説明

エンジン制御装置

【課題】燃費を悪化させることなく良好なEGR制御を行うエンジン制御装置を提供する。
【解決手段】ターボ過給機20と、過給圧を調節する過給圧制御手段22aと、タービン22の上流側とコンプレッサ21の下流側との間に設けられたEGR通路61と、EGR通路に設けられ排ガスの流量を調節するEGRバルブ62とを備えるエンジン10を制御するエンジン制御装置100を、吸気管路内に導入される排ガス量が所定の目標EGR量となるようにEGRバルブの開度を制御するとともに、実際のEGRバルブの開度が予め設定された目標開度に近付くように過給圧制御手段によりターボ過給機の過給圧を制御する構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、EGR装置及びターボ過給機を有するエンジンを制御するエンジン制御装置に関し、特には燃費を悪化させることなく良好なEGR制御を行うものに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば乗用車等の自動車用のディーゼルエンジンにおいては、ターボ過給機による過給を行うとともに、燃焼温度の低下による排ガス中のNOx低減などのため、エンジンから出た排ガス(既燃ガス)の一部を抽出して吸気系に戻す排ガス再循環(EGR)を行っている。
また、このようなターボ過給機においては、タービンの入口にアクチュエータによって駆動される可動ベーンを有する可変ノズルを設けて、運転条件に応じて可動ベーンを開閉させることによって、いわゆる可変ジオメトリ化、可変容量化したものが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、排気経路側のタービン内に可変ベーンを備えた可変容量ターボチャージャと、排気経路と吸気経路とが循環経路及び該経路に設けられたEGRバルブを介して接続された排気循環装置(EGR装置)を搭載した内燃機関が記載されている。
このような可変容量ターボチャージャを用いると、可変ベーンの開度を小さくすることによって排気経路側の排ガスの圧力を高圧化させることができ、可変ベーンの開度を大きくすることによって排気経路側の排ガスの圧力を低圧化させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−270454号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したようなEGR装置において、再循環される排ガスを吸気管路に安定して導入するためには、可変ベーンの開度を小さくして過給圧を高め、タービン上流の排ガス圧力をコンプレッサ下流の吸気圧力(過給圧)に対して高くすることによって、EGR配管の入り側、出側の差圧を確保した状態でEGRバルブ開度により流量を制御することが求められる。
このとき、過給圧設定を高くした場合、排ガス圧力と過給圧との差が大きくなり、少ないEGRバルブ開度で大量のEGR導入が可能となる。しかし、この場合エンジンのポンプ損失が大きくなり、燃費は悪化する方向となる。
一方、過給圧設定を低くした場合、排ガス圧力と過給圧との差が小さくなり、燃費は改善方向になるが、大量のEGR導入は不可能となりまたEGR導入のためEGRバルブの開度を大きくする必要があるため、EGR制御の制御性が低下することが懸念される。
また、このようなターボ過給における排ガス圧力と過給圧との相関は、個々のターボチャージャのコンプレッサ効率、タービン効率のばらつきに強く影響を受けるため、全ての車両に対して予めEGR導入時の過給圧制御を最適化することはきわめて困難である。
上述した問題点に鑑み、本発明の課題は、燃費を悪化させることなく良好なEGR制御を行うエンジン制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下のような解決手段により、上述した課題を解決する。
請求項1の発明は、エンジンの排ガスによって駆動されるタービン及び前記タービンによって駆動されるコンプレッサを有するターボ過給機と、前記ターボ過給機の過給圧を調節する過給圧制御手段と、前記タービンの上流側における前記エンジンの排気管路と前記コンプレッサの下流側における前記エンジンの吸気管路との間に設けられ排ガスを前記吸気管路に導入するEGR通路と、前記EGR通路に設けられ排ガスの流量を調節するEGRバルブとを備えるエンジンを制御するエンジン制御装置であって、前記EGR通路から前記吸気管路内に導入される排ガス量が所定の目標EGR量となるように前記EGRバルブの開度を制御するとともに、実際のEGRバルブの開度が予め設定された目標開度に近付くように前記過給圧制御手段により前記ターボ過給機の過給圧を制御することを特徴とするエンジン制御装置である。
【0007】
請求項2の発明は、前記EGRバルブの開度が前記目標開度よりも小さい場合には前記ターボ過給機の過給圧を低くするとともに、前記EGRバルブの開度が前記目標開度よりも大きい場合には前記ターボ過給機の過給圧を高くすることを特徴とする請求項1に記載のエンジン制御装置である。
請求項3の発明は、前記過給圧制御手段は前記ターボ過給機の過給圧が所定の目標過給圧に近付くように前記ターボ過給機の過給圧を制御するものであり、前記EGRバルブの開度が前記目標開度よりも小さい場合には前記目標過給圧を低くするとともに、前記EGRバルブの開度が前記目標開度よりも大きい場合には前記目標過給圧を高くすることを特徴とする請求項1に記載のエンジン制御装置である。
請求項4の発明は、前記EGRバルブの開度に基づいた前記過給圧制御手段の制御を、前記エンジンの運転状態が所定の定常運転状態である場合にのみ許可することを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載のエンジン制御装置である。
請求項5の発明は、前記EGRバルブの開度に基づいた前記過給圧制御手段の制御履歴に基づいて、前記過給圧制御手段の次回以降の制御における目標過給圧を補正して前記EGRバルブの開度を前記目標開度に近づける過給圧制御学習補正手段を有することを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載のエンジン制御装置である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)所定の目標EGR量を再循環する際のEGRバルブの開度が目標開度に近付くようにターボ過給機の過給圧を制御することによって、過給圧が高すぎることに起因するポンプ損失の増大による燃費悪化や、低すぎることに起因するEGR量の不足やEGRバルブの制御性不良を生じさせることなく、安定したEGR制御を行うことができる。
(2)EGRバルブの開度が目標開度よりも小さい場合には過給圧を低くし、大きい場合には過給圧を高くすることによって、上述した効果を確実に得ることができる。
(3)過給圧が所定の目標過給圧に基づいてフィードバック制御されている場合に、EGRバルブの開度が目標開度よりも小さい場合には目標過給圧を低くし、大きい場合には目標過給圧を高くすることによっても、上述した効果を確実に得ることができる。
(4)エンジンの運転状態が所定の定常運転状態である場合にのみEGRバルブの開度に基づいた過給圧制御手段の制御を行うことによって、EGRバルブ開度と過給圧との相関が不確かな過渡状態で制御が行われることを防止し、制御の信頼性を高めることができる。
(5)過給圧制御手段の制御履歴に基づいて次回以降の制御における目標過給圧を補正し、EGRバルブの開度を目標開度に近づける学習補正を行うことによって、個々の車両のターボ過給機のコンプレッサ効率、タービン効率などの固体差や経年変化に関わらず、適切な過給圧制御を行うことができ、安定したEGR制御を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明を適用したエンジン制御装置の実施例を有するエンジンのシステム構成を示す模式図である。
【図2】図1のエンジンにおけるEGRバルブのバルブ開度とバルブ開口面積との相関を模式的に示すグラフである。
【図3】実施例のエンジン制御装置におけるEGRバルブ開度に応じた過給圧制御を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、燃費を悪化させることなく良好なEGR制御を行うエンジン制御装置を提供する課題を、目標EGR量が得られるEGRバルブの開度が所定の目標開度となるようにターボチャージャの目標過給圧を補正することによって解決した。
【実施例】
【0011】
以下、本発明を適用したエンジン制御装置の実施例について説明する。
図1は、実施例のエンジン制御装置によって制御されるエンジンのシステム構成を示す模式図である。
エンジン10は、ターボチャージャ20、インテークシステム30、エキゾーストシステム40、燃料供給装置50、EGR装置60、酸化触媒(DOC)70、ディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)80、エンジン制御ユニット(ECU100)等を備えて構成されている。
【0012】
エンジン10は、例えば、乗用車等の自動車の走行用動力源として用いられる4ストロークのディーゼルエンジンである。
エンジン10は、クランクシャフト11、ピストン12、シリンダブロック13、ヘッド14、燃焼室15、グロープラグ16、グローコントローラ17等を備えて構成されている。
クランクシャフト11は、エンジン10の出力軸である。
ピストン12は、シリンダ内を往復運動し、コンロッドを介して燃焼圧力をクランクシャフト11に伝達する部材である。
シリンダブロック13は、ピストン12が収容されるシリンダ部及びクランクシャフト11が回転可能に支持されるクランクケース部を一体に形成したものである。
ヘッド14は、シリンダブロック13のピストン12の冠側の端部に設けられ、吸気ポート、排気ポート及びこれらに設けられた吸気バルブ及び排気バルブを開閉する動弁駆動機構等を備えている。
燃焼室15は、ピストン12の冠面とヘッド14のこれに対向する部分との間に形成されている。
グロープラグ16は、先端部が燃焼室15内に露出した状態でヘッド14に設けられた予備加熱装置である。
グローコントローラ17は、ECU100の制御に応じてグロープラグ16への通電量を制御するものである。
【0013】
ターボチャージャ20は、エンジン10の排ガス(既燃ガス)のエネルギを用いて、エンジン10が吸入する燃焼用空気(新気)を所定の過給圧まで圧縮するものである。
ターボチャージャ20は、コンプレッサ21、タービン22、アクチュエータ23、負圧制御弁24等を備えている。
コンプレッサ21は、燃焼用空気を圧縮する遠心型圧縮機である。
タービン22は、コンプレッサ21と同軸に設けられ、エンジン10の排ガスによって駆動されるとともに、コンプレッサ21を駆動するものである。タービン22は、タービンホイールの周囲に設けられる可動式のべーンによってジオメトリを連続的に変更可能な可変ノズル22aを備えた可変ジオメトリ式のものである。
アクチュエータ23は、タービン22の可変ノズル22aの可動ベーンを駆動する負圧式のアクチュエータである。
負圧制御弁24は、図示しない負圧源からの負圧を、ECU100の制御に従ってアクチュエータ23に導入する電磁弁である。
また、ターボチャージャ20には、ECU100の制御に従ってタービン22の上流側の排ガスを下流側へバイパスさせる図示しないウエストゲートバルブが設けられている。
【0014】
インテークシステム30は、エンジン10に燃焼用空気を導入するものである。
インテークシステム30は、インテークダクト31、エアクリーナ32、エアフローメータ33、インタークーラ34、スロットルバルブ35、アクチュエータ36、インテークチャンバ37、吸気圧センサ38、インテークマニホールド39等を備えて構成されている。
【0015】
インテークダクト31は、大気から燃焼用空気を導入し、ターボチャージャ20のコンプレッサ21を経由してエンジン10に供給する空気流路である。
エアクリーナ32は、空気を濾過して埃等を除去するフィルタエレメントを備えている。エアクリーナ32を通過した空気はターボチャージャ20のコンプレッサ21に導入され、圧縮される。
エアフローメータ33は、エアクリーナ32の出口部に設けられ、空気流量を検出するセンサを備えている。また、エアフローメータ33には、吸気温度を検出する吸気温度センサが内蔵されている。
【0016】
インタークーラ34は、ターボチャージャ20のコンプレッサ21から出た空気を、走行風との熱交換によって冷却する熱交換器である。
スロットルバルブ35は、インタークーラ34の下流側に設けられ、エンジン10の吸入空気量を調節するものである。
アクチュエータ36は、ECU100からの制御信号に応じてスロットルバルブ35を開閉駆動するものである。
インテークチャンバ37は、スロットルバルブ35を通過した空気が導入される空気室であって、インテークマニホールド39を介してエンジン10の吸気ポートに接続されている。
吸気圧センサ38は、インテークチャンバ37に設けられ、エンジン10の吸気圧力と実質的に等しいインテークチャンバ37内の圧力を検出するものである。
インテークマニホールド39は、インテークチャンバ37からエンジン10の各気筒の吸気ポートに空気を導入する分岐管路である。
【0017】
エキゾーストシステム40は、エキゾーストマニホールド41、エキゾーストパイプ42等を備えて構成されている。
エキゾーストマニホールド41は、エンジン10の各気筒の排気ポートから排出される排ガスを集合させてターボチャージャ20のタービン22に導入する管路である。
エキゾーストパイプ42は、タービン22から出た排気を車外に排出する管路である。エキゾーストパイプ42には、DOC70、DPF80等の排ガス後処理装置が設けられている。
【0018】
燃料供給装置50は、エンジン10の燃焼室15内に燃料を供給するものである。燃料供給装置50は、サプライポンプ51、吸入調量電磁弁52、燃料温度センサ53、コモンレール54、燃圧センサ55、インジェクタ56等を備えたコモンレール式の高圧燃料噴射装置である。
【0019】
サプライポンプ51は、例えばインナカム式の圧送系を備え、燃料である軽油を加圧してコモンレール54に供給するものである。
吸入調量電磁弁52は、サプライポンプ51の燃料の吸入量を調整するものであって、ECU100からの制御信号に応じて駆動される。
燃料温度センサ53は、サプライポンプ51における燃料の温度を検出するものである。
【0020】
コモンレール54は、サプライポンプ51が吐出した高圧の燃料を貯留する蓄圧器である。
燃圧センサ55は、コモンレール54内の燃料の圧力(燃圧)を検出するものである。上述した吸入調量電磁弁52は、燃圧センサ55の出力を用いたフィードバック制御により、燃圧が例えばエンジン回転数及び負荷に応じて設定される所定の目標値となるようにその開度を調節される。
インジェクタ56は、コモンレール54から供給される燃料を各気筒の燃焼室15内に噴射するものである。インジェクタ56は、例えばピエゾ素子やソレノイド等のアクチュエータによって開閉される弁体を有し、ECU100からの噴射パルス信号に応じて開弁される。インジェクタ56の噴射タイミング及び噴射量はECU100によって制御されている。
【0021】
EGR装置60は、燃焼温度を抑制してNOxの排出量を低減することを目的とし、エキゾーストマニホールド41から抽出したエンジン10の排ガスの一部を、インテークダクト31内に還流させるものである。
EGR装置60は、EGR通路61、EGRバルブ62、EGRクーラ63等を備えて構成されている。
EGR通路61は、エキゾーストマニホールド41からインテークダクト31のスロットルバルブ35よりも下流側の部分に排ガスを導入する管路である。
EGRバルブ62は、ECU100の制御に応じてEGR通路61の排ガス流量(EGR量)を調節する制御弁である。
EGRクーラ63は、EGR通路61を流れる排ガスを走行風との熱交換によって冷却するものである。
【0022】
DOC70は、エキゾーストパイプ42に設けられ、排ガス中の主として炭化水素(HC)を酸化処理するものである。DOC70は、例えばコーディエライトハニカム構造体等のセラミック製担体の表面に、白金やパラジウム等の貴金属やアルミナ等の金属酸化物を担持させて形成されている。
DOC70には、入口部分の排ガス温度を検出する温度センサ71が設けられている。
【0023】
DPF80は、エキゾーストパイプ42のDOC70よりも下流側に設けられ、排ガスを濾過して粒子状物質(PM)を捕集するフィルタを備えている。ここで、PMには、スート(煤)、有機溶剤可溶性成分(SOF)、サルフェート(SO)等が含まれる。
フィルタは、例えば、コーディエライト等の耐熱性セラミックスをハニカム構造に形成し、ガス流路となる多数のセルを、入口側、出口側が互い違いとなるように端面に封をして形成されたいわゆるクローズドタイプ(ウォールフロータイプ)のものである。
DPF80は、入口圧力と出口圧力との間の差圧を検出する差圧センサ81、及び、出口の排ガス温度を検出する温度センサ82を備えている。
【0024】
ECU100は、上述したエンジン10及びその補機類を統括的に制御するものであって、CPU等の情報処理装置、ROMやRAM等の記憶装置、入出力インターフェイス、及び、A/D変換器、タイマ、カウンタ、各種ロジック回路等の周辺回路を備えている。
ECU100には、上述した各種センサのほか、アクセルペダルセンサ101、大気圧センサ102の出力が入力される。
アクセルペダルセンサ101は、ドライバが操作するアクセルペダルのポジションを検出することによって、ドライバ要求トルクを検出する要求トルク検出手段である。
大気圧センサ102は、車両の周囲雰囲気における大気圧を検出するものである。
【0025】
ECU100は、アクセルペダルセンサ101の出力に応じて設定される要求トルクに応じて、スロットルバルブ35の開度、燃料供給装置50の燃料噴射量及び時期、燃圧等を制御する。
また、ECU100は、運転状態に応じて排ガスの低エミッション化を図るため、EGR装置60によって所定量の排ガス(EGRガス)をインテークダクト31に導入するEGR制御を行う。
さらに、ECU100は、ターボチャージャ20の可変ノズル22a及びウエストゲートバルブを制御して、過給圧が所定の目標過給圧となるように制御する過給圧制御を行う。
【0026】
本実施例においては、燃費を悪化させることなくEGR制御の制御性を向上するため、EGRバルブ62の開度とターボチャージャ20の過給圧との協調制御を行っている。
先ず、EGRバルブ62の開度と制御性との関係について説明する。
図2は、EGRバルブの開度と開口面積との相関を模式的に示すグラフである。
図2において、横軸はEGRバルブの開度を示し、縦軸はEGRバルブの開口面積を示している。
【0027】
EGRバルブ62の開度に対する開口面積の変化率は、開度が中間領域においては比較的大きく、全閉付近及び全開付近では小さくなっている。
EGR制御の制御性を向上するためには、変化率が比較的大きい中間領域を常用することが好ましく、これより高開度あるいは低開度の領域を使用すると、EGR量の精密な制御が困難となるため好ましくない。
しかし、EGRバルブ62の中間開度を用いて十分なEGR量を確保するためには、EGR通路61の入り側、出側の差圧、つまり、タービン22上流側の排ガス圧力と、コンプレッサ21による過給圧との差圧をある程度大きくしてEGRガスが流れやすくする必要がある。
【0028】
上述した差圧を大きくするためには、タービン22の可変ノズル22aを絞って過給圧を高め、タービン22上流側の排ガス圧力を高めることが有効である。しかし、このようにして過給圧を高めた場合には、ポンプ損失の増大によってエンジン10の燃費が悪化する傾向となる。
そこで、本実施例においては、以下説明する制御によって、EGR制御性と燃費との両立を図っている。
【0029】
図3は、本実施例におけるEGRバルブ開度に応じた過給圧制御を示すフローチャートである。
以下、ステップ毎に順を追って説明する。
<ステップS01:運転状態判定・運転領域判定>
ECU100は、エンジン10の冷却水温、吸気量、吸気管内圧力(インテークチャンバ37あるいはインテークマニホールド39の内圧)、EGR量、外気温等の運転状態を判定する。
また、ECU100は、エンジン10の回転数、負荷等の運転領域を判定する。
その後、ステップS02に進む。
【0030】
<ステップS02:目標EGR量・目標過給圧・目標EGRバルブ開度設定>
ECU100は、ステップS01での判定結果に基づいて、目標EGR量、目標過給圧、及び、目標EGRバルブ開度を設定する。これらの各値は、例えば、運転状態、運転領域に基づいて予め設定されたマップから読み出され、あるいは、演算される。
その後、ステップS03に進む。
【0031】
<ステップS03:EGRバルブ開度制御実施・過給圧制御実施>
ECU100は、ステップS02で設定した目標EGR量が得られるようにEGRバルブ62の開度をフィードバック制御する。
また、ECU100は、ターボチャージャ20の可変ノズル22a及びウエストゲートバルブを制御して、過給圧がステップS02で設定した目標過給圧となるように制御する。
その後、ステップS04に進む。
【0032】
<ステップS04:運転領域・過給圧判断>
ECU100は、エンジンの運転領域が所定の定常運転領域であるか否かを判別する。このような定常運転領域として、例えば、回転数及び負荷の単位時間あたりの変化率が所定の閾値以下である状態が挙げられる。
また、ECU100は、ターボチャージャ20の過給圧がステップS02で設定した目標過給圧に到達したか判別する。
そして、定常運転領域でありかつ目標過給圧に到達している場合には、ステップS05に進み、その他の場合には一連の処理を終了(リターン)する。
【0033】
<ステップS05:EGRバルブ開度判断>
ECU100は、現在のEGRバルブ62の開度(指示値)を、ステップS02で設定した目標EGRバルブ開度と比較する。
そして、実際のEGRバルブ開度が目標EGRバルブ開度と実質的に等しい場合は、一連の処理を終了(リターン)する。
また、実際のEGRバルブ開度が目標EGRバルブ開度よりも大きい場合は、ステップS06に進む。
また、実際のEGRバルブ開度が目標EGRバルブ開度よりも小さい場合は、ステップS07に進む。
【0034】
<ステップS06:目標過給圧増加補正>
ECU100は、目標過給圧を増加する補正を行う。これに応じて、ターボチャージャ20の可変ノズル22aは絞られ、過給圧が高くなるとともに、タービン22の上流側の排ガス圧力も高くなる。
これによって、EGR通路61の入り側と出側との差圧が大きくなり、目標EGR量を導入する場合のEGRバルブ62の開度は小さくなる。
その後、一連の処理を終了(リターン)する。
【0035】
<ステップS07:目標過給圧減少補正>
ECU100は、目標過給圧を減少する補正を行う。これに応じて、ターボチャージャ20の可変ノズル22aは開かれ、過給圧が低くなるとともに、タービン22の上流側の排ガス圧力も低くなる。
これによって、EGR通路61の入り側と出側との差圧が小さくなり、目標EGR量を導入する場合のEGRバルブ62の開度は大きくなる。
その後、一連の処理を終了(リターン)する。
【0036】
なお、ECU100は、上述した目標過給圧の増加補正、減少補正を行った場合には、所定の運転状態、運転領域に対する目標過給圧の設定値マップに対しても、同様の増加補正、減少補正を行う学習補正機能を備えている。
【0037】
以上説明した本実施例によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)所定の目標EGR量を導入する際のEGRバルブ62の開度が目標開度に近付くようにターボチャージャ20の過給圧を制御することによって、過給圧が高すぎることによる燃費悪化や、低すぎることによるEGRバルブ62の制御性不良を招くことなく、安定したEGR制御を行うことができる。
(2)EGRバルブ62の開度が目標開度よりも小さい場合には目標過給圧を低くし、大きい場合には目標過給圧を高くすることによって、上述した効果を確実に得ることができる。
(3)エンジン10の運転状態が所定の定常運転状態である場合にのみEGRバルブ62の開度に基づいた目標過給圧の補正を行うことによって、EGRバルブ62の開度と過給圧との相関が不確かな過渡状態で制御が行われることを防止し、制御の信頼性を高めることができる。
(4)目標過給圧の補正履歴に基づいて次回以降の制御量を補正し、EGRバルブ62の開度を目標開度に近づける学習補正を行うことによって、個々の車両のターボチャージャ20のコンプレッサ21の効率、タービン22の効率などの固体差や経年変化に関わらず、適切な過給圧制御を行うことができ、安定したEGR制御を実現できる。
【0038】
(変形例)
本発明は、以上説明した実施例に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であって、それらも本発明の技術的範囲内である。
(1)エンジン及びその補機類の構成は、上述した実施例の構成に限らず、適宜変更することができる。
(2)目標EGRバルブ開度は、単一の値ではなく、所定の幅を持った範囲であってもよい。この場合、過給圧は実際のEGRバルブ開度が目標EGRバルブの範囲内に収まるように制御される。
(3)実施例では、EGRバルブ開度に応じた過給圧の制御を、目標過給圧の変更によって間接的に行っているが、実際のEGRバルブ開度と目標EGRバルブ開度との差分に基づいて、可動ノズル22aやウエストゲートバルブのアクチュエータに直接指示を与えるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0039】
10 エンジン 11 クランクシャフト
12 ピストン 13 シリンダブロック
14 ヘッド 15 燃焼室
16 グロープラグ 17 グローコントローラ
20 ターボチャージャ 21 コンプレッサ
22 タービン 22a 可変ノズル
23 アクチュエータ 24 負圧制御弁
30 インテークシステム 31 インテークダクト
32 エアクリーナ 33 エアフローメータ
34 インタークーラ 35 スロットルバルブ
36 アクチュエータ 37 インテークチャンバ
38 吸気圧センサ 39 インテークマニホールド
40 エキゾーストシステム 41 エキゾーストマニホールド
42 エキゾーストパイプ
50 燃料供給装置 51 サプライポンプ
52 吸入調量電磁弁 53 燃料温度センサ
54 コモンレール 55 燃圧センサ
56 インジェクタ
60 EGR装置 61 EGR通路
62 EGRバルブ 63 EGRクーラ
70 酸化触媒(DOC) 71 温度センサ
80 ディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)
81 差圧センサ 82 温度センサ
100 エンジン制御ユニット(ECU)
101 アクセルペダルセンサ 102 大気圧センサ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの排ガスによって駆動されるタービン及び前記タービンによって駆動されるコンプレッサを有するターボ過給機と、
前記ターボ過給機の過給圧を調節する過給圧制御手段と、
前記タービンの上流側における前記エンジンの排気管路と前記コンプレッサの下流側における前記エンジンの吸気管路との間に設けられ排ガスを前記吸気管路に導入するEGR通路と、
前記EGR通路に設けられ排ガスの流量を調節するEGRバルブと
を備えるエンジンを制御するエンジン制御装置であって、
前記EGR通路から前記吸気管路内に導入される排ガス量が所定の目標EGR量となるように前記EGRバルブの開度を制御するとともに、実際のEGRバルブの開度が予め設定された目標開度に近付くように前記過給圧制御手段により前記ターボ過給機の過給圧を制御すること
を特徴とするエンジン制御装置。
【請求項2】
前記EGRバルブの開度が前記目標開度よりも小さい場合には前記ターボ過給機の過給圧を低くするとともに、前記EGRバルブの開度が前記目標開度よりも大きい場合には前記ターボ過給機の過給圧を高くすること
を特徴とする請求項1に記載のエンジン制御装置。
【請求項3】
前記過給圧制御手段は前記ターボ過給機の過給圧が所定の目標過給圧に近付くように前記ターボ過給機の過給圧を制御するものであり、
前記EGRバルブの開度が前記目標開度よりも小さい場合には前記目標過給圧を低くするとともに、前記EGRバルブの開度が前記目標開度よりも大きい場合には前記目標過給圧を高くすること
を特徴とする請求項1に記載のエンジン制御装置。
【請求項4】
前記EGRバルブの開度に基づいた前記過給圧制御手段の制御を、前記エンジンの運転状態が所定の定常運転状態である場合にのみ許可すること
を特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載のエンジン制御装置。
【請求項5】
前記EGRバルブの開度に基づいた前記過給圧制御手段の制御履歴に基づいて、前記過給圧制御手段の次回以降の制御における目標過給圧を補正して前記EGRバルブの開度を前記目標開度に近づける過給圧制御学習補正手段を有すること
を特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載のエンジン制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−226374(P2011−226374A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−96619(P2010−96619)
【出願日】平成22年4月20日(2010.4.20)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】