説明

コヒーレント散乱コンピュータ断層撮影による物質識別

CSCT物質識別装置において、物質識別のためにCT情報及び微分散乱断面積が使用される。本発明の一態様に従って、微分散乱断面積と全散乱断面積との双方を使用する物質識別が提供される。これにより、改善された物質識別、すなわち、より良好な検出率と、より低い誤警報率とがもたらされる。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば手荷物検査などの、コンピュータ断層撮影分野に関する。本発明は、特に、興味対象の検査のための物質識別装置、物質識別装置における興味対象の検査方法、及び物質識別装置において興味対象の検査を実行するためのコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
コヒーレント散乱(CS)コンピュータ断層撮影法(CT)は、コヒーレント散乱されたX線光子に基づく新しい撮像方法である。コヒーレント散乱CTシステムは、対象物の一断層を照射するX線管、及び検出系から構築されており、これらの双方は観察される患者又はその他の対象物の周りを回転する。検出系は、平面から外れた散乱光子を測定する2次元検出器、又は散乱光子のエネルギー分解測定を行う単一行の検出器の何れでもよい。
【0003】
CSCTスキャナにおいては、扇面の方向から外に小さく発散する狭い扇ビームが対象物を貫通する。この扇ビームによって対象物の一断層が照射され、透過放射線と、扇面から外れる方向に散乱された放射線とが検出されて再構成される。
【0004】
しかしながら、利用可能な情報の全てが物質又は成分の識別に使用されるわけではない。故に、改善された物質識別が望まれる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、コヒーレント散乱コンピュータ断層撮影による改善された物質識別方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題に鑑み、本発明の典型的な一実施形態に従った興味対象を検査する物質識別装置は、興味対象に電磁放射線のビームを放射する放射線源、放射線源から放射された放射線と、興味対象からコヒーレント散乱された放射線とを検出するように適応された放射線検出器、及び興味対象の全散乱断面積を決定し、且つ興味対象の全散乱断面積をライブラリー値と比較して、識別結果をもたらすように適応された決定ユニットを有し、且つライブラリー値はモデル物体の全散乱断面積に相当する入力項目である。
【0007】
故に、興味対象の全散乱断面積を決定し、決定された全散乱断面積に基づいて物質識別を行う物質識別装置が提供される。
【0008】
これは、有利なことに、特定物質の識別のために追加的な情報、すなわち、物質の全散乱断面積が使用されるので、改善された物質識別をもたらし得る。故に、より良好な検出率と、より低い誤警報率とが提供され得る。
【0009】
本発明の他の典型的な一実施形態によれば、興味対象の全散乱断面積は、興味対象の第1の微分コヒーレント散乱断面積と興味対象の第2の微分コヒーレント散乱断面積とを足し合わせることによって決定され、第1の微分コヒーレント散乱断面積は放射線検出器によって検出され且つ散乱放射線の第1の運動量変化に相当し、且つ、第2の微分コヒーレント散乱断面積は放射線検出器によって検出され且つ散乱放射線の第2の運動量変化に相当する。
【0010】
故に、全散乱断面積を表す量は、再構成されるCSCT断層画像に関して、運動量変化方向に沿って微分コヒーレント散乱断面積を足し合わせることによって計算される。
【0011】
本発明の他の典型的な一実施形態によれば、当該物質識別装置は、コンピュータ断層撮影(CT)スキャンを実行して再構成し、且つコヒーレント散乱コンピュータ断層撮影スキャン(CSCT)を実行して再構成するように適応されている。
【0012】
これは、有利なことに、コヒーレント散乱されたX線の測定と、透過放射線の測定とを同時、あるいは続けて行う物質識別装置を提供し得る。手荷物検査用途、及び組織の分子構造を変化させるような疾患を検出する医療用途の場合の物質識別のために、結合されたCT情報及び(全)散乱情報が使用され得る。
【0013】
本発明は単一の装置で従来のCTをCSCTと結合させ得るものである。
【0014】
本発明の他の典型的な一実施形態によれば、ライブラリー関数が、モデル物体の全散乱断面積に相当する第4の入力項目を有し、決定ユニットは更に、興味対象の全散乱断面積をライブラリー関数の第4の入力項目と比較して、第4の比較結果をもたらすように適応されている。
【0015】
本発明の他の典型的な一実施形態によれば、ライブラリー関数は更に、モデル物体の第1の微分コヒーレント散乱断面積に相当する第1の入力項目、モデル物体の第2の微分コヒーレント散乱断面積に相当する第2の入力項目、及びモデル物体の透過CT画像に相当する第3の入力項目を有し、決定ユニットは更に、興味対象の第1の微分コヒーレント散乱断面積をライブラリー関数の第1の入力項目と比較して、第1の比較結果をもたらし、興味対象の第2の微分コヒーレント散乱断面積をライブラリー関数の第2の入力項目と比較して、第2の比較結果をもたらし、且つ興味対象の透過CT画像をライブラリー関数の第3の入力項目と比較して、第3の比較結果をもたらすように適応されている。微分断面積は、例えば、運動量変化の関数とし得る。或る一群の運動量変化値にて断面積が与えられる場合、この関数は不連続な値から成る。この場合、第1及び第2の微分断面積は、単一の物体点の微分断面積は少なくとも2つの異なる運動量変化における2つの別個の値から成ることを意味する。
【0016】
有利なことに、本発明のこの典型的な実施形態によれば、物質識別システムは物質識別に異なる3つのデータセット、すなわち、微分コヒーレント散乱断面積、全散乱断面積、及び透過CT画像を使用し得る。これら3つのデータセットの各々はライブラリー関数と比較され、故に、改善され且つ高速な物質識別が提供される。
【0017】
本発明の他の典型的な一実施形態によれば、決定ユニットは更に、第1、第2、第3及び第4の比較結果の少なくとも1つに基づいて識別結果を決定し、且つ識別結果が所定の閾値を超えた場合に警報を発するように適応されている。
【0018】
有利には、この所定の閾値を変化させることにより、物質識別の感度がユーザによって、あるいは自動的に、適当な安全基準に従って調整されてもよい。
【0019】
本発明の他の典型的な一実施形態によれば、興味対象の第1の微分コヒーレント散乱断面積を第1の入力項目と比較すること、及び興味対象の第2の微分コヒーレント散乱断面積を第2の入力項目と比較することは、一組のライブラリー関数の相互相関解析によって実行される。
【0020】
本発明の他の典型的な一実施形態によれば、測定された微分コヒーレント散乱断面積の曲線のピーク検出が実行され、該曲線は興味対象の第1の微分コヒーレント散乱断面積と第2の微分コヒーレント散乱断面積とを有し、検出されたピークの幅及び位置の、ライブラリーの第5の入力項目及び第6の入力項目との比較が実行されて、第5の比較結果がもたらされ、且つ識別結果は第5の比較結果に基づいて決定される。
【0021】
本発明の他の典型的な一実施形態によれば、電磁放射線源は多色X線源であり、放射線源は興味対象の周りの円形経路又は螺旋経路に沿って移動し、且つビームは扇ビーム形状を有する。
【0022】
多色X線は高い光子束を生成・供給するのが容易であるので、多色X線源の適用は有利となり得る。
【0023】
物質識別システムは、手荷物検査装置、医療用装置、材料試験装置、及び材料科学分析装置から成るグループの1つとして構成されていてもよい。しかしながら、本発明の最も好適な適用分野は、手荷物検査用途及び医療用途となり得る。何故なら、本発明は物質識別の改善を可能にするからである。
【0024】
本発明は、或る特定の種類の物質を認識し、必要に応じて、危険物の存在時に警報を発することを自動的に実行する高品質の自動システムを作り出すものである。
【0025】
本発明の他の典型的な一実施形態に従って、物質識別装置における興味対象の検査方法が開示される。当該方法は、電磁放射線源から興味対象に電磁放射線のビームを放射する段階、放射線源から放射された放射線と、興味対象から散乱された放射線とを検出する段階、興味対象の全散乱断面積を決定する段階、及び興味対象の全散乱断面積をライブラリー関数と比較する段階を有し、且つライブラリー関数はモデル物体の全散乱断面積に相当する入力項目である。
【0026】
本発明はまた、例えば画像プロセッサ等のプロセッサ上で実行され得るコンピュータプログラムに関する。このコンピュータプログラムは、例えば、CSCTスキャナシステムの一部としてもよい。本発明の典型的な一実施形態に従ったコンピュータプログラムは、好ましくは、データプロセッサの作業メモリにロードされる。データプロセッサは、故に、本発明に係る方法の典型的な実施形態を実行するように備えられ得る。このコンピュータプログラムは、例えばC++等の好適な如何なるプログラム言語で記述されていてもよく、例えばCD−ROM等のコンピュータ可読媒体に記録されてもよい。また、このコンピュータプログラムは、例えばワールドワイドウェブ等のネットワークから利用可能にされ、画像処理ユニット若しくはプロセッサ、又は好適な如何なるコンピュータにネットワークからダウンロードされてもよい。
【0027】
本発明の1つの特徴は、微分散乱断面積と全散乱断面積との双方が物質識別に使用されることである。これにより、改善された物質識別、より良好な検出率、及びより低い誤警報率が提供され得る。
【0028】
本発明の上記態様及び更なる態様は、以下に記載される実施形態から明らかになり、これら実施形態を参照しながら説明される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
図面を参照しながら本発明の典型的な実施形態について説明する。図面中の説明図は概略的なものである。相異なる図面において、類似又は同一の要素には同一の参照符号が用いられている。
【0030】
この典型的な実施形態を参照し、荷物品目に含まれる例えば爆発物などの危険物を検出するための手荷物検査用途、又はその他の産業用途に関して本発明を説明する。しかしながら、本発明は手荷物検査分野の用途に限られるものではなく、例えば医療撮像などの用途、又は例えば材料試験などのその他の産業用途にも使用され得るものである。
【0031】
図1に描かれたスキャナは扇ビームによるCSCTスキャナである。図1に描かれたCSCTスキャナはガントリー1を有し、ガントリー1は回転軸2の周りを回転可能である。ガントリー1はモータ3によって駆動される。参照符号4は例えばX線源などの放射線源を示しており、この放射線源は本発明の一態様に従って多色放射線ビームを放射する。
【0032】
参照符号5は、放射線源4から放射された放射線ビームを放射線ビーム206に成形する開口系を示している。放射線ビーム6の放射後、このビームはスリットコリメータ31中を導かれ、対象領域に配置される対象物7に突き当たる主扇ビーム41が形成される。
【0033】
扇ビーム41は、ガントリー1の中央、すなわちCSCTスキャナの検査領域、に配置された興味対象7を貫通するように向けられ、検出器8に突き当たる。検出器8は、図1から理解され得るように、検出器8の表面に扇ビーム41が及ぶように、放射線源4に対向してガントリー1に配置されている。図1に描かれた検出器8は複数の検出素子を有している。
【0034】
興味対象7のスキャン中、放射線源4、開口系5及び検出器8はガントリー1とともに矢印16で指し示される方向に回転させられる。放射線源4、開口系5及び検出器8を備えるガントリー1の回転のため、モータ3はモータ制御ユニット17に接続されており、モータ制御ユニット17は決定ユニット18に接続されている。
【0035】
スキャン中、放射線検出器8は所定の時間間隔で標本化される。放射線検出器8から読み取られる標本化結果は電気信号であり、処理されて、以下では投影と称される放射線強度を表す。興味対象のスキャン全体のデータセット全体は、故に、複数の投影から成り、投影数は放射線検出器8が標本化される時間間隔に対応する。複数の投影は併せてボリュームデータとも称される。さらに、ボリュームデータは心電図データを含んでいてもよい。
【0036】
図1において、興味対象はコンベヤーベルト(図示せず)上に配置されている。興味対象7のスキャン中、ガントリー1が興味対象7の周りを回転しながら、コンベヤーベルトが興味対象7をガントリー1の回転軸2に平行な方向に移動させる。これにより、興味対象7は螺旋状のスキャン経路に沿ってスキャンされる。コンベヤーベルトはスキャン中に停止されてもよい。コンベヤーベルトを設ける代わりに、例えば興味対象7が患者である医療用途においては、可動式のテーブルが用いられてもよい。しかしながら、説明される何れの場合においても、回転軸2に平行な方向の移動がなくて回転軸2の周りのガントリー1の回転だけである円形スキャンを実行することも可能である。
【0037】
検出器8は決定ユニット18に接続されている。決定ユニット18は、検出器8の検出素子からの出力である検出結果を受取り、これら出力に基づいてスキャン結果を決定する。検出器8の検出素子は、興味対象7によって扇ビーム6に引き起こされる減衰、又は興味対象7の物体点からコヒーレント散乱された、或るエネルギー範囲内のエネルギーを有するX線のエネルギー及び強度を測定するように適応されていてもよい。さらに、決定ユニット18はモータ制御ユニット17と信号伝達し、モータ3及び20を用いてガントリー1及びコンベヤーベルトの動作を調整する。
【0038】
決定ユニット18は検出器8の出力から画像を再構成するように適応されていてもよい。決定ユニット18によって作成された画像はディスプレー11に出力されてもよい。
【0039】
決定ユニット18は、データプロセッサによって実現されてもよく、また、興味対象の全散乱断面積の決定、及びこの興味対象の全散乱断面積のライブラリー値との比較を実行するように適応されていてもよい。ここで、このライブラリー値はモデル物体の全散乱断面積に対応する入力項目を有するものである。
【0040】
また、決定ユニット18は、例えば自動的に警報を発するよう、スピーカに接続されていてもよい。
【0041】
図2は、エネルギー分解型CSCTの幾何学配置を示している。興味対象102の検査用のCSCT型コンピュータ断層撮影装置100は、回転軸108の周りを回転し、且つ扇ビームコリメータ103を併用して平行にされた扇ビーム104を生成するX線源101を有している。扇ビーム104は興味対象102に突き当たる。
【0042】
興味対象102によって散乱された放射線は、1次元散乱コリメータ107を具備する中心を外れたCSCT検出器106に突き当たる。中央の検出器ライン105は主扇ビーム104の透過放射線を測定する。CSCT検出器106は散乱放射線を測定する。
【0043】
単一ライン又はマルチラインの検出器とし得る中央の検出器105は、直接的に透過された放射線を検出する。オフセット配置された検出器106はエネルギー分解型であり、散乱された放射線を測定する。しかしながら、エネルギー分解型でないCSCTでは、2次元CT検出器で十分であり得る。
【0044】
手荷物検査用途、及び組織の分子構造を変化させるような疾患を検出する医療用途の場合の物質識別には、本発明の一態様に従って、結合されたCT情報及び散乱情報が使用されてもよい。
【0045】
図3は、コヒーレント散乱断面積35と、非コヒーレント散乱断面積34と、その結果として双方の散乱の寄与の和33とを概略的に示している。図3に描かれる断面積は、HO内で微小の幅dΘを有するリングに角度Θで散乱する35KeVのX線に関するものである。横軸31は散乱角Θを表し、縦軸32は断面積dσ/dΩを10−24cm/個/rad単位で表している。
【0046】
これらの曲線の積分が全散乱断面積である。図3から見て取れるように、コヒーレント散乱は主に前方方向であるので、コヒーレント散乱断面積の大部分をカバーするには0と数度との間の範囲で十分である。
【0047】
以下では、本発明の態様を更に詳細に説明する。
【0048】
コヒーレント散乱コンピュータ断層撮影法(CSCT)は、検査対象の空間的に分解されたコヒーレント散乱断面積(CSCS)をもたらす再生的なX線撮像技術である。測定される断層内でインデックス(i,j)を有する物体ボクセルの各々に対して、関数dσ/dΩ(i,j,x)が再構成される。ここで、xは次式で与えられる運動量変化パラメータである:
【0049】
【数1】

ただし、Eは光子のエネルギー、hはプランク定数、そしてcは光速である。
【0050】
コヒーレント散乱断面積dσ/dΩ(x)=f(x)が、例えば一組のライブラリー関数g(x)を有する相互相関解析:
【0051】
【数2】

によって、物質を識別するために用いられ得る。C(0)=1はf(x)=g(x)と等価であるので、C(0)は2つの関数の類似性の指標として用いられ得る。
【0052】
これを行うとき、関数の“形状”のみが類似性の指標に用いられる。物質又は成分の識別では、任意の方向への散乱確率を記述する全断面積を決定することが有用となり得る。再構成されるCSCT断層画像に関してx方向に沿って微分散乱断面積の和をとることによって、全断面積の画像に類似する量s(i,j)が計算され得る:
【0053】
【数3】

ただし、sは、最大測定散乱角Θmax(通常は数度)と、X線管に使用される加速電圧(通常は約120から180kV)によって制限される、このスペクトルの最大エネルギーEmaxと、を用いて等式(1)を適用することにより与えられる最大値xmaxまで全再構成断層をカバーできるのみである。しかしながら、図3から見て取れるように、コヒーレント散乱は主に前方に向けられるので、コヒーレント散乱断面積の大部分をカバーするにはこの範囲で十分である。
【0054】
言い換えると、結果として得られる画像s(i,j)は物質の全散乱“強度”を記述する。
【0055】
また、CSCSは“ピーク検出”によって物質を識別するように使用されてもよい。すなわち、測定された曲線からの“ピーク位置”及び“ピーク幅”がライブラリーからの値と比較される。
【0056】
図4及び5は、s(i,j)が更なる情報をどのようにして付加し得るかの一例を示している。
【0057】
図4のA乃至Lは、再構成されたCSCT断層(コヒーレント散乱断面積又は微分断面積dσ/dΩ(i,j,x))の、相異なるx値で取られた画像セットを示している。図4に描かれた画像群から見て取れるように、各物質は異なるx値において区別可能な最大値を示す。この情報は物質識別に使用され得る。
【0058】
図4に描かれた画像群は、プラスチック材料及びアルミニウムを含有するファントムの再構成されたCSCT断層を、x=1.0nm−1(図4A)、x=1.2nm−1(図4B)、x=1.35nm−1(図4C)、x=1.6nm−1(図4D)、x=2.0nm−1(図4E)、x=2.1nm−1(図4F)、x=2.3nm−1(図4G)、x=2.45nm−1(図4H)、x=3.0nm−1(図4I)、x=3.6nm−1(図4J)、x=4.1nm−1(図4K)、x=4.5nm−1(図4L)の場合について示している。
【0059】
図5のAは、図4のプラスチック/アルミニウムの対象物の全散乱断面積画像s(i,j)を概略的に示している。図5のAから見て取れるように、全散乱断面積画像s(i,j)は物質識別に使用され得る更なる情報を提供する。
【0060】
図5のBは、図4のプラスチック/アルミニウムの対象物のCT画像μ(i,j)を概略的に示している。図5のBから見て取れるように、CT画像は物質識別のための更なる情報を提供する。
【0061】
本発明の一態様に従って、物質識別アルゴリズムにおいては、図4及び5により表される3つのデータセットの全てが、各々の値をライブラリー関数と比較することによって物質識別に使用されてもよい。
【0062】
図6は、本発明の一態様に従った物質識別アルゴリズムのフローチャートを示している。当該方法は段階S1にて投影データセットを収集することで開始する。これは、例えば、好適なCSCTスキャナシステムを用いること、又は記憶装置から投影データを読み出すことによって実行され得る。例えば、段階S1にて、CTスキャンが実行されて再構成される。そして段階S2にて、対応する透過CT画像μ(i,j)が評価される。疑わしい領域又は疑わしい領域群が(実行された評価に基づいて)検出された場合、当該方法は段階S5及びS6へと移動する。一方、如何なる疑わしい領域又は疑わしい領域群も検出されなかった場合、物質識別装置は段階S4にて次の位置へと移動する。
【0063】
段階S5にて、CSCTスキャンが実行されて再構成される。同時に、あるいはCSCTスキャンの実行及び再構成の前若しくは後に、段階S6にて、考え得る危険物質のリストがライブラリーから作成される。段階S7にて、疑わしい領域群の微分断面積dσ/dΩ(i,j,x)が決定され、それと同時に、あるいは前若しくは後に実行される段階S8にて、疑わしい領域群の全断面積s(i,j)が決定される。
【0064】
段階S9にて、段階S7の微分断面積がリスト(これはライブラリーから見出される)からの値と比較される。また段階S10にて、段階S8の全断面積が、やはり段階S6にてライブラリーから見出されたリストからの値と比較される。
【0065】
なお、CTスキャン及びCSCTスキャンの測定は、図6に示されるように連続して実行されてもよいし、あるいは並行して実行されてもよい。また、段階S11の危険評価も続けて、あるいは並行して実行されてもよい。
【0066】
段階S11にて、検査された物質が危険物質に相当するμ、dσ/dΩ(i,j,x)、及びs(i,j)の値を有するかどうかが決定される。これは、本発明の典型的な一実施形態に従って、段階S3、S9及びS10の結果に基づいて、測定されたCT画像(μ)、測定された微分断面積、及び測定された(且つ計算された)全断面積の、ライブラリーの入力項目との類似性を識別結果が示すことの決定によって行われ得る。段階S11にて、物質がモデル物質(これはライブラリーの入力項目によって表される)に類似していることが見出された場合、段階S12にて警報が発せられる。一方、類似性が見出されなかった場合、装置は段階S4にて次の位置へと移動する。
【0067】
図7は、本発明の典型的な一実施形態に従ったライブラリー関数のライブラリー入力項目を示している。図7から見て取れるように、例えば物質1、物質2及び物質3といった複数の異なる物質がライブラリーの入力項目によって表されていてもよい。物質ごとにμの範囲、微分散乱断面積dσ/dΩ(x)、及び全散乱断面積sの範囲が与えられ得る。例えば、物質1に関しては、μの範囲は0.12から0.15cm−1である。また、微分散乱断面積は運動量変化x=0.10nm−1で0.27、x=0.15nm−1で0.31、そしてx=5.00nm−1で0.41である。単位は任意単位(a.u.)である。
【0068】
さらに、この典型的な実施形態によれば、物質1のsの範囲はやはり任意単位で3.1から3.9である。
【0069】
図8は、本発明に従った方法の典型的な一実施形態を実行するための、本発明に従ったデータ処理装置の典型的な一実施形態を示している。図8に描かれたデータ処理装置は、興味対象を描写する画像を保存するメモリ152に接続された中央処理ユニット(CPU)又は画像プロセッサ151を有している。データプロセッサ151は、複数の入力/出力ネットワーク、又は例えばCSCT装置などの診断装置に接続されてもよい。データプロセッサは更に、該データプロセッサ151にて計算あるいは適応された情報又は画像を表示する例えばコンピュータモニターといった表示装置154に接続されていてもよい。操作者又はユーザは、キーボード155、及び/又は図8には描かれていないその他の出力装置を介してデータプロセッサ151とやり取りしてもよい。
【0070】
さらに、バスシステム153を介して、画像処理及び制御プロセッサ151を、例えば、興味対象の動きを監視する動きモニターに接続することも可能である。例えば、患者の肺が撮像される場合、動きセンサーは呼吸センサーとしてもよい。心臓が撮像される場合には、動きセンサーは心電図としてもよい。
【0071】
なお、用語“有する”はその他の要素又は段階の存在を排除するものではなく、“或る(a又はan)”は複数であることを排除するものではない。また、単一のプロセッサ又はシステムが請求項に列挙された幾つかの手段の機能を果たしてもよい。また、相異なる実施形態に関連して説明された要素が組み合わされてもよい。さらに、請求項中の参照符号は請求項の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明に従ったCSCTスキャナの一実施形態を簡略化して示す概略図である。
【図2】エネルギー分解型CSCTの幾何学配置を示す図である。
【図3】コヒーレント散乱断面積と、非コヒーレント散乱断面積と、結果的に得られる散乱断面積としての両者の和とを概略的に示す図である。
【図4】ファントムの再構成CSCT断層を概略的に示す図である。
【図5】図5Aは対象物の全散乱断面積画像を概略的に示す図であり、図5Bは図5Aの対象物のCT画像を概略的に示す図である。
【図6】本発明に従った方法の典型的な一実施形態を示すフローチャートである。
【図7】本発明の典型的な一実施形態に従ったライブラリー関数の典型的なライブラリー入力項目を示す図である。
【図8】本発明に従った方法の典型的な一実施形態を実行するための、本発明に従った画像処理装置の典型的な一実施形態を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
興味対象を検査する物質識別装置であって:
興味対象に電磁放射線のビームを放射する放射線源;
放射線源から放射された放射線と、興味対象からコヒーレント散乱された放射線とを検出するように適応された放射線検出器;及び
興味対象の全散乱断面積を決定し、且つ興味対象の全散乱断面積をライブラリー値と比較して、識別結果をもたらすように適応された決定ユニット;
を有し、且つ
ライブラリー値はモデル物体の全散乱断面積に相当する入力項目である、物質識別装置。
【請求項2】
興味対象の全散乱断面積は、興味対象の第1の微分コヒーレント散乱断面積と興味対象の第2の微分コヒーレント散乱断面積とを足し合わせることによって決定され;
第1の微分コヒーレント散乱断面積は放射線検出器によって検出され、且つ散乱放射線の第1の運動量変化に相当し;且つ
第2の微分コヒーレント散乱断面積は放射線検出器によって検出され、且つ散乱放射線の第2の運動量変化に相当する;
請求項1に記載の物質識別装置。
【請求項3】
コンピュータ断層撮影スキャンを実行して再構成するように適応され、且つコヒーレント散乱コンピュータ断層撮影スキャンを実行して再構成するように適応されている、請求項1に記載の物質識別装置。
【請求項4】
ライブラリー関数が:
モデル物体の全散乱断面積に相当する第4の入力項目;
を有し、
決定ユニットは更に:
興味対象の全散乱断面積をライブラリー関数の第4の入力項目と比較して、第4の比較結果をもたらす;
ように適応されている;
請求項1に記載の物質識別装置。
【請求項5】
ライブラリー関数が更に:
モデル物体の第1の微分コヒーレント散乱断面積に相当する第1の入力項目;
モデル物体の第2の微分コヒーレント散乱断面積に相当する第2の入力項目;及び
モデル物体の透過CT画像に相当する第3の入力項目;
を有し、
決定ユニットは更に:
興味対象の透過CT画像をライブラリー関数の第3の入力項目と比較して、第3の比較結果をもたらし;
興味対象の第1の微分コヒーレント散乱断面積をライブラリー関数の第1の入力項目と比較して、第1の比較結果をもたらし;且つ
興味対象の第2の微分コヒーレント散乱断面積をライブラリー関数の第2の入力項目と比較して、第2の比較結果をもたらす;
ように適応されている;
請求項4に記載の物質識別装置。
【請求項6】
決定ユニットは更に:
第1、第2、第3及び第4の比較結果の少なくとも1つに基づいて、識別結果を決定し;且つ
識別結果が所定の閾値を超えた場合に警報を発する;
ように適応されている;
請求項4又は5に記載の物質識別装置。
【請求項7】
興味対象の第1の微分コヒーレント散乱断面積をライブラリー関数の第1の入力項目と比較すること、及び興味対象の第2の微分コヒーレント散乱断面積をライブラリー関数の第2の入力項目と比較することは、一組のライブラリー関数の相互相関解析によって実行される、請求項5に記載の物質識別装置。
【請求項8】
測定された微分コヒーレント散乱断面積の曲線のピーク検出が実行され;
該曲線は興味対象の第1の微分コヒーレント散乱断面積と第2の微分コヒーレント散乱断面積とを有し;
検出されたピークの幅及び位置の、ライブラリーの第5の入力項目及び第6の入力項目との比較が実行されて、第5の比較結果がもたらされ;且つ
識別結果は第5の比較結果に基づいて決定される;
請求項1に記載の物質識別装置。
【請求項9】
電磁放射線源は多色X線源であり;
放射線源は興味対象の周りの螺旋経路に沿って移動し;且つ
ビームは扇ビーム形状を有する;
請求項1に記載の物質識別装置。
【請求項10】
手荷物検査装置、医療用装置、材料試験装置、及び材料科学分析装置から成るグループの1つとして構成された請求項1に記載の物質識別装置。
【請求項11】
物質識別装置における興味対象の検査方法であって:
電磁放射線源から興味対象に電磁放射線のビームを放射する段階;
放射線源から放射された放射線と、興味対象から散乱された放射線とを検出する段階;
興味対象の全散乱断面積を決定する段階;及び
興味対象の全散乱断面積をライブラリー値と比較する段階;
を有し、且つ
ライブラリー値はモデル物体の全散乱断面積に相当する入力項目である、方法。
【請求項12】
物質識別装置において興味対象の検査を実行するためのコンピュータプログラムであって、プロセッサ上で実行されるとき、プロセッサに:
興味対象に電磁放射線を放射する電磁放射線源を用いて収集され、興味対象からコヒーレント散乱され、且つ放射線検出器によって検出されたデータセットをロードする段階;
興味対象の全散乱断面積を決定する段階;及び
興味対象の全散乱断面積をライブラリー値と比較する段階;
を実行させ、且つ
ライブラリー値はモデル物体の全散乱断面積に相当する入力項目である、コンピュータプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2008−527369(P2008−527369A)
【公表日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−550904(P2007−550904)
【出願日】平成18年1月10日(2006.1.10)
【国際出願番号】PCT/IB2006/050095
【国際公開番号】WO2006/075296
【国際公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】