説明

サーマルカメラ

赤外線測定装置(1)において、赤外線を検出する少なくとも1つのセンサエレメント(29)が設けられており、該少なくとも1つのセンサエレメント(29)は、該センサエレメントに入射する放射に依存した出力信号(12)を生成する。所定の入射に対する出力信号(12)は、積分時間によって変化可能である。少なくとも1つのセンサエレメント(29)における目下の温度が検出され、該温度は、出力信号(12)ないし少なくとも1つのセンサエレメント(29)の感度に対する温度変化の影響が補償されるように積分時間を変化するために使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線(IR)検出器を備える赤外線測定装置であって、前記赤外線検出器は赤外線を検出する少なくとも1つのセンサエレメントを備えており、該少なくとも1つのセンサエレメントは評価エレクトロニクスと接続されており、該評価エレクトロニクスは、前記少なくとも1つのセンサエレメントの積分時間に依存した出力信号を検出する形式の赤外線測定装置に関する。
【0002】
本発明はさらに、赤外線測定装置の赤外線検出器の、温度に起因するドリフトを補償するための方法であって、前記赤外線検出器は少なくとも1つのセンサエレメントを有しており、該少なくとも1つのセンサエレメントは評価エレクトロニクスと接続されており、該評価エレクトロニクスは、前記少なくとも1つのセンサエレメントの積分時間に依存した出力信号を検出する形式の方法に関する。
【0003】
この種の赤外線測定装置および補償方法は公知であり、ボロメータを備えるパイロメータとして、または、赤外線検出器内のボロメータのグリッドアレイによってサーモグラフィ画像を撮影するためのサーマルカメラとして使用される。
【0004】
特にサーマルカメラは物体の表面温度分布を検出するために使用される。サーマルカメラは温度変化する周囲環境において使用されることが多い。例えば建物外皮のサーモグラフィ分析は内側からも外側からも実施される。この際、サーマルカメラは暖かい内部空間から冷たい外気へと運ばれる。これによってカメラは短時間のうちに10Kより大きい温度変化にさらされることとなる。このような温度変化はオフセット変化および感度変化を引き起こし、これらの変化は補償されずに著しい測定値ズレをもたらす。これに対する原因は一つにはボロメータ自体にあり、他方には、制御電圧および供給電圧、クロック発生器、およびサーマルカメラのケーシング、チューブ、レンズの放射の、温度依存性にある。
【0005】
このようなズレを防止または補償するために種々の方法が公知である。この種の方法を実現するための方法および回路は、例えば、DE 698 30 731 T1、DE 10 2005 010986 B4、EP 87 01 81 B1、EP 1 007 920 B1、EP 1 279 011 A2、US 5 756 999、US 5 760 398、US 5 763 885、US 6 028309、US 6 444 983、US 6465 785、US 6 476 392、US 6 538 250、US 6 690 013、US 5 953 932、US 7 030 378、US 7 105 818、US 56 515 285、US 56730909に記載されている。
【0006】
ゼロ点シフトは例えばシャッターによって補正することができる。ここでは一定かつ既知の温度を有する平面によって光路が閉じられて、基準画像が撮影される。オフセットシフトを、熱的に基板と結合された画素による画素値の減算によって補償することも提案される。測定された温度から補正値を計算してこの補正値を測定された画素値から減算するという、純粋に数学的な補正もまた公知である。
【0007】
さらにはゼロ点補正の手段として、検出器電圧を用いて検出器のゼロ点を所期のように変化することも公知である。
【0008】
ゼロ点シフト(オフセット)以外にサーマルカメラの感度(ゲイン)も周囲温度によって変化し得る。このような勾配変化に対しても、過去には、種々異なる補償および補正ストラテジが提案された。
【0009】
別のバリエーションとして、例えばペルチェ素子を用いて検出器の温度を能動的に固定することにより画素平面における温度影響を抑制することが公知である。温度感受性であるボロメータに対する周囲温度の変動による影響を回避するために、赤外線検出器には温度安定化装置が設けられることが多い。該温度安定化装置は、赤外線検出器の動作温度を必要に応じて冷却および加熱することにより一定の所定の温度値に保つ。しかしながらこの種の温度安定化装置はコスト高であり、エネルギ消費が大きく、まさに簡単なハンディタイプの装置の場合には望まれないものである。
【0010】
さらには、後から追加的に数学的に補正する方法が公知である。最後に、感度制御のために別の検出器電圧を能動的に追従制御することが公知である。
【0011】
本発明の課題は、簡単な構造のサーマルカメラを提供することである。
【0012】
この課題は、冒頭に述べた形式の赤外線測定装置において、前記赤外線検出器は少なくとも1つの温度センサと熱的に結合されており、該少なくとも1つの温度センサの出力信号によって積分時間に影響を与えるための手段が構成されており、該手段は、前記赤外線検出器の温度に起因するドリフトが少なくとも部分的に補償されるように構成されている、とりわけ赤外線測定装置の使用要求および/または利用される測定精度の枠内では完全に補償されるように構成されている、ことを特徴とする赤外線測定装置によって解決される。この場合の利点は、積分時間をパラメータとしてファイルすることができることであり、該パラメータは、赤外線測定装置の撮影品質および/または測定特性が実際に適用された動作条件において最適化されるよう、閉ループ制御回路において簡単に適合することができる。この適合は例えばソフトウェアによって制御することができ、構造的にもエネルギ消費的にも高コストである電子制御回路、例えば電圧源の追従制御用の電子制御回路、または電流の閉ループ制御は必要なくなる。したがって赤外線測定装置の構造は簡単になる。
【0013】
温度に起因するドリフトは、例えば赤外線検出器、とりわけ少なくとも1つのセンサエレメントの、温度に依存した感度変化とすることができる。温度に起因するドリフトを、少なくとも1つのセンサエレメントの出力信号のゼロ点の、温度に依存したシフトとすることもできる。
【0014】
例えば赤外線測定装置は、パイロメータまたはサーマルカメラとして構成することができる。
【0015】
本発明は、有利にはセンサエレメントを有する赤外線測定装置において使用することができ、該センサエレメントの出力信号の積分時間に影響を与えることが可能である。例えばこの積分時間は、出力信号の検出および/または評価の持続時間とすることができる。センサエレメントは、例えばカンチレバー式エレメントとして構成することができる。カンチレバー式エレメントの場合は、入射してくる赤外線が、熱伝導率の異なる複数の材料を加熱することに基づく材料変形を引き起こし、この際この材料変形を、構成手段により抵抗性、容量性、誘導性、光学的に、またはその他の方法によって検出し、出力信号に処理することができる。
【0016】
特にセンサエレメントがボロメータであると有利である。ボロメータの場合には、例えばボロメータ内のオーム性抵抗を決定するため積分時間を変化することによって出力信号に影響を与えることができる。
【0017】
温度またはサーモグラフィ画像を検出するために、赤外線検出器は、複数のセンサエレメントからなるグリッドアレイを有し、これらのセンサエレメントは評価エレクトロニクスに接続されている。このグリッドアレイは、有利には、撮影を行うIR光学素子のフォーカルプレーンに配置されている、および/または、フォーカルプレーンアレイ(focal plane array FPA)チップに組み込まれている。これによってセンサエレメントは、フォーカルプレーンアレイ(FPA)チップの画素、および、撮影されたサーモグラフィ画像を形成する。
【0018】
本発明の1つの実施形態においては、積分時間に依存した出力信号を検出するために、前記積分時間内にセンサエレメントを流れる電荷量を検出する手段、とりわけ、前記積分時間内に前記少なくとも1つのセンサエレメントの両端間にかかる所定の電圧によってコンデンサに蓄積される電荷量を検出する手段が、構成されている。
【0019】
少なくとも1つの温度センサによって、赤外線検出器のケーシング部分の温度または赤外線検出器の温度が検出可能である場合には、多くの用途のためにはもう十分である。少なくとも1つの温度センサによって、少なくとも1つのセンサエレメントの直ぐ近傍の温度を検出できる場合には、赤外線測定装置の特に良好な使用特性が達成される。例えば、少なくとも1つの温度センサによって、グリッドアレイにおける複数または全てのセンサエレメントの平均温度を検出できるようにすることができる。
【0020】
本発明の1つの実施形態によれば、グリッドアレイにおける少なくとも1つのセンサエレメント、とりわけ全てのセンサエレメントを基板に保持して、該少なくとも1つの温度センサによって前記基板の温度を検出できるようにすることができる。
【0021】
択一的または付加的に、赤外線検出器のケーシングの温度を測定する第2の温度センサを使用することができ、該第2の温度センサの出力信号は、赤外線検出器の温度に起因するドリフトが少なくとも部分的に補償されるように積分時間に影響を与えることができる。
【0022】
発展形態においては、少なくとも1つのセンサエレメントの給電エレクトロニクスの温度ドリフトも、温度センサによって検出して上述のように補償することができる。この給電エレクトロニクスは、少なくとも1つのセンサエレメントの読み出しおよび/または制御に必要な電圧および/または電流を提供するものである。
【0023】
積分時間を変化するために、積分時間を制御可能なクロック発生器によって決定すれば、特に簡単である。
【0024】
少なくとも1つのセンサエレメントの出力信号を読み出すために、評価エレクトロニクスはアナログデジタル変換器を有することができ、該アナログデジタル変換器は、少なくとも1つのセンサエレメントおよび/または少なくとも1つの温度センサの出力信号をデジタル形式でコントローラに提供する。
【0025】
温度ドリフトを補償するために少なくとも1つのセンサエレメントの出力信号に影響を与えるために、コントローラは、積分時間に影響を与える手段、とりわけクロック発生器を駆動制御する手段を有することができる。
【0026】
少なくとも1つのセンサエレメントを動作するために、該少なくとも1つのセンサエレメントに一定の動作電圧を給電するよう構成された電子回路を設けることができる。
【0027】
本発明の課題は、冒頭に述べた形式の方法において、赤外線検出器が少なくとも1つの温度センサに熱的に結合されており、前記少なくとも1つの温度センサの出力信号は、赤外線検出器の温度に起因するドリフトが少なくとも部分的に補償されるように積分時間に影響を与える、ことによって解決される。
【0028】
この方法における利点は、赤外線検出器の一定の感度を、広い周囲温度領域にわたって補償できることである。
【0029】
本発明の方法は、例えばパイロメータのような単一のセンサエレメントを備える赤外線測定装置、または、複数のセンサエレメントを備える赤外線測定装置において実施することができる。本発明の1つの実施形態においては、例えば、赤外線検出器は複数のセンサエレメントからなるグリッドアレイを有し、これらのセンサエレメントは評価エレクトロニクスによって評価される。このようにして本発明の方法によって補償されたサーマルカメラが得られる。
【0030】
積分時間に依存した出力信号を検出するために、積分時間内にセンサエレメントを流れる電荷量、とりわけ積分時間内にセンサエレメントの両端間にかかる所定の電圧によってコンデンサに蓄積される電荷量を検出することができる。
【0031】
本発明の利点は、少なくとも1つの温度センサによって赤外線検出器のケーシング部分の温度または赤外線検出器の温度が検出される場合には、多くの用途に対しては既に達成される。しかしながら、センサエレメントの温度のドリフトを特に効果的ないし精確に補償するために、少なくとも1つの温度センサによって、該少なくとも1つの温度センサの空間的に近傍の温度、とりわけ複数のセンサエレメントからなるグリッドアレイにおける複数または全てのセンサエレメントの平均温度を検出するようにすることができる。このために、少なくとも1つの温度センサが熱的に、すなわち良熱伝導性にセンサエレメントに結合されている。平均温度を検出するために、例えば、該当する複数のセンサエレメントを熱伝導特性の良好な1つの部材に結合させて、少なくとも1つの温度センサが該部材の温度を検出するようにすることができる。
【0032】
周囲環境の温度影響を考慮するために、赤外線検出器のケーシングの温度を測定する第2の温度センサを使用することができ、該第2の温度センサの出力信号は、赤外線検出器の温度に起因するドリフトが少なくとも部分的に補償されるように積分時間に影響を与える。
【0033】
積分時間は例えばクロック発生器によって決定することができる。例えば積分時間は、クロック発生器の所定のクロック数によって、および/または、クロック発生器におけるクロック信号の持続時間ないしクロック信号の周波数によって決定することができる。この場合には赤外線検出器を制御するクロックを所期のように変化することにより、画素を形成しているセンサエレメントの積分時間は、周囲温度または検出器の温度に依存して、周囲環境に起因する感度変化が最小となるように変化される。これによって検出器の信号を、放射分析によって測定されたシーン温度に換算することが可能となり、この際ただ1つの特性曲線が使用される。積分時間と、少なくとも1つの温度センサの出力信号との相関関係は、特性曲線としてファイルすることができる。
【0034】
この際積分時間を以下のように変化することができる。すなわち、画素を形成しているセンサエレメントの温度依存性の他にも、供給電圧および制御電圧を生成するための制御装置の温度依存性、つまりセンサエレメントの動作に必要な動作電圧または動作電流を提供する電子回路の温度依存性も補償できるように、積分時間を変化することができる。付加的または択一的に、クロック発生器の温度依存性が補償されるように積分時間を変化することができる。
【0035】
少なくとも1つのセンサエレメントの出力信号を評価するために、評価エレクトロニクスはアナログデジタル変換器を有することができ、該アナログデジタル変換器は、少なくとも1つのセンサエレメントおよび/または少なくとも1つの温度センサの出力信号をデジタル形式に変換して、コントローラに提供する。
【0036】
この場合、コントローラが積分時間に影響を与えることができ、とりわけクロック発生器を駆動制御することができる。
【0037】
本発明の方法によれば、少なくとも1つのセンサエレメントの制御電圧の追従制御を省略することが可能である。したがって少なくとも1つのセンサエレメントを一定の制御電圧によって動作させることが可能である。この制御電圧はこのために設計された電子回路から供給される。
【0038】
したがって本発明によれば、少なくとも1つのセンサエレメントの画素の感度に対する周囲影響を補正するための新しい方法が可能となる。この方法は温度安定化装置なしに実行することができ、それでもなおセンサエレメントに対して広いダイナミックレンジを与えることが可能である。
【0039】
本発明によれば、赤外線測定装置の製造の際の工場出荷時設定において、各赤外線測定装置につき1つの特性曲線を決定することができ、のちの動作においてその都度実際に適用される周囲条件に基づいて、とりわけ周囲温度に基づいて1つの積分時間が設定され、該積分時間によって、赤外線検出器の1つまたは複数のセンサエレメントの一定の感度を達成することができる。この場合には、周囲条件は、1つまたは複数の赤外線測定装置によって測定される温度、および/または、赤外線検出器ないしセンサエレメントの温度とすることができる。
【0040】
工場出荷時設定が以下のようにして決められている場合は特に有利である。すなわち、赤外線測定装置、または、赤外線測定装置のうちで周囲温度が変化する際に感度変化を示す全ての構成部材またはモジュールが、1つの温度制御室において種々の温度にさらされるようにして、工場出荷時設定が決められている場合は、特に有利である。この場合には温度制御室にて設定されるそれぞれの周囲温度において、赤外線測定装置の感度は、積分時間を選択することよって赤外線測定装置の温度依存性が大幅に最小化されるかまたは除去されるように設定される。
【0041】
有利には、赤外線測定装置の感度は少なくとも2つの放射源における測定に基づいて決定される。基準として、赤外線測定装置の中および表面に取り付けられた温度センサの読み出し値が使用される。
【0042】
したがって本発明によれば、赤外線測定装置の測定信号に対する、赤外線検出器、ならびに、該赤外線検出器に接続されたエレクトロニクスの全ての温度影響を考慮することが可能となる。したがって、赤外線測定装置の光感度を一定にすることが可能である。
【0043】
以下、本発明を1つの実施形態に基づいてより詳細に説明するが、本発明はこの実施形態に制限されない。個々の請求項に記載の特徴を、相互にまたは実施形態に記載の特徴と組み合わせることによって種々の実施形態が生じる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明のサーマルカメラの回路構造の概略図である。
【0045】
唯一の図面は、本発明のサーマルカメラの回路構造を概略図にて図示している。
【0046】
この図は赤外線測定装置を図示しており、該赤外線測定装置は、全体が参照符号1によって示された1つのサーマルカメラとして構成されている。
【0047】
サーマルカメラ1は、赤外線検出器2を有する。赤外線検出器2は、複数のボロメータ29からなるグリッドアレイを備えたフォーカルプレーンアレイ(FPA)3を有する。
【0048】
これらのボロメータ29は、IR光学系4および絞りシステム5を通ってフォーカルプレーンアレイ3に到着した赤外線を検出する。
【0049】
入射してきた赤外線はフォーカルプレーンアレイ3にて出力信号を生成し、該出力信号はビデオ増幅器6によって増幅され、ビデオ信号7としてマルチプレクサ8を介してAD変換器9に供給される。AD変換器9はビデオ信号7をデジタル信号10に変換し、該デジタル信号10はコントローラ11に供給される。
【0050】
コントローラ11はシステムを制御するために使用される。それゆえコントローラは、フォーカルプレーンアレイ3におけるボロメータ29の出力信号12を評価するための評価エレクトロニクス30の部分を含む。AD変換器9も同じく評価エレクトロニクス30の一部を形成する。
【0051】
コントローラ11はDA変換器13を制御し、この制御に基づいて該DA変換器は、ID放射線検出器2に給電するための制御電圧14および15を供給する。制御電圧14は通常はゲインの制御のために使用され、その一方で制御電圧15はオフセットの制御のために使用される。しかしながら本発明のこの実施形態においては、制御電圧14は予め決められた値に一定に維持される。
【0052】
赤外線検出器2のフォーカルプレーンアレイ3には、詳細に図示されていない集積型温度センサが熱的に良熱伝導性に結合されている。フォーカルプレーンアレイ3の温度センサの出力信号27は、共通に使用される1つのマルチプレクサ8を介してAD変換器9に供給され、該AD変換器9は出力信号27をデジタル形式にてコントローラ11に供給する。
【0053】
コントローラ11は、検出されたフォーカルプレーンアレイ3の温度センサの出力信号27に依存して制御信号18を生成する。該制御信号18はDA変換器13を制御して、所定のアナログ電圧19が電圧制御発振器(VCO)20に供給されるようにする。このアナログ電圧19によって、電圧制御発振器の電圧、および、ひいてはクロックデータメモリ21へのシステムクロックが、以下のように設定される。すなわち、赤外線検出器2における温度の勾配感度(Steigungsempfindlichkeit)がほぼ一定であり、かつ、フォーカルプレーンアレイ3の温度センサによって検出された温度とは関係なしに維持される間だけ、IR赤外線検出器2における積分時間が計量されるように、設定されるのである。この場合積分時間は、積分信号22を赤外線検出器2に印加することによって予め決められる。このようにして温度に起因する赤外線検出器2のドリフトは、積分時間の変化によって補償される。
【0054】
このようにして、上述したコントローラ11と電圧制御発振器との協働によって、積分時間に影響を与えるための手段が構成されており、該手段は、温度に起因する赤外線検出器2のドリフトが補償されるように構成されている。
【0055】
積分時間中にボロメータ29を流れる電荷量は以下のようにして決定される。すなわち、積分時間内にボロメータ29の両端間にかかる所定の電圧によって詳細には図示しないコンデンサに蓄積される電荷量が決定されることによって、ボロメータ29を流れる電荷量が決定される。このために赤外線検出器2には、その都度の電荷量を検出するための手段が組み込まれている。このプロセスはフォーカルプレーンアレイ3のボロメータ29のために周期的に繰り返し実行され、出力信号12を生成するために処理される。
【0056】
上述した補償は、有利には赤外線検出器2の本来の測定時間以外のときに、補償中にフォーカルプレーンアレイ3の前の放射路がシャッター23によって閉鎖されることによって実施される。
【0057】
上述した補償を、択一的に測定時間中に実施することもできる。
【0058】
シャッター23は、モータとして構成することができる閉成装置24によって操作される。このロック装置24はコントローラ11からの閉成信号25によってトリガされ、これによってシャッター23は、絞りシステム5の絞り開口部28の前に導かれる。
【0059】
クロックデータメモリ21は、予め設定された値を、接続部26を介してコントローラ11とデータ交換することによってプログラム可能である。これらの予め設定される値は、フォーカルプレーンアレイの所定の温度における所期の積分時間に相当する。
【0060】
別の周囲影響を考慮するために、別の温度センサ16が赤外線検出器2のケーシング部分に配置されており、該ケーシング部分に良熱伝導性に熱的に結合されている。温度センサ16の出力信号17は、フォーカルプレーンアレイ3の温度センサの出力信号27のために使用されるのと同じマルチプレクサ8を介してAD変換器9に供給され、そこでデジタル化される。このデジタル化されたデジタル信号10はさらなる処理のためにコントローラ11に供給され、出力信号27に関して上述したように、積分時間の追従制御のために使用される。
【0061】
使用前または経年使用中にサーマルカメラ1を較正する際には、このための温度調整において特性曲線が検出される。該特性曲線は、所定のシーン温度に対して、フォーカルプレーンアレイ3または一般的には赤外線検出器2における温度と、フォーカルプレーンアレイ3におけるボロメータの勾配、すなわち感度との間の相関関係を用意する。センサの動作中には、この特性曲線と、温度センサ16ないしフォーカルプレーンアレイ3の温度センサにおいて測定された温度とを用いて、赤外線検出器の勾配感度は、温度センサ16ないしフォーカルプレーンアレイ3の温度センサによって検出された周囲温度とは独立して常に一定値に保たれる。この特性曲線はクロックデータメモリ21にファイルされている。
【0062】
赤外線測定装置1において、赤外線を検出する少なくとも1つのセンサエレメント29が設けられており、該少なくとも1つのセンサエレメント29は、該センサエレメント29に入射する放射に依存した出力信号12を生成する。所定の入射に対する出力信号12は、積分時間によって変化可能である。少なくとも1つのセンサエレメント29における目下の温度が検出され、該温度は、出力信号12ないし少なくとも1つのセンサエレメント29の感度に対する温度変化の影響が補償されるように積分時間を変化するために使用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外線検出器(2)を備える赤外線測定装置(1)であって、
前記赤外線検出器(2)は赤外線を検出する少なくとも1つのセンサエレメント(29)を備えており、
該少なくとも1つのセンサエレメント(29)は評価エレクトロニクス(9,11,30)に接続されており、
該評価エレクトロニクス(9,11,30)によって、前記少なくとも1つのセンサエレメント(29)の、積分時間に依存した出力信号(12)が検出される、
形式の赤外線測定装置において、
前記赤外線検出器(2)は、少なくとも1つの温度センサ(16)と熱的に結合されており、
少なくとも1つの温度センサ(16)の出力信号(17,27)によって前記積分時間に影響を与えるための手段(11,20,21)が構成されており、
該手段(11,20,21)は、前記赤外線検出器(2)の温度に起因するドリフトが少なくとも部分的に補償されるように構成されている、
ことを特徴とする赤外線測定装置。
【請求項2】
前記赤外線測定装置(1)はパイロメータとして構成されている、
ことを特徴とする請求項1記載の赤外線測定装置。
【請求項3】
前記赤外線測定装置はサーマルカメラ(1)として構成されている、
ことを特徴とする請求項1または2記載の赤外線測定装置。
【請求項4】
前記センサエレメントはボロメータ(29)である、
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項記載の赤外線測定装置。
【請求項5】
前記赤外線検出器(2)は、複数のセンサエレメント(29)からなるグリッドアレイ(3)を有し、
前記センサエレメントは、前記評価装置(9,11,30)に接続されている、
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項記載の赤外線測定装置。
【請求項6】
前記積分時間に依存した出力信号(12)を検出するために、前記積分時間内にセンサエレメントを流れる電荷量を検出する手段、とりわけ、前記積分時間内に前記少なくとも1つのセンサエレメント(29)の両端間にかかる所定の電圧によってコンデンサに蓄積される電荷量を検出する手段が構成されている、
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか一項記載の赤外線測定装置。
【請求項7】
前記グリッドアレイ(3)における前記少なくとも1つのセンサエレメント(29)、とりわけ全てのセンサエレメント(29)が基板に保持されており、
前記少なくとも1つの温度センサによって前記基板の温度が検出される、
ことを特徴とする請求項1から6のいずれか一項記載の赤外線測定装置。
【請求項8】
前記赤外線測定装置に第2の温度センサ(16)が設けられており、
該第2の温度センサ(16)によって、前記赤外線検出器(2)のケーシングの温度が検出され、
前記第2の温度センサ(16)の出力信号によって前記積分時間に影響を与えるための手段(11,20,21)が構成されており、
該手段(11,20,21)は、前記赤外線検出器(2)の温度に起因するドリフトが少なくとも部分的に補償されるように構成されている、
ことを特徴とする請求項1から7のいずれか一項記載の赤外線測定装置。
【請求項9】
前記積分時間は、クロック発生器(20)によって決定されている、
ことを特徴とする請求項1から8のいずれか一項記載の赤外線測定装置。
【請求項10】
前記評価エレクトロニクス(9,11,30)は、アナログデジタル変換器(9)を有しており、
該アナログデジタル変換器(9)は、前記少なくとも1つのセンサエレメント(29)および/または前記少なくとも1つの温度センサ(16)の出力信号(12,7)を、デジタル形式でコントローラ(11)に供給する、
ことを特徴とする請求項1から9のいずれか一項記載の赤外線測定装置。
【請求項11】
前記コントローラ(11)は、積分時間に影響を与えるための手段、とりわけクロック発生器(20,31)を駆動制御(18,26)するための手段(13,21)を有する、
ことを特徴とする請求項1から10のいずれか一項記載の赤外線測定装置。
【請求項12】
前記少なくとも1つのセンサエレメント(29)を一定の制御電圧(14)によって制御するように構成された電子回路(13)が設けられている、
ことを特徴とする請求項1から11のいずれか一項記載の赤外線測定装置。
【請求項13】
赤外線測定装置(1)の赤外線検出器(2)の温度に起因するドリフトを補償するための方法であって、
前記赤外線検出器(2)は、少なくとも1つのセンサエレメント(29)を有しており、
該少なくとも1つのセンサエレメント(29)は、評価エレクトロニクス(9,11,30)に接続されており、
該評価エレクトロニクス(9,11,30)は、前記少なくとも1つのセンサエレメント(29)の、積分時間に依存した出力信号(17)を検出する、
形式の、赤外線測定装置(1)の赤外線検出器(2)の温度に起因するドリフトを補償するための方法において、
前記赤外線検出器(2)は、少なくとも1つの温度センサ(16)と熱的に結合されており、
前記温度センサ(16)の出力信号(17,27)は、前記赤外線検出器(2)の温度に起因するドリフトが少なくとも部分的に補償されるように前記積分時間に影響を与える、
ことを特徴とする方法。
【請求項14】
前記赤外線検出器(2)は、複数のセンサエレメント(29)からなるグリッドアレイ(3)を有し、
前記センサエレメントは、前記評価装置(9,11,30)によって評価される、
ことを特徴とする請求項13記載の方法。
【請求項15】
前記積分時間に依存した出力信号(12)を検出するために、積分時間内にセンサエレメントを流れる電荷量、とりわけ積分時間内にセンサエレメントの両端間にかかる所定の電圧(14,15)によってコンデンサに蓄積される電荷量が検出される、
ことを特徴とする請求項13または14記載の方法。
【請求項16】
前記少なくとも1つの温度センサによって、前記少なくとも1つのセンサエレメント(29)の温度、とりわけ、複数のセンサエレメント(29)からなるグリッドアレイ(3)における複数または全てのセンサエレメント(29)の平均温度が検出される、
ことを特徴とする請求項13から15のいずれか一項記載の方法。
【請求項17】
前記赤外線検出器(2)のケーシングの温度を測定する第2の温度センサ(16)が使用され、
該第2の温度センサ(16)の出力信号(17)は、赤外線検出器の温度に起因するドリフトが少なくとも部分的に補償されるように積分時間に影響を与える、
ことを特徴とする請求項13から16のいずれか一項記載の方法。
【請求項18】
前記積分時間は、クロック発生器(20,21)によって決定される、
ことを特徴とする請求項13から17のいずれか一項記載の方法。
【請求項19】
前記評価エレクトロニクス(9,11,30)は、アナログデジタル変換器(9)を有しており、
該アナログデジタル変換器(9)は、前記少なくとも1つのセンサエレメント(29)および/または前記少なくとも1つの温度センサ(16)の出力信号(7,17,27)をデジタル形式に変換し、コントローラ(11)に提供する、
ことを特徴とする請求項13から18のいずれか一項記載の方法。
【請求項20】
前記コントローラ(11)は積分時間に影響を与える、とりわけクロック発生器(20,21)を駆動制御する、
ことを特徴とする請求項13から19のいずれか一項記載の方法。
【請求項21】
前記少なくとも1つのセンサエレメント(29)は、一定の制御電圧(14)によって動作される、
ことを特徴とする請求項13から20のいずれか一項記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2011−510275(P2011−510275A)
【公表日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−542533(P2010−542533)
【出願日】平成20年12月22日(2008.12.22)
【国際出願番号】PCT/EP2008/011032
【国際公開番号】WO2009/089897
【国際公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【出願人】(307033590)テスト アクチエンゲゼルシャフト (5)
【Fターム(参考)】