ギヤポンプ
【課題】 所望のポンプ性能を安定して発揮できるギヤポンプの提供。
【解決手段】収容部14j,22jは、底部30と側壁部(高圧側側壁部31及び低圧側側壁部32)とで構成され、底部30とシール部材(シールS5,S6)との間にポンプ作用によって発生する圧力を導入する圧力導入手段(連通溝33)を設け、導入された圧力によりシール部材(シールS5,S6)が底部30から離間することとした。
【解決手段】収容部14j,22jは、底部30と側壁部(高圧側側壁部31及び低圧側側壁部32)とで構成され、底部30とシール部材(シールS5,S6)との間にポンプ作用によって発生する圧力を導入する圧力導入手段(連通溝33)を設け、導入された圧力によりシール部材(シールS5,S6)が底部30から離間することとした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ギヤポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ギヤポンプとして特許文献1記載の技術が公知となっている。この発明によれば、ポンプの吐出圧が低圧時には、シールの反力を小さくしてサイドプレートのギヤへの押し付け力を減らすことにより、サイドプレートとギヤとの摩擦力を小さくしている。一方、ポンプの吐出圧が高圧時には、シールの反力を大きくしてサイドプレートのギヤへの押し付け力を増やすことにより、ギヤの側面に沿っての圧抜けを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−303767号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の発明にあっては、シールの収容溝の底部に対する受圧面積が圧力変動に伴うシールの変形により変化してサイドプレートのギヤへの押し付け力にばらつきを生じ、結果してポンプ性能にばらつきが生じるという問題点があった。
【0005】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、所望のポンプ性能を安定して発揮できるギヤポンプを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明では、圧力導入手段により導入された圧力によりシール部材を収容部の底部から離間するように構成した。
【発明の効果】
【0007】
シールによるサイドプレートのギヤへの押し付け力のばらつきを縮小して最適化することにより、所望のポンプ性能を安定して発揮できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例1のギヤポンプの後方斜視図である。
【図2】実施例1のギヤポンプの正面図である。
【図3】実施例1の要部拡大図である。
【図4】実施例1の要部拡大図である。
【図5】実施例1のシール部材の前方斜視図である。
【図6】実施例1のシール部材の後方斜視図である。
【図7】実施例1の第1サイドプレートの前方斜視図である。
【図8】実施例1の第1サイドプレートの前方斜視図である。
【図9】実施例1の第1サイドプレートの正面図である。
【図10】実施例1の第1サイドプレートの後面図である。
【図11】実施例1の第1サイドプレートの上面図である。
【図12】実施例1のギヤポンプとモータの連結前(a)と連結後(b)を説明する図である。
【図13】実施例1の第1サイドプレートと第1ギヤの配置を説明する図である。
【図14】実施例1のシール部材、第1サイドプレート、及び第1ギヤの配置を説明する図である。
【図15】図14のA15−A15線における断面図である。
【図16】実施例1の第1サイドプレート及びシールの後方斜視図である。
【図17】図16のA17−A17線における斜視断面図(一部のみ)である。
【図18】実施例1のシールの取付時(a)、シールの低圧作用時(b)、シールの高圧作用時(c)を説明する図である。
【図19】一般的なシールの作用を説明する図である。
【図20】実施例1のブレーキ装置を説明する図である。
【図21】実施例2のシールの取付時(a)、シールの低圧作用時(b)、シールの高圧作用時(c)を説明する図である。
【図22】実施例2の高圧側と低圧側が逆転した場合におけるシールの取付時(a)、シールの低圧作用時(b)、シールの高圧作用時(c)を説明する図である。
【図23】実施例3のギヤポンプを説明する断面図である。
【図24】実施例4のシールとその作用を説明する図である。
【図25】実施例5のギヤポンプを説明する断面図である。
【図26】実施例5の第1ギヤ及び第2ギヤを説明する断面図である。
【図27】実施例5の第1サイドプレートのシール付近の拡大断面図である。
【図28】実施例5の第2サイドプレートのシール付近の拡大断面図である。
【図29】その他の実施例のシール付近の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、この発明の実施例を図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0010】
以下、実施例1を説明する。
図1、2に示すように、実施例1のギヤポンプ1では、自動車のブレーキ液圧制御用のアクチュエータに用いられるものであって、ハウジング2と、このハウジング2に収容されたポンプ組立体3とが備えられている。
【0011】
[ハウジングについて]
次に、ハウジング2について説明する。ハウジング2は略矩形状に形成される他、その外面には図示しない切換えバルブやセンサが取り付けられる取付孔2aが複数形成されている。ハウジング2の前面略中央には径の異なる段付きの略円柱状に凹設されたポンプ室4が形成され、ここにポンプ組立体3が収容されている。
【0012】
[ポンプ組立体について]
次に、ポンプ組立体3について説明する。尚、ポンプ室4の開口端側(後述の第2ポンプ9側)を前方とし、ポンプ室4の底部側(後述の第1ポンプ8側)を後方として記載する。図3、4に示すように、ポンプ組立体3は、プラグ部材5と、カバー部材6と、シール部材7と、第1ポンプ8及び第2ポンプ9等を有する。プラグ部材5は、略円盤状に形成され、その中央には六角柱形状に貫通形成された貫通孔5aが形成されている。また、プラグ部材5の後端部には、カバー部材6と当接する後面5dと、この後面5dの外周を取り囲み、後方へ環状に突出した環状突起部5bとが形成されている。さらに、プラグ部材5の外周には雄螺子溝5cが形成されている。この雄螺子溝5cはポンプ室4の内周部に形成された雌螺子溝4aに螺合されている。カバー部材6は、略円盤状に形成され、プラグ部材5と当接する前面6eと、前面6eの外周全体に亘って切り欠かれた段部6fを有する。そして、プラグ部材5の螺合による軸力により前面6eが後方へ押圧されることにより、前面6eがプラグ部材5の後面5dに当接し、さらに、プラグ部材5の環状突起部5bと段部6fとが嵌合した状態で所定位置に配設されている。カバー部材6の外周には、ポンプ室4の内周と略同一径の高さを有し、環状突起部5bと略同じ径方向高さを有する凸部6gが形成されている。また、カバー部材6の外周であって凸部6gの後方にはシール溝6hが形成されている。凸部6gと環状突起部5bとの間には、ポンプ室4の内周とのシール性を確保するための環状のシールS1が備えられ、シール溝6hにはポンプ室4の内周とのシール性を確保するための環状のシールS2が備えられている。すなわち、シールS1,S2は、前後に離間した位置に装着されている。カバー部材6の偏芯位置には、内径が異なる段付きの貫通孔6bが形成されている。この貫通孔6bには駆動軸10が隙間6aを有して挿通されている。一方、貫通孔6bの大径側と小径側に位置して、駆動軸10とのシール性を確保するための環状のシールS3がそれぞれ装着されている。さらに、カバー部材6の後端部には前方へ環状に凹設された凹部6dと、この凹部6dから後方へ環状に突出した環状突起部6cが形成されている。環状突起部6cの内周には内周全体に亘って切り欠かれた段部6iが形成されている。
【0013】
図5、6に示すように、シール部材7は略円盤状に形成される他、図中上下に離間して2つの貫通孔7a,7bがそれぞれ円形状の開口断面を有して前後方向に貫通形成されている。また、シール部材7の前後面には、貫通孔7a,7bの周囲に沿って軸方向へ突出したサイドシール部7dがそれぞれ形成されると共に、その一側面には一対の係合凸部7eが側方へ突設されている。各サイドシール部7dには、貫通孔7aと同軸上で環状に厚み方向内側へ凹設されたリング収容部7fがそれぞれ形成されている。さらに、シール部材7の後面のリング収容部7fの厚み方向内側には、リング収容部7fと連続して環状に凹設された小径のシール収容部7gが形成されている。その他、シール部材7の外周には、径方向内側へ環状に凹設された収容部7hが形成され、その前端部には前方へ環状に突設された環状突起部7iが形成されている。
【0014】
そして、図3、4に示すように、シール部材7は、プラグ部材5の螺合による軸力によってカバー部材6を介して後方へ押圧される。これにより、シール部材7の環状突起部7iがカバー部材6の段部6iに嵌合し、さらに、その後面の一部がポンプ室4の段部4bに当接した状態で所定位置に配設(位置決め)されている。また、シール部材7の貫通孔7aには駆動軸10が挿通される一方、貫通孔7bには従動軸11が挿入配置されている。シール部材7のシール収容部7gには、環状の回転シール部材12(Xリング等)が介装され、駆動軸10と後述する第1ポンプ室P1とのシール性が確保されている。さらに、シール部材7の後面のリング収容部7fには回転シール部材12のシール収容部7gを閉塞した状態で第1シールリング13aが介装されている。また、前面のリング収容部7fには環状の第2シールリング13bが介装されている。尚、各シールリング13a,13bは、少なくともシール部材7よりも硬質で耐久性が高い素材で形成されている。また、シール部材7の収容部7hには、ポンプ室4内周に密着し、第1ポンプ室P1と第2ポンプ室P2との間のシール性を確保するための環状のシールS4が装着されている。そして、ポンプ室4の段部4bから後方へ環状に凹設された凹部4cとシール部材7との間には、閉空間となる第1ポンプ室P1が形成され、ここに第1ポンプ8が配設されている。一方、カバー部材6の凹部6dとシール部材7との間には、閉空間となる第2ポンプ室P2が形成され、ここに第2ポンプ9が配設されている。第1ポンプ8には、シール部材7と後述の第1サイドプレート14とによって前後面及び歯先をシールされた第1ギヤ15が配設されている。先ず、第1サイドプレート14について説明する。図7〜11に示すように、第1サイドプレート14は、樹脂製で正面視略三角形状に形成されている。また、略三角形状の頂点付近には、3つの貫通孔14a,14b,14cが貫通形成されている。第1サイドプレート14の前面において、貫通孔14a,14bの周囲には前方へ突出したサイドシール部14dが形成されている。また、第1サイドプレート14の前面には略三角形状に前方へ突出したシールブロック14eが形成されている。シールブロック14eには、貫通孔14cに連続して中心側へ向かう開口部を形成する通路部14fと、この通路部14fを挟んだ両側に形成され、サイドシール部14dの一部と連続した一対の湾曲面状の歯先シール部14gと、各歯先シール部14gの前方側に位置する係合部14hとが形成されている。さらに、シールブロック14eには、歯先シール部14gの外周から貫通穴14cを囲むように内側へ凹設された溝14iが形成されている。一方、図10に示すように、第1サイドプレート14の後面には各貫通孔14a〜14cを取り囲むように略三角形状に屈曲した異径環状の収容部14jが凹設されている。
【0015】
そして、図4に示すように、第1サイドプレート14の貫通孔14aには駆動軸10が径方向に所定の隙間を有した状態で回転可能に挿通されている。一方、貫通孔14bには従動軸11が径方向に所定の隙間を有した状態で挿通されている。また、収容部14jには後述するシールS5が介装されて、第1ポンプ室P1の後述する高圧側と低圧側とのシール性が確保されている。
【0016】
次に、第1ギヤ15について説明する。図14に示すように、第1ギヤ15は、駆動軸10が挿通された駆動ギヤ16と、従動軸11が挿通された従動ギヤ17で構成され、これら両ギヤ16,17の歯先16a,17a同士は歯合部18で噛合されている。駆動軸10における駆動ギヤ16と対応する位置には内側に凹設された凹部10aが形成され、ここに該駆動軸10の軸心から半径方向に伸びた円柱状の駆動ピン10bの先端側が挿入されている。駆動ピン10bの基端側は、駆動ギヤ16の内周に切欠形成された凹部16bに係合されている。一方、従動軸11における従動ギヤ17と対応する位置には内側に凹設された凹部11aが形成され、ここに該従動軸11の軸心から半径方向に伸びた円柱状の従動ピン11bの先端側が挿入されている。従動ピン11bの基端側は、従動ギヤ17の内周に切欠形成された凹部17bに係合されている。
【0017】
さらに、図12(a)、(b)に示すように、駆動軸10の前端部には、二面幅の嵌合凸部19が形成される一方、モータM1(電動機)の回転軸20aの先端部には、該嵌合凸部19と凹凸係合して回転軸20aに連結可能な嵌合凹部20bが形成されている。これにより、駆動軸10は、モータM1の駆動によって軸周り方向に回転駆動可能に構成されている。また、駆動ギヤ16は駆動ピン10bとの係合により駆動軸10に回り止めされるため、駆動軸10の回転駆動に伴って駆動ギヤ16が駆動軸10と同じ回転方向に回転する。一方、駆動ギヤ16と噛合した従動ギヤ17は、従動ピン11bとの係合により従動軸11に回り止めされるため、従動軸11と共に駆動軸10とは反対方向に回転する。
【0018】
図13に示すように、各ギヤ16,17の歯先16a,17aは第1サイドプレート14のシールブロック14eのそれぞれ対応する歯先シール部14gに液密に当接しながら摺動可能になっている。また、図14、15に示すように、シール部材7の後面の一対の係合凸部7eは、シールブロック14eのそれぞれ対応する係合部14hの曲面に密着した状態で係合され、これにより、各ギヤ16,17の歯先16a,17aを第1サイドプレート14のサイドシール部14dとの間でシールする。さらに、シールブロック14eの外周に形成された溝14iとシール部材7の対応するサイドシール部7dに掛けて略三角形形状に保持部材21が装着されている(図7参照)。なお、図示を省略するが、ポンプ室4には、第1サイドプレート14の貫通孔14cに連通した吸入ポートと、第1ポンプ室P1に連通した吐出ポートが設けられている。一方、第2ポンプ9は、シール部材7を中心として第1ポンプ8と対称構成になっている。即ち、シール部材7と第2サイドプレート22によって前後面をシールされた第2ギヤ23が配設されている。なお、第2サイドプレート22及び第2ギヤ23は、第1サイドプレート14及び第1ギヤ15と左右対称の同一形状であるため、その説明は省略する。
【0019】
そして、図4に示すように、第2サイドプレート22の貫通孔22aには駆動軸10が径方向に所定の隙間を有した状態で回転可能に挿通される一方、貫通孔22bには従動軸11が径方向に所定の隙間を有した状態で挿通されている。また、収容部14jと同形状の収容部22jにはシールS5と同形状のシールS6が介装されて、第2ポンプ室P2の後述する高圧側と低圧側とのシール性が確保されている。
【0020】
その他、第2ポンプ9において、ポンプ室4には、第2サイドプレート22の貫通孔21c及びカバー部材6の油路を介して連通された図示しない吸入ポートと、カバー部材6に形成された油路を介して第2ポンプ室P2に連通された図示しない吐出ポートが設けられていること以外は第1ポンプ8と略同じ構成である。また、各サイドプレート14,22の貫通穴14a,22aの直径は駆動軸10の直径よりも大きく設定されると共に、貫通穴14b,22bの直径は従動軸11の直径よりも大きく設定されている。即ち、駆動軸10及び従動軸11はそれぞれ対応する各サイドプレート14,22の貫通穴14a,22a及び貫通穴14b,22bと僅かな隙間を介して挿通されている。
【0021】
[収容部について]
次に、両サイドプレート14,22の収容部14j,22jについて詳述する。なお、両収容溝14j,22jは同じ構成であるため、収容部14jについてのみ図示して説明する。図16、17に示すように、第1サイドプレート14の後面に凹設された収容部14jは、第1サイドプレート14の軸直方向に延設された底部30と、この底部30に連続して傾斜状に延設された高圧側側壁部31と、底部30に対して直角方向に延設された低圧側側壁部32を有して、略V字型断面に凹設されている。高圧側側壁部31の周上の複数の箇所(実施例1では5箇所)には底部30を高圧側側壁部31側に幅広にして切欠形成された連通溝33が形成されている。そして、連通溝33にはゴム等の弾性素材で円形断面を有し、全体が略三角形に屈曲した異形環状のシールS5が介装される。具体的には、図18(a)に示すように、シールS5は、底部30との間に所定の空隙34を有し、収容部14jの高圧側側壁部31、低圧側側壁部32、及び凹部4cに当接した状態で設けられている。
【0022】
次に、実施例1の作用を説明する。
[ギヤポンプの組み立てについて]
次に、ギヤポンプ1の組み立てについて説明する。上述のように構成されたギヤポンプ1を組み立てる際には、先ず、シールS4が予め装着されたシール部材7のシール収容部7gに回転シール部材12を挿入して仮固定する。次に、シール部材7の貫通孔7aに駆動軸10を挿通する一方、貫通孔7bに従動軸11を挿入する。次に、シール部材7の各リング収容部7fにそれぞれ対応するシールリング13a,13bを挿入する。この際、第1シールリング13aで回転シール部材12が押圧されることにより、回転シール部材12が駆動軸10に良好に密着した状態となる。次に、駆動ピン10b,10e及び従動ピン11b,11dをそれぞれ対応する駆動軸10の凹部10a,10d及び従動軸11の凹部11a,11cに挿入する。次に、駆動ギヤ16,26及び従動ギヤ17,27をそれぞれ対応する駆動軸10及び従動軸11に組み付ける。次に、シールS5,S6及び保持部材21,23が予め装着された各サイドプレート14,22に駆動軸10及び従動軸11を挿通させてシール部材7に組み付ける。この際、シール部材7の第1サイドプレート14側において、一対の係合凸部7eを第1サイドプレート14のそれぞれ対応する係合部14hに係合させることにより、これら両者を位置決めした状態で容易に組み付けることができる。また、保持部材21によって、シール部材7と第1サイドプレート14とを一時的に保持した状態で固定できる。さらに、保持部材21は予めシール部材7に装着した状態で、その後、拡径させて第1サイドプレート14に掛けることができ、装着性が良い。同様に、第2サイドプレート22側において、シール部材7の一対の係合凸部7eを第2サイドプレート22のそれぞれ対応する係合部に係合させることによって、これら両者を位置決めした状態で容易に組み付けることができる。また、保持部材24によって、シール部材7と第1サイドプレート14とを一時的に保持した状態で固定できる。さらに、保持部材24は予めシール部材7に装着した状態で、その後、拡径させて第2サイドプレート22に掛けることができ、装着性が良い。次に、シールS1,S2が予め装着されたカバー部材6の貫通孔6aに駆動軸10を挿通しつつ、該カバー部材6の環状突起部6cをシール部材7に嵌合させて、カバー部材6とシール部材7を組み付けることにより、ポンプ組立体3を組み立てる。
【0023】
次に、このように組み付けられたポンプ組立体3をハウジング2のポンプ室4に挿入した後、プラグ部材5をポンプ室4に螺合して固定する。この際、プラグ部材5の螺合による軸力でシール部材7をポンプ室4の段部4bに密着させて安定した状態で固定でき、各部材の前後方向位置を正確に配置できると同時に、後述する作動油の圧力変動に伴うがたつきを防止できる。加えて、シールS1がプラグ部材5の環状突起部5bに押圧されることにより、ポンプ室4とカバー部材6とのシール性が良好となる。このように、実施例1のギヤポンプ1では、ポンプ組立体3を仮組みした状態でハウジング2に収容でき、組み立て作業の簡素化を図ることができる。
【0024】
[ギヤポンプの作動について]
次に、ギヤポンプ1の作動について説明する。 このように構成されたギヤポンプ1は、図12(a)、(b)に示すように、円柱状の駆動軸10の先端に設けられ、横断面長孔形状に切欠開口された嵌合凸部19がモータM1の回転軸20aの嵌合凹部20bに連結される。
【0025】
そして、図13に示すように、モータM1の駆動により駆動軸10が図中矢印方向に回転駆動されると、第1ポンプ8において、駆動ギヤ16を介して従動ギヤ17が駆動される。この作用によって吸入ポートと連通する第1サイドプレート14のシールブロック14eの貫通孔14cから低圧の作動油が導入され、ポンプ室P1に高圧の作動油が出力される。この高圧の作動油は対応する吐出ポートから出力される。また、第2ポンプ9では第1ポンプ8と同様に、駆動ギヤ18aを介して従動ギヤ18bが駆動されることにより、第2サイドプレート22のシールブロック17eの貫通孔17cから低圧(負圧)の作動油が導入され、ポンプ室P2に高圧の作動油が出力される。この高圧の作動油は対応する吐出ポートに出力される。このように、ギヤポンプ1は、両ポンプ室P1,P2において異なる配管系統の作動油の吸入と吐出とが行われることとなり、所謂タンデム式の外接ギヤポンプとして機能する。
【0026】
[サイドプレートによるギヤへの押し付け力について]
次に、各サイドプレート14,22によるギヤ15,23への押し付け力について説明する。なお、各サイドプレート14,22によるギヤ15,23への押し付け力は同じであるため、第1サイドプレート14による第1ギヤ15への押し付け力についてのみ図示して説明する。図18(a)で説明したように、シールS5はその装着時において、底部30との間に所定の空隙34を有し、高圧側側壁部31、低圧側側壁部32、及び凹部4cに当接した状態で設けられている。これにより、シールS5は第1サイドプレート14と凹部4cとの隙間において高圧室H1側と低圧室L1側を区画するように臨んだ状態で配置されている。そして、図18(b)に示すように、第1ポンプ8の作動に伴う作動油の低圧作用時において、シールS5は高圧室H1側から作動油の圧力を受けて変形しながら低圧室L1側に変形(縮径)しつつ、高圧室H1側と低圧室L1側をシールして区画する。この変形に伴い高圧室H1側の作動油が連通溝33を介して空隙34に導入される。即ち、この際、シールS5を所定位置に保持して配置する部位を高圧側側壁部31の保持部35とすると、連通溝33の幅W1は底部30に対して保持部35の幅W2よりも幅広に設定されており、これにより、作動油を連通溝33から空隙34に流入できるようになっている。次に、図18(c)に示すように、第1ポンプ8の作動に伴う作動油の高圧作用時には、シールS5が空隙34に流入した作動油からの圧力により底部30から離間する方向へ移動して、高圧室H1側と低圧室L1側を確実にシールする。この際、シールS5は底部30から離間して完全に浮上した状態にできる。ここで、ギヤへの押し付け力は、下記式(1)により求められる。
【0027】
ギヤへの押し付け力=(サイドプレートの収容部側受圧面積−サイドプレートのギヤ側受圧面積)×ポンプ室内圧力+シール反力・・・(1)
【0028】
従って、図19(a)〜(c)に示すように、特許文献1を含む一般的な凹部型の収容部を採用した場合には、サイドプレートの収容部側受圧面積範囲α(図19参照)が圧力変動に伴うシールの変形により変化し、且つ、シールの反力も圧力変動に伴って変化して安定しない。なお、図19において実施例1の各部に対応する構成部は同じ符号を付す。また、シールの材料は、通常、ゴムが使用されるため、長年の使用により硬化やへたりが生じ、反力変化が大きい。さらに、ゴムは製造寸法公差・組み付け寸法交差を小さくできないため、寸法ばらつきによる反力のばらつきも無視できない。従って、サイドプレートのギヤへの押し付け力のばらつきを無くすことは実際上困難であり、このばらつきがポンプ性能に悪影響を及ぼすという問題点があった。これに対し、実施例1では、作動油に圧力が掛かる低圧〜高圧作用時において、収容部14jの低圧側側壁部32までの全てがサイドプレート14の収容部側受圧面積範囲α(図19参照)となる。さらに、作動油の高圧作用時にはシールS5が底部30から離間して完全に浮上するため、シールS5の反力が無くなる。これにより、実施例1のギヤ15への押し付け力は、下記式(2)により求められる。
【0029】
ギヤ15への押し付け力=(第1サイドプレート14の収容部14j側受圧面積(一定)−第1サイドプレート14のギヤ15側受圧面積(一定))×第1ポンプ室P1内圧力・・・(2)
【0030】
従って、第1ギヤ15は、第1ポンプP1内の圧力変動によるシールS5の変形・反力の影響を殆ど受けることがないため、第1ポンプP1内の圧力が上昇した場合でもシールS5の反力分の押しつけ力を低減することができる。また、押し付け力を低減したことにより、第1サイドプレート14とギヤ15とのフリクションを低下でき、ポンプ性能をアップできる。さらに、シールS5が変形した場合でも第1サイドプレート14の収容部14j側受圧面積が常に一定に保たれるため、シールS5の寸法ばらつきを排除でき、第1サイドプレート14の最適バランス形状を容易に設定できる。さらに、押し付け力の変動要因が第1ポンプ室P1内の内圧のみになるため、ばらつきが少なく安定したポンプ性能を確保できる。なお、実施例1では、作動油の高圧作用時にシールS5が底部30から完全に浮上するようにしたが、作動油の低圧作用時においてもシールS5が底部30から完全に浮上するようにしても良い。
【0031】
[収容部の成形性について]
実施例1では、各サイドプレート14,22を樹脂製として一体成形しているため、収容部14j,22jの各部を容易に成形できる。また、底部30の幅を一部設計変更するのみで容易に連通溝33を形成できる。
【0032】
[フリクションの安定について]
実施例1では、各シールS5,S6と底部30との間に予め空隙34を形成しておき、ここに圧力を導入しているため作動油の導入に対する反応性が良く、各ポンプ8,9の作動直後に素早くフリクションを安定できる。
【0033】
[ブレーキ装置への適用について]
次に、ギヤポンプ1の車両用のブレーキ装置への適用例を説明する。なお、以下に説明するブレーキ装置の構成は一例であって、その他の公知のブレーキ装置に適用しても良いし、ギヤポンプ1をブレーキ装置以外のものに適用することもできる。
【0034】
図20に示すように、実施例1のブレーキ装置101は、P系統とS系統との2系統からなる、X配管と呼ばれる配管構造となっている。尚、倍力装置BS等の構成については公知のものと同じであるため異なる点について説明する。P系統には、左前輪のホイルシリンダW/C(FL)、右後輪のホイルシリンダW/C(RR)が接続され、S系統には、右前輪のホイルシリンダW/C(FR)、左後輪のホイルシリンダW/C(RL)が接続されている。また、P系統、S系統はギヤポンプ1のポンプ8とポンプ9に接続されている。マスタシリンダM/Cとポンプ8,9の吸入側とは、管路11P,11Sによって接続されている。この各管路11P,11S上には、チェック弁機能を備えたリザーバ160P,160Sが設けられている。これら両リザーバ160P,160Sは同一の機能であるため、リザーバ160Pのみについて説明すると、リザーバ160Pには、ボール弁161と、ピストン162と、ピストン162を上方に付勢するスプリング163と、ホイルシリンダから減圧により流出したブレーキ液をリザーバ160Pに導入するポート164と、リザーバ160P内のブレーキ液もしくはマスタシリンダ内のブレーキ液をポンプ吸入側に導出するポート165とを有する。マスタシリンダ圧が発生すると、ボール弁161が閉じられ、この状態でポンプ8が作動すると、ボール弁161とピストン162の受圧面積の差及びスプリング弾性力によってボール弁161が開き、適宜ブレーキ液の吸入が行われる。
【0035】
マスタシリンダM/Cとリザーバ160Pとの間には、マスタシリンダM/Cの圧力を検出するマスタシリンダ圧センサPMCが設けられている。また、管路11P,11S上であって、リザーバ160P,160Sとポンプ8,9との間にはチェックバルブ6P,6Sが設けられ、この各チェックバルブ6P,6Sは、リザーバ160P,160Sからポンプ8,9へ向かう方向へのブレーキ液の流れを許容し、反対方向の流れを禁止する。各ポンプ8,9の吐出側と各ホイルシリンダW/Cとは、管路12P,12Sによって接続されている。この各管路12P,12S上には、各ホイルシリンダW/Cに対応する常開型の電磁弁であるソレノイドインバルブ4FL,4RR,4FR,4RLが設けられている。また、各管路12P,12S上であって、各ソレノイドインバルブ4FL,4RR,4FR,4RLとポンプ8,9との間にはチェックバルブ7P,7Sが設けられて、この各チェックバルブ7P,7Sは、ポンプ8からソレノイドインバルブ4FL,4RR,4FR,4RLへ向かう方向へのブレーキ液の流れを許容し、反対方向の流れを禁止する。更に、各管路12P,12Sには、各ソレノイドインバルブ4FL,4RR,4FR,4RLを迂回する管路17FL,17RR,17FR,17RLが設けられ、この管路17FL,17RR,17FR,17RLには、チェックバルブ10FL、10RR,10FR,10RLが設けられている。この各チェックバルブ10FL、10RR,10FR,10RLは、ホイルシリンダW/Cからポンプ8,9へ向かう方向へのブレーキ液の流れを許容し、反対方向の流れを禁止する。マスタシリンダM/Cと管路12P,12Sとは管路13P,13Sによって接続され、管路12P,12Sと管路13P,13Sとはポンプ8,9とソレノイドインバルブ4FL,4RR,4FR,4RLとの間において合流する。この各管路13P,13S上には、常開型の電磁弁であるゲートアウトバルブ3P,3Sが設けられている。ここで、管路13P,13Sのうち、ゲートアウトバルブ3P,3Sよりもマスタシリンダ側の管路をマスタ側管路13aとし、ホイルシリンダ側の管路をホイル側管路13bとする。また各管路13P,13Sには、各ゲートアウトバルブ3P,3Sを迂回する管路18P,18Sが設けられ、この管路18P,18Sには、チェックバルブ9P,9Sが設けられている。この各チェックバルブ9P,9Sは、マスタシリンダM/C側からホイルシリンダW/Cへ向かう方向のブレーキ液の流れを許容し、反対方向の流れを禁止する。
【0036】
ポンプ8,9の吸入側にはリザーバ160P,160Sが設けられ、このリザーバ160P,160Sとポンプ8,9とは管路15P,15Sによって接続されている。リザーバ160P,160Sとポンプ8,9との間にはチェックバルブ6P,6Sが設けられて、この各チェックバルブ6P,6Sは、リザーバ160P,160Sからポンプ8,9へ向かう方向のブレーキ液の流れを許容し、反対方向の流れを禁止する。ホイルシリンダW/Cと管路リザーバ160P,160Sとは管路14P,14Sによって接続されている。この各管路14P,14Sには、それぞれ常閉型の電磁弁であるソレノイドアウトバルブ5FL,5RR,5FR,5RLが設けられている。
【0037】
[ブレーキ装置の作動について]
このようなブレーキ装置101では、車輪のスリップ率を所定範囲にするアンチスキッドブレーキ制御(以下、ABS制御)や、車両挙動を安定させるために車両にヨーレイトを付与する車両挙動制御や、運転者のブレーキペダル操作に加えて加圧するブレーキアシスト制御、運転者の意思に係らず走行状況に基づいて制動力を発生させる自動ブレーキ制御が行われる。ABS制御における減圧制御時や、ホイルシリンダ加圧時に、ギヤポンプ1を作動すると、対象のホイルシリンダもしくはマスタシリンダからブレーキ液(作動油)がリザーバ160P,160Sに流れ込むと共にポンプ吸入側である低圧室L1に流れ込む。そして、前述したように、ポンプ吐出側の圧力によってシールS5(シールS6)が変形すると共に、該変形に伴って連通溝33を介してホイルシリンダの圧力が高圧室H1に作用する。
【0038】
最後に、実施例1の効果を請求項1〜5、9〜12、15〜19に対応する(1)〜(14)と共に列記する。
(1)ハウジング2内に設けられたポンプ室P1,P2と、ポンプ室P1,P2に配置され、電動機(モータM1)により回転駆動されてポンプ作用を行うギヤ15,18と、ポンプ室P1,P2の壁(凹部4c,6d)とギヤ15,18との間に配置され、ギヤ15,18の側面をシールするサイドプレート14,22と、ポンプ室P1,P2の壁(凹部4c,6d)とサイドプレート14,22の間で該サイドプレート14,22に形成された環状の収容部14j,22j内に配置され、ポンプ室P1,P2内の低圧室L1と高圧室H1を液密に区画するシール部材(シールS5,S6)と、を有し、収容部14j,22jを底部30と側壁部(高圧側側壁部31及び低圧側側壁部32)で構成すると共に、底部30とシール部材(シールS5,S6)との間にポンプ作用によって発生する圧力を導入する圧力導入手段(連通溝33)を設け、導入された圧力によりシール部材(シールS5,S6)を底部30から離間させることとした。これにより、シールS5,S6の変形によるサイドプレート14,22のギヤ15,23への押し付け力のばらつきを縮小して最適化でき、所望のポンプ性能を安定して発揮できる。
【0039】
(2)シール部材(シールS5,S6)を収容部14j,22jの底部30との間に空隙34をもって配置し、圧力導入手段(連通溝33)は、空隙34に対し高圧室H1からの圧力を導入することとした。これにより、予め空隙34を形成しておき、ここに圧力を導入するので圧力の導入に対する応答性が良い。
【0040】
(3)収容部14j,22jの側壁部(高圧側側壁部31)は、シール部材(シールS5,S6)に当接して該シール部材(シールS5,S6)を所定位置に保持する保持部35と、保持部35に連続して交互に設けられ、該底部30に対して保持部35よりも幅広に形成された圧力導入手段(連通溝33)と、を有することとした。これにより、収容部14j,22の幅を設計変更するのみで容易に圧力導入手段(連通溝33)を形成できる。
【0041】
(4)サイドプレート14,22を樹脂製とし、保持部35及び圧力導入手段(連通溝33)を一体形成した。これにより、保持部35及び圧力導入手段(連通溝33)の各部の成形を容易に行うことができる。
【0042】
(5)ハウジング2内にセンタプレート(シール部材7)が固定され、ポンプ室P1,P2は、センタプレート(シール部材7)を挟んで両側にそれぞれ設けられ、ギヤ15,23は、センタプレート(シール部材7)とサイドプレート14,22の間に配置され、電動機(モータM1)により回転駆動される駆動ギヤ16,26と、該駆動ギヤ16,26に歯合して回転する従動ギヤ17,27とからなるタンデム式の外接ギヤタイプであることとした。これにより、外接式のタンデムギヤポンプに適用できる。
【0043】
(6)ハウジング2内に設けられたポンプ室P1,P2と、ポンプ室P1,P2内に配置され、少なくとも駆動軸10により回転駆動されるギヤ15,23と、ギヤ15,23に隣接し、ポンプ室P1,P2の壁(凹部4b,6d)とギヤ15,23の側面との間に配置されたサイドプレート14,22と、サイドプレート14,22の壁(凹部4b,6d)に面する面に形成された環状の凹溝(収容部14j,22j)内に配置され、ポンプ室P1,P2内を高圧室H1と低圧室L1に区画すると共に、ギヤ15,23が駆動された時に高圧室H1から導入された圧力によって凹溝(収容部14j,22j)の底部30から離れる方向に押圧されるシール部材(シールS5,S6)と、を有することとした。これにより、(1)と同様の作用・効果を得られる。
【0044】
(7)シール部材(シールS5,S6)を、凹溝(収容部14j,22j)内の底部(底部30)との間に空隙34をもって配置し、空隙45に高圧室H1からの圧力を導入することとした。これにより、(2)と同様の作用・効果を得られる。
【0045】
(8)凹溝(収容部14j,22j)の高圧室側側壁(高圧室側側壁部31)は、シール部材(シールS5,S6)に当接して該シール部材(シールS5,S6)を所定位置に保持する保持部35と、保持部35に連続して交互に設けられ、底部30に対して保持部35よりも幅広に形成されることにおり、空隙34に高圧室H1の圧力を導く圧力導入手段(連通溝33)と、を有することとした。これにより、(3)と同様の作用・効果を得られる。
【0046】
(9)サイドプレート14,22を樹脂製とし、凹溝(収容部14j,22j)、保持部35、及び圧力導入手段(連通溝33)を一体形成した。これにより、(4)と同様の作用・効果を得られる。
【0047】
(10)ハウジング2内にセンタプレート(シール部材7)が固定され、ポンプ室P1,P2は、センタプレート(シール部材7)を挟んで両側にそれぞれ設けられ、ギヤ15,23は、センタプレート(シール部材7)とサイドプレート14,22の間に配置され、駆動軸10により回転駆動される駆動ギヤ16,26と、該駆動ギヤ16,26に歯合して回転する従動ギヤ17,27とからなるタンデム式の外接ギヤタイプであることとした。これにより、(5)と同様の作用・効果を得られる。
【0048】
(11)少なくとも一対の噛み合う駆動ギヤ16及び従動ギヤ17(駆動ギヤ26及び従動ギヤ27)と、駆動ギヤ16及び従動ギヤ17(駆動ギヤ26及び従動ギヤ27)に隣接して配置されたサイドプレート14(サイドプレート22)と、サイドプレート14(サイドプレート22)を挟み、駆動ギヤ16及び従動ギヤ17(駆動ギヤ26及び従動ギヤ27)と対向した位置に配置された凹部4c(凹部6d)と、凹部4c(凹部6d)とサイドプレート14(サイドプレート22)との間に配置され、且つ、サイドプレート14(サイドプレート22)に形成された肩部の先端と凹部4c(凹部6d)との間に形成された隙間を封止するよう配置され、駆動ギヤ16及び従動ギヤ17(駆動ギヤ26及び従動ギヤ27)の径方向に形成される低圧部(低圧室L1)と高圧部(高圧室H1)とを区画するシール部材(シールS5,S6)と、シール部材(シールS5,S6)を高圧部(高圧室H1)の圧力によって、肩部の先端の方向へ変形させる圧力導入部(連通溝33)と、を有することとした。これにより、(1)と同様の作用・効果を得られる。
【0049】
(12)シール部材(シールS5,S6)を、凹溝(収容部14j,22j)の底部30との間に空隙34をもって配置し、圧力導入部(連通溝33)は、空隙34に対し高圧部(高圧室H1)からの圧力を導入することとした。これにより、(2)と同様の作用・効果を得られる。
【0050】
(13)凹溝(収容部14j,22j)の高圧部側側壁(高圧室側側壁部31)は、シール部材(シールS5,S6)に当接して該シール部材(シールS5,S6)を所定位置に保持する保持部35と、保持部35に連続して交互に設けられ、凹溝(収容部14j,22j)の底部30に対して保持部35よりも幅広に形成される圧力導入部(連通溝33)と、を有し、サイドプレート14,22を樹脂製とし、凹溝(収容部14j,22j)、保持部35、及び圧力導入部(連通溝33)を一体形成した。これにより、(3)、(4)と同様の作用・効果を得られる。
【0051】
(14)ハウジング2内にセンタプレート(シール部材7)を固定し、ポンプ室P1,P2は、センタプレート(シール部材7)を挟んだ両側にそれぞれ設けられ、ギヤ15,23は、センタプレート(シール部材7)とサイドプレート14,22の間に配置され、電動機(モータM1)により回転駆動される駆動ギヤ16,26と、該駆動ギヤ16,26に歯合して回転する従動ギヤ17,27とからなるタンデム式の外接ギヤタイプであることとした。これにより、(5)と同様の作用・効果を得られる。
【実施例2】
【0052】
以下、実施例2を説明する。
実施例2において、実施例1と同様の構成部材については同じ符号を付してその説明は省略し、相違点のみ詳述する。
【0053】
図21(a)に示すように、実施例2の発明では、実施例1で説明した連通溝33の代わりに、第1サイドプレート14(第2サイドプレート22)の軸直方向に延設された連通溝36を設けて、その一端側を高圧室H1に連通させる一方、他端側を空隙34の底部30側付近に連通させているという点が実施例1と異なる。従って、実施例2の発明では、高圧側側壁部31に対するシールS5(シールS6)の当たり(接触面積)は全周に亘って均一となるため、シールS5(シールS6)の応力集中を避けることができ、耐久性を向上できる。また、図21(a)〜(c)に示すように、実施例1の連通溝33と同様に連通溝36を介して空隙34に作動油を導入でき、実施例1と同様の作用・効果を得ることができる。加えて、図22(a)〜(c)に示すように、ABS減圧制御時に高圧室H1と低圧室L1との関係が逆転しても圧力が容易に抜けるため、フリクションの増加を抑制できる。
【0054】
次に、この実施例2の効果を請求項6、13、20に対応する(15)と、請求項7に対応する(16)と共に記載する。
(15)第1サイドプレート14及び第2サイドプレート22に空隙34と高圧室H1を連通する連通溝36を形成した。これにより、シールS5,S6の応力集中を避けることができる。
【0055】
(16)ギヤポンプ1は、車両用のブレーキ装置に用いられ、ブレーキ装置は、ABS減圧制御時に対象のホイルシリンダからブレーキ液(作動油)が流れ込むリザーバ160P,160Sを備え、ギヤポンプ1は、ABS減圧制御時にリザーバ160P,160Sを介してホイルシリンダW/Cと連通すると共に、このホイルシリンダW/Cの圧力が低圧室L1に作用し、ホイルシリンダW/Cの圧力によってシール部材(シールS5,S6)が変形すると共に、該変形に伴って連通溝36を介してホイルシリンダW/Cの圧力が高圧室H1に作用することとした。これにより、ABS減圧制御時に高圧室H1と低圧室L1の関係が逆転しても圧力が容易に抜けるため、フリクションの増加を抑制できる。
【実施例3】
【0056】
以下、実施例3を説明する。
実施例3において、実施例1と同様の構成部材については同じ符号を付してその説明は省略し、相違点のみ詳述する。
【0057】
図23に示すように、実施例3の発明では、実施例1のギヤポンプがタンデム式の外接ギヤポンプであるのに対し、シングル式の外接ギヤポンプを採用しているという点が実施例1と異なる。即ち、実施例1で説明した第2ポンプ9の構成部分が省略されて第1ポンプ8のみとなっている。また、実施例1で説明したカバー部材6とシール部材7とが前後方向に短縮して一体的に形成されたシール部材7が採用されている。従って、実施例3の発明では、実施例1と同様の作用・効果を得られる。
【実施例4】
【0058】
以下、実施例4を説明する。
実施例4において、実施例1と同様の構成部材については同じ符号を付してその説明は省略し、相違点のみ詳述する。
【0059】
図24に示すように、実施例4の発明では、シールS5(シールS6共)がゴム等の弾性素材で形成され、且つ、弾性変形可能な環状の弾性変形部37と、少なくとも弾性変形部37よりも硬質な素材で形成され、且つ、弾性変形部37を補強するバックアップ部38により構成されているという点が実施例1と異なる。なお、弾性変形部37とバックアップ部38との固定は適宜設定できる。また、バックアップ部38は、略L字型断面を有して高圧室H1と低圧室L1との境界部に臨んで配置されている。さらに、弾性変形部37のバックアップ部38のL字型断面の端部と対応する位置には外側へ突出した係止部37aが形成され、各係止部37aがバックアップ部38に係止することにより弾性変形部37の位置ずれ防止が図られている。従って、実施例4の発明では、作動油の高圧作用時に、シールS5の一部が変形して第1サイドプレート14(第2サイドプレート22)と凹部4c(凹部5d)との隙間に噛み込むのを防止できる。
【0060】
次に、この実施例4の効果を請求項8、14に対応する(17)と共に記載する。
(17)シール部材(シールS5,S6)を、弾性変形可能な弾性変形部37と、該弾性変形部37を補強するバックアップ部38で構成し、バックアップ部38を低圧室L1と高圧室H1の境界部に臨ませて配置した。これにより、作動油の圧力作用時におけるシール部材(シールS5,S6)の噛み込みを防止できる。
【実施例5】
【0061】
以下、実施例5を説明する。
実施例5において、実施例1と同様の構成部材については同じ符号を付してその説明は省略し、相違点のみ詳述する。
【0062】
実施例5の発明では、実施例1のギヤポンプ1がタンデム式の外接ギヤポンプであるのに対し、タンデム式の内接ギヤポンプを採用しているという点が実施例1と異なる。具体的には、図25に示すように、両サイドプレート14,22は略器状の同一形状部品で構成される他、各サイドプレート14,22の外周にはシールブロック14e,17eの代わりに、シール部材7側へ環状に突出した外径部シール部40,41が形成されている。そして、外径部シール部40,41とシール部材7のそれぞれ対応するサイドシール部7dとが嵌合されている。第1サイドプレート14の外径部シール部40とシール部材7の対応するサイドシール部7dで囲まれた間には、第1ポンプ8を構成する第1ギヤ15が配設される。一方、第2サイドプレート22の外径部シール部41とシール部材7の対応するサイドシール部7dで囲まれた間には、第2ポンプ9を構成する第2ギヤ18が配設されている。また、外径部シール部40,41の外周にそれぞれ掛けられた環状のシールS8,S9によって第1ポンプ室P1,P2側とのシール性が確保されている。なお、図示を省略するがこのシールS8,S9も保持部材21,24と同様に、一部がそれぞれ対応するサイドプレート14,22に掛けられて、シール部材7とサイドプレート14,22を保持するようになっている。
【0063】
図26に示すように、第1ポンプ8における第1ギヤ15は、内周に内歯部42aが形成されたアウタロータ42と外周に外歯部43aが形成されたインナロータ43とから構成されている。これら両ロータ42,43は偏心した状態で配設されて、内歯部42aと外歯部43aとが歯合部44で噛合されることにより、アウタロータ42とインナロータ43で囲まれたポンプ室45が形成されている。また、駆動軸10における各ポンプ8,9のインナロータ43と対応する位置には駆動軸10の軸心から半径方向に伸びた四角柱形状の駆動凸部46が一体形成されると共に、この駆動凸部46がそれぞれ対応するインナロータ43に切欠形成された凹部43bに係合されている。なお、駆動凸部46の軸方向の寸法はインナロータ43の厚みよりも小さく設定されている。これにより、インナロータ43は駆動凸部46によって駆動軸10に回り止めされるため、インナロータ43の回転駆動によって、アウタロータ42がインナロータ43と同じ回転方向に回転可能になっている。また、アウタロータ42は外径部シール部40の内周に摺動しながら回転する。また、第1サイドプレート14には、図38で示すポンプ室45の対向する位置付近に貫通孔47,48が形成されている。なお、貫通孔47,48は略三日月状の溝形状にしても良い。また、貫通孔47はポンプ室4と第1サイドプレート14との間に形成された空間49を介してポンプ室4の吸入ポート50に連通される一方、貫通孔48はポンプ室4の吐出ポート51に連通されている。一方、第2ポンプ9の第2ギヤ23及び第2サイドプレート22は、第1ポンプ8における第1ギヤ15及び第1サイドプレート14と同様に形成される他、第2サイドプレート22には2つの貫通孔52,53が形成されている。また、貫通孔52はカバー部材6に形成された油路54を介してポンプ室4の吸入ポート55に連通される一方、貫通孔53はカバー部材6と第2サイドプレート22との間に形成された空間56と、カバー部材6に形成された油路57を介してポンプ室4の吐出ポート58に連通されている。
【0064】
そして、図27に示すように、第1サイドプレート14の後面には実施例1と同様の環状の収容部14jと、ここに介装されたシールS5が設けられている。なお、吐出ポート51側が高圧側となるため、収容部14j及びシールS5の形状は実施例1とは内外方向に逆になっている。一方、図26に示すように、第2サイドプレート22の前面には実施例1と同様の環状の収容部22jと、ここに介装されたシールS6が設けられている。
【0065】
[ギヤポンプの作動について]
次に、実施例5のギヤポンプ1の作動について説明する。このように構成されたギヤポンプ1では、図26に示すように、モータの駆動により駆動軸10が図中矢印方向に回転駆動されると、両ポンプ8,9において、インナロータ43を介してアウタロータ42が駆動される。このとき、各ギヤ15,18におけるポンプ室45の容積変化によってポンプ作用が生じ、第1ポンプ8では、低圧の作動油が第1サイドプレート14の貫通孔47を介して吸入ポート50側から導入されて加圧された後、第1サイドプレート14の貫通孔48を介して吐出ポート51側へ出力される。一方、第2ポンプ9では、低圧の作動油が第2サイドプレート22の貫通孔52を介し吸入ポート55側から導入されて加圧された後、第2サイドプレート22の貫通孔53を介して吐出ポート58側へ出力される。このように、実施例5のギヤポンプ1は、両ポンプ8,9において異なる配管系統の作動油の吸入と吐出とが行われ、所謂タンデム式の内接ギヤポンプとして機能する。
【0066】
そして、実施例1と同様に、第1ポンプ8の低圧〜高圧作用時には、第1サイドプレート14の後面において、高圧室H1側の作動油を連通溝33から空隙34に導入することにより、実施例1と同様の作用・効果を得られる。一方、第2ポンプ9の低圧〜高圧作用時には、第2サイドプレート22の前面において、高圧室H1側の作動油を連通溝33から空隙34に導入することにより、実施例1と同様の作用・効果を得られる。
【0067】
以上、実施例を説明してきたが、本発明は上述の実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても、本発明に含まれる。
例えば、実施例1で説明した駆動軸の回転方向を逆方向にすると、作動油が吐出ポート側から吸入ポート側に向かって流れることは言うまでもない。また、実施例5においてギヤポンプをシングル式の内接ギヤポンプとしても良い。
【0068】
さらに、図29に示すように、第1サイドプレートと凹部4cとの隙間は一定とは限らず、段差を有する場合も考えられ、この際、連通溝33を環状に形成して、作動油の圧力作用に関わらず作動油を空隙34に導入させておくようにしても良い。なお、図42において実施例1の構成と対応する符号を付す。
【符号の説明】
【0069】
S5、S6 シール
14j、22j 収容部
30 底部
33 連通溝
【技術分野】
【0001】
本発明は、ギヤポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ギヤポンプとして特許文献1記載の技術が公知となっている。この発明によれば、ポンプの吐出圧が低圧時には、シールの反力を小さくしてサイドプレートのギヤへの押し付け力を減らすことにより、サイドプレートとギヤとの摩擦力を小さくしている。一方、ポンプの吐出圧が高圧時には、シールの反力を大きくしてサイドプレートのギヤへの押し付け力を増やすことにより、ギヤの側面に沿っての圧抜けを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−303767号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の発明にあっては、シールの収容溝の底部に対する受圧面積が圧力変動に伴うシールの変形により変化してサイドプレートのギヤへの押し付け力にばらつきを生じ、結果してポンプ性能にばらつきが生じるという問題点があった。
【0005】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、所望のポンプ性能を安定して発揮できるギヤポンプを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明では、圧力導入手段により導入された圧力によりシール部材を収容部の底部から離間するように構成した。
【発明の効果】
【0007】
シールによるサイドプレートのギヤへの押し付け力のばらつきを縮小して最適化することにより、所望のポンプ性能を安定して発揮できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例1のギヤポンプの後方斜視図である。
【図2】実施例1のギヤポンプの正面図である。
【図3】実施例1の要部拡大図である。
【図4】実施例1の要部拡大図である。
【図5】実施例1のシール部材の前方斜視図である。
【図6】実施例1のシール部材の後方斜視図である。
【図7】実施例1の第1サイドプレートの前方斜視図である。
【図8】実施例1の第1サイドプレートの前方斜視図である。
【図9】実施例1の第1サイドプレートの正面図である。
【図10】実施例1の第1サイドプレートの後面図である。
【図11】実施例1の第1サイドプレートの上面図である。
【図12】実施例1のギヤポンプとモータの連結前(a)と連結後(b)を説明する図である。
【図13】実施例1の第1サイドプレートと第1ギヤの配置を説明する図である。
【図14】実施例1のシール部材、第1サイドプレート、及び第1ギヤの配置を説明する図である。
【図15】図14のA15−A15線における断面図である。
【図16】実施例1の第1サイドプレート及びシールの後方斜視図である。
【図17】図16のA17−A17線における斜視断面図(一部のみ)である。
【図18】実施例1のシールの取付時(a)、シールの低圧作用時(b)、シールの高圧作用時(c)を説明する図である。
【図19】一般的なシールの作用を説明する図である。
【図20】実施例1のブレーキ装置を説明する図である。
【図21】実施例2のシールの取付時(a)、シールの低圧作用時(b)、シールの高圧作用時(c)を説明する図である。
【図22】実施例2の高圧側と低圧側が逆転した場合におけるシールの取付時(a)、シールの低圧作用時(b)、シールの高圧作用時(c)を説明する図である。
【図23】実施例3のギヤポンプを説明する断面図である。
【図24】実施例4のシールとその作用を説明する図である。
【図25】実施例5のギヤポンプを説明する断面図である。
【図26】実施例5の第1ギヤ及び第2ギヤを説明する断面図である。
【図27】実施例5の第1サイドプレートのシール付近の拡大断面図である。
【図28】実施例5の第2サイドプレートのシール付近の拡大断面図である。
【図29】その他の実施例のシール付近の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、この発明の実施例を図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0010】
以下、実施例1を説明する。
図1、2に示すように、実施例1のギヤポンプ1では、自動車のブレーキ液圧制御用のアクチュエータに用いられるものであって、ハウジング2と、このハウジング2に収容されたポンプ組立体3とが備えられている。
【0011】
[ハウジングについて]
次に、ハウジング2について説明する。ハウジング2は略矩形状に形成される他、その外面には図示しない切換えバルブやセンサが取り付けられる取付孔2aが複数形成されている。ハウジング2の前面略中央には径の異なる段付きの略円柱状に凹設されたポンプ室4が形成され、ここにポンプ組立体3が収容されている。
【0012】
[ポンプ組立体について]
次に、ポンプ組立体3について説明する。尚、ポンプ室4の開口端側(後述の第2ポンプ9側)を前方とし、ポンプ室4の底部側(後述の第1ポンプ8側)を後方として記載する。図3、4に示すように、ポンプ組立体3は、プラグ部材5と、カバー部材6と、シール部材7と、第1ポンプ8及び第2ポンプ9等を有する。プラグ部材5は、略円盤状に形成され、その中央には六角柱形状に貫通形成された貫通孔5aが形成されている。また、プラグ部材5の後端部には、カバー部材6と当接する後面5dと、この後面5dの外周を取り囲み、後方へ環状に突出した環状突起部5bとが形成されている。さらに、プラグ部材5の外周には雄螺子溝5cが形成されている。この雄螺子溝5cはポンプ室4の内周部に形成された雌螺子溝4aに螺合されている。カバー部材6は、略円盤状に形成され、プラグ部材5と当接する前面6eと、前面6eの外周全体に亘って切り欠かれた段部6fを有する。そして、プラグ部材5の螺合による軸力により前面6eが後方へ押圧されることにより、前面6eがプラグ部材5の後面5dに当接し、さらに、プラグ部材5の環状突起部5bと段部6fとが嵌合した状態で所定位置に配設されている。カバー部材6の外周には、ポンプ室4の内周と略同一径の高さを有し、環状突起部5bと略同じ径方向高さを有する凸部6gが形成されている。また、カバー部材6の外周であって凸部6gの後方にはシール溝6hが形成されている。凸部6gと環状突起部5bとの間には、ポンプ室4の内周とのシール性を確保するための環状のシールS1が備えられ、シール溝6hにはポンプ室4の内周とのシール性を確保するための環状のシールS2が備えられている。すなわち、シールS1,S2は、前後に離間した位置に装着されている。カバー部材6の偏芯位置には、内径が異なる段付きの貫通孔6bが形成されている。この貫通孔6bには駆動軸10が隙間6aを有して挿通されている。一方、貫通孔6bの大径側と小径側に位置して、駆動軸10とのシール性を確保するための環状のシールS3がそれぞれ装着されている。さらに、カバー部材6の後端部には前方へ環状に凹設された凹部6dと、この凹部6dから後方へ環状に突出した環状突起部6cが形成されている。環状突起部6cの内周には内周全体に亘って切り欠かれた段部6iが形成されている。
【0013】
図5、6に示すように、シール部材7は略円盤状に形成される他、図中上下に離間して2つの貫通孔7a,7bがそれぞれ円形状の開口断面を有して前後方向に貫通形成されている。また、シール部材7の前後面には、貫通孔7a,7bの周囲に沿って軸方向へ突出したサイドシール部7dがそれぞれ形成されると共に、その一側面には一対の係合凸部7eが側方へ突設されている。各サイドシール部7dには、貫通孔7aと同軸上で環状に厚み方向内側へ凹設されたリング収容部7fがそれぞれ形成されている。さらに、シール部材7の後面のリング収容部7fの厚み方向内側には、リング収容部7fと連続して環状に凹設された小径のシール収容部7gが形成されている。その他、シール部材7の外周には、径方向内側へ環状に凹設された収容部7hが形成され、その前端部には前方へ環状に突設された環状突起部7iが形成されている。
【0014】
そして、図3、4に示すように、シール部材7は、プラグ部材5の螺合による軸力によってカバー部材6を介して後方へ押圧される。これにより、シール部材7の環状突起部7iがカバー部材6の段部6iに嵌合し、さらに、その後面の一部がポンプ室4の段部4bに当接した状態で所定位置に配設(位置決め)されている。また、シール部材7の貫通孔7aには駆動軸10が挿通される一方、貫通孔7bには従動軸11が挿入配置されている。シール部材7のシール収容部7gには、環状の回転シール部材12(Xリング等)が介装され、駆動軸10と後述する第1ポンプ室P1とのシール性が確保されている。さらに、シール部材7の後面のリング収容部7fには回転シール部材12のシール収容部7gを閉塞した状態で第1シールリング13aが介装されている。また、前面のリング収容部7fには環状の第2シールリング13bが介装されている。尚、各シールリング13a,13bは、少なくともシール部材7よりも硬質で耐久性が高い素材で形成されている。また、シール部材7の収容部7hには、ポンプ室4内周に密着し、第1ポンプ室P1と第2ポンプ室P2との間のシール性を確保するための環状のシールS4が装着されている。そして、ポンプ室4の段部4bから後方へ環状に凹設された凹部4cとシール部材7との間には、閉空間となる第1ポンプ室P1が形成され、ここに第1ポンプ8が配設されている。一方、カバー部材6の凹部6dとシール部材7との間には、閉空間となる第2ポンプ室P2が形成され、ここに第2ポンプ9が配設されている。第1ポンプ8には、シール部材7と後述の第1サイドプレート14とによって前後面及び歯先をシールされた第1ギヤ15が配設されている。先ず、第1サイドプレート14について説明する。図7〜11に示すように、第1サイドプレート14は、樹脂製で正面視略三角形状に形成されている。また、略三角形状の頂点付近には、3つの貫通孔14a,14b,14cが貫通形成されている。第1サイドプレート14の前面において、貫通孔14a,14bの周囲には前方へ突出したサイドシール部14dが形成されている。また、第1サイドプレート14の前面には略三角形状に前方へ突出したシールブロック14eが形成されている。シールブロック14eには、貫通孔14cに連続して中心側へ向かう開口部を形成する通路部14fと、この通路部14fを挟んだ両側に形成され、サイドシール部14dの一部と連続した一対の湾曲面状の歯先シール部14gと、各歯先シール部14gの前方側に位置する係合部14hとが形成されている。さらに、シールブロック14eには、歯先シール部14gの外周から貫通穴14cを囲むように内側へ凹設された溝14iが形成されている。一方、図10に示すように、第1サイドプレート14の後面には各貫通孔14a〜14cを取り囲むように略三角形状に屈曲した異径環状の収容部14jが凹設されている。
【0015】
そして、図4に示すように、第1サイドプレート14の貫通孔14aには駆動軸10が径方向に所定の隙間を有した状態で回転可能に挿通されている。一方、貫通孔14bには従動軸11が径方向に所定の隙間を有した状態で挿通されている。また、収容部14jには後述するシールS5が介装されて、第1ポンプ室P1の後述する高圧側と低圧側とのシール性が確保されている。
【0016】
次に、第1ギヤ15について説明する。図14に示すように、第1ギヤ15は、駆動軸10が挿通された駆動ギヤ16と、従動軸11が挿通された従動ギヤ17で構成され、これら両ギヤ16,17の歯先16a,17a同士は歯合部18で噛合されている。駆動軸10における駆動ギヤ16と対応する位置には内側に凹設された凹部10aが形成され、ここに該駆動軸10の軸心から半径方向に伸びた円柱状の駆動ピン10bの先端側が挿入されている。駆動ピン10bの基端側は、駆動ギヤ16の内周に切欠形成された凹部16bに係合されている。一方、従動軸11における従動ギヤ17と対応する位置には内側に凹設された凹部11aが形成され、ここに該従動軸11の軸心から半径方向に伸びた円柱状の従動ピン11bの先端側が挿入されている。従動ピン11bの基端側は、従動ギヤ17の内周に切欠形成された凹部17bに係合されている。
【0017】
さらに、図12(a)、(b)に示すように、駆動軸10の前端部には、二面幅の嵌合凸部19が形成される一方、モータM1(電動機)の回転軸20aの先端部には、該嵌合凸部19と凹凸係合して回転軸20aに連結可能な嵌合凹部20bが形成されている。これにより、駆動軸10は、モータM1の駆動によって軸周り方向に回転駆動可能に構成されている。また、駆動ギヤ16は駆動ピン10bとの係合により駆動軸10に回り止めされるため、駆動軸10の回転駆動に伴って駆動ギヤ16が駆動軸10と同じ回転方向に回転する。一方、駆動ギヤ16と噛合した従動ギヤ17は、従動ピン11bとの係合により従動軸11に回り止めされるため、従動軸11と共に駆動軸10とは反対方向に回転する。
【0018】
図13に示すように、各ギヤ16,17の歯先16a,17aは第1サイドプレート14のシールブロック14eのそれぞれ対応する歯先シール部14gに液密に当接しながら摺動可能になっている。また、図14、15に示すように、シール部材7の後面の一対の係合凸部7eは、シールブロック14eのそれぞれ対応する係合部14hの曲面に密着した状態で係合され、これにより、各ギヤ16,17の歯先16a,17aを第1サイドプレート14のサイドシール部14dとの間でシールする。さらに、シールブロック14eの外周に形成された溝14iとシール部材7の対応するサイドシール部7dに掛けて略三角形形状に保持部材21が装着されている(図7参照)。なお、図示を省略するが、ポンプ室4には、第1サイドプレート14の貫通孔14cに連通した吸入ポートと、第1ポンプ室P1に連通した吐出ポートが設けられている。一方、第2ポンプ9は、シール部材7を中心として第1ポンプ8と対称構成になっている。即ち、シール部材7と第2サイドプレート22によって前後面をシールされた第2ギヤ23が配設されている。なお、第2サイドプレート22及び第2ギヤ23は、第1サイドプレート14及び第1ギヤ15と左右対称の同一形状であるため、その説明は省略する。
【0019】
そして、図4に示すように、第2サイドプレート22の貫通孔22aには駆動軸10が径方向に所定の隙間を有した状態で回転可能に挿通される一方、貫通孔22bには従動軸11が径方向に所定の隙間を有した状態で挿通されている。また、収容部14jと同形状の収容部22jにはシールS5と同形状のシールS6が介装されて、第2ポンプ室P2の後述する高圧側と低圧側とのシール性が確保されている。
【0020】
その他、第2ポンプ9において、ポンプ室4には、第2サイドプレート22の貫通孔21c及びカバー部材6の油路を介して連通された図示しない吸入ポートと、カバー部材6に形成された油路を介して第2ポンプ室P2に連通された図示しない吐出ポートが設けられていること以外は第1ポンプ8と略同じ構成である。また、各サイドプレート14,22の貫通穴14a,22aの直径は駆動軸10の直径よりも大きく設定されると共に、貫通穴14b,22bの直径は従動軸11の直径よりも大きく設定されている。即ち、駆動軸10及び従動軸11はそれぞれ対応する各サイドプレート14,22の貫通穴14a,22a及び貫通穴14b,22bと僅かな隙間を介して挿通されている。
【0021】
[収容部について]
次に、両サイドプレート14,22の収容部14j,22jについて詳述する。なお、両収容溝14j,22jは同じ構成であるため、収容部14jについてのみ図示して説明する。図16、17に示すように、第1サイドプレート14の後面に凹設された収容部14jは、第1サイドプレート14の軸直方向に延設された底部30と、この底部30に連続して傾斜状に延設された高圧側側壁部31と、底部30に対して直角方向に延設された低圧側側壁部32を有して、略V字型断面に凹設されている。高圧側側壁部31の周上の複数の箇所(実施例1では5箇所)には底部30を高圧側側壁部31側に幅広にして切欠形成された連通溝33が形成されている。そして、連通溝33にはゴム等の弾性素材で円形断面を有し、全体が略三角形に屈曲した異形環状のシールS5が介装される。具体的には、図18(a)に示すように、シールS5は、底部30との間に所定の空隙34を有し、収容部14jの高圧側側壁部31、低圧側側壁部32、及び凹部4cに当接した状態で設けられている。
【0022】
次に、実施例1の作用を説明する。
[ギヤポンプの組み立てについて]
次に、ギヤポンプ1の組み立てについて説明する。上述のように構成されたギヤポンプ1を組み立てる際には、先ず、シールS4が予め装着されたシール部材7のシール収容部7gに回転シール部材12を挿入して仮固定する。次に、シール部材7の貫通孔7aに駆動軸10を挿通する一方、貫通孔7bに従動軸11を挿入する。次に、シール部材7の各リング収容部7fにそれぞれ対応するシールリング13a,13bを挿入する。この際、第1シールリング13aで回転シール部材12が押圧されることにより、回転シール部材12が駆動軸10に良好に密着した状態となる。次に、駆動ピン10b,10e及び従動ピン11b,11dをそれぞれ対応する駆動軸10の凹部10a,10d及び従動軸11の凹部11a,11cに挿入する。次に、駆動ギヤ16,26及び従動ギヤ17,27をそれぞれ対応する駆動軸10及び従動軸11に組み付ける。次に、シールS5,S6及び保持部材21,23が予め装着された各サイドプレート14,22に駆動軸10及び従動軸11を挿通させてシール部材7に組み付ける。この際、シール部材7の第1サイドプレート14側において、一対の係合凸部7eを第1サイドプレート14のそれぞれ対応する係合部14hに係合させることにより、これら両者を位置決めした状態で容易に組み付けることができる。また、保持部材21によって、シール部材7と第1サイドプレート14とを一時的に保持した状態で固定できる。さらに、保持部材21は予めシール部材7に装着した状態で、その後、拡径させて第1サイドプレート14に掛けることができ、装着性が良い。同様に、第2サイドプレート22側において、シール部材7の一対の係合凸部7eを第2サイドプレート22のそれぞれ対応する係合部に係合させることによって、これら両者を位置決めした状態で容易に組み付けることができる。また、保持部材24によって、シール部材7と第1サイドプレート14とを一時的に保持した状態で固定できる。さらに、保持部材24は予めシール部材7に装着した状態で、その後、拡径させて第2サイドプレート22に掛けることができ、装着性が良い。次に、シールS1,S2が予め装着されたカバー部材6の貫通孔6aに駆動軸10を挿通しつつ、該カバー部材6の環状突起部6cをシール部材7に嵌合させて、カバー部材6とシール部材7を組み付けることにより、ポンプ組立体3を組み立てる。
【0023】
次に、このように組み付けられたポンプ組立体3をハウジング2のポンプ室4に挿入した後、プラグ部材5をポンプ室4に螺合して固定する。この際、プラグ部材5の螺合による軸力でシール部材7をポンプ室4の段部4bに密着させて安定した状態で固定でき、各部材の前後方向位置を正確に配置できると同時に、後述する作動油の圧力変動に伴うがたつきを防止できる。加えて、シールS1がプラグ部材5の環状突起部5bに押圧されることにより、ポンプ室4とカバー部材6とのシール性が良好となる。このように、実施例1のギヤポンプ1では、ポンプ組立体3を仮組みした状態でハウジング2に収容でき、組み立て作業の簡素化を図ることができる。
【0024】
[ギヤポンプの作動について]
次に、ギヤポンプ1の作動について説明する。 このように構成されたギヤポンプ1は、図12(a)、(b)に示すように、円柱状の駆動軸10の先端に設けられ、横断面長孔形状に切欠開口された嵌合凸部19がモータM1の回転軸20aの嵌合凹部20bに連結される。
【0025】
そして、図13に示すように、モータM1の駆動により駆動軸10が図中矢印方向に回転駆動されると、第1ポンプ8において、駆動ギヤ16を介して従動ギヤ17が駆動される。この作用によって吸入ポートと連通する第1サイドプレート14のシールブロック14eの貫通孔14cから低圧の作動油が導入され、ポンプ室P1に高圧の作動油が出力される。この高圧の作動油は対応する吐出ポートから出力される。また、第2ポンプ9では第1ポンプ8と同様に、駆動ギヤ18aを介して従動ギヤ18bが駆動されることにより、第2サイドプレート22のシールブロック17eの貫通孔17cから低圧(負圧)の作動油が導入され、ポンプ室P2に高圧の作動油が出力される。この高圧の作動油は対応する吐出ポートに出力される。このように、ギヤポンプ1は、両ポンプ室P1,P2において異なる配管系統の作動油の吸入と吐出とが行われることとなり、所謂タンデム式の外接ギヤポンプとして機能する。
【0026】
[サイドプレートによるギヤへの押し付け力について]
次に、各サイドプレート14,22によるギヤ15,23への押し付け力について説明する。なお、各サイドプレート14,22によるギヤ15,23への押し付け力は同じであるため、第1サイドプレート14による第1ギヤ15への押し付け力についてのみ図示して説明する。図18(a)で説明したように、シールS5はその装着時において、底部30との間に所定の空隙34を有し、高圧側側壁部31、低圧側側壁部32、及び凹部4cに当接した状態で設けられている。これにより、シールS5は第1サイドプレート14と凹部4cとの隙間において高圧室H1側と低圧室L1側を区画するように臨んだ状態で配置されている。そして、図18(b)に示すように、第1ポンプ8の作動に伴う作動油の低圧作用時において、シールS5は高圧室H1側から作動油の圧力を受けて変形しながら低圧室L1側に変形(縮径)しつつ、高圧室H1側と低圧室L1側をシールして区画する。この変形に伴い高圧室H1側の作動油が連通溝33を介して空隙34に導入される。即ち、この際、シールS5を所定位置に保持して配置する部位を高圧側側壁部31の保持部35とすると、連通溝33の幅W1は底部30に対して保持部35の幅W2よりも幅広に設定されており、これにより、作動油を連通溝33から空隙34に流入できるようになっている。次に、図18(c)に示すように、第1ポンプ8の作動に伴う作動油の高圧作用時には、シールS5が空隙34に流入した作動油からの圧力により底部30から離間する方向へ移動して、高圧室H1側と低圧室L1側を確実にシールする。この際、シールS5は底部30から離間して完全に浮上した状態にできる。ここで、ギヤへの押し付け力は、下記式(1)により求められる。
【0027】
ギヤへの押し付け力=(サイドプレートの収容部側受圧面積−サイドプレートのギヤ側受圧面積)×ポンプ室内圧力+シール反力・・・(1)
【0028】
従って、図19(a)〜(c)に示すように、特許文献1を含む一般的な凹部型の収容部を採用した場合には、サイドプレートの収容部側受圧面積範囲α(図19参照)が圧力変動に伴うシールの変形により変化し、且つ、シールの反力も圧力変動に伴って変化して安定しない。なお、図19において実施例1の各部に対応する構成部は同じ符号を付す。また、シールの材料は、通常、ゴムが使用されるため、長年の使用により硬化やへたりが生じ、反力変化が大きい。さらに、ゴムは製造寸法公差・組み付け寸法交差を小さくできないため、寸法ばらつきによる反力のばらつきも無視できない。従って、サイドプレートのギヤへの押し付け力のばらつきを無くすことは実際上困難であり、このばらつきがポンプ性能に悪影響を及ぼすという問題点があった。これに対し、実施例1では、作動油に圧力が掛かる低圧〜高圧作用時において、収容部14jの低圧側側壁部32までの全てがサイドプレート14の収容部側受圧面積範囲α(図19参照)となる。さらに、作動油の高圧作用時にはシールS5が底部30から離間して完全に浮上するため、シールS5の反力が無くなる。これにより、実施例1のギヤ15への押し付け力は、下記式(2)により求められる。
【0029】
ギヤ15への押し付け力=(第1サイドプレート14の収容部14j側受圧面積(一定)−第1サイドプレート14のギヤ15側受圧面積(一定))×第1ポンプ室P1内圧力・・・(2)
【0030】
従って、第1ギヤ15は、第1ポンプP1内の圧力変動によるシールS5の変形・反力の影響を殆ど受けることがないため、第1ポンプP1内の圧力が上昇した場合でもシールS5の反力分の押しつけ力を低減することができる。また、押し付け力を低減したことにより、第1サイドプレート14とギヤ15とのフリクションを低下でき、ポンプ性能をアップできる。さらに、シールS5が変形した場合でも第1サイドプレート14の収容部14j側受圧面積が常に一定に保たれるため、シールS5の寸法ばらつきを排除でき、第1サイドプレート14の最適バランス形状を容易に設定できる。さらに、押し付け力の変動要因が第1ポンプ室P1内の内圧のみになるため、ばらつきが少なく安定したポンプ性能を確保できる。なお、実施例1では、作動油の高圧作用時にシールS5が底部30から完全に浮上するようにしたが、作動油の低圧作用時においてもシールS5が底部30から完全に浮上するようにしても良い。
【0031】
[収容部の成形性について]
実施例1では、各サイドプレート14,22を樹脂製として一体成形しているため、収容部14j,22jの各部を容易に成形できる。また、底部30の幅を一部設計変更するのみで容易に連通溝33を形成できる。
【0032】
[フリクションの安定について]
実施例1では、各シールS5,S6と底部30との間に予め空隙34を形成しておき、ここに圧力を導入しているため作動油の導入に対する反応性が良く、各ポンプ8,9の作動直後に素早くフリクションを安定できる。
【0033】
[ブレーキ装置への適用について]
次に、ギヤポンプ1の車両用のブレーキ装置への適用例を説明する。なお、以下に説明するブレーキ装置の構成は一例であって、その他の公知のブレーキ装置に適用しても良いし、ギヤポンプ1をブレーキ装置以外のものに適用することもできる。
【0034】
図20に示すように、実施例1のブレーキ装置101は、P系統とS系統との2系統からなる、X配管と呼ばれる配管構造となっている。尚、倍力装置BS等の構成については公知のものと同じであるため異なる点について説明する。P系統には、左前輪のホイルシリンダW/C(FL)、右後輪のホイルシリンダW/C(RR)が接続され、S系統には、右前輪のホイルシリンダW/C(FR)、左後輪のホイルシリンダW/C(RL)が接続されている。また、P系統、S系統はギヤポンプ1のポンプ8とポンプ9に接続されている。マスタシリンダM/Cとポンプ8,9の吸入側とは、管路11P,11Sによって接続されている。この各管路11P,11S上には、チェック弁機能を備えたリザーバ160P,160Sが設けられている。これら両リザーバ160P,160Sは同一の機能であるため、リザーバ160Pのみについて説明すると、リザーバ160Pには、ボール弁161と、ピストン162と、ピストン162を上方に付勢するスプリング163と、ホイルシリンダから減圧により流出したブレーキ液をリザーバ160Pに導入するポート164と、リザーバ160P内のブレーキ液もしくはマスタシリンダ内のブレーキ液をポンプ吸入側に導出するポート165とを有する。マスタシリンダ圧が発生すると、ボール弁161が閉じられ、この状態でポンプ8が作動すると、ボール弁161とピストン162の受圧面積の差及びスプリング弾性力によってボール弁161が開き、適宜ブレーキ液の吸入が行われる。
【0035】
マスタシリンダM/Cとリザーバ160Pとの間には、マスタシリンダM/Cの圧力を検出するマスタシリンダ圧センサPMCが設けられている。また、管路11P,11S上であって、リザーバ160P,160Sとポンプ8,9との間にはチェックバルブ6P,6Sが設けられ、この各チェックバルブ6P,6Sは、リザーバ160P,160Sからポンプ8,9へ向かう方向へのブレーキ液の流れを許容し、反対方向の流れを禁止する。各ポンプ8,9の吐出側と各ホイルシリンダW/Cとは、管路12P,12Sによって接続されている。この各管路12P,12S上には、各ホイルシリンダW/Cに対応する常開型の電磁弁であるソレノイドインバルブ4FL,4RR,4FR,4RLが設けられている。また、各管路12P,12S上であって、各ソレノイドインバルブ4FL,4RR,4FR,4RLとポンプ8,9との間にはチェックバルブ7P,7Sが設けられて、この各チェックバルブ7P,7Sは、ポンプ8からソレノイドインバルブ4FL,4RR,4FR,4RLへ向かう方向へのブレーキ液の流れを許容し、反対方向の流れを禁止する。更に、各管路12P,12Sには、各ソレノイドインバルブ4FL,4RR,4FR,4RLを迂回する管路17FL,17RR,17FR,17RLが設けられ、この管路17FL,17RR,17FR,17RLには、チェックバルブ10FL、10RR,10FR,10RLが設けられている。この各チェックバルブ10FL、10RR,10FR,10RLは、ホイルシリンダW/Cからポンプ8,9へ向かう方向へのブレーキ液の流れを許容し、反対方向の流れを禁止する。マスタシリンダM/Cと管路12P,12Sとは管路13P,13Sによって接続され、管路12P,12Sと管路13P,13Sとはポンプ8,9とソレノイドインバルブ4FL,4RR,4FR,4RLとの間において合流する。この各管路13P,13S上には、常開型の電磁弁であるゲートアウトバルブ3P,3Sが設けられている。ここで、管路13P,13Sのうち、ゲートアウトバルブ3P,3Sよりもマスタシリンダ側の管路をマスタ側管路13aとし、ホイルシリンダ側の管路をホイル側管路13bとする。また各管路13P,13Sには、各ゲートアウトバルブ3P,3Sを迂回する管路18P,18Sが設けられ、この管路18P,18Sには、チェックバルブ9P,9Sが設けられている。この各チェックバルブ9P,9Sは、マスタシリンダM/C側からホイルシリンダW/Cへ向かう方向のブレーキ液の流れを許容し、反対方向の流れを禁止する。
【0036】
ポンプ8,9の吸入側にはリザーバ160P,160Sが設けられ、このリザーバ160P,160Sとポンプ8,9とは管路15P,15Sによって接続されている。リザーバ160P,160Sとポンプ8,9との間にはチェックバルブ6P,6Sが設けられて、この各チェックバルブ6P,6Sは、リザーバ160P,160Sからポンプ8,9へ向かう方向のブレーキ液の流れを許容し、反対方向の流れを禁止する。ホイルシリンダW/Cと管路リザーバ160P,160Sとは管路14P,14Sによって接続されている。この各管路14P,14Sには、それぞれ常閉型の電磁弁であるソレノイドアウトバルブ5FL,5RR,5FR,5RLが設けられている。
【0037】
[ブレーキ装置の作動について]
このようなブレーキ装置101では、車輪のスリップ率を所定範囲にするアンチスキッドブレーキ制御(以下、ABS制御)や、車両挙動を安定させるために車両にヨーレイトを付与する車両挙動制御や、運転者のブレーキペダル操作に加えて加圧するブレーキアシスト制御、運転者の意思に係らず走行状況に基づいて制動力を発生させる自動ブレーキ制御が行われる。ABS制御における減圧制御時や、ホイルシリンダ加圧時に、ギヤポンプ1を作動すると、対象のホイルシリンダもしくはマスタシリンダからブレーキ液(作動油)がリザーバ160P,160Sに流れ込むと共にポンプ吸入側である低圧室L1に流れ込む。そして、前述したように、ポンプ吐出側の圧力によってシールS5(シールS6)が変形すると共に、該変形に伴って連通溝33を介してホイルシリンダの圧力が高圧室H1に作用する。
【0038】
最後に、実施例1の効果を請求項1〜5、9〜12、15〜19に対応する(1)〜(14)と共に列記する。
(1)ハウジング2内に設けられたポンプ室P1,P2と、ポンプ室P1,P2に配置され、電動機(モータM1)により回転駆動されてポンプ作用を行うギヤ15,18と、ポンプ室P1,P2の壁(凹部4c,6d)とギヤ15,18との間に配置され、ギヤ15,18の側面をシールするサイドプレート14,22と、ポンプ室P1,P2の壁(凹部4c,6d)とサイドプレート14,22の間で該サイドプレート14,22に形成された環状の収容部14j,22j内に配置され、ポンプ室P1,P2内の低圧室L1と高圧室H1を液密に区画するシール部材(シールS5,S6)と、を有し、収容部14j,22jを底部30と側壁部(高圧側側壁部31及び低圧側側壁部32)で構成すると共に、底部30とシール部材(シールS5,S6)との間にポンプ作用によって発生する圧力を導入する圧力導入手段(連通溝33)を設け、導入された圧力によりシール部材(シールS5,S6)を底部30から離間させることとした。これにより、シールS5,S6の変形によるサイドプレート14,22のギヤ15,23への押し付け力のばらつきを縮小して最適化でき、所望のポンプ性能を安定して発揮できる。
【0039】
(2)シール部材(シールS5,S6)を収容部14j,22jの底部30との間に空隙34をもって配置し、圧力導入手段(連通溝33)は、空隙34に対し高圧室H1からの圧力を導入することとした。これにより、予め空隙34を形成しておき、ここに圧力を導入するので圧力の導入に対する応答性が良い。
【0040】
(3)収容部14j,22jの側壁部(高圧側側壁部31)は、シール部材(シールS5,S6)に当接して該シール部材(シールS5,S6)を所定位置に保持する保持部35と、保持部35に連続して交互に設けられ、該底部30に対して保持部35よりも幅広に形成された圧力導入手段(連通溝33)と、を有することとした。これにより、収容部14j,22の幅を設計変更するのみで容易に圧力導入手段(連通溝33)を形成できる。
【0041】
(4)サイドプレート14,22を樹脂製とし、保持部35及び圧力導入手段(連通溝33)を一体形成した。これにより、保持部35及び圧力導入手段(連通溝33)の各部の成形を容易に行うことができる。
【0042】
(5)ハウジング2内にセンタプレート(シール部材7)が固定され、ポンプ室P1,P2は、センタプレート(シール部材7)を挟んで両側にそれぞれ設けられ、ギヤ15,23は、センタプレート(シール部材7)とサイドプレート14,22の間に配置され、電動機(モータM1)により回転駆動される駆動ギヤ16,26と、該駆動ギヤ16,26に歯合して回転する従動ギヤ17,27とからなるタンデム式の外接ギヤタイプであることとした。これにより、外接式のタンデムギヤポンプに適用できる。
【0043】
(6)ハウジング2内に設けられたポンプ室P1,P2と、ポンプ室P1,P2内に配置され、少なくとも駆動軸10により回転駆動されるギヤ15,23と、ギヤ15,23に隣接し、ポンプ室P1,P2の壁(凹部4b,6d)とギヤ15,23の側面との間に配置されたサイドプレート14,22と、サイドプレート14,22の壁(凹部4b,6d)に面する面に形成された環状の凹溝(収容部14j,22j)内に配置され、ポンプ室P1,P2内を高圧室H1と低圧室L1に区画すると共に、ギヤ15,23が駆動された時に高圧室H1から導入された圧力によって凹溝(収容部14j,22j)の底部30から離れる方向に押圧されるシール部材(シールS5,S6)と、を有することとした。これにより、(1)と同様の作用・効果を得られる。
【0044】
(7)シール部材(シールS5,S6)を、凹溝(収容部14j,22j)内の底部(底部30)との間に空隙34をもって配置し、空隙45に高圧室H1からの圧力を導入することとした。これにより、(2)と同様の作用・効果を得られる。
【0045】
(8)凹溝(収容部14j,22j)の高圧室側側壁(高圧室側側壁部31)は、シール部材(シールS5,S6)に当接して該シール部材(シールS5,S6)を所定位置に保持する保持部35と、保持部35に連続して交互に設けられ、底部30に対して保持部35よりも幅広に形成されることにおり、空隙34に高圧室H1の圧力を導く圧力導入手段(連通溝33)と、を有することとした。これにより、(3)と同様の作用・効果を得られる。
【0046】
(9)サイドプレート14,22を樹脂製とし、凹溝(収容部14j,22j)、保持部35、及び圧力導入手段(連通溝33)を一体形成した。これにより、(4)と同様の作用・効果を得られる。
【0047】
(10)ハウジング2内にセンタプレート(シール部材7)が固定され、ポンプ室P1,P2は、センタプレート(シール部材7)を挟んで両側にそれぞれ設けられ、ギヤ15,23は、センタプレート(シール部材7)とサイドプレート14,22の間に配置され、駆動軸10により回転駆動される駆動ギヤ16,26と、該駆動ギヤ16,26に歯合して回転する従動ギヤ17,27とからなるタンデム式の外接ギヤタイプであることとした。これにより、(5)と同様の作用・効果を得られる。
【0048】
(11)少なくとも一対の噛み合う駆動ギヤ16及び従動ギヤ17(駆動ギヤ26及び従動ギヤ27)と、駆動ギヤ16及び従動ギヤ17(駆動ギヤ26及び従動ギヤ27)に隣接して配置されたサイドプレート14(サイドプレート22)と、サイドプレート14(サイドプレート22)を挟み、駆動ギヤ16及び従動ギヤ17(駆動ギヤ26及び従動ギヤ27)と対向した位置に配置された凹部4c(凹部6d)と、凹部4c(凹部6d)とサイドプレート14(サイドプレート22)との間に配置され、且つ、サイドプレート14(サイドプレート22)に形成された肩部の先端と凹部4c(凹部6d)との間に形成された隙間を封止するよう配置され、駆動ギヤ16及び従動ギヤ17(駆動ギヤ26及び従動ギヤ27)の径方向に形成される低圧部(低圧室L1)と高圧部(高圧室H1)とを区画するシール部材(シールS5,S6)と、シール部材(シールS5,S6)を高圧部(高圧室H1)の圧力によって、肩部の先端の方向へ変形させる圧力導入部(連通溝33)と、を有することとした。これにより、(1)と同様の作用・効果を得られる。
【0049】
(12)シール部材(シールS5,S6)を、凹溝(収容部14j,22j)の底部30との間に空隙34をもって配置し、圧力導入部(連通溝33)は、空隙34に対し高圧部(高圧室H1)からの圧力を導入することとした。これにより、(2)と同様の作用・効果を得られる。
【0050】
(13)凹溝(収容部14j,22j)の高圧部側側壁(高圧室側側壁部31)は、シール部材(シールS5,S6)に当接して該シール部材(シールS5,S6)を所定位置に保持する保持部35と、保持部35に連続して交互に設けられ、凹溝(収容部14j,22j)の底部30に対して保持部35よりも幅広に形成される圧力導入部(連通溝33)と、を有し、サイドプレート14,22を樹脂製とし、凹溝(収容部14j,22j)、保持部35、及び圧力導入部(連通溝33)を一体形成した。これにより、(3)、(4)と同様の作用・効果を得られる。
【0051】
(14)ハウジング2内にセンタプレート(シール部材7)を固定し、ポンプ室P1,P2は、センタプレート(シール部材7)を挟んだ両側にそれぞれ設けられ、ギヤ15,23は、センタプレート(シール部材7)とサイドプレート14,22の間に配置され、電動機(モータM1)により回転駆動される駆動ギヤ16,26と、該駆動ギヤ16,26に歯合して回転する従動ギヤ17,27とからなるタンデム式の外接ギヤタイプであることとした。これにより、(5)と同様の作用・効果を得られる。
【実施例2】
【0052】
以下、実施例2を説明する。
実施例2において、実施例1と同様の構成部材については同じ符号を付してその説明は省略し、相違点のみ詳述する。
【0053】
図21(a)に示すように、実施例2の発明では、実施例1で説明した連通溝33の代わりに、第1サイドプレート14(第2サイドプレート22)の軸直方向に延設された連通溝36を設けて、その一端側を高圧室H1に連通させる一方、他端側を空隙34の底部30側付近に連通させているという点が実施例1と異なる。従って、実施例2の発明では、高圧側側壁部31に対するシールS5(シールS6)の当たり(接触面積)は全周に亘って均一となるため、シールS5(シールS6)の応力集中を避けることができ、耐久性を向上できる。また、図21(a)〜(c)に示すように、実施例1の連通溝33と同様に連通溝36を介して空隙34に作動油を導入でき、実施例1と同様の作用・効果を得ることができる。加えて、図22(a)〜(c)に示すように、ABS減圧制御時に高圧室H1と低圧室L1との関係が逆転しても圧力が容易に抜けるため、フリクションの増加を抑制できる。
【0054】
次に、この実施例2の効果を請求項6、13、20に対応する(15)と、請求項7に対応する(16)と共に記載する。
(15)第1サイドプレート14及び第2サイドプレート22に空隙34と高圧室H1を連通する連通溝36を形成した。これにより、シールS5,S6の応力集中を避けることができる。
【0055】
(16)ギヤポンプ1は、車両用のブレーキ装置に用いられ、ブレーキ装置は、ABS減圧制御時に対象のホイルシリンダからブレーキ液(作動油)が流れ込むリザーバ160P,160Sを備え、ギヤポンプ1は、ABS減圧制御時にリザーバ160P,160Sを介してホイルシリンダW/Cと連通すると共に、このホイルシリンダW/Cの圧力が低圧室L1に作用し、ホイルシリンダW/Cの圧力によってシール部材(シールS5,S6)が変形すると共に、該変形に伴って連通溝36を介してホイルシリンダW/Cの圧力が高圧室H1に作用することとした。これにより、ABS減圧制御時に高圧室H1と低圧室L1の関係が逆転しても圧力が容易に抜けるため、フリクションの増加を抑制できる。
【実施例3】
【0056】
以下、実施例3を説明する。
実施例3において、実施例1と同様の構成部材については同じ符号を付してその説明は省略し、相違点のみ詳述する。
【0057】
図23に示すように、実施例3の発明では、実施例1のギヤポンプがタンデム式の外接ギヤポンプであるのに対し、シングル式の外接ギヤポンプを採用しているという点が実施例1と異なる。即ち、実施例1で説明した第2ポンプ9の構成部分が省略されて第1ポンプ8のみとなっている。また、実施例1で説明したカバー部材6とシール部材7とが前後方向に短縮して一体的に形成されたシール部材7が採用されている。従って、実施例3の発明では、実施例1と同様の作用・効果を得られる。
【実施例4】
【0058】
以下、実施例4を説明する。
実施例4において、実施例1と同様の構成部材については同じ符号を付してその説明は省略し、相違点のみ詳述する。
【0059】
図24に示すように、実施例4の発明では、シールS5(シールS6共)がゴム等の弾性素材で形成され、且つ、弾性変形可能な環状の弾性変形部37と、少なくとも弾性変形部37よりも硬質な素材で形成され、且つ、弾性変形部37を補強するバックアップ部38により構成されているという点が実施例1と異なる。なお、弾性変形部37とバックアップ部38との固定は適宜設定できる。また、バックアップ部38は、略L字型断面を有して高圧室H1と低圧室L1との境界部に臨んで配置されている。さらに、弾性変形部37のバックアップ部38のL字型断面の端部と対応する位置には外側へ突出した係止部37aが形成され、各係止部37aがバックアップ部38に係止することにより弾性変形部37の位置ずれ防止が図られている。従って、実施例4の発明では、作動油の高圧作用時に、シールS5の一部が変形して第1サイドプレート14(第2サイドプレート22)と凹部4c(凹部5d)との隙間に噛み込むのを防止できる。
【0060】
次に、この実施例4の効果を請求項8、14に対応する(17)と共に記載する。
(17)シール部材(シールS5,S6)を、弾性変形可能な弾性変形部37と、該弾性変形部37を補強するバックアップ部38で構成し、バックアップ部38を低圧室L1と高圧室H1の境界部に臨ませて配置した。これにより、作動油の圧力作用時におけるシール部材(シールS5,S6)の噛み込みを防止できる。
【実施例5】
【0061】
以下、実施例5を説明する。
実施例5において、実施例1と同様の構成部材については同じ符号を付してその説明は省略し、相違点のみ詳述する。
【0062】
実施例5の発明では、実施例1のギヤポンプ1がタンデム式の外接ギヤポンプであるのに対し、タンデム式の内接ギヤポンプを採用しているという点が実施例1と異なる。具体的には、図25に示すように、両サイドプレート14,22は略器状の同一形状部品で構成される他、各サイドプレート14,22の外周にはシールブロック14e,17eの代わりに、シール部材7側へ環状に突出した外径部シール部40,41が形成されている。そして、外径部シール部40,41とシール部材7のそれぞれ対応するサイドシール部7dとが嵌合されている。第1サイドプレート14の外径部シール部40とシール部材7の対応するサイドシール部7dで囲まれた間には、第1ポンプ8を構成する第1ギヤ15が配設される。一方、第2サイドプレート22の外径部シール部41とシール部材7の対応するサイドシール部7dで囲まれた間には、第2ポンプ9を構成する第2ギヤ18が配設されている。また、外径部シール部40,41の外周にそれぞれ掛けられた環状のシールS8,S9によって第1ポンプ室P1,P2側とのシール性が確保されている。なお、図示を省略するがこのシールS8,S9も保持部材21,24と同様に、一部がそれぞれ対応するサイドプレート14,22に掛けられて、シール部材7とサイドプレート14,22を保持するようになっている。
【0063】
図26に示すように、第1ポンプ8における第1ギヤ15は、内周に内歯部42aが形成されたアウタロータ42と外周に外歯部43aが形成されたインナロータ43とから構成されている。これら両ロータ42,43は偏心した状態で配設されて、内歯部42aと外歯部43aとが歯合部44で噛合されることにより、アウタロータ42とインナロータ43で囲まれたポンプ室45が形成されている。また、駆動軸10における各ポンプ8,9のインナロータ43と対応する位置には駆動軸10の軸心から半径方向に伸びた四角柱形状の駆動凸部46が一体形成されると共に、この駆動凸部46がそれぞれ対応するインナロータ43に切欠形成された凹部43bに係合されている。なお、駆動凸部46の軸方向の寸法はインナロータ43の厚みよりも小さく設定されている。これにより、インナロータ43は駆動凸部46によって駆動軸10に回り止めされるため、インナロータ43の回転駆動によって、アウタロータ42がインナロータ43と同じ回転方向に回転可能になっている。また、アウタロータ42は外径部シール部40の内周に摺動しながら回転する。また、第1サイドプレート14には、図38で示すポンプ室45の対向する位置付近に貫通孔47,48が形成されている。なお、貫通孔47,48は略三日月状の溝形状にしても良い。また、貫通孔47はポンプ室4と第1サイドプレート14との間に形成された空間49を介してポンプ室4の吸入ポート50に連通される一方、貫通孔48はポンプ室4の吐出ポート51に連通されている。一方、第2ポンプ9の第2ギヤ23及び第2サイドプレート22は、第1ポンプ8における第1ギヤ15及び第1サイドプレート14と同様に形成される他、第2サイドプレート22には2つの貫通孔52,53が形成されている。また、貫通孔52はカバー部材6に形成された油路54を介してポンプ室4の吸入ポート55に連通される一方、貫通孔53はカバー部材6と第2サイドプレート22との間に形成された空間56と、カバー部材6に形成された油路57を介してポンプ室4の吐出ポート58に連通されている。
【0064】
そして、図27に示すように、第1サイドプレート14の後面には実施例1と同様の環状の収容部14jと、ここに介装されたシールS5が設けられている。なお、吐出ポート51側が高圧側となるため、収容部14j及びシールS5の形状は実施例1とは内外方向に逆になっている。一方、図26に示すように、第2サイドプレート22の前面には実施例1と同様の環状の収容部22jと、ここに介装されたシールS6が設けられている。
【0065】
[ギヤポンプの作動について]
次に、実施例5のギヤポンプ1の作動について説明する。このように構成されたギヤポンプ1では、図26に示すように、モータの駆動により駆動軸10が図中矢印方向に回転駆動されると、両ポンプ8,9において、インナロータ43を介してアウタロータ42が駆動される。このとき、各ギヤ15,18におけるポンプ室45の容積変化によってポンプ作用が生じ、第1ポンプ8では、低圧の作動油が第1サイドプレート14の貫通孔47を介して吸入ポート50側から導入されて加圧された後、第1サイドプレート14の貫通孔48を介して吐出ポート51側へ出力される。一方、第2ポンプ9では、低圧の作動油が第2サイドプレート22の貫通孔52を介し吸入ポート55側から導入されて加圧された後、第2サイドプレート22の貫通孔53を介して吐出ポート58側へ出力される。このように、実施例5のギヤポンプ1は、両ポンプ8,9において異なる配管系統の作動油の吸入と吐出とが行われ、所謂タンデム式の内接ギヤポンプとして機能する。
【0066】
そして、実施例1と同様に、第1ポンプ8の低圧〜高圧作用時には、第1サイドプレート14の後面において、高圧室H1側の作動油を連通溝33から空隙34に導入することにより、実施例1と同様の作用・効果を得られる。一方、第2ポンプ9の低圧〜高圧作用時には、第2サイドプレート22の前面において、高圧室H1側の作動油を連通溝33から空隙34に導入することにより、実施例1と同様の作用・効果を得られる。
【0067】
以上、実施例を説明してきたが、本発明は上述の実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても、本発明に含まれる。
例えば、実施例1で説明した駆動軸の回転方向を逆方向にすると、作動油が吐出ポート側から吸入ポート側に向かって流れることは言うまでもない。また、実施例5においてギヤポンプをシングル式の内接ギヤポンプとしても良い。
【0068】
さらに、図29に示すように、第1サイドプレートと凹部4cとの隙間は一定とは限らず、段差を有する場合も考えられ、この際、連通溝33を環状に形成して、作動油の圧力作用に関わらず作動油を空隙34に導入させておくようにしても良い。なお、図42において実施例1の構成と対応する符号を付す。
【符号の説明】
【0069】
S5、S6 シール
14j、22j 収容部
30 底部
33 連通溝
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載された複数のホイルシリンダに対してマスタシリンダ内のブレーキ液を吸入してブレーキ液を送るポンプを備えたブレーキ装置であって、
前記ポンプは、
ハウジング内に設けられたポンプ室と、
前記ポンプ室に配置され、電動機の駆動軸により回転駆動されてポンプ作用を行なうギヤと、
前記ポンプ室の壁と前記ギヤとの間に配置され、前記ギヤの側面をシールするサイドプレートと、
前記ハウジング内に設けられたセンタプレートと、
前記ポンプ室は、前記センタプレートを挟んで両側にそれぞれ設けられ、
前記ポンプ室の壁と前記サイドプレートとの間で該サイドプレートに形成された環状の収容部内に配置され、前記ポンプ室の低圧室と高圧室とを液密に区画するシール部材と、
を有し、
前記ギヤは、前記センタプレートと前記サイドプレートとの間に配置され、前記駆動軸により回転駆動される駆動ギヤと、該駆動ギヤに噛合して回転する従動ギヤとからなるタンデム式の外接ギヤタイプを備え、
前記収容部を底部と側壁部で構成すると共に、前記収容部の底部と前記シール部材との間に前記ポンプ作用によって発生する前記高圧室からの圧力を導入し、前記導入された圧力により前記シール部材を前記底部から離間する方向へ変形させる圧力導入手段を設けたことを特徴とするブレーキ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のブレーキ装置において、
前記シール部材は、前記サイドプレートに形成された肩部の先端と前記ハウジングとの間に形成された隙間を封止するよう配置され、前記ギヤの径方向に形成される低圧室と高圧室とを区画し、前記圧力導入手段は前記シール部材を前記高圧室の圧力によって、前記肩部の先端の方向へ変形させることを特徴とするギヤポンプ。
【請求項1】
車両に搭載された複数のホイルシリンダに対してマスタシリンダ内のブレーキ液を吸入してブレーキ液を送るポンプを備えたブレーキ装置であって、
前記ポンプは、
ハウジング内に設けられたポンプ室と、
前記ポンプ室に配置され、電動機の駆動軸により回転駆動されてポンプ作用を行なうギヤと、
前記ポンプ室の壁と前記ギヤとの間に配置され、前記ギヤの側面をシールするサイドプレートと、
前記ハウジング内に設けられたセンタプレートと、
前記ポンプ室は、前記センタプレートを挟んで両側にそれぞれ設けられ、
前記ポンプ室の壁と前記サイドプレートとの間で該サイドプレートに形成された環状の収容部内に配置され、前記ポンプ室の低圧室と高圧室とを液密に区画するシール部材と、
を有し、
前記ギヤは、前記センタプレートと前記サイドプレートとの間に配置され、前記駆動軸により回転駆動される駆動ギヤと、該駆動ギヤに噛合して回転する従動ギヤとからなるタンデム式の外接ギヤタイプを備え、
前記収容部を底部と側壁部で構成すると共に、前記収容部の底部と前記シール部材との間に前記ポンプ作用によって発生する前記高圧室からの圧力を導入し、前記導入された圧力により前記シール部材を前記底部から離間する方向へ変形させる圧力導入手段を設けたことを特徴とするブレーキ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のブレーキ装置において、
前記シール部材は、前記サイドプレートに形成された肩部の先端と前記ハウジングとの間に形成された隙間を封止するよう配置され、前記ギヤの径方向に形成される低圧室と高圧室とを区画し、前記圧力導入手段は前記シール部材を前記高圧室の圧力によって、前記肩部の先端の方向へ変形させることを特徴とするギヤポンプ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【公開番号】特開2012−17743(P2012−17743A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−222973(P2011−222973)
【出願日】平成23年10月7日(2011.10.7)
【分割の表示】特願2009−72938(P2009−72938)の分割
【原出願日】平成21年3月24日(2009.3.24)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月7日(2011.10.7)
【分割の表示】特願2009−72938(P2009−72938)の分割
【原出願日】平成21年3月24日(2009.3.24)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]