説明

エンジンの燃料噴射制御装置

【課題】燃料カット後の燃料噴射復帰時にトルクショックを抑制できるエンジンの燃料噴射制御装置を提供する。
【解決手段】直噴弁2と、ポート噴射弁5と、燃料カット実行手段111と、燃料カットからの復帰時においてエンジンに生じるトルクショックを許容内に収めるために必要な復帰時燃料供給量を求める復帰時燃料供給量検出手段112と、復帰時燃料供給量を直噴弁2が噴射可能な直噴最小燃料噴射量及びポート噴射弁5が噴射可能なポート最小燃料噴射量と比較し、比較結果に応じて、直噴弁2又はポート噴射弁5を選択して作動させる噴射弁制御手段113と、を備え、噴射弁制御手段113は、直噴最小燃料噴射量及びポート最小燃料噴射量が共に前記復帰時燃料供給量以下である場合、エンジン回転数が所定回転数以下であれば前記ポート噴射弁5を選択し、所定回転数より大きければ前記直噴弁2を選択して作動させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの燃料噴射制御装置に関する。特に、燃料カット後の燃料噴射復帰時に生じるトルク変動を抑制するように燃料噴射を制御する燃料噴射制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、気筒内に燃料を噴射する筒内噴射(以下、直噴という)弁と、吸気通路内に燃料を噴射するポート噴射弁とを備え、選択的に燃料を噴射する内燃機関の制御方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
この特許文献1の制御方法は、図6に示すように、筒内噴射弁と、単位開弁時間あたりの燃料噴射量が前記筒内噴射弁よりも小さいポート噴射弁とを有する内燃機関を制御するにあたり、内燃機関の運転条件に基づいて求められる全燃料噴射量TAUを求める(ステップS101)。次に、前記TAUと前記筒内噴射弁が噴射可能な最小燃料噴射量QminDとを比較する(ステップS102)。そして、全燃料噴射量TAUが前記最小燃料噴射量QminDよりも小さい場合には(ステップS102;Yes)、ポート噴射弁で全燃料噴射量TAUを噴射する(ステップS103、ステップS104)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−133637号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、筒内噴射は、機関に高出力が要求される場合に使用すると有利であることが知られている。この点に着目し、特許文献1では、直噴弁の最少燃料噴射量から機関の最高出力時に要求される燃料噴射量までの範囲においては直噴弁から燃料を噴射し、直噴弁の最少燃料噴射量を下回り、機関の要求する最少燃料噴射量までの範囲においてはポート噴射弁から燃料を噴射するように制御しており、これによって高出力時の性能が向上できるようにしている。
ここで、筒内噴射は、燃料を直噴気筒内に噴射するものであるから、燃料が噴射されてから燃焼するまでの応答性に関してはポート噴射よりも有利な点がある。しかし、応答性が有利な反面、トルクショックがポート噴射より大きくなる不利な点もある。特許文献1では、この応答性およびトルクショックの点については着目されていないので、機関のより一層の性能向上を図る上で十分とはいえない。
【0005】
本発明は、かかる従来技術の課題に鑑み、燃料カット後の燃料噴射復帰時にトルクショックを抑制できるエンジンの燃料噴射制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、かかる課題を解決する手段としてなされたものであり、エンジンの気筒内に燃料を直接噴射する直噴弁と、前記エンジンの吸気ポート内に燃料を噴射するポート噴射弁と、前記エンジンの運転中に燃料カットを実行する燃料カット実行手段と、前記燃料カット実行手段により実行された燃料カットからの復帰時において前記エンジンに生じるトルクショックを許容内に収めるために必要な復帰時燃料供給量を求める復帰時燃料供給量検出手段と、前記エンジンの回転数を検出する回転数検出手段と、前記復帰時燃料供給量検出手段で求めた復帰時燃料供給量を、前記直噴弁が噴射可能な直噴最小燃料噴射量及び前記ポート噴射弁が噴射可能なポート最小燃料噴射量と比較し、比較結果に応じて、前記直噴弁又は前記ポート噴射弁を選択して作動させる噴射弁制御手段と、を備え、前記噴射弁制御手段は、前記直噴最小燃料噴射量及び前記ポート最小燃料噴射量が共に前記復帰時燃料供給量以下である場合、前記回転数検出手段の検出結果が所定回転数以下であれば前記ポート噴射弁を選択して作動させ、前記所定回転数より大きければ前記直噴弁を選択して作動させることを特徴とする。
かかる発明では、燃料カット実行手段による燃料カットからの復帰時に、燃料供給量検出手段はエンジンに生じるトルクショックを許容内に収めるために必要な復帰時燃料供給量を求め、該復帰時燃料供給量より小さい能力を有する直噴弁又はポート噴射弁を噴射弁制御手段により選択して燃料噴射を行うので、燃料カット後の燃料噴射復帰時に生じるトルクショックを抑制できる。
なお、復帰時燃料供給量は、トルクショックを許容内に収める燃料量の最大値又はほぼ最大値とすることができる。
【0007】
また、前記噴射弁制御手段は、前記直噴最小燃料噴射量及び前記ポート最小燃料噴射量が共に前記復帰時燃料供給量以下である場合、前記回転数検出手段の検出結果が所定回転数以下であれば前記ポート噴射弁を選択して作動させ、前記所定回転数より大きければ前記直噴弁を選択して作動させることを特徴とする。
ポート噴射の場合、直噴に比べて噴射した燃料が気化し易く燃焼安定性を確保し易いため、低回転のエンジン回転数域では、ポート噴射を用いる。
また、高回転のエンジン回転数域では、多量の燃料を必要とするため、直噴弁を用いて燃料を直接気筒内に噴射することでエンジン出力の向上を図るとともに、ポート噴射における燃料のポート付着による燃焼までのレスポンスの悪化を改善して、燃料カット後の復帰時の応答性が向上する。
【0008】
また、前記噴射弁制御手段は、前記直噴最小燃料噴射量及び前記ポート最小燃料噴射量のいずれかが前記復帰時燃料供給量よりも小さい場合、この小さい方の最小燃料噴射量を有する噴射弁を選択して作動させることが好ましい。
かかる構成によれば、復帰時燃料供給量より小さい方の燃料噴射弁を選択できるため確実にトルクショックを抑制することができる。
【0009】
また、前記直噴最小燃料噴射量が前記ポート最小燃料噴射量よりも大きく設定されており、前記噴射弁制御手段は、前記直噴最小燃料噴射量及び前記ポート最小燃料噴射量が共に前記復帰時燃料供給量よりも大きい場合、前記ポート噴射弁を選択して作動させることが好ましい。
この場合、ポート噴射は燃料を直噴気筒内に直噴しないことから直噴よりもトルクショックの発生が起こりにくいとともに、直噴弁より細かい燃料噴射制御が可能であるため、ポート噴射弁を用いることでトルクショックを抑制し易くなる。
【発明の効果】
【0010】
本発明のエンジンの燃料噴射制御装置では、燃料カット後の燃料噴射復帰時に生じるトルクショックを抑制することができる。
また、燃料カット後の復帰時の応答性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明のエンジンの燃料噴射制御装置の概略を示す説明図である。
【図2】図2は、直噴弁とポート噴射弁との噴射タイミングを示す説明図である。
【図3】図3は、本発明のエンジンの燃料噴射制御装置の制御フローチャートの一例である。
【図4】図4は、エンジン冷却水が所定温度を超える場合(温態の場合)のエンジン回転数とエンジントルクとの関係を示すグラフである。
【図5】図5は、エンジン冷却水が所定温度を超える場合(冷態の場合)のエンジン回転数とエンジントルクとの関係を示すグラフである。
【図6】図6は、従来のエンジンの燃料噴射制御装置の制御フローチャートの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。ただし、この実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対位置などは特に記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではない。
【0013】
図1は、本発明のエンジンの燃料噴射制御装置に用いる4サイクルガソリンエンジンの構成を示している。図に示すように、エンジンの気筒の上部には燃焼室20内の燃料に点火するための点火プラグ1が設けられている。また、気筒の側面の上部付近には、燃焼室20内に直接、燃料を噴射する直噴弁2が設けられている。また、この直噴弁2の上方には、吸気ポート3が形成され、この吸気ポート3には、吸気弁4と、エンジンの吸気ポート3内に燃料を噴射するポート噴射弁5とが設けられている。
直噴弁2の噴射1回当たりの燃料量の下限、すなわち直噴最小燃料噴射量は、ポート噴射弁5のポート最小燃料噴射量よりも大きく設定されている。
そして、ポート噴射弁5から燃料が噴射されると、吸気弁4を介して燃料が燃焼室20内に吸い込まれる。燃料の吸込みは、ピストン22が下降して気筒内が負圧になることによって行われる。上記直噴弁2とポート噴射弁5との制御は、エンジンコントロールユニット(ECU)11の噴射弁制御手段113によって行われる。
噴射タイミングは、図2に示すように、直噴弁2の場合は、吸気行程中に行われ、ポート噴射弁5の場合は、膨張行程から排気行程に移行するときに行われる。
【0014】
図1に示す直噴弁2とポート噴射弁5への燃料の圧送は、フィードポンプ6を用いて行われる。このフィードポンプ6は、燃料タンク7内の燃料を吸引して直噴弁2とポート噴射弁5へ燃料を送り出す。ECU11の燃料カット実行手段111によってフィードポンプ6の作動が制御されて燃料カットが実行されるようになっている。直噴弁2はポート噴射弁5より燃料噴射圧が高いため高圧ポンプ8が用いられている。そして、直噴弁2とポート噴射弁5のそれぞれに設けられた電磁弁がオンオフ動作をすることにより、該噴射弁2、5から燃料が噴射される。
また、複数気筒の各気筒の直噴弁2及びポート噴射弁5には燃料分配管9A、9Bによって燃料が分配されるようになっている。また、気筒にはエンジンを冷却する冷却水Wが循環しており、この冷却水Wの温度は水温検出手段である温度センサ10Aを用いて測定される。
【0015】
また、燃料カット実行手段111により実行された燃料カットからの復帰時においてエンジンに生じるトルクショックを許容内に収めるために必要な復帰時燃料供給量を求める復帰時燃料供給量検出手段112は、エンジンの回転数を検出する回転数検出手段12の信号、および予め設定された復帰時許容トルクに基づいて燃料供給量が演算処理により求められる。なお、復帰時許容トルクについては、図4、5に示す燃料カット復帰時許容トルク特性のようにエンジン回転数をパラメータとしたマップとして記憶されているが、その他手段によって復帰時許容トルクを検出してもよい。
そして、ECU11は、当該復帰時燃料供給量検出手段112で求めた復帰時燃料供給量を、直噴弁2が噴射可能な直噴最小燃料噴射量及びポート噴射弁5が噴射可能なポート最小燃料噴射量と比較し、該比較結果に応じて、直噴弁2又はポート噴射弁5を選択して作動させる。
【0016】
図3は、本発明のエンジンの燃料噴射制御装置を用いた制御方法を示すフローチャートである。本発明のエンジンの燃料噴射制御装置では、先ず、ステップS1において、エンジン回転数を回転数検出手段により測定する。エンジン回転数は、例えば、カムポジションセンサから出力される回転数信号、またはクランク軸に設けられたクランク軸回転数センサからの出力に基づいて測定される。
次いで、ステップS2において、スロットルの開度を取得する。アクセルペダルが完全に踏み込まれていればスロットル開度は100%となり、アクセルペダルが踏み込まれていなければスロットル開度は0%で全閉となる。
【0017】
次いで、ステップS3において、燃料カット後の燃料噴射復帰時に該当するか否かが判断される。燃料カットとは、アクセルペダルの踏込みを解消して全閉状態にした時に燃料の噴射が中断されることをいう。燃料カット域は、図4、5に示すように、エンジン回転数が所定回転数領域に設定されており、該設定領域内においてアクセルペダルの踏込みを解消したときに燃料カットが行われる。このアクセルペダルの全閉時の負のエンジントルク特性が図3、4にスロットル全閉トルクとして示されている。
そして、燃料カット復帰時とは、再度、アクセルペダルを踏み込んでエンジンを加速した時をいう。この判断は、アクセルペダルの踏込み量を検知するアクセルペダルセンサ(不図示)からの信号によって、ECU11によって行う。そして、燃料カット後の燃料噴射復帰時に該当しなければ、ステップS4において通常の制御を行う。通常の制御としては、例えば、エンジン回転数とアクセルペダルの踏み込み量から必要とする燃料噴射量を算出して直噴弁2またはポート噴射弁5によって燃料噴射が制御されるものであり、公知の制御方法を用いることができる。
【0018】
一方、このステップS3において、燃料カット後の燃料噴射復帰時に該当するとECU11が判断した場合、ステップS5において温度センサ10Aにより冷却水Wの温度が所定値を超えるか否かが判断される。ここで所定値とは、例えば80℃とされる。この温度を境に温態の場合(図4参照)と冷態の場合(図5参照)とに制御が分かれる。そして、冷却水Wの温度が所定値を超えたと判断された場合は、ステップS6において燃料カット後の復帰時許容トルクから必要とされる復帰時燃料供給量(Pw)を求める。
この復帰時許容トルクは、図4、5の燃料カット突入・復帰時許容トルクとして示されているように予め試験によってスロットル全閉ラインからの復帰時のトルクの立ち上がり時にトルクショックが許容される限界ラインとして設定されている。
そして、この復帰時燃料供給量(Pw)は、復帰時のエンジン回転数に対する前記復帰時許容トルクを基に算出される。この復帰時燃料供給量(Pw)はトルクショックを与えずに復帰するのに必要な燃料供給量である。
【0019】
次いで、ステップS7において直噴の場合の噴射1回当たりの直噴最小燃料噴射量と、ポート噴射の場合の噴射1回当たりのポート最小燃料噴射量とがともに、復帰時燃料供給量(Pw)を満たすかどうかを判定する。すなわち、直噴最小燃料噴射量とポート最小燃料噴射量とがともに復帰時燃料供給量(Pw)以下かどうか判定される。
ステップS7において、NOの場合には、直噴最小燃料噴射量とポート最小燃料噴射量とがともに満たさない場合と、一方が満たさない場合の両方を含んでいる。
一方が満たさない場合には、満たす方の噴射弁、すなわち復帰時燃料供給量(Pw)以下の最少燃料噴射量を噴射できる噴射弁を用いることで確実にトルクショックを抑制できる。この場合は図3のフローチャートに示していない。
また、両方が満たさない場合には、ステップS8において、ポート噴射弁5によりポート噴射(MPI)が行われる。ポート噴射は燃料を直噴燃焼室20内に直噴しないことから直噴よりもトルクショックの発生が起こりにくいとともに、直噴弁2より細かい燃料噴射制御が可能であるため、ポート噴射弁5を用いることでトルクショックを抑制し易くなる。
【0020】
一方、ステップS7において、YESの場合すなわち、いずれの噴射弁2、5も復帰時燃料供給量(Pw)を満たしていれば、ステップS9に進み、エンジン回転数が所定値より大きいか否かが判断される。所定値より小さい低回転数域のエンジン回転数では、ステップS9に進みポート噴射によって燃料カット後の復帰を実施する。これはポート噴射の方が、直噴に比べて噴射した燃料が気化し易く燃焼安定性を確保し易いためである。
【0021】
また、エンジン回転数が所定値を超える場合には、ステップS10に進み直噴によって燃料カット後の復帰を実施する。これは、高回転のエンジン回転数域では、多量の燃料を必要とするため、直噴弁2を用いて燃料を直接燃焼室20内に噴射することでエンジン出力の向上を図るとともに、ポート噴射における燃料のポート付着による燃焼までのレスポンスの悪化を改善して、燃料カット後の復帰時の応答性が向上するからである。
【0022】
ここで、エンジン回転数の所定値とは、図4でいうポート噴射復帰と直噴復帰との境目Bの値をいう。この直噴復帰の区域では、燃料カット突入・復帰時の許容トルクのラインよりも直噴最小燃料噴射量トルク及びポート最小燃料噴射量トルクのラインが下側にあり、直噴弁2を用いてもポート噴射弁5を用いても、トルク変動によるショックを与えないが、前記したように次の理由により直噴復帰が行われる。第1に、高回転のエンジン回転数域では、多量の燃料を必要とするため、直噴弁2を用いて燃料を直接燃焼室20内に噴射することでエンジン出力の向上を図ることができる。第2に、ポート噴射弁5を使用する場合に発生する噴射した燃料の吸気ポート3への付着という問題がない。燃料が吸気ポート3に付着すると、吸気ポート3付着分を見越した燃料の導入が必要となり複雑な制御となる。
【0023】
上記ステップS5において、冷却水の温度が所定値以下であれば、ステップS10に進み、直噴弁2により直噴(DI)で燃料カット復帰が行われる。この場合は、図5に示す冷態の場合に相当する。冷却水W(図1記載)の温度が低い場合であり、例えば、冷却水Wが80℃以下の場合である。温度センサ10Aの検出結果が吸気ポート3内での燃料の気化が困難な温度以下の場合、ポート噴射弁5による燃料の気化を期待することができず、吸気ポート3に液体状の燃料が付着する問題が発生するため、直噴弁2によって直接燃料を燃焼室20内に噴射することによって、この問題を避けることができる。ここで、吸気ポート3内での燃料の気化が困難な温度とは、吸気ポート3に液体状の燃料が付着し、燃料の噴霧化に支障が生じる温度のことをいう。この温度に前記所定値を設定するとよい。
【0024】
図5のスロットル全閉トルクのグラフは図4のスロットル全閉トルクのグラフと比べてエンジントルクが負の方向へ移動して負のトルク幅が広がっている。これは、冷却水の水温が低い場合、エンジンのフリクションが大きく、負のトルクが大きくなるからである。そのため、燃料カット突入・復帰時の許容トルクと全閉トルクとの差が大きくなる。
【0025】
そして、図5では、図4のポート噴射復帰区域で許容トルクを超えていた直噴最小燃料噴射量トルクは、許容トルク未満になる。すなわち、直噴最小燃料噴射量トルクとポート最小燃料噴射量トルクとは共に全閉燃料カット域において、許容トルク以下となるため、直噴弁2とポート噴射弁5とのどちらを選択してもよい。しかし、上述したように、燃焼までのレスポンスがポート噴射弁5を選択した場合より早くなる点、ポート噴射弁5を使用する場合に発生する噴射した燃料の吸気ポート3への付着という問題がないという点を考慮して、直噴弁2が選択される。さらに、これらの点に加え、冷態では吸気ポート3での燃料の噴霧化が十分でなく、微粒子化に優れている直噴噴射を行うことで有害排ガスの低減を行うこともできる。
なお、図4及び図5において全閉燃料カット域よりエンジン回転数が低い区域は、燃料のカットは行われない。
【0026】
以上のステップS1〜S10の処理は、無限ループとして自動車走行中に常時行われ、例えば、エンジンキーが切られたときに終了する。そして、再度、エンジンが始動後にステップS1から上記処理が開始される。
【0027】
上述した実施形態では、燃料カット実行手段111による燃料カットからの復帰時に、復帰時燃料供給量検出手段112はエンジンに生じるトルクショックを許容内に収めるために必要な復帰時燃料供給量(Pw)を求め、該復帰時燃料供給量(Pw)より小さい能力を有する直噴弁2又はポート噴射弁5をECU11により選択して燃料噴射を行うので、燃料カット後の燃料噴射復帰時にトルクショックを与えないとともに、トルクショックが許容内であれば、エンジンの応答性の高い直噴弁2を用いての噴射とすることで、復帰時の応答性を高めることができる。
【0028】
以上、本発明を説明してきたが、本発明は上述した実施形態にのみ限定されるものではなく、その本質を逸脱しない範囲で、他の種々の変形が可能であることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明によれば、燃料カット後の燃料噴射復帰時にトルクショックを抑制できるので、エンジンの燃料噴射制御装置へ適用可能である。
【符号の説明】
【0030】
1 点火プラグ
2 直噴弁
3 吸気ポート
4 吸気弁
5 ポート噴射弁
6 フィードポンプ
7 燃料タンク
8 高圧ポンプ
9A,9B 燃料分配管
10A 温度センサ
11 エンジンコントロールユニット(ECU)
111 燃料カット実行手段
112 復帰時燃料供給量検出手段
113 噴射弁制御手段
12 回転数検出手段
20 燃焼室
22 ピストン
100 点火プラグ
101 直噴弁
102 ポート噴射弁
103 燃料タンク
104 フィードポンプ
105 高圧ポンプ
B 境目

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの気筒内に燃料を直接噴射する直噴弁と、
前記エンジンの吸気ポート内に燃料を噴射するポート噴射弁と、
前記エンジンの運転中に燃料カットを実行する燃料カット実行手段と、
前記燃料カット実行手段により実行された燃料カットからの復帰時において前記エンジンに生じるトルクショックを許容内に収めるために必要な復帰時燃料供給量を求める復帰時燃料供給量検出手段と、
前記エンジンの回転数を検出する回転数検出手段と、
前記復帰時燃料供給量検出手段で求めた復帰時燃料供給量を、前記直噴弁が噴射可能な直噴最小燃料噴射量及び前記ポート噴射弁が噴射可能なポート最小燃料噴射量と比較し、比較結果に応じて、前記直噴弁又は前記ポート噴射弁を選択して作動させる噴射弁制御手段と、を備え、
前記噴射弁制御手段は、前記直噴最小燃料噴射量及び前記ポート最小燃料噴射量が共に前記復帰時燃料供給量以下である場合、前記回転数検出手段の検出結果が所定回転数以下であれば前記ポート噴射弁を選択して作動させ、前記所定回転数より大きければ前記直噴弁を選択して作動させることを特徴とするエンジンの燃料噴射制御装置。
【請求項2】
前記噴射弁制御手段は、
前記直噴最小燃料噴射量及び前記ポート最小燃料噴射量のいずれかが前記復帰時燃料供給量よりも小さい場合、この小さい方の最小燃料噴射量を有する噴射弁を選択して作動させることを特徴とする請求項1に記載のエンジンの燃料噴射制御装置。
【請求項3】
前記直噴最小燃料噴射量が前記ポート最小燃料噴射量よりも大きく設定されており、
前記噴射弁制御手段は、
前記直噴最小燃料噴射量及び前記ポート最小燃料噴射量が共に前記復帰時燃料供給量よりも大きい場合、前記ポート噴射弁を選択して作動させることを特徴とする請求項1又は2に記載のエンジンの燃料噴射制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−32778(P2013−32778A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−243240(P2012−243240)
【出願日】平成24年11月5日(2012.11.5)
【分割の表示】特願2009−94432(P2009−94432)の分割
【原出願日】平成21年4月8日(2009.4.8)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】