説明

エンジン、トランスミッションおよび差動歯車機構

【解決手段】 オイルパン2は、クランクケース1の下端の開口部1Aに連結されており、オイルパン2よりも上方となるクランクケース1の内面1Bの位置まで潤滑油3が貯溜されている。オイルパン2は鋼製であり、他方、クランクケース1はアルミ合金製である。上記オイルパン2の内面2Bおよびクランクケース1の内面1Bは断熱材5で被覆されている。これにより、暖機時において潤滑油3の熱がオイルパン2およびクランクケース1へ放熱されないようになっている。
【効果】 暖機時においてオイルパン2内の潤滑油3が速やかに昇温されるので、燃費が良好なエンジンを提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエンジン、トランスミッションおよび差動歯車機構に関し、より詳しくは、例えばオイルパンとその周辺部材の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、暖機時にオイルパン内の潤滑油を昇温させる等のためにオイルパンに断熱材を設けたエンジンが提案されている(例えば特許文献1〜特許文献3)。
すなわち、特許文献1においては、放熱防止と騒音低減のためにオイルパンの外面を耐熱材で被覆するようにしている。また、特許文献2においては、オイルパン本体を外側からカバーで覆うとともに、それら両部材の間に断熱材を挟み込む構成を採用している。さらに、特許文献3においてもオイルパンを三層構造として、内側と外側の両金属部材層の間に中間層として断熱材を介在させるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭59−136521号公報
【特許文献2】特開2001−355422号公報
【特許文献3】特開2010−127090号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した従来のオイルパンは、金属製のオイルパン本体又は構成部材の外面を断熱材で被覆する構造となっているため、オイルパン内の潤滑油の熱は金属製のオイルパン本体あるいは構成部材へ放熱されるようになっている。
ところで、従来、エンジン始動後の暖機時においては、エンジン内の摺動部分の摩擦を低減させるために、オイルパン内の潤滑油を速やかに昇温させることが要望されている。しかしながら、従来のオイルパンは前述した構成となっているので、暖機時においてオイルパン内の潤滑油の熱がオイルパンに放熱されやすくなり、そのためにオイルパン内の潤滑油が速やかに昇温されないという欠点がある。
特にクランクケースが肉厚のアルミ合金製のエンジンであって、かつクランクケースの位置まで潤滑油を貯溜するエンジンにおいては、暖機時においてオイルパン内の潤滑油が昇温されにくい。これは、クランクケースがアルミ合金製で熱容量が大きいために、潤滑油の熱がクランクケースに放熱されやすいからである。そのために、アルミ合金製のエンジンにおいては、暖機時にオイルパン内の潤滑油の昇温に時間が掛かり、エンジン内の摺動部分は貧潤滑の状態となる。したがって、エンジン内の摺動部分の摩擦抵抗が大きくなり、ひいてはエンジンの燃費が低下するという欠点があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した事情に鑑み、請求項1に記載した第1の本発明は、クランクケースと、このクランクケースの下部に連結されて、内部に潤滑油が貯溜されるオイルパンとを備えたエンジンにおいて、
上記オイルパンの内面を断熱材によって被覆したものである。
次に請求項5に記載した第2の本発明は、変速用の複数の部材を収容したケーシングと、このケーシングの下部の開口部に連結されて、内部に潤滑油が貯溜されるオイルパンとを備えたトランスミッションにおいて、
上記オイルパンの内面を断熱材によって被覆したものである。
次に、請求項7に記載した第3の本発明は、差動歯車を収容するとともに内部に潤滑油が貯溜されるケーシングを備えた差動歯車機構において、
上記ケーシングの内面を断熱材によって被覆したものである。
【発明の効果】
【0006】
このような構成によれば、エンジン始動後の暖機時において、潤滑油の熱がオイルパン又はケーシングへ放熱されることを上記断熱材によって防止することができる。そのため、暖機時において潤滑油を速やかに昇温させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の一実施例を示す要部の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下図示実施例について本発明を説明すると、図1は自動車用エンジンの要部を示したものである。この図1において、1は上方部を省略して示したクランクケースであり、このクランクケース1の下部の開口部1Aに下方側から概略箱形のオイルパン2が液密を保持して連結されている。
クランクケース1における上方側の内部空間には、クランク軸4等の部材が収容されており、他方、オイルパン2とクランクケース1内の下方側の内部空間には潤滑油3が貯溜されている。本実施例においては、液面3Aがオイルパン2を越えてクランクケース1の内面1Bの高さとなる位置まで潤滑油3が貯溜されている。
上記クランクケース1はアルミ合金製であって、下端部が開口部2Aとなっており、他方、オイルパン2は鋼製であって、上方が開口した底の浅い箱形になっている。オイルパン2の上端部となる開口2Aが上記クランクケース1の開口部2Aに液密を保持して連結されている。
クランク軸4が回転されてエンジンが始動されると、オイルパン2およびクランクケース1内に貯溜された潤滑油3は、クランクケース1内等の摺動部分に供給されてそれらの摺動部分を潤滑するようになっている。
【0009】
しかして、本実施例は、上記クランクケース1の内面1Bおよびオイルパン2の内面2Bを断熱材5で被覆したことが特徴である。より詳細には、クランクケース1における内面1Bの全域は、断熱材5としてのセラミック微粒子を用いた断熱塗料が塗布されている。また、オイルパン2における内面2Bの全域も同様に断熱材5としてのセラミック微粒子を用いた断熱塗料が塗布されている。
本実施例においては断熱材5として断熱塗料を用いているが、この断熱塗料に含まれる各セラミック微粒子は、内部に空間がある中空のものを用いている。断熱塗料に含まれる全てのセラミック微粒子がそれぞれ中空であることが理想的である。しかしながら、セラミック微粒子の実際の製造工程を考慮すると、例えば全体で100%のセラミック微粒子の内に中実のセラミック微粒子や外面が破れて内部空間が露出した不完全なセラミック微粒子が含まれている断熱塗料を用いてもよい。また、敢えて全てが中空のセラミック微粒子が含まれる断熱塗料を用いる必要はなく、全てが中実のセラミック微粒子が含まれる断熱塗料を用いても良い。
なお、クランクケース1の外面1Cおよびオイルパン2の外面2Cには、断熱材5は設けておらず、従って、両部材の外面1C、2Cは素材であるアルミ合金或いは鋼材がそのまま露出している。
このように、クランクケース1およびオイルパン2は、内面1B、2Bの全域が断熱材5によって被覆されている。そのため、それらの内部に貯溜される潤滑油3は、金属製のクランクケース1およびオイルパン2と直接に接触しないようになっており、断熱材5によって潤滑油3の熱がクランクケース1およびオイルパン2へ伝熱するのを阻止されるようになっている。
【0010】
以上の構成において、エンジンが始動されて暖機運転が開始されると、オイルパン2内の潤滑油3が図示しない給油通路とオイルポンプを介してクランクケース1内の摺動部分に供給される。ここで、暖機運転開始によりオイルパン2内の潤滑油3は昇温されるがクランクケース1およびオイルパン2の内面1B、2B全域に断熱材5が設けられているので、潤滑油3の油温がクランクケース1およびオイルパン2へ伝熱するのは阻止される。
そのため、前述した従来のものと比較すると、本実施例の方が暖機運転開始後に速やかにオイルパン2内の潤滑油3が昇温し、その昇温した潤滑油3がエンジン内の摺動部分に供給されることになる。このように、速やかに昇温した潤滑油3がエンジン内の摺動部分に供給されるので、各摺動部分の摩擦抵抗や摩耗を抑制することができ、ひいてはエンジンの燃費を向上させることができる。
また、本実施例においては、既存のクランクケース1およびオイルパン2の内面1B、2Bに断熱材5(断熱塗料)を塗布すればよいので、新たな部材を追加することなく、簡略な構成によりエンジンの燃費の向上に寄与することができる。
【0011】
なお、上記実施例においては、クランクケース1およびオイルパン2における内面1B、2Bの全域を断熱材5で被覆しているが、潤滑油3の液面3Aがクランクケース1よりも下方に位置してオイルパン2の内面2Bの位置となる場合には、クランクケース1の内面1Bの断熱材5は省略しても良い。換言すると、オイルパン2の内面2Bだけに断熱材5を設けても良い。また、この場合には、潤滑油3と接触することがないオイルパン2の内面2Bの上方部も断熱材5を省略することが可能である。このような構成においても、上述した従来のオイルパンと比較して、エンジン始動後の暖機時における潤滑油の昇温を速やかに行うことができ、それにより、摺動部分における潤滑油の潤滑を行うことができる。したがって、上述した実施例と同様の作用・効果を得ることができる。
さらに、上述した実施例は本発明をエンジンのオイルパン2およびクランクケース1に適用した場合について説明したが、ここで図面は省略するが、本発明はトランスミッションにも適用することができる。つまり、変速用の部材を収容するケーシングと、このケーシングの下部開口に連結されて潤滑油を貯溜するオイルパンとを備えたトランスミッションにおいて、上述した実施例と同様にオイルパンの内面の全域を断熱材で被覆しても良い。
また、本発明は差動歯車機構のケーシングにも適用することができる。つまり、差動歯車を収容し、かつ潤滑油を貯溜したケーシングを備える差動歯車機構において、ケーシングの内面の全域を断熱材で被覆するようにしても良い。
【符号の説明】
【0012】
1‥クランクケース 1B‥内面
2‥オイルパン 2B‥内面
3‥潤滑油 5‥断熱材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランクケースと、このクランクケースの下部に連結されて、内部に潤滑油が貯溜されるオイルパンとを備えたエンジンにおいて、
上記オイルパンの内面を断熱材によって被覆したことを特徴とするエンジン。
【請求項2】
上記オイルパンよりも上方となる上記クランクケースの内面の位置まで潤滑油が貯溜されるように構成されたエンジンであって、
上記クランクケースの内面を断熱材によって被覆したことを特徴とする請求項1に記載のエンジン。
【請求項3】
上記断熱材はセラミック微粒子を用いた断熱塗料であって、上記オイルパンの内面に塗布されることを特徴とする請求項1に記載のエンジン。
【請求項4】
上記断熱材はセラミック微粒子を用いた断熱塗料であって、上記オイルパンの内面およびクランクケースの内面に塗布されることを特徴とする請求項2に記載のエンジン。
【請求項5】
変速用の複数の部材を収容したケーシングと、このケーシングの下部の開口部に連結されて、内部に潤滑油が貯溜されるオイルパンとを備えたトランスミッションにおいて、
上記オイルパンの内面を断熱材によって被覆したことを特徴とするトランスミッション。
【請求項6】
上記断熱材はセラミック微粒子を用いた断熱塗料であって、上記オイルパンの内面に塗布されることを特徴とする請求項5に記載のトランスミッション。
【請求項7】
差動歯車を収容するとともに内部に潤滑油が貯溜されるケーシングを備えた差動歯車機構において、
上記ケーシングの内面を断熱材によって被覆したことを特徴とする差動歯車機構。
【請求項8】
上記断熱材はセラミック微粒子を用いた断熱塗料であって、上記ケーシングの内面に塗布されることを特徴とする請求項7に記載の差動歯車機構。

【図1】
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【公開番号】特開2013−19309(P2013−19309A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−153067(P2011−153067)
【出願日】平成23年7月11日(2011.7.11)
【出願人】(000207791)大豊工業株式会社 (152)
【Fターム(参考)】