説明

サフラシン生合成を担当する遺伝子クラスター、および遺伝子工学のためのその使用

サフラシン分子の合成を起こさせるために十分なポリペプチドをコードするオープンリーディングフレームを有する遺伝子クラスター。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サフラシン(safracin)の生合成を担当する遺伝子クラスター、遺伝子工学のためのその使用、および上記生合成のメカニズムの操作により得られる新規サフラシン類に関する。
【背景技術】
【0002】
広範囲で強力な抗菌活性を有する新規化合物ファミリーであるサフラシンは、Pseudomonas種の培養ブロス中で発見された。サフラシンは、2種類のPseudomonas種株で発生する。すなわち、Tagawagun, Fukuoka, Japanで採集された土壌試料から単離されたPseudomonas fluorescens A2-2 (Ikeda et al. J. Antibiotics 1983,36, 1279-1283; WO 82 00146 and JP 58113192)、および、New Jersey 近郊のRaritan-Delaware Canalから採取された水サンプルより単離されたPseudomonas fluorescens SC 12695 (Meyers et al. J. Antibiot. 1983,36 (2), 190-193)である。Pseudomonas fluorescens A2-2の産生するサフラシンAおよびBは、様々な腫瘍細胞株に対して試験されてきており、抗菌活性に加えて抗腫瘍活性を有することが見出されている。
【0003】
【化1】

【0004】
サフラシンBとET-743の構造が類似していることから、海洋性被嚢類のEcteinascidia turbinataから単離され、ヨーロッパおよび米国において現在Phase II 臨床治験の段階にある、非常に有望な新規、強力な抗腫瘍剤ET-743を半合成(hemi-synthesis)できる可能性が、サフラシンによって提示される。ET-743の半合成は、サフラシンBから出発して実現されている(Cuevas et al. Organic Lett. 2000,10, 2545-2548; WO 00 69862およびWO 01 87895)。
【0005】
サフラシンまたはその構造類似体の、化学合成による作製に対する代替法として、二次代謝を制御する遺伝子を操作することが有望な代替法であり、これらの化合物を生合成により調製できる見込みがある。さらに、サフラシンの構造から考えてコンビナトリアル生合成の可能性が非常に期待される。
【0006】
サフラシン類の複雑な構造およびPseudomonas fluorescens A2-2からこれらを得ることの限界に鑑みて、標的を定めた手法でこれらに影響を与えるような手段を創出するためにこれらの合成の遺伝的基礎を理解することが、非常に望ましいであろう。このことで、産生されるサフラシン類の分量が増加し得る。というのは、天然の産生株は一般的に、関心となる二次代謝産物を低濃度にしか産生しないからである。このことでさらに、そうしなければこれらの化合物を産生しないような宿主においてもサフラシンを産生させることが可能となる。さらに、遺伝子操作を利用して、向上した特性を示し、新規なエクチナサイジン系化合物(ecteinascidins compounds)の半合成に用いられうる新規サフラシン類似体を、コンビナトリアルに創出し得る。
【0007】
しかし、生合成的アプローチの成功如何は、新規遺伝子系の入手可能性および新規酵素活性をコードする遺伝子に非常に依存する。サフラシン遺伝子クラスターの解明は、サフラシン生合成に特有に関連する遺伝子のレパトアを拡大することでコンビナトリアル生合成の分野一般に貢献し、コンビナトリアル生合成を介して新規なサフラシン類および前駆体を作製する可能性をもたらす。
【特許文献1】WO 00 69862
【特許文献2】WO 01 87895
【非特許文献1】Ikeda et al. J. Antibiotics 1983,36, 1279-1283; WO 82 00146 and JP 58113192
【非特許文献2】Meyers et al. J. Antibiot. 1983,36 (2), 190-193
【非特許文献3】Cuevas et al. Organic Lett. 2000,10, 2545-2548
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0008】
ここで我々は、サフラシン生合成の遺伝子群を同定およびクローン化することができ、標的を定めた手法でPseudomonas種の生産性を向上および操作するため、およびサフラシン類似体の合成に遺伝的手法を用いるための遺伝的基礎を提供した。さらに、これらの遺伝子は、構造を生成する生合成プロセス(サフラシン前駆体など)を担当する酵素をコードしていて、このことにより、広範な種類の化合物を生産するコンビナトリアル化学の基礎を成し得る。これらの化合物を、様々な生物活性、例えば抗腫瘍活性などについてスクリーニングすることができる。
【0009】
したがって、本発明の第一の態様は、サフラシン生合成を担当する非リボソーム型ペプチド合成酵素をコードするDNA配列(その変異型およびバリアントも包含する)を含む核酸、好適には単離された核酸を提供する。本発明は、サフラシン分子の組立てを指示するポリペプチドをコードするオープンリーディングフレームを有する遺伝子クラスター、好適には単離された遺伝子クラスターを提供する。
【0010】
本発明の一態様は、サフラシン生合成の少なくとも一つの段階を触媒するポリペプチドの少なくとも一つをコードする核酸配列、好適には単離された核酸分子を少なくとも一つ含む組成物である。組成物中に、このような核酸配列が2以上存在してもよい。DNAまたは対応するRNAもまた提供される。
【0011】
とりわけ、本発明は、前記核酸配列を含むサフラシン遺伝子クラスター由来の核酸配列、好適には単離された核酸配列、前記核酸配列の部分(1個または複数)であって生物学的に活性なポリペプチド(群)またはポリペプチド(群)をコードする部分、あるいは前記核酸配列由来の一本鎖核酸配列、前記核酸の部分(1個または複数)由来の一本鎖核酸配列、あるいは前記一本鎖核酸配列(例えばmRNAからのcDNA)に由来する二本鎖核酸配列に向けられる。核酸配列はDNAでもRNAでもよい。
【0012】
さらに詳細には、本発明は、少なくとも配列番号1の配列、そのバリアントもしくは部分、または、sacA, sacB, sacC, sacD, sacE, sacF, sacG, sacH, sacl, sacJ, orfl, orf2, orf3もしくはorf4遺伝子(バリアントもしくは部分を包含する)の少なくとも一つ、を包含するまたは含む核酸配列、好適には単離された核酸配列に向けられる。部分は少なくとも10, 15, 20, 25, 50, 100, 1000, 2500, 5000, 10000, 20000, 25000またはそれ以上のヌクレオチド長であってよい。典型的には、前記部分は長さ100から5000,または100から2500ヌクレオチド長の範囲であり、生物学的に機能し得る。
【0013】
「変異型またはバリアント」には、少なくとも一つのヌクレオチド残基が改変、置換、欠失または挿入されたポリヌクレオチド分子が包含される。1, 2, 3, 4, 5, 10, 15, 25, 50, 100, 200, 500箇所またはそれ以上の位置における別々のヌクレオチドの、複数の変更も可能である。「縮重バリアント」は同一のポリペプチドをコードするものと認識され、さらに、「非縮重バリアント」は異なるポリペプチドをコードするものと認識される。前記部分、変異型またはバリアントの核酸配列は、好適には、サフラシン遺伝子クラスターのオープンリーディングフレームのいずれかでコードされる各ポリペプチドの生物活性を保持したポリペプチドをコードする。対立遺伝子型および遺伝子多型も包含される。
【0014】
本発明はさらに、厳密条件下で本発明の核酸配列とハイブリダイゼーションできる単離核酸配列にも向けられる。とりわけ好ましいのは、翻訳可能な長さの本発明の核酸配列に対してハイブリダイゼーションすることである。
【0015】
本発明はさらに、アミノ酸配列が、サフラシン遺伝子クラスターオープンリーディングフレームsacAからsacJおよびorf1からorf4(配列番号1および配列番号1中でコードされる遺伝子)のいずれかでコードされる、またはこれらのバリアントもしくは部分でコードされるポリペプチドと少なくとも30%、好ましくは50%、好ましくは60%、さらに好ましくは70%、特に80%、90%、95%またはそれ以上同一であるポリペプチド、をコードする核酸に向けられる。このポリペプチドは、好適には、サフラシン遺伝子クラスターのオープンリーディングフレームのいずれかでコードされる各ポリペプチドの生物活性を保持している。
【0016】
とりわけ、本発明は、SacA, SacB, SacC, SacD, SacE, SacF, SacG, SacH, SacI, SacJ, Orfl, Orf2, Orf3またはOrf4タンパク質(配列番号2から15)、およびこれらのバリアント、変異体もしくは部分のいずれかをコードする単離核酸配列に向けられる。
【0017】
一態様において、本発明の単離核酸配列は、ペプチド合成酵素、L-Tyr誘導体ヒドロキシラーゼ、 L-Tyr誘導体メチラーゼ、 L-Tyr O-メチラーゼ、メチルトランスフェラーゼもしくはモノオキシゲナーゼ、またはサフラシン抵抗タンパク質をコードする。
【0018】
本発明はさらに、上記で規定された核酸配列またはその部分であるハイブリダイゼーションプローブも提供する。プローブは、好適には、少なくとも5, 10, 15, 20, 25, 30, 40, 50, 60ヌクレオチド残基またはそれ以上の配列を含む。25から60の範囲の長さを有する配列が好ましい。本発明はさらに、サフラシン遺伝子またはエクチナサイジン(ecteinascidin)遺伝子の検出のための、上記規定されたプローブの使用にも向けられる。とりわけ、前記プローブはEcteinascidia turbinataにおける遺伝子の検出に使用される。
【0019】
関連する態様において、本発明は、上述のように規定された核酸配列によってコードされるポリペプチドに向けられる。全配列、バリアント、変異型またはフラグメントのポリペプチドが考慮に入る。
【0020】
さらなる態様において、本発明は、タンパク質または生物学的に活性なタンパク質フラグメントをコードする、上記で規定された前記核酸配列を含むベクター、好ましくは発現ベクター、好ましくはコスミドに向けられる。
【0021】
別の態様において、本発明は、上記で規定された核酸配列の1種または複数、あるいは上記で規定されたベクター、発現ベクターまたはコスミドで形質転換された宿主細胞に向けられる。好ましい宿主細胞は、サフラシンまたはサフラシン類似体の組立てを指示するために十分なポリペプチドをコードする遺伝子クラスターを含む外来性核酸で形質転換されたものである。好ましくは、宿主細胞は微生物であり、さらに好ましくは細菌である。
【0022】
本発明はさらに、上記で規定された核酸配列の少なくとも一部が破壊され、結果として、対応する非組み換え型細菌宿主細胞から変化したレベルでサフラシン化合物またはサフラシン類似体を産生する組換え細菌宿主細胞にも向けられる。
【0023】
本発明はさらに、サフラシン化合物またはサフラシン類似体の生産方法であって、当該化合物または類似体の産生に適した培地中および条件下で、サフラシンまたはサフラシン類似体の組立てを指示するために十分なポリペプチドをコードするサフラシン遺伝子群/クラスターのコピー数が増加された、Pseudomonas種などの生物を発酵させる工程を含む方法にも向けられる。
【0024】
本発明はさらに、上記で規定された単離核酸配列を少なくとも一つ含む組成物の使用、または、非リボソーム型ペプチド、ジケトピペラジン環およびサフラシン類をコンビナトリアル生合成するためのその改変にも向けられる。
【0025】
とりわけ、上記方法は、上記で規定されたサフラシン生合成遺伝子クラスターのオープンリーディングフレームの一つまたは複数でコードされるポリペプチドの基質である化合物と、サフラシン生合成遺伝子クラスターのオープンリーディングフレームの一つまたは複数でコードされるポリペプチドとを接触させる工程を含み、これにより前記ポリペプチドが前記化合物を化学的に修飾する。
【0026】
さらに別の実施形態において、本発明は、サフラシンまたはサフラシン類似体の生産方法を提供する。この方法は、サフラシンまたはサフラシン類似体の組立てを指示するために十分なポリペプチドをコードする遺伝子クラスターを含む外来性核酸で形質転換された微生物を供給する工程;このような細菌をサフラシンまたはサフラシン類似体の生合成を可能とする条件下で培養する工程;および、前記細胞から前記サフラシンまたはサフラシン類似体を単離する工程を含む。
【0027】
本発明はまた、前駆体化合物P2、P14、これらの類似体および誘導体のいずれか、ならびに、非リボソーム型ペプチド、ジケトピペラジン環およびサフラシン類のコンビナトリアル生合成におけるこれらの使用にも向けられる。
【0028】
さらに、本発明は、ノックアウト法により得られる新規サフラシン類であるサフラシンP19B、サフラシンP22A、サフラシンP22B、サフラシンDおよびサフラシンE、ならびに、抗菌剤または抗腫瘍剤としてのこれらの使用、さらには、エクチナサイジン系化合物の合成におけるこれらの使用にも向けられる。
【0029】
本発明はさらに、上記で規定されたように引き起こされた生合成により得られる新規サフラシン類、および抗菌剤または抗腫瘍剤としてのこれらの使用、さらには、エクチナサイジン系化合物の合成におけるこれらの使用にも向けられる。とりわけ、本発明はサフラシンB-エトキシおよびサフラシンA-エトキシならびにこれらの使用に向けられる。
【0030】
一態様において、本発明は、化学合成では調製不可能または困難な、サフラシン類およびエクチナサイジン類関連構造を調製することを可能とする。別の態様として、この知識を、Ecteinascidia turbinata中でエクチナサイジン類を生合成させる手段を獲得するために用いること、例えば、これらの配列または部分を、この生物または推定される共生生物におけるプローブとして用いることがある。
【0031】
さらに根本的には、本発明は広範な分野を開拓し、エクチナサイジン類について遺伝子工学による手段を与えるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
非リボソーム型ペプチド合成酵素(NRPS)は、構造的および機能的に多様な多数の天然生成物を含む一群の化合物の生合成を担当する。例えば、生物活性を有するペプチドは、各種の生物活性を呈する化合物、例えば抗菌剤、抗ウイルス剤、抗腫瘍剤、免疫抑制剤などの、構造上のバックボーンとなる(Zuber et al. Biotechnology of Antibiotics 1997(W. Strohl, ed.), 187-216 Marcel dekker, Inc., N.Y; Marahiel et al. Chem. Rev. 1997,97, 2651-2673)。
【0033】
構造上は多様であっても、これら生物活性のペプチドの大部分は、生合成について互いに共通のメカニズム体系を有している。このモデルによれば、ペプチド結合の生成はペプチド合成酵素と呼ばれる多酵素上で起こり、この酵素上で、ATPの対応するアデニレートへの加水分解により基質アミノ酸が活性化される。この不安定な中間体は、続いて、多酵素の別の部位へ移動され、酵素に結合した4'-ホスフォパンテテニニル(4'-phosphopantetheninyl)(4'-PP)補因子のシステアミン基にチオエステルとして結合される。この段階において、このチオール活性化された基質は、エピマー化やN-メチル化などの修飾を受けうる。そして、チオエステル化された基質アミノ酸は、一連のペプチド転移反応による段階的な(step-by-step)伸長によって、ペプチド生成物へと統合される。ペプチド合成酵素におけるこのテンプレートの準備に関して、各モジュールは互いに独立して働くようにみえるが、これらは協調して連続的なペプチド結合の生成を触媒する(Stachelhaus et al. Science 1995,269, 69-72; Stachelhaus et al. Chem. Biol. 1996, 3, 913-921)。非リボソーム型ペプチド生合成の一般的なスキームについては、広く総括されている(Marahiel et al. Chem. Rev. 1997, 97,2651-2673 ; Konz and Marahiel, Chem. and Biol. 1999,6, R39- R48; Moffit and Neilan, FEMS Microbiol. Letters 2000,191, 159-167)。
【0034】
最近、ペプチド合成酵素をコードする細菌オペロンおよび真菌遺伝子の多数がクローン化、シークエンシング、そして一部は特徴付けされており、これらの分子構造への貴重な洞察を提供してきた(Marahiel, Chem and Biol. 1997,4, 561-567)。様々なクローニング戦略、例えば、ペプチド合成酵素に対して産生させた抗体を用いての発現ライブラリー探索、欠損型変異体に対する補完、および、ペプチド合成酵素断片のアミノ酸配列から設計されたオリゴヌクレオチドの使用、が用いられた。
【0035】
これらの遺伝子の一次構造解析により、顕著に相同な約600アミノ酸のドメインの存在が明らかになった。この特定の機能性ドメインは、3から8アミノ酸長の高度に保存されたコア配列少なくとも六つからなり、既知のドメイン全てにおけるその順列および配置は非常に類似している(Kuesard and Marahiel, Peptide Research 1994,7, 238-241)。この保存コアから推定される縮重オリゴヌクレオチドを用いることで、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法を用い、ペプチド合成酵素をゲノムDNAから同定およびクローニングする可能性が開かれる(Kusard and Marahiel, Peptide Research 1994,7, 238-241; Borchert et al. FEMS Microbiol Letters 1992,92, 175-180)。
【0036】
サフラシンの構造から、この化合物がNPRSメカニズムによって合成されることが示唆される。Pseudomonas fluorescens A2-2 サフラシンクラスターから非リボソーム型ペプチド合成酵素および関連する調整酵素をクローニングし発現させることで、サフラシンを分量の制限なく生産することが可能となるであろう。さらに、クローニングされた遺伝子を、向上した特性を示して新規エクチナサイジン系化合物の半合成に用いられうる新規サフラシン類似体の創出に利用することもできるであろう。さらには、上記サフラシン遺伝子クラスターを異種系でクローニングおよび発現させると、あるいはサフラシン遺伝子クラスターと他のNRPSとを組み合わせると、結果として、向上した活性をもつ新規薬物を創出できるであろう。
【0037】
本発明はとりわけ、サフラシンの生合成を担当するNRPS、すなわちサフラシン合成酵素群(safracin synthetases)をコードするDNA配列を提供する。我々は、Pseudomonas fluorescens A2-2 ゲノムから26,705 bpの領域(配列番号:1)を特徴づけし、pL30Pコスミドにクローニングして、ノックアウト実験および異種発現によって、この領域がサフラシン生合成の原因となることを実証した。我々は上記pL30Pコスミドを、サフラシンを産生しないPseudomonas種の株2種類において発現させた。その結果は、P. fluorescens A2-2での産生に対して、P. fluorescens (CECT 378)では22%、P. aeruginosa (CECT 110)では2%のレベルでのサフラシンAおよびBの産生であった。このDNA配列によりコードされる各種ペプチドの予想アミノ酸配列を、配列番号2から配列番号15にそれぞれ示す。
【0038】
P. fluorescens A2-2由来サフラシン生合成遺伝子クラスターは、特定のオープンリーディングフレーム(ORF)群の存在で特徴付けられ、これらは互いに異なる二つのオペロン(図1)すなわち8遺伝子のオペロン(sacABCDEFGH)および2遺伝子のオペロン(sacIJ)、およびこれらの上流の、高度に保存された推定上の重複したプロモーター領域、と配置されている。サフラシン生合成遺伝子クラスターは、P. fluorescens A2-2 ゲノム中に1コピーしか存在しない。
【0039】
我々の結果は、上記8遺伝子オペロンがサフラシン骨格の生合成の原因であり、上記2遺伝子オペロンがサフラシンの最終調整の原因であろうことを示している。
【0040】
sacABCDEFGHオペロンでは、sacA, sacBおよびsacCでコードされる推定アミノ酸配列は、NRPS類の遺伝子産物と非常に似ている。SacA, SacBおよびSacCの推定アミノ酸配列のうち、あるペプチド合成酵素モジュールがORF群の各々の上で同定された。
【0041】
サフラシンNPRSタンパク質の驚くべき第一の特徴は、知られている活性部位からのもの、およびペプチド合成酵素のコア領域からのものであり(Konz and Marahiel, Chem. and Biol. 1999,6, R39-R48)、第一のコアは、SacA, SacBおよびSacCという全3つのペプチド合成酵素においてあまり保存されていない(図2)。その他の5領域は、上記3つのペプチド合成酵素全てにおいてよく保存されている。第一のコア(LKAGA)の生物学的な意義は未知であるが、SGT(ST)TGxPKG (Gocht and Marahiel, J. Bacteriol. 1994,176, 2654-266; Konz and Marahiel, Chem. and Biol. 1999,6, R39-R48)コア配列, TGD(Gocht and Marahiel, J. Bacteriol. 1994,176, 2654-2662; Konz and Marahiel, 1999)コア配列およびKIRGxRIEL (Pavela-Vrancic et al. J. Biol. Chem 1994,269, 14962-14966; Konz and Marahiel, Chem. and Biol. 1999,6, R39-R48)コア配列はATPの結合および加水分解を担い得るであろう。コア配列LGGxSのセリン残基は、チオエステル生成(D'Souza et al., J. Bacteriol. 1993,175, 3502-3510; Vollenbroich et al., FEBS Lett. 1993,325 (3), 220-4; Konz and Marahiel, Chem. and Biol. 1999,6, R39-R48)、および、4'-ホスフォパンテテイン(4'-phosphopantethein)結合(Stein et al. FEBS Lett. 1994,340, 39-44; Konz and Marahiel, Chem. and Biol. 1999, 6, R39-R48)の部位であると示され得る。これらの知見は、サフラシンがアミノ酸から合成されると思われる事実と共に、サフラシンの生合成経路にはチオテンプレート(thiotemplate)機構を介した非リボソーム型ペプチド結合生成が関わる、および、sacA, sacBおよびsacCが、対応するペプチド合成酵素をコードするという仮説を支持するものである。
このメカニズムによれば、アミノ酸はATP加水分解によりアミノアシルアデニレートとして活性化され、続いて、カルボキシル-チオエステル結合を介して酵素に共有結合される。その後、さらなる段階として、ペプチド転移反応およびペプチド結合生成が起こる。
【0042】
第二に、印象的なのは、我々の配列データが、染色体に沿ったアミノ酸結合モジュールの順列がペプチド中のアミノ酸の順列と並行するような共線性がサフラシン合成酵素系に当てはまらないことを、明白に示すことである。配列データベースホモロジーおよびサフラシンとサフラマイシン(saframycin)との構造ホモロジーによれば、SacAがGly残基の認識および活性化の原因、SacBおよびSacCが、サフラシン骨格に組み込まれている2個のL-Tyr誘導体の認識および活性化の原因であろう。一方、推定上のAla-NRPS遺伝子は、サフラシン遺伝子クラスターでは欠けているであろう。プリスタマイシン(pristamycin)(Crecy-Lagard et al, J. of Bacteriol. 1997,179 (3), 705-713)やホスフィノトリシントリペプチド(phosphinothricin tripeptide)(Schwartz et al. Appl Environ Microbiol 1996, 62,570-577)生合成経路中のような、ある非リボソーム型ペプチド合成酵素遺伝子クラスター中では、1番目のNRPSと2番目のNRPSとは隣接していない。具体的には、プリスタマイシン生合成経路において、第一の構造遺伝子(snbA)と第二の構造遺伝子(snbC)とは130kb離れている。このことは、pL30Pコスミドを用いた異種発現の結果で、異種性のサフラシン産生が起こることからNPRS遺伝子が全く欠けていないことが明白に実証されるサフラシン遺伝子クラスターには当てはまらない。
【0043】
第三に、Ala-Glyジペプチドが生成するメカニズムに関する疑問は未解決のままではあるものの、第一のNRPS遺伝子のアミノ末端において、sacA中に余剰のCドメインが存在することにより、この遺伝子による二機能性のアデニル化反応活性化作用の可能性が示唆される。我々は、上記Alaが、まずSacAのホスフォパンテテイニルアーム上に装填され(図3a*およびb*)、その後、待機位置の重合ドメインへ転移されてsacAのN末端に配置される(図3,c*)のであろうと提案する。その後、Gly-アデニレートが同じホスフォパンテテイニルアーム上に装填され(図3,d*およびe*)、伸長部位に配置され、そして伸長が起こる(図3,f*)。最初のモジュールのアームには、この段階でAla-Glyジペプチドが装填される(図3,g*)。我々は、このジペプチドが次に、第二のホスフォパンテテイニルアーム上の待機位置に転移されて(図3,h*)sacBに配置され、これによりサフラシンテトラペプチド基本骨格の合成が継続されると提案する。別の生合成メカニズムとして、SacAへのAla-Glyジペプチドの直接取込みがあり得る。この場合、上記ジペプチドは、高活性ペプチジルトランスフェラーゼリボザイムファミリーの作用(Sun et al, Chem. and Biol. 2002,9, 619-626)または細菌性タンパク分解の作用によって生成したものであり得る。
【0044】
そして第四に、原核生物のペプチド合成酵素の大半では、酵素からの完全ペプチド鎖遊離を担うと思われるチオエステラーゼ部分が、最後のアミノ酸結合モジュールのC-終末端に融合している(Marahiel et al. Chem. Rev. 1997, 97,2651-2673)にも関わらず、サフラシン合成酵素の場合はこのTEドメインが欠けている。おそらく、サフラシン合成では、最終伸長段階後に、サフラマイシン合成でも起こるような別のペプチド鎖終結ストラテジー(Pospiech et al. Microbiol. 1996,142, 741-746)でテトラペプチドが遊離されるのであろう。この特定の終結ストラテジーは、SacCペプチド合成酵素のカルボキシ-終末端の還元酵素ドメインによって触媒され、これが付随するT-ドメイン繋留型(tethered)アシル基の還元的開裂を触媒することで直鎖アルデヒドが遊離される。
【0045】
我々の交差供給試験により、サフラシン分子に組み込まれる最後の2アミノ酸は、サフラマイシン合成で登場すると提案されるようなL-Tyr 2個ではなく、P2と呼ばれるL-Tyr誘導体(3-ヒドロキシ-5-メチル-O-メチルチロシン)2個であることが示される(図4,5)。第一に、2つの遺伝子(sacFおよびsacG)の産物(細菌のメチルトランスフェラーゼと類似している)が、P2の前駆体であるP14(3-メチル-O-メチルチロシン)を産生するためのL-TyrのO-, C-メチル化に関与することが示された。可能性のあるメカニズムとしては、O-メチル化がまず起こり、その後、このアミノ酸誘導体のC-メチル化部が生成されることが考えられる。第二に、ペプチド合成酵素SacBおよびSacCの基質であるP2が、SacDによるP14のヒドロキシル化によって生成する(図4,5)。
【0046】
【化2】

【0047】
sacABSDEFGHオペロン中には、サフラシン生合成遺伝子に加えて、それぞれ未知の機能およびサフラシン抵抗性メカニズムに関与する、sacEおよびsacHの2遺伝子も見出される。我々は、sacH遺伝子が、異なるPseudomonas株中で異種性に発現された場合にサフラシンB抵抗性の著しい向上が起こるタンパク質をコードすることを実証した。sacHは膜貫通型タンパク質と推定され、これが、サフラシンBのC21-OH基をC21-H基に変換して、抗菌活性および抗腫瘍活性がより低いサフラシンAを産生する。最後に、SacEの推定上の機能は未知のままであるものの、この遺伝子群の相同性として、特定の微生物のゲノムにおける様々な二次代謝産物遺伝子クラスターと近いことが明らかになったことから、二次代謝産物の生成または制御における、この遺伝子群で保存された機能が示唆される。
【0048】
saclJオペロンにおいて、sacIおよびsacJのコードする推定アミノ酸配列は、それぞれ、メチルトランスフェラーゼおよびヒドロキシラーゼ/モノオキシゲナーゼの遺伝子産物と非常に類似している。我々のデータにより、SacIは、サフラシンの構造中に存在するN-メチル化を担当する酵素であり、SacJは、さらに上記テトラペプチドに組み込まれたL-Tyr誘導体の一つにヒドロキシル化を起こして、全てのサフラシン分子に存在するキノン構造を生じさせるタンパク質であることが明らかである。N-メチル化は非リボソーム型で合成されたペプチドに対する修飾の一つであり、これらの生物活性について非常に貢献する。細菌により産生され、N-メチル化されているサフラマイシン(Pospiech et al. Microbiol. 1996,142, 741-746)を除き、知られているN-メチル化非リボソーム型ペプチドは、菌類または放線菌類により産生されるものである。そして、大抵の場合、N-メチル化を担当するのは、非リボソーム型ペプチド合成酵素に帰属するドメインである。
【0049】
表I.コスミドpL30P中で同定されたサフラシン生合成および抵抗性遺伝子の概括。
【0050】
【表1】

【0051】
サフラシンの推定合成経路を、各縮合反応に用いられる特定のアミノ酸基質および各種の縮合後作用を示しつつ、図5に示す。
【0052】
サフラシン生合成遺伝子の役割をさらに評価するために、我々は、サフラシンクラスターの遺伝子の各々についてのノックアウト変異体を構築した(図6)。NRPSs遺伝子(sacA, sacBおよびsacC)ならびにsacD, sacFおよびsacGの破壊の結果は、サフラシンおよびP2非産生型変異体であった。我々の結果から、sacAからsacHまでの遺伝子は同一の遺伝子オペロンの一部であることが示される。sacIおよびsacJ遺伝子破壊の結果、3種類の新規分子すなわちP19B, P22AおよびP22Bが生じた(図6)。
【0053】
【化3】

【0054】
sacJ変異体がP22AおよびP22Bを産生した(図7a*)ことから、SacJタンパク質の役割は、サフラシンの、キノン環に含まれる残ったL-Tyr誘導体アミノ酸のさらなるヒドロキシル化を引き起こすことであると証明された。sacI変異体が、N-メチル化およびキノン環が欠けたサフラシン様分子であるP19Bを産生した(図7b*)ことから、SacIがN-メチルトランスフェラーゼ酵素であることが確認され、sacIJが転写オペロンであることが示唆される。sacJ変異体もまたP19Bを産生した(図7a*)ことは、おそらくキノン環が形成された後に、N-メチル化が起こることを示唆する。これらの新規構造は、B. subtilisに対して興味ある抗菌活性も、ガン細胞に対する高い細胞毒性も持たないものの、これらは新規活性分子の半合成のための重要な新規前駆体として働き得る。構造活性に関する限りでは、P19B, P22AおよびP22Bがその活性を失うようであるという観察から、サフラシン構造からのキノン環の欠損が、サフラシンファミリーの分子の活性喪失に直接関係すると示唆される。
【0055】
sacI破壊とsacJ組換え発現を一緒に行うと、結果として、新たな2種のサフラシンが産生された。この、野生型株でのサフラシンA/サフラシンB産生と同程度のレベルで産生された2種の抗生物質は、サフラシンDおよびサフラシンEと名付けられた(図7c*)。
【0056】
【化4】

【0057】
サフラシンDおよびサフラシンEは、それぞれサフラシンB様およびサフラシンA様の分子であって、N-メチル化が欠けたものである。サフラシンDおよびサフラシンEのいずれも、それぞれサフラシンBおよびサフラシンAと同一の抗菌活性と抗腫瘍活性を有することが示された。サフラシンDは、自身の高活性の特性(抗菌および抗腫瘍)に加えて、強力な抗腫瘍剤であるエクチナサイジンET-729の半合成、ならびに新規エクチナサイジン類の半合成に利用され得る。
サフラシンオペロンの3'位に位置する遺伝子でコードされるアミノペプチダーゼ様タンパク質の役割に関しては、疑問が生じる。orf1の挿入失活(PM-S1-14)は、サフラシンA/サフラシンB産生に何の影響も示さなかった。その機能特性から、このタンパク質がサフラシン代謝において何らかの役割を果たし得るかは不明のままである。上記pL30Pコスミド中に存在するその他の遺伝子(orf2からorf4)については、さらに詳細な研究が必要であろう。
【0058】
本発明の別の態様は、特定して設計された「非天然型」新規分子の生産に必要な手段を提供する。sacE変異体に、特定の修飾型P2誘導体前駆体である3-ヒドロキシ-5-メチル-O-メチルチロシン(P3と称する)を添加すると、この特定の修飾型前駆体を取り込んだ2種の「非天然型」サフラシン、すなわちサフラシンA(OEt)およびサフラシンB(OEt)が得られる(図8)。
【0059】
【化5】

【0060】
この2種の新規サフラシンは、強力な抗菌性および抗腫瘍性化合物である。サフラシンA(OEt)およびサフラシンB(OEt)の生物活性は、それぞれサフラシンAおよびサフラシンBのそれと同程度に強い。これらの新規サフラシンは、強力な新規抗腫瘍剤の原料、ならびに新規エクチナサイジン類の半合成用の分子を与えるものになり得る。
【0061】
さらに、サフラシン合成に関与する遺伝子を他の非リボソーム型ペプチド合成酵素遺伝子と組み合わせて、その結果、活性の向上した新規「非天然型」薬物および類似体を創出することも可能であろう。
【実施例】
【0062】
・実施例1:Pseudomonas fluorescens A2-2からの核酸分子の抽出
細菌株
Pseudomonas種の株は、Luria-Bertani(LB)ブロス中、27℃で成育させた(Ausubel et al. 1995, J. Wiley and Sons, New York, N. Y)。E. coli株は、LB培地中37℃で成育させた。各種抗生物質を次の濃度で使用した:アンピシリン(50 μg/ml),テトラサイクリン(20 μg/ml)およびカナマイシン(50μg/ml)。
表II.本発明で用いられる株
【0063】
【表2】

【0064】
DNA操作
別途注釈されていない限り、in vitro DNA操作およびクローニングに関する標準的な分子生物学的技法を使用した(Sambrook et al. 1989, Cold Spring Harbor, NY: Cold Spring Harbor Laboratory)。
DNA抽出
Pseudomonas fluorescens A2-2培養物からの全DNAを、報告されている通りに調製した(Sambrook et al. 1989, Cold Spring Harbor, NY: Cold Spring Harbor Laboratory)。
コンピュータ解析
DNA-Starソフトウェアパッケージを用いて、配列データを編集および解析した。
【0065】
・実施例2:サフラシン産生を担当するNPRS遺伝子群の、Pseudomonas fluorescens A2-2における同定
プライマー設計
Marahielらは(Marahiel et al. Chem. Rev. 1997,97, 2651-2673)、これまでに、環状または鎖状ペプチド合成酵素の触媒ドメインでの高度に保存されたコアモチーフを報告している。報告されている特定のペプチド合成酵素間での多元的配列比較に基づいて、保存されている領域A2, A3, A5, A6, A7およびA8(アデニル化モチーフである)ならびにT(チオール化モチーフである)を、変性(degenerate)プライマー設計の標的とした(Turgay and Marahiel, Peptide Res. 1994,7, 238-241)。選択したモジュール内でのコドンの優先度、およびPseudomonas種で高G/C含量が予想されることに考慮して、ゆらぎ部位を設けた。オリゴヌクレオチドは全てISOGEN(Bioscience BV)から入手した。YGPTE(A5コア)およびLGGXS(Tコア)配列から推定される変性オリゴヌクレオチドを用いた場合にPCRフラグメント産物が得られた。これらのオリゴヌクレオチドを、それぞれPS34-YGおよびPS6-FFと命名した。
表III. この試験のために設計したPCRプライマー。
【0066】
【表3】

【0067】
P. fluorescens A2-2由来DNAの増幅用のPCR条件
テンプレートとしてPS-34-YGおよびPS6-FFオリゴヌクレオチドならびにP. fluorescens A2-2染色体DNAを用いて、非リボソーム型ペプチド合成酵素(NPRS)類の内因となるフラグメントを増幅した。Promegaの反応バッファーおよびTaqポリメラーゼを用いた。一連のサイクルは、Personal thermocycler (Eppendorf)内で、95℃で1分,50℃で1分,72℃で2分、30サイクルにて行った。PCR産物のサイズは、他の合成酵素の遺伝子におけるNPRSドメイン内でのプライマー結合位置に基づいて予測されたサイズ(およそ750 bp)であった。
【0068】
DNAクローニング
PCR増幅フラグメントを、pGEM-Teasyベクターへ、製造者(Qiagen, Inc. , Valencia, CA)に従ってクローニングした。このようにすると、クローニングされたフラグメントには2個のEcoRI制限酵素部位が隣接し、これにより、続いての他のプラスミドでのサブクローニング(以下を参照されたい)を亢進することができる。NPRS類の酵素はモジュール性であるから、変性PCRプライマーによるクローンは、異なるドメイン由来のフラグメントの集合体である。
【0069】
DNAシークエンシング
シークエンシングは全て、クローニングベクターに向いたプライマーを用い、ABI Automated sequencer (Perkin-Elmer)にて行った。クローニングされたDNA配列の同定を、インターネット経由でアクセスしたBLAST server of the National Center for Biotechnology Information (Altschul et al., Nucleic Acids Res. 1997,25, 3389-3521)にて行った。上記配列の全てが、NPRS類のシグネチャー領域を有しており、BLASTの検索において細菌のNPRSと高い類似性を示す。このことは、これらが事実上ペプチド起源であることを示す。さらには、ドメインの類似性がありそうなものの検索を、PROSITE (European Molecular Biology Laboratory, Heidelberg, Germany)ウェブサーバーを用いて実施した。
【0070】
Pseudomonas fluorescens A2-2の遺伝子破壊
クローニングされた遺伝子の機能を解析するために、相同組み換えによってこれらの遺伝子を破壊した。この目的のために、NPRS遺伝子フラグメントを擁している、組換えプラスミド(pG-PS類縁体)を、EcoRI制限酵素で消化した。得られた遺伝子フラグメント、つまり当該遺伝子が変異されるべきものを、E. coli内で複製することができ、Pseudomonas系株では複製できない染色体組込み型プラスミドであるpKl8mob可動プラスミド(Schaefer et al. Gene 1994,145, 69-73)にクローン化した。組換えプラスミドをトランスフォーメーションによってE. coli S17-XPIR株に導入してから、二親性接合によってP. fluorescens A2-2に導入した(Herrero et al, JBacteriol 1990,172, 6557-6567)。各種濃度の接合体を、アンピシリン+カナマイシン含有LB固体培地上にプレーティングし、27℃で一晩インキュベーションした。カナマイシン抵抗性の形質伝達接合体(transconjugant)、すなわち相同組換えを介してゲノム中に組み込まれたプラスミドを含有しているものが、選択された。
【0071】
サフラシン産生の生物学的アッセイ(バイオテスト)
P. fluorescens A2-2株およびその類縁体を、対応する抗生物質を含む発酵培地を入れたバッフル付き50mL容三角フラスコ中でインキュベーションした。最初は、SA3発酵培地を使用した(Ikeda Y. J. Ferment. Technol. 1985,63, 283-286)。発酵プロセスの生産性を向上させるために、Plackett-Burmanが考案したような統計的数学的手法を用いて、栄養源を選んだ。また、重要な各独立変数の至適レベルを検討するために、界面最適化の技法を試験した(Hendrix C. Chemtech 1980, 10,488-497)。インキュベーション温度および拡販などの培養条件を向上させるための実験も行った。最終的に、サフラシンB高産生培地として、16Bと呼ばれるもの(152 g/1のマンニトール, 35g/1のG20-25イースト, 26 g/1のCaCO3, 14 g/1の硫酸アンモニウム, 0.18 g/1の塩化第二鉄, pH 6.5)を選択した。
【0072】
Pseudomonas種の27℃インキュベーションにおける3日培養物の培養上清10μlによる、Bacillus subtilis固体培地培養物の阻止を調べることで、サフラシン産生を試験した(Alijah et al. Appl Microbiol Biotechnol 1991,34, 749-755)。P. fluorescens A2-2の培養物は直径10から14mmの阻止円を作り出した。一方、非産生型変異体はB. subtilisの成育を阻止しなかった。分離された三つのクローンが、サフラシン生合成経路に影響を受けていた。この結果を確立するために、サフラシン産生のHPLC分析を実施した。
【0073】
サフラシン産生のHPLC分析
HPLC Symmetry C-18(300A, 5 μm, 250×4.6 mmカラム(Waters);ガードカラム(Symmetry C-18, 5μm 3.9×20 mm, Waters) 付き)を用いて上記上清を分析した。酢酸アンモニウム緩衝液(10 mM, 1%ジエタノールアミン, pH 4.0)-アセトニトリルのグラジエントを移動相とした。波長268nmにおける吸収によってサフラシンを検出した。図6において、P. fluorescens A2-2株によるサフラシンおよびサフラシン前駆体の産生のHPLCプロファイルと、P. fluorescens変異体により産生された各種サフラシン様構造を示す。
【0074】
・実施例3:サフラシン遺伝子クラスターのクローニングおよび配列解析
逆PCRおよびファージライブラリーハイブリダイゼーション
変異体の染色体DNAについてのサザンハイブリダイゼーションにより、遺伝子破壊が正しく行われたことが立証され、pK18mobプラスミド中にクローニングされたペプチド合成酵素に関するフラグメントがサフラシン産生に必須であることが実証された。得られた、サフラシン非産生の変異体群の解析により、これらの全てにおいて同一の遺伝子すなわちsacAが破壊されていることが示された。
P. fluorescens A2-2ゲノムDNAのファージライブラリーに対するスクリーニングおよびゲノムDNAからの逆PCRにより、sacA遺伝子に隣接し、おそらくはサフラシン生合成に関与する別の遺伝子の存在が明らかになった。
P. fluorescens A2-2のサフラシン生合成クラスターの核酸配列データに対するGenBank受託番号はAY061859である。
【0075】
コスミドライブラリー構築および異種発現
サフラシン非産生株に対して、サフラシン遺伝子クラスターがサフラシン生合成能を与えることができるかを検討するために、これを広範囲のコスミドベクター(pLAFR3, Staskawicz B. et al. J Bacteriol 1987,169, 5789-5794)にクローニングして、各種のPseudomonas種コレクション株に接合させた。
クラスター全体を含むクローンを得るために、コスミドライブラリーを構築しスクリーニングした。この目的のために、PstI制限酵素で染色体DNAを一部消化し、得られた断片を脱リン酸化してコスミドベクターpLAFR3のPstI部位にライゲーションした。このコスミドを、Gigapack III goldパッケージングエクストラクト(Stratagene)を用いて製造者の推奨どおりにパッケージングした。感染されたXL1-Blue株の細胞を、テトラサイクリン50μg/ml添加のLB-寒天培地にプレーティングした。サフラシンクラスターの3'-末端に応じたDIG-標識DNA断片とのコロニーハイブリダイゼーションを用いて、陽性のクローンを選択した。クラスター全体のクローニングを確実にするために、5'-末端用DNA断片とのコロニーハイブリダイゼーションを新たに行った。コスミドpL30pのみが、DNAプローブ群とのハイブリッド形成を複数示した。クローニングの正確さを確認するために、サフラシンの配列に応じたDNAオリゴヌクレオチドを用いてPCR増幅およびDNAシークエンシングを実施した。pL30pにおける挿入配列のサイズは26,705 bpであった。pL30pクローンDNAをE. coli S17λPIRにトランスフォーメーションし、得られた株を異種のPseudomonas 種の株と接合させた。pL30pコスミドを、上述のような二親性接合でP. fluorescens CECT378およびP. aeruginosa CECT110に導入した。クラスター全体をコードするクローンが同定されると、この候補がサフラシンを産生できるかを検討した。接合体株のサフラシン産生は、前述のようにHPLC分析およびブロス培養上清の生物学的アッセイで評価した。
上記pL30pコスミドを発現したP. fluorescens CECT378(PM-19-002)は、サフラシンをかなりの分量で産生することができた。一方、pL30P を発現したP. aeruginosa CECT110株(PM-16-002)におけるサフラシン産生は、CECT378より10倍少なかった。これらの株におけるサフラシン産生は、全産生量にして天然の産生型細胞に対し約22%と2%であった。
【0076】
サフラシン生成を担当する遺伝子。sacABCDEFGHおよびsacIJオペロンの配列解析
pL30PのDNA配列コンピュータ解析により、14個のORFが明らかになった(図1)。リボソーム結合部位と思われる部位が、各ATGスタートコドンの上流に存在した。
sacABCDEFGHオペロンのうち、sacA, sacBおよびsacC (それぞれ、P. fluorescens A2-2 のサフラシン配列(配列番号1)の3052から6063位,6080から9268位および9275から13570位)という3個の非常に大きなORFが同じ方向で読み取られ、サフラシンNRPS群と推定されるもの、すなわち、SacA (1004アミノ酸, Mr 110452), SacB (1063アミノ酸, Mr 117539)およびSacC (1432アミノ酸, Mr 157331) をコードする。この3個のNPRS群遺伝子は、既知のペプチド合成酵素のアミノ酸活性化ドメインと類似したドメインを含んでいる。特に、これらのNPRS遺伝子のアミノ酸活性化ドメインは、Myxococcus xanthus のサフラマイシンNRPS群に見出されるアミノ酸活性化ドメイン(Pospiech et al. Microbiology 1995,141, 1793-803; Pospiech et al. Microbiol. 1996,142, 741-746)4個のうち3個と非常に類似している。特に、SacA(配列番号:2)は、M. xanthus (NCBI受託番号 U24657)由来のサフラマイシンMx1合成酵素B タンパク質(SafB)と33%の同一性を有し、一方SacB(配列番号:3)およびSacC(配列番号:4)は、M. xanthus (NCBI受託番号U24657)由来のMx1合成酵素 A(SafA)と、39%および41%の同一性をそれぞれ持つ。図2は、SacA, SacB y SacCおよびサフラマイシンNRPSの異なるアミノ酸活性化ドメインの間の比較を示す。
【0077】
SacCの下流に、NRPS群遺伝子と同じ方向で読み取られる5個の小さなORFが存在する(図1)。1番目のsacD(P. fluorescens A2-2 サフラシン配列の13602から14651位)は、推定上のタンパク質SacD (350アミノ酸, Mr 39187;配列番号: 5)をコードし、GeneBank DB 中にこれと同一物はない。次のsacE (P. fluorescens A2-2 サフラシン配列の14719から14901 位)は、推定上の小さなタンパク質SacE(61アミノ酸, Mr 6729;(配列番号: 6))をコードし、これはデータベースにおける機能未知のタンパク質と幾分かの同一性を示す(Streptomyces viridochromogenes (NCBI受託番号Y17268)由来ORF1と44%一致、およびMycobacterium tuberculosis (NCBI受託番号Z95208)由来MbtHと36%一致)。3番目のORFであるsacF(P. fluorescens A2-2 サフラシン配列の14962から16026位)は、計算上の分子量39,834の355残基タンパク質(配列番号: 7)をコードする。このタンパク質は、Chloroflexus aurantiacus(NCBI受託番号AF288602)由来のヒドロキシニューロスポレンメチルトランスフェラーゼ(CrtF)と非常によく似ている(25%一致)。4番目のORF、sacG(P. fluorescens A2-2 サフラシン配列の16115から17155位)の核酸配列から、347アミノ酸で分子量38,22 kDa(配列番号: 8)の遺伝子産物が予測された。このタンパク質(SacGと呼ばれる)は、細菌のO-メチルトランスフェラーゼ類と類似しており、例えばStreptomyces anulatus(NCBI受託番号P42712)由来のO-ジメチルピューロマイシン-O-メチルトランスフェラーゼ(DmpM); 31%一致、が挙げられる。コンピュータ検索により、このタンパク質が、様々なS-アデノシルメチオニン依存性メチルトランスフェラーゼ類に見出される3配列モチーフ(Kagan and Clarke, Arch. Biochem. Biophys. 1994,310, 417-427)を含有することも示される。5番目の遺伝子、sacH(P. fluorescens A2-2 サフラシン配列の17244から17783 位)は、推定上のタンパク質SacH(180アミノ酸, Mr 19632;(配列番号: 9)をコードする。SacHの推定アミノ酸配列とその他のタンパク質配列との類似性をコンピュータ検索したところ、高度に保存された膜貫通型モチーフ、およびジヒドロフォレート(dihydrofolate)還元酵素様の活性部位を含む、機能未知の特定の仮想保存タンパク質との一致が明らかになった(Pseudomonas aeruginosa PA01, NCBI受託番号P3469由来の仮想保存タンパク質と;35%一致)。
【0078】
sacABCDEFGHオペロンの上流に(逆方向で読み取る場合)、遺伝子2個のオペロン、sacIJが位置する。sacI遺伝子(2513から1854位)は、Thermotoga maritime(NCBI受託番号AE001745)由来のユビキノン/マネキノン(manequinone)メチルトランスフェラーゼと非常に似ている(32%一致)220アミノ酸のタンパク質(Mr 24219; (配列番号:10)をコードする。sacJ遺伝子(1861から335位)は、分子量55341 Daの509アミノ酸タンパク質(配列番号:11)をコードし、このタンパク質は、細菌のモノオキシゲナーゼ類/ヒドロキシラーゼ類と類似しており、例えばBacillus subtilis (NCBI受託番号Y14081)由来; 33%一致、およびStreptomyces coelicolor(NCBI受託番号AL109972)由来; 29%一致、の推定上のモノオキシゲナーゼが挙げられる。
【0079】
SacABCDEFGHオペロンおよびsaclJオペロンは多岐に逆転写され、約450bpごとに分離される。いずれのオペロンにも、残基転移酵素フラグメントが隣接している。
【0080】
関連するサフラシンクラスター遺伝子
サフラシン配列の3'-末端に位置する、推定上のORF (orfl ; P. fluorescens A2-2 サフラシン配列の18322 から19365位)が見出された(図1)。ORF1タンパク質(配列番号:12)は、Gene Bank DataBaseのアミノペプチダーゼと類似性を示す(Caulobacter crescentus CB15;NCBI受託番号NP422131由来のペプチダーゼ M20/M25/M40 ファミリー; 30%一致)。実施例2で述べたストラテジーを用いると、orf1の遺伝子破壊は、P. fluorescens A2-2におけるサフラシン産生に影響しない。
【0081】
pL30pコスミドにクローニングされたサフラシン配列の3'-末端に、推定上の3個のORF(orf2, orf3およびorf4)が見出された。sacABCDEFGHオペロンと逆方向に読み取ると、orf2遺伝子(配列番号: 1の22885から21169位)は、Aquifex aeolicus HoxX センサータンパク質(NCBI受託番号NC000918.1)との類似性(35%一致)を有するタンパク質ORF2 (配列番号: 13)をコードする。一方、orf3遺伝子(配列番号:1の23730から23041位)は、Xanthomonas axonopodis pv. Citri str. 306 (NCBI受託番号NP642442)由来のグリコシルトランスフェラーゼ関連タンパク質と44%の同一性をもつ、ORF3タンパク質(配列番号: 14)をコードする。
【0082】
配列番号:1の3'-末端(25037から26095位)に第三の遺伝子が位置する。orf4と名付けられるこの遺伝子(2513から1854位)は、Escherichia coli(NCBI受託番号P75897)由来の仮想イソコリスマターゼ(isochorismatase)ファミリーのタンパク質YcdLと非常に似ている(32%一致)タンパク質、ORF4(配列番号: 15)をコードする。
【0083】
おそらく、これら三つの遺伝子はサフラシン生合成経路には関与していないであろうが、これらの遺伝子の遺伝子破壊を今後行うことにより、この仮定が確証されるであろう。
説明の最後に、見出された各種DNA配列を列挙する。
【0084】
・実施例4:サフラシン遺伝子座の機能解析、および前駆体であり得るものの探索
P. fluorescens A2-2におけるサフラシン合成の経路が現時点で未知であるから、この株におけるサフラシン生合成のメカニズムに関する基礎研究を可能とするのは、実施例3で述べた遺伝子のそれぞれを不活性化することである。
各タンパク質のサフラシン産生経路における機能性を解析するために、クラスターの各遺伝子(sacEを除く)の破壊を実施した。遺伝的変異体は全て、以上で記述した破壊ストラテジーに従って得た。
【0085】
図6は、本発明において構築された各種変異体の概括、および、遺伝子破壊の結果として産生された化合物の概括である。野生型株では、サフラシンAおよびBの双方、ならびにその他の化合物のP2およびP14がHPLCで明瞭に検出された(図6、「WT」を参照)。sacA (PM-S1-002), sacB (PM-S1-003), sacC (PM-S1-004), sacD (PM-S1-010), sacF (PM-S1-008),およびsacG (PM-S1-009)の遺伝子破壊を行うと、遺伝子は、サフラシンAおよびBのいずれも、さらに、それぞれP2およびP14である保持時間15分未満の前駆体化合物も産生できない変異体を発生させた。P14およびP2の構造解明により、P14は3-メチル-O-メチルチロシンであり、一方P2は3-ヒドロキシ-5-メチル-O-メチルチロシンであることが明らかになった。sacE遺伝子のサイズが小さいために、sacE-変異体を遺伝子破壊にて得ることはできなかったが、この遺伝子の欠失は起こっている。SacEタンパク質のin trans過剰発現は、サフラシンB/Aの産生に影響しなかった。sacI-変異体(PM-S1-006)は、P2, P14および、著しい分量のP19Bと呼ばれる化合物を産生した(図6; 図7b*)。P19Bの構造解明により、この化合物はサフラシン様の分子で、N-Metとキノン環のOHの1個とが欠けたものであることが明らかとなった。sacJ-変異体(PM-Sl-005)では、P2, P14, P19B、ならびに、P22AおよびP22Bという新たな2種の化合物が得られた(図6;図7a*)。P22AおよびP22Bの構造解明により、これらは、キノン環の-OH基一つ以外はそれぞれサフラシA様およびサフラシンB様の分子であることが明らかになった。sacl-変異体およびsacJ-変異体の抽出物の生物学的アッセイの結果は、非常に低いBacillus subtilis対抗活性であった。
【0086】
sacI遺伝子の破壊とsacJ遺伝子発現の再構成を一緒に行った結果は、新規サフラシン産生型変異体、PM-S1-007であった。産生された2種の抗生物質は、産生レベルについて野生型株におけるサフラシンAおよびサフラシンB産生レベルと同程度であり、サフラシンDおよびサフラシンEと命名された(図7c*)。このサフラシンDおよびサフラシンEは、それぞれそれぞれサフラシA様およびサフラシンB様の分子であって、N-メチル化が欠けた物である。
【0087】
これらの結果から、i) sacA, sacBおよびsacC遺伝子がサフラシンNRPS群をコードすること; ii) sacD, sacFおよびsacG 遺伝子がL-TyrからL-Tyr誘導体P2への変換に関与すること、ならびに iii) sacIおよびsacJ がP19およびP22をサフラシンへ転化する修飾の調整に関与することが強く示唆される。
【0088】
・天然前駆体の特徴付け
P-14
【0089】
【化6】

【0090】
株:
Pseudomonas fluorescens A2-2 (野生型)(PM-S1-001)
発酵条件:
1% グルコース; 0.25% ビーフエクストラクト; 0.5% バクト-ペプトン; 0.25% NaCl ; 0,8% CaC03を含有する種培養培地YMP3に、微生物の冷凍栄養ストック0.1%を接種し、ロータリーシェーカー(250 rpm)上27℃でインキュベーションした。30時間インキュベーションの後、2% (v/v)種培養物を、15.2 % マンニトール; 3.5 % 乾燥醸造イースト; 1.4 % (NH4)2SO4 ; 0.001%; FeCl3; 2.6 % CO3CaからなるM-16B産生培地250 ml入りの2000ml容三角フラスコ中へ移した。インキュベーション温度は、接種から40時間までは27℃で、その後は最終工程(71時間)まで24℃であった。pHは制御しなかった。回転式シェーカーでの振とうは、220 rpm、傾斜5 cmとした。
単離:
71時間のインキュベーションの後、2個の三角フラスコをプールして500mlの発酵ブロスを7,500rpm、15分間の遠心処理で分画した。上清に50グラムのXAD-16樹脂(Amberlite)を添加し、室温で30分間混合した。その後、ブロス上清からろ過によって樹脂を回収した。この樹脂を蒸留水で2回洗浄し、イソプロパノール(2-PrOH)250mlで抽出した。このアルコール抽出物を、高真空下で、500mgの粗抽出物が得られるまで乾燥した。この粗生成物をメタノールに溶解し、Sephadex LH-20および移動相としてメタノールを用いてクロマトグラフィーカラムで精製した。P-14化合物が溶出および乾燥されて15mgの黄色がかった固体として得られた。分析用HPLCおよび1H NMRによって純度を分析した。同様の手法で、精製工程の最終段階でセミプレパラティブHPLCを用いて、sacJ-変異体(PM-S1-005)からもP-14を単離した。
生物活性:
活性なし。
分光学的データ:
【0091】
【数1】

【0092】
P-2
【0093】
【化7】

【0094】
株:
Pseudomonas fluorescens A2-2 (野生型)(PM-S1-001)
発酵条件:
P-14と同様の工程。
単離:
SephadexクロマトグラフィーにおいてP-2含有画分を後に溶出させた以外は、P-14と同様の手順。P-2を精製するにはセミ-プレパラティブHPLCステップ(Symmetry Prep C-18カラム, 7.8×150 mm, AcONH4 10 mM pH=3/CH3CN 95:5、で5分間の後、3分間かけてCH3CN 5から6.8 %のグラディエント)が必要であった。
また、この化合物は、異種発現の結果としてPseudomonas putida ATCC12633+pB5H83 (PM-17-004)の発酵ブロスからも単離された。
生物活性:
活性なし。
分光学的データ:
【0095】
【数2】

【0096】
・ノックアウトで得られたサフラシン様化合物の特徴づけ
化合物P-22B
【0097】
【化8】

【0098】
株:
P. fluorescens A2-2のsacJ-変異体(PM-S1-005)
発酵条件:
デキストロース(3.2%),マンニトール(9.6%),乾燥醸造イースト(2%),硫酸アンモニウム(1.4%),第二硫酸カリウム(0.03%),塩化カリウム(0.8%),塩化鉄(III) 六水和物(0.001%),L-チロシン(0.1%),炭酸カルシウム(0.8%),ポリ-(プロピレングリコール) 2000 (0.05%)および消泡剤ASSAF 1000 (0.2%)からなるSAM-7培地(50 1)50リットルを、総容量75 lのジャーファーメンター(Bioengineering LP-351)に注ぎ、滅菌の後、滅菌抗生物質(アンピシリン0.05 g/1およびカナマイシン0.05 g/1)を添加した。その後、これに、変異株PM-S1-005の種培養物(2%)を接種した。発酵を、通気および振とう条件(1.01/l/分および500 rpm)で71時間行った。温度を27℃(接種から、24時間まで)から25℃(24時間から最終工程)に制御した。22時間から最終工程において、希硫酸の自動供給によってpHを6.0に制御した。
単離:
ブロス全体を分画処理した(Sharples遠心分離機)。ブロス上清を、10% NaOHの添加でpH 9.0に調整し、酢酸エチル25リットルにて抽出した。20分間混合の後、2相を分離した。有機相を一晩冷凍した後、ろ過して氷を除去し、蒸留して、べとつく暗緑色の抽出物(65.8 g)を得た。
この抽出物を500mlのヘキサン(250mlで2回)と混合し、ろ過してヘキサン可溶性の不純物を除去した。乾燥後に残留した固形分は、27.4 gのグリーン・ベージュ色乾燥抽出物であった。
この新たな抽出物をメタノールに溶解し、Sephadex LH-20クロマトグラフィー(移動相としてメタノールを使用)で精製した。サフラシン様化合物が、中心の画分に溶出された(TLC 条件:シリカ順相、移動相: EtOAc:MeOH 約5:3、Rf値: P-22Bでは0.3, P-22Aでは0.25、P-19では0.1、にて分析)。
プールされた、サフラシン様の3種の化合物を含有する画分(7.6g)を、シリカカラムで、EtOAc:MeOHの混合物(50:1から0:1)および他のクロマトグラフィー系(CHCl3:MeOH:H20: AcOHの50:45:5:0.1でのイソクラティック)を用いて精製した。化合物P22-A,P22-BおよびP19-Bを、逆相HPLC(SymmetryPrep C-18カラム150×7.8 mm, 4 mL/分,移動相:MeOH:H20(0.02 % TFA) 5:95で5分間、そして、30分間かけてMeOH:H20(0.02 % TFA) 5:95からMeOH 100 % までのグラディエント)にて精製した。
【0099】
サフラシンP-22Bの生物活性
【0100】
【表4】

【0101】
抗菌活性:固体倍地上、
Bacillus subtilis. 1Oμg/ディスク (直径6mm): 10 mm 阻止円
分光学的データ:
【0102】
【数3】

【0103】
化合物P-22A
【0104】
【化9】

【0105】
株:
P-22Bと同じ。
発酵条件:
P-22Bと同じ。
単離:
P-22Bと同じ。
【0106】
サフラシンP-22Aの生物活性
抗腫瘍活性:
【0107】
【表5】

【0108】
抗菌活性:固体倍地上、
Bacillus subtilis. 1Oμg/ディスク (直径6mm):活性なし。
分光学的データ:
【0109】
【数4】

【0110】
化合物P-19B
【0111】
【化10】

【0112】
株:
P-22Bと同じ。
発酵条件:
P-22Bと同じ。
単離:
P-22Bと同じ。
【0113】
サフラシンP-19Bの生物活性
抗腫瘍活性:
【0114】
【表6】

【0115】
抗菌活性:固体倍地上、
Bacillus subtilis. 1Oμg/ディスク (直径6mm):活性なし。
分光学的データ:
【0116】
【数5】

【0117】
・ノックアウトにより得られた新規サフラシン化合物
サフラシンD
【0118】
【化11】

【0119】
株:
P. fluorescens A2-2からの、sacJ発現再構成を伴ったsacI-(PM-S1-007)。
発酵条件:
デキストロース(3.2%),マンニトール(9.6%),乾燥醸造イースト(2%),硫酸アンモニウム(1.4%),第二硫酸カリウム(0.03%),塩化カリウム(0.8%),塩化鉄(III)六水和物(0.001%),L-チロシン(0.1%),炭酸カルシウム(0.8%),ポリ-(プロピレングリコール) 2000 (0.05%)および消泡剤ASSAF 1000 (0.2%)からなるSAM-7培地(50 1)50リットルを、総容量75 lのジャーファーメンター(Bioengineering LP-351)に注ぎ、滅菌の後、滅菌抗生物質(アンピシリン0.05 g/1およびカナマイシン0.05 g/1)を添加した。その後、これに、変異株PM-S1-007の種培養物(2%)を接種した。発酵を、通気および振とう条件(1.01/l/分および500 rpm)で89時間行った。温度を27℃(接種から、24時間まで)から25℃(24時間から最終工程)に制御した。27時間から最終工程において、希硫酸の自動供給によってpHを6.0に制御した。
単離:
こうして得られた培養培地(45 l)を、遠心分離で細胞を除去した後に希硫酸でpH 9.5に調整し、25リットルの酢酸エチル2回で抽出した。振とう容器内へ、室温で20分間かけて混合を行った。2相を液-液遠心分離で分離した。有機相を-20℃で冷凍して氷を除去し、蒸留して、油状暗色の粗抽出物35gを得た。ヘキサン5 lでの倍散の後、抽出物(12.6g)をシリカ順相のフラッシュクロマトグラフィーカラム(直径5.5 cm,長さ20 cm),移動相は酢酸エチル: MeOHで、1 L中それぞれ1:0; 20:1; 10:1; 5:1および7:3、にて精製した。TLC (シリカ-順相, EtOAc:MeOH 5:2,サフラシンD はRf 0.2, サフラシンEでは 0.05)によって、250 ml-画分を溶出させプールした。非純粋サフラシンCおよびEを含有する画分を高真空下で蒸留した(2.2 g)。DとEとを同条件(EtOAc:MeOH、1:0から5:1)で分離するには、さらなる精製ステップが必要であった。これは、サフラシンDおよびEを含有する画分を分離および蒸留してさらに、Sephadex LH-20カラムクロマトグラフィー(メタノールにて溶出)で精製するものである。
得られたサフラシンDおよびEは、CH2Cl2(80 ml)およびヘキサン(1500 ml)から、緑/黄色味の乾燥固形分(800 mg サフラシンD)および(250 mg サフラシンE)として独立に沈殿された。
【0120】
サフラシンDの生物活性
抗腫瘍スクリーニング:
【0121】
【表7】

【0122】
抗菌活性:固体倍地上、
Bacillus subtilis. 1Oμg/ディスク (直径6mm):阻止円:直径15 mm。
分光学的データ:
【0123】
【数6】

【0124】
サフラシンE
【0125】
【化12】

【0126】
株:
サフラシンDと同じ。
発酵条件:
サフラシンDと同じ。
単離:
サフラシンDでの条件を参照のこと。
【0127】
サフラシンEの生物活性
抗腫瘍スクリーニング:
【0128】
【表8】

【0129】
抗菌活性:固体倍地上、
Bacillus subtilis. 1Oμg/ディスク (直径6mm):9.5 mm 阻止円。
分光学的データ:
【0130】
【数7】

【0131】
・実施例5:交差供給試験
P2およびP14産生についての、サフラシン生合成前駆体遺伝子の異種発現
P2およびP14生合成のメカニズムを明らかにする試みにおいて、我々は、その生化学的活性を検討するために下流のNPRS遺伝子をクローニングして発現させた。
P14を過剰産生させるために、sacEFGH遺伝子をクローニングした(pB7983)(図4)。異種系でP2を過剰産生させるために、sacDからsacH遺伝子をクローニングした(pB5H83)(図4)。この目的のために、我々は、5'端にXbaI制限酵素部位を含むオリゴヌクレオチドを用いて、問題とする遺伝子を含むフラグメントをPCR増幅した。sacEからsacH遺伝子を増幅するにはオリゴヌクレオチドPFSC79(5'-CGTCTAGACACCGGCTTCATGG-3')およびPFSC83(5'-GGTCTAGATAACAGCCAACAAACATA-3')を用いた。sacDからsacH遺伝子を増幅するにはオリゴヌクレオチド5HPT1-XB(5'-CATCTAGACCGGACTGATATTCG-3')およびPFSC83(5'-GGTCTAGATAACAGCCAACAAACATA-3')を用いた。XbaIで消化したPCR断片を、pBBRl-MCS2プラスミドのXbaI制限酵素部位へクローニングした(Kovach et al, Gene 1994, 166, 175-176)。2種のプラスミドpB7983およびpB5H83を、別々に、接合によって3種の異種細菌P. fluorescens(CECT378), P. putida(ATCC12633)およびP. stutzen(ATCC17588)に導入した(表IIを参照)。形質移入接合株の発酵培養ブロスをHPLC解析でチェックした際、pB7983プラスミドを含む方の3種において大量のP14化合物が認められた。一方、異種細菌中でpB5H83プラスミドを発現させた場合は、大量のP2産物と幾分かのP14産物とが確認された。
【0132】
交差供給
実施例4で示されたように、sacF-変異体(PM-S1-008)およびsacG-変異体(PM-S1-009)は、サフラシン類も、P2およびP14も産生することができなかった。これらの変異体の発酵中に、化学的に合成されたP2を添加すると、サフラシン産生が起こる。
さらに、異種株P. stutzen(ATCC17588)であって、その発現によりP2およびP14を産生させるプラスミドpB5H83を含むもの(PM-18-004)と、2種の変異体sacF-およびsacG-のいずれか一つとの共培養の結果、サフラシンが産生された。異種株P. stutzen(ATCC17588)であって、その発現によりP14のみ産生させるプラスミドpB7983を含むもの(PM-18-005)と、先に言及した2種のP. fluorescens A2-2変異体のいずれか一つとの共培養では、結果的にサフラシンは全く産生されなかった。これらの結果より、P14が、Pseudomonas種の細胞壁を通って細胞中へおよび外へ容易に輸送される、サフラシン生合成に絶対に必要な分子のP2に変換されることが示唆される。
【0133】
・実施例6:新規「非天然」分子の生物産生
P2誘導体の特定の修飾型前駆体P3、(3-ヒドロキシ-5-メチル-O-メチルチロシン)2g/LをsacF変異体(PM-S1-008)発酵物に添加すると、その構成に修飾型前駆体P3を取り込んだ2種の「非天然」サフラシン、すなわちサフラシンA(OEt)およびサフラシンB(OEt)が得られた。
【0134】
サフラシンB-エトキシ(サフラシンB(OEt))
【0135】
【化13】

【0136】
株:
P. fluorescens A2-2からのsaf F-変異体(PM-S1-008)
培養条件:
1% グルコース; 0.25% ビーフエクストラクト; 0.5% バクト-ペプトン; 0.25% NaCl ; 0.8% CaC03を含有する種培養培地に、微生物の冷凍栄養ストック0.1%を接種し、ロータリーシェーカー(250 rpm)上27℃でインキュベーションした。30時間インキュベーションの後、変異体PM-S1-008の2% (v/v)種培養物を、15.2 % マンニトール; 3.5 % 乾燥醸造イースト; 1.4 % (NH4)2 0.001%; FeCl3; 2.6 % CO3CaからなるM-16B産生培地250 ml入りの2000ml容三角フラスコ中へ移した。インキュベーション温度は、接種から40時間までは27℃で、その後は最終工程(71時間)まで24℃であった。pHは制御しなかった。回転式シェーカーでの振とうは、220 rpm、傾斜5 cmとした。
単離:
4 x 2000/250 ml三角フラスコを互いに連結し(970 ml)、細胞を除去するために遠心処理した(12.000 rpm, 4℃, 10分, J2-21 Centrifuge BECKMAN)。ブロス上清(765ml)を10% NaOHでpH 9.5に調整した。その後、アルカリ分画されたブロスを1:1 (v/v)EtOAc (x2)で抽出した。有機相を高真空下で蒸留して、べとつく暗色の抽出物を得た(302mg)。
この抽出物をヘキサン倍散により洗浄して不純物を除去し、固形分を、クロマトグラフィーカラムで、シリカ順相、酢酸エチル:メタノール混合物(12:1から1:1)にて精製した。各画分をTLC(Silica 60、移動相 EtOAc:MeOH 5:4、Rf 0.3(サフラシンB-OEt)および0.15(サフラシンA-OEt))、UV下で分析した。これにより、サフラシンB OEt (25 mg)およびサフラシンA OEt (20 mg) が得られた。
【0137】
サフラシンB(OEt)の生物活性
抗腫瘍活性:
【0138】
【表9】

【0139】
抗菌活性:固体倍地上、
Bacillus subtilis. 1Oμg/ディスク (直径6mm): 17.5mm阻止円。
分光学的データ:
【0140】
【数8】

【0141】
サフラシンA-エトキシ(サフラシンA(OEt))
【0142】
【化14】

【0143】
株:
サフラシンB(OEt)と同じ。
培養条件:
サフラシンB(OEt)と同じ。
単離:
4 x 2000/250 ml三角フラスコを互いに連結し(970 ml)、細胞を除去するために遠心処理した(12.000 rpm, 4℃, 10分, J2-21 Centrifuge BECKMAN)。ブロス上清(765ml)を10% NaOHでpH 9.5に調整した。その後、アルカリ分画されたブロスを1:1 (v/v)EtOAc (x2)で抽出した。有機相を高真空下で蒸留して、べとつく暗色の抽出物を得た(302mg)。
この抽出物をヘキサン倍散により洗浄して不純物を除去し、固形分を、クロマトグラフィーカラムで、シリカ順相、酢酸エチル:メタノール混合物(12:1から1:1)にて精製した。各画分をTLC(Silica 60、移動相 EtOAc:MeOH 5:4、Rf 0.3(サフラシンB-OEt)および0.15(サフラシンA-OEt))、UV下で分析した。これにより、サフラシンB OEt (25 mg)およびサフラシンA OEt (20 mg) が得られた。
【0144】
サフラシンA(OEt)の生物活性
抗腫瘍活性:
【0145】
【表10】

【0146】
抗菌活性:固体倍地上、
Bacillus subtilis. 1Oμg/ディスク (直径6mm):10mm阻止円。
分光学的データ:
【0147】
【数9】

【0148】
・実施例7:酵素によるサフラシンBからサフラシンAへの変換
サフラシンBからサフラシンAへの転化の酵素活性を評価するために、異なる株の120時間発酵培養物(実施例2の「サフラシン産生の生物学的アッセイ(バイオテスト)」における条件を参照のこと)を採集し、遠心処理した(9.000 rpm×20分間)。評価した株は、野生型株としてP. fluorescens A2-2と、異種発現宿主としてP. fluorescens CECT378 + pBHPT3(PM-19-006)であった。上清を捨て、細胞を2回洗浄して(NaCl 0.9 %)、リン酸緩衝液(100 mM、pH 7.2)60 ml中に再懸濁した。細胞懸濁物の20mlを三角フラスコ3個に分配した:
A.細胞懸濁物+サフラシンB(400 mg/L)
B.100℃で10分間加熱した細胞懸濁物+サフラシンB(400 mg/L)(陰性対照)
C.サフラシンBなし、細胞懸濁物(陰性対照)。
【0149】
この生化学反応物を、27℃、220 rpmでインキュベーションし、10分ごとに試料を採取した。サフラシンBからサフラシンAへの変換は、HPLCで追跡した。結果は、pBHPT3にクローニングされた遺伝子、sacHが、サフラシンBからサフラシンAへの変換に関与するタンパク質をコードすることを明白に実証していた。
【0150】
この結果に基づいて、我々は、この酵素がエクチナサイジン743(ET-743)のような異なる基質も認識してこの化合物をEt-745(C-21ヒドロキシが欠けたもの)へ変換することができるかを明らかにするためのアッセイを行った。上述の実験を繰り返して、以下内容物入りの三角フラスコを得た。
A.細胞懸濁物 + ET-743 (約567 mg/L)
B.100℃で10分間加熱した細胞懸濁物 + ET-743 (567 mg/L)(陰性対照)
C.ET-743なし、細胞懸濁物(陰性対照)
【0151】
この生化学反応物を、27℃、220 rpmでインキュベーションし、0, 10分, l時間, 2時間, 3時間, 4時間, 20時間, 40時間, 44時間, 48時間に試料を採取した。ET-743からET-745への変換は、HPLCで追跡した。結果は、pBHPT3にクローニングされた遺伝子、sacHが、Et-743からEt-745への変換に関与するタンパク質をコードすることを明白に実証していた。このことは、この酵素がエクチナサイジンを基質として認識すること、および、幅広い範囲の構造の生物変換に利用され得ることを示す。
【図面の簡単な説明】
【0152】
【図1】pL30pコスミドにクローニングされた染色体DNA領域の構造構成を示す図である。P. fluorescens A2-2 DNAの、サフラシン遺伝子クラスターを含む領域が示されている。sacABCDEFGHおよびsacIJ双方の遺伝子オペロン、ならびに、sacA, sacBおよびsacC に由来するペプチド合成酵素のモジュラー構造を図示している。次の各ドメインが示されている;C:縮合、T:チオール化、A:アデニル化、R:還元酵素。pL30pコスミド中に存在するその他の遺伝子(orf1からorf4)の位置およびこれらの、想定される機能を示す。
【図2】NRPS群内での保存コアモチーフを示す図である。SacA, SacBおよびSacCタンパク質での保存アミノ酸配列、ならびに、これらと、Myxococcus xanthus DM50415由来の相同配列との比較を示す。
【図3】Ala-Glyジペプチドの生成に関して提示される、NPRSの生合成メカニズムを示す図である。段階a*, Alaのアデニル化; b*, 4'-ホスフォパンテチンアームへの転移; c*,停止/伸長部位への転移; d*, Glyのアデニル化; e*, 4'-ホスフォパンテチンアームへの転移; f*,4'-ホスフォパンテチンアームから伸長した鎖と、停止/伸長部位上のスターター鎖との縮合; g*, SacAのホスフォパンテチンアームに結合したAla-Glyジペプチド、そしてh*,次なる停止/伸長部位への伸長鎖の転移。
【図4】交差供給試験について示す図である。A. pBBR1-MCS2ベクターにクローニングされたA2-2 DNAフラグメント、および異種宿主中で得られる生成物の図解である。B.野生型株および一方でsacF変異体のサフラシン産生HPLCプロファイルである。sacF変異体へのP2前駆体の添加は、供給法がin transおよび合成のいずれであっても、サフラシンB産生をもたらした。SfcAはサフラシンAを、SfcBはサフラシンBを示す。
【図5】サフラシンの生合成メカニズムおよび生合成中間体の図解である。単一の酵素反応ステップを矢印で、複数因子反応ステップを破線矢印で示す。
【図6】サフラシン遺伝子の破壊および産生される化合物を示す図である。A.遺伝子の破壊と、構築された変異体の合成する前駆体分子。アスタリスクで示した遺伝子はサフラシン遺伝子クラスターに属さない。サフラシン産生に影響を与えないために、orfl, orf2, orf3およびorf4遺伝子の不活性化を行った。B. 野生型株およびsacA, sacIおよびsacJ各変異体におけるサフラシン産生HPLCプロファイルである。得られた各種分子の構造を示す。
【図7】遺伝子破壊により得られる各種分子の構造を示す図である。SacJタンパク質の不活性化(a)によってP22B,P22AおよびP19が得られるのに対して、sacI遺伝子の破壊(b)ではP19化合物のみが生成される。sacI破壊とsacJ組換え発現を一緒に行うと、新たな2種のサフラシン、すなわちサフラシンD(ET-729半合成の前駆体であり得る)およびサフラシンEが生成される(c)。
【図8】特別に設計された「非天然」前駆体(P3)の添加。化合物P3をsacF変異体に添加して得られる2種の分子の化学構造を示す。
【図9】pK18:MOB(Pseudomonasにおける組換えプラスミドの一つ)中へクローニングされた相同DNAフラグメントを用いた、単純組換えを経る遺伝子破壊の事象の図解である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サフラシン分子の合成を起こさせるために十分なポリペプチドをコードするオープンリーディングフレームを有する遺伝子クラスター。
【請求項2】
a)サフラシン生合成の少なくとも一つの段階を触媒する非リボソーム型ペプチド合成酵素の少なくとも一つをコードする核酸配列、
b)上記a)の配列に相補的な核酸配列、または
c)上記a)またはb)の配列のバリアントもしくは部分
を含む核酸配列。
【請求項3】
配列番号1の配列、そのバリアントもしくは部分を含む請求項2に記載の核酸配列。
【請求項4】
当該遺伝子のバリアントもしくは部分を包含するsacA, sacB, sacC, sacD, sacE, sacF, sacG, sacH, sacl, sacJ, orfl, orf2, orf3またはorf4遺伝子の少なくとも一つを含む請求項2に記載の核酸配列。
【請求項5】
アミノ酸配列の少なくとも30%が、サフラシン遺伝子クラスターオープンリーディングフレームsacA からsacJおよびorf1からorf4(配列番号1および配列番号1中でコードされる遺伝子)のいずれか、またはこれらのバリアントもしくは部分でコードされるポリペプチドと同一であるポリペプチドをコードする請求項2に記載の核酸配列。
【請求項6】
SacA, SacB, SacC, SacD, SacE, SacF, SacG, SacH, SacI, SacJ, Orfl, Orf2, Orf3またはOrf4タンパク質(配列番号2から15)、およびこれらのバリアント、変異体もしくは部分のいずれかをコードする請求項2に記載の核酸配列。
【請求項7】
ペプチド合成酵素、L-Tyr誘導体ヒドロキシラーゼ、 L-Tyr誘導体メチラーゼ、 L-Tyr O-メチラーゼ、メチルトランスフェラーゼもしくはモノオキシゲナーゼ、またはサフラシン抵抗タンパク質をコードする請求項2に記載の核酸配列。
【請求項8】
前記部分が少なくとも50ヌクレオチド長である請求項3ないし6のいずれかに記載の核酸配列。
【請求項9】
前記部分の長さが100から5000ヌクレオチド長の範囲である請求項8に記載の核酸配列。
【請求項10】
前記部分の長さが100から2500ヌクレオチド長の範囲である請求項8に記載の核酸配列。
【請求項11】
請求項2ないし10のいずれかに記載の核酸配列を含むハイブリダイゼーションプローブ。
【請求項12】
少なくとも10ヌクレオチド残基の配列を含む、請求項11に記載のハイブリダイゼーションプローブ。
【請求項13】
25から60ヌクレオチド残基の配列を含む、請求項11に記載のハイブリダイゼーションプローブ。
【請求項14】
サフラシンまたはエクチナサイジン遺伝子の検出における請求項11ないし13のいずれかに記載のハイブリダイゼーションプローブの使用。
【請求項15】
前記検出をEcteinascidia turbinataにおいて実施する請求項14に記載の使用。
【請求項16】
請求項2ないし10のいずれかに記載の核酸配列によってコードされるポリペプチド。
【請求項17】
配列番号2ないし15からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、請求項16に記載のポリペプチド。
【請求項18】
請求項2ないし10のいずれかに記載の核酸配列を含むベクター。
【請求項19】
発現ベクターである、請求項18に記載のベクター。
【請求項20】
コスミドである、請求項18に記載のベクター。
【請求項21】
請求項2ないし10のいずれかに記載の核酸配列の1種または複数で形質転換された宿主細胞。
【請求項22】
請求項18ないし20のいずれかに記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項23】
サフラシン分子の合成を起こさせるために十分なポリペプチドをコードする遺伝子クラスターを含む外来性核酸で形質転換された、請求項22に記載の宿主細胞。
【請求項24】
微生物である、請求項22または23に記載の宿主細胞。
【請求項25】
細菌である、請求項24に記載の宿主細胞。
【請求項26】
請求項2ないし10のいずれかに記載の核酸配列の少なくとも一部が破壊され、結果として、対応する非組み換え型細菌宿主細胞から変化したレベルでサフラシン化合物またはサフラシン類似体を産生する組換え細菌宿主細胞。
【請求項27】
前記破壊される核酸配列が内因性である請求項26に記載の組換え細胞。
【請求項28】
請求項1に記載の遺伝子クラスターのコピー数が増加された生物を発酵させる工程を含む、サフラシン化合物またはサフラシン類似体の生産方法。
【請求項29】
サフラシンまたはサフラシン類似体の合成を起こさせるために十分なポリペプチドをコードする遺伝子の発現が、このような発現の制御を担当する遺伝子または配列の1種または複数を操作または置換することによって調節された生物を発酵させる工程を含む、サフラシン化合物またはサフラシン類似体の生産方法。
【請求項30】
請求項1に記載のサフラシン生合成遺伝子クラスターのオープンリーディングフレームの一つまたは複数でコードされるポリペプチドの基質である化合物と、該ポリペプチドとを接触させる工程を含み、前記ポリペプチドが前記化合物を化学的に修飾する、サフラシン化合物またはサフラシン類似体の生産方法。
【請求項31】
前記生物がPseudomonas種である請求項28または29に記載の方法。
【請求項32】
請求項2ないし10のいずれかに記載の核酸配列を少なくとも一つ含む組成物。
【請求項33】
非リボソーム型ペプチド合成酵素、ジケトピペラジン環およびサフラシン類の1種または複数をコンビナトリアル生合成するための請求項32に記載の組成物の使用。
【請求項34】
非リボソーム型ペプチド合成酵素、ジケトピペラジン環およびサフラシン類の1種または複数のコンビナトリアル生合成におけるP2、P14、これらの類似体および誘導体の使用。
【請求項35】
請求項28から31のいずれかに記載の方法によって得られるサフラシン化合物。
【請求項36】
下式のうちいずれかの構造を有する請求項35に記載のサフラシン化合物。
【化1】

【請求項37】
請求項35または36に記載の化合物の抗腫瘍剤としての使用。
【請求項38】
ガン治療用の医薬の製造における請求項35または36に記載の化合物の使用。
【請求項39】
請求項35または36に記載の化合物の抗菌剤としての使用。
【請求項40】
微生物感染治療用の医薬の製造における請求項35または36に記載の化合物の使用。
【請求項41】
請求項35または36に記載の化合物と、薬剤として許容される希釈剤、担体または賦形剤とを含む薬剤組成物。
【請求項42】
エクチナサイジン系化合物の合成における請求項35または36に記載の化合物の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2006−510375(P2006−510375A)
【公表日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−561647(P2004−561647)
【出願日】平成15年12月19日(2003.12.19)
【国際出願番号】PCT/GB2003/005563
【国際公開番号】WO2004/056998
【国際公開日】平成16年7月8日(2004.7.8)
【出願人】(501440835)ファルマ・マール・ソシエダード・アノニマ (30)
【Fターム(参考)】