説明

カソード基板の作製方法及びカソード基板、並びに表示素子の作製方法及び表示素子

【課題】 カーボン系エミッタ作製による電極間に堆積した導電性物質の除去。
【解決手段】基板S上に、カソード電極11、絶縁層12及びゲート電極13を順次積層し、次いで、このゲート電極13にゲートホール13bを形成した後に、このゲートホール13bを介して絶縁層12にホールを形成し、その後、このホール底部に触媒層15を形成し、この触媒層15に炭素原子含有ガスを接触させてカーボン系エミッタ16を成長させてなるカソード基板の作製方法において、基板表面に紫外線照射して、カーボン系エミッタ成長時に基板表面の触媒層以外の場所(例えばゲート電極間)に生成された導電性物質17を除去することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カソード基板及びその作製方法、並びに表示素子及びその表示素子の作製方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、陰極線管に代わり、液晶ディスプレイ、光放出ダイオード、プラズマディスプレイパネル、電界放出型ディスプレイ(Field Emission Display:FED)などの平板ディスプレイの研究・開発が進められているが、その中でもFEDは、低消費電力、高画質、高速応答を実現できるとして注目されている。このFEDを構成する素子としては、カソード電極、ゲート電極及びエミッタを少なくとも有するカソード基板と、アノード電極を少なくとも有するアノード基板とから構成される3極構造型の表示素子や、カソード電極、ゲート電極及びエミッタに加えてフォーカス電極を少なくとも有するカソード基板と、アノード電極を有するアノード基板とからなる4極構造型の表示素子がある。
【0003】
これらの表示素子に用いられるエミッタは、Siなどから構成されることもあるが、微細加工に適しているという点に鑑みて、CVD法を用いて触媒層に炭素原子含有ガスを接触させて成長させた炭素系材料(例えば、グラファイトナノファイバー)から構成されることが多い。しかし、CVD法を実施している間に、炭素原子含有ガスに起因する導電性物質(例えば、アモルファスカーボン、ダイヤモンドライクカーボン、カーボンファイバー等)が、基板上のゲート電極間や、フォーカス電極−ゲート電極間等に堆積してしまうことがあり、各電極間が狭いと、堆積した導電性物質同士が接触して短絡が生じてしまう。これは、ディスプレイの高精細化が進むにつれて大きな問題となる。
【0004】
例えば、第1電極(カソード)と第2電極(制御電極)とを短絡するカーボンファイバーを除去するために、第1電極と第2電極との間に通電して、ジュール熱により短絡の原因であるカーボンファイバーを除去する方法が知られている(例えば、特許文献1)。
【特許文献1】特開2005−166346号(図1及び図6等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記通電加熱処理を行うと、局所的に加熱される部位ができてしまい、カソード基板の構造が破壊されやすいという問題がある。また、通常、ゲート電極(4極構造の場合には、フォーカス電極)は、同一面に形成されているので、ゲート電極間に通電するために、特別な回路を形成する必要があり、煩雑であるという問題がある。
【0006】
そこで、本発明の課題は、前記従来技術の問題点を解決することにあり、簡易に短絡の原因である導電性物質を除去できるカソード基板の作製方法及びその方法により得られたカソード基板を提供することにある。また、この方法を用いて短絡のない表示素子を簡易に作製する表示素子の作製方法並びにその方法により得られた表示素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のカソード基板の作製方法は、基板上に、少なくとも、カソード電極、絶縁層及びゲート電極を順次積層し、このゲート電極にゲートホールを形成した後に、このゲートホールを介して絶縁層にホールを形成し、その後、このホール底部に触媒層を形成し、この触媒層に炭素原子含有ガスを接触させてカーボン系エミッタを成長させてなるカソード基板の作製方法において、基板表面に紫外線を照射して、カーボン系エミッタ成長時に基板表面の触媒層以外の場所に生成された導電性物質を除去することを特徴とする。
【0008】
紫外線を照射して導電性物質を除去することで、簡易に電極間の短絡を防止し、かつ、カソード基板の構造を破壊することもなく、カソード基板を得ることができる。
【0009】
この場合、前記紫外線の波長は、250nm以下であることが好ましい。250nmより長い波長であると、エネルギーが低いために、導電性物質を除去できないからである。
【0010】
この紫外線照射は、導電性物質を除去するためには30秒以上、上限はカソード基板の作製プロセスの経済性を考慮して適宜設定すればよく、例えば3600秒行うことが好ましい。
【0011】
また、電極間での短絡を防止して簡易にカソード基板を作製しうる本発明の別のカソード基板の作製方法は、基板上に、少なくとも、カソード電極、絶縁層及びゲート電極を順次積層し、このゲート電極にゲートホールを形成した後に、このゲートホールを介して絶縁層にホールを形成し、その後、このホール底部に触媒層を形成し、この触媒層に炭素原子含有ガスを接触させてカーボン系エミッタを成長させてなるカソード基板の作製方法において、基板表面にオゾンを曝露して、カーボン系エミッタ成長時に基板表面の触媒層以外の場所に生成された導電性物質を除去することである。オゾン曝露によっても、簡易に、かつ、カソード基板の構造を破壊せずに導電性物質を除去することができる。
【0012】
この場合、オゾン曝露を導電性物質を除去するためには10秒以上、上限はカソード基板の作製プロセスの経済性を考慮して適宜設定すればよく、例えば3600秒行うことが好ましい。
【0013】
上記いずれの方法におけるカーボン系エミッタも、グラファイトナノファイバー又はカーボンナノチューブであることが好ましい。また、前記導電性物質は、アモルファスカーボンである。
【0014】
前記カーボン系エミッタを作製する方法は、熱CVD法、プラズマCVD法、及びホットフィラメントCVD法のいずれかであることが好ましい。
【0015】
また、カソード電極、絶縁層及びゲート電極を有する3極構造の表示素子に用いるカソード基板の場合には、ゲート電極−ゲート電極間に生成された導電性物質を除去することが好ましい。カソード電極、絶縁層、ゲート電極及びフォーカス電極を有する4極構造の表示素子に用いるカソード基板の場合には、ゲート電極−フォーカス電極間に生成された導電性物質を除去することが好ましい。
【0016】
本発明のカソード基板は、前記のカソード基板の作製方法に従って作製されたことを特徴とする。
【0017】
また、表示素子の作製方法は、前記のカソード基板の作製方法に従ってカソード基板を作製した後、このカソード基板と、蛍光体層、アノード用電極層及び上部基板を少なくとも含むアノード基板とを、支持体を介してはり合わせて表示素子を作製することを特徴とするものであり、また、本発明の表示素子は、この表示素子の作製方法に従って作製されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明のカソード基板の作製方法及びカソード基板によれば、簡易に、かつ、カソード基板の構造が破壊されずに導電性物質を除去できるので、品質のよいカソード基板を簡易に得ることができるという優れた効果を奏する。本発明の表示素子の作製方法及び表示素子によれば、カソード基板の構造を破壊せずに簡易に導電性物質を除去したカソード基板を作製して用いるので、品質がよく、ディスプレイの高精細化に対応しうる表示素子を作製できるという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明のカソード基板の作製方法を説明するために、各工程におけるカソード基板の模式的断面図を図1(a)〜(f)に示す。
【0020】
図1(a)によれば、初めに、基板S上に、200〜400℃の範囲で基板加熱を行いながら、5×10−4Pa以下の真空中でのEB蒸着法や、例えば圧力0.67Pa下でのArガス(流量50sccm)雰囲気中でのスパッタ法等により、カソード電極層11(厚さ50〜300nm)を形成する。次いで、このカソード電極層11をライン状にパターニングする。
【0021】
パターニングしたカソード電極層11及び露出している基板S表面に、300〜450℃の範囲で基板加熱を行いながら5×10−4Pa以下の真空中でのEB蒸着法や、例えば圧力0.67Pa下でのArガス(流量50sccm)雰囲気中でのスパッタ法等により、絶縁層12(厚さ1〜6μm)を形成する。基板加熱を行なうのは、絶縁層12の応力による破損を防ぐためである。この絶縁層12を形成する場合、2回以上にわけて形成することが好ましい。絶縁層12の上に、200〜400℃の基板加熱をしながら5×10−4Pa以下の真空中でのEB蒸着法や、例えば圧力0.67Pa下でのArガス(流量50sccm)雰囲気中でのスパッタ法等により、ゲート電極層13(厚さ50〜300nm)を形成する(図1(a)参照)。
【0022】
次いで、ゲート電極層13上にレジスト層を塗布した後、例えばフォトリソグラフィ法で、所定のレジストパターンをゲート電極層上に形成し、ウェットエッチングまたはドライエッチングによりカソードラインに直交するようにライン状のゲート電極13aを形成する。
【0023】
その後、ゲート電極13a及び露出している絶縁層12上に、レジストを塗布し、このレジストにパターンを転写してレジストパターン14を形成すると共に、レジストホールを形成する。次いで、このレジストホールからウェットエッチングまたはドライエッチングしてライン状のゲート電極13aにゲートホール13bを形成する(図1(b)参照)。この場合、各ライン上のゲート電極13aの幅をD1とし、ライン状のゲート電極13aの間隔をD2としている。
【0024】
その後、図1(c)に示すように、ゲートホール13bから、フッ酸又はバッファードフッ酸などのエッチャントを導入して、絶縁層12下に形成されていたカソード電極11が露出するまで絶縁層をエッチングして絶縁層ホール12aを形成する。
【0025】
次いで、図1(d)に示すように、露出したカソード電極11上に、カーボン系エミッタを形成するために、触媒層15を5×10−4Pa以下の真空中でのEB蒸着法や、例えば圧力0.67Pa下でのArガス(流量50sccm)雰囲気中でのスパッタ法により成膜する。
【0026】
その後、図1(e)に示すように、レジストパターン14及びこのレジスト14パターン上に堆積した触媒層をリフトオフする。そして、CVD法により、絶縁層ホール12a底部の触媒層15上にカーボン系エミッタ16を成長させる(図1(f))。CVD法としては、熱CVD法、プラズマCVD法、又はホットフィラメントCVD法があげられる。例えば、熱CVD法の場合、公知のカーボン系材料成長ガス、例えば一酸化炭素(200sccm)と、水素(200sccm)とからなる炭素原子含有ガスを大気圧で導入して、成長温度:400〜700℃、成長時間:5〜60分(この成長時間は、成長させるグラファイトナノファイバー等カーボン系エミッタの高さに依存する)の条件で、カーボン系エミッタ16を成長させる。また、プラズマCVD法の場合には、例えば、プラズマCVD装置内を成膜圧力1Paとし、成長ガスとして、メタンと水素ガスとを、それぞれ3:7で混合したガス(100sccm)を導入し、この成長ガスをプラズマで分解して得られた活性種を用いて成膜を行い、カーボン系エミッタ16を成長させる。ホットフィラメントCVD法の場合には、例えば、フィラメント温度を2000℃、基板温度を600℃とし、成膜装置内圧力を1Paに設定して成長ガスとしてアセチレンを導入し、アセチレンがフィラメントに接触して分解され得られた活性種を用いてカーボン系エミッタ16を成長させる。このようなカーボン系エミッタを有する表示素子は、シリコン系エミッタを有する表示素子に比べて、簡易に作製できると共に、電子放出がよい。
【0027】
ところで、これらの3極構造の表示素子のカーボン系エミッタ成長中、基板表面の触媒層以外の部分(例えば、ライン状のゲート電極間D2)に炭素原子含有ガスに起因する導電性物質(主にアモルファスカーボン)17が生成され(図1(f)参照)、短絡を起こす場合や、後述する4極構造の表示素子において、基板表面の触媒層以外の部分(例えば、ゲート電極間D2、絶縁層12aの側壁や、ゲート電極−フォーカス電極間等)に導電性物質(主にアモルファスカーボン)が堆積し、短絡を起こす場合がある。
【0028】
そこで、本発明では、上記のようにカーボン系エミッタを成長させた後に、紫外線を照射するか又はオゾンを曝露することで電極間に存在する導電性物質を除去し、電極間の短絡を防止することが可能である。
【0029】
以下、紫外線照射により導電性物質を除去する方法を図2に示す紫外線照射装置2を用いて説明する。
【0030】
紫外線照射装置2は、チャンバー21を有し、このチャンバー21底部に基板Sの載置台22を備えている。また、チャンバー21には、載置台22に対向するようにランプハウジング23によって保持されたUVランプ24が設けられている。
【0031】
このUVランプ24を作動させて、載置台22上に載置した基板Sに波長250nm以下の紫外線を30〜3600秒間、好ましくは600秒間以上照射すると、基板表面の触媒層以外の部分、例えば、ライン状のゲート電極13a間に堆積していた短絡の原因である導電性物質17が除去される。
【0032】
次に、図3に示すオゾン曝露装置3を用いて堆積した導電性物質を除去する方法について説明する。
【0033】
オゾン曝露装置3は、排気手段31を備えたチャンバー32を備え、このチャンバー32の底部には基板を載置する載置台33が設けられている。そして、このチャンバー32には、オゾン導入バルブ34を介してオゾナイザー35(例えば、定格電力500W)が接続されている。オゾナイザー35は、放電手段36を有している。この放電手段36は、電極36a及び36bからなり、この電極36a−電極36b間に電圧を印加して放電させるものである。
【0034】
このオゾナイザー35に設けられたガス導入バルブ37を介して酸素含有ガス(例えば、空気又は酸素)がオゾナイザー35内部に導入すると共に、オゾン導入バルブ34と排気手段31との間にチャンバー32と並列になるように設けられたバイパスライン38を開き、このバイパスライン38を介して酸素含有ガスを排気手段31から排出する。同時に、オゾナイザー35を作動させ、放電手段36により放電が始まると、この放電により、オゾナイザー35内の酸素含有ガスが分解され、オゾンが生成される。次いでバイパスライン38を閉じ、生成されたオゾンを、オゾン導入バルブ34を介してチャンバー32に導入し、チャンバー32内の基板載置台33に載置された基板Sをオゾンに曝す。これにより、短絡の原因である導電性物質が除去される。
【0035】
この場合、酸素含有ガスの流量は、2L/minである。
【0036】
前記基板Sとしては、表示素子において通常用いられる基板であれば良く、例えばガラスやシリコン、セラミック(例えば、STOやBTOなど)からなる基板を用いることができる。カソード電極層材料としては、通常カソード電極材料として用いる金属、合金であれば良く、例えばCr、Mo、Cu、W、Al及びNdから選ばれた金属やこれらの金属の少なくとも1種を含む合金を用いることができる。絶縁層材料としては、通常絶縁層として用いる材料でもあれば良く、例えばSiOやジルコニアなどを用いることができる。ゲート電極層としては、通常ゲート電極層として用いる金属、合金であれば良く、例えばCr、Pd、Mo、Nd、Cu、W及びAlから選ばれた金属やこれらの金属の少なくとも1種を含む合金を用いることができる。触媒層材料としては、化学気相成長法において通常触媒材料として用いる金属、合金であれば良く、例えば、Fe、Co及びNiから選ばれた少なくとも1種の金属、或いはインバー、インコネル、ハステロ及びハーバー(Co/Cr/Ni/W/Mo/Mn/C/Be/Fからなる合金)などの合金から選ばれた少なくと1種の合金を用いることができる。
【0037】
上記では、3極構造の表示素子に用いられるカソード基板の作製方法について述べたが、以下4極構造の表示素子に用いられるカソード基板の作製方法について説明する。初めに、3極構造の表示素子のカソード基板と同一の工程で絶縁層(第1の絶縁層とする)上に設けたゲート電極をライン状にパターニングする。その後、該ゲート電極上に第2の絶縁層及びフォーカス電極を順次形成し、フォーカス電極にフォーカスホールを形成し、このフォーカスホールを用いて、第2の絶縁層、ゲート電極、第1の絶縁層をそれぞれエッチングしてひとつの連なったホールを形成すると共に、そのホールの底部にカソード電極を露出させる。次いで、露出されたカソード電極上に触媒層を形成し、CVD法によって触媒層上にカーボン系エミッタを成長させ、所望の4極構造の表示素子用カソード基板を作製する。そして、このカーボン系エミッタ作製後、上記の紫外線照射又はオゾン曝露により基板表面に生成された導電性物質、特にゲート電極間や、ゲート電極−フォーカス電極間などに生成されたアモルファスカーボンを除去する。これにより、電極間の短絡を防止することができる。
【0038】
以下、この短絡の原因である導電性物質が除去されたカソード基板を用いて表示素子を作製する方法について説明する。
【0039】
公知の方法により、蛍光体層、アノード用電極層及び上部基板からなるアノード基板を作製する。例えば、高歪点ガラスからなる上部基板に、スパッタ法によりアノード用電極層としてのITOからなる透明電極層を形成する。そして、この透明電極層上に、ブラックマトリクスのパターンをスパッタ法で形成し、スクリーン印刷法等により、CRT用の蛍光体(P22等)や低加速電圧用に開発された蛍光体を塗布して蛍光体層を形成し、アノード基板を作製する。
【0040】
そして、このアノード基板と、前記したカソード基板とを支持体(例えば、高さ数mmのリブ)を介して、蛍光体層がゲート電極層(4極構造の表示素子の場合には、フォーカス電極)に対向するように貼り合わせて表示素子を構成する。
【実施例1】
【0041】
本実施例では、図1(a)〜(f)に示す作製工程に従ってカソード基板を作製し、その後、図2に示す紫外線照射装置2を用いて導電性物質の除去を行った。初めに、商品名CP−600V(セントラル硝子株式会社製)からなる基板S上に、200℃の基板加熱を行いながら膜厚200nmのCrからなるカソード電極層11を形成し、リソグラフィ法により、ライン状にパターニングした後に、このカソード電極層11の上に、スパッタ法により膜厚3μmのSiOからなる絶縁層12を形成した。次いで、200℃の基板加熱をしながらスパッタ法により膜厚300nmのCrからなるゲート電極層13を形成した。得られたゲート電極層13をリソグラフィ法により、カソード電極層11に直交するライン状にパターニングした後、レジストを塗布した。次いで、KOHを用いたエッチングにより、レジストホールを直径5μmで形成した後に、硝酸第二セリウムアンモニウムを用いたエッチングによりゲートホール13bを直径5μmで作製した。
【0042】
そして、エッチャントとしてバッファードフッ酸を使用して、絶縁層12をエッチングし、ゲートホール13a下に絶縁層ホール12aを形成し、絶縁層ホール12a底部にカソード電極11を露出させた。
【0043】
その後、膜厚5nmの42ニッケルからなる触媒層15をスパッタにより成膜し、レジスト及びレジスト上の触媒層をリフトオフした。ここで、隣り合うライン状のゲート電極間D2の抵抗値を、測定した。即ち、図4に示す得られた基板の上面模式図のP1間〜P4間の各位置で測定した。図4中、例として、ゲートホール13cは、各ゲート電極中11個示してある。また、L−L間での断面図が図1(f)に相当し、導電性物質17は図4中では図示していない。
【0044】
次いで、熱CVD法により、成長温度:600℃、成長時間:20分、プロセスガス比:CO/H=1、及びプロセスガスの総流量400sccmの条件で、露出したカソード電極11に残った触媒層15上にグラファイトナノファイバーを成長させてカーボン系エミッタ16とし、カソード基板を作製した。カソード基板作製後、基板上の同一の位置(図4のP1〜P4)で、ライン状のゲート電極間の抵抗値を測定した。その後、基板を図2に示す紫外線照射装置2の載置台22に載置し、UVランプ(Xeエキシマランプ)を作動させて波長172nmの紫外線を15分間照射したあとに、基板上の同一の位置(図4のP1〜P4)で、ライン状のゲート電極間の抵抗値を測定した。
【0045】
表1に、測定したゲート電極間の抵抗値を示す。
(表1)

【0046】
表1から、GNF成長前には全てのライン状のゲート電極13a間の抵抗値が高く、各電極間は短絡していなかったが、GNF成長時に、導電性物質がライン状のゲート電極13a間に堆積され、電極が短絡していたことがわかった。そして、紫外線を15分照射することで、P3間及びP4間においては抵抗がGNF成長前まで回復し、P1間及びP2間についても紫外線照射前よりも1000倍以上抵抗が増大し、回復した。これにより、所定の紫外線を照射することでゲート電極間の導電性物質を除去できることがわかった。
【実施例2】
【0047】
本実施例では、紫外線照射時間を変化させて紫外線照射による導電性物質の除去を行った。実施例1と同一条件で3枚のカソード基板(1)〜(3)を作製し、GNF作製前とGNF作製後でそれぞれ図4に示すゲート電極間の各位置(P1〜P4)で抵抗値を測定した。次いで、各基板に対し、波長172nmの紫外線を以下の(1)〜(3)の各条件で2回に分けて照射し、各基板での紫外線照射時間が合計30分になるようにして、1回目及び2回目の照射が終了した後に、ゲート電極間の各位置(P1〜P4)で、抵抗値を測定した。
(1)基板1、UV照射1回目:10分 UV照射2回目:20分
(2)基板2、UV照射1回目:15分 UV照射2回目:15分
(3)基板3、UV照射1回目:20分 UV照射2回目:10分
結果を表2に示す。
(表2)

【0048】
表2から、1回目の測定における処理時間が長いほど、抵抗値が高くなったことがわかる。また、15分以上照射すれば、抵抗値が1MΩ以上と十分に高くなり、30分を超えればGNF成長前まで抵抗値が回復することがわかった。
【0049】
(比較例1)
実施例1と同一の条件でカソード基板を作製し、波長が254nmの紫外線を60分間照射した。抵抗値は基板上のどの位置においても1kΩ程度であり、ゲート電極は短絡したままであった。
【実施例3】
【0050】
GNFの成長温度を560℃とした以外は実施例1と同一の条件でカソード基板を作製し、同一の紫外線を20分間照射した。この場合において、GNF成長前、GNF成長後、紫外線照射後に、それぞれP1〜P4の各位置でのゲート電極間抵抗を測定した。結果を表3に示す。
【0051】
(表3)

【0052】
表3から、実施例1及び2に比べて、GNF成長後の抵抗値があがっていた。これは、低温で成長させたために、導電性物質の堆積量が少なかったためと考えられる。これにより、堆積物が少ないと、20分の紫外線照射により、短絡の原因である導電性物質が除去されて、抵抗値がGNF成長前まで回復することがわかった。
【実施例4】
【0053】
本実施例では、実施例1と同一の条件でカソード基板を作製し、GNF成長前後で基板上の同一の位置(図4のP1〜P4)でライン状のゲート電極間の抵抗値を測定した。その後、紫外線ランプとして波長222nmのKClエキシマランプを用いた以外は実施例1と同一の条件で紫外線を15分間照射したあとに、再度基板上の同一の位置(図4のP1〜P4)で、ライン状のゲート電極間の抵抗値を測定した。この場合であっても、GNF成長後に低下したゲート電極間の抵抗値は、紫外線照射によりGNF成長前まで回復した。
【実施例5】
【0054】
紫外線照射の代わりに、図3に示すオゾン曝露装置3を用いて、オゾナイザー35(定格電力500W)を作動させて基板を3分間オゾンに曝した以外は実施例3と同一の条件でカソード基板を作製し、導電性物質を除去した。この場合に、オゾン曝露装置3の実施条件は、ガス流量:2L/minである。
【0055】
GNF成長前、GNF成長後、オゾン曝露後において、カソード基板の各位置(P1〜P4)でゲート電極間の抵抗値を測定した。結果を表4に示す。
(表4)

【0056】
表4から、オゾンを照射した場合には、3分後であってもGNF成長前の抵抗値まで回復した。これにより、オゾンを照射してもゲート電極間に堆積した導電性物質が除去されて、短絡を防止できることがわかった。
【実施例6】
【0057】
本実施例では、実施例1と同一の条件でカソード基板を作製した後に、紫外線を照射して導電性物質を除去した。また、高歪点ガラスからなる上部基板に、ITOからなる透明電極層及びブラックマトリクスのパターンを順次スパッタ法で形成し、スクリーン印刷法等により、蛍光体を塗布して蛍光体層を形成し、アノード基板を作製した。次いで、3極構造型カソード基板のゲート電極層13上に高さ1mmのリブを設けて、カソード基板と得られたアノード基板とを、蛍光体層がゲート電極層13に対向するようにリブを介して貼り合わせて表示素子とした。この表示素子のゲート電極13−カソード電極11間に60Vを印加し、アノードに500V印加すると、蛍光体が発光したので、エミッタからの電子放出を確認することができた。これにより、紫外線照射により、堆積された炭素系の導電性物質は除去されたが、カーボン系エミッタは除去されずに残っており、十分に実用化に耐えうることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明のカソード基板の作製方法によれば、電極間が短絡しないカソード基板を簡易に作製することができる。また、本発明のカソード基板の作製方法により得られたカソード基板を用いれば、エミッタ形成時における導電性物質の生成に起因する電極間の短絡が防止されているため、表示素子の特性を大きく向上させることができる。さらに、このカソード基板を用いた本発明の表示素子は、簡易に作製でき、かつ、表示素子の性能を向上させることが可能である。従って、本発明は、ディスプレイの技術分野で利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明のカソード基板の作製方法を説明するための各工程における基板の模式的断面図である。
【図2】本発明の実施に用いられる紫外線照射装置の構成を示す模式図である。
【図3】本発明の実施に用いられるオゾン曝露装置の構成を示す模式図である。
【図4】実施例における抵抗測定位置を示すための本発明のカソード基板の上面模式図。
【符号の説明】
【0060】
2 紫外線照射装置 3 オゾン曝露装置
11 カソード電極 12 絶縁層
12a 絶縁層ホール 13 ゲート電極層
13a ゲート電極 13b ゲートホール
14 レジスト 15 触媒層
16 カーボン系エミッタ 17 導電性物質
21 チャンバー 23 ランプハウジング
24 UVランプ 31 排気手段
32 チャンバー 34 オゾン導入バルブ
35 オゾナイザー 36 放電手段
36a 電極 36b 電極
37 ガス導入系 38 バイパスライン
S 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、少なくとも、カソード電極、絶縁層及びゲート電極を順次積層し、このゲート電極にゲートホールを形成した後に、このゲートホールを介して絶縁層にホールを形成し、その後、このホール底部に触媒層を形成し、この触媒層に炭素原子含有ガスを接触させてカーボン系エミッタを成長させてなるカソード基板の作製方法において、基板表面に紫外線を照射して、カーボン系エミッタ成長時に基板表面の触媒層以外の場所に生成された導電性物質を除去することを特徴とするカソード基板の作製方法。
【請求項2】
前記紫外線の波長が、250nm以下であることを特徴とする請求項1記載のカソード基板の作製方法。
【請求項3】
前記紫外線を、基板表面に30〜3600秒間照射することを特徴とする請求項1又は2記載のカソード基板の作製方法。
【請求項4】
基板上に、少なくとも、カソード電極、絶縁層及びゲート電極を順次積層し、このゲート電極にゲートホールを形成した後に、このゲートホールを介して絶縁層にホールを形成し、その後、このホール底部に触媒層を形成し、この触媒層に炭素原子含有ガスを接触させてカーボン系エミッタを成長させてなるカソード基板の作製方法において、基板表面にオゾンを曝露して、カーボン系エミッタ成長時に基板表面の触媒層以外の場所に生成された導電性物質を除去することを特徴とするカソード基板の作製方法。
【請求項5】
前記オゾンを、基板表面に10〜3600秒間曝露することを特徴とする請求項4記載のカソード基板の作製方法。
【請求項6】
前記カーボン系エミッタが、グラファイトナノファイバー又はカーボンナノチューブであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のカソード基板の作製方法。
【請求項7】
前記導電性物質が、アモルファスカーボンであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のカソード基板の作製方法。
【請求項8】
前記エミッタを、熱CVD法、プラズマCVD法、及びホットフィラメントCVD法のいずれかにより形成することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のカソード基板の作製方法。
【請求項9】
前記カソード基板が、カソード電極、絶縁層及びゲート電極を有する3極構造の表示素子に用いるカソード基板である場合には、ゲート電極−ゲート電極間に生成された導電性物質を除去することを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のカソード基板の作製方法。
【請求項10】
前記カソード基板が、カソード電極、絶縁層、ゲート電極及びフォーカス電極を有する4極構造の表示素子に用いるカソード基板の場合には、ゲート電極−フォーカス電極間に生成された導電性物質を除去することを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のカソード基板の作製方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載されたカソード基板の作製方法に従って作製されたことを特徴とするカソード基板。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれかに記載されたカソード基板の作製方法に従ってカソード基板を作製した後、このカソード基板と、蛍光体層、アノード用電極層及び上部基板を少なくとも含むアノード基板とを、支持体を介してはり合わせて表示素子を作製することを特徴とする表示素子の作製方法。
【請求項13】
請求項12に記載された表示素子の作製方法に従って作製されたことを特徴とする表示素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−323841(P2007−323841A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−149990(P2006−149990)
【出願日】平成18年5月30日(2006.5.30)
【出願人】(000101710)アルバック成膜株式会社 (39)
【Fターム(参考)】