説明

クロストリジウム・ディフィシルによる感染症の処置

本発明は、配列番号2のアミノ酸配列または配列番号2のアミノ酸配列と少なくとも70、80、90、95、96、97、98、99、もしくは99.5%の同一性を示すアミノ酸配列を含んでなる、クロストリジウム・ディフィシル乳酸脱水素酵素を開示している。クロストリジウム・ディフィシル乳酸脱水素酵素は、配列番号2のアミノ酸配列を含んでなる。同じく、それをコードする核酸配列、ベクターおよび宿主細胞、それに対する抗体、クロストリジウム・ディフィシル感染症の処置用の医薬および医薬の製造方法、ならびに診断試験キットおよびそれの診断試験方法を開示している。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)は、グラム陽性の嫌気性細菌であり、中程度の下痢から劇症の偽膜性大腸炎(PMC)の範囲の−総称して、C.ディフィシル抗生物質関連下痢(CDAD)と称される一連の疾患を引き起こす重要なヒト病原菌と考えられている。CDADは、特に高齢者において、かなりの罹患率および死亡率を伴う、一般的で、医原性の院内疾患である。二つの要因、抗生物質の投与による常在腸内細菌叢の抑制およびその細菌による2種の高分子量毒素、毒素Aおよび毒素Bの製造が、CDADの病原性において主要な役割を果たしているとされている。
【0002】
その細菌は、病院内に特有のものであり、研究では、急性期治療用病棟において抗生物質処置を受けた患者の約3分の1が、病院にいる間に、C.ディフィシルに感染することが示されている(Kyne, L.ら、2002, Clin. Infect. Dis. 34(3), pp346-53, PMID: 11774082)。これらの患者のうち、半数以上がCDADを発症し、残りは、症状のない保菌者であった。CDADは、患者の病院滞在時間を延長させる主要な要因であり、米国におけるこの疾患のコストは、11億ドル/年を超えると推定されている(Kyne, L.ら、上記文献)。CDADを患う患者は、誘因抗生物質の中断と抗生物質メトロニダゾールおよびバンコマイシンの何れかでの処置を含む処置によく反応する。しかしながら、バンコマイシン等の使用は、いくつかの問題を伴うため、最後の手段の一つである。腎毒性、耳毒性、骨髄毒性、およびレッドマン(red man)症候群を引き起こすのみならず、この処置法での問題は、初期の発症を成功裡に処置したのちに、CDADがしばしば再発することであり、この再発は、重大な臨床上の問題を提起する。加えて、C.ディフィシルはメトロニダゾールに耐性になりつつあり、またバンコマイシンに対して一部耐性になりつつあるという兆候があり、CDADの処置において新規な代替法が必要であることを示している。
【0003】
その細菌の病原性株により製造される外毒素AおよびBは、細胞毒性、腸管毒性、および炎症性であり、この非侵襲性微生物の主要な病原性の要因であると考えられる。しかしながら、毒素産生株での感染が全て疾患を発症するものではなく、さらなる病原性要因の探索が推進されている。細菌表面に発現した抗原は、病原性要因の候補を提示し、また、そのようなタンパク質は、コロニー形成の第一ステップにおける腸の上皮層への接着または局所免疫のメディエーターとの相互作用等の必須の機能をおそらくは仲介するため、重要であると考えられている。他の多くの細菌に共通して、C.ディフィシルは、外側の細胞表面上で結晶性またはパラ結晶性表面層(S層)を発現する。そのようなS層は、細菌の外表面上に規則的に配列した格子を形成するタンパク質または糖タンパク質を含み、また、アエロマナス・サルモニシダ(Aeromanas salmonicida)およびカンピロバクター・フェタス(Campylobacter fetus)等の病原菌の病原性に必須であることが既に示されている。一つのS層を含む大部分の細菌とは対照的に、C.ディフィシルは、C.ディフィシル株の間で見かけ上の分子量が各々若干異なる糖タンパク質からなる、2種の重ね合わせられたパラ結晶性S層を含むことが知られている。C.ディフィシルの大部分の株は、32〜38kDaのもの(低分子量SLP)と42〜48kDaの二番目のもの(高分子量SLP)2個の主たるS層タンパク質(SLPs)を発現する。低分子量SLPは、免疫優位であるようであり、CDADを患う患者に最も一般的に認められる抗原であり、全C.ディフィシル細胞に対してウサギ中で育てられた抗血清による細菌のEDTA抽出物中で認められる唯一の抗原である(Calabi, E.ら、2001, Mol. Microbiol., 40(5) p1187-99, PMID: 11401722)。
【0004】
C.ディフィシル感染症の処置/予防に対する抗生物質に基づかない他の治療法は、受動免疫化およびワクチン接種に基づく。受動的免疫化は、(WO99/20304に開示のような)毒素中和抗体または(WO96/07430に開示のような)細菌全体と毒素に対して育てられた抗体の患者への投与による。ワクチン接種処置は、C.ディフィシル表面層タンパク質もしくは変異株もしくは同族体の免疫原性フラグメントをコードする核酸配列または(WO02/062379に開示のような)均等なポリペプチドフラグメントのいずれかを患者に投与することを含む。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者等は、低分子量SLPが、(患者の抗血清をプローブとする細菌抽出物のSDS−PAGEおよびウエスタンブロッティングにより決定された)これまでに同定されていなかった36kDaの細菌性タンパク質を覆い隠していることを発見した。このタンパク質は、クロストリジウム・ディフィシルに感染した患者から単離された血清中に存在する抗体により認識されるという事実は、CDADの病原性にそのタンパク質が関与している可能性がある。このように、このタンパク質およびそのエピトープは、潜在的に広範囲の用途を提供するものであり、それらは治療上、免疫原、例えば、ワクチンとして使用され、あるいは診断上、それらに特異的に結合する薬剤(例えば、抗体)を検出するために使用しうる。それらはまた、治療上または診断上、それ自体であるいは、例えば受動免疫化に使用される他の抗体と組み合わせて使用しうる、中和剤、例えば抗体を製造するために使用しうる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、配列番号2のアミノ酸配列を含んでなる、C.ディフィシル乳酸脱水素酵素(LDH)が提供される。C.ディフィシルにより示される株間変異に従って、アミノ酸配列内でいくつかの変異が存在しうる。例えば、本発明に係るタンパク質は、配列番号2のアミノ酸配列と少なくとも70、80、90、95、96、97、98、99、もしくは99.5%の同一性を示しうる。
【0007】
配列の相同性/同一性は、National Center for Biotechnology Information, USA (www.ncbi.nlm.nih.gov)でのBLAST2プログラム(Tatusova TAら、FEMS Microbiol Lett. 1999 May 15; 174(2); 247-50; PMID: 10339815)を用いて決定される。本明細書中、アミノ酸または核酸の「同一性」は、アミノ酸または核酸の「相同性」と均等である。
【0008】
同様に本発明により提供されるものは、本発明のC.ディフィシルをコードする単離核酸分子である。
【0009】
例えば、単離核酸分子は、配列番号1の核酸配列を含んでなる。C.ディフィシルにより示される株間変異に従って、配列内でいくつかの変異が存在しうる。例えば、配列は、配列番号1の核酸配列と少なくとも80、85、90、95、96、97、98、99、もしくは99.5%の同一性を示しうる。
【0010】
同じく本発明により提供されるものは、本発明のC.ディフィシルLDHをコードする核酸分子を含んでなる核酸ベクターである。用語「ベクター」は、核酸分子を運ぶことができる、ビヒクル、好ましくは核酸分子を意味する。ベクターが核酸分子である場合、核酸分子は、ベクター核酸に共有結合的に結合している。本発明のこの観点で、ベクターは、例えば、プラスミド、一本鎖もしくは二本鎖のファージ、一本鎖もしくは二本鎖のRNAもしくはDNAウイルスベクター、または人工染色体、例えばBAC、PAC、YAC、もしくはMACであることができる。ベクターは、クローニングベクターまたは発現ベクターであり、原核細胞もしくは真核細胞または両者(例えば、シャトルベクター)中で機能しうる。原核生物宿主および真核生物宿主に対する好適なクローニング、発現およびシャトルベクターは、Sambrook, J.およびRussell, D., "Molecular Cloning:
A Laboratory Manual", 第三版、Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor Press, New York, 2001に記載されている。
【0011】
同じく本発明により提供されるものは、本発明のC.ディフィシルLDHをコードするベクターを含む宿主細胞である。ベクターは、核酸分子のさらなるコピーを複製し製造する染色体外因子として宿主細胞内に保持されることができる。あるいは、ベクターは、宿主細胞ゲノムに統合され、宿主細胞が複製される際に、核酸分子のさらなるコピーを製造する。
【0012】
同じく本発明により提供されるものは、本発明のC.ディフィシルLDHを含んでなるポリペプチドの製造方法であり、そのポリペプチドの製造に十分な条件下に宿主細胞を培養することおよびそのポリペプチドを回収することを含んでなる方法である。
【0013】
それに由来するLDHタンパク質またはペプチド配列は、それを発現するように改変された細胞(組換え体)で発現され精製されるか、あるいは公知のタンパク質合成方法を用いて合成される。例えば、タンパク質またはペプチド配列をコードする核酸分子が発現ベクターにクローン化され、その発現ベクターは宿主細胞に導入され、次いでタンパク質が宿主細胞中で発現される。タンパク質は、次いで、標準的なタンパク質精製法を用いて、適当な精製スキームにより細胞から単離することができる。
【0014】
同じく本発明により提供されるものは、本発明のC.ディフィシルLDHまたはその抗原フラグメントをコードするベクターであり、本発明のC.ディフィシルLDHを含んでなるポリペプチドまたはその抗原フラグメントがそのベクターで形質転換された細胞により発現されるように、単離核酸分子が適正な配向と正しいリーディング・フレームでベクターに挿入されている。
【0015】
本明細書に記載された単離核酸分子は、プロモーター配列に動作可能なように結合されている。
【0016】
発現ベクターは、核酸分子の転写が宿主細胞内でなされるように、核酸分子にベクター中で動作可能なように結合されるシス作動性調節領域を含んでいる。核酸分子は、転写に影響を与えることができる別の核酸分子で宿主細胞に導入することができる。そこで、第二の核酸分子は、ベクターから核酸分子を転写させるシス制御性調節領域と相互作用するトランス作動性因子を提供しうる。あるいは、トランス作動性因子は、宿主細胞により供給されうる。最後に、トランス作動性因子は、ベクターそれ自体から製造することができる。しかしながら、いくつかの実施態様において、核酸分子の転写および/または翻訳は無細胞系で起こりうる。
【0017】
本明細書に記載の核酸分子が動作可能なように結合できる調節配列は、mRNA転写を方向付けるプロモーターを含む。これらには、限定されるものではないが、バクテリオファージλからの左プロモーター、大腸菌からのlac、TRP、およびTACプロモーター、SV40からの初期および後期プロモーター、CMV即時型初期プロモーター、アデノウイルス初期および後期プロモーター、ならびにレトロウイルス長期リピートが包含される。
【0018】
転写をプロモートする調節領域に加えて、発現ベクターは、また、転写をモジュレートする領域、例えばリプレッサー結合部位およびエンハンサーを含みうる。例として、SV40エンハンサー、サイトメガロウイルス即時型初期エンハンサー、ポリオーマエンハンサー、アデノウイルスエンハンサー、およびレトロウイルスLTRエンハンサーが挙げられる。
【0019】
転写開始および調節用部位を含むことに加えて、発現ベクターは、また、転写終止に必要な配列および、転写された領域中にリボソーム翻訳用結合部位を含むことができる。発現用の他の調節制御因子は、開始コドンおよび終止コドンならびにポリアデニル化シグナルを含む。当業者は、発現ベクター中で有用な多数の調節配列を知っているであろう。そのような調節配列は、例えば、Sambrook, J.およびRussell, D., "Molecular Cloning:
A Laboratory Manual", 第三版、Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor Press, New York, 2001に記載されている。
【0020】
調節配列は、1以上の宿主細胞中での構成性発現をもたらし(すなわち、組織特異的)、あるいは、例えば温度、栄養添加物、またはホルモンもしくは他のリガンド等の外因性因子により、1以上の細胞型中で誘発発現をもたらしうる。原核生物宿主および真核生物宿主中での構成性および誘発性発現をもたらす多種のベクターが、当業者に周知である。
【0021】
核酸分子は、周知の方法により、ベクター核酸に挿入することができる。一般的に、究極的に発現されるであろうDNA配列は、DNA配列と発現ベクターを1以上の制限酵素で切断し、次いでフラグメントを一緒に連結することにより、発現ベクターに結合される。制限酵素での消化および連結の手順は、当業者に周知である。適当な核酸分子を含むベクターは、周知の手法を用いて、増殖用または発現用の適切な宿主細胞に導入することができる。細菌細胞としては、限定されるものではないが、大腸菌、ストレプトミセス(Streptomyces)、およびサルモネラ・チフィムリウム(Salmonella typhimurim)が挙げられる。真核細胞としては、限定されるものではないが、酵母、ショウジョウバエ等の昆虫細胞、COSおよびCHO細胞等の動物細胞、ならびにHeLaまたはHuH−7等のヒト細胞が挙げられる。
【0022】
同じく本発明により提供されるものは、本発明のC.ディフィシルLDHに特異的な、抗体またはその抗原結合性フラグメントである。例えば、抗体またはその抗原結合性フラグメントは、配列番号2からなるC.ディフィシルLDHに特異的でありうる。
【0023】
抗体は、周知である(Harlow, E.およびLane, D., "Using Antibodies - A Laboratory Manual", Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor Press, New York, 1998)。その種々の文法上の形態での用語「抗体」は、本明細書中、免疫グロブリン分子および免疫グロブリン分子の免疫的に活性な部分、すなわち、抗体結合部位またはパラトープを含む分子を指すものとして使用される。そのような分子は、また、免疫グロブリン分子の「抗原結合性フラグメント」と称される。
【0024】
例示される抗体分子は、完全な免疫グロブリン分子、実質的に完全な免疫グロブリン分子ならびに、Fab、Fab’、F(ab’)2、scFvおよびF(v)としてこの分野で公知であるそれらの部分を包含する、パラトープを含む免疫グロブリン分子のそれらの部分である。
【0025】
本発明に係る結合剤は、LDHに結合するだけではなく、細菌感染症を中和あるいは緩和しうる。
【0026】
本発明に係るC.ディフィシルLDHに特異的な、抗体またはその抗原結合性フラグメントは、人体または動物体の処置方法または診断方法において使用しうる。
【0027】
同じく本発明により提供されるものは、本発明に係るC.ディフィシルLDHに特異的な抗体またはその抗原結合性フラグメントの使用を含んでなる、感染症の処置用の医薬の製造方法である。
【0028】
LDHタンパク質またはLDHタンパク質に由来するエピトープは、抗体を発生させるために使用しうる。細菌性LDHタンパク質のエピトープは、標準的な手順を用いて決定しうる(例えば、Geysen, H.M.,ら、J. Immunol. Methods, 1987, 102(2):259-74, PMID: 2443575; Geysen, H.M.,ら、J Mol. Recognit., 1988, 1(1):32-41, PMID: 2483922; Jung, G.,およびBeck-Sickinger, A.G., 1992, Angew. Chem. Int. Ed. Eng., 31:367-486; Beck-Sickinger, A.G.,およびJung, G., Pharm. Acta. Helv. 1993; 68(1):3-20; PMID: 7692453)。抗体またはその抗原結合性フラグメントは、当業者に周知の確立された免疫学的手法を用いて調製されうる(例えば、Harlow, E.およびLane, D., "Using Antibodies - A Laboratory Manual", Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor Press, New York, 1998参照)。そこで、例えば、任意の好適な宿主にタンパク質を注入し、血液を採取して、適当な精製および/または濃縮後に、所望のポリクローナル抗体が得られる(例えば、親和性媒体として固定化タンパク質を用いるアフィニティー・クロマトグラフィーにより)。あるいは、脾細胞またはリンパ細胞をタンパク質注入宿主から回収し、例えばKohlerらの方法(1976, Eur. J. Immunol., 6: 511)を用いて固定化し、得られた細胞を分離してモノクローナル抗体を産生する単一遺伝子系を得る。抗体フラグメントは、慣用の手法、例えば、ペプシンまたはパパインでの酵素的消化により製造しうる。本発明に係る組換え抗体を製造することが所望される場合は、これらは、例えば、EP171469、EP173494、EP194276およびEP239400に記載の方法を用いて、製造しうる。
【0029】
医薬は、ワクチンでありうる。ワクチンは、免疫系を病原体由来の抗原でふさぐことにより、感染から保護する。ワクチン接種は、病原体由来の抗原に一回または繰り返し暴露することにより達成され、本格的な感染プロセスの有害な作用を伴わずに、抗体の成熟およびB細胞クローン性発現をもたらす。LDHタンパク質またはそのタンパク質に由来するエピトープを、ワクチン中で使用しうる。1以上のそのようなエピトープを含むワクチンを、ヒトを免疫化するために使用することができ、これにより、C.ディフィシル感染への感受性が減少する。タンパク質および/またはエピトープは免疫原性であるか、あるいはそれらは、例えばアジュバントを含む免疫原性組成物として投与しうる。ワクチンは、DNAワクチンであってもよい。DNAワクチンは、十分に認知されており、当業者に公知であろう。
【0030】
エンテロコッカス・ファエシウム(Enterococcus faecium)(Bugg, T.D.,ら、1999, Biochemistry, 30(43), pp10408-15, PMID: 1931965)およびスタフィロコッカス・オウレウス(Staphylococcus aureus)(Milewski, W.M.ら、1996, Antimicrob Agents Chemother 40(1), pp166-72, PMID: 8787900)等の細菌において、乳酸脱水素酵素はバンコマイシン等の抗生物質への耐性メカニズムにおいて重要な役割を果たしているという証拠があるため、本発明に係るC.ディフィシルLDHに特異的な抗体またはその抗原結合性フラグメントと、抗生物質、例えば、バンコマイシン等の糖タンパク質抗生物質とを共に組み合わせることは、C.ディフィシルによる感染症をさらに成功裡に処置しうる手段を提示しうる。あるいは、糖タンパク質抗生物質は、例えば、ラモプラニンまたはテイコプラニンであってもよい。抗生物質は、時折、CDADの処置に使用されるメトロニダゾールであってもよい。
【0031】
医薬は、C.ディフィシル感染症の処置に使用することができ、治療上有効量の、本発明に係るC.ディフィシルLDHに特異的な抗体またはその抗原結合性フラグメントあるいはそれを糖タンパク質抗生物質、例えばバンコマイシン、または抗生物質メトロニダゾールと組み合わせて含みうる。抗体またはその抗原結合性フラグメントは、抗生物質と相乗的に作用して、向上した治療効果、すなわち、組み合わせ治療を用いた処置で期待されるよりもさらに大きな効果をもたらす。
【0032】
医薬は、人体または動物体の処置方法または診断方法において使用しうる。
【0033】
医薬は、細菌が糖タンパク質抗生物質処置または抗生物質処置に耐性である、C.ディフィシル感染症の処置に使用しうる。
【0034】
同じく本発明により提供されるものは、治療上有効量の抗生物質、例えば糖タンパク質抗生物質および本発明に係るC.ディフィシルLDHに特異的な抗体またはその抗原結合性フラグメントの使用を特徴とする、C.ディフィシル感染症の処置用の医薬の製造方法である。抗生物質は、バンコマイシン、ラモプラニンまたはテイコプラニン等の糖タンパク質抗生物質でありうる。あるいは、抗生物質は、メトロニダゾールでありうる。
【0035】
同じく本発明により提供されるものは、治療上有効量の抗生物質、例えば糖タンパク質抗生物質および本発明に係るC.ディフィシルLDHに特異的な抗体またはその抗原結合性フラグメントを、それを必要とする患者に投与する工程を含んでなる、C.ディフィシル感染症の処置方法である。抗生物質は、バンコマイシン、ラモプラニンまたはテイコプラニン等の糖タンパク質抗生物質でありうる。あるいは、抗生物質は、メトロニダゾールでありうる。
【0036】
本発明に係る医薬および処置方法は、当業者には容易に明白であろう。医薬は、薬学的に許容しうる担体、希釈剤または助剤を用いて調製しうる(Remigton's: The Science and Practice of Pharmacy (1995) Mack Publishing Company, Easton, PA, USA)。医薬および処置方法は、薬学上有効量のエピトープまたは抗体/抗体結合性フラグメントを用いて達成される。適切な用量は、当業者には容易に明白であり、例えば、用量反応実験により、容易に決定しうる。
【0037】
同じく本発明により提供されるものは、上記C.ディフィシルLDHの試料中での存在を検出する診断試験方法であって、
i)試料と、本発明に係るC.ディフィシルLDHに特異的な抗体またはその抗原結合性フラグメントとを接触させ、
ii)抗体−抗原結合反応を検出し;
iii)検出工程(ii)の結果を、その試料中のそのC.ディフィシルLDHの存在と関連付ける、
工程を含んでなる方法である。
【0038】
同じく本発明により提供されるものは、本発明に係るC.ディフィシルLDHに特異的な抗体の試料中での存在を検出する診断試験方法であって、
i)試料とそのC.ディフィシルLDHとを接触させ、
ii)抗体−抗原結合反応を検出し;
iii)検出工程(ii)の結果を、その試料中のそのC.ディフィシルLDHに特異的な抗体の存在と関連付ける、
工程を含んでなる方法である。
【0039】
試料は、患者からのもの、例えば、血清試料または腹膜透析物であり、ただし、抗C.ディフィシル抗体を有するあるいは有すると期待される全ての他の試料が、当然のことながら、使用しうる。
【0040】
同じく本発明により提供されるものは、本発明に係る診断試験方法を行うための診断試験キットである。診断試験キットは、周知であり、例えば、WO88/08534に記載の浸漬スティック試験を包含する。試験キットは、本発明に係る診断試験方法でのその使用についての指示書を含みうる。
【0041】
同じく本発明により提供されるものは、治療上有効量の抗生物質および本発明に係るC.ディフィシルLDHに特異的な抗体またはその抗原結合性フラグメントを含んでなる、C.ディフィシル感染症の処置用の医薬パックである。
【0042】
抗生物質は、メトロニダゾールでありうるか、または抗生物質は、糖タンパク質抗生物質、例えば、バンコマイシン、ラモプラニンまたはテイコプラニンでありうる。
【0043】
感染症は、抗生物質のみによる処置に耐性である、C.ディフィシルによるものでありうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
本発明は、C.ディフィシルLDHの単離および同定を記載する、以下の実験から、さらに明らかになるであろう。

実 験
【0045】
以下に詳述する実験は、C.ディフィシルに感染した患者から得られた分画されたC.ディフィシルタンパク質抽出物および抗血清を用いた免疫ブロッティング実験において、見かけ上の分子量36kDaのタンパク質が大部分の患者により認められることを実証する。アミノ酸配列決定を使用して、このタンパク質が乳酸脱水素酵素(LDH)であることが決定された。C.ディフィシルLDHタンパク質をコードする遺伝子をクローン化し、次いで、組換えLDHタンパク質発現用の細菌性発現ベクターにサブクローン化した。精製した組換えLDHタンパク質は、SDS−PAGEおよび2D電気泳動により分画し、C.ディフィシルに感染した患者から得られた抗血清で探査する(probing)前に、免疫ブロッティングした。
【0046】
他に特記しない限り、本明細書中に詳述した全ての方法は標準的な手順を用いて、適用可能な製造者の指示書に従って行われる。PCR、分子クローニング、操作と配列決定、および細胞培養を含む種々の手法についての標準的手順は、McPherson, M.J.ら、(1991, PCR: A practical approach, Oxford University Press, Oxford), Sambrook, J.およびRussell, D., ("Molecular Cloning: A Laboratory Manual", 第三版、Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor Press, New York, 2001), HuynhおよびDavis (1985, "DNA Cloning Vol I - A Practical Approach", IRL Press, Oxford, Ed. D.M. Glover), Sanger, F.ら、(1977, PNAS USA 74(12): 5463-5467), Harlow, R.およびLane, D. ("Using Antibodies: A Laboratory Manual", Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor Press, New York, 1998), Harris, M.A.およびRae, I.F. ("General Techniques of Cell Culture", 1997, Cambridge University Press, ISBN 0521 573645)。
【0047】
他のもののうち、本明細書中で詳述された方法中で有用な試薬および装置は、Amersham (www.amersham.co.uk), Boehringer Mannheim (www.boehringer-ingeltheim.com), Clontech (www.clontech.com), Genosys (www.genosys.com), Millipore (www.millipore.com), Novagen (www.novagen.com), Perkin Elmer (www.perkinelmer.com), Pharmacia (www.pharmacia.com), Promega (www.promega.com), Qiagen (www.qiagen.com), Sigma (www.sigma-aldrich.com)およびStratagene (www.stratagene.com)のようなものから入手できる。
【0048】
刊行物に対して「PMID」参照番号が付与されている場合、これらは、US National Library of Medicineによりそれらに割り当てられたPubMed識別番号であり、それから各々の刊行物に対する完全な文献情報および要旨がwww.ncbi.nlm.nih.govで入手できる。これはまた、特に、例えば、PNAS、JBCおよびMBC刊行物の場合に、完全な刊行物の電子コピーに直接アクセスすることができる。
【0049】
本明細書中で議論された参考文献の各々の内容は、それらの中で引用された参考文献のそれを含めて、それらの全体がここに参照として取り込まれる。

方 法
試 料
【0050】
血清試料および大便標本を採取し、それぞれ、−20℃および4℃で保存した。

C.ディフィシル Tox AB II試験
【0051】
このキットは、Tec Lab Inc., USAから購入した。液状便50μlを希釈剤200μlに加え、混合物100μlをマイクロタイタープレート中のコンジュゲート50μlに加え、35℃で50分間インキュベートし、その後、4回洗浄した。基質AおよびBをプレートに加え、混合し、室温で10分間インキュベートした。停止溶液をプレートに加え、さらに10分間インキュベートし、光学濃度(O.D.)を450nmで測定した。

培養と同定
【0052】
陽性標本を、C.ディフィシル選択サプリメント、D−シクロセリンおよびセフォキチン(Oxoid)を含むC.ディフィシル寒天ベース(Oxoid)を用いて培養し、嫌気性条件下で48時間生育した。陽性標本の特性は、酵素的加水分解PRO試験(Key Scientific Products, USA)およびラテックス凝集試験(Microscreen C. Difficile, Microgen Bioproducts Ltd, UK)を用いて確認した。

抗原調製
【0053】
C.ディフィシルNCTC11204は、2%(w/v)プロテアーゼペプトンと1%(w/v)酵母エキスを含む培地中、37℃で48時間、嫌気性条件下で培養した。細胞は、遠心分離により収集し、滅菌食塩水中で3回洗浄した。その後、細胞ペーストをBio X-presser 細胞ディスインテグレーター (LKB Instruments Sweden) に入れ、破砕の前に、−20℃で一晩放置した。試料を破砕し、洗浄し、ついでSDS−PAGEで可視化した。

試料の可視化およびタンパク質の同定
SDS−PAGE
【0054】
プレートを、製造者の指示書に従って集め、溶解ゲル(30%アクリルアミド/ビス25ml、分離ゲルバッファー14.06ml(蒸留水100ml(pH8.8)で100mlにしたトリスベース24.22g、10%SDS750μl、蒸留水35.2ml、10%過硫酸アンモニウム375μl、TEMED37.5μl)を注いだ。一旦セットし、スタッキングゲル(30%アクリルアミド/ビス3.6ml、スタッキングゲルバッファー7.3ml(蒸留水100ml(pH6.8)で100mlにしたトリスベース6.05g、10%SDS300μl、蒸留水19ml、10%過硫酸アンモニウム300μl、TEMED30μl)を注ぎ、くしを挿入し、センター取りした。ゲルをセットし、くしを取り除き、ウエルを蒸留水で洗浄した。ゲルをタンクホルダーに入れ、タンクに入れた。試料(C.ディフィシル10μl)を各々のウエルに加え、電気泳動バッファー(トリスベース18.96g、グリシン12g、SDS3g、蒸留水3L)をトップに積層した。タンクを電気泳動バッファーで満たし、水を出し、80〜100mAの電流で1〜2時間運転した。

タンパク質可視化
【0055】
タンパク質のバンドを、メタノール100ml、氷酢酸20ml中、4℃で一晩ゲルを固定し、OWL銀染色キット(NBS Biologicals, Huntington)を用いて銀染色することにより可視化した。

ウエスタンブロッティング
【0056】
ゲルホルダーを製造者の指示書に従って集めて、サンドィッチを以下のように生成した:Scotchbrite、2 xろ紙、ニトロセルロース/PVDF、ゲル、2 xろ紙、Scotchbrite、(the Scotchbrite、ろ紙、およびニトロセルロース/PVDFはすべて、トランスブロッティングバッファー(トリスベース9.07g、グリシン43.2g、蒸留水3L、メタノール750ml中で浸漬した)。ホルダーをタンクに組み込み、100Aで45分間運転した。
【0057】
血清は、臨床的にC.ディフィシル大腸炎であって糞便で陽性の毒性アッセイを示した患者24人から、および大腸炎の証拠がなく、陰性の毒性アッセイを示した患者20人から入手した。血清を、トランスブロッティングした抗原ストリップに加え、室温で2時間、振盪しながらインキュベートした。5回の5分間ずつの洗浄ののち、アルカリ性ホスファターゼとコンジュゲートした抗ヒトIgG、IgAまたはIgMと共に1時間インキュベートした。ストリップを、BCIP/NBTを用いる可視化の前に、洗浄した。

タンパク質配列決定
【0058】
適切なバンドを、PVDF膜上にトランスブロッティングし、直接的アミノ酸配列決定を標準的な方法を用いて行った。

ライブラリーの構築とクローンの分析
ゲノムライブラリーの構築
【0059】
C.ディフィシルNCTC11204を嫌気性条件下、37℃で一晩、LBブロス10ml中で培養した。細菌を遠心分離により収集し、ペレットを滅菌食塩水で2回洗浄し、TEバッファー1mlに再懸濁した。リゾチーム1μlを細胞に加え、その後、37℃で15分間インキュベートした。プロテイナーゼK20μlと10%SDS50μlを混合物に加え、それを反転させて混合し、55℃で45分間放置した。混合物をマイクロヒュージ中で脈動させ、上清を等量のフェノール:クロロホルム:イソアミルアルコール(25:25:1)を含む管に移し、10分間反転させて混合し、タンパク質を析出させた。これを、次いで、12000xgで10分間遠心分離した。上層のDNA含有水層を取り除き、上記の工程を繰り返した。水層と等量のイソプロパノールとを混合し、混合物を室温で15分間放置し、次いで、12,000gで20分間遠心分離することにより、DNAを析出させた。細菌性DNAを含有するペレットを氷冷70%エタノール中で洗浄して過剰の塩を除去し、超純水200μl中に再懸濁した。

細菌性ゲノムDNAの部分的消化
【0060】
制限消化は、製造者の指示書に従って使用した、HindIIIを含んでセットアップし、次いで、アリコート5μlを、ある時間間隔で収集し、65℃10分間加熱することにより不活性化した。DNA試料をエタノール析出し、アガロースゲル電気泳動で可視化した。2〜5Kbに対応するフラグメントをゲルから切り取って、Genecleanプロトコル(Anachem, UK)を用いて清浄化した。DNAを滅菌超純水20μl中で溶出し、−20℃で保存した。

プラスミドDNAの精製
【0061】
100μg/mlのアンピシリンを含有するLBブロス5mlにプラスミドpTZ18Rを含有する大腸菌で接種し、振盪プラットフォームインキュベーター中で、37℃で一晩培養した。細菌細胞を遠心分離により採集し、QIAprep Spin Miniprep キット(QIAgen)を用いてプラスミドDNAを単離し、精製した。

プラスミド消化、リン酸化および連結
【0062】
pTZ18R DNAは、HindIIIで消化し、5’リン酸基は、4μlの10xアルカリ性ホスファターゼバッファー(Promega)および1μlのアルカリ性ホスファターゼ(Promega)を試料35μlに加え、次いで37℃で2時間インキュベートすることにより除去した。試料は、アガロースゲル上で可視化し、前述のGenecleanキットを用いて清浄化した。部分的に消化されたゲノムDNAを、製造者の指示書に従ってT4DNAリガーゼ(Progema)を用いて、4℃で一晩、小容量で、pTZ18Rと連結した。

形質転換
【0063】
プラスミドDNAは、以下の細菌株にエレクトロポレーション(200オーム/25μF 2.5KV)することにより形質転換した:
大腸菌JM109
大腸菌ldh―DC1368(乳酸脱水素酵素欠損株)IahA: Kanpfi,com (Gupta, S.,およびClark, D.P., 1989, J.of Bacteriology, 171, p3650-3655)。
大腸菌W1485(野生型)
形質転換細菌細胞は、M9培地上に載せ、次いで、好気性および嫌気性の両条件下、37℃で一晩、インキュベートした。

DNA配列決定
【0064】
個々のクローンは、MegaBACE10001DNAシーケンサー(Amersham Pharmacia Biotech)を用いて配列決定した。プラスミドDNA(100〜500ng)を、DYEnamic ETターミネーター試薬プレミックス8μlとM13フォワードプライマー(配列番号5)またはM13リバースプライマー(配列番号6)1μl(5μM)に、全量20μlで加えた。サイクリング条件は、95℃で20秒;50℃で15秒;および60℃で60秒の30サイクルであった。組み込まれていない染料ターミネーターはエタノール析出により除去し、DNAをローディングバッファー20μl中に再懸濁した。反応物は、2KVの注入パラメーターを30秒間および6KVで200分間の電気泳動を用いて、DNAシーケンサー上にロードした。

ldh遺伝子のサブクローン化
【0065】
ldh遺伝子は、以下の条件下でポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いて、pGEM−T easy ベクター(Promega, Southampton, UK)にサブクローン化した部分的に消化されたDNAから再増幅した:DNA1μg、L1フォワードプライマー(配列番号3)またはL2リバースプライマー(配列番号4)の各々25pmol、200μMdNTP、10mMトリス−HCl pH8.8、50mM KCl、1.5mM MgCl2および5単位のTaqポリメラーゼ。サイクリング条件は、94℃で5分間の初期変性工程、次いで94℃で60秒;55℃で60秒;および72℃で60秒の25サイクル、72℃で7分間と4℃で保持の最終伸長工程を使用した。試料は、アガロースゲル電気泳動により可視化した。ldh遺伝子は、以下のように、pBAD−TOPOベクター(Invitrogen)にサブクローン化した:GenecleanedPCR生成物(上記)2μlをpBAD−TOPOベクター1μlと供給された塩溶液1μlに、5μlの最終反応容量で加え、室温で5分間インキュベートした。大腸菌TOP10−F’コンピーテントな細胞を、最終反応物2μlを用いて熱ショックにより形質転換し、SOC培地中で37℃1時間インキュベートしたのち、細胞を100μg/mlアンピシリンを補足した乾燥LBアガープレート上に載せ、プレートを37℃で一晩、反転位置でインキュベートした。

陽性クローン
【0066】
陽性クローンをPCRで増幅した。一コロニーを、pBADフォワードプライマー(配列番号7)またはL1リバースプライマーを各々50pmol、200μM dNTP、10mMトリス−HCl pH8.8、50mM KCl、1.5mM MgCl2および5単位のTaqポリメラーゼを含有するPCRマスターミックスに加えた。サイクリング条件は、94℃で5分間の初期変性工程、次いで94℃で60秒;55℃で60秒;および72℃で60秒の25サイクル、72℃で7分間と4℃で保持の最終伸長工程を使用した。試料は、アガロースゲル電気泳動により可視化した。

組換えLDHタンパク質の発現
【0067】
各陽性形質転換体を、振盪しながら、100μg/mlアンピシリンを補足したLB10ml中で、37℃で一晩培養した。培養物100μlを、翌朝新鮮なブロス10mlに接種するのに使用し、それを引き続き、振盪しながら、0.5のOD600が得られるまで培養した。タンパク質発現は、20%(w/v)L−アラビノースを添加し、次いでさらに37℃で4時間インキュベートすることにより誘起した。細胞は、4000xgで15分間遠心分離してペレット化し、SDS−PAGEバッファー100μl中に再懸濁した。試料を70℃で5分間加熱し、5μlをゲル上に分画し、前記と同様にトランスブロッティングした。タンパク質のバンドを、抗V5エピトープtag抗体の1:5000希釈物を用い、次いで、抗マウスアルカリ性ホスファターゼコンジュゲートとBCIP/NBT株でインキュベートすることにより検出した。

組換えタンパク質の精製
【0068】
培養物50mlを培養し、タンパク質発現を上記のように誘起した。回収された細胞は、Bio X-presser 細胞ディスインテグレーター (LKB Instruments)を用いて溶解した。タンパク質を、製造者の指示書に従って用いた、ProBond 精製システム(Invitrogen)を用いて精製した。タンパク質を、50mM、200mM,350mMおよび500mMイミダゾール溶出バッファー5mlを連続的に用いてイミダゾール濃度を連続的に増大させて1mlの分画を集めるか、あるいは元来のpH溶出バッファー5mlを適用して1mlの分画を集めるかの何れかにより溶出した。画分は、SDS−PAGEおよびウエスタンブロッティングにより、特に前記したように、分析した。

患者の血清を用いるSDS−PAGEおよびウエスタンブロッティング
【0069】
組換えタンパク質を含有する画分を、SDS−PAGEゲル上で操作し、確認されたC.ディフィシル感染症の患者10人からの血清と4つの対照用血清を用いて、免疫ブロッティングした。

患者の血清を用いる2Dゲル電気泳動およびウエスタンブロッティング
試料調整
【0070】
10nMPBS中に懸濁したC.ディフィシル細胞を、氷上で、5回の1分間バーストで超音波処理した。得られた細胞を、13000rpmで5分間、遠心分離し、上清300μlを、冷アセトン中で45分間、20mlの10%トリクロロ酢酸/20mMDTT中で析出させた。タンパク質を13000rpmで5分間、遠心分離して回収し、得られたペレットを、20mMDTTを含有する冷アセトンで洗浄した。遠心分離と洗浄工程をさらに2回繰り返し、2Dゲル電気泳動により分画する前に、タンパク質を前と同様に遠心分離して回収した。

2Dゲル電気泳動
【0071】
タンパク質ペレットを試料再加水分解溶液に溶解し、同じ溶液で、等電点電気泳動用の適切な濃度に希釈した。等電点電気泳動は、各々のストリップ上にタンパク質約15μgを載せて、3〜10(7cm)の非直線的なpH範囲にわたって、合計1700Vhで、Zoom(登録商標)IPGRunner(商標)システム(Invitrogen Ltd, Carlsbad, CA, USA)を用いて行った。二次元分離の前に、ストリップを65mDTTを含む平衡化バッファー中で15分間、次いで、125mMヨードアセトアミドを含む同じバッファー中でさらに15分間平衡化した。
【0072】
二次元分離は、NuPage4〜12%Bis-TrisZoom gel(Invitrogen Ltd, Carlsbad, Ca, USA)ゲルを用いて行った。タンパク質は、Invitrolon PVDF膜(Invitrogen Ltd, Carlsbad, Ca, USA)上にトランスブロッティングし、5%スキムミルク/0.1%Tween 20を含む10mM PBS中で1時間ブロックした。

ウエスタンブロッティング
【0073】
LDHの位置を同定するために、膜を1時間、ウサギの筋肉からLDHに対して生育されたポリクローナル抗LDHワサビペルオキシダーゼ抗体コンジュゲート(Abcam Limited, Cambridge, UK)と共にインキュベートした。抗体は、10mM PBS/0.1%Tween 20中で希釈した(1:500)。PBS−T中で洗浄したのち、ブロットをSigmaFast(商標)3,3’−ジアミノベンジジン錠(DAB)を用いて現像した。
【0074】
30〜40kDaのC.ディフィシルタンパク質(一次元SDS−PAGEおよびウエスタンブロッティングにより決定された)に免疫反応性であることが知られており、それ故、潜在的にLDH免疫反応性である、患者の血清は、LDHの同定について上記したと同じ方法で、二次元ブロットを探査するために選択された。膜は、PBS−T中、血清で希釈されて(1:20)、50分間インキュベートした。PBS−T中でブロットを洗浄した後、一次抗体は、二次抗ヒトIgGアルカリ性ホスファターゼコンジュゲート(Fc特異的)を用いて検出した。一次/二次抗体複合体は、SigmaFast(商標)リン酸5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル/ニトロブルーテトラゾリウム錠を用いて検出した。

結 果
試 料
【0075】
試験した試料のうち24個がC.ディフィシルTOX A/BII試験で陽性であり、黄色(陽性)反応を与えた。特性は、コロニーおよびグラムモルホロジー(血液寒天上で大きな楕円形のサブ末端芽胞を有するグラム陽性バシルス(Bacillus))、酵素的加水分解PRO試験(暗ピンク色〜赤色の外観)により確認され、またラテックス凝集試験は、2分以内に目に見える凝集塊を与え、C.ディフィシルの存在を示した。全抗原は、臨床的単離物およびC.ディフィシルの標準(National Collection of Type Culture (NCTC) 11204, PHILS, London, UK)株の双方の培養物から提供された。

SDS−PAGE
【0076】
C.ディフィシル全細胞抽出物のOWL銀染色は、20〜200kDaの分子サイズを有するタンパク質バンドを示した。

ウエスタンブロッティング
患者と対照血清試料を用いるC.ディフィシルの全細胞抽出物のIgGブロッティングの結果、二つの群の間で統計的に有意な差異を有する見かけ上の分子量36kDaのタンパク質が検出された。このタンパク質は、20の対照試料中では7つであるのに対して、24の患者試料中のうちの21で検出された(c 2=12.37、P値0.001)。他の免疫優位な抗原は、43、55および70kDaに明らかに見出された(表1)
【0077】
【表1】


タンパク質の配列決定
【0078】
36kDaのバンドからの最初の10アミノ酸残基は、N−末端配列決定により得られ、表2に示す。このアミノ酸配列は、BCM Search Launcher (www.searchlauncher.bcm.tmc.edu/)に入っており、それは、合致性を戻してきて、表3に示すように、ldhと60%の相同性を示す。
【0079】
【表2】

【0080】
【表3】


ゲノムライブラリー
【0081】
ゲノムDNAをHindIIIで部分的に消化して、2〜5Kbpの範囲のDNAフラグメントを製造した。部分的に消化されたDNAはpTZ18Rに連結し、大腸菌に形質転換した。組換えクローンを生育についてスクリーニングし、配列決定した。これに由来するプライマーは、pGEM−T easy(Promega)中で調製されたライブラリーからのldh遺伝子をPCRするために使用し、大腸菌JM109に形質転換した。組換えクローンは、PCRで確認し、配列決定のために選択した。

DNA配列決定
【0082】
双方の生成物の配列決定は、ldh遺伝子を含むオープン・リーディング・フレームを明らかにした。インサートは、950塩基対の長さであり、310アミノ酸をコードしていた。これは、7つの他のLDHタンパク質と部分的に合致(29〜42%の相同性)した(ラクトバシルス(Lactobacillus spp.)、ペディコッカス・アシディラクチシ(Pediococcus acidilactici)、リューコノストック・メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides)および大腸菌を含む)。

SDS−PAGEおよびウエスタンブロッティング
【0083】
組換えLDHタンパク質は、10の患者抗血清のうち8つの中に含有される抗体により認識された。対照的に、組換えタンパク質は、4つの対照血清のいずれを用いても、ウエスタンブロットにおいて検出されなかった。

2Dゲル電気泳動および免疫ブロッティング
【0084】
市販の抗乳酸脱水素酵素抗体を用いて、2Dブロット上でLDHタンパク質を同定することが可能であった。強いスポットが2個のみ、抗体により可視化され、そのうちの1個のみが、推定された分子量(約34kDa)および推定された等電点(4.95と算定)を示した。分析された3つの患者血清のうち、それらの全てがLDHへの抗体を含んでいた。1つの患者の抗体は、ほぼ排他的にLDHに反応性であった。

要 約
【0085】
これらの実験は、C.ディフィシルに感染した患者から得られた血清中の抗体により認識されるタンパク質としてのLDHの同定について記述している。

実 施 例
【0086】
C.ディフィシルに感染した患者を処置するために、細菌性LDHタンパク質またはLDHタンパク質由来のエピトープに特異的な抗体またはその抗原結合性フラグメントが経口的にまたは経静脈的に投与される。好適な用量は、用量反応アッセイを用いて容易に決定される。
【0087】
患者は、抗体および糖ペプチド抗生物質、例えばバンコマイシンの治療上有効な組み合わせを用いて処置される。糖ペプチド抗生物質は、経口的に、例えば錠剤またはカプセルとして投与される。糖ペプチド抗生物質の好適な用量は、当業者に周知である。抗生物質は、例えば同じ処方物中で抗体と共に投与されるか、あるいは抗生物質は、抗体の投与とほぼ同時に投与される。細菌性LDHタンパク質またはLDHタンパク質由来のエピトープに特異的な抗体またはその抗原結合性フラグメントは、経口的にまたは経静脈的に投与される。好適な用量は、用量反応アッセイを用いて容易に決定される。
【0088】
C.ディフィシル感染への感受性を減少または除去するようにヒトにワクチン接種するためにあるいは細菌に対する患者の免疫応答を促進するために、ワクチンを、細菌への免疫応答を組み込み得るか組み込み得ない患者、例えばCDADまたはC.ディフィシル大腸炎を患っている患者に投与する。ワクチンは、細菌抽出物、または組換えLDHタンパク質、またはそのタンパク質由来のエピトープ、あるいはそれらの組み合わせを含んでなる。細菌への免疫応答を組み込むことができないそれらの患者に対しては、LDHまたはそのエピトープを含むワクチンは、それによって患者の免疫系が好適な応答を取り込むことを促進する手段を意味する。抗体応答は、患者からの試料における抗LDH抗体のレベルをモニターすることにより決定される。ワクチンは、ワクチン成分の免疫原性を向上または改善するアジュバントを含む。免疫応答が弱い患者は、ワクチンの多数回用量を一定の期間をおいて投与するような、再チャレンジを受ける。
【0089】
C.ディフィシルは、患者から例えば血液試料を採り、それをC.ディフィシルLDHに特異的な抗体またはその抗原結合性フラグメントと接触させることにより、患者の試料中で検出される。例えば、特異的な抗LDH抗体を用いるSDS−PAGEおよびウエスタンブロッティングが、試料中にC.ディフィシルが存在するか否かを決定するために使用され、ウエスタンブロッティングにより決定された陽性反応、すなわち、LDHの分子量に対応するタンパク質の検出が、試料中のC.ディフィシルの存在を示す。
【0090】
C.ディフィシル抗原に特異的な抗体は、患者から採られた試料中で、例えばSDS−PAGEおよびウエスタンブロッティングを用いて検出される。例えば、組換え細菌性LDH、その抗原性フラグメント、または細菌抽出物は、SDS−PAGEにより分画され、患者の抗血清で探査される。ウエスタンブロッティングにより決定された陽性反応、すなわち、LDHの分子量に対応するタンパク質の検出が、患者試料中の抗C.ディフィシル抗体の存在を示す。
【0091】
C.ディフィシルLDHに特異的な抗体またはその抗原結合性フラグメントは、診断試験キット中に含まれている。同様に、診断試験キットは、組換え細菌性LDH、そのフラグメント、または細菌抽出物を含んでなる。
【0092】
C.ディフィシルLDHに特異的な抗体またはその抗原結合性フラグメントは、クロストリジウム・ディフィシル感染症の処置用の医薬パック中に含まれる。その医薬パックは、治療上有効量の糖ペプチド抗生物質、例えばバンコマイシンを含んでなる。
【配列表】








【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号2のアミノ酸配列または配列番号2のアミノ酸配列と少なくとも70、80、90、95、96、97、98、99、もしくは99.5%の同一性を示すアミノ酸配列を含んでなる、クロストリジウム・ディフィシル乳酸脱水素酵素。
【請求項2】
請求項1に記載のクロストリジウム・ディフィシル乳酸脱水素酵素をコードする単離核酸分子。
【請求項3】
配列番号1の核酸配列を含んでなる、請求項2記載の単離核酸分子。
【請求項4】
請求項2または3の何れか一項の核酸分子を含んでなる、核酸ベクター。
【請求項5】
請求項4のベクターを含む宿主細胞。
【請求項6】
請求項1に記載のクロストリジウム・ディフィシル乳酸脱水素酵素を含んでなるポリペプチドの製造方法であって、そのポリペプチドの製造に十分な条件下に請求項5の宿主細胞を培養することおよびそのポリペプチドを回収することを含んでなる方法。
【請求項7】
ベクターが、プラスミド、ウイルス、およびバクテリオファージよりなる群から選択されるものである、請求項4に記載のベクター。
【請求項8】
クロストリジウム・ディフィシル乳酸脱水素酵素を含んでなるポリペプチドをそのベクターで形質転換された細胞により発現できるように、その単離核酸分子が適正な配向と正しいリーディング・フレームでベクターに挿入されている、請求項7に記載のベクター。
【請求項9】
その単離核酸分子がプロモーター配列に動作可能なように結合されている、請求項8に記載のベクター。
【請求項10】
請求項1に記載のクロストリジウム・ディフィシル乳酸脱水素酵素に特異的な、抗体またはその抗原結合性フラグメント。
【請求項11】
人体または動物体の処置方法または診断方法において使用する、請求項10に記載の抗体またはその抗原結合性フラグメント。
【請求項12】
請求項10に記載の抗体またはその抗原結合性フラグメントの使用を含んでなる、クロストリジウム・ディフィシル感染症の処置用医薬の製造方法。
【請求項13】
治療上有効量の抗生物質および請求項1に記載のクロストリジウム・ディフィシル乳酸脱水素酵素に特異的な抗体またはその抗原結合性フラグメントを含んでなる、医薬。
【請求項14】
人体または動物体の処置方法または診断方法において使用する、請求項13に記載の医薬。
【請求項15】
クロストリジウム・ディフィシル感染症の処置用である、請求項13に記載の医薬。
【請求項16】
治療上有効量の抗生物質および請求項1に記載のクロストリジウム・ディフィシル乳酸脱水素酵素に特異的な抗体またはその抗原結合性フラグメントの使用を特徴とする、クロストリジウム・ディフィシル感染症の処置用医薬の製造方法。
【請求項17】
治療上有効量の抗生物質および請求項1に記載のクロストリジウム・ディフィシル乳酸脱水素酵素に特異的な抗体またはその抗原結合性フラグメントを、それを必要とする患者に投与する工程を含んでなる、クロストリジウム・ディフィシル感染症の処置方法。
【請求項18】
請求項1に記載のクロストリジウム・ディフィシル乳酸脱水素酵素の試料中での存在を検出する診断試験方法であって、
i)試料とそのクロストリジウム・ディフィシル乳酸脱水素酵素に特異的な抗体またはその抗原結合性フラグメントとを接触させ、
ii)抗体−抗原結合反応を検出し;
iii)検出工程(ii)の結果を、その試料中のそのクロストリジウム・ディフィシル乳酸脱水素酵素の存在と関連付ける、
工程を含んでなる方法。
【請求項19】
請求項1に記載のクロストリジウム・ディフィシル乳酸脱水素酵素に特異的な抗体の試料中での存在を検出する診断試験方法であって、
i)試料とそのクロストリジウム・ディフィシル乳酸脱水素酵素とを接触させ、
ii)抗体−抗原結合反応を検出し;
iii)検出工程(ii)の結果を、その試料中のそのクロストリジウム・ディフィシル乳酸脱水素酵素に特異的な抗体の存在と関連付ける、
工程を含んでなる方法。
【請求項20】
試料が患者からの試料である、請求項18または19のいずれか一項に記載の診断試験方法。
【請求項21】
請求項18〜20のいずれか一項に記載の診断試験方法を行うための診断試験キット。
【請求項22】
治療上有効量の抗生物質および請求項1に記載のクロストリジウム・ディフィシル乳酸脱水素酵素に特異的な抗体またはその抗原結合性フラグメントを含んでなる、クロストリジウム・ディフィシル感染症の処置用の医薬パック。
【請求項23】
その抗生物質がバンコマイシン、ラモプラニン、テイコプラニン、またはメトロニダゾールである、請求項12〜22のいずれか一項に記載の医薬、製造方法、処置方法、診断試験方法、診断試験キット、または医薬パック。
【請求項24】
その感染症がクロストリジウム・ディフィシルによるものである、請求項12〜22のいずれか一項に記載の医薬、製造方法、処置方法、診断試験方法、診断試験キット、または医薬パック。
【請求項25】
その細菌がその抗生物質のみでの処置に耐性である、請求項12〜22のいずれか一項に記載の医薬、製造方法、処置方法、診断試験方法、診断試験キット、または医薬パック。

【公表番号】特表2006−524501(P2006−524501A)
【公表日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−506061(P2006−506061)
【出願日】平成16年3月25日(2004.3.25)
【国際出願番号】PCT/GB2004/001383
【国際公開番号】WO2004/085637
【国際公開日】平成16年10月7日(2004.10.7)
【出願人】(500030172)ニュウテック ファーマ パブリック リミテッド カンパニー (6)
【Fターム(参考)】