説明

コバルト、クロム、および白金からなるマトリックス相と酸化物相とを含有するスパッタリングターゲット材およびその製造方法

【課題】金属酸化物が形成する粒子をより微細化することにより、成膜性の向上を実現できるスパッタリングターゲット材およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明のスパッタリングターゲット材の製造方法は、コバルト、クロム、および白金からなるマトリックス相と、少なくとも酸化クロムを含む2種以上の金属酸化物からなる酸化物相とを含有し、かつ該酸化物相が粒子を形成してなるスパッタリングターゲット材の製造方法であって、原料粉末全量100mol%中、該酸化クロムを1.0mol%以上の量で配合することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コバルト、クロム、および白金からなるマトリックス相と酸化物相とを含有し、かつ該酸化物相が2種以上の金属酸化物からなるスパッタリングターゲット材およびその製造方法に関する。より詳しくは、原料粉末全量100mol%中、少なくとも1.0mol%の量の酸化クロムを配合することにより、特に磁気記録膜成膜に好適なスパッタリングターゲット材を得ることができる製造方法、およびその製造方法により得られるスパッタリングターゲット材に関する。
【背景技術】
【0002】
外部記録装置として採用されるハードディスク装置には、高性能なコンピュータおよびデジタル家電等に対応し得る高密度記録性が要求される。近年、このような高密度記録性を充足する垂直磁気記録方式が注目されており、該方式に用いられる垂直磁化膜としては、Co系合金磁性膜が多く採用されている。これら磁性膜においては、各相の結晶粒子の大きさおよびバラツキを抑制して、各粒子間の磁気的相互作用を低減すれば、媒体ノイズを低減し、記録密度を向上させることが可能となること等が知られている。
【0003】
こうしたCo系合金磁性膜は、現在スパッタリングターゲットをスパッタリングすることにより得られるが、得られる膜の高密度記録化、高保磁力化等を実現するため、用いるスパッタリングターゲットの品質向上を目指すべく様々な研究開発が行われている。
【0004】
たとえば、特許文献1にはCo系合金からなるスパッタリングターゲット材が開示されており、高保磁力の薄膜が得られることが示されている。しかしながら、該スパッタリングターゲット材はある程度の高温下および高圧下における焼結を要するものであり、依然としてスパッタリングターゲット材自体の生産性向上に改善の余地が残されている。
【0005】
また、特許文献2にはCo系金属磁性相と金属酸化物非磁性相よりなる高密度のスパッタリングターゲット材が開示されており、金属酸化物相は単一金属酸化物または単一金属酸化物の結合によってできた混合金属酸化物であることが示されている。しかしながら、この非磁性相を形成する金属酸化物は、かなり低融点のものに限定されるとともに、高温下および高圧下における焼結を要するものである。しかも、このように低融点の金属酸化物は、焼結した後、その金属酸化物が形成する粒子の粒径が粗大化するおそれもある。
【0006】
一方、特許文献3には、シリカを2〜15質量%、酸化クロムを0.01〜0.5質量%、Crを3〜20質量%、Ptを15〜45質量%、残部がCrからなるスパッタリングターゲットが開示されている。該ターゲットはパーティクルの発生を抑制すべく見出されたものであるが、酸化クロムは極めて微量な量に限られ、この量を超えて酸化クロムを含有すると、パーティクルの発生が多くなり好ましくないことが示されている上、金属酸化物が形成する粒子の微細化を充分に実現するものではない。
【特許文献1】特開2007−154248号公報
【特許文献2】特開2006−348366号公報
【特許文献3】特開2007−31808号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明では、酸化物相が形成する粒子をより微細化することにより、成膜性の向上を実現できるスパッタリングターゲット材およびその製造方法を提供することを
目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のスパッタリングターゲット材の製造方法は、コバルト、クロム、および白金からなるマトリックス相と、少なくとも酸化クロムを含む2種以上の金属酸化物からなる酸化物相とを含有し、かつ該酸化物相が粒子を形成してなるスパッタリングターゲット材の製造方法であって、原料粉末全量100mol%中、該酸化クロムを1.0mol%以上の量で配合することを特徴としている。
【0009】
また、前記酸化物相が形成する粒子の平均粒径は、3μm以下であるのが望ましい。
さらに、前記酸化物相が、酸化クロムと、Si、Ti、Ta、Al、Mg、Ca、Zr、B、Mn、Sm、Hf、Gdからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属酸化物とを含むのが好ましい。
【0010】
本発明のスパッタリングターゲット材は、コバルト、クロム、および白金からなるマトリックス相と、少なくとも酸化クロムを含む2種以上の金属酸化物からなる酸化物相とを含有し、該酸化物相が平均粒径3μm以下の粒子を形成してなり、かつ、該酸化物相が、酸化クロムと、Siからなる金属酸化物とを含み、スパッタリングターゲット材100mol%中、酸化クロムの含有量が1.2〜12.0mol%、Siからなる金属酸化物の含有量が1.5〜11.9mol%であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法によれば、特定量の酸化クロムを配合することにより、酸化物相からなる粒子をより微細化したスパッタリングターゲット材を得ることができる。また、該製造方法は、比較的低温下における焼結で足りるので、スパッタリングターゲット材自体の製造工程の効率化を図ることができる。
【0012】
このような製造方法により得られる本発明のスパッタリングターゲット材は、結晶粒子の粒成長を充分に抑制した高密度のスパッタリングターゲット材であるので、パーティクルおよびアーキングの発生を低減することができる。また、低透磁率であるので、スパッタ速度を向上させることができ、高速成膜化を実現することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明について具体的に説明する。
なお、本明細書において「酸化物相」とは、少なくとも酸化クロムを含む2種以上の金属酸化物からなる相を意味する。すなわち、金属酸化物の1種である酸化クロムと、その他の金属酸化物、たとえばSiO2、Al23,Y23などの金属酸化物から選ばれる1
種以上とが混合されてなる金属酸化物からなる相を意味する。また、「マトリックス相」とは、上記「酸化物相」以外の相を意味する。すなわち、コバルト、クロム、および白金を含む金属からなる相であり、上記金属酸化物を含まない相を意味する。
【0014】
<スパッタリングターゲット材の製造方法>
本発明のスパッタリングターゲット材の製造方法は、コバルト、クロム、および白金からなるマトリックス相と、少なくとも酸化クロムを含む2種以上の金属酸化物からなる酸化物相とを含有し、かつ該酸化物相が粒子を形成してなるスパッタリングターゲット材の製造方法であって、該酸化クロムを1.0mol%以上の量で配合することを特徴とするスパッタリングターゲット材の製造方法である。
【0015】
本発明のスパッタリングターゲット材を得るには、まずコバルト、クロムおよび白金を含む金属と、少なくとも酸化クロムを含む2種以上の金属酸化物とからなる粉末を用いる
。該粉末は、以下の方法により、粉末(A)から得られる粉末(B)を用いる。
【0016】
粉末(A)は、CoとCrとの合金と金属酸化物とをメカニカルアロイングすることにより得る。まずCoとCrとの合金をアトマイズする。この場合に原料として用いる合金は、Cr濃度が、通常5〜95原子%、好ましくは10〜70原子%である。この合金をアトマイズすることにより、粉末を得る。
【0017】
アトマイズ法としては、特に限定されず、水アトマイズ法、ガスアトマイズ法、真空アトマイズ法、遠心アトマイズ法等のいずれであってもよいが、ガスアトマイズ法が好ましい。出湯温度は、通常1420〜1800℃、好ましくは1420〜1600℃である。ガスアトマイズ法を用いる場合、通常N2ガスまたはArガスを噴射するが、Arガスを
噴射すると、酸化を抑制することができるとともに球状の粉末が得られるので好ましい。上記合金をアトマイズすることで、平均粒径が10〜600μm、好ましくは10〜200μm、より好ましくは10〜80μmのアトマイズ粉が得られる。
【0018】
そして、CoとCrとの合金、あるいはこれらのアトマイズ粉と金属酸化物とをメカニカルアロイングして粉末(A)を得る。用いる金属酸化物は、少なくとも酸化クロムを含む2種以上の金属元素の酸化物からなる酸化物相、すなわち、酸化クロムと酸化クロム以外の金属酸化物である。
【0019】
酸化クロムとしては、具体的には、たとえばCr23、CrO、CrO2、Cr25
CrO3が挙げられ、なかでもCr23であるのが好ましい。これらは1種単独であって
も2種以上混合してもよい。酸化クロムの配合量は、混合して得られる原料粉末全量100mol%中、通常1.0mol%以上、好ましくは1.0mol%〜12.0mol%、より好ましくは2.5mol%〜5.0mol%の量である。また、酸化クロム粉末の平均粒径は、3μm以下、好ましくは2.5μm以下であるのが望ましい。酸化クロムの配合量または粉末粒径を上記範囲内に調整することにより、得られるスパッタリングターゲット材100mol%中に含有される酸化クロムを、通常1.2mol%以上、好ましくは1.2mol%〜12.0mol%、より好ましくは2.6mol%〜5.1mol%の量とすることができる。そして、酸化クロムと後述する酸化クロム以外の金属酸化物とから得られる酸化物相が形成する粒子の平均粒径は、3μm以下、好ましくは2.0〜3.0μm、より好ましくは2.0〜2.5μmとなり、微細な粒子とすることができる。
【0020】
なお、本明細書において、酸化クロム粉末の平均粒径とは、マイクロトラック測定により得られるD50値により求められる値を意味する。また、酸化物相が形成する粒子の平均粒径とは、スパッタリングターゲット材の切断面を走査型分析電子顕微鏡(SEM)で観察し、SEM像1000倍視野に対角線を引き、この線上に存在する酸化物相が形成する粒子について最大粒径および最小粒径を測定し、これらを平均した値を意味する。
【0021】
また、スパッタリングターゲット材100mol%中における上記各成分の含有量は、スパッタリングターゲット材の組成により決定することができる。本明細書において、スパッタリングターゲット材の組成とは、酸化クロムのなかでも安定して生成するCr23を用いて換算して決定される値を意味する。CrとCr23との判別は、スパッタリングターゲット材におけるCr分析および酸素分析により行うことができる。
【0022】
上記酸化クロム以外の金属酸化物としては、具体的には、たとえばSi、Ti、Ta、Al、Mg、Ca、Zr、B、Mn、Sm、Hf、Gdの金属元素の酸化物、より具体的にはSiO2、TiO2、Ta25、Al23、MgO、CaO、ZrO2、B23、Sm23、HfO2、Gd23などが挙げられ、これらのなかでもSiの酸化物であるのが好ま
しく、SiO2であるのがより好ましい。これらは1種単独であっても2種以上混合して
もよい。酸化クロム以外の金属酸化物の配合量は、混合して得られる原料粉末全量100mol%中、通常1.5mol%〜12.0mol%、好ましくは1.5mol%〜2.5mol%、より好ましくは1.5mol%〜2.0mol%の量である。酸化クロム以外の金属酸化物の配合量を上記範囲内に調整することにより、得られるスパッタリングターゲット材100mol%中に含有される該金属酸化物を、通常1.5〜11.9mol%以上、好ましくは1.5mol%〜2.5mol%、より好ましくは1.5mol%〜2.0mol%の量とすることができる。酸化クロム以外の金属酸化物の配合量を上記範囲内に調整することにより、上記配合量の酸化クロムと相まって、得られる酸化物相が形成する粒子をより微細なものとすることができる。なお、残部には、本発明の効果を損なわない範囲で他の元素を含有してもよい。例えば、タンタル、ニオブ、銅、ネオジムなどが挙げられる。メカニカルアロイングは、通常ボールミルにて行う。
【0023】
上記粉末(A)の粉砕率は、通常30〜95%、好ましくは50〜95%、より好ましくは80〜90%である。粉砕率が上記範囲であると、粉末(A)を充分に微細化してターゲット内における酸化物相からなる粒子をより微細化し、該粒子をコバルト、クロムおよび白金からなる金属相内に均質に分散させることができるとともに、粉砕率の上昇に伴い増加する傾向にあるジルコニウムまたは炭素などの不純物の混入を適度に抑制することができる。
【0024】
さらに、上記のような粉末(A)を得る代わりに、Cr含有粉末を直接用いて、次工程以降の処理を行ってもよい。また、該Cr含有粉末は、CoとCrのほか、上記酸化クロムの含有量を満たす限りにおいて、金属酸化物等を含有していてもよい。
【0025】
次に、前記粉末(A)とPtとを混合し、粉末(B)を得る。Ptは、単体粉末を用いるのが好ましい。混合方法は、特に限定されないが、ブレンダーミル混合が好適である。
なお、次工程である焼結工程に移行する前に粉末(B)を整粒してもよい。整粒には、振動ふるいを用いる。整粒することにより、粉末(B)の均質性をさらに高めることができる。
【0026】
得られた粉末(B)を焼結することにより、本発明のスパッタリングターゲット材を得る。焼結温度は、通常1100℃以下、好ましくは800〜1100℃、より好ましくは950℃を超え1100℃以下である。焼結時の圧力は、通常10〜100MPa、好ましくは20〜80MPa、より好ましくは30〜60MPaである。焼結雰囲気は、通常、非酸素雰囲気であるのが望ましく、なかでもAr雰囲気であるのが好ましい。
【0027】
焼結開始時から最高焼結温度に到達するまでは、通常250〜6000℃/h、好ましくは1000〜6000℃/hの速度で、通常10min〜4hかけて昇温する。
最高焼結温度保持時間(焼結時間)は、通常3min〜5h程度である。最高焼結温度保持時間が上記範囲内であると、酸化物相が形成する微細な粒子の粒成長を有効に抑制することができるとともに、得られるターゲットの相対密度を向上させることができる。
【0028】
さらに、上記焼結温度から200〜400℃まで、通常300〜1000℃/hr、好ましくは500〜1000℃/hr、より好ましくは700〜1000℃/hrの速度で、通常1〜3hかけて降温する。
【0029】
本発明のスパッタリングターゲット材の製造方法は、焼結温度を上記範囲内とするのが好ましく、かつ降温速度を上記範囲内とするのがより好ましい。すなわち、比較的低温下で焼結し、かつ高速で降温するのがより望ましい。このようにすることで、酸化物相が形成する粒子の粒成長を有効に抑制することができ、得られるターゲットの品質を向上させ
ることが可能となる。
【0030】
特に、好適な焼結温度および最高焼結温度保持時間は、ターゲットの組成により変動し得る。具体的には、たとえば、原料粉末全量100mol%中、Co;66.5mol%、Pt;19.0mol%、Cr;9.5mol%、SiO2;2.5mol%、Cr23;2.5mol%を配合した場合、焼結温度は800〜1100℃程度が好ましく、最高焼結温度保持時間(焼結時間)は3min〜5hであるのが望ましい。
【0031】
通電焼結法とは、加圧加電下において大電流を印加することにより焼結をする方法であり、放電プラズマ焼結法、放電焼結法、またはプラズマ活性化焼結法をも含むものである。この方法は、原料粉末の間隙に生じる放電現象を利用して、放電プラズマ等による粒子表面における活性化作用および電場により生じる電解拡散効果やジュール熱による熱拡散効果、加圧による塑性変形圧力などが焼結の駆動力となって焼結が促進される。該方法を用いると、上記焼結温度程度の低温度域であっても成形体を充分に焼結することができ、また上記のような高速降温を容易に実現することができる。
【0032】
したがって、従来より多く採用されているホットプレス(HP)法を用いて低温域で焼結すると、酸化物相が形成する粒子の粒成長はある程度抑制できるものの、高密度のターゲットを得られにくい傾向にあるが、通電焼結法を用いれば、種々の焼結温度条件を制御しやすいため、低温域で焼結しても上記酸化物相の粒子の粒成長を抑制するとともに高密度化されたターゲットを容易に得られやすく、好適な焼結方法である。
【0033】
<スパッタリングターゲット材>
本発明のスパッタリングターゲット材は、コバルト、クロム、および白金からなるマトリックス相と、少なくとも酸化クロムを含む2種以上の金属酸化物からなる酸化物相とを含有し、かつ該酸化物相が平均粒径3μm以下の粒子を形成してなる。このように、本発明のスパッタリングターゲット材における酸化物相が形成する粒子の平均粒径は、通常3μm以下であり、好ましくは2.0〜3.0μm、より好ましくは2.0〜2.5μmである。
【0034】
そして、この酸化物相は、酸化クロムとSiからなる金属酸化物とを含み、酸化クロムの含有量は、該スパッタリングターゲット材100mol%中、通常1.2mol%以上、好ましくは1.2mol%〜12.0mol%、より好ましくは2.6mol%〜5.1mol%の量である。また、Siからなる金属酸化物の含有量は、該スパッタリングターゲット材100mol%中、通常1.5〜12.0mol%、好ましくは1.5〜2.0mol%の量である。
【0035】
さらに、上記Siからなる金属酸化物の含有量と酸化クロムの含有量との好適なモル比は、通常1.0:0.2〜1.0:4.9であり、酸化物相が形成する粒子の平均粒径を2.0〜2.5μmの範囲内とすることができるという観点から、好ましくは1.0:1.1〜1.0:2.1である。なお、これら酸化物相には、コバルト、クロム、または白金が、大気中で、あるいは焼結時に酸化された酸化物も微量に含まれる場合がある。
【0036】
一方、コバルト、クロム、および白金の各々の含有量は特に限定されないが、該スパッタリングターゲット材100mol%中、通常、コバルトが59.2〜68.2mol%、好ましくは64.0〜66.4mol%の量、クロムが9.3〜10.6mol%、好ましくは10.1〜10.5mol%の量、白金が16.9〜19.5mol%、好ましくは18.3〜19.0mol%の量である。
【0037】
このように、本発明のスパッタリングターゲット材は、特定の量の酸化クロムとSiか
らなる金属酸化物とからなる酸化物相を含有することから、該酸化物相が形成する粒子をより微細なものとすることができる。酸化物相の粒子を微細化することで、該粒子をスパッタリングターゲット材内により均質に分散させることができ、高密度のスパッタリングターゲット材を得られることができる。したがって、スパッタリング時におけるパーティクルおよびアーキングの発生量を著しく低減することが可能となる。
【0038】
なお、本発明のスパッタリングターゲット材の密度を相対密度、すなわち、焼結後の該スパッタリングターゲット材についてアルキメデス法に基づき測定した値で表わすと、通常90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上であり、上限値については特に限定されないが、通常100%以下である。上記アルキメデス法とは、ターゲット焼結体の空中重量を、体積(=ターゲット焼結体の水中重量/計測温度における水比重
)で除し、下記式で表される理論密度ρ(g/cm3)に対する百分率で定義される相対
密度(%)を求める方法である;
【0039】
【数1】

(式(X)中、C1〜Ciはそれぞれターゲット焼結体の構成物質の含有量(重量%)を示し、ρ〜ρiはC1〜Ciに対応する各構成物質の密度(g/cm3)を示す。)。
【0040】
また、微細化された酸化物相の粒子が分散性を増すことで、該スパッタリングターゲット材の透磁率をより均一に低下させ、成膜速度の向上を実現することができるものと考えられる。
【0041】
<磁気記録膜>
本発明のスパッタリングターゲット材は、磁気記録膜、特に垂直磁化膜の形成に好適に用いられる。垂直磁化膜とは、その磁化容易軸が非磁性基板に対して主に垂直方向に向け、記録密度の向上を図る垂直磁気記録方式による記録膜である。本発明のスパッタリングターゲット材をバッキングプレートと接合してスパッタリングターゲットとし、これをスパッタリングすることにより、高品質な磁気記録膜を高速成膜することが可能となる。
【0042】
成膜の際に採用されるスパッタリング方式としては、通常、DCマグネトロンスパッタリング方式またはRFマグネトロンスパッタリング方式が好適である。膜厚は特に限定されるものではないが、通常5〜100nmであり、5〜20nmが好適である。
【0043】
こうして得られる磁気記録膜は、コバルト、クロムおよび白金を、目標とする組成比の約95%以上の組成比で含有することが可能である。また、該磁気記録膜は、酸化物相が形成する粒子の大きさを低減した本発明のスパッタリングターゲット材から得られることから、均質性および緻密性が高い。さらに、この磁気記録膜は保磁力だけでなく、垂直磁気異方性および垂直抗磁力のような磁気特性にも優れることから、特に垂直磁化膜として好適に用いることができる。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、各評価は以下の手順に従って行った。
【0045】
《相対密度》
アルキメデス法に基づき測定した。具体的には、スパッタリングターゲット焼結体の空中重量を、体積(=スパッタリングターゲット焼結体の水中重量/計測温度における水比
重)で除し、上記式(X)に基づく理論密度ρ(g/cm3)に対する百分率の値を相対
密度(単位:%)とした。
【0046】
《酸化物相からなる粒子の平均粒径》
ターゲット切断面を走査型分析電子顕微鏡(日本電子データム(株)製)で観察し、SEM像(加速電圧20kV)1200μm×1600μm中に存在する酸化物相からなる粒子を、画像上に対角線引いた線分上に存在する全ての粒子について、最大粒径および最小粒径を測定し、これを平均した値を平均粒径とした。
【0047】
《スパッタリングターゲット材の組成》
酸化クロムのなかでも安定して生成するCr23を用いて換算した値によりスパッタリングターゲット材の組成を決定した。なお、酸素分析は、セラミックス標準試料として窒化ケイ素粉末(JCRM R005;(社)日本セラミックス協会、酸素濃度平均値1.65±0.12wt%)を用いて検量線を作成し、EMGA−500(酸素分析装置;(株)堀場製作所製)を用いて行った。Co、Cr、Pt、Si分析は、ICP発光分光分析装置を用いて行った。これらCr分析および酸素分析により、CrとCr23とを判別した。
【0048】
[実施例1]
CoCrの合金2kgを超小型ガスアトマイズ装置(日新技研社製)を用いて、出湯温度1650℃(放射温度計で測定)下、50kg/cm2のArガスを噴射してガスアト
マイズすることにより粉末を得た。得られた粉末は平均粒径150μm以下の球状粉末であった。
【0049】
次いで、得られた粉末と、SiO2粉末(平均粒径約0.5μm)とを用い、ボールミ
ルにてメカニカルアロイングを施し、粉末(A)を得た。
Cr23粉末(平均粒径約3μm)も、上記SiO2粉末と同様にしてメカニカルアロ
イングを施した。
【0050】
得られた粉末(A)に、さらにPt粉末(平均粒径約0.5μm)およびCo粉末と同様の粉末をそれぞれ投入して、Co65Cr12Pt15(SiO2)2.5(Cr23)1.0の組成比
となるように混合し、粉末(B)を得た。混合にはボールミルを用いた。
得られた粉末(B)は、さらに振動ふるいを用いて整粒した。
次いで、粉末(B)を成形型に入れ、通電焼結装置を用い、以下の条件下で焼結した。
【0051】
[焼結条件]
焼結雰囲気:Ar雰囲気
昇温速度:800℃/hr
焼結温度:1050℃
最高焼結温度保持時間:10min
圧力:50MPa
降温速度:400℃/hr(最高焼結温度から200℃まで)
得られた焼結体を切削加工することにより、φ4インチのスパッタリングターゲットを得た。この焼結体を用いた各測定結果を表1に示す。
【0052】
[実施例2〜7、比較例1〜2]
実施例1と同様の粉末を用い、SiO2およびCr23について表1に示す組成比とな
るように混合して粉末(B)を得、表1に示す焼結条件に従った以外は実施例1と同様にして、φ4インチのスパッタリングターゲットを得た。これらの焼結体を用いた各測定結果を表1に示す。
【0053】
[参考例1〜2]
実施例1と同様の粉末を用い、SiO2およびCr23について表1に示す組成比とな
るように混合して粉末(B)を得た後、ホットプレス装置を用い、以下の条件下で焼結した以外は実施例1と同様にして、φ4インチのスパッタリングターゲットを得た。この焼結体を用いた各測定結果を表1に示す。
【0054】
焼結雰囲気:Ar雰囲気
昇温速度:450℃/hr
焼結温度:1150℃
最高焼結温度保持時間:1h
圧力:30MPa
降温速度:150℃/hr(最高焼結温度から300℃まで)
【0055】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
コバルト、クロム、および白金からなるマトリックス相と、少なくとも酸化クロムを含む2種以上の金属酸化物からなる酸化物相とを含有し、かつ該酸化物相が粒子を形成してなるスパッタリングターゲット材の製造方法であって、
原料粉末全量100mol%中、該酸化クロムを1.0mol%以上の量で配合することを特徴とするスパッタリングターゲット材の製造方法。
【請求項2】
前記酸化物相が形成する粒子の平均粒径が、3μm以下であることを特徴とする請求項1に記載のスパッタリングターゲット材の製造方法。
【請求項3】
前記酸化物相が、酸化クロムと、Si、Ti、Ta、Al、Mg、Ca、Zr、B、Mn、Sm、Hf、Gdからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属酸化物とを含むことを特徴とする請求項1または2に記載のスパッタリングターゲット材の製造方法。
【請求項4】
前記酸化クロムが、Cr23、CrO、CrO2、Cr25、CrO3からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のスパッタリングターゲット材の製造方法。
【請求項5】
前記酸化物相が、酸化クロムと、Siからなる金属酸化物とを含み、
スパッタリングターゲット材100mol%中、酸化クロムの含有量が1.2〜12.0mol%、Siからなる金属酸化物の含有量が1.5〜11.9mol%であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のスパッタリングターゲット材の製造方法。
【請求項6】
通電焼結法により1100℃以下の温度で焼結することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のスパッタリングターゲット材の製造方法。
【請求項7】
コバルト、クロム、および白金からなるマトリックス相と、少なくとも酸化クロムを含む2種以上の金属酸化物からなる酸化物相とを含有し、該酸化物相が平均粒径3μm以下の粒子を形成してなり、かつ、
該酸化物相が、酸化クロムと、Siからなる金属酸化物とを含み、
スパッタリングターゲット材100mol%中、酸化クロムの含有量が1.2〜12.0mol%、Siからなる金属酸化物の含有量が1.5〜11.9mol%であることを特徴とするスパッタリングターゲット材。

【公開番号】特開2009−215617(P2009−215617A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−61310(P2008−61310)
【出願日】平成20年3月11日(2008.3.11)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【Fターム(参考)】