説明

サスペンション制御装置

【課題】車両振動の各振動成分の各バネ上挙動を抑制する。
【解決手段】サスペンション制御装置は、減衰させる制御力の出力可能な範囲を算出する制御力可変範囲演算部32と、制御力可変範囲演算部32が算出した出力可能な範囲と車両振動のバウンス振動成分、車両振動のピッチ振動成分、及び車両振動のロール振動成分のうちの少なくとも2つの振動成分から算出された各制御力とをそれぞれ比較し、車両振動のバウンス振動成分、車両振動のピッチ振動成分、及び車両振動のロール振動成分のうちの前記少なくとも2つの振動成分について前記出力可能な範囲内の制御力を抽出する可変範囲比較部33と、可変範囲比較部33が抽出した各制御力に基づいて、各輪の目標制御力を算出する目標制御力演算部34と、目標制御力演算部34が算出した目標制御力に基づいて、ACTR部を制御する制御信号変換部25とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両振動を制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
車両振動を制御する技術としては、例えば特許文献1に記載の従来技術がある。
この従来技術では、スカイフック理論の下、バウンス、ロール、ピッチに対する要求力を算出する。また、この従来技術では、算出したバウンス、ロール、ピッチの要求力を各輪に配分する。さらに、この従来技術では、各輪について、バウンス、ロール、ピッチの要求力絶対値の内、最大のものを最大要求力として選択する。そして、この従来技術では、選択した最大要求力及びサスペンションストローク速度に基づいて減衰力マップを検索し、減衰力制御のためのオリフィス開度指令を出力する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−1736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前記従来技術では、バウンス、ロール、ピッチの要求力絶対値の内、最大のものを最大要求力として選択するため、その最大要求力は、バウンス、ロール、ピッチの要求力の総和値よりも小さくなる。
さらに、前記従来技術では、最大要求力とサスペンションストローク速度とで符号が不一致となる場合、減衰力が出力されない。
この結果、前記従来技術では、バウンス、ロール、及びピッチ等の車両振動の各振動成分の各バネ上挙動を抑制できない恐れがある。
本発明は、車両振動の各振動成分の各バネ上挙動を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するために、本発明の一態様は、減衰させる制御力の出力可能な範囲を算出する。また、本発明の一態様は、算出した制御力の出力可能な範囲と車両振動のバウンス振動成分、車両振動のピッチ振動成分、及び車両振動のロール振動成分のうちの少なくとも2つの振動成分から算出された各制御力とをそれぞれ比較し、車両振動のバウンス振動成分、車両振動のピッチ振動成分、及び車両振動のロール振動成分のうちの前記少なくとも2つの振動成分について前記出力可能な範囲内の制御力を抽出する。さらに、本発明の一態様は、抽出した各制御力に基づいて目標制御力を算出する。そして、本発明の一態様は、算出した目標制御力に基づいて減衰力を発生させる減衰力発生部を制御する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、車両振動の各振動成分の各バネ上挙動を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本実施形態のサスペンション制御装置の構成例を示す図である。
【図2】制御装置の構成例を示すブロック図である。
【図3】目標制御力マネジメント部の構成例を示すブロック図である。
【図4】制御力可変範囲の設定例を示す図である。
【図5】制御装置における一連の処理例を示すフローチャートである。
【図6】うねり走行時のサスペンションの伸縮状態の一例を示す図である。
【図7】うねり走行時の目標制御力マネジメント部における最終目標制御力の算出処理の一例を示す図である。
【図8】本実施形態の比較例における最終目標制御力の算出処理の一例を示す図である。
【図9】第2実施形態における目標制御力マネジメント部の構成例を示すブロック図である。
【図10】うねり走行時の目標制御力マネジメント部における最終目標制御力の算出処理の一例を示す図である。
【図11】第3実施形態における目標制御力マネジメント部の左前輪に係る構成例を示すブロック図である。
【図12】図11の目標制御力マネジメント部の構成によって実現される、Karnopp近似則を適用した処理の概要を示す図である。
【図13】本実施形態の比較例を示す図である。
【図14】第3実施形態の構成又はその比較例の構成によって処理するバウンス要求力、ピッチ要求力、及びロール要求力の時間変化を示す図である。
【図15】第3実施形態の構成によって、バウンス要求力、ロール要求力、及びピッチ要求力の各要求力に対してKarnopp近似則を適用した処理結果を示す図である。
【図16】第3実施形態の構成とその比較例の構成とで算出される減衰力の違いを示す図である。
【図17】第3実施形態及びその比較例のバネ上上下速度の結果を示す図である。
【図18】第3実施形態及びその比較例のバネ上ピッチレイトの結果を示す図である。
【図19】第3実施形態及びその比較例のバネ上ロールレイトの結果を示す図である。
【図20】第4実施形態における目標制御力マネジメント部の左前輪に係る構成例を示すブロック図である。
【図21】第3実施形態の構成と第4実施形態の構成とでロールレイトの時間変化を比較した図である。
【図22】第3実施形態の構成と第4実施形態の構成とでバウンス速度の時間変化を比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本実施形態を図面を参照しつつ説明する。
(第1実施形態)
第1実施形態は、車両に搭載されるサスペンション制御装置である。
(構成)
図1は、サスペンション制御装置1の構成例を示す図である。
サスペンション制御装置1は、図1に示すように、3個のバネ上上下加速度センサ2a,2b,2c、4個のバネ下上下加速度センサ3FL,3FR,3RL,3RR、前輪操舵角センサ4、後輪操舵角センサ5、ブレーキマスタ圧センサ6、エンジントルクセンサ7、エンジン回転数センサ8、AT入力軸回転数センサ9、AT出力軸回転数センサ10、車速センサ11、及び制御装置12を有している。
【0009】
バネ上上下加速度センサ2a〜2cは、それぞれ車両の任意の位置に搭載されている。このバネ上上下加速度センサ2a〜2cは、バネ上の上下加速度Gs1、Gs2、Gs3を検出する。そして、バネ上上下加速度センサ2a〜2cは、検出したバネ上上下加速度Gs1〜Gs3を制御装置12に出力する。
バネ下上下加速度センサ3FL〜3RRは、バネ下の上下加速度Gu1、Gu2、Gu3、Gu4を検出する。そして、バネ下上下加速度センサ3FL〜3RRは、検出したバネ下上下加速度Gu1〜Gu4を制御装置12に出力する。
【0010】
前輪操舵角センサ4は、前輪操舵角δfを検出する。そして、前輪操舵角センサ4は、検出した前輪操舵角δfを制御装置12に出力する。
後輪操舵角センサ5は、後輪操舵角δrを検出する。そして、後輪操舵角センサ5は、検出した後輪操舵角δrを制御装置12に出力する。
ブレーキマスタ圧センサ6は、ブレーキマスタ圧Pを検出する。そして、ブレーキマスタ圧センサ6は、検出したブレーキマスタ圧Pを制御装置12に出力する。
【0011】
エンジントルクセンサ7は、エンジントルクTeを検出する。そして、エンジントルクセンサ7は、検出したエンジントルクNを制御装置12に出力する。
エンジン回転数センサ8は、エンジン回転数Neを検出する。そして、エンジン回転数センサ8は、検出したエンジン回転数Neを制御装置12に出力する。
AT入力軸回転数センサ9は、AT入力軸の回転数INREVを検出する。そして、AT入力軸回転数センサ9は、検出したAT入力軸の回転数INREVを制御装置12に出力する。
【0012】
AT出力軸回転数センサ10は、AT出力軸の回転数OUTREVを検出する。そして、AT出力軸回転数センサ10は、検出したAT出力軸の回転数OUTREVを制御装置12に出力する。
車速センサ11は、車速Vを検出する。そして、車速センサ11は、検出した車速Vを制御装置12に出力する。
制御装置12は、各種センサからの検出値に基づいて、アクチュエータを駆動して車両の姿勢を制御するための制御力を車両に付与する。
【0013】
図2は、制御装置12の構成例を示すブロック図である。
制御装置12は、図2に示すように、演算処理部20、制御信号変換部25、及びACTR部26を有している。
演算処理部20は、マイクロコンピュータ及びその周辺回路を備えている。すなわち例えば、演算処理部20は、一般的なECU(Electronic Control Unit)と同様にCPU、ROM、RAM等によって構成されている。そして、ROMには、各種処理を実現する1又は2以上のプログラムが格納されている。CPUは、ROMに格納されている1又は2以上のプログラムに従って各種処理を実行する。
【0014】
そして、演算処理部20は、図2に示すように、目標値演算部21、姿勢偏差演算部22、バネ上姿勢制御力演算部23、状態推定部24、及び目標制御力マネジメント部30を有している。ここで、目標値演算部21、姿勢偏差演算部22、バネ上姿勢制御力演算部23、状態推定部24、及び目標制御力マネジメント部30は、プログラムによって構成されている。
【0015】
目標値演算部21は、前輪操舵角δf、後輪操舵角δr、ブレーキマスタ圧P、エンジントルクTe、エンジン回転数Ne、AT入力軸の回転数INREV、AT出力軸の回転数OUTREV、及び車速Vが入力される。この目標値演算部21は、これら入力値であるドライバ操作量及び車両の状態に基づいて、フィードフォワードによって目標ドライバ制御力及び目標姿勢を算出する。そして、目標値演算部21は、算出した目標ドライバ制御力を目標制御力マネジメント部30に出力する。また、目標値演算部21は、算出した目標姿勢を姿勢偏差演算部22に出力する。
【0016】
ここで、例えば、目標ドライバ制御力とは、運転者が操舵操作したときやブレーキ操作したとき等に対応して発生させるべき減衰力の制御力である。
姿勢偏差演算部22は、目標値演算部21からの目標姿勢と状態推定部24からの実姿勢との偏差(以下、姿勢偏差という。)を算出する。そして、姿勢偏差演算部22は、算出した姿勢偏差をバネ上姿勢制御力演算部23に出力する。
【0017】
バネ上姿勢制御力演算部23は、バネ上のバウンス(ヒーブとも言う。)、ロール、ピッチ各運動自由度又はバネ上平面上の座標が異なる少なくとも任意の3点以上における上下運動自由度における実姿勢と目標値演算部21が算出する目標姿勢との間に仮想的に設定される減衰係数を用いて演算を行う。これにより、バネ上姿勢制御力演算部23は、その減衰係数及び姿勢偏差演算部22からの姿勢偏差に基づいて、目標バネ上姿勢制御力を算出する。そして、バネ上姿勢制御力演算部23は、算出した目標バネ上姿勢制御力を目標制御力マネジメント部30に出力する。
【0018】
ここで、任意の3点の位置は、3個のバネ上上下加速度センサ2a〜2cの位置に対応する。
目標制御力マネジメント部30は、目標値演算部21からの目標ドライバ制御力及びバネ上姿勢制御力演算部23からの目標バネ上姿勢制御力を可変にする。そのために、例えば、目標制御力マネジメント部30は、制御ゲインが可変とされている。又は、例えば、目標制御力マネジメント部30は、フィルタを有している。
【0019】
これにより、目標制御力マネジメント部30は、制御モード、人間の車速に対する感覚、バウンス・ロール・ピッチの各運動方向に対する振動感覚に基づいて、目標ドライバ制御力及び目標バネ上姿勢制御力を補正する。そして、目標制御力マネジメント部30は、補正した目標ドライバ制御力及び目標バネ上姿勢制御力を合成して最終目標制御力を算出する。それから、目標制御力マネジメント部30は、算出した最終目標制御力を制御信号変換部25に出力する。
【0020】
ここで、目標制御力マネジメント部30の構成等をさらに詳しく説明する。
図3は、目標制御力マネジメント部30の構成例を示すブロック図である。
目標制御力マネジメント部30は、図3に示すように、各輪要求力配分演算部31、制御力可変範囲演算部32、可変範囲比較部33、及び目標制御力演算部34を有している。
【0021】
各輪要求力配分演算部31は、目標ドライバ制御力及び目標バネ上姿勢制御力に基づいて、各輪のドライバ入力制御要求力及びバネ上姿勢制御要求力を算出する。そして、各輪要求力配分演算部31は、算出したドライバ入力制御要求力及びバネ上姿勢制御要求力を可変範囲比較部33に出力する。
ここで、各輪要求力配分演算部31が算出するドライバ入力制御要求力及びバネ上姿勢制御要求力は、非減衰力を含む値となっている。
【0022】
制御力可変範囲演算部32は、サスペンションストローク速度に基づいて、各輪について、減衰力として出力可能な制御力可変範囲を算出する。そして、制御力可変範囲演算部32は、算出した制御力可変範囲を可変範囲比較部33に出力する。
ここで、制御力可変範囲演算部32は、制御力可変範囲として、例えば、可変範囲の最大値及び可変範囲の最小値を算出する。
【0023】
また、制御力可変範囲演算部32は、例えば、マップを参照して、サスペンションストローク速度に基づいて制御力可変範囲を算出しても良い。
また、制御力可変範囲演算部32は、図3に示すように、車両の状態量に応じて制御力可変範囲(例えば、可変範囲の最大値及び可変範囲の最小値)を変化させても良い。ここで、車両の状態量とは、バネ上振動の状態量やバネ下振動の状態量である。例えば、バネ上振動の状態量やバネ下振動の状態量に基づき平坦路や悪路を判定し、制御力可変範囲演算部32は、悪路の場合、平坦路の場合よりも制御力が低くなる領域に制御力可変範囲を設定する。
【0024】
ここで、図4は、制御力可変範囲の設定例を示す図である。
制御力可変範囲演算部32は、図4に示すように、平坦路の場合として実線のハッチング範囲によって示す制御力可変範囲に対し、悪路の場合には、点線のハッチング範囲となるように、制御力が低くなる領域に制御力可変範囲を設定する。
【0025】
また、制御力可変範囲演算部32は、図3に示すように、ACTR部26の減衰力の発生可能範囲に応じて制御力可変範囲(例えば、可変範囲の最大値及び可変範囲の最小値)を変化させても良い。例えば、制御力可変範囲演算部32は、各輪のアクチュエータによって構成されているACTR部26においていずれかのアクチュエータが失陥したとき、ACTR部26の減衰力の発生可能範囲が変化してしまう。これに対応して、制御力可変範囲演算部32は、失陥していない他のアクチュエータの駆動によって車両を安定させることができる方向に制御力可変範囲を変化させる。例えば、制御力可変範囲演算部32は、失陥していない他のアクチュエータの減衰力の発生可能範囲を、失陥したアクチュエータの減衰力の発生可能範囲と同等にする。これにより、車両は安定するようになる。
【0026】
また、制御力可変範囲演算部32は、図3に示すように、スポーツモードやコンフォートモード等の走行制御モードに応じて制御力可変範囲(例えば、可変範囲の最大値及び可変範囲の最小値)を変化させても良い。例えば、制御力可変範囲演算部32は、コンフォートモードの場合、スポーツモードの場合よりも制御力が低くなる領域に制御力可変範囲を設定する。すなわち、制御力可変範囲演算部32は、図4に示すように、スポーツモードの場合として実線のハッチング範囲によって示す制御力可変範囲に対し、コンフォートモードの場合には、点線のハッチング範囲となるように、制御力が低くなる領域に制御力可変範囲を設定する。
【0027】
また、制御力可変範囲演算部32は、図3に示すように、急操舵や高G旋回中等の運転者の運転操作量に応じて制御力可変範囲(例えば、可変範囲の最大値及び可変範囲の最小値)を変化させても良い。例えば、制御力可変範囲演算部32は、急操舵や高G旋回中の場合、それ以外の場合(直進時等の通常走行時)よりも車両を安定させることができる方向に制御力可変範囲を変化させる。例えば、制御力可変範囲演算部32は、図4に示すように、急操舵や高G旋回中の場合には実線のハッチング範囲のように、それ以外の場合として点線のハッチング範囲によって示す制御力可変範囲に対し制御力が高くなる領域に制御力可変範囲を設定する。
【0028】
可変範囲比較部33は、各輪のドライバ入力制御要求力及びバネ上姿勢制御要求力と制御力可変範囲とをそれぞれ比較することで、減衰力として出力可能な制御力のみを抽出する。そして、可変範囲比較部33は、各輪のドライバ入力制御要求力から抽出した制御力及び各輪のバネ上姿勢制御要求力から抽出した制御力を目標制御力演算部34に出力する。
【0029】
目標制御力演算部34は、各輪についてドライバ入力制御要求力から抽出された制御力とバネ上姿勢制御要求力から抽出された制御力とを合成して、各輪の最終目標制御力を算出する。そして、目標制御力演算部34は、算出した各輪の最終目標制御力を制御信号変換部25に出力する。
ここで、目標制御力演算部34が算出する最終目標制御力は減衰力相当の制御力となっている。
【0030】
図2に戻り、状態推定部24は、車両からバネ上上下加速度センサ2a〜2c及びバネ下上下加速度センサ3FL〜3RRによって検出された検出値に基づいて、バネ上の上下速度、バネ上のバウンス、ロール及びピッチ速度、4輪のサスペンションストローク速度、並びにバネ上の加速度とバネ下の加速度との相対加速度を推定する。そして、状態推定部24は、推定したバネ上の上下速度、並びにバネ上のバウンス、ロール及びピッチ速度を、バネ上の状態である実姿勢の情報として姿勢偏差演算部22に出力する。また、状態推定部24は、推定したサスペンションストローク速度を、サスペンション状態の情報として制御信号変換部25に出力する。
ここで、バネ上上下加速度センサ2a〜2c及びバネ下上下加速度センサ3FL〜3RRは、路面入力や横風等の外乱により振動する実車(プラント)の車両振動からバネ上上下加速度やバネ下上下加速度を検出する。
【0031】
また、例えば、状態推定部24は、バネ上の加速度とバネ下の加速度との相対加速度に基づいて、4輪のサスペンションストローク速度を推定する。例えば、状態推定部24は、バネ上上下加速度センサ及びバネ下上下加速度センサからの検出値に基づいて、バネ上の加速度とバネ下の加速度との相対加速度を推定する。
また、状態推定部24における演算は、加速度センサ検出値を用いてディジタルフィルタによって擬似積分し速度次元の物理量を推定したり、車輪速などからバネ上/バネ下の状態を検出し、速度次元の物理量を推定したりしても良い。
【0032】
制御信号変換部25は、目標制御力マネジメント部30からの最終目標制御力及び状態推定部24からのサスペンションストローク速度に基づいて、ACTR部26を駆動するためのACTR指令信号又はACTR指令電流を算出する。例えば、制御信号変換部25は、目標制御力マネジメント部30からの最終目標制御力及び状態推定部24からのサスペンションストローク速度とACTR指令信号又はACTR指令電流とが対応付けられたマップを参照して、ACTR指令信号又はACTR指令電流を算出する。そして、制御信号変換部25は、算出したACTR指令信号又はACTR指令電流をACTR部26に出力する。
【0033】
ACTR部26は、バネ上とバネ下に介装された各輪のサスペンションにおいて上下方向に力を発生する機能を有する。このACTR部26は、制御信号変換部25からのACTR指令信号又はACTR指令電流に応じて駆動する。例えば、ACTR部26は、アクティブサスペンション又は減衰力可変ショックアブソーバである。このACTR部26の駆動により、車両は振動(姿勢)が制御される。
【0034】
次に、制御装置12における一連の処理例を説明する。
図5は、制御装置12における一連の処理例を示すフローチャートである。
図5に示すように、先ずステップS1において、制御装置12は、各種データを取得する。ここで、各種データとは、バネ上上下加速度センサ2a〜2c、バネ下上下加速度センサ3FL〜3RR、前輪操舵角センサ4、後輪操舵角センサ5、ブレーキマスタ圧センサ6、エンジントルクセンサ7、エンジン回転数センサ8、AT入力軸回転数センサ9、AT出力軸回転数センサ10、及び車速センサ11の検出値である。
【0035】
次に、ステップS2及びステップS3では、目標値演算部21は、前記ステップS1で取得した前輪操舵角δf、後輪操舵角δr、ブレーキマスタ圧P、エンジントルクTe、エンジン回転数Ne、AT入力軸の回転数INREV、AT出力軸の回転数OUTREV、及び車速Vに基づいて、目標ドライバ制御力及び目標姿勢を算出する。
また、ステップS4及びステップS5では、状態推定部24は、前記ステップS1で取得したバネ上及びバネ下の上下加速度Gs1〜Gs3、Gu1〜Gu4に基づいて、実姿勢及びサスペンションストローク速度を算出する。
【0036】
次に、ステップS6では、姿勢偏差演算部22は、前記ステップS3で算出された目標姿勢と前記ステップS4で算出された実姿勢との姿勢偏差を算出する。
次に、ステップS7では、バネ上姿勢制御力演算部23は、減衰係数及び前記ステップS6で算出された姿勢偏差に基づいて、目標バネ上姿勢制御力を算出する。
次に、ステップS8では、目標制御力マネジメント部30は、前記ステップS2で算出された目標ドライバ制御力及び前記ステップS7で算出された目標バネ上姿勢制御力に基づいて、各輪の最終目標制御力を算出する。
【0037】
次に、ステップS9では、制御信号変換部25は、前記ステップS5で算出されたサスペンションストローク速度及び前記ステップS8で算出された最終目標制御力に基づいて、ACTR指令信号(又はACTR指令電流)を算出する。
次に、ステップS10では、ACTR部26は、前記ステップS9で算出されたACTR指令信号(又はACTR指令電流)に基づいて駆動制御される。
【0038】
(動作等)
本実施形態のサスペンション制御装置1では、最終目標制御力を次のように算出している。
各輪要求力配分演算部31は、非減衰力を含む各輪のドライバ入力制御要求力及び目標バネ上姿勢制御要求力を算出する。一方、制御力可変範囲演算部32は、サスペンションストローク速度に基づいて、各輪について、減衰力として出力可能な制御力可変範囲を予め算出する。さらに、可変範囲比較部33は、各輪要求力配分演算部31が算出した各輪の各要求力と制御力可変範囲演算部32が算出した制御力可変範囲とをそれぞれ比較することで、減衰力として出力可能な制御力のみを抽出する。そして、目標制御力演算部34は、可変範囲比較部33が抽出した各制御力を合成して、減衰力相当の最終目標制御力を算出する。
【0039】
ここで、本実施形態の比較例として、車両振動の少なくとも2自由度以上の振動成分から算出された制御力を用いる場合において、それら制御力を合成した制御力と、減衰力として出力可能な制御力可変範囲とを比較して最終目標制御力を算出する場合を考える。
この場合において、例えばうねり路走行等によってバネ上の振動がバウンス振動成分とピッチ振動成分とで複合されているようなときには、モーダルスカイフック制御として、仮想的にバウンス振動成分の要求力とピッチ振動成分の要求力との合成を行うことが挙げられる。ところが、この場合、モーダルスカイフック制御では、減衰力可変ショックアブソーバの減衰係数が常に正であるために元々出力できない要求力にもかかわらず、要求力同士を打消してしまうことがある。また、Karnopp近似則を適用した場合には、合成後の制御力とサスペンションストローク速度とで符号が一致しないと、結果的に制御力を出力できなくなる。
【0040】
その結果、本実施形態の比較例では、車両振動のバウンス振動成分及びピッチ振動成分の各バネ上挙動を効果的に抑制できなくなってしまう。
これに対して、本実施形態のサスペンション制御装置1では、Karnopp近似則に対応する処理となる制御力可変範囲と制御力との比較を先ず行い、減衰力として出力可能な制御力のみを抽出し、抽出した各制御力を合成して減衰力相当の最終目標制御力を算出している。その結果、本実施形態のサスペンション制御装置1は、車両振動のバウンス振動成分及びピッチ振動成分等の各振動成分の各バネ上挙動を抑制することを実現している。
【0041】
さらに、うねり走行時の目標制御力マネジメント部30における最終目標制御力の算出過程の一例を図6〜図8を参照しつつ説明する。
図6は、うねり走行時のサスペンションの伸縮状態の一例を示す図である。
この例では、うねり走行時に、前輪サスペンションが伸び、後輪サスペンションが縮んだ状態になる。
図7は、図6に示すようなうねり走行時の目標制御力マネジメント部30における最終目標制御力の算出処理の一例を示す図である。なお、この図7に示す例では、目標制御力マネジメント部30は、車両振動のバウンス振動成分に対するバウンス要求力、及び車両振動のピッチ振動成分に対するピッチ要求力から最終目標制御力を算出している。
【0042】
目標制御力マネジメント部30は、図7(a)に示すように、非減衰力を含むバネ上姿勢制御要求力としてバウンス要求力及びピッチ要求力を算出する。そして、目標制御力マネジメント部30は、図7(b)及び(c)に示すように、算出したバウンス要求力及びピッチ要求力と制御力可変範囲とをそれぞれ比較して、バウンス要求力及びピッチ要求力それぞれに対応する制御力を算出(抽出)する。
【0043】
ここで、図7(b)に制御力可変範囲として図示しているグラフは、横軸はサスペンションの位置、縦軸は発生可能な制御力に対応していて、サスペンション毎に発生可能な制御力(減衰力)を模式的に示したものである。
即ち、図7(b)のグラフでは、中央よりも右側の部分が前輪側サスペンションに対応し、左側の部分が後輪側サスペンションに対応するとともに、上側の部分は伸び側減衰力に、下側の部分は縮み側減衰力に対応していて、ハッチングで囲んだ部分の上辺は制御力可能範囲の最大値に、下辺は制御力可能範囲の最小値を表している。
【0044】
例えば、図7(b)の上側のグラフ(バウンス要求力)は、前輪側サスペンションについては、伸び側の減衰力は発生可能であるが、縮み側の減衰力は発生することができないことを表し、それとは逆に、後輪側サスペンションについては、縮み側の減衰力は発生可能であるが、縮み側の減衰力は発生できないことを表している。
即ち、図7(b)の上側のグラフの場合、図面中のグラフにおける左右方向で右側の領域については、上側にのみにハッチングで囲んだ部分があるから、伸び側の減衰力のみが発生可能であることが判り、左側の領域については、下側のみにハッチングで囲んだ部分があるから、縮み側の減衰力のみが発生可能であることが判る。
【0045】
そして、図7の例では、目標制御力マネジメント部30は、同(a)に示すバウンス要求力に関しては、同(b)に示す制御力可変範囲と比較した結果、後輪側サスペンションについて要求される減衰力が伸び側であるのに対し、制御力可変範囲は縮み側でのみ値を有しているため、同(c)に示す可変範囲内制御力は“0”となっている。一方、同じバウンス要求力に関して、前輪側サスペンションについて要求される減衰力は伸び側であるのに対し、制御力可変範囲も伸び側の値を有しているため、同(c)に示す可変範囲内制御力は、伸び側の減衰力が算出されることになる。この場合、要求力が制御力可変範囲内の値であれば、算出される可変範囲内制御力は要求力と同じ値となるが、伸び側ということで一致したとしても、要求力の値が制御力可変範囲の最大値を超えている場合や最小値よりも小さい場合には、その最大値又は最小値が可変範囲内制御力として算出されることになる。
【0046】
なお、図7の例は、バウンス及びピッチという2つの車両振動ついて説明しているが、これにロールが加わった場合には、図7(b)のグラフにもう一軸加わって、三次元のグラフとなり、右前輪、左前輪、右後輪、左後輪の4つのサスペンションのそれぞれに対応して、発生可能な伸び側減衰力又は縮み側減衰力について制御力可変範囲が示されることになる。
【0047】
そして、目標制御力マネジメント部30は、図7(d)及び(e)に示すように、バウンス要求力及びピッチ要求力それぞれに対応する制御力を合成して最終目標制御力を算出する。
この例では、目標制御力マネジメント部30は、制御力可変範囲内の値として抽出できたバウンス要求力のみによって最終目標制御力を算出している。そして、サスペンション制御装置1は、算出した最終目標制御力に基づいて減衰力制御を行う。
【0048】
次に、本実施形態をその比較例と対比して説明する。
図8は、本実施形態の比較例における最終目標制御力の算出処理の一例を示す図である。例えば、この比較例は、特許文献1に記載されている技術と同様な技術となる。
本実施形態の比較例では、図8(a)に示すように、バネ上姿勢制御要求力としてバウンス要求力及びピッチ要求力を算出する。さらに、本実施形態の比較例では、図8(b)及び(c)に示すように、算出したバウンス要求力及びピッチ要求力のうちの最大値を選択する。そして、本実施形態の比較例では、図8(d)及び(e)に示すように、選択した最大値に対してKarnopp近似則を適用し、最終目標制御力を算出(抽出)する。
【0049】
ところが、本実施形態の比較例では、バウンス要求力及びピッチ要求力のうちの最大値を選択するため、その最大値は、バウンス要求力とピッチ要求力との総和値よりも小さい。また、本実施形態の比較例では、Karnopp近似則の適用によって、その最大値とサスペンションストローク速度とで符号が不一致となる場合には減衰力が出力されない。
この結果、本実施形態の比較例では、バウンス、ピッチ等の車両振動の各振動成分の各バネ上挙動を抑制できない恐れがある。よって、本実施形態の比較例では、車速変動の零ラインに戻す減衰力を発生できない恐れがある。
【0050】
これに対して、本実施形態における目標制御力マネジメント部30は、減衰力を発生可能な値として最終目標制御力を算出している。これにより、本実施形態のサスペンション制御装置1は、車両振動の各振動成分の各バネ上挙動を抑制できる。この結果、本実施形態のサスペンション制御装置1は、車速変動の零ラインに戻す減衰力を発生させることができる。
ここで、本実施形態において、制御力可変範囲演算部32は、例えば、出力可能範囲算出手段を構成する。また、可変範囲比較部33は、例えば、制御力抽出手段を構成する。また、目標制御力演算部34は、例えば、目標制御力算出手段を構成する。また、制御信号変換部25は、例えば、制御手段を構成する。
【0051】
(第1実施形態の効果)
第1実施形態は、次のような効果を奏する。
(1)制御力可変範囲演算部32は、減衰させる制御力の出力可能な範囲(制御力可変範囲)を算出する。また、可変範囲比較部33は、制御力可変範囲演算部32が算出した制御力可変範囲と車両振動のバウンス振動成分、車両振動のピッチ振動成分、及び車両振動のロール振動成分のうちの少なくとも2つの振動成分から算出された各制御力とをそれぞれ比較し、車両振動のバウンス振動成分、車両振動のピッチ振動成分、及び車両振動のロール振動成分のうちの前記少なくとも2つの振動成分について制御力可変範囲内の制御力を抽出する。さらに、目標制御力演算部34は、可変範囲比較部33が抽出した各制御力に基づいて、最終目標制御力を算出する。そして、制御信号変換部25は、最終目標制御力に基づいて、減衰力を発生させるACTR部26を制御する。
サスペンション制御装置1は、以上のような最終目標制御力を用いて減衰力制御を行うことによって、車両振動の各振動成分の各バネ上挙動を抑制することができる。
【0052】
(2)制御力可変範囲演算部32は、サスペンションストローク速度に基づいて、制御力可変範囲を算出する。
これにより、制御力可変範囲演算部32は、ACTR部26が発生する減衰力とサスペンションストローク速度との関係を考慮し、制御力可変範囲を算出できる。
(3)制御力可変範囲演算部32は、さらに、ACTR部26の駆動可能な範囲、車両の状態量、車両振動の振動成分を抑制する優先度、車両の走行制御モード、及び運転者による運転操作量の少なくともいずれかに基づいて、制御力可変範囲を算出する。
【0053】
よって、制御力可変範囲演算部32は、ACTR部26の駆動可能な範囲に基づいて制御力可変範囲を算出することで、例えば、ACTR部26を構成する複数のアクチュエータのいずれかのアクチュエータの失陥時に対応させて制御力可変範囲を算出できる。
また、制御力可変範囲演算部32は、車両の状態量に基づいて制御力可変範囲を算出することで、例えば、操作安定性と快適性との両立を図ることが可能な制御力可変範囲を算出できる。
【0054】
また、制御力可変範囲演算部32は、車両の走行制御モードに基づいて制御力可変範囲を算出することで、車両の走行制御モードに応じた車両走行状態に合致させて制御力可変範囲を算出できる。
また、制御力可変範囲演算部32は、運転操作量に基づいて制御力可変範囲を算出することで、運転者の操作に応じた車両走行状態に合致させて制御力可変範囲を算出できる。
【0055】
(第2実施形態)
次に第2実施形態を図面を参照して説明する。なお、前記第1実施形態と同様な構成については同一の符号を付して説明する。
第2実施形態では、ACTR部26の発生力範囲が無限であり(制限がなく)、かつ制御力可変範囲を特に制限していない。そして、第2実施形態では、制御力可変範囲演算部32は、サスペンションストローク速度を用いたKarnopp近似則が適用されて、制御力可変範囲(具体的には可変範囲最大値及び可変範囲最小値)を算出する。
【0056】
図9は、第2実施形態における目標制御力マネジメント部30の構成例を示すブロック図である。
第2実施形態では、制御力可変範囲演算部32は、図9に示すように、各輪のサスペンションストローク速度に基づいて、制御力可変範囲(具体的には可変範囲最大値及び可変範囲最小値)を算出する。そして、制御力可変範囲演算部32は、算出した制御力可変範囲を可変範囲比較部33に出力する。
【0057】
ここで、制御力可変範囲演算部32に適用したKarnopp近似則は、アクチュエータ発生力が無限大の場合における制御力可変範囲に相当する。そのため、制御力可変範囲演算部32は、サスペンションストローク速度の符号と同じ方向の各輪の制御力可変範囲の最大値及び最小値を算出する。ここで、最大値は、零又は∞(正値の無限大)、最小値は、零又は−∞(負値の無限大)である。
【0058】
また、実際には、∞の値は、制御力可変範囲演算部32を実現する演算装置(ECU等)が演算可能な最大値に置き換えられる。
可変範囲比較部33は、FL要求力抽出部51、FR要求力抽出部52、RL要求力抽出部53、及びRR要求力抽出部54、並びにFL制御力可変範囲比較部55、FR制御力可変範囲比較部56、RL制御力可変範囲比較部57、及びRR制御力可変範囲比較部58を有している。
【0059】
FL要求力抽出部51は、各輪要求力配分演算部31からの各輪のドライバ入力制御要求力、並びに各輪要求力配分演算部31からの各輪のバネ上姿勢制御要求力のロール要求力、ピッチ要求力及びバウンス要求力の各要求力に基づいて、左前輪の要求力ベクトル(FL要求力ベクトル)を算出する。
また、FR要求力抽出部52は、各輪要求力配分演算部31からの各輪のドライバ入力制御要求力、並びに各輪要求力配分演算部31からの各輪のバネ上姿勢制御要求力のロール要求力、ピッチ要求力及びバウンス要求力の各要求力に基づいて、右前輪の要求力ベクトル(FR要求力ベクトル)を算出する。
【0060】
また、RL要求力抽出部53は、各輪要求力配分演算部31からの各輪のドライバ入力制御要求力、並びに各輪要求力配分演算部31からの各輪のバネ上姿勢制御要求力のロール要求力、ピッチ要求力及びバウンス要求力の各要求力に基づいて、左後輪の要求力ベクトル(RL要求力ベクトル)を算出する。
また、RR要求力抽出部54は、各輪要求力配分演算部31からの各輪のドライバ入力制御要求力、並びに各輪要求力配分演算部31からの各輪のバネ上姿勢制御要求力のロール要求力、ピッチ要求力及びバウンス要求力の各要求力に基づいて、右後輪の要求力ベクトル(RR要求力ベクトル)を算出する。
【0061】
そして、各要求力抽出部51〜54は、算出した各輪の要求力ベクトルを、対応する各制御力可変範囲比較部55〜58に出力する。
FL制御力可変範囲比較部55には、FL要求力抽出部51からの左前輪の要求力ベクトル及び制御力可変範囲演算部32からの制御力可変範囲(具体的には可変範囲最大値及び可変範囲最小値)が入力される。FL制御力可変範囲比較部55は、左前輪の要求力ベクトルと制御力可変範囲とを比較し、減衰力として出力可能な制御力のみを抽出する。そして、FL制御力可変範囲比較部55は、抽出した制御力を目標制御力演算部34に出力する。
【0062】
また、FR制御力可変範囲比較部56には、FR要求力抽出部52からの右前輪の要求力ベクトル及び制御力可変範囲演算部32からの制御力可変範囲(具体的には可変範囲最大値及び可変範囲最小値)が入力される。FR制御力可変範囲比較部56は、右前輪の要求力ベクトルと制御力可変範囲とを比較し、減衰力として出力可能な制御力のみを抽出する。そして、FR制御力可変範囲比較部56は、抽出した制御力を目標制御力演算部34に出力する。
【0063】
また、RL制御力可変範囲比較部57には、RL要求力抽出部53からの左後輪の要求力ベクトル及び制御力可変範囲演算部32からの制御力可変範囲(具体的には可変範囲最大値及び可変範囲最小値)が入力される。RL制御力可変範囲比較部57は、左後輪の要求力ベクトルと制御力可変範囲とを比較し、減衰力として出力可能な制御力のみを抽出する。そして、RL制御力可変範囲比較部57は、抽出した制御力を目標制御力演算部34に出力する。
【0064】
また、RR制御力可変範囲比較部58には、RR要求力抽出部54からの右後輪の要求力ベクトル及び制御力可変範囲演算部32からの制御力可変範囲(具体的には可変範囲最大値及び可変範囲最小値)が入力される。RR制御力可変範囲比較部58は、右後輪の要求力ベクトルと制御力可変範囲とを比較し、減衰力として出力可能な制御力のみを抽出する。そして、RR制御力可変範囲比較部58は、抽出した制御力を目標制御力演算部34に出力する。
目標制御力演算部34は、各輪について、抽出されたドライバ入力制御力、ロール制御力、ピッチ制御力、及びバウンス制御力(これら全ての制御力又はこれら制御力の一部の制御力)を合成する。
また、第2実施形態のサスペンション制御装置1のその他の構成は、前記第1実施形態のサスペンション制御装置1の構成と同様である。
【0065】
(動作等)
うねり走行時の目標制御力マネジメント部30における最終目標制御力の算出過程の一例を説明する。
図10は、前記図6に示すようなうねり走行時の目標制御力マネジメント部30における最終目標制御力の算出処理の一例を示す図である。なお、この図10に示す例では、目標制御力マネジメント部30は、車両振動のバウンス振動成分に対するバウンス要求力、及び車両振動のピッチ振動成分に対するピッチ要求力から最終目標制御力を算出している。
【0066】
目標制御力マネジメント部30は、図10(a)に示すように、非減衰力を含むバネ上姿勢制御要求力としてバウンス要求力及びピッチ要求力を算出する。そして、目標制御力マネジメント部30は、図10(b)及び(c)に示すように、算出したバウンス要求力及びピッチ要求力とKarnopp近似則に基づく制御力可変範囲とを比較し、バウンス要求力及びピッチ要求力それぞれに対応する制御力を算出(抽出)する。
【0067】
そして、目標制御力マネジメント部30は、図10(d)及び(e)に示すように、バウンス要求力及びピッチ要求力それぞれに対応する制御力を合成し、最終目標制御力を算出する。
このように、第2実施形態では、目標制御力マネジメント部30は、Karnopp近似則を用いた場合でも、減衰力を発生可能な値として最終目標制御力を算出できる。これにより、本実施形態のサスペンション制御装置1は、車両振動の各振動成分の各バネ上挙動を抑制できる。この結果、本実施形態のサスペンション制御装置1は、車速変動の零ラインに戻す減衰力を発生させることができる。
【0068】
(第2実施形態の効果)
第2実施形態は、第1実施形態の効果に加え次のような効果を奏する。
(1)制御力可変範囲演算部32は、サスペンションストローク速度を用い、Karnopp近似則に基づき制御力可変範囲を算出する。
これにより、目標制御力マネジメント部30は、Karnopp近似則に従った最終目標制御力を算出できる。
【0069】
(第3実施形態)
次に第3実施形態を図面を参照して説明する。なお、前記第1実施形態と同様な構成については同一の符号を付して説明する。
第3実施形態では、Karnopp近似則をスイッチング処理により実現している。
第3実施形態について、目標制御力マネジメント部30の左前輪に係る構成例を代表して説明する。
図11は、第3実施形態における目標制御力マネジメント部30の左前輪に係る構成例を示すブロック図である。
目標制御力マネジメント部30は、図11に示すように、FL要求力抽出部51、乗算部61、比較部62、零値出力部63、スイッチ部64、及び目標制御力演算部34を有している。
【0070】
FL要求力抽出部51は、各輪要求力配分演算部31からの各輪のドライバ入力制御要求力、並びに各輪要求力配分演算部31からの各輪のバネ上姿勢制御要求力のロール要求力、ピッチ要求力及びバウンス要求力の各要求力に基づいて、左前輪の要求力ベクトルを算出する。そして、FL要求力抽出部51は、算出した左前輪の要求力ベクトルを乗算部61及びスイッチ部64に出力する。
乗算部61には、FL要求力抽出部51からの左前輪の要求力ベクトルの他に、左前輪のサスペンションストローク速度が入力される。この乗算部61は、要求力ベクトルとサスペンションストローク速度との乗算値を算出する。そして、乗算部61は、算出した乗算値を比較部62に出力する。
【0071】
比較部62は、乗算部61からの乗算値が零以上か否かを判定する。そして、比較部62は、その判定結果をスイッチ部64に出力する。
スイッチ部64は、比較部62が乗算値が零以上との判定をすると、FL要求力抽出部51からの要求力ベクトルを目標制御力演算部34に出力する。また、スイッチ部64は、比較部62が乗算値が零未満との判定をすると、零値出力部63からの零値を目標制御力演算部34に出力する。
【0072】
以上の図11に示す構成において、FL要求力抽出部51は、可変範囲比較部33に含まれる構成となる。また、乗算部61、比較部62、零値出力部63、及びスイッチ部64は、Karnopp近似則に基づく制御力可変範囲演算部32、及び可変範囲比較部33に含まれる構成となる。
また、目標制御力マネジメント部30の右前輪、左右後輪に係る構成も図11と同様な構成である。また、第3実施形態のサスペンション制御装置1のその他の構成は、前記第1実施形態のサスペンション制御装置1の構成と同様である。
【0073】
(動作等)
本実施形態の目標制御力マネジメント部30の動作等を、本実施形態の比較例と対比しつつ説明する。
図12は、図11の目標制御力マネジメント部30の構成によって実現される、Karnopp近似則を適用した処理の概要を示す図である。なお、この図12に示す例は、目標制御力マネジメント部30が、バウンス要求力FB、ロール要求力FR、及びピッチ要求力FPに基づいて最終目標制御力を算出する例となる。
【0074】
目標制御力マネジメント部30は、図12に示すように、バネ上姿勢制御要求力のバウンス要求力FB、ロール要求力FR、及びピッチ要求力FPの各要求力及びサスペンションストローク速度を用いて、Karnopp近似則を適用し、バウンス要求力FB、ロール要求力FR、及びピッチ要求力FPの出力FBout、FRout、FPoutを算出する。そして、目標制御力マネジメント部30は、それら出力FBout、FRout、FPoutを合成して目標制御力Foutを算出する。
【0075】
図13は、本実施形態の比較例を示す図である。
本実施形態の比較例では、図13に示すように、バウンス要求力FB、ロール要求力FR、及びピッチ要求力FPの各要求力を合成した後、Karnopp近似則を適用して、目標制御力Foutを算出する。
次に、図12に示す本実施形態の構成と図13に示す本実施形態の比較例の構成とで算出される減衰力(目標制御力)の違いを図14〜図16を参照しつつ説明する。
【0076】
ここで、図14は、本実施形態の構成及び本実施形態の比較例の構成によって処理するバウンス要求力、ピッチ要求力、及びロール要求力の時間変化を示す図である。図15は、本実施形態の構成によって、バウンス要求力、ロール要求力、及びピッチ要求力の各要求力に対してKarnopp近似則を適用した処理結果を示す図である。図15は、本実施形態の構成と本実施形態の比較例の構成とで算出される減衰力の違いを示す図である。
【0077】
本実施形態の比較例では、図14に示すようなバウンス要求力、ロール要求力、及びピッチ要求力の各要求力を合成した後にKarnopp近似則を適用することで、図16に示すような減衰力が得られる。
これに対して、本実施形態では、先ず、図14に示すようなバウンス要求力、ロール要求力、及びピッチ要求力の各要求力に対してKarnopp近似則を適用して、図15に示すような要求力を得る。そして、本実施形態では、図15に示すバウンス要求力、ロール要求力、及びピッチ要求力の各要求力を合成することで、図16に示すような減衰力が得られる。
このようにして得た図16の結果に示すように、本実施形態とその比較例とでは、減衰力が異なっている。
【0078】
例えば、図16中のa部やb部を例にとると、本実施形態の比較例では、図16中のa部やb部に対応する図14中のa部やb部に示すように、ピッチ力要求力がバウンス要求力と異符号になるために打ち消されてしまう。また、本実施形態の比較例では、バウンス要求力も減少する。
【0079】
これに対して、本実施形態では、図16中のa部やb部に対応する図14中や図15中のa部やb部に示すように、ピッチ力要求力がバウンス要求力と異符号であっても、サスペンションストローク速度と符号が同じであれば、そのまま制御力として出力される。また、本実施形態では、バウンス要求力も減少しない。
本実施形態とその比較例とではこのように減衰力が異なるものとなる。よって、本実施形態では、本実施形態の比較例で減衰力を発生しないシーンにおいても、減衰力を発生させることができる。
【0080】
また、図17は、本実施形態及び本実施形態の比較例のバネ上上下速度(m/s)の結果を示す図である。また、図18は、本実施形態及び本実施形態の比較例のバネ上ピッチレイト(deg/s)の結果を示す図である。また、図19は、本実施形態及びその比較例のバネ上ロールレイト(deg/s)の結果を示す図である。
バネ上上下速度、バネ上ピッチレイト、及びバネ上ロールレイトのいずれも、図17〜図19に示すように、P−P値(ピークtoピーク値)が本実施形態の方が小さい。
【0081】
(第3実施形態の効果)
第3実施形態は、第1実施形態の効果に加え次のような効果を奏する。
(1)目標制御力マネジメント部30では、要求力ベクトルとサスペンションストローク速度との乗算値が零以上の場合、スイッチ部64を切り換えて、要求力ベクトルそのものを目標制御力演算部34に出力する。また、目標制御力マネジメント部30では、要求力ベクトルとサスペンションストローク速度との乗算値が零未満の場合、スイッチ部64を切り換えて、零値を目標制御力演算部34に出力する。
このように、目標制御力マネジメント部30では、Karnopp近似則以外の可変範囲制限が無い場合にそのKarnopp近似則をスイッチング処理によって実現している。これにより、目標制御力マネジメント部30は、演算負荷が減少され又は演算が簡素化されたものとなる。
【0082】
(第4実施形態)
次に第4実施形態を図面を参照して説明する。なお、前記第1実施形態と同様な構成については同一の符号を付して説明する。
第4実施形態では、車両のロール方向制御を優先的に行う。
第4実施形態について、目標制御力マネジメント部30の左前輪に係る構成例を代表して説明する。
【0083】
図20は、第4実施形態における目標制御力マネジメント部30の左前輪に係る構成例を示すブロック図である。
目標制御力マネジメント部30は、図20に示すように、Karnopp近似則を適用した第1〜第3Karnopp則演算部71,72,73、第1〜第3零値出力部74,75,76、第1〜第3スイッチ部77,78,79、並びに第1及び第2加算部80,81を有している。
第1Karnopp則演算部71には、左前輪のバウンス要求力及びサスペンションストローク速度が入力される。この第1Karnopp則演算部71は、それら入力値を用いて、Karnopp近似則に基づき、減衰力として出力可能なバウンス要求力を算出する。そして、第1Karnopp則演算部71は、算出したバウンス要求力を第1スイッチ部77に出力する。また、第1Karnopp則演算部71は、Karnopp近似則適用時のバウンス要求力とストローク速度との符号一致信号(True又はFalse)を第1スイッチ部77に出力する。
【0084】
また、第2Karnopp則演算部72には、左前輪のピッチ要求力及びサスペンションストローク速度が入力される。この第2Karnopp則演算部72は、それら入力値を用いて、Karnopp近似則に基づき、減衰力として出力可能なピッチ要求力を算出する。そして、第2Karnopp則演算部72は、算出したピッチ要求力を第1加算部80に出力する。また、第2Karnopp則演算部72は、Karnopp近似則適用時のピッチ要求力とストローク速度との符号一致信号(True又はFalse)を第2スイッチ部78に出力する。
【0085】
また、第3Karnopp則演算部73には、左前輪のロール要求力及びサスペンションストローク速度が入力される。この第3Karnopp則演算部73は、それら入力値を用いて、Karnopp近似則に基づき、減衰力として出力可能なロール要求力を算出する。そして、第3Karnopp則演算部73は、算出したロール要求力を第2加算部81に出力する。また、第3Karnopp則演算部73は、Karnopp近似則適用時のピッチ要求力とストローク速度との符号一致信号(True又はFalse)を第3スイッチ部79に出力する。
【0086】
第1スイッチ部77は、第1Karnopp則演算部71からの符号一致信号に基づいて、出力を選択する。具体的には、第1スイッチ部77は、符号一致信号がTrueの場合、第1Karnopp則演算部71からのバウンス要求力を第1加算部80に出力する。また、第1スイッチ部77は、符号一致信号がFalseの場合、第1零値出力部74からの零値を第1加算部80に出力する。
【0087】
第1加算部80は、第1スイッチ部77からの値FB(零値以外のバウンス要求力又は零値)と第2Karnopp則演算部72からのピッチ要求力FPとを加算する。そして、第1加算部80は、加算値を第2スイッチ部78に出力する。
第2スイッチ部78は、第2Karnopp則演算部72からの符号一致信号に基づいて、出力を選択する。具体的には、第2スイッチ部78は、符号一致信号がTrueの場合、第1加算部80からの加算値FBを第2加算部81に出力する。また、第2スイッチ部78は、符号一致信号がFalseの場合、第2零値出力部75からの零値を第2加算部81に出力する。
【0088】
第2加算部81は、第2スイッチ部78からの値FPB(第1加算部80からの加算値又は零値)と第3Karnopp則演算部73からのロール要求力FRとを加算する。そして、第2加算部81は、加算値を第3スイッチ部79に出力する。
第3スイッチ部79は、第3Karnopp則演算部73からの符号一致信号に基づいて、出力を選択する。具体的には、第3スイッチ部79は、符号一致信号がTrueの場合、第2加算部81からの加算値FPBRを最終目標制御力として出力する。また、第3スイッチ部79は、符号一致信号がFalseの場合、第3零値出力部76からの零値FPBRを最終目標制御力として出力する。
【0089】
ここで、第1〜第3Karnopp則演算部71〜73、第1〜第3零値出力部74〜76、第1〜第3スイッチ部77〜79は、制御力可変範囲演算部32、及び可変範囲比較部33に含まれる構成となる。また、第1及び第2加算部80,81は、目標制御力演算部34に含まれる構成となる。
また、目標制御力マネジメント部30の左前輪、左右後輪に係る構成も図20と同様な構成である。また、第4実施形態のサスペンション制御装置1のその他の構成は、前記第1実施形態のサスペンション制御装置1の構成と同様である。
【0090】
(動作等)
目標制御力マネジメント部30の動作等の一例を説明する。
目標制御力マネジメント部30は、第2Karnopp則演算部72からの符号一致信号がTrueの場合、バウンス要求力とピッチ要求力とを合成した制御力を算出する。一方、目標制御力マネジメント部30は、第2Karnopp則演算部72からの符号一致信号がFalseの場合、零値を出力する。よって、目標制御力マネジメント部30は、たとえ零値以外の値としてバウンス要求力を算出した場合でも、第2Karnopp則演算部72からの符号一致信号がFalseの場合、零値を出力する。
【0091】
また、目標制御力マネジメント部30は、第3Karnopp則演算部73からの符号一致信号がTrueの場合、第2スイッチ部78からの制御力とロール要求力とを合成した制御力を算出する。一方、目標制御力マネジメント部30は、第3Karnopp則演算部73からの符号一致信号がFalseの場合、零値を出力する。よって、目標制御力マネジメント部30は、たとえ零値以外の値としてバウンス要求力やピッチ要求力を算出した場合でも、第3Karnopp則演算部73からの符号一致信号がFalseの場合、零値を出力する。
【0092】
このような処理によって、目標制御力マネジメント部30は、バウンス要求力、ピッチ要求力、及びロール要求力の全ての符号がサスペンションストローク速度の符号と一致した場合にのみ、これらバウンス要求力、ピッチ要求力、及びロール要求力の合算値として、最終目標制御力を出力する。
【0093】
また、目標制御力マネジメント部30は、たとえバウンス要求力の符号がサスペンションストローク速度の符号と一致する場合でも、ロール要求力の符号がサスペンションストローク速度の符号と一致しなければ、零値以外の最終目標制御力を出力することができない。すなわち、目標制御力マネジメント部30は、少なくともロール要求力の符号がサスペンションストローク速度の符号と一致しない限り、零値以外の最終目標制御力を出力することができない。つまり、目標制御力マネジメント部30は、バウンス要求力、ピッチ要求力、及びロール要求力の順序(予め設定された優先度)で制御力演算の優先順位を高くなるようにして、最終目標制御力を算出している。
【0094】
次に、第3実施形態の構成で得られるロールレイト及びバウンス速度と、第4実施形態の構成で得られるロールレイト及びバウンス速度との比較結果を説明する。
図21は、第3実施形態の構成と第4実施形態の構成とでロールレイトの時間変化を比較した図である。また、図22は、第3実施形態の構成と第4実施形態の構成とでバウンス速度の時間変化を比較した図である。
これらの結果のうち、特にロールレイトは、図21に示すように、第4実施形態の方がP−P値が小さくなっている。
【0095】
(第4実施形態の効果)
第4実施形態は、第1実施形態の効果に加え次のような効果を奏する。
(1)目標制御力マネジメント部30は、第1Karnopp則演算部71及び第1スイッチ部77によって、制御力可変範囲とバウンス要求力とを比較し、制御力可変範囲内のバウンス要求力を抽出する。また、目標制御力マネジメント部30は、第1加算部80によって、該抽出したバウンス要求力とピッチ要求力とを合成する。さらに、目標制御力マネジメント部30は、第2Karnopp則演算部72及び第2スイッチ部78によって、該合成して得た制御力と制御力可変範囲とを比較し、制御力可変範囲内の制御力(FPB)を抽出する。
【0096】
また、目標制御力マネジメント部30は、第2加算部81によって、抽出した制御力(FPB)とロール要求力とを合成する。そして、目標制御力マネジメント部30は、第3Karnopp則演算部73及び第3スイッチ部79によって、該合成して得た制御力と制御力可変範囲とを比較し、制御力可変範囲内の制御力(FPBR)を抽出する。
以上の処理により、目標制御力マネジメント部30は、車両振動の各振動成分を順次合成することを実現している。
【0097】
(2)目標制御力マネジメント部30は、第1〜第3Karnopp則演算部71〜73によって、制御力可変範囲とバウンス要求力、ピッチ要求力、及びロール要求力とをそれぞれ比較し、制御力可変範囲内の制御力を抽出する。
そして、目標制御力マネジメント部30は、第1〜第3零値出力部74,75,76、第1〜第3スイッチ部77,78,79、並びに第1及び第2加算部80,81によって、抽出できた各制御力を予め設定した優先度に基づいて順次合成していき最終目標制御力を算出する。
サスペンション制御装置1は、そのようにして算出された最終目標制御力を用いて減衰力制御を行うことで、優先的に抑制したい振動成分を減衰力制御によって抑制できる。
【0098】
(3)目標制御力マネジメント部30は、バウンス要求力(制御力)、ピッチ要求力(制御力)、及びロール要求力(制御力)の順序で順次合成していき最終目標制御力を算出する。
ここで、例えば、モーダルスカイフック制御を適用した減衰力制御において、減衰力可変ショックアブソーバはパッシブ要素である。そのため、例えばバウンス振動成分の制御力を出力したものの、路面起伏によっては、逆にロール振動成分を増幅してしまうことが避けられない場合がある。一方、乗員の感覚的には、バネ上共振(バウンス、ロール、ピッチ)が存在する1〜3Hz帯では、バウンス、ピッチ、及びロールがその順番で感度が高くなり目立つものとなる。
このようなことから、本実施形態のサスペンション制御装置1は、バウンス要求力、ピッチ要求力、及びロール要求力の順序で順次合成して算出した最終目標制御力を用いて減衰力制御を行うことで、ロール振動成分に対して敏感な乗員に合致させた減衰力制御を実現できる。
【0099】
(本実施形態の変形例)
本実施形態では、運転者の運転操作状態に基づく目標ドライバ制御力を用いて目標制御力を算出しているが、この目標ドライバ制御力を用いることなく、目標バネ上姿勢制御力のみを用いて目標制御力を算出しても良い。
また、本実施形態では、バネ上姿勢制御要求力からバウンス要求力、ピッチ要求力、及びロール要求力を算出しているが、バネ上姿勢制御要求力からこれらのうちの少なくとも2つの要求力(2つの自由度の振動成分に対する要求力)を算出し、それに応じた処理を行うようにしても良い。
【0100】
また、第4の実施形態では、バウンス要求力、ピッチ要求力、及びロール要求力の順序で制御力演算の優先順位が高くなるようにして最終目標制御力を算出しているが、これに限定されない。例えば、第4の実施形態では、車速、走行制御モード、運転操作量等に基づいて、その優先順位を設定しても良い。
【0101】
以上、本発明の実施形態を具体的に説明したが、本発明の範囲は、図示され記載された例示的な実施形態に限定されるものではなく、本発明が目的とするものと均等な効果をもたらすすべての実施形態をも含む。さらに、本発明の範囲は、請求項1により画される発明の特徴の組み合わせに限定されるものではなく、すべての開示されたそれぞれの特徴のうち特定の特徴のあらゆる所望する組み合わせによって画されうる。
【符号の説明】
【0102】
1 サスペンション制御装置、25 制御信号変換部、26 ACTR部、30 目標制御力マネジメント部、32 制御力可変範囲演算部、33 可変範囲比較部、34 目標制御力演算部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
減衰力を発生させる減衰力発生部を備えるサスペンション制御装置において、
減衰させる制御力の出力可能な範囲を算出する出力可能範囲算出手段と、
前記出力可能範囲算出手段が算出した前記出力可能な範囲と車両振動のバウンス振動成分、車両振動のピッチ振動成分、及び車両振動のロール振動成分のうちの少なくとも2つの振動成分から算出された各制御力とをそれぞれ比較し、車両振動のバウンス振動成分、車両振動のピッチ振動成分、及び車両振動のロール振動成分のうちの前記少なくとも2つの振動成分について前記出力可能な範囲内の制御力を個別に抽出する制御力抽出手段と、
前記制御力抽出手段が抽出した各制御力を合成した目標制御力を算出する目標制御力算出手段と、
前記目標制御力算出手段が算出した目標制御力に基づいて、前記減衰力発生部を制御する制御手段と、
を備えることを特徴とするサスペンション制御装置。
【請求項2】
前記出力可能範囲算出手段は、サスペンションストローク速度に基づいて、前記出力可能な範囲を算出することを特徴とする請求項1に記載したサスペンション制御装置。
【請求項3】
前記出力可能範囲算出手段は、さらに、前記減衰力発生部の減衰力の発生可能範囲、車両の状態量、車両の走行制御モード、及び運転操作量の少なくとも何れかに基づいて、前記出力可能な範囲を算出することを特徴とする請求項2に記載したサスペンション制御装置。
【請求項4】
前記出力可能範囲算出手段は、サスペンションストローク速度を用い、Karnopp近似則に基づき前記出力可能な範囲を算出することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載したサスペンション制御装置。
【請求項5】
前記制御力抽出手段は、前記出力可能範囲算出手段が算出した前記出力可能な範囲と車両振動の少なくとも1つの前記振動成分から算出された制御力とを比較して前記出力可能な範囲内の制御力を抽出し、該抽出した制御力と前記車両振動のうちの残りの前記振動成分から算出された制御力とを合成し、該合成した制御力と前記出力可能範囲算出手段が算出した前記出力可能な範囲とを比較して前記出力可能な範囲内の制御力を抽出することを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載したサスペンション制御装置。
【請求項6】
前記目標制御力算出手段は、前記制御力抽出手段が抽出できた車両振動のバウンス振動成分、車両振動のピッチ振動成分、及び車両振動のロール振動成分についての制御力を、制御力を合成するために予め設定した優先度が高くなる順序で順次合成し、前記目標制御力を算出することを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載したサスペンション制御装置。
【請求項7】
前記予め設定した優先度は、車両振動のバウンス振動成分、車両振動のピッチ振動成分、及び車両振動のロール振動成分についての制御力の順序で優先順位が高くなることを特徴とする請求項6に記載したサスペンション制御装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2013−107627(P2013−107627A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−228278(P2012−228278)
【出願日】平成24年10月15日(2012.10.15)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】