説明

ガラスランチャンネルとその組立体及び製造方法

【課題】軽量化を図りながら水分の吸収を抑制することができるガラスランチャンネルとその組立体及び製造方法を提供する。
【解決手段】ガラスランチャンネルの主体部をなすランチャンネル本体50は、基底部51と、車内側及び車外側の両側壁部52、53と、窓板20の両面に弾接可能な車内側及び車外側の両シールリップ62、65と、を備える。ランチャンネル本体50は、熱可塑性エラストマー材料と熱膨張性カプセルとを含む発泡性ポリマー材料より形成されると共に、発泡性ポリマー材料の発泡膨張によって形成された無数の発泡セルを有しており、ランチャンネル本体50は、吸水率が5%以下に設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はガラスランチャンネルとその組立体及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、車両のフロントドアやリアドアの窓開口縁に沿って設けられる窓枠のラン装着部に装着されて窓板を昇降案内するガラスランチャンネルにおいては、ゴム材料で形成されるものやポリマー材料(熱可塑性エラストマー材料)によって形成されるものがある。
また、ガラスランチャンネルの軽量化を図るため、ガラスランチャンネルを無数の発泡セルを有する発泡体によって構成したものも知られている。
ゴム材料にマイクロカプセル(熱膨張性カプセル)を配合して発泡膨張させたガラスランチャンネルとしては、例えば、特許文献1に開示されている。
また、ポリマー材料に化学発泡剤を配合して発泡膨張させたガラスランチャンネルとしては、例えば、特許文献2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−183305号公報
【特許文献2】特開2009−120048号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に開示されている発泡ゴム製のガラスランチャンネルは、特許文献2に開示されている発泡ポリマー製(熱可塑性エラストマー製)のガラスランチャンネルに比べ、比重を小さくすることが困難であり、軽量化し難い。
また、特許文献2に開示されている発泡ポリマー製のガラスランチャンネルは、ポリマー材料に化学発泡剤を配合して発泡膨張させるため、無数の発泡セルが相互に連通する連続気泡になりやすく、水分を吸収しやすくなる。
このようなことから、押出成形機の成形金型の口金から化学発泡剤を配合したポリマー材料を押し出してランチャンネルの横断面形状に対応する形状の成形体を形成した後、その成形体を、例えば、冷却水によって冷却固化させてガラスランチャンネルを製造する際、ガラスランチャンネルが冷却水を吸収してしまう。
このため、ガラスランチャンネルが冷却固化した後、ガラスランチャンネル内に吸収された水分を蒸発させる乾燥工程が必要となる。
また、フロントドアやリアドアの窓枠のラン装着部に、ガラスランチャンネルが装着された使用状態でも、ガラスランチャンネルが水分を吸収してしまう。このため、外気温が低い低温時にガラスランチャンネル内の水分が凍結してガラスランチャンネルが過度に硬くなり、窓板の昇降時に異音を発生させる恐れがある。
【0005】
この発明の目的は、前記問題点に鑑み、軽量化を図りながら水分の吸収を抑制することができるガラスランチャンネルとその組立体及び製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、この発明の請求項1に係るガラスランチャンネルは、車両用ドアの窓枠のラン装着部に装着されて窓板の昇降動を案内する長尺状でポリマー材料からなるガラスランチャンネルであって、
前記ガラスランチャンネルの主体部をなすランチャンネル本体は、前記窓板の端面と対向する位置に設けられる基底部と、
前記基底部の幅方向両端からそれぞれ立ち上がる車内側及び車外側の両側壁部と、
前記両側壁部の開口側先端から前記基底部に向けてそれぞれ突出しかつ前記窓板の両面にそれぞれ弾接可能な車内側及び車外側の両シールリップと、
を備え、
前記ランチャンネル本体は、熱可塑性エラストマー材料と熱膨張性カプセルとを含む発泡性ポリマー材料より形成されると共に、前記熱膨張性カプセルの発泡膨張によって形成された無数の発泡セルを有しており、
前記ランチャンネル本体は、吸水率が5%以下に設定されていることを特徴とする。
【0007】
前記構成によると、ガラスランチャンネルの主体部をなすランチャンネル本体が熱可塑性エラストマー材料と熱膨張性カプセルとを含む発泡性ポリマー材料より形成されるため、ゴム製のガラスランチャンネルと比較して軽量化を良好に図ることができる。
また、ランチャンネル本体は、吸水率が5%以下に設定され、これによって発泡セル内に水分が吸収され難くすることができる。
この結果、ガラスランチャンネルの製造工程で、ガラスランチャンネルが冷却水によって冷却固化した後、ガラスランチャンネル内に吸収された水分を蒸発させて乾燥させる必要がなくなり、乾燥工程を時間短縮したり、あるいは乾燥工程を省くことが可能となる。
さらに、フロントドアやリアドアの窓枠のラン装着部に、ガラスランチャンネルが装着された使用状態でも、ガラスランチャンネルが水分を吸収することを抑制することができる。このため、外気温が低い低温時にガラスランチャンネル内の水分が凍結してガラスランチャンネルが過度に硬くなり、窓板の昇降時に異音を発生させる不具合を防止することができる。
【0008】
請求項2に係るガラスランチャンネルは、請求項1に記載のガラスランチャンネルであって、
ランチャンネル本体は、吸水率が1%以下に設定されていることを特徴とする。
【0009】
前記構成によると、請求項1に記載の発明の効果に加え、ランチャンネル本体の吸水率が1%以下に設定されることで、発泡セル内に水分がより一層吸収され難くすることができる。
【0010】
請求項3に係るガラスランチャンネルは、請求項1又は2に記載のガラスランチャンネルであって、
ランチャンネル本体は、比重が0.50〜0.75であることを特徴とする。
【0011】
前記構成によると、請求項1又は2に記載の発明の効果に加え、ランチャンネル本体の比重を0.50〜0.75にすることによって、軽量化の効果が大きい。
すなわち、ランチャンネル本体の比重を0.50よりも小さくすると、吸水率が増大する恐れがある。
また、ランチャンネル本体の比重を0.75よりも大きくすると、軽量化の効果が小さくなる。
【0012】
請求項4に係るガラスランチャンネルは、請求項1又は2に記載のガラスランチャンネルであって、
ランチャンネル本体は、比重が0.65であることを特徴とする。
【0013】
前記構成によると、請求項1又は2に記載の発明の効果に加え、ランチャンネル本体の比重を0.65にすることによって、軽量化の効果がより一層大きくなる。
【0014】
請求項5に係るガラスランチャンネルは、請求項1〜4のいずれか一項に記載のガラスランチャンネルであって、
ランチャンネル本体を形成する発泡性ポリマー材料は、熱可塑性エラストマー材料100重量部に対して熱膨張性カプセルが0.5〜2.0重量部配合されていることを特徴とする。
【0015】
前記構成によると、請求項1〜4のいずれか一項に記載の発明の効果に加え、軽量化を良好に図りながら、吸水率を5%以下に保つことができる。
すなわち、熱膨張性カプセルが0.5重量部よりも少ないと軽量化の効果が小さくなる。
また、熱膨張性カプセルが2.0重量部よりも多いと、発泡しすぎた状態となり、剛性、引張強度等が低下したり、あるいは、発泡セル同士が連続する恐れがあり、吸水率を5%以下に保つことが困難となる。
【0016】
請求項6に係るガラスランチャンネルは、請求項1〜4のいずれか一項に記載のガラスランチャンネルであって、
ランチャンネル本体を形成する発泡性ポリマー材料は、熱可塑性エラストマー材料100重量部に対して熱膨張性カプセルが1.0重量部配合されていることを特徴とする。
【0017】
前記構成によると、請求項1〜4のいずれか一項に記載の発明の効果に加え、軽量化の効果及び水分吸収の抑制効果が大きい。
【0018】
請求項7に係るガラスランチャンネルは、請求項1〜6のいずれか一項に記載のガラスランチャンネルであって、
ランチャンネル本体は、その内部の発泡セルが外気と連通していない独立気泡となっていることを特徴とする。
【0019】
前記構成によると、請求項1〜6のいずれか一項に記載の発明の効果に加え、水分がランチャンネル本体の表面から内部に浸入することを良好に防止することができ、吸水率の抑制に効果が大きい。
【0020】
請求項8に係るガラスランチャンネルは、請求項7に記載のガラスランチャンネルであって、
ランチャンネル本体は、その内部の発泡セル同士が連通していない独立気泡となっていることを特徴とする。
【0021】
前記構成によると、請求項7に記載の発明の効果に加え、吸水率の抑制に効果が大きいと共に、ランチャンネル本体の切断加工した端面から水分が浸入することを良好に防止することができる。
【0022】
請求項9に係るガラスランチャンネル組立体は、請求項1に記載のガラスランチャンネルが少なくとも二つ用いられ、
前記少なくとも二つのガラスランチャンネル同士が接続体によって一体連続状に接合されて構成されていることを特徴とする。
【0023】
前記構成によると、少なくとも二つのガラスランチャンネル同士を接続体によって一体連続状に接合することによって、所望とする形状及び長さのガラスランチャンネル組立体が容易に得られる。
また、少なくとも二つのガラスランチャンネルの相対する端面の間に、接続体を射出成形することによって、各端面を強固に接合することも可能である。
【0024】
請求項10に係るガラスランチャンネルの製造方法は、請求項1に記載のガラスランチャンネルを製造する方法であって、
熱可塑性エラストマー材料と、この熱可塑性エラストマー材料と同材質又は相溶性を有する熱可塑性樹脂材料に熱膨張性カプセルが混入されたマスターバッチ材料とを設定された重量比率で押出成形機内に投入し、
前記押出成形機内で前記各材料を加熱及び加圧しながら混合することによって、発泡性ポリマー材料にし、
前記発泡性ポリマー材料を前記押出成形機の成形金型内に供給した後、前記成形金型の口金から押し出し、
前記押し出し直後に、前記熱膨張性カプセルが膨張して発泡することによってガラスランチャンネルの横断面形状に対応する形状の成形体を形成し、
発泡後、前記成形体を冷却固化させて前記ガラスランチャンネルを製造することを特徴とする。
【0025】
前記構成によると、熱可塑性エラストマー材料と同材質又は相溶性を有する熱可塑性樹脂材料に熱膨張性カプセルが混入されたマスターバッチ材料を使用して、押出成形機内で混合し、発泡性ポリマー材料にすることによって、発泡性ポリマー材料内に熱膨張性カプセルを局部的に偏ることなく、ほぼ均等に分散して混入することができる。
これによって、請求項1に記載のガラスランチャンネルを容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】この発明の第1の実施形態に係るガラスランチャンネルを用いたガラスランチャンネル組立体がフロントドアの窓枠とリアドアの窓枠にそれぞれ装着された状態を簡略化して示す側面図である。
【図2】同じくガラスランチャンネル組立体を示す側面図である。
【図3】同じく図1のIII−III線に沿うガラスランチャンネルの横断面図である。
【図4】この発明の他の実施形態に係るガラスランチャンネルの横断面図である。
【図5】ランチャンネル本体を形成する発泡性ポリマーの吸水率と比重との関係を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
この発明を実施するための形態について第1の実施形態にしたがって説明する。
【第1の実施形態】
【0028】
この発明の第1の実施形態を図1〜図3にしたがって説明する。
図1に示すように、車両用ドアとしてのフロントドア10を形成するドアパネル12には窓枠20が一体に形成されている。
窓枠20には、ドアパネル12を構成するアウターパネル13及びインナーパネル14によって開口側が狭く奥側が広い段差状をなすラン装着部25が形成されている(図3参照)。
【0029】
図1と図2に示すように、車両用ドアとしてのフロントドア10の窓枠20に装着されて窓板15の昇降動を案内するための長尺状でポリマー材料(熱可塑性エラストマー材料)からなる前側のガラスランチャンネル組立体30は、押出成形によって長尺状に形成された第1〜第4のガラスランチャンネル31、32、33、34と、射出成形によって形成された第1〜第3の接続体41、42、43と、を有している。
【0030】
第1のガラスランチャンネル31は、フロントドア10の上辺部及び前斜辺部に沿って装着される。
第1のガラスランチャンネル31の後端には、第1接続体(コーナ接続体)41によって第2のガラスランチャンネル32の上端が連結されている。第2のガラスランチャンネル32は、フロントドア10の後縦辺部に沿って装着される。
また、第1のガラスランチャンネル31の前端には、第2接続体(コーナ接続体)42によって第3のガラスランチャンネル33の上端が連結されている。第3のガラスランチャンネル33は、フロントドア10の前クオーターウインドウの後縁からドア内にわたる前縦枠部に沿って装着される。
また、第2のガラスランチャンネル32の下端はドア内に位置し、この下端には、第3接続体43によって第4のガラスランチャンネル34の上端が連結されている。第4のガラスランチャンネル34は、ドア内の後縦枠部に沿って装着される。
【0031】
前側のガラスランチャンネル組立体30を構成する第1〜第4のガラスランチャンネル31〜34のうち、第1のガラスランチャンネル31は、図3に示すような断面形状をもつ押出成形品によって構成される。
第1ガラスランチャンネル31の主体部をなすランチャンネル本体50は、窓板15の端面と対向する位置に設けられる基底部51と、この基底部51の幅方向両端からそれぞれ立ち上りかつ窓板15の周縁部を挿通可能な摺動溝を構成する車外側の側壁部52と、車内側の側壁部53とを有する。また、ランチャンネル本体50は、両側壁部52、53の開口側先端の頂部連結部56、57から基底部51に向けてそれぞれ突出し、かつ窓板15の両面にそれぞれ弾接可能な車外側シールリップ62及び車内側シールリップ65を有している。
さらに、ランチャンネル本体50は、その両側壁部52、53の開口側先端の頂部連結部56、57から車外側及び車内側の両シールリップ62、65とは反対側に向けて突出しかつ両側壁部52、53に沿ってそれぞれ折返し状に形成された車外側装飾部67及び車内側装飾部68を備えている。
【0032】
また、ランチャンネル本体50は、車外側の側壁部52及び車内側の側壁部53の根元部の外側に、リップ形状の車外側保持リップ60と車内側保持リップ61とを備えている。これら車外側保持リップ60及び車内側保持リップ61は、車外側の側壁部52及び車内側の側壁部53からそれぞれ傾斜して突設されている。また、車外側保持リップ60及び車内側保持リップ61は、窓枠20の車外側段差部13aと、車内側段差部14aにそれぞれ弾性的に係合して抜け止めをなす。
【0033】
また、この第1の実施形態において、車外側及び車内側の両シールリップ62、65の窓板15に接触するそれぞれの面には、低摩擦層63、66が形成されている。低摩擦層63、66は、ランチャンネル本体50と同材質又は相溶性を有しかつランチャンネル本体50よりも動摩擦係数が小さい低摩擦材料(熱可塑性エラストマー材料又は熱可塑性樹脂材料)からランチャンネル本体50の押出成形と同時に共押出(二色成形)によって形成されている。
さらに、両側壁部52、53の互いに対向する面及び基底部51の底面にもランチャンネル本体50よりも動摩擦係数が小さい低摩擦材料からなる低摩擦層52a、53a、51aがランチャンネル本体50の押出成形と同時に共押出(二色成形)によって形成されている。
【0034】
ランチャンネル本体50は、熱可塑性エラストマー材料と熱膨張性カプセルとを含む発泡性ポリマー材料により形成されると共に、熱膨張性カプセルの発泡膨張によって形成された無数の発泡セルを有している。そして、ランチャンネル本体50は、吸水率が5%以下に設定されている。
また、ランチャンネル本体50は、吸水率が1%以下に設定されることが望ましい。
また、ランチャンネル本体50は、比重が0.50〜0.75であることが望ましく、比重が0.65であることがより一層望ましい。
【0035】
ランチャンネル本体50の吸水率の測定は、次に述べるようにして行う。
(1)先ず、ランチャンネル本体50を主体とするガラスランチャンネル(第1〜第4のガラスランチャンネル31〜34)を長さ50mmに切断して測定片とする。
(2)次に、測定片の重量(W0)を測定する。
(3)その後、水を張った容器内に測定片を浸漬する。この際、測定片の上端が容器の水面から50mm以上深い位置となり、かつ下端が容器の底面から30mm〜50mm離れた位置となるように測定片を浸漬する。
(4)測定片を浸漬した容器全体を約17Kpa(127.5mmHg)に5分間減圧した後、常圧で3分間放置する。
(5)容器から測定片を取り出し、その測定片の表面に付着した水滴を拭き取って浸漬後の測定片の重量(W1)を測定する。
(6)その後、測定片の重量の変化率(Δm)を「Δm=[(W1−W0)/W0]×100」の計算式に基づいて算出する。
(7)そして、前記した(1)〜(6)を複数(3個以上)の測定片に対して行い、Δmの値の平均を算出してランチャンネル本体50の吸水率とする。
【0036】
前記したように、ランチャンネル本体50の吸水率を5%以下、及び比重を0.50〜0.75とするために、ランチャンネル本体50を形成する発泡性ポリマー材料には、熱可塑性エラストマー材料100重量部に対して熱膨張性カプセルが0.5〜2.0重量部配合される。
さらに、ランチャンネル本体50の吸水率を1%以下、及び比重を0.65とするために、ランチャンネル本体50を形成する発泡性ポリマー材料には、熱可塑性エラストマー材料100重量部に対して熱膨張性カプセルが1.0重量部配合されることがより一層望ましい。
【0037】
また、ランチャンネル本体50は、その内部の発泡セルが外気と連通していない独立気泡となっていることが望ましく、さらに、ランチャンネル本体50の内部の発泡セル同士が連通していない独立気泡となっていることがより一層望ましい。
【0038】
また、前側のガラスランチャンネル組立体30を構成する第1〜第4のガラスランチャンネル31〜34のうち、第2、第3、第4の各ガラスランチャンネル32、33、34の主体部をなすランチャンネル本体は、横断面形状が異なる以外は、第1のガラスランチャンネル31の主体部をなすランチャンネル本体50と同様に構成される。
すなわち、第2、第3、第4の各ガラスランチャンネル32、33、34の主体部をなすランチャンネル本体も、熱可塑性エラストマー材料と熱膨張性カプセルとを含む発泡性ポリマー材料より形成されると共に、熱膨張性カプセルの発泡膨張によって形成された無数の発泡セルを有している。
なお、第1〜第4のガラスランチャンネル31〜34のうち、2以上のガラスランチャンネル、例えば、第2のガラスランチャンネル32と、第3のガラスランチャンネル33とが同じ横断面形状を有していてもよい。
【0039】
この第1の実施形態に係るガラスランチャンネルは上述したように構成される。
したがって、前側のガラスランチャンネル組立体30を構成する第1〜第4のガラスランチャンネル31〜34の主体部をなすランチャンネル本体50が、熱可塑性エラストマー材料と熱膨張性カプセルとを含む発泡性ポリマー材料より形成されるため、ゴム製のガラスランチャンネルと比較して軽量化を良好に図ることができる。
【0040】
また、ランチャンネル本体50は、吸水率が5%以下に設定され、これによって発泡セル内に水分が吸収され難くすることができる。
この結果、ガラスランチャンネル(前側のガラスランチャンネル組立体30を構成する第1〜第4のガラスランチャンネル31〜34)の製造工程で、ガラスランチャンネルが冷却水によって冷却固化した後、ガラスランチャンネル内に吸収された水分を蒸発させて乾燥させる必要がなく、乾燥工程を時間短縮したり、あるいは乾燥工程を省くことが可能となる。
さらに、フロントドア10の窓枠20のラン装着部に、前側のガラスランチャンネル組立体30が装着された使用状態でも、ランチャンネル本体50が水分を吸収することを抑制することができる。このため、外気温が低い低温時にランチャンネル本体50内の水分が凍結してランチャンネル本体50が過度に硬くなることがなく、窓板の昇降時に異音が発生する不具合を防止することができる。
また、ランチャンネル本体50の吸水率を1%以下に設定することで、発泡セル内に水分がより一層吸収され難くすることができる。
【0041】
また、ランチャンネル本体50の比重は、0.50〜0.75にすることが望ましい。 すなわち、ランチャンネル本体50の比重を0.50よりも小さくすると、吸水率が増大する恐れがある。
また、ランチャンネル本体50の比重を0.75よりも大きくすると、軽量化の効果が小さくなる。
さらに、ランチャンネル本体50の比重を0.65にすることがより一層望ましい。
【0042】
また、ランチャンネル本体50を形成する発泡性ポリマー材料は、熱可塑性エラストマー材料100重量部に対して熱膨張性カプセルが0.5〜2.0重量部配合されることによって、軽量化を良好に図りながら、吸水率を5%以下に保つことができる。
すなわち、熱膨張性カプセルが0.5重量部よりも少ないと軽量化の効果が小さくなる。
また、熱膨張性カプセルが2.0重量部よりも多いと、発泡しすぎた状態となって剛性、引張強度等が低下したり、あるいは、発泡セル同士が連続して吸水率を5%以下に保つことが困難となったりする恐れがある。
【0043】
さらに、ランチャンネル本体50を形成する発泡性ポリマー材料は、熱可塑性エラストマー材料100重量部に対して熱膨張性カプセルが1.0重量部配合されると軽量化の効果及び水分吸収の抑制効果がより一層大きくなる。
なお、ランチャンネル本体50の比重や吸水率は、熱膨張性カプセルの配合量以外の条件によっても調整可能である。具体的には、ガラスランチャンネルを押出成形するときの温度や押出成型機のスクリューの回転速度などによって、熱膨張性カプセルの発泡状態を調整することもできる。
【0044】
また、ランチャンネル本体50は、その内部の発泡セルが外気と連通していない独立気泡となっていることによって、水分がランチャンネル本体の表面から内部に浸入することを良好に防止することができ、吸水率の抑制に効果が大きい。
さらに、ランチャンネル本体50は、その内部の発泡セル同士が連通していない独立気泡となっていることによって、吸水率の抑制に効果が大きい。また、例えば、ランチャンネル本体50の切断加工した端面のように、内部の発泡セルが表面に露出している部分があっても、露出した発泡セルからランチャンネル本体50の内部に水分が浸入することを良好に防止することができる。
【0045】
次に、ランチャンネル本体50を有する前側のガラスランチャンネル組立体30を構成する第1〜第4のガラスランチャンネル31〜34を製造する方法を説明する。
先ず、ランチャンネル本体50の主成分となる熱可塑性エラストマー材料と、この熱可塑性エラストマー材料と同材質又は相溶性を有する熱可塑性樹脂材料に熱膨張性カプセルが混入されたマスターバッチ材料とを準備する。
【0046】
ランチャンネル本体50の主成分となる熱可塑性エラストマー材料としては、例えば、EPDM(エチレン・プロピレン・ジエン共重合体)と、PP(ポリプロピレン)とが混合され、これに可塑剤、着色剤等の添加物が配合されたものが用いられる。
また、マスターバッチ材料としては、熱膨張性マイクロカプセル(積水化学工業株式会社製、商品名アドバンセル、平均粒径22μm〜32μm、膨張開始温度160℃〜180℃、共に、カタログ値)と、PE(ポリエチレン)とを重量比で1対1の割合で混合してペレット状にしたものが用いられる。
なお、熱膨張性カプセルが配合される熱可塑性エラストマーは、上記のものに限定されない。例えば、上記の熱可塑性エラストマーは架橋性の材料だが、非架橋性の熱可塑性エラストマー材料であっても使用可能である。
また、熱可塑性エラストマー材料は、硬度がJISA70度〜90度であることが好ましい。
【0047】
そして、熱可塑性エラストマー材料のペレットとマスターバッチ材料のペレットとを押出成形機のホッパ内に投入する。ここで、熱可塑性エラストマー材料ペレットとマスターバッチ材料ペレットとは、予め計量されて設定された重量比率で混合された後にホッパ内に投入される。その後、混合された材料は押出成型機のシリンダ内で回転するスクリューによってホッパからシリンダ内に順次送り出される。
この第1の実施形態においては、熱可塑性エラストマー材料100重量部に対してマスターバッチ材料が1.0〜4.0重量部(熱膨張性マイクロカプセルとしては、0.5〜2.0重量部)配合される。
また、熱可塑性エラストマー材料100重量部に対してマスターバッチ材料が2.0重量部(熱膨張性マイクロカプセルとしては1.0重量部)配合されることがより望ましい。
【0048】
押出成形機のシリンダ内で熱可塑性エラストマー材料とマスターバッチ材料との混合材料が加熱及び加圧されながら混合されることによって、溶融状態の発泡性ポリマー材料となる。そして、溶融状態の発泡性ポリマー材料が押出成形機のシリンダの出口に接続される成形金型内のランチャンネル本体50に対応する形状の第1の材料流路に供給される。
一方、低摩擦層52a、53a、51a、63、66を形成するための動摩擦係数が発泡性ポリマー材料よりも小さい低摩擦材料は、前記とは別のホッパから計量器を介して別の押出成形機(シリンダ)内に投入され、加熱及び加圧されながら溶融されて前記した成形金型内の低摩擦層52a、53a、51a、63、66に対応する第2の材料流路に供給される。
【0049】
成形金型内の第1及び第2の材料流路は、成形金型内で合流する。そして、第1及び第2の材料流路のそれぞれの溶融材料が成形金型の先端(最も下流側)に形成された押出口から同時に押し出される。
また、押出成形機の材料投入口近傍の温度は、例えば、120℃〜150℃程度(熱膨張性カプセルが破裂しない温度)に設定され、この材料投入口近傍から成形金型に向けて徐々に高温となり、成形金型の押出口付近の温度は210℃程度に設定される。
そして、成形金型の押出口から発泡性ポリマー材料と、動摩擦係数が小さい低摩擦材料としての熱可塑性エラストマー材料とが押し出された直後に、これらの材料に加わっていた圧力が解放されることにより発泡性ポリマー材料中の熱膨張性カプセル(マイクロカプセル)が膨張して発泡する。これによってランチャンネル本体50、低摩擦層52a、53a、51a、63、66を有するガラスランチャンネル(第1〜第4のガラスランチャンネル31〜34)の横断面形状をもつ中間成形体が形成される。
【0050】
熱膨張性カプセル(マイクロカプセル)の発泡後、中間成形体を冷却固化させて所定長さに切断することによってガラスランチャンネル(第1〜第4のガラスランチャンネル31〜34)を製造する。
したがって、前記した製造方法によって、フロントドア10に取付可能な第1〜第4のガラスランチャンネル31〜34を容易に製造することができる。
【0051】
そして、第1〜第4のガラスランチャンネル31〜34が押出成形によって形成された後、これら第1〜第4のガラスランチャンネル31〜34の互いに対向する端面同士を、射出成形によって形成される第1〜第3の接続体41、42、43を介して一体連続状に接合することによって前側のガラスランチャンネル組立体30が製造される。
なお、リアドア110に取付可能な後側のガラスランチャンネル組立体130も前記した製造方法と同様にして製造することができる。
図1と図2に示すように、後側のガラスランチャンネル組立体130は、車両用ドアとしてのリアドア110の窓枠120に装着されて窓板115の昇降動を案内するため、長尺状にポリマー材料(熱可塑性エラストマー材料)から形成されている。後側のガラスランチャンネル組立体130は、押出成形によって長尺状に形成された第1〜第5のガラスランチャンネル131、132、133、134、135と、射出成形によって形成された第1〜第4の接続体141、142、143、144と、を有している。
そして、第1のガラスランチャンネル131は、前側のガラスランチャンネル組立体30の第1のガラスランチャンネル31と同一構造に形成されている(図3参照)。
また、後側のガラスランチャンネル組立体130を構成する第2〜第5のガラスランチャンネル132〜135の主体部をなすランチャンネル本体は、横断面形状が異なる以外は、第1のガラスランチャンネル131の主体部をなすランチャンネル本体と同様に構成される。
【実施例1】
【0052】
前記第1の実施形態に係るランチャンネル本体を形成する発泡性ポリマーの吸水率と比重を測定した。
熱可塑性エラストマー材料としては、硬度がJISA80度のオレフィン系熱可塑性エラストマーを使用した。
また、熱膨張性カプセル(マイクロカプセル)としては、積水化学工業株式会社製「アドバンセル」を使用した。
そして、熱可塑性エラストマー100重量部に対して熱膨張性カプセルが1〜3重量部となるように配合した。
なお、熱膨張性カプセルの配合に際しては、熱膨張性カプセルが同量のポリエチレンに対し予め分散されたマスターバッチを使用した。
押出成形の具体的な成形条件は以下の通りである。
シリンダの各部の温度(上流側から下流側に向かう四箇所の温度):150℃、170℃、175℃、180℃
シリンダヘッドの温度:200℃
口金の温度:200℃
スクリューの回転速度:10rpm、30rpm、60rpm
以上の条件を表1に示すように組み合わせてサンプルNo.1〜No.6を成形した。なお、サンプルNo.7は、熱膨張性カプセルを配合していないサンプルである。
吸水率は、前記の測定方法に従って複数個(N=5〜8)の測定片の吸水率を測定し、平均値を算出した。
比重は、アルファーミラージュ株式会社製の電子比重計MDー200Sを用いて測定した。
以上のようにして測定した吸水率と比重の関係を図5の説明図(グラフ)及び表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
図5及び表1によると、熱膨張性カプセルの配合量が3重量部の場合(サンプルNo.1)、比重は、0.50よりも小さいが吸水率が15%を越えてしまい、吸水率が5%以下にならない。
これに対し、熱膨張性カプセルの配合量が2重量部以下の場合(サンプルNo.2〜No.6)、比重は0.50以上、吸水率は2%以下である。
さらに、熱膨張性カプセルの配合量が1.5重量部以下の場合(サンプルNo.2〜No.6)、比重は0.60以上、吸水率は1%以下となる。
また、熱膨張性カプセルを配合しない場合(サンプルNo.7)、熱膨張性カプセルによる発泡は起こらないため、比重が0.89となり、軽量化の効果が得られない。
【0055】
また、サンプルNo.4〜No.6では、熱膨張性カプセルの配合量を一定にしてスクリューの回転数を変えることによって比重及び吸水率を調整している。
スクリューの回転数を上げると、発泡の度合いが大きくなって比重が低くかつ吸水率が高く傾向にある。
一方、回転数を下げると、発泡の度合いが小さくなって比重が高くかつ吸水率が低くなる傾向がある。
【0056】
なお、この発明は前記第1の実施形態に限定するものではなく、この発明の要旨から逸脱しない範囲内において、種々の形態で実施することができる。
例えば、図4に示すように、窓枠がサッシ形式の窓枠サッシによって形成されていてもよい。この場合、窓枠を構成する窓枠サッシ220は、車両用開閉ドア(フロントドア、リアドア等)のドアパネルとは別に形成されて同ドアパネルに固着される。この窓枠サッシ220には、ラン装着凹部225が形成されている。ガラスランチャンネル231は、ラン装着凹部225に装着可能な横断面を有する点、及びランチャンネル本体250よりも静摩擦係数の大きい高摩擦層269を有する点以外は第1の実施形態のガラスランチャンネルと同様の構成を有し、第1の実施形態のガラスランチャンネルと同様の作用効果を奏する。
【符号の説明】
【0057】
10 フロントドア(車両用ドア)
15 窓板
20 窓枠
30 ガラスランチャンネル組立体
31 第1のガラスランチャンネル(ガラスランチャンネル)
32 第2のガラスランチャンネル(ガラスランチャンネル)
33 第3のガラスランチャンネル(ガラスランチャンネル)
34 第4のガラスランチャンネル(ガラスランチャンネル)
41 第1接続体(接続体)
42 第2接続体(接続体)
43 第3接続体(接続体)
50 ランチャンネル本体
51 基底部
52 車外側の側壁部
53 車内側の側壁部
60 車外側保持リップ
61 車内側保持リップ
62 車外側シールリップ
65 車内側シールリップ
67 車外側装飾部
68 車内側装飾部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用ドアの窓枠のラン装着部に装着されて窓板の昇降動を案内する長尺状でポリマー材料からなるガラスランチャンネルであって、
前記ガラスランチャンネルの主体部をなすランチャンネル本体は、前記窓板の端面と対向する位置に設けられる基底部と、
前記基底部の幅方向両端からそれぞれ立ち上がる車内側及び車外側の両側壁部と、
前記両側壁部の開口側先端から前記基底部に向けてそれぞれ突出しかつ前記窓板の両面にそれぞれ弾接可能な車内側及び車外側の両シールリップと、
を備え、
前記ランチャンネル本体は、熱可塑性エラストマー材料と熱膨張性カプセルとを含む発泡性ポリマー材料より形成されると共に、前記熱膨張性カプセルの発泡膨張によって形成された無数の発泡セルを有しており、
前記ランチャンネル本体は、吸水率が5%以下に設定されていることを特徴とするガラスランチャンネル。
【請求項2】
請求項1に記載のガラスランチャンネルであって、
ランチャンネル本体は、吸水率が1%以下に設定されていることを特徴とするガラスランチャンネル。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のガラスランチャンネルであって、
ランチャンネル本体は、比重が0.50〜0.75であることを特徴とするガラスランチャンネル。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のガラスランチャンネルであって、
ランチャンネル本体は、比重が0.65であることを特徴とするガラスランチャンネル。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のガラスランチャンネルであって、
ランチャンネル本体を形成する発泡性ポリマー材料は、熱可塑性エラストマー材料100重量部に対して熱膨張性カプセルが0.5〜2.0重量部配合されていることを特徴とするガラスランチャンネル。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のガラスランチャンネルであって、
ランチャンネル本体を形成する発泡性ポリマー材料は、熱可塑性エラストマー材料100重量部に対して熱膨張性カプセルが1.0重量部配合されていることを特徴とするガラスランチャンネル。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のガラスランチャンネルであって、
ランチャンネル本体は、その内部の発泡セルが外気と連通していない独立気泡となっていることを特徴とするガラスランチャンネル。
【請求項8】
請求項7に記載のガラスランチャンネルであって、
ランチャンネル本体は、その内部の発泡セル同士が連通していない独立気泡となっていることを特徴とするガラスランチャンネル。
【請求項9】
請求項1に記載のガラスランチャンネルが少なくとも二つ用いられ、
前記少なくとも二つのガラスランチャンネル同士が接続体によって一体連続状に接合されて構成されていることを特徴とするガラスランチャンネル組立体。
【請求項10】
請求項1に記載のガラスランチャンネルを製造する方法であって、
熱可塑性エラストマー材料と、この熱可塑性エラストマー材料と同材質又は相溶性を有する熱可塑性樹脂材料に熱膨張性カプセルが混入されたマスターバッチ材料とを設定された重量比率で押出成形機内に投入し、
前記押出成形機内で前記各材料を加熱及び加圧しながら混合することによって、発泡性ポリマー材料にし、
前記発泡性ポリマー材料を前記押出成形機の成形金型内に供給した後、前記成形金型の口金から押し出し、
前記押し出し直後に、前記熱膨張性カプセルが膨張して発泡することによってガラスランチャンネルの横断面形状に対応する形状の成形体を形成し、
発泡後、前記成形体を冷却固化させて前記ガラスランチャンネルを製造することを特徴とするガラスランチャンネルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−225201(P2011−225201A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−293100(P2010−293100)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000219705)東海興業株式会社 (147)
【Fターム(参考)】