説明

クランクケース

【課題】軸受トンネル内で転がり軸受によって、当該クランクケースに取り付けられるカムシャフトを備えるクランクケースにおいて、カムシャフトの容易な取付および製造手間の低減された実施形態を提示する。
【解決手段】軸受トンネル2内で転がり軸受3によってクランクケース1に取り付けられたカムシャフト4を備え、個々の転がり軸受3の少なくとも一部が、カムシャフト4又はクランクケース1に熱的に接続され、クランクケース1の軸受トンネル2が転がり軸受3の領域12において専ら加工される。これにより、カムシャフト4を、一方でより容易に取り付けることができ、他方で上記クランクケース1に容易に据え付けることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸受トンネル内で転がり軸受によって、当該クランクケースに取り付けられるカムシャフトを備えるクランクケースに関するものである。加えて、本発明は、かかるクランクケースを備える燃焼機関に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カムシャフトは、燃焼機関において吸気弁及び排気弁を制御するために用いられるとともに、このために、対応する吸気弁又は排気弁を弁駆動によって作動させるカムを有している。かかるカムシャフトは、通常、滑り軸受によって適切なベアリング台座に取り付けられており、カムシャフトの容易な動作を保証することできるようにするために、ベアリング台座を個々に位置合わせしなければならない。そして次に、ベアリング台座は、特にネジで固定されてシリンダクランクケースと一体になっているシリンダヘッドに接続されるところ、このネジ結合の締め付けの間ずっと、ベアリング台座の個々のベアリングアイ(bearing eyes)の位置合わせを確実に考慮に入れなければならない。通常、カムシャフトを取り付けるために用いられる滑り軸受は、所望の良好なベアリング特性を得ることができるようにするために、正確に規定された潤滑をさらに必要とする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、特にカムシャフトの容易な取付および簡略化した組立の他に、低減された製造手間もまた特徴とするクランクケースの改善された実施形態を提示するという問題を取り扱う。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明によれば、この問題は独立請求項の主題により解決される。有利な実施形態は従属請求項の主題である。
【0005】
本発明は、転がり軸受によって、換言すれば、例えば玉軸受またはニードル軸受によって、比較的容易な作業で、軸受トンネルにおいてカムシャフトを取り付けるとともに、軸受トンネルにおけるカムシャフトの実際の組立に先立って、これらの転がり軸受をカムシャフト及び/又はクランクケースへ熱的に接続するという概念に基づいている。本発明に係るクランクケースの軸受トンネルが、転がり軸受の領域において、専ら加工され又は補修されるという事実を通じて、もはや従来通り全軸受トンネルに亘って加工し又は補修する必要はなく、その後転がり軸受が実際に配置されるこれらの領域で、軸受トンネルが専ら加工され又は補修されることから、クランクケースの製造手間を明らかに減少させることができる。さらに、カムシャフト及び/又はクランクケースへの転がり軸受の熱的接続を通じて、転がり軸受の比較的簡単な固定がもたらされる。クランクケースへの転がり軸受の熱的接続中に、クランクケースが加熱され及び/又は個々の転がり軸受が冷却されるのに対して、カムシャフトへの転がり軸受の熱的接続のため、転がり軸受が加熱され及び/又はカムシャフトが冷却される。原理上は、最初に転がり軸受をカムシャフト、例えばカムシャフトモジュールに熱的に接続するとともに、その後、例えばクランクケースの加熱及び/又はカムシャフトモジュールの冷却を通じて、クランクケースへのこのカムシャフトモジュールの熱的接続を実行することも考えられる。予めこの軸受で用いられる滑り軸受を、本発明に係る転がり軸受に替えれば、自動車における燃料消費量の低減およびCOバランスの改善に反映される可能性が高いカムシャフトを、著しくより容易に取り付けることができる。
【0006】
本発明による解決手法の有利なさらなる開発により、軸受トンネルは、少なくとも1つの半径方向の段差を含むとともに、クランクケースへのカムシャフトの押込み方向に先細りになっている。かかる半径方向の段差により、大きさが異なり且つそれ故に性能も異なる転がり軸受を用いることができ、これにより、例えばチェーンホイール/ベルトプーリーの領域に、比較的大きく且つそれ故に高性能の転がり軸受を配置する一方、チェーンホイール/ベルトプーリーから見て外方に向くカムシャフトの先端に、単なる比較的小さい転がり軸受を配置することが考えられる。少なくとも1つの半径方向の段差およびカムシャフトの押込み方向に先細りになっている軸受トンネルにより、カムシャフトを簡単に軸受トンネル内へ押し込むことができるとともに、そこに固定することができる。ここで、軸受トンネルは、松の木と同様に、押込み方向に先細りになっている。この領域における軸受トンネル内での転がり軸受のアウターレースの正確且つ最適な台座を保証することができるようにするために、クランクケースへのカムシャフトの取り付け中、個々の転がり軸受は、軸受トンネルが予め加工される(例えば補修され、特に磨かれる)これらの位置に正確に位置合わせされる。
【0007】
実質的に、クランクケースは一体式で具体化される。組立手間をさらに減らすことができるようにするために、本発明に係るクランクケースは、一体式で、すなわち、1つの部品または1つの鋳造品から製造され、その結果として、特にクランクケースを製造するための別個の組立工程を省略することができる。ここで、例えばアルミニウムやマグネシウムいった例えば軽金属のみならず、鉄といった材料も用いることが可能である。クランクケースの一体式の実施形態は、適切な砂中子または砂型により実現することができる。
【0008】
本発明による解決手法のさらなる有利な実施形態により、転がり軸受のアウターレースに対して移動でき且つ固定できる止めピンを設けることが可能である。止めピンは、転がり軸受のアウターレースの周方向の溝に任意に係合することができ、それ故に後者(転がり軸受)を軸方向に固定することができる。ここで、止めピンは、例えばグラブねじのように又は単にピンのように設計することができるとともに、転がり軸受のアウターレース及びそれ故に転がり軸受に適切に締結され、その結果として、上記転がり軸受を軸受トンネル内で軸方向に固定することができる。仮に、転がり軸受のアウターレースが外側に開放した周方向の溝をさらに含んでいれば、止めピンは、溝形状に対し相補的に形成された頭部を備えることができ、かかる頭部によって止めピンがアウターレースの周方向の溝に係合し、それ故に転がり軸受を少なくとも軸方向に固定する。転がり軸受は、そのアウターレースが緩みなしに又は単なる一定の小さな緩みを伴って、クランクケースの軸受トンネルに位置合わせされているので、半径方向における固定は恐らく必要ではない。それ故に、例えばメンテナンスのためにカムシャフトを取り外す場合は、止めピンを最初に取り外さなければならないとともに、これにより、上記止めピンによって固定された転がり軸受の軸方向運動が許容される。かかる止めピンはどんな実施形態でも考えられ得る。かかる止めピンは、カムシャフト及びクランクケースのために通常設ける必要はないが、例えば高い軸力を伴うカムシャフト及びクランクケースのために用意しておくことが可能である。
【0009】
本発明のさらなる重要な特徴および利点は、従属請求項から、図面から及び図面を用いた対応する図形記述から得られる。
【0010】
先に述べた及び以下でまだ説明すべき特徴は、規定された個々の組合せにおいてのみならず、本発明の範囲から離れることなく、他の組合せにおいて又はそれ自身によっても用いることができるということが分かるであろう。
【0011】
本発明の好ましい模範的な実施形態は、図面で示されるとともに、以下の説明においてさらに詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】対応するカムシャフトを備える本発明に係るクランクケースの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1によれば、本発明に係るクランクケース1は、転がり軸受3によって軸受トンネル2に取り付けられるカムシャフト4を備えている。一方で複雑でなく且つそれ故により費用効率が高いとともに、他方でカムシャフト4を操作しやすいように取り付けることができ且つそれ故に可能な限り燃費が良くなるように、クランクケース1を生産することができるようにするために、クランクケース1の軸受トンネル2は、転がり軸受3及び転がり軸受3として選択された例えば玉軸受またはニードル軸受の領域12で専ら加工される。カムシャフト4は、既知の方法で当該カムシャフトに設けられた、不図示の燃焼機関の吸気弁及び排気弁を作動させるカム5を備えている。
【0014】
図1によれば、転がり軸受3は、玉軸受として設計されているとともに、カムシャフト4に熱的に接続されている。ここで、転がり軸受3を軸受トンネル2においてクランクケースへ熱的に接続することも考えられることは明らかである。代替案として、ニードル軸受として転がり軸受3を形成することによって、転がり軸受3のアウターレース9をクランクケース1の軸受トンネル2に熱的に接続するとともに、転がり軸受3のインナーレース14をカムシャフト4に熱的に接続することも考えられる。熱的接続により、比較的簡単で且つ長年に亘って考査されてきた接続を、一方の転がり軸受3と、他方のカムシャフト4又はクランクケース1との間で達成することができる。
【0015】
原理上は、最初に転がり軸受3をカムシャフト2、例えばカムシャフトモジュールに熱的に接続するとともに、その後、例えばクランクケース1の加熱及び/又はカムシャフトモジュールの冷却を通じて、クランクケース1へのこのカムシャフトモジュールの熱的接続を実行することも考えられる。ここで、クランクケース1における熱的接続の間、温度均等化に至るまで、カムシャフトモジュールを固定することができる。この場合は、「温度均等化」とは、少なくとも熱的接続結合でカムシャフトモジュールをクランクケースに固定している間はずっと、カムシャフトモジュールの温度とクランクケースの温度とが近づくことを意味する。
【0016】
後で転がり軸受3が設けられるこれらの領域12において、軸受トンネル2が専ら加工され又は補修されるという事実を通じて、領域12の間に位置づけられた領域13を加工されていないままにすることができ、これにより、クランクケース1の製造手間が著しく減少される。
【0017】
図1を見ると、軸受トンネル2が、少なくとも1つの半径方向の段差6を有しているとともに、カムシャフト4の押込み方向7に先細りになっていることは注目すべきことである。この文脈において、これを段差6を有する松の木構造ともいう。これにより、例えば、不図示のチェーンホイール/ベルトプーリーの領域に、比較的大きく且つこれにより高性能の転がり軸受3を設置する一方、チェーンホイール/ベルトプーリーから見て外方に向く、カムシャフト4の長手方向の先端に、単なる比較的小さく且つそれ故に低性能の転がり軸受3を設置するというように、荷重に適合している転がり軸受3を設けることが可能となる。軸受トンネル2へのカムシャフト4の押込みの間、損傷を確実に排除することができるようにするために、半径方向の段差6の端部が、面取りした面8を有するようにすることも可能である。
【0018】
軸受トンネル2におけるカムシャフト4の軸方向の固定のために、転がり軸受3のアウターレース9に対して移動でき且つ固定できる止めピン10を、クランクケース1内に設けることができる。その場合には、外側に向かって開口する周方向の溝を、転がり軸受3のアウターレース9にオプションとしてさらに設けることが可能であり、かかる溝に、例えば溝形状に対し相補的に形成された頭部を備える止めピン10が係合し、これにより、転がり軸受3を軸方向に固定する。図1に示す止めピン10には、かかる頭部が設けられておらず、これにより、この止めピン10は直線的に又は面積的に転がり軸受3のアウターレース9を押す。ここで、止めピン10は、文字通りピンとしてだけではなく、グラブねじとしても形成することができる。止めピン10が、転がり軸受3のアウターレース9に作用せず、転がり軸受3に隣接して、例えば押込み方向7における後者(転がり軸受3)の後方に、押し込まれ又は向きを変えて入り、これにより、要求される軸方向の固定を形成することも明らかに考えられる。
【0019】
上記転がり軸受3が軸方向に動かないようにするために、少なくとも1つの転がり軸受3に対して、2つの隣接したロッキングリング11を設けることができ、かかるロッキングリング11は、例えば同様にカムシャフト4に熱的に接続される。本発明によれば、クランクケース1を、例えば特にアルミニウムのような軽金属から、一体式で或いは一部品で具体化することができ、その場合には、別々に組み立てなければならず且つそれ故に手が込む、予め要求されるベアリング台座を省略することができる。
【0020】
軸受トンネル2の下側を見ると、この領域12では、転がり軸受3のアウターレース9の完全な接触を提供することができるようにするために、軸受トンネル12が加工されることが分かる。隣接して設けられた領域13では、かかる加工は要求されず、その結果として、クランクケース1の加工の労力を全体的に減らすことができる。この場合、加工されない領域13は、本発明の利点を強調することができるようにするために、その粗さに関して誇張して表現される。領域12は、通常、その後の設置位置において、転がり軸受3の周囲を取り囲むように延びているとともに、それ故明らかに軸受トンネル2のあらゆる面で円周状に存在している。
【0021】
本発明に係るクランクケース1および挿入された転がり軸受3により、比較的容易な操作方法且つそれ故に燃費の良い方法で、カムシャフト4を取り付けることができ、加えて、別々に位置合わせせざるを得ない、予め要求されるベアリング台座を省略することができることから、クランクケース1におけるカムシャフト4の組立が簡略化される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸受トンネル(2)内で転がり軸受(3)によって当該クランクケース(1)に取り付けられるカムシャフト(4)を備えるクランクケース(1)であって、
個々の転がり軸受(3)の少なくとも一部が、上記カムシャフト又は上記クランクケース(1)に熱的に接続され、
上記クランクケース(1)の上記軸受トンネル(2)が、上記転がり軸受(3)の領域(12)において専ら加工されることを特徴とするクランクケース。
【請求項2】
請求項1記載のクランクケースにおいて、
上記転がり軸受(3)は、玉軸受又はニードル軸受として設計されていることを特徴とするクランクケース。
【請求項3】
請求項1又は2記載のクランクケースにおいて、
上記軸受トンネル(2)は、少なくとも1つの半径方向の段差(6)を有するとともに、上記カムシャフト(4)の押込み方向(7)に先細りになっていることを特徴とするクランクケース。
【請求項4】
請求項3記載のクランクケースにおいて、
上記クランクケース(1)の異なる半径方向の段差(6)に合う、少なくとも2つの大きさの異なる転がり軸受(3)が設けられていることを特徴とするクランクケース。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つに記載のクランクケースにおいて、
上記クランクケース(1)は、一体式で具体化されることを特徴とするクランクケース。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1つに記載のクランクケースにおいて、
上記クランクケース(1)内で、止めピン(10)が、上記対応する転がり軸受(3)のアウターレース(9)に対して移動可能且つ固定可能であることを特徴とするクランクケース。
【請求項7】
請求項6記載のクランクケースにおいて、
上記止めピン(10)は、上記転がり軸受(3)の上記アウターレース(9)の周方向の溝に係合し、これにより、上記転がり軸受(3)を軸方向に固定していることを特徴とするクランクケース。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1つに記載のクランクケースにおいて、
軸方向に動かなくするために、少なくとも1つの転がり軸受(3)に対して、2つの隣接したロッキングリング(11)が上記カムシャフト(4)上に設けられていることを特徴とするクランクケース。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1つに記載のクランクケース(1)を備える燃焼機関。
【請求項10】
請求項9記載の燃焼機関のクランクケース(1)におけるカムシャフト(2)の組立方法であって、
最初に上記転がり軸受(3)が上記カムシャフト(2)に熱的に接続されてカムシャフトモジュールを作り、
上記カムシャフトモジュールが、例えば上記クランクケース(1)の加熱及び/又は上記カムシャフトモジュールの冷却によって、上記クランクケース(1)に熱的に接続されることを特徴とするカムシャフトの組立方法。
【請求項11】
請求項10記載のカムシャフトの組立方法において、
上記カムシャフトモジュールは、熱的接続の間、温度均等化に至るまで上記クランクケース(1)に固定されることを特徴とする方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−44332(P2013−44332A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−185221(P2012−185221)
【出願日】平成24年8月24日(2012.8.24)
【出願人】(506292974)マーレ インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (186)
【氏名又は名称原語表記】MAHLE International GmbH
【住所又は居所原語表記】Pragstrasse 26−46, D−70376 Stuttgart, Germany
【Fターム(参考)】