説明

キャンバ角調整装置

【課題】軸と軸受との間のガタの発生を抑制しつつ、軸と軸受との間の摺動抵抗を低減できるキャンバ角調整装置を提供する。
【解決手段】アッパーアームの一端側が回転可能に連結されるクランクピン93bが、クランクジャーナル93aに対して偏心する。よって、クランクジャーナル93aが回転されると、アッパーアームの一端側がクランクピン93bの回転軌跡に沿って移動され、車輪のキャンバ角が調整される。クランクジャーナル93a及びクランクピン93bとジャーナル軸受96及びピン軸受97とがそれぞれ楕円形状に形成されるので、クランクジャーナル93a及びクランクピン93bの長径方向が、ジャーナル軸受96及びピン軸受97の短径方向を向いた状態では、両者の間にガタが発生することを抑制できる。一方、その状態から相対回転させる場合には、両者の間に隙間を形成して、摺動抵抗を低減できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪のキャンバ角を調整するキャンバ角調整装置に関し、特に、軸と軸受との間のガタの発生を抑制しつつ、軸と軸受との間の摺動抵抗を低減できるキャンバ角調整装置を提供することを目的としている。
【背景技術】
【0002】
従来より、アクチュエータを利用して、車輪のキャンバ角を調整する技術が知られている。例えば、特許文献1には、車輪を支持するアクスル2がアッパーアーム10及びロアアーム51を介して車体に連結されると共に、ロアアーム51と車体との間に伸縮式のアクチュエータ61が介在された車両に対して、アクチュエータ61の伸縮駆動を制御することで、アクスル2を車体に対して変位させ、車輪のキャンバ角を調整する技術が開示される。
【0003】
これに対し、本願出願人は、サスペンションアーム(例えば、アッパーアーム)と車体との間にクランク部材を介在させ、クランク部材の回転駆動により、車輪を支持するハブ部材を車体に対して変位させることで、車輪のキャンバ角を調整するキャンバ角調整装置を開発した(但し、本願出願時において未公知)。
【0004】
キャンバ角調整装置は、クランクジャーナル及びそのクランクジャーナルに対して偏心しサスペンションアームの一端側が連結されるクランクピンを有するクランク部材と、それらクランクジャーナル及びクランクピンをすべり面で支持するすべり軸受とを備える。なお、キャンバ角調整装置は、走行中、車輪を所定のキャンバ角に維持するため、非回転状態の軸を軸受で支持することになる。そのため、フレッティング磨耗を抑制するために、すべり軸受を採用する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−122932号公報(段落[0038]、第7図など)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述したキャンバ角調整装置は、車輪を懸架する懸架装置の一部を構成するため、しめ代を付与して、軸と軸受との間のガタの発生を抑制する必要がある。一方で、このように、軸と軸受との間にしめ代を付与すると、摺動抵抗が増加し、軸を回転駆動するための駆動装置の容量を大型化する必要が生じるという問題点があった。
【0007】
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、軸と軸受との間のガタの発生を抑制しつつ、軸と軸受との間の摺動抵抗を低減できるキャンバ角調整装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段および発明の効果】
【0008】
請求項1記載のキャンバ角調整装置によれば、リンク部材の一端側が回転可能に連結されるクランクピンは、クランクジャーナルに対して偏心するので、そのクランクジャーナルが回転駆動手段により回転駆動されると、リンク部材の一端側がクランクピンの回転軌跡に沿って移動される。このリンク部材の移動に伴って、ハブ部材が変位され、車輪のキャンバ角が調整される。
【0009】
この場合、クランクジャーナルの楕円形状における長径は、ジャーナル軸受の楕円形状における短径と等しい又は短径よりも大きく、かつ、ジャーナル軸受の楕円形状における長径よりも小さくされるので、クランクジャーナルの楕円形状における長径方向が、ジャーナル軸受の楕円形状における短径方向を向いた状態では、両者の間にガタが発生することを抑制できる。一方、その状態から軸を軸受に対して相対回転させる場合には、両者の間に隙間を形成できるので、摺動抵抗を低減できる。
【0010】
同様に、クランクピンの楕円形状における長径は、ピン軸受の楕円形状における短径と等しい又は短径よりも大きく、かつ、ピン軸受の楕円形状における長径よりも小さくされるので、クランクピンの楕円形状における長径方向が、ピン軸受の楕円形状における短径方向を向いた状態では、両者の間にガタが発生することを抑制できる。一方、その状態から軸を軸受に対して相対回転させる場合には、両者の間に隙間を形成できるので、摺動抵抗を低減できる。
【0011】
このように、軸(クランクジャーナル、クランクピン)が軸受(ジャーナル軸受、ピン軸受)に対して所定の位相にある状態では、軸と軸受との間にガタが発生することを抑制することができる。一方、その状態から軸が軸受に対して相対回転する場合には、軸と軸受との間に隙間を形成して、摺動抵抗を低減できるので、回転駆動手段の容量の小型化を図ることができる。
【0012】
請求項2記載のキャンバ角調整装置によれば、請求項1記載のキャンバ角調整装置の奏する効果に加え、リンク部材の一端側の軸心と他端側の軸心とを結ぶ直線上にクランクジャーナルの軸心が位置する状態(即ち、リンク部材の一端側の軸心がリンク部材の他端側の軸心とクランクジャーナルの軸心との間に位置する第1状態、及び、リンク部材の一端側の軸心とリンク部材の他端側の軸心との間にクランクジャーナルの軸心が位置する第2状態)では、車輪のキャンバ角が所定のキャンバ角(即ち、第1状態では第1キャンバ角、第2状態では第2キャンバ角)に調整される。
【0013】
車輪のキャンバ角が第1キャンバ角または第2キャンバ角に調整された状態では、クランクジャーナルの楕円形状における長径方向が、リンク部材の一端側の軸心と他端側の軸心とを結ぶ直線方向を向き、かつ、ジャーナル軸受の楕円形状における短径方向を向くと共に、クランクピンの楕円形状における長径方向が、リンク部材の一端側の軸心と他端側の軸心とを結ぶ直線方向を向き、かつ、ピン軸受の楕円形状における短径方向を向く。
【0014】
よって、キャンバ角を変化させる方向(車輪からリンク部材を介してクランク部材へ力が作用する方向)にしめ代を付与して、軸と軸受との間にガタが発生することを抑制できる。その結果、車輪を第1キャンバ角または第2キャンバ角に安定的に保持することができる。
【0015】
一方、クランク部材が回転駆動され、車輪のキャンバ角が第1キャンバ角から第2キャンバ角へ向けて又はその逆へ向けて調整される場合には、しめ代の付与が解除され、軸と軸受との間に隙間を形成できる。その結果、軸と軸受との間の摺動抵抗を低減して、回転駆動手段の容量の小型化を図ることができる。この場合、キャンバ角の調整動作中は、クランク部材の回転動作に伴い、リンク部材がキャンバ角の調整方向へ向けて押し引きされているので、その押し引き動作の反力によって、軸と軸受との間の隙間が一方側に詰まった状態となる。よって、キャンバ角の調整動作中においても、ガタの発生を抑制できる。
【0016】
なお、車輪のキャンバ角を第1キャンバ角または第2キャンバ角に調整する際に、リンク部材の一端側の軸心と他端側の軸心とを結ぶ直線上にクランクジャーナルの軸心が位置する状態することで、クランクピンの軸心の回転軌跡におけるクランクピンの軸心位置での接線と上記直線とを直角に近づけることができる。よって、リンク部材からクランク部材へ力が加わった場合でも、クランク部材をクランクジャーナルの軸心まわりに回転させる方向の力成分の発生を抑制できる。従って、機械的な摩擦力によりクランク部材の回転を規制できるので、車輪のキャンバ角を第1キャンバ角または第2キャンバ角に維持するために必要とされる駆動力を小さくする或いは不要とすることができ、その結果、回転駆動手段の消費エネルギーを抑制できる。
【0017】
ここで、請求項2において、「長径方向が、直線方向を向き、かつ、短径方向を向く」とは、これら各方向が完全に平行であることを要求する趣旨ではなく、よって、これら各方向の間に所定の角度が形成されることは許容される。所定の角度は、回転駆動手段による回転駆動時の制御誤差、部品の寸法公差や製造時の組み立て誤差などに基づいて、適宜決定される。
【0018】
請求項3記載のキャンバ角調整装置によれば、請求項2記載のキャンバ角調整装置の奏する効果に加え、ジャーナル軸受が車体側に配設され、リンク部材は、サスペンションストロークに伴い、クランクピンとの間に相対的な回転が発生するサスペンションアームとして構成されるので、ばね下重量の軽減を図ることができる。
【0019】
請求項4記載のキャンバ角調整装置によれば、請求項3記載のキャンバ角調整装置の奏する効果に加え、ジャーナル側しめ代形成角度がピン側しめ代形成角度よりも小さくされるので、車輪のキャンバ角を第1キャンバ角または第2キャンバ角に安定的に保持可能としつつ、回転駆動手段の容量の小型化を図ることができる。
【0020】
即ち、サスペンションアームとして構成されるリンク部材は、走行中のサスペンション動作(サスペンションストローク)に伴い、クランクピンに対して相対回転(首振り回転)する。よって、ピン側しめ代形成角度を比較的大きくすることで、サスペンション動作の発生時にも、クランクピンとピン軸受との間にしめ代が形成された状態を維持し易くして、ガタの発生を抑制できる。その結果、車輪を第1キャンバ角または第2キャンバ角に安定的に保持できる。
【0021】
一方で、クランクジャーナルとジャーナル軸受との間の関係は、サスペンション動作による影響は受け難く、回転駆動手段により回転駆動される際の停止位置の位置決め精度に依存する。この位置決め精度は、上記サスペンションアームとして構成されるリンク部材が首振り回転する角度よりも十分に小さい。よって、ジャーナル側しめ代形成角度を比較的小さくすることで、クランクジャーナルとジャーナル軸受との間に形成されたしめ代をより少ない相対回転で解除可能として、その分、キャンバ角の調整動作中の摺動抵抗の低減を図ることができる。その結果、回転駆動手段の容量の小型化を図ることができる。
【0022】
請求項5記載のキャンバ角調整装置によれば、請求項3又は4に記載のキャンバ角調整装置の奏する効果に加え、ピン側しめ代形成角度がアーム首振り角度よりも大きくされるので、サスペンションアームとして構成されるリンク部材が、走行中のサスペンション動作により、クランクピンに対して相対回転(首振り回転)した場合でも、クランクピンとピン軸受との間にしめ代が形成された状態を確実に維持して、ガタの発生を抑制できる。その結果、車輪を第1キャンバ角または第2キャンバ角に安定的に保持できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】第1実施の形態におけるキャンバ角調整装置が搭載される車両を模式的に示した模式図である。
【図2】懸架装置の斜視図である。
【図3】クランクジャーナルの軸心を含む平面で切断したキャンバ角調整装置の断面図であり、図5(a)のIII−III線における断面図に対応する。
【図4】クランクジャーナルの軸心を含む平面で切断したキャンバ角調整装置の断面図であり、図5(b)のIV−IV線における断面図に対応する。
【図5】(a)は、第1状態における懸架装置の正面視を模式的に図示した模式図であり、(b)は、第2状態における懸架装置の正面視を模式的に図示した模式図である。
【図6】(a)は、ジャーナル軸受の断面図であり、(b)は、クランクジャーナルの断面図であり、(c)は、ピン軸受の断面図であり、(d)は、クランクピンの断面図である。
【図7】ジャーナル軸受およびピン軸受にクランクジャーナル及びクランクピンが支持された状態を模式的に図示する断面模式図であり、(a)は第1状態に、(b)は第1状態と第2状態との間の状態に、(c)は第2状態に、それぞれ対応する。
【図8】(a)は、クランクジャーナル及びジャーナル軸受の楕円形状を模式的に図示する模式図であり、(b)は、ジャーナル側しめ代形成角度を示す模式図である。
【図9】(a)は、クランクピン及びピン軸受の楕円形状を模式的に図示する模式図であり、(b)は、ピン側しめ代形成角度を示す模式図である。
【図10】変形例における懸架装置の正面視を模式的に図示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の好ましい実施の形態について添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の第1実施の形態におけるキャンバ角調整装置45が搭載される車両1を模式的に示した模式図である。なお、図1の矢印U−D,L−R,F−Bは、車両1の上下方向、左右方向、前後方向をそれぞれ示している。
【0025】
まず、車両1の概略構成について説明する。車両1は、図1に示すように、車体BFと、その車体BFを支持する複数(本実施の形態では4輪)の車輪2と、それら複数の車輪2の内の一部(本実施の形態では、左右の前輪2FL,2FR)を回転駆動する車輪駆動装置3と、各車輪2を車体BFに独立に懸架する懸架装置4,14と、複数の車輪2の内の一部(本実施の形態では、左右の前輪2FL,2FR)を操舵する操舵装置5とを主に備えて構成される。
【0026】
次いで、各部の詳細構成について説明する。車輪2は、図1に示すように、車両1の前方側(矢印F方向側)に位置する左右の前輪2FL,2FRと、車両1の後方側(矢印B方向側)に位置する左右の後輪2RL,2RRとを備えている。なお、本実施の形態では、左右の前輪2FL,2FRは、車輪駆動装置3により回転駆動される駆動輪として構成される一方、左右の後輪2RL,2RRは、車両1の走行に伴って従動される従動輪として構成される。
【0027】
また、車輪2は、左右の前輪2FL,2FR及び左右の後輪2RL,2RRが全て同じ形状および特性に構成され、それら左右の前輪2FL,2FR及び左右の後輪2RL,2RRのトレッドの幅(図1左右方向の寸法)が全て同じ幅に構成される。
【0028】
車輪駆動装置3は、上述したように、左右の前輪2FL,2FRを回転駆動するための装置であり、電動モータ3aにより構成される。電動モータ3aは、図1に示すように、デファレンシャルギヤ(図示せず)及び一対のドライブシャフト31を介して左右の前輪2FL,2FRに接続される。なお、車輪駆動装置3は、電動モータ3aに限られず、他の駆動源を採用することは当然可能である。他の駆動源としては、例えば、油圧モータやエンジン等が例示される。
【0029】
運転者がアクセルペダル61を操作した場合には、車輪駆動装置3から左右の前輪2FL,2FRに回転駆動力が付与され、それら左右の前輪2FL,2FRがアクセルペダル61の操作量に応じて回転駆動される。なお、左右の前輪2FL,2FRの回転差は、デファレンシャルギヤにより吸収される。
【0030】
懸架装置4,14は、路面から車輪2を介して車体BFに伝わる振動を緩和するための装置、いわゆるサスペンションとして機能するものであり、伸縮可能に構成され、図1に示すように、懸架装置4が左右の前輪2FL,2FRを、懸架装置14が左右の後輪2RL,2RRを、それぞれ車体BFに懸架する。
【0031】
左右の後輪2RL,2RRを懸架する懸架装置14は、左右の後輪2RL,2RRのキャンバ角を調整するキャンバ角調整機構としての機能を兼ね備えている。即ち、懸架装置14は、キャンバ角調整機構としての機能を有する点を除き、他の構成は、懸架装置4と同様に構成される。なお、懸架装置14の詳細構成については、後述する。
【0032】
操舵装置5は、運転者によるステアリング63の操作を左右の前輪2FL,2FRに伝えて操舵するための装置であり、いわゆるラック&ピニオン式のステアリングギヤとして構成される。
【0033】
この操舵装置5によれば、運転者によるステアリング63の操作(回転)は、まず、ステアリングコラム51を介してユニバーサルジョイント52に伝達され、ユニバーサルジョイント52により角度を変えられつつステアリングボックス53のピニオン53aに回転運動として伝達される。そして、ピニオン53aに伝達された回転運動は、ラック53bの直線運動に変換され、ラック53bが直線運動することで、ラック53bの両端に接続されたタイロッド54が移動する。その結果、タイロッド54がナックル55を押し引きすることで、車輪2に所定の舵角が付与される。
【0034】
アクセルペダル61及びブレーキペダル62は、運転者により操作される操作部材であり、各ペダル61,62の操作状態(踏み込み量、踏み込み速度など)に応じて、車両1の走行速度や制動力が決定され、車輪駆動装置3が駆動制御される。ステアリング63は、運転者により操作される操作部材であり、その操作状態(ステア角、ステア角速度など)に応じて、操舵装置5により左右の前輪2FL,2FRが操舵される。
【0035】
車両用制御装置100は、上述したように構成される車両1の各部を制御するための装置であり、例えば、各ペダル61,62やステアリング63の操作状態、或いは、サスストロークセンサ装置(図示せず)の検出結果などに応じてキャンバ角調整装置45を作動制御する。
【0036】
次いで、図2から図9を参照して、懸架装置14の詳細構成について説明する。図2は、懸架装置14の斜視図である。なお、懸架装置14の構成は左右共通であるので、以下においては右の後輪2RRを懸架する懸架装置14についてのみ説明し、左の後輪2RLを懸架する懸架装置14についての説明を省略する。
【0037】
図2に示すように、懸架装置14は、ダブルウィッシュボーン式サスペンション構造として構成され、車輪2(右の後輪2RR)を回転可能に保持するハブ部材41と、そのハブ部材41を車体BFに上下動可能に連結すると共に互いに所定間隔を隔てて上下に配置されるアッパーアーム42及びロアアーム43と、ロアアーム43及びアッパーブラケットUBの間に介装され緩衝装置として機能するコイルスプリングCS及びショックアブソーバSAと、ハブ部材41の上下動を許容しつつ前後方向の変位を規制するトレーリングアーム44と、アッパーアーム42及び車体BFとの間に介装されるキャンバ角調整装置45とを主に備えて構成される。なお、ロアアーム43は2本が配設される(2本のロアアーム43の内の一方は図示せず)。
【0038】
このように、本実施の形態では、ダブルウィッシュボーン式サスペンション構造により車輪2を懸架するので、車輪2が車体BFに対して上下動し、懸架装置14が伸縮動作(以下「サスペンション動作)と称す)する際のキャンバ角の変化を最小限に抑制することができる。
【0039】
この場合、キャンバ角調整装置45がアッパーアーム42に連結されるので、ロアアーム43に連結される場合と比較して、車輪2の接地面側を支点として車輪2のキャンバ角を調整する動作を行うことができるので、かかるキャンバ角を調整するための駆動力を低減することができる。同様に、車体BFの上方側に配設することができるので、その分、路面から跳ね飛ばされた石などを衝突しにくくして、キャンバ角調整装置45が破損することを抑制できる。
【0040】
次いで、図3及び図4を参照して、キャンバ角調整装置45の詳細構成を説明する。図3及び図4は、クランクジャーナル93aの軸心O1を含む平面で切断したキャンバ角調整装置45の断面図である。
【0041】
なお、図3は、図5(a)のIII−III線におけるキャンバ角調整装置45の断面図に、図4は、図5(b)のIV−IV線におけるキャンバ角調整装置45の断面図に、それぞれ対応する。即ち、図3及び図4に示す状態は、それぞれ第1状態および第2状態に対応する。
【0042】
図3及び図4に示すように、キャンバ角調整装置45は、車輪2(右の後輪2RR)のキャンバ角を調整するための装置であり、車体BFに配設され回転駆動力を発生するモータ91と、そのモータ91から入力される回転を減速して出力する減速装置92と、その減速装置92から出力される回転駆動力により回転駆動されるクランク部材93と、そのクランク部材93の位相を検出するポジションセンサ94と、それら各部材91〜94を車体BF(図2参照)に取り付けるための取り付けブラケット95とを主に備えて構成される。
【0043】
モータ91は、DCモータにより構成され、そのモータ91の回転駆動力は、減速装置92により減速された後、クランク部材93に伝達される。なお、減速装置92は、遊星歯車機構により構成される。よって、減速装置92は、モータ91の出力軸から回転駆動力が伝達される入力軸(図示せず)と、減速された回転駆動力をクランク部材93に伝達する出力軸92aとが同軸上に配置される。
【0044】
クランク部材93は、減速装置92を介して伝達されるモータ91の軸回転運動をアッパーアーム42の往復運動に変換するクランク機構として構成される部位であり、所定間隔を隔てつつ同軸上に配置される一対のクランクジャーナル93aと、それら一対のクランクジャーナル93aの対向面間を連結すると共にクランクジャーナル93aに対して偏心するクランクピン93bとを備える。
【0045】
一対のクランクジャーナル93aは、軸心O1(図5参照)を有して形成され、モータ91(減速装置92)から伝達される回転駆動力により軸心O1を回転中心として回転される。クランクピン93bは、軸心O2(図5参照)を有する軸状の部材として形成され、アッパーアーム42の一端側に設けられた円筒状の連結部42aが軸心O2を回転中心として回転可能に連結される。
【0046】
なお、一対のクランクジャーナル93aの内の一方(図3右側)のクランクジャーナル93aには、減速装置92の出力軸92aがスプライン嵌合される。これにより、クランクジャーナル93aの軸心O1と減速装置92の出力軸92aにおける軸心とが同軸上に配置される。
【0047】
クランクピン93bの軸心O2は、クランクジャーナル93aの軸心O1に対して、所定距離だけ偏心して位置する。よって、クランクジャーナル93aが軸心O1を中心として回転されると、クランクピン93bは、クランクジャーナル93aの軸心O1を中心とする回転軌跡に沿って移動される。即ち、モータ91の回転駆動力によりクランク部材93が回転されると、クランクピン93bに連結されたアッパーアーム42が車体BFに近接または離間する方向へ往復運動される(図5参照)。
【0048】
なお、本実施の形態では、一対のクランクジャーナル93aの内の一方(図3右側)のクランクジャーナル93aにクランクピン93bが一体に形成されると共に、そのクランクピン93bの先端(図3左側)が、他方(図3左側)のクランクジャーナル93aに形成された受け部に内嵌され、これによりクランク部材93が構成される。但し、本実施の形態で例示するように、クランク部材93を2部品からなる分割式に構成するのではなく、クランク部材93を鋳造や切削により1部品として構成することは当然可能である。
【0049】
クランク部材93は、クランクジャーナル93aが取り付けブラケット95にジャーナル軸受96を介して回転可能に支持される。ジャーナル軸受96は、メタルブッシュとして構成され、そのすべり面(内周面)でクランクジャーナル93aの外周面を支持する。なお、クランクジャーナル93aと取り付けブラケット95との間には、ゴム材料から円板状に形成される防水シールSが嵌め込まれ、ジャーナル軸受96の配設空間が水密とされる。
【0050】
クランクピン93bとアッパーアーム42の連結部42aとの間には、一対のピン軸受97及びゴムブッシュ98が配設される。即ち、クランクピン93bが一対のピン軸受97により回転可能に支持されることで、ピン軸受97とアッパーアーム42の連結部42aとが相対回転可能に連結される。ピン軸受97は、メタルブッシュとして構成され、そのすべり面(内周面)でクランクピン93bの外周面を支持する。
【0051】
ゴムブッシュ98は、金属材料から筒状に形成されその内周側にピン軸受97が内嵌される内筒部材と、その内筒部材の外周面に加硫接着されるゴム製の防振基体とから構成され、防振基体が径方向に圧縮された状態で、クランクピン93b(ピン軸受97)とアッパーアーム42の連結部42aとの間に介在される。
【0052】
なお、アッパーアーム42の連結部42aとクランクピン93bとの間には、ゴム材料から筒状に形成される防水カバーCが装着される。防水カバーCは、その大径側開口がアッパーアーム42の連結部42aの外周面に周着されると共に、小径側開口がクランクピン93bの外周面に周着される。この防水カバーCの装着により、ピン軸受97の配設空間が水密とされる。
【0053】
次いで、図5を参照して、キャンバ角調整装置45の動作について説明する。図5(a)は、第1状態における懸架装置14の正面視を模式的に図示した模式図であり、図5(b)は、第2状態における懸架装置14の正面視を模式的に図示した模式図である。
【0054】
アッパーアーム42は、一端側に設けられた連結部42a(図3及び図4参照)が、クランクジャーナル93aの軸心O1から偏心した位置(軸心O2)でクランクピン93bに回転可能に連結される一方、他端側(図5左側)が軸心O3を回転中心としてハブ部材41の上端側(図5上側)に回転可能に連結される。
【0055】
よって、モータ91(図3及び図4参照)から付与される回転駆動力によりクランク部材93のクランクジャーナル93aが軸心O1を回転中心として回転されると、クランクピン93bが軸心O1を中心とする円形の回転軌跡に沿って移動され、アッパーアーム42が往復移動される。これにより、アッパーアーム42を介して、ハブ部材41の上端側(図5上側)が車体BFに対して近接または離間されることで、ハブ部材41に保持される車輪2のキャンバ角が調整される。
【0056】
本実施の形態では、各軸心O1,O2,O3が、車輪2から車体BFへ向かう方向(図5において左から右に向かう方向)において、軸心O3、軸心O2、軸心O1の順に一直線上に並んで位置する第1状態(図5(a)に示す状態)と、軸心O3、軸心O1、軸心O2の順に一直線上に並んで位置する第2状態(図5(b)に示す状態)とのいずれか一方の状態となるように、車輪2のキャンバ角を調整する。
【0057】
なお、この場合、本実施の形態では、図5(b)に示す第2状態において、車輪2のキャンバ角がマイナス方向(車輪2の中心線が垂直線に対して車体BF側に傾いた状態)の所定角度(本実施の形態では−3°、以下「第2キャンバ角」と称す)に調整され、車輪2にネガティブキャンバが付与される。一方、図5(a)に示す第1状態では、車輪2へのキャンバ角の付与が解除され、そのキャンバ角が0°(以下「第1キャンバ角」と称す)に調整される。
【0058】
第1状態および第2状態では、軸心O3及び軸心O2を結ぶ直線と、軸心O2の回転軌跡の軸心O2における接線とを直角とすることができるので、アッパーアーム42からクランクジャーナル93aへ力が加わっても、クランクジャーナル93aを回転させる力成分が発生せず、クランクジャーナル93aが回転しないようにすることができる。よって、車輪2のキャンバ角を所定角度(第1キャンバ角または第2キャンバ角)に機械的に維持することができるので、第1状態または第2状態においてモータ91の駆動力を解除しておくことができる。その結果、車輪2のキャンバ角を所定角度に維持するために必要なモータ91の消費エネルギーの低減を図ることができる。
【0059】
次いで、図6から図9を参照して、ジャーナル軸受96及びピン軸受97によるクランクジャーナル93a及びクランクピン93bの支持構造について説明する。まず、図6を参照して、ジャーナル軸受96及びピン軸受97とクランクジャーナル93a及びクランクピン93bとの断面形状について説明する。
【0060】
図6(a)は、ジャーナル軸受96の断面図であり、図6(b)は、クランクジャーナル93aの断面図であり、図6(c)は、ピン軸受97の断面図であり、図6(d)は、クランクピン93bの断面図である。なお、図6(a)〜図6(d)に示す断面形状は、軸直角断面(軸心O1又は軸心O2に直交する平面で切断した断面)に対応する。
【0061】
図6(a)及び図6(c)に示すように、ジャーナル軸受96及びピン軸受97は、クランクジャーナル93a又はクランクピン93bを支持するすべり面(支持面)の軸直角断面における断面形状が楕円形状に形成される。なお、ジャーナル軸受96は、長径S1a及び短径S1bの楕円形状とされ、ピン軸受97は、長径S2a及び短径S2bの楕円形状とされる。
【0062】
図6(b)及び図6(d)に示すように、クランクジャーナル93a及びクランクピン93bは、外周面の軸直角断面における断面形状が楕円形状に形成される。なお、クランクジャーナル93aは、長径R1a及び短径R1bの楕円形状とされ、クランクピン93bは、長径R2a及び短径R2bの楕円形状とされる。
【0063】
この場合、クランクジャーナル93aの長径R1aは、ジャーナル軸受96の短径S1bよりも大きく、かつ、ジャーナル軸受96の長径S1aよりも小さくされる(S1b<R1a<S1a)。また、クランクジャーナル93aの短径R1bは、ジャーナル軸受96の短径S1bよりも小さくされる(R1b<S1b)。
【0064】
同様に、クランクピン93bの長径R2aは、ピン軸受97の短径S2bよりも大きく、かつ、ピン軸受97の長径S2aよりも小さくされる(S2b<R2a<S2a)。また、クランクピン93bの短径R2bは、ピン軸受97の短径S2bよりも小さくされる(R2b<S2b)。
【0065】
なお、ジャーナル軸受96は、1G状態(車両1が水平な地面に置かれた停車状態)において、第1状態または第2状態(軸心O2と軸心O3とを結ぶ直線上に軸心O1が位置する図5(a)及び図5(b)に示す状態)の形成時に、その短径S1b方向(図6(a)左右方向)が、軸心O2と軸心O3とを結ぶ直線方向と平行となるように、取り付けブラケット95(図3及び図4参照)に固定される。
【0066】
また、ピン軸受97は、1G状態において、第1状態および第2状態の形成時に、その短径S2b方向(図6(c)左右方向)が、軸心O2と軸心O3とを結ぶ直線方向(ジャーナル軸受96の短径S1b方向)と平行となるように、アッパーアーム42の連結部42a(図3及び図4参照)に固定される。
【0067】
一方、クランクジャーナル93aは、1G状態において、第1状態および第2状態の形成時に、その長径R1a方向(図6(b)左右方向)が、軸心O2と軸心O3とを結ぶ直線方向(ジャーナル軸受96の短径S1b方向)と平行となるように、その回転位置が設定(制御装置100により制御)される。
【0068】
また、クランクピン93bは、その長径R2a方向および短径R2b方向が、クランクジャーナル93aの長径R1a方向および短径R1b方向に平行となる状態で、クランクジャーナル93aと一体となり、クランク部材93を構成する(図3及び図4参照)。
【0069】
次いで、図7を参照して、ジャーナル軸受96及びピン軸受97とクランクジャーナル93a及びクランクピン93bとの間の位相関係について説明する。
【0070】
図7は、ジャーナル軸受96及びピン軸受97にクランクジャーナル93a及びクランクピン93bが支持された状態を模式的に図示する断面模式図である。なお、図7(a)は第1状態に、図7(b)は第1状態と第2状態との間の状態に、図7(c)は第2状態に、それぞれ対応する。また、図7では、理解を容易とするために、長径と短径との比率を拡大して、楕円形状を模式的に図示する。
【0071】
図7(a)に示すように、第1状態(車輪2のキャンバ角が第1キャンバ角に調整された状態、図5(a)参照)では、クランクジャーナル93aの楕円形状における長径方向(図7(a)左右方向)が、軸心O2と軸心O3とを結ぶ直線方向(図5(a)参照)を向き(直線方向と平行)、かつ、ジャーナル軸受93aの楕円形状における短径方向(図7(a)左右方向)を向く(短径方向と平行となる)。また、クランクピン93bの楕円形状における長径方向(図7(a)左右方向)が、軸心O2と軸心O3とを結ぶ直線方向を向き(直線方向と平行)、かつ、ピン軸受97の楕円形状における短径方向(図7(a)左右方向)を向く(短径方向と平行となる)。
【0072】
上述したように、クランクジャーナル93a及びクランクピン93bの楕円形状における長径R1a,R2aは、ジャーナル軸受96及びピン軸受97の楕円形状における短径S1b,S2bよりも大きいため(図6参照)、図7(a)に示す第1状態では、クランクジャーナル93a及びクランクピン93bとジャーナル軸受96及びピン軸受97との間にしめ代を付与して、ガタが発生することを抑制できる。
【0073】
特に、このしめ代が形成される方向(図7(a)左右方向)は、車輪2のキャンバ角を変化させる方向(即ち、車輪2からサスペンションアーム42を介してクランク部材93へ力を作用させる方向、即ち、軸心O2と軸心O3とを結ぶ直線方向、図5(a)参照)に一致するので、クランクジャーナル93a及びクランクピン93bとジャーナル軸受96及びピン軸受97との間にガタが発生することを効果的に抑制できる。その結果、車輪2を第1キャンバ角に安定的に保持することができる。
【0074】
なお、図7(c)に示す第2状態(車輪2のキャンバ角が第2キャンバ角に調整された状態、図5(b)参照)においても、クランクジャーナル93a及びクランクピン93bとジャーナル軸受96及びピン軸受97との間の位相関係が、上述した第1状態と同一となるので、軸と軸受との間にしめ代を付与して、ガタが発生することを抑制できる。また、このしめ代が形成される方向も、第1状態の場合と同様に、車輪2のキャンバ角を変化させる方向に一致するので、ガタの発生を効果的に抑制できる。その結果、車輪2を第2キャンバ角に安定的に保持することができる。
【0075】
一方、図7(b)に示すように、第1状態および第2状態の間の遷移状態(クランク部材93が回転駆動され、車輪2のキャンバ角が第1キャンバ角から第2キャンバ角へ向けて又はその逆へ向けて調整されている状態)では、クランクジャーナル93a及びクランクピン93bとジャーナル軸受96及びピン軸受97との間のしめ代が解除される。
【0076】
即ち、上述したように、クランクジャーナル93a及びクランクピン93bの楕円形状は、その長径R1a,R2aが、ジャーナル軸受96及びピン軸受97の楕円形状における長径S1a,S2aよりも小さく、かつ、短径R1b,R2bが、ジャーナル軸受96及びピン軸受97の楕円形状における短径S1b,S2bよりも小さい。
【0077】
よって、図7(b)に示すように、クランク部材93の回転に伴って、しめ代の付与が解除され、クランクジャーナル93a及びクランクピン93bとジャーナル軸受96及びピン軸受97との間に隙間を形成できる。その結果、これら軸と軸受との間の摺動抵抗を低減して、モータ91の容量の小型化を図ることができる。
【0078】
この遷移状態(即ち、車輪2のキャンバ角が調整されている状態)では、そのキャンバ角の調整動作に伴い、クランク部材93の回転に伴い、クランクピン93bがサスペンションアーム42をキャンバ角の調整方向(図7(b)左右方向)へ向けて押し引き(押圧または引っ張り)をしている。よって、キャンバ角の調整動作の反力によって、クランクジャーナル93a及びクランクピン93bがジャーナル軸受96及びピン軸受97のすべり面(支持面)に押し付けられて、両者の間の隙間が一方側に詰まった状態となる(但し、図7(b)では、その隙間が一方側に詰まった状態の図示を省略する)。よって、車輪2のキャンバ角の調整動作中においても、ガタの発生を抑制できる。
【0079】
次いで、図8及び図9を参照して、しめ代が形成された状態を維持可能なクランクジャーナル93a及びクランクピン93bとジャーナル軸受96及びピン軸受97との間の相対的な角度範囲について説明する。
【0080】
図8(a)は、クランクジャーナル93a及びジャーナル軸受96の楕円形状を模式的に図示する模式図であり、図8(b)は、ジャーナル側しめ代形成角度θ1を示す模式図である。同様に、図9(a)は、クランクピン93b及びピン軸受97の楕円形状を模式的に図示する模式図であり、図9(b)は、ピン側しめ代形成角度θ2を示す模式図である。
【0081】
なお、図8及び図9では、クランクジャーナル93a及びクランクピン93bの楕円形状を二点鎖線により、ジャーナル軸受96及びピン軸受97の楕円形状を実線により、それぞれ模式的に図示する。また、クランクジャーナル93a及びクランクピン93bの長径R1aを示す直線を一点鎖線により図示する。
【0082】
図8(a)及び図9(a)に示すように、クランクジャーナル93aの楕円形状における長径R1aは、ジャーナル軸受96の楕円形状における短径S1aよりも大きくされ、クランクピン93bの楕円形状における長径R2aは、ピン軸受97の楕円形状における短径S2bよりも大きくされる(図6参照)。
【0083】
そのため、図8(b)及び図9(b)に示すように、クランクジャーナル93a及びクランクピン93bとジャーナル軸受96及びピン軸受97との間にしめ代が形成された状態を、所定の相対的な角度範囲において、維持することができる。
【0084】
ここで、本実施の形態では、クランクジャーナル93aとジャーナル軸受96との間にしめ代が形成された状態を維持可能な相対的な角度範囲(以下、「ジャーナル側しめ代θ1」と称す)が、クランクピン93bとピン軸受97との間にしめ代が形成された状態を維持可能な相対的な角度範囲(以下、「ピン側しめ代形成角度θ2」と称す)よりも小さくされる。
【0085】
即ち、本実施の形態では、クランクジャーナル93aの楕円形状における長径R1aを、ジャーナル軸受96の楕円形状における短径S1aよりも大きくする割合が、クランクピン93bの楕円形状における長径R2aを、ピン軸受97の楕円形状における短径S2bよりも大きくする割合よりも小さくされる。
【0086】
これにより、車輪2のキャンバ角を第1キャンバ角または第2キャンバ角に安定的に保持可能としつつ、モータ91の容量の小型化を図ることができる。
【0087】
具体的には、サスペンションアーム42は、車両1の走行中のサスペンション動作に伴って、クランクピン93bに対して相対回転(首振り回転)する。よって、ピン側しめ代形成角度θ2を比較的大きく設定しておくことで、サスペンション動作の発生時にも、クランクピン93bとピン軸受97との間にしめ代が形成された状態を維持し易くして、ガタの発生を抑制できる。その結果、車輪2を第1キャンバ角または第2キャンバ角に安定的に保持できる。
【0088】
一方で、クランクジャーナル93aとジャーナル軸受96との間の関係は、サスペンション動作による影響は受け難く、モータ91によりクランク部材93が回転駆動される際の停止位置の位置決め精度(制御装置100による制御精度)に依存する。この位置決め精度は、上述したサスペンションアーム42がクランクピン93bに対して首振り回転する角度よりも十分に小さい。よって、ジャーナル側しめ代形成角度θ1を比較的小さく設定しておくことで、クランクジャーナル93aとジャーナル軸受96との間にしめ代が形成された状態が不必要に維持されることを回避できる。
【0089】
即ち、クランクジャーナル93aとジャーナル軸受96との間に形成されたしめ代をより少ない相対回転で解除可能として、その分、キャンバ角の調整動作中の摺動抵抗の低減を図ることができる。その結果、モータ91の容量の小型化を図ることができる。
【0090】
ここで、ピン側しめ代形成角度θ2は、車輪2のキャンバ角が第1キャンバ角または第2キャンバ角に調整された第1状態または第2状態において、サスペンションストロークに伴いサスペンションアーム42がクランクピン93bに対して首振り回転する際に、サスペンションアーム42とクランクピン93bとの間に発生する相対的な角度範囲(以下、「アーム首振り角度」と称す。図示せず)よりも大きくされる。即ち、アーム首振り角度は、図9にθ2として図示される角度範囲に含まれる。
【0091】
これにより、サスペンションアーム42が、第1状態または第2状態において、走行中のサスペンション動作に伴い、クランクピン93bに対してアーム首振り角度の範囲で相対回転(首振り回転)した場合でも、クランクピン93bとピン軸受97との間にしめ代が形成された状態を維持することができる(即ち、クランクピン93bとピン軸受97との間の相対的な角度がピン側しめ代形成角度θ2を超えない)。よって、クランクピン93bとピン軸受97との間にガタが発生することを抑制して、車輪2を第1キャンバ角または第2キャンバ角に安定的に保持できる。
【0092】
なお、図8(b)及び図9(b)は模式的な図示であるため、図示されないが、ジャーナル側しめ代形成角度θ1及びピン側しめ代形成角度θ2の上限および下限では、クランクジャーナル93a及びクランクピン93bの長径R1a,R2aを含む外周面領域ではしめ代が形成されず(即ち、ジャーナル軸受96及びピン軸受97との間に隙間が形成される)、長径R1a,R2aを除く(含まない)他の外周面領域がジャーナル軸受96及びピン軸受97のすべり面(支持面)に当接される。
【0093】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
【0094】
上記実施の形態で挙げた数値は一例であり、他の数値を採用することは当然可能である。例えば、上記実施の形態で説明した第1キャンバ角および第2キャンバ角の値は任意に設定することができる。
【0095】
上記各実施の形態では、左右の後輪2RL,2RRのキャンバ角をキャンバ角調整装置45により調整する場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、これに替えて又はこれに加えて、左右の前輪2FL,2FRのキャンバ角をキャンバ角調整装置45により調整することは当然可能である。
【0096】
上記実施の形態では、車輪2のキャンバ角を第1キャンバ角または第2キャンバ角に調整した場合に、軸心O2及び軸心O3を結ぶ直線上に軸心O1が位置する場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、車輪2のキャンバ角を第1キャンバ角または第2キャンバ角に調整した場合に、軸心O2及び軸心O3を結ぶ直線上に軸心O1が位置しない配置としても良い。この場合には、クランクジャーナル93a及びクランクピン93bとジャーナル軸受96及びピン軸受97との間の配置を、両者(軸と軸受と)の間にしめ代が形成される配置とすることが好ましい。
【0097】
上記実施の形態では、クランクジャーナル93aの長径R1aが、ジャーナル軸受96の短径S1bよりも大きく、かつ、クランクピン93bの長径R2aが、ピン軸受97の短径S2bよりも大きくされる場合を説明したが(S1b<R1a、かつ、S2b<R2a)、必ずしもこれに限られるものではなく、クランクジャーナル93aの長径R1aが、ジャーナル軸受96の短径S1bと同一であっても良く、同様に、クランクピン93bの長径R2aが、ピン軸受97の短径S2bと同一であっても良い。これらの場合であっても、上記実施の形態における場合と同様に、第1状態および第2状態では、軸(クランクジャーナル93a及びクランクピン93b)と軸受(ジャーナル軸受96及びピン軸受97)との間にガタが発生することを抑制することができると共に、それら第1状態および第2状態の間で軸が軸受に対して相対回転する場合には、摺動抵抗を低減して、モータ91の容量の小型化を図ることができる。
【0098】
上記実施の形態では、キャンバ角調整機構45が、アッパーアーム42と車体BFとの間に介装される場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、ロアアーム43と車体BFとの間にキャンバ角調整機構45を介装しても良い。
【0099】
上記実施の形態では、説明を省略したが、車輪2のキャンバ角が第1キャンバ角または第2キャンバ角に設定された後は、クランクジャーナル93aへのモータ91からの駆動力を解除しても良く、或いは、クランクジャーナル93aへモータ91から駆動力が連続的または断続的に付与して、サーボロック状態としても良い。
【0100】
上記実施の形態では、サスペンションアームであるアッパーアーム42を「リンク部材」とする場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。ここで、図10を参照して、変形例について説明する。図10は、変形例における懸架装置の正面視を模式的に図示した模式図である。なお、上述した実施の形態と同一の部分には同一の符号を付して、その説明は省略する。
【0101】
図10に示すように、変形例では、アッパーアーム42及びロアアーム43により第2ハブ部材241が懸架される。第2ハブ部材241は、ハブ部材41と下端側同士が回動可能に連結されると共に、第2ハブ部材241の上端側に配設されたクランク部材93とハブ部材41とがリンク部材242により連結される。ジャーナル軸受96は、第2ハブ部材241に配設され、ピン軸受97は、リンク部材242に配設される。即ち、上記実施の形態が、車体BFに対して車輪2のキャンバ角を調整する形態であるのに対し、本変形例は、第2ハブ部材241に対して車輪2のキャンバ角を調整する形態であり、その他の構成は同様である。よって、この変形例においても、上記実施の形態における場合と同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0102】
2 車輪
2RL 左の後輪(車輪の一部)
2RR 右の後輪(車輪の一部)
41 ハブ部材
42 アッパーアーム(リンク部材、サスペンションアーム)
45 キャンバ角調整装置
91 モータ(回転駆動手段)
93 クランク部材
93a クランクジャーナル
93b クランクピン
96 ジャーナル軸受
97 ピン軸受
R1a クランクジャーナルの楕円形状における長径
R1b クランクジャーナルの楕円形状における短径
R2a クランクピンの楕円形状における長径
R2b クランクピンの楕円形状における短径
S1a ジャーナル軸受の楕円形状における長径
S1b ジャーナル軸受の楕円形状における短径
S2a ピン軸受の楕円形状における長径
S2b ピン軸受の楕円形状における短径
O1 軸心(クランクジャーナルの軸心)
O2 軸心(クランクピンの軸心、リンク部材の一端側の軸心)
O3 軸心(リンク部材の他端側の軸心)
θ1 ジャーナル側しめ代形成角度
θ2 ピン側しめ代形成角度
BF 車体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転駆動力を発生する回転駆動手段と、
その回転駆動手段から伝達される回転駆動力により回転されるクランクジャーナル及びそのクランクジャーナルに対して偏心するクランクピンを有するクランク部材と、
そのクランク部材のクランクピンに一端側が回転可能に連結されると共に他端側が車輪を支持するハブ部材に回転可能に連結されるリンク部材と、
そのリンク部材の一端側に配設され前記クランク部材のクランクピンを滑り面で支持するピン軸受と、
前記クランク部材のクランクジャーナルを滑り面で支持するジャーナル軸受と、を備え、
前記回転駆動手段を作動させ、前記クランク部材のクランクジャーナルを回転させることで、前記車輪のキャンバ角を調整するキャンバ角調整装置であって、
前記ジャーナル軸受およびピン軸受の軸直角断面における内周形状と前記クランクジャーナル及びクランクピンの軸直角断面における外周形状とが楕円形状に形成され、
前記クランクジャーナルの楕円形状における長径が、前記ジャーナル軸受の楕円形状における短径と等しい又は前記ジャーナル軸受の楕円形状における短径よりも大きく、かつ、前記ジャーナル軸受の楕円形状における長径よりも小さくされると共に、
前記クランクピンの楕円形状における長径が、前記ピン軸受の楕円形状における短径と等しい又は前記ピン軸受の楕円形状における短径よりも大きく、かつ、前記ピン軸受の楕円形状における長径よりも小さくされることを特徴とするキャンバ角調整装置。
【請求項2】
前記リンク部材の一端側の軸心と他端側の軸心とを結ぶ直線上に前記クランクジャーナルの軸心が位置する状態において、
前記クランクジャーナルの楕円形状における長径方向が、前記リンク部材の一端側の軸心と他端側の軸心とを結ぶ直線方向を向き、かつ、前記ジャーナル軸受の楕円形状における短径方向を向くと共に、
前記クランクピンの楕円形状における長径方向が、前記リンク部材の一端側の軸心と他端側の軸心とを結ぶ直線方向を向き、かつ、前記ピン軸受の楕円形状における短径方向を向くことを特徴とする請求項1記載のキャンバ角調整装置。
【請求項3】
前記ジャーナル軸受は、車体側に配設され、
前記リンク部材は、サスペンションストロークに伴い、前記クランクピンとの間に相対的な回転が発生するサスペンションアームとして構成されることを特徴とする請求項2記載のキャンバ角調整装置。
【請求項4】
前記クランクジャーナルの楕円形状における長径が、前記ジャーナル軸受の楕円形状における短径よりも大きくされると共に、前記クランクピンの楕円形状における長径が、前記ピン軸受の楕円形状における短径よりも大きくされ、
前記クランクジャーナルとジャーナル軸受との間にしめ代が形成された状態を維持可能な前記クランクジャーナルとジャーナル軸受との間の相対的な角度範囲であるジャーナル側しめ代形成角度が、前記クランクピンとピン軸受との間にしめ代が形成された状態を維持可能な前記クランクピンとピン軸受との間の相対的な角度範囲であるピン側しめ代形成角度よりも小さくされることを特徴とする請求項3記載のキャンバ角調整装置。
【請求項5】
前記クランクピンの楕円形状における長径が、前記ピン軸受の楕円形状における短径よりも大きくされ、
前記クランクピンとピン軸受との間にしめ代が形成された状態を維持可能な前記クランクピンとピン軸受との間の相対的な角度範囲であるピン側しめ代形成角度が、サスペンションストロークに伴い前記リンク部材と前記クランクピンとの間に発生する相対的な角度範囲であるアーム首振り角度よりも大きくされることを特徴とする請求項3又は4に記載のキャンバ角調整装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−75642(P2013−75642A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−218109(P2011−218109)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(591261509)株式会社エクォス・リサーチ (1,360)
【Fターム(参考)】