説明

グリコーゲンシンターゼキナーゼ−3阻害剤

GSK−3の活性を阻害することができる新規なコンジュゲート、その製造方法、かかるコンジュゲートを含む医薬組成物、及びGSK−3によって媒介された状態の治療におけるその使用方法が開示される。さらに、GSK−3阻害剤を使用して情動障害を治療する方法が開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリコーゲンシンターゼキナーゼ−3(GSK−3)を阻害するための新規なコンジュゲート、およびGSK−3活性により媒介される生物学的状態の調節におけるその使用に関し、より具体的には、II型糖尿病、神経変性障害および神経変性疾患、ならびに情動障害などの生物学的状態の治療におけるかかるコンジュゲートの使用に関する。本発明はさらに、GSK−3阻害剤を使用して情動障害を治療する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プロテインキナーゼは、タンパク質基質をリン酸化する酵素であり、細胞外の事象を細胞質および核にシグナル伝達する際に重要な役割を果たすものであり、有糸分裂、分化およびアポトーシスを含む、細胞の生死に関係する事実上すべての事象に関与している。そのため、プロテインキナーゼは、これまで長い間、好都合な薬物標的であった。プロテインキナーゼの活性は細胞の満足すべき状態にとって極めて重要であるが、その一方で、その阻害は、多くの場合、細胞死をもたらすので、薬物標的としてのその使用は限られている。細胞死は、抗ガン薬物のための望ましい効果ではあるが、ほとんどの他の治療剤のためには大きな欠点である。
【0003】
グリコーゲンシンターゼキナーゼ−3(GSK−3)はプロテインキナーゼファミリーのメンバーであり、インスリンのシグナル伝達および代謝調節、および同様に、胚発達時におけるWntシグナル伝達および細胞運命スキームに関与する細胞質セリン−トレオニンキナーゼである。GSK−3αおよびGSK−3βと呼ばれるこの酵素の2つの類似するイソ型が同定されている。
【0004】
GSK−3は、典型的にはシグナル伝達経路によって活性化される他のプロテインキナーゼとは異なり、通常、休止細胞において活性化され、その活性は、インスリンがその細胞表面受容体に結合することにより生じるシグナル伝達経路などの特定のシグナル伝達経路の活性化によって弱められるので、これまで長い間、プロテインキナーゼファミリーの中で好都合な薬物標的であると見なされてきた。インスリン受容体の活性化はプロテインキナーゼB(PKB、これはまたAktとも呼ばれる)の活性化をもたらし、プロテインキナーゼBの活性化は次にGSK−3をリン酸化し、それによりGSK−3を不活性化する。GSK−3の阻害はグリコーゲン合成の活性化をもたらすと推定される。複雑なインスリンシグナル伝達経路は、セリン残基においてインスリン受容体基質−1をリン酸化するGSK−3自身によるインスリンシグナル伝達の負のフィードバック調節によってさらに複雑になっている(Eldar−Finkelman他、1997)。
【0005】
従って、合成されたGSK−3阻害剤は、GSK−3経路を使用する特定のホルモンおよび増殖因子(例えば、インスリンなど)の作用を模倣し得る。ある種の病理学的状態では、このスキームは、欠陥のある受容体、またはシグナル伝達機構の別の誤った成分の迂回を可能にし、その結果、インスリン非依存性II型糖尿病の場合のように、シグナル伝達カスケードのいくつかの上流側の関与体が正常でないときでさえ、生物学的シグナルが効力を生じるようにすることができる。
【0006】
細胞におけるグリコーゲン異化作用の調節は、ホルモンのインスリンを含む様々なシグナル伝達要素の複雑な配置を包括する極めて重要な生物学的機能である。様々な媒介因子を介して、インスリンは、グリコーゲンシンターゼ(GS)によるグリコーゲンの合成を増大させることによってその調節作用を発揮する。インスリン作用における重要な事象は、多数のチロシン残基におけるインスリン受容体基質(IRS−1、IRS−2)のリン酸化であり、その結果、PI3キナーゼを含む数個のシグナル伝達成分の同時活性化がもたらされる(Myers他、1992)。同様に、グリコーゲンシンターゼの活性はそのリン酸化によって抑制される。II型糖尿病患者の筋肉におけるグリコーゲンシンターゼ活性およびグリコーゲン濃度の顕著な低下が認められている(Damsbo他、1991;Nikoulina他、1997;Shulman他、1990)。
【0007】
II型糖尿病(インスリン非依存性糖尿病)の発症に関連する最も初期の変化の1つはインスリン耐性である。インスリン耐性は、高インスリン血症および高血糖によって特徴づけられる。インスリン耐性を生じさせる正確な分子機構は不明であるが、インスリンシグナル伝達経路の下流側成分の欠陥が原因であると考えられている。
【0008】
グリコーゲンシンターゼキナーゼ−3(GSK−3)はインスリンシグナル伝達経路の下流側成分の1つである。GSK−3の大きな活性は、インスリン受容体基質−1(IRS−1)のセリン残基をリン酸化することによって、無傷の細胞においてインスリンの作用を損なうことが見出され(Eldar−Finkelman他、1997)、また同様に、細胞において発現する増大したGSK−3活性はグリコーゲンシンターゼ活性の抑制をもたらすことが見出された(Eldar−Finkelman他、1996)。これに関連して行われたさらなる研究により、GSK−3活性が糖尿病マウスの精巣上体脂肪組織において著しく増大していることが明らかにされた(Eldar−Finkelman他、1999)。その後、増大したGSK−3活性がII型糖尿病患者の骨格筋において検出された(Nickoulina他、2000)。さらなる近年の研究では、グリコーゲン代謝およびインスリンシグナル伝達におけるGSK−3の役割がさらに明らかにされた(総説については、Eldar−Finkelman他、2002;GrimesおよびJope、2001;Woodgett、2001を参照のこと)。それにより、GSK−3活性の阻害は、インスリン活性をインビボで増大させる方法であり得ることが示唆された。
【0009】
GSK−3はまた、アルツハイマー病の病理発生における重要な関与体であると考えられている。GSK−3が、対らせんフィラメント(PHF)の形成(アルツハイマー病の初期の特徴)に関与するタウ(微小管結合タンパク質)をリン酸化するキナーゼの1つとして同定された。外見的には、タウの異常な過剰リン酸化は、微小管の脱安定化およびPHF形成に対する原因である。いくつかのプロテインキナーゼは、タウのリン酸化を促進することが示されたという事実にもかかわらず、GSK−3のリン酸化のみが、微小管の自己アセンブリーを促進するタウの能力に直接的な影響を及ぼすことが見出された(Hanger他、1992;Mandelkow他、1992;Mulot他、1994;Mulot他、1995)。この点におけるGSK−3の役割に対するさらなる証拠が、GSK−3を過剰発現する細胞の研究からもたらされ、また、GSK−3を脳において特異的に発現する遺伝子組換えマウスからもたらされた。両方の場合において、GSK−3はPHF様エピトープのタウの生成をもたらした(Lucas他、2001)。
【0010】
GSK−3は、細胞のアポトーシスにおけるその役割によってアルツハイマー病とさらに関係づけられる。インスリンはニューロンの生存因子であるという事実(Barber他、2001)、インスリンはPI3キナーゼおよびPKBの活性化によりその抗アポトーシス作用を開始するという事実(Barber他、2001)から、これらのシグナル伝達成分による負の調節を受けるGSK−3はニューロンのアポトーシスを促進することが示唆された。いくつかの研究では、実際にこの見解が確認され、GSK−3が生死の決定において極めて重要であることが示された。その上、そのアポトーシス機能は、PI3キナーゼとは独立していることが示された。PC12細胞におけるGSK−3の過剰発現はアポトーシスを引き起こした(Pap他、1998)。小脳顆粒ニューロンにおけるGSK−3の活性化は遊走および細胞死を媒介した(Tong他、2001)。ヒト神経芽細胞腫SH−SY5Y細胞において、GSK−3の過剰発現は、スタウロアポリン誘導の細胞アポトーシスを促進させた(Bijur他、2000)。
【0011】
GSK−3阻害と、細胞死の防止との関係が、Frat1(GSK−3β阻害剤)の発現が、PI3キナーゼの阻害により誘導される死からニューロンを救うために十分であることを示した研究によってさらに明らかにされている(Crowder他、2000)。
【0012】
GSK−3の別の関わりが情動障害(すなわち、双極性障害および躁うつ病)に関連して検出された。このつながりは、リチウム(双極性疾患において頻繁に使用される最初の気分安定化剤)が、臨床において使用される治療的濃度範囲でGSK−3の強い特異的な阻害剤であるという知見(Klein他、1996;Stambolic他、1996;Phiel他、2001)に基づいていた。この発見は、リチウムが細胞プロセスにおいてGSK−3活性の喪失を模倣し得るかを明らかにするために始められた一連の研究に至った。実際に、リチウムは、グリコーゲン合成の活性化(Cheng他、1983)、β−カテニンの安定化および蓄積(Stambolic他、1996)、ツメガエル(Xenopus)胚における軸複製の誘導(Klein他、1996)、ならびにニューロン死の保護(Bijur他、2000)を引き起こすことが示された。バルプロ酸(別の一般に使用されている気分安定化剤)もまた、効果的なGSK−3阻害剤であることが見出されている(Chen他、1999)。まとめると、これらの研究は、GSK−3がリチウムおよびバルプロ酸の主要なインビボ標的であり、従って、情動障害の新規な治療的治療において重要な意味を有することを示している。
【0013】
リチウムおよび他のGSK−3阻害剤が、双極性障害を治療するために作用し得る1つの機構は、神経伝達物質のグルタミン酸によって誘導される異常に高いレベルの興奮にさらされたニューロンの生存を増大させることである(Nonaka他、1998)。グルタミン酸によって誘導されるニューロンの興奮性はまた、脳虚血、外傷性脳傷害および細菌感染などにおける急性損傷に伴う神経変性の主要な原因であると考えられている。その上、グルタミン酸の過度なシグナル伝達は、アルツハイマー病、ハンチングトン病、パーキンソン病、AIDS関連痴呆、筋萎縮性側索硬化症(AML)および多発性硬化症(MS)などの疾患において見られる慢性的なニューロン損傷における一因であると考えられている(Thomas、1995)。
【0014】
結果として、GSK−3阻害剤は、これらの神経変性障害および他の神経変性障害における有用な処置であると考えられる。実際に、GSK−3活性の調節異常が、近年、統合失調症(精神分裂病)(Beasley他、2001;Kozlovsky他、2002)、発作およびアルツハイマー病(AD)(BhatおよびBudd、2002;Hernandez他、2002;Lucas他、2001;Mandelkow他、1992)を含むいくつかのCNS障害および神経変性疾患に関係している。
【0015】
近年の研究では、GSK−3が、発達(He他、1995)、腫瘍形成(Rubinfeld他、1996)およびタンパク質合成(Welsh他、1993)を含むさらなる細胞応答に関与していることがさらに明らかにされている。重要なことは、GSK−3はこれらの経路において負の役割を果たしている。このことはさらに、GSK−3がシグナル伝達経路における細胞阻害剤であることを示唆している。
【0016】
様々なシグナル伝達経路におけるGSK−3の広範囲な関わりに照らして、GSK−3の特異的な阻害剤の開発は、基礎研究においてだけでなく、様々な治療的介入において重要な意味を有する。
【0017】
上記で述べられるように、一部の気分安定化剤は、GSK−3を阻害することが見出されていた。しかしながら、塩化リチウム(LiCl)によるGSK−3の阻害(PCT国際特許出願公開WO97/41854)およびプリン系阻害剤によるGSK−3の阻害(PCT国際特許出願公開WO98/16528)の両方が報告されているが、これらの阻害剤はGSK−3について特異的ではない。実際に、これらの薬物は多数のシグナル伝達経路に影響を及ぼし、イノシトールモノホスファターゼ(IMpase)およびヒストンデアセチラーゼなどの他の細胞標的を阻害することが示された(Berridge他、1989;PhielおよびKlein、2001)。
【0018】
同様に、処理されたcAMP応答エレメント結合タンパク質(CREB)(GSK−3の知られている基質)が、他の潜在的なGSK−3ペプチド阻害剤(Fiol他、1990)に加えて記載されている(Fiol他、1994)。しかしながら、これらの基質もまた、GSK−3活性を表面的に阻害しているにすぎない。
【0019】
他のGSK−3阻害剤が最近になって報告された。GSK−3を特異的に阻害する2つの構造的に関連する小分子(SB−216763およびSB−415286)(Glaxo SmithKlein Pharmaceutical)が開発され、これらは、グリコーゲン代謝および遺伝子転写を調節すること、ならびに、PI3キナーゼ活性の低下により誘導されるニューロン死から保護することが示された(Cross他、2001;Coghlan他、2000)。別の研究では、インジルビン(慢性骨髄性白血病に対する漢方の有効成分)がGSK−3阻害剤であることが示された。しかしながら、インジルビンはまた、サイクリン依存性プロテインキナーゼ−2(CDK−2)を阻害する(Damiens他、2001)。これらのGSK−3阻害剤はATP競合性であり、化学ライブラリーのハイスループットスクリーニングによって同定された。ATP競合性阻害剤の大きな欠点はその限られた特異性であることが一般に受け入れられている(Davies他、2000)。
【0020】
従って、サイズが小さく、特異性が大きく、かつ、非常に効果的なGSK−3のペプチド阻害剤であって、GSK−3活性に関連する状態(例えば、II型糖尿病、神経変性障害および情動障害など)を治療することにおいて有用である、上記の制限を有さない阻害剤が必要であることが広く認識されており、従って、そのようなGSK−3阻害剤を有することは非常に好都合である。
【発明の開示】
【0021】
本発明を考案しているとき、GSK−3の基質に由来するポリペプチド(好ましくは、短いポリペプチド)と、疎水性成分とのコンジュゲートが、GSK−3の特異的かつ効果的な阻害を発揮し、また、増強された細胞透過性によってさらに特徴づけられることが仮定された。
【0022】
本発明を実行に移す際、本明細書で下記において詳しく記載されるように、そのようなコンジュゲートはGSK−3活性を特異的かつ効果的に阻害し、その結果として、様々な治療的活性を発揮することが実際に見出された。
【0023】
従って、本発明の1つの態様によれば、グリコーゲンシンターゼキナーゼ−3(GSK−3)の活性を阻害することができるコンジュゲートが提供される。この場合、コンジュゲートは、
(a)下記のアミノ酸配列を有するポリペプチド
を含む:

式中、mは1または2に等しい;nは1〜50の整数である;S(p)はリン酸化セリン残基またはリン酸化トレオニン残基である;Zは、セリン残基またはトレオニン残基を除く任意のアミノ酸残基である;X、X、X、Y〜YおよびW〜Wは、それぞれが独立して、任意のアミノ酸残基である。
【0024】
下記に記載される本発明の好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、少なくとも1つの疎水性成分がポリペプチドのN末端および/またはC末端に結合し、好ましくはポリペプチドのN末端に結合する。
【0025】
記載された好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、少なくとも1つの疎水性成分は疎水性ペプチド配列を含み、それにより、疎水性ペプチド配列は、好ましくは、アラニン残基、システイン残基、グリシン残基、イソロイシン残基、ロイシン残基、バリン残基、フェニルアラニン残基、チロシン残基、メチオニン残基、プロリン残基およびトリプトファン残基からなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸残基を含む。
【0026】
記載された好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、少なくとも1つの疎水性成分は、少なくとも1つのアミノ酸残基に好ましくは結合する脂肪酸を含む。
【0027】
記載された好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、脂肪酸は、ミリスチン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸およびリノレン酸からなる群から選択され、好ましくはミリスチン酸である。
【0028】
記載された好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、Xは、グルタミン酸残基を除く任意のアミノ酸残基であり、Zはアラニン残基であり、かつ/または、nは1〜15の整数であり、好ましくは1〜10の整数である。
【0029】
本発明の好ましい実施形態において、コンジュゲートは、配列番号16に示されるアミノ酸配列を有する。
【0030】
本発明の別の態様によれば、GSK−3の活性を阻害する方法であって、GSK−3を発現する細胞を本明細書中上記で記載されたコンジュゲートの効果的な量と接触させることを含む方法が提供される。
【0031】
活性はリン酸化活性および/または自己リン酸化活性である。細胞を接触させることはインビトロまたはインビボで達成することができる。
【0032】
下記に記載される本発明の好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、この方法はさらに、前記細胞を、GSK−3の活性を変化させることができる少なくとも1つのさらなる活性な成分と接触させることを含む。
【0033】
さらなる活性な成分はインスリンであり得るか、または、GSK−3の活性を阻害することができる任意の活性な成分、例えば、限定されないが、リチウム、バルプロ酸およびリチウムイオンなどであり得る。
【0034】
あるいは、さらなる活性な成分は、GSK−3の発現をダウンレギュレーションすることができる活性な成分、例えば、ポリヌクレオチド、より好ましくは、細胞内でのGSK−3 mRNAの分解を生じさせるために向けられた小さい干渉性ポリヌクレオチド分子などであり得る。
【0035】
小さい干渉性ポリヌクレオチド分子は、RNAi分子、アンチセンス分子、リボザイム分子およびDNAザイム分子からなる群から選択することができる。
【0036】
本発明のさらに別の態様によれば、インスリンシグナル伝達を強化する方法であって、インスリン応答性細胞を本明細書中上記で記載された本発明のコンジュゲートの効果的な量とインビトロまたはインビボで接触させることを含む方法が提供される。
【0037】
下記に記載される本発明の好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、この方法はさらに、前記細胞をインスリンと接触させることを含む。
【0038】
本発明のさらに別の態様によれば、GSK−3活性に関連する生物学的状態を治療する方法であって、その必要性のある対象に本発明のコンジュゲートの治療効果的な量を投与することを含む方法が提供される。
【0039】
下記に記載される本発明の好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、生物学的状態は、肥満、インスリン非依存性糖尿病、インスリン依存性状態、情動障害、神経変性疾患または神経変性障害、および精神病的な疾患または障害からなる群から選択される。
【0040】
記載された好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、情動障害は、単極型障害(例えば、うつ病)および双極性障害(例えば、躁うつ病)からなる群から選択される。
【0041】
記載された好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、神経変性障害は、脳虚血、発作、外傷性脳傷害および細菌感染からなる群から選択される事象から生じる。
【0042】
記載された好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、神経変性障害は慢性の神経変性障害であり、好ましくは、アルツハイマー病、ハンチングトン病、パーキンソン病、AIDS関連痴呆、筋萎縮性側索硬化症(AML)および多発性硬化症からなる群から選択される疾患から生じる慢性の神経変性障害である。
【0043】
記載された好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、精神病的障害は統合失調症である。
【0044】
記載された好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、本発明のこの態様による方法はさらに、本明細書中上記で記載されるようにGSK−3の活性を変化させることができる少なくとも1つのさらなる活性な成分を対象に同時投与することを含む。
【0045】
本発明のさらなる態様によれば、活性な成分としての本発明のコンジュゲートと、医薬的に許容され得るキャリアとを含む医薬組成物が提供される。医薬組成物はさらに、本明細書中上記で記載されるようにGSK−3の活性を変化させることができる少なくとも1つのさらなる活性な成分を含むことができる。
【0046】
好ましい実施形態において、医薬組成物は、本明細書中上記において詳しく記載されるように、GSK−3活性に関連する生物学的状態の治療における使用のために、包装用材料に詰められ、包装用材料の表面またはその中での活字で識別される。
【0047】
特許請求される医薬組成物は、エアロゾル、水溶液、ボーラス剤、カプセル、コロイド、遅延放出剤、デポー剤、溶解可能な粉末、滴剤、エマルション、侵食性インプラント、ゲル、ゲルカプセル、顆粒剤、注射液、摂取可能な溶液、吸入可能な溶液、ローション、オイル溶液、ピル、坐薬、膏薬、懸濁物、持続放出剤、シロップ、錠剤、チンキ剤、局所用クリーム、経皮送達形態からなる群から選択される送達形態物に配合することができる。
【0048】
本発明のさらなる態様によれば、本明細書中上記で記載されたコンジュゲートを製造するプロセスであって、本明細書中上記で記載されたポリペプチドを提供すること、本明細書中上記で記載された少なくとも1つの疎水性成分を提供すること、および、少なくとも1つの疎水性成分とポリペプチドとをコンジュゲート化することを含むプロセスが提供される。
【0049】
ポリペプチドを提供することは、ポリペプチドを化学合成することによって、または、ポリペプチドを組換え製造することによって達成することができる。
【0050】
本発明のさらなる態様によれば、情動障害を治療する方法であって、GSK−3の活性を特異的に阻害することができる少なくとも1つの化合物の治療効果的な量をその必要性のある対象に投与することを含む方法が提供される。
【0051】
本発明のさらなる態様によれば、対象の海馬におけるβ−カテニンの濃度をアップレギュレーションする方法であって、GSK−3の活性を特異的に阻害することができる少なくとも1つの化合物の効果的な量を対象に投与することを含む方法が提供される。
【0052】
下記に記載される本発明の好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、化合物は、本明細書中上記で記載されるようなアミノ酸配列

を有するポリペプチドである。
【0053】
記載された好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、ポリペプチドは、配列番号5、配列番号6、配列番号8、配列番号9および配列番号12に示されるアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する。
【0054】
記載された好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、ポリペプチドはさらに、本明細書中上記で記載されるように、ポリペプチドに結合する少なくとも1つの疎水性成分を含む。
【0055】
記載された好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、化合物は、配列番号6に示されるアミノ酸配列を有する。
【0056】
本発明は、GSK−3活性を非常に特異的かつ効果的な様式で阻害することができ、従って、様々な生物学的状態の治療において効率的に使用することができる新規なコンジュゲートを提供することによって、現在知られている形態の欠点を対処することに成功している。
【0057】
別途に定義されない場合、本明細書中で使用されるすべての技術的用語および科学的用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書中に記載される方法および材料と同様または同等である方法および材料を本発明の実施または試験において使用することができるが、好適な方法および材料が下記に記載される。矛盾する場合には、定義を含めて、本特許明細書が優先する。また、材料、方法および実施例は例示にすぎず、限定であることは意図されない。
【0058】
本発明は、例としてだけであるが、添付されている図面を参照して、本明細書中に記載される。次に図面を詳しく具体的に参照して、示されている細目は、例としてであり、また、本発明の好ましい実施形態の例示的な議論のためのものであり、従って、本発明の原理および概念的態様の最も有用かつ容易に理解された記述であると考えられるものを提供するために示されていることが強調される。これに関して、記述を図面と一緒に理解することにより、本発明のいくつかの形態が実際にどのように具体化され得るかが当業者には明らかになるので、発明の構造的詳細を、発明の基本的な理解のために必要であるよりも詳細に示すことは試みられていない。
図面の簡単な記述
図1はリン酸化ペプチド阻害剤のHZ13(図1a)、pAHSFおよびL803(図1b)のGSK−3阻害活性を明らかにするプロットを示す。PGS−1ペプチド基質をリン酸化するGSK−3の能力が、示された濃度のペプチド阻害剤の存在下で測定された。結果は、ペプチド阻害剤が省かれたコントロールのインキュベーションでのGSK−3活性の百分率を表す。結果は、それぞれの点が三連で測定された3回の独立した実験の平均値±SEMである。
図2は示された濃度におけるL803によるGSK−3の阻害を表し、このGSK−3ペプチド阻害剤が競合的かつ特異的な阻害剤であることを明らかにするラインウィーバー・バークプロットである。結果はPGS−1ペプチド基質へのリン酸取込み(CPM)を表す。結果は4つのうちの1つの代表的な実験を示す。それぞれの点は二連サンプルの平均値である。計算されたKiは70±10μMである。
図3はL803−mts(本発明によるコンジュゲートの代表例)の速度論的分析を明らかにするプロットを示す(図3a〜図3b)。図3aは、L803−mtsのGSK−3阻害活性を明らかにするプロットを示す。PGS−1ペプチド基質をリン酸化するGSK−3の能力が、示された濃度のL803−mtsの存在下で測定された。結果は、ペプチド阻害剤が省かれたコントロールのインキュベーションでのGSK−3活性の百分率を表す。結果は、それぞれの点が三連でアッセイされた2回の独立した実験の平均値±SEMである。図3bは、示された濃度におけるL803−mtsによるGSK−3の阻害を表すラインウィーバー・バークプロットを示す。結果はPGS−1ペプチド基質へのリン酸取込み(CPM)を表す。結果は3つのうちの1つの代表的な実験を示す。それぞれの点は二連サンプルの平均値である。
図4はインビトロでのGSK−3活性に対するL803−mtsおよびcpL803−mtsの影響を明らかにする比較プロットを示す。PGS−1ペプチド基質をリン酸化する精製された組換えGSK−3βの能力が、示された濃度のL803−mts(黒丸)または変性処理コントロールペプチドcpL803−mts(cp、白丸)の存在下で測定された。結果はペプチド阻害剤の非存在下でのGSK−3活性の百分率を表す。結果は、それぞれの点が三連でアッセイされた3回の独立した実験の平均値±SEMである。
図5は無傷の細胞におけるL803−mtsのGSK−3阻害活性を明らかにする比較プロットおよび棒グラフを示す(それぞれ、図5a〜図5b)。HEK293細胞が、示された濃度で2.5時間、L803−mtsまたはコントロールペプチドのLE803−mtsもしくはLS803−mtsで処理され、その後、溶解物上清がグリコーゲンシンターゼ活性についてアッセイされた。ビヒクルのみ(0.1%DMSO)で処理された細胞におけるグリコーゲンシンターゼの活性が1ユニットに正規化され、L803−mtsで処理された細胞(黒丸)、ならびに、そのそれぞれのコントロールのLE803−mtsで処理された細胞(白丸)およびLS803−mtsで処理された細胞(x付き丸)において観測されたグリコーゲンシンターゼ活性に対する値が、ビヒクルのみで処理された細胞に対する刺激倍数として図5aに示される。データは、それぞれの点が二連でアッセイされた3回の独立した実験の平均値±SEMである。は、コントロールペプチドで処理された細胞において得られた値よりも有意に大きい値であることを示す。図5bは、LE803−mtsおよびLS803−mts(それぞれ50μM)の阻害活性と比較して、L803−mtsによる精製GSK−3βの阻害活性を示す。
図6はインスリンの非存在下(図6a)および存在下(図6b)におけるグルコース取り込みに対するL803−mtsの影響を明らかにするプロットを示す。脂肪細胞をマウスの精巣上体脂肪組織から得て、L803−mtsと75分間インキュベーションした。細胞内へのグルコース取り込みが、[H]2−デオキシグルコースを用いてアッセイされた。コントロールペプチドLE803−mtsで処理された脂肪細胞において観測された相対的な[H]2−デオキシグルコース取り込みが1ユニットに正規化された。LE803−mtsで処理された脂肪細胞における[H]2−デオキシグルコースについて得られた値が、コントロールペプチドで処理された細胞に対する活性化倍率として図6aに示され、値は、それぞれの点が三連でアッセイされた5回の独立した実験の平均値±SEMである。は、得られた値がコントロールよりも有意に大きいことを示す。別の実験において、脂肪細胞が、示された濃度で30分間、L803−mtsの存在下または非存在下処理され、その後、インスリン(5nM)がさらに1時間加えられた。細胞内へのグルコース取り込みが、[H]2−デオキシグルコースを用いてアッセイされた。結果が、インスリンで処理された細胞(1ユニットに正規化された)に対するL803−mtsで処理された細胞におけるグルコース取り込みの活性化倍率として図6bに示され、値は、それぞれの点が三連でアッセイされた4回の実験の平均値±SEMである。は、得られた値が、インスリンのみで処理された細胞よりも有意に大きいことを示す。
図7は糖耐性に対するL803−mtsの影響を明らかにする比較プロットを示す。絶食させたマウスに、L803−mtsまたはLE803−mtsがグルコース注射の1時間前に腹腔内注射された。血中グルコース(mg/dL)濃度が、示された時点で測定された。結果は、L803−mtsで処置された12匹の動物の平均値±SEM(黒丸)、またはコントロールペプチドLE803−mtsで処置された9匹の動物の平均値±SEM(白丸)である。は、得られた値が、コントロールペプチドで処置された動物の糖耐性よりも有意に低いことを示す。
図8は糖尿病マウスにおける糖耐性に対するL803−mtsの影響を明らかにする比較プロットを示す(図8a〜図8b)。6時間絶食させた後、HFマウスに、L803−mts(黒丸)またはLE803−mts(白丸)がグルコース注射(1mg/kg)の90分前に腹腔内注射され、血中グルコース濃度が、示された時点で測定された(図8a)。結果は10匹の動物の平均値±SEMを表す。は、得られた値が、コントロールペプチドで処置された動物よりも有意に低いことを示す。各群におけるグルコース注射時(時間=0)に測定された血中グルコース濃度の百分率が図8bに示される。
図9は強制された泳ぎ試験における動物の行動に対するL803−mtsの影響を、示されるようなL803−mtsまたはscL803−mts(cp)の投与後の1時間、3時間および12時間における、強制された泳ぎ試験に供された動物の示された数から得られた不動性の平均値±SEとして明らかにするグラフである。p<0.05。
図10はL803−mtsまたはscL803−mts(cp)の投与後の1時間、3時間および12時間においてマウス海馬におけるβ−カテニン濃度に対するL803−mtsの影響を明らかにする棒グラフを示す。海馬組織抽出物を、下記に記載されるように調製し、等量のタンパク質アリコートをゲル電気泳動に供し、β−カテニンに対する抗体を用いて免疫ブロットした。棒グラフは、示された数の海馬から得られたβ−カテニンのデンシトメトリー分析を示し、平均値±SEを表す。はp<0.05を示す。それぞれの時点において、cp治療動物(レーン1〜4)またはL803−mts治療動物(レーン5〜8)から得られたβ−カテニンの代表的なゲルが示される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0059】
本発明は、GSK−3活性を阻害することができ、従って、GSK−3により媒介される生物学的状態の治療において使用することができる新規なコンジュゲートに関する。具体的には、本発明は、(i)ポリペプチド成分および疎水性成分を含むコンジュゲート、(ii)前記コンジュゲートを製造するプロセス、(iii)前記コンジュゲートを含有する医薬組成物、(iv)GSK−3活性を阻害するために、インスリンシグナル伝達を強化するために、また、海馬におけるβ−カテニンの濃度をアップレギュレーションするために前記コンジュゲートを使用する方法、(v)肥満、インスリン非依存性糖尿病、インスリン依存性状態、情動障害、神経変性疾患および神経変性障害、ならびに精神病的な疾患または障害(これらに限定されない)などの生物学的状態の治療において前記コンジュゲートを使用する方法に関する。
【0060】
本発明の原理および操作は、図面および付随する記述を参照してより良く理解され得る。
【0061】
本発明の少なくとも1つの実施形態を詳しく説明する前に、本発明は、その適用において、下記の説明において示される細部、または実施例によって例示される細部に限定されないことを理解しなければならない。本発明は他の実施形態が可能であり、または様々な方法で実施することが可能であり、または様々な方法で実施される。また、本明細書中で用いられる表現法および用語法は記述のためであり、限定であるとして見なしてはならないことを理解しなければならない。
【0062】
本発明は、GSK−3の認識モチーフに由来する比較的短いペプチドが酵素阻害剤として役立ち得るという考えに基づいている。この考えはまた、国際特許出願公開WO01/49709および米国特許出願公開第20020147146A1号(これらは、全体が本明細書中に示されるかのように参考として組み込まれる)に広く教示されるように、GSK−3が特異な認識モチーフを有し、従って、このモチーフを参照して設計される短いペプチドは非常に特異的なGSK−3阻害剤であるという知見に基づいている。
【0063】
GSK−3の特異な認識モチーフは、配列番号19に示されるが、SXS(p)[式中、Sはセリンまたはトレオニンであり、X、XおよびXはそれぞれが任意のアミノ酸であり、S(p)はリン酸化セリンまたはリン酸化トレオニンである]である。この認識モチーフに基づいて、様々なパラメーター(例えば、長さ、リン酸化、配列など)が互いに異なる1組のペプチドが設計され、合成され、GSK−3の基質または阻害剤のいずれかとしてのそれらの活性について試験された(例えば、下記の実施例の節における表3および付随する説明を参照のこと)。
【0064】
これらの実験に基づいて、ペプチドを効率的なGSK−3阻害剤にする数多くの特徴が明らかにされている。例えば、モチーフにおけるリン酸化されたセリン残基またはトレオニン残基は結合のために必要であることが見出された。この残基がない場合、ペプチドは基質または阻害剤のいずれでもない。リン酸化されたセリン残基(またはトレオニン残基)の上流に存在するセリン残基(またはトレオニン残基)が3つのさらなる残基によって隔てられる場合、ペプチドはGSK−3の基質になり、これに対して、このセリン残基またはトレオニン残基が任意の他のアミノ酸(好ましくは、アラニン)によって置換されると、基質はGSK−3の阻害剤に変換されることがさらに明らかにされた。これら3つのアミノ酸(上記配列においてXとして示される)の性質はまた、本明細書中下記の実施例の節において詳しく記載されるように、ペプチドの阻害活性に影響することが見出された。1つの具体的な例では、X残基としてグルタミン酸の存在は、多くのGSK−3基質において検出されるが、ペプチドの阻害活性を低下させ、従って、グルタミン酸以外の任意のアミノ酸をX位置に有することが好ましいことが見出された。認識モチーフの外側におけるさらなる残基の数はペプチドの阻害能に影響し、その結果、例えば、7個〜50個(好ましくは7個〜20個、より好ましくは10個〜13個)のアミノ酸残基の総数が好ましいことがさらに見出された。
【0065】
従って、下記の実施例の節においてさらに記載および説明されるように、下記のアミノ酸配列:

(式中、mは1または2に等しい;nは1〜50の整数である;S(p)はリン酸化セリン残基またはリン酸化トレオニン残基である;Zは、セリン残基またはトレオニン残基を除く任意のアミノ酸残基である;X、X、X、Y〜YおよびW〜Wは、それぞれが独立して、任意のアミノ酸残基である)
を有するポリペプチドは、GSK−3の非常に効率的かつ特異的な阻害剤であることが見出された。
【0066】
好ましいポリペプチドは、アラニン残基をZ位に有し、グルタミン酸以外の任意のアミノ酸残基をXとして有し、かつ/または、nが1〜15(好ましくは1〜10)に等しいように、7個〜20個のアミノ酸残基(好ましくは10個〜13個のアミノ酸残基、より好ましくは10個〜11個のアミノ酸残基)を有するポリペプチドであることがさらに見出された。
【0067】
これらのポリペプチド阻害剤の効力および特異性は、これまでのところ、インビトロ試験において明らかにすることに成功している。しかしながら、これらの阻害剤の効力をインビボ試験において評価することを目指しているとき、上記のポリペプチドに疎水性成分を結合することにより、その膜透過性が高まることが、本発明者によって仮説として考えられた。この仮説を実行に移しているとき、驚くべきことに、上記のポリペプチド阻害剤と、ポリペプチドのN末端において結合した、疎水性成分としての脂肪酸とのコンジュゲートが、疎水性成分を有しない対応するポリペプチドよりも大きい、GSK−3活性の阻害を発揮することが、インビトロ試験およびインビボ試験の両方において見出された。
【0068】
従って、本発明の1つの態様によれば、GSK−3の活性を阻害することができる本明細書中上記で記載されたポリペプチドと、疎水性成分とのコンジュゲートが提供される。
【0069】
より具体的には、本発明のコンジュゲートは、
(a)下記のアミノ酸配列を有するポリペプチド:

(式中、mは1または2に等しい;nは1〜50の整数である;S(p)はリン酸化セリン残基またはリン酸化トレオニン残基である;Zは、セリン残基またはトレオニン残基を除く任意のアミノ酸残基である;X、X、X、Y〜YおよびW〜Wは、それぞれが独立して、任意のアミノ酸残基である)、および
(b)ポリペプチドに結合している1つまたは複数の疎水性成分
を含む。
【0070】
本明細書中で使用される用語「ポリペプチド」は、全長タンパク質またはその一部分を含めて任意の長さのアミノ酸配列を示し、この場合、アミノ酸残基は共有結合のペプチド結合によって連結される。好ましくは、本発明のポリペプチドは、7個〜50個のアミノ酸残基(好ましくは7個〜20個のアミノ酸残基、より好ましくは10個〜13個のアミノ酸残基)を有する比較的短いポリペプチドであり、従って、本明細書中では交換可能に「ペプチド」と呼ばれる。
【0071】
本明細書中で使用される用語「ペプチド」は、天然型ペプチド(分解産物、合成的に合成されたペプチド、または組換えペプチドのいずれか)およびペプチド模倣体(典型的には、合成的に合成されたペプチド)、ならびに、ペプチドアナログであるペプトイドおよびセミペプトイド(これらは、例えば、体内に存在している間はペプチドをより安定にする修飾、または、細胞内に浸透することをより可能にする修飾を有し得る)を包含する。そのような修飾には、限定されないが、N末端での修飾、C末端での修飾、ペプチド結合の修飾(CH−NH、CH−S、CH−S=O、O=C−NH、CH−O、CH−CH、S=C−NH、CH=CHまたはCF=CHを含むが、これらに限定されない)、骨格の修飾、および残基の修飾が含まれる。ペプチド模倣体化合物を調製するための様々な方法がこの分野では広く知られており、例えば、Quantitative Drug Design、C.A.Ramsden Gd.、第17.2章、F.Choplin Pergamon Press(1992)に具体的に記載される(これは、全体が本明細書中に示されるかのように参考として組み込まれる)。これに関連してさらなる詳細が本明細書中下記に示される。
【0072】
好ましくは、本発明のペプチドは、合成的に合成されたペプチドである。
【0073】
ペプチド内のペプチド結合(−CO−NH−)は、例えば、N−メチル化結合(−N(CH)−CO−)、エステル結合(−C(R)H−C−O−O−C(R)−N−)、ケトメチレン結合(−CO−CH−)、α−アザ結合(−NH−N(R)−CO−)(式中、Rは任意のアルキルであり、例えば、メチルである)、カルバ結合(−CH−NH−)、ヒドロキシエチレン結合(−CH(OH)−CH−)、チオアミド結合(−CS−NH−)、オレフィン性二重結合(−CH=CH−)、レトロアミド結合(−NH−CO−)、ペプチド誘導体(−N(R)−CH−CO−)(式中、Rは、自然の状態では炭素原子上に存在する「通常の」側鎖である)によって置換することができる。
【0074】
これらの修飾は、ペプチド鎖に沿った結合の任意のところに同時に数個(2個〜3個)でさえも、存在させることができる。
【0075】
本明細書中で使用される表現「アミノ酸残基」は、本明細書中では交換可能に「アミノ酸」とも呼ばれるが、ポリペプチド鎖内のアミノ酸ユニットを記載する。本発明のポリペプチドにおけるアミノ酸残基は天然アミノ酸残基または修飾アミノ酸残基(これらの表現は本明細書中下記で定義される)のいずれでも可能である。
【0076】
本明細書中で使用される表現「天然アミノ酸残基」は、自然界に見出される20個のアミノ酸のいずれかを含むアミノ酸残基(この用語は本明細書中上記で定義される)を記載する。
【0077】
本明細書中で使用される表現「修飾アミノ酸残基」は、その側鎖での修飾を受けた天然アミノ酸を含むアミノ酸残基(この用語は本明細書中上記で定義される)を記載する。そのような修飾はこの分野では広く知られており、これらには、例えば、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシ基およびリン酸基(これらに限定されない)などの機能性基の側鎖内における取り込みが含まれる。従って、この表現は、別途具体的に示されない限り、アミノ酸アナログ(例えば、ペニシラミン、3−メルカプト−D−バリンなど)を含む化学修飾されたアミノ酸、天然に存在するタンパク質非形成性のアミノ酸(例えば、ノルロイシンなど)、および、アミノ酸の特徴であることがこの分野で知られている性質を有する化学合成された化合物が含まれる。用語「タンパク質非形成性」は、アミノ酸が、広く知られている代謝経路によって細胞においてタンパク質に取り込まれ得ないことを示す。
【0078】
従って、本明細書中で使用される用語「アミノ酸(“amino acid”または“amino acids”)」は、20個の天然に存在するアミノ酸;多くの場合にはインビボで翻訳後修飾されたそのようなアミノ酸(これらには、例えば、ヒドロキシプロリン、ホスホセリンおよびホスホトレオニンが含まれる);および他の非通常型アミノ酸(これには、2−アミノアジピン酸、ヒドロキシリシン、イソデスモシン、ノルバリン、ノルロイシンおよびオルニチンが含まれるが、これらに限定されない)を包含することが理解される。さらに、用語「アミノ酸」は、この用語が本明細書中で定義されるように少なくとも1つのさらなるアミノ酸にペプチド結合またはペプチド結合アナログによって連結されるD−アミノ酸およびL−アミノ酸の両方を包含する。
【0079】
下記の表1〜表2には、天然に存在するアミノ酸(表1)、および非通常型アミノ酸または修飾アミノ酸(表2)が示される
【表1】

【表2】



【0080】
本発明のペプチドは好ましくは線状形態で利用される。しかし、環化がペプチドの特性をひどく妨害しない場合には、ペプチドの環状形態もまた利用できることが理解される。
【0081】
環状ペプチドは環状形態で合成することができ、または、所望される条件(例えば、生理学的条件)のもとで環状形態を取るようにすることができる。
【0082】
例えば、本発明の教示によるペプチドは、コアペプチド配列の両側に存在する少なくとも2つのシステイン残基を含むことができる。この場合、環化を、これら2つのCys残基の間におけるS−S結合を形成することによって生じさせることができる。側鎖対側鎖の環化はまた、式−(−CH−)n−S−CH−C−(式中、n=1または2)の相互作用結合の形成によって生じさせることができ、これは、例えば、CysまたはホモCysを取り込み、そのフリーのSH基を、例えば、ブロモアセチル化されたLys、Orn、DabまたはDapと反応することによって可能である。さらに、環化は、例えば、Glu、Asp、Lys、Orn、ジアミノ酪酸(Dab)、ジアミノプロピオン酸(Dap)を鎖内の様々な位置に取り込むことによる、例えば、アミド結合の形成(−CO−NH−結合または−NH−CO−結合)によって得ることができる。骨格対骨格の環化もまた、式H−N((CH)n−COOH)−C(R)H−COOHまたは式H−N((CH)n−COOH)−C(R)H−NH)(式中、n=1〜4であり、さらに、Rはアミノ酸の任意の天然側鎖または非天然側鎖である)の修飾アミノ酸を取り込むことによって得ることができる。
【0083】
本発明のペプチドは、好ましくは、非常に重要なアミノ酸モチーフZXS(p)の構造的特徴を模倣するペプチド模倣体(この用語は本明細書中上記で定義される)である。
【0084】
タンパク質のリン酸化は細胞活動の生化学的制御において極めて重要な役割を果たしている。リン酸化は、通常、リン酸(PO)基と、ヒドロキシル(OH)基を含有するアミノ酸(チロシン、セリンおよびトレオニン)との間でのリン酸エステル結合の形成を意味する。タンパク質における多くのリン酸化部位が、他のタンパク質に結合するための認識エレメントとして作用し、そのような結合事象により、シグナル伝達および他の経路が活性化または脱活性化される。従って、タンパク質のリン酸化は、生化学的なシグナル伝達をオンおよびオフするためのスイッチとして作用する。
【0085】
ホスホペプチド模倣体は、リン酸化されたチロシン、セリンおよびトレオニンのアナログを含有するペプチド模倣体のサブクラスである。リン酸エステルは、様々な酵素によって加水分解され得るので、リン酸化シグナルを止める。しかしながら、ホスホペプチド模倣体は、通常、不活性化を妨げるために非加水分解性のアナログを含有する(Burke他、1994a;Burke他、1996a;Chen他、1995;Wiemann他、2000;Shapiro他、1997;Otaka他、1995;Otaka他、2000)。この分野におけるホスホペプチド模倣体の一般的な例には、SH2ドメインアナログ(Burke他、1994a;Fu他、1998;Gao他、2000;Mikol他、1995;Ye他、1995)、転写因子NF−(κ)Bアナログ(McKinsey他、1997)、P53アナログ(Higashimoto他、2000)、および、タンパク質チロシンホスファターゼ阻害剤(Burke他、1994b;Burke他、1996b;Groves他、1998;Kole他、1995;Kole他、1997;Roller他、1998)が含まれる。
【0086】
市販のソフトウエアパッケージを、ホスホセリンまたはホスホトレオニンのアナログ(好ましくは、非加水分解性のアナログ)を含有する小さいペプチドおよび/またはペプチド模倣体を特異的なアンタゴニスト/阻害剤として設計するために使用することができる。結晶構造を分析し、小さいペプチドおよびペプチド模倣体を設計および最適化するための好適な市販のソフトウエアには、高分子X線結晶学QUANTA環境(Molecular Simulations,Inc.);TeXsan、BioteXおよびSQUASH(Molecular Structure Corporation);およびCrystallographica(Oxford Cryostsystems)が含まれるが、これらに限定されない。
【0087】
本発明によるペプチドにはさらに、ペプチドの塩および化学的誘導体を含むことができる。本明細書中で使用される表現「化学的誘導体」は、1つまたは複数の残基が側鎖官能基の反応によって化学的に誘導体化されている本発明のポリペプチドを記載する。そのような誘導体化された分子には、例えば、フリーのアミノ基が、アミン塩酸塩、p−トルエンスルホニル基、カルボベンゾキシ基、t−ブチルオキシカルボニル基、クロロアセチル基またはホルミル基を形成するように誘導体化されているそのような分子が含まれる。フリーのカルボキシル基を、塩、メチルエステルおよびエチルエステルまたは他のタイプのエステルあるいはヒドロラジドを形成するように誘導体化することができる。フリーのヒドロキシル基を、O−アシル誘導体またはO−アルキル誘導体を形成するように誘導体化することができる。化学的誘導体としてまた、20個の標準的なアミノ酸の天然に存在するアミノ酸誘導体の1つまたは複数を含有するそのようなペプチドが含まれる。例えば、4−ヒドロキシプロリンをプロリンの代わりに使用することができる;5−ヒドロキシリシンをリシンの代わりに使用することができる;3−メチルヒスチジンをヒスチジンの代わりに使用することができる;ホモセリンをセリンの代わりに使用することができる;オルニチンをリシンの代わりに使用することができる。化学的誘導体には、1つのアミノ酸を別のアミノ酸に変える、官能基における変化は含まれない。
【0088】
本明細書中上記で述べられるように、いくつかの有用な修飾が、溶液中におけるペプチドの安定性を増大させるために設計され、従って、溶液中におけるペプチドの半減期、特に、血液中でのタンパク質分解活性を阻止することによって、生物学的流体、例えば、血液、血漿または血清などにおけるペプチドの半減期を延ばすために役立つ。従って、本発明のペプチドは安定化基を一方の末端または両方の末端に有することができる。典型的な安定化基には、アミド、アセチル、ベンジル、フェニル、トシル、アルコキシカルボニル、アルキルカルボニル、ベンジルオキシカルボニルおよび同様な末端基修飾が含まれる。さらなる修飾には、「L」アミノ酸を末端において「D」アミノ酸の代わりに使用すること、ペプチド阻害剤の環化、および、エキソペプチダーゼ活性を阻害するための、アミノ末端またはカルボキシ末端ではなくアミド末端が含まれる。
【0089】
本発明のペプチドはグリコシル化されてもよく、またはグリコシル化されなくてもよい。本発明のペプチドは、例えば、ペプチド合成技術によって直接的に合成されるとき、または、組換えポリヌクレオチドで形質転換された原核生物細胞において産生されるときにはグリコシル化されない。真核生物により産生されるペプチド分子は典型的にはグリコシル化される。
【0090】
本発明によるペプチドの非限定的な例には、リン酸化セリンまたはリン酸化トレオニンから上流側4番目の位置(上記のアミノ酸配列においてZとして示される)に存在するセリンまたはトレオニンの置換を除いて既知のGSK−3基質の配列を維持するペプチドが含まれる。好ましくは、Zはアラニンである。阻害剤が由来する既知の基質がCREBタンパク質であるとき、ペプチドの最小サイズは10残基であり、この場合、さらなる3つの残基はすべてがZの上流側に存在する。同様に、ペプチドが由来する基質が熱ショック因子−1(HSF−1)であるとき、ペプチドにおける最少残基数は7よりも大きくなければならない。また、本発明による好ましいペプチドはX位にグルタミン酸を含まない。
【0091】
本発明による好ましいポリペプチドは、配列番号5、配列番号8または配列番号9に示されるようなアミノ酸配列を有するポリペプチドである。
【0092】
本明細書中で使用される表現「疎水性成分」は、疎水性によって特徴づけられる任意の物質またはその残基を示す。この分野では広く受け入れられているように、用語「残基」は、別の物質(本明細書中では、本明細書中上記で記載されるポリペプチド)に共有結合的に連結される物質の主要な部分を記載する。
【0093】
従って、本発明による疎水性成分は、好ましくは、疎水性物質の残基であり、本明細書中上記で記載されるポリペプチドに共有結合的に結合する。しかしながら、本発明の疎水性成分は任意の他の相互作用(例えば、静電的相互作用およびファンデルワールス相互作用など)によってポリペプチドに結合し得ることが理解される。
【0094】
本発明の疎水性成分が由来し得る疎水性物質の代表的な例には、限定されないが、置換および非置換の飽和および不飽和の炭化水素(この場合、炭化水素は、脂肪族化合物、脂環族化合物または芳香族化合物であり得るし、好ましくは少なくとも4個の炭素原子、より好ましくは少なくとも8個の炭素原子、より好ましくは少なくとも10個の炭素原子を含む)が含まれる。好ましくは、炭化水素は、アミノ酸残基へのその結合を可能にする官能基を有する。そのような官能基の代表的な例には、限定されないが、フリーのカルボン酸(C(=O)OH)、フリーのアミノ基(NH)、エステル基(C(=O)OR、式中、Rは、アルキル、シクロアルキルまたはアリールである)、アシルハリド基(C(=O)A、式中、Aは、フルオリド、クロリド、ブロミドまたはヨージドである)、ハリド(フルオリド、クロリド、ブロミドまたはヨージド)、ヒドロキシル基(OH)、チオール基(SH)、ニトリル基(C≡N)、フリーのC−カルバミン酸基(NR”−C(=O)−OR’、式中、R’およびR”のそれぞれは独立して、水素、アルキル、シクロアルキルまたはアリールである)、フリーのN−カルバミン酸基(OC(=O)−NR’−、式中、R’は上記で定義される通りである)、チオニル基(S(=O)A、式中、Aは、上記で定義されるようなハリドである)などが含まれる。
【0095】
従って、本発明の疎水性成分は、本明細書中上記で記載された疎水性物質の残基を含むことができる。
【0096】
本発明の疎水性成分は、好ましくは、1つまたは複数の脂肪酸残基を含む。
【0097】
本発明に関連して使用可能である好ましい脂肪酸には、10個を超える炭素原子(好ましくは12個〜24個の炭素原子)を有する飽和脂肪酸または不飽和脂肪酸が含まれ、例えば、ミリスチン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレイン酸、アラキドン酸など(これらに限定されない)が含まれ、ミリスチン酸が現在最も好ましい。
【0098】
本発明による疎水性成分は、本質的には、上記に記載されるような脂肪酸残基または疎水性物質の任意の他の残基にすることができ、その結果、脂肪酸または任意の他の疎水性成分が(例えば、エステル結合またはアミド結合を介して)ポリペプチドのアミノ酸残基に直接、共有結合により結合するようになる。あるいは、疎水性成分は、本明細書中上記に記載されるような脂肪酸残基または疎水性物質の任意の他の残基を含むように修飾されているアミノ酸残基にすることができ、その結果、この修飾されたアミノ酸残基が、本明細書中上記に記載されるようにペプチド結合または置換ペプチド結合を介してポリペプチドに結合するようになる。さらにあるいは、疎水性成分は、1つまたは複数のアミノ酸残基が、本明細書中上記に記載されるような脂肪酸残基または疎水性物質の任意の他の残基を含むように修飾されている短いペプチドにすることができる。そのようなペプチドは、好ましくは、2個〜15個のアミノ酸残基を含み、本明細書中上記に記載されるようにペプチド結合または置換ペプチド結合を介してポリペプチドに結合する。
【0099】
上記の疎水性成分の代わりとして、または、上記の疎水性成分との組合せで、本発明による疎水性成分は、疎水性ペプチド配列を含むことができる。本発明による疎水性ペプチド配列は、好ましくは2個〜15個のアミノ酸残基を含み、より好ましくは2個〜10個のアミノ酸残基を含み、より好ましくは2個〜5個のアミノ酸残基を含み、この場合、少なくとも1つのアミノ酸残基が疎水性アミノ酸残基である。
【0100】
疎水性アミノ酸残基の代表的な例には、限定されないが、本明細書中上記に記載されるように、アラニン残基、システイン残基、グリシン残基、イソロイシン残基、ロイシン残基、バリン残基、フェニルアラニン残基、チロシン残基、メチオニン残基、プロリン残基およびトリプトファン残基、または、それらの任意の修飾体が含まれる。
【0101】
あるいは、疎水性アミノ酸残基は、それに対する疎水性成分の取り込みによって修飾されている任意の他のアミノ酸残基を含むことができる。
【0102】
いずれの場合でも、1つまたは複数の疎水性成分と、ポリペプチドとは、好ましくは、本発明の得られるコンジュゲートが7個〜50個のアミノ酸残基(好ましくは7個〜20個のアミノ酸残基、より好ましくは10個〜13個のアミノ酸残基)を含むように選択される。
【0103】
本発明の疎水性成分(1つまたは複数)は、好ましくは、ポリペプチドの1つまたは複数の末端に、すなわち、ポリペプチドのN末端および/またはC末端に結合する。しかしながら、本明細書中上記で議論されるように、ポリペプチドのC末端は、酵素に対する結合において非常に重要な役割を果たしているリン酸化セリン残基またはリン酸化トレオニン残基を含むので、疎水性成分をポリペプチドのN末端に結合することが好ましいと仮定された。
【0104】
実際に、下記の実施例の節において明らかにされるように、疎水性成分が本発明のポリペプチドのN末端に結合しているコンジュゲートは、非常に強力なGSK−3阻害剤であることが見出された。
【0105】
これらの結果は、Dajani他(2001)によって記載される、GSK−3の最近発表された結晶化データによって説明することができる。Dajani他の結晶化データは、GSK−3が二量体として結晶化されることを示した。このことは、この二量体化が生物学的関連性を有することを示唆している。一方の単量体(a)の触媒作用領域(残基216〜220)が、もう一方の単量体(b)のα−らせん(残基262〜273)のN末端と相互作用するようである。これら2つの単量体(a)および(b)のこの相互作用は単量体(b)において疎水性パッチを形成する。
【0106】
この結晶化データ、および、本発明者による驚くべき発見に基づいて、何らかの特定に理論に拘束されないが、本発明のコンンジュゲートの疎水性成分は単量体(b)におけるこの疎水性パッチと相互作用し、その結果、ペプチド阻害剤とGSK−3との相互作用を改善し、これにより、増強された阻害効果を生じさせると考えられる。
【0107】
従って、本発明によれば、上記の疎水性成分のほかに、GSK−3二量体の単量体(b)における疎水性パッチと相互作用するために構造的に好適である任意の他の疎水性成分を上記のポリペプチドに結合することができる。
【0108】
下記の実施例の節において明らかにされるように、本発明のコンジュゲートは、GSK−3に対する大きい特異性および阻害効果の両方を示す。
【0109】
本明細書中上記で議論されるように、これらのコンジュゲートの特異性は、他のキナーゼとは異なり、リン酸化セリン残基またはリン酸化トレオニン残基を含むGSK−3の特異な認識モチーフに由来し、かつ、そのポリペプチド部分の配列がこの認識モチーフに基づくという事実に由来する。下記の実施例の節において明らかにされるように、この特徴により、本発明のコンジュゲートは基質競合性の阻害剤になり、従って、典型的なATP競合性化合物である他のプロテインキナーゼ阻害剤と比較したとき、より特異的になる。
【0110】
本発明のコンジュゲートの大きい阻害活性は、Z位におけるリン酸化残基の非リン酸化残基による置換(これにより、酵素はリン酸化において不活性になる)と、疎水性成分の取り込み(これは、コンジュゲートのより良好な膜透過性、ならびに、酵素の疎水性パッチとの良好な相互作用をもたらす)との両方に由来する。
【0111】
従って、本発明の別の態様によれば、GSK−3の活性を阻害する方法が提供され、この方法は、GSK−3を発現する細胞を本発明のコンジュゲートの効果的な量と接触させることによって達成される。
【0112】
本明細書中で使用される用語「効果的な量」は、GSK−3の活性を阻害するために十分である、この分野で知られているような検討事項によって決定される量である。
【0113】
下記の実施例の節において明らかにされるように、代表例の本発明によるコンジュゲートは、GSK−3を強く阻害し、インビトロでのキナーゼアッセイによって測定されたとき、約40μMのIC50値を有する。
【0114】
従って、本発明のコンジュゲートの効果的な量は、好ましくは、約1マイクロモル濃度〜約100マイクロモル濃度の範囲であり、より好ましくは約1マイクロモル濃度〜約50マイクロモル濃度の範囲であり、最も好ましくは約1マイクロモル濃度〜約20マイクロモル濃度の範囲である。
【0115】
本明細書中で使用される用語「約」は±10%を示す。
【0116】
下記の実施例の節においてさらに明らかにされるように、本発明のコンジュゲートの阻害活性はインビトロアッセイおよびインビボアッセイの両方において試験された。従って、本発明のこの態様による方法は、細胞をインビトロおよびインビボでコンジュゲートと接触させることによって達成することができる。
【0117】
本発明のコンジュゲートは、要求されるリン酸化残基を(Z位に)含まないので、GSK−3は、コンンジュゲートに結合している間、リン酸化反応において不活性にされる。従って、本発明のこの態様による方法は、好ましくは、GSK−3のリン酸化活性および/または自己リン酸化活性の阻害に関する。
【0118】
本発明のこの態様による方法はさらに、本明細書中上記で記載されるように、細胞を、GSK−3の活性を変化させることができるさらなる活性な成分と接触させることによって達成することができる。
【0119】
GSK−3活性の阻害は、インスリン活性をインビボで増大させるための1つの方法である。GSK−3の大きい活性は無傷の細胞におけるインスリン作用を弱める(Eldar−Finkelman他、1997)。この低下は、インスリン受容体基質−1(IRS−1)のセリン残基がGSK−3によりリン酸化されることから生じている。II型糖尿病(インスリン非依存性糖尿病、NIDDM)患者において行われた研究では、グリコーゲンシンターゼ活性がこれらの患者では顕著に低下していること、および、インスリンによるプロテインキナーゼB(PKB)(GSK−3の上流側の調節因子)の低下した活性化もまた検出されることが示される(Shulman他(1990);Nikoulina他(1997);Cross他(1995))。高脂肪食により誘導される糖尿病および肥満に罹りやすいマウスは、精巣上体の脂肪組織におけるGSK−3活性が著しく増大している(Eldar−Finkelman他、1999)。増大したGSK−3活性が細胞において発現することにより、グリコーゲンシンターゼ活性の抑制が生じていた(Eldar−Finkelman他、1996)。
【0120】
従って、GSK−3活性の阻害は、インスリン依存性の状態においてインスリン活性を増大させるための有用な方法を提供する。この特徴は、本発明のコンジュゲートを用いた治療により、改善されたグルコース取り込みおよび糖耐性がもたらされたことを示す下記の実施例の節においてさらに明らかにされる。
【0121】
従って、本発明の別の態様によれば、インスリンシグナル伝達を強化する方法が提供され、この方法は、インスリン応答性細胞を、本発明のコンジュゲートの、本明細書中上記で定義されるような効果的な量と接触させることによって達成される。
【0122】
本明細書中で使用される表現「インスリンシグナル伝達を強化する」には、インスリン受容体の下流側成分のリン酸化の増大、および、非治療の対象または細胞におけるグルコース取り込みと比較されるようなグルコース取り込み速度の増大が含まれる。
【0123】
これに関連して行われた実験において(本明細書中下記における実施例の節を参照のこと)、次善最適な濃度のインスリンで処置された細胞において本発明のコンジュゲートの用量依存的な効果が存在することがさらに見出された。このことは、インスリンによるGSK−3阻害剤の潜在的な付加的な効果を示している。
【0124】
従って、本発明のこの態様による方法は、好ましくは、細胞をインビトロまたはインビボにおいて本発明のコンジュゲートとインスリンとの両方と接触させることによって達成される。
【0125】
本発明のコンジュゲートの投与から生じるインビボでのインスリンシグナル伝達の強化は、臨床的な終点としてモニターすることができる。原理的には、患者におけるインスリン強化を観察するための最も容易な方法は、グルコース負荷試験を行うことである。絶食後、グルコースが患者に与えられ、血液循環からのグルコースの消失(すなわち、細胞によるグルコース取り込み)が、この分野で広く知られているアッセイによって測定される。グルコースクリアランスの遅い速度(健康な対象と比較したとき)により、インスリン耐性が示される。インスリン耐性患者に対するGSK−3阻害剤(例えば、本発明によるコンジュゲートなど)の投与は、非治療の患者と比較したとき、グルコース取り込み速度を増大させる。コンジュゲートは、より長い期間にわたってインスリン耐性患者に投与することができ、血液循環におけるインスリン濃度、グルコース濃度およびレプチン濃度(通常、これらは高い)が測定され得る。グルコース濃度の低下は、コンジュゲートがインスリン作用を強化したことを示す。インスリン濃度およびレプチン濃度の低下は単独では、インスリン作用の強化を必ずしも示さないことがあるが、むしろ、他の機構による疾患状態の改善を示す。
【0126】
GSK−3活性を強く阻害し、かつインスリンシグナル伝達を強化することによって、本発明のコンジュゲートは、GSK−3に関連する任意の生物学的状態を治療するために効果的に利用することができる。
【0127】
従って、本発明の別の態様によれば、GSK−3活性に関連する生物学的状態を治療する方法が提供される。本発明のこの態様によるこの方法は、本明細書中上記で記載される本発明のコンジュゲートの治療効果的な量をその必要性のある対象に投与することによって達成される。
【0128】
本明細書中で使用される表現「GSK−3活性に関連する生物学的状態」は、正常なレベルまたは異常なレベルであっても、効果的なGSK−3活性が同定される任意の生物学的または医学的な状態または障害を包含する。そのような状態または障害は、GSK−3活性によって引き起こされ得るか、または、GSK−3活性によって単に特徴づけられ得る。状態がGSK−3活性に関連するということは、その状態の何らかの態様がGSK−3に活性に突き止められ得ることを意味する。
【0129】
本明細書中において、用語「治療する」は、状態または障害の進行を妨げること、実質的に阻害すること、遅くすること、または逆向きにすること、あるいは、状態または障害の臨床的症状を実質的に改善すること、あるいは、状態または障害の臨床的症状の出現を実質的に妨げることを包含する。これらの効果は、本明細書中下記において詳しく記載されるように、例えば、II型糖尿病に関してグルコース取り込み速度の低下によって、または、神経変性障害に関してニューロン細胞死を停止させることによって明らかにされ得る。
【0130】
本明細書中で使用される用語「投与する」は、本発明のコンジュゲートと、状態または障害によって影響を受けた細胞とを、コンジュゲートがこれらの細胞におけるGSK−3活性に影響を及ぼし得るような様式で一緒にするための方法を記述する。本発明のコンジュゲートは、医学的に許容され得る任意の経路によって投与することができる。投与経路は、治療されている疾患、状態または傷害に依存し得る。可能な投与経路には、注射、非経口経路、例えば、血管内、静脈内、動脈内、皮下、筋肉内、腫瘍内、腹腔内、心室内、上皮内または脳室内などの経路、ならびに、経口、鼻腔、眼、直腸または局所的な経路よるもの、または吸入によるものが含まれる。持続放出投与もまた、デポー剤注射または侵食性インプラントのような手段によって、本発明において特に含まれる。投与はまた、関節内、直腸内、腹腔内、筋肉内、皮下であり得るか、またはエアロゾル吸入剤によって行われ得る。治療が全身的であるとき、コンジュゲートは、本明細書中下記において詳しく記載されるように、標的細胞内へのコンジュゲートの導入を達成するために好適な組成物で提供される限り、経口的または非経口的(例えば、静脈内、筋肉内、皮下、眼窩内、嚢内、腹腔内または槽内など)に投与することができる。
【0131】
本明細書中で使用される表現「治療効果的な量」は、GSK−3活性に関連する状態の進行を妨げるか、実質的に阻害するか、遅くするか、または逆向きにするために、あるいは、そのような状態の臨床的症状を実質的に改善するために、あるいは、そのような状態の臨床的症状の出現を実質的に妨げるために十分である、個体に投与される量を記述する。GSK−3活性はGSK−3キナーゼ活性であり得る。阻害量は、GSK−3活性の阻害を測定することによって直接的に決定することができ、または、例えば、所望される効果が、GSK−3を含む経路におけるGSK−3活性の下流側の活性に対する効果である場合、阻害は、下流側の効果を測定することによって測定することができる。従って、例えば、GSK−3の阻害がグリコーゲンシンターゼのリン酸化の停止を生じさせる場合、コンジュゲートの効果には、インスリン依存的経路またはインスリンに関係した経路に対する効果が含まれることがあり、コンジュゲートは、グルコース取り込みが最適なレベルに増大するところに対して投与することができる。また、GSK−3の阻害が、さらなる生物学的活性のために要求されるタンパク質(例えば、タウタンパク質)のリン酸化の非存在を生じさせる場合、コンジュゲートは、リン酸化されたタウタンパク質の多量体化が実質的に停止されるまで投与することができる。従って、GSK−3活性の阻害は、部分的には、GSK−3活性を伴う阻害された経路またはプロセスの性質に依存し、また、GSK−3活性の阻害が特定の生物学的状況において有する効果に依存する。
【0132】
阻害量を構成するコンジュゲートの量は、コンジュゲートおよびその効力、体内におけるコンジュゲートの半減期、治療されている疾患または生物学的状態の進行速度、治療用量または投与パターンに対する状態の応答性、配合、医学的状況の主治医による評価、および他の関連要因、ならびに一般には、患者の健康状態、および他の検討事項(例えば、他の治療剤の以前の投与、または、コンジュゲートの阻害活性に対する影響を有する何らかの治療剤の同時投与、または、GSK−3活性に対する影響を有する何らかの治療剤の同時投与、またはGSK−3活性により媒介される経路など)のようなパラメーターに依存して変化する。
【0133】
阻害量は、日常的な試験によって決定され得る比較的広い範囲に含まれることが予想されるが、本発明による好ましい治療効果的な量は、約10nmol〜約100nmmol(好ましくは約10nmol〜約500nmol、より好ましくは約100nmol〜約400nmol)の範囲にあるコンジュゲートの量を治療部位において達成するように選択される。
【0134】
本明細書中上記において詳しく議論されるように、GSK−3は様々な生物学的経路に関与しており、従って、本発明のこの態様による方法は、本明細書中下記において詳しく記載されるように、様々な生物学的状態の治療において使用することができる。
【0135】
GSK−3はインスリンシグナル伝達経路に関与しており、従って、一例において、本発明のこの態様による方法は、何らかのインスリン依存性の状態を治療するために使用することができる。
【0136】
GSK−3阻害剤は、前脂肪細胞の脂肪細胞への分化を阻害することが知られているので、別の例では、本発明のこの態様による方法は、肥満を治療するために使用することができる。
【0137】
さらに別の例において、本発明のこの態様による方法は、糖尿病を治療するために、特にインスリン非依存性糖尿病を治療するために使用することができる。
【0138】
糖尿病は、インスリン不足またはインスリン耐性または両者を一般には伴う多数の発症要因による炭水化物代謝の不均一な一次障害である。I型(若年性)インスリン依存性糖尿病が、内因性インスリン分泌能力をほとんど有しない患者に存在する。これらの患者は極端な高血糖症を発症し、差し迫った生存のための外因性インスリン治療に完全に依存している。II型または成人発症型またはインスリン非依存性の糖尿病が、ある程度の内因性インスリン分泌能力を保持する患者に存在する。しかし、その大多数はインスリン欠乏性およびインスリン耐性の両方である。合衆国における全糖尿病患者の約95%はインスリン非依存性のII型糖尿病(NIDDM)を有しており、従って、これは、医学的問題の大部分を占める糖尿病形態である。インスリン耐性はNIDDMの根本的な特有の特徴であり、この代謝性欠陥により、糖尿病症候群がもたらされる。インスリン耐性は、インスリン受容体の不十分な発現、低下したインスリン結合親和性、またはインスリンシグナル伝達経路に沿ったいずれかの段階における何らかの異常のためであり得る(米国特許第5861266号を参照のこと)。
【0139】
本発明のコンジュゲートは、下記のように、II型糖尿病患者においてII型糖尿病を治療するために使用することができる。この場合、治療効果的な量のコンジュゲートが患者に投与され、臨床的マーカー(例えば、血糖濃度)がモニターされる。本発明のコンジュゲートはさらに、下記のように、対象においてII型糖尿病を防止するために使用することができる。この場合、予防効果的な量のコンジュゲートが患者に投与され、臨床的マーカー(例えば、IRS−1のリン酸化)がモニターされる。
【0140】
糖尿病の治療は標準的な医学的方法によって決定される。糖尿病治療の目標は、糖濃度を、安全に可能であるように正常値の近くに低下させることである。一般に設定されている目標は、食事前において80〜120ミリグラム/デシリットル(mg/dl)であり、かつ、就寝前において100〜140mg/dlである。特定の医師は、他の要因、例えば、患者がどのくらいの頻度で低血糖反応を有するかなどに依存して、患者について異なる目標を設定することがある。有用な医学的検査には、血糖濃度を測定するための患者の血液および尿に対する検査、グリケート化ヘモグロビン濃度(HbA1c;過去2ヶ月〜3ヶ月にわたる平均血中グルコース濃度の指標、正常範囲は4%〜6%である)に対する検査、コレステロールおよび脂肪の濃度に対する検査、ならびに、尿タンパク質濃度に対する検査が含まれる。そのような検査は、当業者に知られている標準的な検査である(例えば、American Diabetes Asocciation(1998)を参照のこと)。成功する治療プログラムはまた、糖尿病性の眼疾患、腎臓疾患または神経疾患に関するプログラムを受けている患者がほとんどいないことによって決定され得る。
【0141】
従って、本発明のこの態様による方法の1つの特定の実施形態において、インスリン非依存性糖尿病を治療する方法が提供される。この場合、患者はインスリン非依存性糖尿病の初期段階において診断される。本発明のコンジュゲートは腸溶性カプセルに配合される。患者は、インスリンシグナル伝達経路を刺激する目的のために一錠の錠剤を各食後に服用することが指示され、それにより、グルコース代謝が、外因性インスリンの投与が必要な状態を未然に防止するレベルに制御される。
【0142】
本明細書中上記でさらに議論されるように、GSK−3阻害は情動障害に関連することが示唆されている。従って、別の例において、本発明のこの態様による方法は、単極型障害(例えば、うつ病)および双極性障害(例えば、躁うつ病)などの情動障害を治療するために使用することができる。本明細書中下記において詳しく記載されるように、本発明のコンジュゲートの抗うつ効果、ならびに、β−カテニン濃度のアップレギュレーションに対するその効果が明らかにされており、従って、このことは、GSK−3阻害剤と情動障害との直接的なつながりを初めて示している。
【0143】
GSK−3はまた、神経変性障害および神経変性疾患の病理発生における重要な関与体であると考えられるので、本発明のこの態様による方法はさらに、様々なそのような障害および疾患を治療するために使用することができる。
【0144】
一例において、GSK−3の阻害は、ニューロン細胞死を停止させることをもたらすので、本発明のこの態様による方法は、ニューロン細胞死を引き起こす事象から生じる神経変性障害を治療するために使用することができる。そのような事象は、例えば、脳虚血、発作、外傷性脳傷害または細菌感染であり得る。
【0145】
別の例では、GSK−3活性は様々な中枢神経系の障害および神経変性疾患に関係しているので、本発明のこの態様による方法は、様々な慢性の神経変性疾患、例えば、アルツハイマー病、ハンチングトン病、パーキンソン病、AIDS痴呆、筋萎縮性側索硬化症(AML)および多発硬化症(これらに限定されない)などを治療するために使用することができる。
【0146】
本明細書中上記で議論されるように、GSK−3活性はアルツハイマー病の病理発生に特に関係している。従って、本発明のこの態様による方法の1つの代表的な実施形態において、アルツハイマー病患者を治療する方法が提供される。この場合、アルツハイマー病と診断された患者に、GSK−3により媒介されるタウの過剰リン酸化を阻害する本発明のコンジュゲートが、血液脳関門(BBB)を超える配合物に調製されて投与される。患者は、患者の脳細胞から単離されたタンパク質を、疾患の存在および進行を特徴づけるために知られているSDS−PAGEゲルでのタウのリン酸化形態の存在について定期的に分析することによって、タウのリン酸化多量体についてモニターされる。コンジュゲートの投薬量は、タウタンパク質のリン酸化形態の存在を減少させるために必要に応じて調節される。
【0147】
GSK−3はまた、統合失調症などの精神病的障害に関しても関係している。従って、本発明のこの態様による方法はさらに、統合失調症などの精神病的な疾患または障害を治療するために使用することができる。
【0148】
本発明のコンジュゲートは、GSK−3の増強された阻害活性および増強された膜透過性のほかに、コンジュゲート内に疎水性成分を含むことにより、コンジュゲートの増強された親油性がさらにもたらされ、その結果として、血液脳関門(BBB)を通過する増強された透過性がもたらされることが仮定されるので、情動性および神経変性性の疾患または障害の治療において特に好都合であることに留意しなければならない。この増強された透過性は、阻害剤を脳室内(icv)に投与する必要が回避されるようにコンジュゲートの局所的な投与ではなく、全身的な投与を可能にし得る。
【0149】
本発明のこの態様による方法はさらに、GSK−3の活性を変化させることができる1つまたは複数のさらなる活性な成分を対象に同時投与することによって達成することができる。
【0150】
本明細書中で使用される「同時投与する」は、本発明によるコンジュゲートを、さらなる活性な成分(これはまた、活性な薬剤または治療剤として本明細書中では示される)との組合せで投与することを記述する。さらなる活性な薬剤は、患者の状態を治療するために有用である任意の治療剤であり得る。同時投与は、例えば、コンジュゲートおよび治療剤の混合物を投与することによって同時的であり得るか、または、コンジュゲートおよび活性な薬剤を短い期間内などで別々に投与することによって達成することができる。同時投与にはまた、コンジュゲートと、別の治療剤の1つまたは複数との連続した投与が含まれる。さらなる治療剤(1つまたは複数)はコンジュゲートの前または後に投与することができる。投薬治療は単回用量スケジュールまたは多回用量スケジュールであり得る。
【0151】
本明細書中上記で議論されるように、また、下記の実施例の節においてさらに明らかにされるように、本発明のコンジュゲートおよびインスリンを用いた細胞の同時治療はグルコース取り込みに関して付加的な効果をもたらし、従って、さらなる活性な成分はインスリンであり得る。
【0152】
好ましくは、さらなる活性な成分は、本発明によるさらなる活性な成分が、本発明のコンジュゲートとは異なる任意のGSK−3阻害剤(例えば、リチウム、バルプロ酸およびリチウムイオン)であり得るように、GSK−3の活性を阻害することができる。
【0153】
あるいは、さらなる活性な成分は、GSK−3の発現をダウンレギュレーションすることができる活性な成分であり得る。
【0154】
GSK−3の発現をダウンレギュレーションする薬剤は、mRNAの濃度またはタンパク質の濃度のいずれかにおいてGSK−3合成に影響を及ぼす(減速させる)か、またはGSK−3分解に影響を及ぼす(促進させる)任意の薬剤を示す。例えば、GSK−3の発現をダウンレギュレーションするために設計される小さい干渉性ポリヌクレオチド分子を、本発明の好ましい実施形態によるさらなる活性な成分として使用することができる。
【0155】
GSK−3の発現をダウンレギュレーションすることができる小さい干渉性ポリヌクレオチド分子についての一例が、RNA干渉(RNAi)の以前に記載された機構(HutvagnerおよびZamore(2002)、Curr.Opin.Genetcs and Development、12:225〜232)を介してmRNAの配列特異的な分解を行わせる二重鎖オリゴヌクレオチドを含む、例えば、Munshi他(Munshi CB、Graeff R、Lee HC、J Biol Chem、2002(Dec、20):277(51):49453〜8)によって記載されるモルホリノアンチセンスオリゴヌクレオチドなどの小さい干渉性RNAまたはsiRNAである。
【0156】
本明細書中で使用される表現「二重鎖オリゴヌクレオチド」は、1つの自己相補性核酸鎖または少なくとも2つの相補的な核酸鎖のいずれかによって形成されるオリゴヌクレオチド構造またはその模倣体を示す。本発明の「二重鎖オリゴヌクレオチド」は、二本鎖RNA(dsRNA)、DNA−RNAハイブリッド、一本鎖RNA(ssRNA)、単離されたRNA(すなわち、部分精製されたRNA、本質的には純粋なRNA)、合成RNA、および組換え産生RNAから構成され得る。
【0157】
好ましくは、本発明の特異的な小さい干渉性二重鎖オリゴヌクレオチドは、リボ核酸から主に構成されるオリゴヌクレオチドである。
【0158】
RNA干渉を媒介することができる二重鎖オリゴヌクレオチドを作製するための説明がwww.ambion.comに示される。
【0159】
従って、本発明による小さい干渉性ポリヌクレオチド分子はRNAi分子(RNA干渉分子)であり得る。
【0160】
あるいは、小さい干渉性ポリヌクレオチド分子は、本明細書中下記においてさらに記載されるGSK−3特異的なアンチセンス分子またはリボザイム分子などのオリゴヌクレオチドであり得る。
【0161】
アンチセンス分子は、それぞれが少なくとも1個のヌクレオチドから構成される2つ以上の化学的に異なる領域を含有するオリゴヌクレオチドである。これらのオリゴヌクレオチドは、ヌクレアーゼ分解に対する増大した抵抗性、増大した細胞取り込み、および/または、標的ポリヌクレオチドに対する増大した結合親和性をオリゴヌクレオチドに付与するようにオリゴヌクレオチドが修飾されている少なくとも1つの領域を典型的には含有する。オリゴヌクレオチドのさらなる領域は、RNA:DNAハイブリッドまたはRNA:RNAハイブリッドを切断することができる酵素のための基質として役立ち得る。そのような酵素についての一例が、RNA:DNA二重鎖のRNA鎖を切断する細胞エンドヌクレアーゼであるRNaseHである。従って、RNaseHの活性化はRNA標的の切断をもたらし、それにより、遺伝子発現のオリゴヌクレオチド阻害の効率を大きく高める。その結果として、匹敵し得る結果を、多くの場合、キメラなオリゴヌクレオチドが使用されたとき、同じ標的領域にハイブリダイゼーションするホスホロチオアートデオキシオリゴヌクレオチドと比較して、より短いオリゴヌクレオチドを用いて得ることができる。RNA標的の切断は、ゲル電気泳動によって、また、必要な場合には、この分野で知られている会合核酸ハイブリダイゼーション技術によって、常法により検出することができる。
【0162】
本発明のアンチセンス分子は、上記で記載されたように、2つ以上のオリゴヌクレオチド(すなわち、修飾されたオリゴヌクレオチド)の複合構造体として形成され得る。そのようなハイブリッド構造体の調製を教示する代表的な米国特許には、限定されないが、米国特許第5013830号、同第5149797号、同第5220007号、同第5256775号、同第5366878号、同第5403711号、同第5491133号、同第5565350号、同第5623065号、同第5652355号、同第5652356号および同第5700922号が含まれる(これらのそれぞれは全体が本明細書中に参考として組み込まれる)。
【0163】
リボザイム分子は、mRNAの切断による遺伝子発現の配列特異的な阻害のためにますます使用されている。数個のリボザイム配列を本発明のオリゴヌクレオチドに融合することができる。これらの配列には、限定されないが、凝固経路における重要な成分であるVEGF−R(血管内皮増殖因子受容体)の形成を特異的に阻害するANGIOZYME、および、C型肝炎ウイルス(HCV)RNAを選択的に破壊するために設計されたリボザイムのHEPTAZYME(Rybozyme Pharmaceuticals,Incorporated、WEBホームページ)が含まれる。
【0164】
さらにあるいは、本発明による小さい干渉性ポリヌクレオチド分子は、DNAザイムであり得る。
【0165】
DNAザイムは一本鎖の触媒作用核酸分子である。DNAザイムについての一般的なモデル(“10−23”モデル)が提案されている。“10−23”DNAザイムは、それぞれが7個〜9個のデオキシリボヌクレオチドからなる2つの基質認識ドメインが隣接する、15個のデオキシリボヌクレオチドからなる触媒作用ドメインを有する。このタイプのDNAザイムはその基質RNAをプリン:ピリミジン接合部において効果的に切断することができる(Santoro,S.W.&Joyce,G.F.、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、199;DNAザイムの総説については、Khachigian,LM、Curr Opin Mol Ther、2002:4:119〜21を参照のこと)。
【0166】
一本鎖および二本鎖の標的切断部位を認識する操作された合成DNAザイムの構築および増幅の例が米国特許第6,326,174号(Joyce他)に開示されている。ヒトウロキナーゼ受容体に向けられた類似する設計のDNAザイムが、最近、ウロキナーゼ受容体の発現を阻害し、結腸ガン細胞の転移をインビボで阻害することに成功したことが観測された(Itoh他、2002、アブストラクト409、Ann Meeting Am Soc Gen Ther、www.asgt.org)。別の適用において、bcr−ablガン遺伝子に対して相補的なDNAザイムは、白血病細胞におけるガン遺伝子の発現を阻害し、CMLおよびALLの場合において自家骨髄移植における再発率を小さくすることに成功した。
【0167】
本発明の教示に従って設計されたオリゴヌクレオチドは、この分野で知られている任意のオリゴヌクレオチド合成法(例えば、酵素合成または固相合成など)に従って作製することができる。固相合成を実行するための器具および試薬が、例えば、Applied Biosystemsから市販されている。そのような合成のための任意の他の手段もまた用いることができる。オリゴヌクレオチドの実際の合成は十分に当業者の能力の範囲内である。
【0168】
本発明のコンジュゲートの阻害活性を評価し続けている一方で、様々な実験が、情動障害に対するこれらのコンジュゲートの治療効果に関して行われた。下記の実施例の節において詳しく記載され、また明らかにされるように、これらの実験のときに、驚くべきことに、本発明のコンジュゲートは抗うつ活性を明瞭に示すことが見出された。
【0169】
これまで、GSK−3と情動障害との間における唯一のつながりは、一部の気分安定化剤(例えば、リチウムなど)がGSK−3阻害剤であるという知見に基づいていた。しかしながら、情動障害とGSK−3活性との間における直接的な関係を明らかにするつながりまたは証拠は示されていない。その上、リチウムは、他の気分安定化剤と同様に、多数のシグナル伝達経路に影響を及ぼし、他の細胞標的を阻害すること(Berridge他、1989;PhielおよびKlein、2001)、従って、本発明のコンジュゲートとは対照的に、GSK−3の特異的な阻害剤でないことが知られている。従って、本発明の知見は、GSK−3の特異的な阻害剤が、情動障害を治療するための強力かつ効果的な薬剤として役立ち得ることを初めて示している。
【0170】
従って、本発明のこの態様によれば、その必要性のある対象において情動障害を治療する方法が提供され、この場合、この方法は、GSK−3の活性を特異的に阻害することができる1つまたは複数の化合物の治療効果的な量を対象に投与することによって達成される。
【0171】
これに関連して行われた実験では、特異的なGSK−3阻害剤(例えば、本発明のコンジュゲートなど)の投与は、治療された動物の海馬におけるβ−カテニン濃度のアップレギュレーションをもたらしたことがさらに明らかにされた。
【0172】
従って、本発明のさらに別の態様によれば、対象の海馬におけるβ−カテニンの濃度をアップレギュレーションする方法が提供され、この場合、この方法は、GSK−3の活性を特異的に阻害することができる1つまたは複数の化合物の効果的な量を対象に投与することによって達成される。
【0173】
本明細書中で使用される表現「特異的に阻害する」は、GSK−3に対してだけ大きい親和性によって特徴づけられ、従って、たとえ存在するとしても、他のキナーゼに対する低下した親和性を有する化合物を示す。
【0174】
本明細書中上記で記載されるように、GSK−3の認識モチーフに基づくポリペプチドは非常に特異的なGSK−3阻害剤である。下記の実施例の節において表4に示される結果は、代表例のそのようなポリペプチドはGSK−3以外のプロテインキナーゼを阻害する能力がないことを明瞭に明らかにしている。
【0175】
従って、本発明のこの態様による方法は、好ましくは、本明細書中上記に詳しく記載されるように、下記のアミノ酸配列を有するポリペプチド:

(式中、mは1または2に等しい;nは1〜50の整数である;S(p)はリン酸化セリン残基またはリン酸化トレオニン残基である;Zは、セリン残基またはトレオニン残基を除く任意のアミノ酸残基である;X、X、X、Y〜YおよびW〜Wは、それぞれが独立して、任意のアミノ酸残基である)
を使用して達成される。
【0176】
より好ましくは、化合物は本発明のコンジュゲートである。
【0177】
非常に効率的な治療剤である一方で、また、治療的適用では、多くの場合、効果的な量の活性な成分を治療されている個体に投与することが要求されるので、本発明のコンジュゲートは、好ましくは、治療されている個体に対するコンジュゲートの投与を容易にするために、また、おそらくは、標的化された組織または細胞への活性な成分の進入を容易にするために医薬的に許容され得るキャリアをさらに含む医薬組成物において、有効成分として含まれる。
【0178】
従って、本発明のさらなる態様によれば、有効成分としての本発明のコンジュゲートと、医薬的に許容され得るキャリアとを含む医薬組成物が提供される。
【0179】
以降、表現「医薬的に許容され得るキャリア」および表現「生理学的に許容され得るキャリア」は、対象に対する著しい刺激を生じさせず、投与された化合物の生物学的な活性および性質を阻害しないキャリアまたは希釈剤を示す。キャリアの非限定的な例には、ポリエチレングリコール、生理的食塩水、有機溶媒と水とのエマルションおよび混合物がある。
【0180】
本明細書中において、用語「賦形剤」は、化合物の投与をさらに容易にするために医薬組成物に添加される不活性な物質を示す。賦形剤の非限定的な例には、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、様々な糖およびタイプのデンプン、セルロース誘導体、ゼラチン、植物油およびポリエチレングリコールが含まれる。
【0181】
医薬的に許容され得るキャリアにはさらに、他の薬剤、例えば、吸収遅延剤、抗菌剤、抗真菌剤、酸化防止剤、結合剤、緩衝化剤、増量剤、カチオン性脂質剤、着色剤、希釈剤、崩壊剤、分散剤、乳化剤、賦形剤、矯味矯臭剤、滑剤、等張剤、リポソーム、マイクロカプセル、溶媒、甘味剤、粘度改変剤、湿潤化剤および皮膚浸透増強剤など(これらに限定されない)が含まれ得る。
【0182】
薬物の配合および投与のための様々な技術が“Remington’s Pharmaceutical Sciences”(Mack Publishing Co.、Easton、PA、最新版)に見出され得る(これは参考として本明細書中に組み込まれる)。
【0183】
好適な投与経路には、例えば、経口送達、直腸送達、経粘膜送達、経皮送達、腸管送達または非経口送達(これには、筋肉内注射、皮下注射および髄内注射、ならびに、クモ膜下注射、直接的な脳室内注射、静脈内注射、腹腔内注射、鼻内注射または眼内注射が含まれる)が含まれ得る。
【0184】
本発明の医薬組成物は、この分野で十分に知られている様々なプロセスによって、例えば、混合、溶解、造粒、糖衣錠作製、研和、乳化、カプセル化、包括化または凍結乾燥の従来のプロセスによって製造することができる。
【0185】
従って、本発明に従って使用される医薬組成物は、医薬品として使用され得る調製物へのコンジュゲートの加工を容易にする賦形剤および補助剤を含む1つまたは複数の医薬的に許容され得るキャリアを使用して従来の様式で配合することできる。組成物は、エアロゾル送達形態物、水溶液、ボーラス剤、カプセル、コロイド、遅延放出、デポー剤、溶解可能な粉末、滴剤、エマルション、侵食性インプラント、ゲル、ゲルカプセル、顆粒剤、注射溶液、摂取可能な溶液、吸入可能な溶液、ローション、オイル溶液、ピル、坐薬、膏薬、懸濁物、持続放出、シロップ、錠剤、チンキ剤、局所用クリーム、経皮送達形態物などの送達形態物で配合することができる。適正な配合は、選ばれた投与経路に依存する。
【0186】
注射の場合、本発明のコンジュゲートは、有機溶媒(例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなど)を伴うか、または伴わない水溶液において、好ましくは生理学的に適合し得る緩衝液(例えば、ハンクス溶液、リンゲル溶液、または生理学的な生理的食塩水緩衝液など)において配合することができる。経粘膜投与の場合、浸透剤が配合において使用される。そのような浸透剤はこの分野では一般に知られている。
【0187】
経口投与の場合、コンジュゲートは、コンジュゲートをこの分野で広く知られている医薬的に許容され得るキャリアと組み合わせることによって容易に配合され得る。そのようなキャリアは、本発明のコンジュゲートが、患者によって経口摂取される錠剤、ピル、糖衣錠、カプセル、液剤、ゲル、シロップ、スラリー剤および懸濁物などとして配合されることを可能にする。経口使用される薬理学的調製物を、固体の賦形剤を使用し、得られた混合物を場合により粉砕し錠剤または糖衣錠コアを得るために、所望する場合には好適な補助剤を添加した後、顆粒の混合物を加工して作製することができる。好適な賦形剤には、特に、ラクトース、スクロース、マンニトールまたはソルビトールを含む糖などの充填剤;セルロース調製物、例えば、トウモロコシデンプン、コムギデンプン、コメデンプン、ジャガイモデンプン、ゼラチン、トラガカントゴム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ナトリウムカルボメチルセルロースなど;および/またはポリビニルピロリドン(PVP)などの生理学的に許容され得るポリマーがある。所望する場合には、架橋されたポリビニルピロリドン、寒天、またはアルギン酸もしくはその塩(例えば、アルギン酸ナトリウムなど)などの崩壊剤を加えることができる。
【0188】
糖衣錠コアには、好適なコーティングが施される。この目的のために、高濃度の糖溶液を使用することができ、この場合、糖溶液は、場合により、アラビアゴム、タルク、ポリビニルピロリドン、カルボポールゲル、ポリエチレングリコール、二酸化チタン、ラッカー溶液および好適な有機溶媒または溶媒混合物を含有し得る。色素または顔料を、活性な成分の量を明らかにするために、または活性な成分の量の種々の組合せを特徴づけるために、錠剤または糖衣錠コーティングに加えることができる。
【0189】
経口使用され得る医薬組成物には、ゼラチンから作製されたプッシュ・フィット型カプセル、ならびに、ゼラチンおよび可塑剤(例えば、グリセロールまたはソルビトールなど)から作製された軟いシールされたカプセルが含まれる。プッシュ・フィット型カプセルは、充填剤(例えば、ラクトースなど)、結合剤(例えば、デンプンなど)、滑剤(例えば、タルクまたはステアリン酸マグネシウムなど)および場合により安定化剤との混合で有効成分を含有することができる。軟カプセルでは、有効成分を好適な液体(例えば、脂肪油、流動パラフィンまたは液状のポリエチレングリコールなど)に溶解または懸濁させることができる。また、安定化剤を加えることができる。経口投与される配合物はすべて、選ばれた投与経路について好適な投薬形態でなければならない。
【0190】
口内投与の場合、組成物は、従来の様式で配合された錠剤またはトローチの形態を取ることができる。
【0191】
吸入による投与の場合、本発明によるコンジュゲートは、好適な噴射剤(例えば、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタンまたは二酸化炭素)の使用により加圧パックまたはネブライザーからのエアロゾルスプレー提示物の形態で都合よく送達される。加圧されたエアロゾルの場合、投薬量単位が、計量された量を送達するためのバルブを備えることによって決定され得る。吸入器または吹き入れ器において使用される、例えば、ゼラチン製のカプセルおよびカートリッジで、成分および好適な粉末基剤(例えば、ラクトースまたはデンプンなど)の粉末混合物を含有するカプセルおよびカートリッジを配合することができる。
【0192】
本明細書中に記載されるコンジュゲートは、例えば、ボーラス注射または連続注入による非経口投与のために配合することができる。注射用配合物は、場合により保存剤が添加された、例えば、アンプルまたは多回用量容器における単位投薬形態で提供され得る。組成物は、油性ビヒクルまたは水性ビヒクルにおける懸濁物または溶液剤またはエマルションにすることができ、また、懸濁化剤、安定化剤および/または分散化剤などの配合剤を含有することができる。
【0193】
非経口投与される医薬組成物には、水溶性形態でのコンジュゲートの水溶液が含まれる。また、コンジュゲートの懸濁物を適切な油性の注射用懸濁物として調製することができる。好適な親油性の溶媒またはビヒクルには、脂肪油(例えば、ゴマ油など)、または合成脂肪酸エステル(例えば、オレイン酸エチルなど)、トリグリセリドまたはリポソームが含まれる。水性の注射用懸濁物は、懸濁物の粘度を増大させる物質、例えば、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、ソルビトールまたはデキストランなどを含有することができる。場合により、懸濁物はまた、高濃度溶液の調製を可能にするために活性な成分の溶解性を増大させる好適な安定化剤または薬剤を含有することができる。
【0194】
あるいは、コンジュゲートは、好適なビヒクル(例えば、無菌のパイロジェン非含有水)を使用前に用いて構成される粉末形態にすることができる。
【0195】
本発明のコンジュゲートはまた、例えば、カカオ脂または他のグリセリドなどの従来の座薬基剤を使用して、座薬または停留浣腸剤などの直腸用組成物に配合することができる。
【0196】
本明細書中に記載される医薬組成物はまた、ゲル相キャリアまたは賦形剤の好適な固体を含むことができる。そのようなキャリアまたは賦形剤の例には、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、様々な糖、デンプン、セルロース誘導体、ゼラチン、およびポリマー(例えば、ポリエチレングリコールなど)が含まれるが、これらに限定されない。
【0197】
本発明に関連した使用のために好適な医薬組成物には、コンジュゲートが、その意図された目的を達成するために効果的な量で含有される組成物が含まれる。より具体的には、治療効果的な量は、治療されている対象の状態の症状に影響を及ぼすために効果的であるか、または、治療されている対象の生存を延ばすために効果的である、コンジュゲートの量を意味する。
【0198】
治療効果的な量の決定は、特に本明細書中に提供される詳細な開示に照らして、十分に当業者の能力の範囲内である。
【0199】
本発明の方法において使用される任意の活性な成分について、治療効果的な量または用量は、最初は細胞培養物および動物における活性アッセイから推定することができる。そのような情報は、ヒトにおける有用な用量をより正確に決定するために使用することができる。
【0200】
投薬量は、用いられる投薬形態物および利用される投与経路に依存して変化し得る。正確な配合、投与経路および投薬量は、患者の状態を考慮して個々の医師によって選ぶことができる(例えば、Fingl他、1975、“The Pharmacological Basis of Therapeutics”、第1章、1頁を参照のこと)。
【0201】
本発明の組成物は、所望される場合には、コンジュゲートを含有する1つ以上の単位投薬形態物を含有し得る、FDA承認キットなどのパックまたはディスペンサーデバイスで提供され得る。パックは、例えば、金属箔またはプラスチック箔を含むことができ、例えば、ブリスターパックなどである。パックまたはディスペンサーデバイスには、投与のための説明書が添付され得る。パックまたはディスペンサーにはまた、医薬品の製造、使用または販売を規制する政府当局により定められた形式で容器に付けられた通知が伴い得る。この場合、そのような通知は、組成物の形態またはヒトもしくは動物への投与の当局による承認を反映する。そのような通知は、例えば、処方薬物についての米国食品医薬品局により承認されたラベル書きであり得るか、または承認された製品添付文書であり得る。適合し得る医薬用キャリアに配合された本発明のコンジュゲートを含む組成物はまた、適応状態を治療するために、調製され、適切な容器に入れられ、かつ表示され得る。ラベルに示される好適な状態には、例えば、本明細書中上記で示される、GSK−3活性に関連する生物学的状態のいずれかが含まれ得る。
【0202】
従って、本発明の医薬組成物は、GSK−3に関連する生物学的状態の治療または防止における使用のために、包装用材料に詰められ、包装用材料の表面またはその中での活字で識別され得る。
【0203】
本発明の医薬組成物はさらに、本明細書中上記で記載されるように、GSK−3の活性を妨害することができるさらなる活性な成分を含むことができる。
【0204】
さらに、本発明によれば、本発明のコンジュゲートを調製するプロセスが提供される。この場合、このプロセスは、本明細書中上記で記載されたポリペプチドを提供すること、本明細書中上記で記載されるような1つまたは複数の疎水性成分を提供すること、および、前記疎水性成分(1つまたは複数)と前記ポリペプチドとをコンジュゲート化することを含む。
【0205】
1つの実施形態において、本発明のポリペプチドは、Dugas他(1981)によって記載されるように、広く知られている化学的手法を使用して、例えば、溶液ペプチド合成または固相ペプチド合成、あるいは、従来の溶液法によりカップリングされたタンパク質フラグメントを用いて開始される溶液での半合成などを使用して化学合成によって提供される。本発明のポリペプチドは、例えば、Merrifield他(1964)の固相ペプチド合成によって化学合成することができる。あるいは、本発明のペプチド阻害剤は、標準的な溶液法を使用して合成することができる(例えば、Bodanszky(1984)を参照のこと)。新しく合成されたペプチドは、例えば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって精製することができ、例えば、質量分析法またはアミノ酸配列分析を使用して特徴づけることができる。
【0206】
あるいは、本発明のポリペプチドは組換えにより提供され得る。本発明のポリペプチドをクローン化および発現するためのシステムには、組換え技術において広く知られている様々な微生物および細胞が含まれる。これらには、例えば、大腸菌、バチルス属、ストレプマイセス属およびサッカロマイセス属の様々な菌株、ならびに、哺乳動物細胞、酵母細胞および昆虫細胞が含まれる。本発明のポリペプチドはペプチドまたは融合タンパク質として産生させることができる。ペプチド阻害剤を産生させるための様々な好適なベクターが知られており、それらは民間および公立の研究所および寄託機関から得ることができ、また、商業的供給者から得ることができる。Sambrook他(1989)を参照のこと。遺伝子産物を発現させることができるレシピエント細胞が、その後、トランスフェクションされる。トランスフェクションされたレシピエント細胞は、組換え遺伝子産物の発現を可能にする条件のもとで培養され、その後、組換え遺伝子産物が培養から回収される。様々な宿主哺乳動物細胞、例えば、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)またはCOS−1細胞などを使用することができる。これらの宿主は、ワクシニアまたは豚痘などのポックスウイルスベクターとともに使用することができる。合成遺伝子を宿主の細胞の中に運ぶために操作され得る好適な非病原性ウイルスには、種々のポックスウイルス、例えば、ワクシニアウイルス、アデノウイルスおよびレトロウイルスなどが含まれる。多数のそのような非病原性ウイルスが、ヒトの遺伝子治療のために、また、他のワクチン因子のためのキャリアとして一般に使用され、当業者によって知られており、選択可能である。他の好適な宿主細胞の選択、形質転換、培養、増幅、スクリーニング、ならびに生成物の産生および精製のための方法の選択を、様々な知られている技術(例えば、Gething他、1981)を参照することによって当業者は行うことができる。
【0207】
ポリペプチドが提供されると、疎水性成分(1つまたは複数)を、一般に使用されている技術によってポリペプチドにコンジュゲート化することができる。例えば、疎水性成分が脂肪酸である場合、脂肪酸(例えば、ミリスチン酸)をポリペプチド配列内のアミノ酸残基に付加するための技術が使用される。あるいは、アミノ酸残基が、本明細書中上記で記載されるように、脂肪酸などの疎水性成分を含むように改変され、その後で、知られている化学的手法によってポリペプチドに結合させられる。
【0208】
疎水性成分が疎水性ペプチド配列を含む場合、疎水性ペプチドを、本明細書中上記で記載された方法を使用して調製することができ、その後でポリペプチドにコンジュゲート化することができる。あるいは、コンジュゲートを、本発明のポリペプチドとそのような疎水性ペプチド配列とを含む融合ポリペプチドをクローン化および発現するために、本明細書中上記で記載されるようなシステムを使用して組換えにより調製することができる。
【0209】
本発明のさらなる目的、利点および新規な特徴が、限定であることが意図されない下記の実施例を検討したとき、当業者には明らかになる。また、本明細書中上記で説明され、下記の請求項の節において特許請求されるような本発明の様々な実施形態および態様はそれぞれが、下記の実施例において実験的裏付けが見出される。
【実施例】
【0210】
次に、下記の実施例が参照される。下記の実施例は、上記の説明とともに、本発明を非限定的な様式で例示する。
【0211】
材料および実験方法
材料:
ペプチドはすべて、疎水性成分がペプチドに結合しているコンジュゲートを含めて、Genemed Synthesis Inc.(San Francisco、CA)によって合成された。
【0212】
放射性物質はAmersham Ltd.から購入された。
【0213】
サイクリン依存性プロテインキナーゼ(cdc2)、カゼインキナーゼ−2(CK−2)、CK−2ペプチド、cAMP依存性プロテインキナーゼ(PKA)の触媒活性サブユニット、およびマイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)は、New England BioLabs(Beverly、MA)から購入された。
【0214】
他の試薬はすべて、Sigma(イスラエル)から得られた。
【0215】
ペプチド阻害剤は50mMのHEPS緩衝液(pH7.5)に溶解された。
【0216】
ミリストイル化ペプチド(mts)は0.1%DMSO緩衝液溶液に溶解された。
【0217】
インビトロ研究:
インビトロ阻害アッセイ:精製された組換えウサギGSK−3β(Eldar−Finklelman他、1996)を、示された濃度でペプチド基質PGS−1(YRRAAVPPSPSLSRHSSPSQS(p)EDEEE)(配列番号15)およびペプチド阻害剤とインキュベーションした。50mMのTris(pH=7.3)、10mMのMgAc、32P[γ−ATP](100μM)、0.01%のβ−メルカプトエタノールを含む反応混合物を、30℃で10分間インキュベーションした。反応液を、(Eldar−Finklelman他(1996)に記載されるように)ホスホセルロース紙(p81)にスポットし、100mMリン酸で洗浄し、放射能について計数した。
【0218】
他のプロテインキナーゼにおけるL803(200μM)の影響を、Cdc2(1ユニット)を、本明細書中上記で記載された反応混合物と類似し、ヒストンH1基質(5μg)を含有する反応混合物とインキュベーションすることによって調べた。反応液をSDSサンプル緩衝液とともに煮沸し、ゲル電気泳動で分離して、オートラジオグラフにした。
【0219】
MAPK、PKAおよびCK−2の活性を、ミエリン塩基性タンパク質(MBP、Zvi Naorからの譲渡物)、p9CREB(表3)およびCK−2ペプチドが基質としてそれぞれ使用されたことを除いて類似する条件において調べた。
【0220】
プロテインキナーゼC−δが、特異的な抗体(Santa Cruz、CA)を用いて脂肪組織抽出物から免疫沈殿され、その活性を、脂質補因子のホスファチジルセリン(40μM)が基質としてのヒストンHIと一緒にインキュベーションされたことを除いて類似する条件において測定した。
【0221】
プロテインキナーゼB(PKB)を、血清刺激のNIH/3T3細胞の抽出物から、特異的な抗体(New−England BioLabs、MA)を用いて免疫沈殿し、キナーゼアッセイを、MBPが基質として使用されたことを除いて類似する条件において行った。
【0222】
HEK293細胞におけるグリコーゲンシンターゼ活性:無傷の細胞における本発明のコンジュゲートの影響を調べるために、膜透過性L803阻害剤のL803−mts(N−ミリストル−GKEAPPAPPQS(p)P)(配列番号16)、ならびに2つの同様に修飾されたそれぞれのコントロールのLE803−mts(N−ミリストル−GKEAPPAPPQSEP)(配列番号17)およびLS803−mts(N−ミリストル−GKEAPPAPPQSP)(配列番号18)(これらにおいて、リン酸化セリンがグルタミン酸(これは通常、リン酸化された基を模倣する)またはセリン残基によってそれぞれ置換された)を設計し、合成した。インビトロアッセイが、これら2つのコントロールコンジュゲート(LE803−mtsおよびLS803−mts)をGSK−3を阻害しないことを確認するために行った(データは示されず)。
【0223】
HEK293細胞を、10%ウシ胎児血清(FCS)が補充されたダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)を用いて10cmプレートにおいて成長させた。実験当日に、細胞を、0.5%FSCが補充された低グルコース培地で1時間インキュベーションし、その後、コンジュゲートL803−mtsまたはそのそれぞれのコントロール(LE803−mtsおよびLS803−mts)を様々な濃度でさらに2.5時間加えた。DMSOのビヒクルコントロール(0.1%DMSO)もまた調べた。その後、細胞を、Eldar−Finkelman他(1996)に記載されるように、氷冷のGS緩衝液(下記のプロテアーゼ阻害剤を含む50mM Tris(pH7.8)、100mM NaF、10mM EDTA:20μg/mlのロイペプチン、10μg/mlのアプロチニン、10mg/mlのペプスタチンA、1mMのベンズアミジン)で2回洗浄し、同じ緩衝液とともに掻き取り、液体窒素で凍結した。グリコーゲンシンターゼ活性が、ウリジン5−二リン酸[14C]グルコース(UDPG)のグリコーゲンへの取り込みに基づくThomas他(1986)の方法に従ってアッセイした。細胞溶解物の一部(15μl)を、Eldar−Finkelman他(1996)に記載されるように、15μlの反応混合物(66.6mMのTris(pH=7.8)、32.5mMのKF、0.8μCi/μlの[14C]−UDPG(400μM)、13mg/mlのグリコーゲン(ウサギ肝臓、Sigma))と30℃で20分間インキュベーションした。その後、反応液をET31(Whatman)紙にスポットし、66%の氷冷エタノールで洗浄し、放射能について計数した。グリコーゲンシンターゼアッセイを、0.1mMのグルコース−6−リン酸(G6P)の存在下で測定した。G6Pがアッセイに存在しないとき、類似する結果が得られた(データは示されず)。
【0224】
単離された脂肪細胞におけるグルコース取り込み:マウス脂肪細胞を、以前の記載(Lawrence他、1977)のように、0.8mg/mlのコラーゲナーゼ(Worthington Biochemical)を用いた消化によって精巣上皮脂肪パッドから単離した。消化された脂肪パッドをナイロンメッシュに通し、細胞を、1%のウシ血清アルブミン(第V画分、Boehringer Mannheim、ドイツ)、10mMのHEPES(pH=7.3)、5mMのグルコースおよび200nMのアデノシンを含有するKrebs重炭酸塩緩衝液(pH=7.4)で3回洗浄した。細胞を、示された濃度で1時間、L803−mtsまたはLE803−mtsとインキュベーションし、その後、2−デオキシ[H]グルコース(0.5μci/バイアル)を10分間加えた。アッセイを、ジノニルフタラート(ICN、米国)による細胞の遠心分離によって終了させた。その後、Hを液体シンチレーション分析器(Packard)によって定量した。2−デオキシ−[H]グルコースの非特異的な取り込みを、放射能物質の添加の30分前にサイトカラシンB(50μM)を加えることによって測定した。
【0225】
別の1組の実験において、脂肪細胞を、次善最適な濃度のインスリン(5nM)の添加の1時間前に様々な濃度のL803−mtsで処理した。グルコース取り込みは上記のように測定した。
【0226】
インビボ研究:
動物における高脂肪食誘導による糖尿病:4週齢のC57B1/6Jマウスに、以前の記載(Surwit他、1988)のように、55%のカロリーが脂肪からである35%ラード含有の高脂肪食(Bioserve、Frenchtown、NJ)を与えた。動物は、12時間の明暗周期を有する温度制御施設において、自由に水を摂取させながら個別ケージで飼育した。動物は、16週間の給餌後、肥満、高血糖症および高インスリン血症を発症した(I.Talior、未発表の結果)。
【0227】
グルコース負荷試験:グルコース負荷試験が、一晩絶食させたC57B1/6Jマウス(12時間)において行われた。L803−mtsまたはLE803−mtsをマウスに腹腔内(i.p.)投与し(400nmolのペプチド)、グルコース(1グラム/kg)をその1時間後に1.p.注射し、血液サンプルを尾静脈から様々な時点で採取した。血中グルコース濃度を、Sugar Accutrend Sensor(Roche、ドイツ)によって直ちに測定した。
【0228】
マウスを投与前の6時間、絶食させ、L803−mtsをグルコース注射の90分前に注射した以外は同様な実験を、本明細書中上記で記載されるように高脂肪食が16週間にわたって与えられた糖尿病C57B1/6Jマウスにおいて行った。
【0229】
強制泳ぎ試験(FST):C57B1/6Jマウスを、12時間の明暗周期を有する温度制御施設において、自由に水を摂取させながら個別ケージで飼育した。14週齢〜16週齢の動物を使用した。それぞれの実験群は、無作為に選ばれた10匹〜20匹からなった。1日目に、マウスをプレFST(下記参照)に供した。2日目に、マウスをハロタンで麻酔し(吸入)、L803−mtsまたは変性されたコントロールペプチド(cpL803−mts)を片側の脳室内に注射した(i.c.v.、25mMストック溶液の1μl)。動物は、試薬が投与された後の1時間、3時間および12時間において1回のFSTに供した。使用されたFST法は、Porsolt他(1977)によって初めて記載された手法と類似した。簡単に記載すると、動物を、1日目に、25℃の水が入った大きな円筒容器(30cmx45cm)に15分間入れた。2日目(24時間後)、処置された動物を、水の入った大きな円筒容器に6分間入れた。不動性の持続期間が6分の試験の最後の4分間モニターされた。不動性の期間は、もがくことなく動物が水に浮き、その頭を水面上に保つために必要なそのような動きのみを行うことによって費やされた時間として定義した。すべての試験を11:00〜15:00の間に行った。FSTが完了した後、マウスを屠殺し、海馬を取り出し、液体窒素で凍結し、−80℃で保存した。動物の管理は動物の管理および使用の施設内委員会に従った。
【0230】
海馬抽出物:海馬組織を氷冷の緩衝液H(50mMのβ−グリセロホスファート(pH=7.3)、10%のグリセロール、1mMのEGTA、1mMのEDTA、10mMのNaF、5mMのNaPPi、25μg/mlのロイペプチン、25μg/mlのアプロチニン、500nMのミクロシスチンLR、および1%のTritonX100)とともにホモジネートした。抽出物を15,000Xgで20分間遠心分離し、上清を集めた。等量のタンパク質(30μg)(これはBradford分析(Bradford、1976)によって測定された)をLaemmliサンプル緩衝液とともに煮沸して、ゲル電気泳動(10%ポリアクリルアミドゲル)に供し、ニトロセルロースメンブランに転写して、β−カテニンに対する特異的なモノクローナル抗体(Transduction laboratories、米国)を用いて免疫ブロットした。
【0231】
統計学:
グラフ処理および統計学的分析を、Origin Professional 6.0を使用する1因子分散分析(ANOVA)を使用して行った。データは、P<0.05であるとき、有意であると見なされた。データは、標準誤差を伴う群平均として表される。
【0232】
実験結果
インビトロ研究:
インビトロ阻害アッセイ:
国際特許出願PCT/US01/00123に示される理論に基づいて、1組のリン酸化ペプチド阻害剤が設計され、合成され、それらの活性が上記のインビトロ分析によって評価された。1組の阻害剤ならびに分析結果が下記の表3に示される。
【表3】


【0233】
これらの結果は、GSK−3基質、すなわち、CREB(cAMP応答性エレメント結合タンパク質)およびHSF−1(熱ショック因子−1)に由来する2つの知られているペプチド配列におけるアラニンによるSの置換により、基質が阻害剤に変換されたことを示している(表3、5および8)。pAHSHペプチドにおけるSの上流側に存在するグルタミン酸の置換により、阻害効力が改善された(L803、表3、ペプチド9)。
【0234】
(p)をグルタミン酸(これは多くの場合、リン酸化された基を模倣する)またはセリンそのもののいずれかで置換すること(表3、それぞれ、ペプチド10およびペプチド11)により、これらのペプチドは不活性な阻害剤になった。従って、このことは、リン酸化セリンがペプチド阻害剤のための絶対的な必要条件であることを示している。p9CREBペプチド基質におけるS(p)のグルタミン酸またはリン酸化チロシンによる置換(表3、それぞれ、ペプチド3およびペプチド4)により、これらのペプチドをリン酸化するGSK−3の能力が失われた。従って、このことは、基質に対する同じ必要条件を示している。その上、ペプチドの長さをSXS(p)(配列番号19)の最小配列に減少させることによってもまた、ペプチドの阻害能力が失われた(表3、ペプチド6およびペプチド12〜14)。このことは、このモチーフに隣接するさらなる残基(外見的には、各末端において少なくとも1個〜2個)がペプチド阻害剤では含まれなければならないことを示している。特筆すべきことに、Sの上流側に位置するグルタミン酸がアラニンで置換されたとき、阻害が改善された(ペプチド9(LE803)対ペプチド8(pAHSF)を参照のこと)。外見的には、グルタミン酸残基が、eIF2B、CREB、c−MycおよびD−Junを含む(すべてではないが)一部のGSK−3基質において類似する位置に見出される(Woodgett、2001)。これは、酵素/基質の相互作用および/または解離におけるこの残基についての極めて重要な役割を示し得る特徴である。
【0235】
図1aおよび図1bは、試験されたペプチド阻害剤のうちの3つの阻害曲線を示す(表3、ペプチド5、ペプチド8およびペプチド9):Hz13(図1a)、pAHSFおよびL803(図1b)。これらの阻害剤およびそれ以外の試験された阻害剤(データは示されず)について得られたIC50値は150μM〜330μMの範囲にあり、L803が150μMの最も有望なIC50値を有していた。
【0236】
ペプチド阻害剤の速度論的性質が、いくつかの阻害剤濃度における基質濃度の関数として初速度を測定することによって研究された。これらの阻害剤によるGSK−3阻害のラインウィーバー・バークプロットにより、これらは基質競合性阻害剤であるという仮定が確認された(データは示されず)。図2は、例示的な阻害剤としてのL803によるGSK−3阻害のラインウィーバー・バークプロットを示す。
【0237】
L803は、GSK−3に対する最も強力な阻害剤であることが見出されたので、さらなる研究のための代表的なペプチド阻害剤として選択された。
【0238】
従って、L803の特異性が、このペプチド阻害剤の存在下でのその基質をリン酸化するいくつかのプロテインキナーゼの能力を調べることによって試験された。結果が、阻害剤の非存在下で測定された活性の百分率として表4に示される。表4は、(200μMの濃度で)L803は、GSK−3以外の選択されたプロテインキナーゼを著しく阻害することができないことを示している。特筆すべきことに、GSK−3に最も近い関係にあるプロテインキナーゼのサイクリン依存性プロテインキナーゼ(cdc2)でさえも、L803によって阻害されなかった。このことは、本発明者らの阻害剤の特異性をさらに裏付けている。
【表4】

【0239】
ペプチド阻害剤と、それに共有結合的に連結された疎水性成分とを含む代表例のコンジュゲートの阻害速度論が、L803−mtsと名付けられたミリストル化L803(ミリスチン酸がそのN末端に結合しているL803−mts阻害剤)を用いて上記アッセイを行うことによって評価された。
【0240】
図3aおよび図3bに示されるように、この修飾は阻害剤のIC50値を40μMに実質的に減少させた。このことは、GSK−3阻害剤に対する疎水性成分の付加は阻害の改善をもたらすことを示唆している。
【0241】
比較のためのGSK−3β阻害アッセイが、L803−mtsと、cpL803−mtsと名付けられた変性コントロールペプチドとを使用して上記のように行われた。図4に示されるように、L803−mtsはGSK−3βを阻害した(IC50=40μM)。対照的に、cpL803−mtsは、試験された濃度範囲(0〜300μM)でGSK−3β活性を阻害しなかった。
【0242】
HEK293細胞におけるグリコーゲンシンターゼ活性:
無傷の細胞および動物におけるミリストル化ペプチドの生物学的影響を調べるために、L803−mtsおよび2つの同様に修飾されたそれぞれのコントロール(LE803−mtsおよびLS803−mts)を使用した。GSK−3の知られている生理学的標的(グリコーゲンシンターゼ、これは、GSK−3によるリン酸化のときに阻害される(Wang他、1993;Woodgett他、1984))に対するL803−mtsの影響を最初に研究した。
【0243】
これらの研究で得られた結果が図5aおよび図5bに示され、これらは、L803−mtsが、LE803−mtsまたはLS803−mtsのいずれかで処理された細胞と比較して、グリコゲンシンターゼ活性を2.5倍増大させたことを示している。これらの結果はさらに、L803−mtsが内因性GSK−3を比較的低い濃度(10μM〜40μM)で阻害することを明らかにしている。
【0244】
単離された脂肪細胞におけるグルコース取り込み:
単離された脂肪細胞におけるグルコース取り込みに対する本発明のコンジュゲートの影響を、[H]−2−デオキシグルコースの取り込みを測定する1時間前にマウス脂肪細胞をL803−mtsまたはLS803−mtsまたはLE803−mtsとインキュベーションすることによって調べた。図6aに示されるように、L803−mtsは、LE803−mtsまたはLS803−mtsで処理された細胞と比較して、2−デオキシグルコースの取り込みを約2.5倍増大させた。この値は、これらのマウス脂肪細胞において3倍である、インスリン(10nM)による最大刺激によって得られる値と匹敵する(データは示されず)。
【0245】
本発明のコンジュゲートGSK−3阻害剤がインスリンと協奏して機能し得るかどうかを明らかにするために、脂肪細胞を様々な濃度のL803−mts(1μM〜10μM)で最初に処理し、その後、次善最適な濃度のインスリン(5nM)が添加された。図6bに示されるように、L803−mts処理細胞におけるグルコース取り込みの活性化がインスリン処理細胞においてさらに増大した。このことは、L803−mtsがインスリン誘導のグルコース取り込みに対する付加的な効果を有することを示している。
【0246】
インビボ研究:
グルコース負荷試験:
L803−mtsのインビボでの機能を、本明細書中上記に記載されるように、一晩絶食させたC57B1/6JマウスにおいてL803−mtsの腹腔内投与後の糖耐性を測定することによって調べた。結果が図7に示され、結果は、より良好な糖耐性が、コントロールペプチドで処置されたマウスと比較した場合、GSK−3阻害剤のL803−mtsで前処理された絶食マウスにおいて観測されたことを明らかにしている。図7に示されるように、L803−mtsによる治療は、グルコース投与後の1時間および2時間において、血中グルコース最大値、ならびにその後のグルコース濃度における20%の低下をもたらした。
【0247】
次に、糖尿病(HF)マウスにおける糖耐性に対するL803−mtsの影響を調べた。図8aおよび図8bに示されるように、L803−mtsで前処理されたHFマウスは、コントロールペプチドのLE803−mtsで処置されたマウスと比較した場合、グルコース負荷試験および血中グルコースクリアランスにおける著しく改善された成績をもたらした。これらの結果は、グルコース取り込みを高めるL803−mtsの能力と一致しており、インスリン耐性およびII型糖尿病におけるGSK−3の役割を強く裏付けている。
【0248】
強制泳ぎ試験による研究:
L803−mtsを、FSTの1時間前、3時間前または12時間前にi.c.v.注射した。結果が図9に示され、結果は、L803−mtsによる前治療により、不動性時間の持続期間が、泳ぎの短い持続期間の後で動かなくなったコントロール治療マウスと比較して、37%±3.7%(1時間)、44%±5.7%(3時間)、および16%±0.6%(12時間)著しく短くなったことを示している(すべてについて、p<0.05)。
【0249】
強制泳ぎ試験は、抗うつ活性を評価するための動物モデルとして広く使用されている行動試験であるので、これらの結果は、GSK−3のインビボ阻害が抗うつ様活性を誘発することを初めて明らかにしている。従って、このことは、特異的なGSK−3阻害剤は、動物モデルにおいてうつ的行動を変化させることができ、有望な新しいクラスの抗うつ剤および/または気分安定化剤として役立ち得ることを示している。
【0250】
L803−mts治療マウスの海馬におけるβ−カテニン:
β−カテニンはGSK−3の知られている基質であり、最近では脳の発達および認知活動に関係した(Coyle−Rink他、2002)、多機能性タンパク質である(MillerおよびMoon、1996;PeiferおよびPolakis、2000)。GSK−3によるβ−カテニンのリン酸化はそのプロテオソーム分解を高め、GSK−3の阻害は細胞質における低リン酸化β−カテニンの蓄積をもたらす(Aberle他、1997;Ikeda他、1998;Yost他、1996)。安定化されると、β−カテニンは核に輸送され、核において、Lef/Tcfファミリーの転写因子と会合して、遺伝子発現を刺激する(Behrens他、1996)。
【0251】
従って、マウスの海馬におけるβ−カテニン濃度に対するL803−mtsの影響を調べた。海馬組織の抽出物を、モノクローナル抗β−カテニン抗体を用いたウエスタンブロットによって分析した。図10に示されるように、L803−mts治療は海馬抽出物における抗β−カテニンの量を時間依存的な様式で増大した。β−カテニン濃度の20%および30%の増大が、L803−mtsによる治療の1時間後および3時間後にそれぞれ観測された(両方について、p<0.05)。それにより、50%の増大がL803−mtsの投与後12時間において観測された。
【0252】
GSK−3の不活性化の結果としてのβ−カテニンのアップレギュレーションは、Wnt、リチウムまたはバルプロ酸で処理された様々な培養細胞を使用する数多くの研究において関係している(Chen他、1999;Ikeda他、1998;Sakanaka他、1998;Stambolic他、1996)。また、GSK−3の発現は、脳内のβ−カテニン濃度と逆相関することが示され(Hernandez他、2002;Lucas他、2001)、β−カテニンのシグナル伝達は脳の発達および認知活動においてさらに関係していた(Coyle−Rink他、2002)。
【0253】
しかしながら、FST研究および海馬抽出物研究の結果は、β−カテニンのアップレギュレーションが、L803−mtsによる治療に対する応答における不動性の持続期間の低下に関連することを示している。不動性に対する阻害剤の影響が低下していたとしても、β−カテニンの増大がL803−mts治療後12時間持続したことは注目に値する。おそらくは、核に蓄積すると、β−カテニンは、細胞質において主に生じるプロテオソーム分解およびGSK−3によるリン酸化から保護される。これらの結果は、これらの実験で検出されたβ−カテニンのアップレギュレーションが、GSK−3阻害剤L803−mtsにより誘発される抗うつ的性質に少なくとも部分的に関与することを示唆し得る。
【0254】
わかりやすいように個別の態様として説明した本発明のいくつかの特徴を1つの態様に組み合わせて提供できることは理解されるだろう。逆に、簡潔に説明するために1つの態様として説明した本発明の様々な特徴を個別に提供するか、一部を適当に組み合わせて提供することもできる。
【0255】
本発明をその特定態様に関して説明したが、多くの代替、変更および変形態様が当業者にとって明白であることは明らかである。したがって、特許請求の範囲の精神およびその広い範囲に包含されるそれらの代替、変更および変形態様は、全て本発明に包含されるものとする。本明細書で言及した刊行物、特許および特許出願は全て、具体的かつ個別的な表示の有無にかかわらず、参照により完全な形で本明細書に組み込まれるものとする。また、本願で行う参考文献の引用および記載は、当該参考文献を本発明に対する先行技術として利用できるとの自認ではないと解釈されるものとする。
【0256】










【図面の簡単な説明】
【0257】
【図1】リン酸化ペプチド阻害剤のHZ13(図1a)、pAHSFおよびL803(図1b)のGSK−3阻害活性を明らかにするプロットを示す。
【図2】示された濃度におけるL803によるGSK−3の阻害を表し、このGSK−3ペプチド阻害剤が競合的かつ特異的な阻害剤であることを明らかにするラインウィーバー・バークプロットである。
【図3】L803−mts(本発明によるコンジュゲートの代表例)の速度論的分析を明らかにするプロットを示す(図3a〜図3b)。
【図4】インビトロでのGSK−3活性に対するL803−mtsおよびcpL803−mtsの影響を明らかにする比較プロットを示す。
【図5】無傷の細胞におけるL803−mtsのGSK−3阻害活性を明らかにする比較プロットおよび棒グラフを示す(それぞれ、図5a〜図5b)。
【図6】インスリンの非存在下(図6a)および存在下(図6b)におけるグルコース取り込みに対するL803−mtsの影響を明らかにするプロットを示す。
【図7】糖耐性に対するL803−mtsの影響を明らかにする比較プロットを示す。
【図8】糖尿病マウスにおける糖耐性に対するL803−mtsの影響を明らかにする比較プロットを示す(図8a〜図8b)。
【図9】強制された泳ぎ試験における動物の行動に対するL803−mtsの影響を、示されるようなL803−mtsまたはscL803−mts(cp)の投与後の1時間、3時間および12時間における、強制された泳ぎ試験に供された動物の示された数から得られた不動性の平均値±SEとして明らかにするグラフである。
【図10】L803−mtsまたはscL803−mts(cp)の投与後の1時間、3時間および12時間においてマウス海馬におけるβ−カテニン濃度に対するL803−mtsの影響を明らかにする棒グラフを示す。
【配列表フリーテキスト】
【0258】
配列番号1〜19は合成ペプチドが配列を表わす。
【配列表】






【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリコーゲンシンターゼキナーゼ−3(GSK−3)の活性を阻害することができるコンジュゲートであって、以下のものを含む、コンジュゲート:
(a)下記のアミノ酸配列を有するポリペプチド:

式中、mは1または2に等しい;nは1〜50の整数である;S(p)はリン酸化セリン残基またはリン酸化トレオニン残基である;Zは、セリン残基またはトレオニン残基を除く任意のアミノ酸残基である;X、X、X、Y〜YおよびW〜Wは、それぞれが独立して、任意のアミノ酸残基である;および
(b)前記ポリペプチドに結合した少なくとも1つの疎水性成分。
【請求項2】
前記少なくとも1つの疎水性成分は前記ポリペプチドのN末端および/またはC末端に結合する請求項1に記載のコンジュゲート。
【請求項3】
前記少なくとも1つの疎水性成分は前記ポリペプチドのN末端に結合する請求項1に記載のコンジュゲート。
【請求項4】
前記少なくとも1つの疎水性成分は疎水性ペプチド配列を含む請求項1に記載のコンジュゲート。
【請求項5】
前記疎水性ペプチド配列はアラニン残基、システイン残基、グリシン残基、イソロイシン残基、ロイシン残基、バリン残基、フェニルアラニン残基、チロシン残基、メチオニン残基、プロリン残基およびトリプトファン残基からなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸残基を含む請求項4に記載のコンジュゲート。
【請求項6】
前記少なくとも1つの疎水性成分は脂肪酸を含む請求項1に記載のコンジュゲート。
【請求項7】
前記脂肪酸は少なくとも1つのアミノ酸残基に結合する請求項6に記載のコンジュゲート。
【請求項8】
前記脂肪酸はミリスチン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸およびリノレン酸からなる群から選択される請求項6に記載のコンジュゲート。
【請求項9】
前記脂肪酸はミリスチン酸である請求項8に記載のコンジュゲート。
【請求項10】
はグルタミン酸残基を除く任意のアミノ酸残基である請求項1に記載のコンジュゲート。
【請求項11】
Zはアラニン残基である請求項1に記載のコンジュゲート。
【請求項12】
nは1〜15の整数である請求項1に記載のコンジュゲート。
【請求項13】
nは1〜10の整数である請求項12に記載のコンジュゲート。
【請求項14】
配列番号16に示されるアミノ酸配列を有する請求項1に記載のコンジュゲート。
【請求項15】
活性な成分としての請求項1のコンジュゲートと、医薬的に許容され得るキャリアとを含む医薬組成物。
【請求項16】
GSK−3活性に関連する生物学的状態の治療における使用のために、包装用材料に詰められ、包装用材料の表面またはその中での活字で識別される請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項17】
前記生物学的状態は肥満、インスリン非依存性糖尿病、インスリン依存性状態、情動障害、神経変性疾患または神経変性障害、および精神病的な疾患または障害からなる群から選択される請求項16に記載の医薬組成物。
【請求項18】
前記情動障害は単極型障害および双極性障害からなる群から選択される請求項17に記載の医薬組成物。
【請求項19】
前記単極型障害がうつ病である請求項18に記載の医薬組成物。
【請求項20】
前記双極性障害が躁うつ病である請求項18に記載の医薬組成物。
【請求項21】
前記神経変性障害は脳虚血、発作、外傷性脳傷害および細菌感染からなる群から選択される事象から生じる請求項17に記載の医薬組成物。
【請求項22】
前記神経変性障害は慢性の神経変性障害である請求項17に記載の医薬組成物。
【請求項23】
前記慢性の神経変性障害はアルツハイマー病、ハンチングトン病、パーキンソン病、AIDS関連痴呆、筋萎縮性側索硬化症(AML)および多発性硬化症からなる群から選択される疾患から生じる請求項22に記載の医薬組成物。
【請求項24】
GSK−3の活性を変化させることができる少なくとも1つのさらなる活性な成分をさらに含む請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項25】
前記さらなる活性な成分はインスリンである請求項24に記載の医薬組成物。
【請求項26】
前記さらなる活性な成分はGSK−3の活性を阻害することができる請求項24に記載の医薬組成物。
【請求項27】
前記さらなる活性な成分はGSK−3阻害剤、リチウム、バルプロ酸およびリチウムイオンからなる群から選択される請求項26に記載の医薬組成物。
【請求項28】
前記さらなる活性な成分はGSK−3の発現をダウンレギュレーションすることができる請求項24に記載の医薬組成物。
【請求項29】
前記さらなる活性な成分はポリヌクレオチドである請求項28に記載の医薬組成物。
【請求項30】
前記ポリヌクレオチドは細胞内でのGSK−3 mRNAの分解を生じさせるために向けられた小さい干渉性ポリヌクレオチド分子である請求項29に記載の医薬組成物。
【請求項31】
前記小さい干渉性ポリヌクレオチド分子はRNAi分子、アンチセンス分子、リボザイム分子およびDNAザイム分子からなる群から選択される請求項30に記載の医薬組成物。
【請求項32】
エアロゾル、水溶液、ボーラス剤、カプセル、コロイド、遅延放出剤、デポー剤、溶解可能な粉末、滴剤、エマルション、侵食性インプラント、ゲル、ゲルカプセル、顆粒剤、注射液、摂取可能な溶液、吸入可能な溶液、ローション、オイル溶液、ピル、坐薬、膏薬、懸濁物、持続放出剤、シロップ、錠剤、チンキ剤、局所用クリーム、経皮送達形態からなる群から選択される送達形態物に配合される請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項33】
前記少なくとも1つの疎水性成分は前記ポリペプチドのN末端および/またはC末端に結合する請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項34】
前記少なくとも1つの疎水性成分は前記ポリペプチドのN末端に結合する請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項35】
前記少なくとも1つの疎水性成分は疎水性ペプチド配列を含む請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項36】
前記疎水性ペプチド配列はアラニン残基、システイン残基、グリシン残基、イソロイシン残基、ロイシン残基、バリン残基、フェニルアラニン残基、チロシン残基、メチオニン残基、プロリン残基およびトリプトファン残基からなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸残基を含む請求項35に記載の医薬組成物。
【請求項37】
前記少なくとも1つの疎水性成分は脂肪酸を含む請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項38】
前記脂肪酸は少なくとも1つのアミノ酸残基に結合する請求項37に記載の医薬組成物。
【請求項39】
前記脂肪酸はミリスチン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸およびリノレン酸からなる群から選択される請求項37に記載の医薬組成物。
【請求項40】
前記脂肪酸はミリスチン酸である請求項39に記載の医薬組成物。
【請求項41】
はグルタミン酸残基を除く任意のアミノ酸残基である請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項42】
Zはアラニン残基である請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項43】
nは1〜15の整数である請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項44】
nは1〜10の整数である請求項43に記載の医薬組成物。
【請求項45】
前記コンジュゲートは配列番号16に示されるアミノ酸配列を有する請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項46】
GSK−3を発現する細胞を請求項1のコンジュゲートの効果的な量と接触させることを含むGSK−3の活性を阻害する方法。
【請求項47】
前記活性はリン酸化活性および/または自己リン酸化活性である請求項46に記載の方法。
【請求項48】
前記細胞を接触させることはインビトロで達成される請求項46に記載の方法。
【請求項49】
前記細胞を接触させることはインビボで達成される請求項46に記載の方法。
【請求項50】
前記少なくとも1つの疎水性成分は前記ポリペプチドのN末端および/またはC末端に結合する請求項46に記載の方法。
【請求項51】
前記少なくとも1つの疎水性成分は前記ポリペプチドのN末端に結合する請求項46に記載の方法。
【請求項52】
前記少なくとも1つの疎水性成分は疎水性ペプチド配列を含む請求項46に記載の方法。
【請求項53】
前記疎水性ペプチド配列はアラニン残基、システイン残基、グリシン残基、イソロイシン残基、ロイシン残基、バリン残基、フェニルアラニン残基、チロシン残基、メチオニン残基、プロリン残基およびトリプトファン残基からなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸残基を含む請求項52に記載の方法。
【請求項54】
前記少なくとも1つの疎水性成分は脂肪酸を含む請求項46に記載の方法。
【請求項55】
前記脂肪酸は少なくとも1つのアミノ酸残基に結合する請求項54に記載の方法。
【請求項56】
前記脂肪酸はミリスチン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸およびリノレン酸からなる群から選択される請求項54に記載の方法。
【請求項57】
前記脂肪酸はミリスチン酸である請求項56に記載の方法。
【請求項58】
はグルタミン酸残基を除く任意のアミノ酸残基である請求項46に記載の方法。
【請求項59】
Zはアラニン残基である請求項46に記載の方法。
【請求項60】
nは1〜15の整数である請求項46に記載の方法。
【請求項61】
nは1〜10の整数である請求項60に記載の方法。
【請求項62】
前記コンジュゲートは配列番号16に示されるアミノ酸配列を有する請求項46に記載の方法。
【請求項63】
GSK−3の活性を変化させることができる少なくとも1つのさらなる活性な成分を前記細胞と接触させることをさらに含む請求項46に記載の方法。
【請求項64】
前記さらなる活性な成分はインスリンである請求項63に記載の方法。
【請求項65】
前記さらなる活性な成分はGSK−3の活性を阻害することができる請求項63に記載の方法。
【請求項66】
前記さらなる活性な成分はGSK−3阻害剤、リチウム、バルプロ酸およびリチウムイオンからなる群から選択される請求項65に記載の方法。
【請求項67】
前記さらなる活性な成分はGSK−3の発現をダウンレギュレーションすることができる請求項63に記載の方法。
【請求項68】
前記さらなる活性な成分はポリヌクレオチドである請求項67に記載の方法。
【請求項69】
前記ポリヌクレオチドは細胞内でのGSK−3 mRNAの分解を生じさせるために向けられた小さい干渉性ポリヌクレオチド分子である請求項68に記載の方法。
【請求項70】
前記小さい干渉性ポリヌクレオチド分子はRNAi分子、アンチセンス分子、リボザイム分子およびDNAザイム分子からなる群から選択される請求項69に記載の方法。
【請求項71】
インスリン応答性細胞を請求項1のコンジュゲートの効果的な量と接触させることを含む、インスリンシグナル伝達を強化する方法。
【請求項72】
前記細胞をインスリンと接触させることをさらに含む請求項71に記載の方法。
【請求項73】
前記細胞を接触させることはインビトロで達成される請求項71に記載の方法。
【請求項74】
前記細胞を接触させることはインビボで達成される請求項71に記載の方法。
【請求項75】
前記少なくとも1つの疎水性成分は前記ポリペプチドのN末端および/またはC末端に結合する請求項71に記載の方法。
【請求項76】
前記少なくとも1つの疎水性成分は前記ポリペプチドのN末端に結合する請求項71に記載の方法。
【請求項77】
前記少なくとも1つの疎水性成分は疎水性ペプチド配列を含む請求項71に記載の方法。
【請求項78】
前記疎水性ペプチド配列はアラニン残基、システイン残基、グリシン残基、イソロイシン残基、ロイシン残基、バリン残基、フェニルアラニン残基、チロシン残基、メチオニン残基、プロリン残基およびトリプトファン残基からなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸残基を含む請求項77に記載の方法。
【請求項79】
前記少なくとも1つの疎水性成分は脂肪酸を含む請求項71に記載の方法。
【請求項80】
前記脂肪酸は少なくとも1つのアミノ酸残基に結合する請求項79に記載の方法。
【請求項81】
前記脂肪酸はミリスチン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸およびリノレン酸からなる群から選択される請求項79に記載の方法。
【請求項82】
前記脂肪酸はミリスチン酸である請求項81に記載の方法。
【請求項83】
はグルタミン酸残基を除く任意のアミノ酸残基である請求項71に記載の方法。
【請求項84】
Zはアラニン残基である請求項71に記載の方法。
【請求項85】
nは1〜15の整数である請求項71に記載の方法。
【請求項86】
nは1〜10の整数である請求項85に記載の方法。
【請求項87】
前記コンジュゲートは配列番号16に示されるアミノ酸配列を有する請求項71に記載の方法。
【請求項88】
必要性のある対象に請求項1のコンジュゲートの治療効果的な量を投与することを含む、GSK−3活性に関連する生物学的状態を治療する方法。
【請求項89】
前記生物学的状態は肥満、インスリン非依存性糖尿病、インスリン依存性状態、情動障害、神経変性疾患または神経変性障害、および精神病的な疾患または障害からなる群から選択される請求項88に記載の方法。
【請求項90】
前記情動障害は単極型障害および双極性障害からなる群から選択される請求項89に記載の方法。
【請求項91】
前記単極型障害がうつ病である請求項90に記載の方法。
【請求項92】
前記双極性障害が躁うつ病である請求項90に記載の方法。
【請求項93】
前記神経変性障害は脳虚血、発作、外傷性脳傷害および細菌感染からなる群から選択される事象から生じる請求項89に記載の方法。
【請求項94】
前記神経変性障害は慢性の神経変性障害である請求項89に記載の方法。
【請求項95】
前記慢性の神経変性障害はアルツハイマー病、ハンチングトン病、パーキンソン病、AIDS関連痴呆、筋萎縮性側索硬化症(AML)および多発性硬化症からなる群から選択される疾患から生じる請求項94に記載の方法。
【請求項96】
前記精神病的障害は統合失調症である請求項89に記載の方法。
【請求項97】
GSK−3の活性を変化させることができる少なくとも1つのさらなる活性な成分を前記対象に共投与することをさらに含む請求項88に記載の方法。
【請求項98】
前記さらなる活性な成分はインスリンである請求項97に記載の方法。
【請求項99】
前記さらなる活性な成分はGSK−3の活性を阻害することができる請求項97に記載の方法。
【請求項100】
前記さらなる活性な成分はGSK−3阻害剤、リチウム、バルプロ酸およびリチウムイオンからなる群から選択される請求項99に記載の方法。
【請求項101】
前記さらなる活性な成分はGSK−3の発現をダウンレギュレーションすることができる請求項97に記載の方法。
【請求項102】
前記さらなる活性な成分はポリヌクレオチドである請求項101に記載の方法。
【請求項103】
前記ポリヌクレオチドは細胞内でのGSK−3 mRNAの分解を生じさせるために向けられた小さい干渉性ポリヌクレオチド分子である請求項102に記載の方法。
【請求項104】
前記小さい干渉性ポリヌクレオチド分子はRNAi分子、アンチセンス分子、リボザイム分子およびDNAザイム分子からなる群から選択される請求項103に記載の方法。
【請求項105】
前記少なくとも1つの疎水性成分は前記ポリペプチドのN末端および/またはC末端に結合する請求項88に記載の方法。
【請求項106】
前記少なくとも1つの疎水性成分は前記ポリペプチドのN末端に結合する請求項88に記載の方法。
【請求項107】
前記少なくとも1つの疎水性成分は疎水性ペプチド配列を含む請求項88に記載の方法。
【請求項108】
前記疎水性ペプチド配列はアラニン残基、システイン残基、グリシン残基、イソロイシン残基、ロイシン残基、バリン残基、フェニルアラニン残基、チロシン残基、メチオニン残基、プロリン残基およびトリプトファン残基からなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸残基を含む請求項107に記載の方法。
【請求項109】
前記少なくとも1つの疎水性成分は脂肪酸を含む請求項88に記載の方法。
【請求項110】
前記脂肪酸は少なくとも1つのアミノ酸残基に結合する請求項109に記載の方法。
【請求項111】
前記脂肪酸はミリスチン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸およびリノレン酸からなる群から選択される請求項109に記載の方法。
【請求項112】
前記脂肪酸はミリスチン酸である請求項111に記載の方法。
【請求項113】
はグルタミン酸残基を除く任意のアミノ酸残基である請求項88に記載の方法。
【請求項114】
Zはアラニン残基である請求項88に記載の方法。
【請求項115】
nは1〜15の整数である請求項88に記載の方法。
【請求項116】
nは1〜10の整数である請求項115に記載の方法。
【請求項117】
前記コンジュゲートは配列番号16に示されるアミノ酸配列を有する請求項88に記載の方法。
【請求項118】
GSK−3の活性を特異的に阻害することができる少なくとも1つの化合物の治療効果的な量を必要性のある対象に投与することを含む、情動障害を治療する方法。
【請求項119】
前記情動障害は単極型障害および双極性障害からなる群から選択される請求項118に記載の方法。
【請求項120】
前記単極型障害がうつ病である請求項119に記載の方法。
【請求項121】
前記双極性障害が躁うつ病である請求項119に記載の方法。
【請求項122】
前記化合物が下記のアミノ酸配列を有するポリペプチドである請求項118に記載の方法:

式中、mは1または2に等しい;nは1〜50の整数である;S(p)はリン酸化セリン残基またはリン酸化トレオニン残基である;Zは、セリン残基またはトレオニン残基を除く任意のアミノ酸残基である;X、X、X、Y〜YおよびW〜Wは、それぞれが独立して、任意のアミノ酸残基である。
【請求項123】
はグルタミン酸残基を除く任意のアミノ酸残基である請求項122に記載の方法。
【請求項124】
Zはアラニン残基である請求項122に記載の方法。
【請求項125】
nは1〜15の整数である請求項122に記載の方法。
【請求項126】
nは1〜10の整数である請求項125に記載の方法。
【請求項127】
前記ポリペプチドは、配列番号5、配列番号6、配列番号8、配列番号9および配列番号12に示されるアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する請求項122に記載の方法。
【請求項128】
前記ポリペプチドはポリペプチドに結合する少なくとも1つの疎水性成分をさらに含む請求項122に記載の方法。
【請求項129】
前記少なくとも1つの疎水性成分は前記ポリペプチドのN末端および/またはC末端に結合する請求項128に記載の方法。
【請求項130】
前記少なくとも1つの疎水性成分は前記ポリペプチドのN末端に結合する請求項128に記載の方法。
【請求項131】
前記少なくとも1つの疎水性成分は疎水性ペプチド配列を含む請求項128に記載の方法。
【請求項132】
前記疎水性ペプチド配列はアラニン残基、システイン残基、グリシン残基、イソロイシン残基、ロイシン残基、バリン残基、フェニルアラニン残基、チロシン残基、メチオニン残基、プロリン残基およびトリプトファン残基からなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸残基を含む請求項131に記載の方法。
【請求項133】
前記少なくとも1つの疎水性成分は脂肪酸を含む請求項128に記載の方法。
【請求項134】
前記脂肪酸は少なくとも1つのアミノ酸残基に結合する請求項133に記載の方法。
【請求項135】
前記脂肪酸はミリスチン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸およびリノレン酸からなる群から選択される請求項133に記載の方法。
【請求項136】
前記脂肪酸はミリスチン酸である請求項135に記載の方法。
【請求項137】
はグルタミン酸残基を除く任意のアミノ酸残基である請求項128に記載の方法。
【請求項138】
Zはアラニン残基である請求項128に記載の方法。
【請求項139】
nは1〜15の整数である請求項128に記載の方法。
【請求項140】
nは1〜10の整数である請求項139に記載の方法。
【請求項141】
前記化合物が配列番号16に示されるアミノ酸配列を有する請求項128に記載の方法。
【請求項142】
GSK−3の活性を特異的に阻害することができる少なくとも1つの化合物の効果的な量を対象に投与することを含む、対象の海馬におけるβ−カテニンの濃度をアップレギュレーションする方法。
【請求項143】
前記化合物が下記のアミノ酸配列を有するポリペプチドである請求項142に記載の方法:

式中、mは1または2に等しい;nは1〜50の整数である;S(p)はリン酸化セリン残基またはリン酸化トレオニン残基である;Zは、セリン残基またはトレオニン残基を除く任意のアミノ酸残基である;X、X、X、Y〜YおよびW〜Wは、それぞれが独立して、任意のアミノ酸残基である。
【請求項144】
はグルタミン酸残基を除く任意のアミノ酸残基である請求項143に記載の方法。
【請求項145】
Zはアラニン残基である請求項143に記載の方法。
【請求項146】
nは1〜15の整数である請求項143に記載の方法。
【請求項147】
nは1〜10の整数である請求項146に記載の方法。
【請求項148】
前記ポリペプチドは、配列番号5、配列番号6、配列番号8、配列番号9および配列番号12に示されるアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する請求項143に記載の方法。
【請求項149】
前記ポリペプチドはポリペプチドに結合する少なくとも1つの疎水性成分をさらに含む請求項143に記載の方法。
【請求項150】
前記少なくとも1つの疎水性成分は前記ポリペプチドのN末端および/またはC末端に結合する請求項149に記載の方法。
【請求項151】
前記少なくとも1つの疎水性成分はポリペプチドのN末端に結合する請求項149に記載の方法。
【請求項152】
前記少なくとも1つの疎水性成分は疎水性ペプチド配列を含む請求項149に記載の方法。
【請求項153】
前記疎水性ペプチド配列はアラニン残基、システイン残基、グリシン残基、イソロイシン残基、ロイシン残基、バリン残基、フェニルアラニン残基、チロシン残基、メチオニン残基、プロリン残基およびトリプトファン残基からなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸残基を含む請求項152に記載の方法。
【請求項154】
前記少なくとも1つの疎水性成分は脂肪酸を含む請求項149に記載の方法。
【請求項155】
前記脂肪酸は少なくとも1つのアミノ酸残基に結合する請求項154に記載の方法。
【請求項156】
前記脂肪酸はミリスチン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸およびリノレン酸からなる群から選択される請求項154に記載の方法。
【請求項157】
前記脂肪酸はミリスチン酸である請求項156に記載の方法。
【請求項158】
はグルタミン酸残基を除く任意のアミノ酸残基である請求項149に記載の方法。
【請求項159】
Zはアラニン残基である請求項149に記載の方法。
【請求項160】
nは1〜15の整数である請求項149に記載の方法。
【請求項161】
nは1〜10の整数である請求項160に記載の方法。
【請求項162】
前記化合物は配列番号16に示されるアミノ酸配列を有する請求項149に記載の方法。
【請求項163】
以下の工程を含む、請求項1のコンジュゲートを製造するプロセス:
前記ポリペプチドを提供すること;
前記少なくとも1つの疎水性成分を提供すること;および
前記少なくとも1つの疎水性成分と前記ポリペプチドとをコンジュゲート化すること。
【請求項164】
前記ポリペプチドを提供することは、前記ポリペプチドを化学合成することによって達成される請求項163に記載のプロセス。
【請求項165】
前記ポリペプチドを提供することは、前記ポリペプチドを組換え製造することによって達成される請求項163に記載のプロセス。
【請求項166】
前記コンジュゲートは配列番号16に示されるアミノ酸配列を有する請求項163に記載の方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリコーゲンシンターゼキナーゼ−3(GSK−3)の活性を阻害することができるコンジュゲートであって、以下のものを含む、コンジュゲート:
(a)下記のアミノ酸配列を有するポリペプチド:

式中、mは1または2に等しい;nは1〜50の整数である;S(p)はリン酸化セリン残基またはリン酸化トレオニン残基である;Zは、セリン残基またはトレオニン残基を除く任意のアミノ酸残基である;X、X、X、Y〜YおよびW〜Wは、それぞれが独立して、任意のアミノ酸残基である;および
(b)前記ポリペプチドに結合した少なくとも1つの疎水性成分であって、(i)良好な膜透過性、および/または(ii)GSK−3の疎水性パッチとの良好な相互作用をコンジュゲートにもたらす疎水性成分。
【請求項2】
前記少なくとも1つの疎水性成分は前記ポリペプチドのN末端および/またはC末端に結合する請求項1に記載のコンジュゲート。
【請求項3】
前記少なくとも1つの疎水性成分は疎水性ペプチド配列を含む請求項1に記載のコンジュゲート。
【請求項4】
前記疎水性ペプチド配列はアラニン残基、システイン残基、グリシン残基、イソロイシン残基、ロイシン残基、バリン残基、フェニルアラニン残基、チロシン残基、メチオニン残基、プロリン残基およびトリプトファン残基からなる群から選択される少なくとも5つの連続したアミノ酸残基を含む請求項3に記載のコンジュゲート。
【請求項5】
前記少なくとも1つの疎水性成分は脂肪酸を含む請求項1に記載のコンジュゲート。
【請求項6】
前記脂肪酸は少なくとも1つのアミノ酸残基に結合する請求項5に記載のコンジュゲート。
【請求項7】
前記脂肪酸はミリスチン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸およびリノレン酸からなる群から選択される請求項5に記載のコンジュゲート。
【請求項8】
はグルタミン酸残基を除く任意のアミノ酸残基である請求項1に記載のコンジュゲート。
【請求項9】
Zはアラニン残基である請求項1に記載のコンジュゲート。
【請求項10】
nは1〜15の整数である請求項1に記載のコンジュゲート。
【請求項11】
配列番号16に示されるアミノ酸配列を有する請求項1に記載のコンジュゲート。
【請求項12】
活性な成分としての請求項1のコンジュゲートと、医薬的に許容され得るキャリアとを含む医薬組成物。
【請求項13】
GSK−3活性に関連する生物学的状態の治療における使用のために、包装用材料に詰められ、包装用材料の表面またはその中での活字で識別される請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記生物学的状態は肥満、インスリン非依存性糖尿病、インスリン依存性状態、情動障害、神経変性疾患または神経変性障害、および精神病的な疾患または障害からなる群から選択される請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項15】
GSK−3の活性を変化させることができる少なくとも1つのさらなる活性な成分をさらに含む請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項16】
前記さらなる活性な成分はインスリンである請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項17】
前記さらなる活性な成分はGSK−3の活性を阻害することができる請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項18】
前記さらなる活性な成分はGSK−3の発現をダウンレギュレーションすることができる請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項19】
GSK−3の活性を阻害するための請求項1に記載のコンジュゲートの使用。
【請求項20】
前記活性はリン酸化活性および/または自己リン酸化活性である請求項19に記載の使用。
【請求項21】
GSK−3活性に関連する生物学的状態を治療するための請求項1に記載のコンジュゲートの使用。
【請求項22】
GSK−3活性に関連する生物学的状態の治療用薬剤の調製のための請求項1に記載のコンジュゲートの使用。
【請求項23】
前記生物学的状態は肥満、インスリン非依存性糖尿病、インスリン依存性状態、情動障害、神経変性疾患または神経変性障害、および精神病的な疾患または障害からなる群から選択される請求項21または22に記載の使用。
【請求項24】
前記情動障害は単極型障害および双極性障害からなる群から選択される請求項23に記載の使用。
【請求項25】
前記神経変性障害は脳虚血、発作、外傷性脳傷害および細菌感染からなる群から選択される事象から生じる請求項23に記載の使用。
【請求項26】
前記神経変性障害は慢性の神経変性障害である請求項23に記載の使用。
【請求項27】
前記慢性の神経変性障害はアルツハイマー病、ハンチングトン病、パーキンソン病、AIDS関連痴呆、筋萎縮性側索硬化症(AML)および多発性硬化症からなる群から選択される疾患から生じる請求項26に記載の使用。
【請求項28】
前記精神病的障害は統合失調症である請求項23に記載の使用。
【請求項29】
前記コンジュゲートが少なくとも1つのさらなる活性な成分との組み合わせで使用され、前記少なくとも1つのさらなる活性な成分はGSK−3の活性を変化させることができる請求項19,21および22のいずれかに記載の使用。
【請求項30】
前記さらなる活性な成分はインスリンである請求項29に記載の使用。
【請求項31】
前記さらなる活性な成分はGSK−3の活性を阻害することができる請求項29に記載の使用。
【請求項32】
前記さらなる活性な成分はGSK−3の発現をダウンレギュレーションすることができる請求項29に記載の使用。
【請求項33】
前記少なくとも1つの疎水性成分は前記ポリペプチドのN末端および/またはC末端に結合する請求項19,21および22のいずれかに記載の使用。
【請求項34】
前記少なくとも1つの疎水性成分は疎水性ペプチド配列を含む請求項19,21および22のいずれかに記載の使用。
【請求項35】
前記疎水性ペプチド配列はアラニン残基、システイン残基、グリシン残基、イソロイシン残基、ロイシン残基、バリン残基、フェニルアラニン残基、チロシン残基、メチオニン残基、プロリン残基およびトリプトファン残基からなる群から選択される少なくとも5つの連続したアミノ酸残基を含む請求項34に記載の使用。
【請求項36】
前記少なくとも1つの疎水性成分は脂肪酸を含む請求項19,21および22のいずれかに記載の使用。
【請求項37】
前記脂肪酸は少なくとも1つのアミノ酸残基に結合する請求項36に記載の使用。
【請求項38】
前記脂肪酸はミリスチン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸およびリノレン酸からなる群から選択される請求項36に記載の使用。
【請求項39】
はグルタミン酸残基を除く任意のアミノ酸残基である請求項19,21および22のいずれかに記載の使用。
【請求項40】
Zはアラニン残基である請求項19,21および22のいずれかに記載の使用。
【請求項41】
nは1〜15の整数である請求項19,21および22のいずれかに記載の使用。
【請求項42】
前記コンジュゲートは配列番号16に示されるアミノ酸配列を有する請求項19,21および22のいずれかに記載の使用。
【請求項43】
情動障害の治療のための、GSK−3の活性を特異的に阻害することができる少なくとも1つの化合物の使用。
【請求項44】
情動障害の治療用薬剤の調製のための、GSK−3の活性を特異的に阻害することができる少なくとも1つの化合物の使用。
【請求項45】
前記情動障害は単極型障害および双極性障害からなる群から選択される請求項43または44に記載の使用。
【請求項46】
対象の海馬におけるβ−カテニンの濃度をアップレギュレーションするための、GSK−3の活性を特異的に阻害することができる少なくとも1つの化合物の使用。
【請求項47】
前記化合物が下記のアミノ酸配列を有するポリペプチドである請求項43,44および46のいずれかに記載の使用:

式中、mは1または2に等しい;nは1〜50の整数である;S(p)はリン酸化セリン残基またはリン酸化トレオニン残基である;Zは、セリン残基またはトレオニン残基を除く任意のアミノ酸残基である;X、X、X、Y〜YおよびW〜Wは、それぞれが独立して、任意のアミノ酸残基である。
【請求項48】
はグルタミン酸残基を除く任意のアミノ酸残基である請求項47に記載の使用。
【請求項49】
Zはアラニン残基である請求項47に記載の使用。
【請求項50】
nは1〜15の整数である請求項47に記載の使用。
【請求項51】
前記ポリペプチドは、配列番号5、配列番号6、配列番号8、配列番号9および配列番号12に示されるアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する請求項47に記載の使用。
【請求項52】
前記ポリペプチドはポリペプチドに結合する少なくとも1つの疎水性成分をさらに含む請求項47に記載の使用。
【請求項53】
前記少なくとも1つの疎水性成分は前記ポリペプチドのN末端および/またはC末端に結合する請求項52に記載の使用。
【請求項54】
前記少なくとも1つの疎水性成分は疎水性ペプチド配列を含む請求項52に記載の使用。
【請求項55】
前記疎水性ペプチド配列はアラニン残基、システイン残基、グリシン残基、イソロイシン残基、ロイシン残基、バリン残基、フェニルアラニン残基、チロシン残基、メチオニン残基、プロリン残基およびトリプトファン残基からなる群から選択される少なくとも5つの連続したアミノ酸残基を含む請求項54に記載の使用。
【請求項56】
前記少なくとも1つの疎水性成分は脂肪酸を含む請求項52に記載の使用。
【請求項57】
前記脂肪酸は少なくとも1つのアミノ酸残基に結合する請求項56に記載の使用。
【請求項58】
前記脂肪酸はミリスチン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸およびリノレン酸からなる群から選択される請求項56に記載の使用。
【請求項59】
前記化合物が配列番号16に示されるアミノ酸配列を有する請求項52に記載の使用。
【請求項60】
以下の工程を含む、請求項1のコンジュゲートを製造するプロセス:
前記ポリペプチドを提供すること;
前記少なくとも1つの疎水性成分を提供すること;および
前記少なくとも1つの疎水性成分と前記ポリペプチドとをコンジュゲート化すること。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2006−514104(P2006−514104A)
【公表日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−502348(P2005−502348)
【出願日】平成15年12月11日(2003.12.11)
【国際出願番号】PCT/IL2003/001057
【国際公開番号】WO2004/052404
【国際公開日】平成16年6月24日(2004.6.24)
【出願人】(504292015)テル アヴィヴ ユニヴァーシティ フューチャー テクノロジー ディヴェロップメント エル.ピー. (7)
【Fターム(参考)】