説明

クランク軸等用軸受

【課題】エンジンのクランク軸等の支持に際し、摩擦力の軽減を図ることができるとともに、良好な組付け性を得ることができるクランク軸等用軸受を提供すること。
【解決手段】支持する軸の外周面に面する軸受側面4を有する半円状の二つの分割要素(アッパベアリング2・ロワベアリング3)を備えるクランク軸等用軸受1であって、前記各分割要素を、多数のボール6と、これらのボール6を、軸受側面4から一部突出させて前記外周面に接する接触状態と、軸受側面4に対して埋没させて前記外周面に接しない非接触状態とに循環可能に保持する環状の経路であるボール保持部7と、を備える構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンにおけるクランク軸の支持に用いて好適な軸受の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、エンジンにおけるクランク軸の支持に際しては、軸受としてメタルベアリング(軸受メタル等とも称される。)が用いられている。かかるメタルベアリングとしては、クランク軸の構造上、組付けが考慮され、それぞれ半円状のアッパベアリング及びロワベアリングの組合わせからなる上下二分割構成のものが用いられている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
このようなメタルベアリングは、クランク軸側に対して面接触となるため、点接触や線接触となる一般的なボールベアリングやニードルベアリング等の転がり軸受と比較して摩擦抵抗(摩擦力)が大きい。
しかし、ボールベアリング等の転がり軸受は、一般にリング状の構成となるため、クランク軸の構造上使用することができない。つまり、例えば多気筒エンジンのクランク軸が気筒間で支持される構成においては、その軸方向中途部分に位置する支持部(軸受部)に対し、リング状の軸受をクランク軸の両端側から装入することができない。
【0004】
そこで、クランク軸の中途部分等のようなリング状の軸受が軸端側から装入することができない部分の支持に際し、摩擦抵抗の比較的小さい転がり軸受を用いるための技術として、例えば、特許文献2に示されているような分割形の転がり軸受がある。
特許文献2には、分割形の転がり軸受として、半円状の二つの部分に分割形成された外輪と、この外輪の内周面とクランク軸のジャーナル部との間に介装される多数のニードルとを有するニードル軸受が示されている。つまり、本文献に開示されているニードル軸受は、分割形成された外輪の内周面を外側の軌道面とし、クランク軸のジャーナル部の外周面を内側の軌道面とし、これら軌道面の間に多数のニードルを介装している。そして、この介装される多数のニードルは、径方向に分割形成された二つの保持器によって保持される。
【0005】
しかし、特許文献2に示されている分割形のニードル軸受は、その構成上、クランク軸の軸受部に対する組付け性が良くない。
すなわち、特許文献2に示されている構成のニードル軸受は、その組付けに際し、クランク軸のジャーナル部に対して前述した保持器によって保持された多数のニードルが、分割形成された外輪の各半部によって挟持される。つまり、このニードル軸受の組付けに際しては、分割された状態の外輪に対して、多数のニードルをクランク軸のジャーナル部に保持しておく必要があり、良好な組付け性を得ることができない。
【0006】
他方、エンジンにおいてクランク軸の軸受部における摩擦力の軽減を図ることは、燃費の向上やCO排出の削減につながる。
【特許文献1】特開2005−69284号公報
【特許文献2】特開2003−214442号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記のような従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、その解決しようとする課題は、エンジンのクランク軸等の支持に際し、摩擦力の軽減を図ることができるとともに、良好な組付け性を得ることができるクランク軸等用軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0009】
すなわち、請求項1においては、支持する軸の外周面に面する軸受側面を有する半円状の二つの分割要素を備えるクランク軸等用軸受であって、前記各分割要素は、多数のボールと、これらのボールを、前記軸受側面から一部突出させて前記外周面に接する接触状態と、前記軸受側面に対して埋没させて前記外周面に接しない非接触状態とに循環可能に保持する環状の経路であるボール保持部と、を備えるものである。
【0010】
請求項2においては、支持する軸の外周面に面する軸受側面を有する半円状の二つの分割要素を備えるクランク軸等用軸受であって、前記各分割要素は、前記軸受側面に設けられボールを前記軸受側面から一部突出させて前記外周面に接する接触状態とする溝部と、該溝部とともに環状の経路を形成しボールを前記軸受側面に対して埋没させて前記外周面に接しない非接触状態とする孔部と、を有するボール保持部を備え、該ボール保持部により、多数のボールを循環可能に保持するものである。
【0011】
請求項3においては、前記各分割要素は、前記ボール保持部を複数備え、これらのボール保持部が、前記支持する軸の軸方向に対称となるように設けられるものである。
【0012】
請求項4においては、前記複数のボール保持部のうち少なくとも対称配置される一対は、前記接触状態となるボールが、前記軸方向端部に配されるように設けられるものである。
【0013】
請求項5においては、前記軸受側面に開口するとともに前記ボール保持部に連通する潤滑油供給溝を備えるものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
すなわち、本発明によれば、エンジンのクランク軸等の支持に際し、摩擦力の軽減を図ることができるとともに、良好な組付け性を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に、発明の実施の形態を説明する。
本発明に係る軸受は、エンジンにおけるクランク軸の支持に際して使用されるいわゆるクランクベアリングとして好適に用いられるものであり、半円状の二つの分割要素を備える。
すなわち、一般に、例えば自動車用の多気筒エンジンにおいては、クランク軸支持構造として、クランクキャップ(ベアリングキャップ等とも称される)によってシリンダブロックとの間に軸受部が構成され、この軸受部にてクランクベアリングを介してクランク軸が支持される。具体的には、シリンダブロックにおいて気筒間に設けられる隔壁(バルクヘッド等と称される)に対してクランクキャップがボルト等により固定されることで、隔壁及びクランクキャップそれぞれに形成される半円状の軸受面同士によって軸受部としての軸孔が形成される。この軸孔に、軸受面に沿う形状つまり半円状の二つの分割要素からなるクランクベアリングを介して、クランク軸のジャーナル部(クランクジャーナル)が支持される。
【0016】
図1に示すように、本実施形態に係る軸受1は、支持する軸の外周面(以下「軸側外周面」という。)に面する軸受側面4を有する半円状の二つの分割要素として、アッパベアリング2と、ロワベアリング3とを備える。
すなわち、本実施形態に係る軸受1が用いられてクランク軸のジャーナル部が支持される場合は、ジャーナル部の上側、つまりシリンダブロック側に形成される半円状の軸受面とジャーナル部との間にアッパベアリング2が介装され、ジャーナル部の下側、つまりクランクキャップ側に形成される半円状の軸受面とジャーナル部との間にロワベアリング3が介装される。
なお、アッパベアリング2とロワベアリング3とは互いに略同じ構成を備えるため、以下においては、共通する内容の説明に際しては、アッパベアリング2及びロワベアリング3それぞれを「分割要素」と称することとする。
【0017】
図1に示すように、分割要素は、鉄等の金属素材等により構成される厚板(例えば厚さ5〜6mm程度)がU字状に湾曲されることにより形成される、半円状(半円筒状)の形状を有する板状部材を本体5とする。
したがって、本体5においては、半円状についてその円の径方向内側の面が、軸側外周面に面する軸受側面4となり、同じく径方向外側の面(背面)となる外周面5aが、アッパベアリング2についてはシリンダブロック、ロワベアリング3についてはクランクキャップ等にそれぞれ形成される半円状の軸受面に接する面となる。
そして、本体5の湾曲方向両端部側の面が合わせ面5bとなり、アッパベアリング2とロワベアリング3とは、互いの合わせ面5b同士をそれぞれ衝合させた状態で、対向する軸受側面4同士により、支持する軸の支持部分を貫通させる円筒状の軸孔を形成する。
【0018】
図1及び図2に示すように、各分割要素は、多数のボール6と、これらのボール6を、軸受側面4から一部突出させて軸側外周面に接する接触状態(以下単に「接触状態」という。)と、軸受側面4に対して埋没させて軸側外周面に接しない非接触状態(以下単に「非接触状態」という。)とに循環可能に保持する環状の経路であるボール保持部7とを備える。
【0019】
ボール6は、鉄等の金属素材等により構成される球体であり、その大きさ(径)は、本体5の大きさや厚さ(板厚)等により適宜設定される。
ボール保持部7は、軸受側面4に設けられボール6を接触状態(図中6x参照)とする溝部8と、この溝部8とともに環状の経路を形成しボール6を非接触状態(図中6y参照)とする孔部9とを有する。
そして、本実施形態に係る軸受1は、ボール保持部7により、多数のボール6を循環可能に保持する。
【0020】
本実施形態に係る分割要素は、一対のボール保持部7を備え、各ボール保持部7を構成する溝部8及び孔部9は、互いの接続部分を除くその大部分が、いずれも本体5の湾曲形状に沿うように円弧状に(円周方向に)形成される。
【0021】
溝部8は、その断面形状(溝断面形状)が、ボール6の外形である円形状と略同じ大きさの円形状の一部形状となるように、軸受側面4に開口するように形成される。溝部8は、ボール6をその一部が軸受側面4から突出した状態(図中6x参照)で保持するように形成される。つまり、図2に示すように、溝部8は、その軸受側面4に対する開口について所定の幅D1を有し、その開口の幅D1が、ボール6の直径D2よりも小さくなるように形成される。これにより、溝部8により保持されるボール6は、軸受側面4から所定の量突出した状態となる。言い換えると、溝部8により保持されるボール6は、その所定の量の部分を突出させた状態で、軸受側面4の形状に沿うように配される。
【0022】
孔部9は、その断面形状(孔断面形状)が、ボール6の外形である円形状と略同じ大きさの円形状となるように、外周面5a側付近において本体5内を貫通するトンネル状に形成される。孔部9は、ボール6を軸受側面4に対して埋没した状態(軸受側面4から突出しない状態)(図中6y参照)で保持するように形成される。
【0023】
これら溝部8と孔部9とが環状に接続され、ボール6を接触状態と非接触状態とに循環可能に保持する環状の経路であるボール保持部7が構成される。
すなわち、本体5内を貫通するトンネル状に形成される孔部9は、その両端側が軸受側面4に開口するとともに、その両端開口部が溝部8と連続する。これにより、溝部8と孔部9とが環状に接続されたボール保持部7が形成される。そして、ボール保持部7においては、溝部8に保持されるボール6が接触状態のボール6xとなり、孔部9に保持されるボール6が非接触状態のボール6yとなる。これら各状態となるボール6が、ボール保持部7全体において滑らかに移動可能となるように、溝部8と孔部9とが形成される。つまり、溝部8及び孔部9は、その断面形状や互いの接続部の形状等が、ボール保持部7におけるボール6の循環の妨げにならないように形成される。
【0024】
このように、環状の経路として構成されるボール保持部7においては、ボール6が、隣り合うボール6同士が接する状態となるように保持される。
ボール保持部7に対しては、本体5の外周面5a側からボール6が装入される。すなわち、ボール保持部7を構成する孔部9には、少なくともボール6一個が通過可能な開口部となる装入口10が、外周面5a側に開口するように設けられている(図2参照)。つまり、装入口10は、孔部9と連通するとともに本体5の外周面5a側に開口し、この装入口10からボール6が装入されることにより、ボール保持部7内に多数のボール6が互いに隣接する状態となるように詰め込まれる。
【0025】
本体5の外周面5a側には、装入口10を塞ぐための蓋部材11が装着される。外周面5aには、蓋部材11を装着するための凹部5cが形成される(図2参照)。つまり、蓋部材11は外周面5aに沿う湾曲形状を有する板状部材により構成される一方、凹部5cはその蓋部材11が嵌合可能な大きさ及び形状に形成され、蓋部材11が、凹部5cに対して嵌合した状態で本体5に装着される。
凹部5cの深さ及び蓋部材11の厚さ(板厚)は、蓋部材11の本体5に装着された状態で外側となる外側面11aが、本体5の外周面5aと同一面を形成するようにあるいは外周面5aより内側に位置するように設定される。
【0026】
蓋部材11の本体5に対する固定方法は特に限定されるものではないが、本実施形態においては、蓋部材11は、本体5に対してボルト等の締結具12が用いられて固定される。
すなわち、本体5の外周面5aの所定の位置には、締結具12が螺挿される締結穴5dが形成される一方、蓋部材11における前記締結穴5dに対応する位置には、貫通孔11bが形成される。そして、蓋部材11が本体5に装着された状態で、締結具12が貫通孔11bを介して締結穴5dに螺挿されることで、蓋部材11が本体5に固定される。ここで、締結穴5dに螺挿された状態の締結具12が、外周面5aから突出することのないように、貫通孔11bの形状の設定及び締結具12の選定が行われる。
なお、蓋部材11の本体5に対する他の固定方法としては、凹部5cに対する蓋部材11の圧入や溶接等が考えられる。
【0027】
このように、蓋部材11が本体5に装着されることにより、ボール保持部7を構成する孔部9に設けられる装入口10が、蓋部材11の本体5に装着された状態で内側となる内側面11cにより覆われた状態となる。
なお、ボール6がボール保持部7に装入されるための装入口10については、孔部9に対して略全体にわたって外周面5a側に開口するように形成されてもよい。つまりこの場合、ボール保持部7を構成する孔部9の大部分は、本体5側において外周面5a側に開口するように形成される溝部と、蓋部材11の内側面11cとにより形成されることとなる。
【0028】
以上の構成を備える軸受1により、アッパベアリング2及びロワベアリング3が互いの合わせ面5b同士が衝合した状態で、クランク軸等の軸が支持された状態となる。この軸受1による軸支持状態においては、アッパベアリング2及びロワベアリング3それぞれにおいて保持されるボール6(接触状態のボール6x)が、軸側外周面に接触した状態となる。
そして、軸受1により支持される軸の回転にともない、ボール6の転動及びボール保持部7内における接触状態・非接触状態の循環(ボール保持部7内の移動)が行われる。
【0029】
このように、軸受1を構成する半円状の分割要素となるアッパベアリング2及びロワベアリング3それぞれを、多数のボール6とこれらのボール6を接触状態と非接触状態とに循環可能に保持するボール保持部7とを備える構成とすることにより、エンジンのクランク軸等の支持に際し、摩擦力の軽減を図ることができるとともに、良好な組付け性を得ることができる。
【0030】
すなわち、軸側外周面に対する軸受1の接触が、ボール6を介する点接触となるので、軸側外周面に対して面接触となる従来のメタルベアリングと比較して、通常のボールベアリング等の転がり軸受並の低摩擦が実現できる。このように摩擦力の軽減が図れることにより、エンジンにおける燃費の向上やCO排出の削減が期待できる。
また、軸受1の組付けに際しては、その組付け前の半割り状態、つまりアッパベアリング2及びロワベアリング3の各分割要素において、ボール6が保持された状態となるので、ボール6を保持するための部材等を別途用いる必要がなく、軸受1は組付け性に優れたものとなる。
【0031】
なお、以上説明した本実施形態に係る軸受1においては、ボール保持部7を構成する溝部8が、軸受1の支持する軸の軸方向(以下単に「軸方向」という。)外側に配され、同じく孔部9が、軸方向内側に配されるように、各分割要素が有する一対のボール保持部7が配設されているが、これに限定されるものではない。
すなわち、各分割要素が有する一対のボール保持部7は、例えば、溝部8が軸方向内側に配され、孔部9が軸方向外側に配されるような構成であったり、溝部8と孔部9とが軸方向で同じ位置に配されるような構成であったりしてもよい。
【0032】
また、本実施形態に係る軸受1においては、分割要素であるアッパベアリング2及びロワベアリング3それぞれが、一対(二列)のボール保持部7を備える構成であるが、これに限定されるものではない。
すなわち、各分割要素が、ボール保持部7を一個(一列)あるいは三個(三列)以上有する構成であってもよい。また、軸受1が支持する軸から受ける荷重等によって、アッパベアリング2とロワベアリング3とで異なる個数のボール保持部7が備えられる構成であってもよい。
【0033】
ここで、軸受1において、分割要素がボール保持部7を三個以上有する構成は、本体5の厚さ(板厚)やボール6の大きさ(径)等に応じて、適宜次のようなボール保持部7の配設方法を用いることで実現できる。
すなわち、分割要素がボール保持部7を三個以上有する構成においては、各ボール保持部7を、その孔部9が本体5の内部において本体5の厚さ方向等に互いに立体的に交差するように配設する。これにより、複数のボール保持部7を互いに干渉しないように配設することが可能となる。
【0034】
また、軸受1においては、各分割要素が、ボール保持部7を複数(本実施形態においては二個)備え、これらのボール保持部7が、軸方向に対称となるように設けられることが好ましい。
分割要素において軸方向とは、半円筒状である分割要素について筒軸方向(筒の高さ方向)となる。この軸方向に対称となるように、分割要素が備える複数のボール保持部7が配設される。
【0035】
具体的には、図2における左右方向が軸方向となり、図2に示すように、分割要素において軸方向中心位置における軸方向に対して垂直方向の線C1について線対称となるように、複数のボール保持部7が配設される。言い換えると、図2において線C1を中心として左右対称となるように、複数のボール保持部7が配設される。
本実施形態では、分割要素において、前述したように溝部8が軸方向外側、孔部9が軸方向内側にそれぞれ配されるように、一対のボール保持部7が軸方向に対称となるように配設される。
【0036】
このように、分割要素においてボール保持部7を軸方向に対称となるように設けることで、各分割要素において、ボール保持部7により保持されるボール6(接触状態のボール6x)が軸側外周面に接する位置が、軸方向に対称となるので、軸受1の支持する軸に対する片当たりや傾きを防止することができる。
【0037】
また、軸受1においては、複数のボール保持部7のうち少なくとも対称配置される一対は、接触状態となるボール6(6x)が、軸方向端部に配されるように設けられることが好ましい。
つまりこの場合、接触状態となるボール6を保持する溝部8が、軸方向両端部に配されるように、ボール保持部7が設けられる。
【0038】
本実施形態では、分割要素において、前述したように溝部8が軸方向外側、孔部9が軸方向内側にそれぞれ配されるように、一対のボール保持部7が配設されることにより、溝部8が軸方向端部に設けられている。これにより、溝部8によって保持される接触状態のボール6xが、軸方向両端部に配される。
また、本実施形態では、軸方向端部に配される接触状態のボール6x、つまり各ボール保持部7において軸方向端部に配される溝部8に保持されるボール6は、溝部8と孔部9との接続部分に位置する状態のものを除く大部分が軸方向の位置を同じくするように(円周方向に(図2において上下方向に沿うように))配されている。
【0039】
このように、接触状態のボール6xが軸方向端部に配されるようにボール保持部7を配設することにより、分割要素において複数のボール保持部7が軸方向に対称配置される構成において、軸受1の支持する軸に対する片当たりや傾きを効果的に防止することができる。
【0040】
また、軸受1は、軸受側面4に開口するとともにボール保持部7に連通する潤滑油供給溝13を備える。
本実施形態においては、潤滑油供給溝13は、軸受側面4の軸方向中央部において、円周方向に延設されている。つまり、前述したように、軸方向に対称配置される一対のボール保持部7の中間部において、潤滑油供給溝13が円周方向に設けられる。本実施形態では、潤滑油供給溝13は、円周方向中央部分から、その両端部が分割要素の高さ(図2における本体5の上下方向の長さ)に対して略半分の高さ位置となるように形成されている。
【0041】
潤滑油供給溝13は、各ボール保持部7に連通する。本実施形態では、潤滑油供給溝13に開口する連通路14を介して潤滑油供給溝13と孔部9とが連通されることにより、潤滑油供給溝13がボール保持部7に連通する。
つまり、連通路14は、潤滑油供給溝13から一対のボール保持部7における各孔部9に対して穿設されること等により設けられ、円周方向に所定の間隔を隔ててあるいは連続的に形成される。
【0042】
なお、本実施形態に係る軸受1においては、円周方向に延設される潤滑油供給溝13が軸受側面4の軸方向中央部に一つ設けられる構成であるが、ボール保持部7によるボール6の保持機能(ボール6の循環)が確保されれば、潤滑油供給溝13の大きさや形状、及びその設ける個数や位置は特に限定されるものではない。
また、本実施形態に係る軸受1においては、潤滑油供給溝13は、連通路14を介してボール保持部7の孔部9と連通する構成であるが、例えば連通路として軸受側面4に溝部を形成すること等により、潤滑油供給溝13をボール保持部7の溝部8と連通させる構成であってもよい。
【0043】
このように、軸受1において、軸受側面4に開口するとともにボール保持部7に連通する潤滑油供給溝13を設けることにより、例えばクランク軸内部に設けられた潤滑油供給ライン等のような所定の潤滑油経路を介して軸受1による軸受部に供給される潤滑油を、ボール保持部7内に効率的に供給することができる。つまり、軸受1による軸受部に供給される潤滑油に対し、潤滑油供給溝13を潤滑油溜まりとして機能させることができるとともに、連通路14を介して潤滑油をボール保持部7内に直接的に供給することができる。なお、本実施形態のように、潤滑油供給溝13が連通路14を介して孔部9に連通する構成においても、連通路14を介して供給された潤滑油は、ボール6の循環(移動)によって引き込まれてボール保持部7に対して全体的に供給されることとなる。
これにより、軸受1における焼付き等を防止することができ、軸受1の長寿命化を図ることができる。
【0044】
続いて、本実施形態に係る軸受1の使用例について説明する。以下では、図3に示すように、本実施形態に係る軸受1が、自動車等に搭載される直列四気筒エンジンのクランク軸20の軸受部に用いられる場合を例に説明する。
【0045】
図3に示すように、本例に係るシリンダブロック21は、一列に並んだ状態となる四個のシリンダボア(シリンダ)22を有する。シリンダボア22は、シリンダブロック21においてシリンダヘッド(図示略)が組み付けられるシリンダヘッド取付面21aに開口する。シリンダボア22には、ピストン23が摺動可能に内装される。ピストン23の上方であってシリンダボア22の上側(シリンダヘッド側)には燃焼室が形成される。
【0046】
クランク軸20は、その軸方向(以下「クランク軸方向」という。)がシリンダボア22の直列方向(図3における左右方向)となるように、シリンダブロック21に対して回転可能に支持される。クランク軸20は、そのジャーナル部20aが、クランク軸方向における各気筒の両端側において支承されることにより、シリンダブロック21に対して支持される。つまり、本例に係るクランク軸20は、五箇所のジャーナル部20aを有する。
【0047】
具体的には、シリンダブロック21におけるシリンダボア22の下側(シリンダヘッド取付面21a側と反対側)には、クランク軸方向両端側及び気筒間(クランク軸方向における各気筒の両端側)に、隔壁(バルクヘッド)21bが設けられる。隔壁21bの下端部には、クランク軸方向視で半円状となる軸受面21cが形成される。
隔壁21bには、クランクキャップ(ベアリングキャップ)24がボルト等の締結具25によって固定され取り付けられる。クランクキャップ24は、隔壁21bの軸受面21cとともに軸孔を形成する半円状の軸受面24cを有する。つまり、隔壁21b及びクランクキャップ24それぞれに形成される半円状の軸受面21c・24c同士によって形成される軸孔に、クランク軸20のジャーナル部20aが支承される。
このように、クランク軸20は、シリンダブロック21に対してジャーナル部20aを介して五箇所の軸受部によって支持される。
【0048】
一方、クランク軸20とピストン23とは、コンロッド26を介して連結される。コンロッド26のクランク軸20に対する連結は、クランク軸20においてジャーナル部20aの軸心に対して偏心した位置に設けられるピン部20bが、コンロッド26の一端側に支承されることにより行われる。つまり、本例に係るクランク軸20は、四箇所のピン部20bを有し、このピン部20bが、コンロッド26の一端部に形成される軸孔(軸受面)26cに支承される。
このように、クランク軸20に対しては、ピストン23を連結するためのコンロッド26が、ピン部20bを介して四箇所の軸受部において連結される。かかる構成により、ピストン23がシリンダボア22内を往復摺動することでクランク軸20が回転する。
【0049】
以上の構成を有する本例に係るエンジンにおいて、クランク軸20のシリンダブロック21に対する五箇所の軸受部に、本実施形態に係る軸受1が用いられる。
すなわち、隔壁21bの軸受面21cと軸側外周面(ジャーナル部20aの上側外周面)との間にアッパベアリング2が介装され、クランクキャップ24の軸受面24cと軸側外周面(ジャーナル部20aの下側外周面)との間にロワベアリング3が介装された状態となる。
【0050】
また、クランク軸20のコンロッド26に対する四箇所の軸受部においても、本実施形態に係る軸受1を用いることができる。
この場合、クランク軸20のコンロッド26に対する軸受部においては、コンロッド26の軸孔26cを形成する上側半部の軸受面と軸側外周面(ピン部20bの上側外周面)との間にアッパベアリング2が介装され、同じく軸孔26cの下側半部の軸受面と軸側外周面(ピン部20bの下側外周面)との間にロワベアリング3が介装された状態となる。
なお、クランク軸20におけるジャーナル部20a及びピン部20bそれぞれの軸受部については、各部の大きさ(径や軸方向の長さ)に対応する大きさを有する軸受1(アッパベアリング2及びロワベアリング3)が用いられる。
【0051】
このように、本例に係るエンジンにおいては、クランク軸20に対し、シリンダブロック21に対する五箇所の軸受部と、ピストン23(コンロッド26)に対する四箇所の軸受部との、計九箇所の軸受部に軸受1を用いることができる。
これにより、直列四気筒エンジンにおけるクランク軸20の支持及びコンロッド26との連結に際し、その各軸受部における摩擦力を大幅に低減することができる。
【0052】
ここで、クランク軸20の各軸受部において、クランク軸20から受ける荷重等により、軸受1におけるボール保持部7の数(列)を調整することができる。ボール保持部7の数の調整は、例えば次のような態様で行われる。
【0053】
すなわち、クランク軸20のシリンダブロック21に対する軸受部については、支持するクランク軸20の部分を両側に有することとなる、気筒間に位置する軸受部が、支持するクランク軸20の部分を片側に有することとなる、シリンダブロック21のクランク軸方向両端側に位置する軸受部に対して比較的高い荷重を受けることとなる。このことに対しては、気筒間に位置する軸受部に用いられる軸受1が備えるボール保持部7の数が、クランク軸方向両端側に位置する軸受部に用いられる軸受1のそれよりも多く設定される。
【0054】
また、シリンダボア22内を摺動するピストン23は、前記燃焼室における爆発によってその下がる方向(図3における下方向)に押される。このため、クランク軸20のコンロッド26に対する軸受部を含む各軸受においては、ロワベアリング3が、アッパベアリング2に対して比較的高い荷重を受けることとなる。このことに対しては、ロワベアリング3が備えるボール保持部7の数が、アッパベアリング2が備えるそれよりも多く設定される。
これら各軸受部において軸受1が備えることとなるボール保持部7は、例えば二〜五列の範囲で調整され設定される。
【0055】
次に、本例に係るエンジンにおけるクランク軸20の各軸受部における軸受1に対する潤滑油の供給について説明する。
クランク軸20の各軸受部における軸受1に対する潤滑油の供給に際しては、クランク軸20の内部に設けられる潤滑油供給ラインや、シリンダブロック21に形成される潤滑油供給ライン等が用いられる。
【0056】
クランク軸20の内部に設けられる潤滑油供給ラインが用いられる場合は、その潤滑油供給ラインが、クランク軸20の軸受部となる部分(ジャーナル部20aやピン部20b)の外周面(軸側外周面)に開口される。この開口を介して、軸受1(各分割要素の軸受側面4)に対して潤滑油が供給される。軸受1に供給される潤滑油は、前述したように、軸受1が備える潤滑油供給溝13等によってボール保持部7内や軸受側面4を潤滑する。
【0057】
また、シリンダブロック21に形成される潤滑油供給ラインが用いられる場合は、クランク軸20のシリンダブロック21に対する軸受部において、隔壁21bを介して潤滑油が供給される。つまりこの場合、潤滑油供給ラインは、隔壁21bの軸受面21cに対して開口するように設けられる。これに対し、軸受1においては、隔壁21bの軸受面21cに接することとなるアッパベアリング2の外周面5aに、ボール保持部7と連通する孔部が形成され、その孔部を介すること等により、シリンダブロック21に形成される潤滑油供給ラインからの潤滑油が、ボール保持部7内や軸受側面4に供給されることとなる。
【0058】
以上の実施形態においては、軸受1が、エンジンにおけるクランク軸の支持に用いられる場合について説明したが、本発明に係る軸受は、クランク軸の支持のほか、エンジンにおいてクランク軸の回転を機関バルブを開閉させる動弁機構に伝達させるためのカム軸の支持等に用いることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の一実施形態に係る軸受の全体構成を示す斜視図。
【図2】図1におけるA−A断面図。
【図3】本発明に係る軸受の使用例を示すクランク軸の支持状態を示す図。
【符号の説明】
【0060】
1 軸受
2 アッパベアリング(分割要素)
3 ロワベアリング(分割要素)
4 軸受側面
6 ボール
7 ボール保持部
8 溝部
9 孔部
13 潤滑油供給溝
20 クランク軸
20a ジャーナル部
20b ピン部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持する軸の外周面に面する軸受側面を有する半円状の二つの分割要素を備えるクランク軸等用軸受であって、
前記各分割要素は、
多数のボールと、
これらのボールを、前記軸受側面から一部突出させて前記外周面に接する接触状態と、前記軸受側面に対して埋没させて前記外周面に接しない非接触状態とに循環可能に保持する環状の経路であるボール保持部と、
を備えることを特徴とするクランク軸等用軸受。
【請求項2】
支持する軸の外周面に面する軸受側面を有する半円状の二つの分割要素を備えるクランク軸等用軸受であって、
前記各分割要素は、
前記軸受側面に設けられボールを前記軸受側面から一部突出させて前記外周面に接する接触状態とする溝部と、
該溝部とともに環状の経路を形成しボールを前記軸受側面に対して埋没させて前記外周面に接しない非接触状態とする孔部と、を有するボール保持部を備え、
該ボール保持部により、多数のボールを循環可能に保持することを特徴とするクランク軸等用軸受。
【請求項3】
前記各分割要素は、前記ボール保持部を複数備え、
これらのボール保持部が、前記支持する軸の軸方向に対称となるように設けられることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のクランク軸等用軸受。
【請求項4】
前記複数のボール保持部のうち少なくとも対称配置される一対は、前記接触状態となるボールが、前記軸方向端部に配されるように設けられることを特徴とする請求項3に記載のクランク軸等用軸受。
【請求項5】
前記軸受側面に開口するとともに前記ボール保持部に連通する潤滑油供給溝を備えることを特徴とする請求項1〜4のいずれかの項に記載のクランク軸等用軸受。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2008−121747(P2008−121747A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−304386(P2006−304386)
【出願日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】