説明

コンパレータ回路

【課題】
MOSトランジスタの閾値電圧の差によって発生するオフセット電圧の影響を軽減させ、比較精度の高いコンパレータ回路を提供する。
【解決手段】
各スイッチがオンにされているキャリブレーションモードにおいて、第1のキャパシタCaおよび第2のキャパシタCbに、出力部5におけるプラス側とマイナス側の出力電圧を記憶させる。各スイッチがオフに切り替わり比較モードに移行すると、第1のMOSトランジスタM6および第2のMOSトランジスタM7のゲートに、キャパシタCaおよびCbが記憶したそれぞれの電圧が印加されて補正電圧を基準としたラッチ動作の準備が整う。電流ラッチ回路2は、入力電圧と基準電圧の差を増幅させてHIGHまたはLOWを出力する判定を行う。出力部5では、HIGHまたはLOWに応じた電圧差が生じ、これに応じた電流が流れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンパレータ回路において、とくに、MOSトランジスタの製造偏差に伴う閾値電圧のばらつきによって発生するオフセット電圧の影響を軽減させる電流ラッチ回路に関する。
【背景技術】
【0002】
コンパレータ回路は、A−Dコンバータ、携帯機器、デジタルカメラ等の用途で幅広く利用されており、入力された音や光の強度に応じた電圧と基準の電圧とを比較して大小を判定し、「1」または「0」の論理値として出力する回路である。
このような用途の中では、判定速度の高速化や僅かな電位差をまで判定できるコンパレータ回路の高精度化が必要とされている。
【0003】
コンパレータ回路は、主としてMOSトランジスタやキャパシタを組み合わせて構成されている。MOSトランジスタは、所定の電圧を与えられると電流を流す性質があり、このときの電圧を閾値電圧とされている。
ところで、MOSトランジスタにおける電流と電圧の関係は、そのチャネル長、チャネル幅の比に依存する性質を持つ。MOSトランジスタは、製造時における意図しない寸法のずれが少なからず発生して生産される。このようなMOSトランジスタの製造偏差は、それぞれの閾値電圧にばらつきを与えることになる。
【0004】
MOSトランジスタの閾値電圧のばらつきは、オフセット電圧をコンパレータ回路内に発生させる。このコンパレータ回路内におけるオフセット電圧は、入力電圧と参照電圧を比較するときにおいて精度を悪化させる問題がある。
つまり、コンパレータ回路の入力における閾値電圧の僅かな差は、出力部において増幅されるため比較精度が悪化する問題がある。そのため、素子ばらつきの影響を受けにくいコンパレータ回路が必要とされている。
【0005】
そこで、オフセット電圧によるコンパレータ回路の精度悪化を改善するために、スイッチと容量素子からなるオフセットキャンセル機能を備えた差動型コンパレータが知られている(特許文献1参照)。
特許文献1に記載された差動型コンパレータは、光電変換信号を入力する際にスイッチを閉じて、MOSトランジスタの閾値電圧を基準とする光電変換信号の電圧を容量素子および信号容量素子に蓄積することで、閾値電圧や寄生容量などをキャンセルして信号の比較を行っている。
【特許文献1】特開2006−20171号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、コンパレータ回路におけるキャリブレーションモードのときは、オフセット電流を0に調整することができる。そのため、比較する信号を電圧から電流に変更すると、オフセット電圧による影響を軽減して比較できる可能性がある。
しかしながら、特許文献1に記載された差動型コンパレータは、電流信号による処理に対する回路構成は設けられていないため、電流による比較を行うことができない。
【0007】
本発明は、オフセット電圧の影響を軽減させるために入力した電圧比較結果を電流差として出力して、比較精度の高いコンパレータ回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明にかかるコンパレータ回路は、電圧を入力する入力部と、基準電圧を入力する基準電圧入力部と、電圧および電流を出力する出力部と、からなる差動増幅回路と、互いのゲート端子とドレイン端子をたすきがけに接続した第1のトランジスタおよび第2のトランジスタと、前記出力部のプラス側の電圧を記憶する第1のキャパシタと、前記出力部のマイナス側の電圧を記憶する第2のキャパシタと、キャリブレーションモードと比較モードを切り替えるスイッチとを有し、前記第1のトランジスタのゲートは、前記第2のキャパシタを介して第2のトランジスタのドレインに接続され、前記第2のトランジスタのゲートは、前記第1のキャパシタを介して前記第1のトランジスタのドレインに接続され、かつ、前記スイッチの一端は、固定電圧に接続され、前記スイッチの他端は、前記第1のトランジスタおよび前記第2のトランジスタのそれぞれのゲートに接続される電流ラッチ回路とを、備えることを特徴としている(請求項1)。
【0009】
したがって本発明のコンパレータ回路では、第1のキャパシタおよび第2のキャパシタに前記出力部におけるオフセット電圧を記憶させ、前記第1のトランジスタおよび第2のトランジスタのゲートに記憶した電圧を印加することで、補正電圧が行われる。
【0010】
ここで、第1のキャパシタおよび第2のキャパシタによるオフセット電圧の記憶は、スイッチがオンであるキャリブレーションモードのときに第1および第2のトランジスタのゲートに固定電圧を供給して行い、電圧補正は、スイッチがオフである比較モードのときに第1のキャパシタまたは前記第2のキャパシタに記憶した電圧をそれぞれのトランジスタのゲートに供給させて行わせる(請求項2)。
【0011】
このように、第1のトランジスタおよび第2のトランジスタのゲートに印加される電圧を変更することで、前記キャパシタによるオフセット電圧の記憶と補正電圧を行うことができる。
【0012】
さらに本発明のコンパレータ回路の差動増幅回路は、出力部におけるオフセット電流を除去する出力電流オフセット除去機能を有することを特徴としている(請求項3)。
【0013】
出力電流オフセット機能は、キャリブレーションモードにおいてオフセット電流が除去されるような構成であればよい。
【発明の効果】
【0014】
以上のように本発明によれば、比較する信号を電圧から電流に変換して行い、オフセット電圧の影響を軽減するため、コンパレータ回路の比較精度を向上させることができる。さらに、本コンパレータ回路は、キャパシタをラッチ回路に備えたことによって微小な電流差にのみ応答する回路、すなわち、電圧信号を電流信号に変換する簡便な回路構成であるため、回路の集積化に優れ、高機能化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明のコンパレータ回路について図面を参照して説明する。
図1は、本発明のコンパレータ回路の構成を示す回路図である。
本コンパレータ回路は、入力された信号を比較して出力する差動増幅回路1と出力状態を保持する電流ラッチ回路2から構成されている。
【0016】
差動増幅回路1は、比較する電圧を入力する入力部3(以下、入力部3において入力された電圧をVin+とする)、基準電圧を入力する基準電圧入力部4(以下、基準電圧をVin-とする)、比較結果を出力する出力部5(以下、出力部5におけるプラス側の電圧および電流をVout+、Iout+、マイナス側の電圧および電流をVout-、Iout-、とする)、MOSトランジスタM1、M2、M3、M4、M5、スイッチSW1およびSW2、キャパシタC1から成る。
なお、各スイッチには、CMOS(Complementary MOS)など、入力部3には、NMOS(Nチャネル型MOS)などを用いることができる。
【0017】
MOSトランジスタM5は、本コンパレータ回路に電圧を供給しており、ゲートにバイアス電圧(Vbias)が接続され、ドレインにはMOSトランジスタM1およびM2のソースに接続されている。
MOSトランジスタM1は、ゲートに入力部3が接続され、ドレインには、プラス側の出力部5および、MOSトランジスタM3のソースが接続されている。
MOSトランジスタM2は、ゲートに基準電圧入力部4が接続され、ドレインには、マイナス側の出力部5および、MOSトランジスタM4のソースが接続されている。
【0018】
キャパシタC1の両端は、MOSトランジスタM3およびM4のゲートに接続されており、MOSトランジスタM3およびM4における電圧差を記憶する。また、MOSトランジスタM3とキャパシタC1との間には、スイッチSW1の一端が接続されており、同様にしてMOSトランジスタM4とキャパシタC1の間にスイッチSW2の一端が接続されている。
スイッチSW1の他端は、MOSトランジスタM3のソースに接続されている。
スイッチSW2の他端は、MOSトランジスタM4のソースに接続されている。
【0019】
これに対して電流ラッチ回路2は、第1のキャパシタCaおよび第2のキャパシタCb、第1のMOSトランジスタM6、第2のMOSトランジスタM7、第3のMOSトランジスタM8、スイッチSW3およびSW4から構成されている。
【0020】
第1のキャパシタCaは、差動増幅回路1のプラス側の出力電圧を記憶するもので、一端が出力部5のプラス側に接続されると共に第1のMOSトランジスタM6のドレインに接続され、他端が、第2のMOSトランジスタM7のゲートに接続されている。
第2のキャパシタCbは、差動増幅回路1のマイナス側の出力電圧を記憶し、第2のMOSトランジスタM7のドレインに接続され、他端は、第1のMOSトランジスタM6のゲートに接続されている。
第1のキャパシタCaから第2のMOSトランジスタM7のゲートへの配線と第2のキャパシタCbと第1のMOSトランジスタM6のゲートへの配線はたすきがけにして接続されている。
【0021】
第1のMOSトランジスタM6は、ドレインが前述した如く、第1のキャパシタCaと出力部5のプラス側とに接続され、ソースが、第3のMOSトランジスタM8のドレインに接続されている。
第2のMOSトランジスタM7は、ドレインが前述した如く第2のキャパシタCbと出力部5のマイナス側とに接続され、ソースが、第3のMOSトランジスタM8のドレインに接続されている。
第3のMOSトランジスタM8は、ゲートに接続されたラッチクロック信号に基づいて、ソースに接続された定電圧を電流ラッチ回路2に供給する。
スイッチSW3は、第1のMOSトランジスタM6のゲートに接続され、他端はバイアス電圧(Vbias)に接続されている。
スイッチSW4は、第2のMOSトランジスタM7のゲートに接続され、他端は、バイアス電圧(Vbias)に接続されている。
なお、本コンパレータ回路のモードと各スイッチの関係は、スイッチSW1〜SW4がオン(通電)に切り替わることでキャリブレーションモードに移行し、オフ(非通電)に切り替わることで入力電圧を比較する比較モードに移行する。
【0022】
本コンパレータ回路は、入力部3に与えられた電圧を第1のキャパシタCaおよび第2のキャパシタCbに記憶させることで、どのような入力電圧Vin+であっても、微小な電流差にのみ応答する回路である。
つまり、本コンパレータ回路は、電圧比較結果を電流差として出力するトランスコンダクタンス回路を差増増幅回路1として設けており、各キャパシタの電圧記憶機能を利用して、オフセット電圧の影響を受けずに比較精度を向上させることができる。
【0023】
本コンパレータ回路の構成は以上となるが、続いて動作について説明する。
本コンパレータ回路の動作は、大きく3段階に分けられる。1段階目は、キャパシタによるオフセット電圧の記憶、2段階目は入力された入力電圧と基準電圧の比較、3段階目は、HIGHまたはLOWの出力判定を行うことである。
【0024】
まず、1段階目のキャパシタによるオフセット電圧の記憶について説明する。
キャリブレーションモードにおいて、電流ラッチ回路2のMOSトランジスタM6およびM7のゲートにはバイアス電圧(Vbias)が供給される。
このとき、スイッチSW1およびSW2よりも同時かあるいは僅かに早くスイッチSW3およびSW4をオンにすると、リーク電流がMOSトランジスタM6およびM7のソース−ドレイン間に流れる。これに伴い差動増幅回路1の出力部5における電流は、リーク電流が等しく二分された値が出力される。
out+=Iout-=Ileak/2 (1)
【0025】
つまり差動増幅回路1では、MOSトランジスタM1におけるドレイン-ソース間は、MOSトランジスタM3におけるドレイン-ソース間に流れる電流にリーク電流の半分を加えた電流が流れる。同様に、MOSトランジスタM2におけるドレイン-ソース間は、MOSトランジスタM4におけるドレイン-ソース間に流れる電流にリーク電流の半分を加えた電流が流れる。
DS1=IDS3+Ileak/2 (2)
DS2=IDS4+Ileak/2 (3)
(ここで、IDSnは、MOSトランジスタMnにおけるドレイン−ソース間の電流を表す。)
【0026】
したがって、差動増幅回路1におけるプラス側の出力電流は、IDS1−IDS3で表されるため
out+=Ileak/2
である。
また同様に、マイナス側の出力電流は、IDS2−IDS4で表されるため、
out-=Ileak/2
である。
【0027】
このように、キャリブレーションモードでは、MOSトランジスタの閾値電圧に基づくオフセット電流をゼロにすることができる(出力電流オフセット除去機能)。
このような出力部5における出力電流が等しいとき、出力電圧Voutは、オフセット電圧の影響によりプラス側とマイナス側の値が異なる。
out+≠Vout- (6)
電流ラッチ回路2の第1のキャパシタCaおよび第2のキャパシタCbは、このときのプラス側の出力電圧Vout+とマイナス側の出力電圧Vout-をそれぞれ記憶する。
【0028】
次に、本コンパレータ回路に入力された電圧信号と基準電圧の比較について説明する。
コンパレータ回路は、スイッチSW1からSW4の各々にオフ信号を送信してオンからオフに切り替えることによって、キャリブレーションモードから比較モードに移行する。
はじめにスイッチSW3およびSW4がオフになると、キャパシタCaおよびCbに記憶した電圧は、MOSトランジスタM6およびM7のゲートに印加される。このとき、先ほど記憶したプラス側の出力電圧Vout+は第1のMOSトランジスタM7のゲートへ、マイナス側の出力電圧Vout-は第2のMOSトランジスタM6のゲートへ印加される。
【0029】
このように、出力部5のマイナス側の電圧を第1のMOSトランジスタM6のゲートに印加し、その一方で、出力部5のプラス側の電圧を第2のMOSトランジスタM7のゲートに印加することで、補正電圧を基準としたラッチ動作の準備ができる。
【0030】
また、すべてのスイッチがオフである比較モードでは、入力部3の入力電圧Vin+には比較する電圧が印加され、MOSトランジスタM1のゲート電圧が変化する。同時に(1)式の関係が成立しなくなり、出力部5における出力電流の値が変化することになる。
【0031】
出力電流の変化は、第1のMOSトランジスタM6および第2のMOSトランジスタM7のドレイン電位および各々交差するゲート電位の変化によりもたらされた出力部5の電圧変化に基づいて生じる。ここで、電流ラッチ回路2から差動増幅回路1に出力される電流は、オフセット電圧補正された電流が流れる。
【0032】
次に、電流ラッチ回路2におけるHIGHまたはLOWの出力について説明する。
電流ラッチ回路2は、比較モードにおける出力電圧について、たすきがけに接続されたトランジスタM6およびM7による正帰還により、入力電圧と基準電圧の電圧差を増幅させてHIGHまたはLOWの出力を判定する。
このときのHIGHまたはLOWの判定は、プラス側の電圧よりもマイナス側の電圧が大きい場合(Vout+<Vout-)をHIGHとし、プラス側の電圧をマイナス側の電圧よりも大きい場合(Vout+>Vout-)をLOWとする。
第3のMOSトランジスタM8のゲートに接続されたラッチクロック信号により、MOSトランジスタM6およびM7のソース端子に電圧が供給されると、増幅された電圧がHIGHまたはLOWに応じてプラス側の出力電圧Vout+、マイナス側の出力電圧Vout-に現われる。
【0033】
図2は、以上で説明した本コンパレータ回路のスイッチの動作と電流ラッチ回路2の動作を示すタイムチャートである。
本タイムチャートは、上位にスイッチの動作、下位にラッチクロック信号の動作を示しており、各信号の凹凸は、立ち上がりにおいてオンを示し、立下りでオフを示す。
【0034】
各スイッチは、測定を開始して1.0μs後にキャリブレーションモードの信号を受信すると、オフからオンに切り替える。上述のとおり、キャリブレーションモードにおいてスイッチがオンされると、キャパシタCaおよびCbにオフセット電圧が記憶される。
測定開始から2.0μs後において、それぞれのキャパシタにおけるオフセット電圧の記憶が完了すると、各スイッチは、オンからオフに切り替えられ、比較モードに移行する。
その後、3.0μsまでの比較モードにおいては、電圧信号から電流信号へ変換が行われている。既に説明したように、2.5μs後においては、入力部3に入力電圧が印加される。電流ラッチ回路2は、比較モードが完了すると、ラッチクロック信号に基づいてHIGHまたはLOWの信号を出力する。
【0035】
以上の動作によって、本コンパレータ回路の動作が実行されるが、続いて、本コンパレータ回路における比較精度、すなわち、電流ラッチ回路2のLOWとHIGHの判定精度について説明をする。
本コンパレータ回路における精度の検証は、シミュレーションによって行った。シミュレーションは、入力電圧Vin+にオフセット電圧として100[mV]を加え、LOWを判定する最大の入力電圧Vin+の値とHIGHを判定する最小の入力電圧Vin+の値を求めた。
具体的には、低電位側から電圧を上昇させて測定し、電流ラッチ回路2がLOWを判定する最大電圧を求め、また一方では、高電位側から電圧を低下させて測定し、電流ラッチ回路2がHIGHを判定する最小電圧を求めた。
なお、基準電圧Vin-には、2.5[V]を印加させてシミュレーションを行った。
【0036】
まず、電流ラッチ回路2によるLOWの判定について説明する。
シミュレーションによる電流ラッチ回路2のLOWを判定する最大の入力電圧は、2.5050[V]であった。
図3は、この電圧における入力波形と出力波形の関係を示した図である。図3(a)は、入力電圧Vin+=2.5050[V]における入力電圧波形である。また図3(b)は、入力電圧Vin+=2.5050[V]における出力電圧波形である。
【0037】
入力部3の入力電圧Vin+は、図3(a)の2.5μsにおいて、2.5000[V]から2.5050[V]に増加している。この電圧の増加は、2.0μsにおいて、入力部3の入力電圧Vin+に比較電圧が印加されたことを示している。
また、図3(b)では、2.0μs以前において、プラス側とマイナス側の出力電圧には、差が生じている。この電圧差がオフセット電圧であり、プラス側とマイナス側の電圧をそれぞれキャパシタCaおよびCbに記憶される。
さらに、ラッチクロック信号が発生した3.0μs以降では、プラス側の出力電圧は、マイナス側の出力電力よりも大きく、その差は、約1.3[V]である。
入力部3の入力電圧Vin+と基準電圧入力部4の基準電圧Vin-の差は、5.0[mV]であったが、出力部5におけるプラス側とマイナス側の出力電圧の差は、1.3000[V]であるため、電流ラッチ回路2の正帰還により電圧が増幅されて出力されていることがわかる。
【0038】
続いて、電流ラッチ回路2がHIGHを判定する最小の入力電圧は、2.5095[V]であった。
図4は、この電圧における入力波形と出力波形の関係を示した図である。図4(a)は、入力電圧Vin+=2.5095[V]における入力電圧波形である。また図4(b)は、入力電圧Vin+=2.5095[V]における出力電圧波形である。
【0039】
低電位側の測定と同様の理由により、図4(a)では、2.5μs以降において、入力電圧Vin+は、2.5000[V]から2.5095[V]に増加している。
さらに図4(b)では、入力時には9.5[mV]の差であったが、出力時には、3.5000[V]に増幅されて出力されている。
また、低電位側とは異なり、出力部5における電圧は、プラス側の出力Vout+よりもマイナス側の出力Vout-を大きくして出力されている。
【0040】
続いて、電流ラッチ回路2がLOWを判定した最大の電圧とHIGHを判定した最小電圧における出力電流について説明する。
図5(a)は、入力電圧Vin+=2.5050[V]における出力電流波形である。図5(b)は、入力電圧Vin+=2.5095[V]における出力電流波形である。
【0041】
図5(a)、(b)ともに3.0μsの時点でラッチクロック信号を受信している。それ以前では、オフセット電流の差Iout+−Iout-が0であることが確認できる。
ラッチクロック信号受信後は、低電位側の測定においてはプラス側の出力電流Iout+に電流が流れ、高電位側の測定においてはマイナス側の出力電流Iout-に電流が流れていることが確認できる。
【0042】
図3および図4の結果より、本コンパレータ回路は、入力電圧が2.5050[V]以下ではLOWを出力し、入力電圧が2.5095[V]以上ではHIGHを出力する。したがって、その判定範囲を表すと次式になる。
in+<2.5050、2.5095<Vin+
本コンパレータは、2.5095[V]から2.505[V]における範囲についてはHIGHまたはLOWの判定をすることができない。この4.5[mV]の範囲については、入力電圧と基準電圧の差が小さい値であるため、有限の利得では、これを増幅して判定することができない。
【0043】
このように、本コンパレータ回路は、与えたオフセット電圧100[mV]に対して、判定不能範囲が4.5[mV]である。したがって、コンパレータに用いるMOSトランジスタの閾値電圧が大きく異なる場合においても、比較精度の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本コンパレータ回路の構成を示す回路図である。
【図2】本コンパレータ回路のスイッチの動作とラッチの動作を示すタイムチャートである。
【図3】図3(a)は、入力電圧Vin+=2.5050[V]における入力電圧波形である。図3(b)は、入力電圧Vin+=2.5050[V]における出力電圧波形である。
【図4】図4(a)は、入力電圧Vin+=2.5095[V]における入力電圧波形である。図4(b)は、入力電圧Vin+=2.5095[V]における出力電圧波形である。
【図5】図5(a)は、入力電圧Vin+=2.5050[V]における出力電流波形である。図5(b)は、入力電圧Vin+=2.5095[V]における出力電流波形である。
【符号の説明】
【0045】
1・・・差動増幅回路、2・・・電流ラッチ回路、3・・・入力部、4・・・基準電圧入力部、5・・・出力部、M1〜M5・・・MOSトランジスタ、M6・・・第1のトランジスタ、M7・・・第2のトランジスタ、M8・・・第3のトランジスタ、C1・・・キャパシタ、Ca・・・第1のキャパシタ、Cb・・・第2のキャパシタ、SW1〜SW4・・・スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電圧を入力する入力部と、基準電圧を入力する基準電圧入力部と、電圧および電流を出力する出力部と、からなる差動増幅回路と、
互いのゲート端子とドレイン端子をたすきがけに接続した第1のトランジスタおよび第2のトランジスタと、前記出力部のプラス側の電圧を記憶する第1のキャパシタと、前記出力部のマイナス側の電圧を記憶する第2のキャパシタと、キャリブレーションモードと比較モードを切り替えるスイッチとを有し、前記第1のトランジスタのゲートは、前記第2のキャパシタを介して第2のトランジスタのドレインに接続され、前記第2のトランジスタのゲートは、前記第1のキャパシタを介して前記第1のトランジスタのドレインに接続され、かつ、前記スイッチの一端は、固定電圧に接続され、前記スイッチの他端は、前記第1のトランジスタおよび前記第2のトランジスタのそれぞれのゲートに接続される電流ラッチ回路とを、
備えることを特徴とするコンパレータ回路。
【請求項2】
前記キャリブレーションモードにおいては、前記スイッチをオンにして前記第1および第2のトランジスタのゲートに固定電圧を供給すると共に、前記第1のキャパシタおよび前記第2のキャパシタに、前記出力部のプラス側とマイナス側の電圧を記憶させ、
また、前記比較モードにおいては、前記スイッチをオフにして前記第2のキャパシタから記憶した電圧を前記第1のトランジスタのゲートに供給すると共に、前記第1のキャパシタから記憶した電圧を前記第2のトランジスタのゲートに供給することを特徴とする請求項1に記載のコンパレータ回路。
【請求項3】
前記差動増幅回路は、前記出力部におけるオフセット電流を除去する出力電流オフセット除去機能を有することを特徴とした請求項1に記載のコンパレータ回路。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2010−50590(P2010−50590A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−211329(P2008−211329)
【出願日】平成20年8月20日(2008.8.20)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年3月5日 社団法人電子情報通信学会発行の「2008年総合大会講演論文集(DVD)」に発表
【出願人】(592218300)学校法人神奈川大学 (243)
【Fターム(参考)】