説明

コーティング付き基材および同基材を作製する方法

【課題】コーティング付き基材および同基材を作製する方法を提供する。
【解決手段】コーティングは、チタンオキシカーボナイトライドまたはチタンアルミニウムオキシカーボナイトライドの少なくとも1つの層を含み、該層は、酸素原子のチタン原子に対するパーセント比が約0.01〜約0.09の範囲内、アルミニウム原子のチタン原子に対するパーセント比が約0〜約0.1の範囲内にある。コーティングは、硬度のヤング率に対する比率が少なくとも0.06である。基材は切削インサートとすることができる。上記コーティング付き基材を作製する方法も開示され、その方法では、チタンオキシカーボナイトライドまたはチタンアルミニウムオキシカーボナイトライドを含むコーティング層は、ガスの混合物を使用して、約750℃〜約950℃で基材に中温化学蒸着(MT−CVD)により堆積され、水素ガスの窒素ガスに対する比率は5を超える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタンオキシカーボナイトライドおよび/またはチタンアルミニウムオキシカーボナイトライドを含む、基材用の耐摩耗性コーティング、ならびにそのようなコーティングを有する基材に関し、より詳細には、そのようなコーティングを有する切削インサートに関する。上記コーティングは、特に基材が切削インサートの場合に、基材の耐摩耗性を改善するのに有用である。本発明はまた、そのようなコーティングを基材に適用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コーティング付き基材、例えば、コーティング付き切削インサートは、材料除去用途に使用される。コーティング層は通常、耐摩耗特性を示す硬質耐熱性(refractory)材料を含む。切削インサートをそのようにコーティングする目的の1つは、切削インサートの有効寿命を延ばすことである。
【0003】
コーティング層の材料として、またはコーティング層の構成の一部として有用であると判明している硬質耐熱性材料の1つは、一般式Ti(C,N,O)によって示されることもあるチタンオキシカーボナイトライドである。別の材料としては、一般式(Ti,Al)(C,N,O)で示されることもあるチタンアルミニウムオキシカーボナイトライドがある。これらの材料の少なくとも1つを含むコーティングの例は、ゲイツ・ジュニア(Gates,Jr.)による特許文献1、ルピ(Ruppi)による特許文献2、キリヤマ(Kiriyama)による特許文献3、ホルツシュ(Holzschuh)による特許文献4、ルピ(Ruppi)らによる特許文献5、ルピ(Ruppi)らによる特許文献6、ルピ(Ruppi)による特許文献7、ゲイツ・ジュニア(Gates,Jr.)らによる特許文献8、マクナニ(McNerny)らによる特許文献9に見ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第4,714,660号明細書
【特許文献2】米国特許第5,700,569号明細書
【特許文献3】米国特許第6,284,356号明細書
【特許文献4】米国特許第6,436,519号明細書
【特許文献5】米国特許第6,472,060号明細書
【特許文献6】米国特許第6,620,498号明細書
【特許文献7】米国特許第7,718,226号明細書
【特許文献8】米国特許第7,785,665号明細書
【特許文献9】米国特許出願公開第2007/0298232号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
チタンオキシカーボナイトライドおよび/またはチタンアルミニウムオキシカーボナイトライドを含むコーティングの有用性は実証されているが、それらがもたらす耐摩耗性の点でまだ改良が必要である。本発明はこの必要性に対処する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、基材用の高い耐摩耗性のコーティングを提供する。本発明のコーティングは、チタンオキシカーボナイトライドおよびチタンアルミニウムオキシカーボナイトライドからなる群から選択される化合物の少なくとも1つの層を含み、上記化合物は、酸素原子のチタン原子に対するパーセント比が約0.01〜約0.09の範囲内にあり、アルミニウム原子のチタン原子に対するパーセント比が約0〜約0.1の範囲内にある。コーティングは、その硬度値(ギガパスカル)のそのヤング率値(ギガパスカル)に対する比率が0.06以上である。上記基材は、所望する任意の形状とすることができ、超硬合金(例えば、炭化タングステン−コバルト材料)、セラミック(例えば、窒化ケイ素系セラミック、SiAlON系セラミック、炭窒化チタン系セラミック、二ホウ化チタン系セラミック、およびアルミナ系セラミック)、サーメット(例えば、ニッケル−コバルト結合剤および高レベルのチタンを有し、炭化タングステンおよび炭化チタンをさらに含むことができるサーメット)、鋼、または、例えば、多結晶立方窒化ホウ素(PCBN)などの超硬質材料とすることができる。基材は、切削インサートの形態であるのが好ましい。
【0007】
本発明はまた、そのようなコーティングを有するコーティング付き基材、例えば、そのようなコーティングを有する切削インサートを含む。
【0008】
本発明はまた、そのようなコーティング付き基材を作製する方法を含む。かかる方法では、チタンオキシカーボナイトライドおよび/またはチタンアルミニウムオキシカーボナイトライドを含むコーティング層は、四塩化チタン(TiCl)、例えばアセトニトリル(CHCN)などの炭素源、窒素(N)、水素(H)、及び、例えば一酸化炭素(CO)、亜酸化窒素(NO)、または一酸化窒素(NO)などの酸素源を含み、かつ、上記層がチタンアルミニウムオキシカーボナイトライドを含む場合には三塩化アルミニウム(AlCl)も含むガスの混合物を使用して、約750℃〜約950℃の温度範囲内で、中温化学蒸着(MT−CVD)により基材に堆積され、水素ガスの窒素ガスに対する比率、すなわちH/N比は5を超える。
【0009】
以下に、本発明の実施形態を記載するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<1> 基材およびコーティングを含むコーティング付き基材であって、
前記コーティングは、チタンオキシカーボナイトライドまたはチタンアルミニウムオキシカーボナイトライドのいずれかからなる少なくとも1つの層を含み、
前記層は、酸素原子のチタン原子に対するパーセント比が約0.01〜約0.09の範囲内にあり、アルミニウム原子のチタン原子に対するパーセント比が約0〜約0.1の範囲内にあり、
前記コーティングは、GPaで表した硬度のGPaで表したヤング率に対する比率が少なくとも0.06である、コーティング付き基材。
<2> 前記コーティングは複数の層を含む、<1>に記載のコーティング付き基材。
<3> 前記複数の層のうちの少なくとも1つの層が、窒化チタン、炭窒化チタン、酸化アルミニウム、窒化ジルコニウム、および炭窒化ジルコニウムからなる群から選択される材料を含む、<2>に記載のコーティング付き基材。
<4> 前記複数の層のうちの少なくとも1つの層が接着層である、<2>又は<3>に記載のコーティング付き基材。
<5> 前記コーティングの厚さが約1μm〜約25μmの範囲内にある、<1>〜<4>のいずれか1つに記載のコーティング付き基材。
<6> チタンオキシカーボナイトライドまたはチタンアルミニウムオキシカーボナイトライドからなる前記少なくとも1つの層の厚さが約1μm〜約20μmの範囲内にある、<1>〜<5>のいずれか1つに記載のコーティング付き基材。
<7> 前記基材が切削インサートである、<1>〜<6>のいずれか1つに記載のコーティング付き基材。
<8> 前記基材が、超硬合金、セラミック、サーメット、および鋼からなる群から選択される材料を含む、<1>〜<7>のいずれか1つに記載のコーティング付き基材。
<9> コーティング付き基材を作製する方法であって、
a)基材表面を有する基材を用意する工程と、
b)コーティングを前記基板表面に堆積させる工程と、
を含み、
前記堆積させる工程が、チタンオキシカーボナイトライドまたはチタンアルミニウムオキシカーボナイトライドのいずれかからなる少なくとも1つの層を、約750℃〜約950℃の範囲内の基材温度で、かつ水素ガスの窒素ガスに対する比率が少なくとも5である雰囲気内において、MV−CVDにより堆積させることを含み、
前記層が、酸素原子のチタン原子に対するパーセント比が約0.01〜約0.09の範囲内にあり、アルミニウム原子のチタン原子に対するパーセント比が約0〜約0.1の範囲内にあり、
前記コーティングは、GPaで表した硬度のGPaで表したヤング率に対する比率が少なくとも0.06である、前記方法。
<10> チタンオキシカーボナイトライドまたはチタンアルミニウムオキシカーボナイトライドのいずれかの少なくとも1つの層をMT−CVDにより堆積させる前記工程が、四塩化チタン、炭素源ガス、および酸素源ガスを含む雰囲気を使用することを含む、<9>に記載の方法。
<11> 前記炭素源ガスがアセトニトリルである、<10>に記載の方法。
<12> 前記酸素源ガスが、一酸化炭素、亜酸化窒素、および一酸化窒素からなる群から選択される少なくとも1つである、<10>又は<11>に記載の方法。
<13> 前記雰囲気が、三塩化アルミニウムをさらに含む、<9>〜<12>のいずれか1つに記載の方法。
<14> 前記コーティングの厚さが約2μm〜約25μmの範囲内にある、<9>〜<13>のいずれか1つに記載の方法。
<15> チタンオキシカーボナイトライドまたはチタンアルミニウムオキシカーボナイトライドからなる前記少なくとも1つの層の厚さが約1μm〜約20μmの範囲内にある、<9>〜<14>のいずれか1つに記載の方法。
<16> 前記基材が切削インサートである、<9>〜<15>のいずれか1つに記載の方法。
<17> 前記基材が、超硬合金、セラミック、サーメット、および鋼からなる群から選択される材料を含む、<9>〜<16>のいずれか1つに記載の方法。
【0010】
本発明の特徴およびメリットの重要性が、添付の図面を参照してより深く理解されるであろう。また一方で、図面は、例示目的のためだけに作図され、本発明の範囲を限定するものではないのは当然のことである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】一部分を切り取った、本発明の一実施形態によるコーティング付き切削インサートの斜視図である。切り取った部分では、切削インサートの基材を示すために、コーティングの一部が除去されている。
【図2】本発明の一実施形態によるコーティング付き基材の単層コーティングの断面を示す概略図である。
【図3】本発明の一実施形態によるコーティング付き基材のコーティングの断面を示す概略図であり、上記コーティングは、接着層と、チタンオキシカーボナイトライド、またはチタンアルミニウムオキシカーボナイトライドのいずれかの層とから構成されている。
【図4】本発明の一実施形態によるコーティング付き基材のコーティングの断面を示す概略図であり、上記コーティングは、接着層、複数の中間層、および外側層から構成されている。
【発明を実施するための形態】
【0012】
この節では、当業者が本発明を実施するのに十分な詳細さで、本発明のいくつかの好ましい実施形態について説明する。一方、当然のことながら、限られた件数の好ましい実施形態しか本明細書で説明しないことから、添付の特許請求の範囲に記載した本発明の範囲が限定されることは全くない。
【0013】
本発明の実施形態の特徴を加減するのに、「およそ」又は「約」という用語が本明細書または添付の特許請求の範囲で使用される場合、その「およそ」又は「約」という用語は、常に、関連する特徴の規定、および/または測定にかかわる一般的な許容差を指すと解釈すべきである。本発明の実施形態の特徴について説明するのに、範囲が本明細書または添付の特許請求の範囲で使用される場合、その範囲は、常に、範囲の規定される両端点およびその間のすべての点を含むと解釈すべきである。「本発明のチタンオキシカーボナイトライド」および「本発明のチタンアルミニウムオキシカーボナイトライド」というフレーズは、それぞれ、その化合物が、約0.01〜約0.09の範囲内にある酸素原子のチタン原子に対するパーセント比を有し、約0〜約0.1の範囲内にあるアルミニウム原子のチタン原子に対するパーセント比を有するチタンオキシカーボナイトライドまたはチタンアルミニウムオキシカーボナイトライドを意味すると解釈すべきである。
【0014】
図1は、本発明の実施形態によるコーティング22を有するコーティング付き切削インサート20を示している。図1では、下にある基材24を示すためにコーティング22の一部が切り取られている。コーティング付き切削インサート20は、逃げ面26およびすくい面28を有する。逃げ面26およびすくい面28は交差して、それらの合わせ目で切刃30を形成している。当然のことながら、本発明のコーティング付き切削インサートは、図1に示すコーティング付き切削インサート20の形状とは異なる形状をとることができる。例えば、本発明の別の実施形態によるコーティング付き切削インサートは、コーティング付き切削インサートをバイトホルダなどに取り付けるために使用される中心開孔を含むことができる。
【0015】
図2〜図4は、本発明の実施形態によるコーティング付き切削インサートの、コーティングと基材との境界部における断面の一部を示している。当然のことながら、これらの図面における層の厚さの表示は縮尺が一定でなく、単に層と基材との概略的な空間関係を示すことを意図されている。図2を参照すると、本発明による、基材42と、チタンオキシカーボナイトライドまたはチタンアルミニウムオキシカーボナイトライドの単層からなるコーティング44とを有するコーティング付き切削インサート基材40が示されている。コーティング44は、所望する任意の厚さを有することができるが、1μm〜25μmの範囲内の厚さを有することが好ましい。
【0016】
図3を参照すると、本発明による、基材52と、接着層56およびチタンオキシカーボナイトライドまたはチタンアルミニウムオキシカーボナイトライドの層58からなるコーティング54と、を有するコーティング付き切削インサート基材50が示されている。接着層56は、基材52に対する層58の接着性を高めるように選択され、窒化チタンおよび炭窒化チタンからなる群から選択される1つであるのが好ましい。接着層56の厚さは、0.2μm〜3μmの範囲内にあるのが好ましい。コーティング54は、所望する任意の厚さを有することができるが、1μm〜25μmの範囲内の厚さを有するのが好ましい。
【0017】
ここで図4を参照すると、基材62と、接着層66、複数の中間層68(すなわち、中間層70、72、74、76、78、80)、および外側層82からなるコーティング64と、を有するコーティング付き切削インサート基材60が示されている。接着層66の組成は、基材62と第1の中間層70との間の接着性を高めるように選択される。複数の中間層68の少なくとも1つおよび/または外側層82は、本発明によるチタンオキシカーボナイトライドまたはチタンアルミニウムオキシカーボナイトライドの層であるように選択される。複数の中間層68の残りの中間層および/または外側層82は、所望する任意のコーティング材料とすることができるが、そのような各層は、窒化チタン、炭窒化チタン、酸化アルミニウム、窒化ジルコニウム、および炭窒化ジルコニウムからなる群から選択される材料を含むことが好ましい。複数の中間層68の残りの中間層および/または外側層82は、それぞれ、本発明のチタンオキシカーボナイトライドまたは本発明のチタンアルミニウムオキシカーボナイトライド以外であるチタンオキシカーボナイトライドまたはチタンアルミニウムオキシカーボナイトライド層を含むこともできる。チタンオキシカーボナイトライドまたはチタンアルミニウムオキシカーボナイトライドの層の少なくとも一方は、加工層、すなわち、厚さが1μm〜20μmの範囲内にある層である。複数の中間層68の残りの中間層および/または外側層82は、加工層であってもよく、または接着層、すなわち、厚さが1μm〜20μmの範囲内にある層であってもよい。
【0018】
本発明の実施形態の基材に適した材料には、それらに限定するものではないが、超硬合金(例えば、炭化タングステン−コバルト材料)、セラミック(例えば、窒化ケイ素系セラミック、SiAlON系セラミック、炭窒化チタン系セラミック、二ホウ化チタン系セラミック、およびアルミナ系セラミック)、サーメット(例えば、ニッケル−コバルト結合剤および高レベルのチタンを有し、炭化タングステンおよび炭化チタンをさらに含むことができるサーメット)、および鋼がある。
【0019】
本発明はまた、基材が、特に、結合剤濃度、炭窒化物濃度、および炭化物濃度において、傾斜(gradient)組成を示すことができることを企図している。例示的な基材には、結合剤豊富な表面領域を有する超硬合金(cemented carbide)基材と、結合剤が欠乏したかつ/または固溶炭化物が豊富な表面領域を示す超硬合金基材とがある。
【0020】
他の例示的な基材材料には、多結晶立方窒化ホウ素(PCBN)(例示的なPCBN材料は、セラミック結合剤または金属結合剤を一緒に含む)および他の超硬質材料がある。
【0021】
1つの好ましい基材材料には、約0.1重量%〜約20重量%のコバルトと、残り分の炭化タングステンとを含む、コバルト結合炭化タングステンを基にしたものがある。そのようなコバルト結合炭化タングステンは、チタン、タンタル、ニオブ、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、およびクロムのいずれか1つ、または任意の組み合わせを含むことができ、これらの元素は、炭化物、および/または窒化物、および/または炭窒化物の形態とすることができる。
【0022】
基材には、コーティング済みのコア基材を含めることができて、現存コーティングの一部またはすべてを覆って本発明のコーティングが施されることも本発明が企図する範囲内である。現存コーティングが、本発明のコーティング、および本発明のコーティングのチタンオキシカーボナイトライド層またはチタンアルミニウムオキシカーボナイトライド層を塗布するのに使用されるMT−CVD堆積プロセスと両立できる限り、それらに限定されるものではないが、化学蒸着(CVD)(低温、中温、または高温CVDとすることができる)、物理蒸着(PVD)、ならびにプラズマ支援を使用する変形版を含むそれらの組み合わせおよび変形版などが含まれる任意で公知のコーティング方法により、コーティング済みコア基材の現存コーティングを施すことができる。
【0023】
当然のことながら、本明細書および添付の特許請求の範囲の中で、「基材表面」という用語は、基材の環境との基材の境界面として働く基材の最外部分を指す。したがって、未コーティング材料で構成される基材の場合、基材表面はその材料の外側面であり、それに対して、コーティング済みコア基材の基材表面は、その現存コーティングの最外面である。
【0024】
当然のことながら、本発明のコーティングを堆積させる前に、基材に対するコーティングの接着性を改善するように基材表面を処理することができる。例示的な前処理には、基材表面から結合剤を除去する、または結合剤の量を減らすプロセスがある。コバルト結合炭化タングステン基材の場合、そのような前処理は、基材表面からコバルトを除去するか、またはコーティングの接着性を改善するように基材表面を処理する。他の例示的な前処理には、コーティングの接着性を高めるために、基材表面を粗面化するように基材表面を機械的に加工するプロセスがある。
【0025】
本発明のコーティングのチタンオキシカーボナイトライド層およびチタンアルミニウムオキシカーボナイトライド層は、酸素原子のチタン原子に対するパーセント比が約0.01〜約0.09の範囲内にあり、アルミニウム原子のチタン原子に対するパーセント比が約0〜約0.1の範囲内にある。当該コーティングは、(ギガパスカルで表した)その硬度値の(ギガパスカルで表した)そのヤング率値に対する比率が0.06以上である。
【0026】
本発明のコーティングのチタンオキシカーボナイトライド層およびチタンアルミニウムオキシカーボナイトライド層は、四塩化チタン(TiCl)、例えばアセトニトリル(CHCN)などの炭素源、窒素(N)、水素(H)、及び、例えば一酸化炭素(CO)、亜酸化窒素(NO)、一酸化窒素(NO)などの酸素源を含むガスの混合物、又は、該層がチタンアルミニウムオキシカーボナイトライドを含む場合は三塩化アルミニウム(AlCl)をさらに含むガスの混合物を使用して、約750℃〜約950℃の範囲内の基材温度でMT−CVDにより基材に塗布されるが、ここで、水素ガスの窒素ガスに対する比率、すなわちH/N比は5を超える。これらの層は、好ましくは800℃〜950℃の基材温度範囲内で、より好ましくは830℃〜920℃の基材温度範囲内で塗布される。本発明のコーティングの他の層は、他の蒸着技術により堆積してもよいが、同様にMT−CVDにより塗布されるのが好ましい。チタンオキシカーボナイトライド層およびチタンアルミニウムオキシカーボナイトライド層以外の本発明の様々なコーティング層に使用される堆積技術とは無関係に、1つまたは複数のコーティング層の劣化または汚染を防止するために、基材は、コーティングの最内層の堆積の開始から、コーティングの最外層の堆積の終了まで、保護雰囲気下に維持されるのが好ましい。
【0027】
本発明のコーティング層の厚さは、各層の堆積時間および/または堆積速度を調整することにより制御することができる。当然のことながら、所与の堆積速度において堆積時間が長くなるほど層は厚くなり、所与の堆積時間に対して堆積速度が速いほど層は厚くなる。
【0028】
本発明の一部の実施形態では、本発明のコーティングの表面は、コーティング表面の平滑性および/または接着性を制御するために、堆積後処理を受ける。表面処理は通常、コーティング内の引張り応力を低減するか、または圧縮応力を増大させる。そのような処理の例が、ウィディア有限責任会社(Widia GmbH)による国際公開第02/077312号パンフレットに記載されており、この国際公開は、外側コーティング層の内部圧縮応力を増大させるか、または内部引張り応力を低減する、コーティングへのショットブラストを開示している。1つの例示的な処理は、応力の高い部分を減らすか、または最小限にするために、コーティングの表面から凹凸を除去することである。別の例示的な処理は、コーティング付き切削インサートの選択された領域からコーティング(またはコーティング層の一部)を優先的に除去することである。
【0029】
本発明のコーティング層の接着性を改善するために、各コーティング層の間に微視的な粗界面を形成することができるのも当然のことである。これらの微視的な粗界面は、コーティング層の高い成長速度を促進するように、層堆積パラメータを制御することで形成することができる。比較的高い堆積温度および/または比較的高い圧力を使用して、CVDおよびMT−CVDプロセスでの高い成長速度を達成することができる。コーティング層間の接着性を改善する別の方法は、堆積時に層の組成を漸進的に変えることにより、隣接するコーティング層間にある急勾配の組成界面の存在を少なくすることである。
【実施例】
【0030】
実施例1〜5
チタンオキシカーボナイトライドまたはチタンアルミニウムオキシカーボナイトライドの単層を基材に堆積させることにより、本発明の実施形態によるコーティング付き基材(実施例1〜5)を作製した。基材は、WC−6%Coの超硬合金製切削インサートであった。コーティングの組成が表1に示されている。電流5.00mAおよび電圧DC600Vで、2mmのバーン(burn)領域を使用するLECOグロー放電スペクトル(GDS)850A計器により組成を測定した。データ収集速度は125点毎秒であり、総バーン時間は約600秒であった。表2に示したガスの組み合わせを使用して、基材温度850℃で120分にわたりMT−CVDを行うことによりコーティングを堆積させて、2μmのコーティング厚さを得た。
比較サンプル
表1に記したサンプル比較例1、2用の組成を有するコーティング付き基材を、実施例1〜5に対して上記したものと同じタイプの基材を使用して作製した。
【0031】
【表1】

【0032】
【表2】

【0033】
実施例1〜5および比較例1〜2の特性
実施例1〜5および比較例1〜2のコーティングの硬度およびヤング率が表3に記されている。ビッカース圧子を使用するISO標準規格14577に準拠したフィッシャスコープHM2000(Fischerscope HM2000)を用いて硬度およびヤング率を測定した。押し込み深さは0.25μmに設定した。
【0034】
【表3】

【0035】
本発明によるコーティングを有するコーティング付き切削インサートを従来のコーティングを有するものと比較するために切削試験を行った。いずれの場合にも、基材は、米国規格協会(ANSI)CNMG432RPの幾何形状を有するWC−9.5重量%Co切削インサートとした。実施例5に相当するコーティングを有する本発明の2つのコーティングインサートを上記の態様で作製した。比較のために、比較例2に相当するコーティングを有する2つのコーティングインサートを上記の態様で作製した。切削において、切込み角45°およびリード角−5°としたコーティング付きインサートを使用して、送り速度0.3mm/回転(0.012インチ/回転)および切込み深さ2.03mm(0.08インチ)として、大量の冷却液のもとに198m/分(50sfm(surface feet/minute))で304ステンレス鋼を切削した。寿命の終わり条件は、次の条件、すなわち、(a)0.305mm(0.012インチ)の均一な摩耗、(b)0.305mm(0.012インチ)の最大摩耗、(c)0.305mm(0.012インチ)のノーズ摩耗、(d)0.305mm(0.012インチ)のノッチ深さ、または(e)0.102mm(0.004インチ)のクレータ摩耗、のうちの1つが最初に発生したときとした。本発明のコーティング付き切削インサートは、ノッチ深さ限度に達することで終わる、11.9分および13.9分の切削寿命を有した。それに対して、従来のコーティング付き切削インサートは、最大ノーズ摩耗基準に達することで終わる、わずか8.9分および11.0分の切削寿命を有した。これらの試験により、本発明のコーティングが、先行技術のコーティングに勝る大幅に改良された耐摩耗性を有すると実証された。
【0036】
本発明の数件の実施形態のみが示され、説明されたが、添付の特許請求の範囲に記載された本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、これらの実施形態に対して多数の変更および修正を行うことができることが、当業者には明らかであろう。本明細書で参照したすべての特許出願、特許、および他のすべての出版物は、法で許可された最大範囲でそれら全体を本明細書に援用される。
【符号の説明】
【0037】
20 コーティング付き切削インサート
22 コーティング
24 基材
26 逃げ面
28 すくい面
30 切刃
40 コーティング付き切削インサート基材
42 基材
44 コーティング
52 基材
54 コーティング
56 接着層
58 チタンオキシカーボナイトライドまたはチタンアルミニウムオキシカーボナイトライドの層
60 コーティング付き切削インサート基材
62 基材
64 コーティング
66 接着層
68、70,72,74,76,78,80 中間層
82 外側層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材およびコーティングを含むコーティング付き基材であって、
前記コーティングは、チタンオキシカーボナイトライドまたはチタンアルミニウムオキシカーボナイトライドのいずれかからなる少なくとも1つの層を含み、
前記層は、酸素原子のチタン原子に対するパーセント比が0.01〜0.09の範囲内にあり、アルミニウム原子のチタン原子に対するパーセント比が0〜0.1の範囲内にあり、
前記コーティングは、GPaで表した硬度のGPaで表したヤング率に対する比率が少なくとも0.06である、コーティング付き基材。
【請求項2】
前記コーティングは複数の層を含む、請求項1に記載のコーティング付き基材。
【請求項3】
前記複数の層のうちの少なくとも1つの層が、窒化チタン、炭窒化チタン、酸化アルミニウム、窒化ジルコニウム、および炭窒化ジルコニウムからなる群から選択される材料を含む、請求項2に記載のコーティング付き基材。
【請求項4】
前記複数の層のうちの少なくとも1つの層が接着層である、請求項2に記載のコーティング付き基材。
【請求項5】
前記コーティングの厚さが1μm〜25μmの範囲内にある、請求項1に記載のコーティング付き基材。
【請求項6】
チタンオキシカーボナイトライドまたはチタンアルミニウムオキシカーボナイトライドからなる前記少なくとも1つの層の厚さが1μm〜20μmの範囲内にある、請求項1に記載のコーティング付き基材。
【請求項7】
前記基材が切削インサートである、請求項1に記載のコーティング付き基材。
【請求項8】
前記基材が、超硬合金、セラミック、サーメット、および鋼からなる群から選択される材料を含む、請求項1に記載のコーティング付き基材。
【請求項9】
コーティング付き基材を作製する方法であって、
a)基材表面を有する基材を用意する工程と、
b)コーティングを前記基板表面に堆積させる工程と、
を含み、
前記堆積させる工程が、チタンオキシカーボナイトライドまたはチタンアルミニウムオキシカーボナイトライドのいずれかからなる少なくとも1つの層を、750℃〜950℃の範囲内の基材温度で、かつ水素ガスの窒素ガスに対する比率が少なくとも5である雰囲気内において、MV−CVDにより堆積させることを含み、
前記層が、酸素原子のチタン原子に対するパーセント比が0.01〜0.09の範囲内にあり、アルミニウム原子のチタン原子に対するパーセント比が0〜0.1の範囲内にあり、
前記コーティングは、GPaで表した硬度のGPaで表したヤング率に対する比率が少なくとも0.06である、前記方法。
【請求項10】
チタンオキシカーボナイトライドまたはチタンアルミニウムオキシカーボナイトライドのいずれかの少なくとも1つの層をMT−CVDにより堆積させる前記工程が、四塩化チタン、炭素源ガス、および酸素源ガスを含む雰囲気を使用することを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記炭素源ガスがアセトニトリルである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記酸素源ガスが、一酸化炭素、亜酸化窒素、および一酸化窒素からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記雰囲気が、三塩化アルミニウムをさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記コーティングの厚さが2μm〜25μmの範囲内にある、請求項9に記載の方法。
【請求項15】
チタンオキシカーボナイトライドまたはチタンアルミニウムオキシカーボナイトライドからなる前記少なくとも1つの層の厚さが1μm〜20μmの範囲内にある、請求項9に記載の方法。
【請求項16】
前記基材が切削インサートである、請求項9に記載の方法。
【請求項17】
前記基材が、超硬合金、セラミック、サーメット、および鋼からなる群から選択される材料を含む、請求項9に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−183635(P2012−183635A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−46136(P2012−46136)
【出願日】平成24年3月2日(2012.3.2)
【出願人】(399031078)ケンナメタル インコーポレイテッド (182)
【氏名又は名称原語表記】Kennametal Inc.
【住所又は居所原語表記】1600 Technology Way Latrobe PA 15650−0231, USA
【Fターム(参考)】