説明

コンクリート打設用枠構造体

【課題】耐震用スリット材のずれを強固に抑制できる固定部材を利用したコンクリート打設用枠構造体を提供する。
【解決手段】コンクリート打設用枠構造体120が、溝状凹部21を有する異形棒鋼からなる振れ止め鉄筋12と、耐震用スリット材10と振れ止め鉄筋12とを固定する固定部材1を備え、該固定部材1は、板状基台の任意の位置から放射線状に配置され相互に連通する複数の溝状空間部を有し、複数の舌片状の位置固定部を形成し、挿通部が形成されてなる構造を有し、該挿通部には該振れ止め鉄筋12が挿通されており、該位置固定部が該振れ止め鉄筋12に沿って振れ止め鉄筋12に固定部材1が差し込まれる方向に突出して、該固定部材1は、該耐震用スリット材10のスリット面に接するように又はスリット面に近接するように差し込まれ、該振れ止め鉄筋12は、固定具によってセパレート材13に固定された構造を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート建造物壁構造に使用される耐震用スリット材における固定部材を利用したコンクリート打設用枠構造体に関し、特にコンクリート打設時の耐震用スリット材にかかる側圧により耐震用スリット材の埋設予定位置からのずれの発生を防止する固定部材を利用したコンクリート打設用枠構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄筋コンクリート構造物の腰壁または垂れ壁等と、これらの壁に連接する柱との連結近傍に、壁を貫通するように耐震用スリット材を埋設し、地震発生時において、上記耐震用スリット材のスリット芯材を緩衝材として作用させ、壁と柱を分断することで、柱のせん断破壊を回避する方法が知られている。この耐震用スリット材の鉄筋コンクリート構造物への埋没は、上記壁と柱との連結近傍を構築するために対向して立設された型枠の間に配置すると共に、これを型枠に固定し次いで型枠間にコンクリートを打設し、コンクリートが所定時間養生された後、型枠を取り外すという順序で行われる。
【0003】
このように、耐震用スリット材は、型枠間に設置されるため、設置作業が容易であることが求められ、更に、型枠間に設置された後において、打設コンクリートの圧力により埋没予定位置から容易にずれを生じたり、押し流されたりしないように、耐震用スリット材は型枠にしっかりと固定されることが求められる。
【0004】
これに対し、以下のような技術が提案されている。
耐震用スリット材の耐震用スリットを装着する耐震用スリット支持体の片面に対して、壁の軸線方向に沿って突出部を設けた支持板と、その支持板の片面に壁の軸線方向に沿って突出する支持腕と、挿通用筒体と、その挿通用筒体を着脱可能な大きさに開けられた孔部からなる耐震用スリットの支持装置であって、孔部は、その支持腕の先端部付近に設けられ、挿通用筒体は、通常壁面に設けられる挿通孔に対して着脱可能に装着すべく構成されている耐震用スリットの支持装置が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
また、耐震用スリットの板状の芯材と、その芯材の各側端に嵌合し、外端が上記型枠に固定される一対の支持材とを備え、この一対の支持材の外端部に凹部が形成され、この凹部が、型枠に固定された固定部材に嵌合するように構成した耐震用スリット材も開示されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0006】
また、通常のコンクリート建造物は、耐震性保持のために振れ止め鉄筋を、壁内を水平方向に向かって渡された構造を有する。振れ止め鉄筋に対して、この従来機能と耐震用スリット材の固定補強機能の両方を担わせるようにする技術が開示されている。
これは、耐震用スリット材のスリット芯材によって完全に切り離された柱と壁が、地震等によって面外方向に動かないように、振れ止め鉄筋が耐震用スリット材に取り付けられるというものである(例えば、非特許文献1参照。)。
【0007】
【特許文献1】実開昭60−61331号公報
【特許文献2】特開平10−18640号公報
【非特許文献1】「J−スリット」カタログ(株式会社JSP、2002年7月)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1に記載された技術は、以下のような問題点を有する。
すなわち、耐震用スリット材の支持装置は、耐震用スリット材に対して、更に耐震用スリット支持板及び支持腕などの複数種の新たな部材を製作した上で、これらを組み立て、その設置をすることが必要となる。従って、製造コストが上昇する。さらに、型枠間にスリット構造を構築する際、挿通用筒体にセパレータの棒部材を挿通させる必要がある。セパレータを渡す方向に水平なスリット芯材の面における所定の面積あたり1台の割合で上述の支持装置が設置されることに鑑み、大きな壁に対してかかる支持装置を適応する場合に、この挿通作業は、莫大な作業回数を要することになり、従って極めて面倒な作業となる。
【0009】
また、特許文献2に記載された技術は、以下のような問題点を有する。すなわち、外端が型枠に固定される一対の支持材を備える耐震用スリット材は、その固定が耐震用スリット材の両端に位置する支持材を両型枠に取り付けられた固定部材へ嵌合しただけの構造であるため、コンクリート打設時に、耐震用スリット材が固定部材から外れたり、或いは耐震用スリット材を構成する板状芯材が支持材から外れてしまう虞があった。特に、コンクリート壁の厚みが厚くなるほどその問題が顕著となった。
【0010】
非特許文献1に記載された技術は、以下のような問題点を有する。この技術によれば、型枠間の中心付近において、形成されるコンクリート壁と平行且つ水平方向に耐震用スリット材を貫通させて振れ止め鉄筋を配置し、その振れ止め鉄筋を型枠間に配置したセパレート材(セパレータ)に固定すると共に、その振れ止め鉄筋としては、通常の異形棒鋼(JIS G 3112)に、後述する2つのコブの内側間の間隔が耐震用スリット材の厚みよりもやや大きい間隔となるように2箇所にコブを付けたもの(以下、「コブ付き振れ止め鉄筋」という。)を使用し、各コブと耐震用スリット材の間に図7に示す固定部材を取り付けることにより耐震用スリット材の固定力を高め、それによってコンクリート打設時に、耐震用スリット材が固定部材から外れたり、或いは耐震用スリット材を構成する板状芯材が支持材から外れてしまう欠点が改善されてはいるものの固定強度が未だ十分でないという問題がある。更に固定強度を大きくしようと挿通孔50を小さめにすると、固定部材の鉄筋への固定時にねじれ現象が生じてしまい、結果として固定強度を高めることが困難であった。尚、以下、コブ付き振れ止め鉄筋と明示しない場合には、振れ止め鉄筋とは、コブのない通常の異形棒鋼からなる振れ止め鉄筋を意味し、そしてそのコブのない通常の振れ止め鉄筋はコブ無し振れ止め鉄筋ということもある。また、非特許文献1に記載された技術は、耐震用スリット材を固定する場合において、特殊形状を有するコブ付き振れ止め鉄筋の調達が別途要請される。
それゆえ、コンクリート建造物の建築に要する工程数が上昇し、また、その建築コストが上昇する。
【0011】
また、耐震用スリット材のスリット芯材の厚さが変動すれば、その変動値に応じて、コブ付き振れ止め鉄筋に付されたコブの間隔が変化されねばならない。通常、耐震用スリットのスリット芯材の厚さは、25mm、30mmの厚さのものが殆どであるが、建造物の階高によっては、35mm、40mm、45mm、50mmの厚さのものまで用意しなければならない場合がある。また、通常の振れ止め筋は、耐震用スリット材のスリット芯材本体から、壁柱両側ともに250mm飛び出された長さを有する。しかし、設計者によっては、その飛び出した長さを400mm、500mmにする場合がある。かかる各場合における仕様の全てに対応しうるコブ付の振れ止め鉄筋を製造するとなれば、現実の産業界における企業間取引で、企業が在庫として保存すべきとする通常仕様以外の品種が膨大となり、コスト上好ましくない。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記の点に鑑み、コンクリート建造物壁構造において埋没される耐震用スリット材に対してコンクリートを打設する時にかかる側圧により、埋設予定位置からの耐震用スリット材のずれを、容易かつ低コストで強固に抑制できる固定部材を利用したコンクリート打設用枠構造体を提供することを目的とするものである。
【0013】
すなわち、本発明は、
(1) 対向する型枠と、対向する型枠の間隔を保持すべく差し渡されたセパレート材と、耐震用スリット材と、耐震用スリット材のスリット面を貫通して配設される振れ止め鉄筋と、耐震用スリット材と振れ止め鉄筋とを固定する固定部材と、を備えるコンクリート打設用枠構造体において、該振れ止め鉄筋は溝状凹部を有する異形棒鋼からなり、該固定部材は、板状基台の任意の位置から放射線状に配置され相互に連通する複数の溝状空間部を有し、隣合う該溝状空間部間に相互に連通する部位に向かって突出する複数の舌片状の位置固定部を形成し、前記各溝状空間部と各舌片状の位置固定部とによって前記相互に連通する部位に挿通部が形成されてなる構造を有し、該挿通部には該振れ止め鉄筋が挿通されており、該位置固定部が該振れ止め鉄筋に沿って耐震用スリット材と反対側に突出して、該位置固定部の突出部分が該溝状凹部に係止しており、該固定部材は、該耐震用スリット材のスリット面に接するように又はスリット面に近接するように差し込まれ、該振れ止め鉄筋は、固定具によって該セパレート材に固定された構造を備えている、ことを特徴とするコンクリート打設用枠構造体。
【0014】
(2) 該振れ止め鉄筋と該固定部材における位置固定部の突出部分との接触部において、接触角度αが80〜10度であることを特徴とする上記(1)に記載のコンクリート打設用枠構造体。
を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、コンクリート建造物の壁構造を形成するために使用される耐震用スリット材と振れ止め鉄筋とを固定する固定部材として、板状基台の任意の位置から放射線状に配置され相互に連通する複数の溝状空間部を有し、隣合う該溝状空間部間に相互に連通する部位に向かって突出する複数の舌片状の位置固定部を形成し、前記各溝状空間部と各舌片状の位置固定部とによって前記相互に連通する部位に鉄筋の挿通部が形成されてなる形状からなる固定部材を用いたことにより、耐震用スリット材のスリット面を貫通する触れ止め鉄筋として入手容易なコブの無い通常の振れ止め鉄筋を使用しても、耐震用スリット材と振れ止め鉄筋とを強固に固定することができる。
【0016】
本発明に利用される固定部材は、振れ止め鉄筋を挿通部に挿通させるという簡単な操作の際に、板状基台の一方の面(両面や表面にあってもよいが、通常は裏面)において隣合う溝状空間部における相互に連通する部位に対向する外縁側端部近傍の前記溝状空間部を結ぶ位置に形成された凹部がバネ的なヒンジ作用によって広がり、位置固定部の舌片が突出して振れ止め鉄筋に当接し、位置固定部の突出部分が振れ止め鉄筋の溝状凹部にフィットして十分な押圧力を有するようにすることができ、耐震用スリット材への側圧に抗して耐震用スリット材の移動を抑制する効果を奏するのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明を図面によりその実施態様を説明する。
図1は、本発明に利用される固定部材を用いて構成した耐震用スリット材を備えた構造体の一実施例を説明するための断面図を示す。
図2は、本発明に利用される振れ止め鉄筋と耐震用スリット材とを固定する固定部材の一例を示す。図2(1)は上面図、図2(2)は下面図をそれぞれ示す。
図3は、前記固定部材の別の実施例の一例を示し、図3(1)は上面図、図3(2)は下面図をそれぞれ示す。
図4は、本発明に利用される固定部材により振れ止め鉄筋と耐震用スリット材とを固定した状態を説明する部分断面図である。
【0018】
まず、本発明に利用される振れ止め鉄筋とスリット材とを固定する固定部材について、図2を例に説明する。
固定部材1は、板状基台6の中央部から放射線状に配置され相互に連通する複数の溝状空間部4を有し、隣合う該溝状空間部4間に中心部に向かって突出する複数の舌片状の位置固定部3を形成し、前記各溝状空間部4と各舌片状の位置固定部3とによって中心部に振れ止め鉄筋12の挿通部2が形成されている。
また、板状基台6の一方の面(両面や表面にあってもよいが、通常は裏面)には、図2(2)に示すように、前記溝状空間部4の中心部に対向する外縁側端部近傍の前記溝状空間部4を結ぶ位置に凹部26が形成されている。該凹部26は、振れ止め鉄筋12を挿通部2に挿通した際に、図4に示すように位置固定部3が該振れ止め鉄筋12に沿って突出するようにヒンジ機能を有するものである。
【0019】
本発明に利用される前記固定部材1は、合成樹脂からなるものが好適に使用される。その合成樹脂としては、特に、曲げ弾性率(ASTM D 790)が1900MPa〜16000MPaのものが好ましく、2000MPa〜10000MPaのものがより好ましい。また、その合成樹脂としては、特に、曲げ強度(ASTM D 790)が40MPa〜200MPaのものが好ましい。以上のような合成樹脂で前記固定部材1を形成すると、挿入された振れ止め鉄筋12に対して位置固定部3の突出部分は十分な押圧力を有し、振れ止め鉄筋12の溝状凹部21にフィットし容易に移動しない。したがって、振れ止め鉄筋12の挿入により位置固定部3の突出部分は振れ止め鉄筋12の溝状凹部21に係止して耐震用スリット材10への側圧に抗して耐震用スリット材10の移動を抑制する効果を奏するのである。本発明において前記固定部材1に好適な合成樹脂としては、ABS樹脂、ポリカーボネート樹脂、又はそれらの混合樹脂が具体的に例示される。また、本発明に利用される前記固定部材1の厚さは、2〜5mm程度のものが一般的に採用される。厚さが2mm未満では外部からの力(例えば、スリット芯材11にかかる側圧)に抗しきれず変形する虞がある。一方5mmを超える厚さでは、振れ止め鉄筋を挿入するに際して過大な力を必要とし、現場施工において扱い難く不都合となる虞がある。前記固定部材1を合成樹脂で形成する場合には、射出成形法を採用すると効率よく製造することができる。尚、本発明に利用される前記固定部材1は、コスト面で多少不利であるが、ステンレス等のバネ弾性の大きい金属製のものであっても構わない。
【0020】
本発明に使用される振れ止め鉄筋12はコンクリート建造物の鉄筋として用いられ壁構造に埋設されるものでその表面には一定間隔の凹凸部が設けられ一定の深さを有する溝状凹部21を有する構造の異形棒鋼である。特にその異形棒鋼としては、JIS G3112−1987に規定される異形棒鋼の内、SD295AのD10タイプのものは、鉄筋コンクリートに使用される鉄筋として一般的であることから、施工現場において容易に且つ安価に調達することができる点で最も好ましい。
【0021】
前記固定部材1の挿通部2は、振れ止め鉄筋12が挿通される部位であってその孔径(前記固定部材1における対向する舌片状の突出部間の距離)は使用される振れ止め鉄筋の溝状凹部21の直径よりも小さい孔径に形成されており、該孔径は、上記溝状凹部21の直径よりも2mm以内の範囲で小さい値であることが好ましく、より好ましくは0.2mmから0.8mmの範囲で小さい値であることが望ましい。
【0022】
本発明に利用される振れ止め鉄筋12と耐震用スリット材10とを固定する固定部材1は、該固定部材1における隣合う溝状空間部4の外側端部近傍を結ぶ位置に凹部26が設けられた側から挿通部2に振れ止め鉄筋12が挿入され、振れ止め鉄筋12を挿入した際、凹部26のヒンジ機能によって広がり、図4に示すように位置固定部3の舌片が突出して振れ止め鉄筋12に当接した状態で、耐震用スリット材10のスリット面11aに固定部材1の基台6が密着して、振れ止め鉄筋12と耐震用スリット材10とが強固に固定される。
【0023】
該固定部材1は、前記したように優れた曲げ弾性率、曲げ強度等の機械的特性を有する合成樹脂からなる成形品で構成されているので挿入された振れ止め鉄筋12に対して位置固定部3の突出部分は十分な押圧力を有し、振れ止め鉄筋12の溝状凹部21にフィットし容易に移動しない。したがって、振れ止め鉄筋12の挿入により位置固定部3の突出部分は振れ止め鉄筋12の溝状凹部21に係止して耐震用スリット材10への側圧に抗して耐震用スリット材10の移動を抑制する効果を奏するのである。
振れ止め鉄筋12と固定部材1における位置固定部3の突出部分との接触部において、接触角度(図4における角度α)が80〜10度となる範囲であることが、耐震用スリット材10に対する壁側からの力(側圧)に抗して耐震用スリット材10の移動を抑制する効果を十分にかつ効果的に発揮する上で好ましく、さらには70〜20度の範囲が好ましく、より好ましくは60〜30度である。このように構成すると、固定部材1の挿通部2を振れ止め鉄筋12に挿通させた後はしっかりと固定され、挿通させてきた向きとは反対向き(図4では右側)には移動が困難となるため、コンクリート打ち込み時の耐震用スリット材10又はスリット芯材11の外れが生じにくいものとなる。
また、振れ止め鉄筋12に固定部材1の挿通部2を通す前の状態における図4における角度αに相当する角度は85〜20度であることが好ましく、80〜15度であることがより好ましく、75〜25度であることが更に好ましい。このように構成すると、固定部材1の挿通部2を振れ止め鉄筋12に差し込むに際しては、振れ止め鉄筋12への挿通が容易となる。
なお、前記固定部材1における溝状空間部4の中心部からの長さ、空間部の幅は適宜決められ特に制限されないが、これらは固定部材1の全体の大きさ(平面積)、使用される振れ止め鉄筋12の太さなどを勘案して適宜の長さが選択される。例えば、上記溝状空間部4は基台6の外周縁部を貫通しなくしかも基台6がスリット面と十分に当接し得る面積を有する程度の長さに形成される。
【0024】
また、固定部材1が耐震用スリット材と振れ止め鉄筋とを固定するものであることに鑑み、本発明に利用される固定部材は、複数の溝状空間部4が板状基台6の任意の位置から放射線状に配置され相互に連通し、隣合う該溝状空間部4間が相互に連通する部位に向かって舌片状に突出した複数の位置固定部3が形成され、前記各溝状空間部4と各舌片状の位置固定部3とによって前記相互に連通する部位に振れ止め鉄筋12の挿通部2が形成されている構造を備えておれば、挿通部2の位置は必ずしも板状基台6の中心部である必要はなく、また溝状空間部4の板状基台6の中心部から又は挿通部2の中心部からの長さが必ずしも各溝状空間部4で同じ長さである必要はない。ただし、各溝状空間部4の挿通部2の中心部からの長さが個々に相違すれば、振れ止め鉄筋12と耐震用スリット材10との固定が不安定になる虞があるので、各溝状空間部4の挿通部2の中心部からの長さは、相互にほぼ等しいことが好ましく、均等であることがより好ましい。
【0025】
また、固定部材1における前記溝状空間部4の数は、振れ止め鉄筋12に対して位置固定部3の突出部分が均等に当接し側圧に対して変形しないことが必要である観点から少なくとも2個存在することが必要である。余りにも多い場合は位置固定部3の突出部分の振れ止め鉄筋12に対する押圧力が低下し側圧に対する強度が低下し変形し易くなる虞がある。従って、固定部材1における前記溝状空間部4の数は、3〜6個が好ましく、4個がより好ましい。
【実施例】
【0026】
固定部材1を用いて構成した耐震用スリット材10を備えたコンクリート打設用枠構造体の実施態様について説明する。
図1は、固定部材1を用いて構成した耐震用スリット材10を備えたコンクリート打設用枠構造体の実施例を説明する断面図である。
【0027】
図1において、耐震用スリット材10を備えたコンクリート打設用枠構造体は、コンクリート建造物の壁材と該壁材に連なる柱(柱側の型枠等は図から省略)との接合部付近に壁材を貫通するように埋設される耐震用スリット材10が、前記接合部を構築するために対向して立設される型枠15、15間に配置された構成を備える。該耐震用スリット材10は、合成樹脂15重量%〜100重量%と炭酸カルシウムやタルク等の無機紛体85重量%〜0重量%とからなる板状の発泡体等からなるスリット芯材11と、該スリット芯材11の両端部を支持する一対の支持部材20を備える。該支持部材20は、スリット芯材11の側端部を装着する嵌合部19、19と、前記型枠15に設けられた支持部材20の固定部(目地部)17に装着される装着部18、18とを備えた構造からなり、該耐震用スリット材10は少なくとも1個所にスリット芯材11を貫通する振れ止め鉄筋12を備え、該スリット芯材11を貫通して設けられた振れ止め鉄筋12には、スリット芯材11のスリット面11aに当接して振れ止め鉄筋12と耐震用スリット材10とを固定する固定部材1が設置されており、相対する型枠15、15間にはセパレート材13が設けられ、振れ止め鉄筋12とセパレート材13との交叉部に両者を固定するための固定具14が設けられてコンクリート打設用枠構造体が構成されている。
なお、固定部材1と当接するスリット芯材の面は、通常は、柱に近い側(壁に連接する柱と連結近傍における柱側)とは反対側の面となるスリット面11aであるが、固定部材1がスリット面11a、11b両面に当接するように設けられてもよい。一般的にコンクリートの打ち込みは、耐震用スリット材10をはさんで柱側から行なわれるので、柱に近い側とは反対側の面となるスリット面11aに固定部材1が当接するようにしておけばコンクリートの打ち込みに耐震用スリット材10が外れる虞がない。ただし、耐震用スリット材10の両側から同時にコンクリートを打ち込む場合にはスリット面11bにも固定部材1が当接するように取り付けることが好ましい。
【0028】
振れ止め鉄筋12とセパレート材13との交叉部で両者を固定する固定具14は、装着、固定が可能な形状であればいずれでも差し支えない。例えば、図6に示すような鋼鉄線の両端部が振れ止め鉄筋12とセパレート材13とを係止し固定し得る形状に湾曲させたクリップ状の係止部を有するものは、装着が容易であり、安価であるので好ましい。その他に上記交叉部に装着可能な、例えば逆U字形状(鞍状)の形状のものを使用してもよく、また上記のような固定具を使用せず針金で結束してもよい。尚、耐震スリット材が配置される部位においては、セパレート材13は、通常は柱に遠い側のみに設けられる(柱に近い側には設けられない)ので、振れ止め鉄筋12は柱に遠い側に設置されるセパレート材13に固定されることになる。
【0029】
本発明におけるコンクリート打設用枠構造体の耐震用スリット材10のスリット芯材11の少なくとも一方の面11a、11bには所望に応じて補強層(図示しない)を設けてもよい。該補強層は、張力に抗してスリット芯材11の強度を高める効果を有する。補強層は、特に制限されないが、例えば、ポリエチレン等のフィルムを貼付して形成されるフィルム層や、耐水紙や、発泡体の表面付近における発泡倍率を低減して成形せしめた成形加工層を備えてもよい。
【0030】
コンクリート建造物の壁材と該壁材に連なる柱との接合部付近に本発明におけるコンクリート打設用枠構造体を形成する場合の施工例の概要を、図5により説明する。
コンクリート打設用枠構造体120においては、通常、振れ止め鉄筋12が、壁内において壁の面方向に沿って平行に、かつ水平方向に複数本走り、耐震用スリット材10を貫通して配設された構造を備える。
従って、コンクリート打設用枠構造体120においては、振れ止め鉄筋12の少なくとも一つが、対向する型枠15、15との間隔を保持すべく差し渡されたセパレート材13に対して上方あるいは下方に近接して交叉状に配設され、その交叉部で固定具14によって相互に固定された構造を備える。固定部材1は、振れ止め鉄筋12をセパレート材13に固定する前に、振れ止め鉄筋12の一方の端部(図4では右側の端部)から、挿通部2を利用して所望の位置まで差し込まれ、最終的にはスリット面11aに接するように又はスリット面11aに近接するように差し込まれ、耐震用スリット材10が補強される。
コンクリート打設用枠構造体120において型枠15、15によって形成される空間部にコンクリートが打設されたとき、耐震用スリット材10がコンクリートによる側圧を受けて、コンクリート打設用枠構造体120における予定された設置位置から移動するようなことがなく、耐震用スリット材10によって壁と柱(柱側の型枠等は図から省略)が分断された構造を備える所定のコンクリートの壁構造が形成される。
【0031】
次に、耐震用スリット材10におけるスリット芯材11と振れ止め鉄筋12との固定強度を測定するための試験装置を図8により概略を説明する。
試験装置は、万能試験機テンシロンを用い、本発明に係る固定部材を取り付けた異形棒鋼からなる振れ止め鉄筋をテンシロンロードセル上に垂直に立設する。
スリット芯材11は、固定部材1にスリット面11aを当接させて配置される。
スリット芯材11のスリット面11b上には、テンシロンクロスヘッドに取り付けた中央に直径10mmの鉄筋を挿入する孔を設けたスリット芯材11と同じ大きさの平板が置かれ、10mm/min.の速度の荷重をかけて押圧したとき固定部材が固定された状態に保つことができる最大荷重を固定強度として測定した。
【0032】
なお、上記試験において、振れ止め鉄筋は、口径10mmのもの(SD295A D10)を使用した。また、上記試験においては、スリット芯材は、産宝高分子株式会社より不燃性無機質系高発泡体「タルボセル」として販売されているものの内、厚みが25mm、見掛け密度が90g/Lのものに対し、その両面に耐水紙を接着したものから、厚みはそのままで縦200mm×横140mmに切り出したものを用いた。固定部材は、ABS樹脂の円形状成形品(固定部材A)、およびポリカーボネート樹脂の図2に示す円形状成形品(固定部材P)を利用した。これらのサイズは、いずれも、基台6の直径が50mm、基台6の厚みが3mm、各溝状空間部4の幅が3mm、各溝状空間部の外側端部から基台の最も近い外周までの距離が6mm、各位置固定部3の鉄筋に差し込む前の図4のαに相当する角度が35度、挿通部2の直径が9mm、各裏面の凹部26は断面が円弧状の溝状凹部であり、この溝状凹部の最も深いところにおける成形品の厚みが1.6mmであり、この溝状凹部の開口部の幅が4mmのものである。
なお、比較として、振れ止め鉄筋としてコブ付き振れ止め鉄筋(SD295A D10を加工してコブを形成した鉄筋)を使用し、固定部材1を使用しないで上記と同様の試験を行った。このとき、本発明の固定部材に代えて公知の固定部材(従来品U)を使用した。図7に従来品Uの正面図を示す。従来品Uは、基台部51の一方が開放された振れ止め鉄筋の挿通口50とを備えた形状のものであり、その厚みは2mmのものである。従来品Uは、コブ付き振れ止め鉄筋のコブ部による耐震用スリットの固定を補助するもので、本発明の固定部材1と形状が異なるものである。
試験結果を表1に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
表1より、本発明に利用される固定部材は、通常の振れ止め鉄筋を使用しても、従来のコブ付き振れ止め鉄筋のコブ部に図7の固定部材を固定した際の固定強度よりも優れる上、固定強度の最大値と最小値との差が少ないことから固定強度のばらつきも小さく、非常に優秀な固定部材であることが分る。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明に利用される固定部材を用いて構成した耐震用スリット材を備えたコンクリート打設用枠構造体の一実施例を説明するための断面図を示す。
【図2】本発明に利用される振れ止め鉄筋と耐震用スリット材とを固定する固定部材の一例を示す。図2(1)は上面図、図2(2)は下面図をそれぞれ示す。
【図3】前記固定部材の別の実施例の一例を示し、図3(1)は上面図、図3(2)は下面図をそれぞれ示す。
【図4】本発明に利用される固定部材により振れ止め鉄筋と耐震用スリット材とを固定した状態を説明する部分拡大断面図である。
【図5】コンクリート打設用枠構造体の施工例を説明するための斜視図である。
【図6】振れ止め鉄筋とセパレート材との交叉部を固定する固定具の一例を示す。
【図7】従来の固定部材の一例を示す。
【図8】耐震用スリット材の固定強度の測定する試験装置を説明するための概略図である。
【符号の説明】
【0036】
1 固定部材
2 挿通部
3 位置固定部
4 溝状空間部
6 基台
10 耐震用スリット材
11 スリット芯材
11a、11b スリット面
12 振れ止め鉄筋
13 セパレート材
14 固定具
15 型枠
17 装着部
18 固定部材
19 スリット嵌合部
20 スリット支持部材
21 溝状凹部
26 凹部
50 挿通孔
51 基台部
120 コンクリート打設用枠構造体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向する型枠と、対向する型枠の間隔を保持すべく差し渡されたセパレート材と、耐震用スリット材と、耐震用スリット材のスリット面を貫通して配設される振れ止め鉄筋と、耐震用スリット材と振れ止め鉄筋とを固定する固定部材と、を備えるコンクリート打設用枠構造体において、該振れ止め鉄筋は溝状凹部を有する異形棒鋼からなり、該固定部材は、板状基台の任意の位置から放射線状に配置され相互に連通する複数の溝状空間部を有し、隣合う該溝状空間部間に相互に連通する部位に向かって突出する複数の舌片状の位置固定部を形成し、前記各溝状空間部と各舌片状の位置固定部とによって前記相互に連通する部位に挿通部が形成されてなる構造を有し、該挿通部には該振れ止め鉄筋が挿通されており、該位置固定部が該振れ止め鉄筋に沿って耐震用スリット材と反対側に突出して、該位置固定部の突出部分が該溝状凹部に係止しており、該固定部材は、該耐震用スリット材のスリット面に接するように又はスリット面に近接するように差し込まれ、該振れ止め鉄筋は、固定具によって該セパレート材に固定された構造を備えている、ことを特徴とするコンクリート打設用枠構造体。
【請求項2】
該振れ止め鉄筋と該固定部材における位置固定部の突出部分との接触部において、接触角度αが80〜10度であることを特徴とする請求項1に記載のコンクリート打設用枠構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−85169(P2007−85169A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−298576(P2006−298576)
【出願日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【分割の表示】特願2003−88376(P2003−88376)の分割
【原出願日】平成15年3月27日(2003.3.27)
【出願人】(000131810)株式会社ジェイエスピー (245)
【Fターム(参考)】