説明

ゴムライニング方法

【課題】ライニング対象が鋼板以外の金属材料、とりわけ銅又は銅合金にて形成されている場合においても、加硫後のライニングゴムに膨れが発生することのないゴムライニング方法を提供する。
【解決手段】未加硫ゴムシート11製造工程、未加硫ゴムシート11をライニング対象金属13の表面に貼着させる貼着工程、及び未加硫ゴムシート11を加熱、加硫する加硫工程を有し、未加硫ゴムシート11とライニング対象金属13面の間に、複数本の撚り糸15を少なくとも一方の端部が未加硫ゴムシート11の端面に至るように配設するゴムライニング方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板以外の金属材料、とりわけ銅又は銅合金にて形成された配管、タンク、缶体などにゴムライニングを行うゴムライニング方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
施工対象面に未加硫ゴムシートを貼着して加熱、加硫するゴムライニング法において従来一般的に行われていたハンドローラーによる未加硫ゴムシートの貼着におけるライニング対象物とゴムライニング層の間に発生する空気溜まりの発生防止のために、未加硫ゴムシートの接着面に紐状ゴムを配設し、ライニング対象面との間を減圧しながら貼着する技術が公知である(特許文献1)。特許文献1に方法は紐状ゴムの周縁、特にライニング対象面と紐状ゴムのライニング対象との接触面の両側に細い空隙を形成し、該空隙を通じて未加硫ゴムシートとライニング対象との接着面の間の空気を外に導いて排出し、加硫後のライニングゴムに発生する膨れを防止するものである。
【0003】
【特許文献1】特開2004−74683号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示の発明は、ライニング対象が一般的に使用される鋼材である場合には有効である。
【0005】
しかし、ライニング対象が鋼板以外の金属材料、とりわけ銅又は銅合金にて形成されている場合、特許文献1記載の方法によっても、加硫後のライニングゴムに膨れが発生することが判明した。
【0006】
本発明は、上記公知技術の問題点に鑑みて、ライニング対象が鋼板以外の金属材料、とりわけ銅又は銅合金にて形成されている場合においても、加硫後のライニングゴムに膨れが発生することのないゴムライニング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、未加硫ゴムシート製造工程、前記未加硫ゴムシートをライニング対象金属面に貼着させる貼着工程、及び前記未加硫ゴムシートを加熱、加硫する加硫工程を有するゴムライニング方法であって、
前記未加硫ゴムシートと前記ライニング対象金属面の間に、複数本の撚り糸を少なくとも一方の端部が前記未加硫ゴムシートの端面に至るように配設することを特徴とする。
【0008】
係る構成のゴムライニング方法によれば、ライニング対象を構成する金属が銅や銅合金であっても、ライニングゴムに膨れが発生することがない。ライニング対象を構成する金属が銅や銅合金である場合に特許文献1の技術によってもライニングゴムに膨れが発生する理由は明らかではないが、加硫反応中にライニング対象面と未加硫ゴムシートとの間にガスが発生して膨れが発生するものと推測される。本発明によりライニングゴムの膨れ発生が防止されるのは、織り糸を構成するフィラメント間に織り糸の長さ方向に形成されるわずかな隙間を通じてガスが積層面から排出されることによるものと推定される。
【0009】
上記のゴムライニング方法においては、前記未加硫ゴムシートと前記ライニング対象金属面の間に、クロロプレンゴム未加硫シートを配設し、前記撚り糸は前記クロロプレンゴム未加硫シートと前記ライニング対象金属面の間に配設することが好ましい。
【0010】
係る構成のライニング方法により、より有効に膨れの発生が防止され、ライニングゴム層とライニング対象金属との接着強度に優れたゴムライニングを行うことができる。
【0011】
また上記のゴムライニング方法においては、前記撚り糸は、太さが0.3〜2.0mmであることが好ましい。
【0012】
撚り糸の太さが0.3mm未満の場合には撚り糸が細すぎるためにガスの排出が充分に行われ難く、ライニングゴムの膨れの発生が充分に防止できない。また2.0mmを超える場合には太すぎてゴムシートとライニング対象面との境界部に形成される空隙が大きくなって好ましくない。撚り糸の太さは、0.4〜1.5mmであることがより好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のゴムライニング方法における未加硫ゴムシートを構成するゴム材料は、公知の耐蝕ゴム材料を使用することができ、具体的には天然ゴム又はクロロプレンゴムを使用することが好ましい。ライニング対象との接着面にクロロプレンゴム未加硫ゴムシートを配設する場合には、外側の未加硫ゴムシートは原料ゴムとして天然ゴムを使用したものであることが好ましい。
【0014】
未加硫ゴムシートには、公知の混練方法により、必要に応じて公知の添加剤から選択される1種以上の添加剤を混練添加することができる。係る添加剤としては、具体的には、充填剤、加工助剤、可塑剤(プロセスオイル)、タッキファイヤー、加硫剤、加硫促進剤などが例示される。
【0015】
未加硫ゴムシートの製造方法は、公知の方法が使用可能であり、押出機を使用した押出成形法やカレンダーロールを使用したシート化方法が例示される。未加硫ゴムシートの厚さは、一般的には1〜8mmであり、3〜6mmであることが好ましい。また接着層として使用するクロロプレン未加硫ゴムシートの厚さは、1〜3mmであることが好ましい。
【0016】
本発明のゴムライニング方法に使用する撚り糸は紡績糸であってもよくフィラメント糸であってもよい。撚り糸を構成する繊維材料は公知の繊維材料を使用することができ、具体的には綿糸、羊毛糸などの天然繊維、ナイロン、ポリエステル、レーヨンなどの合成繊維を例示することができる。撚り糸を構成するフィラメントの太さは、撚り糸の長さ方向の通気性が確保されれば特に限定されないが、略綿糸の太さ以上であることが好ましい。撚り糸として綿糸を使用した場合、撚り糸を構成するフィラメント数は、6本(呼称6本;撚り糸の太さが0.52mm)〜18本(呼称18本;撚り糸の太さが1.0mm)であることが好ましく、9本〜12本であることがより好ましい。
【0017】
ライニング対象の接着面は、公知の接着処理をしておくことが好ましい。接着処理としては、ショットブラスト等の研磨処理、接着力を向上させるためのプライマー処理、接着剤を塗布する接着剤処理、その他表面処理、表面補修処理などが例示され、1種以上が行われる。
【実施例1】
【0018】
図1は、本発明のゴムライニング方法における貼着工程を例示した部分断面図を有する斜視図であり、図2は、図1の撚り糸の配設方向に垂直方向の部分断面図である。本実施形態においては、平板面にライニングを行う場合の例を示すが、曲率半径の比較的大きなライニング対象にも同様に適用できる。
【0019】
図1、2に示したように、未加硫ゴムシート製造工程にて製造された未加硫ゴムシート11は、貼着工程においてライニング対象面13に貼着される。ライニング対象13の表面には撚り糸15が、端部の少なくとも一端がライニングゴムの端面に至るように配設されている。係る構成によって撚り糸を構成するフィラメントの間に形成された空隙を通じてライニング対象13面とゴムシート11の間に加硫工程において発生するガスが排出され、ライニングゴムの膨れが防止される。図1(a)はライニング対象が平板でライニング対象の端部とライニングゴムの端部が一致している例であり、図1(b)はライニング対象の端部がフランジを形成する場合のように折り曲げられており、ライニングゴムがライニング対象の端部に至っていない例であり、いずれも撚り糸15はライニングゴムの端面に至るように配設されている。
【0020】
撚り糸15を未加硫ゴムシート11とライニング対象13の表面との間に配設する方法としては、未加硫ゴムシート11製造後にその表面に撚り糸15を圧着し、撚り糸15の圧着面をライニング対象13の表面に貼着する方法、所定の接着処理をしたライニング対象13の表面に撚り糸15を、接着剤の粘着性を利用して貼着して配設し、未加硫ゴムシートを貼着する方法などが例示される。これらの中でも未加硫ゴムシート11製造後にその表面に撚り糸15を圧着する方法が簡便なライニングを行えるので好ましい。
【0021】
撚り糸15の配列形態は特に限定されるものではないが、直線的に平行に配設することが好ましい。撚り糸15の配設間隔は、100〜200mmであることが好ましく、間隔が広すぎるとライニングゴムに膨れが発生し易くなり、間隔が狭すぎると工数が多くなり、接着面積の減少によるライニングゴムとライニング対象との接着強度の低下が起こるために好ましくない。
【0022】
貼着工程は、未加硫ゴムシート11をライニング対象面13にハンドローラーなどを使用して手作業で行ってもよく、未加硫ゴムシート11とライニング対象面13との間を減圧吸引することにより貼着してもよい。未加硫ゴムシート11とライニング対象面13との間を減圧する場合には、未加硫ゴムシート11の周縁部を圧着して仮止めし(仮止め工程)、その後未加硫ゴムシート11とライニング対象面13との層間を減圧する貼着工程とすることが好ましい。
【0023】
貼着工程を終了後には、一般的には過熱水蒸気を使用して未加硫ゴムシート11を加熱し、加硫を行う(加硫工程)。加硫工程の終了後には、撚り糸15の端部が露出したライニングゴムの端面は、未加硫ゴムシートを貼着して加熱加硫する方法、反応硬化性樹脂又はシーラントを塗布して反応硬化させる方法などにより封止する(端部仕上げ工程)。
【実施例2】
【0024】
図3は未加硫ゴムシート11とライニング対象13の表面との間に、クロロプレンゴム未加硫シート17を配設し、撚り糸15をクロロプレンゴム未加硫シート17とライニング対象13の表面の間に配設した実施態様を例示した断面図である。この例においては、クロロプレンゴム未加硫シート17と未加硫ゴムシート11とは別々に作製した例を示したが、クロロプレンゴム未加硫シート17と未加硫ゴムシート11とを積層して使用して貼着工程に供してもよい。
【実施例3】
【0025】
(実施例1)
クロロプレンゴム100重量部、カーボンブラック35重量部、加硫促進剤ノクセラーM(大内新興化学工業)を2重量部、加硫剤としてイオウ1重量部を常法により混練して未加硫ゴムとした。この未加硫ゴムをベント押出機に供給して幅900mm,厚さ4mmの未加硫ゴムシートを押し出し、押し出し後に撚り糸を構成するフィラメント数が9本(呼称9本)の綿糸をシートの長さ方向に150mm間隔で供給し、外径100mmの紙管にて軽く圧着した(未加硫ゴムシート製造工程)。
【0026】
ライニング対象として無酸素銅C1020P板を使用し、表面を脱脂、ブラスト処理を行って表面粗さをRa(JIS B 0601に準拠して測定した値)にて50μm程度にした後に接着剤処理を行った。接着剤は金属面にメタロックMS(東洋化学研究所)を塗布、乾燥し、さらに共糊として#941(東洋ゴム工業;クロロプレンゴムの溶液)を塗布、乾燥した。
【0027】
接着剤処理を行ったライニング対象面に綿糸を貼着した未加硫ゴムシートを貼着した(貼着工程)。未加硫ゴムシートを貼着したライニング対象の金属板を加硫缶に入れ、約120℃にて8時間加熱し、加硫を行った(加硫工程)。
【0028】
冷却後にライニング表面を指触及び目視により観察評価したが、ライニングゴムに膨れの発生は認められなかった。またこのゴムライニングテスト体からサンプルを切り出し、たがねを使用してはつりを行う定性的な接着強度評価を行ったところ、充分な接着強度を有していた。
【0029】
(比較例1)
撚り糸を貼着することなく未加硫ゴムシートを作製し、実施例1と同様にしてライニングを行った。ライニング表面を目視観察したところ、所々に直径30mmの膨れの発生が認められた。
【0030】
(実施例2)
天然ゴム100重量部、カーボンブラック6重量部、加硫促進剤ノクセラーM(大内新興化学工業)を2重量部、加硫剤としてエボナイト粉末30重量部を常法により混練して未加硫ゴムとした。この未加硫ゴムをベント押出機に供給して幅900mm,厚さ4mmの未加硫ゴムシートを押し出した(未加硫ゴムシート製造工程)。接着層を構成するクロロプレン未加硫ゴムシートは、実施例1記載の未加硫ゴムを使用して同様に厚さ2mmの未加硫ゴムシートを押し出し、押し出し後に撚り糸を構成するフィラメント数が9本(呼称9本;太さ約0.7mm)の綿糸をシートの長さ方向に150mm間隔で供給し、外径100mmの紙管にて軽く圧着した。
【0031】
実施例1と同じライニング対象を使用し、無酸素銅板表面に最初にクロロプレン未加硫ゴムシートをハンドローラーにて貼着し、次いで天然ゴムを使用した未加硫ゴムシートをハンドローラーにて貼着した。2層の未加硫ゴムシートを貼着したライニング対象の金属板を加硫缶に入れ、約120℃にて24時間加熱し、加硫を行った(加硫工程)。
【0032】
冷却後にライニング表面を指触及び目視により観察評価したが、ライニングゴムに膨れの発生は認められなかった。またこのゴムライニングテスト体からサンプルを切り出し、たがねを使用してはつりを行う定性的な接着強度評価を行ったところ、充分な接着強度を有していた。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明のゴムライニング方法における貼着工程を例示した部分断面図を有する斜視図
【図2】図1の撚り糸の配設方向に垂直方向の部分断面図
【図3】未加硫ゴムシートとライニング対象の表面との間に、クロロプレンゴム未加硫シートを配設し、撚り糸をクロロプレンゴム未加硫シートとライニング対象の表面の間に配設した実施態様を例示した断面図
【符号の説明】
【0034】
11 未加硫ゴムシート
13 ライニング対象
15 撚り糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
未加硫ゴムシート製造工程、前記未加硫ゴムシートをライニング対象金属面に貼着させる貼着工程、及び前記未加硫ゴムシートを加熱、加硫する加硫工程を有するゴムライニング方法であって、
前記未加硫ゴムシートと前記ライニング対象金属面の間に、複数本の撚り糸を少なくとも一方の端部が前記未加硫ゴムシートの端面に至るように配設することを特徴とするゴムライニング方法。
【請求項2】
前記未加硫ゴムシートと前記ライニング対象金属面の間に、クロロプレンゴム未加硫シートを配設し、前記撚り糸は前記クロロプレンゴム未加硫シートと前記ライニング対象金属面の間に配設することを特徴とする請求項1に記載のゴムライニング方法。
【請求項3】
前記撚り糸は、太さが0.3〜2.0mmであることを特徴とする請求項1又は2に記載のゴムライニング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−160673(P2007−160673A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−359164(P2005−359164)
【出願日】平成17年12月13日(2005.12.13)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】