説明

ガラスセラミックス

【課題】耐久性の問題がなく、比較的容易な方法で所望の形状に成形でき、更に光触媒活性が高いガラスセラミックスを提供する。
【解決手段】光触媒としての活性を持ちえる結晶相として、TiO、CaTi12、CaTi、CaTiSiO又は、これらの固溶体、から選ばれる少なくとも1種を含み、SiO2成分を含むガラス相を有し、酸化物基準のモル%で、TiO2成分を5〜60%、SiO2成分を15〜80%含有するガラスセラミックスである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒機能を有するガラスセラミックス及びその製造方法に関し、特に、光触媒機能を有する結晶を析出させたガラスセラミックス及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光触媒は、光触媒機能を有する半導体にそのバンドギャップエネルギー以上のエネルギーの光を照射することで生成する電子や正孔が関与することにより、酸化又は還元反応をその表面近傍で生じさせるものである。特に触媒活性の高いチタニア(TiO)結晶を用いる表面処理は、一般によく知られている。
【0003】
例えば、光触媒作用のある部材を製造するために、表面に塗布する光触媒としての酸化チタンを含む光触媒性塗布剤が開示されている(例えば、特許文献1)。このようにすれば、基材の機械的な特性を維持したまま、表面にのみ光触媒作用を付加することができ、非常に便利である。しかしながら、塗布やコーティングでは、塗布膜やコーティング層の耐久性が十分ではなく、使用状況により剥離が問題となる。
【0004】
一方、バルクの中に光触媒材料を入れた例として、ポリプロピレン樹脂に対して、光触媒(光触媒活性を有するのに必要な金属原子としてのチタンを有してなるアパタイト(光触媒チタンアパタイト))としての、カルシウム・チタンハイドロキシアパタイトを30質量%添加し、混練して直径3cmのボール状(球状)に成形し、破断機にかけ、篩で約5mm角に粉砕した光触媒複合材料が開示されている(例えば、特許文献2)。しかしながら、これはポリプロピレン樹脂をバインダーとして、カルシウム・チタンハイドロキシアパタイトを結合させた約5mm角の複合材に過ぎない。そのため適用分野が、反応容器内に投入される触媒粒子のような分野に限られる。
【0005】
また、重量百分率(%)で、SiO、Al、CaO、MgO、B、ZrO、およびTiOを所定の組成比に選び、これらを常套の手段で溶融ガラス化して、光触媒用ガラスとしたものが開示されている(例えば、特許文献3)。しかしながら、チタンイオンが後に記述するような結晶構造を取ることが無く、ガラスの中にただ酸素と結合し、アモルファスの形で存在するだけで、高い光触媒特性を示すとは言い難い。
【0006】
更に、チタニアとガラス形成酸化物とを含有する混合物を溶融して分相融液を得る工程を経て、前記分相融液をガラス化して分相ガラスを得る工程を経て、前記分相ガラス中のチタニアをアナターゼ型チタニアとして結晶化させる光触媒用組成物の製造方法が開示されている(例えば、特許文献4)。しかしながら、この方法では、TiO−SiOの2成分系からなり、約1780℃以上の高温で溶融し、ツインローラによる急冷を必要とするため、非常に高価となるばかりではなく、バルクやファイバー状に成形することは困難である。
【特許文献1】特開2008−81712号公報
【特許文献2】特開2008−36465号公報
【特許文献3】特開平9−315837号公報
【特許文献4】特開2001−113177号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、基材の表面に塗布若しくはコーティングする場合、基材の基本特性は使用目的にかなうものを選択することができるが、表面に付けた塗布膜等は、剥離するおそれがある。また、膜生成にはよく有機バインダーが用いられているので、紫外線、酸性雨等による経時変化で曇りや白ボケ現象が生じる問題点がある。一方、チタニア結晶と樹脂を複合化した一体型の触媒材料もあるが、上述と同様に紫外線の照射で、樹脂が分解され、良好な耐久性が得られない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明では、このような事情に鑑み、剥離等による耐久性の問題がなく、比較的容易な方法で所望の形状に成形でき、更に光触媒活性が高いガラスセラミックスを提供することを目的とする。より具体的には、光触媒としての活性が比較的高い無機化合物組成を結晶相として含むことを特徴とするガラスセラミックスを提供する。
【0009】
より具体的には以下のようなガラスセラミックスやその製造方法等を提供する。
【0010】
(1)結晶相として、TiO、CaTi12、CaTi、CaTiSiO又は、これらの固溶体、から選ばれる少なくとも1種を含むガラスセラミックス。
【0011】
酸化チタン(TiO)の結晶型には、一般にアナターゼ(Anatase)、ルチル(Rutile)、ブルッカイト(Brookite)の3種類がある。光触媒としては、Anataseが最も好ましい。Anatase(正方I41/amd、低温安定)は一般的には酸化硫酸チタン(硫酸チタニル)、硫酸チタン、テトラアルコキシチタン等の湿式加水分解で製造され、光触媒として利用されている。Rutile(正方P42/mmm、高温安定)は四塩化チタンの湿式加水分解、Anataseの700℃以上の高温処理等で製造され、塗料、顔料に使用される。これらに比較してBrookite(Pbca、板チタン石)の合成や用途に関する研究例は、少ない。これらの結晶型の安定性については定説がなく、結晶粒子径によって安定性が異なるとの報告もある。例えば光触媒として有効な14nm以下の粒子径ではAnataseがRutileより安定になるとの報告もある。結晶型から計算される理論密度は次のようになる。
Rutile (4.25g/cm) > Brookite (4.12g/cm) > Anatase (3.893g/cm
【0012】
TiOは、化学的に安定で毒性もないことから好適に使用される。TiOは、高い光触媒特性を発揮するアナターゼ型の結晶構造とすることが好ましく、条件によってはルチル型、ブルッカイト型であってもよい。TiOの結晶構造は、X線回折法(XRD測定法)により測定することができる。
【0013】
また、チタン酸カルシウムCaTi12とCaTiは、前者が単純立方晶で、後者が欠陥形パイロクロール構造を持ち、高誘電体として一般に用いることができる。また、カルシウムチタンケイ酸塩(CaTiSiO)は、一般にスフェーンとも呼ばれ、単斜晶で、屈折率が高い結晶であり、TiO2と同様に光触媒特性を示すと考えられるもので、本願ガラスセラミックスにおいて有用な結晶である。
【0014】
これらのバンドギャップエネルギーは、2.0eVから4.0eVまでの範囲にあることが好ましい。また、固溶体を用いることにより、バンドギャップエネルギーを調整することができる。バンドギャップエネルギーをコントロールすることは光に対する応答性の向上に寄与する。
【0015】
固溶体とは、2種類以上の金属固体または非金属固体が互いの中に原子レベルで溶け込んで全体が均一の固相になっている状態のことをいい、混晶と言う場合もある。溶質原子の溶け込み方によって、結晶格子の隙間より小さい元素が入り込む侵入型固溶体、母相原子と入れ代わって入る置換型固溶体などがある。TiOの固溶体としては、溶質物質が決まっている訳ではないので、種類を限定できるものではないが、例えばTi1−xZrを挙げることができる。また、CaTi12、CaTi、CaTiSiOの固溶体としては、例えば(Ca1-xSrTi12、(Ca1−xSrTi、(Ca1−xSr)TiSiO等を挙げられる。
【0016】
その他に光触媒特性を発揮する物質として、酸化亜鉛(ZnO)、酸化スズ(SnO)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO)、酸化タングステン(WO)、酸化ビスマス(Bi)、及び酸化鉄(Fe)を含むことができ、これらから選択して1種又は2種以上を混合して含むことができる。
【0017】
ガラスセラミックスとは、ガラスを熱処理することによりガラス相中に結晶相を析出させて得られる材料であり、ガラス相及び結晶相から成る材料のみならず、ガラス相が全て結晶相になった材料、すなわち、材料中の結晶量(結晶化度)が100wt%のものも含んでよい。一般に用いられる粉体から得られるエンジニアリングセラミックスやセラミックス焼結体は焼結中の液相の量が少なく、ポアフリーの完全焼結体となることが難しい。従って、このようなポア(例えば、気孔率)により、ここでいうガラスセラミックスと区別され得る。特に、イオン伝導に関しては、セラミックスの場合は空孔や結晶粒界の存在により、イオンの移動が制限されるので、全体としての伝導度は低い値となるのが通常である。ガラスセラミックスは結晶化工程の制御により結晶間の伝導度の低下を抑えることができ、結晶粒子と同程度の伝導度を保つことができる。一方、イオン伝導を妨げる空孔や結晶粒界がほとんどない材料として単結晶が挙げられるが、単結晶の製造は、ガラスセラミックスの製造に比べ、格段に難しく、また、コストも高くなる。
【0018】
(2)ガラス相を有し、該ガラス相は少なくともSiO成分を含むことを特徴とする上記(1)に記載のガラスセラミックス。
【0019】
(3)酸化物基準のモル%で、TiO成分を5〜60%、SiO成分を15〜80%含有することを特徴とする上記(1)又は(2)のいずれかに記載のガラスセラミックス。
【0020】
SiOはガラスの形成酸化物で、ガラスを得るのに置いて重要な成分である。その量が15%未満であると、ガラスが得られないおそれが高いので、好ましい含有量は15%以上、より好ましい量は25%以上、最も好ましい量は30%以上である。一方80%を超えるとガラスの溶解温度が著しく上昇し易くなるため、SiO成分の含有量は、好ましくは80%以下、より好ましくは70%以下であり、最も好ましくは60%以下である。
【0021】
TiO成分は本発明において非常に有用な成分であり、その量が5%以下であると、結晶相として析出し難くなるので、触媒特性を示さなくなるおそれが高くなる。従ってTiO成分は5%以上含有することが好ましく、10%以上含有することがより好ましく、15%以上含有することが最も好ましい。反面、TiOの含有量が60%を超えると、融点が高くなり、更にガラス化し難くなる。従ってTiO成分の含有量は、60%以下が好ましく、より好ましくは55%以下、最も好ましくは50%以下である。
【0022】
TiO成分及びSiO成分は、原料となるTiO粉末及びSiO粉末を混合して溶融することによりガラスセラミックス中に含有させることができるが、TiO及びSiOの前駆体を、気相法で、或いはアルコキシドのようなゾル−ゲル法、共沈法、水熱法等の液相法を用いることも可能である。
【0023】
(4)更に、アルカリ金属酸化物成分及び/又はアルカリ土類金属酸化物成分を1〜60モル%含有することを特徴とする上記(1)から(3)のいずれかに記載のガラスセラミックス。
【0024】
アルカリ金属酸化物成分及び/又はアルカリ土類金属酸化物成分は、ガラスの融点を下げ、更にガラスの溶融性と安定性の向上に効果がある。これらの酸化物の合計含有量が1%未満であると、上記の効果が得られ難くなるので、その合計含有量は1%以上が好ましく、10%以上がより好ましい。しかし60%を越えると、ガラスが得られなくなる。従って、これらの酸化物の合計量は60%以下が好ましく、50%以下がより好ましく、40%以下が最も好ましい。アルカリ金属酸化物成分はLiO、NaO、KO、CsOから選ばれる1種以上、アルカリ土類金属酸化物成分はMgO、SrO、CaO、BaOから選ばれる1種以上である。
【0025】
(5)前記アルカリ土類金属酸化物成分がCaOを含有することを特徴とする上記(4)に記載のガラスセラミックス。
【0026】
CaO成分は前記の効果以外にTiO結晶相の析出に促進するに効果があるので、含有するのが好ましい。また、CaO成分はCaTi12、CaTi、CaTiSiO結晶相の構成成分でもあるので、これらの結晶相を析出させる場合には必要不可欠である。
【0027】
(6)更に、酸化物基準のモル%で
成分を0〜60%及び/又は、
GeO成分を0〜10%及び/又は、
Al成分を0〜22%及び/又は、
成分を0〜10%及び/又は、
ZnO成分を0〜60%及び/又は、
ZrO成分を0〜20%及び/又は、
SnO成分を0〜10%及び/又は、
Bi成分+TeO成分を0〜20%及び/又は、
Nb成分+Ta成分+WO成分を0〜30%及び/又は、
Ln成分を0〜30%(LnはY、Ce、La、Nd、Gd、Dy、Ybから選ばれる1種又はそれ以上)及び/又は、
MO成分を0〜10%(Mは、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cuから選ばれる1種又はそれ以上。yはMの価数を2で割った数)及び/又は、
As成分+Sb成分を0〜5%
を含むことを特徴とする上記(1)から(5)のいずれかに記載のガラスセラミックス。
【0028】
成分は、ガラス形成酸化物となることもでき、ガラス溶融性と安定性に貢献し得る。従って、SiO成分を補う成分となり得るが、入れ過ぎると目的の結晶相が析出し難くなる。このような観点から、B成分は、必要に応じて含ませることができるが、酸化物基準のモル%で、60%以下が好ましく、より好ましくは40%以下であり、更に好ましくは20%以下である。
【0029】
GeO成分は、SiO成分と同様な働きをするので、SiOの一部または全部を置き換えることが可能であるが、SiOに比べて高価であるため、上限値を10%以下とすることが好ましく、5%以下とすることがより好ましく、3%以下とすることが最も好ましい。尚、GeO成分及びSiO成分の合計量は、好ましくは80%以下、より好ましくは70%以下であり、最も好ましくは60%以下である。
【0030】
Al成分はガラスの安定性の向上に効果があり、更に目的の結晶相の析出に促進する働きを有する成分である。しかし、その量が多すぎると、かえって目的結晶相の析出を阻害し易くなるので、上限値を22%以下とすることが好ましく、20%以下とすることがより好ましく、18%以下とすることが最も好ましい。また、Al/SiOのモル比が結晶相の析出に大きな影響を及ぼすので、その比が大きすぎると目的の結晶相が析出し難くなる。その比を0.65以下とすることが好ましく、0.6以下とすることがより好ましく、0.5以下とすることが最も好ましい。
【0031】
成分は目的結晶相の析出に効果がある成分である。しかし、その量が多すぎると、ガラスの安定性が低下し易くなるので、上限値を10%以下とすることが好ましく、5%以下とすることがより好ましく、1%以下とすることが最も好ましい。
【0032】
ZnO成分は基本的に上述したアルカリ土類酸化物と同様な効果があり、更に光触媒特性の向上に効果がある成分である。しかし、その量が多すぎると、ガラスの安定性が低下し易くなるので、上限値を60%以下とすることが好ましく、55%以下とすることがより好ましく、50%以下とすることが最も好ましい。
【0033】
ZrO成分は目的の結晶相の析出に効果があり、更にその結晶相に固溶し、光触媒特性の向上に寄与する成分である。しかし、その量が多すぎると、ガラスの安定性が低下し易くなるので、上限値を20%以下とすることが好ましく、15%以下とすることがより好ましく、8%以下とすることが最も好ましい。
【0034】
SnOは上述のZrOと類似な働きを有し、更にTi4+イオンの還元防止に効果がある成分である。しかし、その量が多すぎると、ガラスの安定性が低下し易くなるので、上限値を10%以下とすることが好ましく、5%以下とすることがより好ましく、3%以下とすることが最も好ましい。
【0035】
Bi成分及びTeO成分はガラスの溶融性と安定性の改善に効果がある成分であるが、その量が多すぎるとかえってガラスの安定性が低下し易くなるので、両成分の合計量の上限値を20%以下とすることが好ましく、15%以下とすることがより好ましく、10%以下とすることが最も好ましい。
【0036】
Nb成分及び/又はTa成分及び/又はWO成分はガラスの溶融性と安定性の改善に効果があり、更に結晶相に固溶し、光触媒特性の向上に寄与する成分であるが、その量が多すぎるとガラスの安定性が著しく低下し易いので、これら成分の合計量の上限値を30%以下とすることが好ましく、20%以下とすることがより好ましく、10%以下とすることが最も好ましい。
【0037】
Ln成分(LnはY、Ce、La、Nd、Gd、Dy、Ybから選ばれる1種又はそれ以上)はガラスの溶融性と安定性の改善に効果があり、更に結晶相に固溶し、光触媒特性の向上に寄与する成分であるが、その量が多すぎるとガラスの安定性が著しく低下し易いので、これら成分の合計量の上限値を30%以下とすることが好ましく、20%以下とすることがより好ましく、10%以下とすることが最も好ましい。
【0038】
MO成分(Mは、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cuから選ばれる1種又はそれ以上。yはMの価数を2で割った数)は結晶相に固溶し、光触媒特性の向上に効果があり、更に一部の可視光を吸収するため、デザインに合わせて所望の外観色を付与することを可能とする成分である。しかし、添加量が多すぎると、ガラスの安定性が悪くなり、外観の色調節が困難となるので、これらの成分の合計量の上限値を10%以下とすることが好ましく、5%以下とすることがより好ましく、3%以下とすることが最も好ましい。
【0039】
As成分及びSb成分は、ガラス熔融時の脱泡のために添加可能な成分であるが、これらの合計量で、5%以下で十分に効果を有する。好ましくは3%以下、最も好ましくは1%以下とすることが適当である。
【0040】
また、ガラスセラミックスの組成には、環境や人体に対して害を与える可能性のあるPb、Cd、Hgなどの成分もできる限り含有しないほうが望ましい。
【0041】
(7)前記結晶相の大きさは、球近似したときの平均径が、5nm〜50μmであることを特徴とする上記(1)から(6)のいずれかに記載のガラスセラミックス。
【0042】
熱処理条件をコントロールすることにより、析出した結晶相のサイズを制御することが可能であるが、有効な光触媒特性を引き出すため、結晶のサイズを5nm〜50μmの範囲とすることが好ましく、5nm〜40μmの範囲とすることがより好ましく、5nm〜30μmの範囲とすることが最も好ましい。
【0043】
(8)前記結晶相の量が体積比率で1〜95%の範囲であることを特徴とする上記(1)から(7)のいずれかに記載のガラスセラミックス。
【0044】
ガラスの中から析出する結晶相の量は、熱処理条件をコントロールすることにより制御することができる。結晶相の量が多いと、光触媒機能が高くなる傾向があるが、ガラスセラミックス全体の機械的強度が低下する可能性があるので、結晶相の量を体積比率で95%以下の範囲とすることが好ましく、93%以下の範囲とすることがより好ましく、90%以下とすることが最も好ましい。一方、結晶相の量が少ないと有効な光触媒特性を引き出せないため、結晶相の量を体積比率で1%以上とすることが好ましく、3%以上がより好ましく、5%以上とすることが最も好ましい。
【0045】
(9)紫外線から可視光までの光に応答し、光触媒特性を有する上記(1)から(8)のいずれかに記載のガラスセラミックス。
【0046】
紫外線は、波長が可視光線より短く軟X線より長い不可視光線の電磁波を意味し、例えば、波長が10〜400nmの電磁波を意味することができる。また、可視光は、電磁波のうち、人間の目で見える波長の電磁波を意味し、例えば、その範囲は、およそ400nm〜700nmである。
【0047】
TiO結晶は紫外線の照射に対して高い触媒効果を示すが、可視光に対する応答性は紫外線より弱い。本発明では、後で述べるように熱処理の過程で他のイオンをTiO結晶相に固溶させることにより、TiOのバンドギャップエネルギーを小さくすることができるため、可視光に対しても有効な応答効果を示すガラスセラミックスを得ることが可能となった。また、このような効果により本発明のガラスセラミックスは幅広い用途に適用できる。
【0048】
(10)上記(1)から(9)のいずれかに記載のガラスセラミックスを製造する方法であって、原料組成混合物を溶融してガラスを作製し、さらに500℃〜1200℃で熱処理を行って前記結晶相を析出させることを特徴とするガラスセラミックスの製造方法。
【0049】
結晶相は、原子がある程度の移動の自由度(例えば、移動度)を持つことにより形成され、その移動度は、温度上昇と共に高くなる。一方、TiO成分は、高温で安定型のルチル相を構成し易くなり、一般に光触媒として好ましいとされるアナターゼ相を形成するには、低温での熱処理が好ましいが、熱処理温度が低すぎると、結晶相が析出し難くなる。従って、上記熱処理の下限としては、500℃以上が好ましく、より好ましくは、550℃以上であり、更に好ましくは、600℃以上である。また、上記熱処理の上限としては、1200℃以下が好ましく、より好ましくは、1100℃以下であり、更に好ましくは、1000℃以下である。
【0050】
(11)上記(1)から(9)のいずれかに記載のガラスセラミックスを製造する方法であって、原料組成混合物を800℃以上の温度に保持することにより少なくとも一部に液相を生じさせ、その後冷却することにより固化させることを特徴とするガラスセラミックスの製造方法。
【0051】
ここで、液相は、少なくとも1種以上の原料組成から生成されてよく、2以上の種類の化合物が加わることによる液相生成温度の低下も考慮することができる。従って、保持する温度は、混合する組成物の種類及び量により適宜変更することが好ましいが、一般に、800℃以上が好ましく、1200℃以上がより好ましく、そして、1400℃以上が更に好ましい。一旦液相が生じると、組成物間の接触面積又は反応度合いが高くなると考えられるので、部分的に温度を上げることもできる。
【0052】
(12)更に、表面を酸又はアルカリによりエッチングすることを特徴とする上記(10)又は(11)のいずれかに記載のガラスセラミックスの製造方法。
【0053】
酸又はアルカリでエッチングすることにより、結晶相の周りのガラスが取り除かれ、表面に露出する結晶相の比表面積が大きくなるので、光触媒特性が向上する。ガラス相には典型的に酸化ケイ素成分が多いと考えられ、酸処理によるエッチングが効果的であり、特にフッ酸、フッ化水素ガス等によるエッチングが好ましい。
【0054】
(13)上記(1)から(10)のいずれかに記載のガラスセラミックスを含む光触媒機能性成形体。
【0055】
(14)ファイバーであることを特徴とする上記(13)に記載の光触媒機能性成形体。
【0056】
本発明によるガラスセラミックスは、比較的成形が容易であり、用途に合わせた所望の構造物となることができる。更に、ガラスセラミックスを鋳込み等により鋳造部品中に組み込ませることもできる。また、ガラスセラミックスのガラス相は、一般に軟化したときに粘性が高く、ファイバー成形が容易である。ファイバーは、一般に、比表面積が大きく、表面で主に光触媒反応が生じることに鑑みれば、ファイバーにすることにより、光触媒機能を高めることができる。また、そのファイバーを抄いて製紙する等の利用により種々の製品を作ることもできる。
【発明の効果】
【0057】
以上のように、基材の表面の光触媒膜の剥離のおそれがない。また、十分な大きさや機械的特性を有し、触媒活性ポイントが反応すべき化合物と接触可能なガラスセラミックスを提供することができる。そして、光触媒として好ましい結晶を析出させることにより、より高い触媒機能を得ることも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0058】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施例について詳しく説明するが、以下の記載は、本発明の実施例を説明するためになされたもので、本発明は、かかる実施例に限定されず、本発明の要旨を変更しない範囲において種々の変更が可能であることはいうまでもない。
【0059】
[実施例1]
実施例1の原料として市販のSiO、TiO、Al(OH)、CaCOを使用した。また、これらの原料をモル%でSiO=38.5、TiO=25、Al=12.5、CaO=24という組成になるように秤量し、均一に混合した後、大気中で1450℃で2時間溶融した。その後、均一になったガラス溶液を金型に流し込み、バルクのガラスを作製した。そのガラスを650℃で2時間アニールし、熱による応力を取り除いた。こうして得られたガラスを所定の形状に切断し、800℃で4時間熱処理を行った。XRDによる結晶を同定したところ、図1に示すようにアナターゼ型TiOとルチル型TiO結晶相が同時に析出することが判明された。回折ピークの幅から、D=λ/(β・cosθ)という式(λはX線の波長であり、本装置では1.54Åであった。βは結晶子の大きさによる回折線の広がり、θは回折角)で見積った平均結晶サイズは10nm前後であった。
【0060】
[実施例2〜9及び比較例]
実施例1と類似な方法で実施例2〜9と比較例1のサンプルを作製した。各サンプルの組成を実験結果と共に表1にまとめた(表中、◎は特に良好なことを示し、×はあまり良くないことを示す。次表について同じ。)。実施例2〜7にTiO結晶相、実施例8にCaTi結晶相、実施例9にCaTi12とCaTiSiO結晶が析出することが確認された。一方、比較例1では上述した結晶相の析出が認められず、結晶相の同定ができなかった。
【0061】
【表1】

【0062】
[実施例10]
原料として市販のSiO、TiO、Al(OH)、CaCO、MgOを使用した。これらをモル%でSiO=45、TiO=25、Al=7.5、CaO=17.5、MgO=5という組成(表2参照)になるように秤量し、均一に混合した後、大気中で1550℃で2時間溶融した。その後、均一になった溶液を1500℃まで下げて金型に流し込むことにより、ガラスセラミックスを作製した。そのガラスセラミックスを750℃で2時間アニールし、熱による応力を取り除いた。こうして得られたガラスセラミックスをXRDによる結晶を同定したところ、ルチル型TiO結晶相が同時に析出することが判明された。表2に実施例10の結果を示す。ここで、実施例1から10及び比較例について、Al/SiOの比率をとれば、それぞれ、0.325、0.312、0.325、0.457、0.455、0.325、0.325、0.325、0.000、0.167、0.672であった。
【0063】
【表2】

【0064】
[光触媒評価]
光触媒特性は光触媒製品技術協議会が策定した光触媒性能評価法Iにより評価した。すなわち、色素の脱色によって光触媒の性能を評価する手法で本発明のサンプルを評価した。研磨された上記の実施例サンプルの表面にメチレンブルーの溶液を滴下し、紫外線を照射後の色を観察したところ、いずれも脱色が認められた。これによって本発明のサンプルは光触媒特性を示すことが示された。なお、比較例については脱色が確認されなかった。
【0065】
[光触媒ガラスセラミックスの応用]
以上述べてきたように、簡単な溶融及び冷却によりガラス状のガラスセラミックスを得ることができ、そして、それを適切に熱処理することにより、好ましい光触媒特性を得ることができた。ここでは、金型にガラスを流し込んだが、ブロー成形も可能である。また、繊維状に延ばすことも容易にできることは、当業者であるならば理解される。そして、それぞれの成形体の機械的特性や化学的特性は、本発明の組成の範囲内で適宜好ましい組成を選択することにより実現可能である。
【0066】
以上のように、本発明のガラスセラミックスにより、好ましい機械特性を持ち、かつ、剥離等による光触媒機能の劣化を生じることのない光触媒成形体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】試料1のX線回折パターンである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶相として、TiO、CaTi12、CaTi、CaTiSiO又は、これらの固溶体、から選ばれる少なくとも1種を含むガラスセラミックス。
【請求項2】
ガラス相を有し、該ガラス相は少なくともSiO成分を含むことを特徴とする請求項1に記載のガラスセラミックス。
【請求項3】
酸化物基準のモル%で、TiO成分を5〜60%、SiO成分を15〜80%含有することを特徴とする請求項1又は2のいずれかに記載のガラスセラミックス。
【請求項4】
更に、アルカリ金属酸化物成分及び/又はアルカリ土類金属酸化物成分を1〜60モル%含有することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のガラスセラミックス。
【請求項5】
前記アルカリ土類金属酸化物成分がCaOを含有することを特徴とする請求項4に記載のガラスセラミックス。
【請求項6】
更に、酸化物基準のモル%で
成分を0〜60%及び/又は、
GeO成分を0〜10%及び/又は、
Al成分を0〜22%及び/又は、
成分を0〜10%及び/又は、
ZnO成分を0〜60%及び/又は、
ZrO成分を0〜20%及び/又は、
SnO成分を0〜10%及び/又は、
Bi成分+TeO成分を0〜20%及び/又は、
Nb成分+Ta成分+WO成分を0〜30%及び/又は、
Ln成分を0〜30%(LnはY、Ce、La、Nd、Gd、Dy、Ybから選ばれる1種又はそれ以上)及び/又は、
MO成分を0〜10%(Mは、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cuから選ばれる1種又はそれ以上。yはMの価数を2で割った数)及び/又は、
As成分+Sb成分を0〜5%
を含むことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のガラスセラミックス。
【請求項7】
前記結晶相の大きさは、球近似したときの平均径が、5nm〜50μmであることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のガラスセラミックス。
【請求項8】
前記結晶相の量が体積比率で1〜95%の範囲であることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載のガラスセラミックス。
【請求項9】
紫外線から可視光までの光に応答し、光触媒特性を有する請求項1から8のいずれかに記載のガラスセラミックス。
【請求項10】
請求項1から9のいずれかに記載のガラスセラミックスを製造する方法であって、原料組成混合物を溶融してガラスを作製し、さらに500℃〜1200℃で熱処理を行って前記結晶相を析出させることを特徴とするガラスセラミックスの製造方法。
【請求項11】
請求項1から9のいずれかに記載のガラスセラミックスを製造する方法であって、原料組成混合物を800℃以上の温度に保持することにより少なくとも一部に液相を生じさせ、その後冷却することにより固化させることを特徴とするガラスセラミックスの製造方法。
【請求項12】
更に、表面を酸又はアルカリによりエッチングすることを特徴とする請求項10又は11のいずれかに記載のガラスセラミックスの製造方法。
【請求項13】
請求項1から10のいずれかに記載のガラスセラミックスを含む光触媒機能性成形体。
【請求項14】
ファイバーであることを特徴とする請求項13に記載の光触媒機能性成形体。

【図1】
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【公開番号】特開2009−263180(P2009−263180A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−116461(P2008−116461)
【出願日】平成20年4月25日(2008.4.25)
【出願人】(000128784)株式会社オハラ (539)
【Fターム(参考)】