ガラス基板の修復方法、ガラス基板の製造方法、ガラス基板、およびフラットパネルディスプレイ
【課題】焼成処理を行うことなく低温でガラス基板を修復する。
【解決手段】ガラス基板の修復方法は、表示領域5内に凹部60が形成されたガラス基板10を修復するための方法であり、凹部60に、架橋されたエポキシ樹脂または架橋された(メタ)アクリル樹脂の原料となる複数種類の原料物質を光開始剤とともに充填し、光照射および熱処理によって充填した原料物質を共重合させる。その結果、複数種類の原料物質が共重合してなる透明樹脂65によって、ガラス基板10の表面の凹部60が修復される。よって、焼成処理を行うことなく低温でガラス基板10を修復することができる。また、透明樹脂65は複数種類の原料物質がランダムに共重合した網状構造となっているため、光学異方性が抑制され、液晶表示パネルにおいて意図しない輝点などが発生するのを防止することができる。
【解決手段】ガラス基板の修復方法は、表示領域5内に凹部60が形成されたガラス基板10を修復するための方法であり、凹部60に、架橋されたエポキシ樹脂または架橋された(メタ)アクリル樹脂の原料となる複数種類の原料物質を光開始剤とともに充填し、光照射および熱処理によって充填した原料物質を共重合させる。その結果、複数種類の原料物質が共重合してなる透明樹脂65によって、ガラス基板10の表面の凹部60が修復される。よって、焼成処理を行うことなく低温でガラス基板10を修復することができる。また、透明樹脂65は複数種類の原料物質がランダムに共重合した網状構造となっているため、光学異方性が抑制され、液晶表示パネルにおいて意図しない輝点などが発生するのを防止することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はガラス基板の修復方法に関し、特に、凹部を有するガラス基板の修復方法に関するものである。また、本発明は、上記の修復方法を用いたガラス基板の製造方法、その製造方法によって製造されたガラス基板、および、このガラス基板を備えたフラットパネルディスプレイにも関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、テレビやコンピュータのモニタとして、液晶ディスプレイが急速に普及している。液晶ディスプレイは、液晶材料と偏光フィルム(および位相差フィルム)とによって光の透過率を制御することで、明るさの調節を行っている。上記の液晶材料は、対向する2枚のガラス基板の間に封入されている。
【0003】
液晶ディスプレイにおいては、ガラス基板が画像の表示領域を構成するため、ガラス基板の欠陥は表示品質の低下に直結する。ガラス基板の欠陥の種類としては、例えば異物の混入や気泡または傷の発生などが挙げられる。従来は、ガラス基板を製造した後に、このような欠陥が生じていないか否かを検査し、欠陥のあるガラス基板が見つかった場合には、そのガラス基板を破棄していた。
【0004】
しかしながら、欠陥のないガラス基板のみを使用する場合、歩留りの低下が問題となる。特に、液晶ディスプレイの大画面化のためにガラス基板も大面積のものが使用されるようになるに連れ、欠陥の全くない大面積のガラス基板を製造することが困難になってきている。それゆえ、歩留りの問題は深刻である。
【0005】
また、ガラス基板の製造直後に欠陥が見つかればよいが、液晶表示パネルの組立て後の段階でガラス基板に欠陥が見つかる場合もある。このような場合、ガラス基板に欠陥の見つかった液晶表示パネルを分解し、欠陥のあるガラス基板を欠陥のないガラス基板に取り替えて液晶表示パネルを組み立て直す必要があり、煩雑な作業を必要とする。それゆえ、欠陥のあるガラス基板を修復する技術の開発が望まれている。
【0006】
このような課題に対して、特許文献1には、プラズマディスプレイの前面板に発生したピンホールやボイドなどの欠陥を修復するための技術が開示されている。この技術では、ピンホールやボイドなどの欠落欠陥部位にガラスペーストを塗布・充填することによって、前面板の修復を行っている。
【特許文献1】特開2000−294141号公報(平成12年10月20日公開)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ガラスペーストを用いてガラス基板を修復する場合、ガラスペーストの塗布・充填の後に必ず焼成処理を行わなければならない。この焼成処理は、低くても400℃以上の温度で行われ、場合によって1000℃を超えることもある。それゆえ、ガラス基板が素ガラスでない場合、すなわちガラス基板に透明電極やカラーフィルタなどが形成されている場合には、焼成時の熱によって透明電極やカラーフィルタなどの周囲の部材を損傷してしまうという問題がある。また、液晶表示パネルの段階でガラス基板に欠陥を発見した場合にも、焼成時の熱による周囲の部材への影響を考慮すると、ガラスペーストを用いた修復を行うことはできない。
【0008】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、焼成処理を行うことなく低温でガラス基板を修復する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明に係るガラス基板の修復方法は、フラットパネルディスプレイの表示パネルに用いられ、表面に凹部を有するガラス基板の修復方法であって、上記ガラス基板の表面の凹部を、架橋されたエポキシ樹脂および架橋された(メタ)アクリル樹脂のうちの少なくとも一方の透明樹脂で埋める穴埋め工程を含んでいることを特徴とする。
【0010】
上記凹部は、例えば、(1)ガラス基板の表面に形成された傷、(2)ガラス基板の表面に開口を有する気泡、(3)気泡が埋没したガラス基板についてガラス基板の表面から該気泡に達するまでガラス材料を取り除いた結果、ガラス基板の表面に形成された空洞、または、(4)異物が含まれるガラス基板から異物を削り取るなどして除去した結果、ガラス基板の表面に形成された空洞などである。
【0011】
上記の構成によれば、ガラス基板の表面の凹部を透明樹脂で埋めることによってガラス基板の凹部が修復される。ここで、凹部を修復するための透明樹脂として、架橋されたエポキシ樹脂または架橋された(メタ)アクリル樹脂が用いられるので、焼成処理を行うことなく低温でガラス基板を修復することができる。
【0012】
また、架橋されたエポキシ樹脂および架橋された(メタ)アクリル樹脂は、液状のモノマーまたはオリゴマーなどを凹部の中で重合(硬化)させることによって容易に得ることができるので、ガラス板の表面の凹部がどのような形状であっても、凹部を好適に埋めることができる。
【0013】
さらに、上記の透明樹脂は、架橋された網状構造となっているため、光学異方性、すなわち複屈折性が抑制される。従って、修復箇所において意図しない輝点などが発生するのを抑制することができる。
【0014】
なお、上述したガラス基板の修復方法は、気泡が埋没したガラス基板の修復方法であって、上記ガラス基板のガラス材料を、上記ガラス基板の表面から上記気泡に達するまで除去することにより、上記凹部を形成する除去工程をさらに含んでいてもよい。上記構成によれば、気泡が埋没したガラス基板を好適に修復することができる。
【0015】
あるいは、上述したガラス基板の修復方法は、異物を含むガラス基板の修復方法であって、上記ガラス基板に含まれる異物を除去することにより、上記凹部を形成する除去工程をさらに含んでいてもよい。上記構成によれば、異物が含まれるガラス基板を好適に修復することができる。
【0016】
さらにあるいは、上述したガラス基板の修復方法において、上記凹部は、ガラス基板の表面に形成された傷、または、ガラス基板の表面に開口を有する気泡であってもよい。上記構成によれば、傷や気泡を有するガラス基板を好適に修復することができる。
【0017】
また、上記ガラス基板は、液晶表示パネルに用いられるものであり、上記透明樹脂の、3つの直交軸のそれぞれについて得られる屈折率のうち、差が最も大きい2つの屈折率の差の値を、該透明樹脂の最大複屈折の大きさとすると、上記透明樹脂は、最大複屈折の大きさが0.0005以下であることが好ましい。
【0018】
上記の構成によれば、透明樹脂は最大複屈折の大きさが0.0005以下と小さいので、修復箇所において意図しない輝点などが発生するのを十分に抑制することができる。
【0019】
また、上記透明樹脂は、最大複屈折の大きさが0.0003以下であることがより好ましい。
【0020】
上記の構成によれば、透明樹脂は最大複屈折の大きさが0.0003以下とさらに小さいので、修復箇所において意図しない輝点などが発生するのを一層抑制することができる。
【0021】
また、上記ガラス基板は、液晶表示パネルに用いられるものであり、上記架橋されたエポキシ樹脂および上記架橋された(メタ)アクリル樹脂は、複数種類の原料物質が共重合したものであることが好ましい。
【0022】
上記構成によれば、凹部を埋める架橋されたエポキシ樹脂および架橋された(メタ)アクリル樹脂は、複数種類の原料物質(モノマーやプレポリマー)が共重合したものであるため、単一種類の原料物質が重合したものに比べ、光学異方性が抑制される。従って、修復箇所において意図しない輝点などが発生するのをさらに抑制することができる。
【0023】
また、上記架橋されたエポキシ樹脂および上記架橋された(メタ)アクリル樹脂は、ベンゼン環構造を有していないことが好ましい。
【0024】
上記構成によれば、透明樹脂はベンゼン環構造を有していないので複屈折性が抑制される。従って、修復箇所において意図しない輝点などが発生するのを抑制することができる。加えて、透明樹脂がベンゼン環構造を有していないため、透明樹脂の透明性が向上し、高品質なガラス基板を得ることができる。
【0025】
また、上記穴埋め工程では、上記凹部に、上記透明樹脂の原料物質と光開始剤とを充填するとともに、充填した上記原料物質および光開始剤に対して光を照射することが好ましい。
【0026】
上記構成によれば、原料物質の重合に光重合が用いられるため、重合に必要な熱処理の温度を下げることができ、場合によっては熱処理をなくすことができる。これにより、熱膨張による原料物質の体積変化が抑制され、後述する実施例に示すように、透明樹脂中に気泡が発生するのを抑制することができる。それゆえ、修復箇所に気泡を含まない高品質のガラス基板を得ることができる。
【0027】
また、上記光開始剤は、波長が350nm以上の光を吸収し、かつ、波長が400nm以上の光を吸収しないものであることが好ましい。
【0028】
一般的に長波長(特に可視領域)の光を吸収する材料は、色が付いていたり、着色性が高かったりするが、上記構成によれば、光開始剤は波長が400nm以上の光を吸収しないものであるため、硬化後の透明樹脂の透明度が向上し、高品質のガラス基板を得ることができる。
【0029】
また、液晶材料が封入された液晶表示パネルを構成しているガラス基板を修復する場合、波長が350nm未満の光を照射すると液晶材料に悪影響を与えるが、上記の光開始剤は、波長が350nm以上の光を吸収することができるので、波長が350nm以上の光によって液晶材料に悪影響を及ぼすことなく重合を開始・促進することができる。
【0030】
また、上記ガラス基板は、液晶表示パネルを構成しており、上記穴埋め工程では、液晶表示パネルを構成している上記ガラス基板の凹部を透明樹脂で埋めることが好ましい。
【0031】
ガラス基板が液晶表示パネルを構成している場合、ガラス基板の間に封入されている液晶材料や、ガラス基板の上に形成されているカラーフィルタ、透明電極などの周囲の部材への悪影響を考慮すると、焼成処理のような高温になる処理を行うことはできない。しかしながら、上記構成によれば、凹部を充填する材料として透明樹脂を用いるため、焼成処理のように高温になる処理を必要としない。それゆえ、液晶表示パネルを構成した状態のままガラス基板を修復することができ、液晶表示パネルの分解などガラス基板の修復に必要な作業を低減することができる。
【0032】
また、本発明に係るガラス基板の製造方法は、フラットパネルディスプレイの表示パネルに用いられるガラス基板の製造方法であって、上述したガラス基板の修復方法の各工程を含んでいることを特徴とする。
【0033】
上記構成によれば、ガラス基板の製造時に、ガラス基板に気泡や傷が発生したり、異物が混入したりしても、上記の修復方法によって欠陥が適切に修復される。従って、高い歩留りでガラス基板を製造することができる。
【0034】
また、本発明に係るガラス基板は、フラットパネルディスプレイの表示パネルに用いられるガラス基板であって、上記表示パネルを構成したときに表示面となる表面の表示領域内に凹部を有し、上記凹部が、架橋されたエポキシ樹脂および架橋された(メタ)アクリル樹脂のうちの少なくとも一方の透明樹脂で埋められていることを特徴とする。
【0035】
上記構成によれば、ガラス基板の表示領域内に凹部があるが、この凹部は透明樹脂で埋められているので、凹部が埋められていない場合に比べると、この凹部において表示不良が生じるのを防止することができる。また、凹部の修復には透明樹脂が用いられるので、焼成処理を行うことなく低温でこのガラス基板を製造することができる。
【0036】
さらに、上記の透明樹脂は、架橋された網状構造となっているため、光学異方性、すなわち複屈折性が抑制される。従って、修復箇所において意図しない輝点などが発生するのを抑制することができる。
【0037】
また、本発明に係るフラットパネルディスプレイは、上述したガラス基板を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0038】
本発明に係るガラス基板の修復方法は、以上のように、ガラス基板の表面の凹部を透明樹脂で埋める構成となっているので、焼成処理を行うことなく低温でガラス基板を修復することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
(1.実施形態)
本発明の一実施形態について図1から図13に基づいて説明すると以下の通りである。本実施形態では、欠陥のあるガラス基板の修復方法について説明する。本実施形態で想定されるガラス基板は、液晶ディスプレイやプラズマディスプレイなどを含むフラットパネルディスプレイの表示パネルに用いられるガラス基板である。また、ガラス基板に生じうる欠陥としては、主として(1)気泡の発生、(2)異物の混入、(3)傷の発生の3種類が挙げられる。
【0040】
図2および図3は、気泡を含むガラス基板の部分断面図である。気泡51は、ガラス基板10を製造する際にガラス原料を溶解する工程において、空気の巻き込みや耐火材からのガスの放出などが原因で、溶解したガラス原料の中に泡が発生することにより形成される。また、使用するガラス原料によっては、ガラス原料自らガスを発生するものもある。このような気泡51は、ガラス材料の体積に応じてある確率で存在し、その確率を下げることは容易ではない。特に、液晶表示パネルに用いられるガラス基板10は、アルカリ金属の含有量が少なく融点が高いため、気泡51を発生しやすい。従って、本実施形態のガラス基板の修復方法は、液晶表示パネルに用いられるガラス基板10に対して特に有効であるといえる。なお、発生した気泡51は、図2に示すようにガラス基板10内に完全に埋没していることもあれば、図3に示すようにガラス基板10の表面に開口を有していることもある。
【0041】
図4および図5は、異物が混入したガラス基板の部分断面図である。異物52は、ガラス原料に起因するものと、外部からのコンタミネーションに起因するものとがある。ガラス原料に起因する異物52としては、ガラス原料が溶解されずに残って異物化したものや、ガラス原料に混在していた難溶解性のものなどがある。また、外部からのコンタミネーションとしては、ガラス原料を溶解する際に用いた耐火材がガラスに混入することによって異物52となるものがある。なお、気泡51と同様に、異物52も図4に示すようにガラス基板10内に完全に埋没していることもあれば、図5に示すように一部がガラス基板10の外部に露出していることもある。
【0042】
図6は、傷のついたガラス基板の部分断面図である。傷53は、原板と呼ばれる大型のガラス板からガラス基板10を切り出して周辺加工を施す加工工程において、ガラス基板10同士が接触することなどによってガラス基板10の表面に生じるものである。
【0043】
これらの欠陥51〜53がガラス基板10に生じると、表示パネルに組み立てられた際に、欠陥の近傍において輝点や黒点、浮き上がりなどの表示不良が生じることになる。そこで、ガラス基板10に生じたこれらの欠陥51〜53を修復する。
【0044】
図1は、本実施形態のガラス基板の修復方法を示すフロー図である。本実施形態のガラス基板の修復方法は、ガラス基板10や表示パネルの製造における種々の段階において実施することができる。例えば、ガラス製造者においてガラス基板10を原板から切り出してから出荷するまでの段階、表示装置の製造者においてガラス基板を受け入れてから表示パネルに組み立てるまでの段階、組み立てた表示パネルを検査してから表示装置へ組み立てるまでの段階などの種々の段階などが挙げられる。
【0045】
なお、ガラス製造者においてガラス基板10を原板から切り出した後、出荷するまでの段階において本実施形態のガラス基板の修正方法を実施する場合には、原板からのガラス基板10の切出し工程および本実施形態のガラス基板の修正方法の各工程をまとめて、ガラス基板の製造方法とみなすこともできる。このガラス基板の製造方法は、さらに、ガラス基板10を原板から切り出す前の工程として、ガラス原料を溶融して原板(ガラス原板)を作製する工程を含んでいてもよい。
【0046】
ところで、本実施形態のガラス基板の修復方法は、欠陥のあるガラス基板10が既に表示パネルに組み込まれている場合であっても、表示パネルを分解することなく、そのままの状態でガラス基板10を修復することができるという利点を有している。それゆえ、以下では、ガラス基板10が表示パネルを構成している段階での修復作業を例に挙げて説明する。ただし、本発明はこれに限定されず、ガラス基板10単体の状態で修復してもよい。
【0047】
図7は、欠陥のあるガラス基板を含む表示パネルの構造を示す図である。なお、図7の上側の図は表示パネルの平面図であり、下側の図は、表示パネルを上側の図の破線位置において切断したときの断面図である。表示パネル1は液晶表示パネルであり、図7に示すように、2枚の対向するガラス基板10・10と、これらガラス基板10・10の間に封入された液晶材料20とを有している。またそれぞれのガラス基板10の、液晶材料20側とは反対側の面(以下「外側表面」という)には、図示しない偏光フィルムが設けられている。なお、偏光フィルムとガラス基板10の間には、必要に応じて位相差フィルムが設けられていてもよい。同様に図示しないが、それぞれのガラス基板10の、液晶材料20側の面(以下「内側表面」という)上には、透明電極および/またはカラーフィルタが形成されている。そして、一方のガラス基板10は、表示領域5内に欠陥55を有している。この欠陥55としては、上述したように気泡51、異物52、傷53のいずれかが想定される。
【0048】
表示パネル1のガラス基板10にこのような欠陥55が見つかった場合、まず、欠陥55を有するガラス基板10を覆っている偏光フィルム(および位相差フィルム)をガラス基板10から取り外し、欠陥55のあるガラス基板10を露出させる。そして、欠陥の種類に応じて除去加工を行う(S1)。
【0049】
例えば、ガラス基板10に生じた欠陥55が、図2に示す気泡51の場合には、ガラス基板10の外側表面から気泡51に達するまで、ガラス基板10のガラス材料を除去する。このガラス材料の除去は、例えば砥石を用いた研削加工や、テープを用いたラッピング研磨などによって行うことができる。図8は、除去加工を行った後のガラス基板を示す部分断面図である。図8に示すように、除去加工の結果、ガラス基板10の外側表面に凹部60が形成される。
【0050】
また、ガラス基板10に生じた欠陥55が、図4に示す異物52の場合には、ガラス基板10の外側表面側から異物52に達するまでガラス材料を除去するとともに、さらに異物52を除去する。異物52の除去も、ガラス材料の除去と同様の方法によって行うことができる。また、図5に示すように、異物52の一部がガラス基板10の外部に露出している場合には、異物52を除去する。このとき、異物52とともに周囲のガラス材料も一緒に除去し、凹部60の形状を整えてもよい。その結果、図8に示すように、ガラス基板10の外側表面に凹部60が形成される。
【0051】
また、ガラス基板10に生じた欠陥55が図3に示す気泡51や図6に示す傷53の場合には、除去加工を行わなくてもよい。もちろん、必要に応じて気泡51や傷53の周囲のガラス材料を削って凹部60の形状を整えてもよい。
【0052】
次に、ガラス基板10の表面の凹部を透明材料で埋める。ここで、透明材料として、ガラスペーストではなく、透明樹脂を使用する。本実施形態では、透明樹脂として、架橋されたエポキシ樹脂または架橋された(メタ)アクリル樹脂を使用する。なお、本願において、「(メタ)アクリル」とは、「メタクリル」および「アクリル」の双方の意味を含むものとする。架橋されたエポキシ樹脂または架橋された(メタ)アクリル樹脂の具体例や代替例については後述する。
【0053】
架橋されたエポキシ樹脂または架橋された(メタ)アクリル樹脂は、各樹脂の主鎖の構成要素となる液状のモノマーまたはプレポリマーなどの原料物質を、架橋用の液状のモノマーまたはプレポリマーなどの原料物質と混合して重合(硬化)させることによって容易に得られるので、ガラス基板10の凹部60がどのような形状であっても、凹部60を確実に埋めることができ好適である。なお、以下では、各樹脂の構成要素となるモノマーおよびプレポリマー(オリゴマーおよびポリマーを含む)をまとめて原料物質という。
【0054】
ここでは、ガラス基板10の凹部60の開口が鉛直上向きになるように表示パネル1を設置し、凹部60に、透明樹脂の構成要素となる液状の原料物質を、有機溶媒(またはモノマー原料物質)に溶解した光開始剤(光重合開始剤)とともに充填する(S2)。
【0055】
そして、凹部60に注入された上記の各種材料に対して光照射および熱処理を行い、凹部60内の原料物質を重合させる(S3)。このとき、光エネルギーおよび熱エネルギーにより重合反応が開始・促進され、硬化した透明樹脂(ここでは架橋されたエポキシ樹脂または架橋された(メタ)アクリル樹脂)が形成される。なお、光照射の条件(波長・強度・時間など)や熱処理の条件(温度・時間など)は、合成する透明樹脂や光開始剤の種類に応じて適宜設定することが好ましい。ただし、光を照射する際には、350nm以下の波長を有する光を凹部60に対して照射しない方がよい。これは、波長が350nm未満の光が液晶材料20に照射されると、液晶材料20に悪影響を及ぼすためである。よって、350nm未満の波長の光をカットするカットフィルタを介して、凹部60内に光を照射することが好ましい。また、周囲の部材への悪影響を考えると、熱処理時の上限温度は、200℃以下が好ましく、160℃以下がより好ましい。
【0056】
本実施形態のガラス基板の修復方法は、ステップS3に示したように熱処理を必要とするが、透明樹脂の重合に必要な温度は、ガラスの焼成に必要な温度に比べてはるかに低い。それゆえ、液晶材料20や、ガラス基板10上に形成された透明電極やカラーフィルタなどに悪影響を及ぼすことはない。従って、本実施形態のガラス基板の修復方法によれば、表示パネル1を構成したままの状態でガラス基板10の修復を行うことができる。
【0057】
なお、ステップS3における重合反応は、光重合を併用せずに熱処理のみによっても可能であるが、熱処理のみによって樹脂を硬化させる場合は、必ずある温度以上で熱処理を行う必要がある。これに対して光重合を併用すると、重合に必要な熱処理の温度を下げることができ、場合によっては熱処理をなくすことができる。それゆえ、周辺の各種部材に対して熱による悪影響が及ぶのを抑制することができる。また、熱処理の温度を低くしたり、熱処理を廃することによって、熱膨張による原料物質の体積変化が抑制され、後述する実施例に示すように、透明樹脂中に気泡が発生するのを低減することができる。それゆえ、修復箇所に気泡を含まない高品質のガラス基板を得ることができるという利点もある。
【0058】
ステップS3の後、凹部60を埋める透明樹脂が十分に硬化したら、透明樹脂の表面を平坦になるように研磨する(S4)。このとき、透明樹脂の表面とガラス基板10の表面とが単一の平面を構成するように研磨することが好ましい。
【0059】
以上の工程により、ガラス基板10の修復が完了する。図9は、本実施形態のガラス基板の修復方法によって欠陥が修復されたガラス基板の部分断面図である。図9に示すように、修復後のガラス基板10はその外側表面の表示領域5内に凹部60を有しているが、この凹部60は、透明樹脂65で埋められることにより修復されている。
【0060】
以下では、凹部60を埋めるのに用いられる透明樹脂65の具体例および好ましい例について説明する。ガラス基板10が液晶表示パネル用のものの場合、透明樹脂65は、高い光透過性を有するだけでなく、複屈折が小さいことが好ましい。この理由について説明する。図10は、凹部60に充填された透明樹脂65が複屈折を生じる場合の光の様子を示す模式図である。図中では、ガラス基板10の外側表面に接して設けられた偏光フィルム15が示されている。
【0061】
液晶材料20を透過した光が、偏光フィルム15を透過できない方向に振動する直線偏光である場合、この直線偏光は、通常、図10に示すようにガラス基板10を透過した後、偏光フィルム15によって遮断される。しかしながら、この直線偏光が、複屈折の大きな透明樹脂65を透過すると、透明樹脂65の複屈折性により、直線偏光が楕円偏光になる。詳細には、透明樹脂65を透過した光は、偏光フィルム15を通過することのできる方向の振動を含むようになる。その結果、透明樹脂65を透過した光は、偏光フィルム15によって完全に遮断されず、外部に漏れ出すことになる。これにより、意図しない輝点が発生してしまう。このような表示不良が生じないように、充填する透明樹脂65の複屈折性が重要なのである。なお、図10では、位相差フィルムを用いないタイプの表示パネル1について説明したが、位相差フィルムを用いるタイプの表示パネル1についても同様である。
【0062】
硬化後の透明樹脂65は、後述の実施例に示す方法によって測定される最大複屈折の大きさが0以上0.0005以下であることが好ましく、0以上0.0003以下であることがより好ましく、0以上0.0001未満であることが特に好ましい。最大複屈折の大きさが0.0005以下であれば、凹部60に充填された透明樹脂65による表示不良が大きな問題になることはなく、最大複屈折の大きさが0.0003以下であれば表示不良が問題になることはほとんどなく、最大複屈折の大きさが0.0001未満であれば表示不良が問題になることは全くない。
【0063】
なお、透明樹脂65が架橋されたエポキシ樹脂の場合、このエポキシ樹脂は、それぞれが複数のエポキシ基を有する複数種類の原料物質をランダムに共重合させてなるものであることが好ましい。これにより、得られるエポキシ樹脂の光学異方性が抑制され、複屈折の大きさが小さくなる。
【0064】
図11は、架橋されたエポキシ樹脂の反応スキームを示す図である。図11に示すように、第1原料物質および第2原料物質として、それぞれ、骨格部分(図中「A」または「B」にて示す)の両端にエポキシ基が結合した多官能のエポキシドを用いる。このエポキシドは、モノマーであってもよいし、オリゴマーであってもよいし、ポリマーであってもよい。そして、この第1原料物質および第2原料物質を混合し、カチオン重合開始剤から発生するカチオン種およびルイス酸の存在下で共重合させることにより、第1原料物質と第2原料物質とがランダムに共重合してなるカチオン重合性エポキシ樹脂を得ることができる。このエポキシ樹脂は、架橋された網状構造となる。よって、上記のステップS2ではガラス基板10の凹部60に、第1原料物質、第2原料物質、ならびに、有機溶媒に溶解した光開始剤などを注入してもよい。
【0065】
なお、第1原料物質および第2原料物質は、骨格部分にベンゼン環(芳香環)構造を有していないことが好ましい。すなわち、透明樹脂65はベンゼン環構造を有していないことが好ましい。これは、透明樹脂65がベンゼン環構造を有していると、光学異方性が高くなり、また透明度が低下するためである。なお、ベンゼン環構造を有するエポキシドを水添したものは上記原料物質として好適に用いることができる。また、脂肪族系エポキシド、脂環式エポキシドなども上記原料物質として用いることができる。
【0066】
上記原料物質の具体例としては、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)−1−ブタノールの1,2−エポキシ−4−(2−オキシラニル)シクロヘキサン付加物、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレートなどが挙げられる。
【0067】
なお、図11では、2種類の原料物質を共重合させてなる共重合体を示しているが、本発明はこれに限定されず、1種類の原料物質を重合させてなる重合体であってもよいし、3種類以上の原料物質を共重合させてなる共重合体であってもよい。ただし、複数種類の原料物質を共重合させる方が、1種類の原料物質を重合させる場合よりも、得られるエポキシ樹脂の光学異方性を抑制することができるので好適である。なお、複数種類の原料物質を混合して共重合させる際には、単一種類の原料物質の重合比率が全ての原料物質の90重量%を超えないようにすることが好ましい。重合体に含まれるいずれかの原料物質が、原料物質全体の90重量%よりも多い重量を占めるようになると、単一種類の原料物質を重合して得られる重合体と同様に、光学異方性が大きくなってしまう。しかしながら、単一種類の原料物質の重合比率が全ての原料物質の90重量%を超えないようにすることによって、光学異方性を抑制することができる。
【0068】
凹部60を埋める透明樹脂65として架橋されたエポキシ樹脂を用いる場合、光開始剤としては、例えばトリフェニルスルフォニウムヘキサフルオロフォスフェート塩、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロフォスフェート塩とチオキサントンの混合物、トリフェニルスルフォニウムヘキサフルオロアンチモネート塩、もしくはジフェニルヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート塩、またはこれらの組み合わせなどを用いることができる。
【0069】
図12は、光開始剤の吸収スペクトルを示す図である。図中、実線はトリフェニルスルフォニウムヘキサフルオロフォスフェート塩の吸収スペクトルを示し、破線はジフェニルヨードニウムヘキサフルオロフォスフェート塩とチオキサントンの混合物の吸収スペクトルを示す。上述したように、液晶材料20への影響から、光重合のために透明樹脂の原料に照射する光の波長を350nm以上にすることが好ましいため、光開始剤としては、波長が350nm以上の光を吸収できるものであることが好ましい。図12に示すように、双方の光開始剤ともこの条件を満たしている。
【0070】
さらに、透明樹脂65の着色を抑制するためには、400nm以上の波長を有する光を光開始剤が吸収しないことが好ましいことが、後述する実施例から分かっている。図12に示すように、トリフェニルスルフォニウムヘキサフルオロフォスフェート塩はこの条件を満たすのに対し、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロフォスフェート塩とチオキサントンの混合物はこの条件を満たさない。以上のことから、トリフェニルスルフォニウムヘキサフルオロフォスフェート塩は、(1)波長が400nm以上の光を吸収しないので、硬化後の透明樹脂が着色するのを抑制することができる点、(2)波長が350nm以上の光を吸収することができるので、波長が350nm以上の光によって液晶材料20に悪影響を及ぼすことなく重合を促進することができる点、などから光開始剤として特に好適であるといえる。
【0071】
一方、透明樹脂65が架橋された(メタ)アクリル樹脂の場合、この(メタ)アクリル樹脂は、複数種類の原料物質を共重合させてなるもの、具体的には、(メタ)アクリル酸エステルのモノマーまたはオリゴマーなどからなる第3原料物質と、架橋に用いられる第4原料物質とをランダムに共重合させてなるものであることが好ましい。具体例を挙げると、架橋されたポリメチルメタクリレート(PMMA)系樹脂などを用いることができる。これにより、(メタ)アクリル樹脂の光学異方性が抑制され、複屈折の大きさが小さくなる。
【0072】
図13は、架橋されたアクリル樹脂の反応スキームの一例を示す図である。この例では、図13に示すように、第3原料物質としてアクリル酸エステルのオリゴマーを、また、第4原料物質として架橋用のジアクリレートを使用する。そして、この第3原料物質および第4原料物質を混合し、光開始剤の存在下でラジカル重合させることにより、第3原料物質と第4原料物質とがランダムに共重合してなるラジカル重合性アクリル樹脂を得ることができる。このアクリル樹脂は、架橋された網状構造となる。よって、上記のステップS2では、ガラス基板10の凹部60に、第3原料物質、第4原料物質、および、有機溶媒(またはモノマー原料物質)に溶解した光開始剤を注入してもよい。なお、この例では、アクリル樹脂を合成しているが、メタクリル樹脂も同様にして合成できることはいうまでもない。また、この例では、2種類の原料物質を共重合させてなる重合体を示しているが、本発明はこれに限定されず、1種類の原料物質を重合させてもよいし、3種類以上の原料物質を共重合させてもよい。ただし、複数種類の原料物質を共重合させる方が、1種類の原料物質を共重合させる場合よりも、得られる(メタ)アクリル樹脂の光学異方性を抑制することができるので好適である。
【0073】
なお、上記の第3原料物質を構成する(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;シクロヘキシル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステル;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等の塩基性(メタ)アクリル酸エステルなどが挙げられるが、特に限定されるものではない。これら(メタ)アクリル酸エステルは、単独で用いてもよく、また、二種類以上を適宜混合して用いてもよい。
【0074】
一方、上記の第4原料物質は、上述した第3原料物質に含まれる官能基と反応する官能基を複数含有する化合物であればよく、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリレート;エポキシ(メタ)アクリレート類;ジビニルベンゼン、ジアリルフタレート、ジアリルイソフタレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレートなどが挙げられるが、特に限定されるものではない。
【0075】
なお、上述したエポキシ樹脂の場合と同様に、第3原料物質および第4原料物質もベンゼン環構造を有さず、架橋された(メタ)アクリル樹脂がベンゼン環構造を有していないことが好ましい。
【0076】
凹部60を埋める透明樹脂65として架橋された(メタ)アクリル樹脂を用いる場合、光開始剤としては、ベンゾフェノン、1−ヒドロキシ−シクロへキシル−フェニルケトン、ベンジルメチルケタール、もしくはアシルホスフィンオキサイド、またはこれらの組み合わせなどを用いることができる。
【0077】
なお、原料物質を重合させて架橋されたエポキシ樹脂または架橋された(メタ)アクリル樹脂からなる透明樹脂65を合成する際には、上述した原料物質および光開始剤以外に、各種の添加剤を加えてもよい。このような添加剤としては、シランカップリング剤や酸化防止剤などが挙げられる。
【0078】
ところで、凹部60を埋める透明樹脂65として、架橋されたエポキシ樹脂を用いる場合と、架橋された(メタ)アクリル樹脂を用いる場合とを比較すると、(メタ)アクリル樹脂はラジカル重合によって硬化するため、酸素による反応阻害が起こるのに対して、エポキシ樹脂はカチオン重合によって硬化するため、酸素による反応阻害が起こらない。また、エポキシ樹脂の方が、(メタ)アクリル樹脂に比べて、硬化時の収縮が少なく、耐熱性が高く、耐薬品性・耐溶剤性に優れている。従って、凹部60を埋める透明樹脂65としては、架橋されたエポキシ樹脂の方がより好ましいといえる。
【0079】
以上のように、本実施形態のガラス基板の修復方法は、ガラス基板10の表面の凹部60を、架橋されたエポキシ樹脂または架橋された(メタ)アクリル樹脂からなる透明樹脂で埋める構成となっている。より具体的には、凹部60に、透明樹脂の構成要素となる原料物質を光開始剤とともに充填し、充填した原料物質および光開始剤に光を照射するとともに熱処理を行うことによって、凹部60内にて重合反応を生じさせ、重合の結果得られた透明樹脂で凹部60を埋める構成となっている。このように、凹部60を埋める材料として透明樹脂を用いることで、焼成処理よりも低い温度でガラス基板10の修復を行うことができる。
【0080】
(2.実施例)
以下では、本発明の有効性を検証するために行ったいくつかの実験について説明する。ただし、本発明は以下の実験の構成に限定されるものではない。
【0081】
(2−1.実験1)
本実験では、複数種類の透明樹脂について複屈折性を評価した。ここで、透明樹脂の複屈折性の評価のため、最大複屈折という指標を導入した。透明樹脂が立体形状を有している場合、屈折率は、透明樹脂への光の入射角度に依存して3次元的に変化する。従って、透明樹脂によって引き起こされる複屈折の程度も、透明樹脂への光の入射角度に依存して変化する。そこで、透明樹脂の屈折率を、互いに直交する3つの直交軸(x軸、y軸、z軸とする)方向のそれぞれについて測定し、得られた3つの屈折率の中で差が最も大きい屈折率の組を選択し、選択した組の屈折率の差の値を、透明樹脂の最大複屈折の大きさとして求めた。この最大複屈折の大きさが小さければ、透明樹脂に対して光がどの方角から入射しても複屈折が起こりにくく、透明樹脂の光学異方性(複屈折性)が安定して低いといえる。
【0082】
本実験では、透明樹脂のサンプルとして以下のサンプル1〜5を準備した。
【0083】
サンプル1の製造方法は次の通りである。水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂(第1原料物質)70重量部と3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート(第2原料物質)30重量部とを混合均一化し、その混合物に、予めトリフェニルスルフォニウムヘキサフルオロフォスフェート塩(光開始剤)50重量%を溶解したプロピレンカーボネート溶液(有機溶媒)4重量部と3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(シランカップリング剤)2重量部とを添加し攪拌溶解した。そして、溶解物に対して、照射量が6000mJ/cm2となるようにアイグラフィクス社製紫外線硬化装置によって紫外光を照射した後、100℃で30分間熱処理を行った。以上により、硬化した透明樹脂(サンプル1)が得られた。
【0084】
サンプル2の製造方法は次の通りである。2,2−ビス(ヒドロキシメチル)−1−ブタノールの1,2−エポキシ−4−(2−オキシラニル)シクロヘキサン付加物(第1原料物質)70重量部と3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート(第2原料物質)30重量部とを混合均一化し、その混合物に、予めトリフェニルスルフォニウムヘキサフルオロフォスフェート塩(光開始剤)50重量%を溶解したプロピレンカーボネート溶液(有機溶媒)4重量部と3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(シランカップリング剤)2重量部を添加し攪拌溶解した。そして、溶解物に対して、サンプル1と同じ条件で紫外光の照射および熱処理を行った。以上により、硬化した透明樹脂(サンプル2)が得られた。
【0085】
サンプル3としては、トリアセチルセルロース(TAC)フィルム(富士フィルム社製)を用いた。サンプル4としては、シクロオレフィンポリマーであるゼオノア(登録商標)からなる位相差フィルム(日本ゼオン社製)を用いた。サンプル5としては、3mm厚のポリカーボネート樹脂板(帝人化成社製)を用いた。
【0086】
そして、上記のサンプル1〜5のそれぞれについて、25±1℃の温度条件下でメトリコン社製プリズムカプラ装置を用いて屈折率を測定した。なお、屈折率の測定には、波長が633nmの光を用い、互いに直交するx軸・y軸・z軸方向のそれぞれについて屈折率を測定した。さらに、上述した方法に従って最大複屈折の値を求めた。それらの結果を次の表1に示す。なお、表中の「nx」,「ny」,「nz」は、それぞれx軸、y軸、z軸方向の屈折率を表す。
【0087】
【表1】
【0088】
表1に示すように、サンプル3〜5は、最大複屈折の大きさがいずれも0.0005を上回っていた。これに対して、サンプル1,2は、最大複屈折の大きさがともに0(0.0001未満)であり、光学異方性が十分に抑制され、液晶表示パネルのガラス基板の修復に特に好適な透明樹脂であることが示された。
【0089】
以上の結果から、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂と、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレートとのランダム重合体である架橋されたエポキシ樹脂(サンプル1)、および、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)−1−ブタノールの1,2−エポキシ−4−(2−オキシラニル)シクロヘキサン付加物と、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレートとのランダム重合体である架橋されたエポキシ樹脂(サンプル2)は、複屈折性の観点から、凹部60を埋めるための透明樹脂65として特に好ましいといえる。
【0090】
(2−2.実験2)
本実験では、透明樹脂の着色性および硬化時の気泡の発生を評価した。本実験では、透明樹脂のサンプルとして以下のサンプル6〜9を準備した。なお、本実験では、ガラス板の表面に凹部を設け、この凹部の中に各サンプルを形成した。
【0091】
サンプル6の製造方法は次の通りである。サンプル1と同様に、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂(第1原料物質)70重量部と3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート(第2原料物質)30重量部とを混合均一化し、その混合物に、予めトリフェニルスルフォニウムヘキサフルオロフォスフェート塩(光開始剤)50重量%を溶解したプロピレンカーボネート溶液(有機溶媒)4重量部と3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(シランカップリング剤)2重量部とを添加し攪拌溶解した。そして、溶解物をゼオノア(登録商標)フィルムで覆い、溶解物に対して、浜松ホトニクス社製LC6を用いて200mWの出力で5分間紫外光を照射した後、100℃で30分間熱処理を行った。なお、紫外光は、350nm未満の波長を有する光をカットするカットフィルタを介して照射した。以上により、硬化した透明樹脂(サンプル6)が得られた。
【0092】
サンプル7の製造方法は次の通りである。サンプル2と同様に、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)−1−ブタノールの1,2−エポキシ−4−(2−オキシラニル)シクロヘキサン付加物(第1原料物質)70重量部と3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート(第2原料物質)30重量部とを混合均一化し、その混合物に、予めトリフェニルスルフォニウムヘキサフルオロフォスフェート塩(光開始剤)50重量%を溶解したプロピレンカーボネート溶液(有機溶媒)4重量部と3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(シランカップリング剤)2重量部を添加し攪拌溶解した。そして、溶解物をゼオノア(登録商標)フィルムで覆い、溶解物に対してサンプル6と同じ条件で紫外光の照射および熱処理を行った。以上により、硬化した透明樹脂(サンプル7)が得られた。
【0093】
サンプル8の製造方法は次の通りである。サンプル8は、基本的にはサンプル6と同じであるが、光重合の条件のみが異なっている。すなわち、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂(第1原料物質)70重量部と3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート(第2原料物質)30重量部とを混合均一化し、その混合物に、予めトリフェニルスルフォニウムヘキサフルオロフォスフェート塩(光開始剤)50重量%を溶解したプロピレンカーボネート溶液(有機溶媒)4重量部と3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(シランカップリング剤)2重量部とを添加し攪拌溶解した。そして、溶解物をゼオノア(登録商標)フィルムで覆い、溶解物に対して、ケミカルランプによって1mWの出力で10分間光の照射を行った後、上述したサンプル6と同じ条件で紫外光の照射および熱処理を行った。以上により、硬化した透明樹脂(サンプル8)が得られた。
【0094】
サンプル9の製造方法は次の通りである。サンプル9は、基本的にはサンプル8と同じであるが、光開始剤の種類のみが異なっている。すなわち、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂(第1原料物質)70重量部と3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート(第2原料物質)30重量部とを混合均一化し、その混合物に、予めジフェニルヨードニウムヘキサフルオロフォスフェート塩とチオキサントンの混合物(光開始剤)50重量%を溶解したプロピレンカーボネート溶液(有機溶媒)4重量部と3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(シランカップリング剤)2重量部とを添加し攪拌溶解した。そして、溶解物をゼオノア(登録商標)フィルムで覆い、溶解物に対してサンプル8と同じ条件で光の照射および熱処理を行った。以上により、硬化した透明樹脂(サンプル9)が得られた。
【0095】
サンプル10の製造方法は次の通りである。サンプル10は、基本的にはサンプル6と同じであるが、光重合を行わず熱処理のみによって樹脂を硬化させている点が異なっている。すなわち、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂(第1原料物質)70重量部と3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート(第2原料物質)30重量部とを混合均一化し、その混合物に、光開始剤の代わりに予め3−メチル−2−ブチニルテトラメチレンスルフォニウムヘキサフルオロアンチモネート塩(熱開始剤)66重量%を溶解したプロピレンカーボネート溶液(有機溶媒)4重量部と3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(シランカップリング剤)2重量部とを添加し攪拌溶解した。そして、溶解物をゼオノア(登録商標)フィルムで覆い、100℃で30分間熱処理を行った。以上により、硬化した透明樹脂(サンプル10)が得られた。
【0096】
これらのサンプル6〜10について、着色および気泡の発生を評価した。その結果を次の表2に示す。なお、表中の「光開始剤1」はトリフェニルスルフォニウムヘキサフルオロフォスフェート塩を、また、「光開始剤2」はジフェニルヨードニウムヘキサフルオロフォスフェート塩とチオキサントンの混合物を表す。
【0097】
【表2】
【0098】
表2に示すように、熱処理のみによって硬化させたサンプル10には、気泡が発生した。これに対し、光重合を併用したサンプル6〜9には、気泡が発生しなかった。従って、気泡の発生を抑制するためには、樹脂の硬化に光重合を併用することが好ましいといえる。
【0099】
なお、光重合(光硬化)を利用すると、樹脂を低温で硬化(重合)させることができるという利点がある。上記の実験では、実験条件を統一するために、全てのサンプルについて熱処理を100℃×30分で行っているが、光硬化を利用する場合は、同じサンプル(同じ樹脂と同じ光開始剤)でも熱処理の温度を下げることができ、場合によっては熱処理をなくすことができる。これに対して、熱処理のみによって硬化させる場合には、必ずある温度以上で熱処理を行う必要がある。
【0100】
光硬化の場合、硬化時の体積変化は、重合反応による硬化収縮のみによって起こるが、熱硬化の場合は、重合反応による硬化収縮だけでなく、硬化前の液状の原料物質が熱によって膨張することによる影響も受ける。以上の理由により、熱硬化よりも光硬化の方が樹脂の体積変化が抑制され、気泡の発生を低減しやすくなると考えられる。
【0101】
また、光開始剤として、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロフォスフェート塩とチオキサントンの混合物を用いたサンプル9には、着色が見られた。これに対して、光開始剤として、トリフェニルスルフォニウムヘキサフルオロフォスフェート塩を用いたサンプル6〜8には、着色がほとんど見られなかった。従って、エポキシ樹脂の着色を抑制するためには、光開始剤として、波長が400nm以上の光を吸収しないトリフェニルスルフォニウムヘキサフルオロフォスフェート塩を用いることが好ましいといえる。
【0102】
本発明は上述した実施形態及び実施例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書で示した数値範囲以外であっても、本発明の趣旨に反しない合理的な範囲であれば、本発明に含まれることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明によれば、欠陥のあるガラス基板を好適に修復することができるため、液晶表示パネルなどを含む各種表示パネルのガラス基板に本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】本発明の一実施形態を示すものであり、ガラス基板の修復方法を示すフロー図である。
【図2】気泡が埋没したガラス基板の部分断面図である。
【図3】表面に開口を有する気泡を含むガラス基板の部分断面図である。
【図4】異物が埋没したガラス基板の部分断面図である。
【図5】表面に露出する異物を含むガラス基板の部分断面図である。
【図6】傷のついたガラス基板の部分断面図である。
【図7】欠陥のあるガラス基板を含む表示パネルの構造を示す図である。
【図8】凹部が形成されたガラス基板の部分断面図である。
【図9】凹部が透明樹脂で埋められたガラス基板の部分断面図である。
【図10】修復部位において輝点が発生するメカニズムを示す模式図である。
【図11】本発明の一実施形態を示すものであり、架橋されたエポキシ樹脂の反応スキームを示す図である。
【図12】光開始剤の吸収スペクトルを示す図である。
【図13】本発明の一実施形態を示すものであり、架橋されたアクリル樹脂の反応スキームを示す図である。
【符号の説明】
【0105】
1 表示パネル
5 表示領域
10 ガラス基板
15 偏光フィルム
20 液晶材料
51 気泡
52 異物
53 傷
60 凹部
65 透明樹脂
【技術分野】
【0001】
本発明はガラス基板の修復方法に関し、特に、凹部を有するガラス基板の修復方法に関するものである。また、本発明は、上記の修復方法を用いたガラス基板の製造方法、その製造方法によって製造されたガラス基板、および、このガラス基板を備えたフラットパネルディスプレイにも関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、テレビやコンピュータのモニタとして、液晶ディスプレイが急速に普及している。液晶ディスプレイは、液晶材料と偏光フィルム(および位相差フィルム)とによって光の透過率を制御することで、明るさの調節を行っている。上記の液晶材料は、対向する2枚のガラス基板の間に封入されている。
【0003】
液晶ディスプレイにおいては、ガラス基板が画像の表示領域を構成するため、ガラス基板の欠陥は表示品質の低下に直結する。ガラス基板の欠陥の種類としては、例えば異物の混入や気泡または傷の発生などが挙げられる。従来は、ガラス基板を製造した後に、このような欠陥が生じていないか否かを検査し、欠陥のあるガラス基板が見つかった場合には、そのガラス基板を破棄していた。
【0004】
しかしながら、欠陥のないガラス基板のみを使用する場合、歩留りの低下が問題となる。特に、液晶ディスプレイの大画面化のためにガラス基板も大面積のものが使用されるようになるに連れ、欠陥の全くない大面積のガラス基板を製造することが困難になってきている。それゆえ、歩留りの問題は深刻である。
【0005】
また、ガラス基板の製造直後に欠陥が見つかればよいが、液晶表示パネルの組立て後の段階でガラス基板に欠陥が見つかる場合もある。このような場合、ガラス基板に欠陥の見つかった液晶表示パネルを分解し、欠陥のあるガラス基板を欠陥のないガラス基板に取り替えて液晶表示パネルを組み立て直す必要があり、煩雑な作業を必要とする。それゆえ、欠陥のあるガラス基板を修復する技術の開発が望まれている。
【0006】
このような課題に対して、特許文献1には、プラズマディスプレイの前面板に発生したピンホールやボイドなどの欠陥を修復するための技術が開示されている。この技術では、ピンホールやボイドなどの欠落欠陥部位にガラスペーストを塗布・充填することによって、前面板の修復を行っている。
【特許文献1】特開2000−294141号公報(平成12年10月20日公開)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ガラスペーストを用いてガラス基板を修復する場合、ガラスペーストの塗布・充填の後に必ず焼成処理を行わなければならない。この焼成処理は、低くても400℃以上の温度で行われ、場合によって1000℃を超えることもある。それゆえ、ガラス基板が素ガラスでない場合、すなわちガラス基板に透明電極やカラーフィルタなどが形成されている場合には、焼成時の熱によって透明電極やカラーフィルタなどの周囲の部材を損傷してしまうという問題がある。また、液晶表示パネルの段階でガラス基板に欠陥を発見した場合にも、焼成時の熱による周囲の部材への影響を考慮すると、ガラスペーストを用いた修復を行うことはできない。
【0008】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、焼成処理を行うことなく低温でガラス基板を修復する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明に係るガラス基板の修復方法は、フラットパネルディスプレイの表示パネルに用いられ、表面に凹部を有するガラス基板の修復方法であって、上記ガラス基板の表面の凹部を、架橋されたエポキシ樹脂および架橋された(メタ)アクリル樹脂のうちの少なくとも一方の透明樹脂で埋める穴埋め工程を含んでいることを特徴とする。
【0010】
上記凹部は、例えば、(1)ガラス基板の表面に形成された傷、(2)ガラス基板の表面に開口を有する気泡、(3)気泡が埋没したガラス基板についてガラス基板の表面から該気泡に達するまでガラス材料を取り除いた結果、ガラス基板の表面に形成された空洞、または、(4)異物が含まれるガラス基板から異物を削り取るなどして除去した結果、ガラス基板の表面に形成された空洞などである。
【0011】
上記の構成によれば、ガラス基板の表面の凹部を透明樹脂で埋めることによってガラス基板の凹部が修復される。ここで、凹部を修復するための透明樹脂として、架橋されたエポキシ樹脂または架橋された(メタ)アクリル樹脂が用いられるので、焼成処理を行うことなく低温でガラス基板を修復することができる。
【0012】
また、架橋されたエポキシ樹脂および架橋された(メタ)アクリル樹脂は、液状のモノマーまたはオリゴマーなどを凹部の中で重合(硬化)させることによって容易に得ることができるので、ガラス板の表面の凹部がどのような形状であっても、凹部を好適に埋めることができる。
【0013】
さらに、上記の透明樹脂は、架橋された網状構造となっているため、光学異方性、すなわち複屈折性が抑制される。従って、修復箇所において意図しない輝点などが発生するのを抑制することができる。
【0014】
なお、上述したガラス基板の修復方法は、気泡が埋没したガラス基板の修復方法であって、上記ガラス基板のガラス材料を、上記ガラス基板の表面から上記気泡に達するまで除去することにより、上記凹部を形成する除去工程をさらに含んでいてもよい。上記構成によれば、気泡が埋没したガラス基板を好適に修復することができる。
【0015】
あるいは、上述したガラス基板の修復方法は、異物を含むガラス基板の修復方法であって、上記ガラス基板に含まれる異物を除去することにより、上記凹部を形成する除去工程をさらに含んでいてもよい。上記構成によれば、異物が含まれるガラス基板を好適に修復することができる。
【0016】
さらにあるいは、上述したガラス基板の修復方法において、上記凹部は、ガラス基板の表面に形成された傷、または、ガラス基板の表面に開口を有する気泡であってもよい。上記構成によれば、傷や気泡を有するガラス基板を好適に修復することができる。
【0017】
また、上記ガラス基板は、液晶表示パネルに用いられるものであり、上記透明樹脂の、3つの直交軸のそれぞれについて得られる屈折率のうち、差が最も大きい2つの屈折率の差の値を、該透明樹脂の最大複屈折の大きさとすると、上記透明樹脂は、最大複屈折の大きさが0.0005以下であることが好ましい。
【0018】
上記の構成によれば、透明樹脂は最大複屈折の大きさが0.0005以下と小さいので、修復箇所において意図しない輝点などが発生するのを十分に抑制することができる。
【0019】
また、上記透明樹脂は、最大複屈折の大きさが0.0003以下であることがより好ましい。
【0020】
上記の構成によれば、透明樹脂は最大複屈折の大きさが0.0003以下とさらに小さいので、修復箇所において意図しない輝点などが発生するのを一層抑制することができる。
【0021】
また、上記ガラス基板は、液晶表示パネルに用いられるものであり、上記架橋されたエポキシ樹脂および上記架橋された(メタ)アクリル樹脂は、複数種類の原料物質が共重合したものであることが好ましい。
【0022】
上記構成によれば、凹部を埋める架橋されたエポキシ樹脂および架橋された(メタ)アクリル樹脂は、複数種類の原料物質(モノマーやプレポリマー)が共重合したものであるため、単一種類の原料物質が重合したものに比べ、光学異方性が抑制される。従って、修復箇所において意図しない輝点などが発生するのをさらに抑制することができる。
【0023】
また、上記架橋されたエポキシ樹脂および上記架橋された(メタ)アクリル樹脂は、ベンゼン環構造を有していないことが好ましい。
【0024】
上記構成によれば、透明樹脂はベンゼン環構造を有していないので複屈折性が抑制される。従って、修復箇所において意図しない輝点などが発生するのを抑制することができる。加えて、透明樹脂がベンゼン環構造を有していないため、透明樹脂の透明性が向上し、高品質なガラス基板を得ることができる。
【0025】
また、上記穴埋め工程では、上記凹部に、上記透明樹脂の原料物質と光開始剤とを充填するとともに、充填した上記原料物質および光開始剤に対して光を照射することが好ましい。
【0026】
上記構成によれば、原料物質の重合に光重合が用いられるため、重合に必要な熱処理の温度を下げることができ、場合によっては熱処理をなくすことができる。これにより、熱膨張による原料物質の体積変化が抑制され、後述する実施例に示すように、透明樹脂中に気泡が発生するのを抑制することができる。それゆえ、修復箇所に気泡を含まない高品質のガラス基板を得ることができる。
【0027】
また、上記光開始剤は、波長が350nm以上の光を吸収し、かつ、波長が400nm以上の光を吸収しないものであることが好ましい。
【0028】
一般的に長波長(特に可視領域)の光を吸収する材料は、色が付いていたり、着色性が高かったりするが、上記構成によれば、光開始剤は波長が400nm以上の光を吸収しないものであるため、硬化後の透明樹脂の透明度が向上し、高品質のガラス基板を得ることができる。
【0029】
また、液晶材料が封入された液晶表示パネルを構成しているガラス基板を修復する場合、波長が350nm未満の光を照射すると液晶材料に悪影響を与えるが、上記の光開始剤は、波長が350nm以上の光を吸収することができるので、波長が350nm以上の光によって液晶材料に悪影響を及ぼすことなく重合を開始・促進することができる。
【0030】
また、上記ガラス基板は、液晶表示パネルを構成しており、上記穴埋め工程では、液晶表示パネルを構成している上記ガラス基板の凹部を透明樹脂で埋めることが好ましい。
【0031】
ガラス基板が液晶表示パネルを構成している場合、ガラス基板の間に封入されている液晶材料や、ガラス基板の上に形成されているカラーフィルタ、透明電極などの周囲の部材への悪影響を考慮すると、焼成処理のような高温になる処理を行うことはできない。しかしながら、上記構成によれば、凹部を充填する材料として透明樹脂を用いるため、焼成処理のように高温になる処理を必要としない。それゆえ、液晶表示パネルを構成した状態のままガラス基板を修復することができ、液晶表示パネルの分解などガラス基板の修復に必要な作業を低減することができる。
【0032】
また、本発明に係るガラス基板の製造方法は、フラットパネルディスプレイの表示パネルに用いられるガラス基板の製造方法であって、上述したガラス基板の修復方法の各工程を含んでいることを特徴とする。
【0033】
上記構成によれば、ガラス基板の製造時に、ガラス基板に気泡や傷が発生したり、異物が混入したりしても、上記の修復方法によって欠陥が適切に修復される。従って、高い歩留りでガラス基板を製造することができる。
【0034】
また、本発明に係るガラス基板は、フラットパネルディスプレイの表示パネルに用いられるガラス基板であって、上記表示パネルを構成したときに表示面となる表面の表示領域内に凹部を有し、上記凹部が、架橋されたエポキシ樹脂および架橋された(メタ)アクリル樹脂のうちの少なくとも一方の透明樹脂で埋められていることを特徴とする。
【0035】
上記構成によれば、ガラス基板の表示領域内に凹部があるが、この凹部は透明樹脂で埋められているので、凹部が埋められていない場合に比べると、この凹部において表示不良が生じるのを防止することができる。また、凹部の修復には透明樹脂が用いられるので、焼成処理を行うことなく低温でこのガラス基板を製造することができる。
【0036】
さらに、上記の透明樹脂は、架橋された網状構造となっているため、光学異方性、すなわち複屈折性が抑制される。従って、修復箇所において意図しない輝点などが発生するのを抑制することができる。
【0037】
また、本発明に係るフラットパネルディスプレイは、上述したガラス基板を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0038】
本発明に係るガラス基板の修復方法は、以上のように、ガラス基板の表面の凹部を透明樹脂で埋める構成となっているので、焼成処理を行うことなく低温でガラス基板を修復することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
(1.実施形態)
本発明の一実施形態について図1から図13に基づいて説明すると以下の通りである。本実施形態では、欠陥のあるガラス基板の修復方法について説明する。本実施形態で想定されるガラス基板は、液晶ディスプレイやプラズマディスプレイなどを含むフラットパネルディスプレイの表示パネルに用いられるガラス基板である。また、ガラス基板に生じうる欠陥としては、主として(1)気泡の発生、(2)異物の混入、(3)傷の発生の3種類が挙げられる。
【0040】
図2および図3は、気泡を含むガラス基板の部分断面図である。気泡51は、ガラス基板10を製造する際にガラス原料を溶解する工程において、空気の巻き込みや耐火材からのガスの放出などが原因で、溶解したガラス原料の中に泡が発生することにより形成される。また、使用するガラス原料によっては、ガラス原料自らガスを発生するものもある。このような気泡51は、ガラス材料の体積に応じてある確率で存在し、その確率を下げることは容易ではない。特に、液晶表示パネルに用いられるガラス基板10は、アルカリ金属の含有量が少なく融点が高いため、気泡51を発生しやすい。従って、本実施形態のガラス基板の修復方法は、液晶表示パネルに用いられるガラス基板10に対して特に有効であるといえる。なお、発生した気泡51は、図2に示すようにガラス基板10内に完全に埋没していることもあれば、図3に示すようにガラス基板10の表面に開口を有していることもある。
【0041】
図4および図5は、異物が混入したガラス基板の部分断面図である。異物52は、ガラス原料に起因するものと、外部からのコンタミネーションに起因するものとがある。ガラス原料に起因する異物52としては、ガラス原料が溶解されずに残って異物化したものや、ガラス原料に混在していた難溶解性のものなどがある。また、外部からのコンタミネーションとしては、ガラス原料を溶解する際に用いた耐火材がガラスに混入することによって異物52となるものがある。なお、気泡51と同様に、異物52も図4に示すようにガラス基板10内に完全に埋没していることもあれば、図5に示すように一部がガラス基板10の外部に露出していることもある。
【0042】
図6は、傷のついたガラス基板の部分断面図である。傷53は、原板と呼ばれる大型のガラス板からガラス基板10を切り出して周辺加工を施す加工工程において、ガラス基板10同士が接触することなどによってガラス基板10の表面に生じるものである。
【0043】
これらの欠陥51〜53がガラス基板10に生じると、表示パネルに組み立てられた際に、欠陥の近傍において輝点や黒点、浮き上がりなどの表示不良が生じることになる。そこで、ガラス基板10に生じたこれらの欠陥51〜53を修復する。
【0044】
図1は、本実施形態のガラス基板の修復方法を示すフロー図である。本実施形態のガラス基板の修復方法は、ガラス基板10や表示パネルの製造における種々の段階において実施することができる。例えば、ガラス製造者においてガラス基板10を原板から切り出してから出荷するまでの段階、表示装置の製造者においてガラス基板を受け入れてから表示パネルに組み立てるまでの段階、組み立てた表示パネルを検査してから表示装置へ組み立てるまでの段階などの種々の段階などが挙げられる。
【0045】
なお、ガラス製造者においてガラス基板10を原板から切り出した後、出荷するまでの段階において本実施形態のガラス基板の修正方法を実施する場合には、原板からのガラス基板10の切出し工程および本実施形態のガラス基板の修正方法の各工程をまとめて、ガラス基板の製造方法とみなすこともできる。このガラス基板の製造方法は、さらに、ガラス基板10を原板から切り出す前の工程として、ガラス原料を溶融して原板(ガラス原板)を作製する工程を含んでいてもよい。
【0046】
ところで、本実施形態のガラス基板の修復方法は、欠陥のあるガラス基板10が既に表示パネルに組み込まれている場合であっても、表示パネルを分解することなく、そのままの状態でガラス基板10を修復することができるという利点を有している。それゆえ、以下では、ガラス基板10が表示パネルを構成している段階での修復作業を例に挙げて説明する。ただし、本発明はこれに限定されず、ガラス基板10単体の状態で修復してもよい。
【0047】
図7は、欠陥のあるガラス基板を含む表示パネルの構造を示す図である。なお、図7の上側の図は表示パネルの平面図であり、下側の図は、表示パネルを上側の図の破線位置において切断したときの断面図である。表示パネル1は液晶表示パネルであり、図7に示すように、2枚の対向するガラス基板10・10と、これらガラス基板10・10の間に封入された液晶材料20とを有している。またそれぞれのガラス基板10の、液晶材料20側とは反対側の面(以下「外側表面」という)には、図示しない偏光フィルムが設けられている。なお、偏光フィルムとガラス基板10の間には、必要に応じて位相差フィルムが設けられていてもよい。同様に図示しないが、それぞれのガラス基板10の、液晶材料20側の面(以下「内側表面」という)上には、透明電極および/またはカラーフィルタが形成されている。そして、一方のガラス基板10は、表示領域5内に欠陥55を有している。この欠陥55としては、上述したように気泡51、異物52、傷53のいずれかが想定される。
【0048】
表示パネル1のガラス基板10にこのような欠陥55が見つかった場合、まず、欠陥55を有するガラス基板10を覆っている偏光フィルム(および位相差フィルム)をガラス基板10から取り外し、欠陥55のあるガラス基板10を露出させる。そして、欠陥の種類に応じて除去加工を行う(S1)。
【0049】
例えば、ガラス基板10に生じた欠陥55が、図2に示す気泡51の場合には、ガラス基板10の外側表面から気泡51に達するまで、ガラス基板10のガラス材料を除去する。このガラス材料の除去は、例えば砥石を用いた研削加工や、テープを用いたラッピング研磨などによって行うことができる。図8は、除去加工を行った後のガラス基板を示す部分断面図である。図8に示すように、除去加工の結果、ガラス基板10の外側表面に凹部60が形成される。
【0050】
また、ガラス基板10に生じた欠陥55が、図4に示す異物52の場合には、ガラス基板10の外側表面側から異物52に達するまでガラス材料を除去するとともに、さらに異物52を除去する。異物52の除去も、ガラス材料の除去と同様の方法によって行うことができる。また、図5に示すように、異物52の一部がガラス基板10の外部に露出している場合には、異物52を除去する。このとき、異物52とともに周囲のガラス材料も一緒に除去し、凹部60の形状を整えてもよい。その結果、図8に示すように、ガラス基板10の外側表面に凹部60が形成される。
【0051】
また、ガラス基板10に生じた欠陥55が図3に示す気泡51や図6に示す傷53の場合には、除去加工を行わなくてもよい。もちろん、必要に応じて気泡51や傷53の周囲のガラス材料を削って凹部60の形状を整えてもよい。
【0052】
次に、ガラス基板10の表面の凹部を透明材料で埋める。ここで、透明材料として、ガラスペーストではなく、透明樹脂を使用する。本実施形態では、透明樹脂として、架橋されたエポキシ樹脂または架橋された(メタ)アクリル樹脂を使用する。なお、本願において、「(メタ)アクリル」とは、「メタクリル」および「アクリル」の双方の意味を含むものとする。架橋されたエポキシ樹脂または架橋された(メタ)アクリル樹脂の具体例や代替例については後述する。
【0053】
架橋されたエポキシ樹脂または架橋された(メタ)アクリル樹脂は、各樹脂の主鎖の構成要素となる液状のモノマーまたはプレポリマーなどの原料物質を、架橋用の液状のモノマーまたはプレポリマーなどの原料物質と混合して重合(硬化)させることによって容易に得られるので、ガラス基板10の凹部60がどのような形状であっても、凹部60を確実に埋めることができ好適である。なお、以下では、各樹脂の構成要素となるモノマーおよびプレポリマー(オリゴマーおよびポリマーを含む)をまとめて原料物質という。
【0054】
ここでは、ガラス基板10の凹部60の開口が鉛直上向きになるように表示パネル1を設置し、凹部60に、透明樹脂の構成要素となる液状の原料物質を、有機溶媒(またはモノマー原料物質)に溶解した光開始剤(光重合開始剤)とともに充填する(S2)。
【0055】
そして、凹部60に注入された上記の各種材料に対して光照射および熱処理を行い、凹部60内の原料物質を重合させる(S3)。このとき、光エネルギーおよび熱エネルギーにより重合反応が開始・促進され、硬化した透明樹脂(ここでは架橋されたエポキシ樹脂または架橋された(メタ)アクリル樹脂)が形成される。なお、光照射の条件(波長・強度・時間など)や熱処理の条件(温度・時間など)は、合成する透明樹脂や光開始剤の種類に応じて適宜設定することが好ましい。ただし、光を照射する際には、350nm以下の波長を有する光を凹部60に対して照射しない方がよい。これは、波長が350nm未満の光が液晶材料20に照射されると、液晶材料20に悪影響を及ぼすためである。よって、350nm未満の波長の光をカットするカットフィルタを介して、凹部60内に光を照射することが好ましい。また、周囲の部材への悪影響を考えると、熱処理時の上限温度は、200℃以下が好ましく、160℃以下がより好ましい。
【0056】
本実施形態のガラス基板の修復方法は、ステップS3に示したように熱処理を必要とするが、透明樹脂の重合に必要な温度は、ガラスの焼成に必要な温度に比べてはるかに低い。それゆえ、液晶材料20や、ガラス基板10上に形成された透明電極やカラーフィルタなどに悪影響を及ぼすことはない。従って、本実施形態のガラス基板の修復方法によれば、表示パネル1を構成したままの状態でガラス基板10の修復を行うことができる。
【0057】
なお、ステップS3における重合反応は、光重合を併用せずに熱処理のみによっても可能であるが、熱処理のみによって樹脂を硬化させる場合は、必ずある温度以上で熱処理を行う必要がある。これに対して光重合を併用すると、重合に必要な熱処理の温度を下げることができ、場合によっては熱処理をなくすことができる。それゆえ、周辺の各種部材に対して熱による悪影響が及ぶのを抑制することができる。また、熱処理の温度を低くしたり、熱処理を廃することによって、熱膨張による原料物質の体積変化が抑制され、後述する実施例に示すように、透明樹脂中に気泡が発生するのを低減することができる。それゆえ、修復箇所に気泡を含まない高品質のガラス基板を得ることができるという利点もある。
【0058】
ステップS3の後、凹部60を埋める透明樹脂が十分に硬化したら、透明樹脂の表面を平坦になるように研磨する(S4)。このとき、透明樹脂の表面とガラス基板10の表面とが単一の平面を構成するように研磨することが好ましい。
【0059】
以上の工程により、ガラス基板10の修復が完了する。図9は、本実施形態のガラス基板の修復方法によって欠陥が修復されたガラス基板の部分断面図である。図9に示すように、修復後のガラス基板10はその外側表面の表示領域5内に凹部60を有しているが、この凹部60は、透明樹脂65で埋められることにより修復されている。
【0060】
以下では、凹部60を埋めるのに用いられる透明樹脂65の具体例および好ましい例について説明する。ガラス基板10が液晶表示パネル用のものの場合、透明樹脂65は、高い光透過性を有するだけでなく、複屈折が小さいことが好ましい。この理由について説明する。図10は、凹部60に充填された透明樹脂65が複屈折を生じる場合の光の様子を示す模式図である。図中では、ガラス基板10の外側表面に接して設けられた偏光フィルム15が示されている。
【0061】
液晶材料20を透過した光が、偏光フィルム15を透過できない方向に振動する直線偏光である場合、この直線偏光は、通常、図10に示すようにガラス基板10を透過した後、偏光フィルム15によって遮断される。しかしながら、この直線偏光が、複屈折の大きな透明樹脂65を透過すると、透明樹脂65の複屈折性により、直線偏光が楕円偏光になる。詳細には、透明樹脂65を透過した光は、偏光フィルム15を通過することのできる方向の振動を含むようになる。その結果、透明樹脂65を透過した光は、偏光フィルム15によって完全に遮断されず、外部に漏れ出すことになる。これにより、意図しない輝点が発生してしまう。このような表示不良が生じないように、充填する透明樹脂65の複屈折性が重要なのである。なお、図10では、位相差フィルムを用いないタイプの表示パネル1について説明したが、位相差フィルムを用いるタイプの表示パネル1についても同様である。
【0062】
硬化後の透明樹脂65は、後述の実施例に示す方法によって測定される最大複屈折の大きさが0以上0.0005以下であることが好ましく、0以上0.0003以下であることがより好ましく、0以上0.0001未満であることが特に好ましい。最大複屈折の大きさが0.0005以下であれば、凹部60に充填された透明樹脂65による表示不良が大きな問題になることはなく、最大複屈折の大きさが0.0003以下であれば表示不良が問題になることはほとんどなく、最大複屈折の大きさが0.0001未満であれば表示不良が問題になることは全くない。
【0063】
なお、透明樹脂65が架橋されたエポキシ樹脂の場合、このエポキシ樹脂は、それぞれが複数のエポキシ基を有する複数種類の原料物質をランダムに共重合させてなるものであることが好ましい。これにより、得られるエポキシ樹脂の光学異方性が抑制され、複屈折の大きさが小さくなる。
【0064】
図11は、架橋されたエポキシ樹脂の反応スキームを示す図である。図11に示すように、第1原料物質および第2原料物質として、それぞれ、骨格部分(図中「A」または「B」にて示す)の両端にエポキシ基が結合した多官能のエポキシドを用いる。このエポキシドは、モノマーであってもよいし、オリゴマーであってもよいし、ポリマーであってもよい。そして、この第1原料物質および第2原料物質を混合し、カチオン重合開始剤から発生するカチオン種およびルイス酸の存在下で共重合させることにより、第1原料物質と第2原料物質とがランダムに共重合してなるカチオン重合性エポキシ樹脂を得ることができる。このエポキシ樹脂は、架橋された網状構造となる。よって、上記のステップS2ではガラス基板10の凹部60に、第1原料物質、第2原料物質、ならびに、有機溶媒に溶解した光開始剤などを注入してもよい。
【0065】
なお、第1原料物質および第2原料物質は、骨格部分にベンゼン環(芳香環)構造を有していないことが好ましい。すなわち、透明樹脂65はベンゼン環構造を有していないことが好ましい。これは、透明樹脂65がベンゼン環構造を有していると、光学異方性が高くなり、また透明度が低下するためである。なお、ベンゼン環構造を有するエポキシドを水添したものは上記原料物質として好適に用いることができる。また、脂肪族系エポキシド、脂環式エポキシドなども上記原料物質として用いることができる。
【0066】
上記原料物質の具体例としては、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)−1−ブタノールの1,2−エポキシ−4−(2−オキシラニル)シクロヘキサン付加物、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレートなどが挙げられる。
【0067】
なお、図11では、2種類の原料物質を共重合させてなる共重合体を示しているが、本発明はこれに限定されず、1種類の原料物質を重合させてなる重合体であってもよいし、3種類以上の原料物質を共重合させてなる共重合体であってもよい。ただし、複数種類の原料物質を共重合させる方が、1種類の原料物質を重合させる場合よりも、得られるエポキシ樹脂の光学異方性を抑制することができるので好適である。なお、複数種類の原料物質を混合して共重合させる際には、単一種類の原料物質の重合比率が全ての原料物質の90重量%を超えないようにすることが好ましい。重合体に含まれるいずれかの原料物質が、原料物質全体の90重量%よりも多い重量を占めるようになると、単一種類の原料物質を重合して得られる重合体と同様に、光学異方性が大きくなってしまう。しかしながら、単一種類の原料物質の重合比率が全ての原料物質の90重量%を超えないようにすることによって、光学異方性を抑制することができる。
【0068】
凹部60を埋める透明樹脂65として架橋されたエポキシ樹脂を用いる場合、光開始剤としては、例えばトリフェニルスルフォニウムヘキサフルオロフォスフェート塩、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロフォスフェート塩とチオキサントンの混合物、トリフェニルスルフォニウムヘキサフルオロアンチモネート塩、もしくはジフェニルヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート塩、またはこれらの組み合わせなどを用いることができる。
【0069】
図12は、光開始剤の吸収スペクトルを示す図である。図中、実線はトリフェニルスルフォニウムヘキサフルオロフォスフェート塩の吸収スペクトルを示し、破線はジフェニルヨードニウムヘキサフルオロフォスフェート塩とチオキサントンの混合物の吸収スペクトルを示す。上述したように、液晶材料20への影響から、光重合のために透明樹脂の原料に照射する光の波長を350nm以上にすることが好ましいため、光開始剤としては、波長が350nm以上の光を吸収できるものであることが好ましい。図12に示すように、双方の光開始剤ともこの条件を満たしている。
【0070】
さらに、透明樹脂65の着色を抑制するためには、400nm以上の波長を有する光を光開始剤が吸収しないことが好ましいことが、後述する実施例から分かっている。図12に示すように、トリフェニルスルフォニウムヘキサフルオロフォスフェート塩はこの条件を満たすのに対し、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロフォスフェート塩とチオキサントンの混合物はこの条件を満たさない。以上のことから、トリフェニルスルフォニウムヘキサフルオロフォスフェート塩は、(1)波長が400nm以上の光を吸収しないので、硬化後の透明樹脂が着色するのを抑制することができる点、(2)波長が350nm以上の光を吸収することができるので、波長が350nm以上の光によって液晶材料20に悪影響を及ぼすことなく重合を促進することができる点、などから光開始剤として特に好適であるといえる。
【0071】
一方、透明樹脂65が架橋された(メタ)アクリル樹脂の場合、この(メタ)アクリル樹脂は、複数種類の原料物質を共重合させてなるもの、具体的には、(メタ)アクリル酸エステルのモノマーまたはオリゴマーなどからなる第3原料物質と、架橋に用いられる第4原料物質とをランダムに共重合させてなるものであることが好ましい。具体例を挙げると、架橋されたポリメチルメタクリレート(PMMA)系樹脂などを用いることができる。これにより、(メタ)アクリル樹脂の光学異方性が抑制され、複屈折の大きさが小さくなる。
【0072】
図13は、架橋されたアクリル樹脂の反応スキームの一例を示す図である。この例では、図13に示すように、第3原料物質としてアクリル酸エステルのオリゴマーを、また、第4原料物質として架橋用のジアクリレートを使用する。そして、この第3原料物質および第4原料物質を混合し、光開始剤の存在下でラジカル重合させることにより、第3原料物質と第4原料物質とがランダムに共重合してなるラジカル重合性アクリル樹脂を得ることができる。このアクリル樹脂は、架橋された網状構造となる。よって、上記のステップS2では、ガラス基板10の凹部60に、第3原料物質、第4原料物質、および、有機溶媒(またはモノマー原料物質)に溶解した光開始剤を注入してもよい。なお、この例では、アクリル樹脂を合成しているが、メタクリル樹脂も同様にして合成できることはいうまでもない。また、この例では、2種類の原料物質を共重合させてなる重合体を示しているが、本発明はこれに限定されず、1種類の原料物質を重合させてもよいし、3種類以上の原料物質を共重合させてもよい。ただし、複数種類の原料物質を共重合させる方が、1種類の原料物質を共重合させる場合よりも、得られる(メタ)アクリル樹脂の光学異方性を抑制することができるので好適である。
【0073】
なお、上記の第3原料物質を構成する(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;シクロヘキシル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステル;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等の塩基性(メタ)アクリル酸エステルなどが挙げられるが、特に限定されるものではない。これら(メタ)アクリル酸エステルは、単独で用いてもよく、また、二種類以上を適宜混合して用いてもよい。
【0074】
一方、上記の第4原料物質は、上述した第3原料物質に含まれる官能基と反応する官能基を複数含有する化合物であればよく、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリレート;エポキシ(メタ)アクリレート類;ジビニルベンゼン、ジアリルフタレート、ジアリルイソフタレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレートなどが挙げられるが、特に限定されるものではない。
【0075】
なお、上述したエポキシ樹脂の場合と同様に、第3原料物質および第4原料物質もベンゼン環構造を有さず、架橋された(メタ)アクリル樹脂がベンゼン環構造を有していないことが好ましい。
【0076】
凹部60を埋める透明樹脂65として架橋された(メタ)アクリル樹脂を用いる場合、光開始剤としては、ベンゾフェノン、1−ヒドロキシ−シクロへキシル−フェニルケトン、ベンジルメチルケタール、もしくはアシルホスフィンオキサイド、またはこれらの組み合わせなどを用いることができる。
【0077】
なお、原料物質を重合させて架橋されたエポキシ樹脂または架橋された(メタ)アクリル樹脂からなる透明樹脂65を合成する際には、上述した原料物質および光開始剤以外に、各種の添加剤を加えてもよい。このような添加剤としては、シランカップリング剤や酸化防止剤などが挙げられる。
【0078】
ところで、凹部60を埋める透明樹脂65として、架橋されたエポキシ樹脂を用いる場合と、架橋された(メタ)アクリル樹脂を用いる場合とを比較すると、(メタ)アクリル樹脂はラジカル重合によって硬化するため、酸素による反応阻害が起こるのに対して、エポキシ樹脂はカチオン重合によって硬化するため、酸素による反応阻害が起こらない。また、エポキシ樹脂の方が、(メタ)アクリル樹脂に比べて、硬化時の収縮が少なく、耐熱性が高く、耐薬品性・耐溶剤性に優れている。従って、凹部60を埋める透明樹脂65としては、架橋されたエポキシ樹脂の方がより好ましいといえる。
【0079】
以上のように、本実施形態のガラス基板の修復方法は、ガラス基板10の表面の凹部60を、架橋されたエポキシ樹脂または架橋された(メタ)アクリル樹脂からなる透明樹脂で埋める構成となっている。より具体的には、凹部60に、透明樹脂の構成要素となる原料物質を光開始剤とともに充填し、充填した原料物質および光開始剤に光を照射するとともに熱処理を行うことによって、凹部60内にて重合反応を生じさせ、重合の結果得られた透明樹脂で凹部60を埋める構成となっている。このように、凹部60を埋める材料として透明樹脂を用いることで、焼成処理よりも低い温度でガラス基板10の修復を行うことができる。
【0080】
(2.実施例)
以下では、本発明の有効性を検証するために行ったいくつかの実験について説明する。ただし、本発明は以下の実験の構成に限定されるものではない。
【0081】
(2−1.実験1)
本実験では、複数種類の透明樹脂について複屈折性を評価した。ここで、透明樹脂の複屈折性の評価のため、最大複屈折という指標を導入した。透明樹脂が立体形状を有している場合、屈折率は、透明樹脂への光の入射角度に依存して3次元的に変化する。従って、透明樹脂によって引き起こされる複屈折の程度も、透明樹脂への光の入射角度に依存して変化する。そこで、透明樹脂の屈折率を、互いに直交する3つの直交軸(x軸、y軸、z軸とする)方向のそれぞれについて測定し、得られた3つの屈折率の中で差が最も大きい屈折率の組を選択し、選択した組の屈折率の差の値を、透明樹脂の最大複屈折の大きさとして求めた。この最大複屈折の大きさが小さければ、透明樹脂に対して光がどの方角から入射しても複屈折が起こりにくく、透明樹脂の光学異方性(複屈折性)が安定して低いといえる。
【0082】
本実験では、透明樹脂のサンプルとして以下のサンプル1〜5を準備した。
【0083】
サンプル1の製造方法は次の通りである。水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂(第1原料物質)70重量部と3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート(第2原料物質)30重量部とを混合均一化し、その混合物に、予めトリフェニルスルフォニウムヘキサフルオロフォスフェート塩(光開始剤)50重量%を溶解したプロピレンカーボネート溶液(有機溶媒)4重量部と3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(シランカップリング剤)2重量部とを添加し攪拌溶解した。そして、溶解物に対して、照射量が6000mJ/cm2となるようにアイグラフィクス社製紫外線硬化装置によって紫外光を照射した後、100℃で30分間熱処理を行った。以上により、硬化した透明樹脂(サンプル1)が得られた。
【0084】
サンプル2の製造方法は次の通りである。2,2−ビス(ヒドロキシメチル)−1−ブタノールの1,2−エポキシ−4−(2−オキシラニル)シクロヘキサン付加物(第1原料物質)70重量部と3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート(第2原料物質)30重量部とを混合均一化し、その混合物に、予めトリフェニルスルフォニウムヘキサフルオロフォスフェート塩(光開始剤)50重量%を溶解したプロピレンカーボネート溶液(有機溶媒)4重量部と3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(シランカップリング剤)2重量部を添加し攪拌溶解した。そして、溶解物に対して、サンプル1と同じ条件で紫外光の照射および熱処理を行った。以上により、硬化した透明樹脂(サンプル2)が得られた。
【0085】
サンプル3としては、トリアセチルセルロース(TAC)フィルム(富士フィルム社製)を用いた。サンプル4としては、シクロオレフィンポリマーであるゼオノア(登録商標)からなる位相差フィルム(日本ゼオン社製)を用いた。サンプル5としては、3mm厚のポリカーボネート樹脂板(帝人化成社製)を用いた。
【0086】
そして、上記のサンプル1〜5のそれぞれについて、25±1℃の温度条件下でメトリコン社製プリズムカプラ装置を用いて屈折率を測定した。なお、屈折率の測定には、波長が633nmの光を用い、互いに直交するx軸・y軸・z軸方向のそれぞれについて屈折率を測定した。さらに、上述した方法に従って最大複屈折の値を求めた。それらの結果を次の表1に示す。なお、表中の「nx」,「ny」,「nz」は、それぞれx軸、y軸、z軸方向の屈折率を表す。
【0087】
【表1】
【0088】
表1に示すように、サンプル3〜5は、最大複屈折の大きさがいずれも0.0005を上回っていた。これに対して、サンプル1,2は、最大複屈折の大きさがともに0(0.0001未満)であり、光学異方性が十分に抑制され、液晶表示パネルのガラス基板の修復に特に好適な透明樹脂であることが示された。
【0089】
以上の結果から、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂と、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレートとのランダム重合体である架橋されたエポキシ樹脂(サンプル1)、および、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)−1−ブタノールの1,2−エポキシ−4−(2−オキシラニル)シクロヘキサン付加物と、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレートとのランダム重合体である架橋されたエポキシ樹脂(サンプル2)は、複屈折性の観点から、凹部60を埋めるための透明樹脂65として特に好ましいといえる。
【0090】
(2−2.実験2)
本実験では、透明樹脂の着色性および硬化時の気泡の発生を評価した。本実験では、透明樹脂のサンプルとして以下のサンプル6〜9を準備した。なお、本実験では、ガラス板の表面に凹部を設け、この凹部の中に各サンプルを形成した。
【0091】
サンプル6の製造方法は次の通りである。サンプル1と同様に、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂(第1原料物質)70重量部と3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート(第2原料物質)30重量部とを混合均一化し、その混合物に、予めトリフェニルスルフォニウムヘキサフルオロフォスフェート塩(光開始剤)50重量%を溶解したプロピレンカーボネート溶液(有機溶媒)4重量部と3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(シランカップリング剤)2重量部とを添加し攪拌溶解した。そして、溶解物をゼオノア(登録商標)フィルムで覆い、溶解物に対して、浜松ホトニクス社製LC6を用いて200mWの出力で5分間紫外光を照射した後、100℃で30分間熱処理を行った。なお、紫外光は、350nm未満の波長を有する光をカットするカットフィルタを介して照射した。以上により、硬化した透明樹脂(サンプル6)が得られた。
【0092】
サンプル7の製造方法は次の通りである。サンプル2と同様に、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)−1−ブタノールの1,2−エポキシ−4−(2−オキシラニル)シクロヘキサン付加物(第1原料物質)70重量部と3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート(第2原料物質)30重量部とを混合均一化し、その混合物に、予めトリフェニルスルフォニウムヘキサフルオロフォスフェート塩(光開始剤)50重量%を溶解したプロピレンカーボネート溶液(有機溶媒)4重量部と3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(シランカップリング剤)2重量部を添加し攪拌溶解した。そして、溶解物をゼオノア(登録商標)フィルムで覆い、溶解物に対してサンプル6と同じ条件で紫外光の照射および熱処理を行った。以上により、硬化した透明樹脂(サンプル7)が得られた。
【0093】
サンプル8の製造方法は次の通りである。サンプル8は、基本的にはサンプル6と同じであるが、光重合の条件のみが異なっている。すなわち、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂(第1原料物質)70重量部と3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート(第2原料物質)30重量部とを混合均一化し、その混合物に、予めトリフェニルスルフォニウムヘキサフルオロフォスフェート塩(光開始剤)50重量%を溶解したプロピレンカーボネート溶液(有機溶媒)4重量部と3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(シランカップリング剤)2重量部とを添加し攪拌溶解した。そして、溶解物をゼオノア(登録商標)フィルムで覆い、溶解物に対して、ケミカルランプによって1mWの出力で10分間光の照射を行った後、上述したサンプル6と同じ条件で紫外光の照射および熱処理を行った。以上により、硬化した透明樹脂(サンプル8)が得られた。
【0094】
サンプル9の製造方法は次の通りである。サンプル9は、基本的にはサンプル8と同じであるが、光開始剤の種類のみが異なっている。すなわち、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂(第1原料物質)70重量部と3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート(第2原料物質)30重量部とを混合均一化し、その混合物に、予めジフェニルヨードニウムヘキサフルオロフォスフェート塩とチオキサントンの混合物(光開始剤)50重量%を溶解したプロピレンカーボネート溶液(有機溶媒)4重量部と3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(シランカップリング剤)2重量部とを添加し攪拌溶解した。そして、溶解物をゼオノア(登録商標)フィルムで覆い、溶解物に対してサンプル8と同じ条件で光の照射および熱処理を行った。以上により、硬化した透明樹脂(サンプル9)が得られた。
【0095】
サンプル10の製造方法は次の通りである。サンプル10は、基本的にはサンプル6と同じであるが、光重合を行わず熱処理のみによって樹脂を硬化させている点が異なっている。すなわち、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂(第1原料物質)70重量部と3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート(第2原料物質)30重量部とを混合均一化し、その混合物に、光開始剤の代わりに予め3−メチル−2−ブチニルテトラメチレンスルフォニウムヘキサフルオロアンチモネート塩(熱開始剤)66重量%を溶解したプロピレンカーボネート溶液(有機溶媒)4重量部と3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(シランカップリング剤)2重量部とを添加し攪拌溶解した。そして、溶解物をゼオノア(登録商標)フィルムで覆い、100℃で30分間熱処理を行った。以上により、硬化した透明樹脂(サンプル10)が得られた。
【0096】
これらのサンプル6〜10について、着色および気泡の発生を評価した。その結果を次の表2に示す。なお、表中の「光開始剤1」はトリフェニルスルフォニウムヘキサフルオロフォスフェート塩を、また、「光開始剤2」はジフェニルヨードニウムヘキサフルオロフォスフェート塩とチオキサントンの混合物を表す。
【0097】
【表2】
【0098】
表2に示すように、熱処理のみによって硬化させたサンプル10には、気泡が発生した。これに対し、光重合を併用したサンプル6〜9には、気泡が発生しなかった。従って、気泡の発生を抑制するためには、樹脂の硬化に光重合を併用することが好ましいといえる。
【0099】
なお、光重合(光硬化)を利用すると、樹脂を低温で硬化(重合)させることができるという利点がある。上記の実験では、実験条件を統一するために、全てのサンプルについて熱処理を100℃×30分で行っているが、光硬化を利用する場合は、同じサンプル(同じ樹脂と同じ光開始剤)でも熱処理の温度を下げることができ、場合によっては熱処理をなくすことができる。これに対して、熱処理のみによって硬化させる場合には、必ずある温度以上で熱処理を行う必要がある。
【0100】
光硬化の場合、硬化時の体積変化は、重合反応による硬化収縮のみによって起こるが、熱硬化の場合は、重合反応による硬化収縮だけでなく、硬化前の液状の原料物質が熱によって膨張することによる影響も受ける。以上の理由により、熱硬化よりも光硬化の方が樹脂の体積変化が抑制され、気泡の発生を低減しやすくなると考えられる。
【0101】
また、光開始剤として、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロフォスフェート塩とチオキサントンの混合物を用いたサンプル9には、着色が見られた。これに対して、光開始剤として、トリフェニルスルフォニウムヘキサフルオロフォスフェート塩を用いたサンプル6〜8には、着色がほとんど見られなかった。従って、エポキシ樹脂の着色を抑制するためには、光開始剤として、波長が400nm以上の光を吸収しないトリフェニルスルフォニウムヘキサフルオロフォスフェート塩を用いることが好ましいといえる。
【0102】
本発明は上述した実施形態及び実施例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書で示した数値範囲以外であっても、本発明の趣旨に反しない合理的な範囲であれば、本発明に含まれることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明によれば、欠陥のあるガラス基板を好適に修復することができるため、液晶表示パネルなどを含む各種表示パネルのガラス基板に本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】本発明の一実施形態を示すものであり、ガラス基板の修復方法を示すフロー図である。
【図2】気泡が埋没したガラス基板の部分断面図である。
【図3】表面に開口を有する気泡を含むガラス基板の部分断面図である。
【図4】異物が埋没したガラス基板の部分断面図である。
【図5】表面に露出する異物を含むガラス基板の部分断面図である。
【図6】傷のついたガラス基板の部分断面図である。
【図7】欠陥のあるガラス基板を含む表示パネルの構造を示す図である。
【図8】凹部が形成されたガラス基板の部分断面図である。
【図9】凹部が透明樹脂で埋められたガラス基板の部分断面図である。
【図10】修復部位において輝点が発生するメカニズムを示す模式図である。
【図11】本発明の一実施形態を示すものであり、架橋されたエポキシ樹脂の反応スキームを示す図である。
【図12】光開始剤の吸収スペクトルを示す図である。
【図13】本発明の一実施形態を示すものであり、架橋されたアクリル樹脂の反応スキームを示す図である。
【符号の説明】
【0105】
1 表示パネル
5 表示領域
10 ガラス基板
15 偏光フィルム
20 液晶材料
51 気泡
52 異物
53 傷
60 凹部
65 透明樹脂
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フラットパネルディスプレイの表示パネルに用いられ、表面に凹部を有するガラス基板の修復方法であって、
上記ガラス基板の表面の凹部を、架橋されたエポキシ樹脂および架橋された(メタ)アクリル樹脂のうちの少なくとも一方の透明樹脂で埋める穴埋め工程を含んでいることを特徴とするガラス基板の修復方法。
【請求項2】
上記ガラス基板は、液晶表示パネルに用いられるものであり、
上記透明樹脂の、3つの直交軸のそれぞれについて得られる屈折率のうち、差が最も大きい2つの屈折率の差の値を、該透明樹脂の最大複屈折の大きさとすると、
上記透明樹脂は、最大複屈折の大きさが0.0005以下であることを特徴とする、請求項1に記載のガラス基板の修復方法。
【請求項3】
上記透明樹脂は、最大複屈折の大きさが0.0003以下であることを特徴とする、請求項2に記載のガラス基板の修復方法。
【請求項4】
上記ガラス基板は、液晶表示パネルに用いられるものであり、
上記架橋されたエポキシ樹脂および上記架橋された(メタ)アクリル樹脂は、複数種類の原料物質が共重合したものであることを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載のガラス基板の修復方法。
【請求項5】
上記架橋されたエポキシ樹脂および上記架橋された(メタ)アクリル樹脂は、ベンゼン環構造を有していないことを特徴とする、請求項1から4のいずれか1項に記載のガラス基板の修復方法。
【請求項6】
上記穴埋め工程では、上記凹部に、上記透明樹脂の原料物質と光開始剤とを充填するとともに、充填した上記原料物質および光開始剤に対して光を照射することを特徴とする、請求項1から5のいずれか1項に記載のガラス基板の修復方法。
【請求項7】
上記光開始剤は、波長が350nm以上の光を吸収し、かつ、波長が400nm以上の光を吸収しないものであることを特徴とする、請求項6に記載のガラス基板の修復方法。
【請求項8】
上記ガラス基板は、液晶表示パネルを構成しており、
上記穴埋め工程では、液晶表示パネルを構成している上記ガラス基板の凹部を透明樹脂で埋めることを特徴とする、請求項1から7のいずれか1項に記載のガラス基板の修復方法。
【請求項9】
フラットパネルディスプレイの表示パネルに用いられるガラス基板の製造方法であって、
請求項1から8のいずれか1項に記載のガラス基板の修復方法の各工程を含んでいることを特徴とするガラス基板の製造方法。
【請求項10】
フラットパネルディスプレイの表示パネルに用いられるガラス基板であって、
上記表示パネルを構成したときに表示面となる表面の表示領域内に凹部を有し、
上記凹部が、架橋されたエポキシ樹脂および架橋された(メタ)アクリル樹脂のうちの少なくとも一方の透明樹脂で埋められていることを特徴とするガラス基板。
【請求項11】
請求項10に記載のガラス基板を備えていることを特徴とするフラットパネルディスプレイ。
【請求項1】
フラットパネルディスプレイの表示パネルに用いられ、表面に凹部を有するガラス基板の修復方法であって、
上記ガラス基板の表面の凹部を、架橋されたエポキシ樹脂および架橋された(メタ)アクリル樹脂のうちの少なくとも一方の透明樹脂で埋める穴埋め工程を含んでいることを特徴とするガラス基板の修復方法。
【請求項2】
上記ガラス基板は、液晶表示パネルに用いられるものであり、
上記透明樹脂の、3つの直交軸のそれぞれについて得られる屈折率のうち、差が最も大きい2つの屈折率の差の値を、該透明樹脂の最大複屈折の大きさとすると、
上記透明樹脂は、最大複屈折の大きさが0.0005以下であることを特徴とする、請求項1に記載のガラス基板の修復方法。
【請求項3】
上記透明樹脂は、最大複屈折の大きさが0.0003以下であることを特徴とする、請求項2に記載のガラス基板の修復方法。
【請求項4】
上記ガラス基板は、液晶表示パネルに用いられるものであり、
上記架橋されたエポキシ樹脂および上記架橋された(メタ)アクリル樹脂は、複数種類の原料物質が共重合したものであることを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載のガラス基板の修復方法。
【請求項5】
上記架橋されたエポキシ樹脂および上記架橋された(メタ)アクリル樹脂は、ベンゼン環構造を有していないことを特徴とする、請求項1から4のいずれか1項に記載のガラス基板の修復方法。
【請求項6】
上記穴埋め工程では、上記凹部に、上記透明樹脂の原料物質と光開始剤とを充填するとともに、充填した上記原料物質および光開始剤に対して光を照射することを特徴とする、請求項1から5のいずれか1項に記載のガラス基板の修復方法。
【請求項7】
上記光開始剤は、波長が350nm以上の光を吸収し、かつ、波長が400nm以上の光を吸収しないものであることを特徴とする、請求項6に記載のガラス基板の修復方法。
【請求項8】
上記ガラス基板は、液晶表示パネルを構成しており、
上記穴埋め工程では、液晶表示パネルを構成している上記ガラス基板の凹部を透明樹脂で埋めることを特徴とする、請求項1から7のいずれか1項に記載のガラス基板の修復方法。
【請求項9】
フラットパネルディスプレイの表示パネルに用いられるガラス基板の製造方法であって、
請求項1から8のいずれか1項に記載のガラス基板の修復方法の各工程を含んでいることを特徴とするガラス基板の製造方法。
【請求項10】
フラットパネルディスプレイの表示パネルに用いられるガラス基板であって、
上記表示パネルを構成したときに表示面となる表面の表示領域内に凹部を有し、
上記凹部が、架橋されたエポキシ樹脂および架橋された(メタ)アクリル樹脂のうちの少なくとも一方の透明樹脂で埋められていることを特徴とするガラス基板。
【請求項11】
請求項10に記載のガラス基板を備えていることを特徴とするフラットパネルディスプレイ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2010−210648(P2010−210648A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−177130(P2007−177130)
【出願日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【出願人】(000162434)協立化学産業株式会社 (73)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【出願人】(000162434)協立化学産業株式会社 (73)
【Fターム(参考)】
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