説明

コンダクタンスバルブ及び真空ポンプ

【課題】弁ディスク開度が小さい領域でコンダクタンスを高精度に制御可能にするコンダクタンスバルブ及び真空ポンプを提供する。
【解決手段】流体の流路Rを形成する円形状開口部5を有するハウジング2と、ハウジング2内に回動可能に設けられるとともに回動することにより円形状開口部5の開口状態を調整可能な円形状弁ディスク3Aと、を有し、円形状開口部5には内側方向に突出する突起部51が設けられており、突起部51は、円形状弁ディスク3Aにより円形状開口部5を閉塞する方向側に設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラットディスプレイ製造装置や半導体製造装置に代表されるCVD装置等の真空成膜装置等に用いられるコンダクタンスバルブ及び真空ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造工程中にはドライエッチングやCVD等のプロセスがあり、これらのプロセスはプロセスチャンバと称する真空容器内で行われるが、このようなプロセスチャンバ内のプロセス圧力をコントロールする手段として従来からコンダクタンスバルブを用いる方法がある。
【0003】
この方法は、プロセスチャンバに接続されている真空ポンプのガス吸入口にコンダクタンスバルブを取り付けるとともに、このコンダクタンスバルブの開度を変化させることにより、プロセスチャンバから真空ポンプ側へのガスの流れ易さ(コンダクタンスという)を変えて、プロセスチャンバ内のプロセス圧力をコントロールするというものである。
【0004】
このような従来のコンダクタンスバルブの一例を図5に示す。このコンダクタンスバルブ100は、ケーシング20と、円形状の弁ディスク30A及びこの弁ディスク30Aを支持する支持部30Bからなる弁体30と、から構成されており、弁体30はケーシング20内で回転軸40により水平状態で回動可能に支持されている。ケーシング20には円形状の開口部50が穿設されており、弁ディスク30Aの回転する角度(回転角θ)により、その開口状態が調整される。具体的には、回転角θ=0°のときは開口部50の開口状態は閉塞状態(開度0%)となり、回転角θが増加するに従い開口部50の開度が増加し、この開度は0%〜100%まで変位可能である。
【0005】
ところで、弁ディスク30Aを閉塞方向に回動させ、開度が0%近傍(図5中50B)、すなわち、コンダクタンスが小さくなると、コンダクタンスの制御分解能が悪化する傾向があることが知られている。この状態を示したものが図6のグラフであり、図6のグラフは、開度100%から1移動単位距離ずつ弁ディスク30Aを移動させて開度を変化させ、開度0%まで移動させた場合の弁ディスク開度(%)とコンダクタンス(L/s)の関係を示したグラフであり、この図6にはその一部(開度70%〜開度0%まで)が図示されている。このグラフを参照すると、弁ディスク開度が小さくなるにつれてコンダクタンスの制御分解能が悪くなっていることが分かる。コンダクタンスは有効断面積(開口部面積から弁ディスク30Aが遮っている面積を除いた面積)50Aにおおむね比例していることから、この開度が0%近傍50Bにおいて有効断面積50Aが急に減少するのがコンダクタンスの制御分解能悪化の原因である。
【0006】
そこで、この従来における弁ディスク開度が小さい領域でコンダクタンスの制御分解能が悪くなるという問題を解決すべく、特許文献1に示すような制御装置も提案されている。この特許文献1の制御装置においては、弁ディスク30Aに相当する制御プレート9の縁端部に内側にオフセットしているか又は外側に突出している偏寄した輪郭14を設けることにより、この開度が0%近傍50Bにおける有効断面積50Aの減少を緩やかにし、コンダクタンスの制御分解能悪化を防止している。
【0007】
しかしながら、この特許文献1に記載の制御装置のように、制御プレート9に突起や窪みを設けた場合には、開口部の閉塞時に突起や窪みを収納するスペースが別途必要になり、その結果、ケーシング自体が通常のものよりも大きくなるという問題が生ずる。また、このように制御プレート9に突起や窪みを設けた場合には、コンダクタンスバルブのメンテナンス時にわざわざケーシングを分解し制御プレート9を取り外す必要があり、メンテナンスが面倒になるという問題も生ずる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平09−210222号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的とするところは、弁ディスクを収納しているケーシングの大きさを大きくすることなく、弁ディスク開度が小さい領域でコンダクタンスを高精度に制御可能であり、しかもメンテナンスも容易なコンダクタンスバルブ及び真空ポンプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するため、本発明に係るコンダクタンスバルブは、流体の流路を形成する円形状開口部を有するハウジングと、ハウジング内に移動可能に設けられるとともに移動することにより円形状開口部の開口状態を調整可能な円形状弁ディスクと、を有するコンダクタンスバルブであって、円形状開口部には内側方向に突出する突起部が設けられており、突起部は、円形状弁ディスクにより円形状開口部を閉塞する方向側に設けられることを特徴とする。
【0011】
また、突起部にはスリットが設けられていてもよい。
【0012】
また、突起部は円形状開口部に取り付ける円環状のフランジに設けられるように構成してもよい。
【0013】
また、本発明に係る真空ポンプは、上記記載のうちのいずれか1つのコンダクタンスバルブを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、流体の流路を形成する円形状開口部を有するハウジングと、ハウジング内に移動可能に設けられるとともに移動することにより円形状開口部の開口状態を調整可能な円形状弁ディスクと、を有するコンダクタンスバルブであって、円形状開口部には内側方向に突出する突起部が設けられており、突起部は、円形状弁ディスクにより円形状開口部を閉塞する方向側に設けられるように構成した。これにより、弁ディスクを収納しているケーシングの大きさを大きくすることなく、弁ディスク開度が小さい領域でコンダクタンスを高精度に制御可能であり、メンテナンスも容易なコンダクタンスバルブ及び真空ポンプを提供することにある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係るコンダクタンスバルブを説明するための図であって、(a)は正面図、(b)は(a)のA−A線断面図であって閉塞状態を示す図、(c)は(a)のA−A線断面図であって開閉状態を示す図。
【図2】本発明に係るコンダクタンスバルブ及び真空ポンプの使用状態を模式的に示す断面斜視図であって、(a)は閉塞状態を示す断面斜視図、(b)は開閉状態を示す断面斜視図。
【図3】(a)はフランジの斜視図、(b)はフランジを取り付けた他の実施形態のコンダクタンスバルブの正面図。
【図4】円形状弁ディスクの開度とコンダクタンス特性との関係を示すグラフ。
【図5】従来のコンダクタンスバルブを説明するための正面図。
【図6】従来のコンダクタンスバルブにおける円形状弁ディスクの開度とコンダクタンスと構成との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態について、添付した図面を参照しながら詳細に説明する。
【0017】
図1は本発明に係るコンダクタンスバルブを説明するための図であって、(a)は正面図、(b)は(a)のA−A線断面図であって閉塞状態を示す図、(c)は(a)のA−A線断面図であって開閉状態を示す図、図2は本発明に係るコンダクタンスバルブ及び真空ポンプの使用状態を模式的に示す断面斜視図であって、(a)は閉塞状態を示す断面斜視図、(b)は開閉状態を示す断面斜視図である。
【0018】
図1に示すように本発明のコンダクタンスバルブ1は、ハウジング2と、弁体3と、からなる。ハウジング2は、第1のハウジング2Aと第2のハウジング2Bとからなり、図1中の分割線Lで第1のハウジング2Aと第2のハウジング2Bとがボルトなどにより結合されている。このようにハウジング2を第1のハウジング2Aと第2のハウジング2Bとに分割可能に構成したのでメンテナンスがし易い。
【0019】
第1のハウジング2Aには、円形状開口部5及びこれに対向する位置に真空ポンプのガス吸入口500が穿設されており、円形状開口部5の内周縁の一部には内側に突設する突起部51が設けられている。突起部51は、第1の突起部51Aと第2の突起部51Bとからなり、第1の突起部51Aと第2の突起部51Bとの間にはスリット52が形成されている。第1の突起部51Aも第2の突起部51Bもともに、円形状開口部5の円弧に沿って円弧状に形成されている。第1の突起部51A及び第2の突起部51Bは、図1(a)に示すように、円形状弁ディスク3Aにより円形状開口部5を閉塞する方向側に設けられており、この突起部51によりコンダクタンスが急激に減少するのを防止し、コンダクタンスを緩やかに減少させるようにしている。また、図1(a)に示すように、第1のハウジング2Aの内側部分であって円形状開口部5の周縁部には突起部51A及び51Bを取り付けるための円環状の部品6が取り付けられている。
【0020】
弁体3は、円形状弁ディスク3Aと、この円形状弁ディスク3Aを支持する支持部3Bとからなる。支持部3Bには回転軸4が取り付けられており、この回転軸4により弁体3は、ケーシング2内で水平状態で回動可能に支持されている。回転軸4は、図1(b)に示すように第2のケーシング2Bの下部に取り付けられたモータ7により回転駆動する。また、モータ7は回転軸4を上下動可能に支持しており、回転軸4を上下動させるとこれに連動して円形状弁ディスク3Aも上下動する。
【0021】
円形状弁ディスク3Aは、回転軸4を回転駆動させることにより円形状開口部5を第1のケーシング2Aの内側から閉塞可能に構成されており、円形状弁ディスク3Aの円周は円形状開口部5の円周より大きく形成されている。なお、本実施形態においては、円形状弁ディスク3Aにより円形状開口部5を閉塞した状態を回転角θ=0°としており、円形状開口部5が開口する方向に向けて回転角θは増加し、他方、閉口する方向に向けて回転角θは減少する。
【0022】
このように構成されたコンダクタンスバルブ1をCVD装置に適用した状態を模式的に示したのが図2であり、コンダクタンスバルブ1は、真空ポンプPとプロセスチャンバSとの間に取り付けられる。このコンダクタンスバルブ1は、円形状弁ディスク3Aを回動させ円形状開口部5の開口状態を調整することにより、プロセスチャンバSから真空ポンプP側へのガスの流れ易さを変えて、プロセスチャンバS内のプロセス圧力をコントロールしている。
【0023】
図2には円形状弁ディスク3Aの回転状態が示されており、(a)は円形状弁ディスク3Aの回転角θ=0°であり、円形状開口部5が円形状弁ディスク3Aにより閉塞された状態である。但し、図2(a)においては円環状の部品6と円形状弁ディスク3Aとの間には間隙があるため、完全に閉塞するためにはこの図2(a)の状態からモータ7により回転軸4を上昇させて円形状弁ディスク3AをC方向またはC方向の逆方向に移動させ、円形状弁ディスク3Aを円環状の部品6に密着させる必要がある。
【0024】
また、円環状の部品6は図示された上方だけではなく、下方又は両方にも敷設可能であり、下方に移動する場合には円形状弁ディスク3Aを下方に移動させ、円形状弁ディスク3Aを円環状の部品6に密着させる。
【0025】
一方、図2(b)には円形状弁ディスク3Aが開口方向に回転し、円形状開口部5が一部開口してプロセスチャンバS内のガスの流路Rが形成され、真空ポンプPの負圧によりプロセスチャンバS内からガスが矢印D方向に排出された状態が図示されている。
【0026】
なお、本発明の真空ポンプは、本発明のコンダクタンスバルブを備えた真空ポンプを意味するものであり、この図2(a)、(b)に示す真空ポンプPは一般的な真空ポンプであって本発明の真空ポンプを意味するものではない。
【0027】
上記実施形態においては、突起部51を円形状開口部5に直接設ける構成を示したが、突起部51を有する別部材を円形状開口部5に取り付けるような形態であってもよい。具体的には、例えば、図3(a)に示すような、上記と同様の形状の突起部51が形成された円環状のフランジ8を、図3(b)に示すように、円形状開口部5の周縁部分にケーシング2の表面側からネジ止め固定するという形態のコンダクタンスバルブ1Aであってもよい。
【0028】
このように構成されたコンダクタンスバルブ1あるいはコンダクタンスバルブ1Aを用いてコンダクタンスの制御の比較実験を行った結果を図4に示す。図4のグラフは、開度100%から1移動単位距離ずつ弁ディスク(円形状弁ディスク3A)を移動させて開度を変化させ、開度0%まで移動させた場合の弁ディスク開度(%)とコンダクタンス(L/s)の関係を示したグラフであり、この図4にはその一部(開度70%〜開度0%まで)が図示されている。図4中、コンダクタンス1あるいはコンダクタンス1Aを使用した本発明のコンダクタンスの制御分解能を示したものが「突起物あり」と図示したグラフであり、一方、「突起物なし」と図示したグラフが図5に示す従来のコンダクタンスバルブ100のものである。
【0029】
この図4を参照すると、本発明のコンダクタンスバルブにおいては、弁ディスク開度が小さくなるに連れてもコンダクタンスの変化割合は略一定である。一方、従来のコンダクタンスバルブにおいては、弁ディスク開度が小さくなるに連れてコンダクタンスの変化割合が急激に大きくなっている。この結果から、本発明においては、弁ディスク開度が0%に近づくに連れてもコンダクタンスの急激な変化が起こらず高精度なコンダクタンスの制御が可能であることが分かる。
【0030】
以上説明したとおり、本発明においては、円形状開口部に内側方向に突出するとともに、円形状弁ディスクにより円形状開口部を閉塞する方向側に設けられる突起部を備えたことにより、開度0%近傍における有効断面積の減少の割合を少なくすることができる。これにより、弁ディスク開度が0%に近づくに連れても開口面積の急激な変化が起こらず高精度なコンダクタンスの制御が可能である。そして、このような突起部を円形状弁ディスクに設けるのではなく、円形状開口部に直接あるいはこの円形状開口部に取り付けるフランジに設けることにより、突起部を収納するためのスペースを設ける必要がなくなるので、コンダクタンスバルブあるいは真空ポンプ自体の小型化も図ることができる。更に、円形状弁ディスクの移動時間すなわちスループットの短縮化も図れるとともに、メンテナンスも容易となる。
【0031】
なお、上記実施形態においては、突起部を2つの円弧状の第1の突起部51Aと第2の突起部51Bとにより形成したが、突起部の形状はこれに限定されない。上述したように、本発明において円形状開口部5に突起部を設けたのは、開度が0%に近づくに連れて有効断面積の減少の割合が急激に増加するからであるので、このような急激な増加を防止するような突起部であればその形状は種々の形状が適用可能である。なお、上記実施形態において突起部にスリットを設けたのは、実験の結果、スリットを設けた方が設けない場合よりもコンダクタンスの制御分解能が良かったからである。
【0032】
また、上記実施形態においては、円形状弁ディスクは回動するように構成しているが、円形状弁ディスクは円形状開口部を閉塞及び開口することができればよいので、必ずしも回動することを必要とせず、例えば、直線的に移動する形態であってもよい。
【符号の説明】
【0033】
1 コンダクタンスバルブ
2 ハウジング
2A 第1のハウジング部
2B 第2のハウジング部
3 弁体
3A 円形状弁ディスク
3B 支持部
4 回転軸
5 円形状開口部
51 突起部
51A 第1の突起部
51B 第2の突起部
52 スリット
500 ガス吸入口
6 円環状の部品
7 モータ
8 フランジ
L 分割線
P 真空ポンプ
R 流路
S プロセスチャンバ
θ 回転角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体の流路を形成する円形状開口部を有するハウジングと、ハウジング内に移動可能に設けられるとともに移動することにより円形状開口部の開口状態を調整可能な円形状弁ディスクと、を有するコンダクタンスバルブであって、
円形状開口部には内側方向に突出する突起部が設けられており、突起部は、円形状弁ディスクにより円形状開口部を閉塞する方向側に設けられること
を特徴とするコンダクタンスバルブ。
【請求項2】
突起部にはスリットが設けられていることを特徴とする請求項1に記載のコンダクタンスバルブ。
【請求項3】
突起部は円形状開口部に取り付ける円環状のフランジに設けられることを特徴とする請求項1あるいは2に記載のコンダクタンスバルブ。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載のコンダクタンスバルブを有することを特徴とする真空ポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−69407(P2011−69407A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−219099(P2009−219099)
【出願日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【出願人】(000233745)入江工研株式会社 (5)
【出願人】(508275939)エドワーズ株式会社 (18)
【Fターム(参考)】