説明

エンボスロールの製造方法およびエンボスロール

【課題】従来のブラスト加工とエッチングを合わせたエンボスロールの形成方法では、ロール上にブラスト加工時の研磨剤が残留してエッチングのムラやシミ、めっきのムラやシミが発生して、均一な凹凸形状を作製することが困難であった。
【解決手段】均一な凹凸形状の形成のために、従来のようなブラスト加工を用いるかわりに、粒界エッチング処理を実施することにより、ブラストの研磨剤残渣によるシミの発生やムラが起きることなくノジュールのないめっきを実現し、所望の凹凸形状を形成することが可能となった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像表示装置の視認性を向上させるための防眩性フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
CRTや液晶表示パネルなどの表示装置の視認性を上げるために、表示パネルの表面に反射防止膜や反射防止フィルムを設置することが一般的に行われている。
【0003】
照明用の蛍光灯などの外部からの光が表示装置パネル表面に当たって反射しているとき、反射光量が多い方向から観察すると、表示装置に表示されている内容が視認しにくくなる。防眩性フィルムは、一般にフィルム表面に微小な凹凸を形成することにより反射を起こりにくくして表示装置の視認性低下を防いでいる。
【0004】
防眩性フィルムの表面の凹凸の形成には、基材フィルム上にフィラー入りの透明樹脂をコーティングする方法やコーティング樹脂の表面をエンボスロールやエンボス板で加工する方法が採られている。
【0005】
このエンボスロールやエンボス板の表面に凹凸を形成する方法としては、彫刻、電鋳、サンドブラスト処理、放電加工処理、エッチング処理などが従来から知られている。しかしながら、必要面積の全域にわたって、ムラなく均一な凹凸形状を形成することは極めて難しいという問題があった。
【0006】
エンボスロールやエンボス板の表面に均一な凹凸形状を形成するための従来技術としては、ブラスト処理後にピーニング処理を行う(例えば、特許文献1参照)ものなどがあるが、製造工程が増えコストが高くつくという問題もあった。
【0007】
【特許文献1】特開2004−90187号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来のブラスト加工を用いた凹凸の形成では、ブラスト時の研磨剤がロールの表面に残留してエッチングやめっき処理時にムラを発生させる原因となっていた。また、ブラスト加工を用いると、一貫したラインでエンボスロールの形成が行えず、コストがかかるなどの問題があった。
【0009】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、防眩性フィルムなどの光学機能を有する部材の製造に使われるエンボスロール表面に、ブラスト加工を用いることなく、均一な凹凸形状を形成するエンボスロールの製造方法を提供することを目的とする。また、そのエンボスロール製造方法により製造された、エンボスロールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、表面に微細な凹凸を形成したエンボスロールの製造方法において、
(a)エンボスロールの芯となるベースロール表面に銅めっき層を形成する工程。
(b)前記銅めっき層の表面を鏡面研磨する工程。
(c)前記鏡面研磨を施した銅めっき層にエッチング処理を行う工程。
(d)前記エッチング処理後の銅めっき層に、銅の粒界エッチング処理を行う工程。
(e)前記銅の粒界エッチング処理後の銅めっき層に、エッチング処理を行う工程。
(f)前記エッチング処理後の銅めっき層の表面にクロムめっきを行う工程。
を備えていることを特徴とするエンボスロールの製造方法としたものである。
【0011】
請求項1に記載の方法によって形成されたエンボスロールの形状は、ブラスト加工を用いた場合と同様に防眩性フィルムの光学特性を十分満足することができた。また、ブラスト工程を用いていないため、ロール表面に研磨剤の残留が発生せず、均一なめっき表面を得ることができた。
【0012】
また請求項2に記載の発明は、表面に微細な凹凸を形成したエンボスロールの製造方法において、
(a)エンボスロールの芯となるベースロール表面に銅めっき層を形成する工程。
(b)前記銅めっき層の表面を鏡面研磨する工程。
(c)前記鏡面研磨を施した銅めっき層にエッチング処理を行う工程。
(d)前記エッチング処理後の銅めっき層に、銅の粒界エッチング処理を行う工程。
(e)前記銅の粒界エッチング処理後の銅めっき層の表面にクロムめっきを行う工程。
を備えていることを特徴とするエンボスロールの製造方法としたものである。
【0013】
請求項2に記載の方法は、請求項1に記載の方法とはエッチング工程を除いた部分が異なるが、防眩性フィルムの表面の反射をさらに減少させるのに有効である。製造したい防眩性フィルムに求められている光学特性によって、エンボスロールの製造方法を使い分けることができる。
【0014】
また請求項3に記載の発明は、表面に微細な凹凸を形成したエンボスロールの製造方法において、
(a)エンボスロールの芯となるベースロール表面に銅めっき層を形成する工程。
(b)前記銅めっき層の表面を鏡面研磨する工程。
(c)前記鏡面研磨を施した銅めっき層にエッチング処理を行う工程。
(d)前記エッチング処理後の銅めっき層に、銅の粒界エッチング処理を行う工程。
(e)前記銅の粒界エッチング処理後の銅めっき層に、研磨処理を行う工程。
(f)前記研磨処理後の銅めっき層の表面にクロムめっきを行う工程。
を備えていることを特徴とするエンボスロールの製造方法としたものである。
【0015】
請求項3に記載の方法は、粒界エッチング後に研磨処理を行うことで、請求項1に記載の方法のエッチング効果と同様の効果を得ている。研磨工程によって、粒界エッチング表面の粗度を調整し、防眩性フィルムの光学特性を微調整する働きがある。
【0016】
また請求項4に記載の発明は、表面に微細な凹凸を形成したエンボスロールであって、請求項1〜3のいずれかに記載のエンボスロールの製造方法により製造されることを特徴とするエンボスロールとしたものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、エンボスロールの凹凸形状を、銅めっき層の粒界エッチングによって形成することで、従来のブラスト加工時に発生していた研磨剤によるエッチングムラやめっきムラをなくすことができた。また、均一なめっき表面と防眩性フィルムに最適な光学特性が得られた。さらに、工程を簡略化でき、コストの低減につながった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の実施形態の一例を説明する。図1は、本発明のエンボスロールの製造方法を示した模式図である。
【0019】
まず図1(a)に示すように、ベースロール上に従来通り電解銅めっき層10を40μm程度形成し、次いで銅めっき層10表面が鏡面になるまで研磨を実施する。研磨後、銅表面に研磨剤などが残らないように、エタノールなどの溶剤による洗浄を十分行う。
【0020】
洗浄後に図1(b)のようにロールを回転させながら、エッチング液12をスプレーし、深さ0.1〜1.0μmの範囲でエッチングを実施する。
【0021】
次に、図1(c)のようにロールを回転させながら、粒界エッチング液13をスプレーによりロールに吹きかけ、銅めっき層10表面に深さ0.5〜3.0μmの範囲で粒界エッチングを行う。
【0022】
粒界エッチング後、塩酸洗浄を実施し、さらに図1(d)のようにエッチング液14をスプレーし、粒界エッチング表面がなめらかになるようにエッチングする。エッチング後は十分に洗浄し、電解クロムめっきを実施して、クロムめっき膜15を1〜8μmの厚みでロール表面に形成してエンボスロールを形成することができる。
【0023】
粒界エッチングの量やクロムめっきの厚みによって、エンボスロールの凹凸が変化するため、最適な防眩性フィルムの光学特性を得るために、エッチング量とめっき厚とのバランスをとる必要がある。
【0024】
粒界エッチング処理、洗浄後の銅めっき層に、図1(d)のエッチング液14のスプレーを行わずに、クロムめっきを行ってもよい。あるいは粒界エッチング処理、洗浄後の銅めっき層に、図1(d)のエッチング液14のスプレーのかわりに研磨処理を行ってから、クロムめっきを行ってもよい。この工程は、防眩性フィルムの最適な光学特性を得るために、適宜、選択することができる。
【実施例1】
【0025】
図1ならびに図3を用いて、本発明の第1の実施例を説明する。
鉄製のベースロール上に電解銅めっきによって銅めっき層10を30μm厚で形成する(図1(a))。形成した銅めっき層を#300、#1000、#2000の砥石で順番に研磨し、最後にバフ研磨することで銅表面を鏡面上に仕上げる(図3(a))。研磨後に銅表面に汚れが無いように水洗浄し、さらにエタノールによって溶剤洗浄を実施する。洗浄効果を上げるため、超音波洗浄をあわせて行うことが望ましい。
【0026】
洗浄後、銅めっき層10表面の状態を整えるために、図1(b)のようにエッチング液12にメック製 メックブライトCA−5330Aを使用し、液温30℃、スプレー圧0.2MPaでロールに吹き付ける。この時、エッチングムラが発生しないようにロールは回転させて、止めないように注意して行う。
【0027】
エッチング量が0.2μmになるようにエッチング時間を設定してエッチングを行った。銅めっき層10の鏡面研磨表面は、エッチングされることにより、図3(b)のように若干粗化された表面10aに変化する。
【0028】
次に、図1(c)のようにエッチング後のロールに粒界エッチングを行う。粒界エッチング液13にメック製 CZ−8101を使用する。粒界エッチングの条件は、液温30℃、スプレー圧0.25MPa、エッチング量1.5μmで実施した。粒界エッチング後、ロール上の銅表面は、図3(c)の10bのように変化する。粒界エッチング後は、10%の希塩酸でロールを洗浄し、さらに水洗を十分行う。
【0029】
粒界エッチング後、さらに図1(d)のようにエッチング液14をスプレーでロールに吹きかけてエッチングを行う。ここでのエッチング条件は、最初に行ったエッチングと同様とした。またエッチング量は、求める光学特性によって調整する必要があるが、ここではエッチング量0.2μmとした。ここでのエッチング処理により、銅表面は図3(d)のように、粒界エッチング処理直後に比べるとなめらかになる。
【0030】
エッチング後、水洗ならびに5%の希硫酸洗浄、水洗を実施して電解クロムめっきを4μm実施した(図1(d))。クロムめっき膜15を形成することで、本実施例のエンボスロールの形成方法は完了する。このエンボスロールを用いることで、光学特性を満足した防眩性フィルムを形成することができた。
【実施例2】
【0031】
図2ならびに図4を用いて、本発明の第2の実施例を説明する。
鉄製のベースロール上に電解銅めっきによって銅めっき層10を40μm厚で形成する(図2(a))。形成した銅めっきを#300、#1000、#2000の砥石で順番に研磨し、最後にバフ研磨することで銅表面を鏡面上に仕上げる。研磨後に銅表面に汚れが無いように水洗浄し、さらにエタノールによって溶剤洗浄を実施する。洗浄効果を上げるため、超音波洗浄をあわせて行うことが望ましい。
【0032】
洗浄後、銅表面の状態を整えるために、図2(b)のようにエッチング液12にメック製 メックブライトCA−5330Aを使用し、液温30℃、スプレー圧0.2MPaでロールに吹き付ける。この時、エッチングムラが発生しないようにロールは回転させて、止めないように注意して行う。
エッチング量0.3μmになるようにエッチング時間を設定してエッチングを行った。エッチングを行うことで、鏡面研磨の表面を持った銅表面は、図4(b)のように若干粗化された表面10aに変化する。
【0033】
次に、図2(c)のようにエッチング後のロールに粒界エッチングを行う。粒界エッチング液13にメック製 CZ−8101を使用する。粒界エッチングの条件は、液温30℃、スプレー圧0.25MPa、エッチング量1.0μmで実施した。粒界エッチング後、ロール上の銅表面は、図4(c)の10bのように変化する。粒界エッチング後は、10%の希塩酸でロールを洗浄し、さらに水洗を十分行う。
【0034】
粒界エッチング後、5%の希硫酸洗浄、水洗を実施して電解クロムめっきを3μm実施した(図2(d))。クロムめっき膜15を形成することで、本実施例のエンボスロールの形成方法は完了する。このエンボスロールを用いることで、光学特性を満足した防眩性フィルムを形成することができた。
【実施例3】
【0035】
図3を用いて、本発明の実施例を説明する。
鉄製のベースロール上に電解銅めっきによって銅めっき層10を40μm厚で形成する(図3(a))。形成した銅めっき層を#300、#1000、#2000の砥石で順番に研磨し、最後にバフ研磨することで銅表面を鏡面上に仕上げる。研磨後に銅表面に汚れが無いように水洗浄し、さらにエタノールによって溶剤洗浄を実施する。洗浄効果を上げるため、超音波洗浄をあわせて行うことが望ましい。
【0036】
洗浄後、銅表面の状態を整えるために、エッチング液にメック製 メックブライトCA−5330Aを使用し、液温30℃、スプレー圧0.2MPaでロールに吹き付ける。この時、エッチングムラが発生しないようにロールは回転させて、止めないように注意して行う。エッチング量0.3μmになるようにエッチング時間を設定してエッチングを行った。エッチングを行うことで、鏡面研磨の表面を持った銅表面は、図3(b)のように若干粗化された表面に変化する。
【0037】
次に、図3(c)のようにエッチング後のロールに粒界エッチングを行う。粒界エッチング液13にメック製 CZ−8101を使用する。粒界エッチングの条件は、液温30℃、スプレー圧0.25MPa、エッチング量1.0μmで実施した。粒界エッチングの後は、ロール表面の銅は、図3(c)のように変化する。粒界エッチング後は、10%の希塩酸でロールを洗浄し、さらに水洗を十分行う。
【0038】
粒界エッチング後、ロールを乾燥させ、バフ研磨によって表面の状態を図3(d)のようになめらかに調整する。バフ研磨は、研磨の時間によって表面の状態を調整することができる。
【0039】
バフ研磨後にエタノール洗浄と水洗を行い、さらに5%の希硫酸洗浄、水洗を実施して電解クロムめっきを4μm実施した(図3(e))。クロムめっき膜15を形成することで、本実施例のエンボスロールの形成方法は完了する。このエンボスロールを用いることで、光学特性を満足した防眩性フィルムを形成することができた。

【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明のエンボスロールの製造方法および実施形態を示す模式図である。
【図2】本発明のエンボスロールの製造方法および実施形態を示す模式図である。
【図3】本発明の実施例を示す模式図である。
【図4】本発明の実施例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0041】
10・・・銅めっき層、鏡面研磨された銅めっき表面
10a・・エッチング処理された銅層
10b・・粒界エッチング処理された銅層
10c・・エッチング処理された銅層
11・・・スプレーノズル
12・・・エッチング液
13・・・粒界エッチング液
14・・・エッチング液
15・・・クロムめっき層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に微細な凹凸を形成したエンボスロールの製造方法において、
(a)エンボスロールの芯となるベースロール表面に銅めっき層を形成する工程。
(b)前記銅めっき層の表面を鏡面研磨する工程。
(c)前記鏡面研磨を施した銅めっき層にエッチング処理を行う工程。
(d)前記エッチング処理後の銅めっき層に、銅の粒界エッチング処理を行う工程。
(e)前記銅の粒界エッチング処理後の銅めっき層に、エッチング処理を行う工程。
(f)前記エッチング処理後の銅めっき層の表面にクロムめっきを行う工程。
を備えていることを特徴とするエンボスロールの製造方法。
【請求項2】
表面に微細な凹凸を形成したエンボスロールの製造方法において、
(a)エンボスロールの芯となるベースロール表面に銅めっき層を形成する工程。
(b)前記銅めっき層の表面を鏡面研磨する工程。
(c)前記鏡面研磨を施した銅めっき層にエッチング処理を行う工程。
(d)前記エッチング処理後の銅めっき層に、銅の粒界エッチング処理を行う工程。
(e)前記銅の粒界エッチング処理後の銅めっき層の表面にクロムめっきを行う工程。
を備えていることを特徴とするエンボスロールの製造方法。
【請求項3】
表面に微細な凹凸を形成したエンボスロールの製造方法において、
(a)エンボスロールの芯となるベースロール表面に銅めっき層を形成する工程。
(b)前記銅めっき層の表面を鏡面研磨する工程。
(c)前記鏡面研磨を施した銅めっき層にエッチング処理を行う工程。
(d)前記エッチング処理後の銅めっき層に、銅の粒界エッチング処理を行う工程。
(e)前記銅の粒界エッチング処理後の銅めっき層に、研磨処理を行う工程。
(f)前記研磨処理後の銅めっき層の表面にクロムめっきを行う工程。
を備えていることを特徴とするエンボスロールの製造方法。
【請求項4】
表面に微細な凹凸を形成したエンボスロールであって、請求項1〜3のいずれかに記載のエンボスロールの製造方法により製造されることを特徴とするエンボスロール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−254360(P2008−254360A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−100343(P2007−100343)
【出願日】平成19年4月6日(2007.4.6)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】