説明

コリスマイシンおよびその誘導体の、酸化ストレス抑制剤としての使用

本発明は、コリスマイシンおよびその誘導体の、細胞における酸化ストレス抑制剤としての使用、および、酸化ストレスにより誘発される病気または症状、特に神経変性病、例えばアルツハイマー病およびパーキンソン病を処置および/または防止するための医薬の製造へのそれらの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は、コリスマイシンおよびその誘導体の、細胞における酸化ストレス抑制剤としての使用、ならびに、酸化ストレスにより誘発される病気または症状、とりわけ、アルツハイマー病およびパーキンソン病等の神経変性病を処置および/または防止するための、コリスマイシンおよびその誘導体の医薬の製造への使用に関する。
【発明の背景】
【0002】
アルツハイマー病(AD)およびパーキンソン病(PD)は、世界中の何百万人もの人々を冒す最も頻度の高い進行性神経変性病である。患者の大多数が、両疾患からの共通の臨床的および病理学的特徴を共有しているので、両者には共通の病理学的メカニズムが存在することを示唆しているように思われる。in vitroおよびin situデータに基づき、ドーパミン(DA)、6−ヒドロキシドーパミン(6−OHDA)、5,6および5,7−dihydrytryptamine(5,6および5,7DHT)、アミロイドベータ25−35(Aβ25−35)、および金属(例えば鉄(Fe2+)、銅(Cu2+)、亜鉛(Zn2+)、マンガン(Mn2+))により誘発される、統合された分子状の酸化ストレスモデルが、AD/PDに重複するケースでの神経損失(neural loss)を説明可能であるとして、広く提案されている。この仮定は、両障害の病態生理学カスケードをより深く理解するのに貢献し、Hにより発生する酸化ストレスが、細胞死に導く細胞内信号活動の不可欠な分子を代表するという概念も支持するかもかも知れない。
【0003】
したがって、神経変性病を処置する新規な薬学的化合物を開発するための重要な手法は、細胞酸化ストレスを抑制する化合物を設計することであろう。反応性酸素化学種(ROS)、例えば酸素ラジカル、超酸化物(O)または過酸化水素(H)、は、正常な代謝過程で生成し、幾つかの有用な機能を果たす(反応性酸素化学種および中枢神経系(Reactive oxygen species and the central nervous system)、Halliwell B., J. Neurochem., 1992, 59 859: 1609-1623)。細胞は、これら酸化性試剤のレベルを制御するための幾つかの機構、例えばスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)、グルタチオンまたはビタミンE、を備えている。正常な生理学的状態では、ROSとこれらの抗酸化機構との間にバランスが存在する。ROSの過剰生成および抗酸化防御の効率低下は、細胞中に病理学的状態を生じ、組織損傷を引き起こすことがある。この事象は、神経では、それらの代謝活性が高いので、より劇的に起こると思われる。したがって、一連の変性過程、病気および症候群(例えばアルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)および精神分裂病)に関連すると思われる(グルタチオン、酸化ストレスおよび神経変性(Glutathion, oxidative stress and neurodegeneration)、Schulz et al., Eur. J. Biochem., 2000, 267, 4904-4911)。他の病気または病理学的状態も酸化ストレスに関連しており、例えばハンチントン病(ハンチントン病における酸化損傷(Oxidative damage in Huntington's disease)、Segovia J.およびPerez-Severiano F, Methods Mol. Biol.; 2004; 207:321-334)脳損傷、例えば発作およびてんかん(急性脳血管性発作の状況における酸化ストレス(Oxidative Stress in the Context of Acute Cerebrovascular Stroke)、El Kossiら, Stroke; 2000; 31: 1889-1892)、糖尿病(糖尿
病における治療標的としての酸化ストレス、議論の再検討(Oxidative stress as a therapeutic target in diabetes: revisiting the comtroversy)、Wiernsperger NF, Diabetes Metab.; 2003; 29, 579-85)、多発性硬化症(多発性硬化症の発病学における酸化ストレスの役割、効果的な酸化防止剤治療の必要性(The role of oxidative stress in the pathogenesis of multiple sclerosis: the need for effective antioxidant therapy)、Gilgun-Sherki Y.ら、J. Neurol; 2004; 251 (3): 261-8)、てんかん(てんかんにおける酸化損傷、酸化防止剤治療の可能性?(Oxidative injury in epilepsy: potential for antioxidant therapy?)、Costello D.J.およびDelanty N., Expert. Rev. Neurother.2004; 4(3):541-553)、アテローム性動脈硬化症(atherogenesisの酸化ストレス仮定(The oxidative stress hypothesisof atherogenesis)、Iuliano L., Lipids; 2001; 36 suppl: S41-44)、Friedreich運動失調(Friedreich運動失調における酸化ストレスミトコンドリア機能障害および細胞ストレス応答(Oxidative stress mitochondrial dysfunction and cellular stress response in Friedreich's ataxia、Calabreseら、J. Neurol. Sci.; 2005)および心不全(酸素、酸化ストレス、低酸素症および心不全(Oxygen, oxidative stress, hypoxia and heart failure)、Giordano F.J.、Clinic. Invest.; 115(3):500-508)に関連すると思われる。抗酸化機構を強化する処置は、上記病気の進行を遅延させることができる。
【0004】
コリスマイシンは、Streptomyces種から単離された2,2’−ビピリジン分子である。これらの分子の幾つかの種類がGomiらによりStreptomyces sp. SF2738の培養から最初に単離され(Streptomyces sp.から生産される新規な抗生物質SF2738A、BおよびCおよびそれらの類似体(Novel Antibiotics SF2738A、B and C and their analogues produced by Streptomyces sp.)、Gomiら, J. Antibiot. 1994, 47:1385-1394)、それらの構造が分光分析および化学的転化により説明された。コリスマイシンの種々の生物学的活性も研究され、その文献中に、とりわけコリスマイシンAが、ある種の細菌および広範囲な真菌類に対して抗生物質活性を有することが記載されている。幾つかの品種、例えばSaccharomyces cerevisiaeおよびCandida albicans、に対するこの抗真菌活性は、Stadlerらによって立証されている(組換え体TOPO1欠失突然変異体系統を使用する特異的細胞に基づくスクリーニングで発見された抗真菌性放線菌代謝産物(Antifungal Actinomycete Metabolism Discovered in a Differential Cell-Based Screening Using a Recombinant TOPO1 Deletion Mutant Strain)、Stadlerら、Arch. Pharm. Med. Chem., 2001, 334:143-147)。2種類の酵母系統、すなわち野生型(ScAL 141)および組換え体トポイソメラーゼ1(TOPO1)欠失突然変異体(ScAL 143)が、放線菌系統WS1410およびBS1465により生産された化合物のスクリーニングに使用された。これらの系統は、基準として、他の化合物の中で、カンプトテシン(camptothecin)の活性を有するコリスマイシンの生物学的活性の試験にも使用された。その結果、コリスマイシンは野生型と突然変異体酵母系統の両方に対して活性であるので、コリスマイシンの活性機構は、トポイソメラーゼ1の抑制に基づくものではないことが分かる。
【0005】
細胞毒性は、幾つかのコリスマイシンに関して記載されている、もう一つの生物学的活性である。この特性も、Gomiらにより、これらの分子のP388ネズミ白血病細胞に対する細胞毒性能力の研究で立証されている(上記参照)。特開平5−78322号公報には、制癌剤として有用な非経口または経口投与用の抗腫瘍物質としてコリスマイシンAおよびBの使用に関して、コリスマイシンが開示されている。他の多くの特許文献が、他の抗腫瘍剤との組合せで、コリスマイシンAおよびBの使用に言及しており、例えば、国際公開WO02/053138には、新生物、とりわけ耐性新生物および免疫調節不全障害の処置におけるincensoleおよび/またはfuranogermacrens、それらの誘導体、代謝生成物、ならびに前駆物質の使用が開示されている。これらの化合物は、単独で、または従来の化学療法薬、抗ウイルス薬、抗寄生虫薬、放射線および/または外科手術との組合せで、投与することができる。コリスマイシンAおよびBを包含する化学療法薬が挙げられている。
【0006】
コリスマイシンの別の生物学的活性が、1994年にShindoらにより開示されている(コリスマイシンAおよびB、デキサメタゾン−グルココルチコイドレセプタ結合の新規な非ステロイド系抑制剤(Collismycins A and B, novel non-steroidal inhibitors of dexamethasone-glucocorticoid receptoe binding)、Shindoら, J. Antibiot., 1994, 47:1072-1074)。コリスマイシンAおよびその異性体Bが、デキサメタゾン−グルココルチコイドレセプタ結合を抑制する抗炎症活性を有することを示唆しているが、この研究と相補的な結果は公開されていないようである。
【0007】
2,2’−ビピリジンN−オキシドを出発物質とするコリスマイシンAの合成は、1998年にTrecourt らにより開示されている(セルロマイシンEおよびコリスマイシンAおよびCの最初の合成。セルロマイシンAの新規な合成(First Synthesis of Caerulomycin E and Collismycins A and C. A New Synthesis of Caerulomycin A)、Trecourtら, J. Org. Chem., 1998, 63:2892-2897)。様々な経路を通してC−4およびC−6で官能化することにより、6−ブロモ−4−メトキシ−2,2’−ビピリジンを形成し、続くメタル化反応により、C−5でメチルチオ部分を導入する。この合成経路の最終工程で、C−6にあるBrがホルミル基により置換され、この基がヒドロキシルアミンと反応してコリスマイシンAが得られる。上記文献は引用することにより、本明細書の開示の一部とされる。
【0008】
特に、コリスマイシンAは下記の構造を有し、
【化1】

コリスマイシンBは下記の構造を有する。
【化2】

【0009】
コリスマイシンの構造に近い構造を有する他の幾つかの2,2’−ビピリジン化合物が文献中に開示されている。
【0010】
例えば、
ピリスルホキシン−A(N. Tsugeら, J. Antibiot. 52 (1999) 505-7)
【化3】

セルロマイシン−B(Caerulomycin-B、Cerulomycin-B)
【化4】

セルロマイシン−C(Caerulomycin-C、Cerulomycin-C)
【化5】

セルロマイシン(Caerulomycin、Caerulomycin-A、Cerulomycin)
【化6】

【発明の概要】
【0011】
本発明者らは、コリスマイシンAおよびそれに近い合成誘導体が、細胞中で強い酸化ストレス抑制を示すことが分かった。
【0012】
したがって、本発明は、下記式(I):
【化7】

(式中、
は、−C(R)−および−N−から選択されるものであり、
、R、R、R、およびRは、それぞれ独立して、水素、置換または未置換のアルキル、−CN−、−O−R、−NR、−NO、またはハロゲンから選択され、
は、ハロゲン、好ましくはフルオロ、水素、および−S−Rから選択され、
10は、−CN、−CH=N−O−R、および−CH−O−Rから選択され、
は、水素、−O−R11、および−S−Rから選択されるが、
但し、RおよびRの少なくとも一方は水素ではなく、
およびR11は、それぞれ独立して、水素、置換または未置換のアルキル、−NR、−C(=O)Rから選択され、
は、水素、置換または未置換のアルキル、置換または未置換のシクロアルキル、置換または未置換のアルケニル、置換または未置換のアリール、置換または未置換のヘテロシクリル(heterocyclyl)、置換または未置換のアルコキシ、置換または未置換のアラルキル、置換または未置換のアリールオキシ、ハロゲンから選択され、
、R、R、およびRは、それぞれ独立して、水素、置換または未置換のアルキル、置換または未置換のシクロアルキル、置換または未置換のアルケニル、置換または未置換のアリール、置換または未置換のアラルキル、置換または未置換のヘテロシクリル、またはハロゲンから選択される。)
で表される化合物、または、その、薬学的に許容され得る塩、プロドラッグまたは溶媒和化合物の、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、多発性硬化症(ML)、Friedreich運動失調、運動障害、脳損傷、例えば虚血、再還流損傷または発作、心筋梗塞、精神分裂病、アテローム性動脈硬化症、心不全、糖尿病、特にII型糖尿病、てんかん、およびAIDS痴呆により形成される群から選択された、酸化ストレスにより誘発される病気または症状を処置および/または防止する医薬の製造における使用に関する。
【0013】
好ましい実施態様において、R、R、R、R、およびRは、それぞれ独立して、水素、置換または未置換のアルキルまたはハロゲンから選択される。
【0014】
別の実施態様においては、Rは、好ましくは−S−Rである。
【0015】
別の好ましい実施態様においては、Rは−S−R9であり、R10は−CH=N−O−Rであり、Rは−O−R11であり、R、RおよびR11は、それぞれ独立して、水素および置換または未置換のアルキルから選択される。
【0016】
より好ましくは、前記式(I)の化合物において、Rは−S−Rであり、R10は−CH=N−O−Rであり、Rは−O−R11であり、R、R、R、R、R、R、RおよびR11は、それぞれ独立して、水素および置換されていないアルキルから選択される。
【0017】
さらに好ましくは、Rは−S−Rであり、R、R、R、RおよびRは水素であり、Rは−O−R11であり、R10は−CH=N−OHであり、RおよびR11は、それぞれ独立して、置換されていないアルキルから選択される。
【0018】
好ましい実施態様においては、前記式(I)の化合物は、
【化8】

の化合物、または、その、薬学的に許容され得る塩、および溶媒和化合物である。
【0019】
本明細書で用語「酸化ストレスにより誘発される病気または症状」とは、酸化ストレスにより誘発されるかまたは共誘発される、すべての病気または他の有害な症状を意味する。
【0020】
好ましくは、酸化ストレスにより誘発される病気または症状は、神経変性病または症状である。
【0021】
本発明の好ましい実施態様においては、神経変性病はアルツハイマー病である。
【0022】
別の好ましい実施態様においては、神経変性病はパーキンソン病である。
【0023】
別の実施態様においては、酸化ストレスにより誘発される病気または症状は、発作または虚血である。
【0024】
本発明の別の態様においては、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、多発性硬化症(ML)、Friedreich運動失調、運動障害、脳損傷、例えば虚血、再還流損傷または発作、心筋梗塞、精神分裂病、アテローム性動脈硬化症、心不全、糖尿病、特にII型糖尿病、てんかんおよびAIDS痴呆により形成される群から選択された、酸化ストレスにより誘発される病気または症状を、上記の化合物を用いて処置および/または防止する方法に関し、処置を必要とする患者に、治療的に有効な量の前記式(I)の化合物、または、その、薬学的に許容され得る塩、プロドラッグまたは溶媒和化合物、もしくはその薬学的組成物を投与することを含んでなる。
【発明の詳細な説明】
【0025】
本発明の典型的な化合物は、Hにより引き起こされる酸化ストレスの抑制、および毒素6−ヒドロキシドーパミンの有害な効果に対する細胞保護に関して良好な特性を示し、この特性は、広く使用されている比較試料NAC(N−アセチルシステイン)の特性と同等であるか、またはそれより優れており、同時に、これらの化合物は、非常に高いレベルの細胞生存を示す。
【0026】
上記の式(I)の化合物の定義は、下記の用語を意味する。
【0027】
「アルキル」とは、炭素および水素原子からなり、飽和を含まず、1〜8個の炭素原子を有し、分子の残りの部分に単結合により付加している直鎖状または分岐鎖状の炭化水素鎖基、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、t−ブチル、n−ペンチル等を意味する。アルキル基は、所望により一個以上の置換基、例えばハロ、ヒドロキシ、アルコキシ、カルボキシ、シアノ、カルボニル、アシル、アルコキシカルボニル、アミノ、ニトロ、メルカプトおよびアルキルチオ、により置換されていてよい。
【0028】
「アリール」とは、フェニル、ナフチル、インデニル、フェナントリルまたはアントラシル基、好ましくはフェニルまたはナフチルを意味する。アリール基は、所望により一個以上の、本明細書中に定義する置換基、例えばヒドロキシ、メルカプト、ハロ、アルキル、フェニル、アルコキシ、ハロアルキル、ニトロ、シアノ、ジアルキルアミノ、アミノアルキル、アシル、およびアルコキシカルボニルにより置換されていてよい。
【0029】
「アラルキル」とは、アルキル基に結合したアリール基を意味する。好ましい例としては、ベンジルおよびフェネチルがある。
【0030】
「シクロアルキル」は、飽和化された、または部分的に飽和化された、炭素と水素原子のみからなる、安定した3〜10員の単環または二環式基を意味する。明細書中に特にことわりのない限り、用語「シクロアルキル」とは、所望により一個以上の、例えばアルキル、ハロ、ヒドロキシ、アミノ、シアノ、ニトロ、アルコキシ、カルボキシ、およびアルコキシカルボニルにより置換されたシクロアルキル基を包含することを意味する。
【0031】
「ハロ」とは、ブロモ、クロロ、ヨード、またはフルオロを意味する。
【0032】
「複素環」とは、複素環式基を意味する。複素環は、炭素原子、および窒素、酸素、および硫黄からなる群から選択された1〜5個の異原子からなる、安定した3〜15員環、好ましくは一個以上の異原子を含む4〜8員環、より好ましくは一個以上の異原子を含む5または6員環を意味する。本発明の目的には、複素環は単環、二環、または三環系でよく、縮合環系を包含することができ、複素環式基中の窒素、炭素または硫黄原子は、所望により酸化されていてよく、窒素原子は、所望により4級化されていてよく、複素環式基は、部分的または完全に飽和化されているか、または芳香族でよい。そのような複素環の例としては、アゼピン、ベンズイミダゾール、ベンゾチアゾール、フラン、イソチアゾール、イミダゾール、インドール、ピペリジン、ピペラジン、プリン、キノリン、チアジアゾール、テトラヒドロフランがある。
【0033】
本明細書において、本発明の化合物における置換された基は、一つ以上の置換可能な位置で、一個以上の好適な基により置換されていてよい特定の基を意味する。それらの好適な基は、例えばフルオロ、クロロ、ブロモおよびヨードのようなハロゲン、シアノ、ヒドロキシル、ニトロ、アジド、アルカノイル、例えばアシル等のC1〜6アルカノイル基、カルボキサミド、1〜約12個の炭素原子、または1〜約6個の炭素原子、より好ましくは1〜3個の炭素原子を有する基を包含するアルキル基、一個以上の不飽和結合および2〜約12個の炭素原子または2〜約6個の炭素原子を有する基を包含するアルケニルおよびアルキニル基、一個以上の酸素結合および1〜約12個の炭素原子または1〜約6個の炭素原子を有するアルコキシ基、アリールオキシ、例えばフェノキシ、一個以上のチオエーテル結合および1〜約12個の炭素原子または1〜約6個の炭素原子を有する部分を包含するアルキルチオ基、一個以上のスルフィニル結合および1〜約12個の炭素原子または1〜約6個の炭素原子を有する部分を包含するアルキルスルフィニル基、一個以上のスルホニル結合および1〜約12個の炭素原子または1〜約6個の炭素原子を有する部分を包含するアルキルスルホニル基、アミノアルキル基、例えば一個以上のN原子および1〜約12個の炭素原子または1〜約6個の炭素原子を有する基、6個以上の炭素を有する炭素環式アリール、特にフェニルまたはナフチル、およびアラルキル、例えばベンジルである。特にことわりのない限り、所望により置換された基は、その基の置換可能な位置のそれぞれに置換基を有することができ、各置換基は互いに独立している。
【0034】
本発明の化合物は、特にことわりのない限り、一個以上の同位体濃度が高い原子が存在することのみ異なる化合物を包含するものとする。例えば、水素をジュウテリウムまたはトリチウムで置き換えた、または炭素を13Cまたは14C濃度が高い炭素もしくは15N濃度が高い窒素で置き換えた以外は、本構造を有する化合物も、本発明の範囲内に入る。
【0035】
用語「薬学的に許容され得る塩、誘導体、溶媒和化合物、プロドラッグ」とは、患者に投与した時に、(直接または関節的に)本明細書に記載の化合物を付与し得る、全ての薬学的に許容され得る塩、エステル、溶媒和化合物、または他の全ての化合物を意味する。しかしながら、薬学的に許容されない塩も、薬学的に許容され得る塩の調製に有用な場合もあり、これらの塩も本発明の範囲内に包含されることは言うまでもない。塩、プロドラッグおよび誘導体の調製は、当該技術分野において公知の方法により行うことができる。
【0036】
例えば、本明細書で提供する化合物の薬学的に許容され得る塩は、塩基性または酸性部分を含む親化合物から、従来の化学的方法により合成される。一般的に、そのような塩は、例えばこれらの化合物の遊離酸または塩基形態を化学量論的量の適切な塩基または酸と、水中または有機溶剤中もしくは両者の混合物中で反応させることにより、調製する。一般的に、非水性媒体、例えばエーテル、酢酸エチル、エタノール、イソプロパノールまたはアセトニトリル、が好ましい。酸付加塩の例としては、鉱酸付加塩、例えば塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、および有機酸付加塩、例えば酢酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、クエン酸塩、シュウ酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、リンゴ酸塩、マンデル酸塩、メタンスルホン酸塩およびp−トルエンスルホン酸塩がある。アルカリ付加塩の例としては、無機塩、例えばナトリウム、カリウム、カルシウム、アンモニウム、マグネシウム、アルミニウムおよびリチウム塩、および有機アルカリ塩、例えばエチレンジアミン、エタノールアミン、N,N−ジアルキレンエタノールアミン、トリエタノールアミン、グルカミンおよび塩基性アミノ酸塩がある。
【0037】
特に好ましい誘導体またはプロドラッグは、本発明の化合物を患者に投与した時に、(例えば経口投与された化合物を血液中に、より容易に吸収されるようにすることにより)そのような化合物の生物学的利用能を増加するか、または親化合物を、親化学種よりも、より強力に生物学的区画(例えば脳またはリンパ系)に送達する物質である。
【0038】
式(I)の化合物のプロドラッグである全ての化合物が本発明の範囲に包含される。用語「プロドラッグ」とは、その最も広い意味で使用され、生体内で本発明の化合物に転化される誘導体を包含する。そのような誘導体は、当業者には明らかであり、分子中に存在する官能基に応じて、この化合物の以下の誘導体、すなわちエステル、アミノ酸エステル、ホスフェートエステル、金属塩スルホネートエステル、カルバメート、およびアミドがあるが、これらに限定されるものではない。特定の作用化合物のプロドラッグを製造する良く知られている方法の例は、当業者には公知であり、例えばKrogsgaard-Larsen et al.の「Textbook of Drugdesign and Discovery」Taylor & Francis(2002年4月)に記載されている。
【0039】
上記式(I)の化合物は、天然供給源から、その天然化合物の合成変性により、または使用可能な合成手順を用いて完全合成により得ることができる。上記のように、Trecourtらにより、2,2’−ビピリジンN−オキシドを出発物質とするコリスマイシンAの合成を行うことができる(セルロマイシンEおよびコリスマイシンAおよびCの最初の合成。セルモマイシンAの新規な合成、Trecourt et al., J. Org. Chem., 1998, 63:2892-2897)。上記文献は引用することにより、本明細書の開示の一部とされる。
【0040】
この経路には、主として効率的に制御された反応、例えばメタル化およびクロス−カップリングが関係している。
【化9】

【0041】
合成経路は、公知の三の工程手順(Wenkert, D., Woodward, R.B., J. Org. Chem. 1983, 48, 283)により、2,2’−ビピリジンから容易に製造できる4−メトキシ−2,2’−ビピリジンN−オキシド(1)を出発物質とする。この合成経路の第一部は、化合物(1)の6位置にある炭素(C−6)における官能化が関与する。4−メトキシ−2,2’−ビピリジンN−オキシドのメタル化を、−70℃でLDAおよび求電子試薬としてBrCNを使用して行い、臭素N−オキシド(2)を得る。続いて、この分子をPBrで還元し、6−ブロモ−4−メトキシ−2,2’−ビピリジン(3)を良好な収率で形成する。
【0042】
第二系列の反応においては、得られた臭素−ビピリジンを、LDAの−70℃と同じ条件ではあるが、但し求電子試薬としてメチルジスルフィドを使用して(Turner J.A., J. Org. Chem. 1983, 48, 3401)、別のメタル化を実施し、C−5にメチルチオ部分を導入し、化合物(4)を得る。慎重に条件が最適化され、加水分解前に、メチルチオ部分によりC−6が臭素に副置換されるのを回避する必要がある(セルロマイシンEおよびコリスマイシンAおよびCの最初の合成。セルモマイシンAの新規な合成、Trecourtら、J. Org. Chem., 1998, 63:2892-2897)。目的とする分子コリスマイシンAに到達するために、C−6における官能化を臭素−リチウム交換により行う。キレートBuLiTMEDAがこの交換を行い、次いで得られたリチウム誘導体をDMFの存在下で処理(quench)し、アルデヒド(5)を得る。このアルデヒドをヒドロキシルアミンと反応させ、コリスマイシンA(6)を形成する。
【0043】
別の代替手順は、Org Lett. 2002, 4(14) 2385-2388、J. Org. Chem., 2002, 67(10), 3272-3276、J. Org. Chem., 1996, 61(5), 1673-1676に記載されている。
【0044】
他の代替手順は、当業者には明らかなように、有機化学における標準的な反応、例えば「March's Advanced Organic Chemistry」第5版、2001 Wiley-Interscienceに記載されている反応を使用する。
【0045】
本発明の化合物は、遊離化合物として、または溶媒和化合物(例えば水和物)として結晶形態でよく、いずれの形態も本発明の範囲内に入る。溶媒和の方法は、当該技術分野で一般的に公知である。好適な溶媒和化合物は、薬学的に許容され得る溶媒和化合物である。特別な実施態様においては、溶媒和化合物は水和物である。
【0046】
式(I)の化合物またはそれらの塩もしくは溶媒和化合物は、好ましくは薬学的に許容され得るか、または実質的に純粋な形態である。薬学的に許容され得る形態とは、とりわけ、薬学的に許容され得るレベルの純度を有し、通常の薬学的添加剤、例えば希釈剤およびキャリヤー、を排除し、通常の投与量レベルで毒性と考えられる材料を含まない。薬物物質に対する純度レベルは、好ましくは50%を超え、より好ましくは70%を超え、最も好ましくは90%を超える。好ましい実施態様では、このレベルは、式(I)の化合物、またはその塩、溶媒和化合物もしくはプロドラッグが95%を超える。
【0047】
上記の式(I)で表される本発明の化合物は、キラル中心の存在に応じた鏡像異性体または多重結合の存在に応じた異性体(例えばZ、E)を包含することができる。単一異性体、鏡像異性体またはジアステレオ異性体およびそれらの混合物が本発明の範囲内に入る。
【0048】
本発明の化合物および組成物は、他の薬物と併用し、組合せ治療を行うことができる。他の薬物は、同じ組成物の一部を構成するか、または別の組成物として、同時に、または異なった時点で投与することができる。
【0049】
以下に、本発明を例によりさらに説明する。これらの例は、請求項に規定する本発明の範囲を制限するものではない。
【実施例】
【0050】
合成
前記式(I)の化合物を、上記の合成経路により調製した。以下に、幾つかの化合物の合成を詳細に説明する。
【0051】
例1 化合物1 4−メチルスルファニル−[2,2’]−ビピリジニル−6−カルボニトリルの調製
【化10】

【0052】
第一工程 中間体4−メチルスルファニル−[2,2’]ビピリジニル 1−オキシドの調製
4−ニトロ−[2,2’]−ビピリジニル 1−オキシド(1.00g、4.6mmol)(D. Wenkert, R.B. Woodward, J. Org. Chem. 1983, 48, 283-289)およびナトリウムメチルチオレート(0.73g、10.3mmol)をテトラヒドロフラン(30mL)中で6時間還流させた。この混合物を室温に戻し、溶剤を真空蒸発させた。得られた油状の残留物を塩化メチレン中に再溶解させ、水および塩化ナトリウムの飽和溶液で順次洗浄し、無水硫酸ナトリウムで除湿し、蒸発させた。フラッシュクロマトグラフィー(SiO2、MeOH/CH2Cl21:25)の後、純粋な4−メチルスルファニル−[2,2’]ビピリジニル 1−オキシドが黄色がかったオイルとして得られ、このオイルは徐々に固化した(0.59g、収率59%)。
1HNMR(400MHz、CDCl3):
8.91、8.68、8.14、7.95、7.80、7.32、7.05、2.53
13CNMR(100MHz、CDCl3):
149.27、149.23、146.41、139.92、139.15、136.21、125.65、124.34、123.30、121.80、14.82
【0053】
第二工程 4−メチルスルファニル−[2,2’]ビピリジニル−6−カルボニトリルの調製
4−メチルスルファニル−[2,2’]ビピリジニル 1−オキシド(480mg、2.20mmol)を、開示されている手順(I. Antonioni、G. Cristalli、P. Franchetti、M. Grifantini、S. Martelli、Il Farmaco, 1986, 41, 346-354)に従って、窒素下で、無水アセトニトリル中のジエチルホスホロシアニデートおよびトリエチルアミンで処理した。酢酸エチル中で結晶化させることにより、4−メチルスルファニル−[2,2’]ビピリジニル−6−カルボニトリルが白色固体として得られた(360mg、収率72%)。
1HNMR(400MHz、CDCl3):
8.67、8.47、8.00、7.85、7.46、7.37、2.61
13CNMR(100MHz、CDCl3):
156.72、153.83、153.59、149.17、137.20、132.88、124.79、124.08、121.82、119.38、117.30、13.96
【0054】
例2 化合物2 5−フルオロ−[2,2’]−ビピリジニル−6−カルボアルデヒドオキシムの調製
【化11】

【0055】
第一工程 5−フルオロ−[2,2’]−ビピリジニル−6−カルボアルデヒドの調製
5−フルオロ−[2,2’]−ビピリジニル−6−カルボアルデヒドを得るために、2−ブロモ−6フルオロ−6−ホルミルピリジン(2.45mmol、0.5g)および2−トリブチルスタニル−ピリジン(2.94mmol、1.08g)およびテトラキス(トリフェニルホスフィン)−パラジウム(0)(0.09mmol、0.103g)の混合物を無水トルエン中、窒素下で54時間還流させた。得られた褐色混合物を真空中、暗色で蒸発させ、泥状の液体をジクロロメタンに溶解させた。有機相を水性HCl(3倍)で洗浄した。生成物を溶液から除去するために、組み合わせた水相を水性アンモニア(10%)中に冷却しながら滴下して移した。得られたオイルをジクロロメタン(3倍)で抽出した。有機相をアンモニアおよび水で洗浄し、溶剤を除去した。得られた粗製物を、カラムクロマトグラフィーにより、溶離剤としてアセテート/ヘキサン、1/2を使用して精製し、5−フルオロ−[2,2’]−ビピリジニル−6−カルボアルデヒドを得た(Ulrich, S. Schubert、Christian Eschbaumer、Marcel Heller. Org Lett., 2000, 2(21), 3373-3376)。
収量200mg(43%)、黄色固体
1H−NMR(CDCl3):10.2(s,1H)、8.64(m,2H)、8.45(d,1H,J=7.9Hz)、7.81(t,1H,J=7.6Hz)、7.63(t,1H,J=9.2Hz)、7.33(m,1H)
13C−NMR(CDCl3):189.8(CHO,J=3.3Hz)、159.0(C−F,J=275.5Hz)、153.8(py)、152.7(J=4.5Hz)、149.1(py)、139.2(J=7.5Hz)、137.0(py)、127.0(J=4.5Hz)、126.2(J=18.8Hz)、124.2(py)、121.0(py)。
【0056】
第二工程 5−フルオロ−[2,2’]−ビピリジニル−6−カルボアルデヒドオキシムの調製
5−フルオロ−[2,2’]−ビピリジニル−6−カルボアルデヒド(0.36mmol、73mg)、塩酸ヒドロキシルアミン(1.8mmol、125mg)、ピリジン(1.6mmol、0.12mL)およびEtOHを2時間還流加熱した。溶剤を真空下で蒸発させ、HOを加えた。得られた白色沈殿物を濾過することにより、精製を全く必要としない最終生成物が得られた(Florence Mongin、Francois Trecourt、Bruno Gervais、Oliver Mongin、Guy Quequiner、J. Org. Chem., 2002, 67. 3272-3276)。
収量47mg(60%)、白色固体
1H−NMR(DMSO):12.0(N−OH)、8.76(d,1H,J=4.4Hz)、8.46(dd,1H,J1=8.5Hz,J2=3.4Hz)、8.40(d,1H,J=7.9Hz)、8.34(s,1H)、8.01(m,2H)、7.54(m,1H)
13C−NMR(DMSO):157.5(C−F,J=270.5Hz)、153.8(py)、151.3(J=4.5Hz)、149.2(py)、145.2(C=N,J=6.2Hz)、138.9(J=7.5Hz)、137.4(py)、125.5(J=18.5Hz)、124.2(py)、122.1(J=5.2Hz)、120.4(py)。
【0057】
例3 3−フルオロ−6−ピラジン−2−イル−ピリジン−2−カルボアルデヒドオキシムの調製
【化12】

【0058】
第一工程 3−フルオロ−6−ピラジン−2−イル−ピリジン−2−カルボアルデヒドの調製
3−フルオロ−6−ピラジン−2−イル−ピリジン−2−カルボアルデヒドを得るために、2−ブロモ−6フルオロ−6−ホルミルピリジン(2.45mmol、0.5g)および2−トリブチルスタニル−ピリジンまたは2−トリブチルスタニル−ピラジン(2.94mmol、1.00g)およびテトラキス(トリフェニルホスフィン)−パラジウム(0)(0.09mmol、0.103g)の混合物を無水トルエン中、窒素下で54時間還流させた。得られた褐色混合物を真空中、暗色で蒸発させ、泥状の液体をジクロロメタンに溶解させた。有機相を水性HCl(3倍)で洗浄した。生成物を溶液から除去するために、組み合わせた水相を水性アンモニア(10%)中に冷却しながら滴下して移した。得られたオイルをジクロロメタン(3倍)で抽出した。有機相をアンモニアおよび水で洗浄し、溶剤を除去した。得られた粗製物を、カラムクロマトグラフィーにより、溶離剤としてアセテート/ヘキサン1/1を使用して精製し、3−フルオロ−6−ピラジン−2−イル−ピリジン−2−カルボアルデヒドを得た(Ulrich, S. Schubert、Christian Eschbaumer、Marcel Heller. Org Lett., 2000, 2(21), 3373-3376)。
収量68mg(10%)、白色固体
1H−NMR(CDCl3):10.25(s,1H)、9.69(d,1H,J=1.5Hz)、8.64(m,3H)、7.7(t,1H,J=8.95Hz)
13C−NMR(CDCl3):189.5(CHO,J=3.3Hz)、159.0(C−F,J=275.5Hz)、150.8(J=4.6Hz)、148.9、145.0、143.5、143.2、139.7(J=7.6Hz)、127.4(J=6.4Hz)、126.6(J=18.8Hz)
【0059】
第二工程 3−フルオロ−6−ピラジン−2−イル−ピリジン−2−カルボアルデヒドオキシムの調製
3−フルオロ−6−ピラジン−2−イル−ピリジン−2−カルボアルデヒドオキシムを得るために、3−フルオロ−6−ピラジン−2−イル−ピリジン−2−カルボアルデヒド(0.24mmol、48mg)、塩酸ヒドロキシルアミン(1.18mmol、82.2mg)、ピリジン(1.01mmol、0.082mL)およびEtOHを2時間還流加熱した。溶剤を真空下で蒸発させ、HOを加えた。得られた白色沈殿物を濾過することにより、精製を全く必要としない最終生成物が得られた(Florence Mongin、Francois Trecourt、Bruno Gervais、Oliver Mongin、Guy Quequiner、J. Org. Chem., 2002, 67. 3272-3276)。
収量30mg(58%)、白色固体
1H−NMR(DMSO):12.0(N−OH)、9.49(d,1H,J=1.4Hz)、8.75(m,2H)、8.35(dd,1H,J1=8.8Hz,J2=3.8Hz)、8.31(s,1H)、7.99(m,1H)
13C−NMR(DMSO):157.5(C−F,J=270.5Hz)、149.5(J=4.5Hz)、148.9、145.2(C=N,J=6.2Hz)、144.9、143.9、142.2、139.4(J=7.5Hz)、125.9(J=18.5Hz)、122.7(J=5.2Hz)
【0060】
生物学
下記の化合物を検定し、それらの毒性、過酸化水素により誘発される細胞死に対する保護能力、および、6−OHDAにより誘発される細胞死に対する保護能力を確認した。
【0061】
【表1】

【0062】
毒性
検定した化合物の細胞生存率に対する潜在的効果を、SH-SY5Yヒト神経芽細胞腫細胞で、ラクテートデヒドロゲナーゼ(LDH)活性放出の定量により、検定した。SH-SY5Yヒト神経芽細胞腫細胞を96ウェル培養プレートに104細胞/ウェルで散布した。次いで、媒体を除去し、細胞を様々な濃度の化合物で24時間培養した。これらの化合物は、新しい培養媒体中、最終濃度1、10、100および1000μMで試験した。24時間後、媒体を除去し、ウェルの底に付着した細胞を、Krebs-Hepes、Triton X-1001%50μlを室温で5分間加えることにより溶解させた。LDH放出定量には、Roche細胞毒性検出キット(Cat. No. 11644793001)を使用する。LDH活性は、基準波長620nmで492nmにおける吸収により測定する。
【0063】
コリスマイシンAに対する結果を図1に示す。細胞生存率に対する影響は、試験した最高濃度1000μMでのみ観察された。
【0064】
セルロマイシンA、コリスマイシンCおよび化合物2は、最高濃度1000μMで検定し、無毒性であることが分かった。化合物1および化合物3は、それぞれ最高濃度5および10μMで検定し、やはり無毒性であることが分かった。
【0065】
過酸化水素により誘発される細胞死に対する保護
この検定の目的は、ヒト神経芽細胞腫細胞を、過酸化水素により誘発される酸化ストレスにさらした時の、式(I)の化合物の神経保護効果を確認することであり、過酸化水素は、細胞に非常に有害であり、その蓄積により、細胞の標的、例えばDNA、タンパク質、およびリピド、の酸化が引き起こされ、突然変異誘発および細胞死につながる。
【0066】
SH-SY5Yヒト神経芽細胞腫細胞を96ウェル培養プレートに104細胞/ウェルで散布した。細胞を様々な濃度の化合物に1時間さらしてから、H100μMで24時間処理した。5mMのNAC、公知の酸化防止剤を正の比較試料として使用し、1時間予備培養してから、Hで処理した。24時間後、媒体を除去し、ウェルの底に付着した細胞を、Krebs-Hepes中Triton X-1001%50μlを室温で5分間加えることにより溶解させた。LDH放出定量には、Roche細胞毒性検出キット(Cat. No. 11644793001)を使用する。
【0067】
コリスマイシンAの、種々の濃度における神経保護に関する結果を、NAC5mMの神経保護と比較したものを、図2に示す。
【0068】
細胞生存率を、同じ検定で平行して測定した。図3は、様々な濃度のコリスマイシンAで得た結果を、比較用NAC5mMおよびH単独に対する比較結果と共に示す。これらの結果から観察できるように、コリスマイシンAは、0.05μMで重大な神経保護活性を示す。
【0069】
セルロマイシンAに関しては、神経保護効果が検出された最低濃度は0.05μMであった。
【0070】
コリスマイシンCおよび化合物3に関しては、神経保護効果が検出された最低濃度は10μMであった。
【0071】
化合物1および化合物2に関しては、神経保護効果が検出された最低濃度は、それぞれ5μMおよび0.5μMであった。
【0072】
6−OHDAにより誘発される細胞死に対する保護
この検定の目的は、6−ヒドロキシドーパミン(6−OHDA)により引き起こされる毒性に対する式(I)の化合物の保護効果を確認することである。この毒素は、パーキンソン病で起こるものと類似の細胞死を誘発し、dopaminergic神経を破壊する(「パーキンソン病に関するモデルとしてのMPTPおよび6−ヒドロキシドーパミンにより誘発される神経変性、神経保護戦略(MPTP and 6-hydroxydopamine-induced neurodegeneration as models for Parkinson's disease: neuroprotective strategies)」、Grunblatt Eら; J. Neurol. 2000 Apr; 247 Suppl 2:1195-102)。
【0073】
実験の2、3日前に、SH-SY5Yヒト神経芽細胞腫細胞を96ウェル培養プレートに密度104細胞/ウェルで散布した。細胞を6−OHDAで処理し、最後に、細胞死をLDH定量により測定した。正の比較試料としてNACを使用した。
【0074】
検定は、2種類の異なった実験条件で行った。
A)NACおよび式(I)の化合物を2時間予備培養してから、6−OHDA75μMで16時間処理した。検定は、10%ウシ胎児血清を含む媒体中で行う。
【0075】
6−OHDAにより誘発される細胞死に対する神経保護結果を図4に示す。
【0076】
種々のコリスマイシンA濃度における、この検定における細胞生存率に関する結果を、比較試料NAC5mMおよび6−OHDA単独に対する比較結果と共に、図5に示す。
【0077】
セルロマイシンAは、神経保護を最低濃度1μMで示した。
【0078】
コリスマイシンA、化合物2および化合物3は、神経保護活性を最低濃度μMで示した。
【0079】
B)NACおよび式(I)の化合物を1時間予備培養してから、6−OHDA50μMで24時間処理した。検定は、ウシ胎児血清を含まない媒体中で行う。
【0080】
6−OHDAにより誘発される細胞死に対する、コリスマイシンAに関する神経保護結果を図6に示す。
【0081】
種々のコリスマイシンA濃度における、この検定における細胞生存率に関連するこれらの結果を、比較試料NAC5mMおよび6−OHDA単独に対する比較結果と共に、図7に示す。
【0082】
セルロマイシンAは、神経保護を最低濃度1μMで、コリスマイシンCは10μMで、化合物2は0.5μMで示した。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】SHSY5Yヒト神経芽細胞腫細胞における毒性検定の結果であり、種々のコリスマイシンA濃度で培養した後のラクテートデヒドロゲナーゼ活性を測定する。
【図2】Hにより誘発させた酸化ストレスにさらしたヒト神経芽細胞腫細胞に対する神経保護検定の結果、コリスマイシンAにより予備培養。
【図3】Hにより誘発させた酸化ストレスにさらしたヒト神経芽細胞腫細胞に対する生存検定の結果、コリスマイシンAにより予備培養。
【図4】6−ヒドロキシドーパミンにより引き起こされた毒性に対する、コリスマイシンAによる2時間予備培養の保護効果。
【図5】上記の、種々のコリスマイシンA濃度による2時間予備培養の細胞生存を示すグラフ、6OHDAおよびNACと比較。
【図6】6OHDAにより誘発される細胞死に対する神経保護、上記の、コリスマイシンAによる1時間予備培養。
【図7】上記の、種々のコリスマイシンA濃度による1時間予備培養の細胞生存を示すグラフ、6OHDAおよびNACと比較。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I):
【化1】

(式中、
は、−C(R)−および−N−から選択されるものであり、
、R、R、R、およびRは、それぞれ独立して、水素、置換または未置換のアルキル、−CN−、−O−R、−NR、−NO、またはハロゲンから選択され、
は、ハロゲン、好ましくはフルオロ、水素、および−S−Rから選択され、
10は、−CN、−CH=N−O−R、および−CH−O−Rから選択され、
は、水素、−O−R11、および−S−Rから選択されるが、
但し、RおよびRの少なくとも一方は水素ではなく、
およびR11は、それぞれ独立して、水素、置換または未置換のアルキル、−NR、−C(=O)Rから選択され、
は、水素、置換または未置換のアルキル、置換または未置換のシクロアルキル、置換または未置換のアルケニル、置換または未置換のアリール、置換または未置換のヘテロシクリル、置換または未置換のアルコキシ、置換または未置換のアラルキル、置換または未置換のアリールオキシ、ハロゲンから選択され、
、R、R、およびRは、それぞれ独立して、水素、置換または未置換のアルキル、置換または未置換のシクロアルキル、置換または未置換のアルケニル、置換または未置換のアリール、置換または未置換のアラルキル、置換または未置換のヘテロシクリル、またはハロゲンから選択される。)
で表される化合物、または、その、薬学的に許容され得る塩、プロドラッグまたは溶媒和化合物の、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、多発性硬化症(ML)、Friedreich運動失調、運動障害、脳損傷、例えば虚血、再還流損傷または発作、心筋梗塞、精神分裂病、アテローム性動脈硬化症、心不全、糖尿病、特にII型糖尿病、てんかん、およびAIDS痴呆により形成される群から選択された、酸化ストレスにより誘発される病気または症状を処置および/または防止する医薬の製造における使用。
【請求項2】
、R、R、RおよびRが、それぞれ独立して、水素、置換または未置換のアルキルおよびハロゲンから選択され、
が−S−Rであり、
10が−CH=N−O−Rであり、
が−O−R11であり、
、RおよびR11が、それぞれ独立して、水素および置換または未置換のアルキルから選択される、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
が−S−Rであり、
10が−CH=N−O−Rであり、
が−O−R11であり、
、R、R、R、R、R、RおよびR11が、それぞれ独立して、水素および置換されていないアルキルから選択される、請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
、R、R、RおよびRが水素であり、
が−S−Rであり、
10が−CH=N−OHであり、
が−O−R11であり、
およびR11が、それぞれ独立して、置換されていないアルキルから選択される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
前記式(I)の化合物が、下記式:
【化2】

で表される化合物、または、その、薬学的に許容され得る塩、もしくは溶媒和化合物である、請求項1に記載の使用。
【請求項6】
前記病気または症状がアルツハイマー病である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
前記病気または症状がパーキンソン病である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
細胞中の酸化ストレスの生物学的検定を行うための反応性物質の製造における、請求項1〜5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項9】
アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、多発性硬化症(ML)、Friedreich運動失調、多発性硬化症、運動障害、虚血、再還流損傷または発作等の脳損傷、心筋梗塞、精神分裂病、アテローム性動脈硬化症、心不全、糖尿病、特にII型糖尿病、てんかん、およびAIDS痴呆により形成される群から選択される、酸化ストレスにより誘発される病気または症状を、請求項1〜5のいずれか一項に記載の式(I)で表される化合物を用いて処置および/または防止する方法であって、処置を必要とする患者に、治療的に有効な量の前記式(I)の化合物、またはその、薬学的に許容され得る塩、プロドラッグまたは溶媒和化合物、もしくはその薬学的組成物、を投与することを含んでなる、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2009−502847(P2009−502847A)
【公表日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−523262(P2008−523262)
【出願日】平成18年7月28日(2006.7.28)
【国際出願番号】PCT/EP2006/007521
【国際公開番号】WO2007/017146
【国際公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【出願人】(505132389)ノスシラ、ソシエダッド、アノニマ (12)
【氏名又は名称原語表記】NOSCIRA S.A.
【出願人】(502001961)
【Fターム(参考)】