説明

オンチップでの非干渉性のレンズフリーのホログラフィおよび顕微鏡法

細胞試料を画像化するためのシステムは、細胞試料を保持するよう構成された試料ホルダを有する。空間フィルタは試料ホルダの第1の面において試料ホルダからzの距離に配置され、この空間フィルタは、その中に配置され、照明が通過できるよう構成された開口を有する。画像化センサアレイは、試料ホルダの第2の反対側の面において試料ホルダからzの距離に配置される。照明光源は開口を通して細胞試料を照明するよう構成されており、空間フィルタは照明光源と試料ホルダの間に置かれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、2009年10月20日出願の米国仮特許出願第61/253,276号、2010年5月5日出願の米国仮特許出願第61/331,500号の権利を主張するものである。米国特許出願第61/253,276号および第61/331,500号は、本書に完全に記載されているように参照により組み込まれる。優先権は、米国特許法119号および他の該当する法律に準じて主張される。
【0002】
本発明の分野は概して、画像化システムおよび方法に関するものであり、より具体的には、セル、細胞小器官、セル粒子などといった小さい粒子の画像化および分析において特定の用途を有する画像化システムに関するものである。
【背景技術】
【0003】
何十年もの間、光学顕微鏡法は工学、物理科学、医学および生物学を含む様々な分野に貢献してきた。その長い歴史にも関わらず、比較的最近まで、光学顕微鏡のデザインや動作原理の著しい変化はなかった。最近の十年間、ナノ世界の域をより理解しようとする探求によってある程度動機付けられて、回折限界などの光学画像化の最も基本的な制約事項の幾つかに対処することにより、超解像技術が光学顕微鏡法を革新し始めた。このような超解像技術に加えて、幾つもの他の新たな画像化機構はさらに、更に優れた速度、信号雑音比(SNR)、コントラスト、処理能力、特異性などに関して光学顕微鏡法の技術の状態を向上させることを実現した。この顕微鏡法における最近の進歩は、様々な革新的な技術を利用して画像化における基本的な障害を克服しており、新たな発見を可能にすることで多様な分野に著しい刺激を引き起こしてきた。
【0004】
しかしながら、この進歩と共に、光画像化プラットフォームの全体的な複雑さや費用は増加してきた。高価で時に大型の光画像化システムは多くの場合、設備が整った工場以外にこれらの高性能な光画像化様式の一部の利用が普及することを制限してしまう。
【0005】
その一方で、小さいピクセル、優れたダイナミックレンジ、フレーム率および信号雑音比を有する著しく大きな領域と、更により早く、安く、より強力なデジタルプロセッサおよびメモリとを有するかなり安価な2次元の固体検出アレイを用いる、デジタル技術における急速な進歩が起こっている。この進行中のデジタル革命はさらに、進歩した画像化理論と数値アルゴリズムと組み合わせた場合に、光学画像化および顕微鏡法について、光学画像化装置を簡略化することについて革新的な別の側面に直面する機会を作り出し、場合によっては性能と引き替えにすることなく、著しく小型で費用効果があり、使い易いものにする。
【0006】
数十年の間、レンズは所望の視野および画像の分解能によって決まる最低の空間−帯域の積で動作するように検出器(アナログまたはデジタル)を補助してきた。しかしながら、上述のデジタル革命は、1000万−2000万以上の2Dの空間−帯域の積が今日では容易に可能となるように、デジタル画像機器について最先端技術に既に進化させている。これは、今日の検出器アレイは回折によって起こる情報の歪みの取り扱いに上手く適しており、光学画像化においてレンズを使用することの絶対的な必要性を提起しうるものであることを示唆している。さらに、新しいアルゴリズムと共に、今日のデジタルプロセッサはさらに、ほぼ瞬間的に、物理レンズの役割をすべく検出器の末端で取得された情報を処理するのに適した形態でもある。この状況を見てみると、光学画像化において広く使用されるレンズ(または同様の波面形状要素)は、デジタルドメインについて複雑さを欠いた光学要素を費用効果が高く小型で、より単純な光学構造で補完することにより、幾つかの用途での必要性(特にセルへの顕微鏡使用)に対して場合によっては差し替えることが可能であると推論できる。この手法は特に、資源が限られた環境での必要性および要求事項に対処すべきであり、潜在的に感染症を伴う問題に関連する様々な国際的健康状態に対する対策で飛躍的な跳躍をもたらす。
【0007】
非常に重要なことに、資源が限られた環境での顕微鏡法は高度な研究室の要求事項とは非常に異なる要求事項を有しており、このような画像化デバイスは使用法および操作が単純で、費用効果が高く、小型かつ軽量である一方、同時に適切に正確であるべきである。レンズフリーで小型かつ費用効果がある、オンチップのデジタル撮像装置により大きな利益となる他の分野は、マイクロ流体工学の分野である。最近の十年間、マイクロ流体工学は、必要なデバイスおよび試薬の量、さらに関連費用を著しく減少させることによって、セルを取り扱うことができるツールセットを激変させてきた。幾つかの例では、これは、いわゆるラボオンチップ(lab−on−a−chip)の適用を可能にしてきた。光学技術をマイクロ流体工学に融合させて生じた発展の全てにもかかわらず、未だに比較的処理量が低く、大きく、費用がかかる状態の分野では、光学顕微鏡プラットフォームとこのようなデバイスに見られるマイクロ流体機構を一体化させている。処理量の増加を伴うこの画像化プラットフォームを著しく小型化および簡略化させなければ、真の範囲のマイクロ流体の革新は、特に血球計算の用途では完全に実感はできない。
【0008】
この考え方の結果は既に文献に発表されており、様々なレンズフリーのオンチップ画像化構造が上手く実証されている。例えば、Xu,W.、Jericho,M.H.、Meinertzhagen,I.A.& KruezerのH.J.Digital in−line holography for biological applications.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.98、11301−11305(2001)を参照されたい。これらの手法の中で、レンズフリーのデジタルホログラフィは、新たな計算アルゴリズムおよび数学モデルを用いて、このデジタル革命で最大のものを作り出す可能性があるため、特に注目するに値するものである。この状況では、レンズフリーのデジタルインラインホログラフィは既に、上記のXu等に記載されたように、セルや他の微小生物の高分解能顕微鏡法について上手く実証されてきた。しかしながら、従来の干渉性のレンズフリーのインラインホログラフィ法は、照明に対してほぼ完璧の空間干渉性を要求しており、その結果、空間的にフィルタリングすべく、ほぼ波長と同じ大きさの小さな開口にレーザ光を収束させる必要がある。小さいサイズの開口(例えば、1−2μm)を使用すると、光の処理量を向上させるべくレーザ放射を開口に効率的に連結させるため、集束レンズと共に、機械的に安定し慎重に調整されたシステムを必要とする。これは、適切な光の調整および機械的な安定性を確保するために堅固なシステムを必要としうる。さらに、長期間にわたってこのように小さい開口を清潔かつ動作可能に保つことは、特に研究所以外の環境での使用に対して更なる課題となりうる。
【0009】
さらに、従来のレンズフリーのインラインフォログラフィでは、対象のセルは一般にセンサ表面から離れて(例えば1−2cm以上)配置され、これにより、各セルのホログラフィックシグネチャはセンサ領域全体にわたって実質的に拡がり、全てのセルの特定のホログラフィック「シグネチャ」が著しく重なってしまう。このような手法は、残念ながらセル面における画像化視野(FOV)を制限してしまう。全てのこれらの要求事項が、光学機器の費用やサイズを増加させる。さらに、これらの制約は、野外などの資源が限られた環境において使用する従来の干渉性のレンズフリーのインラインホログラフィ法を不便にしてしまう。
【0010】
ホログラフィにおける非干渉性または部分的に干渉性の光源はさらに、異なるレンズベースの光学機構にも利用されている。しかし、これらのホログラフィック画像化技術は、様々な大きい光学要素を利用するため「オンチップ(on−chip)」として分類されず、その結果、研究室以外での使用にあまり適していない上述の高性能画像化様式と同じカテゴリ下にあると見なすことができる。部分的に干渉性のレンズフリーのインラインホログラフィを用いる更に単純な手法は、ラテックス粒子の画像化について最近実証されているが、これらの技術もまた、対象の物体をセンサ面から離れて配置するため、視野が小さいという問題がある。例えば、Dubois,F.、Requena,M.N.、Minetti,C.、Monnom,O.& Istasse,E.のPartial spatial coherence effects in digital holographic microscopy with a laser source.Appl.Opt.43、1131−1139(2004)を参照されたい。さらに、これらの研究は顕微鏡の対物レンズなどの照明用のカップリング光学系を利用し、比較的粗い画像化性能を有していた。
【発明の概要】
【0011】
本発明の一態様では、費用効果が高くて小型の光学要素を利用する代替的な非干渉性のセルホログラフィおよび顕微鏡プラットフォームが開示されており、セルまたは多細胞生物のデジタル認識および顕微鏡画像化を可能にする。このプラットフォームおよび方法は、(たとえレンズを組み込んだとしても)レンズ、レーザなどの干渉性の光源、または他の大きな光学要素を必要とせずに広い視野にわたって細胞下分解能を可能にする。このレンズがないシステムでは、2Dのホログラフィックシグネチャに基づいて各セルの種類をその後デジタル認識し自動的に計数するために、様々な種類のセルのそれぞれの位相および振幅のホログラムを記録することができる。さらに、当該システムおよび方法は、最大で約40万cells/μLに達するセル密度においても、広い視野にわたって細胞下分解能を特徴としながら、正確に顕微鏡画像を再構成することができる。このプラットフォームは、調整不良に対して許容性があり、単純、小型、軽量かつ費用効果が高い光学要素を利用するため、資源が乏しい環境におけるセルの生態学、マイクロ流体工学および遠隔治療ベースの血球計算分野に重要な器具を提供することもできる。例えば、このプラットフォームは、マラリア、HIV、および結核などの様々な感染症の診断および調査に使用できる比較的小さなデバイスに組み込むことができる。このデバイスはさらに、病気を引き起こす寄生虫または他の感染症の水を検査することもできる。
【0012】
この目的のため、非干渉性のレンズフリーのセルホログラフィプラットフォームの性能が、最低限の試料を準備するステップを用いて、顆粒球、単球およびリンパ球をそれぞれと区別するのに十分な空間分解能で全血細胞を自動的に計数し、顕微鏡画像化することが実証されている。
【0013】
このレンズがない非干渉性のセルホログラフィプラットフォームには幾つかの態様があり、マイクロ流体工学のシステムにおけるセルの生態学および血球計算分野にとって非常に便利なものにしている。第1に、このホログラフィック法における光源はレーザーである必要はない。むしろ、レンズまたは他の大きい光学要素を必要とせずに、完全に非干渉性の光源を使用することができる。この特徴は光学機構を著しく簡素化して、この光学機構を費用効果が高く小型にし、さらに干渉性のスペックル雑音および基板に誘発されたセルホログラムにおける多重反射の干渉効果を取り除く。第2に、レンズがない非干渉性のセルホログラフィ法は照明のために小さいサイズの開口を必要とせず、その結果、セルホログラムの配列解析またはデジタル画像の再構成に対する課題を生じさせることなく、何十倍も画像化システムの光処理量を向上させる。殆どの従来のホログラフィ法とは異なり、大きいサイズの開口(例えば、50−100μm)はさらに、光源と開口面の間の連結/集光光学部品の使用を排除する。この特徴は、機械的な位置不良または起こりうる閉塞問題に対して強くしている。これは、画像化への影響または再度の位置調整の必要性なく長い動作時間を可能にし、屋外での使用に非常に適するようにしている。第3に、対象のセルは光源よりも更にセンサアレイに近く配置されるため(1未満のフリンジ倍率)、一般に光学顕微鏡の10倍以上または従来のレンズがないインラインホログラフィック顕微鏡の50−100倍以上のより広い視野を画像化できる。
【0014】
この性質はさらに、レンズまたは高価な薄膜蛍光フィルタを必要とせずに、広い視野にわたって蛍光信号のオンチップ検出を同時にできるようにしており、これは、非干渉性のホログラフィック顕微鏡法を蛍光検出と組み合わせることができる複合型オンチップ画像化プラットフォームを作り、レンズフリーの画像化プラットフォームの特殊性および機能性を高めるためには非常に重要である。最終的に、組み込まれた光学位相のホログラフィック処理を介してセルの顕微鏡画像を再構成することを別として、このシステムはさらに、再構成されたセル画像を補完する情報の代替的なソースを提供する、各セルに対応する固有の2次元のホログラフィックテクスチャ(すなわち、フィンガープリント)を検出できる。このようなセルのホログラフィックシグネチャ(位相と振幅の両方)の配列および/またはテクスチャ解析により、血球計算分野に特に重要な、(デジタル再構成せずに)対象の各セルの種類および状態を認識することが可能となる。例えば、観察されたホログラムシグネチャが迅速な診断の決定(例えば、健康なセルに対する不健全なセルのホログラムシグネチャの比較)を可能にしうる。本書に記載のレンズフリーのホログラフィック画像化システムおよび方法をデジタル回路と組み合わせて、特に資源が限られた環境でのセル生態学、血球計算、および医療診断の未だ対処されていない要求の一部に変化しうる解決策を提供できる。
【0015】
本発明の一実施形態では、細胞試料を画像化するためのシステムは、細胞試料を保持するよう構成された試料ホルダと、試料ホルダの第1の面において試料ホルダからzの距離に配置された空間フィルタとを具え、当該空間フィルタはその中に配置された開口を有し、この開口は照明が通過できるように構成されている。このシステムはさらに、試料ホルダの第2の反対側において試料ホルダからzの距離に配置された画像化センサアレイと、開口を通って細胞試料を照明するよう構成された照明光源と、照明光源と試料ホルダの間に置かれた空間フィルタとを具える。
【0016】
本発明のさらに他の態様では、このシステムはさらに、空間フィルタと試料ホルダの間に置かれたプリズムと、当該プリズムを通って細胞試料を照明するよう構成された蛍光照明光源とを具えてもよく、実質的に全ての入射蛍光照明は、全反射(TIR)によって反射される。入射蛍光照明は横あるいは斜めからであってもよいが、ホログラフィック照明光源は上から下へと向けられる。試料の1以上の種からの蛍光発光は、画像化センサアレイによって検出されうる。
【0017】
本発明のさらに他の態様では、細胞試料を画像化する方法は、少なくとも部分的に非干渉性の光を放出する照明光源を用いて、細胞試料を保持するよう構成された試料ホルダの正面を照明するステップを含み、少なくとも部分的に非干渉性の光は細胞試料を照明する前に開口を通過する。1以上の画像フレームが、試料ホルダの背面、またはその近くに配置された画像化センサアレイから取得される。
【0018】
本発明のさらに他の態様では、細胞試料を画像化するための携帯型システムは、細胞試料を保持するよう構成された試料ホルダを有するモバイル通信デバイスを具え、当該モバイル通信デバイスは手持ち式の携帯性に適した大きさである。この携帯型システムは、試料ホルダの第1の面において試料ホルダからzの距離に配置された空間フィルタであって、照明が通過できるよう構成され、その中に配置された開口を有する空間フィルタと、モバイル通信デバイス内に位置し、試料ホルダの第2の反対側の面において試料ホルダからzの距離に配置された画像化センサアレイとを有する。携帯型システムは、開口を通して細胞試料を照明するよう構成された照明光源と、照明光源と試料ホルダの間に置かれた空間フィルタとを有する。モバイル通信デバイスは、携帯電話または携帯情報端末(PDA)等を含みうる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、一実施形態による非干渉性レンズフリーのセルホログラフィおよび顕微鏡システムの概略図である。
【図2】図2は、一実施形態による非干渉性レンズフリーのセルホログラフィおよび顕微鏡システムの構成要素の概略図である。
【図3】図3は、その中に一体型の非干渉性レンズフリーのセルホログラフィー機能を有するモバイル通信デバイスの部分分解図である。
【図4】図4は、システムのベイヤー配列出力から単色のホログラフィック画像を作り出すよう開発されたデベイヤーアルゴリズムの概略図を示している。
【図5】図5は、蛍光画像化機能を有する非干渉性レンズフリーのセルホログラフィおよび顕微鏡システムの他の実施形態を示している。
【図6】図6(a)−6(k)は、蛍光および非蛍光ビーズを含む不均一溶液について連続的に取得された同一視野のレンズフリーのホログラフィックおよび蛍光画像を示している。
【図7】図7は、遺伝子導入したシーエレガンスのレンズフリーのオンチップ蛍光画像を示している。
【図8】図8は、異なる画像化センサアレイを用いた、遺伝子導入したシーエレガンスのレンズフリーのオンチップ蛍光画像を示している。
【図9】図9は、蛍光画像化機能を有する非干渉性レンズフリーのセルホログラフィおよび顕微鏡システムの他の実施形態を示している。
【図10A】図10Aは、光学フェースプレートの使用を伴う、蛍光画像化機能を有する非干渉性レンズフリーのセルホログラフィおよび顕微鏡システムの実施形態を示している。
【図10B】図10Bは、光学フェースプレートの顕微鏡画像を示している。
【図11】図11は、どのようにシステムが対象の物体の画像をデジタル処理で再構成するかを示すトップレベルフローチャートである。
【図12】図12は、血液塗抹試料の非干渉性レンズフリーの画像化結果を示しており、3つの主な種類の白血球(すなわち、顆粒球、リンパ球および単球)のホログラフィックシグネチャを図示している。
【図13A】図13Aは、顕微鏡によるセルの手動計数と自動ホログラフィック計数の精度を比較するグラフを示している。
【図13B】図13Bは、10倍の顕微鏡対物レンズを伴う、様々な密度のセルに対する未加工のホログラムおよび再構成画像を図示している。
【図14】図14は、40万cells/μLの密度におけるRBCの画像を図示している。左上の画像は未加工のホログラム面であり、全てのセルホログラムは重なっている。右上の画像は再構成されたセル画像を示している。下の画像は、右上の画像の円の範囲内に示された3つの選択されたRBCの隔離した位相および振幅のホログラフィックシグネチャを図示している。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、一実施形態による細胞試料12を画像化するためのシステム10を図示している。このシステムは、細胞試料12を保持するよう構成された試料ホルダ14を具えている。試料ホルダ14は、(カバーガラスを有する、または有さない)ガラスまたはプラスチックのスライド、容器、キュベットなどを有しうる。この試料ホルダ14は、少なくともシステム10が動作する光の波長で光学的に透明な材料から作られることが好ましい。細胞試料12は、画像化される生物学的成分、すなわちセルまたはセル特性を含む。試料12は、血液、水滴、唾液、粘液、または環境的試料(例えば、湖または川からの水)であってもよい。細胞試料12は調製された試料であってもよく、調製されることなく試料ホルダ14上に配置された直接的な生物学的試料であってもよい。例えば、試料として赤血球を用いる場合には、血液試料は、1倍のリン酸緩衝液(PBS)または血液バンク用の食塩水(例えば、Fisher Scientific社のFisherbrandの血液バンク用の食塩水)のいずれかを用いて希釈されてもよい。
【0021】
試料ホルダ14は、画像化センサアレイ16の上に配置される。すなわち、画像化センサアレイ16は、試料ホルダ14の下面の近くに配置される。画像化センサアレイ16の表面は、試料ホルダ14の下面と接触する、あるいは近接していてもよい。画像化センサアレイ16は、例えば、電荷結合素子(CCD)または相補型金属酸化膜半導体(CMOS)を含みうる。画像化センサアレイ16は、単色性または色付きであってもよい。画像化センサアレイ16は一般に、大きさが9.0μm未満、より具体的には大きさが5.0μmよりも小さい(例えば2.2μm未満)の小さいピクセルサイズを有する。通常、小さいピクセルサイズを有するセンサは高い分解能を生成しうる。本書に記載する画像化法の利点の1つは、ピクセルサイズよりも優れた空間解像度を得られることである。
【0022】
図1をさらに参照すると、このシステム10は、試料ホルダ14の上面から離れて配置される空間フィルタ18を有する。空間フィルタ18その中に開口20を有しており、この開口20は照明が通過できるように構成されている。開口20は一般に、50μm乃至約100μmの直径(D)を有する。図1は、試料12内に含まれる生物学的要素(例えば、セル)を横切る平面を示すセル面22を図示している。このセル面22は通常、細胞試料を有する試料ホルダ14の表面に実質的に配置される。図1に見られるように、空間フィルタ18はセル面22からzの距離に配置される。画像化センサアレイ16の結像面はセル面22からzの距離に配置される。本書に記載するシステム10では、z<<zである。例えば、距離zは約1cm乃至約10cmの大きさであってもよい。他の実施形態では、この範囲はさらに狭く、例えば約5cm乃至約10cmであってもよい。距離zは約0.05mm乃至2cmの大きさであってもよいが、他の実施形態では、この距離zは約1mm乃至2mmであってもよい。
【0023】
システム10は、図2に示すような照明光源24を具えている。この照明光源24は、非干渉性または部分的に非干渉性の光源であることが好ましい。発光ダイオード(LED)は、照明光源24として利用できる光源24の一例である。LEDは比較的安価で耐久性があり、通常は必要電力が低い。システム10の顕著な利点の1つは、その設計が機械的な許容範囲についてある程度の変動を可能にしている点であり、これにより、照明光源24、空間フィルタ18、および画像化センサアレイ16の間の位置調整が完璧でなくともシステム10は動作する。
【0024】
図2は、幾つかの付加的な要素を伴うシステム10を図示している。一実施形態では、ラップトップ、デスクトップなどのコンピュータ26がシステム10に動作するよう接続されており、これにより、データの取得や画像処理のために画像(例えば、画像フレーム)が画像化センサアレイ16からコンピュータ26に転送される。コンピュータ26は1以上のプロセッサ(図示せず)を有しており、本書でより詳細に説明するように、このプロセッサはホログラフィック振幅または強度を含む試料12の画像を取得するソフトウェアを実行する。コンピュータ26上のソフトウェアは次いで、画像の遺失した位相を再生させる。同一画像のホログラフィック振幅および再生した位相の双方を有すると、ソフトウェアは次いで試料12の画像を再構成する。この再構成された画像12は、例えばディスプレイ28などでユーザに表示することができる。ソフトウェアはさらに、ホログラフィックシグネチャに基づいて対象の特定のセルを識別し、表示することもできる。例えば、ソフトウェアは顆粒球および単球を無視する一方で、試料内のリンパ球を識別するようプログラムすることができる。これらのリンパ球は特有のホログラフィックシグネチャによって識別され、その後ディスプレイ28上でユーザに表示される。ソフトウェアはさらにセルの個体数またはセルの部分母集団を計数し、その情報をディスプレイ28上に表示することもできる。特有なホログラフィックシグネチャを利用して病態を識別することもできる。例えば、赤血球(RBC)がソフトウェアによって評価されて、鎌状赤血球貧血またはマラリアを伴う感染症などの病態を探すこともできる。この情報は、ディスプレイ28を介してユーザに折り返し報告することもできる。
【0025】
他の代替的な実施形態では、モバイル通信デバイス30がシステム10に動作するよう接続される。モバイル通信デバイス30に含まれる1以上のプロセッサを用いてデータを取得したり画像を処理するため、画像(例えば、画像フレーム)を画像化センサアレイ16からモバイル通信デバイス30に転送できる。代替的に、モバイル通信デバイス30は通信ネットワーク32を超えて単にデータを転送し、その後に更に処理すべく遠隔のコンピュータ34に転送することもできる。通信ネットワーク32は例えば、インターネットなどの広域ネットワークを含んでもよく、あるいは従来のモバイル通信デバイス30においてデータを転送および受信するために利用される無線ネットワークを含んでもよい。同じ通信ネットワーク32を用いて、データをモバイル通信デバイス30に折り返し報告することもできる。
【0026】
さらに他の代替的な実施形態では、以下により詳しく説明するように、システムの構成要素はモバイル通信デバイス30に組み込まれる。すなわち、モバイル通信デバイス30は、画像化センサアレイ16と、照明光源24と、空間フィルタ18とを具え、モバイル通信デバイス30を用いて解析するために試料ホルダ14を受けるように構成される。この実施形態では、モバイル通信デバイス30に含まれる1以上のプロセッサは、画像を解析し処理するためのソフトウェアを有する。代替的に、モバイル通信デバイス30は、通信ネットワーク32を越えて単に未加工の画像ファイルを転送し、遠隔のコンピュータ34を用いて画像を処理し分析してもよい。結果は、通信ネットワーク32を介してモバイル通信デバイス30に送り返すこともできる。
【0027】
さらに他の実施形態では、照明光源24、空間フィルタ18、および画像化センサアレイ16が、試料ホルダ14を受けるよう構成された独立型ユニットに含まれてもよい。この独立型ユニットは、有線(例えば、USB)または無線(例えば、Bluetooth)接続を介してコンピュータ26に接続することができる。代替的に、独立型ユニットは、同様の有線または無線接続を介してモバイル通信デバイス30に接続されてもよい。
【0028】
図3は、レンズフリーのホログラフィック画像化システムがモバイル通信デバイス30と一体的であるシステム10の実施形態を図示している。このモバイル通信デバイス30は、携帯電話、携帯情報端末(PDA)、または他の携帯型電子デバイスを含みうる。モバイル通信デバイス30は、画像、データ、および結果を通信ネットワーク32を介して離れた位置へと遠くに転送できるように、無線機能を有していることが望ましい。このような無線伝達は、データを伝えるために利用される従来の無線スペクトルおよびデータプロトコル(例えば、CDMAネットワーク、GSMネットワークなど)にわたって行うことができる。データは、Bluetooth、WiFiなどの他の短距離無線プロトコルを介して、他のコンピュータまたは同様のデバイスに転送することもできる。
【0029】
画像化センサアレイ16(図3には図示せず)は、モバイル通信デバイス30内に配置される。この画像化センサアレイ16は、このようなデバイス(例えば、CMOS、CCD、または同等のもの)に、写真または動画を撮るのに使用されるものと同じ画像化ハードウェアを有しうる。代替的に、画像化センサアレイ16は、ホログラフィック画像化の用途のために特別に作られた特殊な構成要素であってもよい。図3に見られるように、モバイル通信デバイス30は、試料ホルダ14を保持するよう構成された試料ローダ38を有する。例えば、試料ローダ38は図3に示すような開いた位置に移動することができ、試料ホルダ14は試料ローダ38内に配置される。次いで、試料ローダ38は閉じた位置へと移動し、試料12を有する試料ホルダ14は画像化センサアレイ16の上の位置に配置される。代替的に、他の実施形態では、試料ホルダ14(例えば、スライド、キュベットなど)は、試料ローダ38の補助がなくとも、モバイル通信デバイス30内へと直接挿入することができる。何れの場合でも、試料12は、セル面22が検査面に近付くように画像化センサアレイ16上またはその上側に直接配置される。画像化センサアレイ16の上にある光学的に透明な層(図示せず)は、この距離を固定することができる。
【0030】
さらに図3を参照すると、システム10は、空間フィルタ18と共に照明光源24を収容するよう構成された拡張部またはハウジング40を有している。この拡張部40は、他の形および形状を利用することもできるが、管状ハウジングなどの形状であってもよい。拡張部40はモバイル通信デバイス30に恒久的に固定されてもよく、あるいは代替的に、拡張部40はモジュール式であって、モバイル通信デバイス30に選択的に取り付け/取り外しすることもできる。幾つかの実施形態では、拡張部40の長さを調整することができる。照明光源24は、図3に示すようなLEDなどの非干渉性または部分的に非干渉性の光源であることが好ましい。照明光源24は、モバイル通信デバイス30の内部電池によって駆動または動力供給されてもよく、あるいは代替的に、拡張部40は、照明光源24に動力供給するのに必要な電池42および/または駆動回路を有していてもよい。更に他の代替例では、図2のコンピュータ26等のローカルコンピュータからの動力源が、(例えば、USBケーブルなどを介して)照明光源24を動作させる動力源を提供することもできる。
【0031】
拡張部40はさらに空間フィルタ18を具え、その中には開口20を有している。本書に説明するように、本システム10の主な利点は、照明光源24、空間フィルタ18、および画像化センサアレイ16の間の位置調整が完璧でなくとも画像システムが動作できるように、設計が機械的な許容範囲についてある程度の変動を可能にしている点である。従って、モバイル通信デバイス30が屋外でこのようなデバイス30について想定されるような著しい機械的な障害を受けたとしても、システムはそれでも動作して画像を提供することができる。
【0032】
拡張部40は、セル面22からある程度の距離(すなわち、z)離れて開口20を通常配置する長さを有する。一般に、セル面22と開口20の間の距離は、約1cm乃至約10cmの範囲内である。当然のことながら、この距離はこの範囲を越えて変化しうる。この比較的短い距離はさらに、拡張部40がモバイル通信デバイス30に取り付け、あるいは固定される場合に、モバイル通信デバイス30を手持ち式の携帯型にすることができる。セル面22と画像化センサアレイ16の間の距離はモバイル通信デバイス30内に容易に収容することができるが、通常は0.05mm乃至2cmの範囲内に収まる。
【0033】
上述したように、拡張部40は、取り換えまたは交換して、例えば代替の照明光源24を設けることができるモジュール式の構成要素であってもよい。例えば、ある拡張部40が特定の色のLEDを有し、一方で他の拡張部が異なる色のLEDを有することもできる。これらの様々な拡張部40は、異なる画像特性を提供するように長さが異なっていてもよい。これらの拡張部40は、画像化キットの一部として屋外に運ぶことができる。代替的に、単一の拡張部40が複数の照明光源24(例えば、1以上の色のLED)を有していてもよい。これらのLEDは、個々にあるいは同時に合わせて動力供給することができる。単一の拡張部40は(同色または異なる色の)複数のLED構成を有することもできるため、画像化するために同時に全ての光源の電源を入れることができ、あるいは代替的に、各照明光源24の電源を順次入れることができ、画像化センサアレイ16は時間の関数として試料12のホログラムを捕捉する。これらの複数の照明光源24の異なる組み合わせの電源を入れて、同じ画像領域の複数のホログラムを作りだすことができる。
【0034】
使用時、試料12は画像化センサアレイ16の上側に配置される。試料12は、全血、尿、汗、唾液等といった試料を保持する顕微鏡用スライドまたはマイク流体デバイスなどの試料ホルダ14上またはその内部に装填できる。次いで、試料ホルダ14は、直接的に、あるいは別の試料ローダ38を利用してモバイル通信デバイス30内に挿入される。代替的に、試料12は(例えば、スポイトまたはピペットなどを用いて)画像化センサアレイ16の上に直接投入されてもよい。
【0035】
照明光源24の電源が入り、試料12の1以上の画像フレームが画像化センサアレイ16を用いて捕捉される。本発明の一態様では、モバイル通信デバイス30のプロセッサは、画像の処理および分析に用いられる画像化ソフトウェアを起動させることもできる。代替的に、USBまたは他の既知の接続(例えば、Bluetooth)を用いて、別個のコンピュータ等(例えば、コンピュータ26)を介して画像化ソフトウェアを起動させることもできる。これについて、画像処理は、モバイル通信デバイス30上、あるいはモバイル通信デバイス30から離れた別個のコンピュータ(例えば、図2のローカルコンピュータ26または遠隔コンピュータ34)の何れかで実行することができる。例えば、未加工の画像データは、通信ネットワーク32を介して、画像を処理できる他の遠隔コンピュータ34に無線通信されてもよい。結果は、同じ無線通信ネットワーク32を介してモバイル通信デバイス30に中継することができる。代替的に、無線通信デバイス30は独立型であって、画像を処理し、結果を直接ユーザに報告することができてもよい。
【0036】
内蔵されたレンズフリーのホログラム画像化システム10を有する無線通信デバイス30は、依然として軽量で携帯性がある。付加的な画像化要素がモバイル通信デバイス30に加えられると、一般的には少量の追加重量のみ、場合によっては40グラム未満の重さが加わる。一般にこのようなデバイスは、大きい画像の視野(FOV)を提供する。通常得られるFOVは24mm以上であり、これは光学顕微鏡よりも10倍以上大きい。このシステム10は費用効果が高く、小型で、調整不良に許容性がある構成要素を使用するため、当該システムは、特に資源の乏しい環境における顕微鏡使用、血球計算および医療診断の要求に対して変革的な解決策を提供する。
【0037】
システム10では、照明光源24は、空間フィルタ18の開口20を通って光を通過させる。この空間的に選別されたLED光は、通常は数センチメートルの距離を空気中移動した後、試料12と相互作用し、試料12内の各セル/粒子は、そのサイズ、3D形態、細胞下成分、および屈折率に基づいて入射したLED光を拡散および屈折させる。セルを通過する光波と拡散しないLED光との干渉が各セルのホログラムを作りだし、これが画像化センサアレイ16を用いて検出される。各セルのレンズフリーのホログラムは非常に鮮やかであり、デジタル処理を通して顕微鏡画像を素早く再構成することが可能である。
【0038】
一態様では、使用される画像化センサアレイ16は、モバイル通信デバイス30に導入される、あるいは製造されるカラーベースの画像センサである。カラーベースの画像化センサアレイ16は、単色のものとは異なり、赤緑青(RBG)ピクセルの周期的なアレイからなるベイヤー配列(Bayer pattern)として知られているものを与える色フィルタを各ピクセルに有する。通常のレンズフリーのホログラフィック顕微鏡では、全てのピクセルが準単色照明(例えば、−587nm)の下で十分な光を受けるわけではないため、色センサが最善の選択肢となることはほとんどない。画像のベイヤー配列によりホログラムが歪む問題に対処するため、デジタル画像の再構成プロセスは、セルまたは粒子の画像をホログラフィック再構成する前に、未加工のフォーマット(ベイヤー配列画像)を単色の同等画像に変換する追加のステップを伴う。
【0039】
デジタルカラー画像はピクセルのアレイとして表されており、各ピクセルは原色を混合することにより表される。家庭用カメラの殆どに使用されている標準的な原色は、赤、緑、および青(RGB)である。理想的な場合では、これらの色は、光線を3つの異なるセンサへと分割することにより別個に記録され、それぞれが1つの色を記録しうる。しかしながら、コストの理由から、モバイル通信デバイス30のカメラは通常、様々な配列にデザインされたカラーフィルタアレイ(CFA)によって覆われた単一の画像センサチップを使用する。画像を取得する産業において最も広く使用されているCFA配列はベイヤー配列と称されており、このベイヤー配列は、1の青、1の赤および2の緑のフィルタからなる繰り返しの2×2配列を使用している。従って、ベイヤー配列画像と一般的に称される、ベイヤー配列CFAを用いる画像化センサアレイ16の未加工出力は、3つの主なチャネルのうち1つに関する情報を伝達する複数のピクセルから作られる。自然色の画像を得るためにこれらの3つのチャネルを差し込むプロセスは、デモゼイシング(demosaicing)と呼ばれる。
【0040】
異なる用途の必要性にそれぞれ応えた、デモゼイシングする他の方法についての多くの文献がある。しかしながら、ホログラフィック携帯顕微鏡法について、このような標準的なデモゼイシングアルゴリズムは一般に、ホログラフィック再構成プロセスに必要とされる高周波数の振幅を取り除いてしまう。従って、最も純粋なフォーマットにおいて記録された情報を利用することは、従来のデモゼイシングアルゴリズムによって導入されうる望ましくない影響を防ぐという顕著な利点を有する。微小物体のホログラフィック回折シグネチャを保護するため、デモゼイシングアルゴリズムは、得られるホログラフィック配列の歪みを最小限にしながらグレースケール画像を取得するよう開発されてきた。ピクセル間ならびにチャネル間の相関性を維持しながら、各ピクセルで遺失したチャネルを補間することによってRGB画像を出力することを目的とする従来のデモゼイシングアルゴリズムとは異なり、このデモゼイシングアルゴリズムの主な目的は、空間的な相関性を最大にすることであった。従って、モバイル通信デバイス30の未加工の出力は、改善された配列影響を有する単色画像として処理される。
【0041】
色センサによってサンプリングされるレンズフリーのホログラフィック配列について、照明波長は、最適な空間サンプリング性能を確保するために非常に重要である。上述のように、ベイヤー配列CFAを用いる色センサにおけるピクセルの50%は緑に、25%は青に、25%は赤に反応する。できる限り多くの不飽和ピクセルが騒音レベルを越えることが望ましいため、照明光源24(例えば、LED)の波長は、赤と緑のピクセル双方が高い検出効率を有する帯域内となるように選択される。従って、赤と緑のチャネルに適した性能を有する587nm未満のLEDが用いられた。
【0042】
しかしながら、準単色照明の下では、色センサで得られる未加工のホログラフィック画像は主に2つの影響を受ける。第1に、赤と緑のチャネルが高い信号雑音比を有する情報を伝達するにもかかわらず、均等に照明されていないため、これらの2つのチャネルに属する数値の間で等化を行う必要がある。第2に、青のピクセルが十分に反応しない波長を選択した結果として、第3のチャネル(青)がノイズによって大きく損なわれてしまう。従って、隣接する緑と赤のピクセルを用いて全ての青のピクセルを予測することが必要である。
【0043】
緑と赤のチャネルの強度レベル間の検出不均衡は、物体のレンズフリーのホログラムを捕捉するために使用された理想的な照明状態で取得された背景画像を用いて相殺する。この背景画像は、ホログラフィック画像上の各ピクセルについて倍率を決定する規格化係数マトリクスを提供する。この方法は、緑と赤のチャネルを等化させるだけではなく、センサ平面における不均一な照明によって起こる潜在的な影響も相殺する。
【0044】
このチャネルを等化させるステップが一旦なされると、残った問題は遺失した青のチャネルを予測することである。青のピクセルを補間する手法は、エッジを考慮した補間を利用してなされる推定ステップを含み、このステップの後、レンズフリーのホログラフィック画像の再構成に適している位相回復法(以下に説明する)を反復的に用いることによって初期推定を改善させる純化ステップが続く。
【0045】
3×3ピクセルの大きいブロックを考える場合、この遺失したチャネルを予測する課題は、8つの既知のピクセル(赤と緑)によって囲まれた遺失ピクセル(青)を推定することであるとも解釈できる。この未知のピクセルを推定する最も単純な方法は、8つの隣接するピクセル全てを単純に平均することである。しかしながら、このような手法は、レンズフリーホログラムにおける高い周波数変化を監視するものである。その代わりに、エッジを考慮した補間アルゴリズムが使用され、4方向それぞれの空間導関数の大きさに基づいて、遺失ピクセルの推定を調整する。アルゴリズムの更に詳細は、Lab Chip、2010年7月21日、10(14):1787−92、Tseng等による、発行名称「Lensfree Microscopy on Cellphone」に見ることができ、これは本書において完全に説明されたものとして参照により組み込まれる。
【0046】
図4は、当該システム10のベイヤー配列出力から単色のホログラフィック画像を作り出すよう開発されたデベイヤーアルゴリズムの概略図を示している。取得された未加工のホログラフィック画像の赤と緑のチャネルは、物体にとって理想的な照明状態で記録された背景画像を用いて等化される。青のピクセルは、エッジを考慮した補間法を利用して(高SNR情報を含む)赤と緑の隣接部から推定され、自動的に生成される物体のサポートマスクの補助を用いて反復的な再生プロセスを介して更に純化される。最終的に、再生されたホログラムはアップサンプリングされ、ホログラフィック再構成アルゴリズムに供給されて、物体の対応する顕微鏡画像を作り出す。
【0047】
図5は、本発明の他の実施形態によるシステム50を図示している。この代替的なシステム50では、オンチップ画像化プラットフォームが、広い視野にわたるレンズフリー蛍光検出と共に、レンズフリーのホログラフィック画像化(例えば、図1)を含んでいる、あるいは併合している。このシステムは、上述したようなデジタルホログラフィのための非干渉性の照明源を提供する照明光源24を具えている。さらに開口20を有する空間フィルタ18を具備している。このシステム50はさらに、その中に試料12を収容する試料ホルダ14を有する。試料12は、図5に示すようなセル52などの微小物体を含む。試料ホルダ12は、セル52を保持または移動させる溝などを有するマイクロ流体ベースのデバイスを有しうる。
【0048】
さらに図5を参照すると、システム50は、蛍光励起のために1以上の波長で照射を発するよう構成された蛍光励起源52を具えている。この蛍光励起源52は、単色光分光器によって調整されるLEDまたはキセノンランプを有しうる。蛍光励起源52は、試料ホルダ14に対して斜めに向けられることが好ましい。蛍光励起源52からの蛍光照射は、プリズム56(例えば、ひし形プリズム)を通って試料体に送達される。試料ホルダ14の下側には、全反射(TIR)面60を通して励起照射を反射するために用いられるガラス層58が配置される。ガラス層58は、約100μm程度の厚さを有しうる。画像化センサアレイ16はガラス層58の後側に配置され、ホログラフィック画像ならびに蛍光画像を捕捉するために使用される。TIRのガラス層58と画像化センサアレイ16の間には吸着フィルタ62が置かれる。この吸着フィルタ62は一般に、通常100μm未満の厚みを有する薄さである。
【0049】
図5に見られるように、プリズム56の高さは17mmであった。画像化センサアレイ16の寸法(w×w)は25×35mmである。溶液容器の深さkは10−100μmであった。垂直方向の光源の距離hは約5−10cmであった。蛍光励起源の距離fは約1−2cmであった。具体的な上記の寸法を超える他の寸法も本発明の範囲内に収まることを意図していると理解されたい。図5には図示されていないが任意で、屈折率整合剤を用いて、TIRおよびプリズム56の底面における不要な拡散を避けることもできる。図5に示す薄い吸収フィルタ62は、この場合は保護層として機能し、試料ホルダ14の微小溝から画像化センサアレイ16の動作領域を隔離している。例示的な吸収フィルタ62は、Roscolux(例えば、0.075mmの厚さ、600nm未満に対して30dB)(コネティカット州、スタンフォード、Rosco Laboratories社)から入手できる。
【0050】
粒子/セルを励起した後、蛍光照射の「励起ビーム」はTIR面60における全反射(TIR)により除去される。同じ上部または平らなプリズム56の干渉は、同じ視野について同時に非干渉性のレンズフリーホログラフィを同時に実行できるようにする。レンズフリー画像における各蛍光スポットの質量中心は、2D空間において蛍光粒子の再構成されたホログラフィック画像と重なり、蛍光粒子を同一視野内の互いの蛍光粒子、および非蛍光粒子から分離することができる。このような二重画像化機能は、特にレンズフリーのオンチップ画像化における特異性および機能性を高めるためには非常に有用である。このような結果は、試料とセンサ間の距離が広い(例えば、1mm以上)場合、レンズを使用せずに各蛍光スポットをオンチップで検出することがかなり難しいため、他のレンズがないホログラフィック法では不可能である。
【0051】
図5に示すレンズフリーの二重画像化構造は、幾つかの利点を有している。第1に、励起ビームを遮るためにTIRを使用することは、高励起パワーの拒絶において非常に効率的であり、励起および放出波長から独立して作用する。さらに、広い領域の画像化センサアレイ16(例えば、3.5cm×3.5cm)が蛍光微小物体の非常に近くに配置されるため、システム50の検出開口数(NA)は1.0に近づき、光子検出に対して高効率となる。換言すると、1乃至1.3(チャネル内の媒体の屈折率)の開口数を構成する斜めの蛍光線のみが検出アレイに到達することなく失われる。一方、レンズベースの顕微鏡とは異なり、レンズなしで動作するため、大きい検出開口数はシステム50における空間分解能に直接寄与しない。
【0052】
このTIR表面60はさらに、レンズフリーの動作に対して不便で費用がかかるものにする、波長および照明方向に依存した薄膜ベースの蛍光フィルタの使用を避けるため、非常に有用である。また、安価なプラスチックベースの吸収フィルタ62を用いて、TIRに反応しない微かに拡散した励起光を取り除くこともできる。このフィルタ性能についての要求事項は、励起ビームを拒絶するTIR効率によって著しく減少する。すなわち、30dB未満の除去比を有する安価な吸収フィルタ62がレンズフリーの蛍光オンチップ画像化では十分となる。
【0053】
図6(a)−6(k)は、不均一溶液に対して連続的に取得された、同一視野のレンズフリーのホログラフィックおよび蛍光画像を示している。励起およびホログラフィック画像化ビーム(例えば、照明光源24および蛍光励起源54)のタイミングを制御することにより、レンズ、レーザ、薄膜フィルタまたは他の機械的要素を使用することなく、同一視野の蛍光およびホログラフィック画像の双方を記録することができる。図6(a)は、10μmの蛍光(励起/放出中心λ:580nm/605nm)、10μmの非蛍光、20μmの非蛍光の微小ビーズからなる不均一溶液のレンズフリーの蛍光画像を図示している。予想通り、蛍光粒子のみがこの画像に表れている。この画像の積分時間は1秒である。
【0054】
図6(b)は同一視野のレンズフリーのホログラフィック画像を示しており、この時間、溶液内のすべての粒子がセンサ上に影を投じる。図6(e)、(h)、および(k)は、図(b)に示す未加工のホログラム画像から取り出された対象の拡大領域である。図(d)、(g)、および(j)は、同じく拡大された領域の再構成画像である。予想通り、全ての粒子がこの再構成されたホログラフィック画像に表れている。図6(c)、(f)、および(i)は、比較用の同一視野における透過顕微鏡画像である。同一視野のレンズフリーの蛍光画像に基づいて、再構成されたホログラフィック画像内において非蛍光粒子から蛍光粒子を識別することができる。ホログラフィック再構成の結果は、吸収フィルタ62の粗目構造による影響を受けず、むしろ低コストで費用効果が高い要素を使用することが可能となることに留意されたい。
【0055】
図6(a)−6(k)は蛍光ビーズの画像を示しているが、同じシステム50を用いて、セルなどの生物学的物体または全ての生物さえも画像化することができる。このシステム50は、例えば、10μm未満の空間分解能で、例えば、2−8cm以上の超広域視野(FOV)にわたって遺伝子導入したカエノラブディティスエレガンス(C.elegans)をレンズフリーのオンチップ蛍光画像化するために使用された。図5に示すようなシステム50が、シーエレガンス(C.elegans)の画像化に使用された。光子がこの虫の全体を相互作用した後、その光子はTIR表面60に生じるTIRによって拒絶される。十分な暗視野背景を作るため、TIRに反応しない微かに拡散した光子も更なる吸収フィルタ62によって除去され、その結果として、物体からの蛍光発光のみが画像化センサアレイ16によって検出される。
【0056】
従来のレンズベースの蛍光顕微鏡とは異なり、レンズフリーの画像化構造における光子の拒絶は、広い角度範囲の光子を遮断するためにより厚い干渉フィルムを付着させることを必要とするため、本発明プラットフォームにおいて薄膜干渉フィルタ62を使用することは重要であることに留意されたい。これは費用を増加させるだけではなく、厚いフィルムにおける高い応力により非常に厚い基板を使用することが必要となり、この厚いフィルムは、蛍光点拡がり関数(PSF)のSNRを著しく弱め、さらに達成可能な分解能を低下させる。従って、超薄型のガラス基板(30μm未満)上に被覆された染料を有する吸収ベースのフィルタが製造された。
【0057】
薄い吸収フィルタ62の製造法は、オラゾール染料(Orasol dyes)を少量のシクロペンタノンに溶解させて、次いでKMPR1005のフォトレジスト(0.4g/ml未満の染料濃度)を加えるステップを含み、その後に余分な染料材は0.45μm直径の機械的フィルタを用いて除去された。このステップの後には、2000rpmで20秒間スピンコーティングするステップ、100℃で300秒間加熱乾燥するステップ、13mW/cmで35秒間フラッド露光するステップ、および最後に100℃で更に120秒間加熱乾燥するステップが続く。この製法に基づいて、Yellow2RLN、Orange G、およびRed BLをそれぞれ含む様々な種類のオラゾール染料を用いることにより、510nm、540nmおよび600nmの遮断波長を有する様々なロングパス吸収フィルタを製造した。このように製造された吸収フィルタの除去比は著しく大きく(30−40dB)、(TIRと共に)必要な暗視野背景を作りだし、レンズフリーの蛍光オンチップ画像法の適用に有用なものとしている。
【0058】
一旦吸収フィルタが製造されると、これらの吸収フィルタ(合計厚さが40μm未満;10μmのフィルタ+30μmのガラス基板)が画像化センサアレイ16の動作領域の上に直接配置され、剥き出しのセンサ表面に対する保護層としても機能する。更なる使い捨ての超薄型ガラス基板(30μm未満の厚さ)も試料と吸収フィルタ62の間に使用された。
【0059】
励起に関しては、非干渉性の光源54が使用され、これは単色光分光器(MS260i、Newport)を介して580nm未満(15nmの帯域)にスペクトルが調整されたキセノンランプに連結された。試験中、合計の励起パワーは、2cm以上のFOVに対して1.0−1.5mWに維持された。
【0060】
レンズフリーの蛍光画像法に加えて、図5に示すものと同じオンチッププラットフォームはさらに、蛍光励起に使用されたものと同じプリズム56の上小面を介して同一試料のレンズフリーのホログラフィック画像化を可能にする。この垂直の照明は、開口20(0.05−0.1mm)で空間的に選別された非干渉性光源24(すなわち、632nmのピーク、および20nm未満の帯域を有するLED)によって実現し、同じオンチッププラットフォーム内でのホログラフィック透過画像化を実現する。
【0061】
調査に使用される遺伝子導入したシーエレガンスは、筋肉セルと関連がある運動ニューロン間の接続をより理解するために広く研究されている。このため、UNC122遺伝子が、表現型マーカ(mCherry;発光波長:610nm)と共に虫に注入される。オンチップ画像化に向けてこれらの遺伝子導入したシーエレガンスの試料を準備するため、線虫育成用媒体(NGM)の小さい塊が殺菌処理された器具で培養プレートから取り出された。この試験片は、10mMのレバミゾールで調製された麻痺媒体(200μL未満)に溶解されていた。ゲル媒体から虫を取り外すため、アリコートが徐々にボルテックスされ、遠心分離機にかけられた。ピペットを使用して、次いで遺伝子導入した虫がレンズフリーのオンチップ画像化のために試料ホルダ14に移される。
【0062】
画像がぼやけるのを避けるために固定化試薬、すなわちレバミゾール(Levamisole)が使用されており、これは従来の蛍光顕微鏡を用いて同一試料の比較画像を捕捉することも可能にした。成虫への物理的ダメージを避けるため、非蛍光粒子(50−100μmの直径)などの機械的なスペーサも画像化実験に使用されたことに留意されたい。
【0063】
これらの画像化実験の結果は図7および8に集約されており、比較するために同一試料の従来の蛍光顕微鏡画像も提供している。虫の未加工のレンズフリーの蛍光シグネチャは、広いPSFによって非常にぼやけている。しかしながら、各プラットフォームの実測されたPSFを用いて、これらのレンズフリーのシグネチャは圧縮復号されてシーエレガンスの体内に位置する蛍光領域の高分解能画像をデジタル処理で生じさせることができ、これは通常のレンズベースの蛍光顕微鏡を用いて入手した画像と非常に一致する。
【0064】
図7は、遺伝子導入したシーエレガンスのレンズフリーのオンチップ蛍光画像を図示しており、KAF−8300画像化センサアレイ16(KODAK KAF−8300、5.4μmのピクセルサイズ、2.4cm未満のアクティブ画像化領域)を用いて3つそれぞれの物を示している。画像(a4)、(b4)および(c4)は、検出面における全てがぼやけたレンズフリーの未加工の蛍光画像を示している。以下により詳しく記載する、このようにぼやけた配列の圧縮復号は、(a5)、(b5)および(c5)にそれぞれ示すように、これらのシーエレガンス試料の高分解能の蛍光画像のデジタル再構成を可能にする。さらに、(a2)、(b2)および(c2)に示す、同じ虫の10倍の対物レンズの蛍光顕微鏡画像は、復号されたレンズフリーの蛍光画像と一致している。蛍光画像化に加えて、同じレンズフリーのプラットフォームは同一試料のホログラフィック透過画像化も可能にし、これにより、復号したレンズフリーの蛍光画像と再構成されたホログラフィック画像を重ね合わせることにより、(a6)、(b6)および(c6)に示すような複合画像を作ることができる。
【0065】
同一試料による顕微鏡の比較は、(a3)、(b3)および(c3)にそれぞれ与えられている。別の実験で取得されたため、虫の僅かな回転がレンズフリーの復号画像と顕微鏡の比較画像の間に見られる。
【0066】
図8は遺伝子導入したシーエレガンスのレンズフリーのオンチップ蛍光画像を図示しており、KAF−11002画像化センサアレイ16(KODAK KAF−11002、9μmピクセルサイズ、11MPixel)を用いて示している。図7と同様に、遺伝子導入したシーエレガンス試料の復号したレンズフリーの蛍光画像は、(10倍の対物レンズ、NA=0.25で取得された)同じ虫の従来の蛍光顕微鏡画像との正確な適合性を提供している。2つは別の実験で取得されたため、虫の僅かな回転が、レンズフリーの復号画像と顕微鏡の比較画像の間に見られる。
【0067】
圧縮復号は、レンズフリーの画像プラットフォームの実測されたPSFに基づいて、物体平面における蛍光分布を正確も再構成することができ、2−8cm以上のFOVにわたって、例えば10μmまでの空間分解能を実現する。この数値的な方法は、サンプリング下にある表示からスパース信号を再構成する新たな方法を示す圧縮サンプリング理論に依存している。FOVの殆どが既に暗い(すなわち、非蛍光)ため、定義上でのオンチップのシーエレガンス試料の広視野蛍光画像が散在しているという画像化の問題を伴う。この圧縮サンプリング理論との関係に基づいて、未加工のレンズフリーの蛍光画像を(実測された蛍光PSFを利用して)即座に復号し、プラットフォームの分解能を著しく高めることができる。
【0068】
この圧縮復号プロセスは、l正規化された最小2乗問題として、次のように形式化される。

【0069】
ここで、Fdetはセンサアレイにおいて検出された未加工の蛍光画像であり;Pconνはシステムの蛍光PSFに基づく2Dのコンボリューションマトリクスを表し;

は、画像化センサアレイ16の平面にレンズフリーの画像を作りだす蛍光源分布であり;αは、非負正規化パラメータであり;

は、ベクトル

のlノームを表している。この作業に用いられる最適化アルゴリズムは 切除型のニュートンの内点法に基づいており、式(1)に基づくスパース蛍光解

に即座に収束する。
【0070】
これらの試験結果は圧縮復号法の効率を上手く実証し、CCDチップ(例えば、2−8cm以上)の動作領域全体に及ぶ超広域のFOVにわたって、レンズフリーの蛍光オンチップ画像法を用いて遺伝子導入したシーエレガンス試料を画像化している。上述したように、蛍光画像化に加えて、このシステム50はさらに、蛍光励起に用いられるプリズム56の上界面を用いて、虫のホログラフィック透過画像化を可能にする。このレンズフリーのホログラフィック画像化法では、発光ダイオード(LED)などの空間的に非干渉性の準単色光源24が、大きい開口20(例えば、0.05−0.1mmの直径)によって空間的に選別された後に対象の試料を照明する。この非干渉性の光源は、画像化センサアレイ16における虫のレンズフリーのインラインホログラムを記録するには十分な大きさの部分的な空間干渉性をピックアップする。このように取得されたインラインホログラムは次いで、反復再生アルゴリズムを用いて即座に処理することができ、画像化センサアレイ16の動作領域全体にわたってシーエレガンス試料のレンズフリー透過画像を作りだし、蛍光チャネルの画像FOVと適合させる。図7および8は、試料のこのように再構成されたレンズフリーのホログラフィック画像を図示しており、同じ虫のレンズフリーの蛍光画像がさらにデジタル処理して重ね合わされ、シーエレガンスの複合画像(すなわち、蛍光および透過の双方)を作り出している。これらのレンズフリーの画像から、このプラットフォームの空間分解能が通常のレンズベースの顕微鏡と比較して小さいことは明らかである。一方、本発明のプラットフォームの主な利点は、その超広域FOVと、自動微小流体システム内におけるシーエレガンス試料の超高処理スクリーニングとの重要な適合性を提供する小型のデザインである。
【0071】
図9は、シーエレガンス試料の蛍光画像化を実行できる代替的なレンズフリー画像化システム70を図示している。この変更された構成では、光ファイバのフェースプレート72が試料ホルダ14の下側に挿入され、画像化プラットフォームの蛍光PSFを制御かつ調整している。このような代替的な蛍光PSFを用いた遺伝子導入したシーエレガンス試料の圧縮復号は、図7および8と同様の画像結果を生じさせる。この変更されたシステム70は画像化プラットフォームの蛍光PSFを上手く調整し、特に物体とセンサ面との間の広い隙間における検出SNRを高める。試料12と画像化センサアレイ16の間に物理的な距離間隔が必要とされる場合にこれは重要な利点となりうる。
【0072】
光ファイバのフェースプレート72の使用を利用して、優れた検出SNRを提供し、高い空間分解能を実現できる。光ファイバのフェースプレート72は、放出された蛍光を画像化センサアレイ16に送達する。光ファイバのフェースプレートは通常、約1cmの厚さを有する繊維のアレイから構成されており、各繊維は約0.3の開口数を有している。図10Aは、レンズフリーのオンチップ蛍光画像化システム70の概略図を示している。この画像化システム70は、画像化する視野がセンサアレイの動作領域全体(すなわち、8cm以上)と等しくなるように等倍率を有する。TIR状態は、カバーガラス(TIR面60)の底面におけるガラスと空気の境界面に発生する。拡散した光子の検出を避けるため、フェースプレートの後ろにプラスチックの吸収フィルタが使用される。一般的な寸法は:w×w=25mm×35mm;p=1.7cm;k=10−100μm;f=1−2cmである。図10Bは、光ファイバのフェースプレート72の顕微鏡画像を示している。
【0073】
圧縮サンプリングベースのアルゴリズムを用いて蛍光源のスパース分布を即座に再構成し、センサアレイの動作領域全体、すなわち8cm以上の画像化FOVにわたって約10μmの空間分解能を実現することができる。このようなシステム10は特に、高処理量の画像化血球計算、希少セルの分析、さらには微小アレイの調査にとって重要となりうる。圧縮サンプリングベースのアルゴリズムに関する更なる詳細は、Optics Express、Vol.18、Issue10、pp.10510−10523(2010)、Coskun等による「Lensless wide−field fluorescent imaging on a chip using compressive decoding of sparse objects(スパース物体の圧縮復号を利用した、レンズレスのオンチップ広域蛍光画像化)」から入手することができ、これは本書に完全に説明されているものとして参照により組み込まれる。
【0074】
初期のレンズフリーの蛍光画像化の効果と比較すると、光ファイバのフェースプレート72は、FOVを犠牲にすることなく空間分解能を5倍まで向上させる結果をもたらし、これは光ファイバのフェースプレートおよび圧縮サンプリングベースの数値処理を使用した結果であると考えられる。さらに、この代替的なシステム70では、全て平行に垂直方向に積み重なった微小チャネルからなるレンズフリーの蛍光画像化が用いられており、さらに処理量を増加させる。この特定のシステム70は、対象の目標セルが全血液内を循環する癌セルのように珍しいものである用途に適している。
【0075】
本書に説明するように、システム10、50、70は、画像化センサアレイ16を利用して対象の物体の未加工のホログラム振幅画像を取得する。次いで、遺失したホログラム位相が回復される。回復した位相情報は、実測の振幅情報と共に、対象の物体の画像をデジタル処理で再構成するために用いられる。図11は、システム10、50、および70がどのように対象の物体の画像をデジタル処理で再構成するかのトップレベルフローチャートを示している。図11の操作500に見られるように、試料12が、システム10、50、70内に装填される。未加工のホログラフィック画像は次いで、操作510で取得される。「遺失した」位相情報は、次いで操作520で再生される。再生した位相情報および未加工のホログラフィック画像に基づいて、試料の1以上の画像が操作530に略述されているようにデジタル処理で再構成される。
【0076】
ホログラムから物体の画像をデジタル処理して再構成するため、(1)各物体ホログラムの強度のフーリエ成分を逆伝搬させる;(2)各ホログラムの振幅の2D位相を再生させる2つの手法がある。これらの2つの手法は別々に、未加工のホログラムから微小物体の二重像の自由な再構成を可能にする。これらのデジタル再構成法は、実際には、広く包括した干渉型および非干渉型の位相回復技術の一部と見なすことができる。これらの手法は両方とも、範囲を逆伝搬するためにRayleigh−Sommerfeld積分の変換関数が近似化することなく使用されている。
【0077】
上記の第1の手法は検出されたホログラムの強度と共に作用し、既知の二重像の問題に影響されやすい。この第1の手法の二重像の影響を取り除くため、二重像から再構成された画像を反復的に浄化できる数値アルゴリズムが実行された。第2の再構成法では、レンズフリーのホログラムの(強度ではなく)振幅を用いて、検出プロセスの際に失われた複雑な回折場の2Dの位相情報を再生する。この位相回復ステップは更に、各種のセルに対して他の特有の2Dテクスチャをさらに作るときに有用であり、これにより、これらの再生された2Dの位相ホログラムは、不均一溶液の特性にも利用できる。一旦複雑な回折場の全体が再生されると、複雑な回折場の逆伝搬を介して二重像の影響なく微小画像を算出することができる。
【0078】
非干渉性のセルホログラフィについて、これらの手法の双方とも非常に類似した再生結果を生じさせる。しかしながら、大きい微生物については、上述の2Dの位相回復法は特定の利点を有する。大きい生物については、光が拡散した領域は常に背景光と効率的に相互作用するとは限らず、これにより、ホログラフィック回折項は相対的な強度を失い始める。しかしながら、位相回復法は複雑な回折場の振幅として検出された量を取り扱い、デジタル再構成するために位相を反復的に再生しようとする。従って、位相回復ベースの再構成法は特に、相互干渉項がホログラフィック回折を支配し始める広く拡散するセルまたは大きい生物のレンズフリー画像化に有用である。第2の手法はホログラフィック回折項に対処するだけではなく、自己回折項にも対処するため、見返りとして、第1の手法と比較したときに、位相回復法について検出器の末端に必要とされる空間−帯域の積が2倍増加する。
【0079】
微視的再構成は連続的で早いフーリエ変換(FFT)動作を利用することができ、各反復の最初のFFTの後、近似化しないRayleigh−Sommerfeld積分の変換関数がセルホログラムのフーリエ成分に適用される。FFTが使用されるため、与えられる再生はデジタル算出時間に換算すると非常に早く、1.6GHzのペンティアムプロセッサなどを用いると数秒未満の収束時間となる。
【0080】
提案された非干渉性のセルホログラフィシステム10、50、70の著しく実用的な利点にもかかわらず、非干渉性の照明は、数値的な再構成プロセスにおける負担を増加させない。M>>1を有する非干渉性のレンズフリーセルホログラフィについて、それぞれの各セルは干渉性の光で照明されるよう処理することができる。さらに、その微小な断面により、各微小物体(例えば、セル)の入射波は平面波であると仮定できる。その結果として、それぞれ記録されたセルホログラムの再構成は、平面波の照明であると仮定して行うことができる。
【0081】
波面を回折させるため、角スペクトル法を用いてRayleigh−Sommerfeld積を数値的に解決する。この計算は、以下に示すように、領域のフーリエ変換を直線的な等方性媒質を通る伝搬の変換関数に掛けるステップを伴う。

【0082】
ここで、fおよびfは空間周波数であり、nは媒体の回折率である。
【0083】
上述したように、二重像の影響なくセルの顕微鏡画像を再構成するために、2つの異なる反復法が取られる。両方の方法が単一の記録されたホログラムを用いて作業し、各セルが有限のサポートを有するという制約に依存している。両方の方法では、未加工のホログラムは通常、反復的な再構成手順の前に3次スプライン補間を用いて、4乃至6の因子によってアップサンプリングされる。アップサンプリングは直ぐにホログラムの情報内容を増加はさせないが、再構成画像においてより正確な位相回復および高い分解能を実現すべく、著しい向上を提供する。第1に、ホログラムの初期の逆投影において物体のエッジを滑らかにすることにより、より正確なオブジェクティブサポートを規定することが可能となる。サイズや形状の点で実際のセルに近いオブジェクティブサポートを使用すると、反復アルゴリズムのエラーが減少し、早い収束を可能にする。第2に、アップサンプリングは、最初にゼロエネルギを伝える高い空間周波数をホログラムに導入する。以下に記載する反復的な再構成ステップを通して、これらの高い空間周波数は徐々に非ゼロエネルギに達し、最終的な再構成でサブピクセルの分解能を可能にする。
【0084】
方法1:第1の方法は広い種類での干渉性位相再生法に該当し、記録された強度がホログラフィック回折項によって支配されている場合に適用できる。第1のステップはホログラムをデジタル再構成することであり、これは初期波面Urecを発生させるホログラム面からzの距離でホログラム強度を伝搬させることによって実現する。この計算の結果、物体の仮想画像が、空間的に重なって焦点がぼけた二重像と共に再生される。記録された強度は、−zの距離で伝搬されてもよいことに留意することは重要である。この場合、物体の実際の画像が再生されるが、焦点がぼけた仮想画像が二重像の形成を招く。
【0085】
ここで示す非干渉性ホログラフィック顕微鏡法ではセルとセンサ間の距離が短いため、二重像は、特に白血球セルなどの比較的大きい物体については高強度となりうる。このような場合では、微小物体内部の微細な細部は表示されないことがある。同様に、互いに近接している異なるセルの二重像は表示されず、背景ノイズの増加を招いてしまう。この問題は特に、密集したセル溶液の顕微鏡使用に対して顕著であり、多くのセルが重なった二重像はSNRの低下により計数精度も低下させる。
【0086】
二重像の影響を取り除くため、有限的なサポート制約条件を用いた反復法が利用される。基本的には、この手法は、物体の位相および振幅の複製情報が、物体の仮想および実際の画像がそれぞれ再生される、ホログラム面から+zおよび−zの距離にある2つの異なる再構成面に存在するということに依存している。従って、画像面の一方において二重像がない再構成を得ることができ、一方で他の平面において複製画像を除去する。大部分を損失することなく、−zの仮想画像面に二重像がない再構成を得るために、実際の画像が除去される。微小物体のサイズは有限のため、物体の実際の画像のみがサポート内側の領域を占有し、焦点がぼやけた二重像画像が物体周囲の広い領域に広まり、サポート内側の実際の画像と重なる。従って、サポート内側の情報のみを削除することにより、確実に実際の画像が再構成された波面から完全に除去される。それでもやはり、サポート内側の仮想の画像情報も失われるため、反復法は、仮想の画像面と実際の画像面の間を往復することによって仮想画像の遺失した情報を再生しようと試みて、それぞれの反復過程で失った情報の多くを再生する。このアルゴリズムの成功は、以下の式で与えられる記録する形状のフレネル数に大きく依存している。

【0087】
この手法は、10程度のフレネル数に対する成功を証明したと報告されている。約7μmの直径のRBCについて、ここに示す典型的な記録形状は0.2未満のフレネル数を伴い、従って、二重像除去法は非常に満足しうる結果を生じさせている。
【0088】
二重像除去ステップを以下に詳述する。
【0089】
a)最初に、+zの距離に逆投影されたホログラムである実際の画像が、オブジェクトサポートを特定するために使用される。オブジェクトサポートは、再構成された画像強度を閾値化する、あるいはその極小値を調査することによって規定することができる。
【0090】
b)サポート内側の領域が削除され、サポート内側の仮想画像の削除された部分に対する初期推定として一定値がこの領域に割り当てられ、以下のように示される。

【0091】
ここで、

は、ith回反復した後の実際の画像面における領域を指す。Sはオブジェクトサポートによって規定された領域を表し、

はサポート内のUrec平均値である。
【0092】
c)次いで、実際の画像面における領域は、−2zだけ仮想の画像面に逆伝搬される。理想的には、この面における再構成は二重像の歪みをなくすべきである。従って、サポートの外側の領域をd.c.背景値に設定して、仮想の画像面に残っている焦点がはずれた実際の画像を除去することができる。しかしながら、この制約は、画像をサポート外側のd.c.レベルにはっきりと設定するよりも、以下の緩和パラメータβで特定されるように滑らかに適用される。

【0093】
ここで、Dは再構成された領域の背景であり、これは物体がない状態において実測した背景画像から入手する、あるいは仮想の画像面におけるオブジェクティブサポートの外側にある領域の平均値として簡単に選択することができる。βは1以上の真の数値パラメータであり、約2−3程度に通常は選択される。βが増加すると早い収束をもたらすが、背景ノイズへの反復的な推定精度に対する耐性を損なってしまう。
【0094】
d)仮想の画像面における領域は実際の画像面へと前方に伝搬し、サポートの内側の領域は、仮想画像の遺失部分の適切な推定を有する。サポートの外側の領域は

に差し替えることができ、実際の画像面における本来の再構成された領域は、以下のように示される。

【0095】
ステップcからdは、最終的な画像の収束まで反復的に繰り返すことができる。この記事の多くの場合では、10−15回反復した後に収束が実現し、適度なハードウェア構成を有するコンピュータでは1分未満の時間しか掛からない。
【0096】
方法2:二重像を除去するために用いられる第2の方法は非干渉性の位相再生技術の下で分類され、記録された画像は、必ずしもホログラムとして処理されず、回折領域の強度として処理される。物体が有限のサポートを有するという制約と共に、この技術は、単一強度の画像から、検出器への回折領域の入射の位相を反復的に再生することができる。その結果、強度ではなくセルホログラムの複雑な領域(振幅と位相)を逆伝搬することができ、結果として、二重像の混入がない物体の再構成を可能にする。この方法は、以下のステップに分解することができる。
【0097】
a)記録されたホログラム強度の平方根が−zの距離だけセル面に伝搬し、初期推定としてゼロの領域位相を仮定する。このアルゴリズムの目的は、検出面、最終的には物体平面において複雑な領域の実際の位相を反復的に特定することである。第1の反復では、オブジェクティブサポートが、物体平面における領域の強度を閾値化する、あるいは局部的な最大値および/または最小値を配置することによって規定される。
【0098】
b)オブジェクティブサポートの内側の領域は保護されるが、サポートの外側の複雑な領域の値は、以下に示すような背景値

と差し替えられる。

【0099】
ここで、

は、セルがない状態において同じ設定で取得された画像の背景強度の平方根を伝搬させることによって取得され、

である。
【0100】
c)物体平面の修正された領域は検出面へと伝搬し返され、ここで領域はゼロではない位相値を有する。振幅の修正ができないとき、この領域の振幅は本来の記録されたホログラム強度の平方根と差し替えられ、位相が収束する。その結果、

、すなわちith回反復した後の検出面における複雑な回折領域は、以下のように示すことができる。

【0101】
ここで、上付きの文字は反復ステップを指し、

はith反復した後の領域の位相を指す。
【0102】
ステップaからcは、位相再生が収束するまで繰り返すことができる。通常、本書に表した結果は15回未満の反復で取得され、その結果は第1の方法とほぼ同様である。
【0103】
方法1と方法2の比較
全血細胞または微小ビーズなどの小さいまたは僅かに拡散する物体について、両方法が同等の画像の質を有する十分な結果を生じさせる。このような物体について、記録した形態の通常のフレネル数は1未満であり、焦点が合った真の画像は二重像が広がる領域のごく一部を占める。従って、真の画像面における物体画像を除去すると、仮想画像に対して情報の損失が最小限となり、これは二重像の影響なく再生される。しかしながら、大きい対象の物体に対しては、システムのフレネル数が増加し、真の画像を除去することは仮想画像において過剰な情報損失を引き起こすことがあり、反復的に再生させることがより困難となりうる。さらに、強く拡散した物体については、記録された強度のホログラフィックの内容が歪曲しないように、自己および相互の干渉項が支配し始めることがある。従って、強く拡散する物体および/または拡張した物体については、上記の第2の方法は、ホログラフィック項が10未満のフレネル数で機構に支配されることを要する第1の方法よりも好適となる。一方、第1の方法の利点は、試料を機構に挿入する前に取られる別個の背景画像を必ずしも必要としないことである。方法2(ステップb)について背景画像がない状態では、物体平面における領域の平均値を利用することもできるが、最終的な画像の質は、試験的に取得された背景でより良くなることが分かった。
【0104】
図12は血液塗抹試料の非干渉性のレンズフリー画像化の結果を図示しており、3つの主な種類の白血球セル(すなわち、顆粒球、リンパ球および単球)のホログラフィックシグネチャを示している。比較するために40倍の対物レンズ(スケールバー、20μm)を用いて、それぞれの場合と同じ視野が画像化されている。顆粒球(GRA)、リンパ球(LYM)および単球(MON)の実測されたホログラム振幅、再生されたホログラム位相、再構成された振幅および位相画像が図示されている。図12はさらに、方法1(反復的な二重像除去)と方法2(反復的な位相再生)の再生結果の間の比較を示している。RBCは、40倍の対物レンズ画像における赤血球を示している。ホログラフィック再構成が行われる前に、各セルホログラムの細胞シグネチャは、顆粒球に対するリンパ球といった、異なるセルタイプの間の重要な違いを明らかにすることができる。これは、感染したRBCの細胞ホログラムの検査および健康な血液セルのライブラリに対する細胞非対称の検出等に基づいた感染症(マラリアなど)の診断を場合によって可能にするデジタル情報の重要な情報源でもある。
【0105】
本書に記載のシステム10、50、70は特に微小物体の画像の生成に適しているが、本発明の他の使用法では、セルなどの微小物体を自動的に計数する。システム10、50、70は、セルの総計またはより大きな母集団からセルの部分母集団さえも計数できる。セル識別アルゴリズムは、最終的に適切に計数された画像をもたらす一連の直線的なステップによって表すことができる。まず最初に、ラプラシアン・ガウシアン(LoG)の畳みこみフィルタが画像全体に適用される。これは、背景ノイズからセルの位置を強調し、さらに高密度の試料内で部分的に重なっているセルを区別することにおいて重要な方法である。照明勾配による問題、薄膜の干渉縞、またはピクセルノイズもLoGフィルタによって軽減される。一旦フィルタリングが完了すると、対象の点は閾値演算によって選別された画像から抽出することができ、特定の数値未満の全てのピクセル値は黒に設定され、残りのピクセルが白に設定され、2成分の黒と白の画像が生じる。しかしながら、これは、非常に近接したセルの塊またはセルが2値化プロセスで連結しうるという問題を生じさせる。この問題に対処するため、重なりが最小限の地点で2つの連結した物体を分割するウォーターシェッド(Watershed)フィルタを適用することにより、分離が実現する。この段階では、視野の範囲内にある顕著な対象の点を上手く識別することができる。このような点は目的のセルの位置を表すと考えられるが、誤った点から有効な点を見分けるために適切なスクリーニングプロセスが必要である。この試みに向けて、サイズ、円形、信号雑音比、およびLoGドメインの局所的な極値、さらに再生した位相または実測された振幅ドメインのホログラフィックシグネチャに基づいて、一連の記述子がそれぞれの潜在的なセル位置に適用される。これらのパラメータに基づいて許容できる基準の範囲内にない点は、有効な計数する物体のセットから取り除かれる。この除去プロセスの仕上げでは、マーカーが本来の画像上に印刷され、必要に応じて、更なる解析のために、計数されたセルについての統計的な情報がXMLファイルに書き込まれる。
【0106】
図13Aは、顕微鏡法でのセルの手動計数と、自動のホログラフィック計数の精度を比較したグラフを示している。非干渉性のセルホログラフィ法の自動計数精度が、5,000cells/μL未満から、最大40万cells/μLの範囲の様々なRBC密度で示されている。未加工のセルホログラムの2Dテクスチャを用いて、5%未満のエラー率を有する正確なセル計数は、最大100,000cells/μLの密度まで実現することができ、再構成されたセル画像は最大400,000cells/μLのセル密度で5%未満のエラー率を生じさせた。
【0107】
図13Aの差し込み図はさらに、市販の血液分析器(Beckman Coulter社、Coulter LH750)に対してホログラフィックの再構成に基づいて推定されたRBC量のヒストグラムの比較を示しており、報告された結果に非常によく適合していることを示している。図13Bは、高密度のセル溶液に対するホログラフィック再構成プロセスの長所および正確さを示している。
【0108】
図13Aに示すように、3.5×10cells/μLを超える密度の試料に対して、5%未満のエラー率が様々な試料で実証されてきた。さらに、アルゴリズムは、大量のセルを有する非常に大きい画像についても適切に変倍している。適切なハードウェアの仕様を有するシステム10、50、70は、1分未満で数メガピクセルの画像内の数千のセルを有する試料を上手く計数できる。例えば、5,000未満のセルを有する1メガピクセルの画像は、2.5GHzのプロセッサ上で3秒未満で計数することができる。
【0109】
非干渉性のレンズフリーホログラフィシステム10、50、70は、セルホログラムの群の範囲内に与えられたセルのそれぞれのホログラムを分離させることができる。これは、40万cells/μLの密度の3つのRBCについて図14に図示されている。左上の画像は未処理ホログラム平面であり、全てのセルホログラムが重なっている。右上の画像は再構成されたセル画像を示している。下の画像は、右上の画像の円の内側を示す、3つの選択されたRBCの分離した位相および振幅のホログラフィックシグネチャを図示している。この機能は特に、マラリアなどの潜在的な寄生虫のシグネチャを表すセルホログラムの細胞非対称に基づいて、高密度の溶液についての診断を決定するのに有用となりうる。
【0110】
本書に記載された本発明は「レンズフリー」の画像プラットフォームとして大半が記載されているが、レンズを含む様々な光学要素を本書に記載されたシステムおよび方法と組み合わせる、あるいはそれらに利用することができると理解されたい。例えば、本書に記載されたデバイスは、画像化しない目的のために小型のレンズアレイ(例えば、マイクロレンズアレイ)を使用してもよい。一例のように、レンズアレイを用いて、センサアレイの光収集効率を向上させることができる。このような光学要素は、試料を画像化して、同試料に関する有用なデータや結果を提供するために必要なものではないが、本発明の範囲内で利用され、その中に含まれることがある。
【0111】
本発明の実施形態が図示され説明されてきたが、本発明の範囲から逸脱することなく様々な改変をすることができる。従って、本発明は、以下の特許請求の範囲およびその均等物を除き、限定されるべきではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞試料を画像化するためのシステムであって:
細胞試料を保持するよう構成された試料ホルダと;
前記試料ホルダの第1の面において当該試料ホルダからzの距離に配置され、その中に開口を有する空間フィルタであって、前記開口は照明が通過できるよう構成されている空間フィルタと;
前記試料ホルダの第2の反対側の面において当該試料ホルダからzの距離に配置された画像化センサアレイと;
前記開口を通って前記細胞試料を照明するよう構成された照明光源とを具えており、前記空間フィルタは前記照明光源と前記試料ホルダの間に置かれていることを特徴とするシステム。
【請求項2】
請求項1に記載のシステムがさらに、前記画像化センサアレイから画像フレームを受け取るよう構成された少なくとも1のプロセッサを具えることを特徴とするシステム。
【請求項3】
請求項2に記載のシステムにおいて、前記少なくとも1のプロセッサが、前記画像フレーム内に含まれるホログラム振幅を定量化するよう構成されていることを特徴とするシステム。
【請求項4】
請求項3に記載のシステムにおいて、前記少なくとも1のプロセッサが、前記画像フレーム内に含まれる位相情報を再生するよう構成されていることを特徴とするシステム。
【請求項5】
請求項4に記載のシステムにおいて、前記少なくとも1のプロセッサが、ホログラム振幅および再生された位相情報に少なくとも部分的に基づいて再構成された画像を出力するよう構成されていることを特徴とするシステム。
【請求項6】
請求項5に記載のシステムにおいて、前記少なくとも1のプロセッサが遠く離れて配置されていることを特徴とするシステム。
【請求項7】
請求項5に記載のシステムにおいて、前記少なくとも1のプロセッサが、ローカルプロセッサであることを特徴とするシステム。
【請求項8】
請求項1に記載のシステムにおいて、z<<zであることを特徴とするシステム。
【請求項9】
請求項1に記載のシステムにおいて、zが約1cm乃至約10cmの範囲内にあり、zが約0.05mm乃至約2cmの範囲内にあることを特徴とするシステム。
【請求項10】
請求項9に記載のシステムにおいて、zが約5cm乃至約10cmの範囲内にあり、zが約1mm乃至約2mmの範囲内にあることを特徴とするシステム。
【請求項11】
請求項1に記載のシステムにおいて、前記空間フィルタの開口が、約50μm乃至約100μmの範囲の直径を有することを特徴とするシステム。
【請求項12】
請求項1に記載のシステムにおいて、前記照明光源が、少なくとも部分的に非干渉性の光源を具えることを特徴とするシステム。
【請求項13】
請求項12に記載のシステムにおいて、前記照明光源が、少なくとも1の発光ダイオード(LED)を具えることを特徴とするシステム。
【請求項14】
請求項1に記載のシステムにおいて、前記画像化センサアレイが、CCDまたはCMOSデバイスを具えることを特徴とするシステム。
【請求項15】
請求項14に記載のシステムにおいて、前記画像化センサアレイが、9μm未満のピクセルサイズを有することを特徴とするシステム。
【請求項16】
請求項1に記載のシステムにおいて、前記試料ホルダが、光学的に透明な基板を具えることを特徴とするシステム。
【請求項17】
請求項1に記載のシステムにおいて、前記試料ホルダが、マイクロ流体デバイスを具えることを特徴とするシステム。
【請求項18】
請求項1に記載のシステムがさらに:
前記空間フィルタと前記試料ホルダの間に置かれたプリズムと;
前記プリズムを通して前記細胞試料を照明するよう構成された蛍光照明光源とを具えており、実質的に全ての入射蛍光照明が全反射(TIR)によって反射されることを特徴とするシステム。
【請求項19】
請求項18に記載のシステムがさらに、前記試料ホルダと前記画像化センサアレイの間に置かれた光学フィルタを具えることを特徴とするシステム。
【請求項20】
請求項18に記載のシステムにおいて、前記プリズムが、ひし形のプリズムを具えることを特徴とするシステム。
【請求項21】
請求項19に記載のシステムがさらに、前記プリズムと前記光学フィルタの間に置かれた複数の光ファイバを具える光学フェースプレートを具えていることを特徴とするシステム。
【請求項22】
細胞試料を画像化する方法であって:
少なくとも部分的に非干渉性の光を発する照明光源を用いて、細胞試料を保持するよう構成された試料ホルダの前面を照明するステップであって、前記少なくとも部分的に非干渉性の光は前記細胞試料を照明する前に開口を通過するステップと;
前記試料ホルダの後面に配置された画像化センサアレイから1以上の画像フレームを取得するステップとを含むことを特徴とする方法。
【請求項23】
請求項22に記載の方法において、前記開口が前記試料ホルダからzの距離に配置され、前記画像化センサアレイが前記試料ホルダの反対側からzの距離に配置されることを特徴とする方法。
【請求項24】
請求項23に記載の方法において、z<<zであることを特徴とする方法。
【請求項25】
請求項22に記載の方法において、前記1以上の画像フレームが少なくとも1のプロセッサによって処理され、前記画像フレーム内に含まれるホログラム振幅を定量化することを特徴とする方法。
【請求項26】
請求項25に記載の方法において、前記少なくとも1のプロセッサがさらに、前記画像フレーム内に含まれる位相情報を再生するよう構成されていることを特徴とする方法。
【請求項27】
請求項26に記載の方法において、前記少なくとも1のプロセッサが、ホログラム振幅および再生された位相情報に少なくとも部分的に基づいて再構成された画像を出力するよう構成されていることを特徴とする方法。
【請求項28】
請求項25に記載の方法において、前記1以上の画像フレームが、少なくとも1の遠隔に配置されたプロセッサに転送されることを特徴とする方法。
【請求項29】
請求項25に記載の方法において、前記少なくとも1のプロセッサが、ローカルプロセッサであることを特徴とする方法。
【請求項30】
請求項25に記載の方法において、前記少なくとも1のプロセッサが1以上の画像フレームとライブラリを比較し、この比較に少なくとも部分的に基づいて、試料内に含まれる1以上のセル、細胞小器官、粒子を識別することを特徴とする方法。
【請求項31】
請求項30に記載の方法において、前記識別が、病態を識別するステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項32】
請求項30に記載の方法において、前記識別が、セルタイプを識別するステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項33】
請求項30に記載の方法において、前記識別が、セルの計数を含むことを特徴とする方法。
【請求項34】
請求項33に記載の方法において、前記セルの計数が、合計セルの計数を含むことを特徴とする方法。
【請求項35】
請求項33に記載の方法において、前記セルの計数が、特定の種類のセルの母集団のセルの計数を含むことを特徴とする方法。
【請求項36】
請求項24に記載の方法がさらに、蛍光励起照明を用いて前記細胞試料を照明するステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項37】
請求項36に記載の方法において、前記蛍光励起照明が、斜めに前記細胞試料を照明することを特徴とする方法。
【請求項38】
請求項36に記載の方法において、前記画像化センサアレイから取得された1以上の画像が、放出された蛍光発光の画像を含むことを特徴とする方法。
【請求項39】
細胞試料を画像化するための携帯型システムであって:
細胞試料を保持するよう構成された試料ホルダを有し、手持ち式の携帯性に適した大きさのモバイル通信デバイスと;
前記試料ホルダの第1の面において前記試料ホルダからzの距離に配置され、その中に配置された開口を有する空間フィルタであって、前記開口は照明が通過できるよう構成されている空間フィルタと;
前記モバイル通信デバイス内に位置し、前記試料ホルダの第2の反対側の面において当該試料ホルダからzの距離に配置された画像化センサアレイと;
前記開口を通って前記細胞試料を照明するよう構成された照明光源とを具え、前記空間フィルタは前記照明光源と記試料ホルダの間に置かれていることを特徴とする携帯型システム。
【請求項40】
請求項39に記載の携帯型システムにおいて、前記モバイル通信デバイスが、データを無線送信するように構成されていることを特徴とする携帯型システム。
【請求項41】
請求項39に記載の携帯型システムにおいて、前記モバイル通信デバイスが、携帯電話または携帯情報端末を含むことを特徴とする携帯型システム。
【請求項42】
請求項39に記載の携帯型システムにおいて、前記空間フィルタおよび前記照明光源が、前記モバイル通信デバイスから取り外しできるよう構成されたハウジング内に収容されていることを特徴とする携帯型システム。
【請求項43】
請求項39に記載の携帯型システムにおいて、前記試料ホルダが、試料を直接受け取るよう構成された表面を具えることを特徴とする携帯型システム。
【請求項44】
請求項39に記載の携帯型システムにおいて、前記試料ホルダが、前記モバイル通信デバイス内に挿入されるよう構成された基板またはマイクロ流体デバイスを具えることを特徴とする携帯型システム。
【請求項45】
請求項39に記載の携帯型システムにおいて、前記モバイル通信デバイスが、前記画像化センサアレイからの画像を処理するよう構成された少なくとも1のプロセッサを具えることを特徴とする携帯型システム。
【請求項46】
請求項39に記載の携帯型システムにおいて、zが約1cm乃至約10cmの範囲内にあり、zが約0.05mm乃至約2cmの範囲内にあることを特徴とする携帯型システム。
【請求項47】
請求項39に記載の携帯型システムがさらに、少なくとも1のレンズを具えていることを特徴とする携帯型システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6−1】
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【図6−2】
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【図7−1】
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【図7−2】
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【図7−3】
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【図8−1】
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【図8−2】
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【図9】
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【図10A】
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【図10B】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公表番号】特表2013−508775(P2013−508775A)
【公表日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−535307(P2012−535307)
【出願日】平成22年10月19日(2010.10.19)
【国際出願番号】PCT/US2010/053225
【国際公開番号】WO2011/049965
【国際公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.BLUETOOTH
2.GSM
3.ペンティアム
【出願人】(592110646)ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア (11)
【Fターム(参考)】