説明

オレフィン系共重合体の水性エマルジョン

【課題】塩素を含有せず、接着性及び耐水性に優れた硬化物を与える水性エマルジョンを提供する。
【解決手段】α−オレフィン及び/又はエチレン及び/又はプロピレンに由来する構造単位と置換基Rを有するビニル化合物(I):
CH=CH−R (I)
(式(I)中、Rは、2級アルキル基、3級アルキル基又は脂環式炭化水素基を表す。)
に由来する構造単位とを含むオレフィン系共重合体、乳化剤、尿素類並びにカチオン性ポリマーを有する水性エマルジョン。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オレフィン系共重合体を含有する水性エマルジョン、それを乾燥してなる硬化物および該硬化物を貼合してなる積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレンは、加工性、強度などに優れることから、自動車部品、建材など広範囲の用途に用いられている。しかし、ポリプロピレン表面には塗料などの塗膜が付着し難いという問題がある。このため、一般に、ポリプロピレンとの接着性に優れた塩素化ポリオレフィン樹脂をポリプロピレン上に塗布し、その上に塗料が塗工される場合が多い(特許文献1)。一方、環境問題の観点から、ハロゲン物質を含まない硬化膜の適用が提案され、塩素を含有する塩素化ポリオレフィンは敬遠されつつある。
【0003】
そこで、塩素化ポリオレフィンに代わる材料として、エチレンに由来する構造単位と、ビニルシクロヘキサンなどの置換基を有するビニル化合物に由来する構造単位とを含むオレフィン系共重合体及び/又はその変性物を含んでなる水性エマルジョンが提案されている(特許文献2および3)。
【0004】
該水性エマルジョンから得られる硬化膜は、接着性に優れ、塗装用プライマー、塗料用バインダーなどとして用いられるが、白濁した不透明な膜であり、顔料等と混合して着色した硬化物を得る際には、色が制限されることが指摘されており、このような不透明性が解消された硬化膜を与える水性エマルジョンとして、オレフィン系共重合体及び/又はその変性物及び尿素類を含んでなる水性エマルジョンが特許文献4に記載されている。しかしながら、該水性エマルジョンから得られる硬化物は、優れた透明性を有し、成形性、耐熱性、耐溶剤性及び機械的特性にも優れているが、耐水性に問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平05−7832号公報
【特許文献2】特開2006−124535号公報
【特許文献3】特開2005−320400号公報
【特許文献4】特開2008−169380号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような状況下、塩素を含有せず、接着性および耐水性に優れた、塗料、バインダー、コーティング剤、接着剤またはプライマーなどが求められている。従って、本発明は、耐水性に優れた硬化物を与える水性エマルジョンを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような状況下、本発明者らは鋭意検討した結果、下記[1]〜[11]のいずれか記載の発明に至った。
[1]α−オレフィン及び/又はエチレン及び/又はプロピレンに由来する構造単位と置換基Rを有するビニル化合物(I):
CH=CH−R (I)
〔式(I)中、Rは、2級アルキル基、3級アルキル基又は脂環式炭化水素基を表す。〕
に由来する構造単位とを含むオレフィン系共重合体、乳化剤、尿素類並びにカチオン性ポリマーを有する水性エマルジョン。
【0008】
[2]オレフィン系共重合体が、さらに不飽和カルボン酸類に由来する構造単位を含む[1]
記載の水性エマルジョン。
【0009】
[3]尿素類が、下記式(III):

〔式(III)中、Qは、酸素原子又は硫黄原子を表し、X1、X2、X3及びXは互いに独立に、水素原子、炭素数1〜6の直鎖アルキル基、炭素数3〜6の分枝アルキル基、又は、X1あるいはX2と、X3あるいはXとが結合した炭素数1〜6のアルキレン基を表し、但し、アルキル基及びアルキレン基の水素原子は水酸基で置換されていてもよい。〕
で表される化合物である、[1]又は[2]記載の水性エマルジョン。
【0010】
[4]乳化剤が、α,β−不飽和カルボン酸に由来する構造単位とアクリル酸ビニルエステルに由来する構造単位と(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位とを含有する水溶性アクリル樹脂、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー、及びポリオキシエチレンアルキルエーテルからなる群から選ばれる少なくとも1種の乳化剤である、[1]〜[3]のいずれか記載の水性エマルジョン。
【0011】
[5]カチオン性ポリマーが、ポリアミンとエピクロロヒドリンとの反応生成物である、[1]〜[4]のいずれか記載の水性エマルジョン。
【0012】
[6]α−オレフィン及び/又はエチレン及び/又はプロピレンに由来する構造単位と、置換基Rを有するビニル化合物(I)に由来する構造単位とを含むオレフィン系共重合体及び乳化剤からなる分散質の体積基準メジアン径が0.01〜1μmである、[1]〜[5]のいずれか記載の水性エマルジョン。
【0013】
[7]ビニル化合物(I)がビニルシクロヘキサンである、[1]〜[6]のいずれか記載の水性エマルジョン。
【0014】
[8][1]〜[7]のいずれか記載の水性エマルジョンを乾燥してなる硬化物。
【0015】
[9]木質系材料、セルロース系材料、プラスチック材料、セラミック材料及び金属材料からなる群から選ばれる少なくとも1種の材料からなる被着体及び[8]記載の硬化物を貼合してなる積層体。
【0016】
[10]プラスチック材料がポリオレフィンである、[10]記載の積層体。
【0017】
[11]プラスチック材料がポリプロピレンである、[9]又は[10]記載の積層体。
【発明の効果】
【0018】
本発明の水性エマルジョンは、塩素を含有せず、接着性及び耐水性に優れた硬化物を与え、形成された硬化物は、透明性、成形性、耐熱性、耐溶剤性及び機械的特性などに優れていることから、塗料、バインダー、コーティング剤、接着剤またはプライマーなどとして好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明について詳細を説明する。
本発明の水性エマルジョンは、特定のオレフィン系共重合体、乳化剤、尿素類並びにカチオン性ポリマーを含んでなる。
本発明において用いられるオレフィン系共重合体は、α−オレフィン及び/又はエチレン及び/又はプロピレンに由来する構造単位と、下記ビニル化合物(I):
CH=CH−R (I)
(式(I)中、Rは、2級アルキル基、3級アルキル基又は脂環式炭化水素基を表す。)
に由来する構造単位とを含有する。
【0020】
ここで、2級アルキル基としては炭素数3〜20の2級アルキル基が好ましく、3級アルキル基としては炭素数4〜20の3級アルキル基が好ましく、脂環式炭化水素基としては、3〜16員環を有する脂環式炭化水素基が好ましい。置換基Rとしては、3〜10員環を有する炭素数3〜20の脂環式炭化水素基、炭素数4〜20の3級アルキル基がより好ましい。
【0021】
置換基Rが2級アルキル基であるビニル化合物(I)の具体例としては、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ヘキセン、3−メチル−1−ヘプテン、3−メチル−1−オクテン、3,4−ジメチル−1−ペンテン、3,4−ジメチル−1−ヘキセン、3,4−ジメチル−1−ヘプテン、3,4−ジメチル−1−オクテン、3,5−ジメチル−1−ヘキセン、3,5−ジメチル−1−ヘプテン、3,5−ジメチル−1−オクテン、3,6−ジメチル−1−ヘプテン、3,6−ジメチル−1−オクテン、3,7−ジメチル−1−オクテン、3,4,4−トリメチル−1−ペンテン、3,4,4−トリメチル−1−ヘキセン、3,4,4−トリメチル−1−ヘプテン、3,4,4−トリメチル−1−オクテンなどが挙げられる。
【0022】
置換基Rが3級アルキル基であるビニル化合物(I)の具体例としては、3,3−ジメチル−1−ブテン、3,3−ジメチル−1−ペンテン、3,3−ジメチル−1−ヘキセン、3,3−ジメチル−1−ヘプテン、3,3−ジメチル−1−オクテン、3,3,4−トリメチル−1−ペンテン、3,3,4−トリメチル−1−ヘキセン、3,3,4−トリメチル−1−ヘプテン、3,3,4−トリメチル−1−オクテンなどが挙げられる。
置換基Rが脂環式炭化水素基であるビニル化合物(I)の具体例としては、ビニルシクロプロパン、ビニルシクロブタン、ビニルシクロペンタン、ビニルシクロヘキサン、ビニルシクロヘプタン、ビニルシクロオクタンなどの置換基Rがシクロアルキル基であるビニル化合物;5−ビニル−2−ノルボルネン、1−ビニルアダマンタン、4−ビニル−1−シクロヘキセンなどが挙げられる。
【0023】
上記ビニル化合物(I)の中でも、好ましくは3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ヘキセン、3,4−ジメチル−1−ペンテン、3,5−ジメチル−1−ヘキセン、3,4,4−トリメチル−1−ペンテン、3,3−ジメチル−1−ブテン、3,3−ジメチル−1−ペンテン、3,3,4−トリメチル−1−ペンテン、ビニルシクロペンタン、ビニルシクロヘキサン、ビニルシクロヘプタン、ビニルシクロオクタン、5−ビニル−2−ノルボルネンであり、より好ましくは3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、3,4−ジメチル−1−ペンテン、3,3−ジメチル−1−ブテン、3,3,4−トリメチル−1−ペンテン、ビニルシクロヘキサン、ビニルノルボルネンであり、更に好ましくは3,3−ジメチル−1−ブテン、ビニルシクロヘキサンである。最も好ましいビニル化合物(I)は、ビニルシクロヘキサンである。
【0024】
本発明において用いられるオレフィン系共重合体におけるビニル化合物(I)の構造単位の含有量としては、該オレフィン系共重合体を構成する全ての構造単位100モル%に対して、好ましくは5〜40モル%であり、より好ましくは10〜30モル%、もっとも好ましくは10〜20モル%である。
該含有量が5〜40モル%であると、得られる硬化物の接着性が向上する傾向にあるので好ましい。
該含有量は、1 H−NMRスペクトルや13C−NMRスペクトルを用いて求めることができる。
【0025】
本発明において用いられるα−オレフィンは、通常、炭素数4〜20の直鎖状α−オレフィンであり、具体的には、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセン、1−トリデセン、1−テトラデセン、1−ペンタデセン、1−ヘキサデセン、1−ヘプタデセン、1−オクタデセン、1−ナノデセン、1−エイコセン等の直鎖状オレフィン類等が挙げられる。これらの中では、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテンが好ましく用いられる。
【0026】
本発明において用いられるオレフィン系共重合体において、エチレンに由来する構造単位及びプロピレンに由来する構造単位及びα−オレフィンに由来する構造単位の合計含有量としては、該オレフィン系共重合体を構成する全ての構造単位100モル%に対して、好ましくは95〜60モル%であり、より好ましくは90〜70モル%、もっとも好ましくは90〜80モル%である。
【0027】
α−オレフィン及び/又はエチレン及び/又はプロピレンとしては、エチレン及び/又はプロピレンが好適である。
【0028】
本発明において用いられるオレフィン系共重合体は、α−オレフィン及び/又はエチレン及び/又はプロピレンと、ビニル化合物(I)とを共重合して得られるものであり、さらに付加重合可能な単量体を共重合せしめてもよい。
ここで、付加重合可能な単量体とは、エチレン、プロピレン、α−オレフィン及びビニル化合物(I)以外の単量体であって、エチレン、プロピレン、α−オレフィン及びビニル化合物(I)と付加重合可能な単量体である。該単量体の炭素数は、通常、3〜20程度である。
付加重合可能な単量体の具体例として、例えば、シクロオレフィン、下記式(II):

〔式(II)中、R’、R”は、それぞれ独立に、炭素数1〜18程度の直鎖状アルキル基、炭素数3〜18程度の分枝状アルキル基、炭素数3〜18程度の環状アルキル基、又はハロゲン原子等を表す。〕
で表されるビニリデン化合物、ジエン化合物、ハロゲン化ビニル、アルキル酸ビニル、ビニルエーテル類、アクリロニトリル類などが挙げられる。
【0029】
シクロオレフィンとして、例えば、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロオクテン、3−メチルシクロペンテン、4−メチルシクロペンテン、3−メチルシクロヘキセン、2−ノルボルネン、5−メチル−2−ノルボルネン、5−エチル−2−ノルボルネン、5−ブチル−2−ノルボルネン、5−フェニル−2−ノルボルネン、5−ベンジル−2−ノルボルネン、2−テトラシクロドデセン、2−トリシクロデセン、2−トリシクロウンデセン、2−ペンタシクロペンタデセン、2−ペンタシクロヘキサデセン、8−メチル−2−テトラシクロドデセン、8−エチル−2−テトラシクロドデセン、5−アセチル−2−ノルボルネン、5−アセチルオキシ−2−ノルボルネン、5−メトキシカルボニル−2−ノルボルネン、5−エトキシカルボニル−2−ノルボルネン、5−メチル−5−メトキシカルボニル−2−ノルボルネン、5−シアノ−2−ノルボルネン、8−メトキシカルボニル−2−テトラシクロドデセン、8−メチル−8−メトキシカルボニル−2−テトラシクロドデセン、8−シアノ−2−テトラシクロドデセン等が挙げられ、好ましくはシクロペンテン、シクロヘキセン、シクロオクテン、2−ノルボルネン、5−メチル−2−ノルボルネン、5−フェニル−2−ノルボルネン、2−テトラシクロドデセン、2−トリシクロデセン、2−トリシクロウンデセン、2−ペンタシクロペンタデセン、2−ペンタシクロヘキサデセン、5−アセチル−2−ノルボルネン、5−アセチルオキシ−2−ノルボルネン、5−メトキシカルボニル−2−ノルボルネン、5−メチル−5−メトキシカルボニル−2−ノルボルネン、5−シアノ−2−ノルボルネンであり、さらに好ましくは2−ノルボルネン、2−テトラシクロドデセンである。
【0030】
式(II)中、炭素数1〜18程度の直鎖状アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル、n−ブチル基、n−ヘキシル基などが挙げられる。炭素数1〜18程度の分枝状アルキル基としては、例えば、i−プロピル基、i−アミル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基などが挙げられる。炭素数1〜18程度の環状アルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ジシクロペンタヘキシル基などが挙げられる。
【0031】
ビニリデン化合物(II)としては、例えば、イソブテン、2−メチル−1−ブテン、2−メチル−1−ペンテン、2−メチル−1−ヘキセン、2−メチル−1−ヘプテン、2−メチル−1−オクテン、2,3−ジメチル−1−ブテン、2,3−ジメチル−1−ペンテン、2,3−ジメチル−1−ヘキセン、2,3−ジメチル−1−ヘプテン、2,3−ジメチル−1−オクテン、2,4−ジメチル−1−ペンテン、2,4,4−トリメチル−1−ペンテン、塩化ビニリデン等が挙げられ、好ましくはイソブテン、2,3−ジメチル−1−ブテン、2,4,4−トリメチル−1−ペンテンである。
【0032】
ジエン化合物としては、例えば、1,3−ブタジエン、1,4−ペンタジエン、1,5−ヘキサジエン、1,6−ヘプタジエン、1,7−オクタジエン、1,5−シクロオクタジエン、2,5−ノルボルナジエン、ジシクロペンタジエン、5−ビニル−2−ノルボルネン、5−アリル−2−ノルボルネン、4−ビニル−1−シクロヘキセン、5−エチリデン−2−ノルボルネン等が挙げられ、好ましくは1,4−ペンタジエン、1,5−ヘキサジエン、2,5−ノルボルナジエン、ジシクロペンタジエン、5−ビニル−2−ノルボルネン、4−ビニル−1−シクロヘキセン、5−エチリデン−2−ノルボルネンである。
【0033】
ハロゲン化ビニルとしては、例えば、塩化ビニルなどが挙げられる。
アルキル酸ビニルとしては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニルなどが挙げられる。
ビニルエーテル類としては、例えば、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテルなどが挙げられる。
アクリロニトリル類としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどが挙げられる。
【0034】
オレフィン系共重合体における付加重合可能な構造単位の含有量としては、通常、得られるオレフィン系共重合体変性物の接着性が損なわれない範囲であり、具体的な含有量としては、該オレフィン系共重合体を構成するすべての構造単位100モル%に対して、好ましくは約5モル%程度以下、より好ましくは1モル%以下であり、さらに好ましくは実質的に付加重合可能な構造単位を含有しない程度の含有量である。
【0035】
本発明において用いられるオレフィン系共重合体の製造方法としては、例えば、インデニル形アニオン骨格、あるいは架橋されたシクロペンタジエン形アニオン骨格を有する基を有する遷移金属化合物を含む触媒の存在下に製造する方法などが挙げられる。中でも特開2003−82028号公報、特開2003−160621号公報及び特開2000−128932号公報に記載の方法に準じて製造する方法が好適である。
【0036】
オレフィン系共重合体の製造において、用いる触媒の種類や重合条件によっては、本発明の共重合体以外にポリエチレンなどのエチレン、プロピレン又はα−オレフィンの単独重合体(ポリオレフィン)やビニル化合物(I)の単独重合体が副生することがある。このような場合は、ソックスレー抽出器等を用いた溶媒抽出を行うことにより、容易に本発明の共重合体を分取することができる。かかる抽出に用い得る溶媒として、トルエンやクロロホルムなどが挙げられる。例えば、ビニルシクロヘキサンの単独重合体はトルエンを用いた抽出の不溶成分として除去することができ、またポリエチレンなどのポリオレフィンはクロロホルムを用いた抽出の不溶成分として除去することができ、オレフィン系共重合体は両溶媒の可溶成分として分取することができる。オレフィン系共重合体は、用途により問題なければ、そのような副生物が存在した状態で使用してもよい。
【0037】
本発明において用いられるオレフィン系共重合体の分子量分布(Mw/Mn=[重量平均分子量]/[数平均分子量])は、好ましくは1.5〜10.0程度であり、より好ましくは1.5〜7.0程度、もっとも好ましくは1.5〜5.0程度である。該オレフィン系共重合体の分子量分布が1.5以上、10.0以下であると、得られる硬化物の機械的強度及び透明性が向上する傾向にあることから好ましい。
また、該オレフィン系共重合体の重量平均分子量(Mw)は、機械的強度の観点から、好ましくは5,000〜1,000,000程度であり、より好ましくは10,000〜500,000程度であり、もっとも好ましくは15,000〜400,000程度である。該オレフィン系共重合体の重量平均分子量が5,000以上であると、得られる硬化物の機械的強度が向上する傾向にあることから好ましく、また、該重量平均分子量が1,000,000以下であると、該オレフィン系共重合体の流動性が向上する傾向にあることから好ましい。
【0038】
本発明において用いられるオレフィン系共重合体の極限粘度[η]の値は、機械的強度の観点から、好ましくは0.25〜10dl/g程度であり、より好ましくは0.3〜3dl/g程度である。
【0039】
本発明において用いられるオレフィン系共重合体は、さらに不飽和カルボン酸類に由来する構造単位を含有することが好ましい。不飽和カルボン酸類に由来する構造単位は、前記オレフィン系共重合体に不飽和カルボン酸類をグラフト重合することによって得ることができる。
以下、前記共重合体において、さらに不飽和カルボン酸類に由来する構造単位を含有する共重合体を本変性物という場合がある。
本変性物における不飽和カルボン酸類のグラフト重合量としては、本変性物100重量%に対して、好ましくは0.01〜20重量%程度、より好ましくは0.05〜10重量%程度、もっとも好ましくは0.1〜5重量%程度である。
不飽和カルボン酸類のグラフト重合量が0.01重量%以上であると、得られる硬化物の接着力が向上する傾向にあるため好ましく、また、該グラフト重合量が20重量%以下であると、得られる硬化物の熱安定性が向上する傾向にあるため好ましい。
【0040】
本発明において用いられる不飽和カルボン酸類としては、以下のものが挙げられる:
〔不飽和カルボン酸〕
アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、ナジック酸、メチルナジック酸、ハイミック酸、アンゲリカ酸、テトラヒドロフタル酸、ソルビン酸、メサコン酸など;
〔不飽和カルボン酸無水物〕
無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、無水ナジック酸、無水メチルナジック酸、無水ハイミック酸など;
〔不飽和カルボン酸エステル〕
アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸−n−ブチル、メタクリル酸−n−ブチル、アクリル酸−i−ブチル、メタクリル酸−i−ブチル、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、マレイン酸モノエチルエステル、マレイン酸ジエチルエステル、フマル酸モノメチルエステル、フマル酸ジメチルエステル、イタコン酸モノメチルエステル、イタコン酸ジメチルエステルなど;
〔不飽和カルボン酸アミド〕
アクリルアミド、メタクリルアミド、マレイン酸モノアミド、マレイン酸ジアミド、マレイン酸−N−モノエチルアミド、マレイン酸−N,N−ジエチルアミド、マレイン酸−N−モノブチルアミド、マレイン酸−N,N−ジブチルアミド、フマル酸モノアミド、フマル酸ジアミド、フマル酸−N−モノエチルアミド、フマル酸−N,N−ジエチルアミド、フマル酸−N−モノブチルアミド、フマル酸−N,N−ジブチルアミドなど;
〔不飽和カルボン酸イミド〕
マレイミド、N−ブチルマレイミド、N−フェニルマレイミドなど;
〔不飽和カルボン酸ハライド〕
塩化マレオイルなど;
〔不飽和カルボン酸金属塩〕
アクリル酸ナトリウム、メタクリル酸ナトリウム、アクリル酸カリウム、メタクリル酸カリウムなど。
また、上記の不飽和カルボン酸類を任意に組み合わせて使用してもよい。
不飽和カルボン酸類としては、不飽和カルボン酸無水物が好ましく、より好ましくは無水マレイン酸である。
【0041】
本変性物の製造方法としては、例えば、オレフィン系共重合体を溶融させたのち、不飽和カルボン酸類を添加してグラフト重合せしめる方法、オレフィン系共重合体をトルエン、キシレンなどの溶媒に溶解したのち、不飽和カルボン酸類を添加してグラフト重合せしめる方法などが挙げられる。
オレフィン系共重合体を溶融させたのち、不飽和カルボン酸類を添加してグラフト重合せしめる方法は、押出機を用いて溶融混練することで、樹脂同士あるいは樹脂と固体もしくは液体の添加物を混合するための公知の各種方法が採用可能となることから好ましい。より好ましくは、各成分の全部もしくは一部を組み合わせて別々にヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、ブレンダー等により混合して均一な混合物とした後、該混合物を溶融混練してグラフト重合せしめる方法である。溶融混練のために、バンバリーミキサー、プラストミル、ブラベンダープラストグラフ、一軸又は二軸の押出機等を用いる従来公知の混練手段が広く採用可能である。特に好ましくは、連続生産が可能であり、生産性が向上するという観点から、一軸又は二軸押出機を用い、予め十分に予備混合したオレフィン系共重合体、不飽和カルボン酸類、ラジカル開始剤を押出機の供給口より供給して混練を行いグラフト重合せしめる方法である。押出機の溶融混練を行う部分の温度は(例えば、押出機ならシリンダー温度)、好ましくは50〜300℃、より好ましくは80〜270℃である。該温度が50℃以上であるとグラフト重合量が向上する傾向があることから好ましく、また、該温度が300℃以下であるとオレフィン系共重合体の分解が抑制される傾向があることから好ましい。押出機の溶融混練を行う部分の温度は、溶融混練を前半と後半の二段階に分け、前半より後半の温度を高めた設定にすることが好ましい。溶融混練時間は、好ましくは0.1〜30分間、より好ましくは0.1〜5分間である。溶融混練時間が0.1分以上であると、グラフト重合量が向上する傾向があることから好ましく、また、溶融混練時間が30分以下であると、オレフィン系共重合体の分解が抑制される傾向があることから好ましい。
【0042】
不飽和カルボン酸類をオレフィン系重合体にグラフト重合せしめるためには、通常、ラジカル開始剤の存在下にグラフト重合を実施する。
ラジカル開始剤の添加量は、オレフィン系重合体100重量部に対して、好ましくは0.01〜10重量部、より好ましくは0.01〜1重量部である。該添加量が0.01重量部以上であると、オレフィン系重合体へのグラフト重合量が増加して接着強度が向上する傾向があることから好ましく、また、該添加量が10重量部以下であると、得られる変性物中における未反応のラジカル開始剤が低減され、接着強度が向上する傾向があることから好ましい。ラジカル開始剤としては、好ましくは有機過酸化物が用いられ、より好ましくは半減期が1分となる分解温度が50〜210℃である有機過酸化物が用いられる。該分解温度が50℃以上であるとグラフト重合量が向上する傾向があることから好ましく、また、これらの有機過酸化物は、分解してラジカルを発生した後、オレフィン系重合体からプロトンを引き抜く作用がある点で好ましい。
【0043】
半減期が1分となる分解温度が50〜210℃である有機過酸化物としては、例えば、ジアシルパーオキサイド化合物、ジアルキルパーオキサイド化合物、パーオキシケタール化合物、アルキルパーエステル化合物、パーカボネート化合物等が挙げられる。具体的には、ジセチル パーオキシジカルボネート、ジ−3−メトキシブチル パーオキシジカルボネート,ジ−2−エチルヘキシル パーオキシジカルボネート、ビス(4−t−ブチル シクロヘキシル)パーオキシジカルボネート、ジイソプロピル パーオキシジカルボネート、t−ブチル パーオキシイソプロピルカーボネート、ジミリスチル パーオキシカルボネート、1,1,3,3−テトラメチル ブチル ネオデカノエート,α―クミル パーオキシ ネオデカノエート,t−ブチル パーオキシ ネオデカノエート、1,1ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2ビス(4,4−ジ−t−ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロドデカン,t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート,t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート,t−ブチルパーオキシラウレート,2,5ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン,t−ブチルパーオキシアセテート、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブテン,t−ブチルパーオキシベンゾエート、n−ブチル−4,4−ビス(t−ベルオキシ)バレラート、ジ−t−ブチルベルオキシイソフタレート、ジクミルパーオキサイド、α−α‘−ビス(t−ブチルパーオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、p−メンタンハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3等が挙げられる。半減期が1分となる分解温度が50℃より低いとグラフト重合量が向上しない傾向があり、また、該分解温度が210℃より高いとオレフィン系重合体の分解が増加し、グラフト重合量が向上しない傾向がある。
これらの有機過酸化物の中で、ジアルキルパーオキサイド化合物、ジアシルパーオキサイド化合物、パーカボネート化合物、アルキルパーエステル化合物が好ましく用いられる。成分(C)の添加量は、エチレンビニルシクロヘキサン共重合体樹脂(A)100重量部に対して、好ましくは0.01〜20重量部、より好ましくは0.05〜10重量部である。
【0044】
本変性物の分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは1.5〜10であり、より好ましくは1.5〜7、もっとも好ましくは1.5〜5である。該分子量分布が10以下であると、得られる硬化物の接着性が向上する傾向にあるため好ましい。
本変性物の分子量分布は、前記のオレフィン系共重合体の分子量分布と同様に測定することができる。
また、本変性物の重量平均分子量(Mw)は、通常は5,000〜1,000,000程度であり、より好ましくは10,000〜500,000程度であり、もっとも好ましくは15,000〜400,000程度である。本変性物の重量平均分子量が5,000以上であると、得られる硬化物の機械的強度が向上する傾向にあることから好ましく、また、該重量平均分子量が1,000,000以下であると、本変性物の流動性が向上する傾向にあることから好ましい。
【0045】
本変性物の極限粘度[η]の値は、機械的強度の観点から、好ましくは0.25〜10dl/g程度、より好ましくは0.3〜3dl/g程度である。
【0046】
本発明の水性エマルジョンは、上記オレフィン系共重合体又は本変性物の他に乳化剤を含んでなる。
本発明において用いられる乳化剤は、以下のものが挙げられる:
〔アニオン系乳化剤〕
α−オレフィンスルホン化物、アルキルサルフェート、アルキルフェニルサルフェート、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルサルフェート、ポリオキシエチレンアルキルフェニルスルホコハク酸のハーフエステル塩、ポリオキシエチレンアルキルスルホコハク酸の金属塩、水溶性アクリル樹脂、ロジン石鹸など;
〔ノニオン系乳化剤〕
ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー、ポリオキシエチレンアルキルエーテルなど;
〔カチオン系乳化剤〕
アルキルトリメチルアンモニウムクロライド、ポリオキシエチレンアルキルアミンなど。
後述するように、本発明の水性エマルジョンにおける分散質の体積基準メジアン径が1μm以下であると、得られる硬化物の接着性が向上する傾向がある点で好ましい。このような微小径の分散質を含有するエマルジョンに用いられる乳化剤としては、例えば、水溶性アクリル樹脂、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、特許出願公開第2008−24755号に記載された乳化剤が挙げられ、水溶性アクリル樹脂、特許出願公開第2008−24755号に記載された乳化剤が好ましく用いられ、特許出願公開第2008−24755号に記載された乳化剤がより好ましく用いられる。
【0047】
ここで、水溶性アクリル樹脂とは、α,β−不飽和カルボン酸に由来する構造単位を含有する水溶性の樹脂であり、該樹脂は均一に水に溶解し得る。
α,β−不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、コハク酸、イタコン酸などが挙げられる。
水溶性アクリル樹脂を構成する他の単量体としては、以下のものが挙げられる:
〔炭素数3〜8のα,β−不飽和カルボン酸〕
アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、コハク酸、イタコン酸など;
〔炭素数4〜18の(メタ)アクリル酸エステル〕
(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシルなど;
〔ハロゲン化ビニル〕
エチレンアクリレート、エチレンメタクリレートなどのアクリル酸ビニルエステル;塩化ビニル、臭化ビニルなど;
〔ハロゲン化ビニリデン類〕
塩化ビニリデンなど;
〔ビニル化合物〕
ビニルホスホン酸、ビニルスルホン酸及びそれらの塩など;
〔芳香族ビニル〕
スチレン、α−メチルスチレン、クロロスチレンなど;
〔ニトリル類〕
(メタ)アクリロニトリルなど;
〔アクリルアミド類〕
N-メチロールアクリルアミド、N-ブトキシメチルアクリルアミドなど;
〔共役ジエン類〕
ブタジエン、イソプレンなど;
〔アリル化合物〕
アリルスルホネート、ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレートなど。
水溶性アクリル樹脂が、α,β−不飽和カルボン酸、アクリル酸ビニルエステル及び(メタ)アクリル酸エステルのそれぞれに由来する構造単位を含有することが好ましく、さらには、該樹脂を構成する単量体に由来する構造単位の合計100モル%に対し、α,β−不飽和カルボン酸に由来する構造単位を10〜90モル%、アクリル酸ビニルエステルに由来する構造単位を5〜60モル%、(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位を5〜85モル%を含有することが好ましい。
【0048】
なお、乳化剤として、複数種の任意の水溶性アクリル樹脂を使用してもよく、水溶性アクリル樹脂、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー及びポリオキシエチレンポリアルキルエーテルを組み合わせて使用してもよい。
【0049】
上記オレフィン系共重合体又は本変性物(以下、総称して本共重合物という場合がある)を乳化剤とともに水に分散させ、水性エマルジョンとすることにより、本共重合物及び乳化剤からなる分散質を得ることができる。該分散質の体積基準メジアン径は、好ましくは0.01〜5μmであり、得られる硬化物の接着性の観点から、より好ましくは0.01〜1μm、さらに好ましくは0.05〜0.5μmの体積基準メジアン径を有する水性エマルジョンがさらに好ましい。該体積基準メジアン径が0.01μm以上であると該分散質の製造が容易なことから好ましく、また、該体積基準メジアン径が5μm以下であると接着性が向上する傾向があることから好ましい。
【0050】
本共重合物を分散させる方法としては、例えば、(a)本共重合物及び乳化剤を、剪断応力を作用させながら混練したのち、水に分散させる方法;(b)本共重合物をトルエンなどの有機溶媒に溶解し、乳化剤とともに剪断応力を作用させながら混合したのち、水に分散させ、次いで有機溶媒を除去する方法;(c)本共重合物をトルエン、ヘキサン、ヘプタン、キシレン等の有機溶媒に溶解させたのち、乳化剤と混合し、高圧下もしくは常圧下、あるいは超音波をかけながら乳化させ、次いで溶剤を留去する方法などが挙げられる。
本共重合物を分散させる方法としては、剪断応力を作用させながら水に分散させる(a)及び(b)の方法が、分散質の体積基準メジアン径を1μm以下にし、結果として、得られる硬化物の接着性が向上する傾向があることから好ましく、有機溶媒の除去が不要な(a)の方法がより好ましい。
【0051】
ここで、剪断応力を作用させる際の剪断速度としては、通常、200〜100000秒−1程度、好ましくは1000〜2500秒−1程度である。該剪断速度が200秒−1以上であると、得られるエマルジョンの接着性が向上する傾向があることから好ましく、該剪断速度が100000秒−1以下であると、工業的に製造が容易になる傾向があることから好ましい。
なお、剪断速度とはスクリューエレメント最外周部の周速度[mm/sec]をスクリューとバレルとのクリアランス[mm]で除した数値である。
【0052】
剪断応力を作用させる装置としては、例えば、2軸押出機、ラボプラストミル(株式会社 東洋精機製作所)、ラボプラストミルマイクロ(株式会社 東洋精機製作所)などの多軸押出機、ホモジナイザー、T.Kフィルミクス(プライミクス株式会社)などバレル(シリンダー)及び攪拌翼の間に水性エマルジョンを置き、攪拌翼を回転させて剪断応力を与える機器が挙げられる。
【0053】
多軸押出機を用いた具体的なエマルジョンの製造方法として、スクリューを2本以上ケーシング内に有する多軸押出機のホッパーから本共重合物を供給し、加熱し、溶融混練し、更に該押出機の圧縮ゾーン及び/又は計量ゾーンに設けた少なくとも1個の液体供給口より供給した乳化剤と混練したのち、水に分散させる方法などが例示される。
【0054】
上記機器以外の剪断応力を作用させる機器としては、例えば、攪拌槽、ケミカルスターラー、ボルテックスミキサー、フロージェットミキサー、コロイドミル、スタティックミキサー、マイクロミキサー(以上は攪拌翼の回転のみによって剪断応力が作用する)、超音波発生機、高圧ホモジナイザー、分散君(株式会社フジキン)などが挙げられる。
【0055】
本発明の水性エマルジョンの製造方法としては、本共重合物と乳化剤とを剪断応力を作用させながら混練したのち、水に分散させる方法が容易に後述する所望のメジアン径を与えることから好ましい。2軸押出機及び多軸押出機は、高粘度の変性物も処理することができることから好ましい。中でも、2軸押出機は好適に用いられる。
【0056】
本発明の水性エマルジョンにおける分散質の体積基準メジアン径は、好ましくは0.01〜5μmであり、得られる硬化物の接着性を向上させる観点から、より好ましくは0.01〜1μm、特に好ましくは0.05〜0.5μmである。
該体積基準メジアン径が0.01μm以上であると該分散質の製造が容易なことから好ましく、また、該体積基準メジアン径が5μm以下であると接着性が向上する傾向があることから好ましい。
ここで体積基準メジアン径とは、体積基準で積算粒子径分布の値が50%に相当する粒子径である。
【0057】
本発明の水性エマルジョンは、本共重合物および乳化剤に加えて尿素類及びカチオン性ポリマーを含有する。
ここで、尿素類は、式(III):

〔式(III)中、Qは、酸素原子又は硫黄原子を表し、X1、X2、X3及びXは互いに独立に、水素原子、炭素数1〜6の直鎖アルキル基、炭素数3〜6の分枝アルキル基、又は、X1あるいはX2と、X3あるいはXとが結合した炭素数1〜6のアルキレン基を表し、但し、アルキル基及びアルキレン基の水素原子は水酸基で置換されていてもよい。〕
で表される尿素類であってよい。
炭素数1〜6の直鎖アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基などが挙げられる。炭素数3〜6の分枝アルキル基としては、例えば、i−イソプロピル基などが挙げられる。炭素数1〜6のアルキレン基としては、例えば、エチレン基、プロピレン基などが挙げられる。
【0058】
尿素類の具体例としては、尿素、メチル尿素、ジメチル尿素、チオ尿素、4,5−ジヒドロキシ−2−イミダゾリジノン、1−(2−アミノエチル)−2−イミダゾリジノン、ジエチレントリアミンと尿素との脱アンモニア反応によって得られる1−(2−アミノエチル)−2−イミダゾリジノンを主成分とする混合物などが挙げられる。
尿素類として異なる尿素類を併用してもよい。
尿素類の中で、尿素が入手容易であることから好ましい。
【0059】
尿素類の含有量としては、本共重合物の合計100重量部に対し、好ましくは0.1〜30重量部、より好ましくは0.3〜10重量部である。該化合物が0.1重量部以上であると、得られる硬化物の透明性が向上する傾向があることから好ましく、また、30重量部以下であると、得られる硬化物の接着性が優れる傾向があることから好ましい。
【0060】
本発明において用いられるカチオン性ポリマーとは、水媒体中でポリマー主体がカチオンに解離するものをいう。典型的なカチオン性基としては、一級、二級および三級アミノ基、ならびに四級アンモニウム塩が挙げられる。このようなカチオン性ポリマーであればいかなるものでも用いることができ、その種類は特に限定されないが、本発明において好ましく用いられるカチオン性ポリマーとしては、以下のようなものが例示される。
【0061】
a) ポリアルキレンポリアミンと二塩基性カルボン酸を脱水縮合させたポリアルキレンポリアミド;
b) ポリアルキレンポリアミンと尿素を脱アンモニア縮合させたポリアルキレンポリ尿素:
c) ポリアルキレンポリアミドと尿素を脱アンモニア縮合させたポリアミドポリ尿素;d) アミノ基含有化合物をエピハロヒドリンと反応させたポリアミノエポキシ樹脂;
e) 上記a)〜d)のポリマーのいずれかをさらにアルデヒドと反応させた反応生成物;
f) 上記a)〜d)のポリマーのいずれかをアルキル化剤と反応させた反応生成物;
g) エチレンイミンの開環重合物;
h) カチオン性ビニルモノマーの単独重合物または他の共重合性モノマーとの共重合物;
i) N−ビニルアミド系モノマーの単独重合物または他の共重合性モノマーとの共重合物の加水分解物;
j) 活性水素を有するポリマーに、アンモニア、一級アミンまたは二級アミンとホルムアルデヒドを反応させたマンニッヒ反応物;
k) 活性水素を有するポリマーとカチオン化剤との反応物;
l) 活性水素を有するポリマーに、アンモニアまたはアミン類とエピハロヒドリンを反応させた反応物;
m) キチンを加水分解したキトサン;
n) 活性水素を有するポリマーと上記 a)〜m) のポリマーのいずれかを、アルデヒド、エピハロヒドリン、ポリイソシアネート類などの架橋剤を用いて反応させたブロック共重合物。
【0062】
これらの各種カチオン性ポリマーを製造する際に用いられる原料化合物の具体例を以下に挙げる。
上記a)およびb)において用いられるポリアルキレンポリアミンは、2個の一級アミノ基と少なくとも1個の二級アミノ基がアルキレンを介して結合した化合物であり、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、イミノビスプロピルアミンなどが例示される。
【0063】
上記a)において用いられる二塩基性カルボン酸は、2個のカルボキシル基を有する化合物であり、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、マレイン酸、フマール酸の如き脂肪族ジカルボン酸や、イソフタル酸、テレフタル酸の如き芳香族ジカルボン酸、およびこれらの混合物が例示される。
【0064】
上記d)において用いられるアミノ基含有化合物としては、アンモニア、各種アミン類、ポリアミン、ポリアルキレンポリアミン、ポリアルキレンポリアミド、ポリアルキレンポリ尿素、ポリアミドポリ尿素などが例示される。
【0065】
上記d)、l)およびn)において用いられるエピハロヒドリンとしては、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリンなどが例示される。
【0066】
上記e)やn)において用いられるアルデヒドとしては、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピルアルデヒドなどのアルキルアルデヒド類や、グリオキザール、プロパンジアール、ブタンジアールなどのアルキルジアルデヒド類が例示される。
【0067】
上記f)におけるアルキル化剤としては、以下のような各種のものが使用できる。
一般式:
1−X
〔式中、R1 は低級アルキル基(例えば炭素数1〜6程度)、低級アルケニル基(例えば炭素数2〜6程度)、ベンジル基またはフェノキシエチル基を表し、Xはハロゲン原子を表す〕
で示されるハロゲン含有化合物。この例として、塩化メチル、塩化エチル、塩化プロピル、塩化アリル、塩化ベンジル、塩化フェノキシエチル、ならびにこれら塩化物に対応する臭化物および沃化物が挙げられる。
【0068】
一般式:
(R2O)2SO
〔式中、R2 は低級アルキル基(例えば炭素数1〜6程度)を表し、vは1または2を表す〕
で示されるジアルキルサルファイトおよびジアルキルサルフェート。この例として、ジメチルサルファイト、ジエチルサルファイト、ジメチルサルフェート、ジエチルサルフェートなどが挙げられる。
【0069】
一般式:

〔式中、R3 は水素原子、低級アルキル基(例えば炭素数1〜6程度)、ヒドロキシ低級アルキル基(例えば炭素数1〜6程度)またはフェニル基を表す〕
で示されるエチレンオキサイドおよびその誘導体。この例として、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、スチレンオキサイド、グリシドールなどが挙げられる。
【0070】
一般式:

〔式中、Xはハロゲン原子を表し、wは1、2または3を表す〕
で示されるエピハロヒドリン。この例として、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリンなどが挙げられる。
【0071】
一般式:
HOCH2(CH2)
〔式中、Xはハロゲン原子を表し、wは1、2または3を表す〕
で示されるモノハロヒドリン。この例として、エチレンクロロヒドリン、エチレンブロモヒドリンなどが挙げられる。
【0072】
一般式:

〔式中、Xはハロゲン原子を表し、YおよびZの一方はハロゲン原子、他方は水酸基を表す〕
で示されるジハロヒドリン。この例として、1,3−ジクロロ−2−プロパノール、2,3−ジクロロ−1−プロパノールなどが挙げられる。
【0073】
また、前記h)において用いられるカチオン性ビニルモノマーとしては、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、およびこれらの四級化物や、アリルアミン、ジアリルアミン、トリアリルアミン、ビニルピロリドン、ジアリルジメチルアンモニウム塩などが例示される。
【0074】
前記i)において用いられるN−ビニルアミド系モノマーとして、ビニルホルムアミド、ビニルアセトアミドなどが例示される。
【0075】
前記j)、k)、l)およびn)において用いられる活性水素を有するポリマーとして、でんぷん類、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、カゼイン等のプロテイン類、メチルセルロースなどが例示される。
【0076】
前記k)において用いられるカチオン化剤としては、エチレンイミンなどの他に、下記一般式で示されるものなどが例示される。
【0077】
一般式:

〔これらの式中、Qは二価の脂肪族基または芳香族基を表し、R4およびR5はそれぞれ独立に低級アルキル基(例えば炭素数1〜6程度)を表し、R6は水素原子または低級アルキル基(例えば炭素数1〜6程度)を表し、A-はハロゲン化物イオン、硫酸イオンなどの陰イオンを表し、Lはハロゲン原子、スルホン酸エステル基、硫酸エステル基などの脱離基を表す〕
【0078】
上記式中、Qで表される二価の脂肪族基として、例えば炭素数1〜10程度のアルキレンが挙げられ、該アルキレンは分枝状であってもよく、また置換基を有していてもよい。該アルキレンの置換基として、水酸基、炭素数1〜6程度のアルコキシ基、全炭素数1〜6程度のアルカノイルオキシ基、ハロゲン原子などが挙げられる。またQで表される二価の芳香族基として、例えば置換または無置換のフェニレンが挙げられ、フェニレンの置換基として、前記アルキレンの置換基として例示したもののほか、炭素数1〜6程度のアルキル基が挙げられる。
【0079】
上記式中、Lで表されるスルホン酸エステル基としては、例えばメタンスルホン酸残基(CHSOO−)、エタンスルホン酸残基(CSOO−)、ベンゼンスルホン酸残基(CSOO−)、トルエンスルホン酸残基(CHSOO−)のようなアルキルまたはアリールスルホン酸のエステル基が挙げられ、また硫酸エステル基としては、硫酸残基(HOSOO−)のほか、例えばメチル硫酸残基(CHOSOO−)、エチル硫酸残基(COSOO−)、フェニル硫酸残基(COSOO−)のようなアルキルまたはアリール硫酸のエステル基が挙げられる。
【0080】
以上例示した各種のカチオン性ポリマーは、例えば特開平6−166994に記載の方法に従って得ることができる。
【0081】
カチオン性ポリマーの使用量としては、上記オレフィン系共重合体又は本変性物の合計100重量部に対し、好ましくは0.1〜30重量部、より好ましくは0.5〜15重量部である。カチオン性ポリマーの使用量が0.1重量部以上であると、得られる硬化物の耐水性が向上する傾向があることから好ましく、また、該使用量が30重量部以下であると、得られる硬化物の接着性が優れる傾向があることから好ましい。
【0082】
本発明の水性エマルジョンの製造方法としては、例えば、尿素類を本共重合物と混合し、次いで、乳化剤を剪断応力を作用させながら混練したのち、水に分散させ、続いて、カチオン性ポリマーを混合する方法;尿素類を乳化剤とともに水に混合したのち、本共重合物と剪断応力を作用させながら混練したのち、水に分散させ、続いて、カチオン性ポリマーを混合する方法;乳化剤及び本共重合物を剪断応力を作用させながら混練したのち、水に分散させて水性エマルジョンを得た後、尿素類及びカチオン性ポリマーを混合する方法;乳化剤、本共重合物及びカチオン性ポリマーを剪断応力を作用させながら混練したのち水に分散させて水性エマルジョンを得た後、尿素類を混合する方法などが挙げられる。
【0083】
本発明の水性エマルジョンには、例えば、ポリウレタン水性エマルジョン、エチレン−酢酸ビニル共重合体水性エマルジョンなどの水性エマルジョン、尿素樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂、クレー、カオリン、タルク、炭酸カルシウムなどの充填剤、防腐剤、防錆剤、消泡剤、発泡剤、ポリアクリル酸、ポリエーテル、メチルセルロース、カルボキシルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、澱粉などの増粘剤、粘度調整剤、難燃剤、酸化チタンなどの顔料、二塩基酸のコハク酸ジメチル、アジピン酸ジメチル等の高沸点溶剤、可塑剤などを配合してもよい。
中でも、本発明の水性エマルジョンをポリプロピレンやポリエステルのように界面張力が低い被着体へ塗工する場合、濡れ性を高くするという観点から、必要に応じて、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン等のシリコン系添加剤や、アセチレングリコール系界面活性剤を添加することが好ましい。
充填剤は、難燃性および接着時の塗工性を改良するために使用することが推奨され、その使用量としては、エマルジョンの固形分100重量部に対して、通常、1〜500重量部程度、好ましくは5〜200重量部程度である。
【0084】
本発明の水性エマルジョンに由来する接着層に貼合される被着材としては、例えば、木材、合板、MDF(中比重繊維板)、パーティクルボード、ファイバーボードなどの木質系材料;壁紙、包装紙などの紙質系材料;綿布、麻布、レーヨン等のセルロース系材料;ポリエチレン(エチレンに由来する構造単位を主成分とするポリオレフィン、以下同じ)、ポリプロピレン(プロピレンに由来する構造単位を主成分とするポリオレフィン、以下同じ)、ポリスチレンなどのポリオレフィン、ポリカーボネート、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体(ABS樹脂)、(メタ)アクリル樹脂ポリエステル、ポリエーテル、ポリ塩化ビニル、ポリウレタンなどのプラスチック材料;ガラス、陶磁器などのセラミック材料;鉄、ステンレス、銅、アルミニウム等の金属材料などが挙げられる。
【0085】
かかる被着体は、複数の材料からなる複合材料であってもよい。また、タルク、シリカ、活性炭などの無機充填剤または炭素繊維などとプラスチック材料との混練成形品であってもよい。
【0086】
被着体の一方が木質系材料、紙質系材料、セルロース系材料などの吸水性を有する被着体の場合には、本発明の水性エマルジョンをそのまま接着剤として用いて、他の被着体と貼合することができる。すなわち、吸水性の被着体に水性エマルジョンを塗工したのち、水性エマルジョンに由来する層に他の被着体(吸水性でも非吸水性でもよい)を積層すれば、水性エマルジョンに含まれる水分は吸水性の被着体に吸収され、水性エマルジョンに由来する層が接着層となり、吸水性の被着体/接着層/被着体を有する積層体を得ることができる。
被着体がいずれも非吸水性の場合には、一方の被着体に片面に本発明の水性エマルジョンを塗工したのち、乾燥させ、水性エマルジョンに由来する接着層を形成したのち、他方の被着体を張り合わせ、加熱して接着させればよい。
【0087】
本発明の水性エマルジョンに由来する接着層は、従来から難接着性とされていたポリプロピレンなどのポリオレフィンの被着体とも優れた接着性を有し得る。
また、同時に、該接着層はポリウレタンの被着体とも優れた接着性を有し得る。
このように、ポリオレフィンの被着体とポリウレタンの被着体とを接着するためには、従来、塩素系ポリオレフィンを接着層とすることが知られていたが、本発明の水性エマルジョンに由来する接着層は、塩素を含有することがなく、しかも該接着層のみでも、ポリオレフィンの被着体及びポリウレタンの被着体のいずれとも優れた接着性を有し得る。ポリウレタンの被着体が発泡ポリウレタンである積層体は、自動車内外装用に好適である。
【0088】
ここで、ポリウレタンとは、ウレタン結合によって架橋された高分子であって、通常、アルコール(−OH)とイソシアネート(−NCO)の反応によって得られる。実施例に示したような発泡ポリウレタンは、イソシアネートと、架橋剤として用いられる水との反応によって生じる二酸化炭素またはフレオンのような揮発性溶剤によって発泡されるポリウレタンであってよい。自動車の内装用には、半硬質のポリウレタンを用いることができる。
【0089】
被着体としては、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、(メタ)アクリル樹脂、ガラス、アルミニウム、ポリウレタンなどが好ましく、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ガラス、アルミニウム、ポリウレタンがより好ましい。
【0090】
本発明の水性エマルジョンから、耐水性が向上した硬化物を得ることができる。
該硬化物は、透明性、接着性、成形性、耐熱性、耐溶剤性及び機械的特性に優れている。
該硬化物は、本発明の水性エマルジョンを80℃×20分の条件で乾燥させて得ることができる。
また、本発明の水性エマルジョンは、塗料、バインダー、コーティング剤、接着剤又はプライマーなどに用いることができる。特に、本発明の水性エマルジョンを従来、難接着性材料と言われたポリプロピレン上に塗工すると、塩素を含有せず、透明性、接着性、成形性、耐熱性、耐溶剤性及び機械的特性に優れた塗料又はプライマーを得ることができる。
【実施例】
【0091】
以下に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明がこれら実施例によって限定されるものではないことは言うまでもない。
実施例中の部及び%は、特に断らないかぎり重量基準を意味する。
固形分は、JIS K-6828に準じた測定方法で行った。
粘度は、25℃でブルックフィールド粘度計(東機産業株式会社製)により測定した値である。
メジアン径は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(株式会社 堀場製作所)により測定した体積基準での値である。
極限粘度[η]は、ウベローデ型粘度計を用い、テトラリンを溶媒として135℃で測定した。
【0092】
オレフィン系共重合体及びオレフィン系共重合体の変性物に係る分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフ(GPC)を用いて、ポリスチレン(分子量688〜400,000)標準物質で校正した上で、下記条件にて求めた。なお、分子量分布は重量平均分子量(以下、Mwという)と数平均分子量(以下、Mnという)との比(Mw/Mn)で評価した。
機種 Waters製 150−C
カラム shodex packed column A−80M
測定温度 140℃
測定溶媒 オルトジクロロベンゼン
測定濃度 1mg/ml
【0093】
オレフィン系共重合体中のビニルシクロヘキサン単位の含有量は、下記13C−NMR装置により求めた。
13C−NMR装置:BRUKER社製 DRX600
測定溶媒:オルトジクロロベンゼン:オルトジクロロベンゼン−d4=
4:1(容積比)混合液
測定温度:135℃
【0094】
無水マレイン酸のグラフト重合量を以下の手順で定量した:サンプル1.0gをキシレン20mlに溶解し、サンプルの溶液をメタノール300mlに攪拌しながら滴下してサンプルを再沈殿させて回収したのち、回収したサンプルを真空乾燥した後(80℃、8時間)、熱プレスにより厚さ100μmのフイルムを作製し、得られたフイルムの赤外吸収スペクトルを測定し、1780cm−1付近の吸収からマレイン酸グラフト重合量を定量した。
【0095】
<オレフィン系共重合体の製造例1>
アルゴンで置換したSUS製リアクター中にビニルシクロへキサン(以下、VCHと記載する場合がある)386部とトルエン3640部を投入した。50℃に昇温後、エチレンを大気圧から0.6MPaまで加圧して仕込んだ。トリイソブチルアルミニウム(以下、TIBAと記載する場合がある)のトルエン溶液[東ソー・アクゾ(株)製TIBA濃度20%]10部を仕込み、つづいてジエチルシリル(テトラメチルシクロペンタジエニル)(3−tert−ブチル−5−メチル−2−フェノキシ)チタニウムジクロライド0.001部を脱水トルエン87部に溶解したものと、ジメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート0.03部を脱水トルエン122部に溶解したものを投入し2時間攪拌した。得られた反応液をアセトン約10000部中に投じ、沈殿した白色固体を濾取した。該固体をアセトンで洗浄後、減圧乾燥した結果、エチレン・ビニルシクロヘキサン共重合体300部を得た。該共重合体の[η]は0.48dl/gであり、Mnは27,000であり、分子量分布(Mw/Mn)は2.0であり、融点(Tm)は62℃であり、ガラス転移点(Tg)は−28℃であり、共重合体におけるVCHに由来する構造単位の含有率は12.2モル%であった。
【0096】
<オレフィン系共重合体の製造例2>
アルゴンで置換したSUS製リアクター中にビニルシクロへキサン441部と脱水ヘキサン混合物(2−メチルペンタン、3−メチルペンタン、ノルマルヘキサン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン)947部を投入した。プロピレン350部を仕込んだ後、60℃に昇温した。トリイソブチルアルミニウム(TIBA)のヘキサン溶液[東ソー・ファインケム(株)製、TIBA濃度10wt%]3部を仕込み、つづいてジメチルシリレン(テトラメチルシクロペンタジエニル)(3−tert−ブチル−5−メチル−2−フェノキシ)チタニウムジクロライド0.0010部を脱水ヘキサン3.4部に溶解したものと、N,N−ジメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート0.0064部と脱水ヘキサン3.8部との混合物を投入し2時間攪拌した。得られた反応混合物にエタノール5部を加えて重合を停止させた後、脱圧してプロピレンを除去し、得られた反応液をアセトン約5000部中に投じ、沈殿した白色固体を濾取した。該固体をアセトンで洗浄後、減圧乾燥した結果、プロピレン・ビニルシクロヘキサン共重合体140部を得た。該共重合体の[η]は0.65dl/gで、分子量分布(Mw/Mn)は1.9、融点(Tm)は観測されず、ガラス転移点(Tg)は−1.2℃、共重合体におけるVCH単位の含有率は4.7モル%であった。
【0097】
<オレフィン系共重合体の不飽和カルボン酸類による変性物の製造例>
<オレフィン系共重合体の製造例1>の項において得られたエチレン・ビニルシクロヘキサン共重合体100部に、無水マレイン酸0.4部、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン0.04部を添加して十分に予備混合後に二軸押出機の供給口より供給して溶融混練を行い、エチレン・ビニルシクロヘキサン共重合体の無水マレイン酸変性物(本変性物)を得た。なお、押出機の溶融混練を行う部分の温度は、溶融混練を前半と後半の二段階に分け、前半は180℃、後半は260℃と温度を高めた設定にして溶融混練を行い、本変性物を得た。得られたオレフィン系共重合体変性物のマレイン酸グラフト重合量は0.2%であった。
【0098】
<本変性物、乳化剤および水の混合>
東洋精機製ラボプラストミルマイクロのセルを95℃に設定したのち、該セル内に<オレフィン系共重合体の不飽和カルボン酸類による変性物の製造例>において得られた変性物3.12gを封入し、毎分300回転で3分間攪拌した。この時の最高剪断速度は1173秒−1であった。その後、乳化剤としてオキシエチレンオキシプロピレンブロック共重合体(重量平均分子量15500:プルロニックF108:旭電化(株)製)0.46gを水0.21gとともに添加し、セル内の温度を95℃に保ちながら、さらに、毎分300回転で3分間混練した(剪断速度1173秒−1)。混練した後、内容物を取り出し、約70℃の温水を入れた容器内で攪拌、分散させ、分散質の体積基準メジアン径が0.43μmのエマルジョンを得た。
【0099】
<オレフィン系共重合体、乳化剤および水の混合>
株式会社入江商会製卓上型ニーダーPBV−0.3型のシリンダー温度を97℃に設定したのち、該シリンダー内に<オレフィン系共重合体の製造例2>において得られた共重合体110部を投入し、毎分10回転で順回転しながら樹脂を10分間溶融した。溶融後、乳化剤としてオキシエチレンオキシプロピレンブロック共重合体(重量平均分子量15500:プルロニックF108:旭電化(株)製)を固形分で11部投入し、毎分60回転でカバーガラスをときどき開けて脱泡しながら4分間混練乳化した。ついで、90℃の温水110部を投入し分散させて、体積基準メジアン径1.5μmの水性エマルジョンを得た。
【0100】
<カチオン性ポリマー水溶液の製造>
温度計、還流冷却器および攪拌棒を備えた四ツ口フラスコに、水176.5gおよびブチルアミン73.1g(1.0モル)を仕込み、さらにエチレングリコールジグリシジルエーテル191.6g(1.1モル)を滴下したあと、50〜60℃で2時間反応させた。そのあと、硫酸および水でpH9.0、濃度40%に調整して、粘度55cpsのカチオン性ポリマーの水溶液を得た。
【0101】
(実施例1)
<本変性物、乳化剤および水の混合>の項において得られたエマルジョン100重量部(固形分40%)及び<カチオン性ポリマー水溶液の製造>において得られた水溶液1.68重量部(固形分40%)、尿素1.58重量部を500rpmの回転数で30分攪拌し完全に混合させ、本発明の水性エマルジョンを得た。
【0102】
(実施例2)
<本変性物、乳化剤および水の混合>の項において得られたエマルジョン100重量部(固形分40%)及び<カチオン性ポリマー水溶液の製造>において得られた水溶液1.00重量部(固形分40%)、尿素0.95重量部を500rpmの回転数で30分攪拌し完全に混合させ、本発明の水性エマルジョンを得た。
【0103】
(実施例3)
<本変性物、乳化剤および水の混合>の項において得られたエマルジョン100重量部(固形分40%)及び<カチオン性ポリマー水溶液の製造>において得られた水溶液2.52重量部(固形分40%)、尿素2.36重量部を500rpmの回転数で30分攪拌し完全に混合させ、本発明の水性エマルジョンを得た。
【0104】
(実施例4)
<オレフィン系共重合体、乳化剤および水の混合>の項において得られたエマルジョン100重量部(固形分49.6%)及び<カチオン性ポリマー水溶液の製造>において得られた水溶液3.13重量部(固形分40%)、尿素2.92重量部を500rpmの回転数で30分攪拌し完全に混合させ、本発明の水性エマルジョンを得た。
【0105】
(比較例1)
<本変性物、乳化剤および水の混合>の項において得られたエマルジョンに水を添加し(固形分40%調整)500rpmの回転数で30分攪拌し水性エマルジョンを得た。
【0106】
(比較例2)
<本変性物、乳化剤および水の混合>の項において得られたエマルジョン100重量部(固形分40%)及び尿素1.58重量部を500rpmの回転数で30分攪拌し、完全に尿素を溶解させ、水性エマルジョンを得た。
【0107】
(比較例3)
<本変性物、乳化剤および水の混合>の項において得られたエマルジョン100重量部(固形分40%)及び<カチオン性ポリマー水溶液の製造>において得られた水溶液1.68重量部(固形分40%)を500rpmの回転数で30分攪拌し完全に混合させ、水性エマルジョンを得た。
【0108】
<耐水性評価>
実施例、比較例において得られた水性エマルジョンを75μm厚のポリエチレンテレフタレートフィルムに、乾燥後の膜厚が10μmとなるようバーコーターにて塗布し、熱風乾燥機で80℃×35分乾燥して硬化物を得た。得られた硬化物に純水を1滴滴下し、水とともに硬化物の表面を指で擦り、表面が剥がれるまでの時間を計測した。
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明により、接着性に優れ、塩素を含有せず、かつ耐水性に優れた硬化物を得ることが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
α−オレフィン及び/又はエチレン及び/又はプロピレンに由来する構造単位と置換基Rを有するビニル化合物(I):
CH=CH−R (I)
〔式(I)中、Rは、2級アルキル基、3級アルキル基又は脂環式炭化水素基を表す。〕
に由来する構造単位とを含むオレフィン系共重合体、乳化剤、尿素類並びにカチオン性ポリマーを有する水性エマルジョン。
【請求項2】
オレフィン系共重合体が、さらに不飽和カルボン酸類に由来する構造単位を含む、請求項1記載の水性エマルジョン。
【請求項3】
尿素類が、下記式(III):

〔式(III)中、Qは、酸素原子又は硫黄原子を表し、X1、X2、X3及びXは互いに独立に、水素原子、炭素数1〜6の直鎖アルキル基、炭素数3〜6の分枝アルキル基、又は、X1あるいはX2と、X3あるいはXとが結合した炭素数1〜6のアルキレン基を表し、但し、アルキル基及びアルキレン基の水素原子は水酸基で置換されていてもよい。〕
で表される化合物である、請求項1又は2記載の水性エマルジョン。
【請求項4】
乳化剤が、α,β−不飽和カルボン酸に由来する構造単位とアクリル酸ビニルエステルに由来する構造単位と(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位とを含有する水溶性アクリル樹脂、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー、及びポリオキシエチレンアルキルエーテルからなる群から選ばれる少なくとも1種の乳化剤である、請求項1〜3のいずれか記載の水性エマルジョン。
【請求項5】
カチオン性ポリマーが、ポリアミンとエピクロロヒドリンとの反応生成物である、請求項1〜4のいずれか記載の水性エマルジョン。
【請求項6】
α−オレフィン及び/又はエチレン及び/又はプロピレンに由来する構造単位と、置換基Rを有するビニル化合物(I)に由来する構造単位とを含むオレフィン系共重合体及び乳化剤からなる分散質の体積基準メジアン径が0.01〜1μmである、請求項1〜5のいずれか記載の水性エマルジョン。
【請求項7】
ビニル化合物(I)がビニルシクロヘキサンである、請求項1〜6のいずれか記載の水性エマルジョン。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか記載の水性エマルジョンを乾燥してなる硬化物。
【請求項9】
木質系材料、セルロース系材料、プラスチック材料、セラミック材料及び金属材料からなる群から選ばれる少なくとも1種の材料からなる被着体及び請求項8記載の硬化物を貼合してなる積層体。
【請求項10】
プラスチック材料がポリオレフィンである、請求項9記載の積層体。
【請求項11】
プラスチック材料がポリプロピレンである、請求項9又は10記載の積層体。

【公開番号】特開2010−180397(P2010−180397A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−266633(P2009−266633)
【出願日】平成21年11月24日(2009.11.24)
【出願人】(501460383)住化ケムテックス株式会社 (10)
【Fターム(参考)】