説明

ガスタービンシステムの改造方法

【課題】
圧縮機主流に水を噴霧しないことを想定したガスタービンシステムを基に、信頼性の低下を抑制しつつWAC技術が適用可能なガスタービンシステムの改造方法を提供する。
【解決手段】
空気を圧縮する圧縮機と、該圧縮機で圧縮された空気と燃料とを混合燃焼する燃焼器と、該燃焼器で生成された燃焼ガスで駆動されるタービンとを備えたガスタービンシステムの改造方法において、空気を加湿冷却する加湿冷却装置を前記圧縮機の入口側に追設し、該加湿冷却装置の加湿によるインシデンス変化を抑制するよう前記圧縮機を改造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスタービンシステムに関するものであり、特にその改造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガスタービンシステムに関し、圧縮機吸気に水を噴霧して出力増加および効率向上を図るWAC(Water Atomization Cooling)技術が特許文献1に記載されている。
【0003】
また、噴霧冷却時の圧縮機翼の失速マージン減少を抑制する手段として、圧縮機後段の静翼を可変静翼とする技術が特許文献2に記載されている。特許文献2に記載の技術では、後段の静翼を可変静翼とし、水噴霧時に翼の取付け角(スタッガ角)を大きくすることで、静翼および後置動翼の翼面上の剥離を抑制し、損失を減少させている。
【0004】
【特許文献1】特開2000−186569号公報
【特許文献2】特開2000−192824号公報
【非特許文献1】ASME GT2005−69144
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献2に記載の技術は静翼のみスタッガ角を変化させるものである。そのため、例えば静翼の流入角が設計点とほぼ一致し、後段動翼の流入角が設計点より増加する場合に問題が生じる。この場合、後段動翼での圧力損失を小さくするためには後段静翼のスタッガ角を大きくする必要があるが、後段静翼のスタッガ角を大きくすると静翼がチョーク側で動作することになり、その分だけ圧力損失が大きくなる。さらに、特許文献2には前段側の流れ場の詳細が記載されておらず、前段側の翼がチョーク側で動作して損失が増加する可能性については言及されていない。そのため、全体として損失があまり減少していない可能性がある。
【0006】
本発明の目的は、圧縮機主流に水を噴霧しないことを想定したガスタービンシステムを基に、信頼性の低下を抑制しつつWAC技術が適用可能なガスタービンシステムの改造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、空気を圧縮する圧縮機と、該圧縮機で圧縮された空気と燃料とを混合燃焼する燃焼器と、該燃焼器で生成された燃焼ガスで駆動されるタービンとを備えたガスタービンシステムの改造方法において、空気を加湿冷却する加湿冷却装置を前記圧縮機の入口側に追設し、該加湿冷却装置の加湿によるインシデンス変化を抑制するよう前記圧縮機を改造することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、圧縮機主流に水を噴霧しないことを想定したガスタービンシステムを基に、信頼性の低下を抑制しつつWAC技術が適用可能なガスタービンシステムの改造方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下説明する各実施例は、圧縮機主流への水噴霧を想定しない場合に最適な運転が可能となるように設計したガスタービンシステムを、改造によってWAC技術を適用可能に変更したシステムに関するものである。以下、設計点とは、設計時に決定される各値について、圧縮機主流への水噴霧を想定しない場合に最適な運転が可能となるように設計した値を意味する。
【0010】
WACは主に夏場の出力改善策として、さまざまな圧縮機に適用されている。WACによる性能向上効果は2種類に大別される。1つ目は噴霧した水が吸気部で蒸発することによる吸気冷却効果、2つ目は噴霧水が圧縮機内部まで流入してから蒸発することによる中間冷却効果である。噴霧量が少ない場合は吸気冷却効果のみが得られるが、噴霧量が一定値以上となると吸気冷却効果と中間冷却効果の双方が得られる。このときの噴霧量の閾値は圧縮機吸込み質量空気流量の約1%である。
【0011】
WAC技術の実機への適用に関し、現在は、噴霧量を1%未満にして吸気冷却効果のみを狙うのが主流である。これは中間冷却効果も狙って噴霧量を増やすと、圧縮機内部の流れ場の変化により、圧縮機への空気の流入角が変化してしまうからである。図1に、圧縮機翼への空気の流入角と全圧損失係数との関係を示す。図1から読み取れるように、流入角が設計点から離れると、チョークマージンや失速(サージ)マージンが変化し、最終的にチョーク,サージ,旋回失速といった、圧縮機性能に悪影響を及ぼす現象が起きる可能性が高まり、圧縮機の信頼性が低下する。
【0012】
ここで、圧縮機の各段における、設計点(圧縮機吸気への水噴霧なし)の段負荷に対する水噴霧する場合の段負荷を図2に示す。
【0013】
非特許文献1には、WAC技術を利用した圧縮機に関し、主流へ水噴霧をしないものと比較した段負荷は、主流中で水が蒸発する前段側では小さく、水が蒸発しない後段側では大きいことが開示されている。即ち、設計点の段負荷に対する水噴霧する場合の段負荷は、圧縮機主流中で水が蒸発する圧縮機前段側では小さく、水の蒸発が完了している後段側では大きい。このため、圧縮機吸気への水噴霧がないことを想定して設計された圧縮機で水噴霧を利用した運転をする場合、圧縮機は、前段側では流入角減少によりチョーク側で作動し、後段側では流入角増加によりサージ側で動作することになる。ここから、特に吸気噴霧によって中間冷却効果も同時に得たい場合、すなわち圧縮機吸込み質量空気流量の1%より多くの水を噴霧する場合には、圧縮機主流内での水の蒸発完了位置,負荷分布,流入角の変化,流れ場の変化を予測し、圧縮機の失速マージンとチョークマージンの減少を抑制することが望ましいことが分かる。
【実施例1】
【0014】
図3に実施例1であるガスタービンシステムの概略図を示す。以下、図3を用いてガスタービンシステムの構成について説明する。
【0015】
本実施例のガスタービンシステムには、空気を圧縮する圧縮機1と、圧縮空気と燃料を混合して燃焼させる燃焼器2と、高温の燃焼ガスを用いて軸4を駆動するタービン3が設けられている。圧縮機1とタービン3は軸4を介して発電機5と接続されている。本実施例のガスタービンは、1軸式のものを想定しているが、パワータービンを配した2軸式ガスタービンであっても問題ない。またガスタービンの仕様として、回転数は約7,000
rpm を、圧力比としては約15のものを想定している。なお、出力としては約30MWのものを想定している。
【0016】
圧縮機1の流入部には加湿冷却装置6が設けられており、水タンク7から水が供給されている。加湿冷却装置の種類としては、ここでは噴霧冷却装置を想定しており、その噴霧量は圧縮機吸込み流量の約3.5% を、噴霧粒径として約5μmを想定している。噴霧粒径については噴霧量3.5% の場合に圧縮機内部で蒸発の完了する程度の粒径であればよい。具体的には、約20μm以下であれば圧縮機内部で蒸発は完了する。
【0017】
次に、作動流体の流れについて説明する。作動流体である空気41は加湿冷却装置6に流入し、水の噴霧により加湿される。噴霧水のうち一部は蒸発し、空気は過飽和空気42の形で圧縮機1に流入する。圧縮機1を通過する際に過飽和空気42からの水の蒸発は完了し、高温空気43として燃焼器2に流入する。燃焼器2で高温空気43と燃料21が混合燃焼され、高温燃焼ガス44が生成される。燃焼ガス44はタービン3を回転させた後、排気ガス45として外部に放出される。発電機5は、軸4を通じて伝えられたタービン3の回転力により駆動される。
【0018】
ここで、本実施例のガスタービンシステムの具体的な動作について説明する。加湿冷却装置6には、圧力約0.1MPa ,温度約20℃の空気41が流入する。また、加湿冷却装置6には温度約20℃の水が供給される。加湿冷却装置6では、流入した空気41の質量流量で約3.5% の水が噴霧され、噴霧された水の一部が蒸発した後、過飽和空気42として圧縮機1に流入する。圧縮機1に流入した過飽和空気42は、水の蒸発により蒸発潜熱分の熱を奪われつつ所定の圧力比15まで圧縮され、圧力約1.5MPa ,温度約
370℃の高温空気43となり、燃焼器2へと流入する。燃焼器2で燃料21との混合燃焼により温度約1200℃の燃焼ガス44となった後、タービン3を回転駆動させ、最終的には約500℃の排気ガス45として系外へ放出される。
【0019】
次に、圧縮機1の内部の構造について図4を用いて説明する。図4は圧縮機1の子午面断面の概略図である。圧縮機1の流路はロータ51およびケーシング52によって構成される。流路内には前段動翼11,前段静翼12,中間段動翼13,中間段静翼14,後段動翼15,後段静翼16が設置される。
【0020】
なお、本実施例の動静翼で中間段とは、水の蒸発が完了することが想定される範囲内に設置された段であり、前段とは中間段よりも作動媒体の流れ方向上流側の段、後段とは中間段よりも下流側の段を意味する。図4では前段,中間段,後段の代表としてそれぞれ1段ずつ動静翼を図示しているが、それぞれが複数段であっても構わない。また、前段,中間段,後段はそれぞれ何段ずつでも構わない。
【0021】
噴霧水が圧縮機1の内部まで流入してから蒸発することによる中間冷却効果を得ようとする際、圧縮機1は、水の蒸発が入口や出口付近で終わることのないように設計することが望ましい。蒸発が入口付近で終わるよう設計した場合は、得られる中間冷却効果が小さく、圧縮機1内での蒸発を考慮した設計を行うメリットが得られにくい。蒸発が出口付近で終わるよう設計した場合には、未蒸発水分が燃焼器2に流入してしまうことによる悪影響を別途考慮する必要がある。
【0022】
また、圧縮機1の動静翼は、前段,中間段,後段それぞれの設置位置に適したものを用いることが望ましい。例えば、前段,中間段の動静翼設置部分を通過する空気には未蒸発水分が含まれているため、前段,中間段の動静翼には、後段と比べ、水滴の衝突や腐食に強いものを用いることが望ましい。
【0023】
以下、図5,図6を用いて圧縮機1の内部構造について説明する。図5は、前段翼のスパン方向断面図(a)と、これに対応する、翼への空気の流入角−全圧損失特性線図(b)、図6は後段翼のスパン方向断面図(a)と、これに対応する、翼への空気の流入角−全圧損失特性線図(b)を示す。
【0024】
本実施例のガスタービンの圧縮機1で問題となるのが、作動媒体中の水の蒸発が圧縮機内部まで継続することにより、噴霧なしの場合に比べて流れ場が変わってしまう点である。なお、本実施例のガスタービンシステムは、水滴の蒸発モデルを組み込んだ計算結果等を利用し、蒸発が中間段で終了するよう設計される。
【0025】
中間段で水の蒸発が完了するよう設計された圧縮機は、水の蒸発を想定しない圧縮機と比べ、前段翼の流入角は減少し、後段翼の流入角は増加する。流入角の変化に伴い、空気の翼への入射角(インシデンス)も変化し、インシデンスの変化が大きくなると翼面上で剥離が発生する。この剥離の影響で、インシデンスの減少する前段側ではチョークが、インシデンスの増加する後段側では旋回失速やサージがそれぞれ発生する可能性がある。これらの現象は圧縮機の信頼性や効率に悪影響を及ぼすため、翼面での剥離を抑制する必要がある。
【0026】
そこで本実施例では図5および図6に示す通り、圧縮機吸気に水噴霧しないことを想定して設計されたガスタービンシステムと比べ、前段静翼12のスタッガ角ξ0をξ1に減らし、後段静翼16のスタッガ角ξ2をξ3に増やすように設定する改造を施したものである。流入角の増加する位置によっては前段動翼11および後段動翼15のスタッガ角を変更する改造を施す。以下、この改造の効果について説明する。
【0027】
まず図5において、設計点でβd であった流入角は、噴霧によってβw に減少する。これによって損失がωd からωw に増加する。本実施例のガスタービンは噴霧量が3.5% と多く、流入角βw がチョーク角以下となる箇所があるため、正圧面側で剥離が発生し、ωw は最小損失の2倍以上にも達する。そこで、スタッガ角ξ0をξ1に減らすことで翼の流入角特性を改善し、損失を最小損失と同等のωw′ まで低減することが可能となる。同様に図6において、設計点でβd であった流入角は、噴霧によってβw に増加する。これによって損失がωd からωw に増加する。本実施例では噴霧量が3.5% と多く、流入角βw がサージ角以上となる箇所があるため、負圧面側で剥離が発生し、ωw は最小損失の2倍以上にも達する。そこで、スタッガ角ξ2をξ3に増やすことで翼の流入角特性を改善し、損失を最小損失と同等のωw′ まで低減することが可能となる。
【0028】
以上述べたとおり、本実施例のガスタービンシステムは、圧縮機吸気に水噴霧しないことを想定して設計されたガスタービンシステムに対して、空気を加湿冷却する加湿冷却装置を圧縮機の入口側に追設した場合に、加湿冷却装置の加湿によるインシデンス変化を抑制するよう、圧縮機の動翼または静翼のスタッガ角を、加湿冷却装置の加湿によるインシデンス変化を抑制する方向に変更するよう改造したものである。これにより、圧縮機翼面上での空気の剥離を抑制することで圧力損失の低下を抑えることができる。すなわち、本実施例のガスタービンシステムは、水噴霧を想定せずに設計されたガスタービンシステムに対し、WAC技術を適用し水噴霧するよう改造した場合でも、チョークマージン,サージマージンを充分確保し、信頼性低下を抑制したガスタービンシステムを得ることができる。
【0029】
具体的には、圧縮機前段側では、水噴霧によって流入角は減少する傾向にあるため、スタッガ角を小さくするよう変更することにより、インシデンス変化を抑制可能である。また、圧縮機後段側では、水噴霧によって流入角は増加する傾向にあるため、スタッガ角は大きくするよう変更することにより、インシデンス変化を抑制可能である。インシデンス変化を抑制できれば、チョークマージン,サージマージンの減少を抑制でき、システムの信頼性の低下を抑制できる。
【0030】
ちなみに、噴霧水が圧縮機1の内部まで流入してから蒸発することによる中間冷却効果を得ようとしない場合、すなわち、噴霧量が1%未満と少ない場合は、図5および図6において、流入角はβw0に、損失はωw0に変化する。一般に圧縮機翼の損失は設計点付近ではほぼ一定で、チョーク点およびサージ点近傍で急増する。そのためこの場合、損失ωw0は最小損失とほぼ同等となり、翼のスタッガ角変更による性能向上効果は小さい。
【0031】
また、翼のスタッガ角変更による性能向上効果として、圧縮機内部で蒸発が起きることによる圧縮動力低減効果がある。計算結果によれば、噴霧なしの場合に比べ、作動媒体である空気が中間冷却されているため、圧縮機効率は約1pt向上する。同時に、水噴霧によって流量も増加する。流量が増加するのは、噴霧水が蒸発して作動流体となることと、吸気冷却によって流入空気の温度と密度が低下し、吸込み質量流量が増加することによる。計算結果によれば、水噴霧のある場合は噴霧なしの場合と比べて約7%流量が増加する。流量の増加は出力の増加につながるため、本実施例のガスタービンは効率,出力の双方の点で優れている。
【0032】
なお、噴霧水が圧縮機1の内部まで流入してから蒸発することによる中間冷却効果を得ようとしない場合、すなわち、噴霧量が1%未満の場合でも効率と出力は向上するが、噴霧量が少ないためにその上昇幅は小さい。特に効率については、噴霧量が小さいと圧縮機内部で蒸発が起きず、中間冷却の効果が得られないため上昇幅は特に小さくなる。
【0033】
つまり、WACによる効率,出力を向上させたガスタービンシステムに関し、インシデンスの変化を抑制するよう圧縮機を改造したことにより得られる効果は、加湿冷却装置として噴霧冷却装置を用い、水を圧縮機の吸込み空気の質量流量の1%以上噴霧する場合に特に顕著である。
【0034】
また、ガスタービンの単体出力が10MW以上の場合、噴霧水の平均粒径は20μm以内であることが望ましい。これより大きい粒径の水を噴霧した場合、圧縮機内で水が完全に蒸発しきらず、燃焼器などに水滴が衝突するなどの危険性が高くなってしまうからである。
【実施例2】
【0035】
図7を用いて本発明の一実施例であるガスタービンシステムを説明する。図7は本実施例における圧縮機の子午面断面図を示す。実施例1との相違はスタッガ角を設計点から変えずに、全体の内外径を同一距離だけ増加させた後に後段側の外径が低くなるよう改造している点である。後段側の外径については、該当する段の翼の先端側をカットすることで調節する。なお、図3〜図6と重複する機器については番号を同一とし、詳細な説明は省略する。
【0036】
ここで、図7を用いて本実施例の具体的な動作および利点について説明する。改造を施さずに噴霧した場合、実施例1のガスタービンと同様、中間段で蒸発が終了して前段側のインシデンスが減少、後段側のインシデンスが増加し、前段側でチョーク、後段側でサージや旋回失速が起きやすくなり信頼性が低下する。そこで本実施例では、インシデンスの減少する前段側の流路断面積を増加させ、インシデンスの増加する後段側の流路断面積を減少させるように改造する。この改造によって、前段側では軸流速度が減少して流入角が増加し、後段側では軸流速度が増加して流入角が減少する。
【0037】
このように、圧縮機の流路断面積を、加湿冷却装置の加湿によるインシデンス変化を抑制するように変更することにより、前段側におけるチョーク、およびサージや旋回失速を抑制でき、圧縮機、ひいてはシステムの信頼性の低下を抑制できる。
【0038】
具体的には、圧縮機の流路の内径と外径を略同一距離だけ大きくした後、圧縮機後段側の流路断面積が小さくなるように改造することによりインシデンス変化を抑制でき、信頼性の低下を抑制できる。
【実施例3】
【0039】
図8に本実施例における圧縮機の子午面断面図を示す。実施例2のガスタービンとの相違は全体の内外径を変えずに後段側の外径を短くするよう改造している点である。後段側の翼については、該当する段の翼の先端側をカットすることで調節する。なお、図3〜図7と重複する機器については番号を同一とし、詳細な説明は省略する。
【0040】
ここで、図8を用いて本実施例の具体的な動作および利点について説明する。実施例1で記述したように、改造を施さずに噴霧した場合、中間段で蒸発が終了して前段側のインシデンスが減少、後段側のインシデンスが増加し、前段側でチョーク、後段側でサージや旋回失速が起きやすくなり信頼性が低下する。そこで本実施例では、インシデンスの増加する後段側の流路断面積を減少させるように改造する。この改造によって、後段側では軸流速度が増加して流入角が減少する。これにより、サージや旋回失速を抑制することが可能となる。このとき前段側の流入角は減少したままなので、チョークによる損失増加は発生する可能性があるが、チョークはサージや旋回失速に比べて全体の信頼性低下に対する影響が小さい。よって噴霧による性能向上幅がチョークによる性能低下幅より大きければ、本実施例を適用するメリットは大きい。
【0041】
また本実施例のガスタービンシステムは、水を噴霧しないシステムからの変更点(改造点)が少ないため、他の実施例のシステムと比べてコストの面で優れている。実施例1のガスタービンのように、翼のスタッガ角を変えるためには、新規にスタッガ角を変えた翼を製作する必要がある。先端をカットするだけであれば改造前の翼を再利用できるため、コストを抑えた改造が可能である。
【0042】
本実施例のガスタービンシステムは、圧縮機後段側の流路断面積が小さくなるよう改造することにより、信頼性の低下を抑制したシステムを低コストで実現できるという利点がある。
【0043】
なお上述の各実施例では、すでに圧縮機があり、それを改造する例を説明したが、空気を加湿冷却する加湿冷却装置を圧縮機の入口側に追設した場合に、加湿冷却装置の加湿によるインシデンス変化を抑制可能に構成された圧縮機を用いたガスタービンシステムを初めから構築しても同様の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】流入角と全圧損失係数との関係を示す。
【図2】圧縮機の各段における設計点(圧縮機吸気への水噴霧なし)の段負荷に対する水噴霧する場合の段負荷を示す。
【図3】本発明の実施例1であるガスタービンシステムの概略図を示す。
【図4】本発明の実施例1であるガスタービンシステムの圧縮機の子午面断面概略図を示す。
【図5】本発明の実施例1であるガスタービンシステムの前段翼のスパン方向断面図(a)と、これに対応する、翼への空気の流入角−全圧損失特性線図(b)を示す。
【図6】本発明の実施例1であるガスタービンシステムの後段翼のスパン方向断面図(a)と、これに対応する、翼への空気の流入角−全圧損失特性線図(b)を示す。
【図7】本発明の実施例2であるガスタービンシステムの圧縮機の子午面断面概略図を示す。
【図8】本発明の実施例3であるガスタービンシステムの圧縮機の子午面断面概略図を示す。
【符号の説明】
【0045】
1 圧縮機
2 燃焼器
3 タービン
4 軸
5 発電機
6 加湿冷却装置
7 水タンク
11,13,15 動翼
12,14,16 静翼
41〜43 空気
44,45 燃焼ガス
51 圧縮機ロータ
52 圧縮機ケーシング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気を圧縮する圧縮機と、該圧縮機で圧縮された空気と燃料とを混合燃焼する燃焼器と、該燃焼器で生成された燃焼ガスで駆動されるタービンとを備えたガスタービンシステムの改造方法において、
空気を加湿冷却する加湿冷却装置を前記圧縮機の入口側に追設し、該加湿冷却装置の加湿によるインシデンス変化を抑制するよう前記圧縮機を改造することを特徴とするガスタービンシステムの改造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のガスタービンの改造方法であって、
前記圧縮機の動翼または静翼のスタッガ角を、前記加湿冷却装置の加湿によるインシデンス変化を抑制する方向に変更することを特徴とするガスタービンシステムの改造方法。
【請求項3】
空気を圧縮する圧縮機と、該圧縮機で圧縮された空気と燃料とを混合燃焼する燃焼器と、該燃焼器で生成された燃焼ガスで駆動されるタービンとを備えたガスタービンシステムの改造方法において、
前記圧縮機に流入する空気を加湿冷却する加湿冷却装置を設けるとともに、前記圧縮機の動翼または静翼のスタッガ角を変更することを特徴とするガスタービンシステムの改造方法。
【請求項4】
請求項3に記載のガスタービンシステムの改造方法であって、
前記圧縮機の前段動翼または前段静翼のスタッガ角を小さくするよう変更することを特徴とするガスタービンシステムの改造方法。
【請求項5】
請求項3に記載のガスタービンシステムの改造方法であって、
前記圧縮機の後段動翼または後段静翼のスタッガ角を大きくするよう変更することを特徴とするガスタービンシステムの改造方法。
【請求項6】
請求項1に記載のガスタービンシステムの改造方法であって、
前記圧縮機の流路断面積を、前記加湿冷却装置の加湿によるインシデンス変化を抑制するように変更することを特徴とするガスタービンシステムの改造方法。
【請求項7】
空気を圧縮する圧縮機と、該圧縮機で圧縮された空気と燃料とを混合燃焼する燃焼器と、該燃焼器で生成された燃焼ガスで駆動されるタービンとを備えたガスタービンシステムの改造方法において、
空気を加湿冷却する加湿冷却装置を前記圧縮機の入口側に設けるとともに、前記圧縮機後段側の流路断面積が小さくなるよう改造することを特徴とするガスタービンシステムの改造方法。
【請求項8】
空気を圧縮する圧縮機と、該圧縮機で圧縮された空気と燃料とを混合燃焼する燃焼器と、該燃焼器で生成された燃焼ガスで駆動されるタービンとを備えたガスタービンシステムの改造方法において、
空気を加湿冷却する加湿冷却装置を前記圧縮機の入口側に設けるとともに、前記圧縮機の流路の内径と外径を略同一距離だけ大きくした後、前記圧縮機後段側の流路断面積が小さくなるよう改造することを特徴とするガスタービンシステムの改造方法。
【請求項9】
請求項1に記載のガスタービンシステムの改造方法において、
前記加湿冷却装置は空気に水を噴霧する噴霧冷却装置であり、該噴霧冷却装置の水噴霧量が前記圧縮機の吸込み空気の質量流量の1パーセント以上であることを特徴とするガスタービンシステムの改造方法。
【請求項10】
請求項9に記載のガスタービンシステムの改造方法において、
該ガスタービンの単体出力が10MW以上であり、前記噴霧冷却装置で噴霧される噴霧水の平均粒径が20μm以下であることを特徴とするガスタービンシステムの改造方法。
【請求項11】
空気を圧縮する圧縮機と、該圧縮機で圧縮された空気と燃料とを混合燃焼する燃焼器と、該燃焼器で生成された燃焼ガスで駆動されるタービンとを備えたガスタービンシステムにおいて、
前記圧縮機は、空気を加湿冷却する加湿冷却装置を前記圧縮機の入口側に追設した場合に、該加湿冷却装置の加湿によるインシデンス変化を抑制可能に構成された圧縮機であることを特徴とするガスタービンシステム。
【請求項12】
空気を圧縮する圧縮機と、該圧縮機で圧縮された空気と燃料とを混合燃焼する燃焼器と、該燃焼器で生成された燃焼ガスで駆動されるタービンとを備えたガスタービンシステムの製造方法において、
空気を加湿冷却する加湿冷却装置を前記圧縮機の入口側に設けた場合に該加湿冷却装置の加湿によるインシデンス変化を抑制可能な、基準となる圧縮機を予め設計し、前記加湿冷却装置を設ける場合に、静翼または動翼のスタッガ角を変更してインシデンス変化を抑制させた圧縮機を構成し、該圧縮機を用いてシステムを構成することを特徴とするガスタービンシステムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−190335(P2008−190335A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−22543(P2007−22543)
【出願日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】