説明

カメラ用羽根駆動装置

【課題】2枚の羽根と二つの電磁アクチュエータを使用することによって、多段の絞り装置とすることも、多段絞りの絞り兼用のシャッタ装置とすることも可能なカメラ用羽根駆動装置を提供すること。
【解決手段】駆動部材12は、回転子4の出力ピン4cに回転可能に取り付けられており、その長孔12cには、回転子5の出力ピン5cが挿入されている。また、駆動部材12に設けられた駆動ピン12aは、2枚の羽根13,14のカム溝13a,14aに挿入されている。そして、回転子4,5は、各々、二つの回転位置で停止することが可能になっているので、2枚の羽根13,14は、四つの相対位置関係で停止することが可能となっている。そのため、羽根13,14は、それらの三つの位置で3段階の絞り開口を制御し、残りの一つの位置で開口部1aを完全に閉鎖するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、協働することによって段階的に大きさの異なる複数の絞り開口を形成し得るようにした2枚の羽根を備えているカメラ用羽根駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記の特許文献1には、実施例2として、一つの電磁アクチュエータの回転子に一体化された二つの出力ピンによって、2枚の羽根が、直線的に相反する方向へ往復作動させられ、撮影光路用の開口部を開閉するように構成されたシャッタ装置が記載されている。また、そのシャッタ装置は、電磁アクチュエータの固定子に、ホール素子などの位置検出手段を取り付けておき、回転子の回転位置によって固定子コイルへの電流値を制御し、回転子を所定の回転位置で停止させるようにすることによって、大きさの異なる複数の絞り開口を形成することのできる絞り装置とすることも可能である、ということが記載されている。そして、そのように構成された絞り装置において、2枚の羽根を、所定の絞り開口制御位置から作動させ、撮影光路用の開口部を閉じるようにすれば、絞り兼用のシャッタ装置とすることが可能であるということも記載されている。
【0003】
また、下記の特許文献2には、電磁アクチュエータの回転子の回転位置を、ホール素子などの磁気感応型検出素子によって検出し、回転子によって回転させられる絞り羽根群によって、絞り開口の大きさを制御するようにした電磁駆動式の絞り装置が記載されている。更に、下記の特許文献3には、相反する方向へ同時に直線的に移動させられる2枚の光量調節部材(絞り羽根)を、歯車機構を介して、ステッピングモータによって往復作動させるようにした光量調節装置が記載されている。本発明は、特許文献1及び3に記載されているように、相反する方向へ同時に直線的に移動させられる2枚の羽根部材を、電磁アクチュエータによって往復作動させるようにした、絞り装置としても、絞り兼用のシャッタ装置としても構成することの可能なカメラ用羽根駆動装置に関するものである。
【0004】
【特許文献1】特開2005−24638号公報
【特許文献2】特開平7−56209号公報
【特許文献3】特開平11−194380号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1において、第2実施例に関連して記載されている上記のような絞り装置や、絞り兼用のシャッタ装置は、回転子の回転位置を検出するために、ホール素子などの位置検出手段を必要とするが、そのような位置検出手段を設けたとしても、回転子の回転位置を正確に検出し、所定の正しい位置で羽根を静止させるようにすることは、カメラを量産する上においては、技術的に簡単ではない。現在のところでは、位置検出手段としてホール素子を使用するのが最適と考えられているため、ホール素子を使用した絞り装置についての提案が種々なされているが、その実用化が、いかに面倒であるかは、特許文献2の記載からも、うかがい知ることができる。しかも、ホール素子を使用した絞り装置の場合には、絞り開口の制御後に回転子が停止しているときでも、常に通電し続けなければならないので、電池の消耗が激しいという問題点もある。
【0006】
また、上記の各特許文献に記載されている絞り装置は、電磁アクチュエータの回転子が、例えば、最大絞り開口の制御位置にある絞り羽根を最小絞り開口の制御位置へ移動させたい場合、中間の絞り開口の制御位置に移動させるための回転位置を経た後でなければ、絞り羽根を最小絞り開口の制御位置へ移動させる回転位置まで達することができないので、回転子の回転速度を変えない限り、絞り羽根を中間の絞り開口の制御位置に移動させる場合よりも時間がかかってしまうという問題点がある。更に、特許文献3に記載されている絞り装置の場合には、歯車機構を介して絞り羽根を移動させるため、駆動力の大きな電磁アクチュエータが必要になる。しかも、比較的大きな音を発生させるため、録音機能を有しているカメラへの採用が困難であるほか、録音機能を有しないカメラの場合にもユーザーに敬遠されてしまうという問題点がある。
【0007】
他方、最近のカメラは、デジタルカメラが多数を占めるようになってきているが、コンパクトカメラに用いられている絞り装置は、地板等に形成された撮影光路用の開口部で規制される最大絞り開口のほかに、羽根によって規制される小さな絞り開口を一つだけ得られるようにしたものが圧倒的に多い。そして、このような絞り制御を行う絞り装置を、一般には2段絞りの絞り装置と言っているが、カメラの仕様によっては、羽根によって規制される絞り開口を、大きさの異なる二つ又は三つとして、3段絞り又は4段絞りの絞り装置にすることを要求されることがある。ところが、特許文献1の第2実施例に記載されているタイプの羽根を備えた絞り装置や絞り兼用のシャッタ装置は、3段絞りや4段絞りにしようとすると、2段絞りの場合よりも一層実現化が困難になる。
【0008】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、従来のようにホール素子や歯車機構などを用いることなく、2枚の羽根と二つの電磁アクチュエータを使用することによって、2段絞りの絞り装置はもとより、3段絞り又は4段絞りの絞り装置とすることも可能であるし、2段絞り又は3段絞りの絞り兼用のシャッタ装置とすることも可能な実用化し易いカメラ用羽根駆動装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明のカメラ用羽根駆動装置は、撮影光路用の開口部を有している地板と、永久磁石を有していて所定の回転角度をなす二つの回転位置間で往復回転させられる回転子がその径方向へ張り出した位置に出力ピンを一体的に設けている第1電磁アクチュエータと、永久磁石を有していて所定の回転角度をなす二つの回転位置間で往復回転させられる回転子がその径方向へ張り出した位置に出力ピンを一体的に設けている第2電磁アクチュエータと、長孔と駆動ピンとを有していて前記第1電磁アクチュエータの出力ピンに回転可能に取り付けられており該長孔には前記第2電磁アクチュエータの出力ピンが嵌合している駆動部材と、前記駆動ピンを嵌合させたカム溝を有していて前記二つの回転子のいずれの往復回転によっても往復作動させられる第1羽根と、前記駆動ピンを嵌合させたカム溝を有していて前記二つの回転子のいずれの往復回転によっても前記第1羽根とは相反する方向へ往復作動させられ前記第1羽根と協働して前記開口部内において複数の大きさの絞り開口を形成する第2羽根と、を備えているようにする。
【0010】
その場合、前記駆動部材が、前記長孔と前記駆動ピンの間で、前記第1電磁アクチュエータの出力ピンに回転可能に取り付けられているようにすると、好適な構成になる。また、前記2枚の羽根が、カバー板と前記地板との間に構成された羽根室内に重ねて配置されており、前記駆動部材が、前記羽根室内に配置されており、前記二つの電磁アクチュエータが、前記第1電磁アクチュエータを前記開口部側にして前記地板の羽根室外に取り付けられ前記各出力ピンを羽根室内に挿入しており、前記2枚の羽根は、相反する方向へ略直線的に往復作動させられるようにすると、例えば、薄い箱型のデジタルカメラに用いて有利な構成になる。また、前記2枚の羽根が、少なくとも前記回転子の一方の回転によって前記開口部を閉鎖し得るようにすると、絞り羽根兼用のシャッタ羽根を備えたカメラ用羽駆動装置が得られる。更に、前記第1及び第2電磁アクチュエータのうち少なくとも一方は、前記回転子が、固定子のコイルへの通電方向に対応して所定の角度範囲内でだけ往復回転させられる電流制御式のモータであって、該回転子の夫々の方向への回転は、前記地板又は固定子に設けられたストッパによって停止させられるようにすると、低コスト化が図れる。
【発明の効果】
【0011】
本発明のカメラ用羽根駆動装置は、2枚の羽根のカム溝に嵌合した一つの駆動ピンを有している駆動部材を、第1電磁アクチュエータの回転子によって所定の回転角度範囲で往復作動させられる出力ピンに対して回転可能に取り付けると共に、その駆動部材に形成された長孔には、第2電磁アクチュエータの回転子によって所定の回転角度範囲で往復作動させられる出力ピンを嵌合させるようにしたので、二つの電磁アクチュエータの回転子を所定の方向へ選択的に回転させることによって、2枚の羽根を相反する方向へ作動させ、相対位置の異なる四つの状態で確実に停止させることが可能になっている。そのため、本発明のカメラ用羽根駆動装置は、2段絞りの絞り装置とすることが可能であることはもちろんのこと、3段絞りの絞り装置とすることも、4段絞りの絞り装置とすることも可能であり、また、2段絞りの絞り兼用のシャッタ装置とすることも、3段絞りの絞り兼用のシャッタ装置とすることも可能であるという特徴を有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の実施の形態を、図示した実施例によって説明する。上記したように、本発明のカメラ用羽根駆動装置は、多段絞りの絞り装置として構成することも、多段絞りの絞り兼用のシャッタ装置として構成することも可能である。そして、デジタルカメラにも銀塩フィルム使用のカメラにも採用することが可能である。しかしながら、それらの全ての実施態様を、図面を用いて個別に説明するまでもないと考えるので、実施例としては、3段絞りの絞り兼用のシャッタ装置として構成したものを、デジタルカメラに採用した場合で説明し、その他の場合については、適宜説明を加えることにする。
【実施例】
【0013】
本実施例は、種々のデザインのカメラに採用することが可能であるが、特に、かつての110フィルムを使用するカメラのようにデザインされたカメラや、特開2002−290806号公報に記載されている屈折光学系を用いたデジタルカメラのようにデザインされたカメラにも採用し易いように構成されている。以下、本実施例を、図1〜図10を用いて説明する。
【0014】
尚、図1は、実施例の分解斜視図であり、図2は、実施例の断面図であり、図3は、カバー枠を外して、最大絞り開口の制御状態(撮影光路用の開口部を全開にした状態)におけるアクチュエータ室内が見えるようにして示した実施例の正面図であるが、図2は、便宜上、二つの電磁アクチュエータを展開状態にして示してある。また、図4〜図7は、カバー板を外して、羽根室内が見えるようにして示した実施例の背面図であって、図4は、最大絞り開口の制御状態を示したものであり、図5は、中絞り開口の制御状態を示したものであり、図6は、小絞り開口の制御状態を示したものであり、図7は、撮影光路用の開口部を閉鎖した状態を示したものである。更に、図8〜図10は、実施例の作動を説明するためのタイミングチャートであって、図8は、標準的な作動を説明するためのものであり、図9は、被写体光が急激に大きく変化した場合を説明するためのものであり、図10は、夫々の絞り開口の制御状態から撮影が行われる場合を説明するためのものである。
【0015】
先ず、主に図1及び図2を用いて、本実施例の構成を説明する。本実施例の地板1は、合成樹脂製であって比較的厚い部材であり、平面形状は細長い長方形をしていて、その長さ方向の一端側に円形をした撮影光路用の開口部1aを形成し、他端側には肉厚部1bを形成している。カバー板2は、薄い合成樹脂製であって地板1と略同じ平面形状をしており、図示していない手段によって地板1に取り付けられ、両者の間に羽根室を構成している。そして、そのカバー板2は、一端側に上記の開口部1aと対向するようにして、同じ形状をした撮影光路用の開口部2aを形成し、他端側には円弧状の長孔2bを形成しているほか、周辺部には四つの孔2c,2d,2e,2fを形成している。カバー枠3は、薄い合成樹脂製であって上記の肉厚部1bと略同じ平面形状をしており、図示していない手段によって地板1に取り付けられ、両者の間に二つの電磁アクチュエータ室を構成している。そして、そのカバー枠3には、二つの切欠き部3a,3bが形成されている。
【0016】
また、図4に示されているように、地板1は、羽根室内に、平面形状が扇形をした窪み部1cを形成しているほか、各々の先端を、上記のカバー板2の孔2c,2d,2e,2fに嵌合させている四つの案内ピン1d,1e,1f,1gを立設している。更に、地板1は、各電磁アクチュエータ室内に、軸1h,1iを立設しているほか、図5において形状が分かり易く示されているように、羽根室側の窪み部1cまで貫通させて、円弧状の長孔1j,1kを形成している。
【0017】
本実施例の二つの電磁アクチュエータの構成は、例えば、特開2006−11293号公報などに記載されている周知の電磁アクチュエータの構成と実質的に同じである。先ず、各々の回転子4,5は、上記の軸1h,1iに回転可能に取り付けられていて、カバー枠3によって抜け止めされている。これらの回転子4,5は、径方向に2極に着磁された円筒形の永久磁石4a,5aと、合成樹脂製のアーム部4b,5bと、その先端に設けられた出力ピン4c,5cとで構成されている。そして、それらの出力ピン4c,5cは、上記の長孔1j,1kから羽根室側へ挿入されている。尚、この種の電磁アクチュエータにおいては、上記のアーム部4b,5bと、出力ピン4c,5cとを永久磁石製としたものも知られている。
【0018】
また、各々の固定子は、上記のカバー枠3のほか、コイル6,7を巻回した中空のボビン8,9と、略U字形をしたヨーク10,11とからなっていて、ヨーク10,11は、一方の脚部にボビン8,9を嵌装させ、両方の脚部の先端を磁極部として上記の永久磁石4a,5aの周面に対向させている。そして、それらのボビン8,9とヨーク10,11とは、電磁アクチュエータ室の内壁の形状によって位置決めされ、カバー枠3を地板1に取り付けることによって固定されている。また、その取付状態においては、ボビン8,9の一部が、カバー枠3の切欠き部3a,3bに入り込み、図2における上下方向の薄型化が図られている。
【0019】
このような構成の電磁アクチュエータは、周知のように、コイル6,7に対する通電方向に対応した方向へ、回転子4,5が、所定の角度範囲内でだけ回転するようになっている。また、コイル6,7に対する非通電時においては、回転子4,5は、永久磁石4a,5aの磁極と、ヨーク10,11の磁極部との間に作用する磁気吸引力によって、いずれか一方へ回転力が与えられるようになっている。尚、本実施例の電磁アクチュエータは、このような構成をした電流制御式のモータであるが、本発明の電磁アクチュエータは、このような構成に限定されず、例えば、特許文献1の第1実施例に記載の構成をした電流制御式のモータであっても差し支えなく、また、ステップモータであっても差し支えない。
【0020】
他方、羽根室内には、駆動部材12と、2枚の羽根13,14が配置されている。先ず、上記の窪み部1c内に配置されている駆動部材12は、駆動ピン12aと、孔12bと、長孔12cとを有していて、孔12bには上記の出力ピン4cが回転可能に嵌合し、長孔12cには上記の出力ピン5cが挿入されている。そして、駆動ピン12aの先端は、上記のカバー板2の長孔2bに挿入されている。
【0021】
2枚の羽根13,14は合成樹脂製であって、それらのうち、羽根13は、上記の駆動ピン12aを挿入させているカム溝13aと、二つの直線状の長孔13b,13cと、肉抜き孔13dと、絞り開口規制用の孔13eとを有している。そして、長孔13b,13cには、上記の案内ピン1d,1eが挿入されている。また、羽根13よりもカバー板2側に配置されている羽根14は、上記の駆動ピン12aを挿入させているカム溝14aと、二つの直線状の長孔14b,14cと、肉抜き孔14dと、絞り開口規制用の切欠き部14eとを有している。そして、長孔14b,14cには、上記の案内ピン1d,1eが挿入されている。更に、これらの2枚の羽根13,14は、図4などに示されているように、その外縁を案内ピン1f,1gにも接触し得るようにされていて、四つの案内ピン1d,1e,1f,1gに案内されて、長手方向に往復作動し得るようになっている。
【0022】
次に、本実施例の作動を説明する。先ず、図3及び図4は、カメラの電源スイッチがオフの状態を示したものであって、コイル6,7には通電していない状態を示したものである。このとき、図3において、永久磁石4aのN極は、S極よりも、ヨーク10の左側の磁極部に対する対向面積が大きく、ヨーク10の右側の磁極部に対する対向面積が小さい。そのため、回転子4には時計方向へ回転する力が与えられていて、出力ピン4cは円弧状の長孔1jの上端に接触させられている。同様にして、永久磁石5aのS極は、N極よりも、ヨーク11の左側の磁極部に対する対向面積が大きく、ヨーク11の右側の磁極部に対する対向面積が小さい。そのため、回転子5には時計方向へ回転する力が与えられていて、出力ピン5cは円弧状の長孔1kの下端に接触させられている。尚、本実施例の場合には、このように、地板1に形成されている長孔1j,1kの長さ方向の両端を回転子4a,5aのストッパとしているが、本実施例のカバー枠3のように、電磁アクチュエータの固定子を構成している部材にストッパを設けるようにしても構わない。
【0023】
図3においてこのような状態になっているということは、図4においては、回転子4の出力ピン4cが、長孔1jの下端に接触させられ、回転子5の出力ピン5cが、長孔1kの上端に接触させられた状態になっているということである。それにより、二つの出力ピン4c,5cに連結されている駆動部材12は、図4に示された姿勢をとらされており、カム溝13a,14aに挿入した駆動ピン12aによって、羽根13を右側へ最大限移動させ、羽根14を左側へ最大限移動させた状態にしている。そのため、2枚の羽根13,14は、撮影光路用の開口部1aを覆うことなく、全開にしている。本実施例においては、この状態が、大絞り開口の制御状態である。
【0024】
撮影を行うに先立って、カメラの電源スイッチをオンにする。上記したように、そのときには、コイル6,7に通電しなくても、回転子4,5は、図3,図4に示された位置で停止しているはずである。しかしながら、それ以前のカメラの不使用状態において、衝撃等の不測の大きな力が作用したことによって、回転子4,5が所定の停止位置から回転させられてしまっているかも知れない。そして、そのように移動させられてしまっていると、本実施例の場合には、回転子4,5や羽根13,14の位置を検出するセンサーを備えていないため、その後の制御が的確に行えなくなってしまう。
【0025】
そこで、本実施例の場合には、そのような万が一のことが起きてしまっていることを想定して、図8に示されているように、カメラの電源スイッチをオンにしたときには、コイル6,7に対して同時に順方向の電流をT時間だけ供給するようにしている。そのため、回転子4,5は、どのような位置にあっても、図4において反時計方向へ回転する力が付与され、必ず図4の位置にあるようにさせられる。そして、言うまでもなく、この図4に示された状態は、大絞り開口の制御状態である。尚、本実施例においては、コイル6,7に対する1回の通電時間は、どのような場合でもT時間になっている。
【0026】
この図4の状態にされた後、被写体光が標準の明るさである場合には、図8に示されているように、測光回路からの信号によって、コイル7に対して逆方向への通電が行われる。それによって、回転子5だけが時計方向(図3においては反時計方向)へ回転させられるので、駆動部材12は、回転子5の出力ピン5cにより、回転子4の出力ピン4cを支点にして反時計方向へ回転させられ、その駆動ピン12aによって、羽根13を左方向へ、羽根14を右方向へ移動させていく。そして、回転子5の出力ピン5cが長孔1kの下端に当接することによって停止した状態が、図5に示された状態である。この状態になったとき、本実施例の場合には、コイル7に対する逆方向の通電を断っているので、節電することができる。しかも、そのように通電を断っても、上記した磁気吸引力によって停止状態は保持される。しかしながら、そのまま通電を続けているようにしても構わない。そして、この状態が、中絞り開口の制御状態である。また、この状態において、被写体光が標準の明るさより暗くなったときには、測光回路からの信号により、コイル7に対して順方向の通電が行われ、図4に示された状態になる。
【0027】
ところで、図4の状態から図5の状態にさせるためには、上記したように、コイル7に対して逆方向へ通電するだけでよいはずである。しかしながら、駆動部材12が、出力ピン5cによって図4の状態から反時計方向へ回転させられるとき、他方の電磁アクチュエータのコイル6が非通電状態になっていると、駆動部材12の支点となっている出力ピン4cの位置が不安定になって、駆動部材12が好適に反時計方向へ回転できない場合がある。そこで、本実施例の場合は、駆動部材12が反時計方向へ回転させられるとき、出力ピン4cの位置を不動状態にさせるために、図8に示されているように、コイル7に対する逆方向の通電と同時に、コイル6には順方向の電流を供給するようにしている。そして、その場合、図8においては、コイル6,7に対して同じ値の電流が供給されているが、実用化する場合には、節電のために、コイル6に供給される電流値の方を小さくする方が好ましい。
【0028】
図5の状態になった後、被写体光が標準の明るさより明るくなった場合には、測光回路からの信号によって、コイル6に対しては逆方向への通電が行われ、コイル7に対しては順方向への通電が行われる。それによって、回転子4は時計方向(図3においては反時計方向)へ回転させられ、回転子5は反時計方向(図3においては時計方向)へ回転させられるので、駆動部材12は、回転子4,5の出力ピン4c,5cにより、上方へ移動させられ、その駆動ピン12aによって、羽根13をさらに左方向へ、羽根14をさらに右方向へ移動させていく。そして、回転子4,5の出力ピン4c,5cが長孔1j,1kの上端に当接することによって停止した状態が、図6に示された状態である。この状態になったとき、本実施例の場合には、コイル6,7に対する通電を断っているので、節電することができる。しかも、そのように通電を断っても、上記した磁気吸引力によって停止状態は保持される。しかしながら、そのまま通電を続けているようにしても構わない。そして、この状態が、小絞り開口の制御状態である。また、この状態において、被写体光が標準の明るさになったときには、コイル6に対しては順方向への通電を行い、コイル7に対しては逆方向への通電を行って、図5の状態になる。
【0029】
尚、これまでの説明では、大絞り開口の制御状態から小絞り開口の制御状態にさせる場合は、二つの回転子4,5を、中絞り開口の制御状態にしておいてから小絞り開口の制御状態にするし、小絞り開口の制御状態から大絞り開口の制御状態にさせる場合には、中絞り開口の制御状態にしておいてから大絞り開口の制御状態にする場合で説明した。しかしながら、被写体光が急激に大きく変化したとき、本実施例は、上記した同じT時間で、大絞り開口の制御状態から直接小絞り開口の制御状態にすることも、小絞り開口の制御状態から直接大絞り開口の制御状態にすることも可能になっている。
【0030】
そして、前者の場合は、図4の状態において、コイル6に対し逆方向の電流を供給して、回転子4を時計方向へ回転させると共に、コイル7に対しては順方向の電流を供給して、回転子5を不動状態にするし、後者の場合には、図6の状態において、コイル6に対して順方向の電流を供給し、回転子4を反時計方向へ回転させると共に、コイル7に対しては順方向の電流を供給して、回転子5を不動状態にすることになる。図9は、そのようにして、大絞り開口の制御状態から直接小絞り開口の制御状態にし、その後、小絞り開口の制御状態から直接大絞り開口の制御状態にした場合を示したものである。従って、本実施例は、絞り開口を2段変化させる場合でも、その制御作動に要する時間は、1段変化させ場合と全く同じT時間で済むようになっている。
【0031】
このようにして、図4に示された大絞り開口の制御状態,図5に示された中絞り開口の制御状態,図6に示された小絞り開口の制御状態のいずれかが得られているときに、カメラのレリーズボタンが押されると、直ちに、図示していない固体撮像素子に蓄積されていた電荷を放出させることによって撮影が開始され、新たな電荷が固体撮像素子に蓄積されていく。そして、所定の時間が経過すると、露光時間制御回路からの信号によって、コイル6,7の両方に通電される。
【0032】
即ち、図4に示された大絞り開口の制御状態になっている場合は、図10(a)に示されているように、コイル6,7の両方に逆方向の通電を行い、回転子4,5を時計方向へ回転させるようにする。また、図5に示された中絞り開口の制御状態になっている場合は、図10(b)に示されているように、コイル6に対して逆方向の通電を行って、回転子4を時計方向へ回転させると共に、コイル7に対しても逆方向の通電を行って、回転子5を不動状態にさせる。更に、図6に示された小絞り開口の制御状態になっている場合は、図10(c)に示されているように、コイル7に対して逆方向の通電を行って、回転子5を時計方向へ回転させると共に、コイル6に対しては逆方向の通電を行って、回転子4を不動状態にさせる。
【0033】
その結果、いずれの場合にも、羽根13は左方向への極限位置まで、また、羽根14は右方向の極限位置まで作動させられ、開口部1aを完全に閉鎖する。その状態が、図7に示された撮影終了状態であるが、場合によっては、この状態になったとき、節電のために、コイル6,7に対する通電を断つようにしても構わない。そして、この状態になると、固体撮像素子に蓄積された電荷が、撮像情報として記憶装置に転送され、その転送が終わると、上記のような被写体光の三つの明るさ段階に対応して、コイル6,7の両方に対して通電され、羽根13,14は、図4,図5,図6のいずれかの状態に復帰させられる。
【0034】
即ち、図4の状態に復帰する場合には、図10(a)に示されているように、コイル6,7の両方に対して順方向の通電を行い、回転子4,5を反時計方向へ回転させる。また、図5の状態に復帰する場合は、図10(b)に示されているように、コイル6に順方向の通電を行って、回転子4を反時計方向へ回転させ、コイル7には逆方向の通電を行って、回転子5を不動状態にさせる。また、図6の状態に復帰する場合は、図10(c)に示されているように、コイル7に順方向の通電を行って、回転子5を反時計方向へ回転させ、コイル6には順方向の通電を行って、回転子4を不動状態にさせる。
【0035】
そして、さらに、その図6の小絞り開口の制御状態から被写体光が徐々に暗くなり、標準の明るさよりも暗くなっていった場合には、図8に示されているように、コイル6に順方向の通電を行って回転子4を反時計方向へ回転させると共に、コイル7には逆方向の通電を行って回転子5を時計方向へ回転させ、一旦、中絞り開口の制御状態にさせておき、その後、コイル7に順方向の通電を行って回転子5を反時計方向へ回転させると共に、コイル6にも順方向の通電を行って回転子4を不動状態にさせる。そして、出力ピン5cが長孔1kの上端に当接して回転子5の回転が停止した後、コイル6,7に対する通電が断たれると、図5に示された大絞り開口の制御状態になる。
【0036】
尚、図8〜図10に示されているように、本実施例の場合には、コイル6,7に通電してから実際に羽根13,14が作動を開始するまでの、いわゆるメカ遅れの時間や、羽根13,14が所定の制御位置まで確実に移動し終わるようにさせることなどを考慮して、コイル6,7に対する通電時間Tが、羽根13,14の作動時間よりもかなり長く設定されているが、この通電時間Tは、組立公差を厳しくしたり、電磁アクチュエータの仕様次第で、短くすることが可能である。また、本実施例の作動説明においては、カメラの電源スイッチがオンになった後であって、撮影に際してレリーズボタンが押される前に、既に被写体光の明るさに対応して、3段階の絞り開口のいずれかの制御状態になっている場合で説明したが、本発明は、撮影前には、3段階の絞り開口制御状態のうち、常に所定の絞り開口の制御状態になるようにしていて、カメラのレリーズボタンが押されたとき、その初期段階において、先ず、被写体の明るさに対応した絞り開口の制御状態にしておいてから撮影が開始されるようにしてもよい。また、本実施例は、3段絞りの絞り兼用のシャッタ装置であるが、図4に示された制御状態のほかには、図5又は図6の一方の制御状態しか得られないようにすることにより、2段絞りの絞り兼用のシャッタ装置としてもよい。
【0037】
また、本実施例は、いわゆるノーマリーオープンタイプのシャッタ装置として、作動説明をしたが、カメラに光学ファインダを備えることによって、撮影前には、図7の状態としておき、撮影に際してレリーズボタンが押されると、その初期段階において、3段階の絞り開口のいずれかの制御状態にしておいてから撮影が開始されるようにすれば、いわゆるノーマリークローズタイプの絞り兼用のシャッタ装置とすることができる。また、そのように作動させることによって、銀塩フィルムを使用したカメラに採用することもできることは言うまでもない。
【0038】
更に、本実施例は、本発明を、絞り兼用のシャッタ装置としたものであるが、図4に示された制御状態のほかには、図5又は図6の一方の絞り開口制御状態しか得られないようにすれば、2段絞りの絞り装置とすることができるし、図4に示された制御状態のほかに、図5の絞り開口制御状態と図6の絞り開口制御状態の両方が得られるようにすれば、3段絞りの絞り装置とすることができる。また、回転子4,5が図7の状態になったとき、羽根13,14によって、開口部1aを完全に閉鎖せず、孔13eと切欠き部14eの形状を変えることによって図6のときよりも小さい絞り開口が得られるようにすれば、4段絞りの絞り装置になる。そして、それらの態様は、全て本発明の実施態様である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】実施例の分解斜視図である。
【図2】実施例の断面図である。
【図3】カバー枠を外し、最大絞り開口の制御状態(撮影光路用の開口部を全開にした状態)におけるアクチュエータ室が見えるようにして示した実施例の正面図である。
【図4】カバー板を外し、最大絞り開口の制御状態における羽根室が見えるようにして示した実施例の背面図である。
【図5】中絞り開口の制御状態を、図4と同様にして示した実施例の背面図である。
【図6】小絞り開口の制御状態を、図4と同様にして示した実施例の背面図である。
【図7】撮影光路用の開口部を閉鎖した状態を、図4と同様にして示した実施例の背面図である。
【図8】実施例における標準的な作動を説明するためのタイミングチャートである。
【図9】被写体光が急激に大きく変化した場合における実施例の作動を説明するためのタイミングチャートである。
【図10】実施例において、夫々の絞り開口の制御状態から撮影が行われる場合を説明するためのタイミングチャートである。
【符号の説明】
【0040】
1 地板
1a,2a 開口部
1b 肉厚部
1c 窪み部
1d,1e,1f,1g 案内ピン
1h,1i 軸
1j,1k,2b,12c,13b,13c,14b,14c 長孔
2 カバー板
2c,2d,2e,2f,12b,13e 孔
3 カバー枠
3a,3b,14e 切欠き部
4,5 回転子
4a,5a 永久磁石
4b,5b アーム部
4c,5c 出力ピン
6,7 コイル
8,9 ボビン
10,11 ヨーク
12 駆動部材
12a 駆動ピン
13,14 羽根
13a,14a カム溝
13d,14d 肉抜き孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
撮影光路用の開口部を有している地板と、永久磁石を有していて所定の回転角度をなす二つの回転位置間で往復回転させられる回転子がその径方向へ張り出した位置に出力ピンを一体的に設けている第1電磁アクチュエータと、永久磁石を有していて所定の回転角度をなす二つの回転位置間で往復回転させられる回転子がその径方向へ張り出した位置に出力ピンを一体的に設けている第2電磁アクチュエータと、長孔と駆動ピンとを有していて前記第1電磁アクチュエータの出力ピンに回転可能に取り付けられており該長孔には前記第2電磁アクチュエータの出力ピンが嵌合している駆動部材と、前記駆動ピンを嵌合させたカム溝を有していて前記二つの回転子のいずれの往復回転によっても往復作動させられる第1羽根と、前記駆動ピンを嵌合させたカム溝を有していて前記二つの回転子のいずれの往復回転によっても前記第1羽根とは相反する方向へ往復作動させられ前記第1羽根と協働して前記開口部内において複数の大きさの絞り開口を形成する第2羽根と、を備えていることを特徴とするカメラ用羽根駆動装置。
【請求項2】
前記駆動部材が、前記長孔と前記駆動ピンの間で、前記第1電磁アクチュエータの出力ピンに回転可能に取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載のカメラ用羽根駆動装置。
【請求項3】
前記2枚の羽根が、カバー板と前記地板との間に構成された羽根室内に重ねて配置されており、前記駆動部材が、前記羽根室内に配置されており、前記二つの電磁アクチュエータが、前記第1電磁アクチュエータを前記開口部側にして前記地板の羽根室外に取り付けられ前記各出力ピンを羽根室内に挿入しており、前記2枚の羽根は、相反する方向へ略直線的に往復作動させられるようにしたことを特徴とする請求項1又は2に記載のカメラ用羽駆動装置。
【請求項4】
前記2枚の羽根が、少なくとも前記回転子の一方の回転によって前記開口部を閉鎖し得るようにしたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のカメラ用羽駆動装置。
【請求項5】
前記第1及び第2電磁アクチュエータのうち少なくとも一方は、前記回転子が、固定子のコイルへの通電方向に対応して所定の角度範囲内でだけ往復回転させられる電流制御式のモータであって、該回転子の夫々の方向への回転は、前記地板又は固定子に設けられたストッパによって停止させられるようにしたことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のカメラ用羽根駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−58614(P2008−58614A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−235567(P2006−235567)
【出願日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【出願人】(000001225)日本電産コパル株式会社 (755)
【Fターム(参考)】