説明

グロメットおよび該グロメットの装着方法

【課題】車体パネルの貫通穴へのグロメットの取付作業性を高める。
【解決手段】小径筒部11の一側外周より円錐状の拡径筒部12を突出させると共に、拡径筒部12の内周面12aと小径筒部11の外周面11aとの間に空洞部21を設け、拡径筒部12は、小径筒部11の外周面11aと連続して円錐状に拡径する拡径部14と、該拡径部14の外方先端から内方に向けて屈折する縮径部15と、該縮径部15の内方先端から車体係止溝17を挟んで外径方向に突出する先端厚肉部16を軸線方向に連続して備え、かつ、小径筒部11と連続する拡径部14の根元部19を肉厚とし、該根元部19から突出側に向けて漸次肉厚を減少して拡径部14と縮径部15とが連続する外方突出部20を最小肉厚とし、縮径部15は内方先端側に向けて漸次肉厚を増大させ、先端肉厚部16の肉厚を拡径部14の根元部19の肉厚以上の厚さとしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の車体に設けられた貫通穴に、ワイヤハーネスを挿通した状態で取り付けるグロメットおよび該グロメットの装着方法に関し、特に、車体への取付作業性を改善するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車のエンジンルームと車室とを仕切る車体パネルに設けた貫通穴にワイヤハーネスを貫通させて配索する場合、ゴムあるいはエストラマー製のグロメットを介在させて、車室への防水、防塵、防音等を図っている。
【0003】
この種のグロメットとして、図4に示すグロメット2が汎用されている。該グロメット2は、2つの小径筒部2a、2bを大径筒部2cを介して軸線方向に連続して備えるとともに、一方の小径筒部2aと大径筒部2cとの間には拡径筒部2dを形成している。これら筒部2a〜2dの軸線方向に沿った中空部はワイヤハーネス挿通部2eとし、かつ大径筒部2cの外周面に車体係止凹部2fを形成している。
【0004】
前記グロメット2は、車体パネル1の貫通穴1aに挿入して取り付けるとき、前記拡径筒部2dを内方へ変形させて貫通穴1aに押し込む必要があり、該拡径筒部2dの外周面が貫通穴1aの内周縁と接触して強い摩擦が生じるため、大きな挿入力を要し、作業性が悪い点に問題がある。また、この強い摩擦によって、室外A側からの押し込み作業のみでは挿入できず、車室B側からの引き込み作業を必要とする場合もあり、その場合は室外A側と車室B側にそれぞれ作業員を要する点にも問題がある。
【0005】
この問題に関し、特開平7−115286号(特許文献1)では、図5に示すグロメット2’のように、拡径筒部2d’の外周面に多数の凹凸部3を形成することが提案されている。該凹凸部3により、貫通穴1aの内周縁と拡径筒部2d’とが点接触し、摩擦を低減することができるため、拡径筒部2d’を貫通穴1a内に挿入するときの滑りをよくすることは可能と考えられる。
このほか、拡径筒部2d’の外周面に潤滑層を形成して同様の効果を持たせることを提案している例もある。
【0006】
しかしながら、いずれの場合も、拡径筒部2d’を縮径方向に無理に圧縮変形させて挿通させる必要は依然としてある。しかも、該拡径筒部2d’は拡径側に向かって肉厚が漸増して厚肉の大径筒部2cと連続しているため、この厚肉部分を縮径方向に変形させて貫通穴1aに挿入する作業には強い挿入力を要し、作業員の負担が大きい点に問題がある。
【0007】
【特許文献1】特開平7−115286号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は前記問題に鑑みてなされたもので、グロメットの車体貫通穴への取り付け時に、該貫通穴への挿入力を低減して作業員の負担を軽減でき、かつ、一人の作業員による取り付けが可能なグロメットおよび該グロメットの装着方法の提供を課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、本発明は、ワイヤハーネスに取り付け、車体パネルの貫通穴に一方側からの押し込みのみで装着するゴムまたはエストラマーからなるグロメットであって、
ワイヤハーネスを密着させて貫通させるとともに、両端をワイヤハーネスとテープ巻き固着する小径筒部と、
前記小径筒部の長さ方向の中間領域において、該小径筒部の一側外周より円錐状に突出する拡径筒部とを備え、
前記拡径筒部の内周面は前記小径筒部の外周面との間に空隙をあけると共に該拡径筒部の大径側開口から前記小径筒部の他端側を突出しており、
前記拡径筒部は、小径筒部の外周面と連続して円錐状に拡径する拡径部と、該拡径部の先端から内方に向けて屈折する縮径部と、該縮径部の先端から外径方向に突出する先端厚肉部を軸線方向に連続して備え、前記縮径部と先端厚肉部との間を環状の車体係止溝とすると共に、前記拡径部と縮径部の内周面と小径筒部の外周面に囲まれた空洞部を設け、
かつ、小径筒部と連続する前記拡径部の根元部を肉厚として、該拡径部と前記縮径部とが連続する外方突出部に向けて漸次肉厚を減少し、該外方突出部を最小肉厚とし、前記縮径部は内方先端側に向けて漸次肉厚を増大させ、前記先端厚肉部の肉厚は前記拡径部の根元部の肉厚以上の厚さとしていることを特徴とするワイヤハーネス用のグロメットを提供している。
【0010】
また、本発明は、前記グロメットの装着方法であって、
車体パネルの貫通穴の一方側からワイヤハーネスにテープ巻き固着した前記グロメットを、前記拡径部の根元部側を挿入側として前記ワイヤハーネスを把持して押し込み、該押し込み時に前記拡径部の根元部側より肉厚を薄くした突出側を内方へ撓ませて貫通穴に押し込んで、前記縮径部と先端厚肉部との間の車体係止溝に貫通穴の周縁部を落とし込んで、車体パネルにグロメットを係止していることを特徴とするグロメットの装着方法も提供している。
【0011】
前記のように、本発明のグロメットは、拡径筒部を前記根元部のみで小径筒部と結合し、該根元部から大径側開口まで拡径筒部と小径筒部とを遊離させているため、該グロメットをテープ巻き固着したワイヤハーネスを把持して前記拡径部を貫通穴に押し込むとき、その押し込み力を直接的に前記根元部に伝えることができ、該根元部を強力に室内側へと押し込むことができる。
また、この根元部は、厚肉に形成されているため、前記押し込み力が加えられたときに殆ど変形せず、該押し込み力を逃さず確実に拡径部と小径筒部へと伝えることができるため、ワイヤハーネスを押し込みながらグロメット全体を容易に貫通穴内へと押し込むことができる。
【0012】
さらに、拡径部の貫通穴通過時の圧縮変形量は根元側よりも突出側で大きく、外方突出部では最大となるが、拡径部の肉厚を前記根元部から前記外方突出部に向けて漸次減少し、外方突出部では最小肉厚としているため、拡径部の突出側を外方突出部も含めて容易に内方に撓ませることができる。
また、拡径筒部の内周面と小径筒部の外周面との間に形成された前記空洞部の奥端は、前記外方突出部よりも室内側寄りに位置することになり、最も変形量の大きい外方突出部の内方への撓みスペースを空洞部内に確保することができるため、この点からも拡径部、特に、外方突出部を容易に変形させることができる。
【0013】
このように、ワイヤハーネスを押し込む力を、確実に、かつ、効率よくグロメットに伝えることができると共に、貫通時の変形量が大きい拡径部の突出側を薄肉として変形しやすくしているため、一方側からの軽い押し込み力によって、拡径部の根元部から外方突出部までを容易に圧縮変形して貫通穴に貫通させることができる。また、前記装着作業は、一人の作業員による室外側からの押し込み作業で足り、室内側からの引き込み作業は不要でなる。従って、作業員の負担を軽減でき、取り付け作業性を向上できると共に、作業員数も減らすことができる。
【0014】
また、前記先端厚肉部は、前記根元部よりも厚肉であり簡単には変形しないため、拡径部と共に誤って貫通穴を通り抜けてしまうことを防止できると共に、グロメットの車体パネルへの装着安定性を高めることができる。
【発明の効果】
【0015】
上述したように、本発明によれば、拡径筒部と小径筒部とを拡径筒部の根元部のみで結合して他の部分は互いに遊離させており、かつ、前記根元部を肉厚に形成しているため、ワイヤハーネスを押し込む力を前記根元部に直接的に、かつ、効果的に伝えることができ、該根元部と、該根元部から連続する拡径部全体を貫通穴内へと確実に押し込むことができる。
【0016】
また、拡径部は、貫通穴への押し込み時の圧縮変形量が大きくなる突出側にむけて漸次肉厚を減少し、外方突出部では最小肉厚としているため、軽い押し込み力でも該外方突出部を含む突出側を容易に内方へ撓ませて圧縮変形させることが可能となる。
【0017】
従って、本発明のグロメットは車体パネルの貫通穴に低挿入力で装着でき、取り付け作業性を高めることができる。また、車体パネルの一方側からの押し込み作業で装着でき、他方側からの引き込み作業を必要としないため、作業人数を最小人数に減らすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
図1乃至図3に本発明の実施形態に係るグロメット10を示す。
グロメット10はゴムらなる一体成形品であり、図3に示すように、自動車の室外Aと車室Bとを仕切る車体パネル40に設けた貫通穴41に取り付けられる。
【0019】
前記グロメット10は、図1および図2に示すように、ワイヤハーネス30を密着させて貫通させる小径筒部11と、該小径筒部11の長さ方向の中間領域に突出する拡径筒部12とを備えている。該拡径筒部12は、小径筒部11の一端側外周より他端側に向けて、該小径筒部11の外周面11aとの間に空隙をあけながら円錐状に突出すると共に、その大径側先端を開口部13とし、該開口部13から小径筒部11の他端側を突出させている。
【0020】
前記拡径筒部12は、小径筒部11の外周面11aと連続して円錐状に拡径する拡径部14と、該拡径部14の外方先端から屈折して内方に向けて縮径する縮径部15と、該縮径部15の内方先端から屈曲して外径方向に突出する先端厚肉部16とを軸線方向に連続して備えると共に、前記縮径部15と先端肉厚部16との間に、貫通穴41の周縁部を落とし込む環状の車体係止溝17を形成している。
前記先端肉厚部16の縮径部15との対向面側の外周端にはシールリップ18を環状に突設している。
【0021】
前記拡径筒部12は、拡径部14の根元部19のみで小径筒部11と結合し、拡径筒部12の内周面12aと小径筒部11の外周面11aとの間には、前記開口部13と連続する空洞部21を形成している。
【0022】
前記拡径部14は、小径筒部11と連続する根元部19を厚肉とし、前記縮径部15へと連続する外方突出部20では最小肉厚とし、根元部19から外方突出部20までは拡径するに従って漸次肉厚を減少させている。
【0023】
前記縮径部15は、最小肉厚の前記外方突出部20から内方先端側に向けて縮径するに従って肉厚を漸次増大させ、該縮径部15と連続する先端肉厚部16の肉厚は、拡径部14の前記根元部19の肉厚よりも厚く設定している。
【0024】
次に、前記グロメット10の装着方法を説明する。
まず、図2に示すように、グロメット10の小径筒部11内にワイヤハーネス30を挿通し、該小径筒部11の両端部とワイヤハーネス30とをテープ31で一体に巻きつけてグロメット10をワイヤハーネス30に位置決め固定する。
【0025】
ついで、図3(A)に示すように、車体パネル40の貫通穴41に室外A側から、ワイヤハーネス30に固定した前記グロメット10を、前記拡径部14の根元部19側を挿入側としてワイヤハーネス30を把持して押し込む。
このとき、拡径部14が貫通穴41の内周縁に突き当たるが、さらに、グロメット10を室内B側に押し込むことにより、図3(B)に示すように、拡径部14の根元部19より薄肉の突出側が室外A側に倒れ込みながら空洞部21を押しつぶすように内方に撓み、最小肉厚の外方突出部20も空洞部21内に撓んで縮径しながら貫通穴41を通過する。
【0026】
最後に、図3(C)に示すように、貫通穴41を通過した拡径部14と縮径部15を弾性復元させると共に、貫通穴41の周縁部を車体係止溝17に落とし込み、該貫通穴41にグロメット10を係止する。このとき、先端厚肉部16の前記シールリップ18が車体パネル40に室外A側側面に、貫通穴41を完全に塞いだ状態で当接する。
【0027】
このように、前記グロメット10の拡径部14は、貫通穴通過時の変形量が大きい突出側に向けて肉厚を漸次減少し、外方突出部20では肉厚を最小としているため、少ない力でも容易に変形させることができる。また、拡径筒部12と小径筒部11との間に空洞部21を設けているうえ、図3(A)(B)に示すように、空洞部21の奥端21aが外方突出部20よりも根元部19側に位置しており、拡径部14の突出側、特に外方突出部20の内方への撓みスペースを空洞部21内に確保することができるため、拡径部14全体を容易に圧縮変形させることができる。
【0028】
さらに、拡径筒部12と小径筒部11とは拡径部14の根元部19のみで結合しているため、図3(A)に示すように、ワイヤハーネス30を押し込む力を拡径部14の根元部19に直接的に伝えることができる。また、該根元部19は厚肉であるため、押し込み力を受けてもほとんど変形せず、該押し込み力を逃すことなく効率よく小径筒部11と拡径筒部12全体に伝えることができ、圧縮変形を要する拡径部14を力強く室内B側へと引き込むことができる。
【0029】
従って、本発明のグロメット10は、少ない押し込み力で容易かつ確実に車体パネル40に装着することができるため、作業性を向上できるうえ、車体パネルを挟んで一方側からの押し込み作業のみで装着でき、他方側からの引き込み作業を必要としないため、一人の作業員で装着することができる。
【0030】
また、先端厚肉部16の肉厚は拡径部14の根元部19の肉厚よりも大であり、変形性が極めて低いため、貫通穴41への挿入時に、誤って先端肉厚部16までを室内B側へ押し込んでしまうことを防止できるうえ、貫通穴41への装着安定性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の第一実施形態に係るグロメットを示す断面図である。
【図2】図1に示すグロメットをワイヤハーネスに取り付けた状態を示す側面図である。
【図3】(A)〜(C)は図2に示すグロメットを車体パネルに装着する作業手順を示す説明断面図である。
【図4】従来例を示す図である。
【図5】他の従来例を示す図である。
【符号の説明】
【0032】
10 グロメット
11 小径筒部
12 拡径筒部
14 拡径部
15 縮径部
16 先端厚肉部
19 根元部
20 外方突出部
21 空洞部
30 ワイヤハーネス
40 車体パネル
41 貫通穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤハーネスに取り付け、車体パネルの貫通穴に一方側からの押し込みのみで装着するゴムまたはエストラマーからなるグロメットであって、
ワイヤハーネスを密着させて貫通させるとともに、両端をワイヤハーネスとテープ巻き固着する小径筒部と、
前記小径筒部の長さ方向の中間領域において、該小径筒部の一側外周より円錐状に突出する拡径筒部とを備え、
前記拡径筒部の内周面は前記小径筒部の外周面との間に空隙をあけると共に該拡径筒部の大径側開口から前記小径筒部の他端側を突出しており、
前記拡径筒部は、小径筒部の外周面と連続して円錐状に拡径する拡径部と、該拡径部の外方先端から内方に向けて屈折する縮径部と、該縮径部の先端から外径方向に突出する先端厚肉部を軸線方向に連続して備え、前記縮径部と先端厚肉部との間を環状の車体係止溝とすると共に、前記拡径部と縮径部の内周面と小径筒部の外周面に囲まれた空洞部を設け、
かつ、小径筒部と連続する前記拡径部の根元部を肉厚として、該拡径部と前記縮径部とが連続する外方突出部に向けて漸次肉厚を減少し、該外方突出部を最小肉厚とし、前記縮径部は内方先端側に向けて漸次肉厚を増大させ、前記先端厚肉部の肉厚は前記拡径部の根元部の肉厚以上の厚さとしていることを特徴とするワイヤハーネス用のグロメット。
【請求項2】
請求項1に記載のグロメットの装着方法であって、
車体パネルの貫通穴の一方側からワイヤハーネスにテープ巻き固着した前記グロメットを、前記拡径部の根元部側を挿入側として前記ワイヤハーネスを把持して押し込み、該押し込み時に前記拡径部の根元部側より肉厚を薄くした突出側を内方へ撓ませて貫通穴に押し込んで、前記縮径部と先端厚肉部との間の車体係止溝に貫通穴の周縁部を落とし込んで、車体パネルにグロメットを係止していることを特徴とするグロメットの装着方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−231159(P2009−231159A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−77083(P2008−77083)
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【Fターム(参考)】