カフ部材
生体皮下組織から細胞が容易に侵入、生着し、毛細血管が構築されることで皮下組織との癒着が頑強に得られ、その結果、創傷部を外界と隔絶し、治癒機転における細菌感染等の増悪因子を防御し、ダウングロースの進行を抑制し、トンネル感染を始めとする各種の感染トラブルの少ないカフ部材。カフ部材2は、フランジ部3と筒状部4とを有する。カフ部材2は、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂で形成された、平均孔径100〜1000μmで、見掛け密度が0.01〜0.5g/cm3の、連通性のある多孔性三次元網状材料よりなる。フランジ部3に対しパッド5が重ね合わされ、チューブ6が挿通される。
【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は、生体組織からの細胞の侵入が可能で、生体組織と頑強な癒着が得られるカフ部材に係り、特に、カニューレやカテーテル類を皮下刺入する療法である補助人工心臓による血液循環法、腹膜透析療法、中心静脈栄養法、経胃ろう栄養法、経カニューレDDS及び経カテーテルDDSなどの生体皮膚刺入部に有用なカフ部材に関する。
【発明の背景】
【0002】
近年発達した補助人工心臓や腹膜透析などの療法で使用されるカニューレやカテーテルは、外界へ開放された脈管へ挿入・留置される尿道カテーテル、経消化管的栄養法及び気道確保術などと異なり、皮下組織を切開した上で刺入を行って生体内に留置する必要がある。生体内への留置が長期間へ及ぶ場合、生体内と外界を隔て、生体内への細菌の侵入や体液水分の揮発を防止するためにカフ部材(スキンカフなどともいう)を利用して疑似的に刺入部を密閉することが行われている。従来、補助人工心臓による血液循環法では、主としてポリエステル繊維からなるファブリックベロアを刺入カニューレに巻き付け、刺入部において該ファブリックベロアと皮下組織を縫合することで固定し、カニューレを留置している。腹膜透析療法においても、ポリエステル繊維からなるファブッリクベロアなどをカフ部材としてカテーテルの皮膚刺入位置に固定し、このカフ部材を圧迫するように皮下組織を縫合することでカテーテルを留置している。これらファブリックベロアにはコラーゲンなどを含浸させ、より頑強な癒着を狙ったものもある。また、生体適合性に優れる部材からなるカフ部材を刺入部の皮下組織に固定させる方法もある。
【0003】
しかしながら、補助人工心臓による血液循環法は、患者体外に設置された脈動ポンプによって血液循環を補助する療法であるため、約1.5Hzに相当する脈動ポンプの振動がカニューレに伝達している。即ち、カニューレの刺入部は、常時、振動による力学的負荷を受けている。更に、患者自身の体位の変化、刺入部の消毒作業時などにカニューレが動くことによっても皮下組織とカフ部材の接着界面にはこれを剥離しようとする応力が生じている。これらの応力負荷によってカフ部材と皮下組織の癒着性が低下することが要因と判断されるトラブルの代表例に、トンネル感染などの感染トラブルがあり、補助人工心臓療法の症例の中でも、これら感染トラブルの経験数は非常に多くなっている。細菌感染による合併症や心不全へ影響を考慮すれば、本療法においては感染を防止できるカフ部材の開発が急務であるといえる。
【0004】
同様に、皮下刺入を行ってカテーテルを長期間留置する腹膜透析療法においても、カフ部材に大きな課題がある。即ち、この療法では、透析液を注排液するためにカテーテルを腹腔内に留置するが、生体がカテーテルを異物と認識することによりカテーテルを排除しようとする作用が働き、皮下組織とカテーテルが癒着せず、表皮がカテーテルに沿って腹腔内へ入り込むダウングロース現象が生じてしまう。このダウングロースのポケットは、消毒液の到達を困難なものとし、表皮炎症やトンネル感染の要因となり、最終的には腹膜炎の誘発にも繋がっている。緑膿菌性の腹膜炎を頻繁に経験した患者においてSEP(硬化性被繭性腹膜炎)の発症率が高いという報告もあることを考慮すれば、カフ部材の改良による感染防止は腹膜透析療法の大きな課題であるといえる。
【0005】
上述の如く、コラーゲンを主成分とするカフ部材などが開発されているが、このようなカフ部材の場合、生理食塩水、アルコール、イソジン、血液、体液など液体を吸収することで体積が減少し、カテーテル刺入部に皮下組織を増殖させることが困難であり、その結果、ダウングロースの抑制効果は得られていない。
【0006】
皮下組織を増殖させることができるスポンジ状材料を利用するカフ材として、生体適合性のある樹脂製の多孔体をカテーテルなどの刺入管へ配置するものが特表平4−502722号公報に開示されている。しかしながら、このようなカフ材においては多孔体部分には皮下組織が浸潤して器質化されても、表皮は多孔体へ接着することなく刺入管へ沿って皮下組織へ潜り込んでしまい、その結果、ダウングロースは抑制されない。
【0007】
略円盤のような多孔体と筒状の多孔体とを組み合わせて、円盤面に皮下組織を浸潤させるカフ材が考えられているが、円盤状の多孔体への皮下組織の浸潤は良好でありダウングロースを抑制することに効果はあるものの、表皮の接着は達成されず、表皮がカテーテルの体外露出部へ這って行くことで、表皮と円盤状多孔体の間に隙間が発生し、ここに膿や消毒液残骸が溜まることなどを要因としてポケット感染を惹起する問題があった。
【0008】
補助人工心臓療法においては、上記したダウングロースの問題以外に大きな問題がある。それは、カニューレ刺入部では皮下組織と外界との隔絶性が低くなっているために刺入部を水で濡らすことが許されず、日常行われる患者の身体を清潔に保つための処置としては体表面を清浄綿などで拭うのみで、入浴は勿論のことシャワーを浴びることも不可能となっている。このことは患者のQOL(クオリティー・オブ・ライフ)を非常に低いものとしている。
【発明の概要】
【0009】
本発明は、かかる従来技術の問題を顧みて達成されたものであり、ダウングロース作用による露出が抑制されるカフ部材ユニットとそのためのカフ部材とを提供することを目的とする。特に、本発明は、生体皮下組織から細胞が容易に侵入、生着し、毛細血管が構築されることで皮下組織との癒着が頑強に得られ、その結果、ダウングロースの進行を抑制し、トンネル感染を始めとする各種の感染トラブルの少ないカフ部材であって、補助人工心臓療法などにおいても皮下組織と外界との隔絶性を向上させ、患者がシャワーを浴びることも可能となるカフ部材を提供することを目的とする。
【0010】
第1アスペクトのカフ部材は、生体の外面に重なるフランジ部と、該フランジ部の一方の面から立設された筒状部とを有するカフ部材であって、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂よりなる基材樹脂で形成された、平均孔径50〜1000μmで、見掛け密度が0.01〜0.5g/cm3の、連通性のある多孔性三次元網状構造部を有することを特徴とするものである。
【0011】
第2アスペクトのカフ部材は、生体刺入管のカフ部材であって、生体に重なる第1フランジ部と、該第1フランジ部の一方の面から立設された筒状部と、一方の面が該第1フランジ部の他方の面に重なる第2フランジ部と、該第2フランジ部の他方の面に重なる高分子材料製パッドとを有しており、前記第1フランジ部及び筒状部が熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂よりなる基材樹脂で形成された、平均孔径100〜1000μmで見掛け密度が0.01〜0.5g/cm3の連通性のある多孔性三次元網状構造部を有しており、前記第2フランジ部が熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂よりなる基材樹脂で形成された、平均孔径1〜100μmで見掛け密度が0.05〜1g/cm3の、連通性のある多孔性三次元網状構造部を有していることを特徴とするものである。
【0012】
第1及び第2アスペクトのカフ部材は、上記特定の平均孔径及び見掛け密度を有する、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂からなる、連通性のある多孔性三次元網状構造部を有するため、この多孔性三次元網状構造部の空孔部分へ細胞が容易に侵入して生着し、生体組織と頑強な癒着が得られる。
【0013】
第1及び第2アスペクトのカフ部材によれば、生体皮下組織から細胞が容易に侵入、生着し、毛細血管が構築されることで皮下組織との癒着が頑強に得られ、その結果、創傷部を外界と隔絶し、治癒機転における細菌感染等の増悪因子を防御ダウングロースの進行を抑制し、トンネル感染を始めとする各種の感染トラブルの少ないカフ部材が提供される。
【0014】
第1及び第2アスペクトのカフ部材は、カニューレやカテーテル類を皮下刺入する療法である補助人工心臓による血液循環法、腹膜透析療法、中心静脈栄養法、経胃ろう栄養法、経カニューレDDS及び経カテーテルDDSなどの生体皮膚刺入部に好適に使用することができる。
【0015】
第1アスペクトのカフ部材を用いたカフ部材にあっては、フランジ部がパッドによって覆われ、且つ該パッドがフランジ部よりも外方にまで延出している。このため、皮膚のダウングロース作用が筒状部にまで及ぶのに時間がかかるし、水がカニューレに沿って皮下組織へ浸入することを防ぐことも可能となる。
【0016】
第2アスペクトのカフ部材では、高分子樹脂製パッドによって覆われた第1フランジ部が存在するために、ダウングロース作用が筒状部にまで及ぶのに時間がかかるし、液体がカニューレに沿って皮下組織へ浸入することも防止される。第1フランジ部は皮下へ埋入され、皮下組織の浸潤によって器質化される。第1フランジ部の上に存在する表皮の末端は第2フランジ部のエッヂ部分に接着し、高分子樹脂製パッド上へ這い上がることなく装着術を施すことが可能である。表皮が高分子樹脂製パッド下へ潜り込む現象現象が長期にわたり防止される。
【0017】
この結果、長期にわたり、ダウングロースの影響を受けることなく生体に対しカフ部材ユニットを装着しておくことができ、刺入カニューレを濡らすこともなく補助人工心臓療法において患者がシャワーを浴びることも可能となる。
【0018】
また、パッドが生体の外面に重なるので、チューブの脈動などの振動がパッドを介しても生体に伝達されるようになり、チューブから生体に加えられる応力が広い範囲に分散される。第2アスペクトでは、表皮を第2フランジ部へ接着させて固定するため、パッドの上まで表皮を引き上げることなく装着術が可能で、かつ表皮がパッドの下を目指して潜り込もうとする現象を止めることにより、感染ポケットを形成させないようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施の形態に係るカフ部材の構成図である。
【図2】図1のカフ部材の使用例を示す断面図である。
【図3】比較例の説明図である。
【図4】別の実施の形態に係るカフ部材の構成図である。
【図5】図5a及び図5bはさらに別の実施の形態に係るカフ部材の構成図である。
【図6】多孔質構造体の切断面の典型的なSEM写真である。
【図7】多孔質構造体の孔径分布を示す図である。
【図8】第1アスペクトのカフ部材を使用し、器質化されたフランジ部上で成ヤギの表皮とパッド部が良好に接着している状況を示す写真である。
【図9】比較例においてチューブ6に沿って感染とダウングロース現象が観察された状況を示す写真である。
【図10】図10a及び図10bは第2アスペクトの実施の形態に係るカフ部材ユニットの構成図である。
【図11】図10のカフ部材ユニットの使用例を示す断面図である。
【図12】別の実施の形態に係るカフ部材ユニットの構成図である。
【図13】図13a及び図13bはさらに別の実施の形態に係るカフ部材ユニットの構成図である。
【図14】第2フランジ部の多孔質構造体の孔径分布を示す図である。
【図15】カフ部材の成ヤギへの埋込状況を示す写真である。
【図16】第2アスペクトのカフ部材ユニットを使用し、器質化されたフランジ部上で成ヤギの表皮とパッド部が良好に接着している状況を示す写真である。
【図17】多孔性構造層に浸潤した組織を示す写真である。
【図18】術後3ヶ月経過した、第2アスペクトのカフ部材の写真である。
【図19】術後12ヶ月経過した、第2アスペクトのカフ部材の写真である。
【図20】術後12ヶ月経過した、第2アスペクトのカフ部材の第2フランジと表皮との境界付近の組織標本を示す写真である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に本発明のカフ部材の実施の形態を詳細に説明する。
【0021】
第1a図は第1アスペクトの実施の形態に係るカフ部材の分解斜視図、第1b図はこのカフ部材の縦断面図、第2図はこのカフ部材の使用例を示す断面図、第3図は比較例を示す断面図、第4,5図は第1アスペクトの別の実施の形態に係るカフ部材の縦断面図である。
【0022】
第1図の通り、カフ部材2は、フランジ部3と、このフランジ部3の一方の面から立設された筒状部3bとを有する。フランジ部3の中央には直径が5〜100mm程度の円形の開口3aが筒状部3bと同軸に設けられている。カフ部材には複数のチューブ6を通すことも可能である。例えば、補助人工心臓療法では送血管及び脱血管の2本のチューブ6(カニューレ)を患者へ刺入するが、この場合にパッド5に2個の開口5aを設け、フランジ部3に2個の開口3aと2本の筒状部3bを設けることで、1個のカフ部材にて2本のチューブを刺入することができ、患者への侵襲を低減できる可能性もある。送血管と脱血管をそれぞれ独立に2個カフ部材又はカフ部材ユニットにて刺入した方が良いか、1個のカフ部材又はカフ部材ユニットで送血管及び脱血管を同時に刺入する方が良いか、臨床学的意義、患者の状態、侵襲程度を考慮して当業者によって適宜使い分ければ良いし、あるいは、送血管及び脱血管をこれらよりも太い1本のチューブ内へ挿入し、当該1本のチューブをカフ部材又はカフ部材ユニットを介して生体へ刺入する、いわゆるダブルルーメン式でチューブを挿入することも可能である。もちろん、補助人工心臓療法以外でも1本のチューブ内に人工心臓のポンプ用の電源コード、制御用コード、測定用コード、DDS用の細チューブなど複数の線状構造体を一本のチューブ内にまとめてカフ部材又はカフ部材ユニットを介して刺入することも可能である。
【0023】
この開口3aの直径は筒状部3bの内径(直径)と同一となっている。
【0024】
このカフ部材2は、後述する生体組織との癒着性に優れた多孔性樹脂材料よりなり、筒状部3bとフランジ部2とが一体に設けられたものである。
【0025】
フランジ部3は円形、楕円形、レンズ形、涙滴形等の平面視形状を有するものが使用可能であるが、通常、皮膚をメスで直線に切開した場合には図1に例示されるような楕円形に生体組織が露出されるので、該露出部位を効率良く被覆できる楕円形であることが好ましい。フランジ部3の厚さは該フランジ部3の物理的強度以外に、後述するカフ部材2の平均孔径やその傾斜性(これらは組織浸潤深度や分化程度へ影響する)など複雑な因子が関連するが、通常は0.05〜20mm程度が好適である。フランジ3が円形の場合、その直径は10〜200mm程度が好適である。フランジ部3が楕円形、レンズ形、涙滴形等の場合、長径が10〜200mmであり、短径が長径の5〜80%程度であることが好ましい。
【0026】
筒状部3bの長さは10〜500mm程度が好適であり、筒状部3bの肉厚は該筒状部3bの物理的強度以外に、後述するカフ部材2の平均孔径やその傾斜性(これらは組織浸潤深度や分化程度へ影響する)など複雑な因子が関連するが、通常は0.05〜20mm程度が好適である。ここで筒状部3bは直線状とは限らず、刺入部位からチューブに沿って自在に曲げて使用することが可能である。
【0027】
該カフ部材2のフランジ部3の他方の面にパッド5が重ね合わされ、接着等によって一体化されている。このパッド5は、フランジ部3と相似形であるがフランジ部3よりも小さいことが好ましい。このパッド5には、フランジ部3の開口3aと同軸に且つ該開口3aと同一大きさにて開口5aが設けられている。
【0028】
このパッド5は、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、エポシキ樹脂、ポリイミド樹脂、シリコン樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、キチン、キトサン、ケラチン、ヒアルロン酸、フィブロイン並びにこれらの誘導体よりなる群から選択される1種又は2種以上などの高分子材料よりなる。
【0029】
パッド5の厚みは高分子材料の柔軟性とも関連するが、0.1〜100mm程度が好適である。刺入する部位によって当業者によって適宜選択すれば良い。例えば、体側面であれば曲面に追随するためにやや柔軟なパッドを使用し、胸部中央付近の肋骨上であれば体表はほぼ平らであるため、やや硬めのパッドを使用するなどである。このカフ部材2は、生体外面からチューブ6を生体内に刺入する用途に好適に用いられる。
【0030】
チューブ6は開口5a、3a及び筒状部3bに挿通され、パッド部5に高周波融着、熱融着、レーザー融着、超音波融着、接着剤等により水密的に接着されても良いし、射出成形を利用してパッド5とチューブ6の一部又は全部を一体成形することも可能である。この実施の形態では、パッド5とチューブ6とを接着剤7によって固着している。
【0031】
このカフ部材2を用いてチューブ6を生体に刺入するには、第2図の通り皮膚を切開して組織を露出させ、露出した組織の外縁部の皮下組織を少こしだけ剥離してポケットを作成する。また、生体組織を切開してチューブ6を生体組織に刺入し、フランジ部3を生体組織の外面に重ね合わせる。筒状部3bをチューブ6と共に生体組織内に埋め込む。チューブ6の周囲の生体組織切開部は必要に応じ縫合される。第1フランジ部3は生体組織の露出面に被さると共に、皮下組織を剥離して作成したポケット内すなわち表皮の下へ埋入される。第2フランジ部4は、生体組織の露出面の周囲の皮膚の縁部に重ね合わされる。カフ部材2を患者体表へ固定するには第2フランジ部4を表皮と縫合すれば良い。第2フランジ部は柔軟な三次元網状構造の材料からなるため、通常の縫合針で楽に縫合が行える。さらに、第2フランジ部4の外縁とその周囲の皮膚に跨るようにして、通気性及び遮水性を有した粘着テープ(図示略)が貼着されてもよく、このようにすれば、水等の浸入を防止することも可能である。
【0032】
このようにカフ部材2を用いてチューブ6を生体組織に刺入した場合、皮膚のダウングロースは、初期には第2フランジ部4と第1フランジ部の境界面を狙って進行しようとするが、ここには表皮が侵入できるスペースが物理的に存在しないため、第1フランジ部の外縁方向へ、最終的には第1フランジ部の下側を目指して、すなわち、表皮が縫合部位から退縮するように進行しようとする。しかしながら本発明のカフ部材2では、生体組織側から第1フランジ部へ浸潤した組織が該フランジを貫通して表皮の裏まで到達するため、生体組織との連絡ができた表皮は第1フランジ上での退縮が顕著に抑制され、表皮末端部が第2フランジ部と密接するように維持される。
【0033】
また、チューブ6の脈動等によりチューブ6から生体に加えられる応力がパッド5を介しても生体に伝わるようになり、応力が広い範囲に分散する。このため、チューブ6の周囲の生体組織に加えられる刺激が緩和される。
【0034】
第3図は、特表平4−502722号公報が開示するような、カフ部材2と同種の材料からなる円筒状のカフ部材8をチューブ6の外面に装着し、生体組織に刺入した比較例を示す。
【0035】
この場合、皮膚のダウングロースは、矢印Dの通り、カフ部材8に沿って生体組織内に向って進行するため、カフ部材8が早期に多量に露出するようになる。また、チューブ6の周囲の狭い範囲にチューブ6の脈動等の振動が集中して加えられる。第1、2図のカフ部材ユニット1によると、このような短所が解消される。
【0036】
第1a、1b、2図では、チューブ6は生体外面と垂直状に延出しているが、第4図のチューブ6Aのように斜めに延出してもよく、第5a,5b図のチューブ6Bのようにパッド5に沿うように延出してもよい。これは、患者の体位と刺入管が接続される医療機器との関係や、チューブ6,6A,6Bの重量、可動幅などを考慮して当業者によって適宜選択されれば良い。
【0037】
第10a図は第2アスペクトの実施の形態に係るカフ部材2’の分解斜視図、第10b図はこのカフ部材の縦断面図、第11図はこのカフ部材の使用例を示す断面図、第12,13図は第2アスペクトの別の実施の形態に係るカフ部材の縦断面図である。
【0038】
第10a,10b図の通り、カフ部材2’は、第1フランジ部3と、この第1フランジ部3の一方の面から立設された筒状部3bと、第2フランジ部4と、パッド5とを有する。第1フランジ部3の中央には直径が5〜100mm程度の円形の開口3aが筒状部3bと同軸に設けられている。第2フランジ部4及びパッド5にも開口3aと同軸かつ同径の開口4a,5aが設けられている。従って、開口3a,4a,5aの直径は筒状部3bの内径(直径)と同一となっている。
【0039】
これらの開口3a〜5a及び筒状部3bにチューブ6が挿通される。なお、図示のカフ部材には1本のチューブ6が挿通されているが、開口及び筒状部を複数セット設けることにより複数のチューブ6を通すことも可能である。例えば、補助人工心臓療法では送血管及び脱血管の2本のチューブ6(カニューレ)を患者へ刺入するが、この場合にパッド5に2個の開口5aを設け、フランジ部3,4にそれぞれ2個の開口3a,4aと2本の筒状部3bを設けることで、1個のカフ部材又はカフ部材ユニットにて2本のチューブを刺入することができ、患者への侵襲を低減できる可能性もある。
【0040】
第1フランジ部3及び筒状部3b並びに第2フランジ部4は、後述する生体組織との癒着性に優れた多孔性樹脂材料にて構成されている。この多孔性樹脂は、三次元網状構造の多孔構造を有している。筒状部3bと第1フランジ部3とは一体に設けられている。
【0041】
第1フランジ部3は円形、楕円形、レンズ形、涙滴形等の平面視形状を有するものが使用可能であるが、通常、皮膚をメスで直線に切開した場合には図1に例示されるような楕円形に生体組織が露出されるので、該露出部位を効率良く被覆できる楕円形であることが好ましい。第1フランジ部3の厚さは該第1フランジ部3の物理的強度以外に、後述する第1フランジ部3の平均孔径やその傾斜性(これらは組織浸潤深度や分化程度へ影響する)など複雑な因子が関連するが、通常は0.2〜50mm特に0.2〜10mmとりわけ1〜7mm程度が好適である。第1フランジ部3が円形の場合、その直径は10〜200mm程度が好適である。第1フランジ部3が楕円形、レンズ形、涙滴形等の場合、長径が10〜200mmであり、短径が長径の5〜80%程度であることが好ましい。
【0042】
筒状部3bの長さは10〜500mm程度が好適である。筒状部3bの肉厚は該筒状部3bの物理的強度以外に、後述する第1フランジ部3の平均孔径やその傾斜性(これらは組織浸潤深度や分化程度へ影響する)など複雑な因子が関連するが、通常は0.05〜20mm程度が好適である。ここで筒状部3bは直線状とは限らず、刺入部位からチューブに沿って自在に曲げて使用することが可能である。
【0043】
第2フランジ部4は第1フランジ部3よりも若干小さい大きさであり、好ましくは第1フランジ部3の外縁が第2フランジ部4の外縁よりも10〜20mm特に好ましくは約15mm程度張り出すものとなっている。
【0044】
第2フランジ部4には凹所4bが設けられ、この凹所4にパッド5が嵌合配置される。
【0045】
第2フランジ部4がパッド5の外縁から延出する幅は0.1〜30mm程度が好ましい。この第2フランジ部4がパッド5の外縁から延出する幅は該第2フランジ部4の厚み方向において変化してもよく、例えばパッドの上面において3mm以下であって、第1フランジ部3と接する底面において1mm〜30mmであってもよい。
【0046】
このパッド5の材料及び厚みは第1アスペクトの場合と同様である。
【0047】
フランジ部3,4及びパッド5は重ね合わされ、例えば接着剤により接着されること等により一体化される。
【0048】
チューブ6は開口5a、4a、3a及び筒状部3bに挿通され、パッド部5に高周波融着、熱融着、レーザー融着、超音波融着、接着剤等により水密的に接着されても良いし、射出成形を利用してパッド5とチューブ6の一部又は全部を一体成形することも可能である。この実施の形態では、パッド5とチューブ6とを接着剤7によって固着している。
【0049】
このカフ部材2’を用いてチューブ6を生体に刺入するには、第11図の通り皮膚を切開して生体組織を露出させ、露出した組織の外縁部の皮下組織を少しだけ剥離してポケットを作成する。また、生体組織を切開してチューブ6を生体組織に刺入し、筒状部3bをチューブ6と共に生体組織内に埋め込まれる。チューブ6の周囲の生体組織切開部は必要に応じ縫合される。第1フランジ部3は生体組織の露出面に被さると共に、前記、皮下組織を剥離して作成したポケット内すなわち表皮の下へ埋入される。第2フランジ部4は、生体組織の露出面の周囲の皮膚の縁部に重ね合わされる。カフ部材2’を患者体表へ固定するためには第2フランジ部4を表皮と縫合すれば良い。第2フランジ部は柔軟な三次元網状構造の材料からなるため、通常の縫合針で楽に縫合が行える。さらに、第2フランジ部4の外縁とその周囲の皮膚に跨るようにして、通気性及び遮水性を有した粘着テープ(図示略)が貼着され、水等の浸入を防止することも可能である。
【0050】
このようにカフ部材2’を用いてチューブ6を生体組織に刺入した場合、皮膚のダウングロースは、初期には第2フランジ部4と第1フランジ部の境界面を狙って進行しようとするが、ここには表皮が侵入できるスペースが物理的に存在しないため、第1フランジ部の外縁方向へ、最終的には第1フランジ部の下側を目指して、すなわち、表皮が縫合部位から退縮するように進行しようとする。しかしながら本発明のカフ部材2’では、生体組織側から第1フランジ部へ浸潤した組織が該フランジを貫通して表皮の裏まで到達するため、生体組織との連絡ができた表皮は第1フランジ上での退縮が顕著に抑制され、表皮末端部が第2フランジ部と密接するように維持される。
【0051】
第10a,10b,11図では、チューブ6は生体外面と垂直状に延出しているが、第12図のチューブ6Aのように斜めに延出してもよく、第13a,13b図のチューブ6Bのようにパッド5に沿うように延出してもよい。これは、患者の体位と刺入管が接続される医療機器との関係や、チューブ6,6A,6Bの重量、可動幅などを考慮して当業者によって適宜選択されれば良い。なお、第13b図ではチューブのガイド筒5gがパッド5と一体に設けられている。
【0052】
次に、カフ部材の好適な材料について説明する。
【0053】
第1及び第2アスペクトのカフ部材のフランジ部3,第1フランジ部3及び筒状部3bを構成する熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂からなる、連通性のある三次元網状構造部は、平均孔径が50〜1000μm特に100〜1000μm、見掛け密度が0.01〜0.5g/cm3の多孔性三次元網状構造であれば良く、厚み方向の切断断面において、その全面が類似の構造を有してもいても、一方の面側と他方の面側において異なる構造を有していても良い。また、部分的に平均孔径や見掛け密度が変化するものであっても良く、例えば、一方の面側から他方の面側に向けて平均孔径や見掛け密度が徐々に変化する、所謂、異方性を有していても良い。厚み方向に平均孔径が同一でないカフ部材を使用する場合には、生体組織との接触面側を大きくし深部において小さい孔径とすることが好ましい。この理由としては、生体組織との接触面から浸潤した組織は、通常厚み方向へ10mm程度の深度までは安定して到達するが、多孔体内に形成される新生血管が成熟していても深部の細胞は壊死したり分化が不十分となる危険性があるため、10mm程度よりも深い部分では孔径を小さくして組織の浸潤を抑制することが好ましいのである。
【0054】
また、生体組織との接触面側には平均孔径を大きく外れる大孔径の孔が存在しても構わない。このような孔としては500〜2000μm程度の孔が好ましく、これらが生体組織側の表層近くに存在することでコラーゲンなどの細胞外マトリックスを深部まで均質に含浸させること容易となり、また、組織からの細胞の侵入や毛細血管の構築などに有利に働くこととなる。ただし、このような大孔径の孔は、本発明でいう多孔性三次元網状構造の平均孔径の計算の概念に導入されるものではない。
【0055】
第1フランジ部3及び筒状部3aの多孔性三次元網状構造の平均孔径は50〜1000μm特に100〜1000μmで、見掛け密度が0.01〜0.5g/cm3であるが、好ましい平均孔径は150〜600μm、より好ましくは200〜500μmである。見掛け密度としては0.01〜0.5g/cm3範囲内であれば、細胞生着性が良好で、優れた物理的強度を維持し、細胞が侵入、生着し、組織化した際に皮下組織と近似した弾性特性が得られるが、好ましくは0.03〜0.3g/cm3、より好ましくは0.05〜0.2g/cm3である。
【0056】
また、平均孔径が同一であっても孔径の分布としては、細胞の侵入に重要な孔径サイズである150〜400μmの孔の寄与率が高いことが望ましく、孔径150〜400μmの孔の寄与率が10%以上、好ましくは20%以上、より好ましくは30%以上、更に好ましくは40%以上、特に好ましくは50%以上であると、細胞が侵入し易く、また、侵入した細胞が接着、成長しやすいため、好ましい。
【0057】
なお、多孔性三次元網状構造の平均孔径における孔径150〜400μmの孔の寄与率とは、後述の実施例1における平均孔径の測定方法における、全孔の数に対する孔径150〜400μmの孔の数の割合を指す。
【0058】
このような平均孔径、見掛け密度及び孔径分布の多孔性三次元網状構造であれば、細胞が容易に空孔部分へ浸透し、多孔性三次元網状構造部へ細胞が接着、成長し易く、毛細血管の構築がなされ、刺入部において皮下組織とカテーテルやカニューレとの癒着が頑強で良好なカフ部材を得ることができる。
【0059】
第2フランジ部4について次に説明する。
【0060】
第2フランジ部4は多孔性三次元網状構造部の平均孔径が5〜80μmで、見掛け密度が0.1〜0.7g/cm3であること、特に、多孔性三次元網状構造部の平均孔径が10〜70μmで、見掛け密度が0.1〜0.5g/cm3であることが好ましい。
【0061】
第2フランジ部4の多孔性三次元網状構造部の平均孔径における孔径30〜60μmの孔の寄与率が10%以上、特に30%以上、とりわけ50%以上であることが望ましい。
【0062】
第2フランジ部4の厚みは0.1〜10mm特に0.5〜5mmが望ましい。
【0063】
このような多孔性三次元網状構造部を構成する熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂としては、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、エポシキ樹脂、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂及びメタクリル樹脂並びにそれらの誘導体の1種又は2種以上が例示できるが、好ましくはポリウレタン樹脂であり、中でもセグメント化ポリウレタン樹脂が好適である。
【0064】
セグメント化ポリウレタン樹脂は、ポリオール、ジイソシアネート及び鎖延長剤の3成分から合成され、いわゆるハードセグメント部分とソフトセグメント部分を分子内に有するブロックポリマー構造によるエラストマー特性を有するため、このようなセグメント化ポリウレタン樹脂を使用した場合に得られる弾性特性は、患者やカテーテル又はカニューレが動いた場合や、消毒作業時等に刺入部周辺の皮膚を動かした場合に皮下組織とカフ部材の界面に生じる応力を減衰させる効果が期待できる。
【0065】
本発明のカフ部材には、上記特定の多孔性三次元網状構造を形成した層を第1の層とし、この第1の層に更に異なる構造の第2の層を積層することも可能である。この第2の層としては、繊維集合体や可撓性フィルム、更には、第1の層の多孔性三次元網状構造とは平均孔径や見掛け密度が異なる多孔性三次元網状構造層が使用可能である。
【0066】
不織布又は織布の有孔性としては100〜5000cc/cm2/minの範囲のものであれば可撓性、皮下組織との縫合強度など点で好ましい。なお、この有孔性は、JIS L 1004により測定される値で、通気性や通気量ということもある。
【0067】
繊維集合体としては、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、アクリル樹脂及びメタクリル樹脂並びにこれらの誘導体よりなる群から選択される1種又は2種以上からなる合成樹脂製であっても良く、また、フィブロイン、キチン、キトサン及びセルロース並びにこれらの誘導体から選択される1種又は2種以上のような天然物由来の繊維からなるものも使用可能である。合成繊維と天然物由来の繊維とを併用したものであっても良い。
【0068】
また、可撓性フィルムとしては、熱可塑性樹脂フィルム、具体的には、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、エポシキ樹脂、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂及びメタクリル樹脂並びにこれらの誘導体よりなる群から選択される1種又は2種以上よりなるフィルムが例示でき、好ましくは、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニル、フッ素樹脂及びシリコン樹脂よりなる群から選択される1種又は2種以上よりなるフィルムである。
【0069】
この可撓性フィルムの厚さは好ましくは0.1〜500μm、特に0.1〜100μm、とりわけ0.1〜50μm、最適には0.1〜10μmである。
【0070】
可撓性フィルムとしては中実フィルムのみならず多孔膜や発泡体も使用可能である。中実の可撓性フィルムと積層した場合には、細菌バリア性が大きく、感染管理に有利なカフ部材が得られる。
【0071】
平均孔径や見掛け密度が第1の層の多孔性三次元網状構造とは異なる多孔性三次元網状構造を第2の層とする場合、この多孔性三次元網状構造としては、平均孔径0.1〜200μmで見掛け密度0.01〜1.0g/cm3、厚さ0.2〜20mm程度の多孔性三次元網状構造を用いることができる。
【0072】
これらの第2の層を多孔性三次元網状構造層に積層する方法としては、該第2の層が繊維集合体、可撓性フィルム、第1の層の多孔性三次元網状構造とは平均孔径や見掛け密度が異なる多孔性三次元網状構造層の場合には、粘着剤を使用して接着する方法、特にホットメルト不織布を第1の層と第2の層との間に挟みこんで積層し、加熱下で圧着する方法などが挙げられる。このようなホットメルト不織布としては、例えば、日東紡社製PA1001のようなポリアミド型熱粘着シートなどが使用可能である。他にも、溶剤を使用して接触表面の表層部を溶解して接着する方法、熱によって表層部を溶融して接着する方法、超音波や高周波を利用する方法などが例示できる。また、第1の層の製造時に、ポリマードープと繊維集合体や可撓性フィルムを積層して成形するなど、連続的に積層形成することができる。
【0073】
なお、第2の層としては、繊維集合体、可撓性フィルム、多孔性三次元網状構造層が2層以上設けられていても良く、また、第2の層を介して第1の層の多孔性三次元網状構造層が積層された3層構造であっても良い。
【0074】
第1及び第2アスペクトのカフ部材の多孔性三次元網状構造部には、コラーゲンタイプI、コラーゲンタイプII、コラーゲンタイプIII、コラーゲンタイプIV、アテロ型コラーゲン、フィブロネクチン、ゼラチン、ヒアルロン酸、ヘパリン、ケラタン酸、コンドロイチン、コンドロイチン硫酸、コンドロイチン硫酸B、エラスチン、ヘパラン硫酸、ラミニン、トロンボスポンジン、ビトロネクチン、オステオネクチン、エンタクチン、ヒドロキシエチルメタクリレートとジメチルアミノエチルメタクリレートの共重合体、ヒドロキシエチルメタクリレートとメタクリル酸の共重合体、アルギン酸、ポリアクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド及びポリビニルピロリドンよりなる群から選択される1種又は2種以上が保持されていても良く、更に血小板由来増殖因子、上皮増殖因子、形質転換増殖因子α、インスリン様増殖因子、インスリン様増殖因子結合蛋白、肝細胞増殖因子、血管内皮増殖因子、アンジオポイエチン、神経増殖因子、脳由来神経栄養因子、毛様体神経栄養因子、形質転換増殖因子β、潜在型形質転換増殖因子β、アクチビン、骨形質タンパク、繊維芽細胞増殖因子、腫瘍増殖因子β、二倍体繊維芽細胞増殖因子、ヘパリン結合性上皮増殖因子様増殖因子、シュワノーマ由来増殖因子、アンフィレグリン、ベーターセルリン、エピグレリン、リンホトキシン、エリスロエポイエチン、腫瘍壊死因子α、インターロイキン−1β、インターロイキン−6、インターロイキン−8、インターロイキン−17、インターフェロン、抗ウイルス剤、抗菌剤及び抗生物質よりなる群から選択される1種又は2種以上が保持されていても良く、更に、胚性幹細胞(分化されていても良い。)、血管内皮細胞、中胚葉性細胞、平滑筋細胞、末梢血管細胞、及び中皮細胞よりなる群から選択される1種又は2種以上の細胞が接着されていても良い。
【0075】
第1及び第2アスペクトのカフ部材は、その多孔性三次元網状構造層を構築する熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂からなる骨格自体にも微細な孔を設けることが可能である。このような微細孔は、骨格表面を平滑な表面でなく複雑な凹凸のある表面とし、コラーゲンや細胞増殖因子などの保持にも有効であり、結果として細胞の生着性を上げることが可能である。ただし、この場合の微細孔は、本発明でいう多孔性三次元網状構造層の平均孔径の計算の概念へ導入されるものではない。
【0076】
以下に、本発明のカフ部材を構成する熱可塑性ポリウレタン樹脂よりなる多孔性三次元網状構造体の製造方法の一例を挙げるが、本発明のカフ部材の製造方法は何ら以下の方法に限定されるものではない。
【0077】
熱可塑性ポリウレタン樹脂よりなる多孔性三次元網状構造体を製造するには、まず、ポリウレタン樹脂と、孔形成剤としての後述の水溶性高分子化合物と、ポリウレタン樹脂の良溶媒である有機溶媒とを混合してポリマードープを製造する。具体的には、ポリウレタン樹脂を有機溶媒に混合して均一溶液とした後、この溶液中に水溶性高分子化合物を混合分散させる。有機溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリジノン、テトラヒドロフランなどがあるが、熱可塑性ポリウレタン樹脂を溶解することができればこの限りではなく、また、有機溶媒を減量するか又は使用せずに熱の作用でポリウレタン樹脂を融解し、ここに孔形成剤を混合することも可能である。
【0078】
孔形成剤としての水溶性高分子化合物としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、アルギン酸、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロースなどが挙げられるが、熱可塑性樹脂と均質に分散してポリマードープを形成するものであればこの限りではない。また、熱可塑性樹脂の種類によっては、水溶性高分子化合物でなく、フタル酸エステル、パラフィンなどの親油性化合物や塩化リチウム、炭酸カルシウムなどの無機塩類を使用することも可能である。また、高分子用の結晶核剤などを利用して凝固時の二次粒子の生成、即ち、多孔体の骨格形成を助長することも可能である。
【0079】
熱可塑性ポリウレタン樹脂、有機溶媒及び水溶性高分子化合物などより製造されたポリマードープは、次いで熱可塑性ポリウレタン樹脂の貧溶媒を含有する凝固浴中に浸漬し、凝固浴中に有機溶媒及び水溶性高分子化合物を抽出除去する。このように有機溶媒及び水溶性高分子化合物の一部又は全部を除去することにより、ポリウレタン樹脂からなる多孔性三次元網状構造材料を得ることができる。ここで用いる貧溶媒としては、水、低級アルコール、低炭素数のケトン類などが例示できる。凝固したポリウレタン樹脂は、最終的には、水などで洗浄して残留する有機溶媒や孔形成剤を除去すれば良い。
【実施例及び比較例】
【0080】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0081】
実施例1では第1アスペクトに係る第1b図に示される形状のカフ部材を作成してヤギ移植実験を行った。動物実験に関しては国際標準規格に従って倫理面に配慮し、適切に行った。
【0082】
[実施例1]
<多孔体の製造>
熱可塑性ポリウレタン樹脂(日本ミラクトラン社製、ミラクトランE980PNAT)をN−メチル−2−ピロリジノン(関東化学社製、ペプチド合成用試薬、NMP)にディゾルバー(約2,000rpm)を使用して室温下で溶解して12.5%溶液(重量/重量)を得た。このNMP溶液約1.0kgをプラネタリーミキサー(井上製作所製、2.0L仕込み、PLM−2型)に秤量して入れ、ポリウレタン樹脂の半分重量相当のメチルセルロース(関東化学社製、試薬、50cpグレード)を添加し、60℃で120分間攪拌した。攪拌を継続したまま10分間20mmHg(2.7kPa)まで減圧して脱泡する操作を加え、ポリマードープを得た。
【0083】
別に、厚み3mmで内側の140mm×140mm部分を打抜いた150mm×150mmのテフロン製の四角枠を二枚重ね、これらの間に150mm×150mm角の化学実験用濾紙(東洋濾紙社製、定量分析用、2番)を挟み固定した。ここに前記ポリマードープを流延し、ガラス棒にて液切りした後、150mm×150mm角の化学実験用濾紙(東洋濾紙社製、定量分析用、2番)を乗せて固定した。これを還流状態にあるメタノール中へ投入して72時間還流を継続して上下両面の化学実験用濾紙面からNMP溶媒を抽出除去することでポリウレタン樹脂を凝固させた。なお、メタノールは還流状態を維持したまま、20分間隔で新液と交換した。
【0084】
72時間後、フッ素樹脂製の枠から固化したポリウレタン樹脂を取り出し、日本薬局方精製水中で72時間洗浄することによりメチルセルロース、メタノール及び残留するNMPを抽出除去した。これを、室温下で24時間減圧(20mmHg)乾燥させて、熱可塑性ポリウレタン樹脂製の多孔性三次元網状構造材料を得た。
【0085】
得られた多孔性三次元網状構造材料について、下記方法により平均孔径及び見掛け密度の測定を行った。なお、試料の切断は両刃カミソリ(フェザー社製、ハイステンレス)を使用して室温下で行った。
【0086】
[平均孔径の測定]
両刃カミソリで切断した試料の平面(切断面)を電子顕微鏡(トプコン社製、SM200)にて撮影した写真(代表例を図6に示す)を使用して、同一平面上の個々の孔を三次元網状構造の骨格から包囲された図形として画像処理(画像処理装置はニレコ社のLUZEX APを使用し、画像取り込みCCDカメラはソニー株式会社のLE N50を使用した。)し、個々の図形の面積を測定した。これを真円面積とし、対応する円の直径を求め孔径とした。ただし、多孔体形成時の相分離の効果によって、多孔体の骨格部分に穿孔されている微細孔は無視して同一平面上の連通孔のみを測定した。同時に、測定した全孔において孔径分布を測定し、図示したのが図7である。更にこの孔径分布測定結果から、孔径150〜400μm孔の寄与率を計測した結果、多孔質構造体の平均孔径は286.1μm、孔径150〜400μm孔の寄与率は87.6%と測定された。
【0087】
[見掛け密度の測定]
多孔質構造体を約10mm×10mm×3mmの直方体に両刃カミソリで切断し、投影機(Nikon,V−12)にて測定して得た寸法より体積を求め、その重量を体積で除した値から見かけ密度を求めた結果、0.118±0.006g/cm3であった。
【0088】
<カフ部材の成型>
前記多孔性構造体をトムソン打ち抜き刃で図1の3のフランジ部の形状に打ち抜いた(長直径は120mm、短直径は70mm)。次に、前記の同様の手法で熱可塑性ポリウレタン樹脂を筒状の多孔性三次元網状構造材料(内径7.7mm、外径13.5mm、長さ50mm)へ成型した(図1の筒状部3b)。続いて、熱可塑性ポリウレタン樹脂を定法のヒートプレス加工によって2.0mm厚みの鏡面シートへ成型し、トムソン打ち抜き刃によってパッド5の形状(長直径は100mm、短直径は50mm)に打ち抜いた。
【0089】
このパッド表面にテトラヒドロフラン(関東化学、試薬、特級)を塗布し、ここに多孔性三次元網状構造材料からなるフランジ部を重ね合わせ、荷重1.0kg/cm2で圧着させて中央部に開口5a及び3aを開けた。
【0090】
この開口にチューブ6(内径5.0mm、外径7.7mm)を通して固定し、さらにフランジ部(図1の符号3)の下面においてチューブ6を包むように筒状部3bを装着して固定することにより第1アスペクトのカフ部材を製造した。
【0091】
次に、このカフ部材をヤギの皮下に埋め込んだ。
検体には2個体の成ヤギ(いずれも雌、体重54kg及び53kg)を用い、剃毛された左側胸部より腹部表皮を試験部位とした。手術時、検体は左側臥位にて、通常手技を用い速やかに気管内挿管を行い、イソフルレンによる全身麻酔下にて維持された。胸腹部周囲表皮をイソジン消毒後、表皮を約100mm切開し、エチレンオキサイトガス滅菌を施した上記本発明のカフ部材を埋め込んだ。パッド5から約10mm幅で全周に渡ってはみ出しているカフ部材2の外周部分を表皮の下側へ埋込むようにした。パッド5の外周部分を切開された表皮の末端部分と合わせるようにして皮下組織を縫合してカフ部材を固定した。
【0092】
術後、試験部位は酸性水にて1日2回の消毒を行った。検体は自由給水とし、飼料としてヘイキューブを一日5回、適量(約1kg)を給仕した。術後1ヶ月後及び2ヶ月後に、全身麻酔下にて先に埋め込まれた試験片および周囲の組織を摘出した。
【0093】
試験片と周囲の組織は密に生着し、互いの剥離は困難であった。また周囲に感染、炎症等の所見は認められなかった。
【0094】
図8は埋入されたフランジ部3の上で、パッド5と成ヤギの表皮が線で接触したその境界線を観察した断面ルーペ写真である。パッド5のエッヂ部分と表皮がわずかな隙間があるだけで接着して安定しており、図2で説明されている通り、カフ部材のフランジ部3が皮下組織と癒着することによって、表皮がチューブ6と皮下組織の接触部位まで到達することすらなく、ダウングロース現象が完全に抑制されていることが分かる。
【0095】
さらに摘出された試料片は10%中性緩衝ホルマリンにて速やかに固定され、常法にてHE染色標本を作成し、光学顕微鏡にて観察した。組織学的所見としては、本発明のカフ部材ユニットのフランジ部3及び筒状部4を構成する多孔性三次元網状構造層には、周囲組織より伸展した線維芽細胞、マクロファージおよび膠原線維などの細胞外基質を主体とする肉芽組織が浸潤し、多くの血管新生が確認された。また、1ヶ月と2ヶ月の剖検によってこれら浸潤組織は経時性に成熟した結合組織へ形成されていくのが認められた。
【0096】
以上により、第1アスペクトのカフ部材は、そのフランジ部3及び筒状部4へ生体細胞が浸潤することにより器質化し、創傷部を外界と隔絶し、治癒機転における細菌感染等の増悪因子を防御することが示唆された。
【0097】
[比較例1]
第1アスペクトのカフ部材ユニットからパッド5とフランジ部3を取り除き、チューブ6(内径2.0mm、外径3.0mm)へ筒状部4を装着したのみでのカフ部材を製作した。このカフ部材を、実施例1と同様の手法で筒状部4の上末端が表皮から2mm程度露出するように成ヤギへ移植した。1ヶ月後に実施例1と同様にして試験片および周囲の組織を摘出した。皮下組織の深部においては、試験片と周囲の組織は密に生着し、互いの剥離は困難であったが、表皮に近い部分ではほとんど生着しておらず容易に剥離できた。図9は試験片と周囲の組織を切断した断面のルーペ写真であるが、表皮に近い部分では周囲に感染、炎症等の所見が確認され、さらに図3に示されるように筒状部3bに沿ってダウングロース現象が起こっていることが分かり、試験片と組織の剥離性と整合性があった。消毒処置は毎日2回、刺入部へ貯まる皮脂類などを清掃する必要があり、この処置を念入りに行わないと、即、感染した。また、カフ部材を手で引張ると簡単に抜去された。
【0098】
[実施例2]
以下に、第2アスペクトに係る実施例2について説明する。
<第1フランジ部及び筒状部のための多孔体の製造>
実施例1と全く同様にしてポリマードープを得た。
【0099】
別に、厚み5mmで内側の140mm×140mm部分を打抜いた150mm×150mmのフッ素樹脂製の四角枠を二枚重ね、これらの間に150mm×150mm角の化学実験用濾紙(東洋濾紙社製、定量分析用、2番)を挟み固定した。ここに前記ポリマードープを流延し、ガラス棒にて液切りした後、150mm×150mm角の化学実験用濾紙(東洋濾紙社製、定量分析用、2番)を乗せて固定した。これを還流状態にあるメタノール中へ投入して72時間還流を継続して上下両面の化学実験用濾紙面からNMP溶媒を抽出除去することでポリウレタン樹脂を凝固させた。なお、メタノールは還流状態を維持したまま、20分間隔で新液と交換した。
【0100】
72時間後、フッ素樹脂枠から固化したポリウレタン樹脂を取り出し、日本薬局方精製水中で72時間洗浄することによりメチルセルロース、メタノール及び残留するNMPを抽出除去した。これを、室温下で24時間減圧(20mmHg)乾燥させて、熱可塑性ポリウレタン樹脂製の多孔性三次元網状構造材料を得た。
【0101】
得られた多孔性三次元網状構造材料について、実施例1と同一の方法により平均孔径及び見掛け密度の測定を行ったところ、実施例1の多孔体と同一あった。
【0102】
<第2フランジ部のための多孔体の製造>
ミラクトランE980PNATのNMP溶液を12.5%から20.0%としたこと、フッ素樹脂製四角枠の厚みを4mmとしたこと以外は第1フランジ部の多孔体の成型と同様にして第2フランジ部の多孔性構造体を成型し、第1フランジ部の多孔性構造体と同様の方法で平均孔径と見掛け密度を測定した。平均孔径は41.7μmであった。孔径の分布は図14の通りであるが、孔径30μm〜60μmの孔の寄与率は79.0%であった。また、見かけ密度は0.228±0.011g/cm3であった。
【0103】
<カフ部材の成型>
熱プレス器を使用して定法によりミラクトランE980PNATを2mm厚の鏡面中実シートへ成型し、トムソン刃によって長径40mm、短径30mmの真楕円へ打ち抜いて高分子樹脂製パッド5を作成した。
【0104】
次に4mm厚みで作成した第2フランジ部の多孔性構造体をトムソン刃を用いて長径50mm、短径40mmの真楕円に打ち抜き、3mm厚の均質な平滑な多孔性シートへ面出加工した後、中央部に長径40mm、短径30mmの真楕円の溝を2mmの深さで彫り、第2フランジ部4へ加工した。加工はCAD図面を元にNC加工機(Roland社製、PNC−3200)を使用して切削して行った。
【0105】
この第2フランジ部の中央部の溝へ前記高分子樹脂製パッド表面にテトラヒドロフラン(関東化学、試薬、特級)を塗布して挿入し、荷重1.0kg/cm2で圧着させて接着した。
【0106】
第1フランジ部3の多孔性構造体をトムソン刃を用いて長径70mm、短径60mmの真楕円に打ち抜き、続いて、第2フランジ部4の高分子樹脂製パッドを接着していない側の面にテトラヒドロフランに塗布し、この第1フランジ部へ重ね合わせて荷重1.0kg/cm2で圧着させた。中央部に開口5a、4a及び3aを開けた。この開口にチューブ6(内径5.0mm、外径7.7mm)を通して固定した。
【0107】
次に、前記の同様の手法で熱可塑性ポリウレタン樹脂を筒状の多孔性三次元網状構造材料(内径7.7mm、外径13.5mm、長さ50mm)へ成型した筒状部3bを作成し、第1フランジ部3の下面においてチューブ6を包むように筒状部3bを装着して固定することにより第2アスペクトのカフ部材を得た。
【0108】
次に、このカフ部材をヤギ皮下へ埋め込んだ。
【0109】
検体には2個体の成ヤギ(いずれも雌、体重54kg及び53kg)を用い、剃毛された左側胸部より腹部表皮を試験部位とした。手術時、検体は左側臥位にて、通常手技を用い速やかに気管内挿管を行い、イソフルレンによる全身麻酔下にて維持された。胸腹部周囲表皮をイソジン消毒後、表皮を約100mm切開し、実施例1で作成し、エチレンオキサイトガス滅菌を施した、本発明のカフ部材を埋め込み(パッド5及び第2フランジ部4からはみ出している第1フランジ部3の外周部分を表皮の下側へ埋込むようにして)、第2フランジ部4の外周部分を切開された表皮の末端部分と合わせるようにして皮下組織を縫合して固定した(図15)。術後から1週間は縫合部位を酸性水にて1日2回の消毒を行った。検体は自由給水とし、飼料としてヘイキューブを一日5回、適量(約1kg)を給仕した。術後1週間を経過した後は一切の消毒処理を行うことなく、かつ、抗生物質を投与することなく感染所見などを認めることなく順調に経過した。図16は第2フランジ部と成ヤギの表皮との接触部分の写真である。
【0110】
図16の通り、第2フランジ部4のエッヂ部分と表皮がわずかな隙間があるだけで接着して安定しており、第1フランジ部3が皮下組織と癒着することによって、表皮がチューブ6と皮下組織の接触部位まで到達することすらなく、ダウングロース現象が完全に抑制されている。
【0111】
次に、術後1、3、6及び12ヶ月後に、全身麻酔下にて先に埋め込まれた試験片および周囲の組織を摘出した。術後1ヶ月後で既に試験片と周囲の組織は密に生着し、互いの剥離は困難であった。時間の経過とともに癒着は頑強なものとなっていた。摘出後のマクロ的病理所見においても、カフ部材移植部位の周囲に感染、炎症等の所見は認められなかった。さらに摘出された試料片は10%中性緩衝ホルマリンにて速やかに固定され、常法にてHE染色標本を作成し、光学顕微鏡にて観察した。組織学的所見としては、本発明のカフ部材ユニットの第1フランジ部3及び筒状部3bを構成する多孔性三次元網状構造層には、周囲組織より伸展した線維芽細胞、マクロファージおよび膠原線維などの細胞外基質を主体とする肉芽組織が浸潤し、多くの血管新生が確認された(図17)。また、1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月後の剖検によってこれら浸潤組織は経時性に成熟した結合組織へ形成されていくのが認められた。
【0112】
術後3ヶ月を経過すると生体組織との癒着はいよいよ頑強になり、カフ部材を手で引張っても皮下から抜去されることなく、カフ部材と一体化した皮下組織がそのまま持ち上がるようになった(図18)。また、試験期間中は、余分な体毛を剃毛する以外には抗生物質を投与したり消毒などの処置をする必要もなく、水と飼料の供給で順調に経過した。
【0113】
術後12ヶ月を経過しても表皮は第1フランジ部上を後退することなく、第2フランジ部エッヂ部分とほぼ密着して癒着しており、12ヶ月間消毒処置をすることなく感染を惹起せずに経過した(図19)。
【0114】
図20の左側は術後12ヶ月後に摘出したカフ部材試料の断面標本の実態写真、図20の右側は同視野の組織標本写真である。第1フランジ部を貫通した組織は、第2フランジ部まで到達し、第1フランジ部上で表皮と連絡して癒着している。表皮は第2フランジ部エッヂ部分とほぼ密着して癒着しており、境界に感染層などは確認されない。
【0115】
以上により、第2アスペクトのカフ部材ユニットは、その第1フランジ部3及び筒状部3bへ生体細胞が浸潤することにより器質化し、第2フランジ部が表皮と接着することで創傷部を外界と隔絶し、治癒機転における細菌感染等の増悪因子を防御することが示唆された。
【発明の分野】
【0001】
本発明は、生体組織からの細胞の侵入が可能で、生体組織と頑強な癒着が得られるカフ部材に係り、特に、カニューレやカテーテル類を皮下刺入する療法である補助人工心臓による血液循環法、腹膜透析療法、中心静脈栄養法、経胃ろう栄養法、経カニューレDDS及び経カテーテルDDSなどの生体皮膚刺入部に有用なカフ部材に関する。
【発明の背景】
【0002】
近年発達した補助人工心臓や腹膜透析などの療法で使用されるカニューレやカテーテルは、外界へ開放された脈管へ挿入・留置される尿道カテーテル、経消化管的栄養法及び気道確保術などと異なり、皮下組織を切開した上で刺入を行って生体内に留置する必要がある。生体内への留置が長期間へ及ぶ場合、生体内と外界を隔て、生体内への細菌の侵入や体液水分の揮発を防止するためにカフ部材(スキンカフなどともいう)を利用して疑似的に刺入部を密閉することが行われている。従来、補助人工心臓による血液循環法では、主としてポリエステル繊維からなるファブリックベロアを刺入カニューレに巻き付け、刺入部において該ファブリックベロアと皮下組織を縫合することで固定し、カニューレを留置している。腹膜透析療法においても、ポリエステル繊維からなるファブッリクベロアなどをカフ部材としてカテーテルの皮膚刺入位置に固定し、このカフ部材を圧迫するように皮下組織を縫合することでカテーテルを留置している。これらファブリックベロアにはコラーゲンなどを含浸させ、より頑強な癒着を狙ったものもある。また、生体適合性に優れる部材からなるカフ部材を刺入部の皮下組織に固定させる方法もある。
【0003】
しかしながら、補助人工心臓による血液循環法は、患者体外に設置された脈動ポンプによって血液循環を補助する療法であるため、約1.5Hzに相当する脈動ポンプの振動がカニューレに伝達している。即ち、カニューレの刺入部は、常時、振動による力学的負荷を受けている。更に、患者自身の体位の変化、刺入部の消毒作業時などにカニューレが動くことによっても皮下組織とカフ部材の接着界面にはこれを剥離しようとする応力が生じている。これらの応力負荷によってカフ部材と皮下組織の癒着性が低下することが要因と判断されるトラブルの代表例に、トンネル感染などの感染トラブルがあり、補助人工心臓療法の症例の中でも、これら感染トラブルの経験数は非常に多くなっている。細菌感染による合併症や心不全へ影響を考慮すれば、本療法においては感染を防止できるカフ部材の開発が急務であるといえる。
【0004】
同様に、皮下刺入を行ってカテーテルを長期間留置する腹膜透析療法においても、カフ部材に大きな課題がある。即ち、この療法では、透析液を注排液するためにカテーテルを腹腔内に留置するが、生体がカテーテルを異物と認識することによりカテーテルを排除しようとする作用が働き、皮下組織とカテーテルが癒着せず、表皮がカテーテルに沿って腹腔内へ入り込むダウングロース現象が生じてしまう。このダウングロースのポケットは、消毒液の到達を困難なものとし、表皮炎症やトンネル感染の要因となり、最終的には腹膜炎の誘発にも繋がっている。緑膿菌性の腹膜炎を頻繁に経験した患者においてSEP(硬化性被繭性腹膜炎)の発症率が高いという報告もあることを考慮すれば、カフ部材の改良による感染防止は腹膜透析療法の大きな課題であるといえる。
【0005】
上述の如く、コラーゲンを主成分とするカフ部材などが開発されているが、このようなカフ部材の場合、生理食塩水、アルコール、イソジン、血液、体液など液体を吸収することで体積が減少し、カテーテル刺入部に皮下組織を増殖させることが困難であり、その結果、ダウングロースの抑制効果は得られていない。
【0006】
皮下組織を増殖させることができるスポンジ状材料を利用するカフ材として、生体適合性のある樹脂製の多孔体をカテーテルなどの刺入管へ配置するものが特表平4−502722号公報に開示されている。しかしながら、このようなカフ材においては多孔体部分には皮下組織が浸潤して器質化されても、表皮は多孔体へ接着することなく刺入管へ沿って皮下組織へ潜り込んでしまい、その結果、ダウングロースは抑制されない。
【0007】
略円盤のような多孔体と筒状の多孔体とを組み合わせて、円盤面に皮下組織を浸潤させるカフ材が考えられているが、円盤状の多孔体への皮下組織の浸潤は良好でありダウングロースを抑制することに効果はあるものの、表皮の接着は達成されず、表皮がカテーテルの体外露出部へ這って行くことで、表皮と円盤状多孔体の間に隙間が発生し、ここに膿や消毒液残骸が溜まることなどを要因としてポケット感染を惹起する問題があった。
【0008】
補助人工心臓療法においては、上記したダウングロースの問題以外に大きな問題がある。それは、カニューレ刺入部では皮下組織と外界との隔絶性が低くなっているために刺入部を水で濡らすことが許されず、日常行われる患者の身体を清潔に保つための処置としては体表面を清浄綿などで拭うのみで、入浴は勿論のことシャワーを浴びることも不可能となっている。このことは患者のQOL(クオリティー・オブ・ライフ)を非常に低いものとしている。
【発明の概要】
【0009】
本発明は、かかる従来技術の問題を顧みて達成されたものであり、ダウングロース作用による露出が抑制されるカフ部材ユニットとそのためのカフ部材とを提供することを目的とする。特に、本発明は、生体皮下組織から細胞が容易に侵入、生着し、毛細血管が構築されることで皮下組織との癒着が頑強に得られ、その結果、ダウングロースの進行を抑制し、トンネル感染を始めとする各種の感染トラブルの少ないカフ部材であって、補助人工心臓療法などにおいても皮下組織と外界との隔絶性を向上させ、患者がシャワーを浴びることも可能となるカフ部材を提供することを目的とする。
【0010】
第1アスペクトのカフ部材は、生体の外面に重なるフランジ部と、該フランジ部の一方の面から立設された筒状部とを有するカフ部材であって、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂よりなる基材樹脂で形成された、平均孔径50〜1000μmで、見掛け密度が0.01〜0.5g/cm3の、連通性のある多孔性三次元網状構造部を有することを特徴とするものである。
【0011】
第2アスペクトのカフ部材は、生体刺入管のカフ部材であって、生体に重なる第1フランジ部と、該第1フランジ部の一方の面から立設された筒状部と、一方の面が該第1フランジ部の他方の面に重なる第2フランジ部と、該第2フランジ部の他方の面に重なる高分子材料製パッドとを有しており、前記第1フランジ部及び筒状部が熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂よりなる基材樹脂で形成された、平均孔径100〜1000μmで見掛け密度が0.01〜0.5g/cm3の連通性のある多孔性三次元網状構造部を有しており、前記第2フランジ部が熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂よりなる基材樹脂で形成された、平均孔径1〜100μmで見掛け密度が0.05〜1g/cm3の、連通性のある多孔性三次元網状構造部を有していることを特徴とするものである。
【0012】
第1及び第2アスペクトのカフ部材は、上記特定の平均孔径及び見掛け密度を有する、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂からなる、連通性のある多孔性三次元網状構造部を有するため、この多孔性三次元網状構造部の空孔部分へ細胞が容易に侵入して生着し、生体組織と頑強な癒着が得られる。
【0013】
第1及び第2アスペクトのカフ部材によれば、生体皮下組織から細胞が容易に侵入、生着し、毛細血管が構築されることで皮下組織との癒着が頑強に得られ、その結果、創傷部を外界と隔絶し、治癒機転における細菌感染等の増悪因子を防御ダウングロースの進行を抑制し、トンネル感染を始めとする各種の感染トラブルの少ないカフ部材が提供される。
【0014】
第1及び第2アスペクトのカフ部材は、カニューレやカテーテル類を皮下刺入する療法である補助人工心臓による血液循環法、腹膜透析療法、中心静脈栄養法、経胃ろう栄養法、経カニューレDDS及び経カテーテルDDSなどの生体皮膚刺入部に好適に使用することができる。
【0015】
第1アスペクトのカフ部材を用いたカフ部材にあっては、フランジ部がパッドによって覆われ、且つ該パッドがフランジ部よりも外方にまで延出している。このため、皮膚のダウングロース作用が筒状部にまで及ぶのに時間がかかるし、水がカニューレに沿って皮下組織へ浸入することを防ぐことも可能となる。
【0016】
第2アスペクトのカフ部材では、高分子樹脂製パッドによって覆われた第1フランジ部が存在するために、ダウングロース作用が筒状部にまで及ぶのに時間がかかるし、液体がカニューレに沿って皮下組織へ浸入することも防止される。第1フランジ部は皮下へ埋入され、皮下組織の浸潤によって器質化される。第1フランジ部の上に存在する表皮の末端は第2フランジ部のエッヂ部分に接着し、高分子樹脂製パッド上へ這い上がることなく装着術を施すことが可能である。表皮が高分子樹脂製パッド下へ潜り込む現象現象が長期にわたり防止される。
【0017】
この結果、長期にわたり、ダウングロースの影響を受けることなく生体に対しカフ部材ユニットを装着しておくことができ、刺入カニューレを濡らすこともなく補助人工心臓療法において患者がシャワーを浴びることも可能となる。
【0018】
また、パッドが生体の外面に重なるので、チューブの脈動などの振動がパッドを介しても生体に伝達されるようになり、チューブから生体に加えられる応力が広い範囲に分散される。第2アスペクトでは、表皮を第2フランジ部へ接着させて固定するため、パッドの上まで表皮を引き上げることなく装着術が可能で、かつ表皮がパッドの下を目指して潜り込もうとする現象を止めることにより、感染ポケットを形成させないようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施の形態に係るカフ部材の構成図である。
【図2】図1のカフ部材の使用例を示す断面図である。
【図3】比較例の説明図である。
【図4】別の実施の形態に係るカフ部材の構成図である。
【図5】図5a及び図5bはさらに別の実施の形態に係るカフ部材の構成図である。
【図6】多孔質構造体の切断面の典型的なSEM写真である。
【図7】多孔質構造体の孔径分布を示す図である。
【図8】第1アスペクトのカフ部材を使用し、器質化されたフランジ部上で成ヤギの表皮とパッド部が良好に接着している状況を示す写真である。
【図9】比較例においてチューブ6に沿って感染とダウングロース現象が観察された状況を示す写真である。
【図10】図10a及び図10bは第2アスペクトの実施の形態に係るカフ部材ユニットの構成図である。
【図11】図10のカフ部材ユニットの使用例を示す断面図である。
【図12】別の実施の形態に係るカフ部材ユニットの構成図である。
【図13】図13a及び図13bはさらに別の実施の形態に係るカフ部材ユニットの構成図である。
【図14】第2フランジ部の多孔質構造体の孔径分布を示す図である。
【図15】カフ部材の成ヤギへの埋込状況を示す写真である。
【図16】第2アスペクトのカフ部材ユニットを使用し、器質化されたフランジ部上で成ヤギの表皮とパッド部が良好に接着している状況を示す写真である。
【図17】多孔性構造層に浸潤した組織を示す写真である。
【図18】術後3ヶ月経過した、第2アスペクトのカフ部材の写真である。
【図19】術後12ヶ月経過した、第2アスペクトのカフ部材の写真である。
【図20】術後12ヶ月経過した、第2アスペクトのカフ部材の第2フランジと表皮との境界付近の組織標本を示す写真である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に本発明のカフ部材の実施の形態を詳細に説明する。
【0021】
第1a図は第1アスペクトの実施の形態に係るカフ部材の分解斜視図、第1b図はこのカフ部材の縦断面図、第2図はこのカフ部材の使用例を示す断面図、第3図は比較例を示す断面図、第4,5図は第1アスペクトの別の実施の形態に係るカフ部材の縦断面図である。
【0022】
第1図の通り、カフ部材2は、フランジ部3と、このフランジ部3の一方の面から立設された筒状部3bとを有する。フランジ部3の中央には直径が5〜100mm程度の円形の開口3aが筒状部3bと同軸に設けられている。カフ部材には複数のチューブ6を通すことも可能である。例えば、補助人工心臓療法では送血管及び脱血管の2本のチューブ6(カニューレ)を患者へ刺入するが、この場合にパッド5に2個の開口5aを設け、フランジ部3に2個の開口3aと2本の筒状部3bを設けることで、1個のカフ部材にて2本のチューブを刺入することができ、患者への侵襲を低減できる可能性もある。送血管と脱血管をそれぞれ独立に2個カフ部材又はカフ部材ユニットにて刺入した方が良いか、1個のカフ部材又はカフ部材ユニットで送血管及び脱血管を同時に刺入する方が良いか、臨床学的意義、患者の状態、侵襲程度を考慮して当業者によって適宜使い分ければ良いし、あるいは、送血管及び脱血管をこれらよりも太い1本のチューブ内へ挿入し、当該1本のチューブをカフ部材又はカフ部材ユニットを介して生体へ刺入する、いわゆるダブルルーメン式でチューブを挿入することも可能である。もちろん、補助人工心臓療法以外でも1本のチューブ内に人工心臓のポンプ用の電源コード、制御用コード、測定用コード、DDS用の細チューブなど複数の線状構造体を一本のチューブ内にまとめてカフ部材又はカフ部材ユニットを介して刺入することも可能である。
【0023】
この開口3aの直径は筒状部3bの内径(直径)と同一となっている。
【0024】
このカフ部材2は、後述する生体組織との癒着性に優れた多孔性樹脂材料よりなり、筒状部3bとフランジ部2とが一体に設けられたものである。
【0025】
フランジ部3は円形、楕円形、レンズ形、涙滴形等の平面視形状を有するものが使用可能であるが、通常、皮膚をメスで直線に切開した場合には図1に例示されるような楕円形に生体組織が露出されるので、該露出部位を効率良く被覆できる楕円形であることが好ましい。フランジ部3の厚さは該フランジ部3の物理的強度以外に、後述するカフ部材2の平均孔径やその傾斜性(これらは組織浸潤深度や分化程度へ影響する)など複雑な因子が関連するが、通常は0.05〜20mm程度が好適である。フランジ3が円形の場合、その直径は10〜200mm程度が好適である。フランジ部3が楕円形、レンズ形、涙滴形等の場合、長径が10〜200mmであり、短径が長径の5〜80%程度であることが好ましい。
【0026】
筒状部3bの長さは10〜500mm程度が好適であり、筒状部3bの肉厚は該筒状部3bの物理的強度以外に、後述するカフ部材2の平均孔径やその傾斜性(これらは組織浸潤深度や分化程度へ影響する)など複雑な因子が関連するが、通常は0.05〜20mm程度が好適である。ここで筒状部3bは直線状とは限らず、刺入部位からチューブに沿って自在に曲げて使用することが可能である。
【0027】
該カフ部材2のフランジ部3の他方の面にパッド5が重ね合わされ、接着等によって一体化されている。このパッド5は、フランジ部3と相似形であるがフランジ部3よりも小さいことが好ましい。このパッド5には、フランジ部3の開口3aと同軸に且つ該開口3aと同一大きさにて開口5aが設けられている。
【0028】
このパッド5は、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、エポシキ樹脂、ポリイミド樹脂、シリコン樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、キチン、キトサン、ケラチン、ヒアルロン酸、フィブロイン並びにこれらの誘導体よりなる群から選択される1種又は2種以上などの高分子材料よりなる。
【0029】
パッド5の厚みは高分子材料の柔軟性とも関連するが、0.1〜100mm程度が好適である。刺入する部位によって当業者によって適宜選択すれば良い。例えば、体側面であれば曲面に追随するためにやや柔軟なパッドを使用し、胸部中央付近の肋骨上であれば体表はほぼ平らであるため、やや硬めのパッドを使用するなどである。このカフ部材2は、生体外面からチューブ6を生体内に刺入する用途に好適に用いられる。
【0030】
チューブ6は開口5a、3a及び筒状部3bに挿通され、パッド部5に高周波融着、熱融着、レーザー融着、超音波融着、接着剤等により水密的に接着されても良いし、射出成形を利用してパッド5とチューブ6の一部又は全部を一体成形することも可能である。この実施の形態では、パッド5とチューブ6とを接着剤7によって固着している。
【0031】
このカフ部材2を用いてチューブ6を生体に刺入するには、第2図の通り皮膚を切開して組織を露出させ、露出した組織の外縁部の皮下組織を少こしだけ剥離してポケットを作成する。また、生体組織を切開してチューブ6を生体組織に刺入し、フランジ部3を生体組織の外面に重ね合わせる。筒状部3bをチューブ6と共に生体組織内に埋め込む。チューブ6の周囲の生体組織切開部は必要に応じ縫合される。第1フランジ部3は生体組織の露出面に被さると共に、皮下組織を剥離して作成したポケット内すなわち表皮の下へ埋入される。第2フランジ部4は、生体組織の露出面の周囲の皮膚の縁部に重ね合わされる。カフ部材2を患者体表へ固定するには第2フランジ部4を表皮と縫合すれば良い。第2フランジ部は柔軟な三次元網状構造の材料からなるため、通常の縫合針で楽に縫合が行える。さらに、第2フランジ部4の外縁とその周囲の皮膚に跨るようにして、通気性及び遮水性を有した粘着テープ(図示略)が貼着されてもよく、このようにすれば、水等の浸入を防止することも可能である。
【0032】
このようにカフ部材2を用いてチューブ6を生体組織に刺入した場合、皮膚のダウングロースは、初期には第2フランジ部4と第1フランジ部の境界面を狙って進行しようとするが、ここには表皮が侵入できるスペースが物理的に存在しないため、第1フランジ部の外縁方向へ、最終的には第1フランジ部の下側を目指して、すなわち、表皮が縫合部位から退縮するように進行しようとする。しかしながら本発明のカフ部材2では、生体組織側から第1フランジ部へ浸潤した組織が該フランジを貫通して表皮の裏まで到達するため、生体組織との連絡ができた表皮は第1フランジ上での退縮が顕著に抑制され、表皮末端部が第2フランジ部と密接するように維持される。
【0033】
また、チューブ6の脈動等によりチューブ6から生体に加えられる応力がパッド5を介しても生体に伝わるようになり、応力が広い範囲に分散する。このため、チューブ6の周囲の生体組織に加えられる刺激が緩和される。
【0034】
第3図は、特表平4−502722号公報が開示するような、カフ部材2と同種の材料からなる円筒状のカフ部材8をチューブ6の外面に装着し、生体組織に刺入した比較例を示す。
【0035】
この場合、皮膚のダウングロースは、矢印Dの通り、カフ部材8に沿って生体組織内に向って進行するため、カフ部材8が早期に多量に露出するようになる。また、チューブ6の周囲の狭い範囲にチューブ6の脈動等の振動が集中して加えられる。第1、2図のカフ部材ユニット1によると、このような短所が解消される。
【0036】
第1a、1b、2図では、チューブ6は生体外面と垂直状に延出しているが、第4図のチューブ6Aのように斜めに延出してもよく、第5a,5b図のチューブ6Bのようにパッド5に沿うように延出してもよい。これは、患者の体位と刺入管が接続される医療機器との関係や、チューブ6,6A,6Bの重量、可動幅などを考慮して当業者によって適宜選択されれば良い。
【0037】
第10a図は第2アスペクトの実施の形態に係るカフ部材2’の分解斜視図、第10b図はこのカフ部材の縦断面図、第11図はこのカフ部材の使用例を示す断面図、第12,13図は第2アスペクトの別の実施の形態に係るカフ部材の縦断面図である。
【0038】
第10a,10b図の通り、カフ部材2’は、第1フランジ部3と、この第1フランジ部3の一方の面から立設された筒状部3bと、第2フランジ部4と、パッド5とを有する。第1フランジ部3の中央には直径が5〜100mm程度の円形の開口3aが筒状部3bと同軸に設けられている。第2フランジ部4及びパッド5にも開口3aと同軸かつ同径の開口4a,5aが設けられている。従って、開口3a,4a,5aの直径は筒状部3bの内径(直径)と同一となっている。
【0039】
これらの開口3a〜5a及び筒状部3bにチューブ6が挿通される。なお、図示のカフ部材には1本のチューブ6が挿通されているが、開口及び筒状部を複数セット設けることにより複数のチューブ6を通すことも可能である。例えば、補助人工心臓療法では送血管及び脱血管の2本のチューブ6(カニューレ)を患者へ刺入するが、この場合にパッド5に2個の開口5aを設け、フランジ部3,4にそれぞれ2個の開口3a,4aと2本の筒状部3bを設けることで、1個のカフ部材又はカフ部材ユニットにて2本のチューブを刺入することができ、患者への侵襲を低減できる可能性もある。
【0040】
第1フランジ部3及び筒状部3b並びに第2フランジ部4は、後述する生体組織との癒着性に優れた多孔性樹脂材料にて構成されている。この多孔性樹脂は、三次元網状構造の多孔構造を有している。筒状部3bと第1フランジ部3とは一体に設けられている。
【0041】
第1フランジ部3は円形、楕円形、レンズ形、涙滴形等の平面視形状を有するものが使用可能であるが、通常、皮膚をメスで直線に切開した場合には図1に例示されるような楕円形に生体組織が露出されるので、該露出部位を効率良く被覆できる楕円形であることが好ましい。第1フランジ部3の厚さは該第1フランジ部3の物理的強度以外に、後述する第1フランジ部3の平均孔径やその傾斜性(これらは組織浸潤深度や分化程度へ影響する)など複雑な因子が関連するが、通常は0.2〜50mm特に0.2〜10mmとりわけ1〜7mm程度が好適である。第1フランジ部3が円形の場合、その直径は10〜200mm程度が好適である。第1フランジ部3が楕円形、レンズ形、涙滴形等の場合、長径が10〜200mmであり、短径が長径の5〜80%程度であることが好ましい。
【0042】
筒状部3bの長さは10〜500mm程度が好適である。筒状部3bの肉厚は該筒状部3bの物理的強度以外に、後述する第1フランジ部3の平均孔径やその傾斜性(これらは組織浸潤深度や分化程度へ影響する)など複雑な因子が関連するが、通常は0.05〜20mm程度が好適である。ここで筒状部3bは直線状とは限らず、刺入部位からチューブに沿って自在に曲げて使用することが可能である。
【0043】
第2フランジ部4は第1フランジ部3よりも若干小さい大きさであり、好ましくは第1フランジ部3の外縁が第2フランジ部4の外縁よりも10〜20mm特に好ましくは約15mm程度張り出すものとなっている。
【0044】
第2フランジ部4には凹所4bが設けられ、この凹所4にパッド5が嵌合配置される。
【0045】
第2フランジ部4がパッド5の外縁から延出する幅は0.1〜30mm程度が好ましい。この第2フランジ部4がパッド5の外縁から延出する幅は該第2フランジ部4の厚み方向において変化してもよく、例えばパッドの上面において3mm以下であって、第1フランジ部3と接する底面において1mm〜30mmであってもよい。
【0046】
このパッド5の材料及び厚みは第1アスペクトの場合と同様である。
【0047】
フランジ部3,4及びパッド5は重ね合わされ、例えば接着剤により接着されること等により一体化される。
【0048】
チューブ6は開口5a、4a、3a及び筒状部3bに挿通され、パッド部5に高周波融着、熱融着、レーザー融着、超音波融着、接着剤等により水密的に接着されても良いし、射出成形を利用してパッド5とチューブ6の一部又は全部を一体成形することも可能である。この実施の形態では、パッド5とチューブ6とを接着剤7によって固着している。
【0049】
このカフ部材2’を用いてチューブ6を生体に刺入するには、第11図の通り皮膚を切開して生体組織を露出させ、露出した組織の外縁部の皮下組織を少しだけ剥離してポケットを作成する。また、生体組織を切開してチューブ6を生体組織に刺入し、筒状部3bをチューブ6と共に生体組織内に埋め込まれる。チューブ6の周囲の生体組織切開部は必要に応じ縫合される。第1フランジ部3は生体組織の露出面に被さると共に、前記、皮下組織を剥離して作成したポケット内すなわち表皮の下へ埋入される。第2フランジ部4は、生体組織の露出面の周囲の皮膚の縁部に重ね合わされる。カフ部材2’を患者体表へ固定するためには第2フランジ部4を表皮と縫合すれば良い。第2フランジ部は柔軟な三次元網状構造の材料からなるため、通常の縫合針で楽に縫合が行える。さらに、第2フランジ部4の外縁とその周囲の皮膚に跨るようにして、通気性及び遮水性を有した粘着テープ(図示略)が貼着され、水等の浸入を防止することも可能である。
【0050】
このようにカフ部材2’を用いてチューブ6を生体組織に刺入した場合、皮膚のダウングロースは、初期には第2フランジ部4と第1フランジ部の境界面を狙って進行しようとするが、ここには表皮が侵入できるスペースが物理的に存在しないため、第1フランジ部の外縁方向へ、最終的には第1フランジ部の下側を目指して、すなわち、表皮が縫合部位から退縮するように進行しようとする。しかしながら本発明のカフ部材2’では、生体組織側から第1フランジ部へ浸潤した組織が該フランジを貫通して表皮の裏まで到達するため、生体組織との連絡ができた表皮は第1フランジ上での退縮が顕著に抑制され、表皮末端部が第2フランジ部と密接するように維持される。
【0051】
第10a,10b,11図では、チューブ6は生体外面と垂直状に延出しているが、第12図のチューブ6Aのように斜めに延出してもよく、第13a,13b図のチューブ6Bのようにパッド5に沿うように延出してもよい。これは、患者の体位と刺入管が接続される医療機器との関係や、チューブ6,6A,6Bの重量、可動幅などを考慮して当業者によって適宜選択されれば良い。なお、第13b図ではチューブのガイド筒5gがパッド5と一体に設けられている。
【0052】
次に、カフ部材の好適な材料について説明する。
【0053】
第1及び第2アスペクトのカフ部材のフランジ部3,第1フランジ部3及び筒状部3bを構成する熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂からなる、連通性のある三次元網状構造部は、平均孔径が50〜1000μm特に100〜1000μm、見掛け密度が0.01〜0.5g/cm3の多孔性三次元網状構造であれば良く、厚み方向の切断断面において、その全面が類似の構造を有してもいても、一方の面側と他方の面側において異なる構造を有していても良い。また、部分的に平均孔径や見掛け密度が変化するものであっても良く、例えば、一方の面側から他方の面側に向けて平均孔径や見掛け密度が徐々に変化する、所謂、異方性を有していても良い。厚み方向に平均孔径が同一でないカフ部材を使用する場合には、生体組織との接触面側を大きくし深部において小さい孔径とすることが好ましい。この理由としては、生体組織との接触面から浸潤した組織は、通常厚み方向へ10mm程度の深度までは安定して到達するが、多孔体内に形成される新生血管が成熟していても深部の細胞は壊死したり分化が不十分となる危険性があるため、10mm程度よりも深い部分では孔径を小さくして組織の浸潤を抑制することが好ましいのである。
【0054】
また、生体組織との接触面側には平均孔径を大きく外れる大孔径の孔が存在しても構わない。このような孔としては500〜2000μm程度の孔が好ましく、これらが生体組織側の表層近くに存在することでコラーゲンなどの細胞外マトリックスを深部まで均質に含浸させること容易となり、また、組織からの細胞の侵入や毛細血管の構築などに有利に働くこととなる。ただし、このような大孔径の孔は、本発明でいう多孔性三次元網状構造の平均孔径の計算の概念に導入されるものではない。
【0055】
第1フランジ部3及び筒状部3aの多孔性三次元網状構造の平均孔径は50〜1000μm特に100〜1000μmで、見掛け密度が0.01〜0.5g/cm3であるが、好ましい平均孔径は150〜600μm、より好ましくは200〜500μmである。見掛け密度としては0.01〜0.5g/cm3範囲内であれば、細胞生着性が良好で、優れた物理的強度を維持し、細胞が侵入、生着し、組織化した際に皮下組織と近似した弾性特性が得られるが、好ましくは0.03〜0.3g/cm3、より好ましくは0.05〜0.2g/cm3である。
【0056】
また、平均孔径が同一であっても孔径の分布としては、細胞の侵入に重要な孔径サイズである150〜400μmの孔の寄与率が高いことが望ましく、孔径150〜400μmの孔の寄与率が10%以上、好ましくは20%以上、より好ましくは30%以上、更に好ましくは40%以上、特に好ましくは50%以上であると、細胞が侵入し易く、また、侵入した細胞が接着、成長しやすいため、好ましい。
【0057】
なお、多孔性三次元網状構造の平均孔径における孔径150〜400μmの孔の寄与率とは、後述の実施例1における平均孔径の測定方法における、全孔の数に対する孔径150〜400μmの孔の数の割合を指す。
【0058】
このような平均孔径、見掛け密度及び孔径分布の多孔性三次元網状構造であれば、細胞が容易に空孔部分へ浸透し、多孔性三次元網状構造部へ細胞が接着、成長し易く、毛細血管の構築がなされ、刺入部において皮下組織とカテーテルやカニューレとの癒着が頑強で良好なカフ部材を得ることができる。
【0059】
第2フランジ部4について次に説明する。
【0060】
第2フランジ部4は多孔性三次元網状構造部の平均孔径が5〜80μmで、見掛け密度が0.1〜0.7g/cm3であること、特に、多孔性三次元網状構造部の平均孔径が10〜70μmで、見掛け密度が0.1〜0.5g/cm3であることが好ましい。
【0061】
第2フランジ部4の多孔性三次元網状構造部の平均孔径における孔径30〜60μmの孔の寄与率が10%以上、特に30%以上、とりわけ50%以上であることが望ましい。
【0062】
第2フランジ部4の厚みは0.1〜10mm特に0.5〜5mmが望ましい。
【0063】
このような多孔性三次元網状構造部を構成する熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂としては、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、エポシキ樹脂、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂及びメタクリル樹脂並びにそれらの誘導体の1種又は2種以上が例示できるが、好ましくはポリウレタン樹脂であり、中でもセグメント化ポリウレタン樹脂が好適である。
【0064】
セグメント化ポリウレタン樹脂は、ポリオール、ジイソシアネート及び鎖延長剤の3成分から合成され、いわゆるハードセグメント部分とソフトセグメント部分を分子内に有するブロックポリマー構造によるエラストマー特性を有するため、このようなセグメント化ポリウレタン樹脂を使用した場合に得られる弾性特性は、患者やカテーテル又はカニューレが動いた場合や、消毒作業時等に刺入部周辺の皮膚を動かした場合に皮下組織とカフ部材の界面に生じる応力を減衰させる効果が期待できる。
【0065】
本発明のカフ部材には、上記特定の多孔性三次元網状構造を形成した層を第1の層とし、この第1の層に更に異なる構造の第2の層を積層することも可能である。この第2の層としては、繊維集合体や可撓性フィルム、更には、第1の層の多孔性三次元網状構造とは平均孔径や見掛け密度が異なる多孔性三次元網状構造層が使用可能である。
【0066】
不織布又は織布の有孔性としては100〜5000cc/cm2/minの範囲のものであれば可撓性、皮下組織との縫合強度など点で好ましい。なお、この有孔性は、JIS L 1004により測定される値で、通気性や通気量ということもある。
【0067】
繊維集合体としては、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、アクリル樹脂及びメタクリル樹脂並びにこれらの誘導体よりなる群から選択される1種又は2種以上からなる合成樹脂製であっても良く、また、フィブロイン、キチン、キトサン及びセルロース並びにこれらの誘導体から選択される1種又は2種以上のような天然物由来の繊維からなるものも使用可能である。合成繊維と天然物由来の繊維とを併用したものであっても良い。
【0068】
また、可撓性フィルムとしては、熱可塑性樹脂フィルム、具体的には、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、エポシキ樹脂、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂及びメタクリル樹脂並びにこれらの誘導体よりなる群から選択される1種又は2種以上よりなるフィルムが例示でき、好ましくは、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニル、フッ素樹脂及びシリコン樹脂よりなる群から選択される1種又は2種以上よりなるフィルムである。
【0069】
この可撓性フィルムの厚さは好ましくは0.1〜500μm、特に0.1〜100μm、とりわけ0.1〜50μm、最適には0.1〜10μmである。
【0070】
可撓性フィルムとしては中実フィルムのみならず多孔膜や発泡体も使用可能である。中実の可撓性フィルムと積層した場合には、細菌バリア性が大きく、感染管理に有利なカフ部材が得られる。
【0071】
平均孔径や見掛け密度が第1の層の多孔性三次元網状構造とは異なる多孔性三次元網状構造を第2の層とする場合、この多孔性三次元網状構造としては、平均孔径0.1〜200μmで見掛け密度0.01〜1.0g/cm3、厚さ0.2〜20mm程度の多孔性三次元網状構造を用いることができる。
【0072】
これらの第2の層を多孔性三次元網状構造層に積層する方法としては、該第2の層が繊維集合体、可撓性フィルム、第1の層の多孔性三次元網状構造とは平均孔径や見掛け密度が異なる多孔性三次元網状構造層の場合には、粘着剤を使用して接着する方法、特にホットメルト不織布を第1の層と第2の層との間に挟みこんで積層し、加熱下で圧着する方法などが挙げられる。このようなホットメルト不織布としては、例えば、日東紡社製PA1001のようなポリアミド型熱粘着シートなどが使用可能である。他にも、溶剤を使用して接触表面の表層部を溶解して接着する方法、熱によって表層部を溶融して接着する方法、超音波や高周波を利用する方法などが例示できる。また、第1の層の製造時に、ポリマードープと繊維集合体や可撓性フィルムを積層して成形するなど、連続的に積層形成することができる。
【0073】
なお、第2の層としては、繊維集合体、可撓性フィルム、多孔性三次元網状構造層が2層以上設けられていても良く、また、第2の層を介して第1の層の多孔性三次元網状構造層が積層された3層構造であっても良い。
【0074】
第1及び第2アスペクトのカフ部材の多孔性三次元網状構造部には、コラーゲンタイプI、コラーゲンタイプII、コラーゲンタイプIII、コラーゲンタイプIV、アテロ型コラーゲン、フィブロネクチン、ゼラチン、ヒアルロン酸、ヘパリン、ケラタン酸、コンドロイチン、コンドロイチン硫酸、コンドロイチン硫酸B、エラスチン、ヘパラン硫酸、ラミニン、トロンボスポンジン、ビトロネクチン、オステオネクチン、エンタクチン、ヒドロキシエチルメタクリレートとジメチルアミノエチルメタクリレートの共重合体、ヒドロキシエチルメタクリレートとメタクリル酸の共重合体、アルギン酸、ポリアクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド及びポリビニルピロリドンよりなる群から選択される1種又は2種以上が保持されていても良く、更に血小板由来増殖因子、上皮増殖因子、形質転換増殖因子α、インスリン様増殖因子、インスリン様増殖因子結合蛋白、肝細胞増殖因子、血管内皮増殖因子、アンジオポイエチン、神経増殖因子、脳由来神経栄養因子、毛様体神経栄養因子、形質転換増殖因子β、潜在型形質転換増殖因子β、アクチビン、骨形質タンパク、繊維芽細胞増殖因子、腫瘍増殖因子β、二倍体繊維芽細胞増殖因子、ヘパリン結合性上皮増殖因子様増殖因子、シュワノーマ由来増殖因子、アンフィレグリン、ベーターセルリン、エピグレリン、リンホトキシン、エリスロエポイエチン、腫瘍壊死因子α、インターロイキン−1β、インターロイキン−6、インターロイキン−8、インターロイキン−17、インターフェロン、抗ウイルス剤、抗菌剤及び抗生物質よりなる群から選択される1種又は2種以上が保持されていても良く、更に、胚性幹細胞(分化されていても良い。)、血管内皮細胞、中胚葉性細胞、平滑筋細胞、末梢血管細胞、及び中皮細胞よりなる群から選択される1種又は2種以上の細胞が接着されていても良い。
【0075】
第1及び第2アスペクトのカフ部材は、その多孔性三次元網状構造層を構築する熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂からなる骨格自体にも微細な孔を設けることが可能である。このような微細孔は、骨格表面を平滑な表面でなく複雑な凹凸のある表面とし、コラーゲンや細胞増殖因子などの保持にも有効であり、結果として細胞の生着性を上げることが可能である。ただし、この場合の微細孔は、本発明でいう多孔性三次元網状構造層の平均孔径の計算の概念へ導入されるものではない。
【0076】
以下に、本発明のカフ部材を構成する熱可塑性ポリウレタン樹脂よりなる多孔性三次元網状構造体の製造方法の一例を挙げるが、本発明のカフ部材の製造方法は何ら以下の方法に限定されるものではない。
【0077】
熱可塑性ポリウレタン樹脂よりなる多孔性三次元網状構造体を製造するには、まず、ポリウレタン樹脂と、孔形成剤としての後述の水溶性高分子化合物と、ポリウレタン樹脂の良溶媒である有機溶媒とを混合してポリマードープを製造する。具体的には、ポリウレタン樹脂を有機溶媒に混合して均一溶液とした後、この溶液中に水溶性高分子化合物を混合分散させる。有機溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリジノン、テトラヒドロフランなどがあるが、熱可塑性ポリウレタン樹脂を溶解することができればこの限りではなく、また、有機溶媒を減量するか又は使用せずに熱の作用でポリウレタン樹脂を融解し、ここに孔形成剤を混合することも可能である。
【0078】
孔形成剤としての水溶性高分子化合物としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、アルギン酸、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロースなどが挙げられるが、熱可塑性樹脂と均質に分散してポリマードープを形成するものであればこの限りではない。また、熱可塑性樹脂の種類によっては、水溶性高分子化合物でなく、フタル酸エステル、パラフィンなどの親油性化合物や塩化リチウム、炭酸カルシウムなどの無機塩類を使用することも可能である。また、高分子用の結晶核剤などを利用して凝固時の二次粒子の生成、即ち、多孔体の骨格形成を助長することも可能である。
【0079】
熱可塑性ポリウレタン樹脂、有機溶媒及び水溶性高分子化合物などより製造されたポリマードープは、次いで熱可塑性ポリウレタン樹脂の貧溶媒を含有する凝固浴中に浸漬し、凝固浴中に有機溶媒及び水溶性高分子化合物を抽出除去する。このように有機溶媒及び水溶性高分子化合物の一部又は全部を除去することにより、ポリウレタン樹脂からなる多孔性三次元網状構造材料を得ることができる。ここで用いる貧溶媒としては、水、低級アルコール、低炭素数のケトン類などが例示できる。凝固したポリウレタン樹脂は、最終的には、水などで洗浄して残留する有機溶媒や孔形成剤を除去すれば良い。
【実施例及び比較例】
【0080】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0081】
実施例1では第1アスペクトに係る第1b図に示される形状のカフ部材を作成してヤギ移植実験を行った。動物実験に関しては国際標準規格に従って倫理面に配慮し、適切に行った。
【0082】
[実施例1]
<多孔体の製造>
熱可塑性ポリウレタン樹脂(日本ミラクトラン社製、ミラクトランE980PNAT)をN−メチル−2−ピロリジノン(関東化学社製、ペプチド合成用試薬、NMP)にディゾルバー(約2,000rpm)を使用して室温下で溶解して12.5%溶液(重量/重量)を得た。このNMP溶液約1.0kgをプラネタリーミキサー(井上製作所製、2.0L仕込み、PLM−2型)に秤量して入れ、ポリウレタン樹脂の半分重量相当のメチルセルロース(関東化学社製、試薬、50cpグレード)を添加し、60℃で120分間攪拌した。攪拌を継続したまま10分間20mmHg(2.7kPa)まで減圧して脱泡する操作を加え、ポリマードープを得た。
【0083】
別に、厚み3mmで内側の140mm×140mm部分を打抜いた150mm×150mmのテフロン製の四角枠を二枚重ね、これらの間に150mm×150mm角の化学実験用濾紙(東洋濾紙社製、定量分析用、2番)を挟み固定した。ここに前記ポリマードープを流延し、ガラス棒にて液切りした後、150mm×150mm角の化学実験用濾紙(東洋濾紙社製、定量分析用、2番)を乗せて固定した。これを還流状態にあるメタノール中へ投入して72時間還流を継続して上下両面の化学実験用濾紙面からNMP溶媒を抽出除去することでポリウレタン樹脂を凝固させた。なお、メタノールは還流状態を維持したまま、20分間隔で新液と交換した。
【0084】
72時間後、フッ素樹脂製の枠から固化したポリウレタン樹脂を取り出し、日本薬局方精製水中で72時間洗浄することによりメチルセルロース、メタノール及び残留するNMPを抽出除去した。これを、室温下で24時間減圧(20mmHg)乾燥させて、熱可塑性ポリウレタン樹脂製の多孔性三次元網状構造材料を得た。
【0085】
得られた多孔性三次元網状構造材料について、下記方法により平均孔径及び見掛け密度の測定を行った。なお、試料の切断は両刃カミソリ(フェザー社製、ハイステンレス)を使用して室温下で行った。
【0086】
[平均孔径の測定]
両刃カミソリで切断した試料の平面(切断面)を電子顕微鏡(トプコン社製、SM200)にて撮影した写真(代表例を図6に示す)を使用して、同一平面上の個々の孔を三次元網状構造の骨格から包囲された図形として画像処理(画像処理装置はニレコ社のLUZEX APを使用し、画像取り込みCCDカメラはソニー株式会社のLE N50を使用した。)し、個々の図形の面積を測定した。これを真円面積とし、対応する円の直径を求め孔径とした。ただし、多孔体形成時の相分離の効果によって、多孔体の骨格部分に穿孔されている微細孔は無視して同一平面上の連通孔のみを測定した。同時に、測定した全孔において孔径分布を測定し、図示したのが図7である。更にこの孔径分布測定結果から、孔径150〜400μm孔の寄与率を計測した結果、多孔質構造体の平均孔径は286.1μm、孔径150〜400μm孔の寄与率は87.6%と測定された。
【0087】
[見掛け密度の測定]
多孔質構造体を約10mm×10mm×3mmの直方体に両刃カミソリで切断し、投影機(Nikon,V−12)にて測定して得た寸法より体積を求め、その重量を体積で除した値から見かけ密度を求めた結果、0.118±0.006g/cm3であった。
【0088】
<カフ部材の成型>
前記多孔性構造体をトムソン打ち抜き刃で図1の3のフランジ部の形状に打ち抜いた(長直径は120mm、短直径は70mm)。次に、前記の同様の手法で熱可塑性ポリウレタン樹脂を筒状の多孔性三次元網状構造材料(内径7.7mm、外径13.5mm、長さ50mm)へ成型した(図1の筒状部3b)。続いて、熱可塑性ポリウレタン樹脂を定法のヒートプレス加工によって2.0mm厚みの鏡面シートへ成型し、トムソン打ち抜き刃によってパッド5の形状(長直径は100mm、短直径は50mm)に打ち抜いた。
【0089】
このパッド表面にテトラヒドロフラン(関東化学、試薬、特級)を塗布し、ここに多孔性三次元網状構造材料からなるフランジ部を重ね合わせ、荷重1.0kg/cm2で圧着させて中央部に開口5a及び3aを開けた。
【0090】
この開口にチューブ6(内径5.0mm、外径7.7mm)を通して固定し、さらにフランジ部(図1の符号3)の下面においてチューブ6を包むように筒状部3bを装着して固定することにより第1アスペクトのカフ部材を製造した。
【0091】
次に、このカフ部材をヤギの皮下に埋め込んだ。
検体には2個体の成ヤギ(いずれも雌、体重54kg及び53kg)を用い、剃毛された左側胸部より腹部表皮を試験部位とした。手術時、検体は左側臥位にて、通常手技を用い速やかに気管内挿管を行い、イソフルレンによる全身麻酔下にて維持された。胸腹部周囲表皮をイソジン消毒後、表皮を約100mm切開し、エチレンオキサイトガス滅菌を施した上記本発明のカフ部材を埋め込んだ。パッド5から約10mm幅で全周に渡ってはみ出しているカフ部材2の外周部分を表皮の下側へ埋込むようにした。パッド5の外周部分を切開された表皮の末端部分と合わせるようにして皮下組織を縫合してカフ部材を固定した。
【0092】
術後、試験部位は酸性水にて1日2回の消毒を行った。検体は自由給水とし、飼料としてヘイキューブを一日5回、適量(約1kg)を給仕した。術後1ヶ月後及び2ヶ月後に、全身麻酔下にて先に埋め込まれた試験片および周囲の組織を摘出した。
【0093】
試験片と周囲の組織は密に生着し、互いの剥離は困難であった。また周囲に感染、炎症等の所見は認められなかった。
【0094】
図8は埋入されたフランジ部3の上で、パッド5と成ヤギの表皮が線で接触したその境界線を観察した断面ルーペ写真である。パッド5のエッヂ部分と表皮がわずかな隙間があるだけで接着して安定しており、図2で説明されている通り、カフ部材のフランジ部3が皮下組織と癒着することによって、表皮がチューブ6と皮下組織の接触部位まで到達することすらなく、ダウングロース現象が完全に抑制されていることが分かる。
【0095】
さらに摘出された試料片は10%中性緩衝ホルマリンにて速やかに固定され、常法にてHE染色標本を作成し、光学顕微鏡にて観察した。組織学的所見としては、本発明のカフ部材ユニットのフランジ部3及び筒状部4を構成する多孔性三次元網状構造層には、周囲組織より伸展した線維芽細胞、マクロファージおよび膠原線維などの細胞外基質を主体とする肉芽組織が浸潤し、多くの血管新生が確認された。また、1ヶ月と2ヶ月の剖検によってこれら浸潤組織は経時性に成熟した結合組織へ形成されていくのが認められた。
【0096】
以上により、第1アスペクトのカフ部材は、そのフランジ部3及び筒状部4へ生体細胞が浸潤することにより器質化し、創傷部を外界と隔絶し、治癒機転における細菌感染等の増悪因子を防御することが示唆された。
【0097】
[比較例1]
第1アスペクトのカフ部材ユニットからパッド5とフランジ部3を取り除き、チューブ6(内径2.0mm、外径3.0mm)へ筒状部4を装着したのみでのカフ部材を製作した。このカフ部材を、実施例1と同様の手法で筒状部4の上末端が表皮から2mm程度露出するように成ヤギへ移植した。1ヶ月後に実施例1と同様にして試験片および周囲の組織を摘出した。皮下組織の深部においては、試験片と周囲の組織は密に生着し、互いの剥離は困難であったが、表皮に近い部分ではほとんど生着しておらず容易に剥離できた。図9は試験片と周囲の組織を切断した断面のルーペ写真であるが、表皮に近い部分では周囲に感染、炎症等の所見が確認され、さらに図3に示されるように筒状部3bに沿ってダウングロース現象が起こっていることが分かり、試験片と組織の剥離性と整合性があった。消毒処置は毎日2回、刺入部へ貯まる皮脂類などを清掃する必要があり、この処置を念入りに行わないと、即、感染した。また、カフ部材を手で引張ると簡単に抜去された。
【0098】
[実施例2]
以下に、第2アスペクトに係る実施例2について説明する。
<第1フランジ部及び筒状部のための多孔体の製造>
実施例1と全く同様にしてポリマードープを得た。
【0099】
別に、厚み5mmで内側の140mm×140mm部分を打抜いた150mm×150mmのフッ素樹脂製の四角枠を二枚重ね、これらの間に150mm×150mm角の化学実験用濾紙(東洋濾紙社製、定量分析用、2番)を挟み固定した。ここに前記ポリマードープを流延し、ガラス棒にて液切りした後、150mm×150mm角の化学実験用濾紙(東洋濾紙社製、定量分析用、2番)を乗せて固定した。これを還流状態にあるメタノール中へ投入して72時間還流を継続して上下両面の化学実験用濾紙面からNMP溶媒を抽出除去することでポリウレタン樹脂を凝固させた。なお、メタノールは還流状態を維持したまま、20分間隔で新液と交換した。
【0100】
72時間後、フッ素樹脂枠から固化したポリウレタン樹脂を取り出し、日本薬局方精製水中で72時間洗浄することによりメチルセルロース、メタノール及び残留するNMPを抽出除去した。これを、室温下で24時間減圧(20mmHg)乾燥させて、熱可塑性ポリウレタン樹脂製の多孔性三次元網状構造材料を得た。
【0101】
得られた多孔性三次元網状構造材料について、実施例1と同一の方法により平均孔径及び見掛け密度の測定を行ったところ、実施例1の多孔体と同一あった。
【0102】
<第2フランジ部のための多孔体の製造>
ミラクトランE980PNATのNMP溶液を12.5%から20.0%としたこと、フッ素樹脂製四角枠の厚みを4mmとしたこと以外は第1フランジ部の多孔体の成型と同様にして第2フランジ部の多孔性構造体を成型し、第1フランジ部の多孔性構造体と同様の方法で平均孔径と見掛け密度を測定した。平均孔径は41.7μmであった。孔径の分布は図14の通りであるが、孔径30μm〜60μmの孔の寄与率は79.0%であった。また、見かけ密度は0.228±0.011g/cm3であった。
【0103】
<カフ部材の成型>
熱プレス器を使用して定法によりミラクトランE980PNATを2mm厚の鏡面中実シートへ成型し、トムソン刃によって長径40mm、短径30mmの真楕円へ打ち抜いて高分子樹脂製パッド5を作成した。
【0104】
次に4mm厚みで作成した第2フランジ部の多孔性構造体をトムソン刃を用いて長径50mm、短径40mmの真楕円に打ち抜き、3mm厚の均質な平滑な多孔性シートへ面出加工した後、中央部に長径40mm、短径30mmの真楕円の溝を2mmの深さで彫り、第2フランジ部4へ加工した。加工はCAD図面を元にNC加工機(Roland社製、PNC−3200)を使用して切削して行った。
【0105】
この第2フランジ部の中央部の溝へ前記高分子樹脂製パッド表面にテトラヒドロフラン(関東化学、試薬、特級)を塗布して挿入し、荷重1.0kg/cm2で圧着させて接着した。
【0106】
第1フランジ部3の多孔性構造体をトムソン刃を用いて長径70mm、短径60mmの真楕円に打ち抜き、続いて、第2フランジ部4の高分子樹脂製パッドを接着していない側の面にテトラヒドロフランに塗布し、この第1フランジ部へ重ね合わせて荷重1.0kg/cm2で圧着させた。中央部に開口5a、4a及び3aを開けた。この開口にチューブ6(内径5.0mm、外径7.7mm)を通して固定した。
【0107】
次に、前記の同様の手法で熱可塑性ポリウレタン樹脂を筒状の多孔性三次元網状構造材料(内径7.7mm、外径13.5mm、長さ50mm)へ成型した筒状部3bを作成し、第1フランジ部3の下面においてチューブ6を包むように筒状部3bを装着して固定することにより第2アスペクトのカフ部材を得た。
【0108】
次に、このカフ部材をヤギ皮下へ埋め込んだ。
【0109】
検体には2個体の成ヤギ(いずれも雌、体重54kg及び53kg)を用い、剃毛された左側胸部より腹部表皮を試験部位とした。手術時、検体は左側臥位にて、通常手技を用い速やかに気管内挿管を行い、イソフルレンによる全身麻酔下にて維持された。胸腹部周囲表皮をイソジン消毒後、表皮を約100mm切開し、実施例1で作成し、エチレンオキサイトガス滅菌を施した、本発明のカフ部材を埋め込み(パッド5及び第2フランジ部4からはみ出している第1フランジ部3の外周部分を表皮の下側へ埋込むようにして)、第2フランジ部4の外周部分を切開された表皮の末端部分と合わせるようにして皮下組織を縫合して固定した(図15)。術後から1週間は縫合部位を酸性水にて1日2回の消毒を行った。検体は自由給水とし、飼料としてヘイキューブを一日5回、適量(約1kg)を給仕した。術後1週間を経過した後は一切の消毒処理を行うことなく、かつ、抗生物質を投与することなく感染所見などを認めることなく順調に経過した。図16は第2フランジ部と成ヤギの表皮との接触部分の写真である。
【0110】
図16の通り、第2フランジ部4のエッヂ部分と表皮がわずかな隙間があるだけで接着して安定しており、第1フランジ部3が皮下組織と癒着することによって、表皮がチューブ6と皮下組織の接触部位まで到達することすらなく、ダウングロース現象が完全に抑制されている。
【0111】
次に、術後1、3、6及び12ヶ月後に、全身麻酔下にて先に埋め込まれた試験片および周囲の組織を摘出した。術後1ヶ月後で既に試験片と周囲の組織は密に生着し、互いの剥離は困難であった。時間の経過とともに癒着は頑強なものとなっていた。摘出後のマクロ的病理所見においても、カフ部材移植部位の周囲に感染、炎症等の所見は認められなかった。さらに摘出された試料片は10%中性緩衝ホルマリンにて速やかに固定され、常法にてHE染色標本を作成し、光学顕微鏡にて観察した。組織学的所見としては、本発明のカフ部材ユニットの第1フランジ部3及び筒状部3bを構成する多孔性三次元網状構造層には、周囲組織より伸展した線維芽細胞、マクロファージおよび膠原線維などの細胞外基質を主体とする肉芽組織が浸潤し、多くの血管新生が確認された(図17)。また、1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月後の剖検によってこれら浸潤組織は経時性に成熟した結合組織へ形成されていくのが認められた。
【0112】
術後3ヶ月を経過すると生体組織との癒着はいよいよ頑強になり、カフ部材を手で引張っても皮下から抜去されることなく、カフ部材と一体化した皮下組織がそのまま持ち上がるようになった(図18)。また、試験期間中は、余分な体毛を剃毛する以外には抗生物質を投与したり消毒などの処置をする必要もなく、水と飼料の供給で順調に経過した。
【0113】
術後12ヶ月を経過しても表皮は第1フランジ部上を後退することなく、第2フランジ部エッヂ部分とほぼ密着して癒着しており、12ヶ月間消毒処置をすることなく感染を惹起せずに経過した(図19)。
【0114】
図20の左側は術後12ヶ月後に摘出したカフ部材試料の断面標本の実態写真、図20の右側は同視野の組織標本写真である。第1フランジ部を貫通した組織は、第2フランジ部まで到達し、第1フランジ部上で表皮と連絡して癒着している。表皮は第2フランジ部エッヂ部分とほぼ密着して癒着しており、境界に感染層などは確認されない。
【0115】
以上により、第2アスペクトのカフ部材ユニットは、その第1フランジ部3及び筒状部3bへ生体細胞が浸潤することにより器質化し、第2フランジ部が表皮と接着することで創傷部を外界と隔絶し、治癒機転における細菌感染等の増悪因子を防御することが示唆された。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体の外面に重なるフランジ部と、
該フランジ部の一方の面から立設された筒状部と
を有するカフ部材であって、
熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂よりなる基材樹脂で形成された、平均孔径50〜1000μmで、見掛け密度が0.01〜0.5g/cm3の、連通性のある多孔性三次元網状構造部を有することを特徴とするカフ部材。
【請求項2】
請求項1において、該多孔性三次元網状構造の平均孔径が150〜600μmで、見掛け密度が0.01〜0.5g/cm3であることを特徴とするカフ部材。
【請求項3】
請求項2において、該多孔性三次元網状構造の平均孔径が200〜500μmで、見掛け密度が0.01〜0.5g/cm3であることを特徴とするカフ部材。
【請求項4】
請求項1において、該多孔性三次元網状構造の見掛け密度が0.05〜0.3g/cm3であることを特徴とするカフ部材。
【請求項5】
請求項4において、該多孔性三次元網状構造の見掛け密度が0.05〜0.2g/cm3であることを特徴とするカフ部材。
【請求項6】
請求項1において、該多孔性三次元網状構造の平均孔径における孔径150〜400μmの孔の寄与率が10%以上であることを特徴とするカフ部材。
【請求項7】
請求項1において、該多孔性三次元網状構造の平均孔径における孔径150〜400μmの孔の寄与率が20%以上であることを特徴とするカフ部材。
【請求項8】
請求項1において、該多孔性三次元網状構造の平均孔径における孔径150〜400μmの孔の寄与率が30%以上であることを特徴とするカフ部材。
【請求項9】
請求項1において、該多孔性三次元網状構造の平均孔径における孔径150〜400μmの孔の寄与率が40%以上であることを特徴とするカフ部材。
【請求項10】
請求項1において、該多孔性三次元網状構造の平均孔径における孔径150〜400μmの孔の寄与率が50%以上であることを特徴とするカフ部材。
【請求項11】
請求項1において、該多孔性三次元網状構造部の厚みが0.2〜500mmであることを特徴とするカフ部材。
【請求項12】
請求項1において、該多孔性三次元網状構造部の厚みが0.2〜100mmであることを特徴とするカフ部材。
【請求項13】
請求項1において、該多孔性三次元網状構造部の厚みが0.2〜50mmであることを特徴とするカフ部材。
【請求項14】
請求項1において、該多孔性三次元網状構造部の厚みが0.2〜10mmであることを特徴とするカフ部材。
【請求項15】
請求項1において、該多孔性三次元網状構造部の厚みが0.2〜5mmであることを特徴とするカフ部材。
【請求項16】
請求項1において、該基材樹脂が、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、エポシキ樹脂、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂及びメタクリル樹脂並びにこれらの誘導体よりなる群から選択される1種又は2種以上であることを特徴とするカフ部材。
【請求項17】
請求項16において、該基材樹脂がポリウレタン樹脂であることを特徴とするカフ部材。
【請求項18】
請求項17において、該ポリウレタン樹脂がセグメント化ポリウレタン樹脂であることを特徴とするカフ部材。
【請求項19】
請求項1において、該多孔性三次元網状構造よりなる第1の層と、該第1の層とは異なる第2の層との積層体であることを特徴とするカフ部材。
【請求項20】
請求項19において、該第2の層が繊維集合体、可撓性フィルム、及び、前記第1の層の多孔性三次元網状構造とは異なる平均孔径及び/又は見掛け密度の多孔性三次元網状構造層よりなる群から選択される1種又は2種以上であることを特徴とするカフ部材。
【請求項21】
請求項20において、該繊維集合体が不織布又は織布であることを特徴とするカフ部材。
【請求項22】
請求項21において、該不織布又は織布の厚みが0.1〜100mmであることを特徴とするカフ部材。
【請求項23】
請求項22において、該不織布又は織布の厚みが0.1〜50mmであることを特徴とするカフ部材。
【請求項24】
請求項23において、該不織布又は織布の厚みが0.1〜10mmであることを特徴とするカフ部材。
【請求項25】
請求項24において、該不織布又は織布の厚みが0.1〜5mmであることを特徴とするカフ部材。
【請求項26】
請求項21において、該不織布又は織布の有孔性が100〜5000cc/cm2/minであることを特徴とするカフ部材。
【請求項27】
請求項20において、該繊維集合体がポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、アクリル樹脂及びメタクリル樹脂並びにこれらの誘導体よりなる群から選択される1種又は2種以上で構成されることを特徴とするカフ部材。
【請求項28】
請求項20において、該繊維集合体がフィブロイン、キチン、キトサン及びセルロース並びにこれらの誘導体よりなる群から選択される1種又は2種以上で構成されることを特徴とするカフ部材。
【請求項29】
請求項20において、該可撓性フィルムが熱可塑性樹脂フィルムであることを特徴とするカフ部材。
【請求項30】
請求項29において、該熱可塑性樹脂がポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、エポシキ樹脂、ポリイミド樹脂、シリコン樹脂、アクリル樹脂及びメタクリル樹脂並びにこれらの誘導体よりなる群から選択される1種又は2種以上であることを特徴とするカフ部材。
【請求項31】
請求項29において、該熱可塑性樹脂がポリ塩化ビニル、ポリウレタン樹脂、フッ素樹脂及びシリコン樹脂よりなる群から選択される1種又は2種以上であることを特徴とするカフ部材。
【請求項32】
請求項20において、該可撓性フィルムの厚みが0.1〜500μmであることを特徴とするカフ部材。
【請求項33】
請求項20において、該可撓性フィルムの厚みが0.1〜100μmであることを特徴とするカフ部材。
【請求項34】
請求項20において、該可撓性フィルムの厚みが0.1〜50μmであることを特徴とするカフ部材。
【請求項35】
請求項20において、該可撓性フィルムの厚みが0.1〜10μmであることを特徴とするカフ部材。
【請求項36】
請求項20において、該第2の層の多孔性三次元網状構造層の平均孔径が0.1〜200μmで、見掛け密度が0.01〜1.0g/cm3であることを特徴とするカフ部材。
【請求項37】
請求項20において、該第2の層の多孔性三次元網状構造層の厚みが0.2〜20mmであることを特徴とするカフ部材。
【請求項38】
請求項1において、該多孔性三次元網状構造部に、コラーゲンタイプI、コラーゲンタイプII、コラーゲンタイプIII、コラーゲンタイプIV、アテロ型コラーゲン、フィブロネクチン、ゼラチン、ヒアルロン酸、ヘパリン、ケラタン酸、コンドロイチン、コンドロイチン硫酸、コンドロイチン硫酸B、エラスチン、ヘパラン硫酸、ラミニン、トロンボスポンジン、ビトロネクチン、オステオネクチン、エンタクチン、ヒドロキシエチルメタクリレートとジメチルアミノエチルメタクリレートの共重合体、ヒドロキシエチルメタクリレートとメタクリル酸の共重合体、アルギン酸、ポリアクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド及びポリビニルピロリドンよりなる群から選択される1種又は2種以上が保持されていることを特徴とするカフ部材。
【請求項39】
請求項38において、該多孔性三次元網状構造部に更に血小板由来増殖因子、上皮増殖因子、形質転換増殖因子α、インスリン様増殖因子、インスリン様増殖因子結合蛋白、肝細胞増殖因子、血管内皮増殖因子、アンジオポイエチン、神経増殖因子、脳由来神経栄養因子、毛様体神経栄養因子、形質転換増殖因子β、潜在型形質転換増殖因子β、アクチビン、骨形質タンパク、繊維芽細胞増殖因子、腫瘍増殖因子β、二倍体繊維芽細胞増殖因子、ヘパリン結合性上皮増殖因子様増殖因子、シュワノーマ由来増殖因子、アンフィレグリン、ベーターセルリン、エピグレリン、リンホトキシン、エリスロエポイエチン、腫瘍壊死因子α、インターロイキン−1β、インターロイキン−6、インターロイキン−8、インターロイキン−17、インターフェロン、抗ウイルス剤、抗菌剤及び抗生物質よりなる群から選択される1種又は2種以上が保持されていることを特徴とするカフ部材。
【請求項40】
請求項39において、該多孔性三次元網状構造部に細胞が接着されていることを特徴とするカフ部材。
【請求項41】
請求項40において、該細胞が胚性幹細胞、血管内皮細胞、中胚葉性細胞、平滑筋細胞、末梢血管細胞及び中皮細胞よりなる群から選択される1種又は2種以上であることを特徴とするカフ部材。
【請求項42】
請求項41において、該胚性幹細胞が分化されたものであることを特徴とするカフ部材。
【請求項43】
請求項1において、該カフ部材は、さらに、
該カフ部材の前記フランジ部の他方の面に重なる高分子材料製パッド
を備えてなることを特徴とするカフ部材。
【請求項44】
請求項43において、生体に対する流体の供給又は排出用のチューブが、該パッドと、カフ部材のフランジ部及び筒状部を貫通して挿通されていることを特徴とするカフ部材。
【請求項45】
請求項44において、該チューブと該パッドとの界面が密封されていることを特徴とするカフ部材。
【請求項46】
請求項1において、前記フランジ部は、第1のフランジ部であり、
該カフ部材は、さらに、一方の面が該第1フランジ部の他方の面に重なる第2フランジ部と、該第2フランジ部の他方の面に重なる高分子材料製パッドとを有しており、
前記第1フランジ部及び筒状部が熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂よりなる基材樹脂で形成された、平均孔径100〜1000μmで見掛け密度が0.01〜0.5g/cm3の連通性のある多孔性三次元網状構造部を有しており、
前記第2フランジ部が熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂よりなる基材樹脂で形成された、平均孔径1〜100μmで見掛け密度が0.05〜1g/cm3の、連通性のある多孔性三次元網状構造部を有していることを特徴とするカフ部材。
【請求項47】
請求項46において、第1フランジ部及び筒状部の多孔性三次元網状構造の平均孔径が150〜600μmで、見掛け密度が0.03〜0.3g/cm3であることを特徴とするカフ部材。
【請求項48】
請求項46において、第1フランジ部及び筒状部の多孔性三次元網状構造の平均孔径が200〜500μmで、見掛け密度が0.05〜0.2g/cm3であることを特徴とするカフ部材。
【請求項49】
請求項46において、第1フランジ部及び筒状部の多孔性三次元網状構造の平均孔径における孔径150〜400μmの孔の寄与率が10%以上であることを特徴とするカフ部材。
【請求項50】
請求項46において、第1フランジ部及び筒状部の多孔性三次元網状構造の平均孔径における孔径150〜400μmの孔の寄与率が30%以上であることを特徴とするカフ部材。
【請求項51】
請求項46において、第1フランジ部及び筒状部の多孔性三次元網状構造の平均孔径における孔径150〜400μmの孔の寄与率が50%以上であることを特徴とするカフ部材。
【請求項52】
請求項46において、第1フランジ部の多孔性三次元網状構造部の厚みが0.2〜50mmであることを特徴とするカフ部材。
【請求項53】
請求項46において、第1フランジ部の多孔性三次元網状構造部の厚みが0.2〜10mmであることを特徴とするカフ部材。
【請求項54】
請求項46において、第1フランジ部の多孔性三次元網状構造部の厚みが1〜7mmであることを特徴とするカフ部材。
【請求項55】
請求項46において、前記第2フランジ部の多孔性三次元網状構造部の平均孔径が5〜80μmで、見掛け密度が0.1〜0.7g/cm3であることを特徴とするカフ部材。
【請求項56】
請求項46において、前記第2フランジ部の多孔性三次元網状構造部の平均孔径が10〜70μmで、見掛け密度が0.1〜0.5g/cm3であることを特徴とするカフ部材。
【請求項57】
請求項46において、前記第2フランジ部の多孔性三次元網状構造の平均孔径における孔径30〜60μmの孔の寄与率が10%以上であることを特徴とするカフ部材。
【請求項58】
請求項46において、前記第2フランジ部の多孔性三次元網状構造の平均孔径における孔径30〜60μmの孔の寄与率が30%以上であることを特徴とするカフ部材。
【請求項59】
請求項46において、前記第2フランジ部の多孔性三次元網状構造の平均孔径における孔径30〜60μmの孔の寄与率が50%以上であることを特徴とするカフ部材。
【請求項60】
請求項46において、第2フランジ部の多孔性三次元網状構造部の厚みが0.1〜10.0mmであることを特徴とするカフ部材。
【請求項61】
請求項46において、第2フランジ部の多孔性三次元網状構造部の厚みが0.5〜5mmであることを特徴とするカフ部材。
【請求項62】
請求項46において、前記第2フランジ部が前記高分子樹脂製パッドの外縁よりも外方にまで延出しており、前記第1フランジ部が第2フランジ部の外縁よりも外方にまで延出していることを特徴とするカフ部材。
【請求項63】
請求項62において、第2フランジ部が高分子樹脂製パッドの外縁から延出する幅が0.1〜30mmであることを特徴とするカフ部材。
【請求項64】
請求項62において、第2フランジ部が高分子樹脂製パッドの外縁から延出する幅が該第2フランジ部の厚み方向において変化することを特徴とするカフ部材。
【請求項65】
請求項62において、第2フランジ部が高分子樹脂製パッドの外縁から延出する幅は、高分子樹脂製パッドの上面において3mm以下であり、第1フランジ部と接する底面において1mm〜30mmであることを特徴とするカフ部材。
【請求項1】
生体の外面に重なるフランジ部と、
該フランジ部の一方の面から立設された筒状部と
を有するカフ部材であって、
熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂よりなる基材樹脂で形成された、平均孔径50〜1000μmで、見掛け密度が0.01〜0.5g/cm3の、連通性のある多孔性三次元網状構造部を有することを特徴とするカフ部材。
【請求項2】
請求項1において、該多孔性三次元網状構造の平均孔径が150〜600μmで、見掛け密度が0.01〜0.5g/cm3であることを特徴とするカフ部材。
【請求項3】
請求項2において、該多孔性三次元網状構造の平均孔径が200〜500μmで、見掛け密度が0.01〜0.5g/cm3であることを特徴とするカフ部材。
【請求項4】
請求項1において、該多孔性三次元網状構造の見掛け密度が0.05〜0.3g/cm3であることを特徴とするカフ部材。
【請求項5】
請求項4において、該多孔性三次元網状構造の見掛け密度が0.05〜0.2g/cm3であることを特徴とするカフ部材。
【請求項6】
請求項1において、該多孔性三次元網状構造の平均孔径における孔径150〜400μmの孔の寄与率が10%以上であることを特徴とするカフ部材。
【請求項7】
請求項1において、該多孔性三次元網状構造の平均孔径における孔径150〜400μmの孔の寄与率が20%以上であることを特徴とするカフ部材。
【請求項8】
請求項1において、該多孔性三次元網状構造の平均孔径における孔径150〜400μmの孔の寄与率が30%以上であることを特徴とするカフ部材。
【請求項9】
請求項1において、該多孔性三次元網状構造の平均孔径における孔径150〜400μmの孔の寄与率が40%以上であることを特徴とするカフ部材。
【請求項10】
請求項1において、該多孔性三次元網状構造の平均孔径における孔径150〜400μmの孔の寄与率が50%以上であることを特徴とするカフ部材。
【請求項11】
請求項1において、該多孔性三次元網状構造部の厚みが0.2〜500mmであることを特徴とするカフ部材。
【請求項12】
請求項1において、該多孔性三次元網状構造部の厚みが0.2〜100mmであることを特徴とするカフ部材。
【請求項13】
請求項1において、該多孔性三次元網状構造部の厚みが0.2〜50mmであることを特徴とするカフ部材。
【請求項14】
請求項1において、該多孔性三次元網状構造部の厚みが0.2〜10mmであることを特徴とするカフ部材。
【請求項15】
請求項1において、該多孔性三次元網状構造部の厚みが0.2〜5mmであることを特徴とするカフ部材。
【請求項16】
請求項1において、該基材樹脂が、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、エポシキ樹脂、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂及びメタクリル樹脂並びにこれらの誘導体よりなる群から選択される1種又は2種以上であることを特徴とするカフ部材。
【請求項17】
請求項16において、該基材樹脂がポリウレタン樹脂であることを特徴とするカフ部材。
【請求項18】
請求項17において、該ポリウレタン樹脂がセグメント化ポリウレタン樹脂であることを特徴とするカフ部材。
【請求項19】
請求項1において、該多孔性三次元網状構造よりなる第1の層と、該第1の層とは異なる第2の層との積層体であることを特徴とするカフ部材。
【請求項20】
請求項19において、該第2の層が繊維集合体、可撓性フィルム、及び、前記第1の層の多孔性三次元網状構造とは異なる平均孔径及び/又は見掛け密度の多孔性三次元網状構造層よりなる群から選択される1種又は2種以上であることを特徴とするカフ部材。
【請求項21】
請求項20において、該繊維集合体が不織布又は織布であることを特徴とするカフ部材。
【請求項22】
請求項21において、該不織布又は織布の厚みが0.1〜100mmであることを特徴とするカフ部材。
【請求項23】
請求項22において、該不織布又は織布の厚みが0.1〜50mmであることを特徴とするカフ部材。
【請求項24】
請求項23において、該不織布又は織布の厚みが0.1〜10mmであることを特徴とするカフ部材。
【請求項25】
請求項24において、該不織布又は織布の厚みが0.1〜5mmであることを特徴とするカフ部材。
【請求項26】
請求項21において、該不織布又は織布の有孔性が100〜5000cc/cm2/minであることを特徴とするカフ部材。
【請求項27】
請求項20において、該繊維集合体がポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、アクリル樹脂及びメタクリル樹脂並びにこれらの誘導体よりなる群から選択される1種又は2種以上で構成されることを特徴とするカフ部材。
【請求項28】
請求項20において、該繊維集合体がフィブロイン、キチン、キトサン及びセルロース並びにこれらの誘導体よりなる群から選択される1種又は2種以上で構成されることを特徴とするカフ部材。
【請求項29】
請求項20において、該可撓性フィルムが熱可塑性樹脂フィルムであることを特徴とするカフ部材。
【請求項30】
請求項29において、該熱可塑性樹脂がポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、エポシキ樹脂、ポリイミド樹脂、シリコン樹脂、アクリル樹脂及びメタクリル樹脂並びにこれらの誘導体よりなる群から選択される1種又は2種以上であることを特徴とするカフ部材。
【請求項31】
請求項29において、該熱可塑性樹脂がポリ塩化ビニル、ポリウレタン樹脂、フッ素樹脂及びシリコン樹脂よりなる群から選択される1種又は2種以上であることを特徴とするカフ部材。
【請求項32】
請求項20において、該可撓性フィルムの厚みが0.1〜500μmであることを特徴とするカフ部材。
【請求項33】
請求項20において、該可撓性フィルムの厚みが0.1〜100μmであることを特徴とするカフ部材。
【請求項34】
請求項20において、該可撓性フィルムの厚みが0.1〜50μmであることを特徴とするカフ部材。
【請求項35】
請求項20において、該可撓性フィルムの厚みが0.1〜10μmであることを特徴とするカフ部材。
【請求項36】
請求項20において、該第2の層の多孔性三次元網状構造層の平均孔径が0.1〜200μmで、見掛け密度が0.01〜1.0g/cm3であることを特徴とするカフ部材。
【請求項37】
請求項20において、該第2の層の多孔性三次元網状構造層の厚みが0.2〜20mmであることを特徴とするカフ部材。
【請求項38】
請求項1において、該多孔性三次元網状構造部に、コラーゲンタイプI、コラーゲンタイプII、コラーゲンタイプIII、コラーゲンタイプIV、アテロ型コラーゲン、フィブロネクチン、ゼラチン、ヒアルロン酸、ヘパリン、ケラタン酸、コンドロイチン、コンドロイチン硫酸、コンドロイチン硫酸B、エラスチン、ヘパラン硫酸、ラミニン、トロンボスポンジン、ビトロネクチン、オステオネクチン、エンタクチン、ヒドロキシエチルメタクリレートとジメチルアミノエチルメタクリレートの共重合体、ヒドロキシエチルメタクリレートとメタクリル酸の共重合体、アルギン酸、ポリアクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド及びポリビニルピロリドンよりなる群から選択される1種又は2種以上が保持されていることを特徴とするカフ部材。
【請求項39】
請求項38において、該多孔性三次元網状構造部に更に血小板由来増殖因子、上皮増殖因子、形質転換増殖因子α、インスリン様増殖因子、インスリン様増殖因子結合蛋白、肝細胞増殖因子、血管内皮増殖因子、アンジオポイエチン、神経増殖因子、脳由来神経栄養因子、毛様体神経栄養因子、形質転換増殖因子β、潜在型形質転換増殖因子β、アクチビン、骨形質タンパク、繊維芽細胞増殖因子、腫瘍増殖因子β、二倍体繊維芽細胞増殖因子、ヘパリン結合性上皮増殖因子様増殖因子、シュワノーマ由来増殖因子、アンフィレグリン、ベーターセルリン、エピグレリン、リンホトキシン、エリスロエポイエチン、腫瘍壊死因子α、インターロイキン−1β、インターロイキン−6、インターロイキン−8、インターロイキン−17、インターフェロン、抗ウイルス剤、抗菌剤及び抗生物質よりなる群から選択される1種又は2種以上が保持されていることを特徴とするカフ部材。
【請求項40】
請求項39において、該多孔性三次元網状構造部に細胞が接着されていることを特徴とするカフ部材。
【請求項41】
請求項40において、該細胞が胚性幹細胞、血管内皮細胞、中胚葉性細胞、平滑筋細胞、末梢血管細胞及び中皮細胞よりなる群から選択される1種又は2種以上であることを特徴とするカフ部材。
【請求項42】
請求項41において、該胚性幹細胞が分化されたものであることを特徴とするカフ部材。
【請求項43】
請求項1において、該カフ部材は、さらに、
該カフ部材の前記フランジ部の他方の面に重なる高分子材料製パッド
を備えてなることを特徴とするカフ部材。
【請求項44】
請求項43において、生体に対する流体の供給又は排出用のチューブが、該パッドと、カフ部材のフランジ部及び筒状部を貫通して挿通されていることを特徴とするカフ部材。
【請求項45】
請求項44において、該チューブと該パッドとの界面が密封されていることを特徴とするカフ部材。
【請求項46】
請求項1において、前記フランジ部は、第1のフランジ部であり、
該カフ部材は、さらに、一方の面が該第1フランジ部の他方の面に重なる第2フランジ部と、該第2フランジ部の他方の面に重なる高分子材料製パッドとを有しており、
前記第1フランジ部及び筒状部が熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂よりなる基材樹脂で形成された、平均孔径100〜1000μmで見掛け密度が0.01〜0.5g/cm3の連通性のある多孔性三次元網状構造部を有しており、
前記第2フランジ部が熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂よりなる基材樹脂で形成された、平均孔径1〜100μmで見掛け密度が0.05〜1g/cm3の、連通性のある多孔性三次元網状構造部を有していることを特徴とするカフ部材。
【請求項47】
請求項46において、第1フランジ部及び筒状部の多孔性三次元網状構造の平均孔径が150〜600μmで、見掛け密度が0.03〜0.3g/cm3であることを特徴とするカフ部材。
【請求項48】
請求項46において、第1フランジ部及び筒状部の多孔性三次元網状構造の平均孔径が200〜500μmで、見掛け密度が0.05〜0.2g/cm3であることを特徴とするカフ部材。
【請求項49】
請求項46において、第1フランジ部及び筒状部の多孔性三次元網状構造の平均孔径における孔径150〜400μmの孔の寄与率が10%以上であることを特徴とするカフ部材。
【請求項50】
請求項46において、第1フランジ部及び筒状部の多孔性三次元網状構造の平均孔径における孔径150〜400μmの孔の寄与率が30%以上であることを特徴とするカフ部材。
【請求項51】
請求項46において、第1フランジ部及び筒状部の多孔性三次元網状構造の平均孔径における孔径150〜400μmの孔の寄与率が50%以上であることを特徴とするカフ部材。
【請求項52】
請求項46において、第1フランジ部の多孔性三次元網状構造部の厚みが0.2〜50mmであることを特徴とするカフ部材。
【請求項53】
請求項46において、第1フランジ部の多孔性三次元網状構造部の厚みが0.2〜10mmであることを特徴とするカフ部材。
【請求項54】
請求項46において、第1フランジ部の多孔性三次元網状構造部の厚みが1〜7mmであることを特徴とするカフ部材。
【請求項55】
請求項46において、前記第2フランジ部の多孔性三次元網状構造部の平均孔径が5〜80μmで、見掛け密度が0.1〜0.7g/cm3であることを特徴とするカフ部材。
【請求項56】
請求項46において、前記第2フランジ部の多孔性三次元網状構造部の平均孔径が10〜70μmで、見掛け密度が0.1〜0.5g/cm3であることを特徴とするカフ部材。
【請求項57】
請求項46において、前記第2フランジ部の多孔性三次元網状構造の平均孔径における孔径30〜60μmの孔の寄与率が10%以上であることを特徴とするカフ部材。
【請求項58】
請求項46において、前記第2フランジ部の多孔性三次元網状構造の平均孔径における孔径30〜60μmの孔の寄与率が30%以上であることを特徴とするカフ部材。
【請求項59】
請求項46において、前記第2フランジ部の多孔性三次元網状構造の平均孔径における孔径30〜60μmの孔の寄与率が50%以上であることを特徴とするカフ部材。
【請求項60】
請求項46において、第2フランジ部の多孔性三次元網状構造部の厚みが0.1〜10.0mmであることを特徴とするカフ部材。
【請求項61】
請求項46において、第2フランジ部の多孔性三次元網状構造部の厚みが0.5〜5mmであることを特徴とするカフ部材。
【請求項62】
請求項46において、前記第2フランジ部が前記高分子樹脂製パッドの外縁よりも外方にまで延出しており、前記第1フランジ部が第2フランジ部の外縁よりも外方にまで延出していることを特徴とするカフ部材。
【請求項63】
請求項62において、第2フランジ部が高分子樹脂製パッドの外縁から延出する幅が0.1〜30mmであることを特徴とするカフ部材。
【請求項64】
請求項62において、第2フランジ部が高分子樹脂製パッドの外縁から延出する幅が該第2フランジ部の厚み方向において変化することを特徴とするカフ部材。
【請求項65】
請求項62において、第2フランジ部が高分子樹脂製パッドの外縁から延出する幅は、高分子樹脂製パッドの上面において3mm以下であり、第1フランジ部と接する底面において1mm〜30mmであることを特徴とするカフ部材。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
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【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【国際公開番号】WO2005/084742
【国際公開日】平成17年9月15日(2005.9.15)
【発行日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−510746(P2006−510746)
【国際出願番号】PCT/JP2005/003775
【国際出願日】平成17年3月4日(2005.3.4)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(591108880)国立循環器病センター総長 (159)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】
【国際公開日】平成17年9月15日(2005.9.15)
【発行日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【国際出願番号】PCT/JP2005/003775
【国際出願日】平成17年3月4日(2005.3.4)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(591108880)国立循環器病センター総長 (159)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】
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