説明

オートサンプラーのニードル

【課題】試料液による溶解、あるいは試料液の成分の化学吸着を一掃して、常に適正に分注を行え、しかもニードル本体で試料液の液位を検知できる、オートサンプラーのニードルを提供する。
【解決手段】四ふっ化エチレン樹脂からなる保護層7で覆われている金属製の鞘管3と、鞘管3の内部に配置される耐薬品性プラスチック材製の内管4と、鞘管3および内管4の下端に連結される先端チップ5とでニードル本体1を構成する。先端チップ5は導電性と耐薬品性を備えたプラスチック材で形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料液を分注する際に使用するオートサンプラー用のニードルに関する。本発明のニードルは、例えば王水に溶解された分析対象を分注するのに適している。
【背景技術】
【0002】
オートサンプラーにおいては、ニードルを試料液の液位を知るためのプローブとして利用することがある。例えば特許文献1では、ニードルの先端が試料液の液面に触れる際の静電容量の変化によって試料液の液位を検知している。オートサンプラー用のニードルの多くはステンレス細管なので、液位を知るためのプローブとして利用できる。
【0003】
しかし、試料液によってはステンレス製のニードルを適用できないことがある。ニードルの浸漬部表面において試料液中の成分が化学吸着を生じ、吸着物質が次に分注した試料液に混入して、分析結果に狂いを生じるからである。このような化学吸着を避けるために、ステンレス製のニードル本体の表面に、ニードル本体より化学的に活性の小さな保護層を形成することが提案されている(特許文献2)。そこでは、ニードル本体の表面に、耐薬品性に優れたプラスチック材を、粉体塗装法によってコーティングして保護層を形成している。特許文献3では、ニードル本体の表面にフッ素樹脂がコーティングされている。
【0004】
本発明のニードルは、耐薬品性に優れたプラスチック製の内管と、内管を収容するステンレス製の鞘管を含んでいるが、この種のニードルは特許文献4に公知である。そこでは、鞘管が試料液と接触するのを避けるために、内管の下端外面と鞘管の下端外面とが、耐薬品性に優れたプラスチック製のチューブで被覆されている。
【0005】
【特許文献1】特開2002−54979号公報(段落番号0015、図1)
【特許文献2】特開2005−283453号公報(段落番号0012、図1)
【特許文献3】特開昭62−106371号公報(第2頁左下欄、第1図)
【特許文献4】特開2000−88864号公報(段落番号0026、図5)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明のニードルは、例えば王水に溶解された鉱物試料を分注するために使用することができる。従来のニードルでは、この種の試料液を分注することができない。ステンレス製のニードルは、試料液に浸漬したニードル先端が王水によって溶解されるからである。また、ニードル本体の表面に保護層が形成してある特許文献2、3のニードルは、ニードル表面の溶解は避けられるが、ニードル内の通路壁が王水によって溶解されるため、ステンレス製のニードルと同様に適用できない。
【0007】
この点、特許文献4のニードルは、耐薬品性の内管によって試料液を保持でき、しかもステンレス製の鞘管が耐薬品性の熱収縮チューブで被覆してあるので、ニードルが王水によって溶解されることはない。しかし、鞘管が熱収縮チューブで電気的に絶縁されるので、試料液の液位を知るためのプローブとして鞘管を利用することができず、液位の検知手段を別途設ける必要がある。
【0008】
本発明の目的は、ニードル本体が試料液で溶解されたり、あるいはニードル本体に試料液の成分が化学吸着するのを解消して常に適正に分注を行え、しかもニードル本体を利用して試料液の液位を検知できる、オートサンプラーのニードルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のニードルは、導電性金属で形成されるニードル本体1の内部通路および表面を、それぞれ耐薬品性の保護体4・7で覆う。ニードル本体1の先端にバイアル内の試料液に浸漬される浸漬部分を設け、少なくとも浸漬部分は、導電性と耐薬品性とを備えたプラスチック材で形成することを特徴とする。
【0010】
ニードル本体1は、表面が保護層7で覆われている金属製の鞘管3と、鞘管3の内部に配置される耐薬品性プラスチック材製の内管4と、鞘管3および内管4の下端に連結される先端チップ5とで構成する。先端チップ5は導電性と耐薬品性とを備えたプラスチック材で形成した。
【0011】
ステンレス製の管材で形成した鞘管3の外面に四ふっ化エチレン樹脂をコーティングして保護層7を形成する。先端チップ5は、炭素粉末を混入した耐薬品性のプラスチック材で形成する。例えば、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルエーテルケトン、四ふっ化エチレンで代表されるフッ素系樹脂などに炭素粉末を混入して成形する。鞘管3と先端チップ5とはねじ8・12を介して電気的に導通可能に連結する。鞘管3と先端チップ5との間に試料液の浸入を防ぐシールリング6を配置する。
【0012】
ニードル本体1は、表面が保護層7で覆われている金属製の鞘管3と、鞘管3の内部に配置される耐薬品性プラスチック材製の内管4と、鞘管3および内管4の下端に連結される先端チップ5とで構成する。先端チップ5は、耐薬品性と導電性とを備えたタンタル、イリジウムのいずれかで形成する。
【0013】
ニードル本体1は、表面が保護層7で覆われている金属製の鞘管3と、鞘管3の内部に配置される耐薬品性プラスチック材製の内管4と、鞘管3および内管4の下端に連結される先端チップ5と、先端チップ5に設けられる液位検知用の電極とで構成する。先端チップ5は、耐薬品性と絶縁性とを備えたプラスチック、セラミックスのいずれかで形成する。電極はタンタル、イリジウムのいずれかで形成する。
【0014】
ニードル本体1の全体は、耐薬品性と導電性とを備えたタンタル、イリジウムのいずれかで形成する。
【発明の効果】
【0015】
本発明においては、導電性金属で形成されるニードル本体1の内部通路および表面を、それぞれ耐薬品性の保護体4・7で覆って、ニードル本体1が試料液で溶解されるのを防止した。また、ニードル本体1の先端にバイアル内の試料液に浸漬される浸漬部分を設け、少なくとも浸漬部分を、導電性と耐薬品性を備えたプラスチック材で形成するので、例えば王水に溶解した鉱物試料液を分注するような場合でも、ニードル本体1や試料液に浸漬される浸漬部分が試料液によって溶解され、あるいは試料液の成分が化学吸着するのを阻止できる。
【0016】
したがって本発明のニードルによれば、常に適正に分注を行え、従来のニードルにおいて避けられなかった分析結果の狂いを一掃し、分析精度を向上できる。さらに浸漬部分に導電性を付与して、導電性金属で形成されるニードル本体1と浸漬部分との全体を導電体として構成するので、ニードル本体1とバイアルびん20との間の静電容量の変化によって試料液の液位を検知することができ、液位検出手段を別途設ける場合に比べて、ニードル本体1およびオートサンプラーの構造を簡素化できる。
【0017】
表面が保護層7で覆われている金属製の鞘管3と、鞘管3の内部に配置される耐薬品性プラスチック材製の内管4と、鞘管3および内管4の下端に連結される先端チップ5とでニードル本体1を構成すると、鞘管3の内外面全体を内管4と保護層7とで覆って、鞘管3が試料液やその雰囲気に晒されるのを防止できる。しかも、試料液に浸漬される先端チップ5を導電性と耐薬品性を備えたプラスチック材で形成することにより、先端チップ5が試料液に溶解されるのを阻止しながら、導電性を付与できる。このように構成したニードルによれば、鞘管3や先端チップ5が試料液によって溶解されるのを阻止しながら、鞘管3および先端チップ5を試料液の液位を検知するためのプローブとして利用することができ、王水に代表される劇薬を溶媒とする試料液であっても、常に適正に分注を行える。
【0018】
炭素粉末を混入した耐薬品性のプラスチック材で先端チップ5を形成し、鞘管3と先端チップ5とをねじ8・12を介して電気的に導通可能に連結すると、先端チップ5が破損し、あるいは劣化したような場合に、先端チップ5のみを交換すればよく、ニードル全体を交換する場合に比べて経済的である。鞘管3と先端チップ5との間にシールリング6を配置して、試料液が鞘管3と先端チップ5との連結部分に浸入するのを防止するので、鞘管3が試料液によって浸蝕されるのを確実に防止できる。
【0019】
タンタル、およびイリジウムはいずれも王水によって溶解されず、導電性を備えている。したがってタンタル、またはイリジウムで先端チップ5を形成すると、王水を溶媒とする試料液であっても支障なく適正に分注できる。もちろん、王水以外の強酸や強アルカリなどを溶媒とする試料液の分注にも問題なく適用できる。
【0020】
先端チップ5を耐薬品性と絶縁性とを備えたプラスチック、あるいはセラミックスのいずれかで形成し、先端チップ5に設けた電極をタンタル、イリジウムのいずれかで形成すると、電極が液面に接近するときの導通の有無によって試料液の液位を検知でき、王水を溶媒とする試料液であっても支障なく適正に分注できる。
【0021】
ニードル本体1の全体をタンタル、またはイリジウムで形成すると、コストが嵩むものの、内管4、先端チップ5、保護層7などを設ける必要がなく、その分だけニードル本体1の構造を簡素化して信頼性を向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
(実施例) 図1および図2は本発明に係るニードルの実施例を示す。図1においてニードルは、ニードル本体1と、ニードル本体1の上端の取付ボス2とで構成する。取付ボス2をオートサンプラーのアーム部分に接続し、ニードル本体1の中途部を図外のホルダーで固定保持することにより、ニードルに吸引圧を作用させてバイアルびん20内の試料液を吸引保持できる。ニードル本体1は、ステンレス管材からなる鞘管3と、プラスチック製の内管(保護体)4と、鞘管3および内管4の下端に連結される先端チップ5と、鞘管3と先端チップ5との連結部分をシールするシールリング6で構成する。
【0023】
鞘管3の外面には四ふっ化エチレン樹脂をコーティングして保護層(保護体)7が形成してあり、その下端に先端チップ5をねじ込み連結するためのねじ軸(ねじ)8が形成してある。内管4は耐薬品性に富むプラスチック材、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)や、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)などで形成してあり、鞘管3内に挿入固定されて、その下端がねじ軸8の下端部から突出させてある。
【0024】
先端チップ5は、上端の連結ボス10と下すぼまり状の針部11とを一体に備えたプラスチック成形品からなり、連結ボス10の内部に先のねじ軸8に対応するねじ穴(ねじ)12と、内管4を受け入れる連結穴13とが形成してある。針部11には内管4の通路4aに連続する試料穴14が下すぼまり状に形成してあり、その下端を斜め下向きに傾斜させて針先15としている。
【0025】
図2に示すように、ニードル本体1は先端チップ5の下部が試料液に浸漬する状態でバイアルびん20に挿入されて、所定量の試料液を試料穴14内へ吸い込むが、このときニードル本体1によって液面を検知し、さらに試料液に浸漬される先端チップ5が試料液によって溶解するのを防ぐために、先端チップ5を導電性と耐薬品性を備えたプラスチック材で形成する。具体的には、ポリプロピレンや、先に述べたポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルエーテルケトン、四ふっ化エチレンに代表されるフッ素系樹脂などの、耐薬品性に優れたプラスチック材に炭素粉末を混入して、導電性を備えた先端チップ5を形成する。
【0026】
以上のように構成したニードルは、例えば王水に溶解された鉱物試料を分注するために使用する。試料液を収容するバイアルびん20は導電性を備えたラックに載置してある。バイアルびん20のびん口は、キャップ21とセプタム22とで封止してあるため、先端チップ5はセプタム22を突き抜きながらバイアルびん20に挿入される。セプタム22を突き抜くときの抵抗力は鞘管3によって受け止められる。
【0027】
セプタム22を突き抜けた先端チップ5の針先15の下端が液面に接触すると、静電容量が増加するので、オートサンプラーは先端チップ5が液面に達したことを検知できる。この後、ニードル本体1を所定量下降操作して先端チップ5の下端が試料液に浸漬され、この状態で試料液が試料穴14内へ吸引される。なお。静電容量の変化を検知するために、鞘管3はオートサンプラーと電気的に接続してある。
【0028】
先端チップ5が破損し、あるいは針先15が摩滅したような場合には、先端チップ5を鞘管3から取り外して新規な先端チップ5と交換すればよく、ニードル全体を交換する場合に比べて経済的である。さらに、試料液の化学的な特性に応じて先端チップ5を交換装着できるので、ニードル全体を交換する場合に比べて交換の手間を軽減できる。
【0029】
上記の実施例では、先端チップ5を導電性と耐薬品性を備えたプラスチック材で形成したが、その必要はなく、先端チップ5は、耐薬品性と導電性とを備えたタンタル、あるいはイリジウムのいずれかで形成することができる。タンタルおよびイリジウムは王水に溶解せず、しかも導電性を備えているので、試料液の液面を検知し、さらに試料液に浸漬される先端チップ5が試料液によって溶解するのを防止できる。必要があれば、ニードル本体1の全体をタンタル、あるいはイリジウムで形成することができる。
【0030】
上記以外に、ニードル本体1の先端にバイアルびん20内の試料液に浸漬される浸漬部分を設け、少なくとも浸漬部分を導電性と耐薬品性を備えたプラスチック材で形成することができる。この場合のニードル本体1は導電性金属で形成し、その内部通路および表面をそれぞれ耐薬品性の保護体で覆うとよい。
【0031】
鞘管3はステンレス以外の、鋼、アルミニウム、銅などの金属で形成することができる。先端チップ5は鞘管3に対して圧嵌ないし接着固定することができる。試料液の液位の検知法としては、ニードル本体1とバイアルびん20との接触による静電容量の変化を検知する以外に、絶縁材で形成した先端チップ5にタンタル電極、あるいはイリジウム電極を設けておき、電極が液面に接触するときの導通の有無によって液位を検知することができる。
【0032】
本発明のニードルは、王水に溶解した鉱物試料を分注するのに好適であるが、溶解対象は鉱物である必要はなく、複数の金属を含む合金であってもよい。さらに、王水以外の強酸や強アルカリを溶媒とする試料液や、生化学的な試料液などの分注する際にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】ニードルの一部破断正面図である。
【図2】ニードルの使用例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0034】
1 ニードル本体
3 鞘管
4 内管(保護体)
5 先端チップ
7 保護層(保護体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性金属で形成されるニードル本体(1)の内部通路および表面が、それぞれ耐薬品性の保護体(4・7)で覆われており、
ニードル本体(1)の先端に、バイアル内の試料液に浸漬される浸漬部分が設けられており、
少なくとも浸漬部分が、導電性と耐薬品性を備えたプラスチック材で形成されていることを特徴とするオートサンプラーのニードル。
【請求項2】
ニードル本体(1)が、表面が保護層(7)で覆われている金属製の鞘管(3)と、鞘管(3)の内部に配置される耐薬品性プラスチック材製の内管(4)と、鞘管(3)および内管(4)の下端に連結される先端チップ(5)とで構成されており、
先端チップ(5)が、導電性と耐薬品性とを備えたプラスチック材で形成されている請求項1記載のオートサンプラーのニードル。
【請求項3】
ステンレス製の管材で形成した鞘管(3)の外面に、四ふっ化エチレン樹脂をコーティングして保護層(7)が形成してあり、
先端チップ(5)が、炭素粉末を混入した耐薬品性のプラスチック材で形成されており、
鞘管(3)と先端チップ(5)とが、ねじ(8・12)を介して電気的に導通可能に連結されており、
鞘管(3)と先端チップ(5)との間に、試料液の浸入を防ぐシールリング(6)が配置してある請求項1または2記載のオートサンプラーのニードル。
【請求項4】
ニードル本体(1)が、表面が保護層(7)で覆われている金属製の鞘管(3)と、鞘管(3)の内部に配置される耐薬品性プラスチック材製の内管(4)と、鞘管(3)および内管(4)の下端に連結される先端チップ(5)とで構成されており、
先端チップ(5)が、耐薬品性と導電性とを備えたタンタル、イリジウムのいずれかで形成してある請求項1記載のオートサンプラーのニードル。
【請求項5】
ニードル本体(1)が、表面が保護層(7)で覆われている金属製の鞘管(3)と、鞘管(3)の内部に配置される耐薬品性プラスチック材製の内管(4)と、鞘管(3)および内管(4)の下端に連結される先端チップ(5)と、先端チップ(5)に設けられる液位検知用の電極とで構成されており、
先端チップ(5)が、耐薬品性と絶縁性とを備えたプラスチック、セラミックスのいずれかで形成されており、
電極が、タンタルとイリジウムとのいずれかで形成してあるオートサンプラーのニードル。
【請求項6】
ニードル本体(1)の全体が、耐薬品性と導電性とを備えたタンタル、イリジウムのいずれかで形成してあるオートサンプラーのニードル。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−327769(P2007−327769A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−157158(P2006−157158)
【出願日】平成18年6月6日(2006.6.6)
【出願人】(596030209)エムエス機器株式会社 (2)
【Fターム(参考)】