説明

ゲル状経口製剤

【課題】
医療現場において、錠剤、顆粒及び液剤の剤形で高脂血症及び高コレステロール患者に投与されているHMG−CoA還元酵素阻害剤、所謂スタチン系化合物の服用性を向上させたゲル状の経口製剤の提供。
【解決手段】
HMG−CoA還元酵素阻害剤又は製薬学的に許容される塩、ゲル化剤、高分子化合物、緩衝剤、保存剤、甘味剤、基剤及び水からなり、スタチン系化合物の不快な味を感じさせず、保存時の離漿が少なく、保型性が良好で容器から取り出しやすく、服用性を向上させたことを特徴とするゲル状の医薬組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、HMG−CoA還元酵素阻害剤の経口投与を必要とする高脂血症及び高コレステロール患者への投与を目的としたHMG−CoA還元酵素阻害剤を含む製剤、ゲル状製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ゲル状経口製剤は、従前から服用されている錠剤やカプセル剤などの固形製剤に比べて嚥下困難な患者に適している。しかも、液剤などに比べ、誤嚥もなく、また、薬効成分が有する苦味やえぐみ等の不快な味も緩和される点で優れている。
【0003】
現在、HMG−CoA還元酵素阻害剤に属する薬剤について市販されている投与剤形としては、例えば錠剤、カプセル剤、細粒剤及び内服液剤等がある。この薬剤の投与対象としては高齢者、寝たきり又は経管投与の患者等において頻度が高い。加齢を重ねるに従って患者の嚥下能力は低下し、また口渇等の症状が伴う傾向がある。一般に固形剤は嚥下しにくく、液剤は誤嚥や嚥下時にむせる等の不便さが課題である。即ち、生活習慣病である高脂血症の治療薬として数ヶ月から数年、或いはそれ以上の長きにわたって服用され、投与対象患者に寝たきり又は嚥下障害者、経管投与の患者も多いHMG−CoA還元酵素阻害剤の場合は、のどに引っかかることなく反射的な嘔吐も伴わない、嚥下が容易な、患者が苦痛なく服用できる剤形としてゲル状の粘弾性やとろみ等の物性を有する製剤が望まれる。しかしながら、HMG−CoA還元酵素阻害剤を含むゲル状経口製剤については、これまでに検討されていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
HMG−CoA還元酵素阻害剤に属する化合物、所謂スタチン系化合物の多くは酸性側の水溶液又は水性懸濁液中不安定であり、pH7以上で製剤化する必要がある。一方でpH11以上のアルカリ性を示す製剤は、服用時に口内炎などの副作用を生じやすいことから、HMG−CoA還元酵素阻害剤のゲル状経口製剤はpHを7から10で調製する必要がある。そこでHMG−CoA還元酵素阻害剤を含むpHを7から10の範囲内で調整したゲル状製剤について検討したところ、医薬品添加物で用いられるカンテンやκカラギーナンをゲル化剤として用いた場合、離漿性が高いなど物性が不安定であった。一方で離漿抑制の目的でキサンタンガムやιカラギーナンを加え、カンテンやκカラギーナンの配合量を減じると、ゲル強度が不足した保型性の悪い製剤となり、容器からの取り出し時や服用時に口腔内で崩壊しHMG−CoA還元酵素阻害剤の苦みやえぐみ等の不快な味が強く感じられ、服用性が損なわれていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで本発明者らは、HMG−CoA還元酵素阻害剤を主薬とし、製造時のゲル化が阻害されず、保存時の離漿が少なく、保型性の良好な、口腔内で崩れにくく、苦みやえぐみ等の不快な味が抑制され、喉ごし良く、嚥下し易く、日常的服用に適したゲル状経口製剤を得るべく鋭意検討した。その結果、ゲル化剤としてはιカラギーナンとローカストビーンガムの組み合わせに、カンテン、硫酸基及び/又はカルボキシル基を有する多糖類、セルロース誘導体、マンナン類、アミノ基を有する多糖類、デンプン誘導体から選ばれる1種又は2種以上を併用して配合し、高分子化合物としてセルロース誘導体、ポリビニル系化合物、多糖類、デンプン誘導体、マクロゴール、アルギン酸及びその誘導体から選ばれる1種又は2種以上を必要に応じて配合し、有機及び/又は無機酸とカチオンとの塩類及び/又はその水酸化物を緩衝剤として配合することにより、離漿しにくく、保存安定性に優れ、苦みやえぐみ等の不快な味が抑制されたpHが7から10のゲル状経口製剤が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0006】
即ち、本発明は、HMG−CoA還元酵素阻害剤、ゲル化剤、高分子化合物、酸とカチオンとの塩及び/又は水酸化物、基剤、甘味剤、防腐剤及び水からなり、pHが7から10であるゲル状経口製剤に関する。
【0007】
本発明のゲル状経口製剤に含まれる有効成分のHMG−CoA還元酵素阻害剤は高脂血症の治療剤として投与されるものであり、その由来としては微生物由来天然物質、半合成誘導体及び全合成化合物の何れでも良く、例えば特許文献1から8に記載されたスタチン系化合物であり、好ましくはプラバスタチン、ロバスタチン、シンバスタチン、フルバスタチン、リバスタチン、アトルバスタチン、ロスバスタチン又はピタバスタチン、より好ましくはプラバスタチン、ロバスタチン、シンバスタチン、フルバスタチン、アトルバスタチン、ロスバスタチン又はピタバスタチン、更に好ましくはプラバスタチン、アトルバスタチン、フルバスタチン又はピタバスタチン、及び/又はその薬理上許容される塩(好適には、ナトリウム塩又はカルシウム塩等)が挙げられる。また、HMG−CoA還元酵素阻害剤は、各々幾何異性体、又は不斉炭素を含む場合には立体異性体が存在し、各々水和物として存在することが出来るが、その各々或いはそれらの混合物の何れもが本発明に含まれる。
【特許文献1】特開昭57−2240号(USP4346227)
【特許文献2】特開昭57−163374号(USP4231938)
【特許文献3】特開昭56−122375号(USP444784)
【特許文献4】特表昭60−500015号(USP4739073)
【特許文献5】特開平1−216974号(USP5006530)
【特許文献6】特開平1−279866号(USP5854259及びUSP5856336)
【特許文献7】特開平3−58967号(USP5273995)
【特許文献8】特開平5−178841号(USP5260440)
【0008】
本発明のゲル状経口製剤においてはHMG−CoA還元酵素阻害剤は、日本において1回あたり、通常約1から約30mg服用される(HMG−CoA還元酵素阻害剤の種類によって異なり、例えばプラバスタチンナトリウムでは5から10mg、シンバスタチンでは5から20mg、アトルバスタチンでは10mg、フルバスタチンでは10から30mg、ピタバスタチンカルシウムでは1から2mgである)。また、服用しやすい(例えば一口で服用できる)本発明のゼリー剤の重量の目安は、約0.4から約10gである。よって、HMG−CoA還元酵素阻害剤の含有量は組成物全般に対して0.001から50質量%であることが好ましく、0.01から40質量%であることがより好ましく、更に好ましくは0.05から20質量%である。
【0009】
本発明のゲル状経口製剤において、pHが7から10の領域及びHMG−CoA還元酵素阻害剤の存在下でも製造時のゲル化性能が良好であるゲル化剤はカンテン、ペクチン、アルギン酸ナトリウム、カラギーナン、ローカストビーンガム、キサンタンガム、グァーガムであった。しかしながらゲル化力が強いカンテンやκカラギーナン等を単独で配合すると成型性は良好なものの保存時の離漿が起こり易く、一方でゲル化力が弱い又は殆どないιカラギーナン、ローカストビーンガムやキサンタンガム等を単独で配合すると離漿は殆ど起こらないものの成型性が悪く、何れも服用性を損ねていた。これらの短所を改善する手段としては、カンテン、非イオン性多糖類、硫酸基及び/又はカルボキシル基を有する多糖類、アミノ多糖類、セルロース誘導体及び蛋白質から選ばれる2種以上のゲル化剤の併用が有効であった。より具体的には併用されるゲル化剤としてはゼラチン、ミルクカゼイン、マンナン類、カラギーナン、デンプン、アルファ化デンプン、トラガントガム、タマリンド種子多糖類、ジェランガム、カラヤガム、カシアガム、タラガム、キトサン、サイリュームシードガム、ガッティガムなどから選ばれる2種以上の組み合わせ、例えばカンテン、ιカラギーナン、キサンタンガムとローカストビーンガムの併用、κカラギーナン、ローカストビーンガム、グァーガムとペクチンの併用、ιカラギーナン、κカラギーナン、ローカストビーンガムとグァーガムの併用、アルギン酸ナトリウム、ペクチン、キサンタンガムとカンテンの併用などが挙げられる。これらのゲル化剤のゲル状製剤全量に対する添加量は0.05から15質量%、より好ましくは0.2から10質量%、更に好ましくは0.5から5質量%である。
【0010】
本発明のゲル状製剤に含まれるゲル化剤のゲル保型性を高める目的での高分子化合物の添加は離漿性の改善に有効であり、また服用時の口腔内におけるゲルの保型性が良好になることで、HMG−CoA還元酵素阻害剤の苦みやえぐみが低減され、服用時の官能性が向上した。このような機能を付与する高分子化合物としては、セルロース誘導体、ポリビニル系化合物、多糖類、デンプン誘導体、マクロゴール、アルギン酸及びその誘導体、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、メチルセルロース等から選ばれる1種又は2種以上の組み合わせが配合される。これらの高分子のゲル状製剤全量に対する添加量は0.05から15質量%、より好ましくは0.2から10質量%、更に好ましくは0.5から5質量%である。
【0011】
本発明のゲル状経口製剤のpHを7から10の領域に保持する緩衝作用と、殆ど離漿しないゲルを与える緩衝剤としては乳酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、アジピン酸等の有機酸及び/又はリン酸等の無機酸とカリウムイオン、ナトリウムイオン、カルシウムイオン及びマグネシウムイオン等の金属イオンとの塩及び/又はそれら金属イオンの水酸化物が挙げられる。その添加量は特に限定されないが、少なくともゲル状製剤全量の0.001質量%以上、15質量%以下である。
【0012】
本発明のゲル状経口製剤に防腐剤を配合することができる。防腐剤としては、例えばパラオキシ安息香酸イソブチル、同イソプロピル、同エチル、同プロピル、同メチル、安息香酸、エデト酸ナトリウム、同カルシウム二ナトリウム、サリチル酸、ソルビン酸、デヒドロ酢酸及びその塩類、クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェニルエチルアルコール、フェノキシエタノール、l−メントール、dl−カンフル、塩化セチルピリジニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化ベンザルコニウム等が挙げられるが、その添加量は特に限定されない。
【0013】
本発明のゲル状経口製剤に配合する基剤としては多価アルコール類のグリセリン、プロピレングリコール、D−ソルビトール、キシリトール、マンニトール、エリスリトール、マルチトール等及び糖類のトレハロース、ラフィノース、ショ糖、果糖、ブドウ糖、乳糖等が挙げられるが、その添加量は特に限定されない。
【0014】
本発明のゲル状経口製剤に配合する甘味剤としては、pHを7から10に調整したHMG−CoA還元酵素阻害剤の苦みやえぐみを特に改良するものとして、サッカリンナトリウム、アスパルテーム、ステビア、グリチルリチン酸及びそれらの誘導体またはこれらの混合物が挙げられ、HMG−CoA還元酵素阻害剤と甘味剤の重量比は1:0。001から1:40であるが、更には風味の向上の目的で、果糖、精製白糖、パラチノース、トレハロース、オリゴ糖、異性化糖、黒砂糖、アマチャ末、カンゾウエキス、スクラロース、ソーマチン、ブドウ糖、水アメ、還元麦芽糖水アメ等を適当量併用しても良い。
【0015】
本発明のゲル状経口製剤を調製する方法は、上記各成分を配合する以外は、公知のゲル組成物の調製法と同様の方法によって調製すればよい。より具体的には、HMG−CoA還元酵素阻害剤と各成分を適量の水或いは温水に加え、適当な加熱、冷却機構を有した撹拌機で必要に応じて加熱しながら均一に撹拌、混合し、任意の容器に充填して冷却固化させることで製造することが出来る。
【0016】
充填した薬液量によっても変わるが、通常、常温で1から2時間、10℃以下で1時間も放置すると、薬液はゲル化し、本発明のゲル状組成物が得られる。
【0017】
製造工程は以下の通りであるが、各原料の投入順序は必ずしもこれに従う必要はなく、適宜変更することが出来る。なお工程(2)で用いられるHMG−CoA還元酵素阻害剤はプラバスタチンナトリウム、フルバスタチンナトリウム、アトルバスタチンカルシウム水和物、ピタバスタチンカルシウム、シンバスタチン等である。
(1)調製槽に水と緩衝剤を秤取し、室温又は適当に加熱して撹拌・溶解する。
(2)HMG−CoA還元酵素阻害剤を添加する
(3)ゲル化剤と高分子化合物を添加し加熱(75から95℃)・撹拌・溶解する
(4)防腐剤、香料、甘味剤等を添加後、pHを7から10に調整し、加熱殺菌する
(5)調製槽内の薬液温度を適当な温度に保持しつつ、任意の容器に分注充填する
(6)適当な冷却装置又は方法により冷却し固化させ、包装し、製品とする。

【発明の効果】
【0018】
本発明の実施例1から8及び比較例1から8で示した各処方の評価結果から明らかなように、ゲル化剤と高分子化合物、緩衝剤、甘味剤、保存剤及び基剤及び水からなる、pHが7から10であるHMG−CoA還元酵素阻害剤に属する化合物を含むゲル状経口製剤は、ゲルの保型性が良く、離漿しにくく保存安定性に優れ、苦みやえぐみ等の不快な味が抑制されていた。
【0019】
以下に実施例に基づき本発明を説明する。但し、本発明はこれらに限られるものではない。
【実施例】
【0020】
以下、実施例1と同様にして、実施例1から8の処方と比較例1から8の処方(例えばフルバスタチンナトリウムでは10.53から31.59mg、ピタバスタチンでは1から2mg、プラバスタチンナトリウムでは5から10mgが1回投与量)に従いゲル状経口製剤を調製した。
【0021】
表1から4に示した実施及び比較例は、何れもHMG−CoA還元酵素阻害剤を薬効成分にしたゲル状経口製剤の処方である。これを実施及び比較例毎に1から10mLの容量の容器に注入・密閉し、冷却してゲル状経口製剤を得た。これらゲル状経口製剤のpHは7から10の範囲にあった。
【0022】
【表1】
















【0023】
【表2】














【0024】
【表3】















【0025】
【表4】


【産業上の利用可能性】
【0026】
嚥下し易く、HMG−CoA還元酵素阻害剤の有する苦みやえぐみ等の不快な味を感じさせないゲル状経口製剤を、服用に際し取り扱いしやすい容器に封入又は包装することにより、HMG−CoA還元酵素阻害剤の経口投与を必要とする高脂血症及び高コレステロール患者に対して提供することが可能となり、既存製剤の服用が困難な同症の患者を含め、服薬のコンプライアンス性を大きく改善する。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
HMG−CoA還元酵素阻害剤、ゲル化剤、高分子化合物、緩衝剤、甘味剤、基剤及び水からなりpHが7から10であるゲル状経口製剤
【請求項2】
前記のHMG−CoA還元酵素阻害剤が、プラバスタチン、ロバスタチン、シンバスタチン、フルバスタチン、リバスタチン、アトルバスタチン、ロスバスタチン、ピタバスタチン又はその薬理上許容される塩である、請求項1に記載のゲル状経口製剤
【請求項3】
前記のゲル化剤がカラギーナン及びローカストビーンガムと、カンテン、非イオン性多糖類、硫酸基及び/又はカルボキシル基を有する多糖類、アミノ多糖類、セルロース誘導体及び蛋白質から選ばれる1種又は2種以上のゲル化剤の併用である請求項1記載のゲル状経口製剤
【請求項4】
前記の高分子化合物がセルロース誘導体、ポリビニル系化合物、多糖類、デンプン誘導体、マクロゴール、アルギン酸及びその誘導体から選ばれる1種又は2種以上の水溶性高分子との併用である請求項1記載のゲル状経口製剤
【請求項5】
緩衝剤が乳酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、アジピン酸等の有機酸及び/又はリン酸等の無機酸とカリウムイオン、ナトリウムイオン、カルシウムイオン及びマグネシウムイオン等の金属イオンとの塩及び/又はそれら金属イオンの水酸化物との組み合わせからなる請求項1記載のゲル状経口製剤
【請求項6】
前記甘味剤がサッカリンナトリウム、ステビア、アスパルテーム、グリチルリチン酸及びそれらの誘導体から選ばれる1種又は2種以上の組み合わせで、HMG−CoA還元酵素阻害剤と甘味剤の重量比が1:0.001から1:40である請求項1記載のゲル状経口製剤


【公開番号】特開2007−22941(P2007−22941A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−204552(P2005−204552)
【出願日】平成17年7月13日(2005.7.13)
【出願人】(302005628)株式会社 メドレックス (35)
【Fターム(参考)】