説明

キャリアテープ用カバーテープ

【課題】キャリアテープの材質や熱シール温度に殆ど影響を受けることなく、良好な密閉性と剥離性を得ることができ、かつ高透明性のキャリアテープ用カバーテープを提供する。
【解決手段】水系含浸重合法により製造された海島構造体であって、海相がオレフィン系重合体で構成され、島相がアクリル系重合体で構成される海島構造体を含むシーラント層を有するキャリアテープ用カバーテープ。このシーラント層は、好ましくは、該海島構造体の島相100重量部に対してオレフィン系樹脂100〜500重量部と、オレフィン系及び/又はスチレン系ゴム100〜500重量部と、粘着付与剤30〜300重量部とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品を収納する収納ポケットを連続的に形成したプラスチック製キャリアテープに熱シールさせるためのカバーテープに係り、特に、キャリアテープの材質や熱シール温度に殆ど影響を受けることなく、良好な密閉性と剥離性とを得ることができ、かつ高透明性のキャリアテープ用カバーテープに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ICを始めとして、トランジスター、ダイオード、コンデンサー、圧電素子レジスター、などの表面実装用電子部品は、その保管、輸送、装着に際し、その汚染を防止すると共に、電子回路基板への実装に当たり、整列状態で効率的に取り出して実装するために、電子部品の形状に合わせて、これを収納しうる収納ポケットがエンボス成形により連続的に形成されたプラスチック製キャリアテープとこのキャリアテープに熱シールし得るカバーテープとからなる包装体に包装されて供給されている。内容物の電子部品はこの包装体のカバーテープを剥離した後、自動的に取り出され電子回路基板に表面実装されている。
【0003】
従来、この電子部品包装体のキャリアテープの材質としては、ポリスチレン(PS)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)等の樹脂が用いられており、これらの樹脂にカーボン等の帯電防止剤を練り込んだもの、カーボン等の帯電防止剤の分散性を改良するために更にエチレン系共重合体を配合したもの、ポリスチレン系樹脂層とカーボン等の帯電防止剤を練り込んだ層との積層タイプや、表面にアクリルコートしてあるもの、表面に帯電防止剤がコーティングしてあるものなど、種々のタイプのものが用いられている。
【0004】
一方、このようなキャリアテープに熱シールされるカバーテープには、
(1) 電子部品の保管、輸送時には、キャリアテープの収容部を十分に密閉するだけのシール性と、電子部品の実装時の取り出しに際しては、容易にキャリアテープから剥離して電子部品を安定かつ効率的に取り出し得る剥離性とを満たすこと
(2) キャリアテープの材質や熱シール温度に影響を受けることなく、上記(1)のように、キャリアテープに対して安定に熱シールし得るものであること
が要求される。また、近年では、電子部品をこのキャリアテープとカバーテープからなる包装体に包装した状態で容易に検査、ないし確認することができるように、透明性に優れることも要求されている。
【0005】
従来、このような要求特性を満たすカバーテープとして、特開2004−284605号公報には、ポリエステル、ポリプロピレン、ナイロンのいずれかである二軸延伸フィルムよりなる支持層に、エチレン共重合体にメタクリル酸エステル共重合体を混合した熱可塑性樹脂シーラント層を積層したものが提案されている。
【特許文献1】特開2004−284605号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者らの研究により、特開2004−284605号公報で提案されているカバーテープは、PS、PC、PETと十分な接着性を有さず、従って、これらの樹脂で構成されるキャリアテープに対しては、十分な密閉性が得られないことが判明した。この特開2004−284605号公報に係るシーラント層がポリエステル等の支持層と積層一体化されているのは、支持層にアンカーコート剤を塗布してあることと、シーラント層の押し出し温度を高くしてシーラント層とアンカーコート層とを反応接着していることによるものであり、このような処理を施さないと、支持層とのラミネート成形は不可能であり、また、キャリアテープとの接着性も得られない。
【0007】
また、特開2004−284605号公報に係るシーラント層では、エチレン共重合体に配合したメタクリル酸エステル共重合体が成膜時に容易に微分散せず、非接着性のメタクリル酸エステル共重合体層を形成することでも、キャリアテープに対する接着性が悪いものとなる。
【0008】
従って、本発明は、キャリアテープの材質や熱シール温度に殆ど影響を受けることなく、良好な密閉性と剥離性を得ることができ、かつ高透明性のキャリアテープ用カバーテープを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明(請求項1)のキャリアテープ用カバーテープは、水系含浸重合法により製造された海島構造体であって、海相がオレフィン系重合体で構成され、島相がアクリル系重合体で構成される海島構造体を含むシーラント層を有することを特徴とする。
【0010】
請求項2のキャリアテープ用カバーテープは、請求項1において、前記シーラント層は、前記海島構造体の島相100重量部に対してオレフィン系樹脂100〜500重量部と、オレフィン系及び/又はスチレン系ゴム100〜500重量部と、粘着付与剤30〜300重量部とを含むことを特徴とする。
【0011】
請求項3のキャリアテープ用カバーテープは、請求項1又は2において、前記シーラント層と、該シーラント層に積層された、ポリエステル系樹脂、ポリプロピレン系樹脂及びポリアミド系樹脂よりなる群から選ばれる1種又は2種以上の樹脂をベース樹脂とする二軸延伸フィルムよりなる支持層とを有することを特徴とする。
【0012】
請求項4のキャリアテープ用カバーテープは、請求項1ないし3のいずれか1項において、前記島相がアクリル系単量体とビニル系単量体との共重合体であることを特徴とする。
【0013】
請求項5のキャリアテープ用カバーテープは、請求項4において、前記ビニル系単量体がスチレン系単量体であることを特徴とする。
【0014】
請求項6のキャリアテープ用カバーテープは、請求項1ないし5のいずれか1項において、前記島相の表層部に、前記オレフィン系重合体にアクリル系単重体がグラフト重合してなるグラフト変性オレフィン系重合体を有することを特徴とする。
【0015】
請求項7のキャリアテープ用カバーテープは、請求項1ないし6のいずれか1項において、前記海島構造体が、オレフィン系重合体及びアクリル系単量体を含む水性懸濁液中にて、オレフィン系重合体にアクリル系単量体を含浸させた後、該水性懸濁液中にラジカル開始剤を添加して、該ラジカル開始剤をオレフィン系重合体に含浸させ、次いで該ラジカル開始剤の10時間半減期温度以上に昇温してグラフト反応させることにより得られたものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、キャリアテープの材質や熱シール温度に殆ど影響を受けることなく、良好な密閉性と剥離性を得ることができ、かつ高透明性のキャリアテープ用カバーテープを提供することができる。
【0017】
本発明で用いる、水系含浸重合法により製造された海島構造体は、オレフィン系重合体の海相内にアクリル系重合体で構成される分散した島相が均一に分散した透明な海島構造体であり、次の[1]及び/又は[2]の剥離機構により、良好な剥離性を得ることができる。
【0018】
[1]界面剥離機構:カバーテープとキャリアテープとの界面での剥離
本発明のキャリアテープ用カバーテープでは、その海島構造体の島相がキャリアテープに対して非接着ないしは接着力の弱い部分となることにより、キャリアテープとカバーテープとの界面で剥離が起こる。この場合、海島構造体の海相、その他の成分の存在により、キャリアテープに対する必要な密着性を十分に得ることができるため、熱シール温度やキャリアテープの材質に影響を受けることなく、当該カバーテープの構成に応じた良好な剥離性を安定に得ることができる。
【0019】
[2]凝集剥離機構:カバーテープ内で海相と島相との界面において亀裂が伝播することによる剥離
本発明のキャリアテープ用カバーテープでは、テープ自体の内部において、海相と島相との界面に亀裂が伝播することにより剥離性が得られ、この剥離ラインよりもキャリアテープ側の部分は、キャリアテープに接着したままキャリアテープ側に残留する。このように、テープ内で剥離が起こる場合、カバーテープとキャリアテープとの接着強度は剥離性に影響を及ぼすことはない。このため、熱シール温度やキャリアテープの材質に影響を受けることなく、当該カバーテープの構成に応じた良好な剥離性を安定に得ることができる。一方で、カバーテープは、その海相部分でキャリアテープに対して十分な強度に接着されるため、密閉性も十分に確保することができる。
【0020】
なお、上記[1]の界面剥離は、熱シール温度や圧力が比較的低い場合或いは熱シール時間が比較的短い場合に主に発生し、上記[2]の凝集剥離は熱シール温度や圧力が比較的高い場合或いは熱シール時間が比較的長い場合に主に発生する。従って、熱シール温度や圧力、処理時間等の熱シール条件を適宜制御することにより、いずれかの剥離機構で良好な剥離性を得ることができる。ただし、剥離機構は、上記[1]と[2]のいずれか一方であるとは限らず、これらの両方が起こる場合もある。
【0021】
本発明に係る海島構造体は、それ自体がオレフィン系重合体の海相内にアクリル系重合体で構成される島相が均一に分散した、言わば、剥離のための伝播ラインを誘発する島相がオレフィン系重合体の海相内に均一分散した透明なマスターバッチであるため、様々な成膜材料に対して容易に配合することができ、島相をカバーテープ中に均一に分散させて、密閉性と剥離性のバランスに優れ、かつ透明性で、良好な外観のカバーテープとすることができる。
【0022】
また、この海島構造体は、製造条件により、島相の含有量や島相の形状を任意に調整することもできるため、これらを要求性能に応じて調整することにより、カバーテープに対して所望の剥離性を付与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に本発明のキャリアテープ用カバーテープの実施の形態を詳細に説明する。
【0024】
まず、本発明のキャリアテープ用カバーテープのシーラント層に含まれる海島構造体の製造方法について説明する。ただし、以下に説明する方法は、本発明に係る海島構造体の製造方法の一例であって、本発明に係る海島構造体を製造する方法は、水系含浸重合法により、海相がオレフィン系重合体よりなり、島相がアクリル系重合体よりなる海島構造体が製造できる方法であれば良く、何ら以下の方法に限定されない。
【0025】
本発明に係る海島構造体を製造するには、オレフィン系重合体とアクリル系単量体を含む水性懸濁液、好ましくはオレフィン系重合体、アクリル系単量体及びスチレン系単量体等のビニル系単量体を含む水性懸濁液中で、オレフィン系重合体にアクリル系単量体、或いはアクリル系単量体とビニル系単量体を含浸させた後、該水性懸濁液中にラジカル開始剤を添加して、該ラジカル開始剤をオレフィン系重合体に含浸させ、次いで該ラジカル開始剤の10時間半減期温度以上に昇温してグラフト反応させる。
【0026】
ここで、オレフィン系重合体としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、4,4−ジメチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−デセン、1−オクタデセン等の炭素数2〜18程度のα−オレフィンの1種よりなる単独重合体、これらのα−オレフィンの2種以上よりなる共重合体、或いは、これらのα−オレフィンと酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸〔なお、ここで、「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」又は/及び「メタクリル」を意味するものとする。〕、(メタ)アクリル酸エステル、ビニルトリメトキシシラン等との共重合体等が挙げられる。具体的には、分岐状又は直鎖状のエチレン単独重合体、プロピレン単独重合体、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−1−ブテン共重合体、エチレン−プロピレン−1−ブテン共重合体、エチレン−4−メチル−1−ペンテン共重合体、エチレン−1−ヘキセン共重合体、エチレン−1−ヘプテン共重合体、エチレン−1−オクテン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸メチル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エチル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸メチル共重合体、エチレン−ビニルトリメトキシシラン共重合体等のエチレン系樹脂、これらのエチレン系樹脂のエチレン成分をプロピレンに代えたプロピレン系樹脂、及び、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−非共役ジエン共重合体、エチレン−1−ブテン共重合体、エチレン−1−ブテン−非共役ジエン共重合体等のエチレン系エラストマー等が挙げられる。これらのオレフィン系重合体は1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0027】
これらのオレフィン系重合体の中で、本発明においては、分岐状低密度エチレン単独重合体樹脂、直鎖状低密度エチレン−α−オレフィン共重合体樹脂、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、及びエチレン−アクリル酸エチル共重合体樹脂、プロピレン単独重合体樹脂、前述のプロピレン−α−オレフィン共重合体等が特に好ましい。
【0028】
なお、用いるオレフィン系重合体の分子量(Mw)は通常1万〜100万、好ましくは1万〜30万、より好ましくは3万〜15万程度である。この分子量が小さすぎると、有機層へのなじみが良くなるため含浸工程時に単量体成分に溶解してしまったり(ペレット形状が保持されない)、フィルム成形の際、マスターバッチ作成時に成膜に使用される樹脂との溶融粘度があわずに分散不良を起こしたり、ドライブレンドで成形を行う際にも流動性ムラ(フィルム外観にスジができる)を起こしたりする。この分子量が高すぎると、得られる海島構造体の溶融粘度が高くなりすぎてマスターバッチ作成時に成膜に使用される樹脂との溶融粘度があわずに分散不良を起こしたり、ドライブレンドで成形を行う際にも流動性ムラ(フィルム外観にスジができる)を起こしたりする。
【0029】
また、このオレフィン系重合体の粒径は、小さいほど単量体成分が含浸し易いため、水系含浸重合法に適するが、過度に細かいと、水系に均一に分散させることができず、また、得られた海島構造体を使用する際の成膜原料のペレットとの均一混合性も悪くなる。このようなことから、原料オレフィン系重合体の粒径は1〜8mmの範囲、平均粒径で1〜6mm、特に1〜4mm程度であることが好ましい。
【0030】
アクリル系単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル等の(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリロニトリル等が挙げられ、これらの中で、(メタ)アクリル酸エステルが好ましく、メタクリル酸メチル(メチルメタクリレート)が特に好ましい。
【0031】
本発明に係る海島構造体の製造に用いられる単量体としては、上記アクリル系単量体以外の他の単量体を併用するのが好ましく、その他の単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、ジメチルスチレン、クロロスチレン等の芳香族ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル、塩化ビニル、塩化ビニリデン等の不飽和モノ或いはジハライド等のビニル系単量体を挙げることができる。これらの中で、芳香族ビニルが好ましく、スチレンが特に好ましい。
【0032】
本発明に係る海島構造体を製造するには、前記オレフィン系重合体100重量部に対して、前記アクリル系単量体を5〜200重量部、特に10〜150重量部、とりわけ35〜120重量部用いるのが好ましい。アクリル系単量体がこの範囲未満では、得られる海島構造体の島相が少な過ぎ、この海島構造体を用いた場合の剥離性付与効果が十分でない場合があり、一方、この範囲超過では、上述の水系含浸重合を行うことが困難となり、本発明に係る海島構造体を製造し得ない。
【0033】
また、スチレン等の他の単量体は、アクリル系単量体のオレフィン系重合体への含浸性の向上のために必要に応じて用いられ、このスチレン等の他の単量体使用量は、用いる単量体の種類によっても異なるが、アクリル系単量体100重量部に対して0〜100重量部、特に0〜50重量部用いることが好ましい。他の単量体の使用量が多過ぎると、得られる海島構造体の透明性が低下し好ましくない。
【0034】
上記アクリル系単量体の使用量と同様な理由で、これらの他の単量体を併用する場合、アクリル系単量体と他の単量体との合計で、オレフィン系重合体100重量部に対して5〜200重量部、特に10〜150重量部、とりわけ35〜120重量部となるように用いることが好ましい。
【0035】
オレフィン系重合体とアクリル系単量体或いはアクリル系単量体と他の単量体とのグラフト反応条件としては、基本的には、従来公知のラジカル開始剤存在下或いは電子線照射下等での溶融混練法、溶液法、水系含浸重合法等による方法を採り得るが、本発明においては、ラジカル開始剤存在下での水系含浸重合法によるのが好ましい。
【0036】
このラジカル開始剤存在下での水系含浸重合法で用いるラジカル開始剤としては、10時間半減期温度が40℃以上、更には50〜120℃であって、油溶性であるものが好ましい。10時間半減期温度が40℃未満のものでは、アクリル系単量体の重合が異常に進行して均質な海島構造体が得られにくい傾向となる。なお、ここで、10時間半減期温度とは、ベンゼン1リットル中にラジカル開始剤0.1モルを添加して10時間放置したときにラジカル開始剤の50%が分解するときの温度である。
【0037】
そのラジカル開始剤としては、例えば、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド(53℃)、t−ブチルパーオキシピバレート(55℃)、ビス−3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド(59.5℃)、オクタノイルパーオキサイド(62℃)、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(72.5℃)、o−メチルベンゾイルパーオキサイド(73℃)、ベンゾイルパーオキサイド(74℃)、シクロヘキサノンパーオキサイド(97℃)、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン(100℃)、t−ブチルパーオキシベンゾエート(104℃)、ジ−t−ブチルジパーオキシフタレート(107℃)、メチルエチルケトンパーオキサイド(109℃)、ジクミルパーオキサイド(117℃)、ジ−t−ブチルパーオキサイド(124℃)等の有機過酸化物、アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(52℃)、アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)(65℃)、アゾビス(2−メチルブチロニトリル)(67℃)、アゾビスイソブチロニトリル(79℃)等のアゾ化合物等が挙げられ(括弧内の温度は10時間半減期温度である。)、これらのラジカル開始剤は1種を単独で用いても2種以上を併用しても良い。これらの中で、アゾ系化合物が好ましい。
【0038】
なお、前記ラジカル開始剤の使用量は、前記アクリル系単量体及び必要に応じて用いられる他の単量体の使用量100重量部に対して0.01〜10重量部程度とするのが好ましく、この範囲未満では反応が円滑に進まず、この範囲超過では海島構造体中にゲルが発生し易くなる傾向となる。
【0039】
本発明において、好適な水系含浸グラフト反応は、前記オレフィン系重合体と前記アクリル系単量体、及び必要に応じて用いられる他の単量体の所定量を含む水性懸濁液を、加熱下に攪拌してアクリル系単量体或いはアクリル系単量体及び他の単量体をオレフィン系重合体に含浸させ、次いで、前記ラジカル開始剤の所定量を添加し、攪拌してラジカル開始剤をオレフィン系重合体に含浸させた後、ラジカル開始剤の10時間半減期温度以上に昇温してグラフト反応させる方法である。
【0040】
ここで、オレフィン系重合体とアクリル系単量体、及び必要に応じて用いられる他の単量体の水性懸濁液は、オレフィン系重合体の水性懸濁液に、アクリル系単量体及び他の単量体を加えて攪拌するか、アクリル系単量体及び他の単量体の水性懸濁液に、オレフィン系重合体を加えて攪拌するいずれかの方法によって作製するのが好ましい。
【0041】
また、その水性懸濁液中におけるオレフィン系重合体とアクリル系単量体及び他の単量体の合計含有量は、水100重量部に対して5〜100重量部程度とするのが好ましく、安定な分散状態を保つために、例えば、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ヒドロキシセルロース等の水溶性高分子、アルキルベンゼンスルホネート等の陰イオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等の非イオン性界面活性剤、或いは、酸化マグネシウム、燐酸カルシウム等の水不溶性の無機塩等の懸濁安定剤を、単独で又は併用して、水に対して0.001〜10重量%程度用いることが好ましい。
【0042】
オレフィン系重合体へのアクリル系単量体及び必要に応じて用いられる他の単量体の含浸は、好ましくは40〜100℃、更に好ましくは50〜90℃程度の加熱下で攪拌して、遊離の単量体が単量体全量の80重量%以下となる程度まで、通常は2〜8時間程度行われる。
【0043】
アクリル系単量体及び必要に応じて用いられる他の単量体をオレフィン系重合体に含浸させた後は、その含浸温度が使用するラジカル開始剤の10時間半減期温度以上の温度である場合等、必要に応じて、ラジカル開始剤の10時間半減期温度未満の温度まで、好ましくはラジカル開始剤の10時間半減期温度より5℃以上低い温度以下まで冷却し、次いで、前記ラジカル開始剤を添加し、攪拌下にオレフィン系重合体に含浸させる。このオレフィン系重合体へのラジカル開始剤の含浸は、好ましくは室温〜100℃、更に好ましくは40〜90℃程度の範囲で、且つ用いるラジカル開始剤の10時間半減期温度未満の温度下で攪拌することにより行われる。
【0044】
ラジカル開始剤をオレフィン系重合体に含浸させた後のグラフト反応は、一般的には、攪拌下、50〜150℃程度の温度、常圧〜10kg/cm程度の圧力で、2〜10時間程度で行われるが、その間の温度及び圧力は、一定である必要はない。
【0045】
なお、上記水系含浸重合法による海島構造体の製造において、アクリル系単量体或いは他の単量体のオレフィン系重合体へのグラフト鎖長、及びアクリル系単量体の単独重合体或いは他の単量体との共重合体における分子量調節のため、n−ブチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン等、或いは、一般にα−メチルスチレンダイマーと称される2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン等の連鎖移動剤(分子量調節剤、重合抑制剤)が用いられても良い。このような連鎖移動剤を使用する場合、その使用量は通常アクリル系単量体と必要に応じて用いられる他の単量体との合計100重量部に対して、0〜1重量部、好ましくは0.01〜0.8重量部程度である。連鎖移動剤は、通常、ラジカル開始剤の添加時に水性懸濁液に添加される。
【0046】
このようにして得られる本発明に係る海島構造体は、オレフィン系重合体の海相内にアクリル系重合体の微細な島相が均一に分散した高透明性の海島構造体である。この海島構造体の島相は、用いたアクリル系単量体の重合体又は、スチレン等の他の単量体を用いた場合は、アクリル系単量体とスチレン等の他の単量体との共重合体で構成されるが、その表層部分には、オレフィン系重合体にアクリル系単量体(場合によって更に他の単量体)がグラフト重合した変性オレフィン系重合体が形成されており、このグラフト変性オレフィン系重合体により、成膜原料として用いた場合、得られるテープから島相が脱落するのが防止され、また島相のブリードアウトも防止される。
【0047】
このようにして得られる海島構造体は通常平均粒径が1〜10mm、特に3〜7mm程度の粒子状であることが好ましい。
【0048】
しかして、この海島構造体は、以下のようにして製造条件を調整することにより、島相の含有量や、島相の形状を任意に調整することができる。
(1) 島相の含有量の調整
前述の海島構造体製造時の配合比の範囲において、アクリル系単量体等の単量体成分の使用量を多くすることにより、島相の含有量を多くすることができ、逆に少なくすることにより、島相の含有量を少なくすることができる。
【0049】
本発明に係る海島構造体は島相の含有量を幅広い範囲で制御することができるが、一般的には、海島構造体に占める島相の含有量で1〜60重量%、特に10〜60重量%、とりわけ20〜60重量%、更には25〜55重量%程度であることが好ましい。島相の含有量を過度に多くすることは海島構造が反転するため困難であり、島相の含有量が少な過ぎると、島相による剥離性付与効果が十分でなくなる。ただし、島相含有量は、この海島構造体を成膜原料としてどの程度用いるかによっても異なるため、所望の密閉/剥離性に応じて適宜決定される。
【0050】
(2) 島相の形状
アクリル系単量体等の単量体成分の重合度を制御することにより、島相を球形、楕円球形(ラグビーボール状)、シリンダー状(細長く引き伸ばされた柱状)等の様々な形状に制御することができる。即ち、単量体成分の重合度を下げ、後述の実施例の項で測定される島相部分の分子量を小さくするとL/D(長さ/径比)が大きいシリンダー状の島相が形成され、逆に単量体成分の重合度を上げ、この島相部分の分子量を大きくすると、L/Dの小さい球形の島相が形成される。
【0051】
なお、単量体成分の重合度及び島相の分子量は、前述の連鎖移動剤の配合量により調整することができる。即ち、連鎖移動剤の配合量を多くすると、単量体成分の重合度は抑えられ、島相部分の分子量は小さくなり、連鎖移動剤の配合量を少なくすると、単量体成分の重合度は上昇傾向となり、島相部分の分子量は大きくなる。
【0052】
島相のL/Dは1〜1000、特に1〜500の範囲で任意の値に調整可能である。また、島相の大きさについては、形状にもより一概には言えないが、L/Dの小さい略球状の島相であれば平均粒径で2〜50μm程度、L/Dの大きいシリンダー状の島相では、その短径の平均値で1〜20μm程度である。
【0053】
本発明において、このような海島構造体の島相を剥離の誘導部とする。この海島構造体の島相のL/Dが大きすぎるとMD方向とTD方向とで剥離強度が異なるものとなる上に、剥離外観も損なわれる。また、糸引きも起こりやすく、剥離した部分もMD方向に縞々に白化してしまうなどの不具合が多くなる。島相のL/Dが1に近づくほど、剥離状態は良好になるが、一方でフィルムの透明性が低下する傾向にある。このため、剥離性と透明性とをバランス良く確保するために、海島構造体の島相のL/Dは1.2〜100、特に1.5〜50、とりわけ1.5〜40の範囲であることが好ましい。
【0054】
本発明のキャリアテープ用カバーテープのシーラント層は、このような海島構造体を用い、海島構造体の島相100重量部に対して、
オレフィン系樹脂:100〜500重量部、特に200〜400重量部
オレフィン系及び/又はスチレン系ゴム:100〜500重量部、
特に150〜450重量部
及び
粘着付与剤:30〜300重量部、特に40〜250重量部
を配合した成膜原料で構成することが好ましい。
【0055】
オレフィン系樹脂は、テープに押し出し成形する際の成形加工性のための重要な成分であり、その配合量が少なすぎるとこの効果を充分に得ることができず、過度に多いとキャリアテープとの接着強度(密閉性)が低下する傾向にあるため、上記範囲とする。
【0056】
オレフィン系樹脂としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、4,4−ジメチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−デセン、1−オクタデセン等の炭素数2〜18程度のα−オレフィンの1種よりなる単独重合体、これらのα−オレフィンの2種以上よりなる共重合体、或いは、これらのα−オレフィンと酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸〔なお、ここで、「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」又は/及び「メタクリル」を意味するものとする。〕、(メタ)アクリル酸エステル、ビニルトリメトキシシラン等との共重合体等が挙げられる。具体的には、分岐状又は直鎖状のエチレン単独重合体、プロピレン単独重合体、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−1−ブテン共重合体、エチレン−プロピレン−1−ブテン共重合体、エチレン−4−メチル−1−ペンテン共重合体、エチレン−1−ヘキセン共重合体、エチレン−1−ヘプテン共重合体、エチレン−1−オクテン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸メチル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エチル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸メチル共重合体、エチレン−ビニルトリメトキシシラン共重合体等のエチレン系樹脂、これらのエチレン系樹脂のエチレン成分をプロピレンに代えたプロピレン系樹脂、及び、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−非共役ジエン共重合体、エチレン−1−ブテン共重合体、エチレン−1−ブテン−非共役ジエン共重合体等のエチレン系エラストマー等が挙げられる。これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0057】
オレフィン系及び/又はスチレン系ゴムは、粘着付与剤の材料強度補強のために必要な成分であり、その配合量が少なすぎると粘着付与剤に充分な補強効果を与えることができないことから、得られるカバーテープはキャリアテープに対して充分な接着強度を得ることができず、経時によりキャリアテープから剥離してしまう可能性がある。逆に、その配合量が過度に多いと、成膜時にべたつきが出てきて、巻き締まりやブロッキングの原因となる。このため、配合量は上記範囲とする。
【0058】
オレフィン系ゴムとは、エチレン、プロピレン、1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、4,4−ジメチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−デセン、1−オクタデセン等の炭素数2〜18程度のα−オレフィンの1種の重合体又は2種以上の共重合体であって、密度0.900g/cm以下の熱可塑性樹脂であり、これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0059】
スチレン系ゴムとは、スチレン等のビニル芳香族化合物(後述のA成分)と共役ジエン化合物(後述B成分)とのブロック共重合体をさし、一般式A−B、A−B−A、B−A−B−A、A−B−A−B−A等で表されるブロック共重合体である。スチレン系ゴムは、そのB成分が水添されているものが好ましく、完全水添タイプ(市販品では通常水添率95%以上である。)、もしくは一部二重結合を残した部分水添タイプ(市販品では通常水添率40〜60%である。)を使用することができる。未水添タイプのものはB成分部分の二重結合の影響で、熱安定性が悪く、成形加工時に発煙して作業環境が悪く、樹脂の変色、経時退色の問題もある。これに対して、完全水添タイプは熱安定性に優れることから成形加工時のヤケや樹脂の変色を抑えることができる。部分水添タイプのものは粘着付与剤との相溶性に優れることから、密閉性が求められる分野に有効である。上記A成分を構成するビニル芳香族化合物としては、例えばスチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等の1種又は2種以上が選ばれ、中でもスチレンが好ましい。また、B成分を構成する共役ジエン化合物としては、例えばブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン等の1種又は2種以上が選ばれ、中でもブタジエン及び/又はイソプレンが好ましい。
【0060】
スチレン系ゴム中のAブロックとなるビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックの含有量は通常5〜80重量%、好ましくは5〜70重量%、さらに好ましくは5〜40重量%である。また、B成分の水添率は、部分水添から完全水添と呼ばれる範囲であり、通常40%以上、好ましくは50%以上である。
【0061】
これらのスチレン系ゴムは、1種を単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0062】
なお、オレフィン系ゴムとスチレン系ゴムとは、いずれか一方のみを用いても良く、併用してもよい。オレフィン系ゴムは成膜時の流動性に優れ、フィルム外観の向上に有効である。スチレン系ゴムは粘着付与剤を効率よく取り込むことから安定した接着強度を発現すると共にシール後の経時変化の防止に有効である。従って、両者を併用することにより、成膜性、フィルム外観の向上、剥離強度の安定化と経時変化の抑制を有効に図ることができる。
【0063】
また、粘着付与剤は、キャリアテープの種類に影響を受けることなく良好な密閉性を付与するために有効であり、その配合量が少なすぎると接着強度が低くなる傾向にあり、過度に多いと成膜時等における取り扱い性が悪くなる。
【0064】
粘着付与剤としては、石油樹脂、ロジン系樹脂、テルペン系樹脂等、通常粘着付与剤と称される市販のものから適宜選択して用いることができる。接着強度の安定性の面から石油樹脂が好ましく、特に芳香族型水添石油樹脂と呼ばれるものが好ましい。また、熱安定性の面から不純物の少ないテルペン系樹脂も好ましい。
【0065】
粘着付与剤の指標である軟化温度(環球法)は70〜150℃、特に90〜150℃のもの、とりわけ100〜150℃のものが好ましい。この軟化温度が70℃未満では接着強度が劣ると同時に、常温でのペレット形状を保持しにくいことから、オレフィン系樹脂やオレフィン系/スチレン系ゴムとの溶融混練が難しい。また、シーラント層の黄変等の着色を防止して、その色相を出来る限り自然色(白色又は無色透明)に近づけるためには、水添タイプと呼ばれるものが好ましく、脂肪族系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、又はそれらの共重合体、テルペン系樹脂であって、水添率が70%以上、特に80%、とりわけ90%以上のものが好ましい。
【0066】
なお、成膜原料中の海島構造体の島相の含有量は、5〜30重量%、特に10〜20重量%程度であることが好ましい。この島相の含有量が少な過ぎると十分な剥離性を付与することができず、多過ぎるとテープ外観や透明性が低下し、著しい場合には成膜時にテープ切れを起こし、成膜不可能となる。
【0067】
本発明のキャリアテープ用カバーテープのシーラント層を製造するには、成膜原料中に上述のような海島構造体の必要量を配合して常法に従って成膜すれば良い。これにより、海島構造体中の島相がMD方向に配向し、良好な剥離性が付与される。
【0068】
また、シーラント層を成膜に用いるに当って、前述の水系含浸重合法により得られた粒子状の海島構造体を、他の成膜原料に配合する方法には特に制限はなく、例えば、本発明に係る海島構造体をそのまま成膜原料に配合(ドライブレンド)して成形に用いても良く、また、海島構造体の添加量が極端に少ない場合は分散性を考慮して他の樹脂等に一旦練り込んだ後、成膜原料に配合しても良く、成膜原料を調製する際に最終配合量を練り込みペレット(粒子状)にした後成形に用いても良い。その際に仕上げるペレット(粒子状)の粒径は成形機に供される大きさであればよく、通常用いられるサイズとして1〜10mm、特に3〜7mm程度である。
【0069】
即ち、水系含浸重合法により得られる本発明に係る海島構造体は、それ自体がテープ剥離時の亀裂の伝播ラインの誘導部である島相の高濃度マスターバッチの形態とされているが、この海島構造体を更に成膜原料のペレットと混練して低濃度マスターバッチを製造し、これを成膜原料に配合することもできる。
【0070】
例えば本発明に係る海島構造体を島相の含有量がごく少量となるように、成膜原料に配合する場合、高濃度に島相を含む海島構造体を成膜原料に対して少量配合することはその分散性の面で不利である。従って、このような場合には、水系含浸重合法により製造された海島構造体を更に成膜原料のペレットと混練して希釈することにより、低濃度マスターバッチ状とすることもできる。この場合においても、本発明に係る海島構造体であれば、良好な均一分散性を示す。
【0071】
なお、成膜原料には、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、防曇剤、ブロッキング防止剤、滑剤、可塑剤、顔料等の添加剤、充填材等が含有されていてもよい。これらの配合は、ペレットの製造時、海島構造体の製造時、テープの成膜時のいずれであっても良い。
【0072】
本発明のキャリアテープ用カバーテープのシーラント層の成膜方法には特に制限はなく、常法に従って成膜することができる。
【0073】
本発明のキャリアテープ用カバーテープのシーラント層の厚さは、厚すぎるとテープ自体の強度が強くなるため剥離しにくい傾向になり、薄すぎると厚みが不均一になり接着強度(密閉性)が不安定となり易く、著しい場合には密閉性が極端に低くなるため、1〜300μm、特に2〜200μm、とりわけ3〜100μm程度であることが好ましい。
【0074】
また、本発明のキャリアテープ用カバーテープのシーラント層の引き裂き強度については特に制限はないが、MD方向とTD方向とで引き裂き強度差が少ないほうが、剥離性が均一で安定する点から好ましい。
【0075】
本発明のキャリアテープ用カバーテープは、このようなシーラント層の単層構造であっても良く、このシーラント層をポリエステル系樹脂、ポリプロピレン系樹脂及びポリアミド系樹脂よりなる群から選ばれる1種又は2種以上の樹脂をベース樹脂とする二軸延伸フィルムよりなる支持層と積層した積層テープとしても良い。この場合、この支持層は、強度、価格等の面から厚さ5〜40μm程度であることが好ましい。
【0076】
本発明のキャリアテープ用カバーテープは、前述のシーラント層を、上述の、ポリエステル系樹脂、ポリプロピレン系樹脂及びポリアミド系樹脂よりなる群から選ばれる1種又は2種以上の樹脂をベース樹脂とする二軸延伸フィルムよりなる支持層と直接積層一体化した二層構造のものとしても良いが、一般的には、クッション性等を付与する目的で、シーラント層と支持層との間にポリエチレン等の中間支持層を形成した三層構造とされる。この場合、シーラント層とポリエチレン等の中間支持層との2層積層フィルムを、上記二軸延伸フィルムよりなる支持層に中間支持層が内側となるように積層させても良く(ドライラミ成形)、上記二軸延伸フィルムよりなる支持層とシーラント層との間にポリエチレンを押し出して(サンドラミ成形)三層積層フィルムとしても良い。なお、いずれの場合にも、上記二軸延伸フィルムよりなる支持層の積層面側には、好ましくは予めアンカーコート剤が塗布される。
【0077】
通常、このクッション層としてのポリエチレン層は、5〜30μm程度の厚さに形成される。
【0078】
このような本発明のキャリアテープ用カバーテープは、PET、PP、PS、PC等の各種材質のキャリアテープに対して、後述の実施例における剥離強度測定方法に従って測定した剥離強度が10〜150g/1mm、特に30〜100g/1mmの範囲であることが、密閉性/剥離性の兼備の上で好ましい。
【実施例】
【0079】
以下に製造例、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0080】
[本発明の改質剤の製造]
製造例1
50リットル容量のオートクレーブに、水20kgと、懸濁剤として第三燐酸カルシウム600gとドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム6gとを入れて水性媒体とし、これに粒径2〜4mmの分岐状エチレン単独重合体樹脂(日本ポリエチレン社製「ノバテックLD LJ802」MFR(190℃)22g/10分、密度0.918g/cm)粒子6kg(100重量部)を加え、攪拌して水性懸濁液とした。この水性懸濁液に、メタクリル酸メチル(MMA)4.2kg(70重量部)とスチレン(ST)1.8kg(30重量部)の混合物を加え、オートクレーブ内に窒素を導入して系内を0.5kg/cm2(49kPa)に加圧した後、攪拌しながら徐々に温度を上げて60℃で4時間攪拌することにより、メタクリル酸メチルとスチレンをエチレン単独重合体樹脂粒子中に含浸させた。引き続いて、この懸濁系を室温付近まで冷却し、アゾビスイソブチロニトリル24gとα−メチルスチレンダイマー(MSD)をMMAとSTとの合計100重量部に対して0.15重量部添加し、オートクレーブ内に窒素を導入して系内を0.5kg/cm2(49kPa)に加圧した後、攪拌しながら徐々に温度を上げて50℃で6時間攪拌することにより、アゾビスイソブチロニトリルとMSDをエチレン単独重合体樹脂粒子中に含浸させた。次いで、攪拌しながら1時間かけて徐々に90℃に昇温し、この温度で2時間攪拌してグラフト反応を行い、更に1時間かけて105℃に昇温し、この温度で5時間攪拌して反応を完結させた。冷却後、反応固形物を取り出して水洗して微粉状の副生非含浸重合体を除去し、粒子状の海島構造体を得た。いずれも収率は92%であった。回収した粒子の粒径は3〜6mmであった。
【0081】
この海島構造体についてGPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)を使用して求めた重量平均分子量(Mw)は17万であった。また、190℃、2.16kg荷重で測定したメルトフローレート(MFR)は4.5g/10分であった。
【0082】
なお、Mwの測定は、熱キシレン中に改質剤を希釈(濃度10重量%以下)したものを熱いうちに貧溶媒であるテトラヒドロフランに注下し(濃度1重量%以下)、沈殿物を濾過した後の溶液をGPCにて測定した。従って、測定された値は、島相のMMA及び/又はST重合部分のMwに相当する。
【0083】
また、仕込み量(重量)と改質後の収率(重量)から求めた島相含有量は50重量%で、SEM(走査型電子顕微鏡)観察により求めた島相のL/Dは約3であった。
【0084】
なお、この海島構造体のSEM写真を図1に示す。
【0085】
このSEM観察は、製造した改質剤100重量部と希釈樹脂100重量部をドライブレンドしてTダイ成形(樹脂温度240℃)にて2層のフィルムを得、改質剤の配合された層(厚さ30μm)と改質剤を配合しない層(希釈樹脂と同じ樹脂)(厚さ30μm)を2層の共押出フィルムとし、改質剤が配合された面同士をヒートシールし、手で剥離後、剥離界面に金の蒸着工程を行い、その後SEM観察することにより行った。この手法において、希釈樹脂の種類や、濃度によって島相の形状は殆ど変化しないことは確認済みである。
【0086】
[ベース樹脂]
シーラント層の原料として下記のものを準備した。
低密度ポリエチレン:日本ポリエチレン社製「ノバテックLC607」
オレフィン系ゴム:三井化学社製「タフマーA4085」
スチレン系ゴム:旭化成社製「タフテック H1052」
粘着付与剤:荒川化学社製「アルコン P140」
【0087】
[比較用剥離性付与剤]
比較用の剥離性付与剤として以下のものを準備した。
ポリメチルメタクリレート(PMMA):住友化学社製「スミペックス LG35」
エチレン−エチルアクリレート共重合体(EEA):
三井・デュポンポリケミカル社製「EEA A702」
【0088】
[評価方法]
得られたカバーテープは下記の方法で評価した。
<単層(シーラント層)での評価>
(1) 外部ヘーズ
プラスチックの光学的特性試験方法 K7105−1981『5.5 光線透過率及び全光線反射率A法』に則り測定した。
(2) 内部ヘーズ
フィルム試験片表面にオイルを塗布して表面凹凸の影響をなくして、上記外部テープと同様にして測定した。
(3) 引裂強度
引き裂き強度 JIS K6781−1994に準拠し、JIS K6781−1994の図4に示される引裂荷重試験片ダンベルにて、MD方向、TD方向に直角に打ち抜き、オートグラフにて引っ張り速度500mm/minで引き裂き、強度の最大値を採用した。
<カバーテープとしての評価>
(4) 密閉/剥離性の評価
得られたカバーテープを1cm幅にカットした。一方、表1に示す樹脂基材のキャリアテープを1cm幅にカットした。各々1cm幅にカットしたカバーテープ片とキャリアテープ片とを、カバーテープのシーラント層側を内側にして、1mm幅のシールバーを用いて表1に示す温度で熱シールし、シールバーの方向に剥離することにより、剥離強度を測定した。
【0089】
なお、表1に示すキャリアテープ基材の詳細は次の通りである。
PET:ポリエチレンテレフタレート
PET−G:共重合体ポリエチレンテレフタレート(デュポン・ダウ社製商品名)
PP:ポリプロピレン
PS:ポリスチレン
PC:ポリカーボネート
【0090】
また、剥離後の外観を目視観察し、下記基準で評価した。
○:剥離強度が安定しており、剥離した部分が透明、又は白化しても平滑になってい
る。
×:剥離強度にばらつきがあり、剥離した部分がまだらに透明部分や白化した部分が
あり均一になっていない。
【0091】
[実施例及び比較例]
表1に示す配合のシーラント層成形材料と、中間支持層としての低密度ポリエチレンとを用い、プラコーTダイにより240℃で2層フィルムを成形した。この2層フィルムのシーラント層の厚さは30μmで、ポリエチレン層の厚さは30μmであった。
【0092】
この2層フィルムのポリエチレン層側を、厚さ12μmのPET製二軸延伸フィルム(積層面側にアンカーコート剤を塗布)に積層一体化してカバーテープとした。
【0093】
各々のカバーテープについて評価を行った結果を表1に示した。
【0094】
【表1】

【0095】
表1より明らかなように、本発明によれば、透明で、密閉/剥離性に優れたカバーテープが提供されることが明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】製造例1で製造された海島構造体のSEM写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水系含浸重合法により製造された海島構造体であって、海相がオレフィン系重合体で構成され、島相がアクリル系重合体で構成される海島構造体を含むシーラント層を有することを特徴とするキャリアテープ用カバーテープ。
【請求項2】
請求項1において、前記シーラント層は、前記海島構造体の島相100重量部に対してオレフィン系樹脂100〜500重量部と、オレフィン系及び/又はスチレン系ゴム100〜500重量部と、粘着付与剤30〜300重量部とを含むことを特徴とするキャリアテープ用カバーテープ。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記シーラント層と、該シーラント層に積層された、ポリエステル系樹脂、ポリプロピレン系樹脂及びポリアミド系樹脂よりなる群から選ばれる1種又は2種以上の樹脂をベース樹脂とする二軸延伸フィルムよりなる支持層とを有することを特徴とするキャリアテープ用カバーテープ。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記島相がアクリル系単量体とビニル系単量体との共重合体であることを特徴とするキャリアテープ用カバーテープ。
【請求項5】
請求項4において、前記ビニル系単量体がスチレン系単量体であることを特徴とするキャリアテープ用カバーテープ。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項において、前記島相の表層部に、前記オレフィン系重合体にアクリル系単重体がグラフト重合してなるグラフト変性オレフィン系重合体を有することを特徴とするキャリアテープ用カバーテープ。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項において、前記海島構造体が、オレフィン系重合体及びアクリル系単量体を含む水性懸濁液中にて、オレフィン系重合体にアクリル系単量体を含浸させた後、該水性懸濁液中にラジカル開始剤を添加して、該ラジカル開始剤をオレフィン系重合体に含浸させ、次いで該ラジカル開始剤の10時間半減期温度以上に昇温してグラフト反応させることにより得られたものであることを特徴とするキャリアテープ用カバーテープ。

【図1】
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【公開番号】特開2006−176619(P2006−176619A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−370716(P2004−370716)
【出願日】平成16年12月22日(2004.12.22)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【出願人】(591143951)ジェイフィルム株式会社 (19)
【Fターム(参考)】