説明

ガス分析装置

【課題】大気中のジフェニルシアノアルシン、ジフェニルクロロアルシン及びビス(ジフェニルアルシン)オキシドを高感度に連続測定できるモニタリング装置を提供する。
【解決手段】吸引配管1中において大気を加湿して比較的高い一定の湿度に調節し、ジフェニルシアノアルシン、ジフェニルクロロアルシン及びビス(ジフェニルアルシン)オキシドに由来する共通のイオンを測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は質量分析技術に関し、特に質量分析計を用いて大気中の成分ガス濃度を連続測定するモニタリング装置に係わるものである。
【背景技術】
【0002】
化学兵器禁止条約により、各国に保管あるいは埋設されている化学兵器の廃棄処理が進められつつある。化学兵器処理施設では、化学兵器用剤(以下、化学剤、と記載する)の漏洩を常時監視することが求められる。作業者あるいは周辺住民の健康被害の防止を目的とした大気中化学剤のモニタリングでは、致死濃度よりはるかに低い環境基準あるいは作業環境基準レベルの極低濃度の化学剤を正確かつ迅速に測定する必要がある。質量分析法は感度と選択性に優れるため、このような極低濃度の化学剤モニタリング法として期待される。
【0003】
特許文献1には、吸着管に化学剤を捕集し、捕集した化学剤を誘導体化してガスクロマトグラフ−質量分析(GC−MS)法により測定する方法が開示されている。この方法により、ルイサイト、ジフェニルクロロアルシン及びジフェニルシアノアルシンを高感度に測定できることが記載されている。
【0004】
特許文献2には、大気圧化学イオン化質量分析法を用いて大気中のジフェニルクロロアルシンとジフェニルシアノアルシンの濃度を実時間測定する方法が開示されている。
【0005】
特許文献3には、大気圧化学イオン化質量分析法を用いた大気中化学物質のモニタリング装置において、大気を吸引して質量分析計に導入するための配管中において除湿又は加湿を行なって湿度一定となるよう制御することにより、大気湿度が変動しても、濃度補正用のデータベースを用意することなく正確な濃度測定を可能とする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−274565号公報
【特許文献2】特開2008−58238号公報
【特許文献3】特開2006−322899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
化学剤の1種であるジフェニルクロロアルシン(以下、DAと記載する)とジフェニルシアノアルシン(以下、DCと記載する)は、くしゃみ剤あるいは嘔吐剤と呼ばれ、暴動鎮圧や軍隊の無能力化を目的として使用される。DAとDCは合成過程で混在するが、化学剤としては分離することなく混合物として用いられる。これらの物質は分子量が264と255であり、化学剤の中でも比較的分子量が大きく、常温で固体であり、難揮発性物質である。そのためモニタリング装置の各所に吸着し、分析が困難であった。
【0008】
特許文献1には、熱に弱いDA及びDCを誘導体化処理により熱安定性の高い誘導体に変換することにより、これらの物質を高感度に測定できることが記載されている。しかしながら、吸着管への化学剤の捕集、誘導体化反応、ガスクロマトグラフによる分離を経た後に測定値を表示するため、1回の測定に数十分を要すると考えられる。処理施設内外の気流等の状況にもよるが、化学剤の拡散速度に対して数十分の測定間隔は十分とは考えられず、より迅速な測定法が望まれていた。
【0009】
特許文献2には、大気圧化学イオン化質量分析法を用いたDA及びDCの測定法が開示されている。これによれば、大気圧化学イオン化法を用いてDAとDCをイオン化すると、DA,DCともにプロトン付加分子と両者に共通の分解物イオンを生成することが見出された。また、このとき、DAのプロトン付加分子の信号強度は、DCのプロトン付加分子の信号強度に対して極端に弱く、逆にDAの分解物イオンはDCの分解物イオンよりも信号強度が強いことが見出された。この装置はデータベースとして、(a)プロトン付加分子によるDCの検量線、(b)DA,DCに由来する共通の分解物イオンによるDAの検量線、及び(c)DA,DCに由来する共通の分解物イオンによるDCの検量線を備える。DC濃度は、DCのプロトン付加分子の信号強度を検量線(a)にあてはめることにより求めることができる。こうして求めたDC濃度を検量線(c)にあてはめることにより、DCに由来する共通分解物イオンの信号強度を求めることができる。この信号強度を共通分解物イオンの信号強度から差し引くことによりDA由来の共通分解物イオンの信号強度を求めることができる。この信号強度を検量線(b)にあてはめることによりDA濃度を求めることができる。このような測定方法を適用することによりDA,DCの両者を個別に高感度に測定できることが記載されている。
【0010】
ところで、発明者らの実験によれば、DA,DCのプロトン付加分子の信号強度は大気中の水分濃度に大きく依存し、湿度が高いほど信号強度が低下することが見出された。そのため、処理排ガス中などの高湿度環境下におけるDA,DCの測定は、それよりも湿度の低い作業環境大気中での測定に比べてより困難となることが予想され、より高感度な測定法が望まれていた。
【0011】
また化学兵器の中には製造後数十年を経過しているものも多く存在し、DA,DCの一部が劣化してビス(ジフェニルアルシン)オキシド(以下、BDPAOと記載する)に変化している場合のあることが知られている。このBDPAOもDA,DCと同程度の毒性を有するとの報告があり、DA,DCに加えてBDPAOをもモニタリングすることが望まれている。発明者らの実験によれば、大気圧化学イオン化法を用いてBDPAOをイオン化すると、プロトン付加分子と分解物イオンが生成し、この分解物イオンは前述したDA,DCに共通の分解物イオンと同一構造であることが見出された。また、少なくともある条件下においては、BDPAOのプロトン付加分子の信号強度はDAのプロトン付加分子の信号強度に比べてさらに弱く、プロトン付加分子の信号強度はDC>DA>BDPAOの順であることがわかった。
【0012】
特許文献2の方法を拡張すれば、以下のような方法でDA,DC,BDPAOを個別にかつ高感度に測定する方法が考えられる。すなわち、DAとDCについてはそれぞれのプロトン付加分子による検量線から個別に濃度を求め、BDPAOについてはDA,DC,BDPAOに共通の分解物イオンの信号強度からDAとDCに由来する分解物イオンの信号強度を差し引いてBDPAO由来の共通分解物イオンの信号強度とし、BDPAOの分解物イオンによる検量線にあてはめて濃度を算出する方法である。しかし、そもそも特許文献2の発明は、DAのプロトン付加分子の信号強度が弱くて測定困難であるという実情を鑑みてなされたものである。したがって、特許文献2の拡張法はBDPAOを高感度に測定する現実的方法とは成り得ない。
【0013】
特許文献3の方法において、湿度の調節値を測定対象物質の信号強度が最大となるような値に設定することにより測定対象物質を高感度に測定できることは、容易に想到される。大気圧化学イオン化法により正イオン化を行なうと多くの物質はプロトン付加分子を生成し、一般にこれらのプロトン付加分子の信号強度は湿度が高い程低下することが知られている。これは、水分の増加により次式の平衡反応が左辺にシフトして測定対象物質のプロトン付加分子が減少することに起因するものと考えられる。
【0014】
【化1】

【0015】
ここでMは測定対象物質である。このことからDA,DC,BDPAOを高感度に測定するには大気試料を除湿すればよいことは容易に予想される。しかしながら、DA,DC,BDPAOは吸着しやすい性質があり、フィルターを用いて大気試料中から水分のみを効率的に取り除くことは困難であり、水分といっしょにDA,DC,BDPAOの多くも損失してしまうと予想される。フィルターを用いず、乾燥空気等で大気試料を希釈することで結果的に湿度を低減させる方法も考えられるが、水分と同様に測定対象物質も希釈されてしまうため、高感度化の効果は少ないか逆に感度低下する場合もある。
【0016】
以上に述べたように、作業環境基準レベルの極低濃度のモニタリングが必要な化学剤処理施設等において、DA,DCにこれらの分解物であるBDPAOを加えた3種の物質を高湿度条件下においても十分な感度で測定することは、従来技術をもってしては困難であった。そこで本発明では、DA,DC,BDPAOを従来よりもさらに高感度に測定できる連続モニタリング装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するための手段は発明者らの実験により見出された。発明者らは、大気圧化学イオン化法を用いてDA,DC,BDPAOをそれぞれイオン化すると、いずれの場合にもプロトン付加分子に加えてこれらの3種の物質に共通するイオン(以下、共通イオン、と記載する)が生成されることを見出した。また、DAとDCに関しては乾燥空気中ではプロトン付加分子の信号強度が共通イオンの信号強度を上回るが、比較的高い湿度においてはその関係が逆転し、かつ共通イオンの信号強度は乾燥空気中におけるプロトン付加分子の信号強度を上回ることがわかった。またBDPAO由来の共通イオンの信号強度は、乾燥空気中および比較的高い湿度においてもプロトン付加分子のそれを上回り、かつ乾燥空気中よりも比較的高い湿度条件においてより強いことが見出された。
【0018】
そこで本発明では、吸引した大気試料を加湿して比較的高い一定湿度に制御し、大気圧化学イオン化法によりDA,DC,BDPAOに由来する共通イオンを生成してその信号強度を測定することにより、これらの物質を高感度に測定する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、DA,DC,BDPAOを従来よりも高感度に測定することが可能となる。これにより必要な感度を得るための積算時間が短縮されるため、測定が高速化する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の化学剤モニタリング装置の構成例を示す図。
【図2】DAの質量スペクトルを示す図。
【図3】DAのプロトン付加分子のタンデム質量スペクトルを示す図。
【図4】質量対電荷比229のイオンのタンデム質量スペクトルを示す図。
【図5】DCの質量スペクトルを示す図。
【図6】BDPAOの質量スペクトルを示す図。
【図7】m/z=229のイオンの2段のタンデム質量分析による質量スペクトルを示す図。
【図8】DCのプロトン付加分子による検量線を示す図。
【図9】DAのプロトン付加分子の信号強度と湿度との関係を示す図。
【図10】BDPAOのプロトン付加分子の信号強度と吸引配管長との関係を示す図。
【図11】乾燥空気中及び湿度30g/m3におけるDAのプロトン付加分子とDA由来の共通イオンの信号強度を示す図。
【図12】乾燥空気中及び湿度30g/m3におけるプロトン付加分子と共通イオンの信号強度の比較図。
【図13】40mテフロン配管を通して吸引した場合のDA,DC,BDPAO由来の共通イオンの信号強度を示す図。
【図14】40mテフロン配管を通して吸引した場合のBDPAOの共通イオンの2段のタンデム質量分析(m/z=229→227→152)による信号強度を示す図。
【図15】DA,DC及びBDPAOの共通イオンによる検量線と濃度との関係を示す図。
【図16】本発明の化学剤モニタリング装置の別の構成例を示す図。
【図17】DA,DC,BDPAOの濃度算出方法の説明図。
【図18】測定シーケンスを示す図。
【図19】本発明の化学剤モニタリング装置のさらに別の構成例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【実施例1】
【0022】
図1に、本発明の化学剤モニタリング装置の構成例を示す。本装置はガス吸引配管1、大気圧化学イオン化イオントラップ質量分析計3、湿度計4、データベース5、加湿器7、及び制御部6で構成される。データベース5は種々の化学剤に対する検量線を有しており、制御部6は種々の化学剤の信号強度を測定し、データベース5の検量線を参照して化学剤の濃度を算出し、モニター2等に表示する。また算出された濃度が所定値を超える場合に警報表示するか、あるいは警報音を発生する機能を有する。
【0023】
ガス吸引配管1は、サンプリング点から大気圧化学イオン化イオントラップ質量分析計3まで大気を吸引するためのものである。大気の吸引は質量分析計に内蔵された吸引ポンプによってなされる。配管内面への化学剤の吸着を防止するため、ガス吸引配管1は温調器(図示せず)により一定温度に保温される。
【0024】
湿度計4は、サンプリング点付近の大気湿度を計測するためのものであり、ガス吸引配管1の入口付近に配置される。湿度計の出力信号は制御部6に送信される。制御部6は湿度計4の出力信号から所定の計算式を用いて絶対湿度を算出する。
【0025】
加湿器7は、ガス吸引配管1の内部に水分を添加する機能を有する。制御部6は、ガス吸引配管内の絶対湿度が所定値に維持されるよう、サンプリング点の絶対湿度の測定値から所定の計算式を用いて水分の添加量を算出し、加湿器7に制御信号を送出する。水分の添加方法は、送水ポンプによりガス吸引配管1内に水を注入する方法でも良いし、乾燥空気に水分を加えて比較的高い一定湿度の空気を調製してガス吸引配管1に注入しても良い。後者の方法では、ガス吸引配管内で化学剤が希釈されるため、希釈率を用いて信号強度を補正する。比較的高湿度の空気を微量だけ注入すれば、高湿度で測定することによる感度向上効果に比べ、希釈による感度低下は無視できる程度となる。
【0026】
大気圧化学イオン化イオントラップ質量分析計3では、吸引した大気中の成分を大気圧化学イオン化法によりイオン化し、質量分析する。このイオントラップ質量分析計は、多段のタンデム質量分析機能を有する。タンデム質量分析は、特定の質量対電荷比(以下、m/zと記載する)を有するイオンのみをイオントラップ内部に保持してそれ以外のイオンは排除し、次に保持されたイオンをヘリウムなどの中性ガスとの衝突誘起解離により解離し、生成されるフラグメントイオンを質量分析するものである。多段のタンデム質量分析は、生成されたフラグメントイオンのうち特定のm/zを有するイオンのみをイオントラップ内部に保持してそれ以外のイオンは排除し、保持されたフラグメントイオンをさらに衝突誘起解離させる、というプロセスを何段階にも繰り返すことができる機能である。解離を繰り返すことにより、同一のm/zを有するイオンであっても解離パターンが異なれば系外に排除されるため、ケミカルノイズが大幅に減少し、結果的に測定対象物質を特異的に検出することが可能となる。
【0027】
図2に、大気圧化学イオン化イオントラップ質量分析計3を用いて測定したDAの質量スペクトルを示す。スペクトル中に観測されるm/z=265のイオンは、DA(分子量264)にプロトン(m/z=1)が付加したプロトン付加分子と考えられる。またm/z=229に観測されるイオンの生成機構は詳らかではないが、反応式(1)のようにDAのプロトン付加分子から塩化水素(HCl)が脱離して生成される機構が推定される。
【0028】
【化2】

【0029】
図3に、タンデム質量分析法を用いてDAのプロトン付加分子を解離して質量分析した結果を示す。この質量スペクトルにはm/z=229のイオンが観測されている。このことから、図2の質量スペクトルに観測されるm/z=229のイオンが反応式(1)の解離反応により生成している可能性が強く示唆される。図2の質量スペクトルに観測されるm/z=229のイオンと、図3に観測される、DAのプロトン付加分子を解離して生成したm/z=229のイオンとの同一性を検討する為、両者をそれぞれタンデム質量分析法により解離して質量分析した。図4に、前者の質量スペクトルを示す。質量スペクトルにはm/z=227のイオンが観測される。これはm/z=229のイオンから水素原子2個が脱離したフラグメントイオンと考えられる。後者の質量スペクトル(図示せず)にもm/z=227のイオンが観測されることから、両者が同一構造のイオンであることが強く裏付けられた。
【0030】
図5に、大気圧化学イオン化イオントラップ質量分析計3を用いて測定したDCの質量スペクトルを示す。観測されるm/z=256のイオンは、DC(分子量255)にプロトン(m/z=1)が付加したプロトン付加分子と考えられる。またm/z=229に観測されるイオンは、反応式(2)のように、DCのプロトン付加分子からシアン化水素(HCN)が脱離したフラグメントイオンと推定される。DAの場合と同様に、タンデム質量分析法による質量分析の結果(図示せず)、この推定が強く裏付けられた。
【0031】
【化3】

【0032】
図6に、大気圧化学イオン化イオントラップ質量分析計3を用いて測定したBDPAOの質量スペクトルを示す。観測されるm/z=475のイオンは、BDPAO(分子量474)にプロトン(m/z=1)が付加したプロトン付加分子と考えられる。またm/z=229に観測されるイオンは、反応式(3)のように、BDPAOのプロトン付加分子からHOAs(C652が脱離したフラグメントイオンと推定される。DA,DCの場合と同様に、タンデム質量分析法による質量分析の結果(図示せず)、この推定が強く裏付けられた。
【0033】
【化4】

【0034】
2段のタンデム質量分析を適用し、m/z=229のイオンを解離して生成されるm/z=227のイオンをさらに解離できるかどうかを検討した。図7に、m/z=227のイオンを解離して得られる質量スペクトルを示す。m/z=152に観測されるイオンは、m/z=227のイオン(C128As)からC63又はAsが脱離して生成されるフラグメントイオンと考えられる。2段のタンデム質量分析を用いてm/z=229のイオンを測定することにより、このイオンをさらに特異的に検出することができる。
【0035】
図8に、大気圧化学イオン化イオントラップ質量分析計3によるDCの検量線を示す。常温で固体であるDCを有機溶媒に溶解し、実験室大気を満たした所定容量の保温容器(120℃)に注入して気化させることによって所望の濃度のDCガスを生成し、これを吸引してDCのプロトン付加分子の信号強度を測定することによって得られたものである。図中に示すように検量線の傾き、すなわち検出感度は3.4×104cps/(μg/m3)である。同様にしてDA,BDPAOのプロトン付加分子による検量線を取得して検出感度を求めたところ、それぞれ1.7×103cps/(μg/m3)及び2.8×102cps/(μg/m3)であった。このように、検出感度はDC,DA,BDPAOの順に低下する結果となった。
【0036】
実験室大気を吸引した場合のDC,DA,BDPAOに対するバックグラウンド信号のばらつき(標準偏差σ)はそれぞれ3.4×102、1.7×102、1.1×102cpsであったことから(データ図示せず)、3σで定義した場合のDC,DA,BDPAOの検出下限濃度はそれぞれ0.03、0.3、1.2μg/m3と計算される。バックグラウンド信号はDC,DA,BDPAOの順に低下するものの、検出下限濃度はDC,DA,BDPAOの順に高くなり、BDPAOの検出が最も困難であることがわかる。なお、以上の実験において測定間隔は1.2〜1.3秒に設定しており、得られた検出下限濃度も1.2〜1.3秒のほぼリアルタイムで実現されるものである。積算を実施すれば、さらに低濃度まで検出可能である。例えば100点(約2分間)の積算を実施することにより、検出下限濃度は1/10となる。
【0037】
図9に、大気圧化学イオン化イオントラップ質量分析計3におけるDAのプロトン付加分子の信号強度と絶対湿度との関係を示す。湿度5〜30g/m3の範囲において湿度の上昇により信号強度が大きく低下することがわかる。同様にDCのプロトン付加分子の信号強度と絶対湿度との関係を求めたところ、湿度上昇により一旦信号強度が増加するが、湿度5g/m3の前後で減少に転じる結果となった(図示せず)。しかしその減少率はDAに比べて小さかった。同様にBDPAOのプロトン付加分子の信号強度と絶対湿度との関係を求めたところ、反応式(0)の平衡反応に基づく予想に反し、湿度にほとんど依存しなかった。
【0038】
図10に、大気圧化学イオン化イオントラップ質量分析計3にガス吸引配管1として種々の長さの120℃に保温したテフロン配管を接続した場合のBDPAOのプロトン付加分子の信号強度を示す。BDPAOの信号強度は配管長が長くなると次第に低下し、35m毎に約1/10に減衰することがわかる。同様にしてDA及びDCのプロトン付加分子の信号強度と配管長との関係を求めたところ、DAは配管長の増加に伴って信号強度が減少したが、低下率はBDPAOよりも小さかった。またDCの配管長依存性は測定誤差内であり、認められなかった。
【0039】
以上のように、湿度の上昇あるいは配管長の増加によって特にDAあるいはBDPAOのプロトン付加分子の信号強度が大きく低下し、測定がより困難となることがわかった。
【0040】
図11に、大気圧化学イオン化イオントラップ質量分析計3を用いて乾燥空気中及び湿度30g/m3においてそれぞれDAのプロトン付加分子及びDA由来の共通イオンの信号強度を測定した結果を示す。プロトン付加分子の信号強度は乾燥空気中では1.3×107cps(3回測定の平均値)であるのに対し、湿度30g/m3ではBGレベル以下であり、観測されない。これに対し、共通イオンの信号強度は乾燥空気中では4.5×106cps(3回測定の平均値)であるのに対し、湿度30g/m3では3.1×107cps(3回測定の平均値)であり、乾燥空気中に比べて約7倍に増加した。このことは、反応式(1)のようにプロトン付加分子が解離して共通イオンが生成するとの推定とは矛盾する予想外の結果である。イオントラップ内部(高真空)でのヘリウムガスとの衝突誘起解離とは異なり、解離反応に水分が関与している可能性も考えられる。いずれにしてもこの現象は発明者らの実験により見出されたものである。同様の実験をDC及びBDPAOに対しても実施して各条件での信号強度を求めた結果を図12に示す。図に示したように、DAとDCに関しては乾燥空気中ではプロトン付加分子の信号強度が共通イオンの信号強度を上回るが、湿度30g/m3においてはその関係が逆転し、かつ共通イオンの信号強度は乾燥空気中におけるプロトン付加分子の信号強度を上回る。またBDPAO由来の共通イオンの信号強度は、乾燥空気中および湿度30g/m3においてもプロトン付加分子のそれを上回り、かつ乾燥空気中よりも比較的高い湿度条件においてより強いことが見出された。このようにDA,DC,BDPAOのいずれの場合においても、湿度30g/m3で共通イオンを測定した場合の信号強度が最も大きいことがわかる。
【0041】
図13に、大気圧化学イオン化イオントラップ質量分析計3にガス吸引配管1として40mのテフロン配管を接続して配管中の湿度を60g/m3に調節し、配管入口からDA,DC,BDPAOの100ppm溶液2μL(DA,DC,BDPAOの重量各0.2μg)をそれぞれ注入した場合の共通イオンの信号強度を示す。共通イオンの信号強度は、DC,DA,BDPAOの順に低下する。
【0042】
このうち最も信号強度の小さいBDPAO由来の共通イオンについて、2段のタンデム質量分析(m/z=229→227→152)による信号強度を測定した結果を図14に示す。この測定結果から、検量線の直線性を仮定して、以下のようにして検出下限濃度を算出した。図中に示した、信号強度のピーク領域を包含する時間領域(120秒間)の平均の信号強度を求めると1.2×105cpsとなる。一方、その間の平均のガス濃度は注入されたBDPAOの重量(100ppm×2μL=0.2μg)を120秒間に吸引した体積(吸引流量1.2L/min×120秒=2.4×10-33)で割ることにより8.3×10g/m3となる。平均の信号強度からBGレベル(980cps)を差し引いた正味の信号強度を平均のガス濃度で割ることにより、感度1.5×103cps/(μg/m3)が得られる。実験室大気を吸引して測定したBGのばらつき(標準偏差σ)は3.7×102cpsであったことから、3σで定義した場合の検出下限濃度は、0.76μg/m3と算出される。
【0043】
BDPAOのプロトン付加分子の2段のタンデム質量分析(m/z=475→229→227)による検出下限濃度は、配管を接続しない場合に1.2μg/m3程度であったから、図10の湿度依存性を適用すれば、40m配管を通すと信号強度が1/10以上に低下して検出下限濃度は10倍の12μg/m3以上になると推定される。したがって湿度60g/m3で共通イオンを2段のタンデム質量分析(m/z=229→227→152)で測定することにより、プロトン付加分子を測定する場合に比べて1/16以下の低濃度のBDPAOの測定が可能となった。同じ測定条件でDA,DC由来の共通イオンはBDPAO由来の共通イオンよりも高感度に測定できるので、DA,DCについてはBDPAOに対する検出下限濃度よりも低い濃度を検出可能である。なお、以上の実験において測定間隔は1.3秒に設定しており、得られた検出下限濃度も1.3秒のほぼリアルタイムで実現されるものである。積算を実施すればさらに低濃度まで検出可能である。例えば100点(約2分間)の積算を実施すればBGのばらつき(σ)は√100=10分の1に低減するので、検出下限濃度は1/10となる。
【0044】
大気の絶対湿度は、例えば温度40℃、相対湿度100%の極端な高湿度条件下において51g/m3である。したがって例えば湿度設定値を60g/m3とすれば、希釈機構を設ける必要が無く、加湿機構のみで湿度一定に制御することができるため、装置が簡素になる。化学剤の処理施設等では、空調により室内温度と相対湿度を制御している場合がある。そのような場合には、室内の絶対湿度の変動範囲に合わせてその最大値又はそれを超える湿度に設定する。このようにすれば調湿機構としては加湿機構のみを備えればよく、希釈機構を必要としないため、簡素な装置構成となる。
【0045】
本方法ではDA,DC,BDPAOに対する検出感度は必ずしも一致しない。各物質の検出感度の違いは条件によって異なるが、例えば図15に示すようにDC>DA>BDPAOの順となる。この場合、濃度を算出するために使用する検量線として、(a)最も感度の高いDCに対する検量線、(b)最も感度の低いBDPAOに対する検量線、(c)3種の平均の検量線、などが考えられる。これらのうち、(b)の検量線を適用して算出される濃度(Cmax)が最も高濃度であり、(a)の検量線を用いて算出された濃度が最も低い濃度(Cmin)となる。実際の濃度は、Cmin〜Cmaxの範囲内にあることになる。したがってCmaxに基づいて警報表示などの判断を行なえば最も安全性の高いモニタリングが可能となる。
【実施例2】
【0046】
実施例1では、大気圧化学イオン化法でDA,DC,BDPAOを正イオン化すると、いずれの物質の場合にも、比較的高い湿度では共通イオンの信号強度がプロトン付加分子のそれを上回り、かつ乾燥空気中におけるプロトン付加分子の信号強度よりも強いという現象を利用し、吸引した大気を加湿して比較的高い所定の湿度に調節して共通イオンの信号強度を測定することにより、簡素な装置構成でこれらの物質の総量を従来よりも高感度に測定する方法を示した。この方法ではDA,DC,BDPAOに対する検量線は必ずしも一致しないので、最も傾きの小さい検量線を使用して算出される濃度に基づいて警報表示の有無を判断することにより、安全性を確保する。しかしながら、このようにして算出された濃度は正確性の観点からは十分なものとは言い難い。実施例2では、実施例1よりも若干複雑な装置構成であるが、DA,DC,BDPAOの濃度をそれぞれ正確に測定できる装置構成を示す。
【0047】
図16に、本実施例の化学剤モニタリング装置の構成を示す。本装置はガス吸引配管1、大気圧化学イオン化イオントラップ質量分析計3、湿度計4、データベース5、加湿器7、希釈器8、切り替え器9及び制御部6で構成される。データベース5は種々の化学剤に対する検量線を有しており、制御部6は種々の化学剤の信号強度を測定し、データベース5の検量線を参照して化学剤の濃度を算出し、モニター2等に表示する。また、算出された濃度が所定値を超える場合に警報表示するか、あるいは警報音を発生する機能を有する。
【0048】
ガス吸引配管1は、サンプリング点から大気圧化学イオン化イオントラップ質量分析計3まで大気試料を吸引するためのものである。大気の吸引は質量分析計に内蔵された吸引ポンプによってなされる。配管内面への化学剤の吸着を防止するため、ガス吸引配管1は温調器(図示せず)により一定温度に保温される。
【0049】
湿度計4は、サンプリング点付近の大気湿度を計測するためのものであり、ガス吸引配管1の入口付近に配置される。湿度計の出力信号は制御部6に送信される。制御部6は湿度計4の出力信号から所定の計算式を用いて絶対湿度を算出する。
【0050】
加湿器7は、ガス吸引配管1の入口付近から配管内部に水分を添加する機能を有する。制御部6は、ガス吸引配管内の絶対湿度が所定値に維持されるよう、サンプリング点の絶対湿度の測定値から所定の計算式を用いて水分の添加量を算出し、加湿器7に制御信号を送出する。水分の添加方法は、送水ポンプによりガス吸引配管1内に水を注入する方法でも良いし、純空気に水分を加えて比較的高い一定湿度の空気を調製してガス吸引配管に注入しても良い。後者の方法では、ガス吸引配管内で化学剤が希釈されるため、希釈率を用いて信号強度を補正する。比較的高湿度の空気を微量だけ注入すれば、希釈による感度低下は無視できる程度である。
【0051】
希釈器8は、ガス吸引配管1の入口付近から配管内部に乾燥空気を添加する機能を有する。制御部6は、ガス吸引配管内の絶対湿度が所定値に維持されるよう、サンプリング点の絶対湿度の測定値から所定の計算式を用いて乾燥空気の添加量を算出し、希釈器8に制御信号を送出する。乾燥空気の添加量は、希釈器8に内臓される流量調節器により調節される。乾燥空気の添加によりガス吸引配管内で化学剤が希釈されるため、希釈率を用いて信号強度を補正する。
【0052】
大気圧化学イオン化イオントラップ質量分析計3では、吸引した大気中の成分を大気圧化学イオン化法によりイオン化し、質量分析する。このイオントラップ質量分析計は、多段のタンデム質量分析機能を有する。タンデム質量分析は、特定のm/zを有するイオンのみをイオントラップ内部に保持してそれ以外のイオンは排除し、次に保持されたイオンを解離し、生成されるフラグメントイオンを質量分析するものである。多段のタンデム質量分析は、生成されたフラグメントイオンのうち特定のm/zを有するイオンのみをイオントラップ内部に保持してそれ以外のイオンは排除し、保持されたフラグメントイオンをさらに解離させる、というプロセスを原理的には無限に繰り返すことができる機能である。解離を繰り返すことによりイオン量が次第に減衰する場合があるものの、同一のm/zを有するイオンであっても解離パターンが異なるイオンはほぼ完全に排除されるため、ケミカルノイズを大幅に減少させて測定対象物質を特異的に検出することが可能である。
【0053】
切り替え器9は、配管系に取り付けたバルブ(図示せず)等を切り替えることにより、加湿器7により水分を添加する加湿工程と希釈器8により乾燥空気を添加する希釈工程とを切り替える機能を有する。希釈工程においては、大気圧化学イオン化イオントラップ質量分析計3によりDAのプロトン付加分子及びDCのプロトン付加分子を測定する。前述したようにDA,DCのプロトン付加分子の信号強度は湿度5g/m3程度を超える湿度範囲においては低湿度ほど強い。したがって希釈により湿度を5g/m3程度に調節することにより、DA,DCを高感度に測定できる。加湿工程においては、大気圧化学イオン化イオントラップ質量分析計3により共通イオンを測定する。前述したように、共通イオンの信号強度は湿度を上げると増加するので、加湿により比較的高い湿度に調節して測定することにより共通イオンを高感度に測定できる。データベース5は、DAに対するプロトン付加分子による検量線、DCに対するプロトン付加分子よる検量線、DA,DC,BDPAOのそれぞれに対する共通イオンによる検量線を保有する。
【0054】
制御部6は、図17に示すように、DAのプロトン付加分子の信号強度をDAに対するプロトン付加分子による検量線にあてはめてDA濃度を算出する。同様にして、DCのプロトン付加分子の信号強度をDCに対するプロトン付加分子による検量線にあてはめてDC濃度を算出する。こうして算出されたDA,DCの濃度をDA,DCのそれぞれに対する共通イオンによる検量線にあてはめてDA,DCに由来する共通イオンの信号強度を算出し、これらの信号強度を共通イオンの測定値から差し引いてBDPAOに由来する共通イオンの信号強度を算出する。こうして算出されたBDAPOに由来する共通イオンの信号強度をBDPAOに対する共通イオンによる検量線にあてはめてBDPAOの濃度を算出する。このようにDA,DC,BDPAOの濃度を個別に測定して合算されたDA,DC,BDPAOの総量は、実施例1の方法による測定値よりも正確なものとなる。
【0055】
図18に示すように、加湿工程と希釈工程とを交互に繰り返しながら連続する2工程を1組としてDA,DC,BDPAOの濃度を算出する。希釈工程と加湿工程とを切り替えてから吸引配管内の湿度が一定となるまでには、配管長や吸引流量にもよるが、数十秒から数分程度を要する。その間は測定が中断され、結果的に感度を損失することになる。中断時間を短縮するためには希釈工程と加湿工程とをできるだけ長くするほうがよい。しかしながら、そうすると希釈工程と加湿工程との時間差が大きくなる。その間に大気中の化学剤濃度が変化すると、測定の正確性が損なわれるというジレンマがある。
【0056】
図19に示す装置構成とすることにより、前述したジレンマを低減することが可能となる。以下の説明では図16の装置と重複する部分については省略する。この装置構成は、常時希釈工程を実施する吸引配管11と常時加湿工程を実施する吸引配管12とを備える。切り替え器19は、配管系に取り付けたバルブ(図示せず)等を切り替えることにより、大気圧化学イオン化イオントラップ質量分析計3と吸引配管11及び吸引配管12との接続を切り替える機能を有する。吸引配管11が大気圧化学イオン化イオントラップ質量分析計3に接続されている間は、吸引配管12は吸引ポンプ22により吸引され、吸引配管12内の大気は系外へ排気される。吸引配管12が大気圧化学イオン化イオントラップ質量分析計3に接続されている間は、吸引配管11は吸引ポンプ21により吸引され、吸引配管11内の大気は系外へ排気される。
【0057】
常時希釈工程を実施する吸引配管11と常時加湿工程を実施する吸引配管12とを切り替えることによって希釈工程と加湿工程とを切り替え、図18に示すように、前者の工程ではDA,DCのプロトン付加分子を測定し、後者の工程では共通イオンを測定する。工程を切り替えてから測定を開始できるまでの中断時間は、各吸引配管の出口から吸引される大気が大気圧化学イオン化イオントラップ質量分析計3内部のイオン化部に到達するまでに要する時間であり、接続部からイオン化部までの距離と吸引流量によるが、通常は1秒以内と極めて短い。したがって、2つの工程を短い周期で切り替えても中断による損失は軽微である。例えば、各工程を10秒で切り替えた場合の損失は10%以内であり、本発明を用いることによる感度向上効果に比べて無視できる程度である。
【0058】
吸引配管11及び吸引配管12はそれぞれ保温されるが、保温温度はそれぞれの測定に対して最適値に設定される。
【0059】
実施例1及び実施例2に共通することであるが、用いる質量分析計はイオントラップ質量分析計に限定されるものではなく、他のいかなる質量分析計を用いても本発明の効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、化学剤処理施設での化学剤モニタリングに利用できる。また、化学テロ対策用の化学剤探知装置として利用できる。
【符号の説明】
【0061】
1,11,12…ガス吸引配管、2…モニター、3…大気圧化学イオン化イオントラップ質量分析計、4…湿度計、5…データベース、6…制御部、7…加湿器、8…希釈器、9,19…切り替え器、21,22…ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体を吸引する吸引配管と、
前記吸引配管に水分を添加するための加湿機構と、
吸引された気体の成分を分析する質量分析計と、
質量対電荷比229のイオンの信号強度と所定の化学物質の濃度との関係を保有するデータベースと
を有することを特徴とするガス分析装置。
【請求項2】
前記所定の化学物質はジフェニルクロロアルシン、ジフェニルシアノアルシン及びビス(ジフェニルアルシン)オキシドのうち少なくとも1つの物質であることを特徴とする請求項1に記載のガス分析装置。
【請求項3】
前記質量分析計は、大気圧化学イオン化質量分析計であることを特徴とする請求項1に記載のガス分析装置。
【請求項4】
前記質量対電荷比229のイオンの信号強度は、前記質量対電荷比229のイオンを解離して生成される質量対電荷比227のイオン量に対応することを特徴とする請求項1に記載のガス分析装置。
【請求項5】
前記質量対電荷比229のイオンの信号強度は、前記質量対電荷比229のイオンを解離して生成される質量対電荷比227のイオンをさらに解離して生成される質量対電荷比152のイオン量に対応することを特徴とする請求項1に記載のガス分析装置。
【請求項6】
質量対電荷比229のイオンの信号強度とジフェニルクロロアルシン、ジフェニルシアノアルシン、及びビス(ジフェニルアルシン)オキシドの濃度との関係のうち最も感度の低い関係を用いて算定された濃度を、ジフェニルクロロアルシン、ジフェニルシアノアルシン、及びビス(ジフェニルアルシン)オキシドの総濃度として表示する機能を有することを特徴とする請求項2に記載のガス分析装置。
【請求項7】
前記加湿機構は、前記気体に規定された湿度範囲の上限又はそれを超える湿度まで加湿することを特徴とする請求項1に記載のガス分析装置。
【請求項8】
気体を吸引する吸引配管と、
前記吸引配管中の水分濃度を増加させるための加湿機構と、
前記吸引配管中の水分濃度を低減するための除湿機構と、
吸引された気体の成分を分析する質量分析計と、
質量対電荷比229のイオンの信号強度と気体中の所定の化学物質の濃度との関係を保有するデータベースと
を有することを特徴とするガス分析装置。
【請求項9】
前記所定の化学物質はジフェニルクロロアルシン、ジフェニルシアノアルシン及びビス(ジフェニルアルシン)オキシドのうち少なくとも1つの物質であることを特徴とする請求項8に記載のガス分析装置。
【請求項10】
前記質量分析計は、大気圧化学イオン化質量分析計であることを特徴とする請求項8に記載のガス分析装置。
【請求項11】
前記質量対電荷比229のイオンの信号強度は、前記質量対電荷比229のイオンを解離して生成される質量対電荷比227のイオン量に対応することを特徴とする請求項8に記載のガス分析装置。
【請求項12】
前記質量対電荷比229のイオンの信号強度は、前記質量対電荷比229のイオンを解離して生成される質量対電荷比227のイオンをさらに解離して生成される質量対電荷比152のイオン量に対応することを特徴とする請求項8に記載のガス分析装置。
【請求項13】
前記除湿機構により水分濃度が低減された気体中の所定の化学物質の濃度を算定するためのデータベースを保有することを特徴とする請求項8に記載のガス分析装置。
【請求項14】
前記所定の化学物質としてジフェニルクロロアルシン、ジフェニルシアノアルシン又はビス(ジフェニルアルシン)オキシドの少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項13に記載のガス分析装置。
【請求項15】
質量対電荷比265のイオンの信号強度とジフェニルクロロアルシンの濃度との関係、質量対電荷比256のイオンの信号強度とジフェニルシアノアルシンの濃度との関係、質量対電荷比475のイオンの信号強度とビス(ジフェニルアルシン)オキシドの濃度との関係のうち少なくとも一つをデータベースとして保有することを特徴とする請求項14に記載のガス分析装置。
【請求項16】
ジフェニルクロロアルシン、ジフェニルシアノアルシン及びビス(ジフェニルアルシン)オキシドのうち少なくとも一つの濃度を表示する機能を有することを特徴とする請求項8に記載のガス分析装置。
【請求項17】
前記加湿機構と前記除湿機構とを切り替えて動作させる機能を有することを特徴とする請求項8に記載のガス分析装置。
【請求項18】
前記吸引配管は分岐部を有し、一方は前記質量分析計に接続され、他方はポンプに接続されることを特徴とする請求項8に記載のガス分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2010−197242(P2010−197242A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−43025(P2009−43025)
【出願日】平成21年2月25日(2009.2.25)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(592083915)警察庁科学警察研究所長 (23)
【出願人】(000233549)株式会社日立ハイテクコントロールシステムズ (130)
【Fターム(参考)】