エンジンの排気還流制御装置
【課題】エンジン1の運転状態に応じて、燃焼室4の空燃比が目標値になるように、EGR弁24の開度を制御して、吸入空気量を調整するようにしたディーゼルエンジンの排気還流制御装置Aにおいて、空燃比制御の応答性を低下させることなく、その空燃比制御の不安定化に起因するする乗車フィーリングの悪化等を防止する。
【解決手段】エンジン1が定常運転状態にあって(S7)、吸気絞り弁14の開度THが設定開度TH0よりも小さいとき(S8)、EGR通路23の還流排ガスの流れが臨界状態になっていることを臨界状態判定手段35bにより判定し、そのとき、そうでないときよりもEGR弁24の作動速度が低くなるようにフィードバックゲインKを補正する(S10)第1補正手段35cを設ける。エンジン1が過渡運転状態にあれば、フィードバックゲインKを大きな値とする(S17)。
【解決手段】エンジン1が定常運転状態にあって(S7)、吸気絞り弁14の開度THが設定開度TH0よりも小さいとき(S8)、EGR通路23の還流排ガスの流れが臨界状態になっていることを臨界状態判定手段35bにより判定し、そのとき、そうでないときよりもEGR弁24の作動速度が低くなるようにフィードバックゲインKを補正する(S10)第1補正手段35cを設ける。エンジン1が過渡運転状態にあれば、フィードバックゲインKを大きな値とする(S17)。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、エンジンの吸気系に還流させる排ガス(排気)の流量をエンジンの運転状態に応じて調整するようにした排気還流制御装置に関する技術分野に属する。
【0002】
【従来の技術】従来より、この種のエンジンの排気還流制御装置として、例えば特開平8−144867号公報に開示されるように、ディーゼルエンジンの排気中の窒素酸化物(NOx)を減少させるために、吸気系への排ガス還流量を調整することによって間接的に燃焼室の空燃比(空気過剰率λ)を制御するようにしたものが知られている。
【0003】前記従来例のものでは、エンジンの吸気及び排気通路間を排気還流通路(以下EGR通路という)により互いに連通し、そのEGR通路の途中にアクチュエータにより作動される排気還流量調整弁(以下EGR弁という)を設けるとともに、排気通路に設けた空燃比センサからの出力信号に基づいて燃焼室の空気過剰率λを検出して、その検出される空気過剰率λがエンジンの運転状態に対応づけて設定されている目標値になるように、EGR弁を開閉作動させるようにしている。すなわち、EGR弁の開度を変更して排ガスの還流量を調整することにより、燃焼室への新気の吸入空気量を調整して燃焼室の空燃比を間接的に制御するようにしている。
【0004】ところで、ディーゼルエンジンの吸気通路には、通常、ガソリンエンジンのようなスロットル弁が設けられていないため、その吸気通路ではあまり大きな負圧は得られない。従って、排気通路の圧力(排気側圧力)と吸気通路の圧力(吸気側圧力)との圧力差によって還流される排ガスの流量を十分に多く確保するためには、EGR通路の直径やEGR弁の開口面積をガソリンエンジンに比べて大きくする必要がある。
【0005】特に、前記従来例の如く排ガスの還流量を調整することで空燃比を間接的に制御するようにしたものでは、エンジンのアイドリング時や低速定常運転時等の燃料噴射量の少ない運転状態で多量の排ガスを還流させる必要があるので、前記のようにEGR通路等を大型化した上で、さらに、例えば吸気通路に吸気絞り弁を設けて、これをエンジンのアイドリング時等に閉じることによって、吸気通路の負圧を強制的に大きく(吸気側圧力を低く)させることが行われている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかし、吸気絞り弁によって吸気通路の負圧を強制的に大きくさせるようにした場合には、吸排気通路間の圧力差がガソリンエンジンと同程度に大きくなることがある。そして、そうなると、EGR弁の開閉作動に伴い排ガスの還流量が過度に大きく変動してしまい、エンジンの空燃比制御が不安定化するという不具合を生じる。
【0007】詳しくは、図11に示すように、一般に、空気等の気体が管状の通路100を軸方向に流れるとき、流れの下流側の圧力Pdを上流側の圧力Puよりも徐々に低くしていくと、流れは上下流の圧力差Pu−Pdが増加するに従い徐々に速くなり、それとともに流量も増加する。しかし、前記通路100の断面積が最小になるスロート100aにおいて流れの速さは音速を超えることはできないので、そのスロート100aでの流速が音速に達した状態では、それ以上、下流側の圧力を下げても流速及び流量を増やすことはできない。このような現象はチョーキング現象と言われており、このとき管内の流れは臨界状態になっているという。また、このときの通路下流側圧力に対する上流側圧力の比を臨界圧力比といい、空気の臨界圧力比は1.893である。
【0008】このことから、前記エンジンのEGR通路における排ガスの流れについて考えると、まず、吸気通路で吸気絞り弁が閉じられていない状態では、吸気側圧力があまり低くならないので、EGR通路の上下流の圧力比は臨界圧力比よりも小さくなる。この状態では、EGR通路内の排ガスの流量はEGR弁の開口面積に応じて変化すると同時に、そのEGR弁の上下流間の差圧によっても変化することになり、例えば、排ガスの流量を増加させるためにEGR弁を開いても、弁の開口面積の増大によって流量が増大する反面、弁の上下流の差圧の減少によって流量が減少してしまうので、結果として排ガスの流量はあまり増加しない。言い換えると、この状態で十分な制御性を得るためには、排ガスの流量を調整するためのEGR弁の作動量及び作動速度をかなり大きく設定しなくてはならない。
【0009】一方、吸気絞り弁が閉じられて吸気側圧力が低下し、EGR通路の上下流の圧力比が臨界圧力比以上になると、EGR通路の流れは臨界状態になる。この状態では、EGR弁の開度が変わって弁の上下流の圧力差が変化しても、その変化によって流量は変化しないので、EGR弁の開口面積の増減に略比例して排ガスの還流量が変化するようになる。そのため、前記のようにEGR弁の作動量及び作動速度をかなり大きく設定していると、そのEGR弁の作動によって排ガスの還流量が過度に大きく変動し、結果、空燃比の目標値に対する収束性が低下するという制御の不安定化の問題が発生するのである。
【0010】そして、このようにしてエンジンの空燃比制御が不安定になると、空燃比の変動に伴いエンジンの出力トルクが変動するようになる。特にエンジンが定常運転状態になっているときには、車両の運転者は前記のエンジン出力の変動に起因して、前後方向に揺さぶられるような不快な振動を感じるようになり、乗車フィーリングの悪化という不具合が生じる。また、特にディーゼルエンジンの場合には、燃焼室の空燃比が過度にリッチな状態になると、部分的な不完全燃焼によるスモークの発生が急増するというエミッションの問題もある。
【0011】本発明は斯かる諸点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、エンジンの運転状態に応じて排ガスの還流量を調整するようにした排気還流制御装置において、排気還流通路における排ガスの流れが臨界状態になっているときの制御に工夫を凝らし、空燃比の変動に起因するする乗車フィーリングの悪化等を防止することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】前記の目的を達成すべく、本発明の解決手段では、排気還流通路における排ガスの流れが臨界状態になっているときとそうでない非臨界状態のときとで、排気還流量調整手段の調整作動に対する排ガス還流量の変化の度合が大きく異なることに着目し、前記臨界状態になっているときには、非臨界状態のときよりも排気還流量調整手段の調整速度を低くさせるようにした。
【0013】具体的に、請求項1の発明では、図1に示すように、エンジン1の吸気系10に排ガスの一部を還流させる排気還流通路23と、前記排気還流通路23における排気還流量を調整する排気還流量調整手段24と、エンジン1の運転状態に応じて前記排気還流量調整手段24を作動制御する排気還流制御手段35aとを備えたエンジンの排気還流制御装置Aを前提とする。そして、前記排気還流通路23の上流側である排気側圧力の吸気側圧力に対する圧力比が所定の臨界圧力比以上になっている臨界状態を判定する臨界状態判定手段35bと、該臨界状態判定手段35bにより臨界状態が判定されたとき、非臨界状態よりも前記排気還流量調整手段24の調整速度が低くなるように前記排気還流制御手段35aによる制御を補正する第1補正手段35cとを設ける構成とする。
【0014】前記の構成により、排気側圧力の吸気側圧力に対する圧力比が臨界圧力比以上になっていて、臨界状態判定手段35bにより臨界状態であると判定されたときには、非臨界状態よりも排気還流量調整手段24の調整速度が低くなるように、第1補正手段35cによって、排気還流制御手段35aによる制御が補正される。このことで、排気還流通路23における排ガスの流量を非臨界状態でも応答性よく調整できるように、排気還流量調整手段24の調整作動量や作動速度がかなり大きく設定されていても、排ガスの流れが臨界状態になったときには、前記排気還流量調整手段24の調整速度が低くなるように補正されるので、その調整作動に伴う排ガス還流量の過大な変動を抑制できる。よって、エンジン1の運転中に排ガス還流量の変動を抑制して空燃比制御の不安定化を防止でき、乗車フィーリングの悪化を防止することができる。
【0015】請求項2の発明では、第1補正手段は、エンジンが定常運転状態にあるときに排気還流制御手段による制御を補正する構成とする。すなわち、エンジンが定常運転状態にあるときには、排ガスの還流量の変動に起因するエンジン出力の変動によって車両の運転者が不快な振動を感じ易いので、排気還流量調整手段の調整速度を低くさせて排ガス還流量の変動を抑制することの作用効果が特に有効なものになる。
【0016】請求項3の発明では、エンジンが過渡運転状態にあるときに、排気還流量調整手段の調整速度が定常運転状態のとき以上になるように、排気還流制御手段による制御を補正する第2補正手段を設ける構成とする。このことで、運転者の操作に従ってエンジンの運転状態が大きく変化する過渡運転状態では、その変化に遅れないように空燃比制御の応答性を高めることができる。尚、過渡運転状態では、排ガス還流量が変動してエンジン出力が変動したとしても、車両の運転者が不快に感じることは少ない。
【0017】請求項4の発明では、排気還流制御手段は、燃焼室の空燃比が目標値になるように排気還流量調整手段をフィードバック制御するものとする。ここで、フィードバック制御のためのセンサとしては、例えば、エンジンの排気通路に空燃比センサを設けてこの空燃比センサの出力信号に基づいて燃焼室の空燃比を検出するようにすればよい。また、エンジンの吸気通路に吸入空気量を検出するエアフローセンサを設け、このエアフローセンサによって検出された吸入空気量と燃焼室への燃料噴射量とに基づいて、該燃焼室の空燃比を検出するようにしてもよい。
【0018】そして、この構成によると、排気還流制御手段は前記のようなセンサからの出力信号に基づいて排気還流量調整手段をフィードバック制御することで、燃焼室の空燃比を目標値になるように高精度に制御することができる。その反面、そのような高精度の空燃比制御がなされていると、排ガス還流量の変動によって空燃比制御が不安定化することによる悪影響が相対的に大きくなる。従って、このような構成において、排気還流量調整手段の作動速度を低くさせることで、空燃比制御の不安体化を防止できるという作用が極めて有効なものになる。
【0019】請求項5の発明では、第1及び第2補正手段は、それぞれ排気還流制御手段のフィードバックゲインを補正するものとする。このことで、第1及び第2補正手段による補正の内容が具体化される。
【0020】請求項6の発明では、排気還流通路の接続部よりも吸気上流側の吸気通路にターボ過給機のブロワが設けられ、前記排気還流通路の接続部よりも排気下流側の排気通路に前記ターボ過給機のタービンが設けられており、臨界状態判定手段は、前記ターボ過給機の過給圧が設定圧以下のときに臨界状態であると判定するものとする。
【0021】このことで、ターボ過給機の過給圧が判れば、そのときのタービン上流の排圧も推定できるので、排気還流通路の上下流の圧力比が検出できることになる。従って、ターボ過給機の過給圧が設定圧以下になっていれば、そのことから前記排気還流通路における排ガスの流れが臨界状態になっていることを判定できる。
【0022】請求項7の発明では、排気還流通路の接続部よりも吸気上流側の吸気通路に吸気絞り弁が配設されており、臨界状態判定手段は、前記吸気絞り弁の開度が設定開度以下のときに臨界状態であると判定する構成とする。このことで、排気還流通路よりも吸気上流側にある吸気絞り弁の開度が設定開度以下のときには、吸気側圧力が排気側圧力に比べて極めて低くなるので、そのことから、前記排気還流通路における排ガスの流れが臨界状態になっていることを判定できる。
【0023】請求項8の発明では、前記請求項7の発明において、排気還流通路の接続部よりも上流側の吸気通路にターボ過給機のブロワが配設されており、第1補正手段は、前記ターボ過給機による過給圧が設定圧よりも大きいときには、排気還流制御手段のフィードバックゲインを前記過給圧が設定圧以下のときに比べて大きくなるように補正するものとする。
【0024】このことで、吸気絞り弁の開度が設定開度以下になっていても、前記ターボ過給機による過給圧が設定圧よりも大きいときには、その過給によって吸気側圧力が高められるので、吸排気間の圧力比は臨界圧力比よりも小さくなることがある。そこで、この場合には、排気還流制御手段のフィードバックゲインを前記過給圧が設定圧以下のときに比べて大きくさせて、空燃比制御の応答性を高めるようにしており、これにより、ターボ過給機及び吸気絞り弁の作動状態に適切に対応することができる。
【0025】請求項9の発明では、エンジンをディーゼルエンジンとする。このことで、ディーゼルエンジンにおいて多量の排気還流に対応でき、その場合の空燃比制御の不安定下に伴うエミッション悪化の問題を解消できる。
【0026】
【発明の実施の形態】(全体構成)図1は本発明の実施形態に係るエンジンの排気還流制御装置Aの全体構成を示し、1は車両に搭載された多気筒ディーゼルエンジンである。このエンジン1は複数のシリンダ2,2,…(1つのみ図示する)を有し、その各シリンダ2内に往復動可能にピストン3が嵌挿されていて、このピストン3によって各シリンダ2内に燃焼室4が区画されている。また、燃焼室4の上面の略中央部には、インジェクタ5が先端部の噴孔を燃焼室4に臨ませて配設されていて、各シリンダ毎に所定の噴射タイミングで開閉作動されて、燃焼室4に燃料を直接噴射するようになっている。
【0027】前記各インジェクタ5は高圧の燃料を蓄える共通のコモンレール(蓄圧室)6に接続されていて、そのコモンレール6には、内部の燃圧(コモンレール圧)を検出する圧力センサ6aが配設されているとともに、クランク軸7により駆動される高圧供給ポンプ8が接続されている。この高圧供給ポンプ8は、圧力センサ6aにより検出されるコモンレール6内の燃圧が所定値以上(例えば、アイドル運転時に40MPa、それ以外の運転状態では80MPa以上)に保持されるように作動する。また、クランク軸7の回転角度を検出するクランク角センサ9が設けられており、このクランク角センサ9は、クランク軸7の端部に設けた被検出用プレート(図示せず)の外周に相対向するように配置され電磁ピックアップからなり、前記被検出用プレートの外周部全周に亘って形成された突起部の通過に対応してパルス信号を出力するようになっている。
【0028】また、10はエンジン1の燃焼室4に対し図外のエアクリーナで濾過した吸気(空気)を供給する吸気通路であり、この吸気通路10の下流端部は、図示しないサージタンクを介してシリンダ毎に分岐して、それぞれ吸気ポートにより各シリンダ2の燃焼室4に接続されている。また、サージタンク内で各シリンダ2に供給される過給圧力を検出する過給圧センサ10aが設けられている。前記吸気通路10には上流側から下流側に向かって順に、エンジン1に吸入される吸気流量を検出するエアフローセンサ11と、後述のタービン21により駆動されて吸気を圧縮するブロワ12と、このブロワ12により圧縮した吸気を冷却するインタークーラ13と、吸気通路10の断面積を絞る吸気絞り弁14とがそれぞれ設けられている。この吸気絞り弁14は、全閉状態でも吸気が流通可能なように切り欠きが設けられたバタフライバルブからなり、後述のEGR弁24と同様、ダイヤフラム15に作用する負圧の大きさが負圧制御用の電磁弁16により調整されることで、弁の開度が制御されるようになっている。
【0029】前記エアフローセンサ11は、流速変動があっても空気流量を確実にとらえることのできる定温度型ホットフィルム式エアフローセンサであり、図示しないが、吸気通路10に吸気流れ方向と直交するように配されたヒータと、このヒータを挟んで上流側と下流側とに配置されたホットフィルムとを備えていて、両ホットフィルムの温度の高低に基づいて、吸気通路10を下流側(各シリンダ2の側)に向かう正方向流及び上流側に向かう逆流をそれぞれ検出するものである。このエアフローセンサ11による計測値に基づいて、正方向の空気流量のみを計測することができ、排気還流量の制御に逆流による誤差が入ることを避けることができる。
【0030】また、図1において20は各シリンダ2の燃焼室4から排ガスを排出する排気通路で、この排気通路20の上流端部は分岐してそれぞれ図示しない排気ポートにより各シリンダ2の燃焼室4に接続されている。この排気通路20には、上流側から下流側に向かって順に、排ガス中の酸素濃度を検出するO2センサ17と、排ガス流により回転されるタービン21と、排ガス中のHC、CO及びNOx並びにパティキュレートを浄化可能な触媒コンバータ22とが配設されている。
【0031】前記タービン21及びブロワ12からなるターボ過給機25は、図2に示すように、タービン21を収容するタービン室21aに該タービン21aの全周を囲むように複数のフラップ21b,21b,…が設けられ、その各フラップ21bが排気流路のノズル断面積Aを変化させるように回動するVGT(バリアブルジオメトリーターボ)である。このVGTの場合、同図(a)に示すように、フラップ21b,21b,…をタービン21に対し周方向に向くように位置付けてノズル断面積Aを小さくすることで、排気流量の少ないエンジン1の低回転域でも過給効率を高めることができる。一方、同図(b)に示すように、フラップ21b,21b,…をその先端がタービン21の中心に向くように位置付けて、ノズル断面積Aを大きくすることで、排気流量の多いエンジン1の高回転域でも過給効率を高めることができる。
【0032】前記排気通路20は、タービン21よりも上流側の部位で、排ガスの一部を吸気側に還流させる排気還流通路(以下EGR通路という)23の上流端に分岐接続されている。このEGR通路23の下流端は吸気絞り弁14よりも吸気下流側の吸気通路10に接続されており、そのEGR通路23の途中の下流端寄りには、開度調整可能な負圧作動式の排気還流量調整弁(以下EGR弁という)24が配置されている。そして、前記EGR通路23を流れる排ガスに対して上流側である排気通路20の圧力(以下排気側圧力という)と下流側である吸気通路10の圧力(以下吸気側圧力という)との間の圧力差によって前記排気通路20から吸い出した排ガスの一部を、EGR弁24により流量調整しながら吸気通路10に還流させるようになっている。
【0033】前記EGR弁24は、図3に示すように、弁箱を仕切るダイヤフラム24aに弁棒24bが固定され、この弁棒24bの両端にEGR通路23の開度をリニアに調整する弁本体24cとリフトセンサ26とが設けられている。前記弁本体24cはスプリング24dによって閉方向(図の下方)に付勢されている一方、弁箱の負圧室(ダイヤフラム24aよりも上側の室)には負圧通路27が接続されている。この負圧通路27は、負圧制御用の電磁弁28を介してバキュームポンプ(負圧源)29に接続されており、電磁弁28が後述のECU35からの制御信号によって負圧通路27を連通・遮断することによって、負圧室のEGR弁駆動負圧が調整され、それによって、弁本体24cによりEGR通路23の開度がリニアに調整されるようになっている。
【0034】尚、前記ターボ過給機25のフラップ21b,21b,…にもEGR弁24と同様にダイヤフラム30が取り付けられていて、負圧制御用の電磁弁31によりダイヤフラム30に作用する負圧が調整されることで、前記フラップ21b,21b,…の作動量が調整されるようになっている。
【0035】前記各インジェクタ5、高圧供給ポンプ8、吸気絞り弁14、EGR弁24、ターボ過給機25のフラップ21b,21b,…等はコントロールユニット(Electronic Contorol Unit:以下ECUという)35からの制御信号によって作動するように構成されている。一方、このECU35には、前記圧力センサ6aからの出力信号と、クランク角センサ9からの出力信号と、エアフローセンサ11からの出力信号と、O2センサ17からの出力信号と、EGR弁24のリフトセンサ26からの出力信号と、車両の運転者による図示しないアクセルペダルの操作量(アクセル開度)を検出するアクセル開度センサ32からの出力信号とが少なくとも入力されている。
【0036】(制御システムの全体構成)前記ECU35におけるエンジン制御の基本的な処理の概要は図4のブロック図に示されており、アクセル開度に基づいて基本となる燃料噴射量を決定するとともに、EGR弁24の作動によりEGR率を調整して、各シリンダの空燃比を均一かつ高精度に制御するようにしている。前記EGR率は全排気量中の還流される排ガス量(EGR量)の割合をいう。
【0037】EGR率=EGR量/全排気量具体的に、前記ECU35には、アクセル開度accel及びエンジン回転数Neの変化における、実験的に決定された最適な目標トルクtrqsolを記録した二次元マップ36と、エンジン回転数Ne、目標トルクtrqsol及び新気量(吸入空気量のことであり燃料を含まない。以下、同じ。)FAirの変化における、実験的に決定された最適な目標燃料噴射量Fsolを記録した三次元マップ37と、エンジン回転数Neと目標トルクtrqsolの変化における、実験的に決定された最適な目標空燃比A/Fsolを記録した二次元マップ38とがそれぞれメモリ上に電子的に格納されている。
【0038】前記目標空燃比A/FsolがNOxの低減とスモークの低減とを両立させるための排ガスの還流量を決定する基準となるものである。すなわち、図5にディーゼルエンジンの空燃比と排気中のNOx量との関係を例示するように、空燃比が上昇するとNOx量が増大する傾向があるので、排気還流量を多くして空燃比を下げれば(リッチ側にする)NOxの発生を少なくできる。
【0039】しかし、図6に例示すように、同じエンジンの空燃比と排気中のスモーク値との関係に依れば、空燃比がリッチ側に変化してある空燃比以下になると、スモーク量が急に増大することが分かる。従って、排ガスの還流量を多くするにも限界があるので、この実施形態では、排ガス中のNOx量の低減とスモーク量の増大抑制との両立を図るために、目標とする空燃比をNOxの低減が図れるようにできるだけリッチ側であってかつスモーク量が急増し始める手前の値に定めている。
【0040】■燃料噴射制御すなわち、まず、アクセル開度センサ32により検出されたアクセル開度accelとクランク角センサ9により検出されたエンジン回転数Neとを用いて、目標トルク演算部41において前記メモリ上の二次元マップ36を参照して目標トルクtrqsolを決定する。この目標トルクtrqsolと、エアフローセンサ11によって計測された新気量FAirとエンジン回転数Neとを用いて、目標噴射量演算部42において前記メモリ上の三次元マップ37を参照して目標噴射量Fsolを決定する。そして、この目標噴射量Fsolと後述の如く制御されたコモンレール圧力CRPとに基づいて、各インジェクタ5の励磁時間を決定し、それぞれ制御する。
【0041】■排気還流制御一方、前記目標トルク演算部41において求められた目標トルクtrqsolとエンジン回転数Neとを用いて、目標空燃比演算部43においてメモリ上の二次元マップ38を参照して、前記のNOx及びスモークの両立を図るための目標空燃比A/Fsolを決定する。そして、この目標空燃比A/Fsolと前記目標噴射量演算部42において求められた目標噴射量Fsolとを用いて、目標新気量演算部44において目標新気量FAsolを算出し(FAsol=Fsol×A/Fsol)、この目標新気量FAsolを目標として、新気量制御部45において新気量制御を行う。この新気量制御は、詳しくは後述するが、新気供給量自体を直接調整するのではなく、排ガスの還流量を調整することによって新気量を変化させるというものである。つまり、新気の補正量を決定するのではなく、まず、目標とする新気量FAsolに基づいてEGR弁24の基本動作量EGRbaseを決定し、これをさらに新気量の偏差FAsol−FAirに応じてフィードバック補正して、EGR弁24の動作量EGRsolを決定し、その動作量EGRsolに対応するようにEGR弁の開度を制御する。
【0042】■コモンレール圧制御また、ECU35には、目標トルクtrqsol及びエンジン回転数Neの変化における、実験的に決定された最適なコモンレール圧力CRPsolを記録した二次元マップ50がメモリ上に電子的に格納して備えられており、前記目標トルク演算部41において得られた目標トルクtrqsolとエンジン回転数Neとを用いて、コモンレール圧力演算部46において当該マップ50を参照して目標コモンレール圧力CRPsolを演算し、これを用いてコモンレール圧力を制御する。
【0043】■吸気絞り弁制御また、ECU35には、目標燃料噴射量Fsol及びエンジン回転数Neの変化における、実験的に決定された最適な目標吸気絞り量THsolを記録した二次元マップ51をメモリ上に電子的に格納して備えており、前記目標噴射量演算部42において得られた目標噴射量Fsolとエンジン回転数Neとを用いて、目標吸気絞り量演算部47において当該マップ51を参照して目標吸気絞り量THsolを演算し、これを用いて吸気絞り弁14の開度を制御する。
【0044】■VGT制御さらに、ECU35には、目標トルクtrqsol及びエンジン回転数Neの変化における、実験的に決定された最適な目標過給圧力Boostsolを記録した二次元マップ52をメモリ上に電子的に格納して備えており、前記目標トルク演算部41において得られた目標トルクtrqsolとエンジン回転数Neとを用いて、目標過給圧力演算部48において当該マップ52を参照して目標過給圧力Boostsolを演算する。そして、この目標過給圧力Boostsolと過給圧センサ10aにより検出された吸気絞り弁14下流の吸気通路10の吸気圧力Boostとを用いて、過給圧力制御部49において、吸気圧力Boostが目標過給圧力Boostsolになるようなターボ過給機25のフラップ21b,21b,…の開度(作動制御量)VGTsolを演算し、これを用いてフラップ21b,21b,…を適正な開度になるように制御する。
【0045】(燃料噴射制御)次に、前記ECU35による燃料噴射制御の処理手順を図7に示すフローチャート図に基づいて具体的に説明する。この制御はメモリ上に電子的に格納された制御プログラムに従い、クランク角センサ9からの出力信号に同期して所定クランク角毎に実行される。
【0046】まず、同図に示すスタート後のステップT1において、エアフローセンサ11によって検出された新気の吸入空気量FAir、クランク角から求められたエンジン回転数Ne、アクセル開度accel、等のデータが入力される。続いて、ステップT2では、アクセル開度accel及びエンジン回転数Neに基づいて目標トルクtrqsolを演算し、ステップT3では、その目標トルクtrqsol、エンジン回転数Ne及び吸入空気量(新気量)FAirに基づいて、目標噴射量Fsolを演算する。
【0047】続いて、ステップT4において、前記目標噴射量Fsolと圧力センサ6aにより検出されたコモンレール圧力CRPとに基づいて決定された各インジェクタ5の励磁時間に対応する燃料噴射時期であるか否かを判別し、燃料噴射時期でないnoのときには待機し、その燃料噴射時期になれば(yes)、ステップT5に進んで、インジェクタ5を駆動して燃料噴射を実行し、しかる後にリターンする。
【0048】(排気還流制御)本発明の特徴部分は、上述の如く、排ガスの還流量を制御して吸入空気量を調整することで、燃焼室4の空燃比を間接的に制御するようにしたディーゼルエンジンにおいて、EGR弁24の制御におけるフィードバックゲインをEGR通路23における排ガスの還流状態に応じて補正するようにしたことにある。
【0049】次に、前記ECU35による排気還流制御の処理手順を図8に示すフローチャート図に基づいて具体的に説明する。この制御はメモリ上に電子的に格納された制御プログラムに従って所定間隔毎に実行される。
【0050】まず、同図に示すスタート後のステップS1において、エアフローセンサ11によって検出された新気の吸入空気量FAir、クランク角から求められたエンジン回転数Ne、アクセル開度accel、過給圧センサ10aによって検出された吸気圧力Boost、及び前記の燃料噴射制御において演算された(図7のステップT3)目標噴射量Fsol等のデータが入力される。続いて、ステップS2では、アクセル開度accel及びエンジン回転数Neに基づいて目標トルクtrqsolを演算し、ステップS3では、その目標トルクtrqsol及びエンジン回転数Neに基づいて目標空燃比A/Fsolを演算する。続いて、ステップS4では、その目標空燃比A/Fsol及び目標噴射量Fsolに基づいて、吸入空気量の目標値である目標新気量FAsolを演算する。
【0051】続いて、ステップS5において、前記目標新気量FAsolに基づいてEGR弁24の基本動作量EGRbaseを演算する。この基本動作量EGRbaseは、目標新気量FAsolに対応する値を実験的に決定して記録したマップがECU35のメモリ上に電子的に格納されており、前記ステップS4で求めた目標新気量FAsolに対応する値が当該マップから読み込まれる。続いて、ステップS6では、前記ステップS4で求めた目標新気量FAsolに対する実際の吸入空気量FAirの偏差FAsol−FAirに基づいて、EGR弁24のフィードバック動作量EGRf/bを演算する。
【0052】このフィードバック動作量EGRf/bは、図9に例示するように、新気量の偏差FAsol−FAirに対応する値を実験的に決定して記録したマップ54がECU35のメモリ上に電子的に格納されており、当該マップから読み込まれるようになっている。このマップ54によれば、新気量の偏差FAsol−FAirの絶対値が僅かな間はフィードバック動作量EGRf/bが零とされる不感帯が設けられている一方、その偏差FAsol−FAirの絶対値が大きいほど、その偏差FAsol−FAirを減らす向きのフィードバック動作量EGRf/bが大きくなるように設定されている。
【0053】前記ステップS6に続いて、ステップS7において、インジェクタ5からの燃料噴射量Fの変化量ΔF、即ち今回の制御サイクルにおける目標噴射量Fsolの前回値からの変化量が、あらかじめ設定した基準値ΔF0よりも小さいか否かを判別する。そして、基準値以上のnoのときには、エンジン1が過渡運転状態になっていると判定してステップS17に進む一方、基準値よりも大きいyesのときには、エンジン1が定常運転状態になっていると判定してステップS8に進み、このステップS8において、吸気絞り弁14の開度THが設定開度TH0よりも小さいか否かを判定する。
【0054】この設定開度TH0は吸気絞り弁14が全閉状態の近くまで閉じられている状態に対応するように設定されており、吸気絞り弁14の開度THが設定開度よりも小さいyesのときには、その吸気絞り弁14により吸入空気量がかなり絞られていて、吸気通路10の負圧がかなり大きくなっている(吸気側圧力がかなり低くなっている)と判定して、ステップS9に進む。一方、吸気絞り弁14の開度THが設定開度以上でnoのときには、吸気通路10の負圧はあまり大きくないと判定して、ステップS14に進む。
【0055】前記ステップS9では、今度は、ターボ過給機25の過給圧、即ち過給圧センサ10aにより検出された吸気圧力Boostが設定圧力Boost0よりも小さいか否かを判定して、吸気圧力Boostが設定圧力よりも小さいyesのときには、ステップS10に進み、排気還流制御のフィードバックゲインKを最小の設定値Kaとする一方、吸気圧力Boostが設定圧力以上でnoのときには、ステップS11に進んで、排気還流制御のフィードバックゲインKを2番目に小さな設定値Kb(Ka<Kb)とする。
【0056】そして、前記ステップS10又はS11に続いて、ステップS12では、EGR弁24の基本動作量EGRbase、フィードバック動作量EGRf/b、及びフィードバックゲインKに基づいて、EGR弁24の動作量EGRsolを演算し、続くステップS13において、EGR弁24を動作量EGRsolに対応する開度になるように駆動して、しかる後にリターンする。
【0057】つまり、吸気絞り弁14の開度THが設定開度TH0よりも小さいときには、吸気通路10の圧力、即ちEGR通路23における還流排ガスの下流側である吸気側圧力が極めて低くなっていて、EGR通路23における還流排ガスの上流側である排気側圧力の前記吸気側圧力に対する圧力比がいわゆる臨界圧力比以上になっていると判定する。そして、このことから前記EGR通路23における還流排ガスの流れが臨界状態になっていると判定し、排気還流制御のフィードバックゲインKを最小の設定値Kaとして、フィードバック制御の安定化を図るようにしている。
【0058】また、そのように吸気絞り弁14の開度THが設定開度TH0以下になっていても、ターボ過給機25による過給圧が大きく、吸気通路10の吸気圧力Boostが設定圧Boost0よりも大きいときには、吸排気間の圧力比は臨界圧力比よりも小さくなることがあるので、この場合には、排気還流制御のフィードバックゲインKを前記最小の設定値Kaよりも大きな値Kbに設定している。このことで、ターボ過給機25の作動状態に応じて空燃比制御の応答性を適切に設定できる。
【0059】これに対し、前記ステップS8で、吸気絞り弁14の開度THが設定開度以上でnoと判定されて進んだステップS14では、ステップS9と同様に、ターボ過給機25の過給圧が設定圧力Boost1(Boost1>Boost0)よりも小さいか否かを判定する。そして、その判定が設定圧力よりも小さいyesのときには、ステップS15に進み、排気還流制御のフィードバックゲインKを前記Ka,Kbよりも大きな設定値Kcとして、前記ステップS12,S13に進む一方、吸気圧力Boostが設定圧力以上でnoのときには、ステップS16に進み、排気還流制御のフィードバックゲインKを最大の設定値Kd(Kc<Kd)とする。そして、前記ステップS12,S13に進んで、それぞれ、EGR弁24の動作量EGRsolを演算し、EGR弁24を駆動して、しかる後にリターンするつまり、吸気絞り弁14の開度THが設定開度以上のときには、吸気通路10の圧力があまり低くはならないので、EGR通路24における還流排ガスの流れは臨界状態になっていないと判定する。そしてこの場合には、制御の不安定化の心配がないので、フィードバックゲインKを十分に大きな値Kc,Kdに設定して、排気還流制御の応答性を高めるようにしている。
【0060】また、前記ステップS7で、燃料噴射量Fの変化量ΔFに基づいて、エンジン1が過渡運転状態になっている(ステップS7でno)と判定して進んだステップS17では、前記ステップS16と同様にフィードバックゲインKを最大の設定値Kdとし、前記ステップS12,S13に進んで、EGR弁24の駆動を実行して、しかる後にリターンする。つまり、エンジン1が過渡運転状態にあるときには、フィードバックゲインKを最大の設定値Kdとして、排気還流制御の応答性を特に高めるようにしている。尚、過渡運転状態におけるフィードバックゲインを定常状態における最大の設定値Kdよりも大きな値に設定するようにしてもよい。
【0061】この実施形態では、前記図8に示すフローチャート図において、ステップS1〜S5の各ステップが、エンジン1の運転状態に応じてEGR弁(排気還流量調整手段)24を作動制御する排気還流制御手段35aに対応している。また、ステップS8及びS9の各ステップが、EGR通路(排気還流通路)23の上流側である排気側圧力の吸気側圧力に対する圧力比が、所定の臨界圧力比以上になっている臨界状態を判定する臨界状態判定手段35bに対応している。
【0062】さらに、ステップS10が、前記臨界状態判定手段35bにより臨界状態が判定されたとき、非臨界状態よりもEGR弁24の調整速度が低くなるように排気還流制御手段35aによる制御を補正する第1補正手段35cに対応している。また、ステップS7及びS17の各ステップは、エンジン1が過渡運転状態にあるときに、定常運転状態のときよりもEGR弁24の調整速度が高くなるように排気還流制御手段35aによる制御を補正する第2補正手段に対応している。
【0063】したがって、この実施形態に係るエンジンの排気還流制御装置Aによれば、エンジン1が定常運転状態になっていて、かつエンジン1の吸気通路10に配設されている吸気絞り弁14の開度THが設定開度以上のときには、EGR通路23における排ガスの流れが臨界状態になっていないと判定し、排気還流制御のフィードバックゲインKを相対的に大きな値Kc,Kdとすることで、排ガス還流量の制御によるエンジン1の空燃比制御の応答性を高めている。
【0064】また、前記吸気絞り弁14の開度THが設定開度よりも小さいときには、EGR通路23における排ガスの流れが臨界状態になっていることを臨界状態判定手段35bによって判定し、排気還流制御のフィードバックゲインKを第1補正手段35cによって相対的に小さな値Ka,Kbに補正することで、EGR弁24の作動による排ガス還流量の過大な変動を抑制し、エンジン1の運転中に空燃比が変動して乗車フィーリングが悪化することを防止できる。このことは、エンジン1の出力トルクの変動によって運転者が不快な振動を感じ易い定常運転状態において、特に有効な作用効果を奏する。
【0065】さらに、この実施形態では、ディーゼルエンジン1において、吸気通路10に設けたエアフローセンサ11からの出力信号に基づいて、燃焼室4の空燃比を高精度にフィードバック制御しており、しかも、その空燃比の制御目標値は、排ガス中のNOx低減とスモーク増大の抑制とを両立できるような値に設定している。そのため、そのような高精度の空燃比制御がなされているので、排ガス還流量の変動によって空燃比制御が不安定化することによる悪影響は相対的に大きくなると考えられる。また、特にディーゼルエンジン1においては、排ガス還流量の変動によって空燃比が目標値よりもリッチ状態になったときにスモーク量が急増するという悪影響が懸念される。従って、このようなものにおいて、排気還流制御のフィードバックゲインKを補正することによって空燃比制御の不安体化を防止できるという作用効果は極めて有効なものになる。
【0066】加えて、この実施形態では、エンジン1が過渡運転状態にあるときには、排気還流制御のフィードバックゲインKを第2補正手段35dによって最大の設定値Kdに補正するようにしており、このことで、運転者の操作に従ってエンジン1の運転状態が大きく変化する過渡運転状態では、その変化に遅れないように空燃比制御の応答性を十分に高めることができる。尚、過渡運転状態では、排ガス還流量が変動してエンジン出力が変動したとしてても、車両の運転者が不快に感じることは少ないので、問題はないと考えられる。
【0067】(他の実施形態)本発明は前記各実施形態に限定されるものではなく、その他の種々の実施形態を包含するものである。すなわち、前期実施形態では、エンジン1の吸気通路10に配設した吸気絞り弁14の開度に基づいて、EGR通路23内の流れが臨界状態になっていることを判定するようにしているが、これに限るものではない。すなわち、例えば前記吸気絞り弁14が設けられていないエンジンにおいて、ターボ過給機25の過給圧が分かれば、そのときのタービン21の上流の排圧も推定できるので、EGR通路23の上下流の圧力比が分かることになる。従って、ターボ過給機25の過給圧のみに基づいてEGR通路23における排ガスの流れが臨界状態になっていることを判定するようにしてもよい。
【0068】また、前期実施形態では、排気還流制御のフィードバックゲインKとして、予め異なる4つの値(Ka<Kb<Kc<Kd)を設定しておいて、その中から吸気絞り弁14の開度及びターボ過給機25の過給圧に応じて選択するようにしているが、これに限らず、例えば図10に示すように、フィードバックゲインKの値を、過給圧すなわち吸気側圧力と排圧すなわち排気側圧力との比に対応づけて実験的に記録したマップを備えるようにし、吸気圧力センサ10aにより検出される過給圧と、その過給圧から推定される排圧とに基づいて、当該マップから読み出して設定するようにしてもよい。また、前記の排圧は直接センサ等により検出するようにしてもよい。
【0069】さらに、この実施形態に係る排気還流制御装置をディーゼルエンジン1ではなく、燃焼室にガソリンを直接、噴射供給するようにしたいわゆる直噴ガソリンエンジンに適用することも可能である。
【0070】
【発明の効果】以上説明した如く、請求項1の発明によると、排気還流通路における還流排ガスの流れが臨界状態になったとき、そうでないときよりも排気還流量調整手段の調整速度が低くなるように、排気還流制御手段による制御を第1補正手段によって補正するようにしたので、排ガスの還流量の調整による空燃比制御の応答性を低下させることなく、前記の臨界状態になったときの排気還流量調整手段の調整作動に伴う排ガス還流量の過大な変動を抑制して、空燃比制御の不安定化に伴う乗車フィーリングの悪化を防止することができる。
【0071】請求項2の発明によると、エンジン出力の変動によって運転者が不快な振動を感じ易い定常運転状態において、排ガス還流量の変動を抑制することの作用効果が特に有効なものになる。
【0072】請求項3の発明によると、運転者の操作に従ってエンジンの運転状態が大きく変化する過渡運転状態において、その変化に遅れないように空燃比制御の応答性を高めることができる。
【0073】請求項4の発明によると、高精度の空燃比制御がなされているものにおいて、排気還流量調整手段の作動速度を低くさせて空燃比制御の不安体化を防止できるという作用効果が極めて有効なものになる。
【0074】請求項6の発明によると、ターボ過給機の過給圧に基づいて、排気還流通路における排ガスの流れが臨界状態になっていることを判定できる。
【0075】請求項7の発明によると、エンジンの吸気通路に配設された吸気絞り弁の開度に基づいて、排気還流通路における排ガスの流れが臨界状態になっていることを判定できる。
【0076】請求項8の発明によると、排気還流制御手段のフィードバックゲインをターボ過給機の過給圧及び吸気絞り弁の開度に応じて適切に設定することができる。
【0077】請求項9の発明によると、ディーゼルエンジンにおいて多量の排気還流に対応でき、その場合の空燃比制御の不安定下に伴うエミッション悪化の問題を解消できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態に係るエンジンの排気還流制御装置の全体構成を示す図である。
【図2】ターボ過給機の一部を、A/R小の状態(a)、又はA/R大の状態(b)でそれぞれ示す説明図である。
【図3】EGR弁及びその駆動系の構成図である。
【図4】エンジンの制御系の全体構成図である。
【図5】空燃比とNOx排出量との関係を示すグラフ図である。
【図6】空燃比とスモーク値との関係を示すグラフ図である。
【図7】燃料噴射制御の処理手順を示すフローチャート図である。
【図8】排気還流制御の処理手順を示すフローチャート図である。
【図9】フィードバック動作量を空燃比の偏差に対応するように設定したマップ図である。
【図10】フィードバックゲインの値を過給圧と排圧との圧力比に対応するように設定したマップ図である。
【図11】スロートを有する管状の通路を流れる気体を示す説明図である。
【符号の説明】
A エンジンの排気還流制御装置
1 ディーゼルエンジン
10 吸気通路
13 ブロワ
14 吸気絞り弁(吸気抑制手段)
20 排気通路
21 タービン
23 EGR通路(排気還流通路)
24 EGR弁(排気還流量調整手段)
25 ターボ過給機
35 ECU(コントロールユニット)
35a 排気還流制御手段
35b 臨界状態判定手段
35c 第1補正手段
35d 第2補正手段
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、エンジンの吸気系に還流させる排ガス(排気)の流量をエンジンの運転状態に応じて調整するようにした排気還流制御装置に関する技術分野に属する。
【0002】
【従来の技術】従来より、この種のエンジンの排気還流制御装置として、例えば特開平8−144867号公報に開示されるように、ディーゼルエンジンの排気中の窒素酸化物(NOx)を減少させるために、吸気系への排ガス還流量を調整することによって間接的に燃焼室の空燃比(空気過剰率λ)を制御するようにしたものが知られている。
【0003】前記従来例のものでは、エンジンの吸気及び排気通路間を排気還流通路(以下EGR通路という)により互いに連通し、そのEGR通路の途中にアクチュエータにより作動される排気還流量調整弁(以下EGR弁という)を設けるとともに、排気通路に設けた空燃比センサからの出力信号に基づいて燃焼室の空気過剰率λを検出して、その検出される空気過剰率λがエンジンの運転状態に対応づけて設定されている目標値になるように、EGR弁を開閉作動させるようにしている。すなわち、EGR弁の開度を変更して排ガスの還流量を調整することにより、燃焼室への新気の吸入空気量を調整して燃焼室の空燃比を間接的に制御するようにしている。
【0004】ところで、ディーゼルエンジンの吸気通路には、通常、ガソリンエンジンのようなスロットル弁が設けられていないため、その吸気通路ではあまり大きな負圧は得られない。従って、排気通路の圧力(排気側圧力)と吸気通路の圧力(吸気側圧力)との圧力差によって還流される排ガスの流量を十分に多く確保するためには、EGR通路の直径やEGR弁の開口面積をガソリンエンジンに比べて大きくする必要がある。
【0005】特に、前記従来例の如く排ガスの還流量を調整することで空燃比を間接的に制御するようにしたものでは、エンジンのアイドリング時や低速定常運転時等の燃料噴射量の少ない運転状態で多量の排ガスを還流させる必要があるので、前記のようにEGR通路等を大型化した上で、さらに、例えば吸気通路に吸気絞り弁を設けて、これをエンジンのアイドリング時等に閉じることによって、吸気通路の負圧を強制的に大きく(吸気側圧力を低く)させることが行われている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかし、吸気絞り弁によって吸気通路の負圧を強制的に大きくさせるようにした場合には、吸排気通路間の圧力差がガソリンエンジンと同程度に大きくなることがある。そして、そうなると、EGR弁の開閉作動に伴い排ガスの還流量が過度に大きく変動してしまい、エンジンの空燃比制御が不安定化するという不具合を生じる。
【0007】詳しくは、図11に示すように、一般に、空気等の気体が管状の通路100を軸方向に流れるとき、流れの下流側の圧力Pdを上流側の圧力Puよりも徐々に低くしていくと、流れは上下流の圧力差Pu−Pdが増加するに従い徐々に速くなり、それとともに流量も増加する。しかし、前記通路100の断面積が最小になるスロート100aにおいて流れの速さは音速を超えることはできないので、そのスロート100aでの流速が音速に達した状態では、それ以上、下流側の圧力を下げても流速及び流量を増やすことはできない。このような現象はチョーキング現象と言われており、このとき管内の流れは臨界状態になっているという。また、このときの通路下流側圧力に対する上流側圧力の比を臨界圧力比といい、空気の臨界圧力比は1.893である。
【0008】このことから、前記エンジンのEGR通路における排ガスの流れについて考えると、まず、吸気通路で吸気絞り弁が閉じられていない状態では、吸気側圧力があまり低くならないので、EGR通路の上下流の圧力比は臨界圧力比よりも小さくなる。この状態では、EGR通路内の排ガスの流量はEGR弁の開口面積に応じて変化すると同時に、そのEGR弁の上下流間の差圧によっても変化することになり、例えば、排ガスの流量を増加させるためにEGR弁を開いても、弁の開口面積の増大によって流量が増大する反面、弁の上下流の差圧の減少によって流量が減少してしまうので、結果として排ガスの流量はあまり増加しない。言い換えると、この状態で十分な制御性を得るためには、排ガスの流量を調整するためのEGR弁の作動量及び作動速度をかなり大きく設定しなくてはならない。
【0009】一方、吸気絞り弁が閉じられて吸気側圧力が低下し、EGR通路の上下流の圧力比が臨界圧力比以上になると、EGR通路の流れは臨界状態になる。この状態では、EGR弁の開度が変わって弁の上下流の圧力差が変化しても、その変化によって流量は変化しないので、EGR弁の開口面積の増減に略比例して排ガスの還流量が変化するようになる。そのため、前記のようにEGR弁の作動量及び作動速度をかなり大きく設定していると、そのEGR弁の作動によって排ガスの還流量が過度に大きく変動し、結果、空燃比の目標値に対する収束性が低下するという制御の不安定化の問題が発生するのである。
【0010】そして、このようにしてエンジンの空燃比制御が不安定になると、空燃比の変動に伴いエンジンの出力トルクが変動するようになる。特にエンジンが定常運転状態になっているときには、車両の運転者は前記のエンジン出力の変動に起因して、前後方向に揺さぶられるような不快な振動を感じるようになり、乗車フィーリングの悪化という不具合が生じる。また、特にディーゼルエンジンの場合には、燃焼室の空燃比が過度にリッチな状態になると、部分的な不完全燃焼によるスモークの発生が急増するというエミッションの問題もある。
【0011】本発明は斯かる諸点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、エンジンの運転状態に応じて排ガスの還流量を調整するようにした排気還流制御装置において、排気還流通路における排ガスの流れが臨界状態になっているときの制御に工夫を凝らし、空燃比の変動に起因するする乗車フィーリングの悪化等を防止することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】前記の目的を達成すべく、本発明の解決手段では、排気還流通路における排ガスの流れが臨界状態になっているときとそうでない非臨界状態のときとで、排気還流量調整手段の調整作動に対する排ガス還流量の変化の度合が大きく異なることに着目し、前記臨界状態になっているときには、非臨界状態のときよりも排気還流量調整手段の調整速度を低くさせるようにした。
【0013】具体的に、請求項1の発明では、図1に示すように、エンジン1の吸気系10に排ガスの一部を還流させる排気還流通路23と、前記排気還流通路23における排気還流量を調整する排気還流量調整手段24と、エンジン1の運転状態に応じて前記排気還流量調整手段24を作動制御する排気還流制御手段35aとを備えたエンジンの排気還流制御装置Aを前提とする。そして、前記排気還流通路23の上流側である排気側圧力の吸気側圧力に対する圧力比が所定の臨界圧力比以上になっている臨界状態を判定する臨界状態判定手段35bと、該臨界状態判定手段35bにより臨界状態が判定されたとき、非臨界状態よりも前記排気還流量調整手段24の調整速度が低くなるように前記排気還流制御手段35aによる制御を補正する第1補正手段35cとを設ける構成とする。
【0014】前記の構成により、排気側圧力の吸気側圧力に対する圧力比が臨界圧力比以上になっていて、臨界状態判定手段35bにより臨界状態であると判定されたときには、非臨界状態よりも排気還流量調整手段24の調整速度が低くなるように、第1補正手段35cによって、排気還流制御手段35aによる制御が補正される。このことで、排気還流通路23における排ガスの流量を非臨界状態でも応答性よく調整できるように、排気還流量調整手段24の調整作動量や作動速度がかなり大きく設定されていても、排ガスの流れが臨界状態になったときには、前記排気還流量調整手段24の調整速度が低くなるように補正されるので、その調整作動に伴う排ガス還流量の過大な変動を抑制できる。よって、エンジン1の運転中に排ガス還流量の変動を抑制して空燃比制御の不安定化を防止でき、乗車フィーリングの悪化を防止することができる。
【0015】請求項2の発明では、第1補正手段は、エンジンが定常運転状態にあるときに排気還流制御手段による制御を補正する構成とする。すなわち、エンジンが定常運転状態にあるときには、排ガスの還流量の変動に起因するエンジン出力の変動によって車両の運転者が不快な振動を感じ易いので、排気還流量調整手段の調整速度を低くさせて排ガス還流量の変動を抑制することの作用効果が特に有効なものになる。
【0016】請求項3の発明では、エンジンが過渡運転状態にあるときに、排気還流量調整手段の調整速度が定常運転状態のとき以上になるように、排気還流制御手段による制御を補正する第2補正手段を設ける構成とする。このことで、運転者の操作に従ってエンジンの運転状態が大きく変化する過渡運転状態では、その変化に遅れないように空燃比制御の応答性を高めることができる。尚、過渡運転状態では、排ガス還流量が変動してエンジン出力が変動したとしても、車両の運転者が不快に感じることは少ない。
【0017】請求項4の発明では、排気還流制御手段は、燃焼室の空燃比が目標値になるように排気還流量調整手段をフィードバック制御するものとする。ここで、フィードバック制御のためのセンサとしては、例えば、エンジンの排気通路に空燃比センサを設けてこの空燃比センサの出力信号に基づいて燃焼室の空燃比を検出するようにすればよい。また、エンジンの吸気通路に吸入空気量を検出するエアフローセンサを設け、このエアフローセンサによって検出された吸入空気量と燃焼室への燃料噴射量とに基づいて、該燃焼室の空燃比を検出するようにしてもよい。
【0018】そして、この構成によると、排気還流制御手段は前記のようなセンサからの出力信号に基づいて排気還流量調整手段をフィードバック制御することで、燃焼室の空燃比を目標値になるように高精度に制御することができる。その反面、そのような高精度の空燃比制御がなされていると、排ガス還流量の変動によって空燃比制御が不安定化することによる悪影響が相対的に大きくなる。従って、このような構成において、排気還流量調整手段の作動速度を低くさせることで、空燃比制御の不安体化を防止できるという作用が極めて有効なものになる。
【0019】請求項5の発明では、第1及び第2補正手段は、それぞれ排気還流制御手段のフィードバックゲインを補正するものとする。このことで、第1及び第2補正手段による補正の内容が具体化される。
【0020】請求項6の発明では、排気還流通路の接続部よりも吸気上流側の吸気通路にターボ過給機のブロワが設けられ、前記排気還流通路の接続部よりも排気下流側の排気通路に前記ターボ過給機のタービンが設けられており、臨界状態判定手段は、前記ターボ過給機の過給圧が設定圧以下のときに臨界状態であると判定するものとする。
【0021】このことで、ターボ過給機の過給圧が判れば、そのときのタービン上流の排圧も推定できるので、排気還流通路の上下流の圧力比が検出できることになる。従って、ターボ過給機の過給圧が設定圧以下になっていれば、そのことから前記排気還流通路における排ガスの流れが臨界状態になっていることを判定できる。
【0022】請求項7の発明では、排気還流通路の接続部よりも吸気上流側の吸気通路に吸気絞り弁が配設されており、臨界状態判定手段は、前記吸気絞り弁の開度が設定開度以下のときに臨界状態であると判定する構成とする。このことで、排気還流通路よりも吸気上流側にある吸気絞り弁の開度が設定開度以下のときには、吸気側圧力が排気側圧力に比べて極めて低くなるので、そのことから、前記排気還流通路における排ガスの流れが臨界状態になっていることを判定できる。
【0023】請求項8の発明では、前記請求項7の発明において、排気還流通路の接続部よりも上流側の吸気通路にターボ過給機のブロワが配設されており、第1補正手段は、前記ターボ過給機による過給圧が設定圧よりも大きいときには、排気還流制御手段のフィードバックゲインを前記過給圧が設定圧以下のときに比べて大きくなるように補正するものとする。
【0024】このことで、吸気絞り弁の開度が設定開度以下になっていても、前記ターボ過給機による過給圧が設定圧よりも大きいときには、その過給によって吸気側圧力が高められるので、吸排気間の圧力比は臨界圧力比よりも小さくなることがある。そこで、この場合には、排気還流制御手段のフィードバックゲインを前記過給圧が設定圧以下のときに比べて大きくさせて、空燃比制御の応答性を高めるようにしており、これにより、ターボ過給機及び吸気絞り弁の作動状態に適切に対応することができる。
【0025】請求項9の発明では、エンジンをディーゼルエンジンとする。このことで、ディーゼルエンジンにおいて多量の排気還流に対応でき、その場合の空燃比制御の不安定下に伴うエミッション悪化の問題を解消できる。
【0026】
【発明の実施の形態】(全体構成)図1は本発明の実施形態に係るエンジンの排気還流制御装置Aの全体構成を示し、1は車両に搭載された多気筒ディーゼルエンジンである。このエンジン1は複数のシリンダ2,2,…(1つのみ図示する)を有し、その各シリンダ2内に往復動可能にピストン3が嵌挿されていて、このピストン3によって各シリンダ2内に燃焼室4が区画されている。また、燃焼室4の上面の略中央部には、インジェクタ5が先端部の噴孔を燃焼室4に臨ませて配設されていて、各シリンダ毎に所定の噴射タイミングで開閉作動されて、燃焼室4に燃料を直接噴射するようになっている。
【0027】前記各インジェクタ5は高圧の燃料を蓄える共通のコモンレール(蓄圧室)6に接続されていて、そのコモンレール6には、内部の燃圧(コモンレール圧)を検出する圧力センサ6aが配設されているとともに、クランク軸7により駆動される高圧供給ポンプ8が接続されている。この高圧供給ポンプ8は、圧力センサ6aにより検出されるコモンレール6内の燃圧が所定値以上(例えば、アイドル運転時に40MPa、それ以外の運転状態では80MPa以上)に保持されるように作動する。また、クランク軸7の回転角度を検出するクランク角センサ9が設けられており、このクランク角センサ9は、クランク軸7の端部に設けた被検出用プレート(図示せず)の外周に相対向するように配置され電磁ピックアップからなり、前記被検出用プレートの外周部全周に亘って形成された突起部の通過に対応してパルス信号を出力するようになっている。
【0028】また、10はエンジン1の燃焼室4に対し図外のエアクリーナで濾過した吸気(空気)を供給する吸気通路であり、この吸気通路10の下流端部は、図示しないサージタンクを介してシリンダ毎に分岐して、それぞれ吸気ポートにより各シリンダ2の燃焼室4に接続されている。また、サージタンク内で各シリンダ2に供給される過給圧力を検出する過給圧センサ10aが設けられている。前記吸気通路10には上流側から下流側に向かって順に、エンジン1に吸入される吸気流量を検出するエアフローセンサ11と、後述のタービン21により駆動されて吸気を圧縮するブロワ12と、このブロワ12により圧縮した吸気を冷却するインタークーラ13と、吸気通路10の断面積を絞る吸気絞り弁14とがそれぞれ設けられている。この吸気絞り弁14は、全閉状態でも吸気が流通可能なように切り欠きが設けられたバタフライバルブからなり、後述のEGR弁24と同様、ダイヤフラム15に作用する負圧の大きさが負圧制御用の電磁弁16により調整されることで、弁の開度が制御されるようになっている。
【0029】前記エアフローセンサ11は、流速変動があっても空気流量を確実にとらえることのできる定温度型ホットフィルム式エアフローセンサであり、図示しないが、吸気通路10に吸気流れ方向と直交するように配されたヒータと、このヒータを挟んで上流側と下流側とに配置されたホットフィルムとを備えていて、両ホットフィルムの温度の高低に基づいて、吸気通路10を下流側(各シリンダ2の側)に向かう正方向流及び上流側に向かう逆流をそれぞれ検出するものである。このエアフローセンサ11による計測値に基づいて、正方向の空気流量のみを計測することができ、排気還流量の制御に逆流による誤差が入ることを避けることができる。
【0030】また、図1において20は各シリンダ2の燃焼室4から排ガスを排出する排気通路で、この排気通路20の上流端部は分岐してそれぞれ図示しない排気ポートにより各シリンダ2の燃焼室4に接続されている。この排気通路20には、上流側から下流側に向かって順に、排ガス中の酸素濃度を検出するO2センサ17と、排ガス流により回転されるタービン21と、排ガス中のHC、CO及びNOx並びにパティキュレートを浄化可能な触媒コンバータ22とが配設されている。
【0031】前記タービン21及びブロワ12からなるターボ過給機25は、図2に示すように、タービン21を収容するタービン室21aに該タービン21aの全周を囲むように複数のフラップ21b,21b,…が設けられ、その各フラップ21bが排気流路のノズル断面積Aを変化させるように回動するVGT(バリアブルジオメトリーターボ)である。このVGTの場合、同図(a)に示すように、フラップ21b,21b,…をタービン21に対し周方向に向くように位置付けてノズル断面積Aを小さくすることで、排気流量の少ないエンジン1の低回転域でも過給効率を高めることができる。一方、同図(b)に示すように、フラップ21b,21b,…をその先端がタービン21の中心に向くように位置付けて、ノズル断面積Aを大きくすることで、排気流量の多いエンジン1の高回転域でも過給効率を高めることができる。
【0032】前記排気通路20は、タービン21よりも上流側の部位で、排ガスの一部を吸気側に還流させる排気還流通路(以下EGR通路という)23の上流端に分岐接続されている。このEGR通路23の下流端は吸気絞り弁14よりも吸気下流側の吸気通路10に接続されており、そのEGR通路23の途中の下流端寄りには、開度調整可能な負圧作動式の排気還流量調整弁(以下EGR弁という)24が配置されている。そして、前記EGR通路23を流れる排ガスに対して上流側である排気通路20の圧力(以下排気側圧力という)と下流側である吸気通路10の圧力(以下吸気側圧力という)との間の圧力差によって前記排気通路20から吸い出した排ガスの一部を、EGR弁24により流量調整しながら吸気通路10に還流させるようになっている。
【0033】前記EGR弁24は、図3に示すように、弁箱を仕切るダイヤフラム24aに弁棒24bが固定され、この弁棒24bの両端にEGR通路23の開度をリニアに調整する弁本体24cとリフトセンサ26とが設けられている。前記弁本体24cはスプリング24dによって閉方向(図の下方)に付勢されている一方、弁箱の負圧室(ダイヤフラム24aよりも上側の室)には負圧通路27が接続されている。この負圧通路27は、負圧制御用の電磁弁28を介してバキュームポンプ(負圧源)29に接続されており、電磁弁28が後述のECU35からの制御信号によって負圧通路27を連通・遮断することによって、負圧室のEGR弁駆動負圧が調整され、それによって、弁本体24cによりEGR通路23の開度がリニアに調整されるようになっている。
【0034】尚、前記ターボ過給機25のフラップ21b,21b,…にもEGR弁24と同様にダイヤフラム30が取り付けられていて、負圧制御用の電磁弁31によりダイヤフラム30に作用する負圧が調整されることで、前記フラップ21b,21b,…の作動量が調整されるようになっている。
【0035】前記各インジェクタ5、高圧供給ポンプ8、吸気絞り弁14、EGR弁24、ターボ過給機25のフラップ21b,21b,…等はコントロールユニット(Electronic Contorol Unit:以下ECUという)35からの制御信号によって作動するように構成されている。一方、このECU35には、前記圧力センサ6aからの出力信号と、クランク角センサ9からの出力信号と、エアフローセンサ11からの出力信号と、O2センサ17からの出力信号と、EGR弁24のリフトセンサ26からの出力信号と、車両の運転者による図示しないアクセルペダルの操作量(アクセル開度)を検出するアクセル開度センサ32からの出力信号とが少なくとも入力されている。
【0036】(制御システムの全体構成)前記ECU35におけるエンジン制御の基本的な処理の概要は図4のブロック図に示されており、アクセル開度に基づいて基本となる燃料噴射量を決定するとともに、EGR弁24の作動によりEGR率を調整して、各シリンダの空燃比を均一かつ高精度に制御するようにしている。前記EGR率は全排気量中の還流される排ガス量(EGR量)の割合をいう。
【0037】EGR率=EGR量/全排気量具体的に、前記ECU35には、アクセル開度accel及びエンジン回転数Neの変化における、実験的に決定された最適な目標トルクtrqsolを記録した二次元マップ36と、エンジン回転数Ne、目標トルクtrqsol及び新気量(吸入空気量のことであり燃料を含まない。以下、同じ。)FAirの変化における、実験的に決定された最適な目標燃料噴射量Fsolを記録した三次元マップ37と、エンジン回転数Neと目標トルクtrqsolの変化における、実験的に決定された最適な目標空燃比A/Fsolを記録した二次元マップ38とがそれぞれメモリ上に電子的に格納されている。
【0038】前記目標空燃比A/FsolがNOxの低減とスモークの低減とを両立させるための排ガスの還流量を決定する基準となるものである。すなわち、図5にディーゼルエンジンの空燃比と排気中のNOx量との関係を例示するように、空燃比が上昇するとNOx量が増大する傾向があるので、排気還流量を多くして空燃比を下げれば(リッチ側にする)NOxの発生を少なくできる。
【0039】しかし、図6に例示すように、同じエンジンの空燃比と排気中のスモーク値との関係に依れば、空燃比がリッチ側に変化してある空燃比以下になると、スモーク量が急に増大することが分かる。従って、排ガスの還流量を多くするにも限界があるので、この実施形態では、排ガス中のNOx量の低減とスモーク量の増大抑制との両立を図るために、目標とする空燃比をNOxの低減が図れるようにできるだけリッチ側であってかつスモーク量が急増し始める手前の値に定めている。
【0040】
【0041】
【0042】
【0043】
【0044】
【0045】(燃料噴射制御)次に、前記ECU35による燃料噴射制御の処理手順を図7に示すフローチャート図に基づいて具体的に説明する。この制御はメモリ上に電子的に格納された制御プログラムに従い、クランク角センサ9からの出力信号に同期して所定クランク角毎に実行される。
【0046】まず、同図に示すスタート後のステップT1において、エアフローセンサ11によって検出された新気の吸入空気量FAir、クランク角から求められたエンジン回転数Ne、アクセル開度accel、等のデータが入力される。続いて、ステップT2では、アクセル開度accel及びエンジン回転数Neに基づいて目標トルクtrqsolを演算し、ステップT3では、その目標トルクtrqsol、エンジン回転数Ne及び吸入空気量(新気量)FAirに基づいて、目標噴射量Fsolを演算する。
【0047】続いて、ステップT4において、前記目標噴射量Fsolと圧力センサ6aにより検出されたコモンレール圧力CRPとに基づいて決定された各インジェクタ5の励磁時間に対応する燃料噴射時期であるか否かを判別し、燃料噴射時期でないnoのときには待機し、その燃料噴射時期になれば(yes)、ステップT5に進んで、インジェクタ5を駆動して燃料噴射を実行し、しかる後にリターンする。
【0048】(排気還流制御)本発明の特徴部分は、上述の如く、排ガスの還流量を制御して吸入空気量を調整することで、燃焼室4の空燃比を間接的に制御するようにしたディーゼルエンジンにおいて、EGR弁24の制御におけるフィードバックゲインをEGR通路23における排ガスの還流状態に応じて補正するようにしたことにある。
【0049】次に、前記ECU35による排気還流制御の処理手順を図8に示すフローチャート図に基づいて具体的に説明する。この制御はメモリ上に電子的に格納された制御プログラムに従って所定間隔毎に実行される。
【0050】まず、同図に示すスタート後のステップS1において、エアフローセンサ11によって検出された新気の吸入空気量FAir、クランク角から求められたエンジン回転数Ne、アクセル開度accel、過給圧センサ10aによって検出された吸気圧力Boost、及び前記の燃料噴射制御において演算された(図7のステップT3)目標噴射量Fsol等のデータが入力される。続いて、ステップS2では、アクセル開度accel及びエンジン回転数Neに基づいて目標トルクtrqsolを演算し、ステップS3では、その目標トルクtrqsol及びエンジン回転数Neに基づいて目標空燃比A/Fsolを演算する。続いて、ステップS4では、その目標空燃比A/Fsol及び目標噴射量Fsolに基づいて、吸入空気量の目標値である目標新気量FAsolを演算する。
【0051】続いて、ステップS5において、前記目標新気量FAsolに基づいてEGR弁24の基本動作量EGRbaseを演算する。この基本動作量EGRbaseは、目標新気量FAsolに対応する値を実験的に決定して記録したマップがECU35のメモリ上に電子的に格納されており、前記ステップS4で求めた目標新気量FAsolに対応する値が当該マップから読み込まれる。続いて、ステップS6では、前記ステップS4で求めた目標新気量FAsolに対する実際の吸入空気量FAirの偏差FAsol−FAirに基づいて、EGR弁24のフィードバック動作量EGRf/bを演算する。
【0052】このフィードバック動作量EGRf/bは、図9に例示するように、新気量の偏差FAsol−FAirに対応する値を実験的に決定して記録したマップ54がECU35のメモリ上に電子的に格納されており、当該マップから読み込まれるようになっている。このマップ54によれば、新気量の偏差FAsol−FAirの絶対値が僅かな間はフィードバック動作量EGRf/bが零とされる不感帯が設けられている一方、その偏差FAsol−FAirの絶対値が大きいほど、その偏差FAsol−FAirを減らす向きのフィードバック動作量EGRf/bが大きくなるように設定されている。
【0053】前記ステップS6に続いて、ステップS7において、インジェクタ5からの燃料噴射量Fの変化量ΔF、即ち今回の制御サイクルにおける目標噴射量Fsolの前回値からの変化量が、あらかじめ設定した基準値ΔF0よりも小さいか否かを判別する。そして、基準値以上のnoのときには、エンジン1が過渡運転状態になっていると判定してステップS17に進む一方、基準値よりも大きいyesのときには、エンジン1が定常運転状態になっていると判定してステップS8に進み、このステップS8において、吸気絞り弁14の開度THが設定開度TH0よりも小さいか否かを判定する。
【0054】この設定開度TH0は吸気絞り弁14が全閉状態の近くまで閉じられている状態に対応するように設定されており、吸気絞り弁14の開度THが設定開度よりも小さいyesのときには、その吸気絞り弁14により吸入空気量がかなり絞られていて、吸気通路10の負圧がかなり大きくなっている(吸気側圧力がかなり低くなっている)と判定して、ステップS9に進む。一方、吸気絞り弁14の開度THが設定開度以上でnoのときには、吸気通路10の負圧はあまり大きくないと判定して、ステップS14に進む。
【0055】前記ステップS9では、今度は、ターボ過給機25の過給圧、即ち過給圧センサ10aにより検出された吸気圧力Boostが設定圧力Boost0よりも小さいか否かを判定して、吸気圧力Boostが設定圧力よりも小さいyesのときには、ステップS10に進み、排気還流制御のフィードバックゲインKを最小の設定値Kaとする一方、吸気圧力Boostが設定圧力以上でnoのときには、ステップS11に進んで、排気還流制御のフィードバックゲインKを2番目に小さな設定値Kb(Ka<Kb)とする。
【0056】そして、前記ステップS10又はS11に続いて、ステップS12では、EGR弁24の基本動作量EGRbase、フィードバック動作量EGRf/b、及びフィードバックゲインKに基づいて、EGR弁24の動作量EGRsolを演算し、続くステップS13において、EGR弁24を動作量EGRsolに対応する開度になるように駆動して、しかる後にリターンする。
【0057】つまり、吸気絞り弁14の開度THが設定開度TH0よりも小さいときには、吸気通路10の圧力、即ちEGR通路23における還流排ガスの下流側である吸気側圧力が極めて低くなっていて、EGR通路23における還流排ガスの上流側である排気側圧力の前記吸気側圧力に対する圧力比がいわゆる臨界圧力比以上になっていると判定する。そして、このことから前記EGR通路23における還流排ガスの流れが臨界状態になっていると判定し、排気還流制御のフィードバックゲインKを最小の設定値Kaとして、フィードバック制御の安定化を図るようにしている。
【0058】また、そのように吸気絞り弁14の開度THが設定開度TH0以下になっていても、ターボ過給機25による過給圧が大きく、吸気通路10の吸気圧力Boostが設定圧Boost0よりも大きいときには、吸排気間の圧力比は臨界圧力比よりも小さくなることがあるので、この場合には、排気還流制御のフィードバックゲインKを前記最小の設定値Kaよりも大きな値Kbに設定している。このことで、ターボ過給機25の作動状態に応じて空燃比制御の応答性を適切に設定できる。
【0059】これに対し、前記ステップS8で、吸気絞り弁14の開度THが設定開度以上でnoと判定されて進んだステップS14では、ステップS9と同様に、ターボ過給機25の過給圧が設定圧力Boost1(Boost1>Boost0)よりも小さいか否かを判定する。そして、その判定が設定圧力よりも小さいyesのときには、ステップS15に進み、排気還流制御のフィードバックゲインKを前記Ka,Kbよりも大きな設定値Kcとして、前記ステップS12,S13に進む一方、吸気圧力Boostが設定圧力以上でnoのときには、ステップS16に進み、排気還流制御のフィードバックゲインKを最大の設定値Kd(Kc<Kd)とする。そして、前記ステップS12,S13に進んで、それぞれ、EGR弁24の動作量EGRsolを演算し、EGR弁24を駆動して、しかる後にリターンするつまり、吸気絞り弁14の開度THが設定開度以上のときには、吸気通路10の圧力があまり低くはならないので、EGR通路24における還流排ガスの流れは臨界状態になっていないと判定する。そしてこの場合には、制御の不安定化の心配がないので、フィードバックゲインKを十分に大きな値Kc,Kdに設定して、排気還流制御の応答性を高めるようにしている。
【0060】また、前記ステップS7で、燃料噴射量Fの変化量ΔFに基づいて、エンジン1が過渡運転状態になっている(ステップS7でno)と判定して進んだステップS17では、前記ステップS16と同様にフィードバックゲインKを最大の設定値Kdとし、前記ステップS12,S13に進んで、EGR弁24の駆動を実行して、しかる後にリターンする。つまり、エンジン1が過渡運転状態にあるときには、フィードバックゲインKを最大の設定値Kdとして、排気還流制御の応答性を特に高めるようにしている。尚、過渡運転状態におけるフィードバックゲインを定常状態における最大の設定値Kdよりも大きな値に設定するようにしてもよい。
【0061】この実施形態では、前記図8に示すフローチャート図において、ステップS1〜S5の各ステップが、エンジン1の運転状態に応じてEGR弁(排気還流量調整手段)24を作動制御する排気還流制御手段35aに対応している。また、ステップS8及びS9の各ステップが、EGR通路(排気還流通路)23の上流側である排気側圧力の吸気側圧力に対する圧力比が、所定の臨界圧力比以上になっている臨界状態を判定する臨界状態判定手段35bに対応している。
【0062】さらに、ステップS10が、前記臨界状態判定手段35bにより臨界状態が判定されたとき、非臨界状態よりもEGR弁24の調整速度が低くなるように排気還流制御手段35aによる制御を補正する第1補正手段35cに対応している。また、ステップS7及びS17の各ステップは、エンジン1が過渡運転状態にあるときに、定常運転状態のときよりもEGR弁24の調整速度が高くなるように排気還流制御手段35aによる制御を補正する第2補正手段に対応している。
【0063】したがって、この実施形態に係るエンジンの排気還流制御装置Aによれば、エンジン1が定常運転状態になっていて、かつエンジン1の吸気通路10に配設されている吸気絞り弁14の開度THが設定開度以上のときには、EGR通路23における排ガスの流れが臨界状態になっていないと判定し、排気還流制御のフィードバックゲインKを相対的に大きな値Kc,Kdとすることで、排ガス還流量の制御によるエンジン1の空燃比制御の応答性を高めている。
【0064】また、前記吸気絞り弁14の開度THが設定開度よりも小さいときには、EGR通路23における排ガスの流れが臨界状態になっていることを臨界状態判定手段35bによって判定し、排気還流制御のフィードバックゲインKを第1補正手段35cによって相対的に小さな値Ka,Kbに補正することで、EGR弁24の作動による排ガス還流量の過大な変動を抑制し、エンジン1の運転中に空燃比が変動して乗車フィーリングが悪化することを防止できる。このことは、エンジン1の出力トルクの変動によって運転者が不快な振動を感じ易い定常運転状態において、特に有効な作用効果を奏する。
【0065】さらに、この実施形態では、ディーゼルエンジン1において、吸気通路10に設けたエアフローセンサ11からの出力信号に基づいて、燃焼室4の空燃比を高精度にフィードバック制御しており、しかも、その空燃比の制御目標値は、排ガス中のNOx低減とスモーク増大の抑制とを両立できるような値に設定している。そのため、そのような高精度の空燃比制御がなされているので、排ガス還流量の変動によって空燃比制御が不安定化することによる悪影響は相対的に大きくなると考えられる。また、特にディーゼルエンジン1においては、排ガス還流量の変動によって空燃比が目標値よりもリッチ状態になったときにスモーク量が急増するという悪影響が懸念される。従って、このようなものにおいて、排気還流制御のフィードバックゲインKを補正することによって空燃比制御の不安体化を防止できるという作用効果は極めて有効なものになる。
【0066】加えて、この実施形態では、エンジン1が過渡運転状態にあるときには、排気還流制御のフィードバックゲインKを第2補正手段35dによって最大の設定値Kdに補正するようにしており、このことで、運転者の操作に従ってエンジン1の運転状態が大きく変化する過渡運転状態では、その変化に遅れないように空燃比制御の応答性を十分に高めることができる。尚、過渡運転状態では、排ガス還流量が変動してエンジン出力が変動したとしてても、車両の運転者が不快に感じることは少ないので、問題はないと考えられる。
【0067】(他の実施形態)本発明は前記各実施形態に限定されるものではなく、その他の種々の実施形態を包含するものである。すなわち、前期実施形態では、エンジン1の吸気通路10に配設した吸気絞り弁14の開度に基づいて、EGR通路23内の流れが臨界状態になっていることを判定するようにしているが、これに限るものではない。すなわち、例えば前記吸気絞り弁14が設けられていないエンジンにおいて、ターボ過給機25の過給圧が分かれば、そのときのタービン21の上流の排圧も推定できるので、EGR通路23の上下流の圧力比が分かることになる。従って、ターボ過給機25の過給圧のみに基づいてEGR通路23における排ガスの流れが臨界状態になっていることを判定するようにしてもよい。
【0068】また、前期実施形態では、排気還流制御のフィードバックゲインKとして、予め異なる4つの値(Ka<Kb<Kc<Kd)を設定しておいて、その中から吸気絞り弁14の開度及びターボ過給機25の過給圧に応じて選択するようにしているが、これに限らず、例えば図10に示すように、フィードバックゲインKの値を、過給圧すなわち吸気側圧力と排圧すなわち排気側圧力との比に対応づけて実験的に記録したマップを備えるようにし、吸気圧力センサ10aにより検出される過給圧と、その過給圧から推定される排圧とに基づいて、当該マップから読み出して設定するようにしてもよい。また、前記の排圧は直接センサ等により検出するようにしてもよい。
【0069】さらに、この実施形態に係る排気還流制御装置をディーゼルエンジン1ではなく、燃焼室にガソリンを直接、噴射供給するようにしたいわゆる直噴ガソリンエンジンに適用することも可能である。
【0070】
【発明の効果】以上説明した如く、請求項1の発明によると、排気還流通路における還流排ガスの流れが臨界状態になったとき、そうでないときよりも排気還流量調整手段の調整速度が低くなるように、排気還流制御手段による制御を第1補正手段によって補正するようにしたので、排ガスの還流量の調整による空燃比制御の応答性を低下させることなく、前記の臨界状態になったときの排気還流量調整手段の調整作動に伴う排ガス還流量の過大な変動を抑制して、空燃比制御の不安定化に伴う乗車フィーリングの悪化を防止することができる。
【0071】請求項2の発明によると、エンジン出力の変動によって運転者が不快な振動を感じ易い定常運転状態において、排ガス還流量の変動を抑制することの作用効果が特に有効なものになる。
【0072】請求項3の発明によると、運転者の操作に従ってエンジンの運転状態が大きく変化する過渡運転状態において、その変化に遅れないように空燃比制御の応答性を高めることができる。
【0073】請求項4の発明によると、高精度の空燃比制御がなされているものにおいて、排気還流量調整手段の作動速度を低くさせて空燃比制御の不安体化を防止できるという作用効果が極めて有効なものになる。
【0074】請求項6の発明によると、ターボ過給機の過給圧に基づいて、排気還流通路における排ガスの流れが臨界状態になっていることを判定できる。
【0075】請求項7の発明によると、エンジンの吸気通路に配設された吸気絞り弁の開度に基づいて、排気還流通路における排ガスの流れが臨界状態になっていることを判定できる。
【0076】請求項8の発明によると、排気還流制御手段のフィードバックゲインをターボ過給機の過給圧及び吸気絞り弁の開度に応じて適切に設定することができる。
【0077】請求項9の発明によると、ディーゼルエンジンにおいて多量の排気還流に対応でき、その場合の空燃比制御の不安定下に伴うエミッション悪化の問題を解消できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態に係るエンジンの排気還流制御装置の全体構成を示す図である。
【図2】ターボ過給機の一部を、A/R小の状態(a)、又はA/R大の状態(b)でそれぞれ示す説明図である。
【図3】EGR弁及びその駆動系の構成図である。
【図4】エンジンの制御系の全体構成図である。
【図5】空燃比とNOx排出量との関係を示すグラフ図である。
【図6】空燃比とスモーク値との関係を示すグラフ図である。
【図7】燃料噴射制御の処理手順を示すフローチャート図である。
【図8】排気還流制御の処理手順を示すフローチャート図である。
【図9】フィードバック動作量を空燃比の偏差に対応するように設定したマップ図である。
【図10】フィードバックゲインの値を過給圧と排圧との圧力比に対応するように設定したマップ図である。
【図11】スロートを有する管状の通路を流れる気体を示す説明図である。
【符号の説明】
A エンジンの排気還流制御装置
1 ディーゼルエンジン
10 吸気通路
13 ブロワ
14 吸気絞り弁(吸気抑制手段)
20 排気通路
21 タービン
23 EGR通路(排気還流通路)
24 EGR弁(排気還流量調整手段)
25 ターボ過給機
35 ECU(コントロールユニット)
35a 排気還流制御手段
35b 臨界状態判定手段
35c 第1補正手段
35d 第2補正手段
【特許請求の範囲】
【請求項1】 エンジンの吸気系に排ガスの一部を還流させる排気還流通路と、前記排気還流通路における排気還流量を調整する排気還流量調整手段と、エンジンの運転状態に応じて前記排気還流量調整手段を作動制御する排気還流制御手段とを備えたエンジンの排気還流制御装置において、前記排気還流通路の上流側である排気側圧力の吸気側圧力に対する圧力比が、所定の臨界圧力比以上になっている臨界状態を判定する臨界状態判定手段と、前記臨界状態判定手段により臨界状態が判定されたとき、非臨界状態よりも前記排気還流量調整手段の調整速度が低くなるように前記排気還流制御手段による制御を補正する第1補正手段とが設けられていることを特徴とするエンジンの排気還流制御装置。
【請求項2】 請求項1のエンジンの排気還流制御装置において、第1補正手段は、エンジンが定常運転状態にあるときに排気還流制御手段による制御を補正するように構成されていることを特徴とするエンジンの排気還流制御装置。
【請求項3】 請求項2のエンジンの排気還流制御装置において、エンジンが過渡運転状態にあるときに、排気還流量調整手段の調整速度が定常運転状態のとき以上になるように、排気還流制御手段による制御を補正する第2補正手段が設けられていることを特徴とするエンジンの排気還流制御装置。
【請求項4】 請求項1〜3のいずれか1つのエンジンの排気還流制御装置において、排気還流制御手段は、燃焼室の空燃比が目標空燃比になるように排気還流量調整手段をフィードバック制御するものであることを特徴とするエンジンの排気還流制御装置。
【請求項5】 請求項4のエンジンの排気還流制御装置において、第1及び第2補正手段は、それぞれ排気還流制御手段のフィードバックゲインを補正するものであることを特徴とするエンジンの排気還流制御装置。
【請求項6】 請求項5のエンジンの排気還流制御装置において、排気還流通路の接続部よりも吸気上流側の吸気通路にターボ過給機のブロワが設けられ、前記排気還流通路の接続部よりも排気下流側の排気通路に前記ターボ過給機のタービンが設けられており、臨界状態判定手段は、前記ターボ過給機の過給圧が設定圧以下のときに臨界状態であると判定するように構成されていることを特徴とするエンジンの排気還流制御装置。
【請求項7】 請求項5のエンジンの排気還流制御装置において、排気還流通路の接続部よりも吸気上流側の吸気通路に吸気絞り弁が配設されており、臨界状態判定手段は、前記吸気絞り弁の開度が設定開度以下のときに臨界状態であると判定するように構成されていることを特徴とするエンジンの排気還流制御装置。
【請求項8】 請求項7のエンジンの排気還流制御装置において、排気還流通路の接続部よりも上流側の吸気通路にターボ過給機のブロワが配設されており、第1補正手段は、前記ターボ過給機による過給圧が設定圧よりも大きいときには、排気還流制御手段のフィードバックゲインを前記過給圧が設定圧以下のときに比べて大きくなるように補正するものであることを特徴とするエンジンの排気還流制御装置。
【請求項9】 請求項1のエンジンの排気還流制御装置において、エンジンはディーゼルエンジンであることを特徴とするエンジンの排気還流制御装置。
【請求項1】 エンジンの吸気系に排ガスの一部を還流させる排気還流通路と、前記排気還流通路における排気還流量を調整する排気還流量調整手段と、エンジンの運転状態に応じて前記排気還流量調整手段を作動制御する排気還流制御手段とを備えたエンジンの排気還流制御装置において、前記排気還流通路の上流側である排気側圧力の吸気側圧力に対する圧力比が、所定の臨界圧力比以上になっている臨界状態を判定する臨界状態判定手段と、前記臨界状態判定手段により臨界状態が判定されたとき、非臨界状態よりも前記排気還流量調整手段の調整速度が低くなるように前記排気還流制御手段による制御を補正する第1補正手段とが設けられていることを特徴とするエンジンの排気還流制御装置。
【請求項2】 請求項1のエンジンの排気還流制御装置において、第1補正手段は、エンジンが定常運転状態にあるときに排気還流制御手段による制御を補正するように構成されていることを特徴とするエンジンの排気還流制御装置。
【請求項3】 請求項2のエンジンの排気還流制御装置において、エンジンが過渡運転状態にあるときに、排気還流量調整手段の調整速度が定常運転状態のとき以上になるように、排気還流制御手段による制御を補正する第2補正手段が設けられていることを特徴とするエンジンの排気還流制御装置。
【請求項4】 請求項1〜3のいずれか1つのエンジンの排気還流制御装置において、排気還流制御手段は、燃焼室の空燃比が目標空燃比になるように排気還流量調整手段をフィードバック制御するものであることを特徴とするエンジンの排気還流制御装置。
【請求項5】 請求項4のエンジンの排気還流制御装置において、第1及び第2補正手段は、それぞれ排気還流制御手段のフィードバックゲインを補正するものであることを特徴とするエンジンの排気還流制御装置。
【請求項6】 請求項5のエンジンの排気還流制御装置において、排気還流通路の接続部よりも吸気上流側の吸気通路にターボ過給機のブロワが設けられ、前記排気還流通路の接続部よりも排気下流側の排気通路に前記ターボ過給機のタービンが設けられており、臨界状態判定手段は、前記ターボ過給機の過給圧が設定圧以下のときに臨界状態であると判定するように構成されていることを特徴とするエンジンの排気還流制御装置。
【請求項7】 請求項5のエンジンの排気還流制御装置において、排気還流通路の接続部よりも吸気上流側の吸気通路に吸気絞り弁が配設されており、臨界状態判定手段は、前記吸気絞り弁の開度が設定開度以下のときに臨界状態であると判定するように構成されていることを特徴とするエンジンの排気還流制御装置。
【請求項8】 請求項7のエンジンの排気還流制御装置において、排気還流通路の接続部よりも上流側の吸気通路にターボ過給機のブロワが配設されており、第1補正手段は、前記ターボ過給機による過給圧が設定圧よりも大きいときには、排気還流制御手段のフィードバックゲインを前記過給圧が設定圧以下のときに比べて大きくなるように補正するものであることを特徴とするエンジンの排気還流制御装置。
【請求項9】 請求項1のエンジンの排気還流制御装置において、エンジンはディーゼルエンジンであることを特徴とするエンジンの排気還流制御装置。
【図11】
【図1】
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図4】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図1】
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図4】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2000−104628(P2000−104628A)
【公開日】平成12年4月11日(2000.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平10−274960
【出願日】平成10年9月29日(1998.9.29)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成12年4月11日(2000.4.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成10年9月29日(1998.9.29)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】
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