説明

エンジン制御装置

【課題】アイドルストップ対応車両において、スタータピニオンギアをエンジンのリングギアに予め噛み合わせて、再始動時の始動時間を低減する制御装置では、運転終了時に上記噛み合わせの固着を避けるために解除する必要があり、これを金属間の摩擦力に打ち勝って確実に解除すること。
【解決手段】噛み合わせを解除する際は、ピニオンギア駆動手段が、ピニオンギアに対してリングギアから離脱する方向に作用すると共に、始動装置のスタータモータを回転させることにより、又はエンジンの燃料噴射弁から燃料を噴射し、エンジンのシリンダ内で燃料と空気の混合気に点火することにより、前記噛み合わせを解除すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アイドルストップ付き車両において、エンジン始動不良やエンジン始動装置の故障の発生を未然に防止するエンジン制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スタータを用いて再始動を行うアイドルストップ対応車両では、アイドルストップからのエンジン再始動時間を短くするため、スタータピニオンギアをエンジンのリングギアに予め噛み込ませるようにしたエンジン自動停止再始動装置が、特許文献1に記載されている。
【0003】
また、エンジン始動時の騒音低減策として、エンジン始動前のエンジンが停止している間に、予め前記ピニオンギアを前記リングギアに穏やかに噛み合せるエンジン始動装置が、特許文献2に記載されている。
【0004】
ところが、特許文献1及び特許文献2の技術を搭載した車両では、ピニオンギアとリングギアが噛み合った状態のままで運転が終了し、かつ車両が長期間不動の場合、寒冷地等では凍結により、次回運転時にピニオンギアとリングギアの噛み合いが外れないことにより、故障を発生させるおそれがあった。
【0005】
そのため、この対策として、車両のイグニッションオフ時に、ピニオンギアを出力回転軸に沿ってリングギアに対して摺動させるピニオン駆動手段を用いて、ピニオンギアとリングギアの噛み合いを解除させ、次回運転時にピニオンギアとリングギアの噛み合いが外れないことによる故障を未然に防止する技術が、特許文献3に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許4214401号公報
【特許文献2】特開2000−45920号公報
【特許文献3】特開2006−342719号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、ピニオンギアとリングギアが噛み合った状態のままエンジンが停止した場合、これらのギア間に摩擦力が発生するので、特許文献3に記載された技術により、車両のイグニッションオフ時にピニオン駆動手段を作用させても、これらのギアの噛み合わせを、上記摩擦力に打ち勝って確実に解除することが難しいという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明に係るエンジン制御装置は、エンジンに回転力を伝達するためのリングギアと、前記エンジンを始動させるための始動装置と、前記始動装置のスタータモータの出力回転軸上に支持されたピニオンギアと、前記ピニオンギアを前記出力回転軸上に摺動させるピニオンギア駆動手段と、を備えて、エンジンのアイドリング時に該エンジンを停止するアイドルストップ機能及び該アイドルストップ中に前記リングギアと前記ピニオンギアとを噛み合わせる制御を備えるエンジン制御装置において、前記リングギアと前記ピニオンギアの噛み合わせを解除する際は、前記ピニオンギア駆動手段が、前記ピニオンギアに対して前記リングギアから離脱する方向に作用すると共に、前記始動装置のスタータモータを回転させることにより、前記噛み合わせを解除することを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係るエンジン制御装置は、前記リングギアと前記ピニオンギアの噛み合わせを解除する際は、前記ピニオンギア駆動手段が、前記ピニオンギアに対して前記リングギアから離脱する方向に作用すると共に、前記始動装置のスタータモータを回転させることにより、前記噛み合わせを解除することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、運転終了時にピニオンギアとリングギアの噛み合いを確実に解除することで、ピニオンギアとリングギアが長期間の噛み合った状態となることを防ぐので、例えば、噛み合った状態のピニオンギアとリングギアとの間が、凍結や錆によって固着し、エンジンが始動に支障が生じること、前記固着の結果、ピニオンギアが回らないことで、スタータモータが過負荷になって故障すること、ピニオンギアのヘリカルスプライン部の長期露出による錆やゴミの堆積により、ピニオンギアの戻りが不良となること、等の故障を未然に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係るエンジン制御装置が適用されたシステムの機能構成を示す。
【図2】本発明の実施例1に係るエンジン制御装置の作動についてのフローチャートを示す。
【図3】本発明の実施例1に係るエンジン制御装置の作動のタイミングチャートの一例を示す。
【図4】本発明の実施例2に係るエンジン制御装置の作動についてのフローチャートを示す。
【図5】本発明の実施例2に係るエンジン制御装置の作動のタイミングチャートの一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、本発明に係るエンジン制御装置が適用されたシステムの機能構成を概略的に示す。エンジンは、一例として4気筒エンジンであり、エンジンの各気筒には燃料噴射弁110と火花点火装置109が備えられている。各気筒の燃料噴射弁110と火花点火装置109は、ECU(エンジンコントロールユニット)103によって制御される。
【0013】
エンジンは、燃料噴射弁110から噴射された燃料と空気の混合気に、火花点火装置109により点火することで混合気を燃焼させ、その力でピストン112を押し下げ、ピストンに連結されたクランクシャフト108を回転させて、出力を発生させる。
【0014】
このエンジンには、クランクシャフト108の回転位置情報を検出するためのクランク角センサ102と、カムシャフト111の回転位置情報を検出するためのカム角センサ107が備えられており、これらのセンサの出力は、ECU103に入力される。ECU103は、クランク角センサ102若しくはカム角センサ107からの信号に基づいて、気筒判別、燃料噴射タイミング又は火花点火タイミングを適切に行う。
【0015】
また、エンジンの始動には、スタータ101が使用される。スタータ101は、スタータモータ101a、マグネットスイッチ101b、シフトレバー101c、ピニオンクラッチ101d、ピニオンギア101eにより構成されている。運転者がスタータスイッチ113をONにすると、マグネットスイッチ101bに通電される。マグネットスイッチ101bの通電により、シフトレバー101cが操作され、ピニオンギア101eがリングギア側に押し出される。
【0016】
また、スタータスイッチ113のONにより、スタータモータ101aが通電されて回転し、同軸上に連結されているピニオンギア101eも回転する。こうして、ピニオンギア101eは、回転しつつリングギア106側に押し出されると、リングギア106と噛み合うので、これらの機構を経由して、クランクシャフト108が回転され、ピストン112が上下動するので、エンジンが始動する。
【0017】
一方、アイドルストップからの再始動時は、ECU103からピニオンリレー105とスタータモータリレー104に通電制御することにより、運転者がスタータスイッチ113をONにした時と同様に、エンジンを始動することが可能な構成となっている。
【0018】
また、アイドルストップ直前のエンジン回転中に、ECU103からピニオンリレー105に通電することにより、マグネットスイッチ101bに通電し、シフトレバー101cを操作して、ピニオンギア101eとリングギア106を噛み合わせ、次回再始動時の始動時間を短縮することも可能な構成となっている。
【実施例】
【0019】
[実施例1]
図2は、本発明の実施例1に係るエンジン制御装置の作動についてのフローチャートを示す。
【0020】
ステップS201において、アイドルストップ許可条件が成立中か否か判定する。これが、成立中と判定された場合には、ステップS202に進む。
【0021】
ステップS202では、噛み合わせ解除要求の有無を判定する。噛み合わせ解除要求は、運転席のドア閉め、運転席の荷重センサ、イグニッションスイッチ状態等の組み合わせによって運転の終了を検出し、噛み合わせの解除要求を出す。噛み合わせ解除要求ありの場合、ステップS203に進む。
【0022】
ステップS203では、エンジン停止中か否かを判定する。エンジン停止中の場合、ステップS204に進み、エンジン停止中でない(エンジン回転中の)場合)、ステップS207に進む。
【0023】
ステップS204では、ピニオンリレーがONか否かを判定する。噛み合わせ保持制御中の場合ピニオンリレーがONとなっているため、ステップS205に進み、そこでは、ECUからの指令によってピニオンリレーをOFFとする。噛み合わせ保持制御中でない場合、ピニオンリレーはOFFであるので、ステップS204からステップS206に進む。
【0024】
ピニオンリレーOFFにより、ピニオンギアはシフトレバーによる支えを失い、ばね力によってリングギアから外れようとするが、ピニオンギアとリングギアとの金属間の摩擦力により、ピニオンギアはリングギアに噛み込んだままの状態となる。
【0025】
ステップS206では、ECUからの指令によりスタータモータリレーをONにする。これにより、ピニオンギア101eが回転する。この時、ピニオンギア101eは、ステップS204でシフトレバーの支えが失われているため、ピニオンギア101eが回転することで、ピニオンギアとリングギアとの金属間の摩擦力が低減するので、両者間の噛み合わせが解除される。
【0026】
ステップS207では、ECUからの指令によりピニオンリレー101eをOFFにする。ピニオンリレーOFFにより、ピニオンギア101eは、シフトレバーによる支えを失い、ばね力によりリングギアから外れ、噛み合わせは解除される。
【0027】
図3は、本発明の実施例1に係るエンジン制御装置の(図2のフローチャートに示した)作動のタイミングチャートの一例を示す。
【0028】
時刻T251において、アイドルストップ許可条件が成立し、エンジンは燃料カットされエンジン回転が落ち始める。
【0029】
時刻T252において、再始動時の始動時間を短縮するために、エンジン回転数が所定回転数以下となった時に、ピニオンリレーがONとなり、ピニオンギア101eとリングギア106が噛み合うように制御される。
【0030】
時刻T253において、噛み合わせ解除要求が出され、ピニオンリレーがOFFに切換わることによりピニオンギア101eはシフトレバー101cの支えを失った後、スタータモータリレー104が短時間ONされ、ピニオンギア101eを回転するので、ピニオンギア101eとリングギア106との間の噛み合わせが解除される。こうして、ピニオンギア101eとリングギア106の噛み合わせを解除する際に、スタータモータを回転することにより、この解除を確実に実行することができる。
【0031】
上記した噛み合わせを解除するために始動装置のスタータモータを回転させる際には、通常のエンジン始動時のスタータモータ101aを回転させる電力量より少ない電力量でこれを回転させることにより、エネルギを節約し、バッテリ電圧の低下を防止することができる。
【0032】
[実施例2]
図4は、本発明の実施例2に係るエンジン制御装置の作動についてのフローチャートを示す。
【0033】
ステップS301において、アイドルストップ許可条件が成立中か否か判定する。アイドルストップ許可条件が成立中と判定された場合、ステップS302に進む。
【0034】
ステップS302では、噛み合わせ解除要求の有無を判定する。噛み合わせ解除要求は、運転席のドア閉め、運転席の荷重センサ、イグニッションスイッチ状態等の組み合わせによって運転の終了を検出し、噛み合わせの解除要求を出す。噛み合わせ解除要求ありの場合、ステップS303に進む。
【0035】
ステップS303では、エンジン停止中か否かを判定する。エンジン停止中の場合、ステップS304に進む。エンジン停止中でない(エンジン回転中の)場合、ステップS308に進む。
【0036】
ステップS304では、ピニオンリレーがONか否かを判定する。噛み合わせ保持制御中でない場合、ピニオンリレーがOFFとなっているため、ステップS306に進む。これに対し、噛み合わせ保持制御中の場合、ピニオンリレーがONとなっているため、ステップS305に進み、そこで、ECUからの指令によりピニオンリレーをOFFにする。ピニオンリレーOFFにより、ピニオンギア101eは、シフトレバー101cによる支えを失い、ばね力によってリングギア106から外れようとするが、ピニオンギアとリングギアの金属間の摩擦力により、ピニオンギア101eはリングギア106に噛み込んだままの状態となる。
【0037】
ステップS306では、ECUからの指令により燃料噴射弁110から燃料を噴射する。
ステップS307では、ステップS306にて燃料を噴射した気筒の火花点火装置109によって、該気筒内に点火をする。この点火により、該気筒の燃料と空気との混合気が燃焼してトルクが発生し、このトルクによってリングギア106が回転する。この時、ピニオンギア101eは、シフトレバーの支えが失われているため、リングギア106が回転することで、ピニオンギア101eとリングギア106との金属間の摩擦力が低減するので、両者間の噛み合わせが解除される。
【0038】
ステップS308では、ECUからの指令によりピニオンリレーをOFFにする。ピニオンリレーOFFにより、ピニオンギアはシフトレバーによる支えを失い、ばね力によりリングギアから外れ、噛み合わせは解除される。
【0039】
図5は、本発明の実施例2に係るエンジン制御装置の(図4のフローチャートに示した)作動のタイミングチャートの一例を示す。
【0040】
時刻T351において、アイドルストップ許可条件が成立し、エンジンは燃料カットされエンジン回転が落ち始める。
【0041】
時刻T352において、再始動時の始動時間を短縮するために、エンジン回転数が所定回転数以下となった時に、ピニオンリレー105をONとし、ピニオンギア101eとリングギア106を噛み合わせて保持する制御と行う。
【0042】
時刻T353において、噛み合わせの解除要求が出され、ピニオンリレーがOFFに切換わることにより、ピニオンギア101eはシフトレバー101cの支えを失う。これと同時に、圧縮行程気筒に燃料噴射弁110から燃料が噴射される。
【0043】
時刻T354は、時刻T353にて噴射された燃料が筒内に拡がった時点であるが、このタイミングで火花点火装置109によって燃料噴射気筒内の混合気が点火される。その結果、リングギア106は回転し、ピニオンギア101eとリングギア106の間の噛み合わせが解除される。こうして、ピニオンギア101eとリングギア106の噛み合わせを解除する際に、燃料噴射気筒内の混合気を点火することにより、この解除を確実に実行することができる。
【0044】
以上、説明したいずれの実施例においても、ピニオンギア101eとリングギア106の間の噛み合わせを解除する際に、搭載される車両のブレーキ装置に対してブレーキ圧を所定値以上に保持するように指令を出す機能を備えたエンジン制御装置とすると、車両の不測の移動等を防止する等の安全性強化に寄与することができる。
【符号の説明】
【0045】
101:スタータ、101a:スタータモータ、101b:マグネットスイッチ、101c:シフトレバー、101d:ピニオンクラッチ、101e:ピニオンギア、102:クランク角センサ、103:ECU(エンジンコントロールユニット)、104:スタータモータリレー、105:ピニオンリレー、106:リングギア、107:カム角センサ、108:クランクシャフト、109:火花点火装置、110:燃料噴射弁、
111:カムシャフト、112:ピストン、113:スタータスイッチ、114:バッテリ、
T251:アイドルストップ許可条件成立タイミング、T252:噛み合わせ保持制御開始タイミング、T253:噛み合わせ解除要求発生タイミング、
T351:アイドルストップ許可条件成立タイミング、T352:噛み合わせ保持制御開始タイミング、T353:噛み合わせ解除要求発生タイミング、T354:火花点火タイミング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンに回転力を伝達するためのリングギアと、前記エンジンを始動させるための始動装置と、前記始動装置のスタータモータの出力回転軸上に支持されたピニオンギアと、前記ピニオンギアを前記出力回転軸上に摺動させるピニオンギア駆動手段と、を備えて、エンジンのアイドリング時に該エンジンを停止するアイドルストップ機能及び該アイドルストップ中に前記リングギアと前記ピニオンギアとを噛み合わせる制御を備えるエンジン制御装置において、
前記リングギアと前記ピニオンギアの噛み合わせを解除する際は、前記ピニオンギア駆動手段が、前記ピニオンギアに対して前記リングギアから離脱する方向に作用すると共に、前記始動装置のスタータモータを回転させることにより、前記噛み合わせを解除することを特徴とするエンジン制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のエンジン制御装置において、
前記噛み合わせを解除するために前記始動装置のスタータモータを回転させる際には、通常のエンジン始動時のスタータモータを回転させる電力量より少ない電力量で前記スタータモータを回転させることを特徴とするエンジン制御装置。
【請求項3】
エンジンに回転力を伝達するためのリングギアと、前記エンジンを始動させるための始動装置と、前記始動装置のスタータモータの出力回転軸上に支持されたピニオンギアと、前記ピニオンギアを前記出力回転軸上に摺動させるピニオンギア駆動手段と、を備えて、エンジンのアイドリング時に該エンジンを停止するアイドルストップ機能及び該アイドルストップ中に前記リングギアと前記ピニオンギアとを噛み合わせる制御を備えるエンジン制御装置において、
前記リングギアと前記ピニオンギアの噛み合わせを解除する際は、前記ピニオンギア駆動手段が、前記ピニオンギアに対して前記リングギアから離脱する方向に作用すると共に、前記エンジンの燃料噴射弁から燃料を噴射し、前記エンジンのシリンダ内で前記燃料と空気の混合気に点火することにより、前記噛み合わせを解除することを特徴とするエンジン制御装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかの請求項に記載のエンジン制御装置において、
前記リングギアと前記ピニオンギアの噛み合わせを解除する際は、前記エンジン制御装置が搭載される車両のブレーキ圧を所定値以上に保持するように指令を出すことを特徴とするエンジン制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−44261(P2013−44261A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−181605(P2011−181605)
【出願日】平成23年8月23日(2011.8.23)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】