説明

グリセロールの気化方法

【課題】グリセロール水溶液を気化すると同時に、この溶液中に存在するか蒸発中に生じる不純物を除去することができる一段階プロセス。
【解決手段】不活性固体を含む流動床中でグリセロール水溶液を気化する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不活性固体を含む流動床中でのグリセロール水溶液を気化し、それと同時に溶液中に存在する不純物、または、蒸発中に発生する不純物を除去する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
グリセロールすなわち1,2,3−プロパントリオールはプロピレンから化学合成で得られるか、植物油のメタノリシス(methanolysis)中に生じる副生成物として得ることができる。植物油のメタノリシスは種々のプロセス、特にメタノールの溶液中で均一触媒、例えば水酸化ナトリウムまたはメチル化ナトリウムを用いて行なうか、不均一触媒を用いて行なうことができる。この点に関しては非特許文献1(D.Ballerini達の論文、化学の現状(L'actualite chimique)、11月〜12月、2002年)を参照されたい。
【0003】
植物油のメタノリシスではメチルエステルとグリセロールとが得られる。メチルエステルはディーゼル燃料または家庭用燃料で燃料または可燃分として特に用いられる。再生可能な材料を起源とする燃料、特に植物油メチルエステル(VOME)の開発によって、この製造プロセスを用いたグリセロールの生産量は大幅に増大しており、グリセロールは変換オイルの約10重量%を占めている。
【0004】
植物油由来のグリセロールは再生可能な材料を起源とする天然物であり、多量に入手可能である。「環境に優しい化学」という新しい概念、より一般的には「持続可能な開発」との関連で、この化合物の使用はますます有利になっている。
【0005】
しかし、VOMEの製造プロセスで得られるグリセロールの純粋はまちまちで、水中への希釈度もまちまちであり、非特許文献2(「せっけん・洗剤協会」(せっけん・洗剤協会:理論的および実用的概説、フロリダ州、マイアミビーチ。10月12〜14日、1994年、第6章、172〜206頁、編:L Spitz, AOCSプレス、キャンペーン)で採用された定義では、一般にグリセリンとよばれるものはグリセロールの水溶液である。粗グリセリンは一般に約88%のグリセロールと、9〜10%の水と、2〜3%の不純物とを含む組成物である。実際には粗グリセリンは塩基性塩(例えばナトリウムまたはカリウム塩)、非グリセリン有機化合物、メタノールまたは植物油の残留物等の不純物を含むことがある。これらの不純物の存在はグリセロールの用途によっては後の反応および最終製品の品質に影響を与え、不利になる。例えば、アクロレインの製造ではナトリウム塩またはカリウム塩は使用する触媒の酸性サイトを被毒する危険があるため、これらの存在はグリセロールからアクロレインへの触媒脱水反応にとって不利になる。
【0006】
従って、粗グリセロールの水溶液またはグリセリンを新規用途で使用するためには、一般に使用前に前処理または精製処理を必要とする。
【0007】
さらに、想定される用途にとって望ましくない不純物の除去だけでなく、水溶液の濃縮、さらには、工業プロセスによってはグリセロールを蒸気の形で用いるので、水溶液の気化が必要になることが多い。しかし、グリセロールはアクロレインに分解したり、ポリグリセロール等のポリマーになる危険性があるので、これらの操作は厄介である。
【0008】
グリセロールの精製方法は種々の文献に記載されている。グリセロールには1500以上の用途があり、全ての用途で特定の品質が必要とされる。特に高純度のグリセロールを必要とするのは「薬局方」グレードである。
【0009】
グリセロールの精製および蒸発で用いられている(または研究される)方法の中では、特に非特許文献3(G.B.D'Souza,in J.Am.Oil Chemists' Soc.11月、1979年(第56巻)812A)、非特許文献4(Steinberner U達,in Fat.Sci.Technol.(1987年),89 Jahrgang 第8番、297〜303頁)、非特許文献1(Anderson D.D.達,せっけん・洗剤協会:理論的および実用的概説、フロリダ州、マイアミビーチ、10月12〜14日、1994年、第6章、172〜206頁、編:L Spitz, AOCSプレス、キャンペーン)が挙げられる。
【0010】
従来提案されている粗グリセロール溶液の処理方法は想定される最終用途に応じて脂肪性物質から生じる溶解塩および有機不純物を除去し、着色剤を除去し、グリセロール含有率を上げ、グリセロールを気化させることが対象である。
【0011】
これらの目的を達成するためには特に蒸発、蒸留、石灰処理(残留脂肪酸を中和するため)と、その後のろ過、イオン交換またはイオン排除処理、逆浸透による分離または電気透析が行なわれる。
【0012】
グリセロールの希釈溶液を濃縮するためには、例えば多重効用蒸発缶が用いられる。三重効用蒸発器を用いた場合、1kgの蒸気で2.4kgの水を蒸発させることができる。
【0013】
蒸留はグリセリンの濃縮および精製に用いられる技術の一つである。グリセロールはその沸点(293℃)をはるかに下回る約202℃の温度で分解し始めるので、減圧下で複数段でグリセリンを蒸留する必要がある。場合によっては蒸留をバッチ運転で行ない、塩および不揮発性化合物を容器中に十分に蓄積させる。次いで運転を停止し、不純物を容器から排出した後に蒸留を再開する。蒸発は真空下で行い、ユニットの出口で(水より先に凝縮する)グリセロールを分縮することによって濃縮グリセロールを直接得ることができる。一般に、160〜165℃の温度では10mmHgの圧力が用いられ、気相のグリセロールの分圧は低下する。
【0014】
蒸留したグリセリンには着色化合物が含まれているので。医薬および食品用途ではグリセリンの脱色が必要になることもある。一般に、グリセリンに活性炭を添加して脱色する。
【0015】
イオン排除によるグリセリンの精製も開発されている。この精製では、グリセロールのような非イオン性化合物から水溶液に可溶なイオン性塩を分離するためにイオン性樹脂を用いる。これは熱および化学再生液の消費を避け、粗グリセリンのような高度に汚染された流れを化学再生液として水だけを用いて精製できる技術である。
【0016】
塩による汚染が少ないグリセロール水溶液は酸性および塩基性樹脂で簡単に交換できる。こうして精製したグリセロール溶液は次に蒸発して濃縮できる。
【0017】
著しく希釈されたグリセロール流を濃縮するために、加圧半透過膜を用いた分離法をベースにした逆浸透技術が提案されている。菜種油のトランスエステル化で得られたグリセリンと水酸化ナトリウムのメタノール溶液が電気透析膜によって脱塩されて純粋なグリセリンが製造されている。この技術は非特許文献5(Schaffner,F.達、Proc.-World Filtre.Congre.7th,Volume 2,629-633)に記載されている。
【0018】
グリセロール水溶液の蒸発のために提案された方法では温度の制御が極めて重要である。これは、グリセリン中に存在するタンパク物質の分解による窒素含有化合物の生成、低分子量のせっけんとの反応による揮発性グリセリンエステルの生成、ポリグリセロールの生成、最終生成物の臭気に関与するアクロレインの生成等の望ましくない反応が起きる危険性があるためである。従って、高温でのグリセリンの滞留時間と温度の制限が重要である。従来一般的に用いられている蒸発方法では気相のグリセロールの分圧を上げることができない。さらに、想定される用途に合った純度と濃度を有するグリセロールを得るためには複数の処理を組み合わせる必要があることが多い。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】D.Ballerini達による論文、化学の現状(L'actualite chimique)、11月〜12月、2002年
【非特許文献2】「せっけん・洗剤協会」(せっけん・洗剤協会:理論的および実用的概説、フロリダ州、マイアミビーチ。10月12〜14日、1994年、第6章、172〜206頁、編:L Spitz, AOCSプレス、キャンペーン)
【非特許文献3】G.B.D'Souza,in J.Am.Oil Chemists' Soc.11月、1979年(第56巻)812A
【非特許文献4】Steinberner U達,in Fat.Sci.Technol.(1987年),89 Jahrgang 第8番、297〜303頁
【非特許文献5】Schaffner,F.達、Proc.-World Filtre.Congre.7th,Volume 2,629-633
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本出願人は、驚くべきことに、グリセロール水溶液を気化すると同時に、この溶液中に存在するか蒸発中に発生する不純物を除去することができる単一段階のプロセスを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の対象は、不活性固体を含む流動床中でグリセロール水溶液(またはグリセリン)を気化する方法にある。
【0022】
本発明方法では、グリセロールと水を瞬間気化させるのに十分な温度に維持された不活性固体を含む流動床中に上記水溶液を直接注入する。
不活性固体としては例えば砂、ガラス、石英粉末、炭化ケイ素または比表面積が小さい固体を用いることができる。比表面積が小さい固体は本質的に不活性であり、アルミナ、シリカまたはシリカ−アルミナで構成することができる。不活性固体として無機塩、例えば塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)、硫酸ナトリウム(Na2SO4)または硫酸カリウム(K2SO4)を用いても本発明を逸脱するものではない。不活性固体は砂、シリカ、石英または炭化ケイ素の中から選択するのが好ましい。
【0023】
流動化はグリセロール溶液の気化および/または不活性ガス(窒素、CO2、再循環ガス等)流または空気流、酸素流または気体混合物によって行なうことができる。
流動床の温度は一般に220〜350℃、好ましくは260〜320℃である。
本発明の上記以外の特徴および利点は添付の単一図面を参照した以下の説明からより良く理解できよう。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一つの実施例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明方法では気相のグリセロールの分圧が上昇する。それによってグリセロールの気化の生産性が真空蒸留で得られる生産性と比べて著しく高くなるという利点を有する。
【0026】
本発明方法では水溶液中に存在する不純物も同時に除去される。流動床法では固体の一部を連続的に取り出して別の場所で再生できる。グリセロール溶液中には有機化合物が存在する可能性があり、また、蒸発段階でグリセロールの分解で生じる生成物によってコークスが生成し、不活性固体上に堆積する可能性がある。グリセロール水溶液が塩(例えば塩化ナトリウムまたは硫酸ナトリウム)を含む場合には、これらの塩もグリセロール水溶液の蒸発中に不活性固体上に堆積する。これらのコークスおよび/または無機塩類を含む不活性固体は連続的に取り出し、別の反応器で再生した後に流動床へ戻すことができる。無機塩は水による固体の単純洗浄、その他の任意の適当な技術で除去できる。固体の再生は固体堆積物を燃焼して行なうことができる。この燃焼は一般に反応器内で空気を用いて行なう。この反応器は例えば連続運転される別の流動床、固定床、または、その他任意の反応器にすることができる。連続運転式の流動床を用いるのが好ましい。不活性固体上の炭素質堆積物の燃焼によって不活性固体が再生するだけでなく、加熱後にグリセロール蒸発用流動床へ戻すこともできる。この燃焼は燃料、例えばメタンの存在下で行なうことができる。この燃料は不活性固体をグリセロール水溶液の蒸発に必要な温度に加熱するのに使用できる。
【0027】
さらに、流動床中では粒子が互いに移動し、固体の摩耗を引き起こす。通常の流動床では固体が消耗して微粒子ができるので、摩耗を制限することが求められるが、本発明方法では摩耗によって不活性固体上に形成された堆積物の一部を除去することができる。こうして摩耗によって形成された微粒子は、例えばサイクロンまたはろ過によって下流で分離で除去される。
【0028】
本発明方法の一つの実施例では、単一図面に示すように、グリセロールまたはグリセリン水溶液(4)を不活性固体の流動床を含む反応器(1)に導入する。必要に応じて、不活性ガス(窒素、CO2、再循環ガス等)流、空気流、酸素流、または気体混合物流によって流動化を行なうこともできる。このガスの組成は下流プロセスへの供給に最も良く対応するように選択する。流動床は熱交換器(3)を介して加熱される。グリセロールと水蒸気は(8)の所で反応器から抜き出され、微粒子はユニット(7)によって設備から回収できる。ユニット(6)では流動床で用いられる固体を洗浄して、堆積した無機塩類を除去する。反応器(2)は不活性固体の再生装置で、この再生装置では(1)から出た固体が分子状酸素および/または燃料を含む再生ガス(5)の存在下で燃焼され、再生された固体は反応器(1)へ戻される。再生ユニットで生じたガスは(9)で排出される。
【0029】
本発明方法で得られたグリセロール蒸気は下流プロセス、例えば下記特許文献1〜6に記載のアクロレインまたはアクリル酸の製造方法でガス状のグリセロールとしてそのまま直接使用できる。
【特許文献1】国際特許第WO 06/087083号公報
【特許文献2】国際特許第WO 06/087084号公報
【特許文献3】国際特許第WO 06/114506号公報
【特許文献4】国際特許第WO 07/090990号公報
【特許文献5】国際特許第WO 07/090991号公報
【特許文献6】フランス国特許出願第07/53293号公報
【0030】
グリセロール蒸気を凝縮し、濃縮した精製グリセロール水溶液を製造することもできる。
本発明の別の対象は、不活性固体を含む流動床のグリセロール水溶液の気化および精製での使用にある。
以下、本発明の実施例を説明するが、下記の実施例は本発明の一つの例に過ぎず、本発明が下記実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0031】
粒径が100μmのシリカ150gを流動床に入れた。流動床は直径が41mm、全高が790mmのステンレス鋼管からなる。流動床を流動砂の浴に浸漬し、浴内部に取り付けられた電気素子で加熱した。ステンレス鋼管に沿った温度勾配を3つの熱電対で記録した。多孔性金属板の下で、空気を500ml/分(標準状態)の流量で供給し、反応器の直径全体にガスを分配した。窒素流量を1000ml/分に維持しながら、被試験溶液/窒素混合物を0.5g/分の質量流量で、流動床の基部まで延びた0.6mmの金属管へ供給した。流動床の全圧は1.2バール、温度は310℃に維持する。
【0032】
実験は18重量%の純グリセロール(99.5%の実験用MAT)と2重量%のNaCl塩とを含む水溶液を用いて60分間行った。これは流動床の入口へ供給される塩の全質量が0.6gであることに対応する。
【0033】
流動床の出口で生成物を回収し、凝縮して伝導率を分析した。伝導率はAccumet Research AR-20 pH計/伝導率計型の装置で測定した。結果は[表1]に示してある。
【表1】

【0034】
凝縮器で回収された塩の全質量は0.0004gで、これは流動床中の塩の分離効率が99.9%であることに対応し、凝縮器で回収された溶液の伝導率が低いことで表される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
220〜350℃の温度に維持された不活性固体を含む流動床中でグリセロール水溶液を気化する方法。
【請求項2】
不活性固体が砂、ガラス、石英粉末、炭化ケイ素または比表面積の小さな固体である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
固体を連続運転される第2の流動床中で再生する請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
不活性固体を含む流動床の、グリセロール水溶液の気化および精製での使用。

【図1】
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【公表番号】特表2010−522148(P2010−522148A)
【公表日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−554066(P2009−554066)
【出願日】平成20年3月14日(2008.3.14)
【国際出願番号】PCT/FR2008/050438
【国際公開番号】WO2008/129208
【国際公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【出願人】(505005522)アルケマ フランス (335)
【Fターム(参考)】