説明

クルクマロンガ抽出物からテトラヒドロキシクルクミン濃縮フラクションおよびテトラヒドロテトラヒドロキシクルクミン濃縮フラクションを製造するプロセス

【解決課題】
テトラヒドロキシクルクミン、デメチルクルクミン、デメチルモノデメトキシクルクミン、およびビスデメトキシクルクミンを含有するテトラヒドロキシクルクミン濃縮フラクション、ならびにそれらの無色テトラヒドロ誘導体の製造プロセス。
【解決手段】プロセスは、クルクマ種由来のウコンの有機溶媒抽出物から得られる天然のクルクミンの脱メチル化からなる。このテトラヒドロキシクルクミン濃縮フラクションを水素化して無色テトラヒドロテトラヒドロキシクルクミン濃縮フラクションを得る。テトラヒドロキシクルクミンおよび無色テトラヒドロテトラヒドロキシクルクミンの濃縮フラクションは、強力な抗酸化性を示し、炎症を抑える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テトラヒドロキシクルクミンおよびそのテトラヒドロ誘導体である、テトラヒドロテトラヒドロキシクルクミンの濃縮フラクションを製造するプロセスに関する。これらの濃縮フラクションは、強力な抗酸化作用を示し、炎症を減少させる。本発明の生成物は、食品添加物、栄養補助食品用途、または薬用化粧品用途に適している。
【背景技術】
【0002】
フリーラジカルは、癌、アルツハイマー病、パーキンソン病、および循環器疾患のような広範囲の病理疾患の開始および進行で大きな役割を果たす。食品産業では、フリーラジカルは、加工および貯蔵の間の食品劣化の原因であることがわかっている。このことを考慮して、食品への抗酸化剤添加および生体系への抗酸化剤補充によりフリーラジカルを捕捉することに大きな注目が集められてきた。抗酸化化合物は、2種類に分類することができる。フェノール類とβ-ジケトン類である。フェノール化合物は、まず水素原子供与体として作用し、それによりラジカル連鎖反応の伝播を阻害することにより、その抗酸化活性を発揮する。フェノール類の抗酸化能は、フェノール性ヒドロキシル基の数と配置、ならびに芳香環のその他の置換基の性質に依存する。天然の産物には、クルクミノイドなど同一分子にフェノール基およびβ-ジケトン基の両方を有し、したがって強力な抗酸化剤になるものがほとんどない。フェノール性ジアリールヘプタノイドであるクルクミンは、ウコン(クルクマロンガ)の特徴的な黄色構成成分であり、栄養補助食品、食品、および化粧品に広く使われている。図1は、クルクミン類、すなわちクルクミン、モノデメトキシクルクミン、ビスデメトキシクルクミン、テトラヒドロキシクルクミン(本明細書中、C、MDC、BDC、TCと示す)の化学構造を示す。これらの化合物は、抗酸化、抗炎症、抗癌、アルツハイマー、および抗ウイルス性の性質を保持すると報告された。4種のクルクミン全ての中で、TCは、最も高い抗癌、抗酸化、および抗炎症活性を示す。しかし、天然のクルクミン混合物は、原材料に依存して、非常に低濃度(0−5%)でしかTCを含有しない。
【0003】
現在、非ステロイド房の植物ベースの抗炎症剤へと需要が大きく動いている。5-リポキシゲナーゼは、アラキドン酸からロイコトリエンおよび5(S)-HETE(炎症、アレルギー、および閉塞プロセスの重要なメディエータ)を生合成するための重要な酵素である。5-リポキシゲナーゼは、喘息、関節炎、潰瘍性大腸炎などの腸疾患、ならびに発作および虚血などの循環障害をはじめとする様々な炎症および過敏性によるヒトの疾患に対処する可能性を有する阻害剤を同定するための標的酵素である。
【0004】
クルクミノイドに毒性がなく安全性が証明されており、また上記の問題を解決するテトラヒドロキシクルクミン濃縮フラクションがないことから、炎症性疾患、フリーラジカル媒介疾患を処置する安全な健康補助食品、ならびに栄養補助食品用途および化粧品用途として濃縮テトラヒドロキシクルクミンを提供することが本発明の目的である。
【0005】
【化1】

図1:クルクマロンガのクルクミン類の化学構造。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、少量化合物のデメチルクルクミン(DC)、デメチルデメトキシクルクミン(DMDC)およびビスデメトキシクルクミン(BDC)とともに、テトラヒドロキシクルクミン(TC)を含有するウコン(クルクマ種)抽出物から、テトラヒドロキシクルクミンの濃縮フラクションを製造するプロセスに関する。本発明はまた、動物に投与するためのこのフラクション、および様々な炎症症状を治療する方法も包含し、また本発明のフラクションを投与することにより様々な酸化疾患を予防する方法も包含する。
【0007】
本発明の他の目的は、上記のテトラヒドロキシクルクミン濃縮フラクションから濃縮された無色テトラヒドロテトラヒドロキシクルクミン(THTC)を製造するプロセス、ならびに本発明の無色テトラヒドロテトラヒドロキシクルクミンフラクションを投与することにより様々な炎症症状を治療し、および様々な酸化疾患を予防もする方法である。
【0008】
本発明のさらに別の目的は、カラムクロマトグラフィーとそれに続く結晶化により、TC、DC、DMDC、およびBDCを純粋な形で単離する方法である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
クルクマ種、特にクルクマロンガの有機溶媒抽出物は、全部で4種類のクルクミンを含んでいることがわかっている。これらを図1に示し、C、MDC、BDC、およびTCで示す。図1でTCと示されるテトラヒドロキシクルクミンの濃度は、天然のクルクミンフラクション中、0.1−5%にしかならない(Mimura Akioら、US5266344,1993年)。4種のクルクミンの中で、TCが最も強力な抗癌、抗酸化、および抗炎症活性を示す。しかしながら、クルクミン混合物中のTCを濃縮するプロセスは報告されていない。
【0010】
本発明は、クルクミンフラクション中のTC濃度を上限100%まで所望の濃度に濃縮することを目的とする。本発明の別の目的は、抽出物中に存在する強力でないクルクミンを脱メチル化により非常に抗酸化力の強いデメチルクルクミンに転換することである。この脱メチル化は、フラクションをTC濃度のより高いものにする。純粋なTCは、簡単な精製プロセスによりTC濃縮フラクションから得ることもできる。
【0011】
簡単な化学反応とクロマトグラフ法による精製の組合せがこれらの目的を達成させる。
【0012】
【化2】

図2:テトラヒドロキシクルクミン濃縮フラクションの構成要素の化学構造
【0013】
天然のクルクマ抽出物から得られる本発明のテトラヒドロキシクルクミン濃縮フラクションは、全部で4種類の化合物を含有する。それらを図2に示し、TC、DC、BMDC、およびBDCで示す。TCの濃度は、10−100%の範囲である。
【0014】
プロセスは、適した溶媒中、クルクマロンガ抽出物をルイス酸触媒で脱メチル化して、テトラヒドロキシクルクミン濃縮フラクションにすることを含む。アルミニウムハライドの他に有機塩基および触媒を脱メチル化に用いる。簡単な後処理後得られる乾燥物は、HPLC分析で、50−80%のTCを示した。
【0015】
塩化アルミニウム、臭化アルミニウム、ヨウ化アルミニウム、三臭化ホウ素または三塩化ホウ素-メチルスルフィド錯体またはN-メチルアニリンのナトリウム塩またはナトリウムエタンチオレートまたは塩化リチウムのジメチルホルムアミド溶液または塩化ベリリウムなどのルイス酸触媒が用いられる。クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、および酢酸エチルなどの溶媒、またはそれらの混合物が用いられる。ピリジン、トリエチルアミン、ピペリジンなどの有機塩基が用いられ、触媒はヨウ化ナトリウムもしくはヨウ化カリウムから選択されるか、テトラブチルアンモニウムブロミドなどのPTC触媒が用いられる。
【0016】
純粋なTCは、テトラヒドロキシクルクミン濃縮フラクションからクロマトグラフ法により得られる。シリカゲル、逆相シリカ、アルミナ、およびセファデックスなどの固体支持体をこのプロセスに用いることができる。クロマトグラフ技法は、重力落下カラム、フラッシュクロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、分取高圧液体クロマトグラフィー、およびそれらの組合せから選択される。アセトン、クロロホルム、ジクロロメタン、酢酸エチル、ヘキサンおよび水などの溶媒が、単独また組合せで、重力落下カラム、フラッシュカラム、または中圧カラムを走らせるのに用いられる。
【0017】
本発明は、クルクマ種、特にクルクマロンガの抽出物から50%−100%のTCを製造するプロセスに関し、このプロセスはこの抽出物の脱メチル化工程、続いてクロマトグラフ分離により50%−100%の範囲でTCが濃縮されたフラクションを得る工程を含む。
【0018】
本発明はまた、極性溶媒および非極性溶媒を溶出液として用いるカラムクロマトグラフィー、続いて結晶化により、本発明のテトラヒドロキシクルクミンフラクション中の4種の化合物を全て純粋な形で単離するプロセスにも関する。単離された純粋なTC、DC、DMDC、およびBDCの構造(図2)は、それらの物理データおよびスペクトルデータ(IR、NMR、および質量)から確認されている。
【0019】
上記のテトラヒドロキシクルクミン濃縮フラクションはクルクミンよりも強力な抗酸化活性を示すものの、その黄色が強いため用途が限定されるかもしれない。無色の食品および化粧品に応用するため、本発明者らは、水素化プロセスによる無色テトラヒドロテトラヒドロキシクルクミンフラクションを発明した。クルクミンの水素化プロセスは、胃腸管でも自然に起こり得る。テトラヒドロテトラヒドロキシクルクミンフラクションもテトラヒドロキシクルクミンと同様な強い抗酸化剤であり、黄色ではないことと相まって、現在は従来の合成抗酸化剤が用いられている無彩色の食品および化粧品用途に有用なものとなる。
【0020】
そこで、本発明は無色テトラヒドロテトラヒドロキシクルクミン(THTC)濃縮フラクションを得ることも目的とする。
【0021】
【化3】

図3:テトラヒドロテトラヒドロキシクルクミンフラクションの化学構造
【0022】
このテトラヒドロキシクルクミンフラクションからの本発明の無色テトラヒドロテトラヒドロキシクルクミン濃縮フラクションは、全部で4種のテトラヒドロ化合物を含有することがわかっている。それらを図3に示し、テトラヒドロテトラヒドロキシクルクミン(THTC)、テトラヒドロデメチルクルクミン(THDC)、テトラヒドロデメチルモノデメトキシクルクミン(THBMDC)、およびテトラヒドロビスデメトキシクルクミン(THBDC)と示す。THTC濃度は、10−100%の範囲である。
【0023】
このプロセスは、適した溶媒中、金属触媒と、水素ガスまたは水素供与体を用いて二重結合を還元することによりTC濃縮フラクションを水素化してテトラヒドロテトラヒドロキシクルクミン(THTC)の濃縮フラクションにすることを含む。所望であれば、有機塩基も用いる。
【0024】
パラジウムー炭素、ラネーニッケル、白金、亜鉛、またはマンガンなどの金属触媒が用いられる。酢酸エチル、アセトン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、テトラヒドロフラン、ジオキサン、またはそれらの混合物などの溶媒が用いられる。ギ酸、酢酸、プロパン酸、またはギ酸アンモニウムなどの水素供与体が用いられる。トリエチルアミン、トリメチルアミン、またはピペリジンなどの有機塩基が用いられる。
【0025】
純粋なTHTCは、上記のようにクロマトグラフ方法によりテトラヒドロテトラヒドロキシクルクミンの濃縮フラクションから得られる。純粋なTHTCは、純粋なTCの水素化によっても得ることができる。
【0026】
本発明は、上記の濃縮テトラヒドロキシクルクミンまたは精製TCまたは無色テトラヒドロテトラヒドロキシクルクミンの使用による炎症の治療法も記載し、活性は5-リポキシゲナーゼ活性の測定により支持された。本発明のテトラヒドロキシクルクミンフラクションまたは純粋なTCまたはテトラヒドロテトラヒドロキシクルクミンの5-リポキシゲナーゼ阻害値の割合(表1)から強力な5-リポキシゲナーゼ活性が示され、この活性は既存の市販のクルクミン混合物のものより優れており、ボスウェリア・セラータ由来の強力な5-リポキシゲナーゼ阻害剤であるAKBAの活性に匹敵する。
【0027】
本発明はまた、上記のテトラヒドロキシクルクミン濃縮フラクションまたは精製TCまたは無色テトラヒドロテトラヒドロキシクルクミンの使用による、ラジカルが媒介するヒトの合併症または食品の問題の治療または予防法も記載し、活性はスーパーオキシドおよびDPPHラジカル捕捉活性の測定により支持された。本発明のテトラヒドロキシクルクミン濃縮フラクションまたは純粋なTCまたは無色テトラヒドロテトラヒドロキシクルクミンの阻害値の割合(表2)から強力な抗酸化活性が示され、この活性は既存の市販のクルクミン混合物、BHT(ブチル化ヒドロキシトルエン)、BHA(ブチル化ヒドロキシアニソール)、ビタミンC、およびビタミンEのものより優れている。
【0028】
本発明はまた、抗炎症症状を治療するための、TCを70−100%含有するテトラヒドロキシクルクミン濃縮フラクションの使用も記載する。抗炎症活性は、カラギーナン誘導肢浮腫法により実証された。上記のTC濃縮フラクションは、50mg濃度で20.56%の阻害を示したが、標準薬のジクロフェナクナトリウムは25mg濃度で63.10%の阻害を示した。これらの結果から、本発明のテトラヒドロキシクルクミンフラクションは有意義な抗炎症活性を示したことが明らかである。
【0029】
本発明のさらなる態様は、上記のテトラヒドロキシクルクミンフラクションまたはTCまたは無色テトラヒドロテトラヒドロキシクルクミンの濃縮フラクションを薬学的に許容可能なキャリア(例えば、水性キャリアまたは非水性キャリア)中に含む薬学的配合物である。
【0030】
本発明のなおさらなる態様は、治療上有効量(例えば、治療、進行の鈍化などに有効な量)の上記のテトラヒドロキシクルクミン濃縮フラクションまたは純粋なTCまたは無色テトラヒドロテトラヒドロキシクルクミンを、それを必要とするヒトまたは動物被検体に投与することを含む、炎症性疾患の治療法である。
【0031】
本発明のなおさらなる態様は、治療上有効量(例えば、治療、進行の鈍化などに有効な量)の上記の濃縮テトラヒドロキシクルクミンまたは純粋なTCまたは無色テトラヒドロテトラヒドロキシクルクミンを、それを必要とするヒトまたは動物被検体に投与することを含む、ラジカルにより媒介される疾患の予防法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本発明は以下に与えられる実施例で記載されるが、それらは例示としてのみ提供され、本発明の範囲を制限するとして解釈されはしない。
【実施例1】
【0033】
テトラヒドロキシクルクミン濃縮フラクション。クルクミン混合物(95%、55g)のEtOAc(2.5L)溶液を氷冷し、これに塩化アルミニウム(150g)を加え、続いてピリジン(350mL)を15分かけて滴下し、そして反応混合物を7時間加熱還流させた。10℃まで反応混合物を冷却した後、冷希HCl(20%)を加えて塩化アルミニウム錯体を分解し、酢酸エチル(5×1.0L)で抽出した。混合酢酸エチル層を水、ブラインで洗い、そして無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。溶媒を濾過し、蒸発させた。残渣をクロロホルム(100mL)で希釈して10時間保ち、固体を濾過し乾燥させて生成物を得た(21g、38%)。
【0034】
HPLC分析:
TC =78.40
DC =4.11
DMDC =11.52
BDC =0.86
合計 =94.89%
【実施例2】
【0035】
テトラヒドロキシクルクミン濃縮フラクション。クルクミン混合物(95%、110g)のEDC(4L)溶液を氷冷し、これに乾燥塩化アルミニウム(160g)を加え、続いてピリジン(蒸留したもの、200mL)を15分かけて滴下し、続いてヨウ化ナトリウム(5g)を加え、そして反応混合物を27時間加熱還流させた。10℃まで反応混合物を冷却した後、水(2L)で希釈し、HCl(50%)で酸性にし、そして15分間撹拌した。有機層を分離して、水層が体積10Lになるまで水を加えた。水層を室温で2時間撹拌して16時間放置した。形成した固体を濾過し、水(2.5L)で洗い、そして乾燥させてデメチルクルクミンの粗混合物、94gを得た。これを酢酸エチル(2.5L)中、70-80℃で1時間撹拌し、スーパーセルで濾過し、溶媒を蒸発させて生成物、84gを得た。この固体をジエチルエーテル(500mL)とともに室温で30分間撹拌し、濾過し、乾燥させて生成物、58gを得た。
【0036】
HPLC分析:
TC =75.68
DC =6.32
DMDC =11.24
BDC =1.1
合計 =95.31%
【実施例3】
【0037】
純粋なTC[1,7-ビス(3,4-ジヒドロキシフェニル)-1,6-ヘプタジエン-3,5-ジオン]の単離。実施例2のデメチルクルクミン混合物(1Kg、75%TC)をシリカゲル(100-200メッシュ、2Kg)に吸着させて、溶出液としてクロロホルム-メタノール(95:5)を用いてシリカゲルカラムでクロマトグラフにかけ、純粋なTCを得た。これをクロロホルム-メタノールから再結晶させて黄色粉末とした(0.5Kg)、mp302-304℃;IR(KBr):3488、3386、1629、1617、1600、1271、1289、1142、1120、955cm-1HNMR(DMSO-d)δ6.06(1H、s、H-4)、6.56(2H、d、J=15.6Hz、H-2、6)、6.77(2H、d、J=8.3Hz、H-5’、5”)、7.00(2H、d、J=1.8Hz、H-2’、2”)、7.06(2H、dd、J=8.3、1.8HzH-6’、6”)、7.44(2H、d、J=15.6Hz、H-1、7)、13CNMR(DMSO-d)δ183.1、147.8、145.1、140.8、127.7、126.5、121.9、115.9、114.5、100.9;LC-MSm/z(%):(ESI-陰イオン化モード)339[(M-H)-、100]。
【実施例4】
【0038】
テトラヒドロキシクルクミンフラクション中の他の成分の単離および特性決定。実施例2のデメチルクルクミン混合物(1Kg)をシリカゲル(100-200メッシュ、2Kg)に吸着させて、溶出液としてクロロホルム-メタノール(95:5)を用いてシリカゲルカラムでクロマトグラフにかけ、純粋なDC、DMDC、およびBDCを得た。以下は、単離された化合物のスペクトルデータである。
DC[1-(3,4-ジヒドロキシフェニル)-7-(3-メトキシ-4-ヒドロキシフェニル)-1,6-ヘプタジエン-3,5-ジオン]。黄色粉末、mp164-166℃;IR(KBr):3484、1621、1267、1132、1140、964cm-1HNMR(DMSO-d)δ3.82(3H、s、Ar-OCH)、6.04(1H,s、H-4)、6.53(1H、d、J=16.0Hz、H-2またはH-6)、6.74(1H、d、J=16.0Hz、H-2またはH-6)、6.76(1H、d、J=8.5Hz、H-5’)、6.80(1H、d、J=8.3Hz、H-5”)、7.07(1H、dd、J=8.5、1.8Hz、H-6)、7.00(1H、d、J=1.8Hz、H-2’)、7.12(1H、d、J=1.8Hz、H-2”)、7.29(1H、dd、J=8.3、1.8Hz、H-6”)、7.44(1H、d、J=16.0Hz、H-1またはH-7)、7.51(1H、d、J=16.0Hz、H-1またはH-7);13CNMR(DMSO-d):183.0、183.2、148.6、147.9、147.7、145.1、140.8、140.7、126.5、122.8、121.9、121.0、120.7、115.9、115.6、114.6、111.0、101.0、55.4;EIMS m/z(%):354(M、16)、336(20)、328(54)、271(71)、192(53)、191(30)、177(100)、167(47)、163(49)、150(40)、149(24)、145(84)、135(48)、117(42)、89(57)、77(43)。
DMDC[1-(4-ヒドロキシフェニル)-7-(3,4-ジヒドロキシフェニル)-1,6-ヘプタジエン-3,5-ジオン]。黄色粉末、mp218-220℃;IR(KBr):3338、1627、962cm’HNMR(DMSO-d)δ6.06(1H、s、H-4)、6.59(1H、d、J=15.8Hz、H-2またはH-6)、6.69(1H、d、J=15.8Hz、H-2またはH-6)、6.83(1H、d、J=8.2Hz、H-5”)、6.79(2H、d、J=8.0Hz、H-3’、5’)、7.03(1H、s、H-2”)、7.09(1H、d、J=8.2Hz、H-6”)、7.45(1H、d、J=15.9Hz、H-1またはH-7)、7.47(1H、d、J=15.9Hz、H-1またはH-7)、7.57(2H、d、J=8.0Hz、H-2’、6’)、9.17(1H、brs、Ar-OH)、9.63(1H、brs、Ar-OH)、10.04(1H、brs、Ar-OH);EIMS m/z(%):324(M、18)、306(8)、299(34)、298(90)、242(30)、241(100)、163(49)、161(26)、162(38)、147(87)、110(43)、119(39)、91(21)、44(34)。
BDC[1,7-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1,6-ヘプタジエン-3,5-ジオン]。黄色粉末、mp222-224℃;IR(KBr):3211、1620、1600、1269、1168、1140、955、831cm−1HNMR(DMSO-d)δ6.03(1H、s、H-4)、6.68(2H、d、J=16.0Hz、H-2、6)、6.80(4H、d、J=8.0Hz、H-3’、5’、3”.5”),7.50(2H、d、J=16.0Hz、H-1、7)、7.55(4H、d、J=8.0Hz、H-2’、6’、2”、6”);EIMS m/z(%):308(M、20)、290(14)、159(36)、146(100)、147(87)、119(38)、106(42)、90(42)、65(32)。
【実施例5】
【0039】
テトラヒドロテトラヒドロキシクルクミン濃縮フラクション。実施例2のテトラヒドロキシクルクミン濃縮フラクション(95%、25g)の酢酸エチル(100mL)溶液に、トリエチルアミン(50mL)およびパラジウム-炭酸カルシウム(5%、3.75g)を加え、続いて還流温度でギ酸(8mL)を1時間かけて滴下した。反応混合物を8時間還流させた。2時間の間隔で周期的にギ酸(4.5mL)を加えた。反応完了後、溶媒を留去した(約50mL)。冷やした反応混合物を、HCl(50%)で酸性にし、酢酸エチル(100mL)で希釈した。溶液をスーパーセルで濾過し、酢酸エチル層を分離した。水層をさらに酢酸エチル(2×100mL)で抽出し、酢酸エチル層を合わせて水、ブラインで洗い、硫酸ナトリウムで乾燥させた。溶液を濾過し、容積10mLまで蒸発させて、ヘキサン(20mL)で希釈した。溶出液としてクロロホルム-メタノール(10%、100mL)を用いて、溶液をシリカゲルカラムに通し、低融点の固体として生成物(13g)を得た。
【0040】
HPLC分析:
THTC =72.86%
THDC =15.98%
THDMDC =7.56%
THBDC =0.12%
合計 =96.39%
【0041】
抗酸化剤活性
(a)スーパーオキシドフリーラジカル捕捉活性。NBT(ニトロブルーテトラゾリウム)法によりスーパーオキシドフリーラジカル捕捉活性を求めた。反応混合物は、EDTA(6.6mM)、NaCN(3μg)、リボフラビン(2μM)、NBT(50μM)、様々な濃度の試験薬のエタノール溶液、およびリン酸緩衝液(58mM、pH7.8)を最終体積3mlで含んだ。560nmで光学密度を測定した。試験管を白熱灯で15分間均一に照らし、その後光学密度を560nmで再び測定した。対照の吸光度値と試験化合物の吸光度値を比較することで、阻害割合とスーパーオキシドラジカル生成を測定した。μgでの濃度対阻害割合のプロットからIC5O値を得た。
(b)DPPHフリーラジカル捕捉活性。有色DPPHのメタノール溶液の還元に基づいてDPPH(1,1-ジフェニル-2-ピクリル-ヒドラジル)フリーラジカル捕捉活性を測定した。試験薬のエタノール溶液をDPPHのメタノール溶液に加えた場合のフリーラジカル捕捉活性は、DPPH溶液の516nmでの初期吸収および最終吸収の差に逆比例する。反応混合物は、DPPHおよび様々な濃度の試験薬の1×10-4mMメタノール溶液を含んだ。試験管と対照管の吸光度値を比較することで、阻害割合を求めた。
【0042】
5-リポキシゲナーゼ活性:比色法を用いて、テトラヒドロキシクルクミン混合物の濃縮フラクション、純粋なTC、およびテトラヒドロテトラヒドロキシクルクミンフラクションを、それらの5-リポキシゲナーゼ阻害能についてスクリーニングした。アッセイ混合物は、50mMリン酸緩衝液(pH6.3)、5-リポキシゲナーゼ、様々な濃度の試験物質のジメチルスルホキシド溶液、およびリノール酸を最終体積0.5mLで含んだ。上記反応混合物を5分間インキュベーション後、第二鉄-キシレノールオレンジ試薬0.5mLを加え、2分後に分光光度計を用いて585nmでODを測定した。試験物質の代わりにビヒクルを用いた以外は同様な様式で、試験とともに対照試験を行った。試験溶液の吸光度を対照の吸光度値と比較することで、阻害割合を計算した。
抗炎症活性(カラギーナン誘導肢浮腫法):
実験前に、動物(180−300gの体重のいずれかの性別のアルビノウィスターラット)を水は絶やさずに全て断食させそして体重を測り、番号を付けて、無作為に3匹からなる群に分けた。最初の足の体積をプレチスモメーターで測定し記録した。全ての群に、対応する試験物質を胃管を用いて経口で与えた。対照群には、10mL/Kgのビヒクル(0.5%、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩)を与えた。30分後、全ての動物の左後肢の足裏部分に、1%カラギーナン0.1mLを皮下針を用いて皮下注射した。全ての動物に水20mL/Kg体重を投与して、3時間水のない状態を維持した(均一な水分補給を維持した)。3時間後、全ての動物の足の体積を2回測定し、2回の測定の平均値を記録した。試験物質を与えられた群の足浮腫と対照群の足浮腫を比較することで、足浮腫の阻害%を計算した。
【0043】
【表1】

BHA:ブチル化ヒドロキシアニソール;BHT:ブチル化ヒドロキシトルエン
IC50値が下がるほど、抗酸化活性は高くなる。
【0044】
【表2】

AKBA:アセチル-ケト-ボスウェリア酸;NDGA:ノルジヒドログアヤレチック酸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
30−80%の範囲のテトラヒドロテトラヒドロキシクルクミン、4−20%の範囲のテトラヒドロデメチルクルクミン、5−25%の範囲のテトラヒドロデメチルモノデメトキシクルクミン、および0.1−10%の範囲のテトラヒドロビスデメトキシクルクミンを含む、テトラヒドロテトラヒドロキシクルクミン混合物の濃縮フラクションの組成物。
【請求項2】
30−80%の範囲のテトラヒドロキシクルクミン、4−20%の範囲のデメチルクルクミン、5−25%の範囲のデメチルモノデメトキシクルクミン、および0.1−10%の範囲のビスデメトキシクルクミンを含む、テトラヒドロキシクルクミンおよび他の脱メチル化クルクミン混合物の濃縮フラクションの組成物。
【請求項3】
以下の工程、
(i)クルクマ・ロンガの根から得られる、クルクミン、モノデメトキシクルクミン、ビスデメトキシクルクミン、およびテトラヒドロキシクルクミンを含む天然のクルクミン混合物を、有機溶媒中、ルイス酸、ピリジン、およびヨウ化アルカリ金属の存在下、脱メチル化して、テトラヒドロキシクルクミン、デメチルモノデメトキシクルクミン、デメチルクルクミン、およびビスデメトキシクルクミンを含む粗脱メチル化クルクミン組成物を得ること、
(ii)該粗テトラヒドロキシクルクミン混合物を、有機溶媒中、水素ガスまたは水素供与体の存在下、金属触媒で水素化して、テトラヒドロテトラヒドロキシクルクミン、テトラヒドロデメチルクルクミン、テトラヒドロデメチルモノデメトキシクルクミン、およびテトラヒドロビスデメトキシクルクミンを含むテトラヒドロテトラヒドロキシクルクミン組成物を得ること、を含む、
請求項1および2に記載のテトラヒドロテトラヒドロキシクルクミン混合物およびテトラヒドロキシクルクミン混合物が濃縮されたフラクションを製造するプロセス。
【請求項4】
工程(i)で用いられる前記ルイス酸は、塩化アルミニウム、臭化アルミニウム、ヨウ化アルミニウム、および塩化ベリリウムからなる群より選択される、請求項3に記載のプロセス。
【請求項5】
前記粗テトラヒドロキシクルクミン混合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにかけて、約80−100%の範囲で濃縮されたテトラヒドロキシクルクミンを含有するフラクションを得る、請求項3に記載のプロセス。
【請求項6】
前記テトラヒドロキシクルクミン濃縮フラクションをシリカゲルカラムクロマトグラフィーにかけ、続いて結晶化により、純粋なテトラヒドロキシクルクミン、デメチルクルクミン、デメチルモノデメトキシクルクミン、およびビスデメトキシクルクミンを得る、請求項5に記載のプロセス。
【請求項7】
工程(ii)で用いられる前記金属触媒は、パラジウム、ラネーニッケル、マンガン、または亜鉛から選択され、そして前記水素供与体は、ギ酸、酢酸、プロパン酸、およびギ酸アンモニウムからなる群より選択される、請求項3に記載のプロセス。
【請求項8】
工程(ii)で用いられる前記有機溶媒は、アセトン、酢酸エチル、メタノール、エタノール、イソプロパノール、およびそれらの混合物からなる群より選択される、請求項3に記載のプロセス。
【請求項9】
前記テトラヒドロテトラヒドロキシクルクミンフラクションを、有機溶媒を用いてシリカゲルに通すカラムクロマトグラフィーにかけ、約80−100%の範囲の純度のテトラヒドロテトラヒドロキシクルクミンを得る、請求項3に記載のプロセス。
【請求項10】
前記濃縮フラクションをシリカゲルクロマトグラフィーにかけ、続いて結晶化により純粋なテトラヒドロテトラヒドロキシクルクミン、テトラヒドロデメチルクルクミン、テトラヒドロデメチルモノデメトキシクルクミン、およびテトラヒドロビスデメトキシクルクミンを得る、請求項9に記載のプロセス。
【請求項11】
1種または複数の適した薬学的に許容可能な賦形剤と配合された、請求項1および2に記載のテトラヒドロテトラヒドロキシクルクミン濃縮フラクションまたはテトラヒドロキシクルクミン濃縮フラクションを含むクルクミノイド混合物濃縮フラクションを少なくとも1種治療上有効量で含む、抗酸化および抗炎症活性の向上した薬学的/栄養補助食品。
【請求項12】
前記テトラヒドロテトラヒドロキシクルクミン混合物濃縮フラクションは、適した薬学的キャリア/賦形剤とともに、30−80%の範囲のテトラヒドロテトラヒドロキシクルクミン、4−20%の範囲のテトラヒドロデメチルクルクミン、5−25%の範囲のテトラヒドロデメチルモノデメトキシクルクミン、および0.1−10%の範囲のテトラヒドロビスデメトキシクルクミンを含む、請求項11に記載の薬学的/栄養補助食品。
【請求項13】
前記テトラヒドロキシクルクミン混合物濃縮フラクションは、適した薬学的キャリア/賦形剤とともに、30−80%の範囲のテトラヒドロキシクルクミン、4−20%の範囲のデメチルクルクミン、5−25%の範囲のデメチルモノデメトキシクルクミン、および0.1−10%の範囲のビスデメトキシクルクミンを含む、請求項11に記載の薬学的/栄養補助食品。
【請求項14】
1種または複数種の薬学的に許容可能な賦形剤と混合して、請求項1および2に記載のテトラヒドロキシクルクミン濃縮フラクションおよび/またはテトラヒドロテトラヒドロキシクルクミン濃縮フラクションを1種以上治療上有効量で含む、炎症性疾患、癌、およびフリーラジカルが媒介する疾患を治療するのに用いるための薬学的組成物または栄養補助食品。
【請求項15】
そのような治療を必要とする哺乳類に治療上有効量の請求項1および2に記載のテトラヒドロキシクルクミン濃縮フラクションおよび/またはテトラヒドロテトラヒドロキシクルクミン濃縮フラクションを投与することを含む、炎症性疾患、癌、ならびにパーキンソンおよびアルツハイマーをはじめとするフリーラジカルが媒介する疾患の治療法。

【公表番号】特表2009−511573(P2009−511573A)
【公表日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−535191(P2008−535191)
【出願日】平成17年10月13日(2005.10.13)
【国際出願番号】PCT/IN2005/000337
【国際公開番号】WO2007/043058
【国際公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【出願人】(507008219)
【出願人】(508028449)
【出願人】(508028450)
【出願人】(508028461)
【Fターム(参考)】