キチン・キトサン系材料を含む積層体
【課題】キチン・キトサン系材料の機能を向上させることができると共に、実用上十分な強度を有する積層体を提供する。
【解決手段】積層体10は、キチン・キトサン系材料を主成分とするナノファイバ1aで構成されたナノファイバ構造層1を有している。ナノファイバ構造層1は、ナノファイバ1aを層状に堆積させることでシート状に形成されている。ナノファイバ1aは、キチン・キトサン系材料を紡糸することにより繊維径がナノスケールに形成されている。ナノファイバ構造層1の両面には、ナノファイバ構造層1を支持する支持材2が配置されている。ナノファイバ構造層1と各支持材2との間は加熱圧着で貼り合わされている。ナノファイバ構造層1が支持材2で支持される。
【解決手段】積層体10は、キチン・キトサン系材料を主成分とするナノファイバ1aで構成されたナノファイバ構造層1を有している。ナノファイバ構造層1は、ナノファイバ1aを層状に堆積させることでシート状に形成されている。ナノファイバ1aは、キチン・キトサン系材料を紡糸することにより繊維径がナノスケールに形成されている。ナノファイバ構造層1の両面には、ナノファイバ構造層1を支持する支持材2が配置されている。ナノファイバ構造層1と各支持材2との間は加熱圧着で貼り合わされている。ナノファイバ構造層1が支持材2で支持される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はキチン・キトサン系材料を含む積層体に係り、特に、キチン・キトサン系材料を主成分とし繊維径がナノスケールのナノ繊維で構成されたナノ繊維層を有する積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
未知のウィルスや有害物を高度に除去するための分離技術を始めとして、シート状の部材(シート材)を使用する技術は多岐に亘り、様々な分野で種々の機能性を有するシート材の開発が盛んに行われている。特に、不織布に代表される繊維材料を使用したシート材は、成形性や加工性の観点から広く使用されている(非特許文献1参照)。
【0003】
シート材の開発の中でも、繊維径がナノスケールのナノ繊維を使用したシート材が注目されている。ナノ繊維を使用したシート材では、既存の繊維材料(繊維径20〜30μm程度)を使用したシート材と比べて、比表面積が格段に大きくなるため、ウィルスや有害物等の吸着性が約100倍以上に向上し粒子捕捉性に優れること、動植物細胞による認識性が向上すること(高細胞認識性)、気体や液体の通過に際し圧力損失が低減すること(低圧損性)など、種々の機能の向上を図ることができる。このため、環境、衛生、健康および医療等の多くの分野で、ナノ繊維を使用したシート材の開発が進展している(非特許文献2参照)。
【0004】
一方、キチン・キトサン系材料は、天然由来の高分子材料であり、抗菌性、保湿性、物質吸着性、生体親和性等の様々な機能が見いだされている。キチンは、N−アセチルグルコサミンを構成糖とする天然多糖であり、カニ、エビなどの殻を脱タンパク処理、脱灰処理することで分離、精製されている。また、キトサンは、グルコサミンを構成糖としたカチオン性多糖であり、キチンを原料とし脱アセチル化処理することで製造されている。キチンの資源量は、地球上で年間一千億トンが生合成されると推定されている。この豊富な資源量を背景に、様々な分野でキチン・キトサン系材料の活用が図られている。キチン・キトサン系材料は、例えば、廃水等の処理剤、食品用の日持ち向上剤、機能性食品用原料、繊維の加工処理剤などに利用されており、人や環境に優しい(刺激等の悪影響が小さい)天然系素材として注目されている(非特許文献3参照)。
【0005】
このようなキチン・キトサン系材料をシート材に使用することで、キチンやキトサンの様々な機能の有効活用を図ることができる。本発明者らは、例えば、電界紡糸法によりキチン・キトサン系材料のナノ繊維を形成することができることを見いだし、キチン・キトサン系材料の生体親和性や生体吸収性に着目して、医療用の材料(医用材料)に使用するためのキチン・キトサン系材料のナノ繊維に関する技術を開示している(特許文献1参照)。このナノ繊維で形成されるシート材では、キチンやキトサンの抗菌性や生体親和性、イオン交換性能等を発揮すると共に、ナノ繊維による多孔構造に起因する気体や液体の通過性、精密濾過性などの機能も期待できる。
【0006】
【特許文献1】特開2005−290610号公報
【非特許文献1】機能性不織布の新展開(日向明監修、株式会社シーエムシー出版発行、2004年、ISBN4−88231−447−9 C3058)
【非特許文献2】ナノファイバーテクノロジーを用いた高度産業発掘戦略(本宮達也監修、株式会社シーエムシー出版発行、2004年、ISBN4−88231−424−X C3043)
【非特許文献3】キチン、キトサンの開発と応用(平野茂博監修、株式会社シーエムシー出版発行、2004年、ISBN4−88231−432−0 C3058)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、キチン・キトサン系材料が天然由来の高分子材料のため、一般に合成高分子材料が強靱であるのと比較して強度が小さい傾向がある。また、ナノ繊維を形成するための紡糸過程で溶媒を瞬時に蒸散させるため、繊維径をナノスケールまで細くすることはできるものの、得られるナノ繊維ではキチンやキトサンの分子が配向せず結晶化していないことが多い。このため、汎用合成高分子の繊維材料と比較して強度が極端に小さくなる。このようなキチン・キトサン系材料のナノ繊維を使用したシート材では、ナノ繊維を薄くランダムに堆積させることで形成されるが、繊維同士の結合性が十分とはいえず、容易に層間剥離や破損が生じる。このため、用途によっては、実用上十分な強度を得ることができず使用が著しく制限される、という問題がある。
【0008】
本発明は上記事案に鑑み、キチン・キトサン系材料の機能を向上させることができると共に、実用上十分な強度を有する積層体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、キチン・キトサン系材料を主成分とし繊維径がナノスケールのナノ繊維で構成されたナノ繊維層と、前記ナノ繊維層の片面または両面に配置され該ナノ繊維層を支持するフィルム材とを有することを特徴とする。
【0010】
本発明では、ナノ繊維層の片面または両面に配置され該ナノ繊維層を支持するフィルム材を有しナノ繊維層がフィルム材で支持されるので、通常ではナノ繊維層の強度不足のため実用上の使用が著しく制限されるのと比較して、実用上十分な強度を確保することができると共に、ナノ繊維が抗菌性を有するキチン・キトサン系材料を主成分としており、ナノ繊維層は該ナノ繊維層を構成するナノ繊維の比表面積が増大し抗菌性も増大することから、積層体を種々の用途に適用することができる。
【0011】
この場合において、フィルム材に気体ないし液体の通過を許容する多孔が形成されており、多孔がナノ繊維層のナノ繊維で形成される微多孔より孔径を大きくすれば、ナノ繊維層の気体ないし液体の通過性がフィルム材で阻害されないので、気体ないし液体の通過を伴う用途に好適に使用することができる。このとき、ナノ繊維層の密度を0.01g/cm3以上とすることが好ましい。また、ナノ繊維層の厚さを10μm以上とすることが好ましい。ナノ繊維の繊維径を1000nm以下としてもよい。このようなナノ繊維で構成されたナノ繊維層が繊維径1000nmを超える繊維で構成された繊維層より大きい抗菌性を有することから、抗菌性を要する用途にも用いることができる。また、フィルム材を不織布、織物、編物、繊維網または樹脂フィルムとしてもよい。このとき、フィルム材の厚さを20mm以下とすることが好ましい。また、フィルム材に形成された多孔を孔径1nm以上とすることが好ましい。
【0012】
また、この場合において、フィルム材には、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ乳酸、綿、レーヨン、パルプおよびこれらの誘導体から選択される単独または複数の組み合わせを材質とすることができる。キチン・キトサン系材料を、キチン、キトサン、キチンまたはキトサンの分解物、および、キチンまたはキトサンの誘導体から選択される単独または複数の組み合わせとすることができる。このようなナノ繊維層およびフィルム材が、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ乳酸、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、エポキシ樹脂、フェノール樹脂およびでんぷんから選択される単独または複数の接着成分により貼り合わされるようにしてもよい。
【0013】
本発明の積層体は、種々の用途に適用することができる。例えば、美容材料用途ではナノ繊維層を厚さ10μm〜1000μmの範囲、密度0.01g/cm3〜0.5g/cm3の範囲、フィルム材を厚さ100μm〜2000μmの範囲の樹脂フィルムとし、再生医療材料用途ではナノ繊維層を厚さ10μm〜1000μmの範囲、密度0.01g/cm3〜0.5g/cm3の範囲、フィルム材を厚さ1μm〜10mmの範囲とし、フィルタ用途ではナノ繊維層を厚さ10μm〜1000μmの範囲、密度0.05g/cm3〜0.5g/cm3の範囲、フィルム材に形成された多孔を孔径1nm〜500μmの範囲とし、衛生材料用途ではナノ繊維層を厚さ10μm〜1000μmの範囲、密度0.05g/cm3〜0.5g/cm3の範囲、フィルム材に形成された多孔を孔径1nm〜500μmの範囲とすることが好適である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ナノ繊維層の片面または両面に配置され該ナノ繊維層を支持するフィルム材を有しナノ繊維層がフィルム材で支持されるので、通常ではナノ繊維層の強度不足のため実用上の使用が著しく制限されるのと比較して、実用上十分な強度を確保することができると共に、ナノ繊維が抗菌性を有するキチン・キトサン系材料を主成分としており、ナノ繊維層は該ナノ繊維層を構成するナノ繊維の比表面積が増大し抗菌性も増大することから、積層体を種々の用途に適用することができる、という効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明に係る積層体の実施の形態について説明する。
【0016】
図1に示すように、本実施形態の積層体10は、キチン・キトサン系材料を主成分とするナノファイバ(ナノ繊維)1aで構成されたナノ繊維層としてのナノファイバ構造層1を有している。
【0017】
ナノファイバ構造層1は、電界紡糸法を用いて紡糸されたナノファイバ1aを層状に堆積させることでシート状に形成されている。ナノファイバ1aは、キチン・キトサン系材料を溶解した紡糸液を紡糸することにより繊維径がナノスケールに形成されている。本例では、ナノファイバ1aの繊維径が1000nm以下に形成されている。ナノファイバ構造層1の厚さは、取り扱い性や強度等を考慮して10μm以上に形成されている。ナノファイバ構造層1の密度は、気体や液体の通過性を考慮して0.01g/cm3以上に形成されている。ナノファイバ構造層1には、ナノファイバ1a同士の繊維間隙で、気体や液体の通過が可能な微多孔が形成されている。この微多孔の孔径d1は、ナノファイバ1aの繊維径やナノファイバ構造層1の密度を調整することで100〜1600nmの範囲に調整されている。
【0018】
ナノファイバ構造層1の両面には、ナノファイバ構造層1を支持するフィルム材としての支持材2が配置されている。ナノファイバ構造層1と各支持材2との間に熱溶着性樹脂や化学接着剤を介在させることにより、加熱圧着や圧着等で貼り合わされている。支持材2には、繊維材料2aを使用して形成された不織布、織布、編物、繊維網(メッシュ)や、合成樹脂製の樹脂フィルムが使用されている。不織布等を形成する繊維材料2aには、汎用の合成繊維や天然系繊維が使用されている。繊維材料2aの材質としては、例えば、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリエチレンナフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、アクリル、アクリル系、ラテックス、ポリスルホン、ポリテトラフルオロエチレンやポリフッ化ビニリデンなどのフッ素樹脂、ポリ乳酸、酢酸セルロースやヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース誘導体、ポリビニルアルコール、ポリウレタン、ポリエチレンオキシド、ポリカプロラクトン、綿、麻、レーヨン、ポリノジック、パルプ、羊毛、絹、アルミナやガラス、セラミック、炭化ケイ素、ロックウール、炭素、ボロン等を挙げることができる。これらの単独若しくは複数の組み合わせにより不織布等が形成されている。支持材2に使用される不織布としては、スパンボンド法、サーマルボンド法、ケミカルボンド法、スパンレース法、ニードルパンチ法、ステッチボンド法、湿式法(抄紙法)エアレイ法等の一般的な方法で製造された不織布を使用することができる。織物、編物、繊維網としては、編織組織や編織方法等に制限されず汎用の編織物を使用することができる。
【0019】
支持材2の厚さは、取り扱い性や強度等を考慮して20mm以下に形成されている。支持材2の密度は、気体や液体の通過性を考慮して0.6g/cm3以下に形成されている。支持材2には、繊維材料2a同士の繊維間隙で、気体や液体の通過を許容する多孔が形成されている。支持材2に形成された多孔は、孔径d2がナノファイバ構造層1に形成された微多孔の孔径d1より大きく形成されている。孔径d2は、繊維材料2aの繊維径や支持材2の密度を調整することで1nm以上に調整されている。
【0020】
積層体10は、一方の支持材2の上面に電界紡糸法により紡糸したナノファイバ1aを積層してナノファイバ構造層1を形成し、他方の支持材2を更に重ね合わせて加熱圧着することで製造される。この積層体10の製造には、電界紡糸装置を備えた積層体製造装置が使用される。
【0021】
図2に示すように、積層体製造装置40は、電界紡糸装置20を備えている。電界紡糸装置20の上流側には、一方の支持材2となるポリプロピレン(以下、PPと略記する。)繊維製のスパンボンド不織布を供給するための供給ローラ32が配置されている。電界紡糸装置20の下流側には、支持材2の上面に形成されたナノファイバ構造層1を乾燥させるための熱風乾燥機35が配置されている。熱風乾燥機35は支持材2に形成されたナノファイバ構造層1に上方から熱風を吹き付けるブロアを有している。熱風乾燥機35の下流側には他方の支持材2となるPP繊維製のスパンボンド不織布を供給するための供給ローラ33が配置されている。供給ローラ33から供給されるスパンボンド不織布は乾燥させたナノファイバ構造層1の上面側に積層される。供給ローラ33の下流側には、ナノファイバ構造層1とその両面に配置された支持材2との間を加熱圧着させるための1対の加熱可能な加圧ローラ37が配置されている。加圧ローラ37の下流側には、加熱圧着した積層体10を巻き取るための巻取ローラ38が配置されている。なお、加圧ローラ37、巻取ローラ38は図示を省略した回転駆動モータに接続されており、これらの回転駆動力により供給ローラ32から供給された支持材2が、電界紡糸装置20でナノファイバ構造層1が積層され供給ローラ33から供給された支持材2が積層され、加圧ローラ37を介して巻取ローラ38まで搬送される。
【0022】
電界紡糸装置20による電界紡糸では、紡糸時の環境湿度を調整する必要があるため、図3(A)に示すように、積層体製造装置40は外気の入出を極力回避することができるように筐体39に収容されている。製造環境の湿度条件は、ナノファイバ1aの繊維径に大きく影響し、湿度が高すぎると紡糸が難しく(繊維状になりにくく)なるため、除湿等を行うことで湿度を低下させることが好ましい。反対に、湿度が低すぎると紡糸液を噴霧する紡糸ノズルの先端が乾燥しやすくなり、紡糸液で目詰まりを起こしやすくなる。このため、環境湿度を20〜60%、好ましくは、30〜50%に調整することが好ましい。
【0023】
電界紡糸装置20では、キチン・キトサン系材料を溶解させた紡糸液に高電圧を印加することで紡糸液を紡糸ノズルから噴霧させ、供給ローラ32から供給された支持材2の上面にナノファイバ構造層1を形成させる。
【0024】
図4(A)に示すように、電界紡糸装置20は、紡糸液を噴霧するための金属製の紡糸ノズル22を有している。紡糸ノズル22は、先端が下方側となるように略垂直に積層体製造装置40の筐体39に支持されている。紡糸ノズル22の先端の口径は、ナノファイバ1aの繊維径に合わせて0.05〜5.0mmに形成されている。紡糸ノズル22には、紡糸液を貯留する図示しない紡糸液槽から不図示の供給ポンプで紡糸液が送液される。紡糸ノズル22には、2〜30kVの高電圧を発生可能な電源Vが接続されている。紡糸ノズル22の下方には導電基板24が略水平に配置されている。導電基板24および電源Vはそれぞれ接地されている。なお、説明を簡単にするため、図4(A)では、紡糸ノズル22を1本のみ示しているが、積層体製造装置40では複数の紡糸ノズル22を使用することができる(図3(A)参照)。
【0025】
紡糸ノズル22の先端および導電基板間に電源Vにより2〜30kVの高電圧が印加されると、図示しない紡糸液槽から紡糸ノズル22に送液された紡糸液が紡糸ノズル22の先端から霧状に噴霧されるエレクトロスプレー現象が生じる。噴霧された紡糸原料が分子間に作用する電気的反発力により繊維状となる。供給ローラ32から供給された支持材2が導電基板24上を通過するときに、繊維状の紡糸原料が支持材2の上面にシート状に堆積してナノファイバ構造層1が形成される。紡糸液を噴霧する時間によりナノファイバ構造層1の厚さを調整することができる。
【0026】
紡糸液は、主成分のキチン・キトサン系材料を溶解剤に溶解させることで調製されている。紡糸液には、キチン・キトサン系材料との相溶性を有するポリエチレングリコールやポリビニルアルコール等の水溶性高分子等の紡糸助剤が用途に合わせて適宜配合されている。紡糸助剤を加えることで電界紡糸時の噴霧状態の安定化を図ることができる。紡糸助剤の添加量は、例えば、キトサン1重量部に対して、0.001〜1重量部(濃度0.1〜100%)とする。
【0027】
紡糸原料のキチン・キトサン系材料には、キチン、キトサン、それらの分解物または誘導体が用いられている。キチンは、N−アセチルグルコサミンを構成単糖とする多糖類(ポリマー)であり、そのアセチル化度(単糖のアミノ基がアセチル化された割合)が90〜100%である。キトサンは、キチンを脱アセチル化処理することで得られるポリマーであり、脱アセチル化度(キチンのアミノアセチル基が脱アセチル化された割合)が65〜100%である。紡糸原料に用いるキトサンは、酸可溶性を有しており、商業的に入手できるものであれば特に限定されるものではない。キトサンの分子量が極端に低いと熱などで変質しやすく、強度的に脆いものとなり、逆に、分子量が高いと紡糸液を調製するときに粘性が高くなり、溶解性、可紡性(紡糸のしやすさ)等の面で取り扱いが難しくなる。このため、キトサンの分子量を10,000〜1,000,000の範囲、好ましくは、30,000〜500,000の範囲とすることが好ましい。なお、キトサンの分子量は、例えば、標準物質として分子量既知のプルランを使用し光散乱検出器を用いた高速液体クロマトグラフィによるゲルパーミエーション法(昭和電工株式会社製、Asahipack7M−HQカラムなどを使用)で容易に測定することができる。
【0028】
キチン・キトサンの分解物としては、キチンオリゴ糖、キトサンオリゴ糖や水溶性キトサン(分子量20,000〜3,000)等を挙げることができる。また、キチン・キトサンの誘導体としては、脱アセチル化度を40〜60%に調製した部分脱アセチル化キチン、ヒドロキシプロピル化キトサン、カルボキシメチル化キチン、カルボキシメチル化キトサン、硫酸化キトサン、硫酸化キチン、四級化キトサン等を挙げることができる。このようなキチン・キトサンの誘導体や分解物を用いることで、キチン・キトサン系材料の細胞賦活性や保湿性、抗ウィルス活性、抗菌性等の様々な機能を向上させたり、付与したりすることができる。
【0029】
紡糸液の調製に使用する溶解剤は、用いる紡糸原料の溶解に適したものが使用される。例えば、紡糸原料にキトサンを用いる場合には、塩酸、酢酸、乳酸、アスコルビン酸、リンゴ酸等の有機酸、ピロリドンカルボン酸、グルタミン酸やアスパラギン酸等から選択される。溶解剤に溶解させる紡糸原料の濃度は、ナノファイバ1aの生産性、紡糸後のナノファイバ1aの繊維構造や性能等に影響するため、可能な限り高くすることが望ましいが、紡糸液調製時の溶解性や可紡性等も考慮すると、1〜30重量%、より好ましくは、5〜25%とすることが好ましい。
【0030】
紡糸液を紡糸液槽に仕込み、エア等による加圧または液体輸送ポンプで紡糸ノズル22に送液し、電源Vで高電圧を印加する。紡糸ノズル22は、図4(A)に示すように1本でも可能であるが、実用上、図3(A)に示すように複数の紡糸ノズル22を使用して同時に噴霧するようにすればナノファイバ構造層1を効率よく得ることができる。また、複数の紡糸ノズル22を使用することで、ナノファイバ構造層1の厚さや密度を効率よく調整することができる。
【0031】
上面にナノファイバ構造層1が形成された支持材2は、熱風乾燥機35に搬送されブロアからの熱風で乾燥させる。このとき、キトサンの溶解剤に酢酸を用いた場合には、ナノファイバ構造層1に残留する酢酸が加熱除去されることで、ナノファイバ1aの耐水性を向上させることができる。乾燥したナノファイバ構造層1は下流側に搬送され、供給ローラ33から供給された支持材2がナノファイバ構造層1の上面側に積層される。
【0032】
支持材2が両面に配置されたナノファイバ構造層1は、加圧ローラ37に搬送される。加圧ローラ37間を通過するときに、支持材2、ナノファイバ構造層1が加熱圧着され複合一体化された積層体10が形成される。加熱圧着された積層体10は巻取ローラ38に巻き取られる。
【実施例】
【0033】
次に本実施形態に従い製造した積層体10の実施例、および、フィルタ用途、マスク等の衛生材料用途、フェイスマスク等の美容材料用途、細胞培養用基材等の再生医療用途の各用途向けに製造した積層体10の実施例について説明する。なお、比較例として用いた種々のシート材についても併記する。
【0034】
(実施例1)
下表1に示すように、実施例1では、紡糸原料として、カニ殻から分離精製されたキトサン(共和テクノス株式会社製、分子量約30,000)を用いた。18%キトサン・6%酢酸(w/w)のキトサン溶液と、5%ポリエチレンオキシド(和光純薬工業株式会社製、分子量500,000)とを8:2の重量比で均一に混合し(20℃における粘度200〜400cp)紡糸液とした。この紡糸液では、キトサンとポリエチレンオキシドとの重量比が93.5:6.5となる。紡糸ノズル22には金属製ニードル23G(武蔵エンジニアリング製、SUS304)を使用し、紡糸時には18kVから最大30kVの電圧を印加した。電界紡糸では、導電基板24上に直接噴霧し、厚さ70μm、密度0.03g/cm3のナノファイバ構造層1を単独で形成した。紡糸時の環境条件は、温度20〜30℃(室温)、湿度20〜50%に設定した。得られたナノファイバ構造層1を走査型電子顕微鏡(トプコン製、SM−200)にて表面観察したところ、繊維径100〜300nmの繊維構造が確認された。なお、得られたキトサンのナノファイバ構造層1の厚さは、厚さ0.01〜10mmの場合には膜厚計(尾崎製作所製)で、厚さ0.1〜10μmの場合には走査型電子顕微鏡で測定したものである。
【0035】
【表1】
【0036】
(実施例2)
表1に示すように、実施例2では、支持材2としてPP製のスパンボンド不織布(日本不織布株式会社製、目付:20g/m2)を用いた。積層体製造装置40を使用し、実施例1と同じ条件で電界紡糸を行い厚さ165μm、密度0.07g/cm3のナノファイバ構造層1の両面に支持材2を加熱圧着した(140℃、加圧2MPa)。すなわち、実施例2の積層体10はナノファイバ構造層1を両側から支持材2が挟んだサンドイッチ構造を有している。
【0037】
(実施例3)
表1に示すように、実施例3では、支持材2としてパルプ製の乾式不織布(ライオン株式会社製、目付78g/m2)を用いた。図3(B)に示すように、供給ローラ33を有していない積層体製造装置40を使用し、積層体10を製造した。積層体製造装置40の供給ローラ32から供給したパルプ製不織布に、ナノファイバ構造層1を形成する前に、ポリビニルアルコール(和光純薬工業株式会社製、重合度2000、完全けん化品)(以下、PVAと略記する。)の5%水溶液を5mm間隔で1μLずつスポットした。実施例2と同様に電界紡糸を行い厚さ165μm、密度0.07g/cm3のナノファイバ構造層1を形成し、100℃で熱風乾燥後、ナノファイバ構造層1の上側には支持材2を供給せずに加圧ローラ37で加圧した。すなわち、実施例3の積層体10は、ナノファイバ構造層1の片面のみに支持材2を有している。
【0038】
(実施例4)
表1に示すように、実施例4では、支持材2としてポリエチレン(以下、PEと略記する。)製のスパンボンド不織布(日本不織布株式会社製、目付:20g/m2)を使用した。加熱圧着条件を120℃、加圧1MPaとする以外は実施例2と同様にした。
【0039】
(実施例5)
表1に示すように、実施例5では、電界紡糸で厚さ290μm、密度0.12g/cm3のナノファイバ構造層1を形成した以外は実施例2と同様にした。実施例5の積層体10は、フィルタ用途向けに製造したものである。
【0040】
(実施例6)
表1に示すように、実施例6では、電界紡糸で厚さ200μm、密度0.10g/cm3のナノファイバ構造層1を形成した以外は実施例2と同様にした。実施例6の積層体10は、マスク等の衛生材料用途向けに製造したものである。
【0041】
(実施例7)
表1に示すように、実施例7では、支持材2としてPE製フィルムのラミネート綿(コットン)(表1において、PE綿と略記している。)を使用し、電界紡糸で厚さ100μm、密度0.10g/cm3のナノファイバ構造層1を形成し、供給ローラ33から支持材2を供給しない以外は実施例2と同様にした。実施例6の積層体10は、フェイスマスク等の美容材料用途向けに製造したものである。
【0042】
(実施例8)
表1に示すように、実施例8では、支持材2としてポリ乳酸(表1において、PLAと略記している。)製のスパンボンド不織布を使用した以外は実施例7と同様にした。実施例6の積層体10は、細胞培養用基材等の再生医療用途向けに製造したものである。
【0043】
(比較例1)
下表2に示すように、比較例1では、繊維径20μmのキトサン繊維で作製した厚さ350μmの不織布(スパンレース法、目付:40g/m2)を使用した。
【0044】
【表2】
【0045】
(比較例2)
表2に示すように、比較例2では、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略記する。)製のスパンボンド不織布(日本不織布株式会社製、目付:12g/m2)を使用した。
【0046】
(比較例3)
表2に示すように、比較例3では、食品包装用のラップ材のPE製のフィルム(株式会社クレハ製、厚さ15μm)を使用した。
【0047】
(比較例4)
表2に示すように、比較例4では、実施例2で支持材2に使用したPP製のスパンボンド不織布を2枚使用し、140℃、2MPaで加熱圧着した。すなわち、比較例4は2層構造のシート材である。
【0048】
(比較例5)
表2に示すように、比較例5では、実施例2で支持材2に使用した不織布を使用した。すなわち、比較例5はPP製のスパンボンド不織布である。
【0049】
(比較例6)
表2に示すように、比較例6では、濾過フィルタ用のミックスセルロース製の多孔質シート(アドバンテック社製、厚さ145μm、孔径0.45μm)を使用した。
【0050】
<評価試験>
各実施例の積層体10および比較例のシート材について、以下に示す試験法で、ナノファイバ構造層1の孔径、抗菌性、通気性(圧損)、微粒子捕捉性および引張強度の各試験を行い評価した。
【0051】
(繊維径・孔径)
ナノファイバ構造層1の繊維径および微多孔の孔径(孔径分布を含む。)の測定には、走査型電子顕微鏡(トプコン製、SEM−200)、および、ASTM F316−86、JIS K 3832のバブルポイント法に基づく自動細孔径分布測定器(POROUS−MATERIALS社製、パームポロメータ)を用いた。図5(A)、(B)に示すように、比較例1のキトサン繊維の繊維径が20μm程度であるのに対して、実施例1のキトサンのナノファイバ1aでは繊維径が100〜300nmであった。実施例1以外の各実施例のナノファイバ構造層1の繊維径の平均は、いずれも1000nm以下であることを確認した。繊維径についての測定結果から、平均繊維径と繊維径の分布範囲とに相関関係があることが判った。すなわち、平均繊維径が70nmの場合には繊維径が40〜140nmの範囲で分布し、平均繊維径が200nmの場合には繊維径が140〜400nmの範囲で分布し、平均繊維径が300nmの場合には繊維径が200〜450nmの範囲で分布することがそれぞれ判った。また、各実施例のナノファイバ構造層1の平均孔径が1000nm以下であることを確認した。
【0052】
(抗菌性)
抗菌性は、シェークフラスコ法(抗菌製品技術協議会規格)および菌液吸収法(JIS L 1902「繊維製品の抗菌性試験方法、抗菌方法」)に従い評価した。シェークフラスコ法では、(独)製品評価技術基盤機構から分譲を受けた黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus、NBRC(IFO)12732)または大腸菌(Escherichia coli、NBRC(IFO)3972)を試験菌とした。積層体10を4cm×4cmに裁断した試験片を、ガーゼ等でエタノール消毒後、乾熱滅菌またはオートクレーブ滅菌処理した後、滅菌した培養フラスコに無菌的に入れた。培養フラスコに試験菌液(普通ブイヨン培養液で希釈したもの、104〜105個の試験菌を含む、pH7.0〜7.2)10mlを接種してアルミホイルで蓋をした後、温度35±1℃の恒温振とう培養器で、一定振幅で振とう培養した。対照試験区として、同じ試験菌液10mlのみを入れて、保存0時間(対照試験区のみ)および24時間振とう培養後に菌液を採取し、標準寒天培地を使用した寒天平板培養法により生菌数を測定した。生菌数(試験菌数)の増減の違いにより抗菌性を評価した。なお、対照試験区の保存0時間における生菌数、すなわち、各試験片に接種した菌数は、5.4×105個であった。
【0053】
一方、菌液吸収法では、シェークフラスコ法と同じ試験菌を使用した。滅菌バイアル瓶に積層体10の試験片(シェークフラスコ法と同様に処理したもの)を無菌的に入れた。試験菌液(105〜106個/ml)をピペットで正確に0.2ml採取し、試験片の数カ所に接種し、バイアル瓶の蓋を閉めて37℃で18〜24時間保存(静置培養)した。保存後、洗い出し用生理食塩水(8.5gのNaCl、2.0gの非イオン性界面活性剤ツイン80を蒸留水に溶解させて全量1000mlとしたもの)20mlを加え、蓋を閉めて、手振りで各試験片から試験菌を洗い出した。この洗い出し液を採取し、ニュートリエント寒天培地を使用した寒天平板培養法により生菌数を測定した。生菌数(試験菌数)の増減の違いにより抗菌性を評価した。なお、生菌数は、菌濃度(個/ml)と洗い出し用生理食塩水の量(20ml)とを乗算して求めた。
【0054】
(通気性)
通気性は、ラインフィルターホルダ(アドバンテック社製、SUS製、口径25mm)に、裁断した積層体10の試験片をセットし、一定量の窒素や空気などのガスを流したときのラインフィルターホルダの入口側と出口側との圧力差を微差圧計(岡野製作所製)で測定することで評価した。
【0055】
(微粒子捕捉性)
微粒子捕捉性では、減圧濾過用フィルターホルダ(アドバンテック社製、ガラス製、口径47mm)に裁断した積層体10の試験片をセットし、ホルダに振動を与えながら、JIS試験用粉体1の11種の標準粒子(社団法人日本粉体工業技術協会より入手、粒径1μm以上の粒子を65±5%含む)の1gをポンプ(イワキ製、最大流量15リットル/min)を使用して流量5リットル/minで5分間吸引した。試験片上に残留した粒子の重量を測定することで微粒子捕捉性を評価した。すなわち、試験片上に残留した粒子重量の試験に使用した粒子重量に対する百分率を微粒子捕捉率(%)として算出した。
【0056】
(引張強度)
引張強度は、引張強度試験装置(インストロン社製、3342型)を使用して測定した。測定には積層体10を2mm幅に裁断した試験片を使用し、標点距離を50mm、クロスヘッド速度を4mm/minとして試験片の破断時の荷重(N/mm2)を測定した。
【0057】
以下、孔径、抗菌性、通気性(圧損試験)、微粒子捕捉性および引張強度の各評価結果について説明する。抗菌性、通気抵抗、微粒子捕捉率および引張強度の測定結果を下表3にまとめて示した。なお、表3において、抗菌性の結果として試験後の生菌数を示し、接種菌数(5.4×105個)を省略している。また、通気抵抗は、試験片1cm2あたりに毎分1リットルの窒素ガスを流したとき(1L/min/cm2)の差圧を示している。
【0058】
【表3】
【0059】
各実施例の積層体10のナノファイバ構造層1では、1gあたりのイオン交換率(イオン交換容量)が5.4meq(ミリ等量)であることが確認できた。このことから、微生物等を含む微粒子の吸着性に優れることが期待できる。また、ナノファイバ構造層1の微多孔の孔径は100〜1600nmの範囲で分布していることが確認され、平均孔径は500nmであった。このことから、ナノファイバ構造層1は通気性に優れることが判った。更に、走査型電子顕微鏡による観察の結果、実施例1のナノファイバ構造層1と比較して、支持材2を貼り合わせた実施例2〜実施例8の積層体10では、ナノファイバ構造層1に形状変化は見られず、ナノファイバ構造層1と支持材2とが結合されていることが確認された。図6に示すように、積層体10の表面では、支持材2を構成する繊維材料2aの空隙(支持材の多孔)からナノファイバ構造層1の表面を観察することができ、ナノファイバ構造層1の表面には緻密な微多孔が形成されていることが判る。また、図7に示すように、積層体10の傾斜断面では、加熱圧着したナノファイバ構造層1と支持材2との間で支持材2の繊維材料2aが軟化変形しナノファイバ構造層1と支持材2とが確実に接着されていることが判る(矢印で示す部分)。
【0060】
抗菌性の評価結果について、従来のキトサン繊維で形成した不織布の比較例1、PET製不織布の比較例2、キトサンのナノファイバ1aで形成したナノファイバ構造層1の実施例1を比較して説明する。下表4に示すように、比較例1では、接種した菌数に対して試験後の菌数が減少しており、明らかな抗菌性を示した。これは、キトサンが塩基性(カチオン性)ポリマーのため、試験菌に用いた大腸菌や黄色ブドウ球菌を始め種々の微生物に対して抗菌性を示したと考えられる。また、比較例2では、試験後の菌数が接種した菌数とほぼ同じであり、抗菌性を有していないことが明らかとなった。これに対して、実施例1では、試験後には生菌数が認められず、顕著な抗菌性を示した。これは、従来抗菌性を有することが知られているキトサンを原料としており、繊維径がナノスケールのナノファイバ1aでは比表面積が増大するため、微生物との接触性が向上して抗菌性が向上したものと考えられる。このことから、ナノファイバ1aを用いることで、いわゆるナノサイズ効果により抗菌性が向上したものと考えられる。換言すれば、繊維径が1000nmを超える繊維で繊維層を構成しても抗菌性の向上を期待することは難しい。
【0061】
【表4】
【0062】
また、通気性の評価結果について、2層構造のPP製不織布の比較例4、濾過フィルタ用に使用されるセルロースシートの比較例6、2層のPP製不織布の間にキトサンのナノファイバ構造層1を挟んだ実施例2を比較して説明する。図8に示すように、比較例4では、密度が小さく空隙率が大きいため、差圧がほとんど認められない。一方、比較例6では、窒素ガスの流量が大きくなるほど差圧も大きくなり、30kPaを超えても更に増大する傾向を示している。これに対して、実施例2の積層体10では、若干の差圧が認められるが、10kPa以下に抑制されている。
【0063】
更に、微粒子捕捉率について比較すると、図9に示すように、比較例4では、微粒子捕捉率が38.9%であるのに対して、実施例2、比較例6では、微粒子捕捉率がそれぞれ100%、99.4%を示し、試験に使用したほぼ全ての微粒子を捕捉することが判明した。通気性と微粒子捕捉性とを合わせて考えると、比較例4では、通気性には優れるものの、微粒子捕捉性では十分な効果を得ることはできない。これは、空隙率が大きいためと考えられ、フィルタ材等の分離材としては使用できないことが明らかである。一方、比較例6では、微粒子捕捉性には優れるものの、通気性では流量の増加に伴い著しく低下するため、一時的な濾過等の分離材としては使用できたとしても、使用期間が長期になる場合には使用できない。これに対して、実施例2の積層体10では、微粒子捕捉性に優れると共に、圧力損失も小さく抑えることができるため、使用期間が長期に亘っても高性能なフィルタ材として使用することができることが判明した。
【0064】
また、引張強度について、食品包装用PE製フィルムの比較例3、2層構造のPP製不織布の比較例4、PP製不織布の比較例5、キトサンのナノファイバ構造層1の実施例1、キトサンのナノファイバ構造層1の両面にPP製不織布を加熱圧着した実施例2を比較して説明する。図10に示すように、比較例3、比較例5では、破断時の加重がそれぞれ0.3997N/mm2、0.4236N/mm2を示した。また、比較例4では、1.0530N/mm2を示し、1層構造の比較例5より引張強度が向上した。これは、合成樹脂系の繊維やフィルムでは高強度が得られ、2層貼り合わせることで引張強度が向上することを示している。一方、実施例1では、2回の測定結果を示しているが、それぞれ0.2414N/mm2、0.1289N/mm2を示した。このことから、ナノファイバ構造層1のみでは、繊維径がナノスケールであるため、シート状に形成しても十分な引張強度を得ることができないことが判った。これに対して、実施例2の積層体10では、引張強度が2.1080N/mm2と大幅に向上した。このことから、ナノファイバ構造層1の両面にPP製の不織布を貼り合わせて3層構造の積層体10とすることで、引張強度が格段に向上することが判った。
【0065】
次に、フィルタ用、マスク用、フェイスマスク用、細胞培養基材用にそれぞれ製造した実施例5〜実施例8の積層体10について順に説明する。
【0066】
表3に示すように、電界紡糸で厚さ290μm、密度0.12g/cm3のナノファイバ構造層1を形成し、両面にPP製不織布を貼り合わせた実施例5の積層体10では、抗菌性に優れることはもちろん、通気性、粒子捕捉性、引張強度についても各比較例より優れた結果を示した。また、この積層体10では、空隙率が92.4%、貫通孔径(図1の符号d1参照)が209〜1639nmの範囲に分布し、その平均が495nm、比表面積が25.92m2/gであることを確認した。比表面積が大きなことから、エンドトキシンやパイロジェン等の人体に影響する有害物質や色素等を吸着するキトサンの機能を向上させることが期待できる。これらの評価結果から総合的に考えると、微粒子捕捉性に優れると共に、圧力損失も小さく抑えることができることに加えて、キトサンの機能である抗菌性、吸着性を向上させることができるため、気体や液体中の有害物質等の除去(分離)を目的とした高性能フィルタ材用途向けに極めて有効であることが判明した。このようなフィルタ材用途に積層体10を適用する場合には、ナノファイバ構造層1を厚さ10〜1000μmの範囲、密度0.05〜0.5g/cm3の範囲に設定すると共に、支持材2を孔径1nm〜500μmの範囲とすることが好ましいことを確認している。
【0067】
また、表3に示すように、電界紡糸で厚さ200μm、密度0.10g/cm3のナノファイバ構造層1を形成し、両面にPP製不織布を貼り合わせた実施例6の積層体10では、抗菌性はもちろん、通気性、粒子捕捉性、引張強度についても各比較例より優れた結果を示した。また、この積層体10では、比表面積が大きく、柔軟性にも優れていることを確認した。このことから、人体等に直接触れたときに、柔軟性があることからしっかり密着させることができ、また、通気性にも優れることから蒸れやかぶれを抑制し、肌に対する刺激を低減することが期待できる。更には、ナノファイバ構造層1では毛細管現象(比表面積効果)により汗や老廃物を速やかに吸収することも期待できる。これらの評価結果から総合的に考えると、通気性を確保することができると共に、柔軟性があり、有害物質を除去することができるため、マスク等の衛生材料用途向けに極めて有効であることが判明した。このような衛生材料用途に積層体10を適用する場合には、ナノファイバ構造層1を厚さ10〜1000μmの範囲、密度0.05〜0.5g/cm3の範囲に設定すると共に、支持材2を孔径1nm〜500μmの範囲とすることが好ましいことを確認している。
【0068】
更に、表3に示すように、電界紡糸で厚さ100μm、密度0.10g/cm3のナノファイバ構造層1を形成し、片面にPE製フィルムのラミネート綿を貼り合わせた実施例7の積層体10では、抗菌性はもちろん、通気性、粒子捕捉性、引張強度についても各比較例より優れた結果を示した。また、この積層体10では、柔軟性に優れており、軽量で保湿性・保液性に優れることを確認した。このことから、キトサンのナノファイバ構造層1側を人体等にしっかりと密着させることができ、肌に対する刺激を低減することが期待できる。また、保湿性や保液性に優れることから、化粧用の保湿成分や乳液剤を保持することができるため、肌からの水分蒸散を抑制し、肌に直接乳液剤を付与することができる。更に、片面にPE製フィルムのラミネート綿が貼り合わされているため、ナノファイバ構造層1に保持した乳液剤等が滲出し蒸散することを抑制するため、乳液剤等を確実に肌に付与することができる。これらの評価結果から、柔軟性に優れると共に、保湿性や保液性に優れるため、フェイスマスク等の美容材料用途向けに極めて有効であることが判明した。このような美容材料用途に積層体10を適用する場合には、ナノファイバ構造層1を厚さ10〜1000μmの範囲、密度0.01〜0.5g/cm3の範囲に設定すると共に、支持材2に用いる樹脂フィルム材の厚さを100〜2000μmの範囲とすることが好ましいことを確認している。美容材料用途では、樹脂フィルムに代えて、多孔が形成された不織布等を支持材2として使用することも可能である。
【0069】
また、表3に示すように、電界紡糸で厚さ100μm、密度0.10g/cm3のナノファイバ構造層1を形成し、片面にポリ乳酸(PLA)製スパンボンド不織布を貼り合わせた実施例8の積層体10では、抗菌性、通気性、粒子捕捉性、引張強度のいずれについても各比較例より優れた結果を示した。また、ヒトやマウス由来の線維芽細胞等の動物細胞の培養基材として使用(積層体10の試料片に各細胞を播種し、37℃の雰囲気下で培養)したときに、細胞の生着性が向上し増殖性も優れていることを確認した。これは、キトサンのナノファイバ構造層1では、ナノスケールの繊維で形成されているため、細胞認識性が向上することが考えられる。また、通気性に優れることから貫通孔が形成されており、培養液の通液性にも優れていることが考えられる。これらの評価結果から、細胞や組織等を生体外で培養するときの培養基材として有効であることが判明し、培養により新たに構築された組織等を生体に戻す再生医療用途向けの材料として有望であることが期待できる。このような再生医療用途向けの培養基材に積層体10を適用する場合には、ナノファイバ構造層1を厚さ10〜1000μmの範囲、密度0.01〜0.5g/cm3の範囲に設定すると共に、支持材2を厚さ1μm〜10mmの範囲とすることが好ましいことを確認している。
【0070】
以上各実施例について具体的に説明したように、本実施形態の積層体10では、キチン・キトサン系材料のナノファイバ1aで形成されたナノファイバ構造層1の片面または両面に支持材2が貼り合わされている。このため、ナノファイバ構造層1の引張強度が不足しても、ナノファイバ構造層1が支持材2で支持されるので、実用上十分な強度を得ることができる。また、ナノファイバ構造層1がナノスケールの繊維径を有するキチン・キトサン系材料で形成されるため、ナノサイズ効果によりキチン・キトサン系材料の機能、特に抗菌性の向上を図ることができる。種々のキチン・キトサン系材料の機能のうち、色素吸着性、タンパク質吸着性、核酸吸着性について、上述した抗菌性、通気性、粒子捕捉性、引張強度と合わせて評価した結果を下表5にまとめて示した。
【0071】
【表5】
【0072】
表5では、実施例1、実施例2、実施例4の積層体10、および、比較例4、比較例6のシート材について、各機能の比較例1のシート材に対する相対評価を示している。すなわち、比較例1より優れている;○印、比較例1と同等である;△印、比較例1より劣っている;×印で示している。表5から、各実施例はいずれもキトサンの機能が向上していることが判る。
【0073】
このような性能を有する本実施形態の積層体10は、種々の用途に適用することができる。例えば、空気清浄用高性能フィルタ(実施例5参照)に代表される環境分野、高機能性マスク(実施例6参照)に代表される衛生分野、美容用フェイスマスク(実施例7参照)に代表される化粧品分野、細胞培養基材(実施例8参照)に代表される再生医療分野での材料として使用することができる。更には、キチン・キトサン系材料の機能を考慮すれば、例えば、医療分野における創傷治癒被覆材、医療ガーゼ、手術用ドレス、人工透析膜用材料等、医薬品分野における生物医薬製造用の有害物(エンドトキシン等)除去フィルタ材、食品分野における鮮度保持シートや包装資材、等にも使用可能な材料として期待することができる。
【0074】
なお、本実施形態では、キチン・キトサン系材料を主成分とするナノファイバ1aの材料にキトサンを用いる例を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、キチン、キトサンの分解物や誘導体を用いてもよい。また、本実施形態では、ナノファイバ1aを紡糸する方法として電界紡糸法を例示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、繊維径がナノスケールの繊維を紡糸することができる方法であれば、いかなる方法を用いてもよい。更に、本実施形態では、電界紡糸するときにナノファイバ構造層1を水平に形成する方法を例示したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、図4(B)に示すように、電界紡糸装置20の導電基板24を垂直に配置すれば、ナノファイバ構造層1を垂直に形成することができる。
【0075】
また、本実施形態では、積層体10を積層体製造装置40を使用して連続的に製造する例を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、所望のサイズに裁断した支持材2の上にナノファイバ構造層1を形成するようにしてもよく、更に、ナノファイバ構造層1の上に支持材2を積層するようにしてもよい。
【0076】
更に、本実施形態では、ナノファイバ構造層1の微多孔の孔径d1を100〜1600nmの範囲とする例を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、細菌やカビ、粉塵などの微細粒子の捕捉を目的とした場合には、孔径d1を500nm以下とすることが好ましく、より好ましくは250nm以下とする。このような孔径d1は、紡糸液調製に用いるキチン・キトサン系材料の分子量や濃度、紡糸液に添加する紡糸助剤の種類、温度や湿度、紡糸時間等の紡糸条件等を選択することで調整することができる。また、本実施形態では、ナノファイバ構造層1の厚さを10μm以上とする例を示したが、本発明はこれに限定されるものではない。ナノファイバ構造層1の厚さは、積層体10の性能や強度、用途に応じて任意に調整すればよい。厚さが大きいほど孔径d1の平均値が小さくなり、微細な粒子を捕捉しやすくなるのに対して、厚さが小さいほど、性能があっても強度が不十分な場合があるので、最低でも0.1μmの厚さが必要であり、厚さを1μm以上とすることが好ましい。
【0077】
また更に、本実施形態では、キチン・キトサン系材料を電界紡糸してナノファイバ構造層1を形成する例を示したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、ナノファイバ構造層1の強度や性能を向上させるために、合成高分子材料を同時に電界紡糸や溶融紡糸するようにしてもよい。このような合成高分子材料としては、例えば、酢酸セルロース、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステルなどを挙げることができる。合成高分子材料を電界紡糸するときの溶剤は、材料に合わせて選択すればよく、例えば、アセトンやN,N−ジメチルホルムアミド、メタノール、氷酢酸などを挙げることができる。また、電界紡糸では紡糸液に使用した溶解剤の酸が残留することがあるが、乾燥時に加熱することで酸を除去することができる。加熱による酸の除去が不十分な場合には、中和、洗浄を行うようにしてもよい。
【0078】
更にまた、本実施形態では、キトサンを電界紡糸したナノファイバ構造層1を例示したが、例えば、積層体10を使用する用途により、強度の向上を図るためにキトサンを架橋剤で架橋するようにしてもよい。このようにすれば、特に、ナノファイバ1aが水中等で膨潤することを抑制することができるので、積層体10を水中等で使用するときの性能を確保することができる。架橋は、2つ以上の官能基を有する架橋剤とキトサンとを混合し、架橋剤の官能基とキトサンのアミノ基とを反応させることで行うことができる。このような架橋剤としては、例えば、グルタールアルデヒド、カルボジイミド、カルボニルイミダゾール、ジエポキシ化合物、ジカルボン酸無水物、エピクロルヒドリン等を挙げることができる。架橋する場合の架橋度は、0.01〜100%の範囲で設定することができるが、架橋度が高すぎる場合にはナノファイバ構造層1の柔軟性や抗菌性を低下させることとなるので、架橋度を0.1〜30%の範囲で設定することが好ましい。また、架橋した場合には、例えば、精製水や生理食塩水、リン酸緩衝液等の各種の緩衝液、エタノール、アセトン等で架橋剤が残留しないように十分に洗浄することが好ましい。
【0079】
また、本実施形態では、ナノファイバ構造層1と支持材2とを加熱圧着により貼り合わせる例を示したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、化学接着剤により貼り合わせるようにしてもよく、支持材2の材質や積層体10の用途に応じて加熱圧着および化学接着のいずれかまたは両方を組み合わせるなど選択すればよい。更に、本実施形態では、ナノファイバ構造層1の両面に支持材2を貼り合わせる例を示したが、用途によっては、片面のみに支持材2を貼り合わせることも可能である(実施例3参照)。
【0080】
本実施形態で例示したように、ポリエチレンやポリプロピレン等の熱溶融性を有する材料を支持材2に使用した場合には、ナノファイバ構造層1と支持材2とを直接重ね加熱することで貼り合わせることができる。綿やパルプ等の非熱溶融性の材料を支持材2に使用する場合には、ナノファイバ構造層1と支持材2との間に熱溶融性の接着用樹脂を介在させて重ね加熱する。接着用樹脂を介在させる方法としては、接着用樹脂(粉末)の懸濁液をドット方式、スキャタ方式でコーティングする方法、蜘蛛の巣状のネットをナノファイバ構造層1と支持材2との間に挟み込んだ後に熱接着する方法、ナノファイバ構造層1を作製するときに紡糸液に接着用樹脂を混ぜて紡糸しそのまま加熱接着する方法等を挙げることができる。
【0081】
使用可能な接着用樹脂としては、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリ乳酸、エチレン酢酸ビニル共重合体、キシレン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド、メラミン樹脂、マレイン酸樹脂、ポリオレフィン系エマルジョン、ポリカプロラクトン、ニトロセルロース、酢酸セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、エチルセルロース、メチルセルロース、ポリビニルエーテル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、カルボキシビニルポリマー、プルラン、でんぷん、でんぷん誘導体、キトサン塩、キトサン誘導体、水溶性キチン誘導体、ヒアルロン酸塩、コンドロイチン硫酸塩、ペクチン塩、ペクチン誘導体、アルギン酸塩、アルギン酸誘導体、膠、ゼラチン、ゴム等を挙げることができる。
【0082】
また、加熱圧着する場合に200℃を超えて軟化する接着用樹脂を用いると、加熱によりキチン・キトサン系材料が変質してしまい機能が損なわれる可能性があるため、加熱温度をキチン・キトサン系材料の機能低下を起こさない温度とすることが好ましい。接着用樹脂のうち、ポリエチレン(軟化点100℃、溶融点125℃)、ポリプロピレン(軟化点140℃、溶融点165℃)、ナイロン(軟化点180℃、溶融点215℃)、エチレン酢酸ビニル重合体(軟化点50〜60℃)、ポリオレフィン系エマルジョン(85〜90℃)等は、200℃を超えることなく熱溶融(軟化)するため、キチン・キトサン系材料の変質を防止することができる。
【0083】
更に、本実施形態で示したように、加熱圧着するときに加圧ローラ37等で加圧することにより、ナノファイバ構造層1と支持材2との剥離を起こり難くすることができ、積層体10の厚さを略均一に形成することができる。支持材2を予め所望のサイズに裁断した後、積層体10を形成する場合には、通常の熱プレス機等を使用してもよいことはもちろんである。また、50〜200℃の熱風雰囲気下で接着用樹脂を熱溶融させることで、積層体10を嵩高構造に形成することもできる。
【0084】
ナノファイバ構造層1と支持材2とを化学接着剤で貼り合わせる場合には、化学接着剤をナノファイバ構造層1に塗布して化学反応等により支持材2と接着させる。化学接着剤を塗布する方法としては、ナノファイバ構造層1または支持材2に剥離しない程度の極微量の化学接着剤をノズルから噴霧する方法等がある。例えば、ナノファイバ構造層1の片面に支持材2を貼り合わせるときは、図11に示すように、積層体製造装置40の電界紡糸装置20の上流側(供給ローラ32側)に噴霧ノズルを有する噴霧装置34を配置することで連続的に噴霧することも可能である(図3(B)も参照)。また、ナノファイバ構造層1の両面に支持材2を貼り合わせるときは、図3(A)に示すように、紡糸ノズル22の上流側および熱風乾燥機35の下流側にそれぞれ噴霧装置34を配置するようにする。噴霧後、速やかに重ねて加圧ローラ37やプレス機等で押圧して化学接着剤を硬化させる。硬化のときには、例えば、熱風乾燥機や熱プレス機等を用いてもよく、パルプ製不織布や綿ガーゼなどの熱溶着ができない材料を支持材2に使用する場合に有効である。また、噴霧装置34で希薄な酸性水溶液を噴霧した後キトサンのナノファイバ構造層1を形成するようにすれば、支持材2に浸透した酸性水溶液でキトサンが軟化するため、ナノファイバ1a同士が接着することでナノファイバ構造層1の層間剥離を防止することができる。
【0085】
使用可能な化学接着剤としては、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、カルボキシビニルポリマー、プルラン、でんぷん糊などの水溶性接着剤、ポリビニルエーテル、熱硬化性樹脂であるキシレン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂やウレタン樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド、メラニン樹脂、マレイン酸樹脂等を挙げることができる。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明はキチン・キトサン系材料の機能を向上させることができると共に、実用上十分な強度を有する積層体を提供するため、種々の用途に使用可能な積層体の製造、販売に寄与するため産業上の利用可能性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明に係る実施形態の積層体を示す断面図である。
【図2】実施形態の積層体を製造するための積層体製造装置を模式的に示す断面図である。
【図3】積層体製造装置を模式的に示す斜視図であり、(A)はナノファイバ構造層の両面に支持材を貼り合わせる両面積層体の製造装置を示し、(B)はナノファイバ構造層の片面に支持材を貼り合わせる片面積層体の製造装置を示す。
【図4】実施形態のナノファイバ構造層を作製する電界紡糸装置の概要を模式的に示す断面図であり、(A)はナノファイバ構造層を水平に形成する水平形成装置を示し、(B)はナノファイバ構造層を垂直に形成する垂直形成装置を示す。
【図5】電子顕微鏡写真であり、(A)は実施例1のナノファイバ構造層の表面、(B)は比較例1の不織布の表面をそれぞれ示す。
【図6】実施例2の積層体の表面を示す電子顕微鏡写真である。
【図7】実施例2の積層体の傾斜断面を示す電子顕微鏡写真である。
【図8】実施例の積層体および比較例のシート材について、窒素ガスの通過に対する圧力差の比較を示すグラフである。
【図9】実施例の積層体および比較例のシート材について粒子捕捉性の測定結果を示すグラフである。
【図10】実施例の積層体および比較例のシート材について引張強度の測定結果を示すグラフである。
【図11】実施形態の積層体製造装置に液体を噴霧する噴霧装置を配置したときの積層体の製造を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0088】
1 ナノファイバ構造層(ナノ繊維層)
2 支持材(フィルム材)
2a ナノファイバ(ナノ繊維)
10 積層体
20 電界紡糸装置
40 積層体製造装置
【技術分野】
【0001】
本発明はキチン・キトサン系材料を含む積層体に係り、特に、キチン・キトサン系材料を主成分とし繊維径がナノスケールのナノ繊維で構成されたナノ繊維層を有する積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
未知のウィルスや有害物を高度に除去するための分離技術を始めとして、シート状の部材(シート材)を使用する技術は多岐に亘り、様々な分野で種々の機能性を有するシート材の開発が盛んに行われている。特に、不織布に代表される繊維材料を使用したシート材は、成形性や加工性の観点から広く使用されている(非特許文献1参照)。
【0003】
シート材の開発の中でも、繊維径がナノスケールのナノ繊維を使用したシート材が注目されている。ナノ繊維を使用したシート材では、既存の繊維材料(繊維径20〜30μm程度)を使用したシート材と比べて、比表面積が格段に大きくなるため、ウィルスや有害物等の吸着性が約100倍以上に向上し粒子捕捉性に優れること、動植物細胞による認識性が向上すること(高細胞認識性)、気体や液体の通過に際し圧力損失が低減すること(低圧損性)など、種々の機能の向上を図ることができる。このため、環境、衛生、健康および医療等の多くの分野で、ナノ繊維を使用したシート材の開発が進展している(非特許文献2参照)。
【0004】
一方、キチン・キトサン系材料は、天然由来の高分子材料であり、抗菌性、保湿性、物質吸着性、生体親和性等の様々な機能が見いだされている。キチンは、N−アセチルグルコサミンを構成糖とする天然多糖であり、カニ、エビなどの殻を脱タンパク処理、脱灰処理することで分離、精製されている。また、キトサンは、グルコサミンを構成糖としたカチオン性多糖であり、キチンを原料とし脱アセチル化処理することで製造されている。キチンの資源量は、地球上で年間一千億トンが生合成されると推定されている。この豊富な資源量を背景に、様々な分野でキチン・キトサン系材料の活用が図られている。キチン・キトサン系材料は、例えば、廃水等の処理剤、食品用の日持ち向上剤、機能性食品用原料、繊維の加工処理剤などに利用されており、人や環境に優しい(刺激等の悪影響が小さい)天然系素材として注目されている(非特許文献3参照)。
【0005】
このようなキチン・キトサン系材料をシート材に使用することで、キチンやキトサンの様々な機能の有効活用を図ることができる。本発明者らは、例えば、電界紡糸法によりキチン・キトサン系材料のナノ繊維を形成することができることを見いだし、キチン・キトサン系材料の生体親和性や生体吸収性に着目して、医療用の材料(医用材料)に使用するためのキチン・キトサン系材料のナノ繊維に関する技術を開示している(特許文献1参照)。このナノ繊維で形成されるシート材では、キチンやキトサンの抗菌性や生体親和性、イオン交換性能等を発揮すると共に、ナノ繊維による多孔構造に起因する気体や液体の通過性、精密濾過性などの機能も期待できる。
【0006】
【特許文献1】特開2005−290610号公報
【非特許文献1】機能性不織布の新展開(日向明監修、株式会社シーエムシー出版発行、2004年、ISBN4−88231−447−9 C3058)
【非特許文献2】ナノファイバーテクノロジーを用いた高度産業発掘戦略(本宮達也監修、株式会社シーエムシー出版発行、2004年、ISBN4−88231−424−X C3043)
【非特許文献3】キチン、キトサンの開発と応用(平野茂博監修、株式会社シーエムシー出版発行、2004年、ISBN4−88231−432−0 C3058)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、キチン・キトサン系材料が天然由来の高分子材料のため、一般に合成高分子材料が強靱であるのと比較して強度が小さい傾向がある。また、ナノ繊維を形成するための紡糸過程で溶媒を瞬時に蒸散させるため、繊維径をナノスケールまで細くすることはできるものの、得られるナノ繊維ではキチンやキトサンの分子が配向せず結晶化していないことが多い。このため、汎用合成高分子の繊維材料と比較して強度が極端に小さくなる。このようなキチン・キトサン系材料のナノ繊維を使用したシート材では、ナノ繊維を薄くランダムに堆積させることで形成されるが、繊維同士の結合性が十分とはいえず、容易に層間剥離や破損が生じる。このため、用途によっては、実用上十分な強度を得ることができず使用が著しく制限される、という問題がある。
【0008】
本発明は上記事案に鑑み、キチン・キトサン系材料の機能を向上させることができると共に、実用上十分な強度を有する積層体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、キチン・キトサン系材料を主成分とし繊維径がナノスケールのナノ繊維で構成されたナノ繊維層と、前記ナノ繊維層の片面または両面に配置され該ナノ繊維層を支持するフィルム材とを有することを特徴とする。
【0010】
本発明では、ナノ繊維層の片面または両面に配置され該ナノ繊維層を支持するフィルム材を有しナノ繊維層がフィルム材で支持されるので、通常ではナノ繊維層の強度不足のため実用上の使用が著しく制限されるのと比較して、実用上十分な強度を確保することができると共に、ナノ繊維が抗菌性を有するキチン・キトサン系材料を主成分としており、ナノ繊維層は該ナノ繊維層を構成するナノ繊維の比表面積が増大し抗菌性も増大することから、積層体を種々の用途に適用することができる。
【0011】
この場合において、フィルム材に気体ないし液体の通過を許容する多孔が形成されており、多孔がナノ繊維層のナノ繊維で形成される微多孔より孔径を大きくすれば、ナノ繊維層の気体ないし液体の通過性がフィルム材で阻害されないので、気体ないし液体の通過を伴う用途に好適に使用することができる。このとき、ナノ繊維層の密度を0.01g/cm3以上とすることが好ましい。また、ナノ繊維層の厚さを10μm以上とすることが好ましい。ナノ繊維の繊維径を1000nm以下としてもよい。このようなナノ繊維で構成されたナノ繊維層が繊維径1000nmを超える繊維で構成された繊維層より大きい抗菌性を有することから、抗菌性を要する用途にも用いることができる。また、フィルム材を不織布、織物、編物、繊維網または樹脂フィルムとしてもよい。このとき、フィルム材の厚さを20mm以下とすることが好ましい。また、フィルム材に形成された多孔を孔径1nm以上とすることが好ましい。
【0012】
また、この場合において、フィルム材には、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ乳酸、綿、レーヨン、パルプおよびこれらの誘導体から選択される単独または複数の組み合わせを材質とすることができる。キチン・キトサン系材料を、キチン、キトサン、キチンまたはキトサンの分解物、および、キチンまたはキトサンの誘導体から選択される単独または複数の組み合わせとすることができる。このようなナノ繊維層およびフィルム材が、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ乳酸、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、エポキシ樹脂、フェノール樹脂およびでんぷんから選択される単独または複数の接着成分により貼り合わされるようにしてもよい。
【0013】
本発明の積層体は、種々の用途に適用することができる。例えば、美容材料用途ではナノ繊維層を厚さ10μm〜1000μmの範囲、密度0.01g/cm3〜0.5g/cm3の範囲、フィルム材を厚さ100μm〜2000μmの範囲の樹脂フィルムとし、再生医療材料用途ではナノ繊維層を厚さ10μm〜1000μmの範囲、密度0.01g/cm3〜0.5g/cm3の範囲、フィルム材を厚さ1μm〜10mmの範囲とし、フィルタ用途ではナノ繊維層を厚さ10μm〜1000μmの範囲、密度0.05g/cm3〜0.5g/cm3の範囲、フィルム材に形成された多孔を孔径1nm〜500μmの範囲とし、衛生材料用途ではナノ繊維層を厚さ10μm〜1000μmの範囲、密度0.05g/cm3〜0.5g/cm3の範囲、フィルム材に形成された多孔を孔径1nm〜500μmの範囲とすることが好適である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ナノ繊維層の片面または両面に配置され該ナノ繊維層を支持するフィルム材を有しナノ繊維層がフィルム材で支持されるので、通常ではナノ繊維層の強度不足のため実用上の使用が著しく制限されるのと比較して、実用上十分な強度を確保することができると共に、ナノ繊維が抗菌性を有するキチン・キトサン系材料を主成分としており、ナノ繊維層は該ナノ繊維層を構成するナノ繊維の比表面積が増大し抗菌性も増大することから、積層体を種々の用途に適用することができる、という効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明に係る積層体の実施の形態について説明する。
【0016】
図1に示すように、本実施形態の積層体10は、キチン・キトサン系材料を主成分とするナノファイバ(ナノ繊維)1aで構成されたナノ繊維層としてのナノファイバ構造層1を有している。
【0017】
ナノファイバ構造層1は、電界紡糸法を用いて紡糸されたナノファイバ1aを層状に堆積させることでシート状に形成されている。ナノファイバ1aは、キチン・キトサン系材料を溶解した紡糸液を紡糸することにより繊維径がナノスケールに形成されている。本例では、ナノファイバ1aの繊維径が1000nm以下に形成されている。ナノファイバ構造層1の厚さは、取り扱い性や強度等を考慮して10μm以上に形成されている。ナノファイバ構造層1の密度は、気体や液体の通過性を考慮して0.01g/cm3以上に形成されている。ナノファイバ構造層1には、ナノファイバ1a同士の繊維間隙で、気体や液体の通過が可能な微多孔が形成されている。この微多孔の孔径d1は、ナノファイバ1aの繊維径やナノファイバ構造層1の密度を調整することで100〜1600nmの範囲に調整されている。
【0018】
ナノファイバ構造層1の両面には、ナノファイバ構造層1を支持するフィルム材としての支持材2が配置されている。ナノファイバ構造層1と各支持材2との間に熱溶着性樹脂や化学接着剤を介在させることにより、加熱圧着や圧着等で貼り合わされている。支持材2には、繊維材料2aを使用して形成された不織布、織布、編物、繊維網(メッシュ)や、合成樹脂製の樹脂フィルムが使用されている。不織布等を形成する繊維材料2aには、汎用の合成繊維や天然系繊維が使用されている。繊維材料2aの材質としては、例えば、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリエチレンナフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、アクリル、アクリル系、ラテックス、ポリスルホン、ポリテトラフルオロエチレンやポリフッ化ビニリデンなどのフッ素樹脂、ポリ乳酸、酢酸セルロースやヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース誘導体、ポリビニルアルコール、ポリウレタン、ポリエチレンオキシド、ポリカプロラクトン、綿、麻、レーヨン、ポリノジック、パルプ、羊毛、絹、アルミナやガラス、セラミック、炭化ケイ素、ロックウール、炭素、ボロン等を挙げることができる。これらの単独若しくは複数の組み合わせにより不織布等が形成されている。支持材2に使用される不織布としては、スパンボンド法、サーマルボンド法、ケミカルボンド法、スパンレース法、ニードルパンチ法、ステッチボンド法、湿式法(抄紙法)エアレイ法等の一般的な方法で製造された不織布を使用することができる。織物、編物、繊維網としては、編織組織や編織方法等に制限されず汎用の編織物を使用することができる。
【0019】
支持材2の厚さは、取り扱い性や強度等を考慮して20mm以下に形成されている。支持材2の密度は、気体や液体の通過性を考慮して0.6g/cm3以下に形成されている。支持材2には、繊維材料2a同士の繊維間隙で、気体や液体の通過を許容する多孔が形成されている。支持材2に形成された多孔は、孔径d2がナノファイバ構造層1に形成された微多孔の孔径d1より大きく形成されている。孔径d2は、繊維材料2aの繊維径や支持材2の密度を調整することで1nm以上に調整されている。
【0020】
積層体10は、一方の支持材2の上面に電界紡糸法により紡糸したナノファイバ1aを積層してナノファイバ構造層1を形成し、他方の支持材2を更に重ね合わせて加熱圧着することで製造される。この積層体10の製造には、電界紡糸装置を備えた積層体製造装置が使用される。
【0021】
図2に示すように、積層体製造装置40は、電界紡糸装置20を備えている。電界紡糸装置20の上流側には、一方の支持材2となるポリプロピレン(以下、PPと略記する。)繊維製のスパンボンド不織布を供給するための供給ローラ32が配置されている。電界紡糸装置20の下流側には、支持材2の上面に形成されたナノファイバ構造層1を乾燥させるための熱風乾燥機35が配置されている。熱風乾燥機35は支持材2に形成されたナノファイバ構造層1に上方から熱風を吹き付けるブロアを有している。熱風乾燥機35の下流側には他方の支持材2となるPP繊維製のスパンボンド不織布を供給するための供給ローラ33が配置されている。供給ローラ33から供給されるスパンボンド不織布は乾燥させたナノファイバ構造層1の上面側に積層される。供給ローラ33の下流側には、ナノファイバ構造層1とその両面に配置された支持材2との間を加熱圧着させるための1対の加熱可能な加圧ローラ37が配置されている。加圧ローラ37の下流側には、加熱圧着した積層体10を巻き取るための巻取ローラ38が配置されている。なお、加圧ローラ37、巻取ローラ38は図示を省略した回転駆動モータに接続されており、これらの回転駆動力により供給ローラ32から供給された支持材2が、電界紡糸装置20でナノファイバ構造層1が積層され供給ローラ33から供給された支持材2が積層され、加圧ローラ37を介して巻取ローラ38まで搬送される。
【0022】
電界紡糸装置20による電界紡糸では、紡糸時の環境湿度を調整する必要があるため、図3(A)に示すように、積層体製造装置40は外気の入出を極力回避することができるように筐体39に収容されている。製造環境の湿度条件は、ナノファイバ1aの繊維径に大きく影響し、湿度が高すぎると紡糸が難しく(繊維状になりにくく)なるため、除湿等を行うことで湿度を低下させることが好ましい。反対に、湿度が低すぎると紡糸液を噴霧する紡糸ノズルの先端が乾燥しやすくなり、紡糸液で目詰まりを起こしやすくなる。このため、環境湿度を20〜60%、好ましくは、30〜50%に調整することが好ましい。
【0023】
電界紡糸装置20では、キチン・キトサン系材料を溶解させた紡糸液に高電圧を印加することで紡糸液を紡糸ノズルから噴霧させ、供給ローラ32から供給された支持材2の上面にナノファイバ構造層1を形成させる。
【0024】
図4(A)に示すように、電界紡糸装置20は、紡糸液を噴霧するための金属製の紡糸ノズル22を有している。紡糸ノズル22は、先端が下方側となるように略垂直に積層体製造装置40の筐体39に支持されている。紡糸ノズル22の先端の口径は、ナノファイバ1aの繊維径に合わせて0.05〜5.0mmに形成されている。紡糸ノズル22には、紡糸液を貯留する図示しない紡糸液槽から不図示の供給ポンプで紡糸液が送液される。紡糸ノズル22には、2〜30kVの高電圧を発生可能な電源Vが接続されている。紡糸ノズル22の下方には導電基板24が略水平に配置されている。導電基板24および電源Vはそれぞれ接地されている。なお、説明を簡単にするため、図4(A)では、紡糸ノズル22を1本のみ示しているが、積層体製造装置40では複数の紡糸ノズル22を使用することができる(図3(A)参照)。
【0025】
紡糸ノズル22の先端および導電基板間に電源Vにより2〜30kVの高電圧が印加されると、図示しない紡糸液槽から紡糸ノズル22に送液された紡糸液が紡糸ノズル22の先端から霧状に噴霧されるエレクトロスプレー現象が生じる。噴霧された紡糸原料が分子間に作用する電気的反発力により繊維状となる。供給ローラ32から供給された支持材2が導電基板24上を通過するときに、繊維状の紡糸原料が支持材2の上面にシート状に堆積してナノファイバ構造層1が形成される。紡糸液を噴霧する時間によりナノファイバ構造層1の厚さを調整することができる。
【0026】
紡糸液は、主成分のキチン・キトサン系材料を溶解剤に溶解させることで調製されている。紡糸液には、キチン・キトサン系材料との相溶性を有するポリエチレングリコールやポリビニルアルコール等の水溶性高分子等の紡糸助剤が用途に合わせて適宜配合されている。紡糸助剤を加えることで電界紡糸時の噴霧状態の安定化を図ることができる。紡糸助剤の添加量は、例えば、キトサン1重量部に対して、0.001〜1重量部(濃度0.1〜100%)とする。
【0027】
紡糸原料のキチン・キトサン系材料には、キチン、キトサン、それらの分解物または誘導体が用いられている。キチンは、N−アセチルグルコサミンを構成単糖とする多糖類(ポリマー)であり、そのアセチル化度(単糖のアミノ基がアセチル化された割合)が90〜100%である。キトサンは、キチンを脱アセチル化処理することで得られるポリマーであり、脱アセチル化度(キチンのアミノアセチル基が脱アセチル化された割合)が65〜100%である。紡糸原料に用いるキトサンは、酸可溶性を有しており、商業的に入手できるものであれば特に限定されるものではない。キトサンの分子量が極端に低いと熱などで変質しやすく、強度的に脆いものとなり、逆に、分子量が高いと紡糸液を調製するときに粘性が高くなり、溶解性、可紡性(紡糸のしやすさ)等の面で取り扱いが難しくなる。このため、キトサンの分子量を10,000〜1,000,000の範囲、好ましくは、30,000〜500,000の範囲とすることが好ましい。なお、キトサンの分子量は、例えば、標準物質として分子量既知のプルランを使用し光散乱検出器を用いた高速液体クロマトグラフィによるゲルパーミエーション法(昭和電工株式会社製、Asahipack7M−HQカラムなどを使用)で容易に測定することができる。
【0028】
キチン・キトサンの分解物としては、キチンオリゴ糖、キトサンオリゴ糖や水溶性キトサン(分子量20,000〜3,000)等を挙げることができる。また、キチン・キトサンの誘導体としては、脱アセチル化度を40〜60%に調製した部分脱アセチル化キチン、ヒドロキシプロピル化キトサン、カルボキシメチル化キチン、カルボキシメチル化キトサン、硫酸化キトサン、硫酸化キチン、四級化キトサン等を挙げることができる。このようなキチン・キトサンの誘導体や分解物を用いることで、キチン・キトサン系材料の細胞賦活性や保湿性、抗ウィルス活性、抗菌性等の様々な機能を向上させたり、付与したりすることができる。
【0029】
紡糸液の調製に使用する溶解剤は、用いる紡糸原料の溶解に適したものが使用される。例えば、紡糸原料にキトサンを用いる場合には、塩酸、酢酸、乳酸、アスコルビン酸、リンゴ酸等の有機酸、ピロリドンカルボン酸、グルタミン酸やアスパラギン酸等から選択される。溶解剤に溶解させる紡糸原料の濃度は、ナノファイバ1aの生産性、紡糸後のナノファイバ1aの繊維構造や性能等に影響するため、可能な限り高くすることが望ましいが、紡糸液調製時の溶解性や可紡性等も考慮すると、1〜30重量%、より好ましくは、5〜25%とすることが好ましい。
【0030】
紡糸液を紡糸液槽に仕込み、エア等による加圧または液体輸送ポンプで紡糸ノズル22に送液し、電源Vで高電圧を印加する。紡糸ノズル22は、図4(A)に示すように1本でも可能であるが、実用上、図3(A)に示すように複数の紡糸ノズル22を使用して同時に噴霧するようにすればナノファイバ構造層1を効率よく得ることができる。また、複数の紡糸ノズル22を使用することで、ナノファイバ構造層1の厚さや密度を効率よく調整することができる。
【0031】
上面にナノファイバ構造層1が形成された支持材2は、熱風乾燥機35に搬送されブロアからの熱風で乾燥させる。このとき、キトサンの溶解剤に酢酸を用いた場合には、ナノファイバ構造層1に残留する酢酸が加熱除去されることで、ナノファイバ1aの耐水性を向上させることができる。乾燥したナノファイバ構造層1は下流側に搬送され、供給ローラ33から供給された支持材2がナノファイバ構造層1の上面側に積層される。
【0032】
支持材2が両面に配置されたナノファイバ構造層1は、加圧ローラ37に搬送される。加圧ローラ37間を通過するときに、支持材2、ナノファイバ構造層1が加熱圧着され複合一体化された積層体10が形成される。加熱圧着された積層体10は巻取ローラ38に巻き取られる。
【実施例】
【0033】
次に本実施形態に従い製造した積層体10の実施例、および、フィルタ用途、マスク等の衛生材料用途、フェイスマスク等の美容材料用途、細胞培養用基材等の再生医療用途の各用途向けに製造した積層体10の実施例について説明する。なお、比較例として用いた種々のシート材についても併記する。
【0034】
(実施例1)
下表1に示すように、実施例1では、紡糸原料として、カニ殻から分離精製されたキトサン(共和テクノス株式会社製、分子量約30,000)を用いた。18%キトサン・6%酢酸(w/w)のキトサン溶液と、5%ポリエチレンオキシド(和光純薬工業株式会社製、分子量500,000)とを8:2の重量比で均一に混合し(20℃における粘度200〜400cp)紡糸液とした。この紡糸液では、キトサンとポリエチレンオキシドとの重量比が93.5:6.5となる。紡糸ノズル22には金属製ニードル23G(武蔵エンジニアリング製、SUS304)を使用し、紡糸時には18kVから最大30kVの電圧を印加した。電界紡糸では、導電基板24上に直接噴霧し、厚さ70μm、密度0.03g/cm3のナノファイバ構造層1を単独で形成した。紡糸時の環境条件は、温度20〜30℃(室温)、湿度20〜50%に設定した。得られたナノファイバ構造層1を走査型電子顕微鏡(トプコン製、SM−200)にて表面観察したところ、繊維径100〜300nmの繊維構造が確認された。なお、得られたキトサンのナノファイバ構造層1の厚さは、厚さ0.01〜10mmの場合には膜厚計(尾崎製作所製)で、厚さ0.1〜10μmの場合には走査型電子顕微鏡で測定したものである。
【0035】
【表1】
【0036】
(実施例2)
表1に示すように、実施例2では、支持材2としてPP製のスパンボンド不織布(日本不織布株式会社製、目付:20g/m2)を用いた。積層体製造装置40を使用し、実施例1と同じ条件で電界紡糸を行い厚さ165μm、密度0.07g/cm3のナノファイバ構造層1の両面に支持材2を加熱圧着した(140℃、加圧2MPa)。すなわち、実施例2の積層体10はナノファイバ構造層1を両側から支持材2が挟んだサンドイッチ構造を有している。
【0037】
(実施例3)
表1に示すように、実施例3では、支持材2としてパルプ製の乾式不織布(ライオン株式会社製、目付78g/m2)を用いた。図3(B)に示すように、供給ローラ33を有していない積層体製造装置40を使用し、積層体10を製造した。積層体製造装置40の供給ローラ32から供給したパルプ製不織布に、ナノファイバ構造層1を形成する前に、ポリビニルアルコール(和光純薬工業株式会社製、重合度2000、完全けん化品)(以下、PVAと略記する。)の5%水溶液を5mm間隔で1μLずつスポットした。実施例2と同様に電界紡糸を行い厚さ165μm、密度0.07g/cm3のナノファイバ構造層1を形成し、100℃で熱風乾燥後、ナノファイバ構造層1の上側には支持材2を供給せずに加圧ローラ37で加圧した。すなわち、実施例3の積層体10は、ナノファイバ構造層1の片面のみに支持材2を有している。
【0038】
(実施例4)
表1に示すように、実施例4では、支持材2としてポリエチレン(以下、PEと略記する。)製のスパンボンド不織布(日本不織布株式会社製、目付:20g/m2)を使用した。加熱圧着条件を120℃、加圧1MPaとする以外は実施例2と同様にした。
【0039】
(実施例5)
表1に示すように、実施例5では、電界紡糸で厚さ290μm、密度0.12g/cm3のナノファイバ構造層1を形成した以外は実施例2と同様にした。実施例5の積層体10は、フィルタ用途向けに製造したものである。
【0040】
(実施例6)
表1に示すように、実施例6では、電界紡糸で厚さ200μm、密度0.10g/cm3のナノファイバ構造層1を形成した以外は実施例2と同様にした。実施例6の積層体10は、マスク等の衛生材料用途向けに製造したものである。
【0041】
(実施例7)
表1に示すように、実施例7では、支持材2としてPE製フィルムのラミネート綿(コットン)(表1において、PE綿と略記している。)を使用し、電界紡糸で厚さ100μm、密度0.10g/cm3のナノファイバ構造層1を形成し、供給ローラ33から支持材2を供給しない以外は実施例2と同様にした。実施例6の積層体10は、フェイスマスク等の美容材料用途向けに製造したものである。
【0042】
(実施例8)
表1に示すように、実施例8では、支持材2としてポリ乳酸(表1において、PLAと略記している。)製のスパンボンド不織布を使用した以外は実施例7と同様にした。実施例6の積層体10は、細胞培養用基材等の再生医療用途向けに製造したものである。
【0043】
(比較例1)
下表2に示すように、比較例1では、繊維径20μmのキトサン繊維で作製した厚さ350μmの不織布(スパンレース法、目付:40g/m2)を使用した。
【0044】
【表2】
【0045】
(比較例2)
表2に示すように、比較例2では、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略記する。)製のスパンボンド不織布(日本不織布株式会社製、目付:12g/m2)を使用した。
【0046】
(比較例3)
表2に示すように、比較例3では、食品包装用のラップ材のPE製のフィルム(株式会社クレハ製、厚さ15μm)を使用した。
【0047】
(比較例4)
表2に示すように、比較例4では、実施例2で支持材2に使用したPP製のスパンボンド不織布を2枚使用し、140℃、2MPaで加熱圧着した。すなわち、比較例4は2層構造のシート材である。
【0048】
(比較例5)
表2に示すように、比較例5では、実施例2で支持材2に使用した不織布を使用した。すなわち、比較例5はPP製のスパンボンド不織布である。
【0049】
(比較例6)
表2に示すように、比較例6では、濾過フィルタ用のミックスセルロース製の多孔質シート(アドバンテック社製、厚さ145μm、孔径0.45μm)を使用した。
【0050】
<評価試験>
各実施例の積層体10および比較例のシート材について、以下に示す試験法で、ナノファイバ構造層1の孔径、抗菌性、通気性(圧損)、微粒子捕捉性および引張強度の各試験を行い評価した。
【0051】
(繊維径・孔径)
ナノファイバ構造層1の繊維径および微多孔の孔径(孔径分布を含む。)の測定には、走査型電子顕微鏡(トプコン製、SEM−200)、および、ASTM F316−86、JIS K 3832のバブルポイント法に基づく自動細孔径分布測定器(POROUS−MATERIALS社製、パームポロメータ)を用いた。図5(A)、(B)に示すように、比較例1のキトサン繊維の繊維径が20μm程度であるのに対して、実施例1のキトサンのナノファイバ1aでは繊維径が100〜300nmであった。実施例1以外の各実施例のナノファイバ構造層1の繊維径の平均は、いずれも1000nm以下であることを確認した。繊維径についての測定結果から、平均繊維径と繊維径の分布範囲とに相関関係があることが判った。すなわち、平均繊維径が70nmの場合には繊維径が40〜140nmの範囲で分布し、平均繊維径が200nmの場合には繊維径が140〜400nmの範囲で分布し、平均繊維径が300nmの場合には繊維径が200〜450nmの範囲で分布することがそれぞれ判った。また、各実施例のナノファイバ構造層1の平均孔径が1000nm以下であることを確認した。
【0052】
(抗菌性)
抗菌性は、シェークフラスコ法(抗菌製品技術協議会規格)および菌液吸収法(JIS L 1902「繊維製品の抗菌性試験方法、抗菌方法」)に従い評価した。シェークフラスコ法では、(独)製品評価技術基盤機構から分譲を受けた黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus、NBRC(IFO)12732)または大腸菌(Escherichia coli、NBRC(IFO)3972)を試験菌とした。積層体10を4cm×4cmに裁断した試験片を、ガーゼ等でエタノール消毒後、乾熱滅菌またはオートクレーブ滅菌処理した後、滅菌した培養フラスコに無菌的に入れた。培養フラスコに試験菌液(普通ブイヨン培養液で希釈したもの、104〜105個の試験菌を含む、pH7.0〜7.2)10mlを接種してアルミホイルで蓋をした後、温度35±1℃の恒温振とう培養器で、一定振幅で振とう培養した。対照試験区として、同じ試験菌液10mlのみを入れて、保存0時間(対照試験区のみ)および24時間振とう培養後に菌液を採取し、標準寒天培地を使用した寒天平板培養法により生菌数を測定した。生菌数(試験菌数)の増減の違いにより抗菌性を評価した。なお、対照試験区の保存0時間における生菌数、すなわち、各試験片に接種した菌数は、5.4×105個であった。
【0053】
一方、菌液吸収法では、シェークフラスコ法と同じ試験菌を使用した。滅菌バイアル瓶に積層体10の試験片(シェークフラスコ法と同様に処理したもの)を無菌的に入れた。試験菌液(105〜106個/ml)をピペットで正確に0.2ml採取し、試験片の数カ所に接種し、バイアル瓶の蓋を閉めて37℃で18〜24時間保存(静置培養)した。保存後、洗い出し用生理食塩水(8.5gのNaCl、2.0gの非イオン性界面活性剤ツイン80を蒸留水に溶解させて全量1000mlとしたもの)20mlを加え、蓋を閉めて、手振りで各試験片から試験菌を洗い出した。この洗い出し液を採取し、ニュートリエント寒天培地を使用した寒天平板培養法により生菌数を測定した。生菌数(試験菌数)の増減の違いにより抗菌性を評価した。なお、生菌数は、菌濃度(個/ml)と洗い出し用生理食塩水の量(20ml)とを乗算して求めた。
【0054】
(通気性)
通気性は、ラインフィルターホルダ(アドバンテック社製、SUS製、口径25mm)に、裁断した積層体10の試験片をセットし、一定量の窒素や空気などのガスを流したときのラインフィルターホルダの入口側と出口側との圧力差を微差圧計(岡野製作所製)で測定することで評価した。
【0055】
(微粒子捕捉性)
微粒子捕捉性では、減圧濾過用フィルターホルダ(アドバンテック社製、ガラス製、口径47mm)に裁断した積層体10の試験片をセットし、ホルダに振動を与えながら、JIS試験用粉体1の11種の標準粒子(社団法人日本粉体工業技術協会より入手、粒径1μm以上の粒子を65±5%含む)の1gをポンプ(イワキ製、最大流量15リットル/min)を使用して流量5リットル/minで5分間吸引した。試験片上に残留した粒子の重量を測定することで微粒子捕捉性を評価した。すなわち、試験片上に残留した粒子重量の試験に使用した粒子重量に対する百分率を微粒子捕捉率(%)として算出した。
【0056】
(引張強度)
引張強度は、引張強度試験装置(インストロン社製、3342型)を使用して測定した。測定には積層体10を2mm幅に裁断した試験片を使用し、標点距離を50mm、クロスヘッド速度を4mm/minとして試験片の破断時の荷重(N/mm2)を測定した。
【0057】
以下、孔径、抗菌性、通気性(圧損試験)、微粒子捕捉性および引張強度の各評価結果について説明する。抗菌性、通気抵抗、微粒子捕捉率および引張強度の測定結果を下表3にまとめて示した。なお、表3において、抗菌性の結果として試験後の生菌数を示し、接種菌数(5.4×105個)を省略している。また、通気抵抗は、試験片1cm2あたりに毎分1リットルの窒素ガスを流したとき(1L/min/cm2)の差圧を示している。
【0058】
【表3】
【0059】
各実施例の積層体10のナノファイバ構造層1では、1gあたりのイオン交換率(イオン交換容量)が5.4meq(ミリ等量)であることが確認できた。このことから、微生物等を含む微粒子の吸着性に優れることが期待できる。また、ナノファイバ構造層1の微多孔の孔径は100〜1600nmの範囲で分布していることが確認され、平均孔径は500nmであった。このことから、ナノファイバ構造層1は通気性に優れることが判った。更に、走査型電子顕微鏡による観察の結果、実施例1のナノファイバ構造層1と比較して、支持材2を貼り合わせた実施例2〜実施例8の積層体10では、ナノファイバ構造層1に形状変化は見られず、ナノファイバ構造層1と支持材2とが結合されていることが確認された。図6に示すように、積層体10の表面では、支持材2を構成する繊維材料2aの空隙(支持材の多孔)からナノファイバ構造層1の表面を観察することができ、ナノファイバ構造層1の表面には緻密な微多孔が形成されていることが判る。また、図7に示すように、積層体10の傾斜断面では、加熱圧着したナノファイバ構造層1と支持材2との間で支持材2の繊維材料2aが軟化変形しナノファイバ構造層1と支持材2とが確実に接着されていることが判る(矢印で示す部分)。
【0060】
抗菌性の評価結果について、従来のキトサン繊維で形成した不織布の比較例1、PET製不織布の比較例2、キトサンのナノファイバ1aで形成したナノファイバ構造層1の実施例1を比較して説明する。下表4に示すように、比較例1では、接種した菌数に対して試験後の菌数が減少しており、明らかな抗菌性を示した。これは、キトサンが塩基性(カチオン性)ポリマーのため、試験菌に用いた大腸菌や黄色ブドウ球菌を始め種々の微生物に対して抗菌性を示したと考えられる。また、比較例2では、試験後の菌数が接種した菌数とほぼ同じであり、抗菌性を有していないことが明らかとなった。これに対して、実施例1では、試験後には生菌数が認められず、顕著な抗菌性を示した。これは、従来抗菌性を有することが知られているキトサンを原料としており、繊維径がナノスケールのナノファイバ1aでは比表面積が増大するため、微生物との接触性が向上して抗菌性が向上したものと考えられる。このことから、ナノファイバ1aを用いることで、いわゆるナノサイズ効果により抗菌性が向上したものと考えられる。換言すれば、繊維径が1000nmを超える繊維で繊維層を構成しても抗菌性の向上を期待することは難しい。
【0061】
【表4】
【0062】
また、通気性の評価結果について、2層構造のPP製不織布の比較例4、濾過フィルタ用に使用されるセルロースシートの比較例6、2層のPP製不織布の間にキトサンのナノファイバ構造層1を挟んだ実施例2を比較して説明する。図8に示すように、比較例4では、密度が小さく空隙率が大きいため、差圧がほとんど認められない。一方、比較例6では、窒素ガスの流量が大きくなるほど差圧も大きくなり、30kPaを超えても更に増大する傾向を示している。これに対して、実施例2の積層体10では、若干の差圧が認められるが、10kPa以下に抑制されている。
【0063】
更に、微粒子捕捉率について比較すると、図9に示すように、比較例4では、微粒子捕捉率が38.9%であるのに対して、実施例2、比較例6では、微粒子捕捉率がそれぞれ100%、99.4%を示し、試験に使用したほぼ全ての微粒子を捕捉することが判明した。通気性と微粒子捕捉性とを合わせて考えると、比較例4では、通気性には優れるものの、微粒子捕捉性では十分な効果を得ることはできない。これは、空隙率が大きいためと考えられ、フィルタ材等の分離材としては使用できないことが明らかである。一方、比較例6では、微粒子捕捉性には優れるものの、通気性では流量の増加に伴い著しく低下するため、一時的な濾過等の分離材としては使用できたとしても、使用期間が長期になる場合には使用できない。これに対して、実施例2の積層体10では、微粒子捕捉性に優れると共に、圧力損失も小さく抑えることができるため、使用期間が長期に亘っても高性能なフィルタ材として使用することができることが判明した。
【0064】
また、引張強度について、食品包装用PE製フィルムの比較例3、2層構造のPP製不織布の比較例4、PP製不織布の比較例5、キトサンのナノファイバ構造層1の実施例1、キトサンのナノファイバ構造層1の両面にPP製不織布を加熱圧着した実施例2を比較して説明する。図10に示すように、比較例3、比較例5では、破断時の加重がそれぞれ0.3997N/mm2、0.4236N/mm2を示した。また、比較例4では、1.0530N/mm2を示し、1層構造の比較例5より引張強度が向上した。これは、合成樹脂系の繊維やフィルムでは高強度が得られ、2層貼り合わせることで引張強度が向上することを示している。一方、実施例1では、2回の測定結果を示しているが、それぞれ0.2414N/mm2、0.1289N/mm2を示した。このことから、ナノファイバ構造層1のみでは、繊維径がナノスケールであるため、シート状に形成しても十分な引張強度を得ることができないことが判った。これに対して、実施例2の積層体10では、引張強度が2.1080N/mm2と大幅に向上した。このことから、ナノファイバ構造層1の両面にPP製の不織布を貼り合わせて3層構造の積層体10とすることで、引張強度が格段に向上することが判った。
【0065】
次に、フィルタ用、マスク用、フェイスマスク用、細胞培養基材用にそれぞれ製造した実施例5〜実施例8の積層体10について順に説明する。
【0066】
表3に示すように、電界紡糸で厚さ290μm、密度0.12g/cm3のナノファイバ構造層1を形成し、両面にPP製不織布を貼り合わせた実施例5の積層体10では、抗菌性に優れることはもちろん、通気性、粒子捕捉性、引張強度についても各比較例より優れた結果を示した。また、この積層体10では、空隙率が92.4%、貫通孔径(図1の符号d1参照)が209〜1639nmの範囲に分布し、その平均が495nm、比表面積が25.92m2/gであることを確認した。比表面積が大きなことから、エンドトキシンやパイロジェン等の人体に影響する有害物質や色素等を吸着するキトサンの機能を向上させることが期待できる。これらの評価結果から総合的に考えると、微粒子捕捉性に優れると共に、圧力損失も小さく抑えることができることに加えて、キトサンの機能である抗菌性、吸着性を向上させることができるため、気体や液体中の有害物質等の除去(分離)を目的とした高性能フィルタ材用途向けに極めて有効であることが判明した。このようなフィルタ材用途に積層体10を適用する場合には、ナノファイバ構造層1を厚さ10〜1000μmの範囲、密度0.05〜0.5g/cm3の範囲に設定すると共に、支持材2を孔径1nm〜500μmの範囲とすることが好ましいことを確認している。
【0067】
また、表3に示すように、電界紡糸で厚さ200μm、密度0.10g/cm3のナノファイバ構造層1を形成し、両面にPP製不織布を貼り合わせた実施例6の積層体10では、抗菌性はもちろん、通気性、粒子捕捉性、引張強度についても各比較例より優れた結果を示した。また、この積層体10では、比表面積が大きく、柔軟性にも優れていることを確認した。このことから、人体等に直接触れたときに、柔軟性があることからしっかり密着させることができ、また、通気性にも優れることから蒸れやかぶれを抑制し、肌に対する刺激を低減することが期待できる。更には、ナノファイバ構造層1では毛細管現象(比表面積効果)により汗や老廃物を速やかに吸収することも期待できる。これらの評価結果から総合的に考えると、通気性を確保することができると共に、柔軟性があり、有害物質を除去することができるため、マスク等の衛生材料用途向けに極めて有効であることが判明した。このような衛生材料用途に積層体10を適用する場合には、ナノファイバ構造層1を厚さ10〜1000μmの範囲、密度0.05〜0.5g/cm3の範囲に設定すると共に、支持材2を孔径1nm〜500μmの範囲とすることが好ましいことを確認している。
【0068】
更に、表3に示すように、電界紡糸で厚さ100μm、密度0.10g/cm3のナノファイバ構造層1を形成し、片面にPE製フィルムのラミネート綿を貼り合わせた実施例7の積層体10では、抗菌性はもちろん、通気性、粒子捕捉性、引張強度についても各比較例より優れた結果を示した。また、この積層体10では、柔軟性に優れており、軽量で保湿性・保液性に優れることを確認した。このことから、キトサンのナノファイバ構造層1側を人体等にしっかりと密着させることができ、肌に対する刺激を低減することが期待できる。また、保湿性や保液性に優れることから、化粧用の保湿成分や乳液剤を保持することができるため、肌からの水分蒸散を抑制し、肌に直接乳液剤を付与することができる。更に、片面にPE製フィルムのラミネート綿が貼り合わされているため、ナノファイバ構造層1に保持した乳液剤等が滲出し蒸散することを抑制するため、乳液剤等を確実に肌に付与することができる。これらの評価結果から、柔軟性に優れると共に、保湿性や保液性に優れるため、フェイスマスク等の美容材料用途向けに極めて有効であることが判明した。このような美容材料用途に積層体10を適用する場合には、ナノファイバ構造層1を厚さ10〜1000μmの範囲、密度0.01〜0.5g/cm3の範囲に設定すると共に、支持材2に用いる樹脂フィルム材の厚さを100〜2000μmの範囲とすることが好ましいことを確認している。美容材料用途では、樹脂フィルムに代えて、多孔が形成された不織布等を支持材2として使用することも可能である。
【0069】
また、表3に示すように、電界紡糸で厚さ100μm、密度0.10g/cm3のナノファイバ構造層1を形成し、片面にポリ乳酸(PLA)製スパンボンド不織布を貼り合わせた実施例8の積層体10では、抗菌性、通気性、粒子捕捉性、引張強度のいずれについても各比較例より優れた結果を示した。また、ヒトやマウス由来の線維芽細胞等の動物細胞の培養基材として使用(積層体10の試料片に各細胞を播種し、37℃の雰囲気下で培養)したときに、細胞の生着性が向上し増殖性も優れていることを確認した。これは、キトサンのナノファイバ構造層1では、ナノスケールの繊維で形成されているため、細胞認識性が向上することが考えられる。また、通気性に優れることから貫通孔が形成されており、培養液の通液性にも優れていることが考えられる。これらの評価結果から、細胞や組織等を生体外で培養するときの培養基材として有効であることが判明し、培養により新たに構築された組織等を生体に戻す再生医療用途向けの材料として有望であることが期待できる。このような再生医療用途向けの培養基材に積層体10を適用する場合には、ナノファイバ構造層1を厚さ10〜1000μmの範囲、密度0.01〜0.5g/cm3の範囲に設定すると共に、支持材2を厚さ1μm〜10mmの範囲とすることが好ましいことを確認している。
【0070】
以上各実施例について具体的に説明したように、本実施形態の積層体10では、キチン・キトサン系材料のナノファイバ1aで形成されたナノファイバ構造層1の片面または両面に支持材2が貼り合わされている。このため、ナノファイバ構造層1の引張強度が不足しても、ナノファイバ構造層1が支持材2で支持されるので、実用上十分な強度を得ることができる。また、ナノファイバ構造層1がナノスケールの繊維径を有するキチン・キトサン系材料で形成されるため、ナノサイズ効果によりキチン・キトサン系材料の機能、特に抗菌性の向上を図ることができる。種々のキチン・キトサン系材料の機能のうち、色素吸着性、タンパク質吸着性、核酸吸着性について、上述した抗菌性、通気性、粒子捕捉性、引張強度と合わせて評価した結果を下表5にまとめて示した。
【0071】
【表5】
【0072】
表5では、実施例1、実施例2、実施例4の積層体10、および、比較例4、比較例6のシート材について、各機能の比較例1のシート材に対する相対評価を示している。すなわち、比較例1より優れている;○印、比較例1と同等である;△印、比較例1より劣っている;×印で示している。表5から、各実施例はいずれもキトサンの機能が向上していることが判る。
【0073】
このような性能を有する本実施形態の積層体10は、種々の用途に適用することができる。例えば、空気清浄用高性能フィルタ(実施例5参照)に代表される環境分野、高機能性マスク(実施例6参照)に代表される衛生分野、美容用フェイスマスク(実施例7参照)に代表される化粧品分野、細胞培養基材(実施例8参照)に代表される再生医療分野での材料として使用することができる。更には、キチン・キトサン系材料の機能を考慮すれば、例えば、医療分野における創傷治癒被覆材、医療ガーゼ、手術用ドレス、人工透析膜用材料等、医薬品分野における生物医薬製造用の有害物(エンドトキシン等)除去フィルタ材、食品分野における鮮度保持シートや包装資材、等にも使用可能な材料として期待することができる。
【0074】
なお、本実施形態では、キチン・キトサン系材料を主成分とするナノファイバ1aの材料にキトサンを用いる例を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、キチン、キトサンの分解物や誘導体を用いてもよい。また、本実施形態では、ナノファイバ1aを紡糸する方法として電界紡糸法を例示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、繊維径がナノスケールの繊維を紡糸することができる方法であれば、いかなる方法を用いてもよい。更に、本実施形態では、電界紡糸するときにナノファイバ構造層1を水平に形成する方法を例示したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、図4(B)に示すように、電界紡糸装置20の導電基板24を垂直に配置すれば、ナノファイバ構造層1を垂直に形成することができる。
【0075】
また、本実施形態では、積層体10を積層体製造装置40を使用して連続的に製造する例を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、所望のサイズに裁断した支持材2の上にナノファイバ構造層1を形成するようにしてもよく、更に、ナノファイバ構造層1の上に支持材2を積層するようにしてもよい。
【0076】
更に、本実施形態では、ナノファイバ構造層1の微多孔の孔径d1を100〜1600nmの範囲とする例を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、細菌やカビ、粉塵などの微細粒子の捕捉を目的とした場合には、孔径d1を500nm以下とすることが好ましく、より好ましくは250nm以下とする。このような孔径d1は、紡糸液調製に用いるキチン・キトサン系材料の分子量や濃度、紡糸液に添加する紡糸助剤の種類、温度や湿度、紡糸時間等の紡糸条件等を選択することで調整することができる。また、本実施形態では、ナノファイバ構造層1の厚さを10μm以上とする例を示したが、本発明はこれに限定されるものではない。ナノファイバ構造層1の厚さは、積層体10の性能や強度、用途に応じて任意に調整すればよい。厚さが大きいほど孔径d1の平均値が小さくなり、微細な粒子を捕捉しやすくなるのに対して、厚さが小さいほど、性能があっても強度が不十分な場合があるので、最低でも0.1μmの厚さが必要であり、厚さを1μm以上とすることが好ましい。
【0077】
また更に、本実施形態では、キチン・キトサン系材料を電界紡糸してナノファイバ構造層1を形成する例を示したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、ナノファイバ構造層1の強度や性能を向上させるために、合成高分子材料を同時に電界紡糸や溶融紡糸するようにしてもよい。このような合成高分子材料としては、例えば、酢酸セルロース、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステルなどを挙げることができる。合成高分子材料を電界紡糸するときの溶剤は、材料に合わせて選択すればよく、例えば、アセトンやN,N−ジメチルホルムアミド、メタノール、氷酢酸などを挙げることができる。また、電界紡糸では紡糸液に使用した溶解剤の酸が残留することがあるが、乾燥時に加熱することで酸を除去することができる。加熱による酸の除去が不十分な場合には、中和、洗浄を行うようにしてもよい。
【0078】
更にまた、本実施形態では、キトサンを電界紡糸したナノファイバ構造層1を例示したが、例えば、積層体10を使用する用途により、強度の向上を図るためにキトサンを架橋剤で架橋するようにしてもよい。このようにすれば、特に、ナノファイバ1aが水中等で膨潤することを抑制することができるので、積層体10を水中等で使用するときの性能を確保することができる。架橋は、2つ以上の官能基を有する架橋剤とキトサンとを混合し、架橋剤の官能基とキトサンのアミノ基とを反応させることで行うことができる。このような架橋剤としては、例えば、グルタールアルデヒド、カルボジイミド、カルボニルイミダゾール、ジエポキシ化合物、ジカルボン酸無水物、エピクロルヒドリン等を挙げることができる。架橋する場合の架橋度は、0.01〜100%の範囲で設定することができるが、架橋度が高すぎる場合にはナノファイバ構造層1の柔軟性や抗菌性を低下させることとなるので、架橋度を0.1〜30%の範囲で設定することが好ましい。また、架橋した場合には、例えば、精製水や生理食塩水、リン酸緩衝液等の各種の緩衝液、エタノール、アセトン等で架橋剤が残留しないように十分に洗浄することが好ましい。
【0079】
また、本実施形態では、ナノファイバ構造層1と支持材2とを加熱圧着により貼り合わせる例を示したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、化学接着剤により貼り合わせるようにしてもよく、支持材2の材質や積層体10の用途に応じて加熱圧着および化学接着のいずれかまたは両方を組み合わせるなど選択すればよい。更に、本実施形態では、ナノファイバ構造層1の両面に支持材2を貼り合わせる例を示したが、用途によっては、片面のみに支持材2を貼り合わせることも可能である(実施例3参照)。
【0080】
本実施形態で例示したように、ポリエチレンやポリプロピレン等の熱溶融性を有する材料を支持材2に使用した場合には、ナノファイバ構造層1と支持材2とを直接重ね加熱することで貼り合わせることができる。綿やパルプ等の非熱溶融性の材料を支持材2に使用する場合には、ナノファイバ構造層1と支持材2との間に熱溶融性の接着用樹脂を介在させて重ね加熱する。接着用樹脂を介在させる方法としては、接着用樹脂(粉末)の懸濁液をドット方式、スキャタ方式でコーティングする方法、蜘蛛の巣状のネットをナノファイバ構造層1と支持材2との間に挟み込んだ後に熱接着する方法、ナノファイバ構造層1を作製するときに紡糸液に接着用樹脂を混ぜて紡糸しそのまま加熱接着する方法等を挙げることができる。
【0081】
使用可能な接着用樹脂としては、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリ乳酸、エチレン酢酸ビニル共重合体、キシレン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド、メラミン樹脂、マレイン酸樹脂、ポリオレフィン系エマルジョン、ポリカプロラクトン、ニトロセルロース、酢酸セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、エチルセルロース、メチルセルロース、ポリビニルエーテル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、カルボキシビニルポリマー、プルラン、でんぷん、でんぷん誘導体、キトサン塩、キトサン誘導体、水溶性キチン誘導体、ヒアルロン酸塩、コンドロイチン硫酸塩、ペクチン塩、ペクチン誘導体、アルギン酸塩、アルギン酸誘導体、膠、ゼラチン、ゴム等を挙げることができる。
【0082】
また、加熱圧着する場合に200℃を超えて軟化する接着用樹脂を用いると、加熱によりキチン・キトサン系材料が変質してしまい機能が損なわれる可能性があるため、加熱温度をキチン・キトサン系材料の機能低下を起こさない温度とすることが好ましい。接着用樹脂のうち、ポリエチレン(軟化点100℃、溶融点125℃)、ポリプロピレン(軟化点140℃、溶融点165℃)、ナイロン(軟化点180℃、溶融点215℃)、エチレン酢酸ビニル重合体(軟化点50〜60℃)、ポリオレフィン系エマルジョン(85〜90℃)等は、200℃を超えることなく熱溶融(軟化)するため、キチン・キトサン系材料の変質を防止することができる。
【0083】
更に、本実施形態で示したように、加熱圧着するときに加圧ローラ37等で加圧することにより、ナノファイバ構造層1と支持材2との剥離を起こり難くすることができ、積層体10の厚さを略均一に形成することができる。支持材2を予め所望のサイズに裁断した後、積層体10を形成する場合には、通常の熱プレス機等を使用してもよいことはもちろんである。また、50〜200℃の熱風雰囲気下で接着用樹脂を熱溶融させることで、積層体10を嵩高構造に形成することもできる。
【0084】
ナノファイバ構造層1と支持材2とを化学接着剤で貼り合わせる場合には、化学接着剤をナノファイバ構造層1に塗布して化学反応等により支持材2と接着させる。化学接着剤を塗布する方法としては、ナノファイバ構造層1または支持材2に剥離しない程度の極微量の化学接着剤をノズルから噴霧する方法等がある。例えば、ナノファイバ構造層1の片面に支持材2を貼り合わせるときは、図11に示すように、積層体製造装置40の電界紡糸装置20の上流側(供給ローラ32側)に噴霧ノズルを有する噴霧装置34を配置することで連続的に噴霧することも可能である(図3(B)も参照)。また、ナノファイバ構造層1の両面に支持材2を貼り合わせるときは、図3(A)に示すように、紡糸ノズル22の上流側および熱風乾燥機35の下流側にそれぞれ噴霧装置34を配置するようにする。噴霧後、速やかに重ねて加圧ローラ37やプレス機等で押圧して化学接着剤を硬化させる。硬化のときには、例えば、熱風乾燥機や熱プレス機等を用いてもよく、パルプ製不織布や綿ガーゼなどの熱溶着ができない材料を支持材2に使用する場合に有効である。また、噴霧装置34で希薄な酸性水溶液を噴霧した後キトサンのナノファイバ構造層1を形成するようにすれば、支持材2に浸透した酸性水溶液でキトサンが軟化するため、ナノファイバ1a同士が接着することでナノファイバ構造層1の層間剥離を防止することができる。
【0085】
使用可能な化学接着剤としては、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、カルボキシビニルポリマー、プルラン、でんぷん糊などの水溶性接着剤、ポリビニルエーテル、熱硬化性樹脂であるキシレン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂やウレタン樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド、メラニン樹脂、マレイン酸樹脂等を挙げることができる。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明はキチン・キトサン系材料の機能を向上させることができると共に、実用上十分な強度を有する積層体を提供するため、種々の用途に使用可能な積層体の製造、販売に寄与するため産業上の利用可能性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明に係る実施形態の積層体を示す断面図である。
【図2】実施形態の積層体を製造するための積層体製造装置を模式的に示す断面図である。
【図3】積層体製造装置を模式的に示す斜視図であり、(A)はナノファイバ構造層の両面に支持材を貼り合わせる両面積層体の製造装置を示し、(B)はナノファイバ構造層の片面に支持材を貼り合わせる片面積層体の製造装置を示す。
【図4】実施形態のナノファイバ構造層を作製する電界紡糸装置の概要を模式的に示す断面図であり、(A)はナノファイバ構造層を水平に形成する水平形成装置を示し、(B)はナノファイバ構造層を垂直に形成する垂直形成装置を示す。
【図5】電子顕微鏡写真であり、(A)は実施例1のナノファイバ構造層の表面、(B)は比較例1の不織布の表面をそれぞれ示す。
【図6】実施例2の積層体の表面を示す電子顕微鏡写真である。
【図7】実施例2の積層体の傾斜断面を示す電子顕微鏡写真である。
【図8】実施例の積層体および比較例のシート材について、窒素ガスの通過に対する圧力差の比較を示すグラフである。
【図9】実施例の積層体および比較例のシート材について粒子捕捉性の測定結果を示すグラフである。
【図10】実施例の積層体および比較例のシート材について引張強度の測定結果を示すグラフである。
【図11】実施形態の積層体製造装置に液体を噴霧する噴霧装置を配置したときの積層体の製造を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0088】
1 ナノファイバ構造層(ナノ繊維層)
2 支持材(フィルム材)
2a ナノファイバ(ナノ繊維)
10 積層体
20 電界紡糸装置
40 積層体製造装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
キチン・キトサン系材料を主成分とし繊維径がナノスケールのナノ繊維で構成されたナノ繊維層と、前記ナノ繊維層の片面または両面に配置され該ナノ繊維層を支持するフィルム材とを有することを特徴とする積層体。
【請求項2】
前記フィルム材は気体ないし液体の通過を許容する多孔が形成されており、前記多孔は前記ナノ繊維層のナノ繊維で形成される微多孔より孔径が大きいことを特徴とする請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記ナノ繊維層は、密度が0.01g/cm3以上であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の積層体。
【請求項4】
前記ナノ繊維層は、厚さが10μm以上であることを特徴とする請求項1に記載の積層体。
【請求項5】
前記ナノ繊維は、繊維径が1000nm以下であることを特徴する請求項1に記載の積層体。
【請求項6】
前記ナノ繊維層は、繊維径が1000nmを超える繊維で構成された繊維層より大きい抗菌性を有することを特徴とする請求項5に記載の積層体。
【請求項7】
前記フィルム材は、不織布、織物、編物、繊維網または樹脂フィルムであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の積層体。
【請求項8】
前記フィルム材は、厚さが20mm以下であることを特徴とする請求項7に記載の積層体。
【請求項9】
前記フィルム材に形成された多孔は、孔径が1nm以上であることを特徴とする請求項2に記載の積層体。
【請求項10】
前記フィルム材は、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ乳酸、綿、レーヨン、パルプおよびこれらの誘導体から選択される単独または複数の組み合わせを材質とすることを特徴とする請求項7に記載の積層体。
【請求項11】
前記キチン・キトサン系材料は、キチン、キトサン、キチンまたはキトサンの分解物、および、キチンまたはキトサンの誘導体から選択される単独または複数の組み合わせであることを特徴とする請求項1に記載の積層体。
【請求項12】
前記ナノ繊維層および前記フィルム材は、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ乳酸、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、エポキシ樹脂、フェノール樹脂およびでんぷんから選択される単独または複数の接着成分により貼り合わされていることを特徴とする請求項1に記載の積層体。
【請求項13】
前記ナノ繊維層は厚さが10μm〜1000μmの範囲、密度が0.01g/cm3〜0.5g/cm3の範囲であり、かつ、前記フィルム材は厚さが100μm〜2000μmの範囲の樹脂フィルムであることを特徴とする請求項1に記載の積層体。
【請求項14】
前記ナノ繊維層は厚さが10μm〜1000μmの範囲、密度が0.01g/cm3〜0.5g/cm3の範囲であり、かつ、前記フィルム材は厚さが1μm〜10mmの範囲であることを特徴とする請求項1に記載の積層体。
【請求項15】
前記ナノ繊維層は厚さが10μm〜1000μmの範囲、密度が0.05g/cm3〜0.5g/cm3の範囲であり、かつ、前記フィルム材に形成された多孔は孔径が1nm〜500μmの範囲であることを特徴とする請求項2に記載の積層体。
【請求項16】
前記ナノ繊維層は厚さが10μm〜1000μmの範囲、密度が0.05g/cm3〜0.5g/cm3の範囲であり、かつ、前記フィルム材に形成された多孔は孔径が1nm〜500μmの範囲であることを特徴とする請求項2に記載の積層体。
【請求項1】
キチン・キトサン系材料を主成分とし繊維径がナノスケールのナノ繊維で構成されたナノ繊維層と、前記ナノ繊維層の片面または両面に配置され該ナノ繊維層を支持するフィルム材とを有することを特徴とする積層体。
【請求項2】
前記フィルム材は気体ないし液体の通過を許容する多孔が形成されており、前記多孔は前記ナノ繊維層のナノ繊維で形成される微多孔より孔径が大きいことを特徴とする請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記ナノ繊維層は、密度が0.01g/cm3以上であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の積層体。
【請求項4】
前記ナノ繊維層は、厚さが10μm以上であることを特徴とする請求項1に記載の積層体。
【請求項5】
前記ナノ繊維は、繊維径が1000nm以下であることを特徴する請求項1に記載の積層体。
【請求項6】
前記ナノ繊維層は、繊維径が1000nmを超える繊維で構成された繊維層より大きい抗菌性を有することを特徴とする請求項5に記載の積層体。
【請求項7】
前記フィルム材は、不織布、織物、編物、繊維網または樹脂フィルムであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の積層体。
【請求項8】
前記フィルム材は、厚さが20mm以下であることを特徴とする請求項7に記載の積層体。
【請求項9】
前記フィルム材に形成された多孔は、孔径が1nm以上であることを特徴とする請求項2に記載の積層体。
【請求項10】
前記フィルム材は、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ乳酸、綿、レーヨン、パルプおよびこれらの誘導体から選択される単独または複数の組み合わせを材質とすることを特徴とする請求項7に記載の積層体。
【請求項11】
前記キチン・キトサン系材料は、キチン、キトサン、キチンまたはキトサンの分解物、および、キチンまたはキトサンの誘導体から選択される単独または複数の組み合わせであることを特徴とする請求項1に記載の積層体。
【請求項12】
前記ナノ繊維層および前記フィルム材は、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ乳酸、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、エポキシ樹脂、フェノール樹脂およびでんぷんから選択される単独または複数の接着成分により貼り合わされていることを特徴とする請求項1に記載の積層体。
【請求項13】
前記ナノ繊維層は厚さが10μm〜1000μmの範囲、密度が0.01g/cm3〜0.5g/cm3の範囲であり、かつ、前記フィルム材は厚さが100μm〜2000μmの範囲の樹脂フィルムであることを特徴とする請求項1に記載の積層体。
【請求項14】
前記ナノ繊維層は厚さが10μm〜1000μmの範囲、密度が0.01g/cm3〜0.5g/cm3の範囲であり、かつ、前記フィルム材は厚さが1μm〜10mmの範囲であることを特徴とする請求項1に記載の積層体。
【請求項15】
前記ナノ繊維層は厚さが10μm〜1000μmの範囲、密度が0.05g/cm3〜0.5g/cm3の範囲であり、かつ、前記フィルム材に形成された多孔は孔径が1nm〜500μmの範囲であることを特徴とする請求項2に記載の積層体。
【請求項16】
前記ナノ繊維層は厚さが10μm〜1000μmの範囲、密度が0.05g/cm3〜0.5g/cm3の範囲であり、かつ、前記フィルム材に形成された多孔は孔径が1nm〜500μmの範囲であることを特徴とする請求項2に記載の積層体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−162098(P2008−162098A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−353253(P2006−353253)
【出願日】平成18年12月27日(2006.12.27)
【出願人】(593075544)株式会社共和テクノス (2)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年12月27日(2006.12.27)
【出願人】(593075544)株式会社共和テクノス (2)
【Fターム(参考)】
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