説明

エンジン始動時のシリンダ流入空気量補正方法、及びその方法を備えた燃料制御装置

【課題】エンジン始動時のスロットル開度が比較的閉じ気味のシステムや、エンジン回転数が計算できるようになる気筒判定が遅い等のシステムにおいては、クランキング開始直後から実際の吸気管圧力が低下し始めるが、吸気管圧力推定値はエンジン回転数が検出されるまでは初期値(大気圧)のままとなり、実際の吸気管圧力と吸気管圧力推定値の乖離が大きくなる。この結果、初爆後の回転上昇中におけるシリンダ流入空気量が多目に計算され、完爆時点での空燃比がリッチとなり、排気やドライバビリティを悪化させる恐れがあった。
【解決手段】エンジン始動時のクランキング時のエンジン回転数を算出し、その値に基づいて始動直後からシリンダ流入空気量を計算し、吸気管圧力の推定計算を開始する。更には、始動時のエンジン回転上昇中のシリンダ流入空気量をエンジン回転数の単位時間当りの変化量に応じて補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの気筒内に流入する空気流量を求めるエンジンの流入空気量検出方法、この方法を実行する装置、この装置を備えた燃料噴射量制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の技術はと言えば、吸気管圧力を推定し、推定された吸気管圧力と、エンジン回転数検出手段で検出されたエンジン回転数とから、単位時間または単位エンジン回転数当りの、気筒内に流入する空気質量流量を推定する気筒空気量推定手段を備えていることを特徴とするエンジンの流入空気量検出装置が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許2908924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記の従来の方法は、エンジン回転数が検出されないと、シリンダへ流入する空気量が推定計算できないように構成されており、クランキング時の吸気管推定圧に関しては触れられていない。このため、エンジン始動時のスロットル開度が比較的閉じ気味のシステムや、エンジン回転数が計算できるようになる気筒判定が遅い等のシステムにおいては、クランキング開始直後から実際の吸気管圧力が低下し始めるが、吸気管圧力推定値はエンジン回転数が検出されるまでは初期値(大気圧)のままとなり、実際の吸気管圧力と吸気管圧力推定値の乖離が大きくなる。この結果、初爆後の回転上昇中におけるシリンダ流入空気量が多目に計算され、完爆時点での空燃比がリッチとなり、排気やドライバビリティを悪化させる恐れがあった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
エンジン始動時にスタータSWがONした時、クランキング時のエンジン回転数を算出し、クランク角センサに基づいて算出するエンジン回転数が計算されるまでは、前記クランキング時のエンジン回転数を用いてシリンダ流入空気量を計算させることで吸気管圧力の推定計算を開始する。
【0006】
また、初爆からのエンジン回転数の単位時間当りの変化量に基づき、エンジン回転上昇時に計算するシリンダ流入空気量を補正する。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、エンジン始動のクランキング開始直後から吸気管圧力の推定を開始するので、始動時の吸気管圧力推定値と、実際の吸気管圧力との乖離を抑制できると共に、初爆後の回転上昇中におけるシリンダ流入空気量を補正できるため、結果的に完爆時点での空燃比悪化を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の燃料制御装置の制御ブロックの一例。
【図2】本発明の燃料制御装置が制御するエンジン回りの一例。
【図3】本発明の燃料制御装置の内部構成の一例。
【図4】本発明のエンジンの吸気系の物理モデルの一例。
【図5】本発明の燃料制御装置のシリンダ流入空気量を求めるブロックの一例。
【図6】本発明の燃料制御装置のシリンダ流入空気量計算用のエンジン回転数を求めるブロックの一例。
【図7】本発明の燃料制御装置のシリンダ流入空気量計算用のエンジン回転数を求めるブロックの一例。
【図8】本発明の燃料制御装置のエンジン始動時におけるシリンダ流入空気量の補正比率を求めるブロックの一例。
【図9】本発明の燃料制御装置のシリンダ流入空気量算出を実現しているチャートの一例。
【図10】図9に対してエンジン始動時におけるクランキング時の吸気管圧力低下を考慮した場合のチャートの一例。
【図11】本発明の燃料制御装置の制御のフローチャートの一例。
【図12】図5のシリンダ流入空気流量を求めるフローチャートの一例。
【図13】図6のシリンダ流入空気量計算用のエンジン回転数を求めるフローチャートの他の例。
【図14】図7のシリンダ流入空気量計算用のエンジン回転数を求めるフローチャートの他の例。
【図15】図8のエンジン始動時におけるシリンダ流入空気量補正比率を求めるフローチャートの一例。
【発明を実施するための形態】
【0009】
エンジンの吸入する空気量を得る手段とエンジン始動時のエンジンの回転数を得る手段とエンジン始動時の吸気管圧力を推定する手段と前記エンジン回転数と前記吸気管圧力に基づいて、シリンダに流入する空気流量を得る手段とエンジン始動時のシリンダに流入する空気量を補正する補正比率を得る手段とを備えたことを特徴とするものである。
【実施例1】
【0010】
以下、本発明の主な実施例を、図を用いて説明する。図1は、本発明の対象となるエンジンのシリンダ流入空気量計測方法を備えた燃料制御装置の制御ブロックの一例である。ブロック101は、エンジン回転数計算手段のブロックである。エンジンの所定のクランク角度位置に設定されたクランク角度センサの電気的な信号、おもにパルス信号変化の単位時間当たりの入力数をカウントし、演算処理することで、エンジンの単位時間当りの回転数を計算する。ブロック102(吸入空気量計算手段)は、水温センサ出力、及びスタータSW,H/Wセンサ出力,吸気温センサ出力,スロットルセンサ出力で、クランキング時のエンジン回転数,スロットル空気量,吸気管圧力推定値を演算し、それらを用いてエンジンのシリンダに流入する空気量を演算するブロックである。ブロック103は、前述のブロック101で演算されたエンジンの回転数、及び前述のエンジンのシリンダへ流入する空気量により、各領域におけるエンジンの要求する基本燃料及びエンジン負荷指標を計算する。ブロック104は、前述のブロック101で演算されたエンジンの回転数,前述のエンジン負荷により、前述のブロック103で計算された基本燃料のエンジンの各運転領域における補正係数を計算する。ブロック105は、前述のエンジン回転数、及び前述のエンジン負荷によりエンジンの各領域における最適な点火時期をマップ検索等で決定するブロックである。ブロック106は、前述のスロットル開度からエンジンの過渡判定を行い、過渡に伴う加減速燃料補正量を演算する。ブロック107は、エンジンのアイドリング回転数を一定に保つためにアイドリング時の目標回転数を設定し、ISCバルブ制御手段への目標流量及びISC点火時期補正量を演算する。ブロック108は、エンジンの排気管に設定された酸素濃度センサの出力から、エンジンに供給される燃料と空気の混合気が後述する目標空燃比に保たれるように空燃比帰還制御係数を計算する。尚、前述の酸素濃度センサは、実施例では、排気空燃比に対して比例的な信号を出力するものを示しているが、排気ガスが理論空燃比に対して、リッチ側/リーン側の2つの信号を出力するものでも差し支えはない。ブロック109は、前述のエンジン回転数、及び前述のエンジン負荷によりエンジンの各領域における最適な目標空燃比をマップ検索等で決定する。本ブロックで決定された目標空燃比は、前述のブロック108の空燃比帰還制御に用いられる。ブロック110は、前述のブロック103で演算された基本燃料をブロック104の基本燃料補正係数,ブロック106の加減速燃料補正量、及びブロック108の空燃比帰還制御係数等による補正を施す。ブロック111は、前述のブロック104でマップ検索された点火時期を、前述のブロック106の加減速燃料補正量等で補正を施す。ブロック112〜115は、前述のブロック110で計算された燃料量をエンジンに供給する燃料噴射手段である。ブロック116〜119は、前述のブロック111で補正されたエンジンの要求点火時期に応じてシリンダに流入した燃料混合気を点火する点火手段である。ブロック120は、前述のブロック107で計算されたアイドリング時の目標流量となるようにISCバルブを駆動する手段である。
【0011】
図2は、本発明の対象となるシリンダ流入空気量計測方法を備えた内燃機関の制御装置が制御するエンジン回りの一例を示している。エンジン200は、エンジンのスロットル部を通過する空気量を計測するH/Wセンサ201,吸入する空気量をスロットル絞り弁202をバイパスして吸気管204へ接続された流路の流路面積を制御することによりエンジンのアイドル時の回転数を制御するアイドルスピードコントロールバルブ203,吸気管204内の吸入空気量の吸気温を測定する吸気管圧力センサ205,エンジンの要求する燃料を供給する燃料噴射弁206,エンジンの所定のクランク角度位置に設定されたクランク角センサ207,エンジンのシリンダ内に供給された燃料の混合気に点火する点火栓に、エンジン制御装置212からの点火信号に基づいて点火エネルギを供給する点火モジュール208,エンジンのシリンダブロックに設定されエンジンの冷却水温を検出する水温センサ209,エンジンの排気管に設定され排気ガス中の酸素濃度を検出する酸素濃度センサ210,エンジンの運転・停止のメインスイッチであるイグニッションキースイッチ211,排気ガスの一部を吸気管204内へ戻すEGRバルブ213,エンジンの各補器類を制御するエンジン制御装置212が示されている。なお、吸気管圧力センサ205は、吸気の温度を計測する吸気温センサが一体化されている。
【0012】
酸素濃度センサ310は、本実施例では、排気空燃比に対して比例的な信号を出力するものを用いているが、理論空燃比に対して排気ガスがリッチ側/リーン側の2つの信号を出力するものでもよい。なお、本実施例では内燃機関の燃料制御のパラメータとして、熱式空気流量計でスロットルを通過する空気量を検出し、吸気管圧力推定、シリンダ流入空気量計算をしているが、吸気管圧力はセンサにより検出して用いても良い。
【0013】
図3は、本発明の対象となるエンジンのシリンダ流入空気量計測方法を備えた燃料制御装置の内部構成の一例である。CPU301の内部にはエンジンに設置された各センサの電気的信号をデジタル演算処理用の信号に変換、及びデジタル演算用の制御信号を実際のアクチュエータの駆動信号に変換するI/O部302が設定されており、I/O部302には、吸入空気量センサ303,吸気温センサ304,水温センサ305,クランク角センサ306,スロットル開度センサ307,酸素濃度センサ308,イグニッションSW309が入力されている。CPU301からの出力信号ドライバ310を介して、燃料噴射弁311〜314,点火コイル315〜318、及びISCバルブへのISC開度指令値319へ出力信号が送られる。
【0014】
図4は、本発明の対象となるエンジンの吸気系の物理モデルの一例である。本吸気系の入り口には、H/Wセンサ401が設定されており、エンジンの吸入する空気量QA00402を検出する。シリンダ流入空気量QAR406は前記吸気管圧力PMMHG405,エンジン回転数,エンジン排気量,吸気温、及びエンジン領域で決まる非線形な吸気効率で決まる。
【0015】
図5は、本発明の対象となるエンジンのシリンダ流入空気量計測方法を備えた燃料制御装置のシリンダ流入空気量を求めるブロック図概要の一例である。ブロック501は、シリンダ流入空気量計測用のエンジン回転数HNDATASを計算するブロックであり、詳細は後述する。ブロック502は吸気管圧力PMMHGを計算するブロックである。エンジンの吸入する空気量QA00,前回計算されたシリンダ流入空気量QARF、及び前回計算されたPMMHGを用いて、今回のPMMHGを計算する。ブロック503は、エンジン回転数Ne及び前記吸気管圧力PMMHGから非線形要素である吸気効率ηをマップ検索して求める。ηは前記吸気管圧力に基づいて求めるシリンダ流入空気量の理論値からのズレを補正するものである。ブロック504は、前記吸気効率η,前記吸気管圧力PMMHG,吸気温度THA、及びシリンダ流入空気量計測用エンジン回転数HNDATASによりシリンダ流入空気量QARFを計算する。ブロック505は、始動時QAR補正率DNEHOSを計算するブロックである。DNEHOSは前記シリンダ流入空気量演算用エンジン回転数HNDATASの単位時間当りの変化量に基づき、始動時におけるエンジン回転数上昇時に推定されたシリンダ流入空気量を補正するものである。ブロック506は、シリンダ流入空気量QARを計算するブロックである。前記シリンダ流入空気量QARFに前記始動時QAR補正率DNEHOSを乗じてシリンダ流入空気量QARとするものである。このシリンダ流入空気量QARは基本燃料等を計算するために用い、前述のシリンダ流入空気量QARFは吸気管圧力推定に用いる。尚、エンジンに吸気温センサが設定されていない場合は、吸気温度を所定の値(例えば27℃)に固定して計算しても、誤差は問題にならない。
【0016】
数1は、前述の図5の吸気管圧力PMMHG及びシリンダ流入空気量QARFを求める理論式を示している。数1の(1)は、連続域での理論式を示しており、吸気管(スロットル弁−吸気弁間)への微小時間での空気の流入/流出が吸気管内の圧力勾配となることを示している。数1の(2)は、数1の(1)の式を離散化したものであり、本式を実行することで、吸気管圧力PMMHGを求めている。数1の(3)は、前記で求められた吸気管圧力からシリンダ流入空気量QARFを求める式を表しており、基本は理想気体の状態方程式であるが、吸気弁の開く状況及び排気弁の開く状況に応じて理論値から外れるため、非線形要素として吸気効率η、及び吸気効率補正係数VVTCRGを乗じている。また前述したように吸気温度は所定の値と固定しておいてもよい。
【0017】
【数1】

【0018】
図6は、本発明の対象となるエンジンのシリンダ流入空気量計測方法を備えた燃料制御装置のシリンダ流入空気量計算に用いるエンジン回転数を求めるブロック図概要の一例である。ブロック601では、クランキング時のエンジン回転数をエンジン水温でテーブル検索する。乗算器602では、前記テーブル検索値に補正係数を乗じてクランキング時回転数とする。前記補正係数は、エンジンの機差ばらつきや経時劣化等を考慮し、少なくともエンジンオイル温度,バッテリ電圧に応じたエンジンオイル温度補正,バッテリ電圧補正を含むものとする。補正係数は、エンジンオイル温度,バッテリ電圧に応じた補正テーブルまたは補正マップにより算出するものとし、エンジンオイル温度は、オイル温度センサがあればその出力値を用い、オイル温度センサが無ければオイル温度を推定した値もしくは固定値を用いる。スイッチ603でスタータSW ONの時は、前述のクランキング時回転数を選択し、スタータSW OFFの時は、0を選択する。ブロック604では、前述のブロック101においてクランク角センサ信号に基づいて算出したエンジン回転数Neと、前記クランキング時回転数との何れか大きい方の値を選択し、シリンダ流入空気量演算用エンジン回転数HNDATASとする。
【0019】
実際にエンジンはクランキング中に回転し始めるが、気筒判定が終了するまでは前記エンジン回転数Neが算出されない。従って、図6のような構成とした場合は、エンジン回転数Neが算出されるまではクランキング時回転数が選択されるようにテーブルと補正係数を適合する必要がある。
【0020】
図7は、図6に対し、クランク角センサ信号に基づいて算出したエンジン回転数Neと、前記クランキング時回転数との切替え方法を変更したものである。ブロック701〜ブロック703については、前述したブロック601〜ブロック603と同じである。スイッチ704では、前記クランク角センサ信号に基づいて算出したエンジン回転数Neが0より大きければ、前記エンジン回転数Neを選択し、前記エンジン回転数Neが0より大きくなければ(エンジン回転数Ne=0のとき)、前記クランキング時回転数を選択してシリンダ流入空気量演算用エンジン回転数HNDATASとする。本実施例においては、クランキング時回転数はエンジン水温に応じたテーブル検索値に少なくともエンジンオイル温度補正,バッテリ電圧補正を含んだ補正係数を乗じて算出する構成としているが、クランキング時回転数を理論式や実験式で近似して算出しても良いし、固定値として算出するよう構成しても良い。
【0021】
図8は、本発明の対象となるエンジンのシリンダ流入空気量計測方法を備えた燃料制御装置のエンジン始動時のシリンダ流入空気量を補正する補正比率を求めるブロック図概要の一例である。ブロック801では、前記シリンダ流入空気量演算用エンジン回転数HNDATASの現在値から過去n回前に算出したHNDATASを出力する。「過去n回前」の「n」はシリンダ流入空気量QARFに応じて決定するが、シリンダ流入空気量によらず、例えば過去2回前というように「n」を固定値としても良い。減算器802では、前記シリンダ流入空気量演算用エンジン回転数HNDATASの現在値から過去n回前に算出したHNDATASを減算してエンジン回転数の単位時間当りの変化量を算出する。ブロック803では前記HNDATAS差分に加重平均を施して値をなましたものを始動時回転上昇率とする。ブロック804では前記始動時回転上昇率に応じて始動時のシリンダ流入空気量QAR補正比率をテーブル検索する。スイッチ805では始動時のシリンダ流入空気量補正の補正解除条件が成立した場合、始動時QAR補正比率DNEHOSは1.0を選択して補正無効とし、前記補正解除条件不成立時は、前記テーブル検索値を選択する。ブロック806では前記補正解除条件を算出する。補正解除条件は、イグニッションキーON後に、「エンジン回転数が所定値以上」,「H/Wセンサで計測した流量とシリンダ流入空気量の差分が所定値以下」,「IDLEスイッチON→OFFに反転した」、の何れかを経験した場合に補正解除条件成立とする。イグニッションOFF後に再度イグニッションキーON後となった場合や、スタータスイッチがONされた場合は前記の経験をクリアする。
【0022】
図9は、本発明の対象となるエンジンのシリンダ流入空気量計測方法を備えた燃料制御装置のシリンダ流入空気量算出を実現しているチャートの一例である。エンジン始動時のスロットル開度が比較的閉じ気味のシステムや、エンジン回転数が計算できるようになる気筒判定が遅い等のシステムにおいては、クランキング開始時点から実吸気管圧力が低下し始める。本例の前提は、気筒判定終了し、エンジン回転数が計算されるまで、吸気管推定圧の初期値が大気圧のままとなっており、クランキング時の吸気管圧力の低下を考慮していないものである。ライン901は吸気管推定圧力、ライン902は実吸気管圧力、ライン904はエンジン回転数、ライン905はシリンダ流入空気量、ライン906は本来のシリンダ流入空気量期待値、ライン908は空燃比、ライン909は本来の空燃比期待値を示す。本例の場合は、前述したがクランキング時の実吸気管圧力の低下を考慮していないため、エリア903で示すように、実吸気管圧力は低下しているが、吸気管推定圧力は、気筒判定終了し、エンジン回転数が計算されるまで、初期値(大気圧)のままとなるため、実圧と推定圧の乖離が発生する。この結果、エリア907で示すように、本来のシリンダ流入空気量期待値に対してシリンダ流入空気量が多目に計算され、エリア909に示すように、本来の空燃比期待値に対して空燃比がリッチになり、排気やドライバビリティに影響することとなる。
【0023】
図10は前述の図9に対してクランキング時の実吸気管圧力の低下を考慮した場合の一例である。ライン1001はクランキング時の実吸気管圧力の低下を考慮していない場合の吸気管推定圧力、ライン1002はクランキング時の実吸気管圧力の低下を考慮した場合の吸気管推定圧力、ライン1003はクランキング時の実吸気管圧力の低下を考慮していない場合のエンジン回転数、ライン1004はクランキング時の実吸気管圧力の低下を考慮した場合のエンジン回転数、ライン1006はクランキング時の実吸気管圧力の低下を考慮していない場合のシリンダ流入空気量、ライン1007はクランキング時の実吸気管圧力の低下を考慮した場合のシリンダ流入空気量、ライン1009はクランキング時の実吸気管圧力の低下を考慮していない場合の空燃比、ライン1010はクランキング時の実吸気管圧力の低下を考慮した場合の空燃比を示す。
【0024】
本例の場合は、クランキング時の実吸気管圧力の低下を考慮し、スタータSW ONとなったら、エリア1003に示すように、クランキング時のエンジン回転数を算出し、気筒判定終了後のエンジン回転数が計算されるまで、前記クランキング時回転数を用いてシリンダ流入空気流量の計算及び吸気管圧力推定を開始する。更に、エンジン始動後の回転上昇時は、その上昇傾き(エンジン回転上昇率)に応じた始動後シリンダ流入空気量補正により、始動直後の空燃比を調整できるようにしている。尚、始動後シリンダ流入空気量補正は、イグニッションキーON後、「エンジン回転数が所定値異常となった」,「H/Wセンサ計測流量とシリンダ流入空気量の差分が所定値以下となった」,「アイドルスイッチON→OFFに反転した」のいずれかを経験した場合に補正解除する。この結果、エリア1008に示すように、クランキング時の実吸気管圧力の低下を考慮していない場合のシリンダ流入空気量に比べて低目にシリンダ流入空気量が計算され、エリア1011に示すように、クランキング時の実吸気管圧力の低下を考慮していない場合の空燃比のリッチを抑えることができ、排気,ドライバビリティを向上させることができる。
【0025】
図11は、本発明の対象となるエンジンのシリンダ流入空気量計測方法を備えた燃料制御装置の詳細なフローチャートの一例である。ステップ1101でクランク角度センサの電気的な信号を処理し、エンジン回転数を計算する。ステップ1102でH/Wセンサ,吸気温センサ,水温センサ、及びスロットルセンサの出力を読み込む。ステップ1103で今回の演算がイグニッションキーON後初回の演算であるか否かを判断する。初回の演算であると判断された場合は、ステップ1104で吸気管圧力の推定値を初期化する。初期化は主に大気圧とするが、大気圧センサ等を具備している場合は、その出力値を用いてもよい。ステップ1105で、始動時か否かを判定する。本実施例ではスタータSW ONとなったら始動と判定し、ステップ1106の始動時処理に進み、始動時でなければステップ1106をスキップしてステップ1107へ進む。ステップ1106の始動時処理においては、シリンダ流入空気計測用エンジン回転数と、始動時シリンダ流入空気量補正比率を算出する。
【0026】
ステップ1107で吸気管圧力PMMHGを計算する。ステップ1108でシリンダ流入空気量QARを計算する。ステップ1109で基本燃料量及びエンジン負荷を計算する。ステップ1110で基本燃料補正係数をマップ検索する。ステップ1111ではスロットルセンサ出力で加減速判定を行い、ステップ1112で加減速時燃料補正量を計算する。ステップ1113で酸素濃度センサの出力を読み込む。ステップ1114で目標空燃比を設定する。ステップ1115で前記目標空燃比が実現できるよう空燃比帰還制御係数を計算する。ステップ1116で前記基本燃料補正係数、及び空燃比帰還制御係数等を基本燃料量に補正する。ステップ1117で基本点火時期をマップ検索する。ステップ1118で加減速点火時期補正量を計算し、ステップ1119で基本点火時期を補正する。ステップ1120でISCの目標回転数を設定し、ステップ1121でISC目標流量を計算し、ISCバルブを制御する。
【0027】
図12は前述の図5のシリンダ流入空気量QARを求めるブロック図に対するフローチャートの一例である。ステップ1201で水温センサ出力TWN,クランク角センサに基づき算出するエンジン回転数Ne,H/Wセンサ出力QA00,吸気温センサ出力THAを読み込む。ステップ1202でシリンダ流入空気量計算用のエンジン回転数HNDATASを計算する。ステップ1203で前記THA,QA00,前回計算されたシリンダ流入空気量QARF、及び前回計算されたPMMHGで今回のPMMHGを計算する。ステップ1204で前記エンジン回転数Ne、及び前記PMMHGで吸気効率ηを検索する。ステップ1205で前記エンジン回転数HNDATAS,THA,前記PMMHG、及び前記ηでシリンダ流入空気量QARFを計算する。ステップ1206で前記HNDATASの上昇率に応じて始動時QAR補正比率DNEHOSを計算する。ステップ1207で前記QARFに前記DNEHOSを乗じてシリンダ流入空気量QARを計算する。
【0028】
図13は、前述の図6のシリンダ流入空気計算用エンジン回転数HNDATASを求めるブロック図に対するフローチャートの一例である。ステップ1301でクランク角センサに基づき算出するエンジン回転数Ne,水温センサ出力TWN,スタータSWを読み込む。ステップ1302でTWNでクランキング時回転数ベース値をテーブル検索する。ステップ1303で前記クランキング時回転数ベース値にエンジンオイル温度補正,バッテリ電圧補正を含む補正係数を乗じる。ステップ1304で始動時か否かを判定する。本実施例では、スタータSW ONで始動と判定する。始動時であれば、ステップ1305に進み、始動時でなければステップ1306に進む。ステップ1305でクランキング時回転数は前記テーブル検索値に前記補正係数を乗じたものを選択する。ステップ1306でクランキング時回転数は0を選択する。ステップ1307で前記Neと前記クランキング時回転数のどちらか大きい方の値をシリンダ流入空気量計算用エンジン回転数HNDATASとする。
【0029】
図14は、前述の図7のシリンダ流入空気計算用エンジン回転数HNDATASを求めるブロック図に対するフローチャートの一例である。ステップ1401でクランク角センサに基づき算出するエンジン回転数Ne,水温センサ出力TWN,スタータSWを読み込む。ステップ1402でTWNでクランキング時回転数ベース値をテーブル検索する。ステップ1403で前記クランキング時回転数ベース値にエンジンオイル温度補正,バッテリ電圧補正を含む補正係数を乗じる。ステップ1404で始動時か否かを判定する。本実施例では、スタータSW ONで始動と判定する。始動時であれば、ステップ1405に進み、始動時でなければステップ1406に進む。ステップ1405でクランキング時回転数は前記テーブル検索値に前記補正係数を乗じたものを選択する。ステップ1406でクランキング時回転数は0を選択する。ステップ1407で前記Neが0より大きいかどうか(Ne>0?)を判定する。Ne>0であれば、ステップ1408に進み、Ne>0でなければ、ステップ1409に進む。ステップ1408で前記Neをシリンダ流入空気量計算用エンジン回転数HNDATASとする。ステップ1409で前記クランキング時回転数をシリンダ流入空気量計算用エンジン回転数HNDATASとする。
【0030】
図15は、前述の図8の始動時QAR補正比率DNEHOSを求めるブロック図に対するフローチャートの一例である。ステップ1501で前記QARF,QA00,スタータSW,アイドルSW,前記HNDATASを読み込む。ステップ1502で始動時QAR補正解除条件を計算する。ステップ1503でHNDATASとQARFからエンジン回転数の単位時間当りの変化量を計算する。ステップ1504で前記エンジン回転数の単位時間当りの変化量に加重平均を施し、始動時回転上昇率を計算する。ステップ1505で前記始動時回転上昇率で始動時QAR補正比率をテーブル検索する。ステップ1506で前述の始動時QAR補正解除条件が成立しているか判定する。補正解除条件成立時は、ステップ1507に進み、補正解除条件不成立時は、ステップ1508に進む。ステップ1507では始動時QAR補正比率DNEHOSを1.0に選択する。ステップ1508で前記DNEHOSを前記テーブル検索値に選択する。
【0031】
以上、本発明の一実施形態について、詳述したが、本発明は、前記実施形態に限定されるものではない。また、本発明の特徴的な機能を損なわない限り、各構成要素は上記構成に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0032】
201,401 H/Wセンサ
202,403 スロットル絞り弁
205 吸気管圧力センサ
206 燃料噴射弁
207 クランク角センサ
210 酸素濃度センサ
212 エンジン制御装置
402 吸入空気量
405 吸気管圧力
406 シリンダ流入空気量
501 シリンダ流入空気量計算用のエンジン回転数演算ブロック
505 始動時のシリンダ流入空気量の補正率演算ブロック
805 始動時のシリンダ流入空気量補正の補正解除条件判定ブロック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの吸入する空気量を得る手段と
エンジン始動時のエンジンの回転数を得る手段と
エンジン始動時の吸気管圧力を推定する手段と
前記エンジン回転数と前記吸気管圧力に基づいて、シリンダに流入する空気流量を得る手段と
エンジン始動時のシリンダに流入する空気量を補正する補正比率を得る手段と
を備えたことを特徴とするエンジンの燃料制御装置。
【請求項2】
前記エンジンの始動時は、スタータによるクランキング中であることを特徴とする請求項1記載のエンジンの燃料制御装置。
【請求項3】
前記エンジン始動時のクランキング中のエンジン回転数を得る手段は
エンジン水温,エンジンオイル温度,バッテリ電圧の少なくとも一つ以上に基づいて得ることを特徴とする請求項2記載のエンジンの燃料制御装置。
【請求項4】
前記エンジン始動時のエンジンの回転数を得る手段は
クランキング時のエンジン回転数と
クランク角センサの信号に基づいて得るエンジン回転数と
を切り替えて用いることを特徴とする請求項1記載のエンジンの燃料制御装置。
【請求項5】
前記クランキング時のエンジン回転数と
前記クランク角センサの信号に基づいて得るエンジン回転数と
を切り替える手段は、
前記クランキング時のエンジン回転数と
前記クランク角センサの信号に基づいて得るエンジン回転数のどちらか大きい値の方を選択して用いることを第1の特徴とする請求項1記載のエンジンの燃料制御装置。
【請求項6】
前記クランキング時のエンジン回転数と
前記クランク角センサの信号に基づいて得るエンジン回転数と
を切り替える手段は、
最初は前記クランキング時のエンジン回転数を用い、前記クランク角センサの信号に基づいて得るエンジン回転数の値が0より大きくなった場合に前記クランク角センサの信号に基づいて得るエンジン回転数に切替えることを第2の特徴とする請求項1記載のエンジンの燃料制御装置。
【請求項7】
前記始動時の吸気管圧力は、前記クランキング時のエンジン回転数を用いて計算したシリンダ流入空気量から推定することを特徴とする請求項1記載のエンジンンの燃料制御装置。
【請求項8】
前記エンジン始動時のシリンダに流入する空気量を補正する補正比率を得る手段は初爆からのエンジン回転数の単位時間当りの変化量に応じて補正量を得ることを特徴とする請求項1記載のエンジンンの燃料制御装置。
【請求項9】
前記エンジン回転数の単位時間は、シリンダに流入する空気量によりその時間を決定することを特徴とする請求項1記載のエンジンンの燃料制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate


【公開番号】特開2011−122456(P2011−122456A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−278107(P2009−278107)
【出願日】平成21年12月8日(2009.12.8)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】