磁石17の軸方向外側面には、S極とN極とが、交互に、且つ、等間隔に配置されている。これらS極とN極との数は、ABSに要求される性能等により設計的に規制するが、最大で、永久磁石17の全周で50極ずつ(S極とN極との合計で100極)程度になる。
【0019】
尚、上記永久磁石17の内周縁部は、上記芯金16の内周縁よりも径方向内方に突出している。従って、上記エンコーダ12全体としての内周縁は、上記永久磁石17の内周縁となる。上述した様にこの永久磁石17は、上記高分子材料の射出成形により造られるので、この永久磁石17の内径、延ては、上記エンコーダ12全体としての内径は、高精度に仕上げられる。又、上記永久磁石17の軸方向外側面は、外径側端部で、中間部乃至内径側部分よりも軸方向内側(上記各転動体11を設置した空間側で、図1の右側)に凹ませている。従って、上記エンコーダ12の外側面の外径側端部に環状凹部20が、全周に亙って存在する。そして、この環状凹部20の底面に、上記永久磁石17を射出成形する際のゲートを位置させて、このゲートの存在が、被検出面である、この永久磁石17の外側面から出入りする磁束の密度に悪影響を及ぼす事を防止している。又、この永久磁石17の軸方向外側面は、前記外輪9及び内輪10の端面よりも、軸方向内方に凹んだ位置に存在する。従って、前記エンコーダ付転がり軸受8を前記ハブ6と前記支持軸3との間に組み込む以前の、このエンコーダ付転がり軸受8単体の状態で、上記エンコーダ12が他の物体とぶつかって損傷する事を防止できる。
【0020】
更に、上記外輪9の内周面の軸方向外端部には、軸方向内側に隣接する部分よりも内径が大きくなった、内周面側大径部21を形成している。上述の様なエンコーダ12は、上記芯金16の外周縁部に形成した前記円筒部19を上記内周面側大径部21に、締り嵌めで内嵌する事により、上記外輪9の端部内周面に固定している。この状態で、この外輪9の端部内周面と上記エンコーダ12の外周縁との間のシール性が確保される。又、このエンコーダ12の内周縁が、上記内輪10の端部外周面に、全周に亙り近接対向して、これら内周縁と外周面との間にラビリンスシールを構成する。上述の様に、上記エンコーダ12の内径は十分高精度に加工でき、又、上記内輪10の外径も精度良く加工される。従って、上記ラビリンスシールの、径方向に関する幅寸法は十分に小さくできて、このラビリンスシールのシール性能を十分良好にできる。
【0021】
上述の様に構成する本例のエンコーダ付転がり軸受によれば、例えば自動二輪車の車輪の回転速度を高い信頼性で検出できる。即ち、本例の場合には、エンコーダ12自体の内周縁を上記内輪10の外周面に近接対向させて上記ラビリンスシールを構成している。従って、前述の特許文献2に記載された構造の如く、エンコーダとシールリップとを径方向に関して直列に配置した構造とは異なり、径方向に関する上記エンコーダ12の幅寸法を大きくできる。この為、検出部をこのエンコーダ12の被検出面である軸方向側面に対向させたセンサの出力信号の変化を大きくできる。即ち、上記エンコーダ12を構成する前記永久磁石17の軸方向外側面から出入りする磁束を多くして、上記センサの出力信号が変化する程度を大きくし、上記外輪9を内嵌固定した、前記ハブ6、延てはこのハブ6に結合固定した車輪の回転速度検出の信頼性を確保し易くなる。
【0022】
しかも本例の場合には、上記外輪9の端部に形成した内周面側大径部21に上記エンコーダ12の外周縁部を内嵌している為、このエンコーダ12の外径を上記外輪9のうちで上記内周面側大径部21に隣接する部分の内径よりも大きくできる。この為、上記エンコーダ12の幅寸法をより大きくして、上記センサの出力信号の変化をより大きくでき、回転速度検出の信頼性をより向上させられる。更に、上記エンコーダ12の軸方向位置は、このエンコーダ12の軸方向内側面の外径側端部を上記内周面側大径部21の奥に存在する段部22に突き合わせる事で、容易且つ確実に(高精度で)規制できる。この為、上記エンコーダ12が前記保持器15と干渉する事を確実に防止できる他、このエンコーダ12の被検出面と上記センサの検出部との間隔を適正に規制して、この面からも、上記回転速度検出に関する信頼性向上を図れる。尚、上記エンコーダ12がエラストマーにより構成したものであれば、このエンコーダの内周縁を内輪10の外周面と摺接させても良い。
【0023】
[実施の形態の第2例]
図2も、請求項1、2、4に対応する、本発明の実施の形態の第2例を示している。本例の場合には、永久磁石17aの外側面内径寄り部分と内周縁とに凹溝23、24を、それぞれ全周に亙って形成している。これら両凹溝23、24のうち、外側面内径寄り部分の凹溝23は、エンコーダ12aの外側面に付着してこの外側面を内径側に移動する異物を捕集し、この異物がこのエンコーダ12aの内周縁に迄達するのを防止する役目を有する。又、内周縁の凹溝24は、この内周縁と内輪10の外周面との間のラビリンスシールの絞り回数を多くして、このラビリンスシールのシール性能を向上させる役目を有する。従って本例の構造は、上述した第1例の構造に比べて、転動体11を設置した空間内への異物進入防止効果が優れている。その他の部分の構造及び作用は、上述した第1例と同様であるから、重複する説明は省略する。
【0024】
[実施の形態の第3例]
図3は、請求項1、2、4、5に対応する、本発明の実施の形態の第3例を示している。本例の場合には、内輪10aの軸方向外端部外周面に、軸方向内側に隣接する部分よりも外径が小さくなった、外周面側小径部25を設けている。そして、エンコーダ12bの内周縁部をこの外周面側小径部25に入り込ませて、この内周縁部と上記軸方向内側に隣接する部分とを軸方向に関して互いに重畳させている。又、上記エンコーダ12bの軸方向内側面内径寄り部分と、上記外周面側小径部25の奥に存在する段部26とを近接対向させている。この様な本例の場合には、上記エンコーダ12bの幅寸法を、前述した第1例及び上述した第2例のエンコーダ12、12aの幅寸法よりも大きくして、回転速度検出に関する信頼性を、より一層向上させられる。又、上記エンコーダ12bの内周縁部と上記内輪10aの表面との間に存在するラビリンスシールの長さを長くして、シール性能の向上を図れる。その他の部分の構造及び作用は、前述した第1例と同様であるから、重複する説明は省略する。
【0025】
[実施の形態の第4例]
図4も、請求項1、2、4、5に対応する、本発明の実施の形態の第4例を示している。本例の場合には、エンコーダ12cの内周縁の軸方向内半部の内径を軸方向外半部の内径よりも大きくして、この軸方向内半部に段部27を、全周に亙って形成している。この為、この段部27と、内輪10aの外端部外周面に設けた外周面側小径部25との間の中間部に、両側部分に比べて容積が大きくなった部分が存在する。この結果、上記エンコーダ12cの内周縁と上記内輪10aの外面との間のラビリンスシールの絞り回数を多くして、このラビリンスシールのシール性能を向上させる事ができる。従って本例の構造は、上述した第3例の構造に比べて、転動体11を設置した空間内への異物進入防止効果が優れている。その他の部分の構造及び作用は、上述した第3例と同様であるから、重複する説明は省略する。
【0026】
[実施の形態の第5例]
図5も、請求項1、2、4、5に対応する、本発明の実施の形態の第5例を示している。本例の場合には、エンコーダ12dの内周縁の軸方向内半部を、軸方向内側面に向かう程内径が大きくなる方向に傾斜した部分円すい状凹面としている。又、内輪10bの外端部外周面に形成した、外周面側小径部25の奥端部に存在する段部26aを、この内輪10bの中心に向かう程外径が大きくなる方向に傾斜した部分円すい状凸面としている。そして、上記エンコーダ12dの内周縁の軸方向内半部と上記段部26aとを近接対向させている。この様な本例の構造は、上記エンコーダ12dの内周縁部の軸方向位置が多少ずれた場合でも、上記軸方向内半部と上記段部26aとがすれにくい(ラビリンスシール部分の隙間厚さを同じとした場合、軸方向位置のずれに対する許容度が大きくなる)。その他の部分の構造及び作用は、前述した第3例と同様であるから、重複する説明は省略する。
【0027】
[実施の形態の第6例]
図6も、請求項1、2、4、5に対応する、本発明の実施の形態の第6例を示している。本例の場合には、エンコーダ12eの永久磁石17bを構成する高分子材料により、芯金16の内周縁部及び円筒部19の内周面を覆っている。本例の場合には、この構成により、ラビリンスシールの長さを長くして、シール性の向上を図っている。併せて、上記芯金16を、特に耐食性を持たない金属板により造った場合でも、この金属板が腐食する事を防止できる様にしている。その他の部分の構造及び作用は、前述した第5例と同様であるから、重複する説明は省略する。
【0028】
[実施の形態の第7例]
図7も、請求項1、2、4、5に対応する、本発明の実施の形態の第7例を示している。本例の場合には、内輪10cの端部外周面に形成した外周面側小径部25aの軸方向内半部に凹溝28を、全周に亙って形成している。又、エンコーダ12fの内周縁部を二股状に形成し、この内周縁部に凹溝24aを、全周に亙って形成している。そして、この内周縁部のうちでこの凹溝24aよりも軸方向外側部分を、上記外周面側小径部25aの軸方向外半部外周面に近接対向させている。一方、上記内周縁部のうちで上記凹溝24aよりも軸方向内側部分の内側面を、上記外周面側小径部25aの奥端部に存在する段部26bに近接対向させている。この様な本例の構造によれば、上記エンコーダ12fの内周縁と上記内輪10cの外面との間のラビリンスシールの絞り回数を多くすると共に、絞りの間に存在する空間の容積を大きくして、このラビリンスシールのシール性能を向上させる事ができる。その他の部分の構造及び作用は、前述した第5例と同様であるから、重複する説明は省略する。
【0029】
[実施の形態の第8例]
図8も、請求項1、2、4、5に対応する、本発明の実施の形態の第8例を示している。本例の場合には、エンコーダ12gの外側面の内径寄り部分に、外径側が深く、内径側が浅くなった凹溝23aを、全周に亙って形成している。この凹溝23aは、上記エンコーダ12gの外側面に付着してこの外側面を内径側に移動する異物を捕集し、この異物がこのエンコーダ12gの内周縁に迄達するのを防止する役目を有する。従って本例の構造は、上述した第7例の構造に比べて、転動体11を設置した空間内への異物進入防止効果が優れている。その他の部分の構造及び作用は、上述した第7例と同様であるから、重複する説明は省略する。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明を実施する場合に、エンコーダの被検出面(軸方向外側面)とセンサの検出部とを、他の部材を介する事なく、直接近接対向させる事が好ましい。この理由は、上記センサの検出部での磁気特性の変化を大きくしてこのセンサの出力信号の変化を大きくし、回転速度検出の信頼性向上を図り易い為である。但し、エンコーダの保護を図る為に、例えば図9に示す様に、エンコーダ12の被検出面を非磁性材製の被覆膜29により覆う事もできる。又は、この被覆膜29を省略する代わりに、或いはこの被覆膜29を設けると共に、内輪10に支持固定した非磁性材製のカバー30により、上記被検出面を覆う事もできる。この様な被覆膜29又はカバー30を設けた場合、この被検出面とセンサの検出部との間隔が大きくなる事が避けられない。この為、このセンサの出力信号の変化を確保する為には、上記エンコーダ12の被検出面から出入りする磁束の量を多くする必要がある。この磁束の量を多くする為には、上記エンコーダ12を、磁性粉を熱可塑性の合成樹脂により固めたプラスチック磁石とする事が考えられる。プラスチック磁石の場合には、ゴム磁石の場合に比べて磁性粉の量を多くできるので、上記磁束の量を多くし易い。尚、上記エンコーダ12と反対側に設けるシールリング31は、エンコーダを持たない、一般的なシールリングである。
【0031】
又、エンコーダとして使用する永久磁石は、ゴム磁石、プラスチック磁石に代えて、フェライト、希土類等の磁性粉と、オーステナイト系ステンレス鋼、錫等の非磁性金属の粉末とを混合して燒結した、燒結磁石を使用する事もできる。この様な燒結磁石製のエンコーダの形状は、図1〜8の何れかのエンコーダの形状(芯金と永久磁石とを合わせた形状)の如くする。この様な燒結磁石製のエンコーダは、外輪の端部に内嵌固定する。燒結磁石製のエンコーダは、靱性は低いが、内嵌固定時には圧縮応力が加わるのみで、亀裂に結び付く引っ張り応力は加わらない。従って、燒結磁石単体でも、必要とする強度を確保できる。この様な燒結磁石製のエンコーダは、図1〜8に示す様な態様でも、或いは図9に示す様な態様でも、何れも使用可能である。即ち、燒結磁石は、硬度が高い為、異物により損傷を受けにくく、図1〜8に示した態様で実施しても、被検出面が損傷を受ける可能性は低い。一方、被検出面から出入りする磁束の量を多くし易い為、上記被検出面の保護をより充実させるべく、図9に示した態様で実施しても、センサの検出部に達する磁束の量を確保し易い。
【符号の説明】
【0032】
1 ホーク
2 支持板
3 支持軸
4 転がり軸受
5a、5b、5c 内輪間座
6 ハブ
7 ホイール
8 エンコーダ付転がり軸受
9 外輪
10、10a、10b、10c 内輪
11 転動体
12、12a〜12g エンコーダ
13 外輪軌道
14 内輪軌道
15 保持器
16 芯金
17、17a、17b 永久磁石
18 円輪部
19 円筒部
20 環状凹部
21 内周面側大径部
22 段部
23、23a 凹溝
24、24a 凹溝
25、25a 外周面側小径部
26、26a、26b 段部
27 段部
28 凹溝
29 被覆膜
30 カバー
31 シールリング
32 係止部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に外輪軌道を有し使用時に回転する外輪と、外周面に内輪軌道を有し使用時にも回転しない内輪と、この内輪軌道と上記外輪軌道との間に転動自在に設けられた複数個の転動体と、上記外輪と共に回転する、軸方向外側面の磁気特性を円周方向に関して交互に変化させたエンコーダとを備え、このエンコーダの外周縁部は上記外輪の軸方向外端部に、この外輪との間のシール性を確保した状態で支持固定されており、上記エンコーダ自体の内周縁が上記内輪に対し、全周に亙り摺接若しくは近接対向しているエンコーダ付転がり軸受。
【請求項2】
エンコーダは、磁性金属板により全体を円輪状に造られた芯金と、この芯金の軸方向外側面に添設された、高分子材料中に磁性粉を分散させて成る永久磁石とを備え、上記芯金の外周縁に形成された円筒部が外輪の軸方向外端部内周面に、締り嵌めで内嵌固定されており、上記永久磁石の軸方向外側面にS極とN極とが、交互に配置されている、請求項1に記載したエンコーダ付転がり軸受。
【請求項3】
エンコーダが、燒結材料製で円輪状の永久磁石を含んで構成されており、この永久磁石の軸方向外側面にS極とN極とが、交互に配置されており、且つ、この永久磁石の内周縁が内輪の外周面に、全周に亙り近接対向している、請求項1に記載したエンコーダ付転がり軸受。
【請求項4】
外輪の軸方向外端部内周面に、軸方向内側に隣接する部分よりも内径が大きくなった内周面側大径部が設けられており、エンコーダの外周縁部がこの内周面側大径部に内嵌固定されている、請求項1〜3のうちの何れか1項に記載したエンコーダ付転がり軸受。
【請求項5】
内輪の軸方向外端部外周面に、軸方向内側に隣接する部分よりも外径が小さくなった外周面側小径部が設けられており、エンコーダの内周縁部がこの外周面側小径部に入り込んで、この内周縁部と上記軸方向内側に隣接する部分とが軸方向に関して互いに重畳している、請求項1〜4のうちの何れか1項に記載したエンコーダ付転がり軸受。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2012−137188(P2012−137188A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−83883(P2012−83883)
【出願日】平成24年4月2日(2012.4.2)
【分割の表示】特願2006−78837(P2006−78837)の分割
【原出願日】平成18年3月22日(2006.3.22)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】