説明

コンデンサ用ポリプロピレンフィルムおよびこれからなる金属化フィルムコンデンサ

【課題】
高温・長期課電時に静電容量低下率が小さく、かつ誘電損失(以下tanδという)特性の安定した電気特性を有し、更に、コンデンサの鳴きを小さくするのに好適なポリプロピレンフィルムを提供する。
【解決手段】
融点が162〜167℃、冷キシレンに可溶なプロピレン系樹脂成分(冷キシレン可溶部)を2〜7質量%含有し、かつ該冷キシレン可溶部の重量平均分子量が1×10〜1×10であるポリプロピレン樹脂からなるコンデンサ用ポリプロピレンフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温使用下での電気特性及び鳴き特性に優れたコンデンサ用ポリプロピレンフィルムおよびこれからなる金属化フィルムコンデンサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレン樹脂は、耐電圧特性に優れ、誘電損失も小さいことから、電気絶縁用途に広く用いられている。中でもポリプロピレン樹脂を2軸延伸して得られる厚みが2〜30μmの範囲の2軸延伸ポリプロピレンフィルムは、耐電圧特性・熱寸法安定性・機械特性に優れ、フィルムコンデンサ用途における誘電体材料として好ましく用いられている。
【0003】
これらコンデンサ用途においては、近年、小型化、低価格化の要求が強く、誘電体であるフィルムの薄膜化要求が高まっている。また、更なる高温・長期課電時における耐久性の向上(静電容量変化の低減、tanδ特性の維持等)の要求特性も厳しくなってきている。ポリプロピレンフィルムにおいては、その絶縁破壊電圧は温度依存性を有し、温度の上昇と共に低下する。従って、耐電圧特性の改善は、耐熱性のアップでもある。
【0004】
一方で、近年家電機器ではデジタル制御技術の進歩により、その回路が取り扱う電圧・周波数領域も広がってきており、発生する高調波ノイズやパルスノイズの低減、サージ電圧の吸収等が重要な課題であり、このため、安全規格コンデンサ、あるいはX2コンデンサ等のコンデンサが使用される。
【0005】
このようなコンデンサにおいては、印加された交番電界により、コンデンサ自身が音響ノイズを発生することがあり、この現象を「鳴き」と称している。特に最近の家電機器においては、モーター・駆動機構も含めて、「静音設計」が重要特性と位置づけられる様になり、コンデンサのノイズもクローズアップされるようになってきた。
【0006】
この鳴き現象は、交番電界により電極フィルムの層間が微少変位することで、音響ノイズを発生すると考えられるので、コンデンサの設計と共に使用される誘電体フィルムの特性面からも改善が求められている。
【0007】
すなわち、フィルムコンデンサにおいては、誘電体フィルムに対して、更なる高耐熱・耐圧化、静音化が求められる重要課題である。
【0008】
前者の高耐圧・耐熱化に対しては、立体規則性の高いポリプロピレン樹脂を用いる方法(特許文献1)が知られている。このような技術を適用すると耐電圧が向上し、特に直流コンデンサ用として優れた特性が得られるが、交流コンデンサとして用いた場合には、十分な層間の密着性が得られず、コロナ放電による内部放電を抑えることが難しいという問題を有する。
【0009】
また、延伸性を改善する目的で、ポリプロピレン樹脂中に特定のステレオブロック成分を含有せしめる技術が提案されている(特許文献2)が、ステレオブロック成分の制御は必ずしも安定に行うことができず、フィルム品質の再現性・安定性に問題があった。
【0010】
また、素子に電流が流れたときの自己発熱や雰囲気温度の上昇によるコンデンサ素子の変形によって容量が変動する可能性もあり、温度上昇による素子変形を防止するためには、フィルムの熱寸法安定性が重要であることが知られており、高温下でのフィルムの熱収縮率を低減する提案がなされている(特許文献3,4)。
【0011】
しかしながら、高温下での静電容量変化及びtanδの厳しい要求特性を満足するには、単に立体規則性の高いポリプロピレン樹脂を使用したり、高温下でのフィルムの熱収縮を低減したりするだけでは、不十分であることが分かっている。
【0012】
一方、鳴きに関しては、巻回されたフィルムの各層間の容積を最小限にとどめ、フィルム同士の密着性を高めるための提案がなされている。例えば、減圧状態下でコンデンサ素子を巻き取る方法が提案されている(特許文献5)。また、ポリプロピレンフィルムの両面にコロナ処理放電処理を施す提案がなされている(特許文献6)。
【0013】
しかしながら、減圧状態下で素子を捲廻す方法では、コンデンサ素子の巻取り工程の複雑さによる生産性の低下やコンデンサ素子巻き後に素子を大気中に戻した時のフィルム層間への空気の再侵入を防止できないなどの欠点があった。また、フィルムの両面にコロナ放電処理を施す方法では、コンデンサ素子に巻き上げるまでの工程、例えば、真空蒸着工程などでブロッキングを起こす場合があるといった支障があった。
【特許文献1】特開平11−273990号公報
【特許文献2】特開2007−204646号公報
【特許文献3】特開平7−50224号公報
【特許文献4】特開平11−67580号公報
【特許文献5】特開昭54−53253号公報
【特許文献6】特開昭61−145812号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、特定の非晶成分を含有するポリプロピレン樹脂からなる二軸延伸フィルムを用いることで、高温・長期課電時に静電容量低下率が小さく、かつ誘電損失(以下tanδという)特性の安定した電気特性を有し、更に、コンデンサの鳴きを小さくするのに好適なコンデンサ用ポリプロピレンフィルムおよび金属化フィルムコンデンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は上述の目的を達成するために、以下の特徴を有している。
(1)融点が162〜167℃、冷キシレンに可溶なプロピレン系樹脂成分(冷キシレン可溶部)を2〜7質量%含有し、かつ該冷キシレン可溶部の質量平均分子量が1×10〜1×10であるポリプロピレン樹脂からなるコンデンサ用ポリプロピレンフィルム。
(2)冷キシレン可溶部が共重合成分としてブテン−1を0.5〜10質量%含有する、前記(1)に記載のコンデンサ用ポリプロピレンフィルム。
(3)長手方向の120℃の熱収縮応力値が0.8〜2.0N/mmである、前記(1)または(2)に記載のコンデンサ用ポリプロピレンフィルム。
(4)質量平均厚み(WMV)とマイクロ厚み(MMV)との差が0.01〜0.1μmである、前記(1)〜(3)のいずれかに記載のコンデンサ用ポリプロピレンフィルム。
(5)前記(1)〜(4)のいずれかに記載のコンデンサ用ポリプロピレンフィルムの少なくとも片面に金属層を設けた金属化フィルムからなる金属化フィルムコンデンサ。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、融点が163〜167℃、冷キシレンに可溶な特定のプロピレン系樹脂成分(冷キシレン可溶部)を2〜7質量%含有するポリプロピレン樹脂からなるコンデンサ用ポリプロピレンフィルムを用いることにより、以下の効果を奏するものである。
【0017】
1.フィルム層間密着性が良いことにより、コンデンサ素子に仕上げた際のコロナ発生が低く抑えられ、交流印加での耐圧特性に優れる。
【0018】
2.特に扁平型コンデンサ素子を形成した際の形状安定性に優れることにより、耐圧特性、鳴き特性の優れたコンデンサ素子を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に、本発明について、望ましい実施の形態とともに詳細を説明する。
【0020】
本発明のコンデンサ用ポリプロピレンフィルム(以下本発明フィルム)は、特定のポリプロピレン樹脂を含む二軸延伸されてなるフィルムである。
【0021】
以下に本発明フィルムを構成するポリプロピレン樹脂について説明する。
【0022】
本発明においてポリプロピレン樹脂はチーグラーナッタ触媒、メタロセン触媒等を用い製造されるアイソタクチックポリプロピレンを主要構成とするものであり、本発明の目的に反しない範囲で、コモノマーを含有していてもよく、他のポリオレフイン系樹脂を含んでいてもよい。プロピレンのコモノマー成分としては、また、コモノマーとしては、エチレン、ブテン−1、ヘキセン−1、3メチルブテン−1、4メチルペンテン−1、等のαオレフイン類が例示される。このようなコモノマー成分を多く共重合せしめたポリプロピレン系樹脂では融点が低下し、耐熱性・耐電圧特性を損なう恐れがあり、共重合量としては、モル比率で2%以下、好ましくは1%以下としておくことが好ましい。
【0023】
また、他のポリオレフイン系樹脂としては、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、ポリブテン−1、ポリ3メチルブテン−1、ポリヘキセン−1、ポリ4メチルペンテン−1、シンジオタクチックポリスチレン、シクロオレフイン系重合体、その構造中に長鎖分岐鎖状構造を有するポリプロピレン系樹脂等が例示される。超低密度ポリエチレン、ポリブテン−1等の一部のポリオレフイン系樹脂を除き、殆どの樹脂がポリプロピレン樹脂との相溶性が低いために、ポリプロピレン樹脂中に島状に分散することが通常である。この様に、島状に異なる樹脂が分散した樹脂シートを2軸延伸した結果、2軸延伸フィルムの表面が不必要にあれたり、あるいは異なる樹脂相間にボイドを生じる等によって、耐電圧が低下する恐れもあり、これらのポリオレフイン系樹脂の含有量としては10質量%以下、好ましくは7質量%以下としておくことが好ましい。
【0024】
本発明フィルムを構成するポリプロピレン樹脂の融点は162〜167℃であることが重要であり、好ましくは、163〜166℃である。融点が162℃を下回ると耐電圧が低下する恐れがあり、融点が167℃を超えると延伸性に劣り、膜厚等の均一性が低下する恐れがある。
【0025】
このような融点を得るためには、前述の様にコモノマー量としては、1モル%以下とした実質的にプロピレンのみからなるモノマー構成として、ポリプロピレンの重合時の触媒並びに電子供与体の選定を行い、該樹脂の立体規則性の指標であるメソペンタッド分率を94%以上とすることが重要である。ここで、メソペンタッド分率はプロピレンモノマー連鎖の5つのユニットのメチル基の配列状態を13C−NMRで測定するものであり、完全なアイソタクチック構造ではメソペンタッド分率は100%となる。しかしながら現在の技術レベルで実現できるメソペンタッド分率の上限は、99%程度である。従って、本発明においてメソペンタッド分率の上限を技術的観点から規定できるものでは無いが、経済性の点から99%程度が上限となる。
【0026】
次いで、本発明に用いるポリプロピレン樹脂は冷キシレンに可溶なポリプロピレン系樹脂成分(以下冷キシレン可溶部)を2〜7質量%含有していることが重要であり、好ましくは2〜6質量%である。冷キシレン可溶部はポリプロピレンフィルムを熱キシレンが完全溶解し、室温に冷却した際に結晶化せずキシレン溶液中に溶解している成分であり、立体規則性の低い成分や低分子量成分(分子量が約1,000以下)等がその主要組成物とされる。これらの成分は耐電圧を低下させる恐れがある一方で、延伸性を付与したり、適度な熱収縮特性を付与したりする上で有用な成分でもあり、コンデンサ特性としては該成分の制御が非常に重要であるといえる。
【0027】
一般的に高融点のポリプロピレン樹脂を得るために、上述の様に触媒並びに電子供与体を選定し樹脂の立体規則性を高めていくと、冷キシレン可溶部は単調に低下していく。また、通常、冷キシレン可溶部を増加せしめようとすると該ポリプロピレン樹脂の融点も低下してしまう。従って、複数のリアクターを有する重合装置で、複数の触媒系を用いて該樹脂の組成を制御することは可能であるが、重合工程として複雑になり、再現良く安定した品質の樹脂を得ることが難しくなる。
【0028】
このため、高立体規則性触媒系を用いて得られたアイソタクチックポリプロピレン樹脂(以下「HIPP」という)に別途低立体規則性触媒により得られた非晶性乃至は低立体規則性ポリプロピレン樹脂(以下「LSPP」)を適宜添加することで、冷キシレン可溶部の含有量を制御することができる。
【0029】
ここで、LSPPの低分子量成分は運動性が高く、結果的に結晶相の運動性を高めたり、配向緩和をもたらすことにより、耐電圧を低下せしめる恐れが高いため、極力少ないことが好ましい。このような低分子量成分を除外するためには、すなわち、冷キシレン可溶部の含有量を制御するために添加するLSPPの冷キシレン可溶部の質量平均分子量は1×10〜1×10であることが好ましい。また、質量平均分子量が前述の範囲内であっても、分子量分布が広いと結果として低分子量成分が多くなるため、分子量分布は狭いことが好ましく、質量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)で定義される多分散度は4以下であることが好ましく、特に好ましくは3以下である。なお、単分散の樹脂では該Mw/Mnは1となるが、工業的には通常1.5程度が下限であるといえる。このように狭い多分散度の樹脂を得るためにはメタロセン触媒を用いることが有用である。特にメタロセン触媒によると二酸化珪素等の無機系の触媒残査は残留するものの、触媒の構造中に実質的に塩素を含有しないために耐電圧特性に影響を与える恐れが低いので好ましい。
【0030】
また、LSPPはHIPPの結晶構造に取り込まれず、フィルム構造から容易に離脱することでブロッキング現象を発生する恐れがある。このため、相溶性を向上せしめる目的で少量のブテン−1を共重合成分として含有せしめることが好ましく、共重合量としては0.5〜10質量%であることが好ましい。以上のような特徴を有するLIPPとしては、住友化学(株)製“タフセレン”が例示される。なお、HIPPとしては、Borealis製、大韓油化製、が例示される。
【0031】
次いで、該ポリプロピレン樹脂のメルトマスフローレート(MFR)は1.0〜6g/10分であることが好ましく、更に好ましくは1.5〜5.0g/10分である。MFRが1.0g/10分を下回ると、シート成型時の均一性が低下し、フィルムの厚み斑が大きくなる恐れがある。一方、MFRが6g/10分を超えると延伸が難しくなるばかりでなく、絶縁破壊電圧が低下するおそれがある。
【0032】
更に、該樹脂には触媒残査に起因するアルミニウム、チタン、マグネシウム等の金属化合物類が含まれ、樹脂を完全に燃焼させた際の残分として灰分として定量されるが、該灰分は電気特性を良好とする上で、40ppm以下(質量基準、以下同じ)であることが好ましく、更に好ましくは30ppmであるとより好ましい。また、該触媒の成分である塩素も同様の理由で少ないことが好ましく、5ppm以下であることが好ましく、より好ましくは3ppm以下であることが好ましい。
【0033】
該樹脂には溶融押出時の安定性、使用時の耐久性を向上する目的で、公知の熱安定剤・酸化防止剤、塩素捕獲剤を添加することができる。具体的には、熱安定剤・塩素捕獲剤としては、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール(BHT)、テトラキス[メチレン−3(3,5−ジ−ターシャリブチル−4−ハイドロキシフェニル)プロピオネート]メタン(チバ・スペシャリティ・ケミカル(株)製Irganox1010)、3,3’,3’’,5,5’,5’’−ヘキサ−tert−ブチル−a,a’,a’’−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾール(チバ・スペシャリティ・ケミカル(株)製Irganox1330)、等のヒンダードフェノール系化合物が例示され、塩素捕獲剤としては、ステアリン酸カルシウム等の金属石鹸が例示される。
【0034】
次いで、本発明フィルムが具備すべき物理的な特性について説明する。
【0035】
本発明フィルムの熱収縮特性としては、120℃の幅方向の熱収縮率が0.8%以下であり、かつ140℃の幅方向の熱収縮率が4.0%以下であることが好ましい。これは幅方向の熱収縮率が高いとコンデンサ素子を形成した際の蒸着フィルムの電極接地側と溶射金属との接着性が悪化して、素子の誘電正接が上昇する恐れがあるためである。より好ましい幅方向の熱収縮率としては、120℃で0.6%以下、140℃で3.5%以下であることが好ましい。ここで、幅方向の熱収縮率をコントロールする方法としては、樹脂を適宜選択する方法、フラットダイ法で2軸延伸フィルムを得る場合、横延伸時の倍率、温度で制御する方法等が例示される他、横延伸後にリラックスをかけることで可能である。ここでリラックスとは横延伸機のクリップの最大幅(Wmax)に対して出口幅(Wout)を狭めることで、横方向の配向を緩和するプロセスであり、リラックス率(%)は100×{1−(Wout/Wmax)}で定義され、リラックス率を大きくすると熱収縮率を小さくできる。
【0036】
一方、長手方向の熱収縮率は特に制限されるものでは無いが、長手方向の120℃の熱収縮応力値は0.8〜2.0N/mmであることが重要であり、好ましくは1.0〜1.8N/mmである。また、該熱収縮応力値のピークを示す温度は110〜130℃の範囲であると好ましい。
【0037】
また、長手方向の熱収縮開始温度は60〜100℃であることが好ましく、更に好ましくは65〜90℃、特に好ましくは70〜85℃であることが好ましい。熱収縮開始温度が60℃を下回ると蒸着加工時のシワの発生、クーリングドラムとの密着不良による熱負けの発生の恐れがある。一方、熱収開始温度が100℃を超えると、素子形成時のアニーリング工程での層間密着性が不良となり、特に交流用途で問題を生じる恐れがある。
【0038】
このような熱収縮応力値、熱収縮開始温度を制御する方法としては、本発明フィルム製造時の延伸温度と延伸倍率を適宜選択する方法が例示される。具体的には、延伸温度を下げる及び/または延伸倍率を上げることで熱収縮開始温度を下げ、また熱収縮応力値を高めることができる。また、冷キシレン可溶部を適宜コントロールすることでも熱収縮応力値を制御することができるが、冷キシレン可溶部が少なすぎると分子運動が抑制される方向になり熱収縮しがたくなり、多すぎると延伸時の分子配向が進みにくくなるため、熱収応力値は低下する。従って、好ましい熱収応力値を得るためには、冷キシレン可溶部が2〜7質量%の範囲であると好ましい。なお、前述の通り、樹脂組成と同時に延伸条件の選定は熱収応力の制御の上で重要である。
【0039】
また、本発明フィルムの質量平均厚み(WMV)とマイクロ厚み(MMV)との差で定義されるΔdは0.01〜0.1μmであることが好ましく、特に好ましくは0.02〜0.08μmである。
【0040】
Δd=マイクロ厚み(MMV)−質量平均厚み(WMV) ・・・(1)
マイクロメーターで測定される厚み(MMV)は表面粗さの影響も含む厚みであり、フィルム質量から計算される厚み(WMV)は、表面粗さを完全に平坦化した理想状態の厚みと見なすことができるために、両者の差として(1)式で定義されるΔdは表面粗さの一つの指標である。すなわち、Δdが小さいほど該フィルムは平滑であり、Δdが大きいほど該フィルムの表面は粗れていると言うことができる。
【0041】
従って、Δdを小さくすることで、コンデンサを構成した際に誘電体フィルム層間が密着しやすくなるが、小さくしすぎると、フィルム層間の滑りが悪化して素子の巻き取り性が悪化したり、層間が密着しすぎたりすることによって、絶縁破壊をした際の自己回復性が悪化し、コンデンサが破壊する恐れがある。一方、Δdが大きすぎると該フィルム層間が不必要に広くなることでコロナ放電が発生しやすくなり、コンデンサ容量の低下や誘電体の劣化を促進させコンデンサが破壊する可能性が高くなる。
【0042】
Δdを制御するためには、前述の様に異なるポリオレフイン系樹脂を添加して延伸する方法も例示されるが、ポリプロピレンの結晶系であるα晶(単斜晶系:融点163〜167℃)とβ晶(六方晶系:融点:140〜150℃)との結晶変態を利用した粗面化技術が、他の樹脂を添加することなく実現できるために、好ましく用いられる。すなわち、α晶はポリプロピレン樹脂を溶融し結晶化させた際に通常形成される安定な結晶系であるが、β晶は特定の条件下(例えば、α晶の結晶化温度に対して+5〜15℃の高温領域で結晶化させる、特定の結晶核剤を用いる等)で生成する結晶系であり、融点が低く熱的に不安定であり、延伸工程で容易にα晶に変態(β→α転移)し、また、延伸挙動もα晶と異なる。従って、延伸前のポリプロピレン樹脂シート中にβ晶を生成せしめ、2軸延伸することで、該β晶を起点として、表面を粗面化することができる。すなわち、β生成比率を高めることで表面粗度をアップできるので、β晶による面形成技術を用いてΔdを大きくするためには、溶融樹脂シートの結晶化温度を高めることが有効である。具体的には、いわゆるTダイ法においては、溶融樹脂シートを冷却ドラム上で冷却固化するが、該冷却ドラムの温度でΔdを制御することができる。樹脂の実冷却温度は樹脂温度、シート厚み、冷却ドラムの温度と熱伝達係数で決定されるために一律に、冷却ドラム温度を規定することはできないが、通常70〜120℃の温度範囲で適宜選択することができる。また、前記した様に延伸工程でβ→α転移が生じることから延伸条件の選定も重要である。通常延伸温度をアップするほど、また、延伸速度をダウンするほど、Δdは大きくすることができる。
【0043】
また、本発明フィルムのフィルム同士のヒートシール剪断力は700〜1,500g/10cmであることが好ましく、更に好ましくは800〜1,400g/10cmである。
【0044】
ヒートシール剪断力が700g/10cmを下回ると素子形成が不安定になる恐れがあり、電極間ギャップが安定しないことから、交流電圧を印加した際のコロナ放電等により寿命特性が短くなる恐れがある。一方ヒートシール剪断力が1,500g/10cmを超えると蒸着加工時に蒸着フィルム同士がブロッキングすることでフィルムが巻出せなくなったり、蒸着した金属層が脱落する等の問題を生じる恐れがある。
【0045】
このようなヒートシール剪断力を得るためには、コロナ放電処理強度を適宜選定する方法、90〜140℃に融解ピークを有する酸化防止剤を0.3〜1質量%添加する方法が例示され、これら手法を適宜組み合わせることができる。例えば、コロナ放電処理強度を強めるとヒートシール剪断力が高くなり、弱めるとヒートシール剪断力が弱くなる。また上記酸化防止剤添加量を増量するとヒートシール剪断力が高くなり、減量するとヒートシール剪断力が弱くなる。また、冷キシレン可溶部の含有量も少なからず影響し、含有量が多くなるとヒートシール強度が上昇する傾向がある。
【0046】
本発明フィルムは、耐電圧特性に優れるために、電極として金属箔と誘電体フィルムを合わせ巻いた箔巻きコンデンサ、誘電体フィルムに金属蒸着を施した金属化フィルムコンデンサのいずれにも使用できるが、特に金属化フィルムコンデンサの誘電体フィルムとして用いた場合、素子の形成、層間密着性の特徴が生かせるので好ましい。
【0047】
金属化フィルムコンデンサとして用いる場合は、該フィルム表面に金属層を設けるために、コロナ放電処理等によって、その表面の濡れ指数を35〜52mN程度としておくことが好ましく、特に好ましくは38〜49mN/m程度である。ポリプロピレンはその構造中に極性基を含んでいないためにポリエステル程表面の活性が無く、濡れ指数がたかだか30mN/m程度で金属層との接着性が無いためである。コロナ放電処理は、空気中でフィルムをゴムあるいはセラミックからなる絶縁性のロール上に沿わせながら、該フィルム表面と特定のギャップを設けた電極に高圧の交流電圧を印加し、コロナ放電を発生せしめ、該表面を活性化し、極表層にカルボニル基、カルボキシル基に代表される極性基を付加し、濡れ指数を上昇させる。処理密度をアップすることで濡れ指数を高めることができるが、処理密度は、処理電力を高める程、フィルムの走行速度を遅くする程、高めることができ、目標とする濡れ指数に応じて処理密度を選定すれば良い。該コロナ放電処理は、通常雰囲気として空気中で実施されるが、炭酸ガス、窒素ガス、あるいはこれらの混合ガスで空気を置換して処理を施すことも可能である。
【0048】
また、フィルム表面の活性化処理としてはコロナ放電処理以外にプラズマ処理、火炎処理等も例示される。また、本処理の目的は、金属化処理の前工程としてフィルム表面を活性化すれば良いので、該活性化処理はフィルムの製造工程で行う以外に、金属蒸着を施す蒸着機内で該金属蒸着の前に実施することでも良い。
【0049】
また、本発明フィルムのマイクロメーター法厚み(MMV)は、使用するコンデンサの静電容量、定格電圧、用途に応じて適宜選択されるが、通常、2〜15μmであり、特に3〜10μmの範囲である。特に、安全規格コンデンサとしては、3.5〜7μmの範囲が選択されることが多い。
【0050】
次いで、本発明フィルムの製造方法を以下に説明するが、当該製造方法の記載に限定されるものでは無い。
【0051】
高立体規則性触媒系を用いて得られたアイソタクチックポリプロピレン樹脂(以下「HIPP」という)と、別途低立体規則性触媒により得られた非晶性乃至は低立体規則性ポリプロピレン樹脂(以下「LSPP」)を準備し、冷キシレン可溶部が所定の含有量となるように両樹脂を適宜混合する。混合の方法としては、2軸延伸製膜装置の押出機に両樹脂ペレットをドライブレンドして投入しても良いし、あらかじめ、別な押出機を用いて溶融ブレンドしても良い。
【0052】
次いで、2軸延伸製膜装置の押出機より、該ポリプロピレン樹脂を230〜280℃で溶融押し出し、ポリマーフィルターを通じて異物を除去した後にTダイよりシート状に溶融押し出しする。該溶融シートを70〜120℃に設定した冷却ドラム上で冷却固化せしめる。この際に、該冷却ドラムの温度を制御することでフィルム表面粗さを制御することが可能であり、前記した通り、冷却ドラム温度をアップすることでΔdを高めることができる。
【0053】
次いで該冷却固化したシートを複数の加熱ロールを用いて、順次温度を上昇せしめ、130〜155℃に予熱した後に、周速差を設けた加熱ロール群を通過させることで、フィルムの走行方向に4〜7倍に延伸し、直ちに20〜50℃の冷却ロールに沿わせて冷却する。こうして得られた一軸延伸フィルムの両端をクリップで把持して、熱風オーブンに導いて、オーブン内部の上下に設置された複数のノズルより150〜170℃加熱された熱風を吹き出し十分に予熱した後に、該クリップを幅方向に拡幅することで7〜15倍に延伸し、次いで該クリップ幅狭めることで1〜20%のリラックスを許しながら、150〜170℃で熱固定する。
【0054】
こうして得られた2軸延伸フィルムは、両端を把持していたクリップからリリースした後に、搬送ロール群から構成されるフィルム搬送工程の中で、必要に応じて片面または両面にコロナ放電処理を施し、両端のクリップ把持部分(フィルムエッジ)を除去した後に、中間製品として巻き取る。
【0055】
このようにして得られた中間製品は、適宜調整された雰囲気で10〜50時間のエージング処理により、延伸時のひずみを取り除いた後に、スリット装置を用いて適宜、後工程に適した幅に裁断され製品ロールとする。
【0056】
本発明フィルムはフィルム表面に亜鉛、アルミニウム等の金属蒸着を施し電極を形成してコンデンサとする金属化フィルムコンデンサ用として使用できるばかりでなく、金属薄膜と共に捲廻する箔巻きコンデンサ、オイル等の封入剤と共に使用する油含浸コンデンサ等々に使用することができるが、特に金属化フィルムコンデンサ用に使用するとその性能が発揮できるので好ましい。金属化フィルムコンデンサの形状としては、金属化フィルムを単純に捲廻す円筒型コンデンサ、素子断面を楕円状に成形した扁平型コンデンサ、フィルムを積み重ねた積層コンデンサ等が具体的には例示されるが、本発明フィルムは素子形成性に優れることから、特に扁平型コンデンサ、積層コンデンサ用として好ましく使用される。
【0057】
次の本発明について実施例を用いて具体的に説明する。
【実施例】
【0058】
以下、本発明の実施例に用いる測定法及び評価法について説明する。
【0059】
(1)フィルム厚み
JIS−C−2330(2001)7.4.1.1により、マイクロメーター法厚さ(マイクロ厚み、以下MMVという)を測定した。
【0060】
JIS−C−2330(2001)7.4.1.2により、質量法厚さ(質量平均厚み、以下WMVという)を測定した。
【0061】
上記によって測定されたMMVおよびWMVを用いて、次式によりΔdを定義した。
【0062】
Δd=マイクロ厚み(MMV)−質量平均厚み(WMV)
(2)融点(℃)
セイコー社製RDC220示差走査熱量計を用いて、下記以下の条件で測定を行った。
【0063】
<試料の調整>
検体1〜5mgを測定用のアルミパンに封入する。尚、フィルムに金属蒸着等が施されている場合は適宜除去する。
【0064】
<測定>
以下の(a)→(b)→(c)のステップでフィルムを溶融・再結晶・再溶融させる。樹脂の融点は2nd Runで観測される融解ピークの内で最も高い融解ピーク温度を融点とした。n=3の平均値を求めた。
【0065】
(a)1st Run 30℃→280℃(昇温速度20℃/分)
(b)Tmc 280℃で5分保持後に20℃/分で 30℃まで冷却
(c)2nd Run 30℃→280℃(昇温速度20℃/分)
(3)メソペンタッド分率
メソペンタッド分率(mmmm)の測定
試料を溶媒に溶解し、13C−NMRを用いて、以下の条件にてメソペンタッド分率(mmmm)を求める。
測定条件
装置:Bruker社製 DRX−500
測定核:13C核(共鳴周波数:125.8MHz)
測定濃度:10wt%(試料10wt%、溶媒90wt%)
溶媒:ベンゼン/重オルトジクロロベンゼン=1:3混合溶液(容量比)
測定温度:130℃
スピン回転数:12Hz
NMR試料管:5mm管
パルス幅:45°(4.5μs)
パルス繰り返し時間:10秒
データポイント:64K
積算回数:10,000回
測定モード:complete decoupling
解析条件
LB(ラインブロードニングファクター)を1.0としてフーリエ変換を行い、mmmmピークを21.86ppmとした。WINFITソフト(Bruker社製)を用いて、ピーク分割を行う。その際に、高磁場側のピークから以下のようにピーク分割を行い、更にソフトの自動フィッテイングを行い、ピーク分割の最適化を行った上で、mmmmとss(mmmmのスピニングサイドバンドピーク)のピーク分率の合計をメソペンタッド分率(mmmm)とする。尚、測定はn=5で行い、その平均値を求める。
ピーク
(a)mrrm
(b)(c)rrrm(2つのピークとして分割)
(d)rrrr
(e)mrmm+rmrr
(f)mmrr
(g)mmmr
(h)ss(mmmmのスピニングサイドバンドピーク)
(i)mmmm
(j)rmmr
(4)MFR(メルトマスフローレート(g/10分))
JIS−K−7210(1999)により、MFRを測定した。
【0066】
(5)ヒートシール剪断力(g/10cm
長さ方向に10cm、幅方向に5cmの大きさの試料を同一のフィルムから2枚採取する(便宜上、それぞれのフィルム片をF1、F2とする)。次いでフィルム片F1の裏面とF2の表面とが長さ方向の2cm分重なり合うように、ヒートシーラー(テスター産業(株)/型式TP−701特)にセットし、該重ね合わせ部(面積10cm)に荷重1kg/cm、温度120℃、1秒にてヒートシールを施す。その後、引張り試験機にて、フィルム片F1、F2のそれぞれの端部を把持し、ヒートシール面に平行な方向に引張り、ヒートシール部が剥離する際の引張り力をヒートシール剪断力として測定する。単位はg/10cmとする。なお、引張り試験機は、TENSILON/UTM-IIIL(TOYO MEASURING INSTRUMENTS CO.LTD)を用い、引張りスピードは300mm/minとした。測定は3回行い、その平均を求めた。
【0067】
(6)熱収縮率(%)
JIS−C−2330(2001)7.4.6.2に準拠し、サンプルフィルムを熱風オーブン中で120℃×15分、140℃×15分で以下の条件で保持した際の寸法変化率を熱収縮率とする。フィルムの幅方向(TD)を測定した。
【0068】
(a)サンプル:幅10mm×長さ200mm
(b)オーブン条件:120℃、140℃、荷重3g
(c)測定長は処理前長L0=100mmを基準として、処理前後のフィルム長さL1(mm)の精読値を用いて次式で求める。
【0069】
熱収縮率(%)=(L0−L1)/L0×100
(7)120℃の熱収縮応力値(N/mm)、熱収縮開始温度
TMA(SII・ナノテクノロジー(株)社製/型式TMA/SS6100)を用いて、以下の条件でフィルム長手方向の熱収縮力曲線を測定した。
【0070】
(a)サンプル:幅4mm×長さ20mm
(b)温度プログラム:30℃から加熱レート10℃/minにて昇温
<120℃の熱収縮応力値>
該熱収縮力曲線から120℃の熱収縮力を読みとり、次式により算出した。
【0071】
120℃の熱収縮応力値(N/mm)=
120℃の熱収縮力(N)/{4(mm)×WMV(mm)}
測定は3回行い、平均を求めた。
【0072】
<熱収縮開始温度>
上記熱収縮力曲線において、昇温過程で熱収縮力が立ち上がる温度を熱収縮開始温度とした。測定は3回行い、平均を求めた。
【0073】
(8)冷キシレン可溶部(CXS)
ポリプロピレンフィルム試料0.5gを沸騰キシレン100mlに溶解して放冷後、2
0℃の恒温水槽で1時間再結晶化させた後のろ過液に溶解しているポリプロピレン系成分を液体クロマトグラフ法にて定量する(X(g))。
【0074】
試料0.5gの精量値(X0(g))を用いて以下の式で求める。
【0075】
CXS値(質量%)=(X/X0)×100
(9)冷キシレン可溶部の質量平均分子量
上記(8)により得られた冷キシレン可溶部を、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて単分散ポリスチレン基準により質量平均分子量を求めた。
【0076】
質量平均分子量(Mw)は分子量校正曲線を介して得られたGPC曲線の各溶出位置の分子量(Mi)の分子数(Ni)により次式で定義される。
【0077】
質量平均分子量:Mw=Σ(Ni・Mi)/Σ(Ni・Mi)
なお、測定条件は次のようにした(< >内はメーカーを示す)。
【0078】
装置: ゲル浸透クロマトグラフ GPC−150C <Waters>
検出器:示差屈折率検出器 RI 感度 32×、20% <Waters>
カラム:Shodex HT−806M(2)<昭和電工>
溶媒:1,2,4−トリクロロベンゼン(BHT 0.1w/v%添加)<Ardrich>
流速:1.0ml/min
温度:135℃
試料: 溶解条件 165±5℃×10分(攪拌)
濃度 0.20w/v%
濾過 メンブレンフィルター孔径0.45μm<昭和電工>
注入量:200μl
分子量校正:単分散ポリスチレン(東ソー)を検体と同一条件で測定して得られた分子量と保持時間との関係を用い、ポリプロピレンの分子量とした。ポリスチレン基準の相対値である。
【0079】
データ処理:(株)東レリサーチセンター製GPCデータ処理システムによった。
【0080】
(10)ブテン−1共重合量
上記(8)により得られた冷キシレン可溶部を13C−NMR法を用いて、以下の様にプロピレン系樹脂成分に含まれるブテン1の割合を測定する。
【0081】
約0.3gの樹脂サンプル及び約5mlのo−ジクロロベンゼンをサンプル管に装入し140℃で溶解;10mmφプローブを使用;測定装置 日本電子社製GX−270(6.34T);13C観測周波数 67.94MHz;ロック溶媒 ベンゼン−d6;パルス幅 17μs(90°パルス);積算繰り返し時間 25s;測定温度 140℃;試料回転数 15Hz
<解析条件>
LBを5.0としてフーリエ変換を行い、ポリプロピレン(PP)のメチル炭素のピークを28.29ppm、ポリブテン−1のメチル炭素のピークを34.47ppmとした。Aliceソフト バージョン4.8(日本電子データム社製)を用いて、各ピークの面積積分値を求めた。ブテン−1の含有率は、PPのメチル炭素のピーク強度IPPとブテン−1のメチル炭素の強度Iを用い、下の計算式より求めた。
【0082】
PB含有率(質量%)=I×56/(IPP×42+I×56)×100
(11)濡れ指数(濡れ張力)
JIS K−6768(1999)に準じて測定した。
【0083】
(12)コンデンサ特性
ポリプロピレンフィルムを真空蒸着機にて、金属アルミニウムと金属亜鉛の蒸着を施し、膜抵抗18Ω/□のアロイ金属蒸着膜(アルミニウム:亜鉛=5:95(質量比)、パターン無しのベタ蒸着)を形成した。得られた蒸着フィルムから以下のようにコンデンサ素子を作製し、静電容量減少率、誘電正接、鳴きを評価した。
【0084】
評価(○、△、×)は、○:実用特性に優れる、△:使用可能であるがやや劣る、×:実用上問題がある、を意味する。
【0085】
A.静電容量減少率
上記で得たコンデンサ素子から10個を抜き取り、120℃の温度および30kg/cmの圧力で6分間のプレス処理を行い、メタリコンおよびリード端子付けを行った。この素子をウレタン樹脂で外装し、静電容量0.47μFのコンデンサを作製し、85℃の雰囲気下でAC413Vの電圧を印加して、課電時間1,000時間での静電容量減少率を測定した。その結果を下記基準にて判定した。容量測定は安藤電気株式会社製LCRメータ AG−4311を用いて1V、1kHzの条件で測定した。
【0086】
○:容量減少率2%未満
△:容量減少率2%以上5%未満
×:容量減少率5%以上
B.誘電正接
Aと同様の素子に、同様に85℃の雰囲気下でAC413Vの電圧を印加して、課電時間1,000時間での誘電正接を測定した。その結果を下記基準にて判定した。測定は安藤電気株式会社製LCRメータ AG−4311を用いて1V、1kHzの条件で測定した。
【0087】
○:誘電正接2%未満
△:誘電正接2%以上5%未満
×:誘電正接5%以上
C.鳴き
Aと同様のプレス条件にて、静電容量1.0μFの扁平プレス型コンデンサ素子10個作成し、耐圧パルス試験器MODEL:TP-500(武南測器社製)にてコンデンサに60Hzの方形波を印加した。その際コンデンサ素子が発生する騒音をRION(株)製の精密騒音計:NA−29Eを用いて測定し、その平均値を算出した。その結果を下記基準にて判定した。またこのときの主要条件は次のとおりである。
【0088】
暗騒音レベル:49〜50dB
テスト電圧:205V
素子〜集音マイク間の距離:5cm
測定素子数:10素子
○:鳴き音レベル50dB未満
△:鳴き音レベル50dB以上55dB未満
×:鳴き音レベル55dB以上
(13)製膜方法
以下の製膜方法により2軸延伸を行い、フィルムサンプルを得た。
【0089】
適宜、準備したポリプロピレン系樹脂を、スクリュー径90mmφの押出機を用いて、250℃にて溶融押出し、90℃の冷却ドラム上で冷却固化する。次いで、得られたシートを145℃で予熱し、周速差を設けた2つのロール間で4.7倍に長手方向に延伸する。更に該一軸延伸フィルムを横延伸機に導き、該一軸延伸フィルムの両端をクリップで把持し、熱風オーブン中で160℃に予熱した後に、幅方向に9倍に延伸し、引き続き幅方向にリラックスを取って2軸延伸フィルムとする。次いで該2軸延伸フィルムを搬送工程内でコロナ放電処理を行い、製膜エッジをトリミングし巻き取る。コロナ放電処理装置はフィルムの両面に設置されており、コロナ処理条件は適宜変更した。なお、本発明においては、便宜上フィルムの冷却ドラム面をA面、反対面をB面と表記する。
【0090】
(実施例1)
HIPPとしてとして、メソペンタッド分率が0.985、メルトマスフローレートが2.5g/10分の樹脂(Borealis社製“Borclean(登録商標)”HB300BF)、とLSPPとして非晶性ポリプロピレン樹脂(住友化学(株)性“タフセレン”)を準備した。
【0091】
HIPPとLSPPの混合比率(質量%)を96:4として、該樹脂を上述の製膜方法を用いて、厚さ5.0μm(MMV)の2軸延伸フィルムを得た。この際に、横延伸後のリラックス率は10%、MD2延伸条件は120℃で+0.3%とし、コロナ放電処理としてはA面片面にのみ施し、該表面の濡れ指数を46mN/mとした。
【0092】
こうして得られたフィルムの特性は表1に示すとおりであり、コンデンサ特性の評価の結果、表2に示す如く、静電容量減少、tanδ、鳴きいずれも優れていた。
【0093】
(実施例2)
実施例1において、幅方向のリラックス率を6%に変更した以外は同様の条件でフィルムを得た。この結果、幅手方向の熱収縮率が上昇し、120℃、140℃でそれぞれ0.8%、4.0%となった。
【0094】
コンデンサ特性の評価では、tanδが上昇した。
【0095】
(実施例3)
実施例1において、一軸延伸時の延伸倍率を4.7から4.5倍とし、かつ横延伸前の予熱温度を164℃に変更した以外は同様の条件でフィルムを得た。この結果、熱収縮応力は減少し、0.8N/mm2となった。
【0096】
コンデンサ特性の評価では、鳴き特性が悪化した。
【0097】
(実施例4)
実施例1において、一軸延伸時の延伸倍率を4.7から4.8倍とし、かつ横延伸前の予熱温度を158℃に変更した以外は同様の条件でフィルムを得た。この結果、熱収縮応力は増大し、2.0N/mm2となった。
【0098】
鳴き特性は良化したが、素子作成時の寸法安定性がやや悪化し、コンデンサ特性評価時に一部の素子で貫通破壊が発生した。
【0099】
(実施例5)
実施例1において、HIPPとLSPPの混合比率(質量%)を98:2に変更した以外は同様の条件でフィルムを得た。
【0100】
コンデンサ特性の評価では、鳴き特性は向上したが、静電容量減少が大きくなった。
【0101】
(実施例6)
HIPPとして、メソペンタッド分率が0.945、メルトマスフローレートが3.0g/10分の樹脂(Borealis社製“Borclean(登録商標)”HB318BF)ポリプロピレン樹脂を使用した以外は実施例1と同様にして、2軸延伸フィルムを得た。
【0102】
得られたフィルムは融点が162℃と低下し、静電容量減少が大きくなった。
【0103】
(実施例7)
実施例2において、キャストドラムの温度を93℃とすることにより、Δdを0.20μmとした以外は同様にして、フィルムを作成した。
【0104】
得られたフィルムの素子評価では、静電容量減少が悪化した。また、一部の素子において層間でのコロナ破壊による貫通破壊が発生した。また、鳴き特性が悪化した。
【0105】
(比較例1)
実施例1において、LSPPの添加量を8質量%とした以外は同様にして、2軸延伸フィルムを得た。また、得られたフィルムは融点が158℃と低下した。
【0106】
コンデンサ評価の結果、鳴き特性は良好であったが、静電容量減少が大きくなった。
【0107】
(比較例2)
実施例1で用いたHIPPのみで2軸延伸フィルムを得た。製膜条件は実施例1と同様にした。結果として、融点が168℃と上昇した。
【0108】
こうして得られたフィルムのコンデンサ特性は鳴きレベルが悪化し、問題があることがわかった。
【0109】
【表1】

【0110】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明により得られるコンデンサ用ポリプロピレンフィルムは、上述の通り、金属化フィルムコンデンサ用、箔巻コンデンサ等のコンデンサとして単独で誘電体として使用されるが、素子形成性に優れることから、金属化した上で電極箔の代替として使用できる。また、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレン2,6ナフタレートフィルム、ポリフェニレンサルファイドフィルム、ポリスチレンフィルム等の他の誘電体フィルム及び/または絶縁紙との複合誘電体フィルムコンデンサ等にも使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点が162〜167℃、冷キシレンに可溶なプロピレン系樹脂成分(冷キシレン可溶部)を2〜7質量%含有し、かつ該冷キシレン可溶部の質量平均分子量が1×10〜1×10であるポリプロピレン樹脂からなるコンデンサ用ポリプロピレンフィルム。
【請求項2】
冷キシレン可溶部が共重合成分としてブテン−1を0.5〜10質量%含有する、請求項1に記載のコンデンサ用ポリプロピレンフィルム。
【請求項3】
長手方向の120℃の熱収縮応力値が0.8〜2.0N/mmである、請求項1または2に記載のコンデンサ用ポリプロピレンフィルム。
【請求項4】
質量平均厚み(WMV)とマイクロ厚み(MMV)との差が0.01〜0.1μmである、請求項1〜3のいずれかに記載のコンデンサ用ポリプロピレンフィルム。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のコンデンサ用ポリプロピレンフィルムの少なくとも片面に金属層を設けた金属化フィルムからなる金属化フィルムコンデンサ。

【公開番号】特開2010−129560(P2010−129560A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−299107(P2008−299107)
【出願日】平成20年11月25日(2008.11.25)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】