説明

サファイア単結晶の製造方法およびサファイア単結晶の製造装置

【課題】クラックのない高品質のサファイアの単結晶が得られるサファイア単結晶の製造方法を提供する。
【解決手段】一方向凝固法によるサファイア単結晶の製造方法において、ルツボ20に、ルツボ20の線膨張係数と製造されるサファイア単結晶の成長軸に垂直な方向の線膨張係数との相違に起因する相互応力を、ルツボ20およびサファイア単結晶に全く発生させない、もしくはサファイア単結晶に相互応力による結晶欠陥を発生させずルツボ20に相互応力による変形を起こさせないような線膨張係数を持つ材料からなるルツボ20を用いることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サファイア単結晶の製造方法およびサファイア単結晶の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
サファイアは種々の用途に用いられているが、中でもLED製造用のサファイア基板としての用途が重要になってきている。すなわち、サファイア基板上にバッファー層および窒化ガリウム系皮膜をエピタキシャルさせることにより、LED発光基板を得ることが主流となってきている。
そのため、サファイアを効率よく安定的に生産できるサファイア単結晶製造方法が求められている。
【0003】
LED製造用のサファイア基板は、ほとんどがc面方位(0001)の基板である。従来、工業的に採用されているサファイア単結晶の製造方法は、縁端限定成長(EFG)法、カイロポーラス(KP)法、チョコラルスキー(CZ)法などがあるが、直径3インチ以上の結晶を得ようとすると種々の結晶欠陥が発生するため、a軸方位成長の単結晶を生産して代替している。a軸成長サファイア結晶からc軸サファイア結晶ブールを加工するためには、結晶を横方向から刳り抜く必要があり、加工が厄介であるばかりでなく、利用できない部分が多く、収率が悪いという課題がある。
【0004】
酸化物単結晶の製造方法には、いわゆる垂直ブリッジマン法(垂直温度勾配凝固法)も知られている。この垂直ブリッジマン法の場合、生成した単結晶を容易に取り出せるように、薄肉のルツボを用いているが、サファイアのような高融点融液からの単結晶を得るため、薄肉のルツボで高温下で強度的、化学的に耐えられるルツボ材料は従来なかった。この点、特許文献1では、高温下で耐えられる材料としてイリジウム製のルツボを採用している。イリジウム製ルツボは高温下で強度的、化学的に耐えられるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−119297
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、特許文献1のものでは、ルツボにイリジウム製のものを用いているが、イリジウムは極めて高価であるという課題がある。また、イリジウムは線膨張係数が大きく、結晶化の過程でルツボが収縮して結晶に応力が加わり、サファイアにクラックが発生するおそれがある。
【0007】
そこで本発明は上記課題を解決すべくなされたもので、その目的とするところは、結晶にクラックを発生させることなく、また高価なルツボを用いることなくサファイアの単結晶が得られるサファイア単結晶の製造方法およびサファイア単結晶の製造装置を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明は次の構成を備える。
すなわち、本発明に係るサファイア単結晶の製造方法は、ルツボ内に種子結晶および原料を収納し、育成炉内の筒状ヒーター内にルツボを配置して筒状ヒーターにより加熱して原料および種子結晶の一部を融解すると共に、筒状ヒーターに上が高く下が低い温度勾配を形成することによって融液を順次結晶化させる一方向凝固法によるサファイア単結晶の製造方法において、前記ルツボに、ルツボの線膨張係数と製造されるサファイア単結晶の成長軸に垂直な方向の線膨張係数との相違に起因する相互応力を、ルツボおよびサファイア単結晶に全く発生させない、もしくはサファイア単結晶に相互応力による結晶欠陥を発生させずルツボに相互応力による変形を起こさせないような線膨張係数を持つ材料からなるルツボを用いることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係るサファイア単結晶の製造装置は、ルツボ内に種子結晶および原料を収納し、育成炉内の筒状ヒーター内にルツボを配置して筒状ヒーターにより加熱して原料および種子結晶の一部を融解すると共に、筒状ヒーターに上が高く下が低い温度勾配を形成することによって融液を順次結晶化させる一方向凝固法によるサファイア単結晶の製造装置において、前記ルツボに、ルツボの線膨張係数と製造されるサファイア単結晶の成長軸に垂直な方向の線膨張係数との相違に起因する相互応力を、ルツボおよびサファイア単結晶に全く発生させない、もしくはサファイア単結晶に相互応力による結晶欠陥を発生させずルツボに相互応力による変形を起こさせないような線膨張係数を持つ材料からなるルツボを用いることを特徴とする。
【0010】
前記ルツボに、サファイア融点と常温との2点間における線膨張係数が、製造されるサファイア単結晶の成長軸に垂直な方向のサファイア融点と常温との2点間における線膨張係数よりも小さい材料からなるルツボを用いることができる。
また前記ルツボに、サファイアの融点から常温までの間において、サファイア融点と各点との2点間における線膨張係数が、製造されるサファイア単結晶の成長軸に垂直な方向のサファイアの線膨張係数よりも常に小さい材料からなるルツボを用いることができる。
上記ルツボ材料として、具体的に、タングステン、タングステンとモリブデンの合金、もしくはモリブデンを用いることができる。
【0011】
また、結晶化後、同じ育成炉内で、筒状ヒーターへの出力を低下させて筒状ヒーター内を所要温度にまで低下させると共に、ルツボを筒状ヒーター中間部の均熱ゾーンに所要時間にわたって位置させてルツボ内でサファイア単結晶のアニール処理を行うようにすると好適である。
【0012】
サファイア単結晶の成長軸をc軸にしてもクラック等の結晶欠陥のない結晶を育成することができて好適である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、上記所要材質のルツボを用いることにより、融液を結晶化させる過程、および結晶を冷却する過程において、ルツボの収縮による応力を結晶に及ぼさないようにすることができ、サファイアの結晶にクラックが入るのを防止することができ、結晶欠陥の少ない高品質なサファイアの単結晶を得ることが出来る。また、ルツボが変形するのを防ぐことができると共に結晶を取り出す際にも結晶とルツボ内壁面との間に応力が加わってないため、結晶を容易に取り出す事ができ、ルツボを繰り返し使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】製造装置の断面図である。
【図2】タングステン、モリブデン、サファイアのc軸に直角な方向およびサファイアのc軸方向のそれぞれのサファイア融点と各点(サファイア融点から常温までの間の任意温度)の線膨張係数を示すグラフである。
【図3】サファイアの結晶化工程およびアニール工程を示す説明図である。
【図4】冷却後、ルツボ内壁面とサファイア単結晶外壁面との間に隙間が生じている様子を示す説明図である。
【図5】実施例1で得られたサファイア単結晶の写真である。
【図6】実施例2で得られたサファイア単結晶の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下本発明の好適な実施の形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。
図1はサファイア単結晶の製造装置(育成炉)10の断面説明図である。
製造装置10は、公知の垂直ブリッジマン炉であり、その構造を簡単に説明する。製造装置(育成炉)10は、冷却水が流通される筒状のジャケット12によって密閉された空間内に、上下に長い筒状ヒーター14が1個ないし複数個配設されて成る。本実施の形態では1個の円筒ヒーター14を用いている。
【0016】
円筒ヒーター14は本実施の形態ではカーボンヒーターで形成され、制御部(図示せず)を通じて通電制御され、温度調節がなされるようになっている。
円筒ヒーター14の周りには断熱材16が配置され、断熱材16によって囲まれてチャンバー18が形成されている。
円筒ヒーター14への通電量を制御することによって、チャンバー18内の上下方向に温度勾配を作ることができる。
【0017】
20はルツボであり、底部にルツボ軸22の先端が連結され、ルツボ軸22の上下動に伴って円筒ヒーター14内で上下動可能になっている。またルツボ20は、ルツボ軸22が軸線周りに回転することによって回転する。
ルツボ軸22は図示しないがボールネジにより上下動され、これによりルツボ20は、上昇速度、下降速度を精密に制御されて上下動可能となっている。
【0018】
育成炉10内には、図示しないが開口部が2箇所設けられており、不活性ガス、好適にはアルゴンガスが給排され、結晶育成時には、育成炉10内は不活性ガスで満たされる。
なお、図示しないが、育成炉10内には、炉内の温度を複数個所で計測する温度計が配設されている。
【0019】
上記ルツボ20に、ルツボ20の線膨張係数と製造されるサファイア単結晶の成長軸に垂直な方向の線膨張係数との相違に起因する相互応力を、ルツボ20およびサファイア単結晶に全く発生させない、もしくはサファイア単結晶に相互応力による結晶欠陥を発生させずルツボに相互応力による変形を起こさせないような線膨張係数を持つ材料からなるルツボ20を用いると好適である。
【0020】
あるいはルツボ20に、サファイア融点と常温との2点間における線膨張係数が、製造されるサファイア単結晶の成長軸に垂直な方向のサファイア融点と常温との2点間における線膨張係数よりも小さい材料からなるルツボ20を用いると好適である。
サファイア融点と常温との2点間の線膨張計数(α)は、数1により計算できる。
【0021】
(数1)
α=(L−L)/L(T−T
:サファイア融点時の長さ、L:常温時の長さ、T:サファイア融点時の温度、T:常温時の温度
【0022】
あるいはまた、ルツボ20に、サファイアの融点から常温までの間において、サファイア融点と各点との2点間における線膨張係数が、製造されるサファイア単結晶の成長軸に垂直な方向のサファイアの線膨張係数よりも常に小さい材料からなるルツボ20を用いると好適である。
サファイア融点と各点(サファイア融点から常温までの間の任意温度)との2点間における線膨張係数(α)は、数2により計算できる。
【0023】
(数2)
α=(L−L)/L(T−T
:サファイア融点時の長さ、L:サファイアの融点から常温までの間の各点の長さ、T:サファイア融点時の温度、T:サファイアの融点から常温までの間の各点の温度
なお、線膨張係数(α)は、実測してもよいが、既存データを活用してもよい。
【0024】
上記のような各ルツボ材料として、タングステン、タングステン−モリブデン合金、モリブデンが挙げられる。
図2は、タングステン、モリブデン、サファイアのc軸に直角な方向およびサファイアのc軸方向のそれぞれのサファイア融点と各点(サファイア融点から常温までの間の任意温度)の線膨張係数を示すグラフである。
図2のグラフから明らかなように、特にタングステンは各温度において、線膨張係数がサファイアよりも小さく、したがって、これらの材料からなるルツボを用いることによって、後記するように結晶化過程、アニール処理過程、冷却過程において、収縮率がサファイアよりも小さく、ルツボ20の内壁面とサファイア単結晶の外壁面とが非接触の状態となって、サファイアに応力が加わらず、サファイアのクラック発生を防止できる。
【0025】
続いて図3(A)〜図3(F)により、結晶化工程およびアニール工程を説明する。
ルツボ20内にはサファイアの種子結晶24と原料26が入れられる(図3(A))。
育成炉10の円筒ヒーター14で囲まれたホットゾーンは、サファイアの融点を跨いで、上部側が融点の温度以上、下部側が融点の温度以下の温度となるように温度制御されている(図3(F))。
サファイアの種子結晶24と原料26が入れられたルツボ20は、ホットゾーンを下部から上部側へと上昇させられ、原料26が融解し、種子結晶24の上部が融解した段階で上昇を停止され(図3(B))、次いでゆっくりと所要の下降速度で下降される(図3(C))。これにより種子結晶24の結晶面に沿って融液が徐々に結晶、析出する(図3(C)、(D))。
種子結晶24はc面が水平になるようにルツボ20中に配置され、融液はこのc面に沿って、すなわちc軸方向に成長する。
【0026】
ルツボ20に上記材料のもの、特にタングステンを用いることによって、図4(B)に示すように、結晶化工程、および後記するアニール工程、および冷却工程において、ルツボ20の内壁面とサファイア単結晶の外壁面とが非接触の状態となって、サファイアに外部応力が加わらず、サファイアにクラックが発生するのを防止できる。また、結晶を取り出す際にも結晶とルツボ20内壁面との間に応力が加わってない為、結晶を取り出すことも支障なく行えると共に、ルツボ20も変形することなく繰り返し使用することが出来る。
【0027】
本実施の形態では、結晶化後、同じ育成炉10内で、円筒ヒーター14への出力を低下させて円筒ヒーター14内を所要温度(例えば1800℃)にまで低下させると共に、ルツボ20を円筒ヒーター14中間部の他の部位よりも温度勾配の少ない均熱ゾーン28(図3(F))にまで上昇させて(図3(E))、この均熱ゾーン28に所要時間(例えば1時間)にわたって位置させて、そのままルツボ20内でサファイア単結晶のアニール処理を行う工程を行った。
【0028】
上記のように、結晶化後、同じ育成炉10内においてそのままルツボ20内でアニール処理を行うことによって、アニール処理を手早く効率よく行うことができ、結晶内部の熱応力を除去して結晶欠陥の少ない高品質なサファイア単結晶を得ることができる。また、結晶化とアニール処理とを同じ育成炉10内においてルツボ20内で連続的に行うので、所望の結晶の生産効率がよく、エネルギーの無駄を省くことができる。なお、上記アニール処理は、成長結晶の残留応力を除去する有効な手段であるが、残留応力が少ない成長結晶の場合は必ずしも必要ではない。
【0029】
なお、上記では垂直ブリッジマン法で説明したが、垂直温度勾配凝固法(VGF法)の、垂直ブリッジマン法と同じ一方向凝固法によって結晶化、アニール処理を行ってサファイア結晶を得るようにすることもできる。この垂直温度勾配凝固法の場合にあっても、アニール処理の際は、ルツボを円筒ヒーター内で上昇させて、円筒ヒーターの均熱ゾーン内に位置させてアニール処理を行うのである。
また、結晶の成長軸は、上記実施の形態ではc軸としたが、a軸を成長軸としてもよく、またR面に垂直な方向を成長軸としてもよい。
【実施例】
【0030】
[実施例1]
タングステンルツボ内に、上面の直径φ77.5mm(テーパー角度片側2°)×厚さ30mm、重さ539.4gのc軸サファイア単結晶(種子結晶)を入れ、この種子結晶上に、原料のサファイア単結晶端材1664.1gを入れた。なお、種子結晶は、ルツボ内面との間に、片側0.3mmの隙間が生じる大きさにあらかじめ加工したものを用いた。このように、種子結晶をルツボ内面との間に所定の隙間が生じるように加工するのは、昇温時、種子結晶が膨張してルツボ内壁面に強く接触するのを防止するためである。
【0031】
タングステンルツボは、内側底面の寸法がφ76mmで、上方に向けて片側2°で拡径するテーパー壁面となっている。
ルツボを2050℃以上のホットゾーンを有する円筒電気炉に挿入して単結晶製造を開始した。
電気炉を昇温させヒーター出力が一定となったところで、ルツボの押し上げ速度2〜10mm/hで、種子結晶の高さ半分程度まで溶ける位置まで55mm押し上げた。
その位置から、ルツボを下降速度2〜5mm/hで120mm引き下げ、サファイア単結晶を育成した。ここでの温度勾配は、7℃/cmであった。
【0032】
その後、電気炉のヒーター出力を下げて降温冷却させると同時に、ルツボを押し上げ速度20〜23mm/hで140mm押し上げて、円筒ヒーター中央部の温度勾配が0.5〜2℃/cmの均熱ゾーンにルツボを移動させ、結晶内部の残留歪みを除去するためのアニール処理を行った。このアニール処理は、結晶温度が1800℃まで下がったところでヒーター出力を一定に1時間保持させて行った。その後、そのままのルツボ高さ位置でヒーター出力を下げて降温冷却させた。
【0033】
取り出したルツボ内面と製造したサファイア単結晶には隙間があり、簡単に取り出すことができた。製造したサファイア単結晶は、長さ115mmで単結晶成長しておりクラックもなかった(図5)。重さは2203.5gあり、充填した種子結晶と原料の重さと一致した。
取り出したルツボの外径寸法を測定したが、サファイア単結晶製造前の寸法と同じで変化なかった。また、ルツボ内側表面の状態も変化なかった。
製造したサファイア単結晶は、切断機にてウェーハにスライスし、両面のラップ・研磨加工したが、特に割れの問題もなく加工性は良好であった。
【0034】
[実施例2]
モリブデンルツボ内に、上面の直径φ77mm(テーパー角度片側2°)×厚さ50mm、重さ940gのc軸サファイア単結晶(種子結晶)を入れ、この種子結晶上に、原料のサファイア単結晶端材150gを入れた。なお、種子結晶は、ルツボ内面との間に、片側0.5mmの隙間が生じる大きさにあらかじめ加工したものを用いた。
モリブデンルツボは、内側底面の寸法がφ76mmで、上方に向けて片側1.2°で拡径するテーパー壁面となっている。
【0035】
ルツボを2050℃以上のホットゾーンを有する円筒電気炉に挿入して単結晶製造を開始した。
電気炉を昇温させヒーター出力が一定となったところで、ルツボの押し上げ速度5〜20mm/hで、種子結晶の下面から35mm高さ程度まで溶ける位置まで60mm押し上げた。
その位置から、ルツボを下降速度2mm/hで60mm引き下げ、結晶を育成した。ここでの温度勾配は、7℃/cmであった。
【0036】
その後、電気炉のヒーター出力を下げて降温冷却させると同時に、ルツボを押し上げ速度22mm/hで150mm押し上げて、円筒ヒーター中央部の温度勾配が0.5〜2℃/cmの均熱ゾーンにルツボを移動させ、結晶内部の残留歪みを除去するためのアニールを行った。このアニール処理は、結晶温度が1800℃まで下がったところでヒーター出力を一定にし3.5時間保持させて行った。その後、そのままのルツボ高さ位置でヒーター出力を下げて降温冷却させた。
取り出したルツボ内面と製造したサファイア単結晶には隙間があり、簡単に取り出すことができた。製造したサファイア単結晶は、長さ62mmで単結晶成長していたが、外周に長さ20mmのクラックがあった(図6)。重さは1090gあり、 充填した種子結晶と原料の重さと一致した。
【0037】
本発明に用いるルツボは、形状が変形しない程度に予め熱処理をしておくとよい。
以上本発明に関わる代表的な2実施例を示した。タングステンルツボ材は、タングステン材料および当該素材を用いたルツボの作製方法によって幾分の相違はあるが、2050℃から常温まで冷却する場合の全ての温度領域で、2050℃と各点との2点間における線膨張係数がサファイア単結晶の該線膨張係数より小さく、現在確認されている中で最も適したルツボ材料と判断される。一方、モリブデンルツボ材の場合、2050℃と常温との2点間における線膨張係数は、サファイア単結晶の線膨張係数より小さいことから、成長結晶は容易にルツボから取り出せたものの、2050℃から常温まで冷却する途中で、特定の温度領域で、モリブデンルツボの2050℃と各点との2点間における線膨張係数がサファイア単結晶の該線膨張係数より大きかった場合が存在し、当該温度領域での冷却過程で当該ルツボと当該サファイア単結晶の間に圧縮応力が発生し、実施例2に示されるように、当該サファイア単結晶の外周に長さ20mmのクラックが発生してしまったものと推測される。モリブデンは一般にタングステンより線膨張係数が大きいため、本発明に関わるルツボ材として最適とは言い難いが、モリブデン材料および当該素材を用いたルツボ製作方法によっては請求項7において請求項2はもちろん請求項1または3を満たすサファイア単結晶製造方法の実現の可能性を否定できない。
【符号の説明】
【0038】
10 製造装置(育成炉)
12 ジャケット
14 円筒ヒーター
16 断熱材
18 チャンバ
20 ルツボ
22 ルツボ軸
24 種子結晶
26 原料
28 均熱ゾーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルツボ内に種子結晶および原料を収納し、育成炉内の筒状ヒーター内にルツボを配置して筒状ヒーターにより加熱して原料および種子結晶の一部を融解すると共に、筒状ヒーターに上が高く下が低い温度勾配を形成することによって融液を順次結晶化させる一方向凝固法によるサファイア単結晶の製造方法において、
前記ルツボに、ルツボの線膨張係数と製造されるサファイア単結晶の成長軸に垂直な方向の線膨張係数との相違に起因する相互応力を、ルツボおよびサファイア単結晶に全く発生させない、もしくはサファイア単結晶に相互応力による結晶欠陥を発生させずルツボに相互応力による変形を起こさせないような線膨張係数を持つ材料からなるルツボを用いることを特徴とするサファイア単結晶の製造方法。
【請求項2】
前記ルツボに、サファイア融点と常温との2点間における線膨張係数が、製造されるサファイア単結晶の成長軸に垂直な方向のサファイア融点と常温との2点間における線膨張係数よりも小さい材料からなるルツボを用いることを特徴とする請求項1記載のサファイア単結晶の製造方法。
【請求項3】
前記ルツボに、サファイアの融点から常温までの間において、サファイア融点と各点との2点間における線膨張係数が、製造されるサファイア単結晶の成長軸に垂直な方向のサファイアの線膨張係数よりも常に小さい材料からなるルツボを用いることを特徴とする請求項1記載のサファイア単結晶の製造方法。
【請求項4】
結晶化後、同じ育成炉内で、筒状ヒーターへの出力を低下させて筒状ヒーター内を所要温度にまで低下させると共に、ルツボを筒状ヒーター中間部の均熱ゾーンに所要時間にわたって位置させてルツボ内でサファイア単結晶のアニール処理を行う工程を含むことを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載のサファイア単結晶の製造方法。
【請求項5】
ルツボ材料がタングステンであることを特徴とする請求項1〜4いずれか1項記載のサファイア単結晶の製造方法。
【請求項6】
ルツボ材料がタングステンとモリブデンの合金であることを特徴とする請求項1〜4いずれか1項記載のサファイア単結晶の製造方法。
【請求項7】
ルツボ材料がモリブデンであることを特徴とする請求項2または4記載のサファイア単結晶の製造方法。
【請求項8】
サファイア単結晶の成長軸がc軸であることを特徴とする請求項1〜7いずれか1項記載のサファイア単結晶の製造方法。
【請求項9】
ルツボ内に種子結晶および原料を収納し、育成炉内の筒状ヒーター内にルツボを配置して筒状ヒーターにより加熱して原料および種子結晶の一部を融解すると共に、筒状ヒーターに上が高く下が低い温度勾配を形成することによって融液を順次結晶化させる一方向凝固法によるサファイア単結晶の製造装置において、
前記ルツボに、ルツボの線膨張係数と製造されるサファイア単結晶の成長軸に垂直な方向の線膨張係数との相違に起因する相互応力を、ルツボおよびサファイア単結晶に全く発生させない、もしくはサファイア単結晶に相互応力による結晶欠陥を発生させずルツボに相互応力による変形を起こさせないような線膨張係数を持つ材料からなるルツボを用いることを特徴とするサファイア単結晶の製造装置。
【請求項10】
前記ルツボに、サファイア融点と常温との2点間における線膨張係数が、製造されるサファイア単結晶の成長軸に垂直な方向のサファイア融点と常温との2点間における線膨張係数よりも小さい材料からなるルツボを用いることを特徴とする請求項9記載のサファイア単結晶の製造装置。
【請求項11】
前記ルツボに、サファイアの融点から常温までの間において、サファイア融点と各点との2点間における線膨張係数が、製造されるサファイア単結晶の成長軸に垂直な方向のサファイアの線膨張係数よりも常に小さい材料からなるルツボを用いることを特徴とする請求項9記載のサファイア単結晶の製造装置。
【請求項12】
ルツボ材料がタングステンであることを特徴とする請求項9〜11いずれか1項記載のサファイア単結晶の製造装置。
【請求項13】
ルツボ材料がタングステンとモリブデンの合金であることを特徴とする請求項9〜11いずれか1項記載のサファイア単結晶の製造装置。
【請求項14】
ルツボ材料がモリブデンであることを特徴とする請求項10記載のサファイア単結晶の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−42560(P2011−42560A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−163755(P2010−163755)
【出願日】平成22年7月21日(2010.7.21)
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【出願人】(000236687)不二越機械工業株式会社 (48)
【Fターム(参考)】