説明

コネクタ

【課題】コネクタハウジング内に挿入済みの電線付き端子金具に防食用液剤を塗布する作業を、容易に行えるようにする。
【解決手段】コネクタは、内部にキャビティ12を有するコネクタハウジング10と、電線40の芯線41に端子金具31の電線接続部34を導通可能に接続して構成され、キャビティ12内に挿入された電線付き端子金具30と、電線付き端子金具30に対し、少なくとも芯線41と電線接続部34との接触領域を含むように塗布された防食用液剤45と、コネクタハウジング10の外面からキャビティ12内まで電線付き端子金具30の挿入方向と交差する方向に貫通し、芯線41と電線接続部34との接触領域と対応するように開口する注入孔21とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コネクタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、角筒状をなす端子接続部とオープンバレル状をなす電線接続部とを備えた端子金具と、芯線が端子金具とは異種金属からなる電線とを備えて構成され、電線接続部に、電線が包囲された状態で圧着により接続されている電線付き端子金具が開示されている。
【0003】
電線接続部は、電線のうち前端部の絶縁被覆を除去して露出させた芯線が圧着されるワイヤバレル部と、電線のうち絶縁被覆で覆われている部分が圧着させるインシュレーションバレル部とから構成され、インシュレーションバレル部の後端からは、電線の絶縁被覆で覆われている部分が後方へ導出されている。
【0004】
このように電線の芯線と端子金具が異種金属である場合には、芯線とワイヤバレル部との接触部分における電食の発生を防止する必要がある。電食防止手段の1つとして、少なくとも芯線とワイヤバレル部との接触部分を覆うように防食用液剤を塗布する方法が考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−305356号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
防食用液剤としては、塗布した後に固化するタイプのものと、塗布後も固化せずにペースト状の状態を保つタイプのものとがあるが、後者のタイプの防食用液剤を塗布した場合、塗布済みの電線付き端子金具を摘んでコネクタハウジングのキャビティ内に挿入する際に、防食用液剤が作業者の手に付着し、その後の作業に支障を来すことが懸念される。
【0007】
この対策としては、電線付き端子金具をキャビティに挿入した後に、コネクタハウジングの外部から防食用液剤を注入する方法が考えられる。しかし、キャビティと端子金具との隙間は、端子金具のガタ付きを防止するために狭く設定されているため、この狭い隙間を通して防食用液剤を注入することは困難である。
【0008】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、コネクタハウジング内に挿入済みの電線付き端子金具に防食用液剤を塗布する作業を、容易に行えるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するための手段として、請求項1の発明は、内部にキャビティを有するコネクタハウジングと、電線の芯線に端子金具の電線接続部を導通可能に接続して構成され、前記キャビティ内に挿入された電線付き端子金具と、前記電線付き端子金具に対し、少なくとも前記芯線と前記電線接続部との接触領域を含むように塗布された防食用液剤と、前記コネクタハウジングの外面から前記キャビティ内まで前記電線付き端子金具の挿入方向と交差する方向に貫通し、前記芯線と前記電線接続部との接触領域と対応するように開口する注入孔とを備えているところに特徴を有する。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1に記載のものにおいて、前記コネクタハウジングは、前記キャビティ内の前記電線付き端子金具に係止して前記電線付き端子金具を抜止めする係止位置と、前記電線付き端子金具への係止を解除する解離位置との間で変位可能なリテーナと、前記リテーナを収容可能であって、前記芯線と前記電線接続部との接触領域に臨む収容空間とを有しており、前記注入孔が前記収容空間内に連通して形成されているところに特徴を有する。
【0011】
請求項3の発明は、請求項2に記載のものにおいて、前記リテーナが解離位置に変位した状態では、前記リテーナが前記キャビティ外へ退避することで前記キャビティに対する前記電線付き端子金具の挿入動作が許容されるようになっており、前記注入孔が、前記リテーナの内面に開口するように形成されているところに特徴を有する。
【0012】
請求項4の発明は、請求項2又は請求項3に記載のものにおいて、前記リテーナは、前記キャビティが形成されたハウジング本体に対して可撓性を有するヒンジを介して繋がっており、前記注入孔は、前記ヒンジの一部を切欠した形態であるところに特徴を有する。
【0013】
請求項5の発明は、請求項2ないし請求項4のいずれかに記載のものにおいて、前記端子金具は、前記電線接続部よりも前方に相手側端子に接続される端子接続部を有しており、前記リテーナには、前記防食用液剤が前記端子接続部側へ流動するのを規制可能な規制部が形成されているところに特徴を有する。
【発明の効果】
【0014】
<請求項1の発明>
防食用液剤は、電線付き端子金具をキャビティに挿入した後、注入孔から芯線と電線接続部との接触領域に塗布することができる。注入孔は、キャビティにおける電線付き端子金具の挿入口とは別に、電線付き端子金具の挿入方向と交差する方向に貫通させているので、電線付き端子金具とキャビティとの間のクリアランスが狭くても注入孔の開口面積を大きく確保することができる。したがって、防食用液剤を塗布する作業を容易に行うことができる。
【0015】
<請求項2の発明>
リテーナの収容空間を防食用液剤の注入経路の一部として兼用させているので、防食用液剤の注入経路の全体を収容空間とは別個に形成する場合に比べると、コネクタハウジング内の形状の簡素化を図ることができる。
【0016】
<請求項3の発明>
注入孔をコネクタハウジングのうちリテーナ以外の部分に形成し、キャビティの内壁に注入孔を開口させた場合、キャビティの電線付き端子金具を挿入するときに注入孔の開口縁に端子金具が干渉することが懸念される。そこで、本発明では、電線付き端子金具をキャビティに挿入する際にはリテーナがキャビティ外へ退避することに着目し、注入孔をリテーナの内面に開口するように形成した。これにより、注入孔の開口縁に端子金具が干渉することを防止できる。
【0017】
<請求項4の発明>
注入孔によってヒンジの一部が切欠されているので、ヒンジの剛性が低く抑えられる。これにより、係止位置へ変位させたヒンジが解離位置へ戻るのを防止することができる。
【0018】
<請求項5の発明>
芯線と電線接続部との接触領域に塗布した防食用液剤が端子接続部に向かって流れても、防食用液剤の端子接続部への侵入は規制部によって阻止される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施形態1においてリテーナを係止位置に変位させた状態をあらわす断面図
【図2】リテーナが解離位置にある状態のコネクタハウジングの断面図
【図3】リテーナが解離位置にある状態のコネクタハウジングの底面図
【図4】リテーナが解離位置にある状態のコネクタハウジングの背面図
【図5】リテーナの規制部が端子金具の収容凹部に嵌合している状態をあらわす部分拡大断面図
【発明を実施するための形態】
【0020】
<実施形態1>
以下、本発明を具体化した実施形態1を図1乃至図5を参照して説明する。本実施形態のコネクタは、コネクタハウジング10と、コネクタハウジング10内に挿入される電線付き端子金具30とを備えて構成されている。電線付き端子金具30には、電線40と端子金具31との接触部分における電食の発生を防止するための防食用液剤45が塗布されているが、コネクタハウジング10内に挿入済みの電線付き端子金具30に防食用液剤45を塗布する作業は、容易に行えるようになっている。
【0021】
コネクタハウジング10は、合成樹脂製であり、全体としてブロック状をなすハウジング本体11と、ハウジング本体11に対し相対変位可能なリテーナ16とを一体に形成して構成されている。ハウジング本体11内には、前後方向に貫通した形態のキャビティ12が、左右方向に並んで形成されている。ハウジング本体11の前端部には、端子金具31の前端部を保持するためのフロント部材(図示省略)が組み付けられるようになっている。また、キャビティ12の後端の開口は、電線付き端子金具30をキャビティ12に挿入するための挿入口13となっている。各キャビティ12内には、その内壁に沿って前方へ片持ち状に延出した形態の弾性撓み可能なランス14が形成されている。
【0022】
ハウジング本体11には、その外面(下面)から各キャビティ12内に連通する複数の収容空間15が形成され、この複数の収容空間15には、リテーナ16に形成された複数の抜止部18が収容されるようになっている。リテーナ16は、平坦な板状部17と、板状部17の上面から突出する複数の抜止部18と、各抜止部18から板状部17とは反対側へ突出した規制部19とを一体に形成したものである。リテーナ16は、板状部17の後端縁においてヒンジ20を介してハウジング本体11の外面に連なっている。
【0023】
金型成型したコネクタハウジング10を金型から離型した状態では、リテーナ16は、ヒンジ20の剛性により解離位置(図2〜4を参照)に保持されている。リテーナ16が解離位置にある状態では、板状部17がキャビティ12に対する電線付き端子金具30の挿入方向に対して斜めの姿勢(ヒンジ20から斜め下前方へ延出した姿勢)となり、抜止部18が板状部17の前下がりの上面から上方へ突出している。そして、抜止部18と規制部19と板状部17の全体を含むリテーナ16は、ハウジング本体11の外面(下面)よりも下方に位置している。つまり、解離位置のリテーナ16は、キャビティ12の外部(キャビティ12に対する電線付き端子金具30の挿入経路の外部)へ退避している。これにより、キャビティ12に対する電線付き端子金具30の挿入動作が許容される。
【0024】
解離位置のリテーナ16は、ヒンジ20を変形させながら、ヒンジ20を支点として係止位置(図1を参照)に変位させることができるようになっている。リテーナ16が係止位置にある状態では、板状部17が水平な姿勢(キャビティ12に対する電線付き端子金具30の挿入方向と平行な姿勢)となり、抜止部18の突出端部と規制部19がキャビティ12の内部に進出し、抜止部18は端子金具31に係止して電線付き端子金具30を抜止めするとともに、規制部19が防食用液剤45の不正な流動を阻止するようになっている。
【0025】
コネクタハウジング10には、各キャビティ12内に挿入されている電線付き端子金具30に対し個別に防食用液剤45を塗布するための注入孔21が、各キャビティ12と対応するように複数形成されている。各注入孔21は、コネクタハウジング10の外面(下面)からキャビティ12内まで電線付き端子金具30の挿入方向(前後方向)に対して斜めに交差する方向(斜め上前向き)に貫通し、芯線41と電線接続部34との接触領域と対応するように開口している。注入孔21は、ハウジング本体11を切欠するのではなく、リテーナ16とヒンジ20を部分的に切欠した形態となっている。
【0026】
注入孔21は、板状部17の後端部とヒンジ20とを貫通するとともに、抜止部18の後面を溝状に切欠した形態である。コネクタハウジング10の外面における注入孔21の外部開口21Aは、板状部17の外面(下面)の後端部及びヒンジ20を切欠した形態であり、キャビティ12と対向する側(リテーナ16の内面側)における注入孔21の内部開口21Bは、抜止部18の後端部及びヒンジ20を切欠した形態となっている。リテーナ16が係止位置にある状態においては、注入孔21の貫通方向は斜め上前方(つまり、キャビティ12に対する電線付き端子金具30の挿入方向に対して斜め方向)となっており、注入孔21は収容空間15とキャビティ12に連通している。
【0027】
ハウジング本体11には、その外面(下面)を前後方向に切欠した形態の複数のガイド溝22が形成されている。ガイド溝22の前端は、ヒンジ20の外面(下面)における注入孔21の外部開口21Aに連なり、ガイド溝22の後端はハウジング本体11の後端面に開口している。ガイド溝22の溝幅と注入孔21の開口の幅は、同じ寸法である。
【0028】
また、ハウジング本体11には、キャビティ12の底面壁の後端部を切欠した形態であって、キャビティ12とガイド溝22とを連通させる連通空間23が形成されている。連通空間23は、ハウジング本体11の後端面に開口しているとともに、収容空間15にも連通し、更にリテーナ16が係止位置にあるときには注入孔21にも連通している。
【0029】
電線付き端子金具30は、端子金具31と、端子金具31の後端部に導通可能に接続された電線40とを備えて構成されている。端子金具31は、銅又は銅合金からなり、所定の形状に打ち抜いた金属板材に曲げ加工等を施すことによって所定の形状に成形した単一部品である。端子金具31は、端子接続部32と電線接続部34と連結部35とを有しており、全体として前後方向に細長い雌形の端子である。
【0030】
端子接続部32は、角筒状をなす周知の形態のものであり、端子金具31の前端部に配置されている。端子接続部32の内部には弾性接触片33が設けられており、前方から端子接続部32内に挿入された雄形の相手側端子(図示省略)は、弾性接触片33と端子接続部32の内面壁との間で弾性的に上下に挟み付けられ、もって、相手側端子と端子金具31とが導通可能に接続されるようになっている。
【0031】
電線接続部34は、オープンバレル状をなす周知の形態のものであり、端子金具31の後端部に配置されている。電線接続部34の前端側領域はワイヤバレル部34Fとなっており、後端側領域はインシュレーションバレル部34Rとなっている。ワイヤバレル部34Fは、基底部の左右両側縁から一対の前部カシメ片を延出した周知の形態であり、インシュレーションバレル部34Rは、ワイヤバレル部34Fと共有する基底部の左右両側縁から一対の後部カシメ片を延出した周知の形態である。
【0032】
連結部35は、前後方向に細長い基板部の両側縁から、前後方向に細長い一対の側板部を略直角に延出させた周知の形態であって、全体として箱状をなしている。連結部35内には、下面側及び前後両端面側に開放された収容凹部36が構成され、この収容凹部36内にはリテーナ16の規制部19が嵌入されるようになっている。連結部35は、端子接続部32の後端部と電線接続部34(ワイヤバレル部34F)の前端部とに連なっている。即ち、基板部の前端は端子接続部32の底面壁の後端に対して面一状に連なっており、基板部の後端は電線接続部34の基底部の前端に対して面一状に連なっている。また、側板部の前端は端子接続部32の側面壁の後端に対して面一状に連なっており、側板部の後端はワイヤバレル部34Fの前部カシメ片の前端に対して面一状に連なっている。
【0033】
基板部からの側板部の延出寸法(図1における上下方向の寸法)は、端子接続部32の側面壁の高さ寸法よりも小さい。これにより、側方(電線付き端子金具30の挿入方向と交差する方向)から見たときに、端子接続部32の後端部と連結部35の前端部とは段差状をなしている。この段差形状により、端子接続部32の後端部には係止部37が形成されている。この係止部37には、リテーナ16の抜止部18が後方から係止するようになっている。
【0034】
電線40は、端子金具31とは異なる金属、即ちアルミニウム又はアルミニウム合金からなる複数本の素線(図示省略)を撚り合わせた芯線41を、絶縁被覆42で包囲した周知の形態のものである。電線40の前端部は、絶縁被覆42が除去されて芯線41が露出された状態となっている。かかる電線40の前端部は、電線接続部34に圧着により接続されている。圧着に際しては、ワイヤバレル部34Fを芯線41に巻き付けて包囲するようにしてカシメ付けると同時に、インシュレーションバレル部34Rを電線40のうち絶縁被覆42で覆われている部分の前端部領域に巻き付けて包囲するようにしてカシメ付ける。このようにして圧着されることにより、芯線41と電線接続部34とが導通可能に固着されるとともに、絶縁被覆42が覆われている部分が電線接続部34に対して移動規制された状態で固着される。
【0035】
電線40と電線接続部34とを圧着接続した状態では、芯線41の露出部分の長さはワイヤバレル部34Fよりも長く、芯線41の露出部分の前端部は、ワイヤバレル部34Fの前方へ露出して連結部35の収容凹部36内に収容されており、芯線41の露出部分の後端部は、ワイヤバレル部34Fよりも後方であってインシュレーションバレル部34Rよりも前方の領域で露出している。電線40のうち絶縁被覆42で覆われている部分の前端部は、インシュレーションバレル部34Rの前端よりも前方に露出しており、電線40における芯線41の露出部分と絶縁被覆42で覆われている部分との境界は、ワイヤバレル部34Fとインシュレーションバレル部34Rとの間に位置している。また、インシュレーションバレル部34R(端子金具31)の後端からは、電線40の絶縁被覆42で覆われている部分が後方へ導出されている。
【0036】
電線接続部34(ワイヤバレル部34F)と電線40との接続部分においては、芯線41と電線接続部34とが異種金属であるため、芯線41とワイヤバレル部34Fとの接触部分に水がかかると、その接触部分に電食が生じる虞がある。そのため、電食防止の対策として、芯線41のうち露出している部分の少なくとも全体(電線接続部34との圧着部を含む)は防食用液剤45で覆われている。防食用液剤45としては、塗布後もペースト状態を保つものや、塗布後に固化するものや、常温よりも高い温度にすると粘度が低いが常温では粘度が高くなる性質のもの等を用いることができる。芯線41に塗布された防食用液剤45は、素線のうち芯線41の外周面に露出しているものの外面を液密状に覆い、素線間の隙間に浸入して素線間を液密状にシールし、さらに芯線41とワイヤバレル部34Fとの隙間に浸入して芯線41とワイヤバレル部34Fとの間を液密状にシールする。
【0037】
次に、本実施形態のコネクタの製造工程を説明する。製造に際しては、まず、リテーナ16を解離位置に保持した状態で、電線付き端子金具30を挿入口13からキャビティ12内に挿入し、ランス14の係止作用により電線付き端子金具30を抜止め状態とする。この状態では、芯線41とワイヤバレル部34Fとの接触領域が、収容空間15と注入孔21に臨むように位置する。
【0038】
次に、解離位置にあるリテーナ16を係止位置へ変位させる。すると、抜止部18が端子金具31の係止部37に係止することにより、電線付き端子金具30が後方への移動を規制させた状態に抜止めされる。また、図5に示すように、規制部19が、芯線41の前端よりも前方の位置において連結部35の収容凹部36内に大きな隙間を空けずに嵌合する。この規制部19により、端子接続部32の内部空間と芯線41側の空間とが隔絶される。
【0039】
この後、コネクタを上下反転させ、防食用液剤45が充填されている注入器のノズル(図示省略)を斜め後方から注入孔21に差し込み、そのノズルからキャビティ12内に防食用液剤45を注入する。このとき、ノズルをガイド溝22に嵌めて前方へスライドさせると、ノズルを注入孔21内に案内することができるので、作業性が向上する。そして、ノズルを注入孔21内に差し込んだ状態で、そのノズルから防食用液剤45を芯線41の露出部分に向けて吐出する。これにより、防食用液剤45が芯線41の露出部分全体を覆うように塗布される。
【0040】
また、芯線41の露出部分とワイヤバレル部34Fが前後方向に細長いのに対し、注入孔21の開口はワイヤバレル部34Fの前端部を指向しているのであるが、注入孔21の後方においては、ハウジング本体11の外面とキャビティ12の内部とが、ガイド溝22と連通空間23を介して連通している。したがって、ノズルをガイド溝22と連通空間23内で後方へ移動させることにより、芯線41の露出部分及びワイヤバレル部34Fの全体に対して確実に防食用液剤45を塗布することができる。
【0041】
また、注入孔21から防食用液剤45をキャビティ12内に注入したときに、防食用液剤45の一部が芯線41よりも前方へ流動することが懸念される。しかし、本実施形態では、収容凹部36内における芯線41よりも前方の位置に規制部19を配置し、芯線41側における防食用液剤45の注入領域と、端子接続部32の内部空間との間を仕切っているので、防食用液剤45が端子接続部32の内部に浸入する虞はない。
【0042】
上述のように本実施形態のコネクタは、コネクタハウジング10の外面からキャビティ12内まで電線付き端子金具30の挿入方向と交差する方向に貫通して、芯線41と電線接続部34との接触領域と対応するように開口する注入孔21を備えているので、防食用液剤45は、電線付き端子金具30をキャビティ12に挿入した後で、注入孔21から芯線41と電線接続部34との接触領域に塗布することができる。
【0043】
この注入孔21は、キャビティ12における電線付き端子金具30の挿入口13とは別に、電線付き端子金具30の挿入方向と交差する方向に貫通させているので、電線付き端子金具30とキャビティ12との間のクリアランスが狭くても注入孔21の開口面積を大きく確保することができる。したがって、防食用液剤45を塗布する作業を容易に行うことができる。
【0044】
また、リテーナ16の収容空間15を防食用液剤45の注入経路の一部として兼用させているので、防食用液剤の注入経路の全体を収容空間とは別個に形成する場合に比べると、コネクタハウジング10内の形状の簡素化を図ることができる。
【0045】
また、注入孔を、コネクタハウジング10のうちリテーナ16以外の部分に形成し、キャビティ12の内壁に注入孔を開口させた場合には、キャビティ12の電線付き端子金具30を挿入するときに注入孔の開口縁に端子金具31が干渉することが懸念される。そこで、本実施形態では、電線付き端子金具30をキャビティ12に挿入する際にはリテーナ16がキャビティ12外へ退避することに着目し、注入孔21の内部開口21Bをリテーナ16の内面に開口するように形成した。これにより、注入孔21の開口縁に端子金具31が干渉することを防止できる。しかも、リテーナ16の一部は、注入孔21の形成に伴って肉抜きされるので、リテーナ16がヒケが原因となって変形することを防止することもできる。
【0046】
また、リテーナ16が、ハウジング本体11に対して可撓性を有するヒンジ20を介して繋がっている点に着目し、注入孔21をヒンジ20の一部を切欠した形態とした。これにより、ヒンジ20の剛性が低く抑えられるので、係止位置へ変位させたヒンジ20が解離位置へ戻るのを防止することができる。
【0047】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)上記実施形態では、コネクタハウジングがリテーナを有する場合について説明したが、本発明は、コネクタハウジングがリテーナを有しない場合にも適用できる。
(2)上記実施形態では、注入孔がリテーナの内面に開口する形態としたが、注入孔はリテーナの内面に開口せず、キャビティの内壁に開口する形態であってもよい。
(3)上記実施形態では、リテーナがハウジング本体に対してヒンジを介して連結されている場合について説明したが、本発明は、リテーナがハウジング本体とは別体の部品である場合にも適用できる。
(4)上記実施形態では、注入孔が、ヒンジの一部を切欠する形態となつているが、注入孔は、リテーナのうちヒンジを含まない部分(ヒンジから外れた部分)を切欠する形態であってもよい。
(5)上記実施形態では、注入孔が、防食用液剤を斜め後方から注入するように形成したが、注入孔は、防食用液剤を斜め前方から注入するように形成してもよい。
(6)上記実施形態では、注入孔が、防食用液剤を電線付き端子金具の挿入方向に対して斜め方向に注入するように形成したが、注入孔は、防食用液剤を電線付き端子金具の挿入方向と直角な方向に注入するように形成してもよい。
(7)上記実施形態では、防食用液剤が端子接続部に侵入するのを規制するための規制部をリテーナに形成したが、リテーナに規制部を形成しない形態としてもよい。
(8)上記実施形態では、リテーナを端子接続部の後端縁に係止させるようにしたが、端子金具におけるリテーナの係止対象は、端子接続部以外の部分(例えば、端子金具の不正な姿勢での挿入を規制するためのスタビライザ)であってもよい。
(9)上記実施形態では、電線の芯線と端子金具とを異種金属としたが、本発明は、芯線と端子金具が同種の金属である場合にも適用できる。
【符号の説明】
【0048】
10…コネクタハウジング
11…ハウジング本体
12…キャビティ
15…収容空間
16…リテーナ
19…規制部
20…ヒンジ
21…注入孔
32…端子接続部
30…電線付き端子金具
31…端子金具
34…電線接続部
40…電線
41…芯線
42…絶縁被覆
45…防食用液剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部にキャビティを有するコネクタハウジングと、
電線の芯線に端子金具の電線接続部を導通可能に接続して構成され、前記キャビティ内に挿入された電線付き端子金具と、
前記電線付き端子金具に対し、少なくとも前記芯線と前記電線接続部との接触領域を含むように塗布された防食用液剤と、
前記コネクタハウジングの外面から前記キャビティ内まで前記電線付き端子金具の挿入方向と交差する方向に貫通し、前記芯線と前記電線接続部との接触領域と対応するように開口する注入孔とを備えていることを特徴とするコネクタ。
【請求項2】
前記コネクタハウジングは、
前記キャビティ内の前記電線付き端子金具に係止して前記電線付き端子金具を抜止めする係止位置と、前記電線付き端子金具への係止を解除する解離位置との間で変位可能なリテーナと、
前記リテーナを収容可能であって、前記芯線と前記電線接続部との接触領域に臨む収容空間とを有しており、
前記注入孔が前記収容空間内に連通して形成されていることを特徴とする請求項1記載のコネクタ。
【請求項3】
前記リテーナが解離位置に変位した状態では、前記リテーナが前記キャビティ外へ退避することで前記キャビティに対する前記電線付き端子金具の挿入動作が許容されるようになっており、
前記注入孔が、前記リテーナの内面に開口するように形成されていることを特徴とする請求項2記載のコネクタ。
【請求項4】
前記リテーナは、前記キャビティが形成されたハウジング本体に対して可撓性を有するヒンジを介して繋がっており、
前記注入孔は、前記ヒンジの一部を切欠した形態であることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載のコネクタ。
【請求項5】
前記端子金具は、前記電線接続部よりも前方に相手側端子に接続される端子接続部を有しており、
前記リテーナには、前記防食用液剤が前記端子接続部側へ流動するのを規制可能な規制部が形成されていることを特徴とする請求項2ないし請求項4のいずれか1項に記載のコネクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−216194(P2011−216194A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−80301(P2010−80301)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【Fターム(参考)】