説明

コールドスプレーコーティングのための装置、システム及び方法

【課題】コールドスプレーコーティングの施工を簡略化し、且つコールドスプレーコーティングの施工効率を増加させる方法、システム、及び装置を提供する。
【解決手段】コールドスプレーコーティングシステムは、ノズル部材214によって画成されるノズル開口部218からガス流及び皮膜材料の粒体を放出し、皮膜材料の粒体が基板の第1の領域に衝突し結合するように動作可能なノズル部材214を有するコールドスプレーコーティングガンと、基板の第1の領域を加熱するように動作可能な熱源部材202と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
コールドスプレーコーティングシステム及び方法は、基板に様々なタイプの皮膜を施工するのに用いられる。例えば、鋼鉄機械部品は、機械部品の腐食を防ぐために材料の保護層で被覆することができる。
【0002】
コールドスプレー法は、例えばヘリウム、窒素及び空気のような高圧ガスと、例えば金属、耐火金属、合金及び複合材料の粉体状皮膜材料とを受け入れるスプレーガンを用いる。粉体粒子は、スプレーガン内のガス流に高圧で導入され、ノズルから放出される。ガス流速は超音速とすることができる。粒子は、ガス流中で高速に加速され、超音速速度に達することができる。
【0003】
粉体は高速で基板に衝突する。粉体の運動エネルギーにより、基板との衝突時に粉体粒子の変形及び平坦化が起こる。平坦化は、基板との金属結合、機械的結合又は金属結合と機械結合の組合せを促進し、基板上に保護皮膜を生じる。コールドスプレー法の利点の1つは、飛行中に粒子の相変化又は酸化が皆無であること、及び結合粒子の接着強度が高いことである。
【0004】
基板によっては、皮膜施工後に熱処理されるものもある。熱処理は、例えば、アニーリングのためにオーブン又は炉内に基板を配置する段階を含む場合がある。被覆基板をアニーリングするステップは、処理の複雑さ及び処理の持続時間を増大させ、使用する工業資源及びエネルギーが付加される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献2】米国特許第5302414号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、コールドスプレーコーティングの施工を簡略化し、且つコールドスプレーコーティングの施工効率を増加させる方法、システム及び装置が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
例示的な実施形態は、基板に材料皮膜を施工するためのコールドスプレーコーティングガンと、基板の第1の領域を加熱するように動作可能な加熱部材とを含む。本実施形態はさらに、ノズル部材によって画成されたノズル開口部からガス流及び皮膜材料の粒体を放出し、皮膜材料の粒体が基板の第1の領域に衝突し結合するように動作可能なノズル部材を含む。
【0008】
コールドスプレーコーティングシステムの例示的な実施形態は、ノズル部材によって画成されたノズル開口部からガス流及び皮膜材料の粒体を放出し、皮膜材料の粒体が基板の第1の領域に衝突し結合するように動作可能なノズル部材を有するコールドスプレーコーティングガンと、基板の第1の領域を加熱するように動作可能な熱源部材とを含む。
【0009】
基板にコールドスプレーコーティングする例示的な方法は、コールドスプレーコーティングシステムを用いて皮膜材料を基板の第1の領域に施工する段階と、被覆された基板の第1の領域を加熱する段階とを含む。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】コールドスプレーシステムの例示的な実施形態を示す図。
【図2】スプレーガン組立体の例示的な実施形態の部分切り欠き上面図。
【図3】図2の線A−Aに沿ったスプレーガン組立体の部分切り欠き正面図。
【図4】コールドスプレーガン組立体を用いた例示的なコールドスプレー法を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
上記その他の特徴、態様、及び利点は、図面を通して同様の参照符合が同様の要素を表す添付図面を参照して以下の詳細な説明を読むとより理解されるであろう。
【0012】
以下の詳細な説明において、種々の実施形態の完全な理解を提供するために、多くの特定の詳細が記載される。しかしながら、実施形態は、これらの特定の詳細なしに実施することができ、図示の実施形態に限定されず、多様な代替の実施形態で実施することができる点は、当業者であれば理解するであろう。場合によっては、公知の方法、手順、及び部品は詳細に説明していない。
【0013】
さらに、種々の工程は、本発明の実施形態を理解するための助けとなる様態で実施される複数の別個のステップとして説明することができる。しかしながら、記載の順序は、これらの工程が提示された順序で実施される必要があること、又は同等の順序に依存していることを意味するものと解釈するべきではない。さらに、表現「一実施形態では」又は「ある実施形態では」の繰り返しの使用は、必ずしも同じ実施形態について言及している訳ではないが、同じ実施形態を指すことも可能である。最後に、本明細書で使用される用語「備える」、「含む」、及び同様のものは、別途指定されない限り、同義語であることを意味する。
【0014】
コールドスプレーコーティングシステムは、コールドスプレーガンを用いて対象物(基板)の表面に皮膜を施工する。図1は、コールドスプレーシステム100の例示的な実施形態を示す。システム100は、スプレーガン102と、粉体供給機104と、制御ユニット106と、例えばレーザ及び発熱素子のような熱源108とを含む。システム100はまた、ガス外層ハウジング部材110と、ガス加熱器112とを含むことができる。スプレーガン102は、粉体ライン114を介して粉体供給機104に接続され、ガスライン116を介してガス加熱器112に接続される。センサライン118は、スプレーガン102内の温度及び圧力センサ(図示せず)を制御ユニット106に通信可能に接続することができる。制御ライン120は、制御ユニット106をガス加熱器112、粉体供給機104、熱源108、及びスプレーガン102内のセンサに通信可能に接続することができる。ガス源はガス外層ハウジング部材110に接続することができる。
【0015】
動作中、スプレーガン102は、ガス加熱器112を介してガス源からの加圧ガスを受ける。ガス加熱器112は、ガスを加熱してガス内の音速を増大させる。別の実施形態において、ガス加熱器112は迂回することができ、加圧空気は加熱されない。粉体化皮膜材料が、粉体ライン114を介してスプレーガン102に加圧下で供給される。皮膜材料は、スプレーガン102内部でガス流中に導入される。皮膜材料は、スプレーガン102の収束又は拡大領域に供給することができる。膨張ガス及び皮膜材料の流が、スプレーガン102内のノズルの拡大領域から出る。皮膜材料が対象物(基板)122に衝突すると、皮膜材料内の粒体が平坦化及び変形されて、基板122上に皮膜を形成する。制御ユニット106は、例えばガス加熱器112、粉体供給機104を含めて、処理を制御し、スプレーガンセンサからの圧力及び温度測定値を受信する。
【0016】
図示の実施形態は熱源108を含む。熱源108は、1以上のレーザ又は例えば発熱素子のような他のタイプの熱源を含むことができる。例示目的として実施形態は、熱源108としてレーザユニットを含む。レーザは、レーザ光ビーム(図示せず)を放出する。レーザ光ビームを用いて、皮膜材料の施工前に基板122の領域を予熱することができる。皮膜材料施工前の基板122の領域の予熱は、施工した皮膜の性能及び特性を改善するのに望ましいとすることができる。また、予熱を用いて、皮膜材料の追加皮膜の施工前に基板の被覆領域を加熱することができる。
【0017】
図示の実施形態は、皮膜材料及び被覆される基板のタイプに部分的に基づく加熱目的に適切なあらゆるタイプのレーザを用いることができる熱源108を含む。適切なレーザの実施例は、ダイオード型レーザである。ダイオードレーザは、600〜900nmの波長でレーザビームを放射し、加熱のため104W/cm2〜105W/cm2の範囲内の適切な出力密度を有する。レーザビームの形状は、コールドスプレーノズルから放出される皮膜材料パターンの幅及び断面に合わせて調整することができる。他の適切なレーザの実施例は、600〜1100nmの波長を有するNd:YAGレーザ及びYbドープファイバーレーザを含む。セラミック皮膜材料が施工されると、約10ミクロンの波長を有するCO2レーザを用いることができる。
【0018】
また、熱源108を用いて、皮膜材料の施工に続いて基板の被覆領域を加熱することができる。被覆領域の加熱は、皮膜をアニーリングし、特定の皮膜材料と基板との組合せに対して実施することができる。付与熱量及び結果として得られる温度は、特定の基板・皮膜の組合せ並びに結果として得られる所望の特性によって決まることになる。
【0019】
熱源108は、スプレーガン102を備えたマニピュレータ上か、又は別の取り付け装置上に別個に取り付けることができる。レーザユニットからのビームは、スプレーガン102が移動する経路と同様の経路上を移動する。従って、スプレーガン102が基板122に皮膜を施工するにつれて、レーザユニットからのビームは、基板122に施工される皮膜材料の流に先導及び/又は後続することができる。
【0020】
従来のコールドスプレーシステム及び方法は、皮膜材料を基板122上にアニーリングするのに炉又はオーブンを用いていた。炉又はオーブンの使用は、第2の処理ステップ及び追加の装置を生じる結果となった。皮膜材料が施工されている間にレーザビームにより加熱することで、より効率的で効果的なシステム及び方法をもたらすことになる。レーザの強さ及び強度は、基板及び皮膜の組合せの設計仕様に応じて、基板・皮膜組合せの精密な加熱を達成するように較正される。
【0021】
ガス外層ハウジング部材110を用いて、膨張ガス流及び皮膜材料の周囲にガスの外層を施工することができる。ガスの外層は、材料の酸化に作用する幾つかの施工処理に望ましいとすることができる。例えば銅のような、一部の皮膜材料では、酸化は望ましくない場合があり、基板122を加熱するレーザビームの使用によって増大される可能性がある。不活性ガスの外層は、酸化を制限するのに用いることができる。例えばチタンのような他の皮膜材料において、酸化は望ましいとすることができる。酸化が望ましい場合、酸素の外層を用いて酸化を促進することができる。ガス外層ハウジング部材110は、スプレーガン102が皮膜を施工するにつれて、スプレーガン102と同様の経路を辿ることができる。ガス外層は、必要であれば加熱後に皮膜/基板の冷却を行うのに用いることができる。これは、例えば、感熱材料(長期間の高温に耐えることができない材料、又は高温での迅速酸化の影響を受けやすい材料)を伴う場合など、一部の応用に望ましいとすることができる。
【0022】
図2は、ノズル214を有するスプレーガン組立体200の例示的な実施形態の部分切り欠き上面図を示し、ノズル214によって画成される収束領域212及び拡大領域216を含む。スプレーガン組立体200の実施形態では、レーザ202及び204とガス外層ハウジング部材206とを単一のスプレーガン組立体内に組み込むことによって、上述のシステム100が簡略化される。図示の実施形態は、2つのレーザ202及び204を含むが、別の実施形態は、単一のレーザ、又は2つよりも多いレーザを含むことができる。スプレーガン組立体200のさらに別の実施形態は、ガス外層ハウジング部材206を含まない場合もある。
【0023】
動作中、スプレーガン組立体200は、プロセス入口208を介してプロセスガスを受け入れて、粉体入口210を介して粉体化皮膜材料を受け入れる。皮膜材料は、収束領域112内でプロセスガスに導入される。しかしながら、別の実施形態において、粉体は、拡大領域216に導入することができる。皮膜材料及びプロセスガスは、拡大領域216の端部の出口開口部218でノズル214から出る。レーザ202及び204は、図示の実施形態ではノズル214上に取り付けられるが、しかしながら、別の実施形態において、レーザ202及び204は、スプレーガン組立体200の他の部分に取り付けられるか、又はコールドスプレーガン組立体200とは別個に取り付けることができる。レーザ202及び204は、制御ユニット106に通信可能に接続される。別の実施形態において、レーザ及びガス外層システム206は、別個の制御ユニットを含むことができる。スプレーガン組立体202は、ノズル214に取り付けられたガス外層ハウジング部材206を含む。別の実施形態において、ガス外層ハウジング部材206は、スプレーガン組立体200の他の部分に取り付けることができる。ガス外層ハウジング部材206は、加圧ガスを受ける第1の開口部220を含む。加圧ガスは、第2の開口部222を介してガス外層ハウジング部材206から出る。補正距離(x)は、拡大領域216の端部の出口開口部218とガス外層ハウジング部材206の第2の開口部222とによって画成される。距離(x)は、幾つかの実施形態においては、ガス外層ハウジング部材206をより効果的に利用するように調整することができる。図3は、線A−A(図2の)に沿ったスプレーガン組立体200の部分切り欠き正面図を示し、第1及び第2のレーザ202及び204と、拡大領域216の端部の出口開口部218と、ガス外層ハウジング部材206の第2の開口部222とを含む。
【0024】
図4は、コールドスプレーガン組立体200を用いた例示的なコールドスプレー法を示す。図4は、基板122の一部を含む。第1の領域406に第1のレーザビーム、スプレーガン102から放出されるスプレーパターン402、被覆領域408、及び第2の領域404に第2のレーザビームを含む。システム100が左から右に移動すると、第1のレーザビームが基板406の第1の領域を加熱し、基板に皮膜材料を準備する。スプレーパターン402が第1のレーザビームを追従し、皮膜材料を基板122に施工する。第2のレーザビームが被覆領域408を加熱し、皮膜材料をアニーリングする。スプレーパターン402からのレーザビームのパターン、強度、及び距離を調整して、例えば、用いられる皮膜材料及び処理に用いられる基板材料のような、要因に応じて皮膜材料を効果的に施工することができる。パターン402は、円形、矩形、又は望ましい他のあらゆる断面とすることができる。例証として、円形断面を示している。
【0025】
図4に示す方法は、2つのレーザの使用に限定されず、レーザの別の組合せで実施することができる。例示の方法は、皮膜材料を施工する前に基板を予熱すること、及び皮膜材料をアニーリングすることの双方に限定されず、予熱処理及びアニーリング処理を単独又は組み合わせて含むことができる。また、ガス外層ハウジング部材206を用いて、望ましい場合にガスを放出することによって材料の酸化に作用することができる。他の実施形態は、上記の領域406及び404を加熱するために他の熱源を用いることができる。従って、図4に示した方法は、熱源としてレーザに限定されず、他のタイプの熱源もまた用いることができる。
【0026】
本明細書は、最良の形態を含む実施例を用いて本発明を開示し、さらに、あらゆる当業者があらゆるデバイス又はシステムを実施及び利用すること及びあらゆる包含の方法を実施することを含む本発明を実施することを可能にする。本発明の特許保護される範囲は、請求項によって定義され、他の実施例を含むことができる。このような他の実施例は、請求項の文言と差違のない構造要素を有する場合、或いは、請求項の文言と僅かな差違を有する均等な構造要素を含む場合には、本発明の範囲内にあるものとする。
【符号の説明】
【0027】
100 コールドスプレーシステム
102 スプレーガン
104 粉体供給機
106 制御ユニット
108 熱源
110 ハウジング部材
112 ガス加熱器
114 粉体ライン
116 ガスライン
118 センサライン
120 制御ライン
122 対象物(基板)
200 スプレーガン組立体
202 レーザ
204 レーザ
206 ハウジング部材
208 プロセス入口
210 粉体入口
212 収束領域
214 ノズル
216 拡大領域
218 出口開口部
220 第1の開口
222 第2の開口
402 スプレーパターン
404 第2の領域
406 第1の領域
408 被覆領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズル部材(214)によって画成されるノズル開口部(218)からガス流及び皮膜材料の粒体を放出して、皮膜材料の粒体が、基板の第1の領域(406)に衝突し結合するように動作可能なノズル部材(214)を有するコールドスプレーコーティングガン(102)と、
基板の第1の領域(406)を加熱するように動作可能な熱源部材(202)と、
を含むコールドスプレーコーティングシステム(100)。
【請求項2】
当該システムがさらに、基板の被覆された第1の領域(406)を加熱するように動作可能な第2の熱源部材(204)を含む、請求項1記載のシステム。
【請求項3】
当該システムがさらに、基板の被覆領域(408)を加熱するように動作可能な第2の熱源部材(204)を含む、請求項1記載のシステム。
【請求項4】
当該システムがさらに、第1の開口部(220)内に加圧ガスを受け、第2の開口部(220)から加圧ガスの外層を放出するように動作可能な内部キャビティ(112)を備えるハウジング部材(110)を含む、請求項1記載のシステム。
【請求項5】
当該システムがさらに、第1の熱源部材(202)を制御するように動作可能な制御装置(106)を含む、請求項1記載のシステム。
【請求項6】
当該システムがさらに、第2の熱源部材(204)を制御するように動作可能な制御装置(106)を含む、請求項2記載のシステム。
【請求項7】
当該システムがさらに、加圧ガスの流量を制御するように動作可能な制御装置(106)を含む、請求項4記載のシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−201415(P2010−201415A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−278(P2010−278)
【出願日】平成22年1月5日(2010.1.5)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】