説明

カーテンコーター用の紙塗工用組成物

【課題】カーテン塗工方式で塗工する際の塗工操業性に優れるカーテンコーター用の紙塗工用組成物を提供する。
【解決手段】全顔料100重量部(固形分)に対し、共重合体ラテックス(a)を1〜20重量部(固形分)、スルホン酸系界面活性剤(b)を0.02〜0.7重量部(固形分)を含有する紙塗工用組成物は、低流量時のカーテン膜維持性が良好で、かつ、塗料の泡立ちも少なく、カーテン塗工方式で塗工する際の塗工操業性に優れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非接触方式のカーテンコーター用の紙塗工用組成物に関するものである。詳しくは、共重合体ラテックスおよびスルホン酸系界面活性剤を含有する紙塗工用組成物であって、低流量時のカーテン膜維持性に優れ、かつ、耐泡立ち性に優れたカーテンコーター用の紙塗工用組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、塗工紙は、その印刷効果が高い等の理由から、非常に数多くの印刷物に利用されている。季刊、月間紙等の定期刊行物の中にも、全ての頁に塗工紙が使用される場合もかなり増えている。特に、メールオーダービジネスにおけるダイレクトメールや商品カタログ等においては、そのほとんどが全ての頁に塗工紙を使用している。
塗工紙は非塗工紙に比べ、白色度、光沢度、平滑度、印刷適性など多くの優れた点を有しているが、これらは主に原紙を抄造したあとに、顔料、バインダー、およびその他の添加剤から成る紙塗工用組成物をブレードコーターやロールコーターなどを用いて塗工する工程を経て生産されている。
ところが、近年はブレード塗工やロール塗工などで直接的に紙塗工用組成物を塗布する方式から非接触方式のカーテンコーターを用いて高速塗工を行う技術が注目を集めている。特に非接触方式の利点として、紙塗工用組成物の塗布において原紙に余計な負荷がかからないため紙切れがなく連続操業が可能であるなど操業上のメリットは計り知れない。
一般に紙塗工用組成物は、クレーや炭酸カルシウムなどの白色顔料を水に分散した顔料分散液、顔料同士および顔料を原紙に接着固定するためのバインダー、およびその他の添加剤によって構成される水性塗料である。バインダーとしてはスチレン−ブタジエン系共重合体ラテックスに代表されるような合成エマルションバインダーやデンプン、カゼインに代表されるような天然バインダーが使用される。
また、カーテン塗工方式においては紙塗工用組成物をスリットから垂らしてカーテン膜を形成し、その直下に高速で紙を通して塗工する方式のため、カーテン膜が基材に接触した際の塗料と基材との馴染み易さを向上させるため、塗料中の表面張力を下げる目的で少量の界面活性剤が添加される。
【0003】
一方、紙塗工用組成物中に発生した泡は、ブレードやロールと言った直接塗工方式であれば紙塗工用組成物の塗布時に泡がつぶされるため問題とならないものの、非接触方式であるカーテン塗工においては、紙塗工用組成物中に発生した泡がそのまま塗工紙上に残り被覆欠陥となるため最終的な塗工紙製品の品質に大きく影響する。
このため、カーテン塗工においては紙塗工用組成物中の泡を如何に抑制するかがポイントとなる。一般的に紙塗工用組成物は塗工前に脱泡装置により泡抜きを行う工程があるが、紙塗工用組成物中の泡が多くなると泡抜きに時間がかかるため連続操業の継続に問題が生じる。また、脱泡装置自体の能力を高めることも可能であるが装置の規模が大きくなると初期投資費用が大きくなり好ましくない。これらのことから、なるべく操業中の紙塗工用組成物に泡が生じない設計が望まれている。
【0004】
また、最近は板紙や塗工ライナー分野など比較的低速で塗工されることが多い分野でもカーテンコーターの導入が見られるようになってきたが、塗工速度が遅い場合に比較的、低塗工量の塗工紙を得るためには、カーテンヘッドへの紙塗工用組成物の供給量を少なくする必要がある。
ところが、紙塗工用組成物の供給量が少なくなると、安定してカーテン膜を形成、維持する事が難しくなる。ヘッド両端部分にガイドを付け、カーテン膜の安定化を図るなど機械的な工夫も見られるが、紙塗工用組成物面からは表面張力を下げることが好ましい。
【0005】
カーテンコーターの実績が広がるにつれ、上記の事情から、紙塗工用組成物の表面張力を下げつつ、かつ、紙塗工用組成物の泡立ち性を抑制する要求が強くなってきた。例えば特開2010−31427号公報(特許文献1)では、泡立ち性を抑制するために特定のアニオン性界面活性剤を全界面活性剤中の10重量%以上使用するカーテンコーター用共重合体ラテックスを用いる技術が紹介されている。また、特開2004−315976号公報(特許文献2)では、塗料の粘度や表面張力を規定し湿潤剤を併用することで、カーテン塗工時の紙塗工用組成物と基材と馴染み易さを改善する技術が紹介されている。
しかし、これらの様々な改良技術は、カーテン塗工における低流量時のカーテン膜の成膜性やカーテン膜維持性と紙塗工用組成物中の泡の抑制と言った相反する要求性能に関して十分に満足するレベルには至っておらず、更なる改良が強く求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−31427号公報
【0007】
【特許文献2】特開2004−315976号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、非接触方式のカーテンコーター用の紙塗工用組成物に関するものである。 詳しくは、低流量時のカーテン膜維持性に優れ、かつ、耐泡立ち性に優れたカーテンコーター用の紙塗工用組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
非接触方式であるカーテン塗工方式に於いて塗工される紙塗工用組成物であって、全顔料100重量部(固形分)に対し、共重合体ラテックス(a)4〜20重量部(固形分)、スルホン酸系界面活性剤(b)0.02〜0.7重量部(固形分)を含有することを特徴とするカーテンコーター用紙塗工用組成物を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、非接触方式のカーテンコーターで塗工する際に、低流量時のカーテン膜維持性に優れ、かつ、泡立ち性にも配慮した紙塗工用組成物が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本願発明のカーテンコーター用の紙塗工用組成物は、以下の(1)〜(5)より構成される。
(1)顔料
顔料としてカオリンクレー、炭酸カルシウムを主として使用するものであるが、その他の顔料として、例えば、タルク、硫酸バリウム、酸化チタン、水酸化アルミニウム、酸化亜鉛、サチンホワイトなどの無機顔料、あるいはポリスチレンラテックスのような有機顔料をそれぞれ単独または混合して使用することもできる。
(2)共重合体ラテックス(a)
本発明の紙塗工用組成物に使用する共重合体ラテックス(a)は一般的なスチレン-ブタジエン共重合体ラテックスを指すが、さらに、ポリ酢酸ビニルラテックス、アクリル系ラテックスなどのスチレン−ブタジエン共重合体ラテックス以外の合成ラテックスと併用してもよい。
本発明の紙塗工用組成物中の共重合体ラテックス(a)の含有量は、顔料100重量部(固形分)に対して1〜20重量部(固形分)を使用する。共重合体ラテックスの含有量が1重量部以下では顔料を充分に接着できず、20重量部を超えると不透明度や白紙光沢が低下する。好ましくは2〜15重量部である。
また、共重合体ラテックス(a)は、脂肪族共役ジエン系単量体20〜65重量%、エチレン系不飽和カルボン酸単量体0.5〜10重量%、およびこれらと共重合可能な他の単量体25〜79.5重量%(単量体合計100重量%)を重合して得られる共重合体ラテックスにおいて、重合時に使用される乳化剤の総使用量が、単量体合計100重量部に対して0.7〜1.6重量部であり、かつ、ラテックスの単位表面積あたりの乳化剤量が0.0001〜0.0003g/mであることが好ましい。
乳化剤の使用総量が1.6重量部を超えるとラテックスの泡立ち性が悪化する傾向にあり、0.7重量部未満ではラテックスの単分散性が不安定になりやすく紙塗工用組成物の粘度安定性が劣る傾向があり好ましくない。
ラテックスの単位表面積辺りの乳化剤量は、乳化剤の総使用量と共重合体ラテックスの表面積から計算する。0.0001g/m未満ではラテックスの安定性が劣る傾向があり、0.0003g/mを超えると表面張力が低くなり紙塗工用組成物の泡立ち性が悪化する傾向があるので好ましくない。

(3)スルホン酸系界面活性剤(b)
本発明の紙塗工用組成物には、低流量時のカーテン膜成膜性とカーテン膜維持性および、紙塗工用組成物中の泡を抑制する効果を両立させるために、顔料100重量部(固形分)に対して、スルホン酸系界面活性剤を0.02〜0.7重量部(固形分)を塗料中に含有させる。0.02重量部以下ではカーテン膜の成膜性および維持性が劣り、0.7重量部を超えると塗料の耐泡立ち性が劣る。好ましくは0.1〜0.4重量部を含有するのがよい。
該スルホン酸系界面活性剤としてはアルキルスルホン酸、スルホコハク酸、アルキルスルホコハク酸、アリルスルホン酸、エステルスルホン酸、アルキルナフタレンスルホン酸、およびその塩が挙げられるが、特にアルキルスルホコハク酸が好ましい。
中でもジオクチルスルホコハク酸ナトリウムの使用が好ましい。
(4)その他のバインダー
本発明の紙塗工用組成物には、必要に応じて、一般的な紙塗工用組成物に用いる澱粉である例えば酸化澱粉やエステル化澱粉等の変性澱粉、大豆蛋白、カゼインなどの天然バインダー、あるいはポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロースなどの水溶性合成バインダーなどを使用しても差し支えない。ただし、紙塗工用組成物の粘度が高くなりすぎると、脱泡機による泡抜きが困難になるため、使用量は最小限に抑えることが好ましい。
(5)その他の助剤
本発明の紙塗工用組成物を調整する際には、さらにその他の助剤、例えば分散剤(ピロリン酸ナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウムなど)、増粘剤(ポリアクリル酸ナトリウムなど)、レベリング剤(ロート油、ジシアンジアミド、尿素など)、防腐剤、離型剤(ステアリン酸カルシウム、パラフィンエマルジョンなど)、蛍光染料、カラー保水性向上剤(アルギン酸ナトリウムなど)を必要に応じて添加しても良い。
ただし、消泡剤(ポリグリコール、脂肪酸エステル、リン酸エステル、シリコーンオイルなど)の過剰な添加は膜切れの原因となりやすいため、出来る限り使用しない方が好ましい。
【0012】
本発明の紙塗工用組成物を塗工用原紙へ塗布する方法には、カーテンコーターを用いるが、カーテンコーター以外の公知の手段、例えばエアナイフコーター、ブレードコーター、ロールコーター、バーコーターなど塗工機と併用して多層塗工としても差し支えない。また、塗工後、表面を乾燥し、カレンダーリングなどにより仕上げて塗工紙を得る。
【実施例】
【0013】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、これらの実施例に限定されるものではない。なお実施例中、割合を示す部および%は特に断りのない限り重量基準によるものである。また実施例における諸物性の評価は次の方法に拠った。
【0014】
共重合体ラテックスの光子相関法による平均粒子径の測定
共重合体ラテックスの光子相関法による平均粒子径を動的光散乱法により測定した。尚、測定に際しては、FPAR−1000(大塚電子製)を使用した。(JIS Z8826)
【0015】
共重合体ラテックスの作製
耐圧性の重合反応機に、重合水150部、過硫酸カリウムおよび炭酸ナトリウム0.2部、表1に示す乳化剤を仕込み、十分攪拌した後、表1に示す各単量体および他の化合物を加えて70℃にて重合を開始し、重合転化率が95%を越えた時点で重合を終了した。次いで、得られた共重合体ラテックスにつき水酸化ナトリウム水溶液でpHを7に調整して、共重合体ラテックスA〜Dを得た。
【0016】
【表1】

【0017】
紙塗工用組成物の作製と評価
表2及び表3に示した配合処方に従って、実施例1〜6、比較例1〜7に相当する紙塗工用組成物を作製した。
【0018】
カーテン膜維持性:
ラボカーテンコーターを用い、リップ開度0.3mm、塗工速度200m/mでカーテンヘッドに供給する塗料量を減らした際のカーテン膜維持性(膜安定性)を評価した。塗料流量を塗工開始時の8L/min/mから絞っていき、カーテン膜の破断する流量を観察した。
◎:3L/min/m未満 (非常に良い)
○:3.1〜3.4L/min/m未満 (良い)
△:3.4〜3.8L/min/m未満 (少し悪い)
×:3.8〜4.1L/min/m未満 (悪い)
××:4.1L/min/mを超える (非常に悪い)
【0019】
紙塗工用組成物の泡立ち性の評価
固形分濃度を65%に調整した紙塗工用組成物200mlを、家庭用の泡立て攪拌機(ホ−ムミキサー:Kitchen
Aid社製MultiFunction ULTRA Power Mixer KSM−150)を用いて、攪拌速度6にて2分間攪拌する。その直後の紙塗工用組成物の比重を測定した。得られた比重について、下記のように4段階で判定した。
◎・・・0.8以上 (非常に良い)
○・・・0.80未満〜0.50以上 (良い)
△・・・0.50未満〜0.30以上 (少し悪い)
×・・・0.30未満 (悪い)
【0020】
【表2】

【0021】
【表3】

【0022】
表2に示すとおり、本発明による紙塗工用組成物(実施例1〜6)は、いずれもカーテン膜維持性が良好で、かつ、泡立ちが少なく得られた塗工紙の塗工欠陥も少なく、操業性、品質に優れる。
【0023】
表3に示すとおり、比較例1は、(b)スルホン酸系界面活性剤の量が少なく、低流量時のカーテン膜維持性が劣る。
比較例2は、(b)スルホン酸系界面活性剤の量が多く、紙塗工用組成物の耐泡立ち性が劣る。
比較例3及び5は、(b)のスルホン酸系界面活性剤の代わりに、一般的なDBS系界面活性剤またはポリオキシアルキレン型界面活性剤を用いたためいずれも紙塗工用組成物の耐泡立ち性が劣る。
比較例4は、変性ポリアクリル酸を用いたため、低流量時のカーテン膜維持性、耐泡立ち性ともに劣る。
比較例6では、増粘剤の替わりとして澱粉を用いた系において、(b)スルホン酸系界面活性剤を添加しなかったため低流量時のカーテン膜維持性が劣る。
【産業上の利用可能性】
【0024】
上記のとおり、本発明のカーテン塗工用の紙塗工用組成物は、低流量時のカーテン膜維持性が良好で、かつ、泡立ちも少ないため、カーテンコーターによる塗工紙や板紙の塗工において塗工操業性と塗工紙品質を両立しており有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーテン塗工方式で塗工される紙塗工用組成物であって、全顔料100重量部(固形分)に対し共重合体ラテックス(a)を1〜20重量部(固形分)、スルホン酸系界面活性剤(b)を0.02〜0.7重量部(固形分)を含有するカーテンコーター用紙塗工用組成物。
【請求項2】
共重合体ラテックス(a)が、脂肪族共役ジエン系単量体20〜65重量%、エチレン系不飽和カルボン酸単量体0.5〜10重量%、およびこれらと共重合可能な他の単量体25〜79.5重量%(単量体合計100重量%)を重合して得られる共重合体ラテックスにおいて、重合時に使用される乳化剤の総量が単量体合計100重量部に対して0.7〜1.6重量部であって、かつ、ラテックスの単位表面積あたりの乳化剤量が0.0001〜0.0003g/mであることを特徴とする請求項1記載のカーテンコーター用紙塗工用組成物。

【公開番号】特開2013−32606(P2013−32606A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−115816(P2012−115816)
【出願日】平成24年5月21日(2012.5.21)
【出願人】(399034220)日本エイアンドエル株式会社 (186)
【Fターム(参考)】